説明

浄水処理方法

【課題】 河川や湖沼等において従来よりも安全でかつ目詰まりせずに継続して高い浄水効果が得られる浄水処理方法を提案する。
【解決手段】 吸引手段2によって河川や湖沼等の原水域から被処理水を吸引し、吸引された前記被処理水を濾過手段の濾過材3aに保持された好気性生物により生物処理することで濾過し、所定のタイミングで逆洗手段5が逆洗により前記濾過材3aから前記好気性生物を剥離させるとともに取り込んだ大気により前記好気性生物に酸素を与えて、排出手段4が剥離され酸素を与えられた前記好気性生物を原水域に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や湖沼等から吸引した被処理水を濾過して濾物を生物処理することにより浄水する浄水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市街地を流れる河川や湖沼等には、水の流れが停滞している場所がある。そこに市街地からの生活排水が流入することにより富栄養化が進み、アオコ等の藻類やヘドロ等の汚泥物質が蓄積され、更には悪臭が発生し、大きな環境問題となっている。この対策として、バクテリアの投入や水生植物の育成、貝の放流等が行われているが、顕著な効果は得られていない。
かかる状況に鑑み、近年は、河川や湖沼等の水を生物処理して濾過することにより浄水する浄水処理装置が開発されている。例えば、下記特許文献1と2には、水中曝気ポンプにより揚水した揚水中に気泡化させた大気を混合させ、噴出落下させて波立作用を行う閉塞性水域の浄化装置が開示されている。この浄化装置は、いわゆる噴水装置であり噴水の際に大気を取り込むことで、閉塞性水域の溶存酸素量を増加させるものである。また、この浄化装置には、アクリル長繊維の濾過材が備わっている。下記特許文献3には、夾雑物除去漕と嫌気濾床槽と生物濾過槽とを備え、合成樹脂性中空濾過材を用いて、該濾過材の目詰まり防止のために、濾過材を曝気して付着した汚泥や余剰な微生物を取り除く逆洗が行われており、逆洗後の逆洗水には濾過材から剥離した汚泥や微生物が含まれるが、この逆洗水は浄水処理装置内の各槽を循環させることで浄水されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2814349号公報
【特許文献2】特開2003−340489号公報
【特許文献3】特開2003−279536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、河川や湖沼等の水には有害物質や有害微生物を含んでいる場合があり、上記特許文献1と2記載の浄化装置では、例えばレジオネラ菌等の有害な雑菌が噴水にて、空中飛散されてしまい、付近の住民への健康に悪影響を及ぼすという問題がある。また、アクリル長繊維の濾過材は目詰まりしやすく、浄化装置の濾過材を頻繁に交換するなど浄化装置の品質維持に多大な労力を要する。上記特許文献3の浄化装置は、河川や湖沼等の水を浄水処理装置まで引いて浄水処理するため、設備が大掛かりとなり現実的でない。
【0005】
そこで本発明の目的は、河川や湖沼等において従来よりも安全でかつ目詰まりせずに継続して高い浄水効果が得られる浄水処理方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の浄水処理方法は、吸引手段によって河川や湖沼等の原水域から被処理水を吸引し、吸引された前記被処理水を濾過手段の濾過材に保持された好気性生物により生物処理することで濾過し、濾過された前記被処理水を排出手段によって排出する浄水処理方法であって、
所定のタイミングで逆洗手段が逆洗により前記濾過材から前記好気性生物を剥離させるとともに取り込んだ大気により前記好気性生物に酸素を与えて、剥離され酸素を与えられた前記好気性生物を前記排出手段が原水域に排出することを特徴とする。
また、本発明は、前記原水域に排出された前記好気性生物によって前記原水域中に沈殿している汚泥を生物処理して水中に浮遊させ、浮遊させた汚泥を前記吸引手段により吸引し、吸引した汚泥を前記濾過材に保持された好気性生物によって生物処理するという一連のサイクルにより前記原水域を浄水処理することを特徴とする。
本発明の浄水処理方法を適用した浄水処理装置は、河川や湖沼等の原水域に配された浄水槽から被処理水を吸引する吸引手段と、前記吸引手段により吸引した被処理水を濾過するとともに濾過材に保持された好気性生物により濾物を生物処理する濾過手段と、前記濾過手段により濾過された被処理水を排出する排出手段と、前記濾過材収納空間に配されて大気を取り込んで前記濾過手段の濾過材を逆洗する逆洗手段とを備え、前記濾過手段と排出手段とが円筒形状の浄水槽に収納されており、前記排出手段は、前記濾過手段により濾過された被処理水の流路となる排水管が円筒形状の浄水槽の水平断面において放射線状に配置されており、前記原水域の被処理水が、前記浄水槽の側面に設けられた小孔から流入し、前記濾過手段で濾過された後に、収納容器の孔を通って収納容器内に流入し、収納容器内に設けられた吸引ポンプによって吸引されて、排水管によって原水域の水中に排出される構成とされ、前記逆洗手段による逆洗により前記濾過材から前記好気性生物を剥離させるとともに取り込んだ大気により前記好気性生物に酸素を与えて前記原水域に排出することが好ましい。
【0007】
この発明によれば、吸引手段により河川や湖沼等の原水域から吸引された被処理水は濾過手段により濾過された後に排出手段により排水され、濾物は濾過材に保持される生物により生物処理される。逆洗時には、濾過材から生物が剥離されて河川や湖沼等の原水域に排出される。これにより、浄水処理装置内では濾過手段による浄水処理が行われ、浄水処理装置外では逆洗により排出された生物による生物処理が行われ、浄水処理装置内外の処理が相俟って高い浄水効果が得られる。更に、原水域中に沈殿している汚泥等は、逆洗により原水域に排出された生物によって生物処理され、粘着力が衰えて水中に浮遊する。浮遊した汚泥等は吸引手段により浄水処理装置に吸引されやすく、浄水効率が高まる。吸引された汚泥等は浄水処理装置内の生物の餌となって増殖を促進させ、その結果、逆洗により排出される生物も増加し、この一連のサイクルにより浄水処理装置内外で非常に高い浄水効果が得られる。ここで、生物は細菌・原生動物・藻類などの微生物(バクテリア)であることが好ましい。
【0008】
本発明の浄水処理方法を適用した浄水処理装置は、前記濾過手段と排出手段は円筒形状の浄水槽に収納されており、前記排出手段は、前記濾過手段により濾過された被処理水の流路となる排水管が円筒形状の浄水槽の水平断面において放射線状に配置されていることが好ましい。前記排出手段の排水管は円筒形状の浄水槽の水平断面において放射線状に配置されているため、水中において浄水処理装置の姿勢を安定させることができる。被処理水は放射線状に排出されるため、被処理水の排出によってもバランスが崩されることはなく、安定姿勢が維持される。浄水処理装置は、上部に円形状の浮き(フロート部)が取り付けられ、河川や湖沼等の原水域に配置されて浮かばせて使用することが好ましい。河川や湖沼等の原水域では、水底がぬかるんでいるが、当該浄水処理装置を浮かばせて使用することで、水底の状態によらず、当該浄水処理装置を水平に保つことができる。また、当該浄水処理装置を浮かばせることで、目的の場所に移動させやすい。
【0009】
前記生物は好気性生物であり、前記逆洗手段は大気を取り込んで前記濾過材を逆洗する。大気は通常の空気であれば足りるが、好気性生物の生息や増殖に適するように調整された調整ガスでもよい。この発明によれば、濾過材に保持される生物は好気性生物であり、逆洗手段により大気が排出されるため、逆洗により濾過材の目詰まりを防止すると同時に浄水処理装置内の溶存酸素を増加させて生物の生息環境を整えることができる。浄水処理装置外にも酸素が供給され、原水域中での生物処理も促進される。
【0010】
前記濾過材は、表面にひだを有する粒状体であることが好ましい。この発明によれば、濾過材が互いに接触しても、ひだの間に保持された生物は濾過手段から剥離することがなく、生物が安定して保持され、ひだの間にて生物の増殖が促進される。逆洗時には逆洗のために排出される空気等がひだに沿って流れるため、増殖した生物を濾過材から効率よく剥離・排出させることができる。排出した後はひだの間にて生物の増殖が促進されて、浄水処理装置内での生物処理能力が早急に回復し、このサイクルにより高い浄水効果を得ることができる。
【0011】
本発明の浄水処理方法は、河川や湖沼等の原水域から被処理水を浄水処理装置に吸引し、当該浄水処理装置が備える濾過手段により被処理水を濾過するとともに濾過材に保持される生物により濾物を生物処理し、前記濾過手段により濾過された被処理水を浄水処理装置外に排出し、所定のタイミングにて前記濾過材を逆洗する浄水方法であり、前記逆洗に際して生物を濾過材から剥離させるとともに前記原水域に排出する。
【0012】
この発明によれば、原水域から吸引した被処理水を濾過手段により濾過して排出するとともに、濾過材に保持される生物により濾物を生物処理する一連の処理の間の所定のタイミングで濾過手段を逆洗する。逆洗に際しては、濾過材から生物を剥離させ、原水域に排出する。これにより、浄水処理装置内では濾過手段により浄水処理が行われ、浄水処理装置外では逆洗時に排出された生物によって浄水処理が行われ、高い浄水効果が得られる。さらに、原水域の汚泥等は排出された生物の生物処理により粘着力が衰えて浮遊し、浄水処理装置に吸引されやすくなり、浄水効率が高められる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の浄水処理方法を適用した浄水処理装置によれば、浄水処理装置内で濾過手段による浄水処理が行われ、浄水処理装置外では排出された生物(バクテリア)により汚泥等が生物処理され、浄水処理装置内外の処理が相俟って高い浄水効果が得られる。さらに、排出された生物の生物処理により原水域に付着する汚泥等は粘着力が弱まって浮遊し、浄水処理装置に吸引されやすくなり、高い浄水効率が得られる。吸引した汚泥等により浄水処理装置内の生物が増殖し、増殖した生物は逆洗により原水域に排出されて生物処理に供され、このサイクルにより河川や沼等の原水域において非常に高い浄水効果が得られる。つまり、本発明は、単なる浄水処理方法に留まらず、生物(バクテリア)の培養方法を兼ねており、いわば自然界の貝と同様の働きをすることで、従来よりも安全でかつ目詰まりせずに継続して高い浄水効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の浄水処理方法を適用した浄水処理装置Sについて詳細に説明する。図1は、浄水処理装置Sの内部構造を示す正面図であり、図2はその上面図であり、図3はその斜視図である。浄水処理装置Sは、河川や湖沼等の原水域の水を浄水する浄水処理装置である。この浄水処理装置Sは、原水域にて水中に一部又は全体が沈められるように使用されるものであり、浄水処理を行う浄水部Cと、浄水部Cの上方に配置されて浄水処理装置Sに浮力を与えるフロート部Fを備える。
【0015】
浄水部Cは、吸引手段2、濾過手段3、排出手段4、逆洗手段5を備え、これらが浄水槽1に収納されている。
【0016】
浄水槽1は、底部1aと側部1bとを備える円筒形状の容器であり、側部1bには複数の小孔1cが設けられている。
【0017】
吸引手段2は、原水域から被処理水を吸引する機能を備える。吸引手段2としては、浄水槽1内に収納して使用する観点から、水中でも稼動可能な水中ポンプPが好ましい。吸引手段2は、複数の小孔6aが設けられた円筒形状の収納容器6内に収められて浄水槽1内に配置され、浄水槽1の小孔1cと収納容器6の小孔6aを介して原水域から被処理水を吸引可能となっている。吸引手段2の配置ポジションは任意であるが、浄水槽1の底部1aの略中央付近として、浄水処理装置Sを水中に設置したときにバランスを維持することが好ましい。なお、水中ポンプPを用いない場合は、水の外にポンプ本体を配置し、ポンプと接続される配管の吸引口を浄水槽1内に設置して、被処理水を吸引するようにすることができる。
【0018】
濾過手段3は、吸引手段2により吸引した被処理水を濾過材3aにより濾過するとともに、濾過材に保持された生物により濾物を生物処理する機能を備える。本実施の形態では、濾過手段3は、浄水槽1内部、詳しくは浄水槽1と収納容器6との間隙によって形成される濾過材収納空間7に充填された粒状の複数の濾過材3a,,,3aにより構成されている。濾過材3aは被処理水を濾過可能な程度の密度で濾過材収納空間7に充填されており、被処理水が濾過材3aの間隙を通過することにより濾物が濾過されるようになっている。
【0019】
粒状の濾過材3aは、生物を保持可能であれば、生物を担持可能な空孔を有する担体であっても良いし、生物を表面に吸着保持する吸着体であっても良い。また、濾過材3aの材料としては、材料密度が大きくて比表面積を大きくできるものであれば、合成樹脂、木炭、サンゴ砂等の何れでも良く、その形状は、円柱状、円筒状、球状、多孔質形状等の何れの形状でも良い。
【0020】
図4は、濾過材3aを示す図である。濾過材3aの形状として、好ましくは、保持する生物の定着性や剥離性を両立可能な観点から、粒状体の表面に褶曲したひだ3bを有する粒状体であることが好ましい。このひだ3bは合成樹脂からなる濾過材3aを螺旋状に形成することで形成されているので、頑丈でありながら比表面積を大きくすることができる。
【0021】
濾過材3aは、濾過手段3に吸引された被処理水が接触するように、浄水槽1の小孔1cと収納容器6の小孔6aの間、すなわち吸引された被処理水の流路途中に配される。
【0022】
濾過材3aには、原水に対して好適な浄水作用を発揮する生物が保持されている。この生物は、例えば、細菌・酵母・原生動物・菌類・藻類等の微生物であり、あらかじめ、浄水の対象となる原水が採取・分析され、原水に好適な生物処理を行う生物が適宜選択されている。生物は、浄水作用を有するものであればよく、後述する逆洗が通常の空気により行われる場合は好気性であることが好ましい。
【0023】
排出手段4は、濾過手段3により濾過された被処理水を原水域に排出する機能を備える。排出手段4は、吸引手段2と共用の水中ポンプPと排水管4aを備える。排水管4aは、一端が水中ポンプPの排出側と接続され、他端が浄水槽1の外部に引き出され、被処理水を浄水処理装置S外に排出可能としている。排出手段4は、浄水処理装置Sが水中でも安定姿勢を保ち、又、被処理水を排水したときにもその姿勢を崩すことがないように配置され、バランス調整の機能も果たしている。その配置は浄水処理装置Sの構成に応じて適宜設計すれば良い。例えば、本実施の形態の浄水処理装置Sのように他の構成によってほぼ均衡がとれている場合、水中ポンプPは浄水槽1の底部1aの略中央付近に配置し、排水管4aは水中ポンプPから垂直に引き出し、途中で複数本に分岐させ、分岐先は水平断面において放射線状に配することが好ましい。本実施の形態では、排水管4aは二つに分岐しており、被処理水は二方向に排出されるようになっているが、分岐先を三本やそれ以上としても良い。
【0024】
逆洗手段5は、気体や液体を排出することにより濾過材3aを逆洗する機能を備える。本実施の形態の逆洗手段5は、気体を排出するものであり、エアポンプ5aと、エアポンプ5aの吸引側に接続される吸引側配管5bと、エアポンプ5aの排出側に接続される排出側配管5cとを備える。吸引側配管5bの吸引口は浄水槽1外に引き出され、排出側配管5cの排出口は濾過材収納空間7の任意の箇所に配置されている。エアポンプ5aを駆動すると、吸引側配管5bの吸引口から気体が吸引され、排出側配管5cの排出口から排出され、濾過材3aが曝気されて逆洗される。排出された気体は上方に向かうため、排出口は濾過材収納空間7の下方側に配することが好ましい。排出口を複数配置して濾過材3aを満遍なく逆洗するようにしても良い。
【0025】
濾過材3aに保持される生物が好気性である場合は、逆洗手段5から排出される気体は通常の空気であることが好ましい。吸引側配管5bの吸引口を大気中に配置して大気を取り込んで用いる。大気は通常の空気であれば足りるが、生物に好適となるように調整された調整ガスを準備し、その調整ガスを入れたガスボンベに吸引口を接続して調整ガスを用いる構成でも良い。これにより、逆洗するとともに好気性生物に酸素を与えることができる。
【0026】
これらの構成を備える浄水部Cの上側にはフロート部Fが設けられている。フロート部Fは、内側の空間に空気が溜められて浄水処理装置Sに浮力を与える機能を果たすとともに、浄水部Cのキャップの機能も果たす。このフロート部Fは、一方に開口する略半球状の枠体であり、浄水槽1の開口側に嵌合させて取り付けられている。フロート部Fは着脱自在であり、取り外すと浄水部C内部の修理や交換時を容易に行うことができ、取り付けると浄水部Cの上方開口を塞ぐとともに内側の空間の大気により浄水処理装置Sに浮力を与えることができる。
【0027】
(使用態様)
この浄水処理装置Sは、次のように使用される。図5は、浄水処理装置Sの使用態様を説明する説明図である。浄水処理装置Sは、河川や湖沼等の原水域において水中に浮かべて使用される。浄水処理装置Sを原水域に投入すると、浄水処理装置Sは、フロート部Fの浮力により、水面Wより下に浄水部Cが位置する程度の水深で浮かんだ状態となり、水底Kより上に浮かぶ。浄水処理装置S全体が水中に沈むようにしても良く、水底K近くまで沈めても良く、どの程度の水深に位置させるかは、原水域の状況に応じて調整すれば良い。水面W付近に浮かべて水深の浅い領域から序々に水深の深い領域へ浄水作用を促して、空気中に臭気を発したり水面Wを汚泥で汚したりすることなく穏やかに浄水処理を進めるようにしても良い。また、浄水処理装置Sは、水中に浮かべることで、容易に目的の場所に移動させることができ、例えばワイヤー(綱)などにより係留させることができる(図示せず)。
【0028】
吸引手段2を駆動すると、浄水槽1の小孔1cから被処理水が吸引される。吸引手段2として水中で使用可能な水中ポンプPを用いると、原水域の外にポンプを配置して被処理水を原水域外に汲み上げる場合と比較して、吸引力が小さくて済み、低消費電力化が図られる。原水域から吸引された被処理水は濾過材収納空間7に流入し、濾過材3aにより濾過され、水中ポンプPにより排水管4aに送られ原水域に排水される。水中では、排水の減衰が少ないため、従来の噴水方式に比べて広範囲に排水することができる。排水管4aは浄水処理装置Sの安定姿勢を維持するように放射線状に配置されているため、排水による水圧によっても浄水処理装置Sが傾斜したり揺動したりして姿勢を崩すことがなく、濾過材3aの偏りや、逆洗手段5の吸気管5bの配置の乱れが防止される。濾過により濾過材収納空間7に残存した濾物は濾過材3aに保持される生物により生物処理されて分解される。生物は濾物中の有機物を分解しながら増殖を続ける。
【0029】
浄水処理装置Sは、所定のタイミングで逆洗手段5により逆洗を行う。逆洗のタイミングは、原水域の状況に応じて適宜設定すればよいが、おおよそ1日数回から十数回程度である。本実施の形態では、エアポンプ5aの稼働により、大気が吸引側配管5bの吸引口から吸引されて排出側配管5cの排出口から排出される。排出された大気は濾過材3aを曝気して逆洗する。逆洗により、濾過材3aから過剰な生物や付着物が剥離され、濾過材3aの目詰まりが防止されるとともに、剥離された生物が浄水槽1の小孔1cから浄水処理装置Sの外、すなわち原水域に排出される。
【0030】
原水域の水中では、逆洗により排出された生物により汚泥等が生物処理される。これにより水中の有機物が分解され、原水域の水中における浄水処理が促進される。浄水処理装置S内での浄水処理に加え、原水域では浄水処理装置Sから排出された生物によって浄水処理がなされ、浄水処理装置S内外の処理が相俟って高い浄水効果が得られる。また、汚泥等は粘着質であり原水域に付着しているため、このままでは浄水処理装置Sに吸引されにくい。浄水処理装置Sによれば、排出された生物の生物処理により原水域中に付着する汚泥等の分解が進むと、汚泥等は粘着力が弱まって水中に浮遊し、浄水処理装置Sに吸入されやすくなる。このサイクルにより相乗効果が生じ、非常に高い浄水効果が得られる。
【0031】
生物が好気性の場合、逆洗手段5は、濾過材3aに保持される生物に酸素を供給するエアレーションの機能も果たす。濾過材3aに保持される生物は逆洗により排出されて乏しくなるが、同時に酸素が供給されて増殖が促進され、浄水能力の回復が早められる。原水域中では、逆洗により酸素が供給されて生物の生息環境も改善されて、更に浄水効果が高められる。排出される気体は大気に限定するものではなく、生物に適するように調整された酸素含有ガスとしても良い。この場合は、予め調整した酸素含有ガスや酸素含有溶液が入ったボンベを準備し、逆洗手段5の吸気口を接続する。なお、逆洗手段5は、気体を排出するものに限らず、例えば酸素を溶融させた酸素含有液体を排出することにより逆洗するものでも良い。
【0032】
また、濾過材3aとして表面にひだ3bを有する粒状ものを用いた場合、生物の保持及び剥離の両方の面で有効である。すなわち、逆洗時には逆洗手段5から排出される気体や液体がひだに沿って流れ、繁殖した生物を濾過材3aから効率良く剥離させることができる。そして、逆洗以外のときは濾過材3aが互いに接触してもひだの間に保持される生物は濾過材3aから剥離することがなく、生物が安定して保持される。これにより、逆洗時には生物が効率よく原水域に排出されて、浄水処理装置S外での浄水処理効果が高められ、排出した後はひだの間にて生物の増殖が促進されて、浄水処理装置S内での生物処理能力が早急に回復し、このサイクルにより高い浄水効果を得ることができる。このひだ3bは合成樹脂からなる濾過材3aを螺旋状に形成することで形成されているので、頑丈でありながら比表面積を大きくすることができる。
【0033】
(実施例1)
一昨年夏頃、大阪市内の人工河川A(掘割)に、試験的に本発明の浄水処理方法を適用した浄水処理装置S1を設置して水質改善の様子を観察した。図6は、浄水処理装置S1の外観写真である。この浄水処理装置S1の本体は強化プラスチック(FRP)製であり、直径1.4m、高さ0.9mである。図7は、浄水処理装置S1を人工河川(掘割)に浮かべて配置した写真である。この人工河川(掘割)の水深は、平均2.5m、堆積したヘドロの深さは、平均0.3mを超えている。
【0034】
この浄水処理装置S1では、水中ポンプPによる吸水と排水は24時間連続運転を行い、大気を取り込む逆洗は2時間毎に0.5時間運転を行なった。逆洗の頻度と逆洗時間は、原水域の汚れ具合や水源の大きさなどにより適宜設計(設定)するものであるが、今回は、生ゴミ処理装置での経験を参考にして上記設計値とした。この水中ポンプPによる排水は、約15m先まで水を運ぶことができるので、浄水処理装置S1を人工河川(掘割)の片側に設置すれば、反対側の岸まで水を循環させることも可能である。
【0035】
図8は、浄水処理装置S1の付近の水質を観察した写真である。図8(a)は設置直後の写真であり、アオコにより遮光され河川が深緑色となり水中が全く見えない。図8(b),(c)は、設置から45日後の写真であり、浄水がすすみ、河川が澄んでいるので、図8(b)では水中にある浄水処理装置S1の底部が見えており、また、図8(c)では水中を泳ぐ魚の姿がはっきり見える。この状態で堆積したヘドロの深さは、平均0.1m程度となり、1/3以下に改善された。
【0036】
(実施例2)
一昨年末から昨年初めにかけて、大阪市内の人工河川B(掘割)に、試験的に本発明の浄水処理装置S1を3台設置して、水底地形の変化を調査した。便宜上、これら浄水処理装置をS1,S2,S3として以下に説明する。図9は、浄水処理装置S1,S2,S3を人工河川Bに設置した状態を示す上面図である。人工河川Bは、両側に護岸Wa,Wbを備えており、進行方向yの方向に(図9では左側から右側に向かって)河川水Wが流れている。人工河川Bには、高架道路の橋脚h11〜h32が並んでおり河川水Wの淀みが生じやすい。浄水処理装置S1とS2とS3は護岸Waから河川の中央に向かって約1mの位置に係留されており、フロート部Fにより浄水処理装置の一部が浮かんでいる(図示せず)。浄水処理装置S1とS2,S2とS3の間隔Lは、約7mである。護岸Waから1m内側に配置された浄水処理装置S1とS2とS3を結ぶライン(図9に一点鎖線で示すライン)A1−A1線断面での水底地形を測定して断面観察した(図10)。また、A1−A1線と平行、かつ、護岸Waから2m内側のA2−A2断面での水底地形を測定して断面観察した(図11)。さらに、A1−A1線と平行、かつ、護岸Waから3m内側のA3−A3断面での水底地形を測定して断面観察した(図11)。図10は、図9のA1−A1線断面での水底地形を測定して断面観察した水底地形断面図であり、図10(a)は装置設置前の水底地形断面図であり、図10(b)は設置直後の水底地形断面図であり、図10(c)は設置から1週間後の水底地形断面図であり、図10(d)は設置から3週間後の水底地形断面図であり、図10(e)は設置から7週間後の水底地形断面図であり、図10(f)は装置撤去から3週間後の水底地形断面図である。図11は、図9のA2−A2線断面での水底地形を図10と同時期に測定して断面観察した水底地形断面図である。図12は、図9のA3−A3線断面での水底地形を図10と同時期に測定して断面観察した水底地形断面図である。
【0037】
図10(a)は装置設置前の水底地形断面図である。水底地形断面図の縦軸は水深を表しており、横軸はA1−A1線を表している。横軸の上端の目盛は1m間隔に付けている。図中に橋脚h21を位置の目安として、点線で示している。水底地形断面図は、上から順に、河川水W、スラリー状の流動性泥(ヘドロ)K1(濃色で表示)、堆積泥K2(淡色で表示)の順に表示されている。流動性泥(ヘドロ)K1は、密度ρが1.2〜1.4(g/cm3)の泥層であり、堆積泥K2は、密度ρが1.4以上(g/cm3)の層である。
【0038】
水底地形断面図を表すために、RIコーン(Radio Isotope Cone)により水底質密度測定を行い、その測定結果にもとづき作製した探索重錘に付けた糸の繰り出し量にて、堆積泥K2の位置を測定した。また、周波数200kHzの音響測深機により、流動性泥(ヘドロ)K1の位置を測定した。
【0039】
浄水処理装置S1,S2,S3設置前の水底地形断面図(図10(a))では、流動性泥(ヘドロ)K1の層の厚みは、およそ1mあるが、浄水処理装置S1,S2,S3設置から1週間後の水底地形断面図(図10(c))では、流動性泥(ヘドロ)K1の層の厚みは、当初の1/2から1/3に減少し、さらに、時間経過とともに流動性泥(ヘドロ)K1の層の厚みの減少が見られる(図10(d),図10(e))。図10での流動性泥(ヘドロ)K1の層の厚みの減少傾向は、図11と図12でも同様である。いっぽう、浄水処理装置S1,S2,S3撤去から3週間後の水底地形断面図では、流動性泥(ヘドロ)K1の層の厚みが装置撤去前に比べて、若干増加しているように見える(図10(f)等)。このことから、浄水処理装置S1,S2,S3の浄水作用により、広い範囲で流動性泥(ヘドロ)K1の層の厚みが減少することが確認できた。
【0040】
本発明は、河川や湖沼等での使用が好適であるが、観賞魚や養殖魚の飼育槽等の人工的環境や、様々な環境の浄水に適用可能である。また、本発明は、バクテリアの培養装置としての応用も可能である。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態の浄水処理装置の内部構造を示す正面図である。
【図2】上記実施の形態の浄水処理装置の内部構造を示す上面図である。
【図3】上記実施の形態の浄水処理装置の内部構造を示す斜視図である。
【図4】表面にひだを有する濾過材の斜視図である。
【図5】本発明の一実施の形態の浄水処理装置の使用態様を説明する説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態の浄水処理装置の外観を示す外観写真である。
【図7】上記実施の形態の浄水処理装置を人工河川Aに設置した状態を示す外観写真である。
【図8】上記実施の形態の浄水処理装置付近の水質を観察した外観写真であり、図8(a)は、設置直後の外観写真であり、図8(b),(c)は、設置から45日後の外観写真である。
【図9】上記実施の形態の浄水処理装置を人工河川Bに設置した状態を示す上面図である。
【図10】図9のA1−A1線断面での水底地形を測定して断面観察した水底地形断面図であり、図10(a)は装置設置前の水底地形断面図であり、図10(b)は設置直後の水底地形断面図であり、図10(c)は設置から1週間後の水底地形断面図であり、図10(d)は設置から3週間後の水底地形断面図であり、図10(e)は設置から7週間後の水底地形断面図であり、図10(f)は装置撤去から3週間後の水底地形断面図である。
【図11】図11は、図9のA2−A2線断面での水底地形を図10と同時期に測定して断面観察した水底地形断面図である。
【図12】図12は、図9のA3−A3線断面での水底地形を図10と同時期に測定して断面観察した水底地形断面図である。
【符号の説明】
【0042】
S S1 S2 S3 浄水処理装置、C 浄水部、F フロート部、
1 浄水槽、1a 浄水槽の底部、1b 浄水槽の側部、1c 浄水槽の孔、
2 吸引手段、P 水中ポンプ、
3 濾過手段、3a 濾過材、3b 濾過材表面のひだ、
4 排出手段、4a 排水管、
5 逆洗手段、5a エアポンプ、5b 吸引側配管、5c 排出側配管、
6 収納容器、6a 収納容器の孔、
7 濾過材収納空間、
W 河川水、Wa Wb 護岸、W1 水面、
K 水底、K1 流動性泥(ヘドロ)、K2 堆積泥



【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引手段によって河川や湖沼等の原水域から被処理水を吸引し、吸引された前記被処理水を濾過手段の濾過材に保持された好気性生物により生物処理することで濾過し、濾過された前記被処理水を排出手段によって排出する浄水処理方法であって、
所定のタイミングで逆洗手段が逆洗により前記濾過材から前記好気性生物を剥離させるとともに取り込んだ大気により前記好気性生物に酸素を与えて、剥離され酸素を与えられた前記好気性生物を前記排出手段が原水域に排出することを特徴とする浄水処理方法。
【請求項2】
前記原水域に排出された前記好気性生物によって前記原水域中に沈殿している汚泥を生物処理して水中に浮遊させ、浮遊させた汚泥を前記吸引手段により吸引し、吸引した汚泥を前記濾過材に保持された好気性生物によって生物処理するという一連のサイクルにより前記原水域を浄水処理することを特徴とする請求項1記載の浄水処理方法。
【請求項3】
前記逆洗手段による逆洗のタイミングが、1日数回から十数回に設定されることを特徴とする請求項1または2記載の浄水処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−240652(P2010−240652A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177399(P2010−177399)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【分割の表示】特願2007−105517(P2007−105517)の分割
【原出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(305058807)
【Fターム(参考)】