説明

流路反応方法および流路反応装置

【課題】反応効率が高く、反応再現性に優れた流路反応方法およびそのような流路反応装置を提供する。
【解決手段】反応物質が固定された反応流路と、反応流路内に試料流体を導く試料注入路と、反応流路内に試料流体以外の流体を導く他の注入路と、を少なくとも備えた反応流路構造体を用いて、試料流体中の特定分子を反応流路内に固定された反応物質に反応させる流路反応方式において、試料注入路により、試料流体が反応物質の固定された反応流路壁面に沿って流れるように導くとともに、他の注入路により、試料流体が前記壁面側に押しやられるように試料流体以外の流体を同時並行的に反応流路内に導く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小流路を有する微小流路構造体を用いた反応方法及びこの方法を適用する流路反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫分析法は、医療分野、生化学分野、アレルゲンなどの測定分野等において、重要な分析・計測方法として知られている。しかし、従来の免疫分析法には、操作が煩雑である上に、分析に数時間以上の時間を要するといった問題があった。
【0003】
このような中、基板上に微小流路を形成し、当該流路内に反応物質を固定した流路デバイスを用いた免疫分析方法等が提案されているが、微小流路内の反応効率や反応速度は、特定分子と流路内に固定された反応物質との距離の大きさ、すなわち特定分子が反応するのに必要な拡散距離の大きさに大きく影響されることが知られている。上記拡散距離が大きいと、特定分子が反応物質と会合するまでに時間がかかるとともに、反応物質と会合できない分子が増え、反応効率や反応速度が低下し、反応再現性や反応の感度が低下するとともに長時間の測定時間が必要になる。
【0004】
よって、反応効率を高めたり、反応速度を速めたりするには、上記拡散距離を小さくする必要がある。反応に必要な拡散距離を小さくする手段としては、例えば、流路幅を狭くし、流路深さを浅く形成する技術が提案されている(非特許文献1)。
【0005】
しかし、流路幅を狭くし、流路深さを浅くする方法は、精緻な加工技術や煩雑な製造プロセスを必要とするため、格段に技術的困難性が増すとともに製造コストの大幅な上昇を招くという問題がある。
【0006】
他方、図10に示すように、特定分子と反応する反応物質をビーズ101に固定し、このビーズ101を流路103内に充填した流路デバイスを用いる方法が提案されている(非特許文献2、3、特許文献1)。図10に示す技術によると、特定分子を含む試料流体がビーズ101とビーズ101との間の空隙を沿うように流れるので、反応に必要な拡散距離が小さくなる。
【0007】
しかし、流路にビーズを充填する方法は、反応に必要な拡散距離を小さくすることができるものの、流体の多くは流れ抵抗の小さい流路壁面とビーズ101群との間を流れる(図10の矢印参照)。このため、反応に関与し得ないビーズ101が存在することになり、この結果として十分な反応効率が得られない。また、ビースの状態や流速等によって反応効率が大きく変動するため反応再現性が悪いという問題がある。また流路内の圧力が上昇するため、高圧力用ポンプが必要になる問題と流体の流れが不安定になるという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Fabrication of size-controllable nanofluidic channels by nanoimprinting and its application for DNA stretching, Nano Letters, Vol. 4, No. 1,2004
【非特許文献2】Integration of an immunosorbent assay system: analysis of secretory human immunoglobulin on polystyrene beads in a microchip, Anal. Chem. 200, 72, 1144-1147
【非特許文献3】Determination of carcinoembryonic antigen in human sera by integrated bead-bed immunoassay in a microchip for cancer diagnosis, Anal. Chem. 2001, 73, 1213-1218
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-27559号公報
【0010】
流路デバイスを用いた免疫分析方法等としては、例えば特定分子の量に応じて流路内で電気化学活性物質を生じさせ、この電気化学活性物質量を電気化学的に検出する方法が提案されているが、この方法においても、電気化学活性物質の検出電極までの拡散距離の大きさが検出精度に大きく影響する。すなわち、電気化学活性物質の必要な拡散距離が大きいと、電極に会合しないで流去してしまう電気化学活性物質の量が増えるので、検出精度が悪くなるという問題がある。なお、流速を遅くすれば、電極に対する会合確率が高まるが、このようにしても検出精度は向上しない。また電気化学活性物質を電極表面で酸化還元をさせ、測定するレドックスシステムの場合、流速を早くし、電極表面に電気化学活性物質を供給することが有効である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上に鑑みなされたものであって、本発明の第1の目的は、流路幅や流路深さの更なる微小化を行うことなく、特定分子の必要な拡散距離を小さくし、特定分子と反応物質との会合確率を高めることにより、反応効率を高め、反応の感度や再現性を高めることと測定時間を短縮することである。
【0012】
本発明の第2の目的は、電気化学活性物質を検出対象とする場合において、電気化学活性物質が電極と会合するために必要な拡散距離を小さくし、検出感度、検出精度並びに検出再現性に優れた流路反応方法を提供することである。
【0013】
本発明の第3の目的は、これらの流路反応方法を適用した検出精度等に優れた流路反応装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための第1の本発明は、反応物質が固定された反応流路と、前記反応流路内に試料流体を導く試料注入路と、前記反応流路内に流体を導く他の注入路と、を少なくとも備えた反応流路構造体を用いて、前記試料流体中の特定分子を前記反応流路内に固定された反応物質に反応させる流路反応方法であって、前記試料注入路より導入した試料流体を前記反応流路内の反応物質に接触可能に流すとともに、前記反応流路内に他の注入路より導入した流体を同時並行的に流すことを特徴とする。
【0015】
この構成によると、試料流体は反応流路内の反応物質に接触可能に流れ、流体が試料流体と同時並行的に反応流路内を流れているので、この流れの状態を流れ方向に直交する断面で見た時、断面の一部が試料流体であり、その余が他の注入路より導入した流体で占められ、且つ試料流体が反応物質と接触する側に位置した状態が形成されている。つまり、断面全体が試料流体である場合に比較し、試料流体中の特定分子と反応物質との距離(拡散距離)が小さくなっている。よって、特定分子と反応物質との会合確率が高まり、反応効率が向上する。また、これにより測定時間が短縮されるとともに、測定感度や測定の再現性が高まる。
【0016】
上記第1の発明においては、前記反応物質が前記反応流路の壁面に固定され、前記試料注入路により、試料流体が前記反応物質の固定された反応流路壁面に沿って流れるように導くとともに、前記他の注入路からも流体を導入して、当該流体により前記試料流体が前記壁面側に押しやられるように反応流路内の流れを制御する、構成とすることができる。
【0017】
この構成によると、試料流体が反応物質の固定された反応流路壁面に沿って流れるように導かれ、且つ反応流路内を同時並行的に流れる他の注入路より導入した流体が試料流体を反応流路壁面側に押しやるので、試料流体と反応物質との最大距離が縮小する。よって、特定分子と反応物質との会合確率が高まり、反応効率が向上するとともに、測定感度や測定の再現性が高まる。また測定時間が短縮される。
【0018】
上記第1の発明においては、前記他の注入路より前記試料流体以外の流体を流す構成とすることができる。
【0019】
この構成によると、他の注入路より導入した流体が、前記試料流体と異なるため、試料流体に含まれる特定分子のみを確実に反応させることができる。
【0020】
上記第1の発明において、前記反応流路構造体は、試料注入路が2つ配置され、2つある試料注入路の間に、前記他の注入路が1つ配置された構造である構成とすることができる。
【0021】
この構成では、試料流体以外の流体を導く他の注入路が、2つある試料注入路の中間に配置されているので、断面形状が[試料流体/試料流体以外の流体/試料流体]の3つの部分を持った1つの流れを形成できる。この流れは、試料流体が反応流路の壁面側に沿って流れ、壁面側から遠いところを他の流体が流れるものとなる。よって、試料流体の反応物質までの拡散距離を縮小するのに好都合な流れを形成することができる。
【0022】
上記第1の発明において、前記反応流路構造体として、基板に作り込まれたチップ状反応流路構造体を用いる構成とすることができる。
【0023】
微小な流路構造を有するチップ状反応流路構造体において、本発明作用効果が顕著に発揮される。また、基板に作り込まれたチップ状反応流路構造体であると、取り扱い性、簡便性に優れる。
【0024】
上記第1の発明において、前記他の注入路より導入した流体は、前記試料流体以外の液体であり、前記試料流体と当該液体との流れが層流である構成とすることができる。
【0025】
また、上記第1の発明において、前記他の注入路より導入した流体は、前記試料流体以外の気体であり、前記試料流体と当該気体との流れが層流である構成とすることができる。
【0026】
試料流体と他の流体との流れを層流とすると、両流体の混ざり合いを抑制することができる。よって、試料流体とともに、試料流体以外の他の流体を同時並行的に流す作用効果が一層確実に発揮される。
【0027】
上記第1の発明において、前記試料流体は液体であり、前記他の注入路より導入した流体は、前記試料流体以外の気体であり、前記試料流体を前記気体からなる気泡を散在させた状態で前記反応流路内を流す構成とすることができる。
【0028】
試料流体に気泡を散在させると、反応流路内を流れる流体の単位体積中に占める試料流体自体の体積が縮小するので、試料流体中に含まれる特定分子の反応物質までの平均的拡散距離を小さくすることが可能になる。なお、この構成においては、好ましくは反応物質からより遠いところに気泡を位置させる。
【0029】
上記第1の発明において、前記試料注入路より導入した試料流体と、前記他の注入路より導入した流体との合計流量を100としたとき、前記試料流体の流量が50以下である構成とすることができる。
【0030】
前記試料流体に対し他の流体の割合が大きいほど、反応流路内における特定分子の拡散距離を小さくできるので、試料流体と、他の流体との合計流量を100としたとき、好ましくは試料流体の流量を50以下とし、より好ましくは30以下とし、さらに好ましくは1以上10以下とする。
【0031】
上記各発明における特定分子と反応物質の反応としては、抗原抗体反応や酵素基質反応を採用することができる。
【0032】
次に上記課題を解決するための第2の発明について説明する。
上記課題を解決するための第2の発明は、反応物質が固定された反応流路と、前記反応流路内に試料流体を導く試料注入路と、前記反応流路内に流体を導く他の注入路と、
を少なくとも有する反応流路構造体を備え、更に、前記試料注入路から、前記反応流路内に試料流体を導入するとともに、前記他の注入路から反応流路内に流体を導入して前記試料流体と前記他の注入路から導入した流体(これを他の流体という。以下同様)とを並行的に流し、前記試料流体が前記反応流路の壁面側に押しやられるように制御する流体制御手段を、備える流路反応装置である。
【0033】
この構成によると、反応流路内を並行的に流れる他の流体が試料流体を反応流路壁面側に押しやるように規制するので、試料流体が反応物質の固定された反応流路壁面に沿って流れる。よって、この構成であると、同一サイズの反応流路構造体であっても、特定分子と反応物質との会合確率が高まる結果、反応時間の短縮とともに、反応効率や反応再現性に優れた流路反応装置が提供できる。また、この構成であると、流路を極端に微細化しなくとも、反応時間の短縮と反応効率や反応再現性を高めることができるので、信頼性の高い流路反応装置を従来に比較し低コストでもって提供することができる。
【0034】
また、上記課題を解決するための第3の発明は、試料流体に含まれる電気化学活性物質を酸化還元反応させる電極が設けられた電流検出流路と、前記電流検出流路内に試料流体を導く試料注入路と、前記電流検出流路内に流体を導く他の注入路と、を少なくとも有する反応流路構造体を備え、更に、前記試料注入路より試料流体を前記電極に接触可能に導入するとともに、前記他の注入路より流体を導入し、前記電流検出流路内に両流体を並行的に流すことにより、前記試料流体が前記電極に接触しつつ流れるよう制御する流体制御手段を、備える流路反応装置である。
【0035】
この構成によると、流体制御手段が、前記電流検出流路内に試料流体とこれ以外の流体の流れを制御して、試料流体が電極面側に押しやられるような流れを形成するので、試料流体に含まれる電気化学活性物質が電極と会合する確率が顕著に高まる。よって、この構成によると、検出時間が短く、検出精度と検出再現性に優れた流路反応装置が提供できる。
【0036】
また、上記課題を解決するための第4の発明は、反応流路内に試料流体を導く試料注入路と、前記反応流路内に流体を導く他の注入路と、前記試料流体に含まれる特定分子と反応する反応物質が固定された反応流路と、前記反応流路の下流側に位置し、前記特定分子が前記反応物質と反応して生じた電気化学活性物質を酸化還元反応させる電極が設けられた電流検出流路と、を少なくとも有する反応流路構造体を備え、更に、前記試料注入路より試料流体を前記電極に接触可能に導入するとともに、前記他の注入路より流体を導入し、前記反応流路内及び前記電流検出流路内に両流体を並行的に流すことにより、前記試料流体が前記反応物質と前記電極の双方に接触しつつ流れるよう制御する流体制御手段を、備える流路反応装置である。
【0037】
上記構成にかかる流路反応装置は、反応流路内で特定分子を反応物質と反応させ、電気化学活性物質を生成させ、次いでこの電気化学活性物質を電極が設けられた電流検出流路内で酸化又は還元し、このときの電流を検出して、特定物質の存在または特定物質の定量を行う装置である。この装置においては、流体制御手段が、反応流路内及び電流検出流路内に試料流体とこれ以外の流体とを並行的に流すことにより、試料流体が反応物質と電極の双方に接触しつつ流れるよう制御するので、確実かつ効率よく2つの反応が進行する。よって、上記構成によると、検出時間が短く、検出精度と検出再現性に優れた信頼性の高い流路反応装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように、本発明方法を流路反応に適用することにより、反応流路の更なる微小化を行わなくとも、反応流路内における反応効率を顕著に高めることができる。また、流路反応装置にかかる本発明によると、検出時間が短く、検出精度と検出再現性に優れた信頼性の高い流路反応装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施の形態1にかかる流路内反応方法に用いる流路反応装置の模式図である。
【図2】実施の形態1において、気体を断続的に流し、反応流路内に気泡が生じている状態を示す概念図である。
【図3】実施の形態1において、他の流体を連続的に流し、反応流路内に2層層流が生じている状態を示す概念図である。
【図4】流路反応装置に仕切りを設けた例を示す。
【図5】実施の形態2にかかる流路内反応方法に用いる流路反応装置の模式図である。
【図6】実施の形態2において、他の流体を連続的に流し、反応流路内に3層層流が生じている状態を示す概念図である。
【図7】実施の形態3にかかる流路内反応方法に用いる流路反応装置の模式図である。
【図8】実施の形態4にかかる流路内反応方法に用いる流路反応装置の模式図である。
【図9】実施の形態5にかかる流路内反応方法に用いる流路反応装置の模式図であり、図9(a)は側面図であり、図9(b)は平面図である。
【図10】従来の技術にかかる流路反応装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0041】
[実施の形態1]
本実施の形態を、図1を参照に説明する。図1に示すように、本実施の形態にかかる流路内反応方法に用いる流路反応装置は、抗原抗体反応または、酵素基質反応を行わせる反応流路構造体11と、酵素基質反応後、生成される物質を電気化学手段を用いて測定する検出流路構造体12と、を備えており、反応流路構造体11と電流検出流路構造体12とが、直径1/16インチのテフロン(登録商標)製のチューブ18により連結されている。また、チューブ18には、気体を抜くパージ181が設けられている。
【0042】
また、特定分子を含む試料流体や、他の流体を反応流路構造体11に送液ためのシリンジポンプ(図示せず)と、試料流体及び他の流体の送液量を制御する流体制御手段(図示せず)と、が設けられている。
【0043】
反応流路構造体11には、特定分子を含む試料流体が流れる試料注入路16と、試料流体以外の流体(他の流体、これに特定分子が含まれていてもよい)が流れる他の注入路17と、特定分子を認識する材料が固定化されている層が設けられた反応流路15とが、平面視Y字状に連結された状態で形成されている。また、試料注入路16の上流には試料注入孔13が設けられ、他の注入路17の上流には他の流体注入孔14が設けられ、反応流路15の下流には、チューブ18と接続するための排出孔19が設けられている。
【0044】
電流検出流路構造体12の電流検出流路123の底面には、酵素基質反応により形成された電気化学活性物質を酸化還元反応させる電極128が設けられており、電極の表面での酸化又は還元による電流を検出するポテンショスタット(図示せず)と、電極128とが、配線(図示せず)により接続されている。検出流路123の上流には、チューブ18と接続するための注入孔121が設けられ、検出流路123の下流には、検出流路123内の液を排出するための排出孔122が設けられている。
【0045】
反応流路構造体11、電流検出流路構造体12の各流路の幅は100μm、流路の深さは50μm、注入孔から排出孔19までの長さ(L1+L2)は40mmであり、試料注入孔13から試料流体が注入される試料注入路16と、反応流路15とが交わる地点までの距離L1は10mmである。なお、流路の幅、流路の深さ、流路の長さ等は、上記に限定されるものではない。
【0046】
次に、流路反応装置の作製法について説明する。
まず、反応流路構造体11の作成方法について説明する。
3インチシリコン基板に、フォトリソグラフィーを用いて流路パターンを設け、ドライエッチングにより、試料注入路16と、他の注入路17と、反応流路15とを形成する。また、流路形成基板としては、シリコン基板以外に、ガラス、石英基板、高分子樹脂基板等を用いることができる。また、フォトリソグラフィーとドライエッチングにより形成された流路構造体の金型を用いて、ホットエンボス法を用いてプラスティック流路構造体を作製してもよい。
【0047】
次に、シリコン基板上に形成された反応流路に、スパッタ装置を用いて金属薄膜を形成する。金属薄膜はチタンと金で構成され、その厚さはチタン:金=500Å:500Åである。なお、この値には限定されない。
【0048】
末端がカルボキシル基(COOH)で修飾されているチオールと、末端が水酸基(OH)で修飾されているチオールとを、1:9の割合で混合した溶液中に、金属薄膜が形成されたシリコン基板を10分間浸し、純水で洗浄する。これにより、金属薄膜表面にチオール基の自己組織膜が形成される。この後、抗体のアミノ基とチオールのカルボキシル基とを反応させて、反応流路内に反応物質(抗体)を固定化する。
【0049】
この後、40mm×60mm×2mm(厚さ)のPDMS(Polydimethylsiloxane)基板に、試料注入孔13、他の流体注入孔14と、排出孔19と、に相当する位置に、直径1mmの貫通した穴を形成する。
【0050】
上記シリコン基板と、上記PDMS基板と、を張り合わせ、チップ状の反応流路構造体11が完成する。
【0051】
次に、電流検出流路構造体12の作製法を説明する。
幅1mm、長さ8mm、深さ50μmの流路を、フォトリソグラフィーを用いてPDMS基板に形成し、直径1mmの注入孔121と排出孔122用の貫通穴を流路の両側末端に形成する。
【0052】
また、電極の形成は、シリコン基板上にフォトリソグラフィーを用いて作用電極(Pt)と、参照電極(Ag/AgCl)と、対象電極(Pt)と、これにつながる配線と、を形成する。
【0053】
上記PDMS基板と、上記シリコン基板と、を張り合わせ、チップ状の電流検出流路構造体12が完成する。
【0054】
この後、パージ181が設けられたチューブ18を、反応流路構造体11の排出孔19と、電流検出流路構造体12の注入孔121とにつなぐ。
【0055】
この後、シリンジポンプ、流体制御手段を設け、本実施の形態にかかる流路反応装置が完成する。
【0056】
ここで、特定分子を認識する材料(反応物質)としては、抗体、アミノ酸複合体(ペプチド、タンパク質等)、核酸複合体(DNA、RNA等)、細胞、微生物、レセプター、分子インプリントポリマー(Molecular imprinted polymers)等を用いることができる。
【0057】
次に、この流路反応装置を用いた流路内反応方法について説明する。
まず、反応流路構造体11、12を液で満たすため、試料注入孔13と他の流体注入孔14から10mMTris緩衝液(pH9.0、137mM NaCl、1mM MgCl2、0.05%Tween20を含む)を、シリンジポンプを用いて0.1μl/分〜10μl/分の流量で送液する。
【0058】
次に、反応流路構造体の試料注入孔13から試料注入路16に、シリンジポンプを用いて、特定分子(例えば、抗原)を含む試料流体を0.1μl/分〜5μl/分の流速で注入する。また、これと同時に、他の流体注入孔14から他の注入路17に、気体若しくは特定分子を含んでない液体(他の流体)を注入する。
【0059】
ここで、他の流体注入孔14から気体を注入する場合には、気体を断続的に注入し、反応流路内で、試料流体中に気泡が散在した気泡流を形成してもよい(図2参照。)。また、気体を連続的に注入し、反応流路内で、試料流体と気体との層流を形成してもよい(図3参照。)。また、他の流体注入孔14から液体を注入する場合には、液体と試料流体とが撹拌されないように、液体を連続的に注入し、反応流路内で、試料流体と液体との層流を形成するように流すことが好ましい。このような他の流体の注入制御は、流体制御手段がシリンジポンプの動作を制御することによって行われる。
【0060】
他の流体注入口14から注入される他の流体と、試料流体注入孔13から注入される試料流体との相互作用により、反応流路15内の試料流体が気泡を含む溶液となった状態(図2参照)、または気相/液相、液相/液相の層流が形成された状態(図3参照)で、反応流路15に固定されている反応物質(抗体)と試料流体中の特定分子(抗原)と反応させる。
【0061】
これにより、試料流体に含まれる特定分子と反応物質(抗体)との拡散距離が小さくなり、特定分子と反応物質との会合度が高まるので、反応効率が飛躍的に高まるとともに、測定感度の向上や測定時間の短縮と測定の再現性が飛躍的に高まる。
【0062】
試料注入孔13から試料流体を注入する際、拡散距離をより小さくするため、好ましくは、試料流体の流量が他の流体注入孔14から注入される流体の流量の50%以下となるように、試料流体及び他の流体の流量を制御する。また、試料流体の流量が他の流体の流量の10%以下になる場合には、試料注入路16と他の注入路17とが交わる地点で、両者の流れが渦巻き、渦巻状の流れが生じて、試料流体と他の流体とが撹拌されるおそれがある。このため、図4に示すように、試料注入路16と他の注入路17とが交わる地点に、仕切り体41を設けて、この渦巻状の流れの発生を防止することが好ましい。この流路内の仕切り体41は、試料注入路16と他の注入路17が交流する支点から、反応流路15内まで伸ばす形態で形成することが好ましい。また、反応流路15内で層流が形成されるためには、流体のレイノルズ数が2000を超えないようにすることが好ましく、また、流路の幅を1000μm以下にすることが好ましい。
【0063】
特定分子と反応物質と反応させ後、試料注入孔13から、洗浄用の緩衝液を流して、流路内を洗浄する。
【0064】
この後、酵素(ALP:alkaline phosphatase; アルカリホスファターゼ)が修飾されている2次反応物質(抗体)を含む溶液を注入し、流体注入孔14から、気体若しくは特定分子を含んでない液(他の流体)を注入する。
【0065】
注入口14から導入される気体若しくは液体により、反応流路15内の2次反応物質を含む溶液(試料流体)が気泡を含む溶液(図2)、または気相/液相、液相/液相の層流が形成された状態で(図3)、反応流路15に固定されている反応物質(抗体−抗原複合体)と試料流体中の特定分子(2次反応物質)と反応させる。
【0066】
これにより、試料流体に含まれる特定分子(2次反応物質)と反応物質(抗体−抗原複合体)との拡散距離が短くなり、特定分子と反応物質との会合度が高まるので、反応効率が飛躍的に高まるとともに、測定感度の向上や測定時間の短縮と測定の再現性が飛躍的に高まる。
【0067】
ここで、2次抗体の濃度は、非特異的な反応によるバックグラウンドの上昇などに影響を与え、センシングシステムの感度を低下させることがある。このため、2次抗体濃度は0.01ng/ml−50ng/mlであることが好ましい。
【0068】
この後、試料注入孔13から、洗浄用の緩衝液を流して、流路内を洗浄する。
【0069】
この後、基質(pAPP; p-Aminophenyl phosphate)を含む溶液を試料注入孔13か
ら導入し、基質と2次抗体に修飾されている酵素とを反応させ、電気化学活性物質pAP(p-Aminophenol)を生成させる。
【0070】
この電気化学活性物質を含む溶液が、チューブ18を経由して電流検出流路構造体12内部に注入される。検出流路123に設けられた作用電極と参照電極との間に400mV〜600mVの電位をかけ、作用電極の表面でのpAPの酸化による酸化電流を、ポテンショスタートを用いて測定することにより、pAPの検量ができる。このpAPの量は、特定分子の量に比例するため、この電流値から、特定分子の量を求めることができる。ここで、他の流体が気体である場合、反応流路構造体11で反応を終えた溶液が、電流検出流路構造体12に移動する間に、気体を抜くパージ181を設け、電流検出流路構造体12には液体だけが導入されるようにする。
【0071】
なお、上記実施の形態では、検出手段として電気化学測定法を用いたが、この方法以外に、蛍光標識を用いた蛍光測定法、化学発光測定法、表面プラズモン共鳴法等も使用可能である。
【0072】
[実施の形態2]
本実施の形態を、図5を参照に説明する。図5に示すように、本実施の形態にかかる流路内反応方法に用いる流路反応装置は、抗原抗体反応または、酵素基質反応を行わせる反応流路構造体51と、酵素基質反応後、生成される物質を電気化学手段を用いて測定する電流検出流路構造体52と、を備えており、反応流路構造体51と電流検出流路構造体52とは、直径1/16インチのテフロン(登録商標)製のチューブ58により連結されている。この実施の形態は、試料注入路が2つ配置され、2つある試料注入路の間に、試料流体以外の流体を導く他の注入路が1つ配置された点以外は、上記実施の形態1と同様である。このため、反応流路構造体の作製方法は、流路構造を変化させること以外は、上記実施の形態1と同様でよい。
【0073】
また、特定分子を含む試料流体や、他の流体を反応流路構造体51に送液ためのシリンジポンプ(図示せず)と、試料流体及び他の流体の送液量を制御する流体制御手段(図示せず)と、が設けられている。
【0074】
特定分子を含む試料流体を注入する2つの流路56a、56b及び特定分子を含んでない他の流体を導入する他の注入路57は、いずれも、幅100μm、深さ50μm、長さ10mmである。反応流路55は、幅300μm、深さ50μm、長さ30mmである。試料注入孔53a、53bから特定分子を含む試料流体が注入され、他の流体注入孔から他の流体(気体又は液体)が注入され、これらにより、図6に示すように、層流が形成される。なお、流路の幅、流路の深さは、上記に限定されるものではない。
【0075】
試料注入孔53a、53bから注入される各溶液の流量は、他の流体注入孔54から注入される他の流体の流量の25%以下とすることが好ましい。他の流体が液体の場合、流量は0.1μl/分〜100μl/分とする。他の流体が気体の場合、流量は0.1μl/分〜10000μl/分でも良い。このような他の流体の注入制御は、流体制御手段がシリンジポンプの動作を制御することによって行われる。
【0076】
(検出方法)
試料注入路56a,56bの流量が0.1μl/分になるように試料注入孔53a、53bから試料流体を反応流路55に流す。試料流体が反応流路55の全体を満たした後、他の流体注入孔から、他の流体(例えば、特定分子を含まない緩衝液)を流量5μl/分〜100μl/分となるように流す。試料流体に含まれている特定分子は、反応流路55の内面に固定化されている反応物質(抗体)と反応し結合する。
【0077】
特定分子と反応物質と反応させた後、試料注入孔53a、53bから、洗浄用の緩衝液を流して、流路内を洗浄する。
【0078】
この後、試料流体(アルカリホスファターゼ酵素修飾の2次抗体溶液)を、試料注入孔53a、53bから反応流路55に流す。これにより、反応流路内面に形成された反応物質−抗原複合体と、酵素標識2次抗体とが反応し、結合する。
【0079】
この後、試料注入孔53a,53bから、洗浄用の緩衝液を流して、流路内を洗浄する。
【0080】
この後、試料注入孔53a,53bから基質(pAPP; p-Aminophenyl phosphate)
を含む溶液を反応流路に流し、2次抗体に修飾されている酵素と反応させる。
【0081】
酵素基質反応後、酵素基質反応により生成されるpAP(p-Aminophenol)を含む溶液が
、電極の形成された電流検出流路構造体52に入り、このpAP量を電気化学的に検出する。
【0082】
ここで、他の流体が気体である場合、反応流路構造体51で反応を終えた溶液が、電流検出流路構造体52に移動する間に、気体を抜くパージ581を設け、電流検出流路構造体52には液体だけが導入されるようにする。
【0083】
本実施の形態によっても、試料流体に含まれる特定分子と反応物質(抗体)との拡散距離が短くなり、特定分子と反応物質との会合度が高まるので、反応効率が飛躍的に高まるとともに、測定感度の向上や測定時間の短縮と測定の再現性が飛躍的に高まる。
【0084】
[実施の形態3]
本実施の形態を、図7を参照に説明する。図7に示すように、本実施の形態にかかる流路内反応方法に用いる流路反応装置は、電気化学的反応を行わせる検出反応流路構造体71を備えている。
【0085】
また、特定分子を含む試料流体や、他の流体を電流検出流路構造体71に送液ためのシリンジポンプ(図示せず)と、試料流体及び他の流体の送液量を制御する流体制御手段(図示せず)と、が設けられている。
【0086】
電流検出流路構造体71には、電気化学活性物質を含む試料流体が流れる試料注入路76と、電気化学活性物質を含まない流体が流れる他の注入路77と、電極が設けられた検出流路72とが、平面視Y字状に連結された状態で形成されている。また、試料注入路76の上流には試料注入孔73が設けられ、他の注入路77の上流には他の流体注入孔74が設けられ、検出流路72の下流には、排出孔79が設けられている。
【0087】
電流検出流路構造体71の各流路の幅は100μm、流路の深さは50μmである。なお、流路の幅、流路の深さは、上記に限定されるものではない。
【0088】
なお、流路や孔、電極部78(作用電極781、参照電極782、対象電極783)の形成は、上記実施の形態1と同様でよい。
【0089】
次に、この流路反応装置を用いた流路内反応方法について説明する。
流体制御手段がシリンジポンプを制御して、電流検出流路構造体71の試料注入孔73から、試料注入路76に、電気化学活性物質(例えばpAP)を含む試料流体を注入する。また、他の流体注入孔74から、他の注入路77に、気体若しくは特定分子を含んでない液(他の流体)を注入する。
【0090】
ここで、他の流体注入孔74から気体を注入する場合には、気体を断続的に注入し、反応流路内で、試料流体中に気泡が散在した気泡流を形成してもよい。また、気体を連続的に注入し、電流検出流路72内で、試料流体と気体との層流を形成してもよい。また、他の流体注入孔74から液体を注入する場合には、他の液体と試料流体とが撹拌されないように、液体を連続的に注入し、電流検出流路72内で、試料流体と液体との層流を形成するように流すことが好ましい。このような他の流体の注入制御は、流体制御手段がシリンジポンプの動作を制御することによって行われる。
【0091】
他の流体注入口74から注入される他の流体と、試料流体注入孔73から注入される試料流体との相互作用により、電流検出流路72内の試料流体が気泡を含む溶液となった状態(図2参照)、または気相/液相、液相/液相の層流が形成された状態(図3参照)で、電流検出流路72に設けられている電極と試料流体中の電気化学活性物質とを反応させる。電流検出流路72に設けられた作用電極781と参照電極782との間に400mV〜600mVの電位をかけ、作用電極781の表面での酸化による酸化電流を、ポテンショスタートを用いて測定することにより、pAPの検量ができる。
【0092】
本実施の形態によると、試料流体に含まれる電気化学活性物質と電極との拡散距離が短くなり、電気化学活性物質と電極との会合度が高まるので、検出時間が短く、検出感度が飛躍的に高まるとともに、検出の再現性が飛躍的に高まる。
【0093】
なお、本実施の形態では、電気化学活性物質を含む試料流体を流すが、この試料流体を得る方法は、どのような方法であってもよく、ビーズを用いた従来の技術や、本発明の実施の形態1、2等を適用可能である。
【0094】
[実施の形態4]
本実施の形態を、図8を参照に説明する。図8に示すように、本実施の形態にかかる流路内反応方法に用いる流路反応装置は、抗原抗体反応、酵素基質反応、電気化学的反応を行わせる反応流路構造体81を備えている。
【0095】
また、特定分子を含む試料流体や、他の流体を反応流路構造体81に送液ためのシリンジポンプ(図示せず)と、試料流体及び他の流体の送液量を制御する流体制御手段(図示せず)と、が設けられている。
【0096】
反応流路構造体81には、特定分子を含む試料流体が流れる試料注入路86と、特定分子を含まない流体が流れる他の注入路87と、特定分子を認識する材料が固定化されている層を設けられた反応流路85と、反応流路の下流に位置し電極が設けられた電流検出流路82と、が、平面視Y字状に連結されている。また、試料注入路86の上流には試料注入孔83が設けられ、他の注入路87の上流には他の流体注入孔84が設けられ、検出流路82の下流には、排出孔89が設けられている。
【0097】
3インチシリコン基板上に、試料注入孔83、他の流体注入孔84、排出孔89、試料注入路86、他の注入路87、反応流路85、検出流路82を、フォトリソグラフィーとドライエッチングにより形成する。他の注入路87、試料注入路86、反応流路85、検出流路82の幅は100μm、深さは50μmである。ただし、この値には限定されない。
【0098】
電流検出流路82に、フォトリソグラフィーを用いて電極部88を形成する。電極部88は、流路内の流体の流れに沿って作用電極(Pt)881、参照電極(Ag/AgCl)882、対象電極(Pt)883の順に形成される。作用電極881と対象電極883の厚さは、Pt:Ti=500Å:500Åである。ここで、反応流路85の試料流体が流れる側に、電極部88を形成する。
【0099】
また、上記実施の形態1と同様に、特定分子を認識する反応物質を反応流路に固定するため、反応流路の先端部位から電極部位の直前までスパッタを用いて金薄膜を形成する。この後、チオール自己組織化膜を形成し、反応物質(抗体)を反応流路85内に固定化させる。
【0100】
シリコン基板上の試料注入孔83、他の流体注入孔84、排出孔89に相当する位置に、PDMS基板に直径1mmの貫通穴を設ける。流路と電極を形成したシリコン基板と、PDMS基板とを張り合わせることにより、本実施の形態にかかる反応流路構造体81が得られる。
【0101】
次に、この流路反応装置を用いた流路内反応方法について説明する。
試料注入孔83から特定分子を含む試料流体を0.1μl/分の流量流し、反応流路85に試料流体を満たす。この後、他の流体注入孔84から他の流体(トリス緩衝液)を1μl/分の流量で流し、サンプル溶液層が反応流路内の右側に形成されるのを観察しながら緩衝液の流量を9.9μl/分まで上昇させる。サンプル溶液層が流路幅の20%以下になるように他の流体の流量(Tris緩衝液)を調整する。このような他の流体の注入制御は、流体制御手段がシリンジポンプの動作を制御することによって行われる。
【0102】
他の流体注入口84から注入される他の流体と、試料流体注入孔83から注入される試料流体との相互作用により、液相/液相の層流が形成された状態で、反応流路85に固定されている反応物質(抗体)と試料流体中の特定分子(抗原)と反応させる。
【0103】
これにより、試料流体に含まれる特定分子と反応物質(抗体)との拡散距離が短くなり、特定分子と反応物質との会合度が高まるので、反応効率が飛躍的に高まるとともに、測定感度の向上や測定時間の短縮と測定の再現性が飛躍的に高まる。
【0104】
特定分子と反応物質と反応させ後、試料注入孔83から、洗浄用の緩衝液を流して、流路内を洗浄する。
【0105】
特定分子と抗体と反応させた後、試料注入孔83から、酵素(ALP:alkaline phosphatase; アルカリホスファターゼ)が修飾されている2次特定分子(抗体)を含む溶液を
注入し、流体注入孔14から、気体若しくは特定分子を含んでない液(他の流体)を注入する。
【0106】
注入口84から導入される気体若しくは液体により、反応流路85内の2次特定分子を含む溶液(試料流体)が液相/液相の層流が形成された状態で、反応流路85に固定されている反応物質(抗体−抗原複合体)と試料流体中の2次特定分子(抗体)と反応させる。
【0107】
これにより、試料流体に含まれる2次特定分子(抗体)と反応物質(抗体−抗原複合体)との拡散距離が短くなり、特定分子と反応物質との会合度が高まるので、反応効率が飛躍的に高まる。
【0108】
この後、試料注入孔83から、洗浄用の緩衝液を流して、流路内を洗浄する。
【0109】
この後、基質(pAPP; p-Aminophenyl phosphate)を含む溶液を試料注入孔83か
ら導入し、基質と2次抗体に修飾されている酵素とを反応させ、電気化学活性物質pAP(p-Aminophenol)を生成させる。
【0110】
この電気化学活性物質を含む溶液が、層流状態で電極に接触する。作用電極881と参照電極882間に400mV〜600mVの電位をかけ、作用電極881の表面での酸化による酸化電流をポテンショスタートを用いて測定することによりpAPの検量ができる。このpAPの量は、特定分子の量に比例するため、この電流値から、特定分子の量を求めることができる。
【0111】
このように流体を流すことにより、試料流体に含まれる電気化学活性物質と電極との拡散距離が短くなり、電気化学活性物質と電極との会合度が高まるので、検出時間が短く、検出の感度が飛躍的に高まるとともに、検出の再現性が飛躍的に高まる。
【0112】
[実施の形態5]
本実施の形態を、図9を参照に説明する。図9に示すように、本実施の形態にかかる流路内反応方法に用いる流路反応装置は、抗原抗体反応、酵素基質反応、電気化学的反応を行わせる反応流路構造体91を備えている。
【0113】
また、特定分子を含む試料流体や、他の流体を反応流路構造体91に送液ためのシリンジポンプ(図示せず)と、試料流体及び他の流体の送液量を制御する流体制御手段(図示せず)と、が設けられている。
【0114】
シリコン基板に、フォトリソグラフィーを用いて電極部98を形成する。電極部98は、流路内の流体の流れに沿って作用電極(Pt)、参照電極(Ag/AgCl)、対象電極(Pt)の順に形成される。作用電極と対象電極の厚さは、Pt:Ti=500Å:500Åである。電極部98はPDMS流路の幅の内側に相当する位置の底面に全体的に占有するように設ける。(図9b参照)
【0115】
また、このシリコン基板92に、上記実施の形態1と同様に、特定分子を認識する反応物質(抗体)を反応流路に固定するため、反応流路の先端部位から電極部位の直前までスパッタを用いて金薄膜を形成する。この後、チオール自己組織化膜を形成し、チオールと抗体(反応物質)とを結合させ、反応物質固定部951を形成する。
【0116】
この後、ドライエッチングによりシリコン基板92に試料注入路96を設ける。
【0117】
PDMS基板に、反応流路95を、フォトリソグラフィーを用いて形成する。この後、他の流体注入孔93と排出孔99を形成する。
【0118】
また、その上流側側面の中央に、試料注入孔93及び他の流体注入孔94より注入された流体が当たる平板状の仕切り体を、PDMSを用いて設ける。この仕切り体41は、試料流体と他の流体との流れを下流方向に向かう層流とするためのものである。
【0119】
PDMS基板と、シリコン基板とを張り合わせることにより、本実施の形態にかかる流路反応装置91が完成する。
【0120】
この流路反応装置の使用方法は、上記実施の形態4と同様でよい。但し特定分子を含む試料流体はシリコン基板上に設けられる試料注入孔93(流路構造体の下)から、他の溶液はPDMS上に設けられる注入孔94(流路構造体の上)から注入することにより反応流路95内に層流が上下に形成される。ここで、試料注入孔93と反応流路95との間にある通路が試料注入路となり、他の流体注入孔94と反応流路95との間にある通路が他の注入路となる。
【0121】
本実施の形態によっても、特定分子と反応物質との拡散距離及び電気化学活性物質と電極との拡散距離を小さくできるので、反応効率、検出感度が飛躍的に上昇し、測定感度の向上や測定時間の短縮と測定の再現性飛躍的に向上する。
【産業上の利用可能性】
【0122】
以上説明したように、本発明によると、微小流路内での拡散距離を小さくすることができ、これにより反応効率を高め、反応速度を速め、反応の再現性を高めることができ、検出感度の上昇及び測定時間の短縮が実現できる。よって、産業上の意義は大きい。
【符号の説明】
【0123】
11 反応流路構造体
12 電流検出流路構造体
121 注入孔
122 排出孔
123 電流検出流路
128 電極
13 試料注入孔
14 他の流体注入孔
15 反応流路
16 試料注入路
17 他の注入路
18 チューブ
181 パージ
19 排出孔
41 仕切り体
51 反応流路構造体
52 電流検出流路構造体
521 注入孔
522 排出孔
523 電流検出流路
528 電極
53a 試料注入孔
53b 試料注入孔
54 他の流体注入孔
55 反応流路
56a 試料注入路
56b 試料注入路
57 他の注入路
58 チューブ
581 パージ
59 排出孔
71 電流検出流路構造体
72 検出流路
73 試料注入孔
74 他の流体注入孔
76 試料注入路
77 他の注入路
78 電極部
781 作用電極
782 参照電極
783 対象電極
79 排出孔
81 反応流路構造体
82 電流検出流路
83 試料注入孔
84 他の流体注入孔
85 反応流路
86 試料注入路
87 他の注入路
88 電極部
881 作用電極
882 参照電極
883 対象電極
89 排出孔
91 反応流路構造体
92 シリコン基板
93 試料注入孔
94 他の流体注入孔
95 反応流路
951 反応物質固定部
98 電極
99 排出孔
101 ビーズ
102 せき止め部
103 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に反応物質が固定された反応流路と、
前記反応流路内に試料流体を導く試料注入路と、
前記反応流路内に流体を導く他の注入路と、
を少なくとも備えた反応流路構造体を用いて、前記試料流体中の特定分子を前記反応流路側面に固定された反応物質に反応させる流路反応方法であって、
前記試料注入路より導入した試料流体を、前記反応物質の固定された反応流路側面に沿って流すとともに、
前記他の注入路より前記反応流路内に流体を導入し、前記反応物質が固定された反応流路側面の対向側から当該試料流体を挟み当該試料流体を当該反応流路側面側に押しつけるようにして流す、
ことを特徴とする流路反応方法。
【請求項2】
請求項1に記載の流路反応方法において、
前記他の注入路より前記試料流体以外の流体を流す、
ことを特徴とする流路反応方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の流路反応方法において、
前記反応流路構造体は、試料注入路が2つ配置され、2つある試料注入路の間に前記他の注入路が1つ配置され、且つ前記反応路の対向する一対の側面にそれぞれ反応物質が固定されてなる構造であり、
前記反応流路に前記2つの注入路の各々から試料流体を導入して、各々の試料流体を前記反応流路の各々の側面に沿って流し、且つ、前記試料流体が2つの流れに分離されるように、前記各々の試料流体の流れの間に前記他の注入路から導入した流体を流すことにより、前記各々の試料流体の流れのそれぞれを前記反応物質が固定された反応流路側面側にそれぞれ押しつける、
ことを特徴とする流路反応方法。
【請求項4】
請求1、2、又は3に記載の流路反応方法において、
前記反応流路構造体として、基板に作り込まれたチップ状反応流路構造体を用いる、
ことを特徴とする流路反応方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の流路反応方法において、
前記他の注入路より導入した流体は、前記試料流体以外の液体であり、前記試料流体と当該液体との流れが層流である、
ことを特徴とする流路反応方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の流路反応方法において、
前記他の注入路より導入した流体は、前記試料流体以外の気体であり、前記試料流体と当該気体との流れが層流である、
ことを特徴とする流路反応方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の流路反応方法において、
前記試料流体は液体であり、
前記他の注入路より導入した流体は、前記試料流体以外の気体であり、
前記試料流体を前記気体からなる気泡を散在させた状態で前記反応流路内を流す、
ことを特徴とする流路反応方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の流路反応方法において、
前記試料注入路より導入した試料流体と、前記他の注入路より導入した流体との合計流量を100としたとき、前記試料流体の流量が50以下である、
ことを特徴とする流路反応方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の流路反応方法において、
前記特定分子と反応物質の反応が、抗原抗体反応である、
ことを特徴とする流路反応方法。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の流路反応方法において、
前記特定分子と反応物質の反応が、酵素基質反応である、
ことを特徴とする流路反応方法。
【請求項11】
側面に反応物質が固定された反応流路と、
前記反応流路内に試料流体を導く2つの試料注入路と、
前記2つの試料注入路の間に配置された、前記反応流路内に流体を導く他の注入路と、
を少なくとも有する反応流路構造体を備え、
更に、前記2つの試料注入路から前記反応流路内に試料流体を導入しながら、前記2つの試料注入路の間に配置された他の注入路より、前記2つの試料注入路から導入された試料流体の間に流体を導入して、前記試料流体が前記反応流路の反応物質の固定された側面側に押しつけるように前記各流体の流れを制御する流体制御手段を備える流路反応装置。
【請求項12】
反応物質が固定された反応流路と、
前記反応流路内に試料流体を導く試料注入路と、
前記反応流路内に流体を導く他の注入路と、
を少なくとも有する反応流路構造体を備え、
更に、前記試料注入路より液体である試料流体を導入しながら、前記他の注入路より気体を導入して前記試料流体を気泡が散在した状態にして前記反応流路内を流す流体制御手段を備える流路反応装置。
【請求項13】
試料流体に含まれる電気化学活性物質を酸化還元反応させる電極が設けられた電流検出流路と、
前記電流検出流路内に試料流体を導く試料注入路と、
前記電流検出流路内に流体を導く他の注入路と、
を少なくとも有する反応流路構造体を備え、
更に、前記試料注入路より液体である試料流体を導入しながら、前記他の注入路より気体を導入して前記試料流体を気泡が散在した状態とし、当該気泡の散在した試料流体が前記電極に接触しつつ流れるよう制御する流体制御手段を備える流路反応装置。
【請求項14】
反応流路内に試料流体を導く試料注入路と、
前記反応流路内に流体を導く他の注入路と、
前記試料流体に含まれる特定分子と反応する反応物質が側面に固定された反応流路と、
前記反応流路の下流側に位置し、前記特定分子が前記反応物質と反応して生じた電気化学活性物質を酸化還元反応させる電極が設けられた電流検出流路と、
を少なくとも有する反応流路構造体を備え、
前記電極が、前記反応物質の固定された反応流路側面と同一側である電流検出流路側面に設けられており、
更に、前記試料注入路より試料流体を前記反応流路側面および前記電流検出流路側面に接触可能に導入するとともに、前記他の注入路より流体を導入し、当該流体の流れで前記試料流体が前記反応物質の固定された反応流路側面および前記電極が設けられた電流検出流路側面側に押しつけられるようにして前記試料流体の流れを制御する流体制御手段を、
備える流路反応装置。
【請求項15】
反応流路内に試料流体を導く試料注入路と、
前記反応流路内に流体を導く他の注入路と、
前記試料流体に含まれる特定分子と反応する反応物質が固定された反応流路と、
前記反応流路の下流側に位置し、前記特定分子が前記反応物質と反応して生じた電気化学活性物質を酸化還元反応させる電極が設けられた電流検出流路と、
を少なくとも有する反応流路構造体を備え、
更に、前記試料注入路より液体である試料流体を導入しながら、前記他の注入路より気体を導入して前記試料流体を気泡が散在した状態とし、当該気泡の散在した試料流体が前記反応物質と前記電極の双方に接触しつつ流れるよう制御する流体制御手段を備える流路反応装置。
【請求項16】
請求項11ないし15の何れか1項に記載の流路反応装置において、
前記反応流路構造体は、基板に作り込まれたチップ状反応流路構造体である、
ことを特徴とする流路反応装置。
【請求項17】
請求項11ないし16の何れか1項に記載の流路反応装置において、
前記反応流路構造体は、試料流体を導入する1つの試料注入路と他の1つの注入路とが鋭角に交わって1つの流路となり、前記反応流路に繋がる構造であり、
前記試料注入路と前記他の流路が交わる交差部には、2方向からの流れを制御する仕切り体が設けられている、
ことを特徴とする流路反応装置。
【請求項18】
請求項11または14に記載の流路反応装置において、
前記他の注入路より導入した流体は、前記試料流体以外の流体である、
ことを特徴とする流路反応装置。
【請求項19】
請求項11または14に記載の流路反応装置において、
前記試料注入路より導入した試料流体と、前記他の注入路より導入した流体がともに液体であり、
前記流体制御手段が、両流体の流れを層流に制御する、
ことを特徴とする流路反応装置。
【請求項20】
請求項11または14に記載の流路反応装置において、
前記試料注入路より導入した試料流体が液体であり、前記他の注入路より導入した流体が気体であり、
前記流体制御手段が、前記液体と前記気体の流れを層流に制御する、
ことを特徴とする流路反応装置。
【請求項21】
請求項11ないし20のいずれか1項に記載の流路反応装置において、
前記試料注入路より導入した試料流体と、前記他の注入路より導入した流体との合計流量を100としたとき、前記流体制御手段が、前記試料流体の流量が50以下となるよう制御する、
ことを特徴とする流路反応装置。
【請求項22】
請求項11ないし21のいずれか1項に記載の流路反応装置において、
特定分子と反応物質の反応が、抗原抗体反応であり、前記反応物質が抗体物質である、
ことを特徴とする流路反応装置。
【請求項23】
請求項11ないし21のいずれか1項に記載の流路反応装置において、
特定分子と反応物質の反応が、酵素基質反応であり、前記反応物質が抗原抗体複合体である、
ことを特徴とする流路反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−145309(P2011−145309A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101613(P2011−101613)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【分割の表示】特願2007−41462(P2007−41462)の分割
【原出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】