説明

海島型複合繊維用紡糸口金装置

【課題】繊維軸に沿って多数の島成分ポリマーが分離して連続的に形成された海島型複合単フィラメント、あるいはこれらフィラメント群からなるマルチフィラメント糸であっても島成分ポリマー同士の合体がなく、かつ紡糸安定性に優れた海島型複合繊維紡糸用口金装置を提供する。
【解決手段】一本の海島型複合フィラメント中にその繊維軸に沿って多数形成する島成分ポリマーを吐出するために一つの管状体ユニットに纏められた一群の管状体1の間に海成分ポリマー流を進入させる海成分ポリマーの進入流路8を形成し、前記一群の管状体の全外周部を環状に囲繞するように前記進入流路の流路上に凸設して前記進入流路の流路断面積を狭める堰5を設けて、前記堰を越えて前記一群の管状体の内部へ進入した海成分ポリマーを前記管状体のそれぞれの直上で合流させて形成した芯鞘複合流群を形成して集合させ最終的に吐出孔7へ導いて海島型複合繊維を溶融紡糸する口金装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、島成分ポリマーが海成分ポリマー中に分散した海島型複合繊維を紡糸するための海島型複合繊維用紡糸口金装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より海成分ポリマー中に多数の島成分ポリマーが繊維軸方向に沿って連続的に配列している海島型複合繊維が知られている。なお、この海島型複合繊維は、溶融紡糸後に海成分ポリマーのみを除去して、残留した島成分ポリマーからなる極細繊維束が得られる。このために、不織布や織編布の構成材料として広い用途があり、特に、人工皮革、人工皮革織物などの皮革様シート素材として有用である。
【0003】
さらに、このような海島型複合繊維では、複合単繊維の海成分ポリマー中に形成する島成分ポリマーからなる島数をより多く増やすことで、繊度のより細かい極細繊維を得ることができ、その結果として、吸水性、ふき取り性の向上などの優れた性能を発現させることができる。それ故に、新しい特性を有する有用な多くの製品を作ることができるので繊維の用途をさらに広げることが期待されている。
【0004】
このように、海島型複合繊維を製造するための大きな市場ニーズが存在するのであるが、このような海島型複合繊維を紡出するための口金装置について、これまでに数多くの提案がなされてきた。
【0005】
例えば、海島型複合繊維を紡出する口金装置の一例として、特許文献1に提案されているものがある。この特許文献1に開示された従来技術では、先ず島成分ポリマーを多数のパイプ(管状体)の中を流通させる。その一方で、前記管状体から出た島成分ポリマーと別の流路から導入された海成分ポリマーとを合流させ、これによって島成分ポリマーの周囲を海成分ポリマーで囲繞させて、島成分ポリマーが芯となり、海成分ポリマーが鞘となった芯鞘複合流を多数形成させる。
【0006】
その後、このようにして形成された多数の芯鞘複合流を集めて漏斗状流路に導入する。ついで、集合させた多数の芯鞘複合流を前記漏斗状流路の下流側へと流下させるに伴って徐々に芯鞘複合流を引き延ばしながら縮流させて最終的に吐出孔から吐出する。そして、最終的に多数の島成分が海成分中に形成された海島複合繊維を得ようとするものである。
【0007】
ところで、既に説明したように、前記口金装置は、密集して配設した複数のパイプ群(管状体群)を通過した島成分ポリマーを海ポリマー中に合流させ、海島複合流とし、その複合流を漏斗状流路に導入して、吐出孔から1本の複合単繊維として吐出させている。したがって、一本の海島型複合フィラメントを多数紡出することによってマルチフィラメント化を目指した場合、一つの口金装置内に管状体群を可能な限り多く配置することが要求される。
【0008】
そこで、これを可能とする口金装置として、例えば前掲の特許文献1において、一本の複合型複合フィラメント(複合型複合単繊維)を1単位とし、この1単位を形成するための管状体群を管状体ユニット(1グループ)とし、この管状体ユニットを円周上に配置することが提案されている。そして、円周上に配置した各管状体ユニットに対して、その外周縁部の少なくとも2方向から管状体群を挟み込むように形成した円周状流路から海成分ポリマーが流入するように配置した海成分ポリマーの導入流路を設けることが提案されている。
【0009】
しかしながら、このような口金装置では、口金径などの寸法を変えずに、一つの管状体ユニットを構成する管状体群の数や管状体ユニットそのものの数をさらに多数配置しようとすると、2以上の多重円周列上に各管状体ユニットを配置する必要がある。ところが、前述のように円周上に配置された管状体ユニットを少なくとも2方向の外周縁部から挟み込むように海成分ポリマーの流入部を円周状に設置しようとすると、口金板内に設ける管状体群の配置場所との関係上、海成分ポリマーの流入部の設置スペースを広げざるを得なくなる。それ故に、管状体群をできるだけ多く配置しようとしても、その設置スペースの関係から設置個数が制限され、口金装置内に最大限の管状体群を配置しようとしてもその設置個数が大幅に制限されてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−214059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述のような従来の海島型複合繊維紡糸の口金装置がもつ問題を解決することを目的としたものであり、繊維軸に沿って多数の島成分ポリマーが分離して連続的に形成された海島型複合単フィラメント、あるいはこれらフィラメント群からなるマルチフィラメント糸であっても島成分ポリマー同士の合体がなく、かつ紡糸安定性に優れた海島型複合繊維紡糸用口金装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ここに、前記課題を解決するための本発明として、「海成分ポリマー中に島成分ポリマーがその繊維軸に沿って分離して連続的に多数形成された少なくとも1本の海島型複合フィラメントを紡出する海島型複合繊維用口金装置において、1本の前記フィラメント中に形成する前記島成分ポリマーを吐出するために一つのグループに纏められた管状体群からなる管状体ユニットと、前記管状体ユニットの間に海成分ポリマー流を進入させる海成分ポリマーの進入流路と、前記管状体ユニットの全外周部を管状体群の外縁に近接させて環状に囲繞すると共に前記進入流路の流路上に凸設されて前記進入流路の流路断面積を狭める堰と、前記堰を越えて前記管状体ユニットの内部へ侵入した海成分ポリマーと前記管状体ユニットを構成する各管状体から吐出された島成分ポリマーとがその直上で合流して形成された芯鞘複合流を流下させる芯鞘複合流形成孔とを少なくとも備えたことを特徴とする海島型複合繊維用紡糸口金装置」が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の海島型複合繊維用紡糸口金装置においては、1本の海島型複合フィラメントを紡出するための1単位となる一群の各管状体をグループとする各管状体ユニットの外縁に近接させて、各管状体ユニットを囲繞するように環状の堰を設けることにより、多周に配列した管状体群に流れ込む海成分ポリマーの量の差を減少させ、更に各管状体ユニットの外縁部に近接した少なくとも2箇所以上から海成分ポリマーが堰を回りこむ様に直接海成分ポリマーを供給することができる。
【0014】
しかも、各管状体ユニットへ進入するために、その周囲が環状に囲繞された堰を越える海成分ポリマーの流れは、海成分ポリマーの進入流路上に凸設された堰の作用効果によって、海成分ポリマーからなる流れは堰を越える際に加速され、更に流れの指向性も管状体群の内側へ向うように増大する。このため、多数の管状体群が密集配置されていたとしても、各管状体の間へ侵入しやすくなって、海成分ポリマーの供給不足による島成分ポリマーの合体を効果的に抑制することができる。
【0015】
さらには、各管状体ユニットの外ぶちに近接した2箇所以上から海成分ポリマーを供給することができるため、各管状体ユニットの外縁の全周方向から万遍なく海成分ポリマーを供給することが可能となり、管状体群の間に供給する海成分ポリマーの供給斑をより効果的に解消できることとなり、デッドスペースがなくなり、管状体群を配置する数を増加させることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る海島型複合繊維用紡糸口金の一実施形態の説明図であって、図1(a)は図1(b)におけるX−X方向矢視断面図(図の一点鎖線部を破断面とする図)であり、そして、図1(b)は平面図(上面から見た図)である。
【図2】図1(a)において点線で囲んだA部の拡大図である。
【図3】本発明に係る海島型複合繊維用紡糸口金に設ける堰の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る紡糸口金を使用して島成分ポリマー(A)と海成分ポリマー(B)とを用いて海島型複合繊維を溶融紡糸するためのポリマーの中で、一方の島成分ポリマー(A)については、本発明の作用効果を奏する限りにおいて特に限定する理由はない。しかしながら、この島成分ポリマー(A)として好ましいものを例示するならば、ポリエチレンテレフタレート及びその共重合物、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸などの溶融成形可能なポリマーを挙げることができる。なお、このとき酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤を上記ポリマー中に含んでもよい。
【0018】
他方、海成分ポリマー(B)としては、本発明の作用効果を好適に奏する限りにおいて特に限定する理由はないが、溶融成形可能で、紡糸後、島成分ポリマー(A)に対して溶解抽出もしくは分割可能なポリマーとして、例えば、共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリスチレンおよびその共重合体、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどを挙げることができる。
【0019】
以下、本発明に係る海島型複合繊維用の紡糸口金の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、海島型複合繊維を紡糸するための口金装置の一実施形態を例示した説明図であり、図2は図1(a)に点線で囲んだ要部(A部)の拡大図である。なお、これら図1および図2に記載された口金装置では、1本の海島型複合単繊維(海島型複合フィラメント)の海成分中に例えば50本の島成分が含まれ、その島成分の全てがほぼ完全に海成分によって取り囲まれて互いに分離されており、しかも、このような島成分が繊維軸方向に実質的に均一に連続している繊維構造をもった海島型複合繊維を紡糸するものである。
【0020】
ただし、図1および図2に例示した本発明の前記口金装置では、一本の海島型複合フィラメントを溶融紡糸した際に、1本のフィラメント中に形成される島成分の数は特に制限されるものではないが、通常3〜500程度であり、特に4〜400程度の範囲で選ばれる。なお、図1および図2の例は、18本の海島型複合フィラメントからなるマルチフィラメント糸を得るための口金装置を例示したものであるが、本例の18本に限定されることなく、1つの口金装置からモノフィラメントを紡出してもよく、あるいは複数本のフィラメント群からなるマルチフィラメント糸を紡出するようにしても良い。
【0021】
通常、海島型複合繊維を溶融紡糸する口金は、複数枚の口金板群からなるものであるが、この口金板の構成枚数は、本発明の作用効果を奏する限りにおいて、特に制限する理由はない。しかしながら、通常、口金の内部に複雑な海島型複合流を形成するための流路群を安価なコストと短い製作期間で加工するためには、複数枚に分割した口金板(図示例では、主要な3枚の分割口金板を示して有る)を重ね合わせた積層構造が採用される。前述の図1および図2に例示した実施形態から明らかな通り、本発明に係る口金装置の主要部は、ポリマーが流下する方向に向って第1〜第3の口金板群10,11,12が順次積層されて構成されている。
【0022】
その際、前記第1の口金板10には、島成分ポリマー(A)を管状体1群へ導入するための凹状の導入流路4が図1(a)に示したように第1の口金板10の外周部を除いて、第1の口金板10のほぼ全面に設けられている。また、この導入流路4の底部からは、図1(b)に示したように島成分ポリマー(A)を第2の口金板11へ供給する管状体1群が多数の管状体ユニット(本例では18個の管状体ユニットからなる)にそれぞれ分配設置され、しかも、管状体ユニット毎に円筒状に一群として纏められた状態で密集した状態で支持孔群に挿設されている。したがって、前記導入流路4を介して導入された島成分ポリマー(A)は各管状体ユニットを構成する各管状体1中をそれぞれ流通して第2の口金板11へ供給されることとなる。
【0023】
このとき、島成分ポリマー(A)を導入する管状体1は下方への抜け防止と、管状体の先端位置を規制するために段をつけた管状体1を用いることが好ましく、管状体1の管内径については、本例では0.5mm、管外径は0.8mmのものを用いた。なお、管状体1の第1の口金板10への取付け方については、はめ込み式、ねじ込み式、しめ込み式、ロウ付け式、融着式、接着式、溶接式など各種の方法があり、別法として、管状体1を第1の口金板10と一体に成形することも勿論可能である。
【0024】
ここで、一群の管状体1を円筒状に纏めて形成される各管状体ユニットの配置について、簡単に説明すると、第1の口金板10の中心Oを共有する多重円周列上にそれぞれ等配して配置されるが、前記中心Oは各口金板10,11,12の中心でもあることから、口金中心ともなる。すなわち、図1(b)の実施形態例に即して更に具体的に説明すると、一群の管状体1からなる各管状体ユニットは中心Oからなる二重円周列の内周側円周列C上と外周側の円周列C上とに、それぞれ6等配と12等配して、合計で18個の管状体ユニットが配設されている。
【0025】
なお、各管状体ユニットを構成する管状体1群の数は、本例では全て200本/管状体ユニットとした。また、管状体1群が円筒状に纏められた各管状体ユニットを構成する管状体1群の外周径(管状体1群の外縁径)については、本例では10.0mmとし、100mmの外径を有する第1の口金板10に対して、前述のように、最内周に6個、最外周に12個、二重円周列C,C上にそれぞれ等配した。
【0026】
なお、円筒状に纏められた管状体1群からそれぞれ構成される前記18個の管状体ユニットにおいて、各管状体ユニットに対応して形成される「1本のフィラメント」中に形成する島数については、それぞれの管状体ユニットに設ける管状体1群の設置個数によって、決定される。なお、後述するように、各管状体1から海成分ポリマー(B)中に吐出される島成分ポリマー(A)が互いに合体して接合するようなことがなければ、各管状体ユニットに設けられる管状体1群の設置個数にそれぞれ対応しただけの数の島群が1本のフィラメント中に、その繊維軸に沿って互いに分離して連続的に形成される。
【0027】
以上に説明したように管状体1群が設けられる一方で、第1の口金板11には、導入流路4へ導入される島成分ポリマー(A)と接触しないように、海成分ポリマー(B)を導入する導入流路(導入孔)2が進入流路8の多数箇所(図には19箇所の場合を例示)に設けられる。なお、この海成分ポリマー(B)の導入流路2の配設については、前述の円筒状に纏められた管状体1群から構成される各管状体ユニットに対して設ける堰5の外縁に近接させて、その近傍に2カ所以上に設けることが好ましい。ただし、これらの海成分ポリマー(B)の導入流路2は、図1(b)に例示したように、隣接する管状体ユニット間で共用するようにしてもかまわないし、あるいは、管状体ユニット毎に専用に設けても良い。しかしながら、口金面のスペースを有効に利用するという観点からは共用することが好ましい。
【0028】
以上に説明したように、海成分ポリマー(B)は多数の導入流路(導入孔)2を介して第2の口金板11へ供給されるが、これに先立って、第1の口金板10と第2の口金板11との間に第1の口金板10の下端部に設けられた海成分ポリマー(B)の進入流路8に供給される。
【0029】
なお、この海成分ポリマー(B)が供給される進入流路8には、島成分ポリマー(A)を供給するための前記管状体1群のポリマー出口の先端が図1(a)および図2に例示したように突出している。しかも、この海成分ポリマー(B)の進入流路8では、海成分ポリマー(B)の流動抵抗が可及的に小さくなるように設計されているため、海成分ポリマー(B)の流れは、管状体ユニット毎に円筒状に纏められた管状体1群の外周部へ容易且つ均等に到達することができる。
【0030】
ところが、既に説明したように、円筒状に纏められた管状体1群のそれぞれは、各フィラメント中に形成する島成分ポリマー(A)から形成させる島数を増加させようとすると、その数もそれに対応させて密集させて配設する必要がある。そうすると、密集した管状体1の最内部にまで十分に海成分ポリマー(B)が進入することができない事態が発生する。その結果、分離した状態で個々に海成分ポリマー(B)中に形成されるべき島同士を隔離する役割を果たす海成分ポリマー(B)が不足し、島同士が互いに合体してしまうという事態が発生する。
【0031】
そこで、前述のような事態を解決できる海島型複合繊維用の溶融紡糸口金を提供するために、本発明の技術的な特徴は堰5を利用することにあるので、この点について、図3を参照しながら以下に具体的かつ詳細に説明する。
【0032】
前述のように、進入流路8を海成分ポリマー(B)は容易かつ略均等に流れることができ、円筒状に纏められた管状体1群からなる管状体ユニットの外周部へ円滑に到達する。このとき、前記管状体ユニットを取り囲むように、円筒状に纏められた管状体ユニットの円筒径(外縁径)よりも若干大きな径で円環状の堰5を第2口金板11の上端部に形成された進入流路8に凸設する。そうすると、このようにして管状体ユニットに近接させて凸設した堰5によって、海成分ポリマー(B)の進入流路8の流路断面積を狭めることができ、進入流路8の天井部(第1の口金板10の下端部)と堰5の上端との間に海成分ポリマー(B)が流れる狭隘流路9が形成される。
【0033】
なお、ここで「各管状体ユニットを構成する一群の管状体1」の配置について簡単に補足しておくと、図1(b)の実施形態例は、管状体1群が円筒状に一纏めにされているが、管状体1群の纏め方として、他の纏め方を採用するよりも、円筒状とすることがより多数の管状体1群を密に配設できる。しかしながら、本発明における管状体1群の纏め方については、本発明の作用効果が期待される限りにおいて、円筒状に限定されることなく任意の纏め方をすることができる。例えば、楕円柱状、四角柱状、六形柱状、八角柱状などを例示することができる。この場合、管状体1群の周りに設ける堰5は円環状ではなく、それぞれ楕円環状、四角形環状、六角形環状、八角形環状などの環状となることは言うまでもない。
【0034】
本発明は、海成分ポリマー(B)の進入流路8上に凸設した前記堰5により進入流路8の流路断面積を狭めることによって形成される前記狭隘流路9を備えることを大きな特徴とするものである。すなわち、海成分ポリマー(B)は管状体1群へ流入する前に必ず前記狭隘流路9を通過しなければならない。このため、海成分ポリマー(B)は、この狭隘流路9を通過するために大きな流動抵抗を受けるために圧力上昇が生じる。そうすると、管状体1群へ流入する海成分ポリマー(B)の圧力も上昇するので、海成分ポリマー(B)の流れは堰5の周りに回り込むことができ均等に堰5の周りに到達する、その結果、管状体1群の全周から斑なく均等に管状体1群の間へと進入することができる。
【0035】
しかも、海成分ポリマー(B)の流れの速度は、狭隘流路9を通過しなければならないために、堰5に到達するまでの速度と比較して一段と速くなる。その上、狭隘流路9を通過する海成分ポリマー(B)の流れの方向は、管状体1群の最内部方向へと強く流れるようにな流れの指向性が形成される。その結果、狭隘流路9を通過することにより海成分ポリマー(B)の流れが速くなると共に、管状体1群の間の最内部にまでより強い指向性をもって流れることができる。
【0036】
したがって、海成分ポリマー(B)の流れは、管状体1群の最内部にまで十分に到達することができる。このため、1本のフィラメント中に形成する島数を増加させるために、管状体1の数を増やして密集配置したとしても、従来の口金装置よりも良好な島成分を互いに接合して合体することなく繊維軸に沿って形成することができる。
【0037】
なお、堰5と第1の口金板との間に形成される前記狭隘流路5の間隙を本例では0.2mmとしたが、本発明の作用効果を奏する限りこの間隙の寸法を特に限定する理由は無いか、一般に0.02〜1.0mmの範囲が好ましい。何故ならば、この間隙が0.02mmより小さくなると、紡糸口金を装着する口金パック内の圧力が上昇して、パックの耐圧性やポリマー漏れの恐れが高くなるからである。逆に、1.0mmより大きくなると、堰5を設ける効果がなくなり、わざわざ堰5を設ける必要性がなくなる。
【0038】
また、堰5の幅(すなわち、狭隘流路5の流路長さ)については、本例では1.0mmとしたが、一般に0.1〜5.0mmの範囲が好ましい。何故ならば、堰5の幅が0.1mmより短くなると、堰としての強度が不足すると共に、海成分ポリマー(B)の流れ規制効果が低下するからである。逆に5.0mmを超えると省スペース効果が大きく低下する。
【0039】
以上に説明したように、本発明の大きな特徴である堰5の作用により、海成分ポリマー(B)が一群の管状体1の間に十分に進入することができると、管状体1群から出た島成分ポリマー(A)と海成分ポリマー(B)が合流して、「芯」となる島成分ポリマー(A)の外周部に対して、鞘」となる海成分ポリマー(B)が囲繞された多数の芯鞘複合流が形成されなければならない。
【0040】
そこで、前記芯鞘複合流を形成するために、第2の口金板11には、各管状体1と一対一に対応させて芯鞘複合流形成孔3が設けられている。このとき、進入流路8中に突設された管状体1の先端部とこれに対応する管状体1とは互いに共通の中心軸線を形成するように配設されている。ただし、芯鞘複合流形成孔3の孔径は管状体1の管外径よりも若干広くしてあり、これにより生じた隙間は海成分ポリマー(B)による島成分ポリマー流の規制効果を出すためには0.1mm以下とすることが好ましい。
【0041】
また、島成分ポリマー(A)を導入する管状体1の先端は、芯鞘複合流形成孔3の直上で留まり、芯鞘複合流形成孔3の内部にまで突出しない長さとすることが好ましい。何故ならば、口金板の組立てや取外しの際に、管状体1が第2の口金板11の直上部と接触する恐れがなくなり、管状体1を曲げたり折損させたりすることが少なくなり、作業性が大幅に向上するなどの効果が得られるからである。
【0042】
以上に説明したように管状体1群と芯鞘複合流形成孔3とが口金装置内に構成されているために、管状体1の先端部から吐出された島成分ポリマー(A)が芯鞘複合流形成孔3の直上部へ吐出される。その一方で、海成分ポリマー(B)の進入流路8に設けられた堰5によって形成された狭隘流路9を乗り越えて管状体1群の最外部から最内部まで進入してきた海成分ポリマー(B)も各管状体1の周りを囲繞しながら芯鞘複合流形成孔3の直上部に到達する。
【0043】
このようにして、島成分ポリマー(A)と海成分ポリマー(B)が芯鞘複合流形成孔3の直上部で互いに出会って合流することによって、管状体1内から出てきた島成分ポリマー(A)を全周から海成分ポリマー(B)が包み込む状態が現出される。しかも、第2の口金板11を貫通して穿孔された芯鞘複合流形成孔3の直上部で互いに出会って互いに合流した島成分ポリマー(A)と海成分ポリマー(B)は、そのまま状態で芯鞘複合流形成孔3へ流入することができる。その結果、島成分ポリマー(A)を芯、海成分ポリマー(B)を鞘とした芯鞘複合流が芯鞘複合流形成孔3の中で具現化され、芯鞘複合流形成孔3を流下するにしたがって、芯鞘複合流の層流状態が整えられ、最下段の第3の口金板12へと供給される。
【0044】
ここで、前記第3の口金板12には漏斗状集合流路6と吐出孔7とが設けられており、芯鞘複合流形成孔3から吐出された多数の芯鞘複合流は漏斗状集合流路6へ流入し、ここで集合合体して大きな海島型複合流となる。そして、この海島型複合流は、島成分ポリマー(A)と海成分ポリマー(B)とで内部に形成された海島構造を維持しながら下方へ流動するにしたがって、徐々に縮流して細い流れとなって吐出孔7へ到達し、最終的に吐出孔7から1本の海島型複合フィラメントとして紡出される。
【0045】
なお、前記漏斗状集合流路6の形状は円錐型が好ましいが、ポリマー流が流下するにしたがって滑らかに縮流されながら引き延ばされるものであれば他の型であってもよい。また、前記吐出孔7の孔形状は丸形が好ましいが、その用途に応じて必要により「T」の字形,「Y」の字形、多角形などの異形吐出孔、あるいは中空用吐出孔などから選ぶことができる。
【0046】
最後に、前述の口金板10,11,12および管状体1の材質について付言しておくと、これらの材質としては、例えば、SUS316、630などの各種ステンレス鋼、鉄、チタン、セラミック、金、白金などが使用可能であり、これらを2種類以上の材質を組合せて使用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 管状体
2 海成分ポリマー(B)の導入流路
3 芯鞘複合流形成孔
4 島成分ポリマー(A)の導入流路
5 堰
6 漏斗状集合流路
7 吐出孔
8 海成分ポリマー(B)の進入流路
9 狭隘流路
10 第1の口金板
11 第2の口金板
12 第3の口金板
A 島成分ポリマー
B 海成分ポリマー
,C 二重円周列
O 口金板の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海成分ポリマー中に島成分ポリマーがその繊維軸に沿って分離して連続的に多数形成された少なくとも1本の海島型複合フィラメントを紡出する海島型複合繊維用口金装置において、1本の前記フィラメント中に形成する前記島成分ポリマーを吐出するために一つに纏められた一群の管状体からなる管状体ユニットと、前記管状体ユニットの間に海成分ポリマー流を進入させる海成分ポリマーの進入流路と、前記管状体ユニットの全外周部を管状体群の外縁に近接させて環状に囲繞すると共に前記進入流路の流路上に凸設されて前記進入流路の流路断面積を狭める堰と、前記堰を越えて前記管状体ユニットの内部へ侵入した海成分ポリマーと前記管状体ユニットを構成する各管状体から吐出された島成分ポリマーとがその直上で合流して形成された芯鞘複合流を流下させる芯鞘複合流形成孔とを少なくとも備えたことを特徴とする海島型複合繊維用紡糸口金装置。
【請求項2】
多数の前記管状体ユニットが口金板中心を共有する少なくとも二重円周列からなる多重円周列上に等配に設置されていることを特徴とする、請求項1に記載の海島型複合繊維用紡糸口金装置。
【請求項3】
前記管状体ユニットが口金板中心を共有する少なくとも二重円周列上に設けられ、その設置個数が内周側の円周列上には6個を等配され、外周側の円周列上には12個を等配されていることを特徴とする、請求項2に記載の海島型複合繊維用紡糸口金装置。
【請求項4】
前記堰の外縁に近接した少なくとも各2箇所の前記進入流路へ海成分ポリマーをそれぞれ供給することを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の海島型複合繊維用紡糸口金装置。
【請求項5】
前記管状体ユニットを構成する前記管状体群が円筒状に纏めて配置されていることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の海島型複合繊維用紡糸口金装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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