海水練りコンクリート及びコンクリート構造物
【課題】海水及び海砂を用いて、必要な耐久性を備えたコンクリートを得る。
【解決手段】
本発明の海水練りコンクリートは、高炉系セメントと海砂との混合物を海水で練り混ぜたことを特徴とする。そして、亜硝酸塩系混和剤やポゾランを含ませることで、硬化後のコンクリートにおける拡散係数を低下させることができ、外部からの有害因子の侵入を抑制できる。
【解決手段】
本発明の海水練りコンクリートは、高炉系セメントと海砂との混合物を海水で練り混ぜたことを特徴とする。そして、亜硝酸塩系混和剤やポゾランを含ませることで、硬化後のコンクリートにおける拡散係数を低下させることができ、外部からの有害因子の侵入を抑制できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨材に海砂が用いられ、練混ぜ水に海水が用いられた海水練りコンクリート、及び、この海水練りコンクリートから作製されたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートを製造する際に、練り混ぜ水として海水を用いたコンクリートが知られている。例えば、特許文献1には、アルミナセメントと細骨材と粗骨材とを海水で練り混ぜた海水練りコンクリートが記載されている。
【0003】
しかし、一般的には、コンクリートの製造に際して海水や海砂を使用する場合、種々の制限が課されている。例えば、海水の使用に関しては、土木学会のコンクリート標準示方書の施工編(2007年制定)において、「一般に練混ぜ水として使用してはならない」と定められている。また、「用心鉄筋を用いない無筋コンクリートの場合には品質に影響がないことを確認した上で、使用しても良い」と定められている。一方、海砂についても上記の示方書では、除塩をした上で、塩化物イオン量を「NaCl換算で細砂の絶乾重量対し0.04%以下」とすることを規定している。さらに、これらの海水や海砂の他に、セメントや混和剤からも塩化物イオンが供給されるため、「練混ぜ時に供給される塩化物イオンの総量は、原則として0.3kg/m3以下とする」と規定している。
【0004】
ここで、海水を練混ぜ水とした場合、コンクリート中の塩素イオン量は約3.5kg/m3になる。また、海砂の塩素イオン濃度はNaCl換算で0.3%であるため、コンクリートにおける海砂由来の塩素イオン量は、約1.5kg/m3になる。前述の規定を考慮すると、無筋コンクリートを除いて、海水及び海砂をそのままコンクリートには使用できないことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−281112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、国内外を問わず、離島や沿岸地域において、練混ぜ水に海水を、細骨材に海砂を用いざるを得ず、かつ、RC構造物と同等の耐久性を確保しなければならない場合がある。ここで、前述の規定を遵守する限り、練混ぜ水として海水しか調達できない場合には、海水を淡水化せざるを得ない。淡水化の程度は、含有成分が、上水道、土木学会の水質基準(JSCE−B101)、又は、JIS規格(JIS A 5308付属書3)に適合するものとするが、淡水化設備が必要となり、設備費および運搬費の調達が必須となる上、淡水化設備の稼働には動力が必要であるため、多量のCO2発生の原因となる。従って、淡水を潤沢に使用することは困難である。
【0007】
真水を運搬することができる状況であっても、運搬費用が発生するほか、陸上運搬、海上運搬にかかわらず、真水の運搬が二酸化炭素の発生起源となる。このため、離島や沿岸地域で環境保全が条件となる地域においては、環境に少なからず影響を与えることになる。従って、このような場合でも、淡水を潤沢に使用することは困難である。
【0008】
海砂を使用する場合には除塩が必要となる。ここで、除塩に淡水を使用する場合には前述の問題が生じる。雨水の使用も考えられるが、雨水が使用できる地域であれば、元来、淡水を容易に調達できるため、敢えて海水を用いる必要もない。なお、乾燥地域の場合、除塩に必要な量の雨水を貯留するために、相当な時間がかかる。従って、雨水の利用は現実的でない。
【0009】
以上のように、淡水を潤沢に使用できない地域、とりわけ離島や沿岸地域では、海水及び海砂を用いてコンクリート構造物を構築することが求められている。上記示方書の基準はコンクリート構造物の耐久性から策定されたと考えられ、必要な耐久性を保証できるのであれば、必ずしもこの基準に従わなくともよいと考えられる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、海水及び海砂を用いた海水練りコンクリートにおいて、必要な耐久性を得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、海砂を細骨材とするとともに海水を練混ぜ水とした海水練りコンクリートでRC構造物を構築した場合の問題点が、海水や海砂に含まれる塩化ナトリウムを起源とするナトリウムイオン及び塩化物イオンにあると考えた。そして、セメント成分として高炉系セメントを用いると、ナトリウムイオンによるアルカリ骨材反応が抑制できるとの知見に基づき、本発明を完成させるに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明の海水練りコンクリートは、高炉系セメントと海砂との混合物を海水で練り混ぜたことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の海水練りコンクリートによれば、細骨材に海砂を用いるとともに練混ぜ水に海水を用いているため、硬化後におけるコンクリートの圧縮強度を上水道水を用いたものよりも高めることができる。そして、高炉系セメントがアルカリ骨材反応を抑制するので、海水や海砂に含まれる塩化ナトリウムを起源とするナトリウムイオンが多量に存在しても、コンクリートの膨張を抑制できる。以上より、海水及び海砂を用いても、必要な耐久性を備えたコンクリートが得られる。
【0014】
本発明の海水練りコンクリートにおいて、高炉系セメントに加え、亜硝酸塩系混和剤を用いる場合には、硬化後のコンクリートにおける圧縮強度を高くすることができる。
【0015】
本発明の海水練りコンクリートにおいて、高炉系セメントに加え、亜硝酸塩系混和剤を用いる場合には、硬化後のコンクリートにおける拡散係数を低下させることができ、外部からの有害因子の侵入を抑制できる。例えば、海水や海風に起因する塩分、あるいは、炭酸ガスのコンクリート内部への侵入を抑制できる。
【0016】
本発明の海水練りコンクリートにおいてポゾランを含む場合には、硬化後のコンクリートにおける拡散係数を低下させることができ、外部からの有害因子の侵入を抑制できる。例えば、海水や海風に起因する塩分、あるいは、炭酸ガスのコンクリート内部への侵入を抑制できる。
【0017】
また、前述の海水練りコンクリートを型枠内に打設し、硬化後に脱型することでコンクリート構造物を作製した場合には、塩分を含まない砂を細骨材として用いるとともに練混ぜ水として上水道水を用いた一般的なコンクリートに比べて早期に脱型することが可能となる。これにより、工期の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、海水及び海砂を用いても必要な耐久性を備えたコンクリートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】各試験で使用される材料を表形式で説明する図である。
【図2】圧縮強度試験における各サンプル及び圧縮強度を表形式で示す図である。
【図3】各サンプルの圧縮強度を示す棒グラフである。
【図4】海水練りコンクリートの圧縮強度を示す図である。
【図5】海水練りコンクリートと一般的なコンクリートの比較を示す図である。
【図6】透水性試験の結果を示す図であり、高炉セメントを水道水で練混ぜたサンプルにおける試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図7】透水性試験の結果を示す図であり、高炉セメントを海水で練混ぜたサンプルにおける試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図8】透水性試験の結果を示す図であり、亜硝酸塩系混和剤を添加した高炉セメントを海水で練混ぜたサンプルにおける、試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図9】透水性試験の結果を示す図であり、亜硝酸塩系混和剤及びシリカフュームを添加した高炉セメントを海水で練混ぜたサンプルにおける、試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図10】透水性試験の結果を示す図であり、普通ポルトランドセメントを水道水で練混ぜたサンプルにおける、試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図11】透水性試験の結果を示す図であり、普通ポルトランドセメントを海水で練混ぜたサンプルにおける、試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図12】各サンプルにおける透水係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、海水練りコンクリートの性状を把握するための試験として、圧縮強度試験、及び、透水性試験を行った。
【0021】
まず、今回の試験に用いた使用材料について説明する。使用材料を図1に示す。
【0022】
セメントは、太平洋セメント株式会社製の高炉セメントB種を用いた。この高炉セメントB種において、密度は3.04cm3であり、比表面積は3750cm2/gである。なお、一部の試験では、比較例のセメントとして普通ポルトランドセメントを用いた。
【0023】
ポゾランの一種であるシリカフュームは、エルケム株式会社製の商品名「エルケム940−U」を用いた。このシリカフュームにおいて、密度は2.20cm3であり、比表面積は19cm2/g程度である。このシリカフュームは、細孔閉塞剤としても作用する。
【0024】
細骨材は、千葉県木更津産の陸砂を用いた。陸砂を用いた理由は、塩分濃度を管理するためである。すなわち、塩分(塩化ナトリウム)が入っていない陸砂を用い、混練時に所定濃度の塩水(後述する)を加えることで、管理された塩分濃度の海水練りコンクリートを人工的に作製している。上記の陸砂において、密度は2.62cm3であり、吸水率は1.76%であり、粗粒率は2.94である。粗骨材は、東京都青梅産の砂石を用いた。この砂石において、密度は2.66cm3であり、吸水率は0.71%であり、粗粒率は6.63であり、実積率は60.3%である。
【0025】
鋼繊維は、株式会社神鋼建材製の商品名「ドラミックス」を用いた。この鋼繊維において、密度は7.85cm3であり、繊維径φは0.6mmであり、長さLは30mmである。この鋼繊維は、犠牲陽極としても機能する。鉄粉は、上記のドラミックスを用いて作製した。
【0026】
亜硝酸塩系混和剤は、太平洋マテリアル株式会社製の商品名「ラスナイン」を用いた。この混和剤は、多価アルコールニトロエステルを主成分とし、液体状をしている。そして、当該混和剤10Lあたり3.7kg/m3の塩化物イオンを処理(固定化)できる。
【0027】
AE減水剤、高性能AE減水剤、及び、空気量調整剤は、いずれもコンクリート用混和剤である。AE減水剤は、BASFポゾリス社製の商品名「ポゾリスNo.70」を用いた。このAE減水剤は、リグニンスルホン酸系化合物を主成分とし、液体状をしている。高性能AE減水剤は、BASFポゾリス社製の商品名「レオビルドSP−8SV」を用いた。この高性能AE減水剤は、ポリカルボン酸系化合物を主成分とし、液体状をしている。空気量調整剤は、BASFポゾリス社製の商品名「マイクロエア404」を用いた。この空気量調整剤は、ポリアルキレングリコール誘導体を主成分とし、液体状をしている。
【0028】
次に、練混ぜ水について説明する。この試験における練混ぜ水は、上水道水に塩分を加えることで作製した人工海水である。この人工海水における塩分濃度は、海水と海砂の双方から由来する塩化物イオンの総量に相当する濃度に調整する。
【0029】
採取された海水に含まれる標準的な塩化物イオン量は19g/Lである(Cl−濃度1.9%)。塩化ナトリウムの分子量を58,ナトリウムの原子量を23,塩素の原子量を35とすると、海水に由来する塩化ナトリウム量は、1Lあたり31gとなる。
【0030】
海砂に関し、海砂の単位量を800kg/m3とし、練混ぜ水の単位量を175kg/m3とし、海砂中の塩化ナトリウム含有率を0.3%とする。この場合、単位量の海砂に含まれる塩化ナトリウムの量は、800kg/m3×0.3%=2.4kg/m3となる。従って、2.4kgの塩化ナトリウムを175kgの練混ぜ水に加えれば、塩化ナトリウムを含まない陸砂を用いたとしても、海砂を用いた場合と同等の塩分含有量になる。そして、この練り混ぜ水1Lに含まれる塩化ナトリウム量は14gとなる。
【0031】
以上より、練り混ぜ水1Lあたり45g(=31g+14g)の塩化ナトリウムを加えることで、塩分が含まれていない上水や陸砂を用いても、海水や海砂を用いたものと同等のコンクリートを得ることができる。なお、1m3のコンクリートにおける塩化ナトリウム量は、7.8kg(=0.045kg/m3×175m3)となる。また、塩化物イオン濃度は4.7kg/m3となる。
【0032】
以下、各試験について説明する。まず圧縮強度試験について説明する。圧縮強度試験は、前述の人工海水を用いたケースと相模湾で採取した海水(実海水ともいう)を用いたケースについて行った。
【0033】
人工海水を用いた試験では、図2に示す7種類のサンプルを作製した。サンプル1は、高炉セメントを上水道水で練り混ぜたものであり、比較例である。サンプル2は、高炉セメントを人工海水で練り混ぜたものである。サンプル3は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤を加え、人工海水で練り混ぜたものである。サンプル4は、高炉セメントにシリカフュームを加え、人工海水で練り混ぜたものである。サンプル5は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤とシリカフュームとを加え、人工海水で練り混ぜたものである。サンプル6は、高炉セメントに鋼繊維を加え、人工海水で練り混ぜたものである。サンプル7は、高炉セメントに鉄粉を加え、人工海水で練り混ぜたものである。
【0034】
水結合材比(W/B)は、全てのサンプルで50%にした。細骨材率は、サンプル1〜3,6において45%、他のサンプルにおいて44.7%であった。人工海水は、全てのサンプルで170kg/m3とした。結合材は、サンプル1〜3,6において高炉セメントを340kg/m3とし、他のサンプルについて高炉セメントを340kg/m3、シリカフュームを34kg/m3とした。細骨材は、サンプル1〜3,6において794kg/m3とし、他のサンプルにおいて782kg/m3とした。粗骨材は、全てのサンプルで985kg/m3とした。
【0035】
また、亜硝酸塩系混和剤に関しては、サンプル3,5において13L/m3添加した。鋼繊維に関しては、サンプル6で78kg/m3混入させた。鉄粉に関しては、サンプル7で78kg/m3混入させた。混和剤に関し、サンプル1〜3,6においてAE減水剤を結合材量の0.25%添加し、他のサンプルにおいて高性能AE減水剤を結合材量の1.00%添加した。また、空気量調整剤は、全てのサンプルにおいて結合材量の0.0035%添加した。
【0036】
練り混ぜは、2軸強制練りミキサーを用いバッチ式で行った。練り混ぜ量は、1バッチあたり30Lとした。練り混ぜは、粗骨材、細骨材、高炉セメントをミキサーに投入して10秒間空練りを行った後、人工海水及び混和剤を投入して60秒間に亘って練り混ぜた。なお、他の材料については、高炉セメントや人工海水と共にミキサーに投入した。
【0037】
練り混ぜを行った後、各サンプルについて供試体を作製した。供試体の作製はJIS A 1132にて行った。すなわち、練り混ぜ終了後の各サンプルを、所定の型枠に打ち込んで養生した。養生は、水中に浸す標準水中養生と、高温(50℃)の雰囲気に曝した高温気乾燥養生と、封緘養生の3種類行った。養生期間は、7日、28日、91日の3種類とした。そして、養生直後の供試体に対して圧縮強度試験を行った。圧縮強度試験は、JIS A 1108にて行った。試験結果を図2の右欄及び図3に示す。
【0038】
相模湾の海水(実海水)を用いた試験では、図4(a)に示す6種類のサンプルを作製した。サンプル1´は、普通ポルトランドセメントを上水道水で練り混ぜたものであり、比較例である。サンプル2´は、高炉セメントを上水道水で練り混ぜたものであり、やはり比較例である。サンプル1は、普通ポルトランドセメントを実海水で練り混ぜたものである。サンプル2は、高炉セメントを実海水で練り混ぜたものである。サンプル3は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤を加え、実海水で練り混ぜたものである。サンプル4は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤とシリカフュームとを加え、実海水で練り混ぜたものである。
【0039】
実海水に関し、塩化物イオン濃度は1.83%であった。そして、塩化物イオン濃度が4.7kg/m3となるように塩化ナトリウムを加えて練混ぜ水とした。これにより、陸砂を細骨材として用いているが、海砂を用いた場合と同等の塩分含有量に調整される。なお、他の条件については、人工海水を用いたサンプルと同様である。このため説明は省略する。また、練り混ぜの条件も人工海水を用いたサンプルと同様であるため、説明は省略する。
【0040】
練り混ぜを行った後、各サンプルについて供試体を作製した。供試体の作製はJIS A 1132にて行った。養生条件に関し、この試験では封緘養生のみとし、養生期間は、7日、28日の2種類とした。そして、養生直後の供試体に対し、JIS A 1108に基づく圧縮強度試験を行った。試験結果を図4(a)の右欄及び図4(b)に示す。
【0041】
圧縮強度試験の結果について述べる。まず、練混ぜ水や細骨材の種類の違いについて考察する。練混ぜ水として人工海水あるいは実海水を用いたサンプルは、練混ぜ水として上水道水を用いたサンプルよりも圧縮強度が高くなる傾向が確認された。
【0042】
具体的には、人工海水の試験におけるサンプル2(高炉セメント,人工海水)にて、材齢7日の圧縮強度は、31.9N/mm2(標準水中)、26.1N/mm2(高温気乾)、29.8N/mm2(封緘)であり、材齢28日の圧縮強度は、39.2N/mm2(標準水中)、27.6N/mm2(高温気乾)、36.7N/mm2(封緘)であり、材齢91日の圧縮強度は、43.6N/mm2(標準水中)、26.1N/mm2(高温気乾)、41.4N/mm2(封緘)であった。また、実海水の試験におけるサンプル2(高炉セメント,実海水)にて、材齢7日の圧縮強度は、37.0N/mm2(封緘)、材齢28日の圧縮強度は、47.4N/mm2(封緘)であり、材齢91日の圧縮強度は、53.1N/mm2(封緘)であった。
【0043】
これに対し、人工海水の試験におけるサンプル1(高炉セメント,上水道水)にて、材齢7日の圧縮強度は、21.9N/mm2(標準水中)、19.6N/mm2(高温気乾)、20.9N/mm2(封緘)であり、材齢28日の圧縮強度は、34.2N/mm2(標準水中)、19.2N/mm2(高温気乾)、30.6N/mm2(封緘)であり、材齢91日の圧縮強度は、48.7N/mm2(標準水中)、19.1N/mm2(高温気乾)、39.8N/mm2(封緘)であった。また、実海水の試験におけるサンプル2´(高炉セメント,上水道水)にて、材齢7日の圧縮強度は、23.1N/mm2(封緘)、材齢28日の圧縮強度は、35.7N/mm2(封緘)であり、材齢91日の圧縮強度は、51.6N/mm2(封緘)であった。
【0044】
材齢28日までの試験結果について検討する。図3(a)〜(c)の最左欄と左から2番目の欄、並びに、図4(b)の左から2番目の欄と4番目の欄とを比較すると容易に理解できるが、材齢28日までの期間においては、上水道水と陸砂等を用いて練り混ぜたコンクリートよりも、海水と海砂を用いて練り混ぜたコンクリートの方が高い値を示している。このことは、海水と海砂を用いた海水練りコンクリートが、一般的なコンクリートよりも早期に硬化することを意味する。そして、海水を用いた各サンプルにおける材齢7日の圧縮強度の値は、上水道水を用いたサンプルにおける材齢28日の圧縮強度と同等かそれ以上の値である。
【0045】
型枠の脱型には、コンクリートの圧縮強度が規定値(5N/mm2)以上になっていることが求められる。今回の試験結果からすれば、海水練りコンクリートの圧縮強度が規定値以上となるまでの養生期間は、一般的なコンクリートの養生期間よりも十分に短いと考えられる。従って、海水と海砂を用いて作製した海水練りコンクリートを型枠内に打設した場合、脱型までの養生期間を一般的なコンクリートよりも十分に短くできるといえる。
【0046】
材齢91日の試験結果について検討する。比較例である人工海水試験のサンプル1に関し、標準水中養生の圧縮強度は48.7N/mm2と高い値を示した。また、封緘養生の圧縮強度は39.8N/mm2であった。これに対し、人工海水試験のサンプル2において、標準水中養生の圧縮強度は43.6N/mm2であり、封緘養生の圧縮強度は41.4N/mm2であった。サンプル2の圧縮強度は、サンプル1の標準水中養生での圧縮強度よりは低いものの、同サンプルの封緘養生での圧縮強度よりは高い値を示した。このことは、海水と海砂を用いて作製した海水練りコンクリートであっても、一般的なコンクリートと遜色ない圧縮強度を長期間に亘って発現することを意味する。すなわち、圧縮強度の観点でみた場合、一般的なコンクリートを海水練りコンクリートに置き換えることが可能であるといえる。
【0047】
次に、高炉セメントに加えられる各種の材料、具体的には、亜硝酸塩系混和剤、シリカフューム(ポゾラン)、鋼繊維、及び、鉄粉について考察する。
【0048】
圧縮強度の観点からすると、人工海水の試験におけるサンプル3〜7の圧縮強度は、同サンプル2の圧縮強度よりも高い値を示している。同様に、実海水の試験におけるサンプル3,4の圧縮強度は、同サンプル4の圧縮強度よりも高い値を示している。このことから、亜硝酸塩系混和剤等の上記材料を加えて練り混ぜることで、海水練りコンクリートの圧縮強度を高めることができるといえる。ここで、図3(a)を参照し、人工海水の試験における材齢91日でのサンプル3〜7の圧縮強度を比較すると、各サンプルの圧縮強度にそれほど大きな違いはみられない。
【0049】
以上より、上記材料を加えて作製された海水練りコンクリートはいずれも、上記材料を加えずに作製された海水練りコンクリートよりも高い圧縮強度を示すといえる。そして、加える材料の種類を換えても、同等の圧縮強度が得られるといえる。
【0050】
なお、図4(b)に示すように、実海水の試験において、亜硝酸塩系混和剤を加えたサンプル3の圧縮強度は材齢7日及び28日のいずれにおいても、亜硝酸塩系混和剤を加えないサンプル2の圧縮強度よりも高い値を示した。このことより、亜硝酸塩系混和剤を加えることで、早期より圧縮強度を増加させる効果が得られるといえる。また、亜硝酸塩系混和剤とシリカフュームを加えたサンプル4の圧縮強度は材齢7日及び28日のいずれにおいても、サンプル3の圧縮強度よりも高い値を示した。このことより、亜硝酸塩系混和剤にシリカフュームを加えることで、亜硝酸塩系混和剤のみを加えた場合よりも、海水練りコンクリートの圧縮強度をさらに増加させる効果が得られるといえる。
【0051】
次に、高炉セメントと普通ポルトランドセメントとの違いについて考察する。ここでは、図4(a),(b)におけるサンプル1´,2´,1,2を比較する。上水道水を用いて練り混ぜた場合、材齢28日までは、普通ポルトランドセメントを用いたサンプル1´の方が高炉セメントを用いたサンプル2´よりも圧縮強度の値が高いが、材齢91日では高炉セメントを用いたサンプル2´の方が普通ポルトランドセメントを用いたサンプル1´よりも圧縮強度が高かった。一方、海水を用いて練り混ぜた場合、高炉セメントを用いたサンプル2の方が、普通ポルトランドセメントを用いたサンプル1よりも、全ての材齢において圧縮強度の値が高かった。
【0052】
高炉セメントをはじめとする高炉系セメントは、アルカリ骨材反応の抑制に効果があることが知られている。当該反応では、ナトリウムイオン等のアルカリイオンとある種の骨材とが反応し、膨張性を示す。高炉系セメントを用いた場合、高炉系セメントがアルカリ骨材反応を抑制するので、海水や海砂に含まれる塩化ナトリウムを起源とするナトリウムイオンが多量に存在しても、コンクリートの膨張を抑制できると考えられる。従って、海水と海砂を用いる場合には、コンクリートを耐久化する上で、高炉系セメントの利用は有効である。
【0053】
次に、図5(a)〜(c)を参照し、海水及び海砂を用いることによるセメント量の削減について考察する。
【0054】
図5(a)のサンプルaは、人工海水の試験におけるサンプル1(上水道水を用いた比較例)であり、サンプルbは、同じくサンプル2(海水及び海砂相当の塩分含有)である。サンプルa,bは何れも、養生方法が水中標準養生であり、材齢が28日である。また、サンプルcは、サンプルbと同程度の圧縮強度を、上水道水を用いたサンプルで得る場合の仮想サンプルである。このサンプルcは、図5(b)に示すfc28の関係式(fc28=24.769×C/W−12.924)を用いて算出したものである。
【0055】
同様に、図5(a)のサンプルd,eは人工海水の試験におけるサンプル1,2であり、材齢は28日である。サンプルd,eは、養生方法が封緘養生である点でサンプルa,bと異なっている。そして、サンプルfは、サンプルeと同程度の圧縮強度を、上水道水を用いたサンプルで得る場合の仮想サンプルである。このサンプルfは、図5(c)に示すfc28(fc28=22.162×C/W−11.564)の関係式を用いて算出したものである。
【0056】
サンプルa,bは何れも、340kg/m3のセメントを170kg/m3の水(上水道水又は人工海水)で練り混ぜたものである。サンプルaの圧縮強度が34.2N/mm2であるのに対し、サンプルbの圧縮強度は39.2N/mm2と、サンプルaの圧縮強度よりも高い値を示した。
【0057】
図5(b)に示すfc28の関係式に、fc28に39.2N/mm2を代入することで対応するセメント水比(C/W)を求めた。さらに、求めたセメント水比において、W=170kg/m3を代入し、サンプルcのセメント量を求めた。そして、サンプルcのセメント量は358kg/m3であった。このため、材齢28日で圧縮強度39.2N/mm2のコンクリート構造物を標準養生で構築する場合、上水道水と陸砂の組み合わせに換えて海水と海砂を用いることで、コンクリート1m3あたり18kgのセメントを節約できることが判った。
【0058】
サンプルd〜fについても同様の手順で計算を行った。その結果、材齢28日で圧縮強度36.7N/mm2のコンクリート構造物を封緘養生で構築する場合、上水道水と陸砂の組み合わせに換えて海水と海砂を用いることで、コンクリート1m3あたり30kgのセメントを節約できることが判った。
【0059】
次に透水性試験について説明する。透水性試験では、図12に示す6種類のサンプルを作成した。各サンプルは、図6,7で説明したサンプルと同じ配合である。すなわち、サンプル1´は、普通ポルトランドセメントを上水道水で練り混ぜた比較例である。サンプル1は、普通ポルトランドセメントを実海水で練り混ぜたものである。サンプル2は、高炉セメントを実海水で練り混ぜたものである。サンプル3は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤を加え、実海水で練り混ぜたものである。サンプル7は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤とシリカフュームとを加え、実海水で練り混ぜたものである。なお、サンプル2´は、高炉セメントを上水道水で練り混ぜた比較例である。そして、海砂の保有する塩分量は、塩化ナトリウムの所要量を加えることで調整した。
【0060】
各サンプルを直径φが100mm、高さが200mmの型枠に流し込み、材齢28日まで封緘養生して供試体を作製した。作製した供試体を加圧容器内にセットして加圧水を供給した。加圧水が供給された供試体を、軸方向に沿って半割り(2分割)し、加圧水の供試体内部への浸透深さを測定した。測定した浸透深さに基づいて拡散係数を求め、求めた拡散係数に基づいて推定透水係数を求めた。なお、1種類のサンプルについて、3つの供試体を作製し、3つの供試体における拡散係数の平均値を、そのサンプルにおける拡散係数とした(図12(a),(b)を参照)。
【0061】
加圧水の浸透状況を示す断面写真を図6〜11に示す。なお、各図において、上段、中段、下段のそれぞれに3つの供試体の断面写真を示している。
【0062】
図6はサンプル2´(高炉セメント,水道水)の断面写真であり、図7はサンプル2(高炉セメント,実海水)の断面写真である。なお、図7の上段において、加圧水の浸透方向と浸透深さを図示している。図8はサンプル3(高炉セメント,実海水,亜硝酸塩系混和剤)の断面写真であり、図9はサンプル7(高炉セメント,実海水,亜硝酸塩系混和剤,シリカフューム)の断面写真である。図10はサンプル1´(普通ポルトランドセメント,水道水)の断面写真であり、図11はサンプル1(普通ポルトランドセメント,実海水)の断面写真である。
【0063】
図12(a)に示すように、拡散係数の平均値は、サンプル2´(高炉セメント,水道水)が8.16×10−2cm2/sec、サンプル2(高炉セメント,実海水)が4.82×10−2cm2/sec、サンプル3(高炉セメント,実海水,亜硝酸塩系混和剤)が2.11×10−2cm2/secであった。また、サンプル7(高炉セメント,実海水,亜硝酸塩系混和剤,シリカフューム)が1.60×10−3cm2/sec、サンプル1´(普通ポルトランドセメント,水道水)が3.51×10−2cm2/sec、サンプル1(普通ポルトランドセメント,実海水)が3.96×10−2cm2/secであった。
【0064】
この透水試験により、次の点を確認することができた。第1に、高炉セメントの使用を前提とし、練混ぜ水に海水を用いた場合、上水道水を用いた場合に比べ、拡散係数(透水係数)を低減することができる。第2に、練混ぜ水に海水を用いた場合でも、普通ポルトランドセメントを用いた場合には、上水道水を用いた場合に比べ、拡散係数(透水係数)に顕著な違いは認められない。第3に、高炉セメントの使用を前提とし、亜硝酸塩系混和剤やシリカフュームを混入させることは、海水を練混ぜ水に用いた場合でも、拡散係数(透水係数)の低減に極めて有効である。なお、シリカフュームに代えて、フライアッシュを用いても拡散係数を低減できると解される。要するに、ポゾランを混入すれば同様の作用効果が得られると解される。
【0065】
一般に、高炉セメントは上水で混練した場合、長期材齢(91日)において高炉スラグの効果で緻密になり、拡散係数を小さくできるといわれてきた。この透水試験によって、海水を練混ぜ水として用い海砂を細骨材として用いれば、材齢28日であっても拡散係数を小さくできることが確認できた。
【0066】
以上説明した圧縮強度試験、耐久性試験、及び、透水性試験の結果に基づき、次のことが判った。
【0067】
練混ぜ水に海水を、細骨材に海砂を用いた海水練りコンクリートでは、セメント成分として高炉セメントB種を用いると、緻密化が図れるため有効といえる。とりわけ、材齢28日までの期間においては、圧縮強度を上水道水を用いて作製したコンクリートよりも高くすることができる。これにより、早期の脱型が可能となる。そして、高炉セメントがアルカリ骨材反応を抑制するので、海水や海砂に含まれる塩化ナトリウムを起源とするナトリウムイオンが多量に存在しても、コンクリートの膨張を抑制できる。
【0068】
以上より、海水及び海砂を用いても、必要な耐久性を備えたコンクリート構造物を構築することができる。そして、海水や海砂は、上水の確保が困難な離島や沿岸地域であっても現地で容易に調達できるため、このような地域でコンクリート構造物を構築する場合に特に有用である。例えば、資材の輸送や上水の確保に際して、省エネルギーが実現でき、コストダウンが図れる。
【0069】
また、海水練りコンクリートにおいて、ラスナインなどの亜硝酸塩系混和剤を含む場合には、塩化物イオンによる腐食等の不具合も抑制できるとともに、硬化後のコンクリートにおける拡散係数を低下させることができることが判った。これにより、海水や海風に起因する塩分、あるいは、炭酸ガスなどのコンクリート内部への侵入など、外部からの有害因子の侵入を抑制できる。
【0070】
また、海水練りコンクリートにおいて、シリカフュームなどのポゾランを含む場合にも、硬化後のコンクリートにおける拡散係数を低下させることができることが判った。従って、亜硝酸塩系混和剤を含む場合と同様に、海水や海風に起因する塩分、あるいは、炭酸ガスなどのコンクリート内部への侵入など、外部からの有害因子の侵入を抑制できる。
【0071】
ところで、以上の実施形態に関する説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨、目的を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0072】
例えば、亜硝酸系混和剤に関し、多価アルコールニトロエステルを主成分とするものを例示したが、亜硝酸イオンを供給できれば、他の種類の亜硝酸系混和剤であっても同様の作用効果を奏する。例えば、亜硝酸カルシウムを主成分とするものや亜硝酸リチウムを主成分とするものを用いてもよい。
【0073】
また、高炉系セメントに関し、高炉セメントB種以外のものであってもよい。要するに、セメント成分として高炉スラグが含まれていれば、他の種類のセメントであっても同様の作用効果を奏する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨材に海砂が用いられ、練混ぜ水に海水が用いられた海水練りコンクリート、及び、この海水練りコンクリートから作製されたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートを製造する際に、練り混ぜ水として海水を用いたコンクリートが知られている。例えば、特許文献1には、アルミナセメントと細骨材と粗骨材とを海水で練り混ぜた海水練りコンクリートが記載されている。
【0003】
しかし、一般的には、コンクリートの製造に際して海水や海砂を使用する場合、種々の制限が課されている。例えば、海水の使用に関しては、土木学会のコンクリート標準示方書の施工編(2007年制定)において、「一般に練混ぜ水として使用してはならない」と定められている。また、「用心鉄筋を用いない無筋コンクリートの場合には品質に影響がないことを確認した上で、使用しても良い」と定められている。一方、海砂についても上記の示方書では、除塩をした上で、塩化物イオン量を「NaCl換算で細砂の絶乾重量対し0.04%以下」とすることを規定している。さらに、これらの海水や海砂の他に、セメントや混和剤からも塩化物イオンが供給されるため、「練混ぜ時に供給される塩化物イオンの総量は、原則として0.3kg/m3以下とする」と規定している。
【0004】
ここで、海水を練混ぜ水とした場合、コンクリート中の塩素イオン量は約3.5kg/m3になる。また、海砂の塩素イオン濃度はNaCl換算で0.3%であるため、コンクリートにおける海砂由来の塩素イオン量は、約1.5kg/m3になる。前述の規定を考慮すると、無筋コンクリートを除いて、海水及び海砂をそのままコンクリートには使用できないことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−281112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、国内外を問わず、離島や沿岸地域において、練混ぜ水に海水を、細骨材に海砂を用いざるを得ず、かつ、RC構造物と同等の耐久性を確保しなければならない場合がある。ここで、前述の規定を遵守する限り、練混ぜ水として海水しか調達できない場合には、海水を淡水化せざるを得ない。淡水化の程度は、含有成分が、上水道、土木学会の水質基準(JSCE−B101)、又は、JIS規格(JIS A 5308付属書3)に適合するものとするが、淡水化設備が必要となり、設備費および運搬費の調達が必須となる上、淡水化設備の稼働には動力が必要であるため、多量のCO2発生の原因となる。従って、淡水を潤沢に使用することは困難である。
【0007】
真水を運搬することができる状況であっても、運搬費用が発生するほか、陸上運搬、海上運搬にかかわらず、真水の運搬が二酸化炭素の発生起源となる。このため、離島や沿岸地域で環境保全が条件となる地域においては、環境に少なからず影響を与えることになる。従って、このような場合でも、淡水を潤沢に使用することは困難である。
【0008】
海砂を使用する場合には除塩が必要となる。ここで、除塩に淡水を使用する場合には前述の問題が生じる。雨水の使用も考えられるが、雨水が使用できる地域であれば、元来、淡水を容易に調達できるため、敢えて海水を用いる必要もない。なお、乾燥地域の場合、除塩に必要な量の雨水を貯留するために、相当な時間がかかる。従って、雨水の利用は現実的でない。
【0009】
以上のように、淡水を潤沢に使用できない地域、とりわけ離島や沿岸地域では、海水及び海砂を用いてコンクリート構造物を構築することが求められている。上記示方書の基準はコンクリート構造物の耐久性から策定されたと考えられ、必要な耐久性を保証できるのであれば、必ずしもこの基準に従わなくともよいと考えられる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、海水及び海砂を用いた海水練りコンクリートにおいて、必要な耐久性を得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、海砂を細骨材とするとともに海水を練混ぜ水とした海水練りコンクリートでRC構造物を構築した場合の問題点が、海水や海砂に含まれる塩化ナトリウムを起源とするナトリウムイオン及び塩化物イオンにあると考えた。そして、セメント成分として高炉系セメントを用いると、ナトリウムイオンによるアルカリ骨材反応が抑制できるとの知見に基づき、本発明を完成させるに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明の海水練りコンクリートは、高炉系セメントと海砂との混合物を海水で練り混ぜたことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の海水練りコンクリートによれば、細骨材に海砂を用いるとともに練混ぜ水に海水を用いているため、硬化後におけるコンクリートの圧縮強度を上水道水を用いたものよりも高めることができる。そして、高炉系セメントがアルカリ骨材反応を抑制するので、海水や海砂に含まれる塩化ナトリウムを起源とするナトリウムイオンが多量に存在しても、コンクリートの膨張を抑制できる。以上より、海水及び海砂を用いても、必要な耐久性を備えたコンクリートが得られる。
【0014】
本発明の海水練りコンクリートにおいて、高炉系セメントに加え、亜硝酸塩系混和剤を用いる場合には、硬化後のコンクリートにおける圧縮強度を高くすることができる。
【0015】
本発明の海水練りコンクリートにおいて、高炉系セメントに加え、亜硝酸塩系混和剤を用いる場合には、硬化後のコンクリートにおける拡散係数を低下させることができ、外部からの有害因子の侵入を抑制できる。例えば、海水や海風に起因する塩分、あるいは、炭酸ガスのコンクリート内部への侵入を抑制できる。
【0016】
本発明の海水練りコンクリートにおいてポゾランを含む場合には、硬化後のコンクリートにおける拡散係数を低下させることができ、外部からの有害因子の侵入を抑制できる。例えば、海水や海風に起因する塩分、あるいは、炭酸ガスのコンクリート内部への侵入を抑制できる。
【0017】
また、前述の海水練りコンクリートを型枠内に打設し、硬化後に脱型することでコンクリート構造物を作製した場合には、塩分を含まない砂を細骨材として用いるとともに練混ぜ水として上水道水を用いた一般的なコンクリートに比べて早期に脱型することが可能となる。これにより、工期の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、海水及び海砂を用いても必要な耐久性を備えたコンクリートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】各試験で使用される材料を表形式で説明する図である。
【図2】圧縮強度試験における各サンプル及び圧縮強度を表形式で示す図である。
【図3】各サンプルの圧縮強度を示す棒グラフである。
【図4】海水練りコンクリートの圧縮強度を示す図である。
【図5】海水練りコンクリートと一般的なコンクリートの比較を示す図である。
【図6】透水性試験の結果を示す図であり、高炉セメントを水道水で練混ぜたサンプルにおける試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図7】透水性試験の結果を示す図であり、高炉セメントを海水で練混ぜたサンプルにおける試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図8】透水性試験の結果を示す図であり、亜硝酸塩系混和剤を添加した高炉セメントを海水で練混ぜたサンプルにおける、試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図9】透水性試験の結果を示す図であり、亜硝酸塩系混和剤及びシリカフュームを添加した高炉セメントを海水で練混ぜたサンプルにおける、試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図10】透水性試験の結果を示す図であり、普通ポルトランドセメントを水道水で練混ぜたサンプルにおける、試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図11】透水性試験の結果を示す図であり、普通ポルトランドセメントを海水で練混ぜたサンプルにおける、試験体割裂後の加圧水浸透状況を示す図である。
【図12】各サンプルにおける透水係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、海水練りコンクリートの性状を把握するための試験として、圧縮強度試験、及び、透水性試験を行った。
【0021】
まず、今回の試験に用いた使用材料について説明する。使用材料を図1に示す。
【0022】
セメントは、太平洋セメント株式会社製の高炉セメントB種を用いた。この高炉セメントB種において、密度は3.04cm3であり、比表面積は3750cm2/gである。なお、一部の試験では、比較例のセメントとして普通ポルトランドセメントを用いた。
【0023】
ポゾランの一種であるシリカフュームは、エルケム株式会社製の商品名「エルケム940−U」を用いた。このシリカフュームにおいて、密度は2.20cm3であり、比表面積は19cm2/g程度である。このシリカフュームは、細孔閉塞剤としても作用する。
【0024】
細骨材は、千葉県木更津産の陸砂を用いた。陸砂を用いた理由は、塩分濃度を管理するためである。すなわち、塩分(塩化ナトリウム)が入っていない陸砂を用い、混練時に所定濃度の塩水(後述する)を加えることで、管理された塩分濃度の海水練りコンクリートを人工的に作製している。上記の陸砂において、密度は2.62cm3であり、吸水率は1.76%であり、粗粒率は2.94である。粗骨材は、東京都青梅産の砂石を用いた。この砂石において、密度は2.66cm3であり、吸水率は0.71%であり、粗粒率は6.63であり、実積率は60.3%である。
【0025】
鋼繊維は、株式会社神鋼建材製の商品名「ドラミックス」を用いた。この鋼繊維において、密度は7.85cm3であり、繊維径φは0.6mmであり、長さLは30mmである。この鋼繊維は、犠牲陽極としても機能する。鉄粉は、上記のドラミックスを用いて作製した。
【0026】
亜硝酸塩系混和剤は、太平洋マテリアル株式会社製の商品名「ラスナイン」を用いた。この混和剤は、多価アルコールニトロエステルを主成分とし、液体状をしている。そして、当該混和剤10Lあたり3.7kg/m3の塩化物イオンを処理(固定化)できる。
【0027】
AE減水剤、高性能AE減水剤、及び、空気量調整剤は、いずれもコンクリート用混和剤である。AE減水剤は、BASFポゾリス社製の商品名「ポゾリスNo.70」を用いた。このAE減水剤は、リグニンスルホン酸系化合物を主成分とし、液体状をしている。高性能AE減水剤は、BASFポゾリス社製の商品名「レオビルドSP−8SV」を用いた。この高性能AE減水剤は、ポリカルボン酸系化合物を主成分とし、液体状をしている。空気量調整剤は、BASFポゾリス社製の商品名「マイクロエア404」を用いた。この空気量調整剤は、ポリアルキレングリコール誘導体を主成分とし、液体状をしている。
【0028】
次に、練混ぜ水について説明する。この試験における練混ぜ水は、上水道水に塩分を加えることで作製した人工海水である。この人工海水における塩分濃度は、海水と海砂の双方から由来する塩化物イオンの総量に相当する濃度に調整する。
【0029】
採取された海水に含まれる標準的な塩化物イオン量は19g/Lである(Cl−濃度1.9%)。塩化ナトリウムの分子量を58,ナトリウムの原子量を23,塩素の原子量を35とすると、海水に由来する塩化ナトリウム量は、1Lあたり31gとなる。
【0030】
海砂に関し、海砂の単位量を800kg/m3とし、練混ぜ水の単位量を175kg/m3とし、海砂中の塩化ナトリウム含有率を0.3%とする。この場合、単位量の海砂に含まれる塩化ナトリウムの量は、800kg/m3×0.3%=2.4kg/m3となる。従って、2.4kgの塩化ナトリウムを175kgの練混ぜ水に加えれば、塩化ナトリウムを含まない陸砂を用いたとしても、海砂を用いた場合と同等の塩分含有量になる。そして、この練り混ぜ水1Lに含まれる塩化ナトリウム量は14gとなる。
【0031】
以上より、練り混ぜ水1Lあたり45g(=31g+14g)の塩化ナトリウムを加えることで、塩分が含まれていない上水や陸砂を用いても、海水や海砂を用いたものと同等のコンクリートを得ることができる。なお、1m3のコンクリートにおける塩化ナトリウム量は、7.8kg(=0.045kg/m3×175m3)となる。また、塩化物イオン濃度は4.7kg/m3となる。
【0032】
以下、各試験について説明する。まず圧縮強度試験について説明する。圧縮強度試験は、前述の人工海水を用いたケースと相模湾で採取した海水(実海水ともいう)を用いたケースについて行った。
【0033】
人工海水を用いた試験では、図2に示す7種類のサンプルを作製した。サンプル1は、高炉セメントを上水道水で練り混ぜたものであり、比較例である。サンプル2は、高炉セメントを人工海水で練り混ぜたものである。サンプル3は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤を加え、人工海水で練り混ぜたものである。サンプル4は、高炉セメントにシリカフュームを加え、人工海水で練り混ぜたものである。サンプル5は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤とシリカフュームとを加え、人工海水で練り混ぜたものである。サンプル6は、高炉セメントに鋼繊維を加え、人工海水で練り混ぜたものである。サンプル7は、高炉セメントに鉄粉を加え、人工海水で練り混ぜたものである。
【0034】
水結合材比(W/B)は、全てのサンプルで50%にした。細骨材率は、サンプル1〜3,6において45%、他のサンプルにおいて44.7%であった。人工海水は、全てのサンプルで170kg/m3とした。結合材は、サンプル1〜3,6において高炉セメントを340kg/m3とし、他のサンプルについて高炉セメントを340kg/m3、シリカフュームを34kg/m3とした。細骨材は、サンプル1〜3,6において794kg/m3とし、他のサンプルにおいて782kg/m3とした。粗骨材は、全てのサンプルで985kg/m3とした。
【0035】
また、亜硝酸塩系混和剤に関しては、サンプル3,5において13L/m3添加した。鋼繊維に関しては、サンプル6で78kg/m3混入させた。鉄粉に関しては、サンプル7で78kg/m3混入させた。混和剤に関し、サンプル1〜3,6においてAE減水剤を結合材量の0.25%添加し、他のサンプルにおいて高性能AE減水剤を結合材量の1.00%添加した。また、空気量調整剤は、全てのサンプルにおいて結合材量の0.0035%添加した。
【0036】
練り混ぜは、2軸強制練りミキサーを用いバッチ式で行った。練り混ぜ量は、1バッチあたり30Lとした。練り混ぜは、粗骨材、細骨材、高炉セメントをミキサーに投入して10秒間空練りを行った後、人工海水及び混和剤を投入して60秒間に亘って練り混ぜた。なお、他の材料については、高炉セメントや人工海水と共にミキサーに投入した。
【0037】
練り混ぜを行った後、各サンプルについて供試体を作製した。供試体の作製はJIS A 1132にて行った。すなわち、練り混ぜ終了後の各サンプルを、所定の型枠に打ち込んで養生した。養生は、水中に浸す標準水中養生と、高温(50℃)の雰囲気に曝した高温気乾燥養生と、封緘養生の3種類行った。養生期間は、7日、28日、91日の3種類とした。そして、養生直後の供試体に対して圧縮強度試験を行った。圧縮強度試験は、JIS A 1108にて行った。試験結果を図2の右欄及び図3に示す。
【0038】
相模湾の海水(実海水)を用いた試験では、図4(a)に示す6種類のサンプルを作製した。サンプル1´は、普通ポルトランドセメントを上水道水で練り混ぜたものであり、比較例である。サンプル2´は、高炉セメントを上水道水で練り混ぜたものであり、やはり比較例である。サンプル1は、普通ポルトランドセメントを実海水で練り混ぜたものである。サンプル2は、高炉セメントを実海水で練り混ぜたものである。サンプル3は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤を加え、実海水で練り混ぜたものである。サンプル4は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤とシリカフュームとを加え、実海水で練り混ぜたものである。
【0039】
実海水に関し、塩化物イオン濃度は1.83%であった。そして、塩化物イオン濃度が4.7kg/m3となるように塩化ナトリウムを加えて練混ぜ水とした。これにより、陸砂を細骨材として用いているが、海砂を用いた場合と同等の塩分含有量に調整される。なお、他の条件については、人工海水を用いたサンプルと同様である。このため説明は省略する。また、練り混ぜの条件も人工海水を用いたサンプルと同様であるため、説明は省略する。
【0040】
練り混ぜを行った後、各サンプルについて供試体を作製した。供試体の作製はJIS A 1132にて行った。養生条件に関し、この試験では封緘養生のみとし、養生期間は、7日、28日の2種類とした。そして、養生直後の供試体に対し、JIS A 1108に基づく圧縮強度試験を行った。試験結果を図4(a)の右欄及び図4(b)に示す。
【0041】
圧縮強度試験の結果について述べる。まず、練混ぜ水や細骨材の種類の違いについて考察する。練混ぜ水として人工海水あるいは実海水を用いたサンプルは、練混ぜ水として上水道水を用いたサンプルよりも圧縮強度が高くなる傾向が確認された。
【0042】
具体的には、人工海水の試験におけるサンプル2(高炉セメント,人工海水)にて、材齢7日の圧縮強度は、31.9N/mm2(標準水中)、26.1N/mm2(高温気乾)、29.8N/mm2(封緘)であり、材齢28日の圧縮強度は、39.2N/mm2(標準水中)、27.6N/mm2(高温気乾)、36.7N/mm2(封緘)であり、材齢91日の圧縮強度は、43.6N/mm2(標準水中)、26.1N/mm2(高温気乾)、41.4N/mm2(封緘)であった。また、実海水の試験におけるサンプル2(高炉セメント,実海水)にて、材齢7日の圧縮強度は、37.0N/mm2(封緘)、材齢28日の圧縮強度は、47.4N/mm2(封緘)であり、材齢91日の圧縮強度は、53.1N/mm2(封緘)であった。
【0043】
これに対し、人工海水の試験におけるサンプル1(高炉セメント,上水道水)にて、材齢7日の圧縮強度は、21.9N/mm2(標準水中)、19.6N/mm2(高温気乾)、20.9N/mm2(封緘)であり、材齢28日の圧縮強度は、34.2N/mm2(標準水中)、19.2N/mm2(高温気乾)、30.6N/mm2(封緘)であり、材齢91日の圧縮強度は、48.7N/mm2(標準水中)、19.1N/mm2(高温気乾)、39.8N/mm2(封緘)であった。また、実海水の試験におけるサンプル2´(高炉セメント,上水道水)にて、材齢7日の圧縮強度は、23.1N/mm2(封緘)、材齢28日の圧縮強度は、35.7N/mm2(封緘)であり、材齢91日の圧縮強度は、51.6N/mm2(封緘)であった。
【0044】
材齢28日までの試験結果について検討する。図3(a)〜(c)の最左欄と左から2番目の欄、並びに、図4(b)の左から2番目の欄と4番目の欄とを比較すると容易に理解できるが、材齢28日までの期間においては、上水道水と陸砂等を用いて練り混ぜたコンクリートよりも、海水と海砂を用いて練り混ぜたコンクリートの方が高い値を示している。このことは、海水と海砂を用いた海水練りコンクリートが、一般的なコンクリートよりも早期に硬化することを意味する。そして、海水を用いた各サンプルにおける材齢7日の圧縮強度の値は、上水道水を用いたサンプルにおける材齢28日の圧縮強度と同等かそれ以上の値である。
【0045】
型枠の脱型には、コンクリートの圧縮強度が規定値(5N/mm2)以上になっていることが求められる。今回の試験結果からすれば、海水練りコンクリートの圧縮強度が規定値以上となるまでの養生期間は、一般的なコンクリートの養生期間よりも十分に短いと考えられる。従って、海水と海砂を用いて作製した海水練りコンクリートを型枠内に打設した場合、脱型までの養生期間を一般的なコンクリートよりも十分に短くできるといえる。
【0046】
材齢91日の試験結果について検討する。比較例である人工海水試験のサンプル1に関し、標準水中養生の圧縮強度は48.7N/mm2と高い値を示した。また、封緘養生の圧縮強度は39.8N/mm2であった。これに対し、人工海水試験のサンプル2において、標準水中養生の圧縮強度は43.6N/mm2であり、封緘養生の圧縮強度は41.4N/mm2であった。サンプル2の圧縮強度は、サンプル1の標準水中養生での圧縮強度よりは低いものの、同サンプルの封緘養生での圧縮強度よりは高い値を示した。このことは、海水と海砂を用いて作製した海水練りコンクリートであっても、一般的なコンクリートと遜色ない圧縮強度を長期間に亘って発現することを意味する。すなわち、圧縮強度の観点でみた場合、一般的なコンクリートを海水練りコンクリートに置き換えることが可能であるといえる。
【0047】
次に、高炉セメントに加えられる各種の材料、具体的には、亜硝酸塩系混和剤、シリカフューム(ポゾラン)、鋼繊維、及び、鉄粉について考察する。
【0048】
圧縮強度の観点からすると、人工海水の試験におけるサンプル3〜7の圧縮強度は、同サンプル2の圧縮強度よりも高い値を示している。同様に、実海水の試験におけるサンプル3,4の圧縮強度は、同サンプル4の圧縮強度よりも高い値を示している。このことから、亜硝酸塩系混和剤等の上記材料を加えて練り混ぜることで、海水練りコンクリートの圧縮強度を高めることができるといえる。ここで、図3(a)を参照し、人工海水の試験における材齢91日でのサンプル3〜7の圧縮強度を比較すると、各サンプルの圧縮強度にそれほど大きな違いはみられない。
【0049】
以上より、上記材料を加えて作製された海水練りコンクリートはいずれも、上記材料を加えずに作製された海水練りコンクリートよりも高い圧縮強度を示すといえる。そして、加える材料の種類を換えても、同等の圧縮強度が得られるといえる。
【0050】
なお、図4(b)に示すように、実海水の試験において、亜硝酸塩系混和剤を加えたサンプル3の圧縮強度は材齢7日及び28日のいずれにおいても、亜硝酸塩系混和剤を加えないサンプル2の圧縮強度よりも高い値を示した。このことより、亜硝酸塩系混和剤を加えることで、早期より圧縮強度を増加させる効果が得られるといえる。また、亜硝酸塩系混和剤とシリカフュームを加えたサンプル4の圧縮強度は材齢7日及び28日のいずれにおいても、サンプル3の圧縮強度よりも高い値を示した。このことより、亜硝酸塩系混和剤にシリカフュームを加えることで、亜硝酸塩系混和剤のみを加えた場合よりも、海水練りコンクリートの圧縮強度をさらに増加させる効果が得られるといえる。
【0051】
次に、高炉セメントと普通ポルトランドセメントとの違いについて考察する。ここでは、図4(a),(b)におけるサンプル1´,2´,1,2を比較する。上水道水を用いて練り混ぜた場合、材齢28日までは、普通ポルトランドセメントを用いたサンプル1´の方が高炉セメントを用いたサンプル2´よりも圧縮強度の値が高いが、材齢91日では高炉セメントを用いたサンプル2´の方が普通ポルトランドセメントを用いたサンプル1´よりも圧縮強度が高かった。一方、海水を用いて練り混ぜた場合、高炉セメントを用いたサンプル2の方が、普通ポルトランドセメントを用いたサンプル1よりも、全ての材齢において圧縮強度の値が高かった。
【0052】
高炉セメントをはじめとする高炉系セメントは、アルカリ骨材反応の抑制に効果があることが知られている。当該反応では、ナトリウムイオン等のアルカリイオンとある種の骨材とが反応し、膨張性を示す。高炉系セメントを用いた場合、高炉系セメントがアルカリ骨材反応を抑制するので、海水や海砂に含まれる塩化ナトリウムを起源とするナトリウムイオンが多量に存在しても、コンクリートの膨張を抑制できると考えられる。従って、海水と海砂を用いる場合には、コンクリートを耐久化する上で、高炉系セメントの利用は有効である。
【0053】
次に、図5(a)〜(c)を参照し、海水及び海砂を用いることによるセメント量の削減について考察する。
【0054】
図5(a)のサンプルaは、人工海水の試験におけるサンプル1(上水道水を用いた比較例)であり、サンプルbは、同じくサンプル2(海水及び海砂相当の塩分含有)である。サンプルa,bは何れも、養生方法が水中標準養生であり、材齢が28日である。また、サンプルcは、サンプルbと同程度の圧縮強度を、上水道水を用いたサンプルで得る場合の仮想サンプルである。このサンプルcは、図5(b)に示すfc28の関係式(fc28=24.769×C/W−12.924)を用いて算出したものである。
【0055】
同様に、図5(a)のサンプルd,eは人工海水の試験におけるサンプル1,2であり、材齢は28日である。サンプルd,eは、養生方法が封緘養生である点でサンプルa,bと異なっている。そして、サンプルfは、サンプルeと同程度の圧縮強度を、上水道水を用いたサンプルで得る場合の仮想サンプルである。このサンプルfは、図5(c)に示すfc28(fc28=22.162×C/W−11.564)の関係式を用いて算出したものである。
【0056】
サンプルa,bは何れも、340kg/m3のセメントを170kg/m3の水(上水道水又は人工海水)で練り混ぜたものである。サンプルaの圧縮強度が34.2N/mm2であるのに対し、サンプルbの圧縮強度は39.2N/mm2と、サンプルaの圧縮強度よりも高い値を示した。
【0057】
図5(b)に示すfc28の関係式に、fc28に39.2N/mm2を代入することで対応するセメント水比(C/W)を求めた。さらに、求めたセメント水比において、W=170kg/m3を代入し、サンプルcのセメント量を求めた。そして、サンプルcのセメント量は358kg/m3であった。このため、材齢28日で圧縮強度39.2N/mm2のコンクリート構造物を標準養生で構築する場合、上水道水と陸砂の組み合わせに換えて海水と海砂を用いることで、コンクリート1m3あたり18kgのセメントを節約できることが判った。
【0058】
サンプルd〜fについても同様の手順で計算を行った。その結果、材齢28日で圧縮強度36.7N/mm2のコンクリート構造物を封緘養生で構築する場合、上水道水と陸砂の組み合わせに換えて海水と海砂を用いることで、コンクリート1m3あたり30kgのセメントを節約できることが判った。
【0059】
次に透水性試験について説明する。透水性試験では、図12に示す6種類のサンプルを作成した。各サンプルは、図6,7で説明したサンプルと同じ配合である。すなわち、サンプル1´は、普通ポルトランドセメントを上水道水で練り混ぜた比較例である。サンプル1は、普通ポルトランドセメントを実海水で練り混ぜたものである。サンプル2は、高炉セメントを実海水で練り混ぜたものである。サンプル3は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤を加え、実海水で練り混ぜたものである。サンプル7は、高炉セメントに亜硝酸塩系混和剤とシリカフュームとを加え、実海水で練り混ぜたものである。なお、サンプル2´は、高炉セメントを上水道水で練り混ぜた比較例である。そして、海砂の保有する塩分量は、塩化ナトリウムの所要量を加えることで調整した。
【0060】
各サンプルを直径φが100mm、高さが200mmの型枠に流し込み、材齢28日まで封緘養生して供試体を作製した。作製した供試体を加圧容器内にセットして加圧水を供給した。加圧水が供給された供試体を、軸方向に沿って半割り(2分割)し、加圧水の供試体内部への浸透深さを測定した。測定した浸透深さに基づいて拡散係数を求め、求めた拡散係数に基づいて推定透水係数を求めた。なお、1種類のサンプルについて、3つの供試体を作製し、3つの供試体における拡散係数の平均値を、そのサンプルにおける拡散係数とした(図12(a),(b)を参照)。
【0061】
加圧水の浸透状況を示す断面写真を図6〜11に示す。なお、各図において、上段、中段、下段のそれぞれに3つの供試体の断面写真を示している。
【0062】
図6はサンプル2´(高炉セメント,水道水)の断面写真であり、図7はサンプル2(高炉セメント,実海水)の断面写真である。なお、図7の上段において、加圧水の浸透方向と浸透深さを図示している。図8はサンプル3(高炉セメント,実海水,亜硝酸塩系混和剤)の断面写真であり、図9はサンプル7(高炉セメント,実海水,亜硝酸塩系混和剤,シリカフューム)の断面写真である。図10はサンプル1´(普通ポルトランドセメント,水道水)の断面写真であり、図11はサンプル1(普通ポルトランドセメント,実海水)の断面写真である。
【0063】
図12(a)に示すように、拡散係数の平均値は、サンプル2´(高炉セメント,水道水)が8.16×10−2cm2/sec、サンプル2(高炉セメント,実海水)が4.82×10−2cm2/sec、サンプル3(高炉セメント,実海水,亜硝酸塩系混和剤)が2.11×10−2cm2/secであった。また、サンプル7(高炉セメント,実海水,亜硝酸塩系混和剤,シリカフューム)が1.60×10−3cm2/sec、サンプル1´(普通ポルトランドセメント,水道水)が3.51×10−2cm2/sec、サンプル1(普通ポルトランドセメント,実海水)が3.96×10−2cm2/secであった。
【0064】
この透水試験により、次の点を確認することができた。第1に、高炉セメントの使用を前提とし、練混ぜ水に海水を用いた場合、上水道水を用いた場合に比べ、拡散係数(透水係数)を低減することができる。第2に、練混ぜ水に海水を用いた場合でも、普通ポルトランドセメントを用いた場合には、上水道水を用いた場合に比べ、拡散係数(透水係数)に顕著な違いは認められない。第3に、高炉セメントの使用を前提とし、亜硝酸塩系混和剤やシリカフュームを混入させることは、海水を練混ぜ水に用いた場合でも、拡散係数(透水係数)の低減に極めて有効である。なお、シリカフュームに代えて、フライアッシュを用いても拡散係数を低減できると解される。要するに、ポゾランを混入すれば同様の作用効果が得られると解される。
【0065】
一般に、高炉セメントは上水で混練した場合、長期材齢(91日)において高炉スラグの効果で緻密になり、拡散係数を小さくできるといわれてきた。この透水試験によって、海水を練混ぜ水として用い海砂を細骨材として用いれば、材齢28日であっても拡散係数を小さくできることが確認できた。
【0066】
以上説明した圧縮強度試験、耐久性試験、及び、透水性試験の結果に基づき、次のことが判った。
【0067】
練混ぜ水に海水を、細骨材に海砂を用いた海水練りコンクリートでは、セメント成分として高炉セメントB種を用いると、緻密化が図れるため有効といえる。とりわけ、材齢28日までの期間においては、圧縮強度を上水道水を用いて作製したコンクリートよりも高くすることができる。これにより、早期の脱型が可能となる。そして、高炉セメントがアルカリ骨材反応を抑制するので、海水や海砂に含まれる塩化ナトリウムを起源とするナトリウムイオンが多量に存在しても、コンクリートの膨張を抑制できる。
【0068】
以上より、海水及び海砂を用いても、必要な耐久性を備えたコンクリート構造物を構築することができる。そして、海水や海砂は、上水の確保が困難な離島や沿岸地域であっても現地で容易に調達できるため、このような地域でコンクリート構造物を構築する場合に特に有用である。例えば、資材の輸送や上水の確保に際して、省エネルギーが実現でき、コストダウンが図れる。
【0069】
また、海水練りコンクリートにおいて、ラスナインなどの亜硝酸塩系混和剤を含む場合には、塩化物イオンによる腐食等の不具合も抑制できるとともに、硬化後のコンクリートにおける拡散係数を低下させることができることが判った。これにより、海水や海風に起因する塩分、あるいは、炭酸ガスなどのコンクリート内部への侵入など、外部からの有害因子の侵入を抑制できる。
【0070】
また、海水練りコンクリートにおいて、シリカフュームなどのポゾランを含む場合にも、硬化後のコンクリートにおける拡散係数を低下させることができることが判った。従って、亜硝酸塩系混和剤を含む場合と同様に、海水や海風に起因する塩分、あるいは、炭酸ガスなどのコンクリート内部への侵入など、外部からの有害因子の侵入を抑制できる。
【0071】
ところで、以上の実施形態に関する説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨、目的を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0072】
例えば、亜硝酸系混和剤に関し、多価アルコールニトロエステルを主成分とするものを例示したが、亜硝酸イオンを供給できれば、他の種類の亜硝酸系混和剤であっても同様の作用効果を奏する。例えば、亜硝酸カルシウムを主成分とするものや亜硝酸リチウムを主成分とするものを用いてもよい。
【0073】
また、高炉系セメントに関し、高炉セメントB種以外のものであってもよい。要するに、セメント成分として高炉スラグが含まれていれば、他の種類のセメントであっても同様の作用効果を奏する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉系セメントと海砂との混合物を海水で練り混ぜたことを特徴とする海水練りコンクリート。
【請求項2】
亜硝酸塩系混和剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の海水練りコンクリート。
【請求項3】
ポゾランを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の海水練りコンクリート。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の海水練りコンクリートを型枠内に打設し、硬化後に脱型したことを特徴とするコンクリート構造物。
【請求項1】
高炉系セメントと海砂との混合物を海水で練り混ぜたことを特徴とする海水練りコンクリート。
【請求項2】
亜硝酸塩系混和剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の海水練りコンクリート。
【請求項3】
ポゾランを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の海水練りコンクリート。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の海水練りコンクリートを型枠内に打設し、硬化後に脱型したことを特徴とするコンクリート構造物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−126628(P2012−126628A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281908(P2010−281908)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
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