説明

海洋エネルギー発電デバイス及びこれを用いた蓄電装置

【課題】潮流や潮汐等の種々の海洋エネルギーから電気エネルギーを得ることができる海洋エネルギー発電デバイス及びこれを用いた蓄電装置を提供することを目的とする。
【解決手段】海洋エネルギー発電デバイス1は、柔軟性弾性素材からなる内側弾性板11と、内側弾性板11を狭持する一対の圧電フィルム12a、12bと、柔軟性弾性素材からなり一対の圧電フィルムを狭持する一対の外側弾性板13a、13bと、を備える。一対の圧電フィルム12a、12bそれぞれは海洋エネルギー発電デバイス1の中立軸から離間しており、海洋エネルギー発電デバイス1が撓んだ際に一対の圧電フィルム12a、12bそれぞれが海洋エネルギー発電デバイス1の中立軸から離間して撓み発電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海洋エネルギー発電デバイス及びこれを用いた蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー需要の増大と地球温暖化が問題となっており、それに伴って太陽光発電や風力発電等、自然エネルギー源を利用した発電について更なる研究が続けられている。また、海洋の流れも時間・空間的に無尽蔵に存在する安定的な自然エネルギー源として期待できるものであり、このような海洋エネルギーの有効活用が望まれている。
【0003】
海洋エネルギーの有効活用としては、これまで種々のタイプの潮流発電、波力発電、潮汐発電が提案、研究が行われてきた。しかしながら、これらの海洋エネルギーを用いる発電は、太陽光発電や風力発電に比べ、発電効率、経済性、安全性、景観、コスト等の面で課題が多く、本格的な実用化は困難な状況にある。
【0004】
このような自然エネルギーを電気エネルギーへ変換可能な素子や装置等について、種々の研究開発がなされており、例えば、特許文献1では、圧電素子を用いた風力発電モジュールが開示されている。特許文献1では、受風板の一端が基台に固定され、他端(自由端)に柔軟なリボン形の布材やフィルム材からなる吹き流し部材が取り付けられている。そして、受風板の両面に圧電素子が固定されており、吹き流し部材が様々な方角からの風を受けて自由にバタつき、それが受風板に伝わることで、圧電素子からの発電を促進させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−24583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の風力発電モジュールでは、プラスチック板や金属薄板等、硬質弾性素材からなる板が受風板として用いられている。受風板が硬質弾性素材であるため、受風板に厚みがあると撓みにくくなり、圧電素子として柔軟な圧電フィルムを用いた場合には、圧電フィルムが歪みにくい。海洋にこの風力発電モジュールをそのまま配置しても、波等による揺らぎでは圧電フィルムの撓みが不十分となり、発電効率を高めることができないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、潮流や潮汐等の種々の海洋エネルギーから電気エネルギーを得ることができる海洋エネルギー発電デバイス及びこれを用いた蓄電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る海洋エネルギー発電デバイスは、
海洋に設置され海洋エネルギーを電気エネルギーに変換する海洋エネルギー発電デバイスであって、
柔軟性弾性素材からなる内側弾性板と、
前記内側弾性板を狭持する一対の圧電フィルムと、
柔軟性弾性素材からなり前記一対の圧電フィルムを狭持する一対の外側弾性板と、を備え、
前記一対の圧電フィルムそれぞれが前記海洋エネルギー発電デバイスの中立軸から離間しており、前記海洋エネルギー発電デバイスが撓んだ際に前記一対の圧電フィルムそれぞれが前記海洋エネルギー発電デバイスの前記中立軸から離間して撓み発電する、ことを特徴とする。
【0009】
また、前記一対の外側弾性板の厚みがそれぞれ同じであることが望ましい。
【0010】
また、前記柔軟性弾性素材がシリコンゴム、天然ゴムまたは合成ゴムであることが望ましい。
【0011】
また、前記一対の圧電フィルム間の距離(δ)と前記海洋エネルギー発電デバイスの厚み(H)との関係が0.8<δ/H<1であることが望ましい。
【0012】
更に、前記一対の外側弾性板を狭持するように、一対以上の圧電フィルムと一対以上の外側弾性板が交互に積層されていてもよい。
【0013】
本発明に係る蓄電装置は、
上記いずれかの海洋エネルギー発電デバイスと、
前記海洋エネルギー発電デバイスに接続する整流器と、
前記整流器に接続する蓄電体と、を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る海洋エネルギー発電デバイスでは、撓んだ際に内包されるそれぞれの圧電フィルムは中立軸から離間した状態で撓む。圧電フィルムが海洋エネルギー発電デバイスの中立軸から離間した状態で撓むことで、撓み発生時にはいずれの圧電フィルムも全面的に伸張或いは収縮するので、同一圧電フィルム内で生じる電圧が相殺されることなく、大きな電圧を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】海洋エネルギー発電デバイスの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】海洋エネルギー発電デバイスの断面図である。
【図3】海洋エネルギー発電デバイスが撓んだときの状態を示す断面図である。
【図4】海洋エネルギー発電デバイスが撓んだときの状態を示す断面図である。
【図5】海洋エネルギー発電デバイスの配線を示す断面図である。
【図6】海洋エネルギー発電デバイスの配線を示す回路図である。
【図7】海洋エネルギー発電デバイスの配線を示す断面図である。
【図8】海洋エネルギー発電デバイスの配線を示す回路図である。
【図9】他の形態に係る海洋エネルギー発電デバイスの断面図である。
【図10】蓄電装置の概略構成を示す回路図である。
【図11】実施例1における出力電圧の測定結果である。
【図12】実施例1における出力電圧の測定結果である。
【図13】実施例2における電力測定結果である。
【図14】(A)は、実施例3におけるCase1の海洋エネルギー発電デバイスが変形する様子を示す図、(B)は、実施例3におけるCase2の海洋エネルギー発電デバイスが変形する様子を示す図である。
【図15】実施例3におけるCase3の海洋エネルギー発電デバイスが変形する様子を示す図である。
【図16】実施例3におけるCase4の海洋エネルギー発電デバイスが変形する様子を示す図である。
【図17】実施例3におけるCase1の出力電圧の経時変化を示す図である。
【図18】実施例3におけるCase2の出力電圧の経時変化を示す図である。
【図19】実施例4における円柱後流の乱流および渦エネルギーによって変形する海洋エネルギー発電デバイスの様子を示す図である。
【図20】実施例4における出力された起電力の経時変化を示す図である。
【図21】実施例5における出力電圧の経時変化を示す図である。
【図22】実施例5における蓄電電圧の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(海洋エネルギー発電デバイス)
海洋エネルギー発電デバイスについて、図を参照しつつ説明する。海洋エネルギー発電デバイスは、図1の分解斜視図、図2の断面図に示すように、内側弾性板11と、内側弾性板11を狭持する一対の圧電フィルム12a、12bと、一対の圧電フィルム12a、12bを狭持する一対の外側弾性板13a、13bから構成される。
【0017】
内側弾性板11、及び、外側弾性板13a、13bは、潮流等の海洋エネルギーによって柔軟に変形しやすいよう、撓みやすく伸縮性を備える柔軟性弾性素材から構成される。柔軟性弾性素材として、シリコンゴム、天然ゴム、合成ゴム等が挙げられる。
【0018】
また、外側弾性板13a、13bはそれぞれほぼ同じ厚みである。このため、海洋エネルギー発電デバイス1が撓んだ際に、中立軸は中央に配置される内側弾性板11に存在する。
【0019】
圧電フィルム12a、12bはその歪みに応じて分極して電荷を発生し、発電する特性を備える。圧電フィルム12a、12bは、蒸着、スパッタリング或いは導電性ペーストなどによって両面に電極膜が形成されている。圧電フィルム12a、12bそれぞれの両面の電極膜にそれぞれ配線21a、21b、22a、22bが接続されており、この配線21a、21b、22a、22bから圧電フィルム12a、12bの歪みに応じて発生する電荷が取り出される。
【0020】
海洋エネルギー発電デバイス1は、波等の揺らぎで圧電フィルム12a、12bを撓ませて、発電させるものゆえ、圧電フィルム12a、12bとして、柔軟な高分子材料からなる高分子圧電フィルム12a、12bが用いられる。例えば、ポリフッ化ビニリデンやシアン化ビニリデンを素材とする高分子圧電フィルムが挙げられる。
【0021】
圧電フィルム12a、12bは、波等の揺らぎでも柔軟に撓みやすいよう、厚みが40〜110μmの超薄型であることが好ましい。超薄型の圧電フィルム12a、12bは、軽量で柔軟な機械的運動特性に加え、内側弾性板11、及び、外側弾性板13a、13bとの良好な接合性や所望の形に容易に加工できるという長所を備えている。
【0022】
圧電フィルム12a、12bと内側弾性板11及び外側弾性板13a、13bとは、密着されていることが好ましい。圧電フィルム12a、12bと内側弾性板11及び外側弾性板13a、13bとが密着状態にあることで、内側弾性板11及び外側弾性板13a、13bの撓みによって圧電フィルム12a、12bの伸長、或いは圧縮が促進される。これにより、圧電フィルム12a、12bの発電効率が高められる。圧電フィルム12a、12bと内側弾性板11及び外側弾性板13a、13bとの密着は、シリコン系樹脂等の接着によるものでもよい。
【0023】
また、海洋エネルギー発電デバイス1は、海中に設置されて使用されるものであり、圧電フィルム12a、12bと内側弾性板11及び外側弾性板13a、13bとが密着されることにより防水効果が高められ、圧電フィルム12a、12bの電極膜や配線の錆の防止のほか、耐久性の向上にも寄与する。
【0024】
続いて、海洋エネルギー発電デバイス1が撓んだ状態について説明する。図3に、海洋エネルギー発電デバイス1が撓んだ状態の断面を示す。図中、一点破線は海洋エネルギー発電デバイス1の中立軸を示している。一対の外側弾性板13a、13bはそれぞれほぼ同じ厚みであるので、海洋エネルギー発電デバイス1が撓んだときに中立軸は内側弾性板11に存在する。そして、一対の圧電フィルム12a、12bは内側弾性板11を狭持した構造であるため、一対の圧電フィルム12a、12bは、いずれも海洋エネルギー発電デバイス1の中立軸から離間した状態で撓んでいる。
【0025】
図3のように、海洋エネルギー発電デバイス1が上方に突出して撓んだ場合では、上方に位置する圧電フィルム12aの両面はいずれも引っ張られるので、圧電フィルム12aは全面的に伸張する。一方、下方に位置する圧電フィルム12bの両面はいずれも押し縮められるので、圧電フィルム12bは全面的に収縮することになる。
【0026】
一方、中立軸に圧電フィルムが存在する場合、圧電フィルムの発電効率が低下する。これについて、図4を参照して説明する。図4は、一枚の圧電フィルム12を一対の外側弾性板13a、13bで狭持した構造の海洋エネルギー発電デバイス2が撓んだ状態の断面を示している。図中の一点破線は中立軸である。
【0027】
図4に示すように、中立軸に圧電フィルム12が存在している場合、圧電フィルム12の一方の面(図における上面)が伸長し、他方の面(図における下面)が収縮することになる。この場合、圧電フィルム12内に生じる電圧が相殺されることとなり、発電効率の低下をきたす。
【0028】
このように、圧電フィルムを撓ませて発電させる場合、圧電フィルムの両面がともに伸張或いは圧縮されることが重要である。本実施の形態に係る海洋エネルギー発電デバイス1では、図3に示したように、一対の圧電フィルム12a、12bそれぞれが中立軸から離間した状態で撓むため、それぞれの圧電フィルム12a、12bは撓みつつも全面的に伸張歪み、或いは、収縮歪みを生じる。このため、圧電フィルム12a、12b内で生じる電圧が相殺されることなく、それぞれの圧電フィルム12a、12bから効率的に発電させることができる。
【0029】
一対の圧電フィルム12a、12bはできるだけ離間していることが好ましい。圧電フィルム12a、12b間の距離が大きいほど、海洋エネルギー発電デバイス1が撓んだ際に、それぞれの圧電フィルム12a、12bが中立軸からより離間して、伸張或いは収縮するが、圧電フィルム12a、12bが中立軸から離間することで、その変形量は大きくなる。そして、圧電フィルム12a、12bは、変形量に応じた電荷を生じるので、中立軸から離間して大きく変形することにより、より大きな電圧を発生させることができるためである。
【0030】
例えば、図2に示すように、圧電フィルム12a、12b間の距離をδ、海洋エネルギー発電デバイス1の厚みをHとすると、0.8<δ/H<1であることが好ましい。δ/Hが0.8より小さいと、圧電フィルム12a、12bの撓みによる変形量が小さいので、発生する電荷が少なくなるためである。
【0031】
更に、海洋エネルギー発電デバイス1は2枚の圧電フィルム12a、12bを内包しているが、これらに接続する配線21a、21b、22a、22bは以下のように接続するとよい。
【0032】
図5のように、海洋エネルギー発電デバイス1が下方凸状に撓んでいる場合を考える。なお、ここでは、圧電フィルム12aおよび12bは、伸張したときにフィルムの下面が+極、上面が−極、一方で、収縮したときは、上面が+極、下面が−極となる分極特性を有しているとする。海洋エネルギー発電デバイス1が下方凸状に撓んでいる場合、上方に位置する圧電フィルム12aは、収縮しているので、分極が生じ、上面の電位が高くなり(上面が+極、下面が−極)、一方、下方に位置する圧電フィルム12bは、伸張しているので、分極が生じ、下面の電位が高くなる(下面が+極、上面が−極)。
【0033】
圧電フィルム12aの上面の電極膜に接続する配線21aと圧電フィルム12bの下面の電極膜に接続する配線22aとを結線し、配線23aとする。一方、圧電フィルム12aの下面の電極膜に接続する配線21bと圧電フィルム12bの上面の電極膜に接続する配線22bとを結線し、配線23bとする。このように、海洋エネルギー発電デバイス1が撓んだ際に、圧電フィルム12a、12bそれぞれの電位が高くなる電極膜同士(+極になる電極膜同士)に接続する配線を結線するとよい。
【0034】
図6は、上記のように配線した場合の回路図を示している。上記のように配線することにより、図6の矢印で示すように、圧電フィルム12a、12bから出力される電流の向きを互いに一致させて取り出すことができるので、高い出力電圧を得られる。
【0035】
一方で、図7に示すように、上記とは逆に配線21aと配線22bとを結線し、配線21bと配線22aとを結線した場合、図8の回路図に示すように、圧電フィルム12a、12bから出力される電流の向きが互いに逆になるので、電流が相殺されてしまい、出力電圧が低くなるため好ましくない。このように、圧電フィルムの特性を把握し、配線することが、発電する上で重要である。
【0036】
図9は、他の形態に係る海洋エネルギー発電デバイス3の断面構造を示している。海洋エネルギー発電デバイス3は、上述した海洋エネルギー発電デバイス1に加え、一対の圧電フィルム14a、14bと一対の外側弾性板15a、15bを備えている。
【0037】
一対の外側弾性板13a、13bを狭持して一対の圧電フィルム14a、14bが積層されている。そして、一対の圧電フィルム14a、14bを狭持して一対の外側弾性板15a、15bが積層されている。
【0038】
一対の外側弾性板15a、15bはそれぞれ同じ素材、同じ厚みとすることで、海洋エネルギー発電デバイス3は、内側弾性板11の中心軸を中立軸として撓むことになる。このため、4枚の圧電フィルム12a、12b、14a、14bは、それぞれ中立軸から離間した状態で撓む。これにより、4枚の圧電フィルム12a、12b、14a、14bは撓みつつもそれぞれ全面的に伸張歪み、或いは、収縮歪みを生じる。従って、同一圧電フィルム内において発生電圧が相殺されることがないので、それぞれの圧電フィルム12a、12b、14a、14bから効率的に発電させることができる。
【0039】
なお、更に一対以上の圧電フィルムと一対以上の外側弾性板を同様に交互に積層した構造であってもよい。
【0040】
(蓄電装置)
図10を参照して、蓄電装置について説明する。蓄電装置5は、海洋エネルギー発電デバイス4と、海洋エネルギー発電デバイス3に接続する整流器31と、整流器31に接続する蓄電体32とを備える。
【0041】
海洋エネルギー発電デバイス4は、上述した海洋エネルギー発電デバイス1、3が用いられる。
【0042】
整流器31は、海洋エネルギー発電デバイス4から出力される電流(交流)を整流して蓄電体32に送るものである。整流器31は、所謂全波整流器であり、整流素子としてダイオードが4つ用いられ、4つのダイオードでブリッジ状に整流回路を構成しており、海洋エネルギー発電デバイス3から発生した交流が無駄なく蓄電体32に送られる。
【0043】
蓄電体32は、整流器31を経て流れてくる電荷を蓄積するものである。蓄電体32として、種々の蓄電池やキャパシタ等が用いられる。
【0044】
上記の構成により、海洋エネルギー発電デバイス4が波エネルギー等により撓んで、内部にある圧電フィルムの撓み歪みで生じる電荷が整流器31を経て効率的に蓄電体32に蓄電される。
【実施例1】
【0045】
圧電フィルムが海洋エネルギー発電デバイスの中立軸に存在している場合、及び、圧電フィルムが海洋エネルギー発電デバイスの中立軸から離間して存在している場合ついて、それぞれの海洋エネルギー発電デバイスを振動させて、海洋エネルギー発電デバイスから出力される電圧について検証した。
【0046】
圧電フィルムとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)製圧電フィルム(厚み110μm)(呉羽化学株式会社製)、内側弾性板及び外側弾性板としてシリコンシートを用いて、海洋エネルギー発電デバイスを作成した。作成した海洋エネルギー発電デバイスは、圧電フィルム間距離(内側弾性板の厚み)δ=1mm、それぞれの外側弾性板の厚み0.5mm、海洋エネルギー発電デバイスの厚みH=約2mmである。以下、本実施例において、これを海洋エネルギー発電デバイスAと記す。
【0047】
また、参考例として、外側弾性板としてシリコンシート、圧電フィルムとして厚み110μmのポリフッ化ビニリデン(PVDF)製圧電フィルム(呉羽化学株式会社製)を用い、1枚の圧電フィルムを一対の外側弾性板で狭持した構造の海洋エネルギー発電デバイスを作成した。作成した海洋エネルギー発電デバイスは、それぞれの外側弾性板の厚み0.5mm、海洋エネルギー発電デバイスの厚みH=約1mmである。以下、本実施例において、これを海洋エネルギー発電デバイスBと記す。
【0048】
なお、いずれの海洋エネルギー発電デバイスA、Bも、長さ×幅はいずれも15.0cm×2.0cmである。
【0049】
それぞれの海洋エネルギー発電デバイスA、Bの一端を加振器に接続し、周期的に振動を与え、海洋エネルギー発電デバイスA、Bの撓み変形を繰り返し生じさせ、発生する電圧を測定した。
【0050】
図11にその結果を示す。また、図12に、図11の縦軸のレンジを拡大し、海洋エネルギー発電デバイスBからの発生電圧の経時変化を示す。圧電フィルムが海洋エネルギー発電デバイスの中立軸に存在している場合、最大でも0.04V程度である。圧電フィルムが中立軸に存在するため、圧電フィルムの一方の面が伸張し、他方の面が収縮するので、圧電フィルム内で電圧が相殺されてしまい、高い電圧を出力することができないことがわかる。
【0051】
一方、海洋エネルギー発電デバイスAでは、図11に示すように、2枚の圧電フィルムは、それぞれ最大で10V以上の電圧を出力している。2枚の圧電フィルムはいずれも中立軸から離間して存在しているので、それぞれの圧電フィルムが全面的に伸張或いは収縮するため、圧電フィルム内で電圧が相殺されることなく、いずれの圧電フィルムからも高い電圧を発生させることができる。
【実施例2】
【0052】
一対の圧電フィルム間距離を異ならせた海洋エネルギー発電デバイスを作成し、それぞれの海洋エネルギー発電デバイスを2次元造波水槽内に設置して、一対の圧電フィルム間距離の相異による電力量について検証を行った。
【0053】
圧電フィルムとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)製圧電フィルム(厚み110μm)(呉羽化学株式会社製)、内側弾性板及び外側弾性板としてシリコンシートを用いて、海洋エネルギー発電デバイスを作成した。
【0054】
圧電フィルム間距離(内側弾性板の厚み)δ=5mm、それぞれの外側弾性板の厚み0.5mm、海洋エネルギー発電デバイス厚みのH=約6mm、δ/H≒0.83として作成した海洋エネルギー発電デバイスを、以下、海洋エネルギー発電デバイスCと記す。また、圧電フィルム間距離δ=1mm、それぞれの外側弾性板の厚み0.5mm、海洋エネルギー発電デバイスの厚みH=約2mm、δ/H≒0.5として作成した海洋エネルギー発電デバイスを、以下、海洋エネルギー発電デバイスDと記す。作成した2種類の海洋エネルギー発電デバイスC、Dの長さ×幅はいずれも28.5cm×4.0cmである。
【0055】
また、用いた2次元造波水槽の仕様は、長さ×幅×高さ=8.0m×0.2m×0.6mである。
【0056】
2次元造波水槽のおよそ中央に、波の進行方向とPVDF接着面が直交するように海洋エネルギー発電デバイスC、Dを鉛直に配置し、下端を固定装置で固定した。海洋エネルギー発電デバイスC、Dは、固定部以外が外力により自由に変形することが可能である。
【0057】
造波装置により周期1s、波高5〜90mmの規則波を発生させ、それぞれ海洋エネルギー発電デバイスC、Dからの出力電圧をA/D変換機を経て計測した。
【0058】
図13は、入射波mmと電力換算値mWの関係を示したものである。なお、この電力はA/D変換機の内部抵抗を考慮して換算したものである。
【0059】
図13を見ると、いずれの海洋エネルギー発電デバイスC、Dにおいても、波高が大きいほど発電量が大きいことがわかる。そして、圧電フィルム間距離δが5mm(δ/H=0.83)の海洋エネルギー発電デバイスCでは、圧電フィルム間距離δが1mm(δ/H=0.5)の海洋エネルギー発電デバイスDに比べ、大幅に発電量が大きくなっている。海洋エネルギー発電デバイスCでは、一対の圧電フィルムがそれぞれ中立軸から大きく離間しているので、圧電フィルムの変形量が大きくなり、発電量が増加している。このように、圧電フィルム間距離δを大きくすることで電力量を大幅に向上させられることを実証した。
【実施例3】
【0060】
波浪・砕波エネルギーによる海洋エネルギー発電デバイスの発電について検証を行った。
【0061】
圧電フィルムとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)製圧電フィルム(厚み110μm)(呉羽化学株式会社製)、内側弾性板及び外側弾性板としてシリコンシートを用いて、海洋エネルギー発電デバイスを作成した。作成した海洋エネルギー発電デバイスは、圧電フィルム間距離(内側弾性板の厚み)δ=5mm、各外側弾性板の厚み0.5mm、デバイスの厚みH=6mm、長さ28.5cm、幅4cmである。この海洋エネルギー発電デバイスを、以下、海洋エネルギー発電デバイスEと記す。
【0062】
水槽に潜堤(天端高30cm、天端幅39cm、天端水深6.5cm)を設置し、海洋エネルギー発電デバイスEを、潜堤の波上側(Case1)及び波下側(Case2)からそれぞれ5cm離れた場所に、下端を固定し直立に設置した。
【0063】
そして、一様水深36.5cm、入射波高8cm、波周期1sの条件で波を起こし、潜堤によって強制的に砕波現象を発生させた。
【0064】
また、同様の海洋エネルギー発電デバイスEを潜堤の波上上端部に水平に片持ち支持(支持点:没水深6.5cm、波上側上端部から5cm)させた場合(Case3)についても行った。
【0065】
また、潜堤を設置しない場合(Case4)についても、海洋エネルギー発電デバイスEの下端を水槽に固定し直立に設置して行った。
【0066】
図14(A)はCase1の場合、図14(B)はCase2の場合における、潜堤周辺の渦・流れ・砕波によって海洋エネルギー発電デバイスEが変形する様子を示したものである。図14(A)を見ると、Case1の場合、砕波前であるが、天端上の水平流れによって波下側に海洋エネルギー発電デバイスEが大きく変形していることがわかる。また、図14(B)を見ると、Case2の場合、砕波に伴う連行気泡と水平渦によって波下側に海洋エネルギー発電デバイスEが大きく変形していることがわかる。
【0067】
更に、図15を見ると、Case3の場合、砕波前であるが、波動運動によって海洋エネルギー発電デバイスEの自由端が上下に大きく変形していることがわかる。
【0068】
また、図16を見ると、Case4の場合、海洋エネルギー発電デバイスEは没水と冠出を繰り返しながら大きく変形していることがわかる。
【0069】
海洋エネルギー発電デバイス設置位置における渦・流れ・砕波現象に応じて、海洋エネルギー発電デバイスEはそれぞれ撓み変形を生じた。そして、出力される電圧は、渦・流れ・砕波現象に応じた特徴的な起電力波形となっていた。これらのことから、いずれの流体場であっても海洋エネルギー発電デバイスは柔軟に変形し、波エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能であることがわかる。
【0070】
なお、図17は、Case1における海洋エネルギー発電デバイスEから発生した出力電圧の経時変化、図18は、Case2における海洋エネルギー発電デバイスEから発生した出力電圧の経時変化を示している。これらの起電力波形を積分し、平均電力値(mW)に換算すると、Case1の場合0.0578mW、Case2の場合0.0394mW、Case3の場合0.0589mW、Case4の場合0.0557mWであった。
【0071】
なお、用いた本海洋エネルギー発電デバイスのサイズであれば、1波長当たり50〜100個程度は設置可能であることを考慮すると、波の理論エネルギーに対して、14〜27%の発電効率(1個当たり役0.27%)と推定される。
【実施例4】
【0072】
一様流場の上流側に円柱体(Bluff body)を固定し、その後流において生成される乱流・渦場によって、海洋エネルギー発電デバイスを変形させた場合の発電特性について検証を行った。これは、潮流・渦による発電に関わる検証である。
【0073】
圧電フィルムとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)製圧電フィルム(厚み110μm)(呉羽化学株式会社製)、内側弾性板及び外側弾性板としてシリコンシートを用いて、海洋エネルギー発電デバイスを作成した。作成した海洋エネルギー発電デバイスは、圧電フィルム間距離(内側弾性板の厚み)δ=5mm、各外側弾性板の厚み0.5mm、デバイスの厚みH=6mm、長さ28.5cm、幅4cmである。この海洋エネルギー発電デバイスを、以下、海洋エネルギー発電デバイスFと記す。
【0074】
円柱体の直径は11.5cm、一様流速は0.74m/sec、円柱体と海洋エネルギー発電デバイスFとの距離は19cm、レイノルズ数は8.51×10である。
【0075】
図19に、円柱後流の乱流および渦エネルギーによって変形する海洋エネルギー発電デバイスFの様子を示す。また、図20に、海洋エネルギー発電デバイスFから出力された起電力の経時変化を示したものである。
【0076】
図19、20から、柔軟な海洋エネルギー発電デバイスFは、円柱後流の乱流・渦エネルギーによっても、準周期的に変形を繰り返し、その結果として、大きな出力電圧を発生させていることがわかる。従って、乱流・渦エネルギーによっても、海洋エネルギー発電デバイスFは発電できることを立証した。
【実施例5】
【0077】
図10に示す蓄電装置5を構成し、海洋エネルギー発電デバイスから生じる電力の蓄電を試みた。圧電フィルムとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)製圧電フィルム(厚み80μm)(呉羽化学株式会社製)、内側弾性板及び外側弾性板としてシリコンシートを用いて、海洋エネルギー発電デバイスを作成した。作成した海洋エネルギー発電デバイスは、圧電フィルム間距離(内側弾性板の厚み)δ=約1mm、各外側弾性板の厚み0.5mm、デバイス厚みH=約2mm、長さ約17cm、幅約1.7cmである。この海洋エネルギー発電デバイスを、以下、海洋エネルギー発電デバイスGと記す。蓄電体として、コンデンサを用いた。
【0078】
図21は、海洋エネルギー発電デバイスGからの出力電圧の経時変化、図22は、蓄電電圧の経時変化を示している。図22からわかるように、時間経過とともに蓄電できることがわかる。したがって、この蓄電装置を海洋に設置することにより、小規模〜大規模発電施設を整備することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る海洋エネルギー発電デバイスは、柔軟性弾性素材からなる内側弾性板を一対の柔軟な圧電フィルムで狭持し、更に、一対の圧電フィルムを柔軟性弾性素材からなる外側弾性板が狭持する構成である。いずれの圧電フィルムも、海洋エネルギー発電デバイスの中立軸から離間して撓み変形するので、いずれの圧電フィルムも全面的に伸張或いは収縮することになり、圧電フィルム内における発生電圧が相殺されず、高い電圧が出力される。そして、海洋エネルギー発電デバイスは柔軟性に富むため、潮流や潮汐等の種々の海洋エネルギーを受けて柔軟に撓み変形し発電するので、海洋における設置場所を選ぶことなく、種々の海洋エネルギーを利用する発電施設等に利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 海洋エネルギー発電デバイス
2 海洋エネルギー発電デバイス
3 海洋エネルギー発電デバイス
4 海洋エネルギー発電デバイス
5 蓄電装置
11 内側弾性板
12 圧電フィルム
12a 圧電フィルム
12b 圧電フィルム
13a 外側弾性板
13b 外側弾性板
14a 圧電フィルム
14b 圧電フィルム
15a 外側弾性板
15b 外側弾性板
21a 配線
21b 配線
22a 配線
22b 配線
23a 配線
23b 配線
31 整流器
32 蓄電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋に設置され海洋エネルギーを電気エネルギーに変換する海洋エネルギー発電デバイスであって、
柔軟性弾性素材からなる内側弾性板と、
前記内側弾性板を狭持する一対の圧電フィルムと、
柔軟性弾性素材からなり前記一対の圧電フィルムを狭持する一対の外側弾性板と、を備え、
前記一対の圧電フィルムそれぞれが前記海洋エネルギー発電デバイスの中立軸から離間しており、前記海洋エネルギー発電デバイスが撓んだ際に前記一対の圧電フィルムそれぞれが前記海洋エネルギー発電デバイスの前記中立軸から離間して撓み発電する、
ことを特徴とする海洋エネルギー発電デバイス。
【請求項2】
前記一対の外側弾性板の厚みがそれぞれ同じであることを特徴とする請求項1に記載の海洋エネルギー発電デバイス。
【請求項3】
前記柔軟性弾性素材がシリコンゴム、天然ゴムまたは合成ゴムであることを特徴とする請求項2または3に記載の海洋エネルギー発電デバイス。
【請求項4】
前記一対の圧電フィルム間の距離(δ)と前記海洋エネルギー発電デバイスの厚み(H)との関係が0.8<δ/H<1であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の海洋エネルギー発電デバイス。
【請求項5】
更に、前記一対の外側弾性板を狭持するように、一対以上の圧電フィルムと一対以上の外側弾性板が交互に積層されている、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の海洋エネルギー発電デバイス。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの海洋エネルギー発電デバイスと、
前記海洋エネルギー発電デバイスに接続する整流器と、
前記整流器に接続する蓄電体と、を備える、
ことを特徴とする蓄電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−106434(P2011−106434A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265726(P2009−265726)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第21回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム、社団法人 電気学会(産業応用部門)、平成21年5月20日(水)−22日(金)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】