説明

流路内壁面の洗浄方法または塗布方法

【課題】合成樹脂やガラス、シリコン等の基板に形成した流路の内壁面に液体を流し、その液体のキャピラリ数(=粘度×流速/界面張力)を調整する事により、流路の内壁面を洗浄するだけでなく、塗工もできる流路内壁面の洗浄方法または塗工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】流路の相当直径が1.5mm以下である1本の流路の内壁面に液体を注入して流路の内壁面を洗浄する流路内壁面の洗浄方法であって、前記液体のキャピラリ数(=粘度×流速/界面張力)を調整する事により流路の内壁面が洗浄されることを特徴とする流路内壁面の洗浄方法または同様の方法で流路の内壁面を塗工する塗工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相当直径1.5mm以下の流路の内壁面を洗浄または塗布する際に用いる、液体のキャピラリ数(=粘度×流速/界面張力)を調整する事により、流路の内壁面を洗浄または塗布する流路内壁面の洗浄方法または塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミリサイズ以下での流路の内壁面の洗浄方法としては、洗浄液を流路の内壁面に流し、流動のせん断力や化学反応を利用した方法が用いられている。
【0003】
例えば、分岐における合流後の流路において、流路に洗浄液を流し、層流、若しくは層流から乱流への遷移領域の流れにおいて発生する渦、また洗浄流体に気体を混入させて流路の内壁面を洗浄する方法が知られている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
さらに、マイクロ反応器もしくはミニ反応器を、制御装置を用いてガス圧のサージを伴う制御された圧力の増加により流路の内壁面を洗浄する方法も知られている。(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
以下に先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開2005−501696号公報
【特許文献2】特開2006−272268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来、流路の内壁面の洗浄方法は、上述したように洗浄流体に気体を混入させて流路の内壁面を洗浄するか、または、制御装置を用いてガス圧のサージを伴う制御された圧力の増加により流路の内壁面を洗浄するなど、あくまでも流路の内壁面の洗浄方法であった。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、合成樹脂やガラス、シリコン等の基板に形成した流路の内壁面に液体を流し、その液体のキャピラリ数(=粘度×流速/界面張力)を調整する事により、流路の内壁面を洗浄するだけでなく、塗工もできる流路内壁面の洗浄方法または塗工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、
流路の相当直径が1.5mm以下である1本の流路の内壁面に液体を注入して流路の内壁面を洗浄する流路内壁面の洗浄方法であって、前記液体のキャピラリ数(=粘度×流速/界面張力)を調整する事により流路の内壁面が洗浄されることを特徴とする流路内壁面の洗浄方法である。
【0009】
次に、本発明の請求項2に係る発明は、
前記流路の内壁面に注入される液体は混和しない2種類以上が連結されていることを特徴とする請求項1に記載の流路内壁面の洗浄方法である。
【0010】
次に、本発明の請求項3に係る発明は、
流路の相当直径が1.5mm以下である1本の流路の内壁面に液体を注入して流路の内壁面を塗布する流路内壁面の塗布方法であって、前記液体のキャピラリ数(=粘度×流速/界面張力)を調整する事により流路の内壁面が塗布されることを特徴とする流路内壁面の塗布方法である。
【0011】
次に、本発明の請求項4に係る発明は、
前記流路の内壁面に注入される液体は混和しない2種類以上が連結されていることを特徴とする請求項3に記載の流路内壁面の塗布方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の流路内壁面の洗浄または塗布方法は以上の構成からなるの液体のキャピラリ数を調整する事により、流路の内壁面を容易に、且つ、洗浄または塗工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の流路内壁面の洗浄または塗布方法を実施の形態に沿って以下に詳細に説明する。
【0014】
本発明の流路内壁面の洗浄または塗布方法は流路となる内壁面を形成前に、内壁面を洗浄または塗布する条件をあらかじめ後述する実施例1に示すように数値計算によって求めておく事が好ましい。
【0015】
このとき、数値計算に必要なデータは、モデルの形状と寸法、液体の密度、界面張力、表面張力、粘度、液量、流路内壁面における接触角、境界条件、初期条件等である。
【0016】
前記流路の内壁面4〜7の形成は、例えば、シリコン基板やガラス基板の場合、半導体の微細加工技術により作製される。また、ポリプロピレン等に代表される合成樹脂の場合は、熱転写や成形加工等によって作製される。
【0017】
また、流路の内壁面4〜7に2種類の連結した液体を注入する場合、前方に流す液体の表面張力が後方より小さい液体を流す事が好ましい。さらに、液体は、ニュートン流体が好ましい。
【0018】
前記数値計算によって求めたキャピラリ数により、一本の流路の内壁面4〜7を洗浄または塗布する。このとき、温度が一定で且つニュートン流体であれば、界面張力と、粘度は、ほぼ一定であるので、流速を変えてキャピラリ数を調整する。
【実施例1】
【0019】
以下に、本発明の具体的実施例を挙げて、さらに詳しく説明するが、それに限定されものではない。
【0020】
本発明の流路内壁面4〜7の洗浄または塗布方法は上述したように洗浄または塗布する条件を数値計算によってあらかじめ求めておく事が好ましい。以下に、計算例を示す。
【0021】
前記計算に際し、解析ソフトとして、Fluent inc.社製のFluent Release 6.2.16を使用した。また、数値計算に必要なデータは、モデルの形状と寸法、液体の密度、界面張力、表面張力、粘度、液量、流路表面における接触角、境界条件、初期条件等である。そして、今回、温度は計算しない。
【0022】
また、今回、図1または図2に示すような流路に、混和しない2つの連結した液体を流
した。このときの、キャピラリ数の違いによる液体の流れ方の計算結果例を以下に示す。また、液体1は、水の物性値とした。
【0023】
<計算モデル、液体の物性値、初期条件を以下に示す>
・流路寸法
長方形断面形状1.0mm(A)×0.5mm(B)×30mm(C)(図1、図2に示す。)。
・各液体の物性値
液体1の物性値:密度998kg/m3、粘度1.0 mPa・s。
液体2の物性値:密度840kg/m3、粘度24.0 mPa・s。
・液量
液体1:1.5μL、液体2:3.5μL。
・表面張力
液体1 70.0mN/m。
液体2 20.0mN/m。
【0024】
<空気に対する接触角>
液体1 95°(全ての面)、液体2 12°(全ての面)。
液体2に対する液体1の接触角:170°(面1から3)、90°(面4)。
・液体2と液体1の界面張力
20から50mN/m。
・初期条件と境界条件条件
図3に示す。
【0025】
<キャピラリ数>
・キャピラリ数は以下の式のとおりである。
キャピラリ数=η×V/γ
η:液体2の粘度、V:流速、γ:界面張力。
【0026】
また、パラメータとして液体1と液体2の界面張力と流速を変えて計算した。そして、キャピラリ数により流路表面を洗浄または塗布する条件を求めた。
【0027】
<洗浄または塗布する条件>
・条件A:キャピラリ数が4.8×10-2以上のとき。
液体1は液体2の後方にあり、液体2が壁面に付着しながら移動する。そのため液体1の前方にある液体2は、進むにつれ減少する。
【0028】
<条件Aのときの計算例>
界面張力50mN/m、流速100mm/s、キャピラリ数4.8×10-2のときの計算例を図4から図6に示す。また、図6に示すように断面図を見ると、上に2つの通路が出来る。この通路から液体2が壁面に付着しながら進んでいく。
・条件B:キャピラリ数が2.8×10-2未満のとき。
液体1は液体2を追い越さないで連結したまま進む。
【0029】
<条件Bのときの計算例>
また、界面張力20mN/m、流速4.44mm/s、キャピラリ数5.328×10-3、連結された2つの液体が出口付近まで進んだときの計算結果を図7から図9に示す。条件Aと違い図9の断面を見ると通路ができない流路を進んでも液体2が後方に行くことなく、また、流路表面に、ほとんど付着することなく進んでいく。
【0030】
<計算結果>
この計算結果より、条件Aのとき流路表面を塗布、条件Bのとき流路表面を洗浄する条件となる。また、温度が一定で且つニュートン流体であれば、界面張力、粘度は、ほぼ一定であるので、流速を変えてキャピラリ数を調整し、流路の内壁面を洗浄または塗布する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の流路内壁面の洗浄または塗布方法の流路内壁面の一実施例の断面を示す断面図である。
【図2】本発明の流路内壁面の洗浄または塗布方法の流路の一実施例の概略を示す概略図である。
【図3】本発明の流路内壁面の洗浄または塗布方法の計算初期状態と境界条件の一実施例を説明するための概略図である。
【図4】本発明の流路内壁面の塗布方法の流路の内壁面を塗布するときの計算別条件等を説明するための説明図(界面張力50mN/m、流速100mm/s、0.17169sのときの計算結果その1)である。
【図5】本発明の流路内壁面の塗布方法の流路の内壁面を塗布するときの計算別条件等を説明するための他の説明図(界面張力50mN/m、流速100mm/s、0.17169sのときの計算結果その2)である。
【図6】本発明の流路内壁面の塗布方法の流路の内壁面を塗布するときの計算別条件等を説明するためのまた他の説明図(界面張力50mN/m、流速100mm/s、0.17169sのときの流路断面)である。
【図7】本発明の流路内壁面の洗浄方法の流路の内壁面を洗浄するときの計算別条件等を説明するためのさらにまた他の説明図(界面張力20mN/m、流速4.44mm/s、2.0012sのときの計算結果その1)である。
【図8】本発明の流路内壁面の洗浄方法の流路の内壁面を洗浄するときの計算別条件等を説明するためのまたさらに他の説明図(界面張力20mN/m、流速4.44mm/s、2.0012sのときの計算結果その2)
【図9】本発明の流路内壁面の洗浄方法の流路の内壁面を洗浄するときの計算別条件等を説明するためのまた他の説明図(界面張力20mN/m、流速4.44mm/s、2.0012sのときの流路断面)である。
【符号の説明】
【0032】
1…液体
2…液体
3…空気
4…面1
5…面2
6…面3
7…面4
A…幅(1mm)
B…高さ(0.5mm)
C…長さ(30mm)
D…液体1(3mm)
E…液体2(7mm)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路の相当直径が1.5mm以下である1本の流路の内壁面に液体を注入して流路の内壁面を洗浄する流路内壁面の洗浄方法であって、前記液体のキャピラリ数(=粘度×流速/界面張力)を調整する事により流路の内壁面が洗浄されることを特徴とする流路内壁面の洗浄方法。
【請求項2】
前記流路の内壁面に注入される液体は混和しない2種類以上が連結されていることを特徴とする請求項1に記載の流路内壁面の洗浄方法。
【請求項3】
流路の相当直径が1.5mm以下である1本の流路の内壁面に液体を注入して流路の内壁面を塗布する流路内壁面の塗布方法であって、前記液体のキャピラリ数(=粘度×流速/界面張力)を調整する事により流路の内壁面が塗布されることを特徴とする流路内壁面の塗布方法。
【請求項4】
前記流路の内壁面に注入される液体は混和しない2種類以上が連結されていることを特徴とする請求項3に記載の流路内壁面の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−296139(P2008−296139A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145048(P2007−145048)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】