説明

流量制御膨張弁

【課題】リア側の空調制御を行っていないときには閉弁することができ、電磁弁一体型の温度式膨張弁よりも安価な流量制御膨張弁を提供する。
【解決手段】弁座28の下流側に配置された弁体29とこの弁体29の有効受圧面積と概略等しい有効受圧面積を有する筒状受圧部材33とを弁軸32で結合し、弁体29と筒状受圧部材33とによって高圧冷媒入口37に供給される高圧をキャンセルし、弁体29をスプリング30で閉弁方向に付勢し、弁体29には蒸発器入口圧力Pxを閉弁方向に受圧させ、筒状受圧部材33には蒸発器出口圧力Peを開弁方向に受圧させる構成にする。これにより、ソレノイド42の非通電時は、スプリング30によって弁体29は弁座28に着座して閉弁し、通電時は、ソレノイド42によって設定される弁リフトで差圧(Px−Pe)が一定になるよう制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流量制御膨張弁に関し、特に車室内のフロント側とリア側とが独立して空調することができる自動車用空調装置のリア側回路の膨張弁に用いて好適な流量制御膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車室内のフロント側とリア側とをそれぞれ独立して空調できるようにした自動車用空調装置が知られている。このような自動車用空調装置では、フロント側の空調制御を行うフロント用の膨張弁および蒸発器の回路とリア側の空調制御を行うリア用の膨張弁および蒸発器の回路とを並列に配置して構成した冷凍サイクルが用いられている。ここで、フロント側回路およびリア側回路に用いられる膨張弁としては、それぞれの蒸発器の出口における冷媒の温度および圧力を感知してその蒸発器出口の冷媒が所定の過熱度になるように蒸発器へ供給する冷媒の流量を制御するようにした温度式膨張弁を用いることが多い。
【0003】
このような自動車用空調装置では、乗員の乗車状況などに応じて、リア側の空調制御は行わずにフロント側のみ空調制御を行う場合がある。リア側の空調制御を行っていないときには、リア側の回路に冷媒が流れないようにすることが行われている。これは、リア側の空調制御を行っているときに蒸発器の出口冷媒の温度を感知している温度式膨張弁としては、空調が止まっているときに車室内の高い温度を感知して開弁状態になることがあることから、冷媒が膨張弁および蒸発器を流れてしまい、その流れによる流動音が発生したり、あるいは、冷媒が蒸発器内に溜まってフロント側の空調制御に必要な冷媒が不足したりすることがあるためである。そのために、リア側の回路に電磁弁を設置したり、温度式膨張弁に電磁弁を一体に構成した電磁弁一体型膨張弁(たとえば、特許文献1参照。)を使用したりして、リア側の空調が止まっているときにはリア側の回路を閉止してその膨張弁には冷媒が通過しないように、また、リア側の蒸発器には冷媒が流れ込むことがないようにしている。
【特許文献1】特開平10−73345号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リア側の冷媒流路を開閉するために設置される電磁弁または電磁弁一体型膨張弁は、高価であり、自動車用空調装置のコストを上昇させてしまうという問題点があった。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、リア側の空調制御を行っていないときには閉弁することができ、電磁弁一体型の温度式膨張弁よりも安価な流量制御膨張弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では上記問題を解決するために、蒸発器に送り出す冷媒の流量を概略一定に制御する流量制御膨張弁において、冷媒入口配管が冷媒出口配管の内側に概略同軸配置されて二重管構造になっている前記蒸発器に接続するように第1内管および第1外管が概略同軸配置の二重管構造に形成された一端を有する主円柱部およびこの主円柱部に直交する方向に延出された配管接続部を有するボディと、前記主円柱部の他端側に前記第1外管と連通するように形成された二重管構造の第2外管を気密に閉止するように前記主円柱部に結合されたソレノイドと、前記主円柱部の一端側の前記第1内管と他端側の第2内管との間に軸方向に形成される空間にて前記配管接続部の高圧入口と前記主円柱部の前記第1内管との間の通路を開閉するように収容され、前記ソレノイドの非通電時に閉弁され、通電時には、通電電流の大きさに応じて弁リフトする弁部と、前記第1内管内の蒸発器入口圧力と前記第2外管内の蒸発器出口圧力との差圧を感知し、前記ソレノイドの通電時に開弁されている前記弁部を前記差圧が大きくなる方向の変化に対し閉弁方向に作用させることにより、前記第1内管から前記蒸発器に送り出される冷媒の流量を概略一定に制御する差圧感知部と、を備えていることを特徴とする流量制御膨張弁が提供される。
【0007】
このような流量制御膨張弁によれば、蒸発器前後の差圧を感知してその差圧が一定になるように差圧制御することで、蒸発器に送り出される冷媒の流量を概略一定に制御することができ、一定に制御しようとする冷媒の流量は、ソレノイドに通電する通電電流によって設定できる。差圧制御による弁部とソレノイドとで構成されていることにより、構成を簡単にすることができるので安価な膨張弁を提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の流量制御膨張弁は、蒸発器入口圧力と蒸発器出口圧力との差圧を感知してその差圧が一定になるように制御する弁部とその差圧を外部から設定するソレノイドとによって構成される定差圧制御弁であるため、全体の構成が簡単になり、さらに、冷媒と同じまたは類似の特性を有するガスを封入した部品コストの高いパワーエレメントを使用しないので、大幅に低コスト化できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、自動車用空調装置の効率を向上させるために内部熱交換器を備えた冷凍サイクルのリア側空調用の膨張弁に適用した場合を例に図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。
この冷凍サイクルは、車両のエンジンルーム内に配置されて、冷媒を圧縮する圧縮機1と、圧縮された冷媒を冷却して凝縮させる凝縮器2と、凝縮された冷媒を気液に分離して液冷媒を送り出すレシーバ3とを備えている。車室内のフロント側には、液冷媒を絞り膨張させるフロント側膨張弁4と、膨張された冷媒を蒸発させるフロント側蒸発器5とが配置され、車室内のリア側には、液冷媒を絞り膨張させる流量制御膨張弁6と、膨張された冷媒を蒸発させるリア側蒸発器7とが配置されている。そして、レシーバ3とフロント側膨張弁4および流量制御膨張弁6との間は、内部熱交換器8によって接続されている。また、フロント側蒸発器5およびリア側蒸発器7の近傍には、これらに車室内の空気を通過させるための送風機9,10が設けられている。
【0011】
フロント側膨張弁4は、フロント側蒸発器5の出口における冷媒の温度および圧力を感知してそのフロント側蒸発器5出口の冷媒が所定の過熱度になるようにフロント側蒸発器5へ供給する冷媒の流量を制御するようにした温度式膨張弁である。もちろん、フロント側膨張弁4は、各種センサ値を基に制御される電子膨張弁でもよい。また、流量制御膨張弁6は、運転停止時の非通電時には閉弁し、運転時には制御部11によって電流制御されている。その制御部11は、リア側蒸発器7の空気導入口近傍に設置された温度センサ12および送風機9に接続され、送風機9によってリア側蒸発器7に当てられる空気の温度および風量から推定される冷凍負荷に基づいて流量制御膨張弁6を流量制御している。なお、この制御部11における冷凍負荷推定のための演算部および温度センサ12は、実際には、この自動車用空調装置を制御する制御装置の一部であって、新たに設置されたものではない。
【0012】
ここで、たとえばフロント側のみ空調を行うときは、流量制御膨張弁6がリア側回路の冷媒流路を閉じていて、圧縮機1および送風機9が起動される。圧縮機1で圧縮された高温・高圧の冷媒は、凝縮器2にて凝縮され、レシーバ3に溜められる。レシーバ3の液冷媒は、内部熱交換器8を通ってフロント側膨張弁4に供給され、そこで絞り膨張されて低温・低圧の冷媒になる。低温・低圧の冷媒になった冷媒は、フロント側蒸発器5に送られ、そこで送風機9によって送られてきた車室内の空気との熱交換により蒸発される。蒸発された冷媒は、フロント側膨張弁4および内部熱交換器8を介して圧縮機1の入口に送られる。
【0013】
蒸発した冷媒がフロント側膨張弁4を通過するとき、そのフロント側膨張弁4は、フロント側蒸発器5の冷媒の温度および圧力を感知し、そのフロント側蒸発器5の出口における冷媒が所定の過熱度になるようにフロント側蒸発器5に送り出す冷媒の流量を制御する。内部熱交換器8は、レシーバ3からフロント側膨張弁4に向けて流れる高温の冷媒とフロント側膨張弁4から圧縮機1に向けて流れる低温の冷媒との間で熱交換する。これにより、フロント側膨張弁4に送られる冷媒はより冷却され、圧縮機1に送られる冷媒はより過熱されることにより、フロント側膨張弁4の入口と圧縮機1の入口とのエンタルピ差が大きくなる。その結果、冷凍サイクルの成績係数が向上するため、圧縮機1を駆動する走行用エンジンの負荷を小さくすることができ、自動車用空調装置の効率を向上させることができる。
【0014】
リア側の空調を行うときには、流量制御膨張弁6が通電され、送風機10が起動される。これにより、内部熱交換器8にて分岐された高温・高圧の液冷媒が流量制御膨張弁6に供給され、そこで絞り膨張されて低温・低圧の冷媒になる。低温・低圧の冷媒になった冷媒は、リア側蒸発器7に送られ、そこで送風機10によって送られてきた車室内の空気との熱交換により蒸発される。蒸発された冷媒は、流量制御膨張弁6および内部熱交換器8を介して圧縮機1の入口に送られる。蒸発した冷媒が流量制御膨張弁6を通過するとき、その流量制御膨張弁6は、リア側蒸発器7の前後差圧を感知し、その差圧が給電された電流に対応する所定の差圧を維持するようにリア側蒸発器7に送り出す冷媒の流量を制御する。
【0015】
このように、フロント側のフロント側膨張弁4では、フロント側蒸発器5を出た冷媒が所定の過熱度になるようにフロント側蒸発器5に送り出す冷媒の流量を常に正確に制御して、圧縮機1の故障の原因となる液冷媒が圧縮機1に決して戻らないようにしているのに対し、リア側の流量制御膨張弁6では、フロント側膨張弁4のような正確な流量制御は要求されない。これは、この冷凍サイクルが内部熱交換器8を備えているためである。すなわち、たとえ流量制御膨張弁6がラフな流量制御をしたことによってリア側蒸発器7から蒸発し切れずに湿り分の多い冷媒が出されたとしても、そのような湿り分の多い冷媒は、圧縮機1の入口に到達する前に内部熱交換器8で完全に蒸発され、さらに過熱されるのである。このことから、高価な温度式膨張弁またはそれに電磁弁を一体にした電磁弁一体型膨張弁を用いなくても、構成が簡単で、非通電時には閉弁することができる安価な流量制御膨張弁6の使用が可能となるのである。次に、このような流量制御膨張弁6の具体例について説明する。
【0016】
図2は第1の実施の形態に係る流量制御膨張弁の非通電時の状態を示す断面図、図3は第1の実施の形態に係る流量制御膨張弁の特性を示す図である。
この第1の実施の形態に係る流量制御膨張弁21は、図1の流量制御膨張弁6に対応するもので、リア側蒸発器7の冷媒入口および冷媒出口に直接接続するような構成を有している。なお、リア側蒸発器7は、複数のアルミニウムのプレートを積層して構成され、そのヘッダ部分には、冷媒を導入する冷媒入口配管22および冷媒を導出する冷媒出口配管23を有している。冷媒出口配管23は、冷媒入口配管22を囲うように冷媒入口配管22と概略同軸に配置されて二重管構造になっている。そして、このリア側蒸発器7は、炉中ろう付け加工にて、積層されたプレートを同時に溶接することによって形成されるが、このとき、冷媒入口配管22および冷媒出口配管23も一緒に溶接されて一体に形成されている。
【0017】
流量制御膨張弁21は、図2の左右方向に延びる主円柱部24にこれに直交して図2の下方向に延びる副円柱部25が結合された外形を有するボディ26を備えている。副円柱部25は、内部熱交換器8の配管と接続される配管接続部を構成している。主円柱部24および副円柱部25は、それら三方の端面形状がそれぞれ二重管構造を有している。主円柱部24は、その中央に膨張弁の可動部が収容される中央孔が軸方向に貫通形成され、その中央孔の周囲にはリア側蒸発器7から導入された低圧冷媒を流す複数の通路が軸方向に貫通形成されている。そのため、好ましくは、このボディ26は、中央孔および複数の通路が中空押し出し加工によってあらかじめ形成された押し出し中空材を加工して三方に二重管構造を形成している。
【0018】
主円柱部24の中央孔の中ほどには、シャフトガイド27およびリング状の弁座28がかしめ加工によってボディ26に固定されている。その弁座28に対して接離自在に弁体29が配置されている。弁体29は、スプリング30によって閉弁方向に付勢されており、そのスプリング30は、主円柱部24のリア側蒸発器7側に形成された二重管の内管に圧入されたばね受け部材31によって受けられている。スプリング30の荷重は、二重管の内管に圧入されるばね受け部材31の内圧入量によって調整されている。
【0019】
弁体29は、弁座28およびシャフトガイド27を介して軸方向に延びる弁軸32と一体に形成されている。弁軸32の弁体29が形成されている側とは反対側の端部に筒状受圧部材33が外嵌され、その筒状受圧部材33よりも弁体29側の弁軸32にはシール用のOリング34が周設されている。筒状受圧部材33を収容している主円柱部24の中央孔である二重管の内管の内径は、弁座28の弁孔の内径に概略等しくしてあり、これによって、弁体29が高圧の圧力を開弁方向に受ける有効受圧面積とOリング34が高圧の圧力を閉弁方向に受ける有効受圧面積とが概略等しくなるので、弁体29が開弁方向に受ける高圧の圧力をOリング34が閉弁方向に受ける同じ圧力によってキャンセルするようにしている。
【0020】
主円柱部24のばね受け部材31が圧入されている側にて二重管構造に形成されたものの内管は、この流量制御膨張弁21の低圧冷媒出口35を構成し、その外周に形成された環状溝は、リア側蒸発器7から戻ってきた冷媒を受け入れる戻り低圧冷媒入口36を構成している。ここで、この流量制御膨張弁21の低圧冷媒出口35は、リア側蒸発器7の冷媒入口配管22に嵌合され、その嵌合部はOリングによってシールされている。また、流量制御膨張弁21の戻り低圧冷媒入口36は、リア側蒸発器7の冷媒出口配管23に嵌合され、先端部を全周かしめ加工することによってリア側蒸発器7と機械的に結合され、冷媒出口配管23との嵌合部は、Oリングによってシールされている。
【0021】
主円柱部24の中央孔におけるシャフトガイド27の設置空間は、副円柱部25に形成された二重管構造の内管が連通し、主円柱部24の中央孔の周りにその中央孔と平行に形成された通路は、副円柱部25に形成された内管と外管との間の空間に連通している。ここで、副円柱部25の内管は、高圧冷媒入口37を構成し、副円柱部25の内管と外管との間の空間は、この流量制御膨張弁21を通過した冷媒が圧縮機1の入口に戻される戻り低圧冷媒出口38を構成している。したがって、流量制御膨張弁21の高圧冷媒入口37は、レシーバ3からの高温・高圧の液冷媒が供給される高圧配管39が嵌合され、Oリングによってシールされている。また、流量制御膨張弁21の戻り低圧冷媒出口38は、戻り低圧配管40に嵌合され、先端部に内嵌したバックアップリング41を固定するようにその全周をかしめ加工することによって戻り低圧配管40と機械的に結合され、戻り低圧配管40との嵌合部は、Oリングによってシールされている。この実施の形態では、副円柱部25に接続される高圧配管39および戻り低圧配管40は、二重管構造になっているが、これが、図1の内部熱交換器8を構成している。
【0022】
このように、この流量制御膨張弁21は、リア側蒸発器7との接続を互いに同軸の二重管構造として外管の全周かしめ加工で行うようにしたことで、2つの流体の通路の接続を同時に行うことができ、しかも、リア側蒸発器7との接続が同軸であることから、リア側蒸発器7への接合前に、ボディ26は、低圧冷媒出口35および戻り低圧冷媒入口36の同心の軸を中心に回動できるので、高圧配管39および戻り低圧配管40が嵌合される高圧冷媒入口37および戻り低圧冷媒出口38の開口方向の向きを自由に変更することができる。
【0023】
主円柱部24のリア側蒸発器7と結合される側と反対側も二重管構造になっていて、その開口端は、ソレノイド42によって閉止されている。ソレノイド42は、コア43を有し、そのフランジ部は、二重管構造の外管を全周かしめ加工することによって主円柱部24に気密に結合されている。コア43には、弁軸32と同軸方向に伸びる有底スリーブ44の開口端が嵌合され、その有底スリーブ44の中にプランジャ45が配置されている。このプランジャ45は、コア43を貫通して弁軸32と同軸方向に伸びるシャフト46に固定され、そのシャフト46は、コア43に圧入して固定された軸受部47および有底スリーブ44の底部に形成された軸受部48によって軸方向に進退自在に保持されている。ソレノイド42は、また、有底スリーブ44の外側にコイル49が周設され、ヨーク50によって囲撓されている。したがって、この流量制御膨張弁21は、コイル49への通電がないときには、弁体29がスプリング30の付勢力によって弁座28に着座され、閉弁している。コイル49への通電があるときには、プランジャ45がコア43により吸引され、スプリング30の付勢力に抗してプランジャ45に固定されたシャフト46が弁体29と一体の弁軸32を開弁方向に押し、開弁させる。その弁体29のリフトは、コイル49に給電される電流の大きさによって決められる。
【0024】
以上の構成の流量制御膨張弁21において、フロント側の空調は行っているが、リア側の空調は停止しているとき、ソレノイド42のコイル49には給電されないので、図2に示したように、流量制御膨張弁21は閉弁している。つまり、自動車用空調装置は、フロント側の空調を行っているので、レシーバ3から内部熱交換器8の高圧配管39を通じて高温・高圧の液冷媒が高圧冷媒入口37に供給されているが、その高圧は、筒状受圧部材33を収容している主円柱部24の二重管の内管の内径を弁孔の内径と概略等しくしてあることによってキャンセルされているため、弁体29は、スプリング30の付勢力によって弁座28に着座し、閉弁していることになる。
【0025】
ここで、リア側の空調を行うためにソレノイド42のコイル49に通電されると、その通電電流の大きさに応じて弁体29がリフトし、流量制御膨張弁21は開弁する。これにより、レシーバ3から内部熱交換器8の高圧配管39を通じて高温・高圧の液冷媒が高圧冷媒入口37に供給されると、その液冷媒は、弁座28と弁体29との間の隙間を通って低圧冷媒出口35へ流出する。このとき、冷媒は、断熱膨張されて低温・低圧の気液混合冷媒となり、冷媒入口配管22を介してリア側蒸発器7へ導入される。なお、図中の矢印は、冷媒の流れ方向を示している。リア側蒸発器7では、導入された冷媒は、車室内の空気との熱交換により蒸発されて冷媒出口配管23から流出する。その冷媒は、戻り低圧冷媒入口36より導入され、複数の低圧冷媒の通路を通じて戻り低圧冷媒出口38へ流出し、戻り低圧配管40を介して圧縮機1の入口へ戻される。
【0026】
ここで、高圧配管39によって供給される冷媒の膨張弁入口圧力をPo、断熱膨張された冷媒の膨張弁出口圧力(蒸発器入口圧力)をPx、リア側蒸発器7から戻ってきた蒸発器出口圧力をPeとすると、弁体29には、閉弁方向に蒸発器入口圧力Pxが加わり、弁体29と一体の弁軸32および筒状受圧部材33には、開弁方向に蒸発器出口圧力Peが加わっている。したがって、弁体29、弁軸32および筒状受圧部材33の一体の組立体には、リア側蒸発器7の入口圧力と出口圧力との差圧(Px−Pe)が加わっているので、その組立体は、この流量制御膨張弁21で差圧(Px−Pe)を感知する差圧感知部を構成していることになる。
【0027】
流量制御膨張弁21がソレノイド42によって設定された所定の弁リフトにて冷媒をリア側蒸発器7に供給しているとき、リア側蒸発器7を通過する冷媒の流量が増加してリア側蒸発器7での圧力損失が増加すると、蒸発器前後差圧(Px−Pe)が大きくなるので、弁体29は閉弁方向に移動して流量を絞るように作用する。逆に、リア側蒸発器7を通過する冷媒の流量が減少して蒸発器前後差圧(Px−Pe)が小さくなると、弁体29は開弁方向に移動して流量を増やすように作用する。したがって、この流量制御膨張弁21は、リア側蒸発器7の入口と出口との圧力差を一定に制御することで、リア側蒸発器7に送り出される冷媒の流量を概略一定に制御するように作用する。また、その一定に制御しようとする差圧はソレノイド42によって設定されるので、この流量制御膨張弁21は、リア側蒸発器7を通過する冷媒の流量をソレノイド42によって設定される流量に概略一定に制御するものでもある。このため、流量制御膨張弁21は、図3に示したように、ソレノイド42のコイル49に通電される電流の大きさによって設定される蒸発器前後差圧(Px−Pe)を概略一定に制御する特性を有していることになる。しかも、その蒸発器前後差圧(Px−Pe)は、膨張弁入口圧力Poが背圧キャンセルされていることによって、膨張弁入口圧力Poの大きさには、何ら影響されることはない。
【0028】
なお、この流量制御膨張弁21を制御するためにソレノイド42のコイル49に通電される電流の大きさは、リア側の冷凍負荷の推定値に基づいて設定される。その冷凍負荷の推定値は、送風機9によってリア側蒸発器7に当てられる空気の温度および風量から求められる。空気の温度は、リア側蒸発器7の空気導入口近傍に設置された温度センサ12によって検出され、風量は、送風機9の駆動電流または電圧を検出するか、または、風量指定信号を検出することによって求められ、制御部11がこれらのデータを基に演算して冷凍負荷を推定し、それに対応する値の電流をソレノイド42のコイル49に供給することになる。これにより、流量制御膨張弁21は、リア側の冷凍負荷に応じた流量の冷媒をリア側蒸発器7に供給するように流量制御することになる。
【0029】
図4は第2の実施の形態に係る流量制御膨張弁の非通電時の状態を示す断面図である。なお、この図4において、図2に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0030】
この第2の実施の形態に係る流量制御膨張弁61は、第1の実施の形態に係る流量制御膨張弁21と比較して、蒸発器前後差圧(Px−Pe)を感知する差圧感知部の感度を上げるように変更している。すなわち、この流量制御膨張弁61は、二重管構造の外管にソレノイド42が取り付けられている側の内管に、これを塞ぐようにダイヤフラム62が気密に取り付けられている。このダイヤフラム62は、弁体29の有効受圧径よりも十分に大きな有効受圧径を有しており、その中央部を貫通する弁軸32に固定されている。この固定は、固定部材63,64がダイヤフラム62の中央部を挟持するように弁軸32に嵌合されることによって行われている。そして、ダイヤフラム62の蒸発器出口圧力Peを受圧する側と反対側に蒸発器入口圧力Pxが導入されるように、均圧孔65がボディ26に形成されている。また、固定部材63を収容しているボディ26の中央孔の内径は、弁座28の弁孔の内径に概略等しくして、膨張弁入口圧力Poをキャンセルする構成にしている。したがって、この流量制御膨張弁61の特性は、図3に示した特性と同じ特性を有している。
【0031】
この流量制御膨張弁61によれば、ダイヤフラム62のソレノイド42の側の面には、開弁方向に蒸発器出口圧力Peが加わり、それとは反対側の面には、閉弁方向に蒸発器入口圧力Pxが加わっている。このように、差圧感知部を大きくすることによって、圧力損失の小さなリア側蒸発器7であっても、差圧感知部は、蒸発器前後差圧(Px−Pe)を確実に捕らえて流量制御することができる。
【0032】
図5は第3の実施の形態に係る流量制御膨張弁の非通電時の状態を示す断面図、図6は第3の実施の形態に係る流量制御膨張弁の特性を示す図である。なお、この図5において、図4に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0033】
この第3の実施の形態に係る流量制御膨張弁71は、第1および第2の実施の形態に係る流量制御膨張弁21,61が膨張弁入口圧力Poをキャンセルする構成にしているのに対し、膨張弁入口圧力Poが高くなるに連れて開き易くなる特性にしている。つまり、この流量制御膨張弁71は、第2の実施の形態に係る流量制御膨張弁61とほとんど同じ構成を有しているが、膨張弁入口圧力Poを閉弁方向に受ける有効受圧面積が開弁方向に受ける有効受圧面積よりも小さくなっている。
【0034】
すなわち、ボディ26の中央孔に筒状のストッパ部材72を嵌合して、Oリング34が脱落しない構成にしている。これにより、膨張弁入口圧力Poを閉弁方向に受ける有効受圧面積は、弁軸32の断面積に等しく、弁体29が開弁方向に受ける有効受圧面積よりも小さくなる。したがって、この流量制御膨張弁71は、図6に示したように、膨張弁入口圧力Poが大きくなると、蒸発器前後差圧(Px−Pe)の開弁特性が大きくなるように設定される。もちろん、その特性の傾きは、弁体29の有効受圧面積と弁軸32の断面積との比を変更することによって変えることができる。
【0035】
図7は第4の実施の形態に係る流量制御膨張弁の非通電時の状態を示す断面図、図8は第4の実施の形態に係る流量制御膨張弁の特性を示す図である。なお、この図7において、図5に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0036】
この第4の実施の形態に係る流量制御膨張弁81は、第3の実施の形態に係る流量制御膨張弁71の開弁特性と逆の開弁特性を有するようにしている。すなわち、この流量制御膨張弁81は、弁座28の上流側に弁体29を配置し、その弁体29に、膨張弁入口圧力Poが常に閉弁方向に受けるようにしている。なお、ガイド82は、固定部材64とともにダイヤフラム62を挟持しながら弁軸32に固定し、かつ、弁軸32をその軸方向に進退可能にガイドしている。したがって、ガイド82は、ソレノイド42の側のボディ26において二重管構造になっている内管に摺動可能に配置されており、さらに、その円周部の一部に切り欠き部が設けられて弁座28の下流側の蒸発器入口圧力Pxがその切り欠き部を介してダイヤフラム62に正しく伝わるようにしてある。また、弁体29には、弁座28の対向面に柔軟性のある環状の弁シート83が保持されており、閉弁時の気密性を改善している。
【0037】
この流量制御膨張弁81によれば、ソレノイド42が非通電状態にあるとき、弁体29は、スプリング30によって弁座28に着座する方向に付勢され、膨張弁入口圧力Poによって同じく弁座28に着座する方向に付勢されているので、流量制御膨張弁81は全閉状態に保持されている。
【0038】
ソレノイド42の通電状態では、弁体29はソレノイド42への通電電流の大きさに応じてリフトされる。ここで、ダイヤフラム62による差圧感知部は、まず、蒸発器入口圧力Pxを閉弁方向に受け、蒸発器出口圧力Peを開弁方向に受けていて、それらの差圧(Px−Pe)が概略一定になるように弁体29を制御している。さらに、この差圧感知部は、弁体29と一体に動くように構成されており、その弁体29は、膨張弁入口圧力Poによって閉弁方向に付勢されているので、この流量制御膨張弁81は、図8に示したように、膨張弁入口圧力Poが大きくなると、蒸発器前後差圧(Px−Pe)の開弁特性が小さくなるように設定される特性を有していることになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。
【図2】第1の実施の形態に係る流量制御膨張弁の非通電時の状態を示す断面図である。
【図3】第1の実施の形態に係る流量制御膨張弁の特性を示す図である。
【図4】第2の実施の形態に係る流量制御膨張弁の非通電時の状態を示す断面図である。
【図5】第3の実施の形態に係る流量制御膨張弁の非通電時の状態を示す断面図である。
【図6】第3の実施の形態に係る流量制御膨張弁の特性を示す図である。
【図7】第4の実施の形態に係る流量制御膨張弁の非通電時の状態を示す断面図である。
【図8】第4の実施の形態に係る流量制御膨張弁の特性を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 圧縮機
2 凝縮器
3 レシーバ
4 フロント側膨張弁
5 フロント側蒸発器
6 流量制御膨張弁
7 リア側蒸発器
8 内部熱交換器
9 送風機
10 送風機
11 制御部
12 温度センサ
21 流量制御膨張弁
22 冷媒入口配管
23 冷媒出口配管
24 主円柱部
25 副円柱部
26 ボディ
27 シャフトガイド
28 弁座
29 弁体
30 スプリング
31 ばね受け部材
32 弁軸
33 筒状受圧部材
34 Oリング
35 低圧冷媒出口
36 戻り低圧冷媒入口
37 高圧冷媒入口
38 戻り低圧冷媒出口
39 高圧配管
40 戻り低圧配管
41 バックアップリング
42 ソレノイド
43 コア
44 有底スリーブ
45 プランジャ
46 シャフト
47,48 軸受部
49 コイル
50 ヨーク
61 流量制御膨張弁
62 ダイヤフラム
63,64 固定部材
65 均圧孔
71 流量制御膨張弁
72 ストッパ部材
81 流量制御膨張弁
82 ガイド
83 弁シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発器に送り出す冷媒の流量を概略一定に制御する流量制御膨張弁において、
冷媒入口配管が冷媒出口配管の内側に概略同軸配置されて二重管構造になっている前記蒸発器に接続するように第1内管および第1外管が概略同軸配置の二重管構造に形成された一端を有する主円柱部およびこの主円柱部に直交する方向に延出された配管接続部を有するボディと、
前記主円柱部の他端側に前記第1外管と連通するように形成された二重管構造の第2外管を気密に閉止するように前記主円柱部に結合されたソレノイドと、
前記主円柱部の一端側の前記第1内管と他端側の第2内管との間に軸方向に形成される空間にて前記配管接続部の高圧入口と前記主円柱部の前記第1内管との間の通路を開閉するように収容され、前記ソレノイドの非通電時に閉弁され、通電時には、通電電流の大きさに応じて弁リフトする弁部と、
前記第1内管内の蒸発器入口圧力と前記第2外管内の蒸発器出口圧力との差圧を感知し、前記ソレノイドの通電時に開弁されている前記弁部を前記差圧が大きくなる方向の変化に対し閉弁方向に作用させることにより、前記第1内管から前記蒸発器に送り出される冷媒の流量を概略一定に制御する差圧感知部と、
を備えていることを特徴とする流量制御膨張弁。
【請求項2】
前記ボディは、前記配管接続部が前記高圧入口となる第3内管と前記第1および第2外管と連通する第3外管とを概略同軸配置の二重管構造に形成され、高圧側の液冷媒と圧縮機への戻り冷媒との間で熱交換をする二重管構造の内部熱交換器と直接接続できるようにしたことを特徴とする請求項1記載の流量制御膨張弁。
【請求項3】
前記弁部は、弁座の下流側に配置された弁体と、この弁体から弁座を介して軸方向に延出された弁軸と、この弁軸の前記弁体が設けられている側とは反対の側の端部に設けられ前記弁体の有効受圧面積と概略等しい有効受圧面積を有して前記高圧入口の圧力をキャンセルする受圧部材と、前記弁体を閉弁方向に付勢するスプリングとを有し、前記弁体に対して閉弁方向に前記蒸発器入口圧力を受け、前記受圧部材に対して開弁方向に前記蒸発器出口圧力を受けるようにして、前記弁体、前記弁軸および前記受圧部材の組立体を前記差圧感知部として機能させていることを特徴とする請求項1記載の流量制御膨張弁。
【請求項4】
前記弁部は、弁座の下流側に配置された弁体と、この弁体から弁座を介して軸方向に延出された弁軸と、この弁軸の前記弁体が設けられている側とは反対の側に設けられ前記弁体の有効受圧面積と概略等しい有効受圧面積を有して前記高圧入口の圧力をキャンセルする受圧部材と、前記弁体を閉弁方向に付勢するスプリングとを有し、
前記差圧感知部は、中央部が前記弁軸に固定され、前記弁体が配置されている側の面に前記蒸発器入口圧力を受け、前記弁体が配置されている側とは反対の側の面に前記蒸発器出口圧力を受けるダイヤフラムを有していることを特徴とする請求項1記載の流量制御膨張弁。
【請求項5】
前記弁部は、弁座の下流側に配置された弁体と、この弁体から弁座を介して軸方向に延出された弁軸と、この弁軸の前記弁体が設けられている側とは反対の側に設けられ前記弁体の有効受圧面積より小さい有効受圧面積を有して前記高圧入口の圧力を開弁方向により多く作用させる受圧部材と、前記弁体を閉弁方向に付勢するスプリングとを有し、
前記差圧感知部は、中央部が前記弁軸に固定され、前記弁体が配置されている側の面に前記蒸発器入口圧力を受け、前記弁体が配置されている側とは反対の側の面に前記蒸発器出口圧力を受けるダイヤフラムを有していることを特徴とする請求項1記載の流量制御膨張弁。
【請求項6】
前記弁部は、弁座の上流側に配置された弁体と、この弁体から弁座を介して軸方向に延出された弁軸と、前記弁体を閉弁方向に付勢するスプリングとを有し、
前記差圧感知部は、中央部が前記弁軸に固定され、前記弁体が配置されている側の面に前記蒸発器入口圧力を受け、前記弁体が配置されている側とは反対の側の面に前記蒸発器出口圧力を受けるダイヤフラムを有していることを特徴とする請求項1記載の流量制御膨張弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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