説明

海藻育成具及びこれを用いた藻場造成方法

【課題】被覆ブロック、根固めブロック、人工魚礁等の各種形状の構造物に対して、移植用の海藻種苗が高い確率で早期に定着し、メンテナンスも容易な海藻育成具と、これを用いた藻場造成方法を提供する。
【解決手段】海藻育成具は、短尺のロープ31に海藻種苗32を着生させた海藻種苗付きロープ3と、片面にロープ31を取付可能な溝部21が設けられた基板2からなり、基板2の中央に設けたボルト挿通孔22を利用して造成用構造物の適宜位置に簡単に固定することができる。海藻種苗付きロープ3と基板2とは、一体化状態ではロープ31の上部周面が基板2の天端面とほぼ面一となるので、流れに対する抵抗がほとんどなくなる。このため、海藻育成具を波当りの強い場所に設置される造成用構造物の水平面に取り付けた場合でも、海藻種苗付きロープ3が外れにくく、藻場造成の成功率向上に寄与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類の繁殖をもたらし、海中環境の改善に大きく寄与する海藻類を中心とした藻場の造成技術に係り、より詳しくは、藻場造成時に母藻として外部から導入する移植用海藻種苗の定着技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、我国においては沿岸漁業の振興が重要な課題であり、魚介類、海藻類の増殖および養殖が図られている。しかるに、沿岸部では種々の原因によって藻場が消滅し、藻場を生活の場としている魚介類が激減する、いわゆる「磯焼け」と呼ばれる現象が各地に拡大し、その早急な対策が求められている。
【0003】
海藻類は、一般に比較的浅い海底の岩石表面に着生して繁殖する。ところが、磯焼け海域では遊走子の供給源となる母藻群が近くに存在せず、しかも着生床となる岩石表面が石灰藻で覆われている場合が多いこと等により、環境的に海藻がきわめて着生し難い状況になっている。また、砂泥質の海域では海藻の生育は元々困難である。したがって、このような磯焼け海域での藻場の再生や砂泥海域での藻場造りにおいては、外部からの海藻の導入を図ることが重要である。
【0004】
従来、藻場の造成方法としては、海藻の着生床として機能し得る種々の工夫を施したコンクリートブロック等の構造体(「着定基質」あるいは「着生基盤」とも称されるが、本明細書においては「造成用構造物」という。)を設置し、その構造体表面に海藻が自然着生するのを待って造成する方法が一般的である。しかしながら、これら従来方法では、遊走子を介した自然着生に依存するため、特に重要な造成初期における海藻の着生状態が不確定な自然的要素によって大きく左右されるばかりか、藻場造成に時間がかかるといった造成効率や確実性の点において根本的な問題があった。
【0005】
そこで、ワカメ養殖などで広く使われている海藻幼体付きの撚糸(種苗糸あるいは種糸ともいう。)を、藻場造成に転用することが検討されている。具体的には、陸上の水槽内で直径2mm前後の撚糸に胞子等を付着させ、発芽した海藻幼体を海中に移して撚糸上で数cm程度になるまで中間育成する。この中間育成段階を経た海藻種苗付きの撚糸をコンクリートブロック等の造成用構造物に巻き付け、海中に沈設する。そして、種苗糸から造成用構造物の表面に仮根が伸張し、そこで定着して成熟した海藻が遊走子を放出し、造成用構造物の表面やその周囲に海藻を着生させ、繁茂状態を実現しようとするものである。
【0006】
しかしながら、この従来方法は、造成用構造物に対する前記種苗糸の固定作業が難しいばかりでなく、その取付後の状態が不安定であり、しかも海中に設置済みの造成用構造物に対して適用することはほとんど不可能であった。また、取付後においても、造成用構造物に対する種苗糸の固定状態に少しでも問題があると、細い糸状で形状的に不安定な種苗糸は、その問題個所から固定状態の悪化が拡大し、造成用構造物から簡単に外れてしまうという欠点があった。特に、種苗糸自体の強度がほとんどないために海藻種苗をごく小さな幼体の段階で取り扱わなければならず、施工後において順調に着生して生育しないことが多く、造成の成功率が低いものであった。このため、海藻種苗の移植手段として、種苗糸をそのまま適用する上記方法には多くの問題があり、実用化が進んでいないのが実情である。
【0007】
近年では、形状的に不安定な種苗糸を移植用海藻種苗の担体として、そのままの状態で造成用構造物に適用する上記方法に代えて、種苗糸を適宜素材からなる基板の表面に固定した複合形態の育成部材を形成し、形状的に安定している基板を介して海藻種苗を造成用構造物の表面部に取り付ける方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2002−171854号公報
【特許文献2】特開2008−61574号公報
【特許文献3】特開2008−72925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の各育成部材では、いずれも陸上の水槽内で人工的に撚糸の表面に海藻の胞子等を付着して発芽させた種苗糸が使用される。そして、特許文献1、2に記載された発明では、海藻幼体が着生した種苗糸を木材からなる基板に対して釘止めし、また特許文献3に記載の発明では合成樹脂製プレートの表面に設けた突起部に種苗糸を掛け回して取り付けるものである。しかしながら、斯かる種苗糸は撚糸自体がかなり細いことから、海藻種苗の仮根を十分に支持することができず、撚糸と海藻種苗との間の付着力がきわめて小さい状態になっている。このため、これらの基板に対して種苗糸を固定する際に、海藻種苗が撚糸から脱落しやすく、歩留まりが悪いという問題点があった。
【0009】
さらに、上記育成部材を用いて特定の海藻からなる藻場を造成するような場合、事前に海中で行う育成部材上での海藻種苗の中間育成が十分でないと、造成用構造物に取り付けた後で問題が生じやすい。例えば、ヒジキを主体とする藻場を造成する場合には、ヒジキの生育環境からして波当りの強い潮間帯を選択することになる。ところが、このような生育環境の場所では、種苗糸が育成部材の基板表面に飛び出た状態で固定されることから、中間育成が十分ではない海藻種苗、すなわちその仮根が基板表面に対して十分に付着していない状態のものを使用した場合には、導入した海藻種苗が波に攫われやすい。場合によっては、種苗糸全体が基板から外れてしまうなど、斯かる構成の育成部材は、その構造からして波当りの強い場所や流れの速い場所には適用し難いという問題点があった。また、小さい藻体の状態では食害を受けやすく、成熟する前に消失してしまうこともあった。このように、海藻種苗や種苗糸が消失したときには、基板ごと交換しなければならず、メンテナンスの面でも改善の余地があった。
【0010】
本発明は、これら従来技術の問題点に鑑みなされたもので、造成用構造物に対して移植用の海藻種苗を高い確率で早期に定着させることができ、しかも流れの速い場所や波当りの強い場所にも適用可能でメンテナンスも容易な海藻育成具と、これを用いた藻場造成方法の提供をその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る海藻育成具では、中間育成後の海藻種苗を担持する短尺のロープと、このロープを開口側の天端面にほぼ一致させ、該開口から海藻種苗が突出した状態で取付可能な溝部を表面に有する基板からなることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項2に係る藻場造成方法は、中間育成後の海藻種苗を担持する短尺のロープと、このロープを開口側の天端面にほぼ一致させ、該開口から海藻種苗が突出した状態で取付可能な溝部を表面に有する基板からなる海藻育成具を、海藻種苗が表側となるように造成用構造物の水平面に付設し、この造成用構造物に移植された海藻種苗を基点として周囲に海藻を繁茂させることを特徴としている。前記海藻種苗としてヒジキを使用した場合には、波当りの強い場所での藻場造成に好都合である(請求項3)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記のような構成を採用したことにより、次の効果を得ることができる。
(1)海藻種苗を担持する短尺のロープは、その上側の周面部が基板の開口側の天端面とほぼ一致した状態で溝部内に取り付けられるから、潮間帯のような波当りの強い場所に設置した場合に、流れに対する抵抗がほとんどなくなる。このため、海藻種苗を担持するロープが基板の溝部から外れる虞が大幅に減少するので、本発明の海藻育成具は、波当りの強い場所を好むヒジキ場の造成に特に有効である。
(2)ロープを担持体とする海藻種苗は、従来の撚糸に比べて大きな藻体長となるまで中間育成を行うことができ、その結果、大きな付着力でロープに着生した状態で造成用構造物に適用されるから、上記のような波当りの強い場所でもロープから脱落することが少なく、時間が経過するに連れて基板表面から造成用構造物に仮根が伸張し、定着する確率が高い。
(3)海藻種苗を担持するロープの周面部が、溝部の開口側の天端面とほぼ一致し、段差がほとんど無い状態であるから、海藻種苗の仮根は、比較的短期間でロープ表面から基板表面に無理なく伸長する。したがって、この海藻育成具を造成用構造物に固定することにより、海藻種苗の安定した着生状態が早期に得られる。
(4)海藻育成具は、基板を介在させることにより、各種の造成用構造物に対して簡単かつ確実に付設することが可能であり、その後の造成用構造物との間の取付状態が安定するので、ロープ上の海藻種苗が造成初期の母藻としての役割を果たす可能性が高くなる。その結果、比較的短期間で造成用構造物の表面、さらにはその周辺区域に海藻の繁茂状態を実現することができる。
(5)海藻種苗を担持する短尺のロープは、基板に対して着脱可能であり、海中、海上あるいは陸上のいずれの場所でも簡単に基板に取り付けることができるから、施工時の自由度がきわめて高く、しかも移植後の海中での交換作業も容易であるので、メンテナンスも簡単である。特に、溝部の開口部付近に突起などを設けてロープを嵌着自在な構造とすれば、迅速な装着が可能となるので、藻場造成の成功率向上に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、海藻種苗を担持するロープが、基板の溝部に対してその開口側の天端面と高さが揃うように装着されるから、海藻種苗を除く基板の表面がほぼ平坦面となる。これにより、流れの速い場所や波当りの強い場所の造成用構造物に取り付けた場合でも流れに対するロープの抵抗がほとんど無いことから、ロープが基板から外れにくいという利点がある。さらに、ロープに担持される海藻種苗は、ロープの上部周面と基板の開口側の天端面との間に段差がほとんど無いことにより、海藻種苗の仮根の伸張を妨げず、比較的短期間で基板表面に仮根を伸ばして定着し、さらに造成用構造物の表面にも仮根を伸ばして定着する。したがって、移植した海藻種苗の定着率が高まり、遊走子の供給源として藻場造成の基点となる。
【0015】
本発明で使用する基板は、その素材や形状に格別の限定はないが、素材にはコンクリートなどがコスト面などから好適であり、形状としては矩形や円形などが一般的に選択される。さらに、表面に設ける溝部の形状や数についても、面積や基板形状などに応じて適宜選択すればよく、基板に海藻種苗付きのロープを装着する際の作業性などを考慮すると、ロープを嵌めるだけで固定可能な形状にすると好都合である。また、これらの基板と組み合わせて使用する海藻種苗付きロープは、例えば陸上の水槽内で採苗した種苗糸を太径のロープに螺旋状に巻き付け、海中において適宜の大きさになるまで中間育成を行うことにより得られる。本発明では、撚糸よりもはるかに太い外径のロープに海藻種苗を担持させるものであるから、従来の撚糸(種苗糸)に比べて海藻種苗の支持力が格段に高くなり、しかも食害を受け難い大きさになるまで海中のロープ上で育成できる利点がある。なお、ヒジキやホンダワラの場合には、撚糸(種苗糸)を使用することなく直接ロープの表面に着生させることもできるので、藻種苗付きロープの生産は、必ずしも種苗糸を介在させる方法には限定されない。海藻育成具に適用する海藻種苗の種類は、藻場造成または海藻養殖のいずれが主たる目的であるのか、さらに設置場所の環境条件など、種々の要件を考慮して適宜選定すればよい。
【0016】
造成用構造物に対する海藻育成具の固定方法は、造成用構造物の形状や取付位置などに応じて適宜選定される。具体的には、ボルト・ナット、接着などが挙げられる。その取付位置は、ヒジキの場合には構造物の水平面が好適であるが、これに限定されない。造成用構造物の種類としては、消波ブロック、根固めブロック、被覆ブロックなどの護岸近くに設置する構造物、あるいは魚礁ブロック、その他各種形状の構造物が適用可能であり、その形状や素材も特に限定されない。また、これら造成用構造物に対する海藻育成具の取付作業は、基板と海藻種苗付きロープとが一体化した状態で取り扱うのが基本である。その取付場所は、陸上、海上及び海中のいずれも選択可能ではあるが、状況によっては海藻種苗付きのロープと基板とを分離した状態で取り扱うこともできる。この場合には、施工現場近くの陸上、あるいは沈設直前の台船上で基板のみを予め造成用構造物の所要位置に固定するか、その固定手段によっては海中で造成用構造物に取付けた後に、別途用意した海藻種苗付きのロープを基板の溝部に装着することになる。海藻種苗は、空気中に曝される時間が長くなるにつれその鮮度が低下する。このように鮮度の低下した海藻種苗を適用した場合には、施工後の海藻種苗の生育が順調でなくなるばかりか、生存率にも悪影響が避けられない。したがって、海藻種苗付きロープの基板への取付作業は、少なくとも沈設直前に台船上で行うか、あるいは造成用構造物を先に所定場所に沈設した後、海中で装着することが望ましい。なお、斯かる海藻育成具は、施工後において海藻種苗の生育状態が思わしくない場合には、簡単に海藻種苗の追加、交換ができるという利点がある。
【実施例】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の実施例について説明する。図1および図2は、本発明に係る海藻育成具の斜視図であり、それぞれ分離状態と一体化状態を示したものである。図示の海藻育成具1は、円形状の基板2の片面に、海藻種苗を担持する2本の短尺ロープ3を平行離隔状態に取り付けた構成である。ここで使用される基板2は、コンクリートや天然石等を円板状に成形したもので、一方の面には後述するロープ31の外径にほぼ一致する深さで横断面が略矩形状の溝部21が並列状態に2個設けられている。さらに、基板2の中央部には、造成用構造物との固定に使用するボルト挿通孔22が、一方の面から他方の面に貫通して設けられている。海藻種苗付きロープ3は、基板2の溝部21の全長とほぼ同じ長さであって、天然繊維あるいは合成繊維からなる数cm程度の太さのロープ31の周面上に、中間育成を経た海藻種苗32が着生したものである。そして、海藻種苗付きロープ3を基板2の溝部21内に挿入し、適宜の手段で両者を固定した状態では、溝部21の上方の開口側の天端面、すなわち基板2の表面と海藻種苗付きロープ3の開口側の周面部とがほぼ同じ高さとなり、実質的にロープ31の全体が溝部21の内部に隠れ、海藻種苗32のみが該開口から上方に立ち上がっている。
【0018】
次に、海藻種苗付きロープ3の生産方法について詳述する。海藻幼体の採苗は、ワカメ養殖などで行われている方法を利用することができる。まず、所望の成熟海藻を採取し、これを水槽内に入れて遊走子を放出させる。次いで、クレモナ(商品名)等の海藻遊走子の付着に適した撚り糸を遊走子が浮遊する水槽内に浸漬し、これに海藻遊走子を付着させて発芽させる。その後、海藻幼体が数ミリ程度になった段階で撚り糸をそのまま適度な太さを有する長尺のロープに対して、その長手方向に沿って螺旋巻きするか、あるいは短い長さに切断したもの一定間隔でロープの撚り目に挿入するなどして添着する。そして、これらの種苗糸を取り付けた長尺のロープを海に移し、アンカーとフロートを利用して海中に水平状態に設置するか、あるいは海上の筏から吊り下げ、微小な海藻幼体が移植に耐え得る大きさになるまで育成を行う。この中間育成工程により、海藻種苗32の仮根がロープ31の表面に絡み付き、ロープ31と海藻種苗32との間で強固な付着状態が形成される。このようにして得られる長尺の海藻種苗付きロープ3を、基板2の溝部21の全長に近い長さに切断し、溝部21に対して上方(開口部側)または側方(周面側)から挿入する。海藻種苗付きロープ3は、溝部21への挿入時または挿入後に適宜の手段で基板2に固定することにより両者が一体化した海藻育成具となる。この中間育成では、移植に耐えうる程度の適宜大きさになるまで育成する。その大きさは、海藻の種類、施工時期、造成区域の環境等により異なるが、例えばコンブ科海藻の場合では、一般的に葉状部の長さとして50cm〜1m程度が望ましい。本発明に用いる海藻の種類として、アラメ、カジメ、クロメ等のコンブ科海藻は餌料的価値が高く、海中林と称される大規模藻場の形成が可能である等の点から好ましい。その中でも、ツルアラメは本発明のような取扱いに適している。もちろんコンブ科海藻に限定されるものではなく、魚介類の産卵場所としての役割に主眼を置く場合など、藻場造成の目的によっては他の種類の海藻でも広く適用が可能である。
【0019】
図3ないし図5は、それぞれ本発明で使用する基板の他の実施例である。なお、前記実施例と同一部分については、同一符号で示し、重複する説明を省略する。図3に示した基板4は、海藻種苗付きロープ3の固定手段として、溝部41の開口部付近に複数の突起42を対向位置に設けた構成である。海藻種苗付きロープ3は、これらの突起42によって基板4から外れるのを阻止される。図4に示した基板5は、溝部51の開口部が内側に狭まり、その断面を示した(b)から明らかなように、開口部の幅がロープ31の外径よりも小さくなっている。この場合には、海藻種苗付きロープ3は基板5の側面(周面)側から挿入する。図5に示した基板6は、溝部61が横断面矩形状に形成され、その高さと幅はロープ31の外径とほぼ同じである。このため、海藻種苗付きロープ3を溝部61に挿入した後、別途固定具62で天端面側から押える構造である。固定具62は、H形状の金属板からなり、中央には貫通孔63が形成され、基板6のボルト挿通孔64と重ねた状態で適宜のボルト65を挿通して造成用構造物に対して基板6等を固定する。なお、別の位置に貫通孔63を形成し、その貫通孔63を基板6との固定のみに使用することも可能である。
【0020】
図6および図7は、本発明に係る海藻育成具を用いた藻場造成方法の説明図であり、図6は造成用構造物の斜視図、図7は海藻育成具の取付後の状態を示した斜視図である。図示の造成用構造物7は、一般に根固・被覆用として使われている略三角形状のブロック体であり、上面71の中央には下面に達する貫通孔72が形成されている。さらに、上面の各角部には予めナット部材73が埋設されている。そして、図7に示したように海藻育成具1は、基板2のボルト挿通孔22と造成用構造物7のナット部材73の軸心を一致させて各角部に載置し、ボルト(図示せず)で造成用構造物7に対して固定する。
【0021】
そして、海藻育成具1が取り付けられた造成用構造物7を対象区域の海底に設置した後、ロープ31に担持されている海藻種苗32が成熟すると、周囲に無数の遊走子を放出し、それらが近くにある造成用構造物や捨て石などの表面に付着する。ここに着生して成育した海藻は、同様に遊走子を放出する。これが繰り返されることにより、次第に海藻の生育範囲が拡大し、藻場が形成される。この場合、海藻育成具1は基板2を介しての固定であるから、少しの平面部分を備えるものであれば、各種形状の造成用構造物に対して安定した取付状態で適用することができる。
【0022】
図8および図9は、それぞれ異なる形状の他の造成用構造物に適用した場合の斜視図である。図8に示した造成用構造物8は、略三角形状で中央に貫通孔が形成された胴部81に対して、3個の脚部82がその各頂部において胴部81の上下に突出するように設けられた形状のコンクリート構造物であり、例えば基礎捨て石マウンドの法肩部分に設置される被覆ブロックとして利用されているものである。ここで海藻育成具1は、各脚部82の上面に各1個ずつ取り付けられている。図9に示した造成用構造物9は、いわゆる並型魚礁と称される立方格子枠状のコンクリート構造物であり、その上面の四隅にそれぞれ海藻育成具1が取り付けられている。
【0023】
なお、上記各実施例では、海藻育成具における基板の形状が円形であるものについて説明したが、もちろん矩形状などの他の形状でもよく、1個の海藻育成具での海藻種苗付きロープの本数の増減、さらには基板と造成用構造物の結合手段や造成用構造物の形状の変更など、本発明の技術思想内での種々の変更実施はもちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る海藻育成具の分離した状態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す海藻育成具の一体化した状態を示す斜視図である。
【図3】海藻育成具の他の実施例で使用する基板であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図4】海藻育成具の他の実施例で使用する基板であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図5】海藻育成具の他の実施例で使用する基板であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図6】本発明に係る藻場造成方法で使用する造成用構造物の斜視図である。
【図7】図6の造成用構造物に海藻育成具を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図8】他の造成用構造物に海藻育成具を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図9】他の造成用構造物に海藻育成具を取り付けた状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1…海藻育成具
2,4,5,6…基板
3…海藻種苗付きロープ
7,8,9…造成用構造物
21,41,51,61…溝部
22,63,64…ボルト挿通孔
31…ロープ
32…海藻種苗
42…突起
62…固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間育成後の海藻種苗を担持する短尺のロープと、このロープを開口側の天端面にほぼ一致させ、該開口から海藻種苗が突出した状態で取付可能な溝部を表面に有する基板からなることを特徴とする海藻育成具。
【請求項2】
中間育成後の海藻種苗を担持する短尺のロープと、このロープを開口側の天端面にほぼ一致させ、該開口から海藻種苗が突出した状態で取付可能な溝部を表面に有する基板からなる海藻育成具を、海藻種苗が表側となるように造成用構造物の水平面に付設し、この造成用構造物に移植された海藻種苗を基点として周囲に海藻を繁茂させることを特徴とする藻場造成方法。
【請求項3】
前記海藻種苗がヒジキであることを特徴とする請求項2に記載の藻場造成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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