説明

海苔の色落ち回復又は防止方法

【課題】海苔の色落ちを効果的に回復又は防止することができ、しかも処理剤の調製が簡単で且つ低コストに実施可能な方法を提供する。
【解決手段】酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸の混合物を添加した海水、若しくは酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸を添加した海水中に海苔を浸漬する。或いは、有機酸を添加した海水を海苔に付着させた後、該海苔を、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質を添加した海水中に浸漬する。海苔の色落ちを効果的に回復又は防止することができるとともに、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸を組み合わせた処理剤を使用するだけであるため、少ない手間で低コストに実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔の色落ちを回復させ又は防止するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海苔の養殖では、浅場の海面上に展張された海苔網に海苔の胞子を付着させ、幼芽を経て成芽になるまで育苗・育成し、成芽が適当な大きさまで成長した段階で収穫する。
海苔の品質を決める重要な要素の一つとして色があり、乾燥した状態で深い黒色でなければ、高級品とは評価されない。しかし、海苔の養殖では、海苔の色が褐色或いは黄色味を帯びる、所謂「色落ち」と呼ばれる現象が生じることがあり、特に近年では、この現象が頻発するようになってきており、養殖海苔の生産に大きな影響を与えている。このような海苔の色落ちは、海苔の生育に必要な海水中の窒素やリンの含有量が異常に低下することが原因であるとされている。このことから、従来では、海苔の色落ちを回復させるために、窒素やリンを含む栄養塩類を海苔養殖場の水域に散布することが行われているが、大きな成果は得られていない。
【0003】
一方、特許文献1には、海水中の窒素を摂取するプランクトンの増殖を抑え、その結果として海苔が摂取できる窒素分を確保するため、海苔網が張られた水域の海水中に、水酸化マグネシウムなどの色落ち防止剤を散布する方法が示されている。
また、特許文献2には、海苔の色落ちを回復させるために、海水に所定の濃度で無機塩類を添加・溶解し、且つ酸を添加してpHを調整した処理液に、色落ちした養殖海苔を浸漬する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−265058号公報
【特許文献2】特開2002−300819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1,2の方法では、海苔の色落ち防止と、海苔の色落ち回復の両方の効果を併せ持つことは期待できない。すなわち、特許文献1の方法には海苔の色落ちを回復する効果はなく、一方、特許文献2の方法には海苔の色落ちを防止する効果はないと考えられる。また、特許文献2の方法では、処理液の成分やpHの調整に手間とコストがかかる難点があり、大量の色落ちした海苔を処理するには不向きである。
【0006】
したがって本発明の目的は、海苔の色落ちを効果的に回復又は防止することができ、しかも処理剤の調製が簡単で且つ低コストに実施することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく海苔の色落ちを効果的に回復又は防止することができる色落ち回復・防止剤を見出すべく調査・検討を行った結果、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸とを組み合わせた処理剤(例えば、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質に有機酸を混合して得られた混合物)が、色落ち回復・防止剤として優れた性能を有することを見出した。また、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質として製鋼スラグを用いることにより、特に優れた効果が得られることが判った。
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
【0008】
[1]酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質(但し、酸化鉄及び/又は金属鉄のみからなる物質の場合を含む)と有機酸の混合物を添加した海水(但し、前記混合物を添加して一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水を含む)中に海苔を浸漬することを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
[2]酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質(但し、酸化鉄及び/又は金属鉄のみからなる物質の場合を含む)と有機酸を添加した海水(但し、前記酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸を添加して一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水を含む)中に海苔を浸漬することを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
【0009】
[3]有機酸を添加した海水を海苔に付着させた後、該海苔を、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質(但し、酸化鉄及び/又は金属鉄のみからなる物質の場合を含む)を添加した海水(但し、前記酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質を添加して一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水を含む)中に浸漬することを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
[4]酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質(但し、酸化鉄及び/又は金属鉄のみからなる物質の場合を含む)と有機酸の混合物を、海苔の養殖場がある水域の海水中に設置することを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
【0010】
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの方法において、有機酸が、グルコン酸、クエン酸、窒素を含有するオキシ酸の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
[6]上記[5]の方法において、窒素を含有するオキシ酸が、グルタミン酸、フミン酸、フルボ酸の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
【0011】
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの方法において、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質が、鉄鋼スラグ、非鉄製錬スラグ、ゴミ溶融スラグ、ダスト、スケール、鉄粉、酸化鉄粉、砂鉄、鉄鉱石の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、海苔の色落ちを効果的に回復又は防止することができるとともに、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸の混合物を海水に添加し又は海中に設置し、或いは酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸を海水に添加するだけでよいため、少ない手間で低コストに実施することができ、特に、大量の海苔を処理する場合や海苔養殖場の広い水域を対象とする場合でも、低コストに実施することができる。また、特に酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸の混合物を海水に添加し又は海中に設置する方法では、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸が近接した状態で存在するため、鉄キレートの形成に有利であり、このため海苔の色落ち回復・防止効果をより高め且つ長く持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1に供した海苔葉体のSPAD値(葉緑素濃度)、L値(明度)、a値(赤味度)の経時変化を示すグラフ
【図2】実施例2に供した海苔葉体のSPAD値(葉緑素濃度)、L値(明度)、a値(赤味度)の経時変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明法では、海苔の色落ち回復又は防止剤として、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸、或いはそれらの混合物を用いる。
鉄源である酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質(以下、説明の便宜上、単に「鉄源(x)」という)は、酸化鉄及び/又は金属鉄を含有するものであればよく、酸化鉄及び/又は金属鉄のみからなる物質でもよい。
鉄源(x)としては、例えば、鉄鋼スラグ、非鉄製錬スラグ、ゴミ溶融スラグ、ダスト、スケール、鉄粉、酸化鉄粉、砂鉄、鉄鉱石などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
【0015】
鉄鋼スラグ(鉄鋼製造プロセスで発生するスラグ)としては、高炉スラグ、製鋼スラグ、鉱石還元スラグなどがある。高炉スラグには、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグがある。
製鋼スラグは、鉄鋼製造プロセスの製鋼工程で発生するスラグである。このような製鋼スラグとしては、例えば、転炉スラグ(脱炭スラグ)、溶銑予備処理スラグ(脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグなど)、造塊スラグ、電気炉スラグなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
非鉄製錬スラグとしては、銅製錬スラグ、各種合金鉄製錬スラグなどが挙げられる。ゴミ溶融スラグとしては、ゴミ焼却灰溶融スラグ、ゴミ直接溶融スラグなどが挙げられ、これらのスラグには、徐冷された結晶質のものと急冷されたガラスカレット状のものがある。
上述したスラグの粒度は特に限定されるものではないが、有効成分の溶出効率の面からは粒径25mm以下、より好ましくは粒径10mm以下、特に好ましくは粒径5mm以下のものが望ましい。
ダストとしては、鉄鋼製造プロセスで発生するダスト(例えば、転炉ダスト、高炉ダストなど)が代表的ものとして挙げられる。スケールとしては、鉄鋼製造プロセスで発生するスケール(例えば、ミルスケールなど)が代表的ものとして挙げられる。
【0017】
鉄源(x)としては、純粋な酸化鉄よりも、スラグのように酸化鉄を固溶体として含むものの方が、有機酸との反応性が高く、鉄イオンの溶出能が高いので好ましい。
表1は、グルコン酸とフミン酸を各種の鉄源に適用した場合について、海水中での鉄イオンの溶出性を調べた結果を示している。グルコン酸に関する試験は下記条件で行った。
【0018】
(1)各種の鉄源をチャック付ビニール袋に入れ、鉄源量の0.15mass%のグルコン酸を添加して混合した後、一晩静置し、試料とした。
(2)試料10gを250mLポリ瓶に入れ、人工海水200mLを注入した後、振とう装置で200rpm,24時間の連続振とうを行った。
(3)振とう後のポリ瓶内容物を0.45μmフィルターでろ過し、ろ過後の液のFe濃度を測定した。液中のFe濃度の分析は、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析計)を用いて行った。
【0019】
また、フミン酸に関する試験は下記条件で行った。
(1)人工海水にフミン酸試薬を加え、0.05mass%フミン酸人工海水を調製した。この時の溶液のpHは約8であった。
(2)各種の鉄源10gを250mLポリ瓶に入れ、0.05mass%フミン酸人工海水200mLを注入した後、振とう装置で200rpm,24時間の連続振とうを行った。
(3)振とう後のポリ瓶内容物を0.45μmフィルターでろ過し、ろ過後の液のFe濃度を測定した。液中のFe濃度の分析は、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析計)を用いて行った。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示されるように、試薬の酸化鉄は鉄イオンの溶出量は少ない。一方、銅製錬スラグやゴミ溶融スラグなどの非鉄スラグは、鉄イオンの溶出量は多いが、溶出能が高いため長期間の溶出持続性には欠ける。これに対して、製鋼スラグは、鉄イオンの適度な溶出能(試薬の酸化鉄よりも高く、非鉄スラグよりも低い溶出能)を有し、したがって、長期間の溶出持続性も備えている。また、製鋼スラグは、安価で且つ大量に入手可能であるという利点もある。
【0022】
また、グルコン酸を用いた場合には、試薬以外の金属鉄や酸化鉄は、鉄イオンの溶出能が製鋼スラグよりも高いが、試薬の酸化鉄や非鉄スラグに較べれば適度な溶出能を有しているといえる。但し、これらの金属鉄や酸化鉄は、製鋼スラグに較べて鉄イオンの溶出能が相当程度高いため、長期間の溶出持続性は製鋼スラグよりも劣る。さらに、製鋼スラグに較べて高価で且つ大量入手も難しいという面もある。一方、フミン酸を用いた場合には、試薬以外の金属鉄や酸化鉄の鉄イオンは、溶出能は製鋼スラグよりも格段に小さい。
【0023】
以上の点から、鉄源(x)としては、鉄鋼スラグ、非鉄製錬スラグ、都市ゴミ溶融スラグが特に好ましく、これらの1種以上からなる若しくはこれらの1種以上を主体とする鉄源(x)(鉄源(x)が鉄鋼スラグなどのスラグのみからなる場合を含む。以下同様)が好ましい。また、スラグ類のなかでも特に製鋼スラグは、上記のように適度な溶出能を有し、長期間の溶出持続性を備えていること、成分が安定していること、鉄分を多く含むこと、などの点から好ましく、したがって、製鋼スラグを含む若しくは製鋼スラグを主体とする鉄源(x)(鉄源(x)が製鋼スラグのみからなる場合を含む。以下同様)が好ましい。なお、スラグはpHが低い方が望ましいので、スラグに含まれるCaOをCaCOに炭酸化させたものを使用してもよい。
【0024】
有機酸としては、例えば、グルタミン酸、クエン酸、フミン酸、酢酸、フルボ酸、グルコン酸などが挙げられ、これらの中から選ばれる1種以上を用いることができる。これらのなかでも特に、グルコン酸、クエン酸、窒素を含有するオキシ酸(例えば、グルタミン酸、フミン酸、フルボ酸など)が好ましく、これらの中から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
有機酸源としては、有機酸粉末、有機酸塩、有機酸含有物質(有機酸含有溶液を含む)などのいずれでもよい。例えば、フルボ酸は浚渫土に含まれる場合があり、そのような浚渫土を有機酸含有物質として用いてもよい。したがって、鉄源(x)に有機酸を混合する場合、有機酸そのものを添加・混合してもよいし、当該有機酸を含む物質を添加・混合してもよい。例えば、フルボ酸が浚渫土に含まれる場合には、このようなフルボ酸を含む浚渫土を製鋼スラグなどの鉄源(x)に添加してもよい。
【0025】
鉄源(x)と有機酸の配合比(鉄源(x)と有機酸を混合する場合には混合比)は、鉄源(x)に対して有機酸を0.5質量%以上、より好ましくは5質量%以上とすることが望ましい。一方、有機酸が50質量%超では、海苔の色落ちの回復又は防止効果が飽和するので、50質量%以下とすることが好ましい。
鉄源(x)と有機酸(特に好ましくは、グルタミン酸、クエン酸、フミン酸、フルボ酸、グルコン酸の1種以上)の組み合わせによる処理剤が海苔の色落ちの回復又は防止効果を有するのは、有機酸が鉄源(x)に含まれる鉄分を溶解鉄として保持できるキレート効果を有し、その溶解鉄が海苔の色落ちの回復又は防止に寄与するものと考えられる。
【0026】
また、特に後述する本発明の第一及び第四の方法のように、鉄源(x)と有機酸の混合物を用い、この混合物を海水に添加し又は海中に設置する方法では、鉄源(x)と有機酸が近接した状態で存在するため、鉄キレートの形成に有利であり、海水に溶出する鉄キレートの濃度を高め、また溶出持続性も高めることができる。このため、海苔の色落ち回復・防止効果をより高め且つ長く持続させることができる。
【0027】
本発明の第一の方法では、上述した鉄源(x)と有機酸の混合物(以下、便宜上「混合物A」という)を添加した海水中に海苔を浸漬する。ここで、海苔を浸漬する上記海水には、混合物Aを添加して一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水も含まれる。この方法は、通常は海苔(色落ちを生じた海苔)の色落ち回復を目的として行われるが、海苔の色落ち防止を目的として行ってもよい。
【0028】
通常、この方法では、海水が入れられた水槽に混合物Aが添加(装入)され、この海水中(或いは混合物Aを一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水中)に海苔が浸漬される。この場合、海苔だけを浸漬してもよいし、養殖用の海苔網ごと浸漬してもよい。
海苔の浸漬期間に特別な条件はないが、色落ちを十分に回復させるために、一般には24時間以上とすることが好ましい。
【0029】
本発明の第二の方法では、上述した鉄源(x)と有機酸をそれぞれ添加した海水中に海苔を浸漬する。すなわち、鉄源(x)と有機酸を予め混合することなく海水に添加し、この海水中に海苔を浸漬する。海苔を浸漬する上記海水には、鉄源(x)と有機酸を添加して一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水も含まれる。この方法は、通常は海苔(色落ちを生じた海苔)の色落ち回復を目的として行われるが、海苔の色落ち防止を目的として行ってもよい。
通常、この方法では、海水が入れられた水槽に鉄源(x)と有機酸が添加(装入)され、この海水中(或いは鉄源(x)と有機酸を一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水中)に海苔が浸漬される。
その他の条件は、上記第一の方法と同様である。
【0030】
本発明の第三の方法では、上述した有機酸を添加した海水を海苔に付着させた後、この海苔を、上述した鉄源(x)を添加した海水中に浸漬する。有機酸を添加した海水を海苔に付着させる方法は任意であるが、通常は、有機酸を添加した海水中に海苔を浸漬させる。
有機酸を添加した海水を海苔に付着させた後、海苔を浸漬する上記海水には、鉄源(x)を添加して一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水も含まれる。この方法は、通常は海苔(色落ちを生じた海苔)の色落ち回復を目的として行われるが、海苔の色落ち防止を目的として行ってもよい。
【0031】
この方法では、例えば、海水が入れられた第1の水槽に有機酸が、同じく第2の水槽に鉄源(x)がそれぞれ添加(装入)され、海苔は第1の水槽の海水中に浸漬された後、第2の水槽の海水中(或いは鉄源(x)とを一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水中)に浸漬される。
その他の条件は、上記第一の方法と同様である。
【0032】
本発明の第四の方法では、前記混合物Aを海苔の養殖場がある水域の海水中に設置する。この方法は、通常は海苔の色落ち防止を目的として行われるが、海苔(色落ちを生じた海苔)の色落ち回復を目的として行ってもよい。
混合物Aを海水中に設置する形態としては、海底に設置してもよいし、海苔網や他の保持手段などを利用して海中に吊り下げてもよい。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
本発明による海苔の色落ち回復効果を検証するため、以下のような試験を行った。
海水1Lに添加剤を加え(但し、試験液(5)は添加剤なし)、24時間撹拌した後、ろ紙で固形物を取り除き、ろ液を塩酸又は水酸化ナトリウムでpH8に調整し、下記の試験液(1)〜(5)を調製した。なお、海水としては、天然海水にアオサを培養して溶解性無機窒素(DIN)を枯渇させた海水を用いた。製鋼スラグとしては、脱燐スラグ(粒径0.6mm以下)を用いた。
【0034】
下記試験液のうち、試験液(2)、(3)、(4)を用いるのが本発明例、試験液(1)、(5)を用いるのが比較例である。
(1)製鋼スラグ(10g)を添加した試験液
(2)製鋼スラグ(10g)とフルボ酸含有浚渫土(90g)の混合物を添加した試験液
(3)製鋼スラグ(10g)とグルタミン酸(0.5g)の混合物を添加した試験液
(4)製鋼スラグ(10g)とフミン酸(3g)の混合物を添加した試験液
(5)添加剤なしの試験液
【0035】
海苔葉体を一枚10mm(径)に調製し、この海苔葉体を各試験液に2枚ずつ浸漬し、海苔の色落ち回復評価試験を行った。浸漬条件は、海水温度:15(13−17)℃、塩分:33PSU、明暗周期:12時間/12時間、光量:8000LUXとした。この試験では、浸漬開始時、浸漬24時間後、浸漬48時間後において、それぞれ海苔葉体のSPAD値(葉緑素濃度)、L値(明度)、a値(赤味度)を測定し、色落ち回復の程度を評価した。その結果を図1に示す。
(1)SPAD値
コニカミノルタセンシング(株)製「葉緑素計 SPAD-502」(商品名)用いて、2枚の海苔葉体のSPAD値(葉緑素濃度)を測定し、これらの測定値の平均をSPAD値とした。
【0036】
(2)L
コニカミノルタセンシング(株)製「色彩色差計 CR-400」(商品名)を用いて、2枚の海苔葉体のL値(明度)を測定し、これらの測定値の平均をL値とした。この値が高いと白っぽく、値が低いと黒っぽい。したがって、色落ちした海苔は値が高く、L値:79以上であると重度の色落ちと判定される。
(3)a
コニカミノルタセンシング(株)製「色彩色差計CR-400」(商品名)を用いて、2枚の海苔葉体のa値(赤味度)を測定し、これらの測定値の平均をa値とした。この値がプラス方向に進むと赤味が強く、マイナス方向に進むと緑が強くなる。
【0037】
図1によれば、比較例では浸漬48時間後でもSPAD値は殆ど変化がないのに対して、本発明例では、浸漬48時間後にはSPAD値が大幅に増加していることが判る。また、L値やa値を見ても、比較例に較べて本発明例は色落ちが大きく回復していることが判る。また、本発明例のなかでも、試験液(4)を用いたものが、色落ち回復が最も顕著である。
【0038】
[実施例2]
本発明による海苔の色落ち防止効果を検証するため、以下のような試験を行った。
海水1Lに添加剤を加え(但し、試験液(5)は添加剤なし)、24時間撹拌した後、ろ紙で固形物を取り除き、ろ液を塩酸又は水酸化ナトリウムでpH8に調整し、下記の試験液(1)〜(5)を調製した。なお、海水としては、天然海水にアオサを培養して溶解性無機窒素(DIN)を枯渇させた海水を用いた。製鋼スラグとしては、脱燐スラグ(粒径0.6mm以下)を用いた。
【0039】
下記試験液のうち、試験液(1)、(2)を用いるのが本発明例、試験液(3)、(4)、(5)を用いるのが比較例である。
(1)製鋼スラグ(10g)とグルタミン酸(0.5g)の混合物を添加した試験液
(2)製鋼スラグ(10g)とフミン酸(3g)の混合物を添加した試験液
(3)グルタミン酸(0.5g)を添加した試験液
(4)フミン酸(3g)を添加した試験液
(5)添加剤なしの試験液
【0040】
海苔葉体を一枚10mm(径)に調製し、この海苔葉体を各試験液に2枚ずつ浸漬し、海苔の色落ち防止評価試験を行った。浸漬条件は、海水温度:15(13−17)℃、塩分:33PSU、明暗周期:12時間/12時間、光量:8000LUXとした。この試験では、浸漬開始時、浸漬24時間後、浸漬48時間後において、それぞれ海苔葉体のSPAD値(葉緑素濃度)、L値(明度)、a値(赤味度)を実施例1と同様に測定し、色落ち防止の程度を評価した。その結果を図2に示す。
【0041】
図2によれば、比較例では浸漬48時間後でSPAD値は殆ど変化がないのに対して、本発明例では、浸漬48時間後にはSPAD値が大幅に増加していることが判る。また、L値やa値を見ても、比較例に較べて本発明例は色落ちが効果的に防止され、さらに回復していることが判る。
【0042】
[実施例3]
本発明による海苔の色落ち回復効果を検証するため、以下のような試験を行った。
人工海水に硝酸ナトリウムを所定のN濃度(250μg/L)となるように添加した。発明例では、この人工海水1Lに各種有機酸と鉄粉(還元)を加え、24時間撹拌した後、ろ紙で固形物を取り除き、ろ液を塩酸又は水酸化ナトリウムでpH8.02に調整した。また、比較例では、人工海水1Lに各種有機酸のみを加えた後、塩酸又は水酸化ナトリウムでpH8.02に調整した。
【0043】
海苔葉体を一枚10mm(径)に調製し、この海苔葉体を各試験液に2枚ずつ浸漬し、海苔の色落ち回復評価試験を行った。浸漬条件は、海水温度:15(13−17)℃、塩分:33PSU、明暗周期:12時間/12時間、光量:8000LUXとした。この試験では、浸漬開始時と浸漬48時間後に、実施例1と同じ方法によって、それぞれ海苔葉体のSPAD値(葉緑素濃度)を測定し、[浸漬48時間後のSPAD値]−[浸漬開始時のSPAD値]を調べた。その結果を、使用した有機酸、試験液のFe濃度及びN濃度とともに表2に示す。なお、液中のFe濃度の分析は、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析計)を用いて行った。表2によれば、本発明例では、浸漬48時間後のSPAD値が大幅に増加していることが判る。
【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質(但し、酸化鉄及び/又は金属鉄のみからなる物質の場合を含む)と有機酸の混合物を添加した海水(但し、前記混合物を添加して一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水を含む)中に海苔を浸漬することを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
【請求項2】
酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質(但し、酸化鉄及び/又は金属鉄のみからなる物質の場合を含む)と有機酸を添加した海水(但し、前記酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質と有機酸を添加して一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水を含む)中に海苔を浸漬することを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
【請求項3】
有機酸を添加した海水を海苔に付着させた後、該海苔を、酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質(但し、酸化鉄及び/又は金属鉄のみからなる物質の場合を含む)を添加した海水(但し、前記酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質を添加して一定期間浸漬した後、その固形分を除去した後の海水を含む)中に浸漬することを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
【請求項4】
酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質(但し、酸化鉄及び/又は金属鉄のみからなる物質の場合を含む)と有機酸の混合物を、海苔の養殖場がある水域の海水中に設置することを特徴とする海苔の色落ち回復又は防止方法。
【請求項5】
有機酸が、グルコン酸、クエン酸、窒素を含有するオキシ酸の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の海苔の色落ち回復又は防止方法。
【請求項6】
窒素を含有するオキシ酸が、グルタミン酸、フミン酸、フルボ酸の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項5に記載の海苔の色落ち回復又は防止方法。
【請求項7】
酸化鉄及び/又は金属鉄含有物質が、鉄鋼スラグ、非鉄製錬スラグ、ゴミ溶融スラグ、ダスト、スケール、鉄粉、酸化鉄粉、砂鉄、鉄鉱石の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の海苔の色落ち回復又は防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−259450(P2010−259450A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191286(P2010−191286)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【分割の表示】特願2010−29862(P2010−29862)の分割
【原出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】