説明

流路部品

【課題】流路を構成する流路壁面をパリレン膜によって保護している流路部品であって、パリレン膜が壁面から剥離し難いようにする。
【解決手段】流路部品20は、液体が通過する液体流路(R1〜R5)を内部に形成してなるセラミックスから構成された流路部品20である。液体流路は、その一つの端部であり液体流路内の液体を流路部品20の外部に流出させる流出開口(流路R5の下端)を備える。その流出開口が形成されている流路部品20の外壁面(流路部品20の下面、セラミックスシート21の下面)には、流路部品20とは別の部材(ノズル板30)が接合される。ノズル板30には液体流出孔32が形成されている。更に、液体流路を構成する流路壁面はパラキシリレン系のポリマーの保護膜40により覆われ、且つ、保護膜40はその膜厚が流出開口に近づくほど小さくなるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体が通過する液体流路を内部に形成してなるセラミックスから構成された流路部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体を通過させる液体流路を内部に備える「セラミックスから構成された流路部品」が知られている。係る流路部品は、例えば、DNAチップを製造するための装置、燃料噴射装置等の「流体噴射用アクチュエータ」、インクジェットプリンタのインク吐出装置、燃料電池(SOFC)、スイッチング素子、及び、センサ等として広い分野において使用されている。
【0003】
ところで、このような流路部品の液体流路を構成している壁面(流路壁面)は、耐水性、耐薬品性、電気絶縁性、耐熱性及び強度等の向上を目的として、パラキシリレン系のポリマーからなる保護膜によって覆われる場合がある(特許文献1及び2を参照。)。パラキシリレン系のポリマーは「パリレン(登録商標)」とも称呼される。従って、以下において、パラキシリレン系のポリマーからなる保護膜は単に「パリレン膜」とも称呼される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−101068号公報
【特許文献2】特開2005−153510号公報
【発明の概要】
【0005】
図15は、上記特許文献1及び2に開示された流路部品の流出開口近傍部位の拡大断面図である。液体流路Rは、セラミックスからなる部材101,101の壁面101a,101aにより構成されている。流出開口が形成されている部材101,101の外壁面101bには「インク吐出孔102が形成されたノズル板103」が接合されている。更に、パリレン膜104は、液体流路Rを構成する壁面(流路壁面)101a,101aに形成されている。パリレン膜104の端部は流出開口に到達している。即ち、パリレン膜104の端部は「外壁面101bとノズル板103の内壁面103aとが接触する面」に位置している。
【0006】
しかしながら、このような構成においては、流路R内を液体が通過して外部へと流出させられるとき、その液体の一部はノズル板103によって遮られるので、流路壁面近傍において逆流する。その逆流した液体は、図15に矢印にて示したように流れるので、パリレン膜104の端部(流出開口側端部)から「外壁面101bとノズル板103の内壁面103aとの間」に浸入し(図15の矢印を参照。)、更には流路壁面101a側に浸入する場合がある。この結果、パリレン膜104が壁面101aから剥離する虞がある。従って、本発明の目的の一つは、液体が通過する液体流路を構成する流路壁面をパリレン膜によって保護している流路部品であって、パリレン膜が流路壁面から剥離する可能性がより小さい流路部品を提供することにある。
【0007】
本発明の流路部品は、液体が通過する液体流路を内部に形成してなるセラミックスから構成された流路部品であって、「前記液体流路の一つの端部であり前記液体流路内の液体を前記流路部品の外部に流出させる流出開口」が形成されている前記流路部品の外壁面に同流路部品とは別の部材であって前記流出開口と連通する貫通孔を備えた部材(例えば、液体吐出孔としての貫通孔を備える金属板等)が接合されるように構成されている。
【0008】
加えて、本発明の流路部品において、前記液体流路を構成する壁面(流路壁面)は「パラキシリレン系のポリマーの保護膜(パリレン膜)」により覆われ、且つ、その保護膜(パリレン膜)は(前記流出開口近傍において)その膜厚が前記流出開口に近づくほど小さくなるように形成されている。
【0009】
即ち、流路壁面を覆うパリレン膜は、そのパリレン膜の表面(露呈面)により画定する流路断面積が前記流路の軸線に沿って前記流出開口に近づくほど大きくなるように、形成されている。更に、流出開口近傍の液体流路の形状が中空円柱状である場合、その流路壁面を覆うパリレン膜は、そのパリレン膜の表面(露呈面)により画定する流路が前記流路の軸線に沿って前記流出開口に近づくほど拡径するように、形成されていると言うこともできる。或いは、前記パリレン膜は端部においてテーパー状となっていると表現することもできる。
【0010】
いま、図8に例示したように、「流出開口と連通する貫通孔(32)を備えた部材(30)の同貫通孔(32)の開口面積(流路断面積)」が「流出開口(流路R5の下端面に相当する開口)の面積」よりも小さいと仮定する。この場合、図8に矢印により示したように、液体が外部へと流出させられるとき、その液体の一部は部材(30)によって遮られるので、流路壁面近傍において逆流する。その逆流した液体はパリレン膜(40)を流路壁面に押し付ける。更に、その流れに沿ってパリレン膜(40)の膜厚は次第に増大するから、パリレン膜(40)の膜厚が段差状に大きくなる場合に比較して、その液体はパリレン膜(40)に沿ってスムーズに流れる。
【0011】
更に、図14に例示したように、「流出開口と連通する貫通孔(32’)を備えた部材(30’)の同貫通孔(32’)の開口面積(流路断面積)」が「流出開口(流路R5の下端面に相当する開口)の面積」よりも大きい場合、液体が外部へと流出させられるとき、その液体の流れを妨げる部材は存在しない。よって、液体はパリレン膜(40)に沿ってスムーズに流れる。その結果、パリレン膜(40)が剥離する可能性をより小さくすることができる。
【0012】
以上から理解されるように、上記構成によれば、パリレン膜(40)が剥離する可能性をより小さくすることができる。換言すると、パリレン膜(40)とセラミックスからなる流路壁面との密着性が向上するので、流路部品の信頼性を向上させることができる。
【0013】
なお、図16に矢印により示したように、従来の流路部品であって、「流出開口と連通する貫通孔(102’)を備えた部材(103’)の同貫通孔(102’)の開口面積(流路断面積)」が「流出開口(流路Rの下端面に相当する開口)の面積」よりも大きい場合、液体が外部へと流出させられるとき、その液体の一部は貫通孔(102’)内部において渦を発生する。その渦はパリレン膜(104)を流路壁面から引き剥がすように作用する。この点からも、本発明による流路部品は、「流出開口と連通する貫通孔を備えた部材における同貫通孔の大きさ」に拘わらず、パリレン膜が流路壁面から剥離する可能性をより小さくすることができることが理解される。
【0014】
この場合、前記保護膜は、前記流出開口から前記流路壁面に沿って所定の距離だけ上流に遡った位置(特定位置)に端部を有するように形成されている(その特定位置から形成され始めている)ことが好適である(図8の距離Dを参照。)。
【0015】
更に、この場合、
前記流出開口は「前記外壁面における前記流出開口の開口面積が前記外壁面における前記貫通孔の開口面積よりも大きくなるように」形成され、
前記貫通孔を備えた部材は前記外壁面に接着剤により接合されることが望ましい。
【0016】
パリレンは接着剤との密着性が良好でない。従って、特に、前記外壁面における前記流出開口の開口面積が前記外壁面における前記貫通孔の開口面積よりも大きい場合に、パリレンからなる保護膜の端部が前記流出開口にまで及んでいると、前記貫通孔を備えた部材を前記流出開口の縁部(即ち、パリレン膜端部)に強固に接着することが難しい。そこで、上記のように、前記保護膜が、前記流出開口から前記流路壁面に沿って所定の距離だけ上流に遡った位置に端部を有するように形成すれば、接着剤との密着性が良好でない前記保護膜が前記流出開口に到達していないので、前記流出開口が形成されている前記流路部品の外壁面に、前記流路部品とは別の部材を強固に接着することができる。
【0017】
本発明装置の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施形態に係る流路部品を含む流路形成装置の平面図である。
【図2】図2は図1の1−1線に沿った平面にて流路形成装置を切断した断面図である。
【図3】図3は図2に示した一つのセラミックスシートの平面図である。
【図4】図4は図2に示した他のセラミックスシートの平面図である。
【図5】図5は図2に示した他のセラミックスシートの平面図である。
【図6】図6は図2に示した他のセラミックスシートの平面図である。
【図7】図7は図2に示したノズル板の平面図である。
【図8】図8は図1及び図2に示した流路形成装置の流出開口近傍の部分の拡大断面図である。
【図9】図9は図1に示した流路形成装置の製造工程を説明するための図である。
【図10】図10は図1に示した流路形成装置の製造工程を説明するための図である。
【図11】図11は図1に示した流路形成装置の製造工程を説明するための図である。
【図12】図12は図1に示した流路形成装置の製造工程を説明するための図である。
【図13】図13は図1に示した流路形成装置の製造工程を説明するための図である。
【図14】図14は、本発明の他の実施形態に係る流路部品を含む流路形成装置の流出開口近傍の部分の拡大断面図である。
【図15】図15は従来の流路形成装置の流出開口近傍の部分の拡大断面図である。
【図16】図16は従来の他の流路形成装置の流出開口近傍の部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る流路部品を含む流路形成装置について説明する。図1は、この流路形成装置10の平面図である。図2は、図1の1−1線に沿った平面にて流路形成装置10を切断した断面図である。流路形成装置10は、流路部品20と、ノズル板30と、を備えている。
【0020】
流路形成装置10は、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸のそれぞれに平行な辺を有する直方体形状を備える。従って、図1に示したように、流路形成装置10の平面視(Z軸正方向からZ軸に沿って流路形成装置10を見た場合)における形状は長方形である。この長方形の長辺及び短辺は、X軸及びY軸にそれぞれ平行である。流路形成装置10の高さ方向はZ軸に平行である。なお、以下において、説明の便宜上、Z軸正方向を上方向と定義し、Z軸負方向を下方向と定義する。
【0021】
流路部品20は、複数のセラミックスの薄板体(以下、「セラミックスシート」と称呼する。)21乃至24と、圧電素子25と、を含む。図3乃至図6は、セラミックスシート21乃至24のそれぞれの平面図である。セラミックスシート21乃至24は、この順に上方に積層且つ圧着され、後に焼成により一体化される。圧電素子25は、セラミックスシート24の上面に配設・固定される。
【0022】
このように構成される流路部品20は、流路R1(第1流路部R1)、流路R2(第2流路部R2)、流路R3(第3流路部R3)、流路R4(第4流路部R4)及び流路R5(第5流路部R5)から構成される一つの液体流路をその内部に形成している。
【0023】
流路R1はZ軸に平行な中心軸を有する中空の円柱状である。流路R1は、流路部品20のY軸方向の中央部であってX軸正方向端部近傍に形成されている。
流路R5はZ軸に平行な中心軸を有する中空の円柱状である。流路R5は、流路部品20のY軸方向の中央部であってX軸負方向端部近傍に形成されている。
【0024】
換言すると、セラミックスシート21は、図3に示したように、流路R1及び流路R5に対応する位置に流路R1及び流路R5をそれぞれ形成するための貫通孔を備えている。流路R1は、液体を流路部品20内(液体流路内)に流入させるための流入開口をセラミックスシート21の下面(従って、流路部品20の下面)に形成している。同様に、流路R5は、液体を流路部品20(液体流路)から流出させるための流出開口をセラミックスシート21の下面(従って、流路部品20の下面)に形成している。
【0025】
流路R2は中空の四角柱状(直方体形状)である。流路R2は、流路部品20のY軸方向の中央部であってX軸正方向端部近傍(流路R1の直上部)に形成されている。
流路R4は中空の四角柱状(直方体形状)である。流路R4は、流路部品20のY軸方向の中央部であってX軸負方向端部近傍(流路R5の直上部)に形成されている。
換言すると、セラミックスシート22は、図4に示したように、流路R2及び流路R4に対応する位置に流路R2及び流路R4をそれぞれ形成するための貫通孔を備えている。
【0026】
流路R3は中空の四角柱状(直方体形状)である。流路R3は、流路部品20のY軸方向の中央部であってX軸方向中央部(流路R2と流路R4の直上部及びそれらの間に対応する部位)に形成されている。
換言すると、セラミックスシート23は、図5に示したように、流路R3に対応する位置に流路R3を形成するための貫通孔を備えている。
【0027】
ノズル板30はSUS等の金属からなる薄板体である。ノズル板30は、図2及び図7に示したように、流路R1に対応する位置に液体流入孔31を備え、流路R5に対応する位置に液体流出孔32を備えている。液体流入孔31及び液体流出孔32のそれぞれは、ノズル板30を貫通する貫通孔である。
【0028】
液体流入孔31の直径は、流路R1の直径と等しいか、流路R1の直径よりも大きい。液体流出孔32は中空円柱状である。
液体流出孔32の直径は、流路R5の直径よりも小さい。
ノズル板30は、セラミックスシート21の下面(従って、流路部品20の流出開口が形成されている外壁面)に接着剤により接着(接合)される。液体流入孔31は流路R1と同軸的に配設される。液体流出孔32は流路R5と同軸的に配設される。
【0029】
圧電素子25はセラミックスシート24の上面に固定されている。図1及び図2に示したように、圧電素子25は流路R3の直上部に配設されている。圧電素子25は、図示しない上部電極及び下部電極を備えている。これらの電極間に駆動電圧が印加されると、圧電素子25はセラミックスシート24を変形させ、流路R3の容積を変化させる。これにより、液体流路内の液体が加圧され、流路R4、流路R5及び液体流出孔32を通って流路形成装置10の外部へ送り出される。
【0030】
図2に示したように、液体流路(流路R1乃至流路R5)を構成する流路壁面には、パラキシリレン系のポリマーの保護膜(パリレン膜)40が形成されている。圧電素子25によって変形させられるセラミックスシート24(振動板)は薄板体であるので強度が不足する虞があるが、本例においてはセラミックスシート24の強度をパリレン膜40により増すことができる。更に、セラミックスシート24等の欠陥を埋めることもできる。
【0031】
このパリレン膜40の膜厚tは大部分において略一定t0である(図8を参照。)。但し、図8に拡大して示したように、パリレン膜40は、その膜厚が流出開口(流路R5の下端面に相当するセラミックスシート21の下面に形成されている開口)に近づくほど小さくなるように形成されている。換言すると、流出開口近傍の液体流路(流路R5)の形状は中空円柱状であることから、その流路壁面を覆うパリレン膜40は、そのパリレン膜40の表面(露呈面、内表面)により画定する流路が前記流路の軸線に沿って前記流出開口に近づくほど拡径するように形成されている。加えて、パリレン膜40は、流出開口から流路壁面に沿って所定の距離Dだけ上流に遡った位置に端部を有するように形成されている。
【0032】
同様に、図2に示したように、パリレン膜40は、その膜厚が流入開口(流路R1の下端面に相当するセラミックスシート21の下面に形成されている開口)に近づくほど小さくなるように形成されている。加えて、パリレン膜40は、流入開口から流路壁面に沿って所定の距離Dだけ上流に遡った位置に端部を有するように形成されている。
【0033】
これにより、図8に矢印により示したように、液体が流出開口及び液体流出孔32を介して外部へと流出させられるとき、その液体の一部はノズル板30によって遮られるので、流路壁面近傍において逆流する。その逆流した液体はパリレン膜40を流路壁面に押し付ける。更に、その流れに沿ってパリレン膜40の膜厚は次第に増大するから、パリレン膜40の膜厚が段差状に大きくなる場合に比較して、その液体はパリレン膜40に沿ってスムーズに流れる。その結果、パリレン膜40が流路壁面から剥離する可能性をより小さくすることができる。
【0034】
次に、流路形成装置10の製造方法について説明する。
(流路部品積層体形成工程)
先ず、焼成前のセラミックスシート(セラミックスグリーンシート)21乃至24を準備する。これらのシートの材料は、セラミックス材料であれば特に限定されないが、高い強度を有するという観点から、部分安定化ジルコニア又は安定化ジルコニアを主成分とするセラミックスであることが好ましい。
【0035】
次いで、「金型パンチ及びダイ」を用いた打ち抜き加工により、セラミックスグリーンシートに前述した「流路R1〜R5に対応する貫通孔」を形成する(図3乃至図6を参照。)。なお、流路R5の直径は100μmとし、流路R5のZ軸方向長さは100μmとした。その後、セラミックスシート21乃至24を積層し、互いに圧着する。最後に、積層された複数のセラミックスシートを焼成し、一体化する。以上により、図9に示したセラミックス積層体20Aが形成される。
【0036】
(カップリング処理工程)
次に、液体流路の壁面(流路壁面)に対してカップリング処理を施す。これにより、後にパリレン膜が流路壁面に良好に密着した状態にて形成され易くなる。このカップリング処理には一般的な方法を用いることができる。本例においては、カップリング剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、品番:A−174)を水:IPA=1:1の溶液に1%溶解させた液体を室温で15分間維持し、その液体を液体流路内に流し込むことにより、カップリング剤を液体流路の流路壁面に塗布する。なお、カップリング剤の蒸気を発生させ、その蒸気中にセラミックス積層体20Aを曝すことにより、カップリング処理を行ってもよい。
【0037】
(パリレン膜形成(成膜)工程)
次に、パリレン膜をセラミックス積層体20Aの表面に形成する。このようなパリレン膜の成膜処理方法としては、固体のジパラキシリレンダイマーを蒸着源とする公知のCVD(Chemical Vapor Deposition,気相合成法)を採用することができる。この方法によれば、ジパラキシリレンダイマーが気化・熱分解して発生したジラジカルパラキシリレンが、セラミックス積層体20Aの露出面(液体流路の流路壁面を含む。)に吸着して重合反応が発生する。その結果、図10に示したように、液体流路の流路壁面のみならず、セラミックス積層体20Aの表面全体にパリレン膜40が形成される。なお、パリレン膜40の成膜方法については、上記特許文献1及び2の他、例えば、特開2006−159858号公報にも詳細に開示されている。また、パリレン膜40の材料としては、ポリモノクロロパラキシリレン、ポリジクロロパラキシリレン及びポリパラキシリレン等の一以上を用いることができる。
【0038】
(パリレン膜除去工程)
流路形成装置10においては、流路部品20の下面にノズル板30が接着される。更に、流路部品20の上面に圧電素子25が接合される。一方、パリレン膜40は、接着剤等との密着性が良好ではない。従って、液体流路以外の部分に形成されているパリレン膜40を除去する。
【0039】
パリレン膜40の除去は、研磨及びブラスト等の一般的な除去方法により行うことができる。パリレン膜40を除去した後、更に、吐出開口近傍の流路壁面に斜め方向から砥粒を投射するブラスト加工を行う。
【0040】
このブラスト加工中、砥粒は、吐出開口から所定の距離にまで進入し、砥粒が吐出開口近傍のパリレン膜40を除去する。この結果、図8に示したように、パリレン膜40の膜厚tが吐出開口に近づくほど小さくなるように形成される。加えて、吐出開口近傍の流路壁面に形成されているパリレン膜40が除去されるので、パリレン膜40は吐出開口から流路壁面に沿って所定の距離Dだけ上流に遡った位置に端部を有するように形成される。
【0041】
ところで、パリレン膜40は比較的硬い膜である。従って、SiC等のセラミックスの砥粒を用いることにより、ブラスト加工の加工速度を上昇させることができる。この場合、流入開口及び流出開口よりも小さい径を有する砥粒を研磨剤として用いると、ブラスト加工中において液体流路内に砥粒が進入し、パリレン膜40にダメージを与える場合がある。更に、液体流路内に進入した研磨剤を除去する必要があるが、その除去も容易ではない。これに対し、流入開口及び流出開口よりも大きい径を有する砥粒を研磨剤として用いると、流入開口の縁部のセラミックス部及び流出開口の縁部のセラミックス部が削れてしまう。
【0042】
一方、例えば特開2006−159402号公報等に開示されたブラスト方法が知られている。このブラスト方法は、「比較的大径の弾性体である母材」内に「小径の砥粒」が固定された研磨材を噴射又は投射する方法である。
【0043】
そこで、「比較的大径(即ち、流入開口及び流出開口の径よりも大きい径)の弾性体である母材」に「SiC等の小径の砥粒」が埋め込まれている研磨材を噴射又は投射するブラスト加工方法は、パリレン膜40を除去する方法として好適に用いられる。
【0044】
このブラスト方法によれば、研磨材(母材)の径が大きいので、ブラスト加工中に研磨材が「流入開口及び流出開口」から液体流路内に進入し難い。従って、このブラスト加工により、流路壁面(振動板であるセラミックスシート14を含む。)を保護しているパリレン膜40はダメージを受けない。
【0045】
加えて、このブラスト加工中、研磨材Tは、図12に示したように、流出開口から所定の距離にまで進入し、研磨材Tの母材に埋め込まれている砥粒が流出開口近傍のパリレン膜40を除去する。
【0046】
この結果、このブラスト加工を実施することのみにより、流路壁面以外の部分のパリレン膜40が除去される。同時に、図7及び図11に示したように、パリレン膜40は吐出開口から流路壁面に沿って所定の距離Dだけ上流に遡った位置に端部を有するように形成される。しかも、パリレン膜40は、パリレン膜40の膜厚が吐出開口に近づくほど小さくなるように形成される。
【0047】
なお、流入開口近傍のパリレン膜40も同様に除去される。即ち、パリレン膜40は流入開口から流路壁面に沿って所定の距離Dだけ下流に移動した位置に端部を有するように形成され、且つ、その膜厚が流入開口に近づくほど小さくなるように形成される。
【0048】
更に、このブラスト加工において、研磨剤の噴射又は投射方向は90度でない方向(加工対象の壁面であるセラミックス積層体20Aの下面等の法線と相違する方向、加工対象の壁面に対して直交しない方向)であることが望ましい。
【0049】
また、パリレン膜40の膜厚の「流出開口又は流入開口に近づく方向の単位長さ」あたりの減少量(即ち、パリレン膜40の薄くなる程度)及び上記距離Dは、ブラスト投射の角度、ブラスト投射時間及びブラスト投射圧力等を適宜設定することにより、調整することができる。
【0050】
(圧電素子形成及びノズル板接着工程)
その後、図13に示したように、圧電素子25の前駆体をセラミックスシート24の上面に配設し、焼成する。更に、ノズル板30をセラミックスシート21の下面に接着剤を用いて接着する。以上により、図1及び図2に示した流路形成装置10が完成する。
【0051】
<実施例>
上記実施形態に従って以下に述べるように種々の流路部品20の実施例を実際に作成した。なお、これらの実施例において、流路R5の直径(流出開口の直径)は50μm、セラミックスシート21の厚さ(即ち、流路R5の軸方向長さ)は100μmであった。更に、これらの実施例においては、流路壁面のパリレン膜は、その膜厚が流出開口に近づくほど小さくなるように形成されていることが確認された。
【0052】
<実施例1>
実施例1は、以下に述べる条件・方法にてパリレン膜を除去して作成された。
方法:ブラスト方法
研磨剤:母材の大きさ=直径600μm
母材の材質=エチレンプロピレンジエン系ゴム(弾性体)
砥粒=SiC#2000
圧力:0.1MPa
投射角度(入射角度)θ:25度(加工対象壁面の法線に対して65度)
時間:5分
投射距離3cm
実施例1の表面粗さは43nm、上記距離Dは5μmであった。
【0053】
<実施例2>
実施例2は、以下に述べる条件・方法にてパリレン膜を除去して作成された。
方法:ブラスト方法
研磨剤:母材の大きさ=直径1000μm
母材の材質=エチレンプロピレンジエン系ゴム(弾性体)
砥粒=SiC#2000
圧力:0.1MPa
投射角度(入射角度)θ:15度(加工対象壁面の法線に対して75度)
時間:2分
投射距離3cm
実施例2の表面粗さは43nm、上記距離Dは0μmであった。
【0054】
<実施例3>
実施例3は、以下に述べる条件・方法にてパリレン膜を除去して作成された。
方法:ブラスト方法
研磨剤:母材の大きさ=直径1000μm
母材の材質=エチレンプロピレンジエン系ゴム(弾性体)
砥粒=SiC#2000
圧力:0.1MPa
投射角度(入射角度)θ:25度(加工対象壁面の法線に対して65度)
時間:5分
投射距離3cm
実施例3の表面粗さは43nm、上記距離Dは2μmであった。
【0055】
<実施例4>
実施例4は、以下に述べる条件・方法にてパリレン膜を除去して作成された。
方法:ブラスト方法
研磨剤:母材の大きさ=直径1000μm
母材の材質=エチレンプロピレンジエン系ゴム(弾性体)
砥粒=SiC#2000
圧力:0.1MPa
投射角度(入射角度)θ:40度(加工対象壁面の法線に対して50度)
時間:5分
投射距離3cm
実施例4の表面粗さは43nm、上記距離Dは10μmであった。
【0056】
次に、このように作成される流路部品20のパリレン膜の密着性についての信頼性評価を行った。評価方法は次の通りである。
・上述した製造工程において、パリレン膜除去方法のみを次のように変更した比較例を作成した。
<比較例におけるパリレン膜除去方法>
方法:研磨(ブラスト加工なし)
研磨材:砥粒=SiC#2000
この方法により表面粗さが40nmとなるまで研磨した。また、パリレン膜の厚さはその端部まで一定であり、上記距離Dは0μmであった。即ち、流路壁面のパリレン膜は、流入開口から流出開口までの流路全域に渡り一定であった。
【0057】
・次に、直径20μmの円柱状の2つの貫通孔を流路R1及び流路R5に対応する位置に備えるSUSからなる板(板厚=50μm)を準備した。そして、そのSUS板をエポキシ接着剤を用いて「実施例のセラミックス積層体20A」と「比較例のセラミックス積層体」の下面に接着した。このとき、SUS板の貫通孔の中心を流路R1及び流路R5の中心に一致させた。
・イオン交換水を、流量0.1ml/分にて100時間、液体流路を通過させた。
・その後、パリレン膜40の剥離の有無を画像により検査した。
・その際、流出開口及び流入開口の穴の形状を判断する対象とした。上述したイオン交換水の通過によって、パリレン膜が剥離すれば、穴にバリ等が発生し、穴はその初期形状から変化するはずである。そこで、初期形状からの直径の変化量の最大値が1μm以上であるものは、パリレン膜40が剥離していると判断した。
【0058】
より具体的に述べると、穴の円周に沿って所定の数(例えば、100点)の座標位置を測定し、そのデータからその穴を真円と仮定した場合の円の中心と半径を算出する。次いで、中心から各座標位置までの距離と、半径と、の誤差を求める。その誤差が所定値(例えば、0.5μm)以上であると、円の一部が大きく変形している(即ち、バリ等が発生している)と判定し、パリレン膜40が剥離していると判断した。
【0059】
評価結果は次のとおりである。
実施例1:50穴について不良の穴数は「0」であった。
実施例2:50穴について不良の穴数は「0」であった。
実施例3:50穴について不良の穴数は「0」であった。
実施例4:50穴について不良の穴数は「0」であった。
比較例:50穴について不良の穴数は「12」であった。
【0060】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る流路部品20は、液体が通過する液体流路を内部に形成してなるセラミックスから構成された流路部品20であって、「前記液体流路の一つの端部であり前記液体流路内の液体を前記流路部品の外部に流出させる流出開口(流路R5の下端)」が形成されている前記流路部品の外壁面(即ち、流路部品20の下面、セラミックスシート21の下面)に、流路部品20とは別の部材であって前記流出開口と連通する貫通孔(32)を備えた部材(ノズル板30)が接合されるように構成されている。更に、この流路部品20においては、前記液体流路を構成する流路壁面がパラキシリレン系のポリマーの保護膜40により覆われ、且つ、前記保護膜40はその膜厚が前記流出開口に近づくほど小さくなるように形成されている(図8を参照。)。
【0061】
従って、図8を参照しながら説明したように、パリレン膜40が流路壁面から剥離する可能性をより小さくすることができる。換言すると、パリレン膜40とセラミックスからなる流路壁面との密着性が向上するので、流路部品20の信頼性を向上させることができる。
【0062】
更に、図8に示した例においては、「前記外壁面(流出開口が形成されたセラミックスシート21の下面)における流出開口の開口面積が前記外壁面における貫通孔32の開口面積よりも大きくなるように」流出開口が形成されている。更に、パリレン膜40は、前記流出開口から前記流路壁面に沿って所定の距離Dだけ上流に遡った位置に端部を有するように形成されている(その位置から形成され始めている)。
【0063】
従って、接着剤との密着性が良好でないパリレン膜40が流出開口に到達していないので、流出開口が形成されている流路部品20の外壁面に、ノズル板30(流路部品20とは別の部材)を強固に接着することができる。なお、流入開口についても同様である。
【0064】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10…流路形成装置、20…流路部品、21〜24…セラミックスシート、25…圧電素子、30…ノズル板、31…液体流入孔、32…液体流出孔、40…パリレン膜(保護膜)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が通過する液体流路を内部に形成してなるセラミックスから構成された流路部品であって、前記液体流路の一つの端部であり前記液体流路内の液体を前記流路部品の外部に流出させる流出開口、が形成されている前記流路部品の外壁面に同流路部品とは別の部材であって前記流出開口と連通する貫通孔を備えた部材が接合されるように構成された流路部品において、
前記液体流路を構成する流路壁面がパラキシリレン系のポリマーの保護膜により覆われ、且つ、前記保護膜はその膜厚が前記流出開口に近づくほど小さくなるように形成された流路部品。
【請求項2】
請求項1に記載の流路部品において、
前記保護膜は、前記流出開口から前記流路壁面に沿って所定の距離だけ上流に遡った位置に端部を有するように形成された流路部品。
【請求項3】
請求項2に記載の流路部品において、
前記流出開口は、前記外壁面における前記流出開口の開口面積が前記外壁面における前記貫通孔の開口面積よりも大きくなるように、形成され、
前記貫通孔を備えた部材は前記外壁面に接着剤により接合される流路部品。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−201025(P2012−201025A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68720(P2011−68720)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】