説明

浮屋根貫通部の構造

【課題】 強風や地震等で貯蔵液体が揺動した際に、浮屋根を貫通するゲージポール、ガイドポールなどの貫通ポール部材が過大な荷重を受けて損傷しないように、また貫通部近傍の浮屋根自体にも荷重が集中して損傷などしないようにして、耐久性と安全性を配慮し、さらに、通常使用時の浮屋根の上昇下降機能、シール機能などの機能向上も図る浮屋根貫通部の構造を提供する。【解決手段】 地震などで浮屋根が変動した際に、浮屋根を貫通するスライド管の中央内部を貫通するポール部材が損傷することがないように、スライド管の内径を大きくし、該スライド管上部の貫通ポール部材と接触するシャフト付きスリーブの設置部に、水平面内の円周方向又は直径方向に弾力性をもって所定範囲の移動を可能とする伸縮機構及び又は緩衝機構を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、浮屋根タンクの浮屋根が貯蔵液の変動や地震等によって揺動した際に、この浮屋根を貫通して設けられているゲージポール、ガイドポールなどの貫通ポール部材が過大な荷重を受けて損傷しないように、また上記貫通部近傍を含む浮屋根自体が損傷することがないようにして、耐久性と安全性を配慮した浮屋根貫通部の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図9に示すように、原油その他の揮発性・可燃性液体を貯蔵する大型のシングルデッキ型浮屋根タンク本体1は、円形平板の底板2と円筒体形状の側板3と、この側板3内部の貯蔵液4の液面上に浮べた浮蓋状の板構造、つまり浮屋根5とから形成されている。この浮屋根5は、薄板鋼板のデッキ板6と、このデッキ板6の外周部の環状箱体状の外周ポンツーン7とから形成され、この外周ポンツーン7と側板内面との間隙を気密に保持するシール装置8と、その上部に雨よけ板9が設けられている。
図9に示す浮屋根5の外周ポンツーン7には、この外周ポンツーン7を鉛直に貫通するスライド管10が設けられ、このスライド管10の中央を鉛直に挿通するように、液面計を備えたゲージポール11a、浮屋根の円周方向の回転や直径方向の揺動を防止するガイドポール11bなどの貫通ポール部材11が、タンク上部から下部にわたって鉛直に設けられている。
さらにスライド管10の上部位置には、上記貫通ポール部材11と接触して鉛直方向に移動をガイドするように、タンク直径方向水平に位置するする円管状のスリーブ12が設けられている。
【0003】
浮屋根を貫通するポール部材を有する浮屋根タンクの従来技術の発明には、特公昭53−2204号(特許文献1参照)の「浮屋根タンク」、実公昭58−34076号(特許文献2参照)の「カバードフロート式タンクにおける浮蓋の密封装置」、及び特許第3539733号(特許文献3参照)「フローティングルーフ型貯蔵タンクのガイドポール式嵌合シール」などの発明がある。
【0004】

特許文献1の「浮屋根タンク」の発明には、第1図に示されるように、浮屋根17を貫通して中心支柱25、検尺用パイプ26、回転止め用ワイヤー53が設けられている。
そして、特許請求の範囲の第2項、発明の詳細な説明、第3頁の第5欄、第11行〜第30行、及び第11図には、中心支柱25及び検尺用パイプ26の挿通部の具体的な構造が示されている。
また、特許請求の範囲の第4項、発明の詳細な説明、第3頁の第6欄、第21行〜第38行、及び第16図から第18図には、スケール49を挿通するスケール用孔44の構造が示されている。
さらに、特許請求の範囲の第5項、発明の詳細な説明、第3頁の第6欄、第39行〜第44行には、第1図に示されるワイヤー53と上下両端のスプリング54の構造が記載されている。
【0005】
また、特許文献2の「カバードフロート式タンクにおける浮蓋の密封装置」の発明には、Fig1に示されるように、浮蓋本体4を貫通するガイド支柱7及び排気管8が立設されている。
そして、実用新案登録請求の範囲等に、浮蓋本体4の外周下面およびデッキプレート5各部の貫孔11,11・・・まわりの下面に円形ないし円筒形状の気密部Sを取付けた具体的な構造が記載されている。
つまり、第2図には、浮蓋本体4外周下面に設けた気密部材S1が示され、ガイド支柱7の貫通したデッキプレート5貫孔11,11の下面まわりに設けた気密部材S2が示され、排気管8の貫通したデッキプレート5貫孔11部のまわり下面に設けた気密部材S3が示され、さらに第3図に気密部材S4が示されている。
【0006】
さらに、特許文献3の「フローティングルーフ型貯蔵タンクのガイドポール式嵌合シール」の発明には、図1及び図3〜図9に示されるように、フローティングルーフ30とガイドポールウェル80とを具備するタンクのためのガイドポール式嵌合シールの具体的な構造が開示されている。
つまり、このガイドポール式嵌合シールの構造には、シール性を良くするために、ウエルガスケット100、液体32からスライドカバー86に至るポールスリーブ102、さらにポール60スライドカバー86の間隙をシールするポールワイパー104などが設けられている。
【0007】
【特許文献1】特公昭53−2204号
【特許文献2】実公昭58−34076号
【特許文献3】特許第3539733号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記図9に示す従来の浮屋根タンクの浮屋根は、従来例の図10に示すように、液面変動、地震などによって浮屋根が揺動した際に、外周ポンツーン7のスライド管10内を貫通するゲージポール11a及びガイドポール11bなどの貫通ポール部材11のAに示す箇所が曲ったり折れたりすることがあった。また、スライド管10のBに示す貫通部近傍や、デッキ板6のCに示す箇所が、圧迫され集中荷重を受けて、損傷することがあった。
そして、デッキ板6や外周ポンツーン7などが損傷して、浮屋根5の傾きや浮力の低下による沈没などを来すことがあり、さらに、貯蔵液体4がデッキ板6上に浸入した場合には、ガス化し拡散して火災が発生する心配もあった。
【0009】

上記特許文献1の浮屋根タンクにおける浮屋根17を貫通して支柱25、検尺用パイプ26、回転止め用ワイヤー53は、液面変動、地震などによって、浮屋根が大きく揺動し貫通部周囲から強い荷重を受けるため、破損や切断などの損傷を生じることがあった。
【0010】
また、上記特許文献2のカバードフロート式タンクにおける浮蓋の密封装置は、貯液の揺動やスロッシングによって、剛強度のガイド支柱7、排気管8が貫通部周囲に強く接触し、貫通部材自体の損傷ばかりでなく、浮屋根のデッキ板3やポンツーン6にも集中荷重が伝わるため、浮屋根構成部材の接合部に破損などの損傷を受けることがあった。

【0011】
さらに、上記特許文献3のフローティングルーフ型貯蔵タンクのガイドポール式嵌合シールの構造は、通常の使用時にはガイドポール60の周囲から上方への液及びガスの上昇を防止することはできるが、地震時などで貯液が揺動してスロッシングなどした際に、フローティングルーフ30を貫通するガイドポール60などの部材が曲ったり折れたり、貫通部近傍の部材が圧迫されたり衝突することによって損傷する心配があった。

【0012】

この発明の目的は、上述の従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、強風や地震等で貯蔵液体が揺動した際に、浮屋根を貫通するゲージポール、ガイドポールなどの貫通ポール部材が過大な荷重を受けて損傷しないように、また貫通部近傍の浮屋根自体にも荷重が集中して損傷などすることがないようにして、耐久性と安全性を配慮し、さらに、通常使用時の浮屋根の滑らかな上昇下降機能、シール機能など、浮蓋体としての機能向上も図るようにした浮屋根貫通部の構造に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、地震などで浮屋根が変動した際に、浮屋根を貫通するスライド管の中央内部を貫通するポール部材が損傷することがないように、スライド管上部の貫通ポール部材と接触するシャフト付きスリーブの設置部に、水平面内の円周方向又は直径方向に弾力性をもって所定範囲の移動を可能とする伸縮機構を設けるものである。

【0014】
請求項2の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項1記載の伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動に伴いスライドプレートも移動可能となるように、上記シャフト付きスリーブを取付ける架台固定材を所定間隔に離して固定するものである。

【0015】
請求項3の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項1記載の伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動が可能となるように、スライドプレートに設ける貫通口は長穴に形成し、その上部を閉塞するように中心に円形の貫通口を形成した覆い板を設けるものである。

【0016】
請求項4の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、地震などで浮屋根が変動した際に、貫通ポール部材がスライド管の周囲に当接して無理な荷重を受けることがないように、スライド管内部に貫通ポール部材と柔軟かつ弾力的に接触する緩衝機構を設けるものである。

【0017】
請求項5の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項4記載の緩衝機構は、合成ゴム系や合成樹脂系の中空体又は発泡材などからなる弾力性を有するリング状部材を用いて、スライド管体の内側空間を埋めてシールするようにスライド管体の内周壁面に固着するものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、地震などで浮屋根が変動した際に、浮屋根を貫通するスライド管の中央内部を貫通するポール部材が損傷することがないように、スライド管上部の貫通ポール部材と接触するシャフト付きスリーブの設置部に、水平面内の円周方向又は直径方向に弾力性をもって所定範囲の移動を可能とする伸縮機構を設けるので、地震などの際に貯液が揺動しスロッシング状態となって浮屋根が変動しても、伸縮機構によって所定範囲を移動して荷重を弾力的に吸収緩和するため、ゲージポール等の貫通ポール部材に無理な荷重がかかることがないため損傷などすることがなく、さらに貫通部近傍の浮屋根本体にも集中荷重を受けることがないため損傷することがない。

【0019】
請求項2の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項1記載の伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動に伴い、スライドプレートも所定範囲を移動可能となるように、上記シャフト付きスリーブを取付ける架台固定材を所定間隔に離して固定するので、上記伸縮機構の構成として固定箇所を離すという簡単な構造を採用することによって、貫通ポール部材及び浮屋根本体の損傷防止を図ることができる。

【0020】
請求項3の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項1記載の伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動が可能となるように、スライドプレートに設ける貫通口は長穴に形成し、その上部を閉塞するように中心に円形の貫通口を形成した覆い板を設けるので、上記伸縮機構の構成として二枚の板材を使用し簡単な貫通口の加工を行うことによって、貫通ポール部材及び浮屋根本体の損傷防止を図ることができる。

【0021】
請求項4の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、地震などで浮屋根が変動した際に、貫通ポール部材がスライド管の周囲に当接して無理な荷重を受けることがないように、スライド管内部に貫通ポール部材と柔軟かつ弾力的に接触する緩衝機構を設けるので、強い圧迫や衝撃荷重は吸収緩和されるため、貫通ポール部材が部分的に集中を受けることなく、貫通部近傍の浮屋根本体も急激な荷重を受けることがないため、浮屋根の変動に対して耐久性を有する浮屋根貫通部の構造にすることができる。

【0022】
請求項5の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項4記載の緩衝機構を、合成ゴム系や合成樹脂系の中空体又は発泡材などからなる弾力性を有するリング状部材を用いて、スライド管体の内側空間を埋めてシールするようにスライド管体の内周壁面に固着するので、簡単なリング状部材を採用して取付けやメンテナンスも簡単容易にでき、貫通部のシール性と弾力性を向上させ維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明に係る浮屋根貫通部の構造の実施の形態について、図1乃至図8を参照して説明する。
図1は、浮屋根貫通部の構造として伸縮機構13及び緩衝機構14を備えた浮屋根タンクの全体構造を示す縦断面説明図である。
図2は図1に示す浮屋根貫通部の構造の第1の実施形態例を示し、伸縮機構13を示す縦断面説明図、図3はその平面説明図で、図4はこの伸縮機構13に用いる構造部の詳細事例を示す側面説明図である。
図5は伸縮機構13の変化例を示す縦断面説明図で、図6は図5の平面説明図で、図7はこの伸縮機構13に用いる部材の詳細を示す平面説明図である。
図8は図1に示す浮屋根貫通部の構造の第2の実施形態例で、緩衝機構14を示す縦断面説明図である。

【0024】
図1に示すように、原油その他の揮発性・可燃性液体を貯蔵する大型の浮屋根タンク本体1は、円形平板の底板2と円筒体形状の側板3と、この側板3内部の貯蔵液4の液面上に浮べた浮蓋状の浮屋根5とから形成されている。
浮屋根5は、貯蔵液体4の蒸発を抑制するとともに、貯蔵液体4への雨水や異物の混入を防止するように形成されている。
この浮屋根5は、薄板鋼板のデッキ板6と、このデッキ板6の外周部の環状の外周ポンツーン7とから形成され、この外周ポンツーン7と側板3内面との間隙を気密に保持するシール装置8と、その上部に雨よけ板9が設けられている。
浮屋根5の外周ポンツーン7には、この外周ポンツーン7を鉛直に貫通するスライド管10が設けられ、このスライド管10の中央を鉛直に挿通するように、液面計を備えたゲージポール11a、及び浮屋根の回転を防止するガイドポール11b、或いは浮屋根5の直径方向の動きを抑制するガイドポールなどの貫通ポール部材11が設けられている。また、スライド管10の上部には、貫通ポール部材11と接触して回転する管状のシャフト付きスリーブ12が設けられている。

【0025】
この発明に係る浮屋根貫通部の構造は、浮屋根5及び外周ポンツーン7を貫通するスライド管10の中央を貫通するゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11等が、地震によって貯蔵液4が揺動しスロッシング状態となって浮屋根5が変動した際に損傷しないように、スライド管10上部の貫通ポール部材11と接触するシャフト付きスリーブ12に、水平面内の円周方向に弾力性をもって所定範囲の移動を可能とする伸縮機構13を設ける。
【0026】
また、地震などの際に貯蔵液4が揺動して浮屋根5が変動しても、貫通ポール部材11がスライド管10の周囲に当接して無理な荷重を受けることがないように、スライド管10内部に貫通ポール部材11と柔軟かつ弾力的に接触する緩衝機構14を設ける。
【0027】
なお、浮屋根5は、一枚板のデッキ板6からなるシングルデッキタイプと、上下に隔離した二枚板からなるダブルデッキタイプとがあり、図示例ではシングルデッキタイプについて説明するがダブルデッキタイプの場合も同様に上記浮屋根貫通部の構造を適用することができる。

【0028】
図2及び図3に示すように、外周ポンツーン7を貫通するスライド管10の上端部、スライド管フランジ15上部の四隅近傍に架台固定材16を固着し、この架台固定材16に平行するシャフト取付架台17,17を取付ける。
このシャフト取付架台17上の2箇所にシャフト軸受け19を固着し、対向するシャフト軸受け19,19間にシャフト付きスリーブ12,12を平行に設置している。
このシャフト付きスリーブ12,12は、スライド管10の中央内部を貫通するゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11を、浮屋根5の直径方向に向って平行に挟み付けるように位置させて設置している。

【0029】
浮屋根5の上下動に伴う外周ポンツーン7の上下動によって、シャフト付きスリーブ12はスライド管10の中央内部を貫通するゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11に接触し円滑に回転してガイドする。

【0030】
浮屋根5及び外周ポンツーン7は、図2及び図3の矢印Aに示すように、シャフト付きスリーブ12によって水平面内の直径方向には移動を拘束されることなく、貫通ポール部材11の位置がスライドプレート18と一緒に移動するように設けられている。
ゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11は、シャフト付きスリーブ12とスライドプレート18の働きと合わせて、浮屋根5及び外周ポンツーン7が回転移動しないように、つまり図2及び図3の矢印Bに示す範囲内で水平面内の円周方向の動きを抑制している。
【0031】
伸縮機構13について、図3の平面図及び図4の側面図に示す詳細事例に基づいて説明する。
伸縮機構13の伸縮部13aは、図3に示すように、上記シャフト軸受け19がシャフト取付架台17に沿って水平方向に、矢印B方向の距離13bだけ移動可能となるように形成する。
また、架台固定材16は、図3に示すように、スライドプレート18が水平面内の円周方向、つまり図の上下に移動可能となるように、矢印Bに相当する間隔の移動部13bを設けて固定する。
このように、伸縮機構13を設けることによって、図3の矢印B方向13bに示すように、貫通ポール部材11の位置は、水平面内の円周方向にも移動を拘束されることなくスライドプレート18と一緒に移動可能となる。
そして、伸縮機構13によって、浮屋根5及び外周ポンツーン7が水平面内の円周方向の回転移動しようとする荷重が、ゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11に働くのを吸収緩和し、この貫通ポール部材11が荷重によって曲がったり折れたりして損傷するのを防止する。

【0032】
伸縮機構13の構造事例について、図4に基づいてさらに説明する。
シャフト付きスリーブ12のシャフト軸受け19が、取付架台17上を矢印B方向に示す距離(13b,13cに相当)だけ移動するように、例えばスプリング内蔵した構造、ピストン構造などの弾力性を有して水平移動する伸縮部13aを設ける。

【0033】
伸縮機構13の変化例を、図5の縦断面及び図6の平面図に示し、この伸縮機構13を構成する移動部13cを設ける平板部材である長方形のスライドプレート18、及びその上を覆う円形の覆い板20を図7に示す。
浮屋根5及び外周ポンツーン7は、図5及び図6の矢印Aに示すように、シャフト付きスリーブ12によって水平面内の直径方向には、移動を拘束されることなく、貫通ポール部材11はスライドプレート18と一緒に移動する。
図7に示すように、長方形のスライドプレート18に設ける貫通口18aは、矢印Bに示す移動距離13cに相当するように円周方向に沿う長穴に形成し、円形の覆い板20には中心に貫通口20aを設ける。
そして、図6及び図7の破線に示すように、矢印B方向に貫通ポール部材11の位置が13c相当の距離を移動した際に、覆い板20で貫通口18aの上部を塞ぐように形成する。

【0034】
このように、上記変化例の伸縮機構13を設けることによって、図6及び図7の矢印B方向13cに示すように、浮屋根5及び外周ポンツーン7は、水平面内の円周方向にも移動を拘束されることなく、貫通ポール部材11の位置はスライドプレート18の長穴の貫通口18a内を移動し、同時に覆い板20も移動可能となる。
そして、伸縮機構13によって、浮屋根5及び外周ポンツーン7が矢印Bに示す水平面内の円周方向の回転移動しようとする際に生じる荷重が、ゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11に働くのを弾力的に吸収緩和し、曲げや折れなど損傷するのを防止する。

【0035】
なお、図示例はいずれも、シャフト付きスリーブ12を浮屋根の直径方向Aに沿って設置し円周方向Bの回転移動を防止するようにした構造の事例であるが、逆に、シャフト付きスリーブ12を円周方向Bに向けて設置して直径方向Aの動きを抑制するようにした構造の場合についても、本願の上記伸縮機構13を同様に適用して、貫通ポール部材11に働く荷重を弾力的に吸収緩和するように形成することができるのは言うまでもない。

【0036】
図8は、浮屋根貫通部の構造の第2の実施形態例で、地震などで浮屋根5が変動した際に、貫通ポール部材11がスライド管10の周囲に当接して無理な荷重を受けることがないように、スライド管10の内部に貫通ポール部材11と柔軟かつ弾力的に接触する緩衝機構14を設けた場合を示す縦断面説明図である。
このように浮屋根貫通部の構造は、上記ゲージポール等貫通ポール部材11が貫通する開口部、スライド管体10の内周壁面に、緩衝機構14を設けて弾力性を有する緩衝シール構造に形成したので、貫通ポール部材11に対しては、鉛直方向には円滑に接触し、かつスライド管体10と貫通ポール部材11相互間、水平方向の荷重の伝達は緩和される。

【0037】
この緩衝機構14は、図示のような縦断面楕円形、円形、或いは変形湾曲面形をした、合成ゴム系や合成樹脂系の部材、例えばタイヤ状の中空体、ウレタン発泡材などを充填した袋体等からなる弾力性を有するリング状部材21で形成する。このリング状部材21中央に貫通ポール部材11を挿通し、その外周側部をスライド管体10の内周壁面の固定部22に固着する。
この緩衝機構14のリング状部材21は、スライド管体10内空間の変化に対応し弾力的に埋めてシールするため、浮屋根5の上昇下降に円滑に追従するとともに、ガス及び液体のシール性が確保され、さらにこれら緩衝シール部材の点検や補修のメンテナンスを行って長期間使用することができる。

【0038】
また、浮屋根貫通部の構造は、ポール部材等が貫通する開口部、スライド管体の径を大きくして、さらに上記伸縮移動する距離を大きく形成した場合には、地震などで貯蔵液が大きく揺れてスロッシング状態になった際に、ポール部材等が拘束され難いため、浮屋根及びポール部材等の双方を一層、損傷し難くすることが可能となる。

【0039】
さらにまた、浮屋根貫通部の構造は、浮屋根を貫通するポール部材の本体は頑強な構造とし、ガイドローラーの取付けボルトなどを、銅やアルミニウム材などの非鉄金属材等として、上記伸縮移動で吸収緩和される以上の強い荷重が働いた場合に、犠牲的に壊れたり、離脱する構造とすることが考えられる。このような構造にした場合には、地震等で大きな液面揺動とスロッシングが発生し、浮屋根とポール部材に強い荷重がかかった場合に、取付けボルトが犠牲的に壊れたり、離脱するため、浮屋根やポール部材等が破損などすることがなく、なお一層の安全性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
この発明の浮屋根貫通部の構造は、強風や地震等で貯蔵液体が揺動した際に、浮屋根を貫通するゲージポール及びガイドポールなどの貫通ポール部材が曲がったり損傷することなく、また貫通部近傍の浮屋根が損傷することなく、耐久性、安全性に優れた浮屋根構造の貯蔵タンクを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0041】

【図1】この発明に係る浮屋根貫通部の構造を備えた浮屋根タンク全体の縦断面説明図である。
【図2】この発明に係る浮屋根貫通部の構造の第1の実施形態例で、伸縮機構を設けた場合を示す縦断面説明図である。
【図3】図2の平面説明図である。
【図4】伸縮機構の詳細事例を示す側面説明図である。
【図5】この発明に係る浮屋根貫通部の構造の第2の実施形態例で、伸縮機構の変化例を示す縦断面説明図である。
【図6】図5の平面説明図である。
【図7】伸縮機構の変化例の詳細を示す平面説明図である。
【図8】この発明に係る浮屋根貫通部の構造の第3の実施形態例で、緩衝機構を設けた場合を示す縦断面説明図である。
【図9】従来例の浮屋根貫通部の構造を備えた浮屋根式タンクを示す縦断面説明図である。
【図10】図7に示す従来例の浮屋根式タンクの貯蔵液が、地震などで揺動した状態を示す縦断面説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 浮屋根タンク本体
2 底板
3 側板
4 貯蔵液
5 浮屋根
6 デッキ板
7 外周ポンツーン
8 シール装置
9 雨よけ板
10 スライド管体
11 貫通ポール部材
11a ゲージポール
11b ガイドポール
12 シャフト付きスリーブ
13 伸縮機構
14 緩衝機構
15 スライド管フランジ
16 架台固定材
17 シャフト取付架台
18 スライドプレート
18a 貫通口
19 シャフト軸受け
20 覆い板
20a 貫通口
21 リング状部材
22 固定部

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、浮屋根タンクの浮屋根が貯蔵液の変動や地震等によって揺動した際に、この浮屋根を貫通して設けられているゲージポール、ガイドポールなどの貫通ポール部材が過大な荷重を受けて損傷しないように、また上記貫通部近傍を含む浮屋根自体が損傷することがないようにして、耐久性と安全性を配慮した浮屋根貫通部の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図9に示すように、原油その他の揮発性・可燃性液体を貯蔵する大型のシングルデッキ型浮屋根タンク本体1は、円形平板の底板2と円筒体形状の側板3と、この側板3内部の貯蔵液4の液面上に浮べた浮蓋状の板構造、つまり浮屋根5とから形成されている。この浮屋根5は、薄板鋼板のデッキ板6と、このデッキ板6の外周部の環状箱体状の外周ポンツーン7とから形成され、この外周ポンツーン7と側板内面との間隙を気密に保持するシール装置8と、その上部に雨よけ板9が設けられている。図9に示す浮屋根5の外周ポンツーン7には、この外周ポンツーン7を鉛直に貫通するスライド管10が設けられ、このスライド管10の中央を鉛直に挿通するように、液面計を備えたゲージポール11a、浮屋根の円周方向の回転や直径方向の揺動を防止するガイドポール11bなどの貫通ポール部材11が、タンク上部から下部にわたって鉛直に設けられている。さらにスライド管10の上部位置には、上記貫通ポール部材11と接触して鉛直方向に移動をガイドするように、タンク直径方向水平に位置するする円管状のシャフト付きスリーブ12が設けられている。
【0003】
浮屋根を貫通するポール部材を有する浮屋根タンクの従来技術の発明には、特公昭53−2204号(特許文献1参照)の「浮屋根タンク」、実公昭58−34076号(特許文献2参照)の「カバードフロート式タンクにおける浮蓋の密封装置」、及び特許第3539733号(特許文献3参照)「フローティングルーフ型貯蔵タンクのガイドポール式嵌合シール」などの発明がある。
【0004】
特許文献1の「浮屋根タンク」の発明には、第1図に示されるように、浮屋根17を貫通して中心支柱25、検尺用パイプ26、回転止め用ワイヤー53が設けられている。 そして、特許請求の範囲の第2項、発明の詳細な説明、第3頁の第5欄、第11行〜第30行、及び第11図には、中心支柱25及び検尺用パイプ26の挿通部の具体的な構造が示されている。また、特許請求の範囲の第4項、発明の詳細な説明、第3頁の第6欄、第21行〜第38行、及び第16図から第18図には、スケール49を挿通するスケール用孔44の構造が示されている。さらに、特許請求の範囲の第5項、発明の詳細な説明、第3頁の第6欄、第39行〜第44行には、第1図に示されるワイヤー53と上下両端のスプリング54の構造が記載されている。
【0005】
また、特許文献2の「カバードフロート式タンクにおける浮蓋の密封装置」の発明には、Fig1に示されるように、浮蓋本体4を貫通するガイド支柱7及び排気管8が立設されている。そして、実用新案登録請求の範囲等に、浮蓋本体4の外周下面およびデッキプレート5各部の貫孔11,11・・・まわりの下面に円形ないし円筒形状の気密部Sを取付けた具体的な構造が記載されている。つまり、第2図には、浮蓋本体4外周下面に設けた気密部材S1が示され、ガイド支柱7の貫通したデッキプレート5貫孔11,11の下面まわりに設けた気密部材S2が示され、排気管8の貫通したデッキプレート5貫孔11部のまわり下面に設けた気密部材S3が示され、さらに第3図に気密部材S4が示されている。
【0006】
さらに、特許文献3の「フローティングルーフ型貯蔵タンクのガイドポール式嵌合シール」の発明には、図1及び図3〜図9に示されるように、フローティングルーフ30とガイドポールウェル80とを具備するタンクのためのガイドポール式嵌合シールの具体的な構造が開示されている。つまり、このガイドポール式嵌合シールの構造には、シール性を良くするために、ウエルガスケット100、液体32からスライドカバー86に至るポールスリーブ102、さらにポール60スライドカバー86の間隙をシールするポールワイパー104などが設けられている。
【0007】
【特許文献1】特公昭53−2204号
【特許文献2】実公昭58−34076号
【特許文献3】特許第3539733号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記図9に示す従来の浮屋根タンクの浮屋根は、従来例の図10に示すように、液面変動、地震などによって浮屋根が揺動した際に、外周ポンツーン7のスライド管10内を貫通するゲージポール11a及びガイドポール11bなどの貫通ポール部材11のAに示す箇所が曲ったり折れたりすることがあった。また、スライド管10のBに示す貫通部近傍や、デッキ板6のCに示す箇所が、圧迫され集中荷重を受けて、損傷することがあった。 そして、デッキ板6や外周ポンツーン7などが損傷して、浮屋根5の傾きや浮力の低下による沈没などを来すことがあり、さらに、貯蔵液体4がデッキ板6上に浸入した場合には、ガス化し拡散して火災が発生する心配もあった。
【0009】
上記特許文献1の浮屋根タンクにおける浮屋根17を貫通して支柱25、検尺用パイプ26、回転止め用ワイヤー53は、液面変動、地震などによって、浮屋根が大きく揺動し貫通部周囲から強い荷重を受けるため、破損や切断などの損傷を生じることがあった。
【0010】
また、上記特許文献2のカバードフロート式タンクにおける浮蓋の密封装置は、貯液の揺動やスロッシングによって、剛強度のガイド支柱7、排気管8が貫通部周囲に強く接触し、貫通部材自体の損傷ばかりでなく、浮屋根のデッキ板3やポンツーン6にも集中荷重が伝わるため、浮屋根構成部材の接合部に破損などの損傷を受けることがあった。
【0011】
さらに、上記特許文献3のフローティングルーフ型貯蔵タンクのガイドポール式嵌合シールの構造は、通常の使用時にはガイドポール60の周囲から上方への液及びガスの上昇を防止することはできるが、地震時などで貯液が揺動してスロッシングなどした際に、フローティングルーフ30を貫通するガイドポール60などの部材が曲ったり折れたり、貫通部近傍の部材が圧迫されたり衝突することによって損傷する心配があった。
【0012】
この発明の目的は、上述の従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、強風や地震等で貯蔵液体が揺動した際に、浮屋根を貫通するゲージポール、ガイドポールなどの貫通ポール部材が過大な荷重を受けて損傷しないように、また貫通部近傍の浮屋根自体にも荷重が集中して損傷などすることがないようにして、耐久性と安全性を配慮し、さらに、通常使用時の浮屋根の滑らかな上昇下降機能、シール機能など、浮蓋体としての機能向上も図るようにした浮屋根貫通部の構造に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、地震などで浮屋根が変動した際に、浮屋根を貫通するスライド管の中央内部を貫通するポール部材が損傷することがないように、スライド管の内径を大きくし、該スライド管上部の貫通ポール部材と接触するシャフト付きスリーブの設置部に、水平面内の円周方向又は直径方向に弾力性をもって所定範囲の移動を可能とする伸縮機構及び又は緩衝機構を設けるものである。
【0014】
請求項2の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項1記載の伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動に伴いスライドプレートも移動可能となるように、上記シャフト付きスリーブを取付ける架台固定材を所定間隔に離して固定するものである。
【0015】
請求項3の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項1記載の伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動が可能となるように、スライドプレートに設ける貫通口は長穴に形成し、その上部を閉塞するように中心に円形の貫通口を形成した覆い板を設けるものである。
【0016】
請求項4の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項1記載の緩衝機構を、地震などで浮屋根が変動した際に、貫通ポール部材がスライド管の周囲に当接して無理な荷重を受けることがないように、スライド管内部に貫通ポール部材と柔軟かつ弾力的に接触する弾性部材で形成するものである。
【0017】
請求項5の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項4記載の弾性部材は、合成ゴム系や合成樹脂系の中空体又は発泡材などからなる弾力性を有するリング状部材を用いて、スライド管体の内側空間を埋めてシールするようにスライド管体の内周壁面に固着するものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、地震などで浮屋根が変動した際に、浮屋根を貫通するスライド管の中央内部を貫通するポール部材が損傷することがないように、スライド管上部の貫通ポール部材と接触するシャフト付きスリーブの設置部に、水平面内の円周方向又は直径方向に弾力性をもって所定範囲の移動を可能とする伸縮機構を設けるので、地震などの際に貯液が揺動しスロッシング状態となって浮屋根が変動しても、伸縮機構によって所定範囲を移動して荷重を弾力的に吸収緩和するため、ゲージポール等の貫通ポール部材に無理な荷重がかかることがないため損傷などすることがなく、さらに貫通部近傍の浮屋根本体にも集中荷重を受けることがないため損傷することがない。
【0019】
請求項2の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項1記載の伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動に伴い、スライドプレートも所定範囲を移動可能となるように、
上記シャフト付きスリーブを取付ける架台固定材を所定間隔に離して固定するので、上記伸縮機構の構成として固定箇所を離すという簡単な構造を採用することによって、貫通ポール部材及び浮屋根本体の損傷防止を図ることができる。
【0020】
請求項3の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項1記載の伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動が可能となるように、スライドプレートに設ける貫通口は長穴に形成し、その上部を閉塞するように中心に円形の貫通口を形成した覆い板を設けるので、上記伸縮機構の構成として二枚の板材を使用し簡単な貫通口の加工を行うことによって、貫通ポール部材及び浮屋根本体の損傷防止を図ることができる。
【0021】
請求項4の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、地震などで浮屋根が変動した際に、貫通ポール部材がスライド管の周囲に当接して無理な荷重を受けることがないように、スライド管内部に貫通ポール部材と柔軟かつ弾力的に接触する緩衝機構を設けるので、強い圧迫や衝撃荷重は吸収緩和されるため、貫通ポール部材が部分的に集中を受けることなく、貫通部近傍の浮屋根本体も急激な荷重を受けることがないため、浮屋根の変動に対して耐久性を有する浮屋根貫通部の構造にすることができる。
【0022】
請求項5の発明に係る浮屋根貫通部の構造は、上記請求項4記載の緩衝機構を、合成ゴム系や合成樹脂系の中空体又は発泡材などからなる弾力性を有するリング状部材を用いて、スライド管体の内側空間を埋めてシールするようにスライド管体の内周壁面に固着するので、簡単なリング状部材を採用して取付けやメンテナンスも簡単容易にでき、貫通部のシール性と弾力性を長期間維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明に係る浮屋根貫通部の構造の実施の形態について、図1乃至図8を参照して説明する。 図1は、浮屋根貫通部の構造として伸縮機構13及び緩衝機構14を備えた浮屋根タンクの全体構造を示す縦断面説明図である。図2は図1に示す浮屋根貫通部の構造の第1の実施形態例を示し、伸縮機構13を示す縦断面説明図、図3はその平面説明図で、図4はこの伸縮機構13に用いる構造部の詳細事例を示す側面説明図である。図5は伸縮機構13の変化例を示す縦断面説明図で、図6は図5の平面説明図で、図7はこの伸縮機構13に用いる部材の詳細を示す平面説明図である。図8は図1に示す浮屋根貫通部の構造の第2の実施形態例で、緩衝機構14を示す縦断面説明図である。
【0024】
図1に示すように、原油その他の揮発性・可燃性液体を貯蔵する大型の浮屋根タンク本体1は、円形平板の底板2と円筒体形状の側板3と、この側板3内部の貯蔵液4の液面上に浮べた浮蓋状の浮屋根5とから形成されている。浮屋根5は、貯蔵液体4の蒸発を抑制するとともに、貯蔵液体4への雨水や異物の混入を防止するように形成されている。この浮屋根5は、薄板鋼板のデッキ板6と、このデッキ板6の外周部の環状の外周ポンツーン7とから形成され、この外周ポンツーン7と側板3内面との間隙を気密に保持するシール装置8と、その上部に雨よけ板9が設けられている。浮屋根5の外周ポンツーン7には、この外周ポンツーン7を鉛直に貫通するスライド管10が設けられ、このスライド管10の中央を鉛直に挿通するように、液面計を備えたゲージポール11a、及び浮屋根の回転を防止するガイドポール11b、或いは浮屋根5の直径方向の動きを抑制するガイドポールなどの貫通ポール部材11が設けられている。また、スライド管10の上部には、貫通ポール部材11と接触して回転する管状のシャフト付きスリーブ12が設けられている。
【0025】
この発明に係る浮屋根貫通部の構造は、浮屋根5及び外周ポンツーン7を貫通するスライド管10の中央を貫通するゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11等が、地震によって貯蔵液4が揺動しスロッシング状態となって浮屋根5が変動した際に損傷しないように、スライド管10上部の貫通ポール部材11と接触するシャフト付きスリーブ12に、水平面内の円周方向に弾力性をもって所定範囲の移動を可能とする伸縮機構13を設ける。
【0026】
また、地震などの際に貯蔵液4が揺動して浮屋根5が変動しても、貫通ポール部材11がスライド管10の周囲に当接して無理な荷重を受けることがないように、スライド管10内部に貫通ポール部材11と柔軟かつ弾力的に接触する緩衝機構14を設ける。
【0027】
なお、浮屋根5は、一枚板のデッキ板6からなるシングルデッキタイプと、上下に隔離した二枚板からなるダブルデッキタイプとがあり、図示例ではシングルデッキタイプについて説明するがダブルデッキタイプの場合も同様に上記浮屋根貫通部の構造を適用することができる。
【0028】
図2及び図3に示すように、外周ポンツーン7を貫通するスライド管10の上端部、スライド管フランジ15上部の四隅近傍に架台固定材16を固着し、この架台固定材16に平行するシャフト取付架台17,17を取付ける。このシャフト取付架台17上の2箇所にシャフト軸受け19を固着し、対向するシャフト軸受け19,19間にシャフト付きスリーブ12,12を平行に設置している。このシャフト付きスリーブ12,12は、スライド管10の中央内部を貫通するゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11を、浮屋根5の直径方向に向って平行に挟み付けるように位置させて設置している。
【0029】
浮屋根5の上下動に伴う外周ポンツーン7の上下動によって、シャフト付きスリーブ12はスライド管10の中央内部を貫通するゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11に接触し円滑に回転してガイドする。
【0030】
浮屋根5及び外周ポンツーン7は、図2及び図3の矢印Aに示すように、シャフト付きスリーブ12によって水平面内の直径方向には移動を拘束されることなく、貫通ポール部材11の位置がスライドプレート18と一緒に移動するように設けられている。ゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11は、シャフト付きスリーブ12とスライドプレート18の働きと合わせて、浮屋根5及び外周ポンツーン7が回転移動しないように、つまり図2及び図3の矢印Bに示す範囲内で水平面内の円周方向の動きを抑制している。
【0031】
伸縮機構13について、図3の平面図及び図4の側面図に示す詳細事例に基づいて説明する。伸縮機構13の伸縮部13aは、図3に示すように、上記シャフト軸受け19がシャフト取付架台17に沿って水平方向に、矢印B方向の距離13bだけ移動可能となるように形成する。また、架台固定材16は、図3に示すように、スライドプレート18が水平面内の円周方向、つまり図の上下に移動可能となるように、矢印Bに相当する間隔の移動部13bを設けて固定する。このように、伸縮機構13を設けることによって、図3の矢印B方向13bに示すように、貫通ポール部材11の位置は、水平面内の円周方向にも移動を拘束されることなくスライドプレート18と一緒に移動可能となる。そして、伸縮機構13によって、浮屋根5及び外周ポンツーン7が水平面内の円周方向の回転移動しようとする荷重が、ゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11に働くのを吸収緩和し、この貫通ポール部材11が荷重によって曲がったり折れたりして損傷するのを防止する。
【0032】
伸縮機構13の構造事例について、図4に基づいてさらに説明する。シャフト付きスリーブ12のシャフト軸受け19が、取付架台17上を矢印B方向に示す距離(13b,13cに相当)だけ移動するように、例えばスプリング内蔵した構造、ピストン構造などの弾力性を有して水平移動する伸縮部13aを設ける。
【0033】
伸縮機構13の変化例を、図5の縦断面及び図6の平面図に示し、この伸縮機構13を構成する移動部13cを設ける平板部材である長方形のスライドプレート18、及びその上を覆う円形の覆い板20を図7に示す。浮屋根5及び外周ポンツーン7は、図5及び図6の矢印Aに示すように、シャフト付きスリーブ12によって水平面内の直径方向には、移動を拘束されることなく、貫通ポール部材11はスライドプレート18と一緒に移動する。図7に示すように、長方形のスライドプレート18に設ける貫通口18aは、矢印Bに示す移動距離13cに相当するように円周方向に沿う長穴に形成し、円形の覆い板20には中心に貫通口20aを設ける。そして、図6及び図7の破線に示すように、矢印B方向に貫通ポール部材11の位置が13c相当の距離を移動した際に、覆い板20で貫通口18aの上部を塞ぐように形成する。
【0034】
このように、上記変化例の伸縮機構13を設けることによって、図6及び図7の矢印B方向13cに示すように、浮屋根5及び外周ポンツーン7は、水平面内の円周方向にも移動を拘束されることなく、貫通ポール部材11の位置はスライドプレート18の長穴の貫通口18a内を移動し、同時に覆い板20も移動可能となる。そして、伸縮機構13によって、浮屋根5及び外周ポンツーン7が矢印Bに示す水平面内の円周方向の回転移動しようとする際に生じる荷重が、ゲージポール11a、ガイドポール11bなどの貫通ポール部材11に働くのを弾力的に吸収緩和し、曲げや折れなど損傷するのを防止する。
【0035】
なお、図示例はいずれも、シャフト付きスリーブ12を浮屋根の直径方向Aに沿って設置し円周方向Bの回転移動を防止するようにした構造の事例であるが、逆に、シャフト付きスリーブ12を円周方向Bに向けて設置して直径方向Aの動きを抑制するようにした構造の場合についても、本願の上記伸縮機構13を同様に適用して、貫通ポール部材11に働く荷重を弾力的に吸収緩和するように形成することができるのは言うまでもない。
【0036】
図8は、浮屋根貫通部の構造の第2の実施形態例で、地震などで浮屋根5が変動した際に、貫通ポール部材11がスライド管10の周囲に当接して無理な荷重を受けることがないように、スライド管10の内部に貫通ポール部材11と柔軟かつ弾力的に接触する緩衝機構14を設けた場合を示す縦断面説明図である。 このように浮屋根貫通部の構造は、上記ゲージポール等貫通ポール部材11が貫通する開口部、スライド管体10の内周壁面に、緩衝機構14を設けて弾力性を有する緩衝シール構造に形成したので、貫通ポール部材11に対しては、鉛直方向には円滑に接触し、かつスライド管体10と貫通ポール部材11相互間、水平方向の荷重の伝達は緩和される。
【0037】
この緩衝機構14は、図示のような縦断面楕円形、円形、或いは変形湾曲面形をした、合成ゴム系や合成樹脂系の部材、例えばタイヤ状の中空体、ウレタン発泡材などを充填した袋体等からなる弾力性を有するリング状部材21で形成する。このリング状部材21中央に貫通ポール部材11を挿通し、その外周側部をスライド管体10の内周壁面の固定部22に固着する。 この緩衝機構14のリング状部材21は、スライド管体10内空間の変化に対応し弾力的に埋めてシールするため、浮屋根5の上昇下降に円滑に追従するとともに、ガス及び液体のシール性が確保され、さらにこれら緩衝シール部材の点検や補修のメンテナンスを行って長期間使用することができる。
【0038】
また、浮屋根貫通部の構造は、ポール部材等が貫通する開口部、スライド管体の径を大きくして、さらに上記伸縮移動する距離を大きく形成した場合には、地震などで貯蔵液が大きく揺れてスロッシング状態になった際に、ポール部材等が拘束され難いため、浮屋根及びポール部材等の双方を一層、損傷し難くすることが可能となる。
【0039】
さらにまた、浮屋根貫通部の構造は、浮屋根を貫通するポール部材の本体は頑強な構造とし、ガイドローラーの取付けボルトなどを、銅やアルミニウム材などの非鉄金属材等として、上記伸縮移動で吸収緩和される以上の強い荷重が働いた場合に、犠牲的に壊れたり、離脱する構造とすることが考えられる。このような構造にした場合には、地震等で大きな液面揺動とスロッシングが発生し、浮屋根とポール部材に
強い荷重がかかった場合に、取付けボルトが犠牲的に壊れたり、離脱するため、浮屋根やポール部材等が破損などすることがなく、なお一層の安全性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
この発明の浮屋根貫通部の構造は、強風や地震等で貯蔵液体が揺動した際に、浮屋根を貫通するゲージポール及びガイドポールなどの貫通ポール部材が曲がったり損傷することなく、また貫通部近傍の浮屋根が損傷することなく、耐久性、安全性に優れた浮屋根構造の貯蔵タンクを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明に係る浮屋根貫通部の構造を備えた浮屋根タンク全体の縦断面説明図である。
【図2】この発明に係る浮屋根貫通部の構造の第1の実施形態例で、伸縮機構を設けた場合を示す縦断面説明図である。
【図3】図2の平面説明図である。
【図4】伸縮機構の詳細事例を示す側面説明図である。
【図5】この発明に係る浮屋根貫通部の構造の第2の実施形態例で、伸縮機構の変化例を示す縦断面説明図である。
【図6】図5の平面説明図である。
【図7】伸縮機構の変化例の詳細を示す平面説明図である。
【図8】この発明に係る浮屋根貫通部の構造の第3の実施形態例で、緩衝機構を設けた場合を示す縦断面説明図である。
【図9】従来例の浮屋根貫通部の構造を備えた浮屋根式タンクを示す縦断面説明図である。
【図10】図7に示す従来例の浮屋根式タンクの貯蔵液が、地震などで揺動した状態を示す縦断面説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 浮屋根タンク本体2 底板3 側板4 貯蔵液5 浮屋根6 デッキ板7 外周ポンツーン8 シール装置9 雨よけ板10 スライド管11 貫通ポール部材11a ゲージポール11b ガイドポール12 シャフト付きスリーブ13 伸縮機構14 緩衝機構15 スライド管フランジ16 架台固定材17 シャフト取付架台18 スライドプレート18a 貫通口19 シャフト軸受け20 覆い板20a 貫通口21 リング状部材22 固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震などで浮屋根が変動した際に、浮屋根を貫通するスライド管の中央内部を貫通するポール部材が損傷することがないように、スライド管上部の貫通ポール部材と接触するシャフト付きスリーブの設置部に、水平面内の円周方向又は直径方向に弾力性をもって所定範囲の移動を可能とする伸縮機構を設けることを特徴とする浮屋根貫通部の構造。
【請求項2】
上記伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動に伴いスライドプレートも移動可能となるように、上記シャフト付きスリーブを取付ける架台固定材を所定間隔に離して固定することを特徴とする請求項1記載の浮屋根貫通部の構造。
【請求項3】
上記伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動が可能となるように、スライドプレートに設ける貫通口は長穴に形成し、その上部を閉塞するように中心に円形の貫通口を形成した覆い板を設けることを特徴とする請求項1記載の浮屋根貫通部の構造。
【請求項4】
地震などで浮屋根が変動した際に、貫通ポール部材がスライド管の周囲に当接して無理な荷重を受けることがないように、スライド管内部に貫通ポール部材と柔軟かつ弾力的に接触する緩衝機構を設けることを特徴とする浮屋根貫通部の構造。
【請求項5】
上記緩衝機構は、合成ゴム系や合成樹脂系の耐久性材で形成した中空体又は発泡材などからなる弾力性を有するリング状部材を用いて、スライド管体の内側空間を埋めてシールするようにスライド管体の内周壁面に固着することを特徴とする請求項4記載の浮屋根貫通部の構造。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震などで浮屋根が変動した際に、浮屋根を貫通するスライド管の中央内部を貫通するポール部材が損傷することがないように、スライド管の内径を大きくし、該スライド管上部の貫通ポール部材と接触するシャフト付きスリーブの設置部に、水平面内の円周方向又は直径方向に弾力性をもって所定範囲の移動を可能とする伸縮機構及び又は緩衝機構を設けることを特徴とする浮屋根貫通部の構造。
【請求項2】
上記伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動に伴いスライドプレートも移動可能となるように、上記シャフト付きスリーブを取付ける架台固定材を所定間隔に離して固定することを特徴とする請求項1記載の浮屋根貫通部の構造。
【請求項3】
上記伸縮機構による貫通ポール部材の所定範囲の移動が可能となるように、スライドプレートに設ける貫通口は長穴に形成し、その上部を閉塞するように中心に円形の貫通口を形成した覆い板を設けることを特徴とする請求項1記載の浮屋根貫通部の構造。
【請求項4】
上記緩衝機構は、地震などで浮屋根が変動した際に、貫通ポール部材がスライド管の周囲に当接して無理な荷重を受けることがないように、スライド管内部に貫通ポール部材と柔軟かつ弾力的に接触する弾性部材で形成することを特徴とする請求項1記載の浮屋根貫通部の構造。
【請求項5】
上記弾性部材は、合成ゴム系や合成樹脂系の耐久性材で形成した中空体又は発泡材などからなる弾力性を有するリング状部材を用いて、スライド管体の内側空間を埋めてシールするようにスライド管体の内周壁面に固着することを特徴とする請求項4記載の浮屋根貫通部の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−96372(P2006−96372A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282282(P2004−282282)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000147729)株式会社石井鐵工所 (67)
【Fターム(参考)】