説明

海苔の色管理方法およびこれに用いる海苔網の干出装置、海苔養殖システム並びに海苔作業船

【課題】海苔の色落ちを確実に防止したり色を黒く戻したりして極めて良質な海苔を生産することができ、海上における海苔網等の設置姿勢の直線性を高く維持することができる海苔の色管理方法およびこれに用いる海苔網の干出装置、海苔養殖システム並びに海苔作業船を提供すること。
【解決手段】海面に設置されている海苔網13を海面から浮上させて所定時間に亘って干出状態に保持し、干出状態にある前記海苔網13に栄養塩を付与して海苔の色落ち防止若しくは色戻りを行わせることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な構成により海苔の色落ち防止若しくは色戻りを行わせて養殖することのできる海苔の色管理方法およびこれに用いる海苔網の干出装置、海苔養殖システム並びに海苔作業船に関する。本発明において、海苔とは、海苔、ひじき、昆布、若芽、もずく、うご海苔等の海藻類の総称である。
【背景技術】
【0002】
従来から、海苔の養殖において、良質の海苔を得るために海苔網の干出および浸漬が繰り返し行なわれている。これは、海水中の雑菌や藻が付着して海苔の苗、芽および葉体に病気が蔓延してしまうことを防止するため、海苔網を海水中における展張状態から空中に干出させて、天日干ししたり、有機酸等による活性処理を行ったり、海水中に展張させることを繰り返して、海苔の育苗、育成を行うためである。
【0003】
このような海苔網の干出および浸漬を行なう海苔網の干出装置として本出願人は、特許文献1に示す海苔網の干出装置、海苔養殖システムおよび海苔作業船を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−089438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の海苔網の干出装置、海苔養殖システムおよび海苔作業船においては、簡易な構造により海苔網の干出および浸漬を容易かつ迅速に行なうことができ、良質の海苔を養殖することができる海苔網の干出装置、海苔養殖システムおよび海苔作業船を提供するものであった。
【0006】
また、近年においては海苔の養殖海域における水質の変化等に伴って海苔の色落ちが激しく、これを有効に防止する手法の開発が要望されていた。
【0007】
また、前記特許文献1に記載されているシステムにおいて風が強い場合や潮流が強い場合に干出装置やこれに展張された海苔網が長手方向に対して大きく湾曲変形してしまうので、これを有効に防止する手法の開発が要望されていた。
【0008】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、海苔の色落ちを確実に防止したり色を黒く戻したりして極めて良質な海苔を生産することができ、海上における海苔網等の設置姿勢の直線性を高く維持することができ、海苔網の干出を確実かつ容易に行うことができる海苔の色管理方法およびこれに用いる海苔網の干出装置、海苔養殖システム並びに海苔作業船を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記目的を達成するために鋭意研究し、海苔網を海面から浮上させた干出状態において栄養塩を付与することにより海苔の色落ちを防止したり色戻りを図ることができることを発見して本発明を完成させたものである。
【0010】
前述した目的を達成するため本発明に係る海苔の色管理方法は、海面に設置されている海苔網を海面から浮上させて所定時間に亘って干出状態に保持し、干出状態にある前記海苔網に栄養塩を付与して海苔の色落ち防止若しくは色戻りを行わせることを特徴とする。
【0011】
このような構成を採用したことにより、干出状態の海苔網に栄養塩が付与されると海苔網に付着している海苔の葉体が細胞膜を通して栄養塩を吸収して健苗性を高めて、例えば、色落ち状態にある場合にはそれ以上の色落ちが防止され、更には、色が健全な黒色に戻ることとなり、極めて良質な海苔となる。
【0012】
また、海苔網の干出装置は、下方に垂設された2本の脚部と、これら脚部を連結する長辺とからなるコ字形状の剛体状の枠体であって前記長辺を並列するように配置されている複数の枠体と、前記各脚部の端部に枠体の並列方向両側に配設されて前記枠体を起立させる浮子と、前記各脚部の端部から前記長辺の長手方向外方向きに突設された位置保持用バーであって、その外方端部に海面に設置される枠綱に挿通されるリングが回転自在に取付けられている位置保持用バーと、前記各長辺に挿通され、前記各枠体を回動自在に支持する回動部材と、前記各回動部材に連結され、前記各枠体を連結するとともに端部を海面に設置される台浮子固定綱に固着される連結手段と、 前記長辺の少なくとも一端側の脚部に配設されている各浮子の枠体の並列方向における一端側にそれぞれ連結されて前記各枠体を連結する転倒用連結手段と、前記各枠体間に張設された海苔網とを有することを特徴とする。
【0013】
このような構成を採用したことにより、海苔網の干出および浸漬を行なう機構を簡易な物とすることができるとともに、干出装置全体およびこれに取付けられた海苔網を強い風や強い潮流を受けた場合においても海面に直線性を高く保持して設置させることができる。また、海苔作業船を直線性を高くして海面に設置されている各枠体の下を通過させることにより容易に各枠体を起立させて海苔網を干出させることができるとともに、転倒用連結手段を引くことにより容易に各枠体を倒して海苔網を海水に浸漬させることができる。海苔網に栄養塩を付与して海苔網を干出させることにより、海苔の色落ちを確実に防止したり色戻りを図って、品質の高い海苔を生産することができる。
【0014】
また、海苔網の干出装置においては、各脚部の上部に、各枠体の配列方向の少なくとも一方に干出補助部材を配列方向に張出して配設するとよい。
【0015】
このような構成を採用したことにより、各枠体を倒しても干出補助材により海苔網を干出位置に保持することができ、海が荒れている場合においても海苔網を確実に干出位置に保持することができる。
【0016】
本発明の海苔作業船は、請求項2または請求項3に記載の海苔網の干出装置の各枠体の下を通過して各枠体を起立させるガイドを有することを特徴とする。
【0017】
このような構成を採用したことにより、海水に浸漬されている状態の海苔網の下即ち各枠体の下を海苔作業船を通過させると、各枠体が起立され浮子の浮力によって海面上に起立させられ、海苔網が干出位置に保持される。
【0018】
また、本発明の海苔作業船においては、海苔刈り取り機構および海苔の栄養塩付与機構の少なくとも一方を設けるとよい。
【0019】
このような構成を採用したことにより、海苔作業船によって各枠体を起立させると同時に、海苔網から成長した海苔を刈り取ったり、栄養塩を付与して海苔に対する色落ち防止処理や色戻り処理を施したり、海苔の刈り取りの直後に海苔の色落ち防止処理や色戻り処理を施すことができる。
【0020】
本発明の海苔の養殖システムは、請求項2または請求項3に記載の海苔網の干出装置を用いて海苔網を海面に展張したことを特徴とする。
【0021】
このような構成を採用したことにより、海苔網の海水からの干出と海水への浸漬とを容易に変更可能として海苔の養殖を行うことができ、高品質の海苔を得ることができる。
【0022】
また、海苔の養殖システムとしては、海苔網の干出装置の各枠体の下を通過して各枠体を起立させるガイドを有する海苔作業船を備えているとよい。
【0023】
このような構成を採用したことにより、海水に浸漬されている状態の海苔網の下即ち各枠体の下を海苔作業船を通過させて、各枠体を起立させて浮体の浮力によって海面上に起立させ、海苔網を干出位置に保持する海苔の養殖を施すことができる。
【0024】
また、海苔の養殖システムは、前記海苔作業船が海苔刈り取り機構および海苔の栄養塩付与機構の少なくとも一方を有することを特徴とする。
【0025】
このような構成を採用したことにより、海苔作業船によって各枠体を起立させると同時に、海苔網から成長した海苔を刈り取ったり、栄養塩を付与して海苔に対する色落ち防止処理や色戻り処理を施したり、海苔の刈り取りの直後に海苔の色落ち防止処理や色戻り処理を施すようにして海苔の養殖を行うことができる。
【0026】
本発明において、海苔の養殖とは海苔の育苗、育成のことをいい、一方の海苔の育苗は海苔網を複数枚重ねて海面に展張して、海苔の苗を育てるものであり、他方の海苔の育成は海苔が苗に成長した海苔網を1枚ずつ海面に展張して、海苔の芽や葉体を育てるものである。
【発明の効果】
【0027】
このように本発明の海苔の色管理方法およびこれに用いる海苔網の干出装置、海苔養殖システム並びに海苔作業船によれば、海苔の色落ちを確実に防止したり色を黒く戻したりして極めて良質な海苔を生産することができ、海上における海苔網等の設置姿勢の直線性を高く維持することができ、海苔網の干出を確実かつ容易に行うことができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る海苔網の干出装置の実施形態を示す平面図
【図2】図1の左方側面図
【図3】図1の側面図
【図4】干出装置の要部を示す斜視図
【図5】本発明に係る海苔網の干出装置の浸漬状態を示す側面図
【図6】本発明に係る海苔網の干出装置の干出方法を示す概略図
【図7】海苔作業船の他の実施形態を示す側面図
【図8】本発明に係る海苔網の干出装置の他の実施形態を示す側面図
【図9】海苔網の干出時における海苔葉体の含水量の経時変化を示す特性図
【図10】海苔葉体の色の経時変化を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を用いて本発明の海苔の色管理方法およびこれに用いる海苔網の干出装置、海苔養殖システム並びに海苔作業船の実施形態について説明する。
【0030】
図1は本発明に係る海苔網の干出装置の一実施形態を示す平面図、図2は図1の左方側面図、図3は図1の側面図、図4は枠体の要部を示す斜視図、図5は本発明に係る海苔網の干出装置の浸漬状態を示す側面図、図6は本発明に係る海苔網の干出装置の干出方法を示す概略図である。
【0031】
本実施形態の海苔網の干出装置1は、図1に示すように、台浮子およびアンカ(共に図示せず)をもって海面上に矩形状に固定設置された1組の平行な台浮子固定綱A、Aおよび1組の平行な枠綱B、Bの内部に設置される。具体的には、干出装置1は、図1から図4に示すように、長辺3と、この長辺3の両端から下方に一体的に垂設された脚部4,4を有する複数のコ字形状の剛体状の枠体2,2…が台浮子固定綱A、Aと平行に配置されている。
【0032】
前記各枠体2,2…の長辺3の各両端部にはそれぞれ浮子6が配設されるとともに、各浮子6の内側には筒状の軸受状の回動部材7が長辺3を挿通するようにしてそれぞれ配設されており、隣接する前記各枠体2,2…は、前記各回動部材7においてそれぞれロープからなる連結手段8により相互に連結されている。前記各連結手段8は、前記各枠体2,2…の配列方向の端部において、各枠体2,2から浮子固定綱A、Aまで延在した延在部8a,8bによって浮子固定綱A、Aに接続されて固定されている。なお、前記各回動部材7は1つの長尺な筒体等でもよい。
【0033】
さらに、前記各脚部4,4の下端部は枠体2の配列方向に突出するT字状に2股に形成されており、このT字部5の両端部5a,5bにはそれぞれ枠体2を浮力をもって海面上に起立させる浮子11が配設されている。この浮子11としては脚部4から枠体2の並列方向両側に配設されて枠体2を起立させることができるものであればよく、図示している2個の浮子11を連続させて1個の浮子として形成してもよい。枠体2の長辺3の同一側端部備えられている各浮子11の枠体2の並列方向における一端側部分を1本のロープからなる転倒用連結手段9a、9bによって相互に連結している。長辺3の反対側にある浮子11に対する転倒用連結手段9a、9bの連結位置は、各浮子11の枠体2の並列方向に対する反対側の端部とされて、各枠体2を反対方向に引き倒すことができるようにしており、引き倒し時に引く各端部の転倒用連結手段9a、9bの端はそれぞれ枠綱B、Bに係止されている。この転倒用連結手段9a、9bとしては一方の転倒用連結手段のみを設けてもよい。
【0034】
また、各脚部4,4の下端部には、枠体2の長辺3の長手方向の外向きに即ち枠綱B、Bに向けて位置保持用バー12が突設されており、各位置保持用バー12の先端にリング12aがバー12の軸を中心として回転自在に取り付けられている(図4参照)。そして、各リング12a内には枠綱B、Bが挿通されている。これにより海苔網の干出装置1および海苔網13の直線性保持力が大きくなり、風が強い場合や潮流が強い場合においても、干出装置1および海苔網13が直線性を高く保持されることとなる。
【0035】
そして、前記各枠体2,2…の長辺3の中央には、隣接配置する各枠体2,2…間にわたって海苔網13が張設されている。この海苔網13には、海苔網13の撓みを小さくするため一定の間隔毎に前記各枠体2,2…と平行に伸子棒14が配設されている。
【0036】
また、前記海苔網13は、前記各枠体2,2…の配列方向において一定の間隔毎に、吊綱15によって前記各連結手段8に吊設されている。
【0037】
本発明の海苔養殖システムは、前記海苔網の干出装置1を用いて多数の海苔網13を海面に設置して形成される。更に、図6に示す海苔作業船21をもって海苔網13の干出と浸漬とを行ったり、海苔網13に海苔の色落ちを防止したり色戻りを図る栄養塩を図示しないノズルより噴霧して付与したり、図7に示すように海苔作業船21aに、成長した海苔を刈り取る刈り取り機構27を設けたり、海苔網13に色落ちを防止したり色戻りを図る栄養塩を付与する栄養塩付与機構29を設けて形成される。栄養塩としては、海苔の色落ちを防止したり色戻りを図ることができる公知の素材を用いることができる。例えば、窒素やリンを含有する栄養源や、アミノ酸類や、Fe、Mn、Cu、Co等を主成分とする金属塩等を海苔の色落ちの具合や、海苔養殖を行っている海域の栄養状態に応じて適宜選択して用いるとよい。
【0038】
一方の図6に示す海苔作業船21は、船体22の両側に前方の海中から船体22上、そして船体22の後方に延びる左右一対のガイド部材23を載置している。ガイド部材23の先端部は連結して略U字形に形成するとよい。このガイド部材23は海中の枠体2や海苔網13を掬い上げ、その後、海苔作業船21の後方に移動させる。
【0039】
他方の図7に示す海苔作業船21aは、船体24の後部に動力機25を設け、前後部にそれぞれ方向変換用のスラスタ26a、26bを設けている。更に、ガイド部材23を前方ガイド部材23aと後方ガイド部材23bとに分けている。一方の前方ガイド部材23aは図7に示す前方突出位置と船上に引き込んだ収納位置を移動自在に形成されている。船上の前方には、海苔網13から成長した海苔を刈取る公知の刈り取り機構27がガイド部材23の下方に設置されている。この刈り取り機構27によって刈取られた海苔は収納庫28内に収納されるようになっている。刈り取り機構27の後方には海苔網13に色落ちを防止したり色戻りを図る栄養塩を付与する栄養塩付与機構29が配設されている。この栄養塩付与機構29としては公知の手段を利用するとよい。例えば、本出願人が提供している特開2009−112258号公報に開示されている手段を用いるとよい。図7においては、栄養塩を貯留する水槽をガイド部材23の下方に配設し、海苔網13を当該栄養塩に浸漬させて色落ち防止処理や色戻り処理を施すものである。また、水槽のほかには、栄養塩の液体を海苔網13の下方から上向きにしてシャワーリングしたり、噴霧したりして、栄養塩を付与するとよい。
【0040】
つぎに、前述した構成からなる本実施形態の海苔網の干出装置1、海苔養殖システムおよび海苔作業船21、21a用いて行う海苔の色管理方法をについて説明する。
【0041】
本実施形態の干出装置1においては、図1に示すように、台浮子およびアンカをもって海面上に矩形状に固定設置された1組の平行な台浮子固定綱A、Aおよび1組の平行な枠綱B、Bの内部に設置されているので、干出装置1全体およびこれに取付けられた海苔網13を強い風や強い潮流を受けた場合においても海面に直線性を高く保持して設置させることができる。また、干出装置1全体および海苔網13が直線性を高くして海面に設置されているので、海苔作業船21、21aによるこれらの下方の潜行作業を容易に行うことができ、作業性が向上することとなる。
【0042】
海苔網の干出装置1を用いた海苔の養殖システムにおいては、図5に示すように、各枠体2を引き倒し状態として種付けされた海苔網13が海面に浸漬されている。
【0043】
そして、海苔網13を干出させて海苔網13を乾燥させ、殺菌および藻を死滅させる。このときには、例えば図6に示すように、海苔網の干出装置1のいずれか一方向(図6においては左方)から海苔作業船21を侵入させる。
【0044】
そして、海苔作業船21を海苔網13の干出装置1の枠体2の下方に潜るように侵入させることにより、海苔作業船21のガイド部材23の先端部により海苔網の干出装置1の各枠体2,2…および海苔網13が海水中より掬い上げるようにして順次持ち上げられ、当該ガイド部材23上を各枠体2が長辺3を上に脚部4を下方に下げるようにして吊り下げながら後方に移動させられる。続いて、海苔作業船21が通過すると、海苔作業船21のガイド部材23によって直立状態とされた各枠体2,2…が、各浮子11,11の浮力により直立状態のまま水面に着水して直立状態に起立させられていき、図3に示すように、各海苔網13が海中から空中部分へ浮上させられて干出状態に保持される。
【0045】
逆に、干出された海苔網13を浸漬させる場合には、各浮子11を連結している2本の転倒用連結手段9a、9bのいずれか一方を、転倒用連結手段9が浮子11に連結されている部分を脚部4の下端部に向かう方向に引っ張ることにより、転倒用連結部材9が連結されている各浮子11の部分が海水中に引き込まれるようにして各脚部4の下端部、特に各位置保持用バー12を中心として回動して各枠体2の全体が転倒されて、図5に示すように、海苔網13を海水に浸漬させることができる。この転倒動作時において、各位置保持用バー12は枠綱Bに挿通されているリング12aに対して先端部を相対回転させながら回転することとなり、各枠体2は各位置保持用バー12の両端部が枠綱Bに支承されている状態で回転することとなり、容易に回転して転倒するとともに転倒に要する力も低減させることができる。この転倒用連結手段9を引っ張るのは、転倒用連結手段9を海苔作業船21の船体22に連結したり、あるいは船体上の人員が保持して引くとよい。このとき、各枠体2,2…の長辺3に配設された各浮子6の浮力により、海苔網13が海中深く沈下することを防止して、海苔網13を海中の表層域に位置するようになっている。なお、この浮子6は省略することもできる。
【0046】
本実施形態においては、各枠体2の脚部4の下端部に外側に向けて突設された位置保持用バー12の先端に回転自在に取り付けされたリング12aに枠綱B、Bが挿通されているために、海苔網の干出装置1および海苔網13が直線性を保持して海上に設置されている。従って、風や波が強い場合や、潮流が強い場合等においても海苔網の干出装置1および海苔網13は高い直線性を維持して設置されることとなる。これにより作業船21、21aは直線性の高い海苔網の干出装置1および海苔網13の下に容易に潜って進むことができる。更に、海苔網の干出装置1および海苔網13が大きく湾曲しないで直線性を保持することにより各枠体2の風等による転倒を防止することができ、海苔網13の干出を確実に継続させて、極めて良質な海苔を生産することができる。
【0047】
海苔の育成を行なう場合には1枚の海苔網13を海苔網の干出装置1に展張して行ない、海苔の育苗を行なう場合には複数枚の海苔網13を海苔網の干出装置1に展張して行なうこととなる。
【0048】
図7に示す海苔作業船21aを用いた海苔養殖システムにおいては、海苔網13を干出させる場合には、前記と同様にして前方ガイド部材23aの先端部を海水中に挿入させた状態で海苔作業船21aを各枠体2の下に潜行するようにして進行させることにより行なわれる。掬い上げられた海苔網13から刈り取り機構27によって成長した海苔を刈取って収納庫28に収納する。続いて、海苔が刈取られた海苔網13は、栄養塩付与機構29において栄養塩の補給を受けて色落ち防止処理や色戻り処理を施される。その後、前記実施形態と同様に各枠体2が浮子11によって海面に起立させられて、所定時間に亘って海苔網13の干出が行われる。この海苔網13の干出時において、付与された栄養塩が海苔網13および海苔に浸透して栄養補給が十分に施されて、海苔の色がそれ以上色落ちすることを防止されたり、健康な状態の黒色に戻ることとなる。
【0049】
なお、本実施形態の海苔作業船21aを用いる場合には、海苔の刈り取りと海苔網の干出処理とを単独で行なうようにしてもよい。
【0050】
図8は 海苔網の干出装置の他の実施形態を示している。本実施形態においては、脚部4の上部に、枠体2の配列方向において少なくとも一方(本実施形態においては両方)に浮力を提供する干出補助部材30として先端に浮子32を備えた2本のアーム31を、ヒンジ34を介して開閉自在に取付けたものである。
【0051】
本実施形態においては、枠体2を倒した際に長辺部3を干出補助部材30の浮子32によって空中に保持して、海苔網13の干出状態を保持するものである。海が荒天の場合において、枠体2が倒れることがあっても海苔網13を干出させる場合に有効である。また、枠体2を転倒させる方向が決まっている場合には、一方のアーム31のみを開放させるようにするとよい。
【実施例】
【0052】
図1に示す本発明の海苔網の干出装置1を用いて海苔の色管理方法を平成22年1月10日〜同年2月2日に亘って瀬戸内海において下記の要領に従って実施して海苔の色の変化を測定した。
【0053】
1) 実験区の設定
実験区として下記の3区を設定した。
実験区A:栄養塩浸漬・干出処理区(本発明方法の適用区)
実験区B:干出処理のみの区
対照区 :浮き流し式区(栄養塩浸漬・干出処理をともにせず)
【0054】
2) 実験条件
実験条件は下記の表1に示す通りである。
【0055】
【表1】

【0056】
3) 栄養塩の設定
栄養塩は、原液として、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウムを主材として、微量の金属塩を添加したものを用い、この原液を現場海水で100倍に希釈したものを用いた。希釈した栄養塩は、全窒素濃度が50ppm、全リン濃度が11.8ppm、水温22.1℃においてpH5.9〜6.0であった。
【0057】
4) 実験結果
A) 海苔葉体の含水量の経時変化
海苔葉体の含水量の経時変化を、海苔網の干出終了時の海苔葉体の重量に対する計測時の海苔葉体の重量の比からなる重量比を求めることにより測定した。その結果は図9に示す通りである。
図9より、干出処理により海苔葉体からの水分の乾燥は、1.5時間で水分が約1/10となる速度で行われることがわかった。なお、この乾燥速度は、気象条件によって変更するものである。
【0058】
B) 海苔葉体の色の変化
海苔葉体の色の変化をa値によって測定した。このa値は、L表色系に従うものであり、―1は海苔葉体の色が色落ちした状態を示し、+側に変位すると海苔葉体の色が黒色であることを示す。
各実験区における海苔葉体のa値の変化を、海苔網の干出時間とともに図10に示す。
この図10より、対照区および実験区Bにおいては海苔葉体の色はほとんど変化せず色落ちした状態であるが、本発明方法による実験区Aにおいては、海苔葉体の色が黒色に戻っていることがわかる。従って、本発明の海苔の色管理方法に従えば、海苔網を干出させている間に栄養塩を付与することにより、海苔の色落ちが確実に防止されるし、色も黒色に色戻りすることとなり、極めて高品質の海苔を生産することができる。
【0059】
以上説明したように、本発明方法によれば、干出状態の海苔網13に栄養塩が付与されると海苔網13に付着している海苔の葉体が細胞膜を通して栄養塩を吸収して健苗性を高めて、例えば、色落ち状態にある場合にはそれ以上の色落ちが防止され、更には、色が健全な黒色に戻ることとなり、極めて良質な海苔となる。
【0060】
本発明方法における海苔網を干出させる手段としては海苔網を海面から浮上させて所定時間保持できるものであれば、いかなる構成のものであっても採用することができる。
【0061】
また、海苔網13を干出させる手段の1例としての前記海苔網の干出装置1によれば、海苔網13の干出および浸漬を容易に、かつ迅速に行なうことができ、良質の海苔を養殖することができる。また干出装置1全体およびこれに取付けられた海苔網13を強い風や強い潮流を受けた場合においても海面に直線性を高く保持して設置させることができる。また、海苔作業船21、21aを直線性を高くして海面に設置されている各枠体2の下を通過させることにより容易に各枠体2を起立させて海苔網13を干出させることができる。また、転倒用連結手段9を引くことにより容易に各枠体2を倒して海苔網13を海水に浸漬させることができる。そして、海苔網13に栄養塩を付与して海苔網13を干出させることにより、海苔の色落ちを確実に防止したり色戻りを図って、品質の高い海苔を生産することができる。さらに、本発明の海苔網の干出装置1は、複雑な構造を必要としないため、製造コストおよびメンテナンスコストを大幅に削減することができる。さらに、本発明の枠体2は水平な長辺3と両端部の脚部4とを一体的な剛体状に形成しているために、潮流や風波を受けても常にコ字形状を保持することができ、従来のようにひしゃげることがない。よって、常に海苔網13を適正状態を保持して展張することができ、海苔の育成も良好で、収穫率を向上させることができ、海苔網13の損傷を防ぐことができ、コストも低廉にすることができる。
【0062】
また、各枠体2を倒しても干出補助材30により海苔網13を干出位置に保持することができ、海が荒れている場合においても海苔網13を確実に干出位置に保持することができる。
【0063】
本発明の海苔作業船21、21aによれば、海水に浸漬されている状態の海苔網13の下即ち各枠体2の下を海苔作業船21、21aを通過させると、各枠体2が起立され浮体11の浮力によって海面上に起立させられ、海苔網13が干出位置に保持される。
【0064】
また、本発明の海苔作業船21、21aによれば、海苔作業船21、21aによって各枠体2を起立させると同時に、海苔網13から成長した海苔を刈り取ったり、栄養塩を付与して海苔に対する色落ち防止処理や色戻り処理を施したり、海苔の刈り取りの直後に海苔の色落ち防止処理や色戻り処理を施すことができる。
【0065】
本発明の海苔の養殖システムによれば、海苔網13の海水からの干出と海水への浸漬とを容易に変更可能として海苔の養殖を行うことができ、高品質の海苔を得ることができる。
【0066】
また、本発明の海苔の養殖システムによれば、海水に浸漬されている状態の海苔網13の下即ち各枠体2の下を海苔作業船21、21aを通過させて、各枠体2を起立させて浮子11の浮力によって海面上に起立させ、海苔網13を干出位置に保持する海苔の養殖を施すことができる。
【0067】
また、本発明の海苔の養殖システムによれば、海苔作業船21、21aによって各枠体2を起立させると同時に、海苔網13から成長した海苔を刈り取ったり、栄養塩を付与して海苔網に対する色落ち防止処理や色戻り処理を施したり、海苔の刈り取りの直後に海苔網の色落ち防止処理や色戻り処理を施すようにして海苔の養殖を行うことができる。
【0068】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【0069】
例えば、枠体2の長辺3の長さを2枚の海苔網13を並列して取付できる長さに形成してもよい。この場合、1枚の海苔網13用の幅に形成されている海苔作業船21、21aにおいては、ガイド部材23、刈り取り機構27および栄養塩付与機構29の幅を2倍の大きさに形成し、海苔作業船21、21aの左右の船側から一部張出した状態に設置するとよい。
【符号の説明】
【0070】
1 海苔網の干出装置
2 枠体
3 長辺
4 脚部
5 T字部
6 浮子
7 回動部材
8 連結手段
9 可動リング
10 連結手段
11 浮子
12 位置保持用バー
13 海苔網
14 伸子棒
15 吊綱
21、21a 海苔作業船
22 船体
23 ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海面に設置されている海苔網を海面から浮上させて所定時間に亘って干出状態に保持し、干出状態にある前記海苔網に栄養塩を付与して海苔の色落ち防止若しくは色戻りを行わせることを特徴とする海苔の色管理方法。
【請求項2】
下方に垂設された2本の脚部と、これら脚部を連結する長辺とからなるコ字形状の剛体状の枠体であって前記長辺を並列するように配置されている複数の枠体と、
前記各脚部の端部に枠体の並列方向両側に配設されて前記枠体を起立させる浮子と、
前記各脚部の端部から前記長辺の長手方向外方向きに突設された位置保持用バーであって、その外方端部に海面に設置される枠綱に挿通されるリングが回転自在に取付けられている位置保持用バーと、
前記各長辺に挿通され、前記各枠体を回動自在に支持する回動部材と、
前記各回動部材に連結され、前記各枠体を連結するとともに端部を海面に設置される台浮子固定綱に固着される連結手段と、
前記長辺の少なくとも一端側の脚部に配設されている各浮子の枠体の並列方向における一端側にそれぞれ連結されて前記各枠体を連結する転倒用連結手段と、
前記各枠体間に張設された海苔網と
を有することを特徴とする海苔網の干出装置。
【請求項3】
前記各脚部の上部に、前記各枠体の配列方向において少なくとも一方に干出補助部材を配列方向に張出して配設したことを特徴とする請求項2に記載の海苔網の干出装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の海苔網の干出装置の各枠体の下を通過して各枠体を起立させるガイドを有することを特徴とする海苔作業船。
【請求項5】
前記海苔作業船は海苔刈り取り機構および海苔の栄養塩付与機構の少なくとも一方を有することを特徴とする請求項4に記載の海苔作業船。
【請求項6】
請求項2または請求項3に記載の海苔網の干出装置を用いて海苔網を海面に展張したことを特徴とする海苔の養殖システム。
【請求項7】
海苔網の干出装置の各枠体の下を通過して各枠体を起立させるガイドを有する海苔作業船を備えていることを特徴とする請求項6に記載の海苔の養殖システム。
【請求項8】
前記海苔作業船は海苔刈り取り機構および海苔の栄養塩付与機構の少なくとも一方を有することを特徴とする請求項7に記載の海苔の養殖システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−229491(P2011−229491A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104907(P2010−104907)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(591036631)社団法人マリノフォーラム二十一 (6)
【出願人】(000110882)ニチモウ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】