説明

流路基板

【課題】光学測定手段の種類や性能に関わらず、高精度に流路中の試料等の測定を行うことができる流路基板を提供する。
【解決手段】基板内部に設けられた流路12に試料を通流させた状態で、前記流路内の試料を光学的手段によって検出する際に用いられ、前記流路に試料を導入する導入部13と、前記流路から試料を排出する排出部14と、を少なくとも備え、少なくとも片側の基板面に、前記流路までの距離の異なる二以上の検出部表面15a、15bが設けられた流路基板1aとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路基板に関する。より詳しくは、検出部表面を備えた流路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術を駆使し、化学反応、合成、生成、分析等の各種操作を微細領域で行う技術(μTAS:Micro Total Analysis Systems)が、幅広い分野に応用されている。流路やキャピラリー、あるいは二次元又は三次元のプラスチックやガラス等の基板上に形成した流路中に、各種溶液、細胞や微生物等の生体微小粒子、マイクロビーズなどの微小粒子等を通流させ、これらを物理的手段や光学的手段等によって測定し、解析や分離等を行ったり、前記流路中で、物質感の相互作用や反応を進行させて、これらを物理的手段や光学的手段等によって測定を行ったりする。
【0003】
μTASを用いた処理は、従来の処理と比較して微量の試料で操作を行うことができる、短時間かつ高感度処理が可能である、様々な場所で操作を行うことができるなどの利点を有するため、疾病診断、薬物等の化合物スクリーニング、法医学、遺伝情報等の網羅的解析、生体物質の機能解析、生体内反応の解析、食品分や、農業分野、光学分野等の幅広い分野で既に実用化されている。
【0004】
μTAS技術において用いられる代表的な測定原理の一つとして、光学的手段による測定が挙げられる。例えば、蛍光測定、散乱光測定、透過光測定、反射光測定、回折光測定、紫外分光測定、赤外分光測定、ラマン分光測定、FRET測定、FISH測定、その他各種蛍光スペクトラム測定等を用いて光学的物性の測定を行うことができる。
【0005】
このようなμTASにおける光学的手段による測定に関する従来技術の一例として、図15を参照して説明する。透明な基板内部に試料を通流する流路が設けられ、試料導入部から試料排出部に向かって試料が通流されている。光源D1から発せられた励起光L1は、集光レンズD2を介して流路基板6中の流路62を通流する試料へ照射される。
【0006】
この試料に励起光L1が照射されることによって、蛍光(Fluorescent Light:FL)等が発生する。これらの蛍光L2を集光レンズD3にて集光し、検出器D4で測定することができる。
【0007】
特許文献1には、少なくとも一部分に透光性を有する基材と、前記基材の透光性を有する部分を含む領域に形成された微小流路と、前記微小流路の透光性を有する部分に設けられた微小凹凸を有するタンパク質固定部と、前記タンパク質固定部に固定されて被検物質と特異的に反応するタンパク質と、を備えてなるものであるマイクロチップが開示されている。
【0008】
特許文献2には、基板の内部に設けられた流路に試料を流通させた状態で、該流路内の試料に光を照射して得られる特定波長の検出光を検出する方法に用いられる基板であって、該流路の内壁面に微細な凹凸が周期的に設けられており、該凹凸の周期が前記検出光の波長の50%以下であることを特徴とする光学検査用基板が開示されている。
【特許文献1】特開2007−057378号公報。
【特許文献2】特開2007−170828号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記流路基板6等は、様々な種類の光学測定手段で好適に試料の測定を行うことができないという問題があった。
【0010】
光学測定手段は、その種類によって用いられる集光レンズの性能が異なる。集光レンズの性能を示す指標の一つとして、開口数NA(Numerical Aparature:NA)が挙げられる。開口数NAとは、レンズの分解能を示す指数であり、(1)式で表される。レンズの分解能は開口数NAに反比例するため、開口数NAが大きいほど高分解能のレンズとなる。
【数1】

【0011】
即ち、開口数NAの大きなレンズは、試料からレンズに入射する光線の光軸に対する最大角度θが大きいため、レンズ先端から焦点までの距離を指す作動距離WD(Working distance:WD)が短くなる(図16参照)。このため、基板表面から流路までの距離が一定である従来の流路基板では、開口数NAが大きく作動距離WDの短い集光レンズは、前記流路に充分に接近することができず、好適に試料の測定を行うことができない等の問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、光学測定手段の種類や性能に関わらず、高精度に流路中の試料等の測定を行うことができる流路基板を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記技術的課題を解決するために、本発明は、光学的手段によって流路内の試料を検出する複数の検出部と、前記流路に試料を導入する導入部と、前記流路から試料を排出する排出部と、を少なくとも備え、複数の前記検出部の検出部表面は、少なくとも片側の基板面において前記流路までの距離が異なる流路基板を提供する。複数の前記検出部の検出部表面を、少なくとも片側の基板面において前記流路までの距離が異なるものとすることにより、測定に用いられる光学測定手段の性能に応じて、好適な検出部表面を有する検出部を選択することができる。この結果、様々な光学測定手段で高精度に測定を行うことができる。
複数の前記検出部の検出部表面は、少なくとも片側の基板面において前記流路までの距離が異なるものであれば特に限定されないが、両側の基板面において前記流路までの距離が異なるものとするのが好適である。両側の基板面において前記流路までの距離が異なることにより、光源側の集光レンズの性能と、検出器側の集光レンズの性能との両者に合わせて好適な検出部表面を有する検出部を選択することにより、さらに高精度に光学的手段により検出を行うことができるため望ましい。
前記導入部の数は、特に限定されず、前記流路に二以上の前記導入部を接続することができる。二以上の前記導入部を前記流路に接続することにより、複数の試料を同時に前記流路内に導入することができる。
また、本発明に係る流路基板は、形状の違いに基づいて前記基板に係る情報が識別されうる識別形状を設けるのが好適である。前記識別形状を設けることにより、基板の誤用等を防止することができる。
さらに、前記識別形状は、切り欠き形状であるのが好適である。前記識別形状を切り欠き形状とすることにより、前記基板に係る情報を複合的に識別しうるものとし、かつスキャナやセンサ等によってかかる情報を読み取ることができる。
そして、本発明に係る基板は、設置時において位置が規定されうる位置決め形状を設けるのが好適である。前記位置決め形状を設けることにより、流路内で各種処理を行う際や、基板の保存、運搬時等に基板を安定して保持することができる。
かかる位置決め形状を設ける位置は特に限定されないが、少なくとも片側の基板面に設けるのが好適である。
さらに、前記位置決め形状は、基板上面及び基板下面に設け、基板上面に設けられた前記位置決め形状は、基板下面に設けられた前記位置決め形状と嵌合しうる形状とするのが好適である。かかる構成とすることにより、複数の流路基板を上下方向に重ねた際に、前記流路基板同士が上下方向に嵌合し、安定的に保存、運搬等を行うことができるため望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、そこで、本発明は、光学測定手段の種類や性能に関わらず、高精度に流路中の試料等の測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照としながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
図1は、本発明に係る流路基板の第一実施形態の概念図である。図1中の符号1aは、本発明に係る流路基板を示している。この流路基板1aのサイズは、目的に応じて適宜設計することができるが、例えば、Lを約25mm、Wを約75mm、Dを約2mmとすることができる。かかるサイズは一般的なスライドグラスと同等の大きさであり、規格性に優れ、汎用的に用いることができる。
【0017】
流路基板1aは、複数の検出部11a、11b(以下、11と総称することがある)と、流路12と、前記流路に試料を導入する導入部13と、前記流路から試料を排出する排出部14と、を備えている。前記検出部11は、光学的手段によって流路内の試料を検出するものである。
【0018】
そして、前記検出部11a、11bの検出部表面15a、15b(以下、15と総称することがある)は、基板上面において前記流路までの距離が異なる。基板正面において、複数の前記検出部11の検出部表面15の前記流路までの距離が異なることにより、試料の測定等に際し、光学測定手段の種類や性能に応じて好適な検出部表面15を有する検出部11を選択することができる。
【0019】
図2及び図3は、本発明に係る流路基板1aにおいて、流路12に試料を通流させた状態で、前記流路12内の試料を光学的手段によって検出する場合の概念図を示している。以下、本発明に係る流路基板1aにおいて、前記流路12内の試料を光学的手段で測定する一例について詳説する。
【0020】
導入部13から導入された試料は、流路12内を通流し、排出部14から排出される。前記流路12の通流方向と垂直方向に設けられた前記検出部11a、11bは、流路12までの距離の異なる検出部表面15a、15bを有する。
【0021】
検出器側の集光レンズD3の開口数NAが小さい場合、前記集光レンズD3の作動距離WDは比較的長いため、検出部表面15aから前記流路12までの距離が大きい検出部表面15aを有する検出部11aおいて試料の測定を行うことができる(図2参照)。
【0022】
前記検出部11aの基板下面方向に設けられた光源D1から励起光L1が発せられ、集光レンズD2を介して、流路基板1a内の流路12を通流する試料へ照射される。この試料に励起光L1が照射されることによって、蛍光等が発生する。この蛍光L2を、検出器D4で測定することができる。これによって、前記流路12中の試料の解析を行うことができる。
【0023】
これに対し、検出器側の集光レンズD3の開口数NAが大きい場合、前記集光レンズD3の作動距離WDは比較的短いため、前記流路12までの距離が小さい検出部表面15bを有する検出部11bにおいて試料の測定を行うのが好適である(図3参照)。
【0024】
前記検出部11bの基板下面方向に設けられた光源D1から励起光L1が発せられ、集光レンズD2を介して、流路基板1a内の流路12を通流する試料へ照射される。この試料に励起光L1が照射されることによって、蛍光等が発生する。この蛍光L2を、検出器D4で測定することができる。これによって前記流路12中の試料の解析を行うことができる。
【0025】
従来の流路基板は、基板面から流路まで一定の厚みを有するものであったため、開口数NAが大きく作動距離WDの短い集光レンズは、前記流路に充分に接近することができず、好適に試料の測定を行うことができなかった。しかしながら、本発明に係る流路基板1aは、複数の前記検出部11a、11bの夫々の検出部表面15a、15bは、前記流路までの距離が異なるため、好適な検出部表面を有する検出部を選択することにより、光学測定手段の集光レンズの開口数NAに関わらず、高精度に前記流路12内の試料を測定することができる。
【0026】
以下、本発明に係る流路基板1aの具体的構成について説明する。
【0027】
本発明に係る流路基板1aの材質は特に限定されず、用途に応じて適宜選択することができる。特に、可視光域で透明で発光性の低いポリカーボネート、ポリオレフィン系ポリマー、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、等のプラスチックやシリコンゴム、又は石英ガラス等のガラス材料等が好適に用いられる。
【0028】
本発明において試料の種類等は特に限定されず、例えば、細胞やタンパク質やビーズ等といった微小粒子であってもよいし、各種の抗体や試薬等といった流体であってもよい。
【0029】
本発明に係る流路基板1aの流路12は、基板内部に設けられるものであれば、その流路長や流路幅や流路深さ等は特に限定されず、目的に応じて適宜好適な長さや幅長や深さとすることができる。
【0030】
本発明に係る流路基板1aの導入部13は、前記流路12に接続され、前記流路に試料を導入するものであれば、その大きさや形状等は特に限定されず、目的に応じて適宜好適な大きさや形状とすることができる。また、前記流路12に接続される前記導入部13の数についても特に限定されず、後述するように一の前記流路12に前記導入部13を複数接続してもよい。
【0031】
本発明に係る流路基板1aの排出部14は、前記流路12に接続され、前記流路12から試料を排出するものであれば、その大きさや形状等は特に限定されず、目的に応じて適宜好適な大きさや形状とすることができる。また、前記流路12に接続される前記排出部14の数についても特に限定されず、試料の分離・分収を目的として一の前記流路12に前記排出部14を複数接続してもよい。
【0032】
本発明に係る流路基板1aにおいて、前記流路12内の試料を測定する光学測定手段は特に限定されず、例えば、蛍光測定、散乱光測定、透過光測定、反射光測定、回折光測定、紫外分光測定、赤外分光測定、ラマン分光測定、FRET測定、FISH測定その他各種スペクトラム測定等を用いることができる。例えば、蛍光測定を行う場合には蛍光色素を用いることができるし、励起波長が異なる蛍光色素を併用することで、より検出精度を向上させること等もできる。
【0033】
また、光学測定手段の構成は図2及び図3に示すものに限定されず、例えば、図示はしないが、光源D1が基板上面方向に設けられ、検出器D4が基板下面方向に設けられた構成であってもよく、光源D1と検出器D4とが基板面に対して同一方向に設けられた構成であってもよい。
【0034】
また、光学測定手段の集光レンズの開口数NAは特に限定されず、本発明に係る流路基板1aは、幅広い範囲の開口数NAを有する集光レンズに対応することができる。例えば、前記検出部表面15から前記流路12までの距離が約0.1mmである場合には、約0.7〜0.9の開口数NAを有する集光レンズを用いることができ、前記検出部表面15から前記流路12までの距離が約0.6mmである場合には、約0.5〜0.7の開口数NAを有する集光レンズを用いることができ、前記検出部表面15から前記流路12までの距離が約1mmである場合には、約0.1〜0.5の開口数NAを有する集光レンズを用いることができる。
【0035】
さらに、例えば、前記検出部表面15から前記流路12までの距離が約0.1mm以下等の短い距離である場合には、基板上に高屈折率の水やオイル、ゲル等を載せて検出を行う液浸光学系や、基板上に小型の光学レンズを載せて検出を行うマイクロレンズ光学系等を組み合わせて光学的手段による検出を行うことができる。
【0036】
本発明に係る流路基板1aにおいて、前記流路12内の試料を、光学測定以外の各種処理に供することができる。本発明において行う「処理」の内容については限定されず、各種測定・検出・分離・反応処理等が挙げられる。例えば、光学測定に加え、電気的物性、磁気的物性等の測定・検出等を行うことができる。また、光学測定によって得られた情報に基づいて、前記排出部14から取り出した試料を、分取・回収等することもできる。
【0037】
本発明に係る流路基板において、複数の前記検出部11の検出部表面15は、少なくとも片側の基板面において前記流路12までの距離が異なっていれば特に限定されず、例えば、図4に示すように、検出部11c、11dは、基板の下面において前記流路12までの距離が異なる検出部表面15c、15dを有するものとしてもよい。この場合、検出器側の集光レンズD3の開口数NAに応じて、好適な検出部表面15を有する検出部11を選択することができる。
【0038】
また、本発明に係る流路基板において、前記検出部11の数は、用途等に応じて適宜設定することができる。例えば、図5に示すように基板上面において前記流路12までの距離の異なる三の検出部表面15e、15f、15gを有する検出部11e、11f、11gを設けてもよい。前記検出部表面15の面積や、前記流路12からの距離についても特に限定されず、光学検出系の性能や流路基板の用途等に応じて適宜設計することができる。例えば、図示はしないが、前記流路12までの距離の異なる検出部表面15のうちの一の検出部表面は、基板面と同一平面上に設けてもよい。
【0039】
本発明に係る流路基板1aの製造方法の一例について説明する。図6は、本発明に係る流路基板の製造方法の一例の説明に供する概念図である。本発明に係る基板は、両面金型を用いた射出成形や、微小ドリル等による機械的加工等によって簡便に製造できる。流路12を備えた流路基板1aは、2層の基板1a、1aから得ることができる。
【0040】
基板1aは第1層目の基板であり、基板上面に前記流路12に対応する溝が形成されている。
【0041】
基板1aは第2層目の基板であり、基板上面に、基板下面までの距離の異なる二以上の検出部表面15a、15bが形成され、導入部13と、排出部14とは基板下面に貫通するように形成されている。
【0042】
基板1aを下層として、基板1aの上面に基板1aを積層することで、流路12を備えた流路基板とすることができる。
【0043】
基板1a、1aの製造については、公知の手法によって製造することができる。例えば、基板1aの製造については、図示はしないが、流路形状を有する上面金型と下面金型を射出成型機にセットし、基板1aへの形状転写を行う手法等を採用できる。これにより射出成形された基板1aには、流路形状が形成される。
【0044】
また、基板1a、1aの貼り合わせの手法は、従来の手法を適宜用いることができる。貼り合わせとしては、例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化接合、超音波接合等を適宜用いることができる。基板の材質や形状や大きさ等を考慮して、好適な貼り合わせ手法を選択することができる。
【0045】
更に、図示はしないが、射出成形後の各基板1a、1aの表面について、表面加工を施す工程を適宜行うこともできる。これにより、流路12の表面の疎水性等のような物性についてもコントロールできる。
【0046】
なお、基板の製造方法としては、いわゆる両面成型に限定されず、片面成型等の手法を採用することもできる。片面成型の手法としては、いわゆるプレート打ち抜き等といった従来の方法を適宜用いることができるが、成型精度等の観点から両面成型を用いることが望ましい。このように、本発明に係る流路構造を採用する基板であれば、両面金型による射出成形等といった簡便な方法で、高精度の流体制御が可能な流路基板を製造できる。このように、本発明に係る流路構造や流路基板は、製造上の利点も有している。
【0047】
そして、本発明に係る流路基板の製造に際して、射出成形に用いる材料や手法については適宜好適な材料や手法を選択することができる。基板は、成型可能な樹脂類を用いることができ、その種類は限定されず、例えば、熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、ポリメタクリル酸メチルやシリコン樹脂等が挙げられる。分光分析を流路基板上で行う場合には、光透過性の樹脂を用いることが望ましい。また、低融点ガラスを用いた射出成形基板や、紫外硬化樹脂を用いたナノインプリントの手法等を用いることができる。
【0048】
図7は、本発明に係る流路基板の第二実施形態の概念図である。以下、第一実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0049】
流路基板2は、複数の検出部21a、21b、21c、21d(以下、21と総称することがある)と、流路22と、前記流路に試料を導入する導入部23と、前記流路から試料を排出する排出部24と、を備えている。前記検出部21は、光学的手段によって流路内の試料を検出するものである。
【0050】
そして、前記検出部21a、21b、21c、21dの検出部表面251ab、25
1cd(以下、251と総称することがある)は、基板上面において前記流路22までの距離が異なり、検出部表面252a、252b、252c、252d(以下、252と総称することがある)は、基板下面において前記流路22までの距離が異なる(251ab、251cd、252b、252c、252dは、検出部表面25と総称することがある)。
【0051】
このように、両側の基板面において、複数の前記検出部21の検出部表面25の前記流路までの距離が異なることにより、検出器側の集光レンズD3の開口数NA及び光源側の集光レンズD2の開口数NAの両方に好適な検出部表面25を有する検出部21を選択して、光学的手段により検出を行うことができる。
【0052】
一例として、基板下面方向に光源D1が、基板上面方向に検出器D4がそれぞれ設けられ、基板下面から前記流路22中の試料に励起光L1が照射され、基板上面から前記流路22中の試料より発生した蛍光L2を検出する場合の具体例を説明する。
【0053】
検出器側の集光レンズD3の開口数NAに応じて、基板上面側の検出部表面を決定する。検出器側の集光レンズD3の開口数NAが比較的小さい場合は、前記集光レンズD3の作動距離WDが比較的長いため、前記流路22までの距離の大きな検出部表面251abを有する検出部21a、21bにて光学的手段により検出を行うことができる。一方、検出器側の集光レンズD3の開口数NAが比較的大きい場合は、前記集光レンズD3の作動距離WDが比較的短いため、前記流路22までの距離の小さな検出部表面251cdを有する検出部21c、21dにて光学的手段により検出を行うのが好適である。
【0054】
そして、光源側の集光レンズD2の開口数NAに応じて、基板下面側の検出部表面を決定する。光源側の集光レンズD2の開口数NAが比較的小さい場合は、前記集光レンズD2の作動距離WDが比較的長いため、前記流路22までの距離の大きな検出部表面252a、252cを有する検出部21a、21cにて励起光を照射することができる。一方、光源側の集光レンズD2の開口数NAが比較的大きい場合は、前記集光レンズD2の作動距離WDが比較的短いため、前記流路22までの距離の小さな検出部表面252b、252dを有する検出部21b、21dにて励起光を照射するのが好適である。
【0055】
このように、検出器側の集光レンズD3の開口数NAと、光源側の集光レンズD2の開口数NAとの組み合わせによって、光学測定を好適に行うことのできる基板上の位置が定められる。検出器側の集光レンズD3の性能及び光源側の集光レンズD2の性能と好適な検出部21との関係を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
本発明に係る流路基板2は、前記検出部21a、21b、21c、21dの検出部表面251ab、251cdは、基板上面において前記流路22までの距離が異なり、検出部表面252a、252b、252c、252dは、基板下面において前記流路22までの距離が異なるため、光源側の集光レンズD2の性能と、検出器側の集光レンズD3の性能との両者に合わせて好適な検出部表面25を有する検出部21を選択することにより、さらに高精度に光学的手段による検出を行うことができる。
【0058】
なお、両側の基板面において、複数の前記検出部21の検出部表面25の前記流路までの距離が異なる場合、本発明に係る流路基板の前記検出部21の数や面積等は、図7に示した流路基板2に限定されず、例えば、前記検出部21の数は、流路基板の用途等に応じて適宜設定することができる。また、前記検出部表面25の面積や前記流路22までの距離についても特に限定されず、前記検出部表面25の面積や前記流路22までの距離が、基板上面側の前記検出部表面251と、基板下面側の前記検出部表面252とで異なっていてもよい。
【0059】
図8は、本発明に係る流路基板の第三実施形態の概念図である。以下、第一実施形態、第二実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0060】
流路基板3は、複数の検出部31a、31b(以下、31と総称することがある)と、流路32と、前記流路32に試料を導入する三つの導入部33a、33b、33cと、前記流路32から試料を排出する排出部34と、を備えている。前記検出部31は、光学的手段によって流路内の試料を検出するものである。
【0061】
前記導入部33a、33b、33cは、前記流路32中に設けられた支流路321a、321b、321cに接続され、合流部322で主流路323と連通されている。
【0062】
そして、検出部31aは、前記支流路321a、321b、321cの通流方向と垂直方向に設けられ、検出部31bは、前記主流路323の通流方向と垂直方向に設けられている。前記検出部31a、31bの検出部表面35a、35b(以下、35と総称することがある)は、基板上面において前記流路までの距離が異なる。
【0063】
前記流路32に、二以上の前記導入部33a、33b、33cが接続されることにより、複数の試料を同時に前記流路32内に導入することができる。これにより、流路基板3は、マイクロリアクターやマイクロアナライザー、フローサイトメトリー等の幅広い用途に使用することができる。
【0064】
また、流路基板3は、一の検出部31aが、前記支流路321a、321b、321cの通流方向と垂直方向に設けられ、他の一の検出部31bが、前記主流路323の通流方向と垂直方向に設けられており、前記検出部31a、31bの検出部表面35a、35b(以下、35と総称することがある)は、基板上面において前記流路までの距離が異なる。このため、各導入部33a、33b、33cから導入された各試料が前記合流部322で合流する前と、該合流部322で合流した後とで光学測定手段の性能が異なる場合にも、好適に光学的手段により検出を行うことができる。
【0065】
一般に、流路基板内で複数の試料の相互作用を観測する場合、合流前の各試料の分析と比較して、各試料の合流後の試料の分析はより高い精度が要求される。この際、流路基板3は、合流後の主流路323の通流方向と垂直方向に前記流路32までの距離の比較的小さな検出部表面35bを有する検出部31bが設けられているため、集光レンズの開口数NAが小さい場合でも、好適に光学的手段により検出を行うことができる。
【0066】
前記導入部33a、33b、33cから導入される試料は特に限定されず、例えば、細胞やタンパク質やビーズ等といった微小粒子であってもよいし、各種の抗体や試薬等といった流体であってもよい。
【0067】
また、前記導入部33a、33cからシース液を導入し、前記導入部33bから導入される試料を挟み込んで搬送してもよい。シース液の種類等は特に限定されず、試料として用いるものの性質等を考慮して適宜好適な流体を選択できる。また、必要に応じて添加物等を加えてもよい。
【0068】
例えば、フローサイトメトリーの分野であれば、試料として細胞やタンパク質やビーズ等を用い、流体として、生理食塩水等のシース液を用いることができる。また、各種アナライザーやマイクロリアクターとして用いる場合であれば、シース液として、種々の油、有機溶媒、電解液等をもちいることで、ナノエマルジョン、ナノカプセル、各種サンプルの結晶化、危険物質の化学合成や成分分析等が可能となる。
【0069】
図9は、本発明に係る流路基板の第四実施形態の概念図である。以下、第一実施形態乃至第三実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0070】
流路基板4aは、複数の検出部41a、41b(以下、41と総称することがある)と、流路42と、前記流路に試料を導入する導入部43と、前記流路から試料を排出する排出部44と、を備えている。前記検出部41は、光学的手段によって流路内の試料を検出するものである。
【0071】
そして、前記検出部41a、41bの検出部表面45a、45b(以下、45と総称することがある)は、基板上面において前記流路までの距離が異なる。前記検出部41a、41bの検出部表面45a、45bは、基板上面において前記流路までの距離が異なるため、試料の測定等に際し、光学測定手段の種類や性能に応じて好適な検出部表面を選択することができる。
【0072】
そして、流路基板4aの上方視一の側方には、半円型の形状が形成されている。かかる形状は、形状の違いに基づいて基板に係る情報を識別しうる識別形状として設けられたものである。
【0073】
本発明に係る流路基板に、形状の違いに基づいて基板に係る情報を識別しうる識別形状を設けることにより、基板に設けられた流路等の方向等の情報を簡単に識別することができ、例えば、試料の導入方向を誤ったり、光学測定時に基板の設置方向を誤ったりするのを防止することができる。また、基板の種類によって前記識別形状を変えることにより、基板の誤用を防止すること等ができる。
【0074】
前記識別形状は、図9に示した半円型の形状に限定されるものではなく、例えば図10に示すように矢印型等の形状にしてもよい。さらに、図11に示す流路基板4cのように、基板側面に切り欠き形状46を設けてもよい。また、前記識別形状の大きさ等も特に限定されない。
【0075】
前記識別形状の形成方法は特に限定されず、基板の製造の際に、金型に前記識別形状の形状を形成しておき、射出成型による基板の製造と同時に形状が形成されるものとしてもよい。また、所望の形状を得るために、基板の製造後に、微小ドリル等による機械的加工等によって形成してもよい。
【0076】
前記識別形状が設けられる部分は、形状の違いに基づいて基板に係る情報が識別されうるものであれば特に限定されない。流路基板4aのように側面に設けてもよく、基板上面又は下面に設けてもよい。例えば、基板に係る情報が、前記識別形状が視認されることにより識別される場合は、基板を上方視したときに識別しうる箇所に設けるのが好ましい。また、一の流路基板に設けられる前記識別形状の個数は特に限定されず、複数の前記識別形状を設けてもよい。
【0077】
本発明において、前記識別形状により識別される情報は特に限定されず、例えば、基板の向きに係る情報、基板の種類に係る方法、基板の大きさに係る情報、基板に設けられた前記検出部表面に係る情報等が挙げられる。また、前記識別される情報は一種類であってもよく、二種類以上であってもよい。
【0078】
前記識別形状が識別される方法は特に限定されず、例えば、視認されることにより識別されうるものであってもよく、スキャナやセンサ等によって識別されうるものであってもよい。例えば、図11に示す流路基板4cの切り欠き形状46は、その形状や切り欠き形状46の位置を適宜設計することにより、上記に列挙した様々な基板に係る情報を複合的に識別しうるものとすることができる。そして、かかる切り欠き形状46をスキャナやセンサ等によって読み取り、基板に係る情報を得ることができる。
【0079】
例えば、図11において、流路基板4cに設けられた切り欠き形状46に、前記検出部表面44a、44bの位置や、各検出部表面45a、45bから前記流路42までの距離に係る情報をコードする。かかる切り欠き形状46を光学検出器に設けられたスキャナやセンサ等によって読み取り、得られた情報に基づいて、光学測定を行う基板の位置等を決定すること等ができる。
【0080】
また、例えば、あらかじめ光学測定手段に、特定の流路基板に設けられた切り欠き形状46に嵌合する形状を設け、光学測定手段側の形状と、流路基板側の切り欠き形状46とが嵌合した場合にのみ、光学測定が行われるようにすること等ができる。
【0081】
即ち、前記流路基板に設けられた切り欠き形状46は、前記基板に係る情報をコードするバーコードとして機能するものとすることができ、また、外部機器等に設けられた形状と共に、鍵と鍵穴のように機能するものとすることもできる。
【0082】
図12は、本発明に係る流路基板の第五実施形態の概念図である。以下、第一実施形態乃至第四実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0083】
流路基板5は、複数の検出部51a、51b(以下、51と総称することがある)と、流路52と、前記流路に試料を導入する導入部53と、前記流路から試料を排出する排出部54と、を備えている。前記検出部51は、光学的手段によって流路内の試料を検出するものである。
【0084】
そして、前記検出部51a、51bの検出部表面55a、55b(以下、55と総称することがある)は、基板上面において前記流路までの距離が異なる。前記検出部51a、51bの検出部表面55a、55bは、基板上面において前記流路までの距離が異なるため、試料の測定等に際し、光学測定手段の種類や性能に応じて好適な検出部表面を選択することができる。
【0085】
そして、流路基板5の基板下面には、二か所の凹状溝形状の位置決め形状56が形成されている。かかる形状は、基板の設置時において位置を規定しうるものとして設けられたものである。
【0086】
本発明に係る流路基板に、基板の設置時において位置を固定しうる位置決め形状56を設けることにより、基板の運搬時や前記流路51内の試料の処理時に、基板の方向を規定したり、基板の位置がずれること等を防止したりすることができる。
【0087】
前記位置決め形状56は、図12に示した形状に限定されるものではなく、本発明に係る基板を設置する場所の形状等に応じて適宜設計することができる。例えば、光学測定手段等に設けられた基板固定治具と嵌合しうる形状とすることにより、光学測定を行う際に、基板の向きを規定したり、基板がずれるのを防止したりすることができる。また、前記位置決め形状56の大きさ等も特に限定されない。
【0088】
前記位置決め形状56の形成方法は特に限定されず、基板の製造の際に、金型に前記識別形状の形状を形成しておき、射出成型による基板の製造と同時に形状が形成されるものとしてもよい。また、所望の形状を得るために、基板の製造後に、微小ドリル等による機械的加工等によって形成してもよい。
【0089】
前記位置決め形状56が設けられる部分は、基板の設置時において位置が固定されうるものであれば特に限定されない。流路基板5のように基板下面に設けてもよく、基板側面に設けてもよい。また、一の流路基板に設けられる前記位置決め形状56の個数は特に限定されず、複数の前記位置決め形状56を設けてもよい。
【0090】
特に、前記位置決め形状は、図13に示すように、基板の上面及び下面に設け、基板上面に設けられた位置決め形状56が、基板下面に設けられた位置決め形状57と嵌合しうる形状とするのが好適である。前記位置決め形状56、57をかかる構成とすることにより、複数の流路基板を上下方向に積層した際に(図14参照)、流路基板同士が上下方向に嵌合し、安定的に運搬、保存等を行うことができるため望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係る流路基板の第一実施形態の概念図である。
【図2】本発明に係る流路基板1aにおいて、流路12に試料を通流させた状態で、前記流路12内の試料に係る光学的手段により検出を行う一例に係る概念図である。
【図3】本発明に係る流路基板1aにおいて、流路12に試料を通流させた状態で、前記流路12内の試料に係る光学的手段により検出を行う他の一例に係る概念図である。
【図4】本発明に係る流路基板の第一実施形態の図1とは異なる一例の概念図である。
【図5】本発明に係る流路基板の第一実施形態の図1及び図4とは異なる一例の概念図である。
【図6】本発明に係る流路基板の製造方法の一例の説明に供する概念図である。
【図7】本発明に係る流路基板の第二実施形態の概念図である。
【図8】本発明に係る流路基板の第三実施形態の概念図である。
【図9】本発明に係る流路基板の第四実施形態の概念図である。
【図10】本発明に係る流路基板の第四実施形態の図9とは異なる一例の概念図である。
【図11】本発明に係る流路基板の第四実施形態の図10とは異なる一例の概念図である。
【図12】本発明に係る流路基板の第五実施形態の概念図である。
【図13】本発明に係る流路基板の第五実施形態の図12とは異なる一例の概念図である。
【図14】本発明に係る流路基板を積層した状態の概念図である。
【図15】流路基板に関する従来技術の説明に供する概念図である。
【図16】レンズの性能の説明に供する概念図である。
【符号の説明】
【0092】
1,2,3,4,5 流路基板
11,21,31,41,51 検出部
12,22,32,42,52 流路
13,23,33,43,53 導入部
14,24,34,44,54 排出部
15,25,35,45,55 検出部表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的手段によって流路内の試料を検出する複数の検出部と、
前記流路に試料を導入する導入部と、
前記流路から試料を排出する排出部と、
を少なくとも備え、
複数の前記検出部の検出部表面は、少なくとも片側の基板面において前記流路までの距離が異なる流路基板。
【請求項2】
複数の前記検出部の検出部表面は、両側の基板面において前記流路までの距離が異なる請求項1記載の流路基板。
【請求項3】
前記流路には、二以上の前記導入部が接続された請求項1記載の流路基板。
【請求項4】
形状の違いに基づいて前記基板に係る情報が識別されうる識別形状が設けられた請求項1記載の流路基板。
【請求項5】
前記識別形状は、切り欠き形状である請求項4記載の流路基板。
【請求項6】
設置時において位置が規定されうる位置決め形状が設けられた請求項1記載の流路基板。
【請求項7】
前記位置決め形状は、少なくとも片側の基板面に設けられた請求項6記載の流路基板。
【請求項8】
前記位置決め形状は、基板上面及び基板下面に設けられ、基板上面に設けられた前記位置決め形状は、基板下面に設けられた前記位置決め形状と嵌合しうる形状である請求項6記載の流路基板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−276199(P2009−276199A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127489(P2008−127489)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】