説明

浮体式洋上風力発電装置と、その発電装置の構築方法

【課題】本発明は、浮体式洋上風力発電装置の構築方法に関し、従来の浮体式洋上風力発電装置の構築方法では、海上での構築作業の工期が長くなり、熟練が必要であると共にコストが嵩むことが課題であって、それを解決することである。
【解決手段】 スパー型浮体式洋上風力発電装置の隔室を有する基礎2とタワー3と風車4とを予め陸上にて組み立てると共に、前記タワー3をその途中で屈曲できるように屈曲部9aが設けられて組み立てられ、曳航時においては前記基礎を横倒しにして、前記タワーのヒンジから先の部分を直交させて海上に立て、海上において設置場所に到達したときに、前記基礎を隔室へ海水の注入・排水によって直立させると共に、前記タワーのヒンジから後方の部分が横倒し状態から直立する状態に変化するにつれて、屈曲部の屈曲角度をヒンジ開閉手段で屈曲させて前記タワー3のヒンジ9から先の部分3aがタワー3のヒンジから後方3bの部分に対して直立させる浮体式洋上風力発電装置1の構築方法とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上におけるスパー型の浮体式洋上風力発電装置とその発電装置の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スパー型浮体式洋上風力発電装置は、電柱のような細長い浮体を釣りの「浮き」のように縦に海面に浮かべ、その上に風車を載せる方式であり、特許文献1に記載のように洋上風力発電用のスパー型浮体構造およびその製造方法ならびにその設置方法が知られている。
【0003】
風車はタワー・ナセル・ブレードから構成される鉛直方向に細長い構造であり、例えば、出力2MW程度であるとタワーの高さが50〜100m程度となる。タワー頂部が最も重量が大きく、作用荷重としてはブレード回転時における風荷重(水平力)が卓越する特徴ある。ブレード回転時にスパー型の基礎が傾斜すると発電効率が低下するので、安定性を確保するためにスパー型の浮体は概ね50〜100m程度の長さが必要となる。
【0004】
このようなスパー型浮体式洋上風力発電装置の基礎の構築方法は、特許文献1に記載されている。そして、前記浮体の高さが50〜100mなので、それ以上の水深がなければスパー型浮体式洋上風力発電装置を直立した状態で運搬することはできない。風車は電気・機械設備であり、海水中に没水させることはできないことやブレードの設計では没水時の荷重を考慮していないため、完成形状で浮体に風車を設置した状態では、横倒しにして運搬することはできない。
【0005】
そこで、特許文献1では、スパー浮体のみを横倒しにして運搬し、洋上で直立させた後に別の設備で風車を後から組み立てるものであり、このほか、特許文献2に記載のように、基礎の内部に風車を納入した状態で直立させたまま曳航するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−248792号公報
【特許文献2】特開2010−223113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の浮体式洋上風力発電装置の構築方法において、風車を浮体へ設置する作業は、高い精度が要求され、水深50〜100m程度の外洋では波・風が強くきわめて困難な作業となる。また、海上作業の稼働率が大きく低下するので、設置作業の費用が嵩むものである。更に、特許文献2に記載の方法においては、水深が深く波・風の強い外洋での海域で浮体内に収納したタワーに風車を取り付けて、前記タワーを昇降装置で引き上げ位置固定する方法であるので、作業が困難となるという課題がある。本発明に係る浮体式洋上風力発電装置とその発電装置の構築方法は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る浮体式洋上風力発電装置の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、基礎と該基礎に起立されるタワーと、該タワーの上部に設けられる風車とでなるスパー型浮体式洋上風力発電装置において、前記タワーは、その長手方向の途中の部位で、前記風車を設ける先端部側を直交させることのできる屈曲部が設けられていることである。
【0009】
また、前記屈曲部には、水の浸入を防止する蓋が設けられていることを含むものである。更に、前記屈曲部にはヒンジ開閉手段が設けられており、該ヒンジ開閉手段は、タワーの内部空間部に設けられ屈曲部の前後に亘って設けられる油圧シリンダーであること、タワーの外部に設けられ基礎とタワー先端部とに繋着されたワイヤーであること、または、前記油圧シリンダーと前記ワイヤーとの組み合わせであることのいずれか一つであって、当該ヒンジ開閉手段で屈曲部を開閉させるものであることを含むものである。
【0010】
本発明に係る浮体式洋上風力発電装置の構築方法の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、スパー型浮体式洋上風力発電装置の隔室を有する基礎とタワーと風車とを予め陸上にて組み立てると共に、前記タワーをその途中で屈曲できるように屈曲部が設けられて組み立てられ、曳航時においては前記基礎を横倒しにして、前記タワーのヒンジから先の部分を直交させて海上に立て、海上において設置場所に到達したときに、前記基礎を隔室へ海水の注入・排水によって直立させると共に、前記タワーのヒンジから後方の部分が横倒し状態から直立する状態に変化するにつれて、屈曲部の屈曲角度をヒンジ開閉手段で屈曲させて前記タワーのヒンジから先の部分がタワーのヒンジから後方の部分に対して直立させることである。
【0011】
前記タワーにおける屈曲部の開口部は水密に閉蓋されていることであり、
前記ヒンジ開閉手段は、タワーの内部空間部に設けられ屈曲部の前後に亘って設けられる油圧シリンダーであること、タワーの外部に設けられ基礎とタワー先端部とに繋着されたワイヤーであること、または、前記油圧シリンダーと前記ワイヤーとの組み合わせであることのいずれか一つであることを含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の浮体式洋上風力発電装置とその装置の構築方法によれば、外洋での作業を大幅に縮減できて、構築作業能率が向上するとともに、スパー型浮体式洋上風力発電装置の構築費用が低減するものである。また、スパー型浮体式洋上風力発電装置の工期が大幅に短縮されると言う優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る浮体式洋上風力発電装置1を曳航している状態の側面視の断面図(A)と、背面視の断面図(B),(C)と、基礎2の断面図(D)とである。
【図2】同本発明の浮体式洋上風力発電装置1の構築方法を順に示す説明図(A),(B),(C)である。
【図3】スパー型浮体式洋上風力発電装置1のタワー3の屈曲部9aを直立させる様子を拡大して示す説明図(A),(B),(C)である。
【図4】スパー型浮体式洋上風力発電装置1を海上に直立させた状態の完成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る浮体式洋上風力発電装置1の構築方法は、図1に示すように、タワー3を屈曲させて、タワー3の屈曲させた側の部分に風車4を予め取り付けた状態で曳航し、所定の位置にて前記屈曲部を元に戻して前記タワー3を直立させるようにするものである。
【実施例1】
【0015】
本発明に係るスパー型浮体式洋上風力発電装置1は、図1(A),(B)に示すように、浮体である基礎2と、該基礎2に起立されるタワー3と、該タワー3の上部に設けられる風車4とでなる。
【0016】
前記タワー3は、その長手方向の途中の部位で、前記風車4を設ける側であって、ヒンジ9から先の部分3aを、ヒンジ9から後方の部分3bに対して直交させることのできる屈曲部9aが設けられている。
【0017】
前記屈曲部9aには、図3(A),(B),(C)に示すように、水の浸入を防止する水密な蓋9b,9cが、両側の開口部に設けられ、屈曲部9aの開口部は水密に閉蓋されている。
【0018】
前記屈曲部9aにおいては、図1(A)と、図3(A),(B),(C)とに示すように、ヒンジ開閉手段11が設けられている。このヒンジ開閉手段11は、その一例として、図2(A)〜(C)に示すように、タワー3の外部に設けられ基礎2とタワー先端部とに繋着されたワイヤー7で構成される。また、図3(A)〜(C)に示すように、タワー3の内部空間部に設けられヒンジ9の前後に亘って設けられる油圧シリンダー10で構成される。このほか、公知の引張装置及び伸縮装置などによってヒンジ開閉手段11を構成できるものである。
【0019】
前記浮体である基礎2は、図1(B),(C)に示すように、隔壁2cによって横倒しにした状態で、上側にタンク2aと下側に隔室2bとが区画されて配設されている。このタンク2aに水を注排水するものであって、曳航時には空にしてあり、構築時には基礎2に注水してこれを直立させるものである。また、前記複数の隔室2bは曳航時には水を注水することで、曳航時の基礎2の安定性を確保するようにしていて、構築時には、注入したバラスト水を適宜に注・排水し、直立時の安定性を高めるものである。
【0020】
以上のようにしてなるスパー型浮体式洋上風力発電装置1による、構築方法を説明する。まず、スパー型浮体式洋上風力発電装置1の隔室(タンク2a,隔室2b)を有する基礎2とタワー3と風車4とを予め陸上にて組み立てる。隔壁2cは浮体の運動によるバラスト水の移動によって浮体が回転することを防止するために設けられるものであり、水平方向に複数の隔室2bが配置するように鉛直の隔壁を設けることにより、バラスト水の移動が小さくなるため更に安定性が増す.そして、前記タワー3をその途中で屈曲できるように屈曲部9aが設けられて、図1(A)に示すように、タワー3の先端側が直交され、上に立ち上げられた状態にて組み立てられる。
【0021】
図1(A)に示すように、曳航時においては前記基礎2を横倒しにして、前記タワー3のヒンジ9から先の部分3aを直交させて海上に立てる。図1(B)〜(D)に示すように、前記基礎2の隔室2bにはバラスト水を注入しておき、タンク2aは空のままにしておく。これにより、水深の浅い海でも曳航できるようになる。
【0022】
前記屈曲部9aにおいては、ワイヤー7は、図1(A)に示すように、最も短くしてウインチ7aでタワー3の先端側を引張っている。
【0023】
図1(A)に示すように、スパー型浮体式洋上風力発電装置1を引き綱5を介して曳船6で曳航していく。海上において設置場所に到達したときに、図2(A)に示す状態から、図2(B)に示すように、基礎2のタンク2aに注水するとともに、隔室2bの上部側のバラスト水を排水して、基礎2を重心と浮力との偶力によって直立させる。
【0024】
前記タワー3のヒンジ9から後方の部分3bが横倒し状態から直立する状態に変化するので、図2(A)に示すように、予めワイヤー7をウィンチ7aでドラムから繰り出しておいて、タワー3をヒンジ9を中心に基礎2の回転方向と反対側に少し傾斜させておく。そして、前記基礎2の反時計方向の回転に伴って、前記ワイヤー7を繰り出して、タワー3におけるヒンジから先の部分3aを時計方向に回転させるのである。また、タワーの回転に応じてタワーの反対側に別途設置したワイヤー7を巻き取ることにより、タワー3が逆方向に回転しないようにする。
【0025】
こうして、図4に示すように、基礎2を直立させてタワー3も上下方向に直立させ、スパー型浮体式洋上風力発電装置1が海上で構築される。その後、係留ワイヤー(テンドン)8aとアンカー8とで、前記スパー型浮体式洋上風力発電装置1が所定の位置に位置固定されるものである。
【実施例2】
【0026】
本発明の第2実施例は、前記ヒンジ開閉手段11を、その一例として、図3(A)に示すように、タワー3の内部空間部に設けられヒンジ9の前後に亘って設けられる油圧ジャッキ10とするものである。
【0027】
図3(B)〜図3(C)に示すように、屈曲部9aの屈曲角度を油圧ジャッキ10のロッド10aを伸縮させて、前記タワー3のヒンジ9から先の部分3aを、タワー3のヒンジ9から後方の部分3bに対して直立させるものである。
【0028】
こうして、図4に示すように、基礎2を直立させてタワー3も上下方向に直立させ、スパー型浮体式洋上風力発電装置1が海上で構築される。その後、係留ワイヤー(テンドン)8aとアンカー8とで、前記スパー型浮体式洋上風力発電装置1が所定の位置に位置固定されるものである。
【実施例3】
【0029】
本発明の第3実施例は、前記ヒンジ開閉手段11を、前記ワイヤー7と前記油圧ジャッキ10とを組み合わせたものである。
【0030】
前記屈曲部9aにおいては、油圧ジャッキ10は、図3(A)に示すように、そのロッド10aが最大に伸びきっている状態であり、且つ、ワイヤー7は、図1(A)に示すように、最も短くしてウインチ7aでタワー3の先端側を引張っている。これらを、互いに相補的に伸縮・伸張させながら、即ち、油圧ジャッキ10を伸縮させて、且つ、バックテンションが効くようにワイヤー7を緊張させながら繰り出していくことで、基礎2の回転と共にタワー3のヒンジ9から先の部分3aを直立させていくものである。これにより、タワー3が安定して直立にされるものである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係るスパー型浮体式洋上風力発電装置とその構築方法は、海上に浮体装置を構築する場合に適用されるものである。
【符号の説明】
【0032】
1 スパー型浮体式洋上風力発電装置、
2 基礎、 2a タンク、
2b 隔室、 2c 隔壁、
3 タワー、 3a ヒンジから先の部分、
3b ヒンジから後方の部分、
4 風車、 4a ブレード、
4b ナセル、
5 引き綱、
6 曳船、
7 ワイヤー、 7a ウインチ、
8 アンカー、 8a 係留ワイヤー(テンドン)、
9 ヒンジ、 9a 屈曲部、
10 油圧ジャッキ、 10a ロッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎と該基礎に起立されるタワーと、該タワーの上部に設けられる風車とでなるスパー型浮体式洋上風力発電装置において、
前記タワーは、その長手方向の途中の部位で、前記風車を設ける先端部側を直交させることのできる屈曲部が設けられていること、
を特徴とするスパー型浮体式洋上風力発電装置。
【請求項2】
屈曲部には、水の浸入を防止する蓋が設けられていること、
を特徴とする請求項1に記載のスパー型浮体式洋上風力発電装置。
【請求項3】
屈曲部にはヒンジ開閉手段が設けられており、該ヒンジ開閉手段は、タワーの内部空間部に設けられ屈曲部の前後に亘って設けられる油圧シリンダーであること、タワーの外部に設けられ基礎とタワー先端部とに繋着されたワイヤーであること、または、前記油圧シリンダーと前記ワイヤーとの組み合わせであることのいずれか一つであって、当該ヒンジ開閉手段で屈曲部を開閉させるものであること、
を特徴とする請求項1または2に記載の浮体式洋上風力発電装置。
【請求項4】
スパー型浮体式洋上風力発電装置の隔室を有する基礎とタワーと風車とを予め陸上にて組み立てると共に、前記タワーをその途中で屈曲できるように屈曲部が設けられて組み立てられ、
曳航時においては前記基礎を横倒しにして、前記タワーのヒンジから先の部分を直交させて海上に立て、
海上において設置場所に到達したときに、前記基礎を隔室へ海水の注入・排水によって直立させると共に、前記タワーのヒンジから後方の部分が横倒し状態から直立する状態に変化するにつれて、屈曲部の屈曲角度をヒンジ開閉手段で屈曲させて前記タワーのヒンジから先の部分がタワーのヒンジから後方の部分に対して直立させること、
を特徴とする浮体式洋上風力発電装置の構築方法。
【請求項5】
タワーにおける屈曲部の開口部は水密に閉蓋されていること、
を特徴とする請求項4に記載の浮体式洋上風力発電装置の構築方法。
【請求項6】
ヒンジ開閉手段は、タワーの内部空間部に設けられ屈曲部の前後に亘って設けられる油圧シリンダーであること、タワーの外部に設けられ基礎とタワー先端部とに繋着されたワイヤーであること、または、前記油圧シリンダーと前記ワイヤーとの組み合わせであることのいずれか一つであること、
を特徴とする請求項4または5に記載の浮体式洋上風力発電装置の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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