海面処分場の遮水構造及び遮水工法
【課題】覆土等によって遮水シートにかかるせん断力を減じて遮水シートの変形を軽減し、安全で施工性のよい海面処分場の遮水構造を提供する。
【解決手段】海面処分場の法面を有する底面の少なくとも法面部分上に、遮水シート及び保護材を有する多層シートが中間保護層を介して上下二重に敷設されるとともに上側の多層シート上に上部被覆層が設けられる海面廃棄物処分場の遮水構造である。前記多層シートが、遮水シートとこの遮水シートの上下面にそれぞれ設けられた保護材とから3層以上に形成されている。
【解決手段】海面処分場の法面を有する底面の少なくとも法面部分上に、遮水シート及び保護材を有する多層シートが中間保護層を介して上下二重に敷設されるとともに上側の多層シート上に上部被覆層が設けられる海面廃棄物処分場の遮水構造である。前記多層シートが、遮水シートとこの遮水シートの上下面にそれぞれ設けられた保護材とから3層以上に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物の海面処分場の遮水構造、及び海面処分場の遮水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
海面処分場の遮水構造としては、ゴム、塩ビ等の合成樹脂系遮水材を用いる遮水構造がある。合成樹脂系遮水材を使用した場合には不織布等の合成繊維性保護材を上下に併用することが関係官庁の規格に記載されている。図20に示すように、遮水シートを2重にし、2枚の遮水シートの間に不織布等からなる中間保護層を敷設し、上下に地盤や土質材料から遮水シートを保護する保護マットを敷設した遮水構造が必要とされている。中間保護層は、廃棄物の埋立処分等の負荷により上下の遮水シートが同時に損傷することを防止する目的で、十分な厚さと強度を有する不織布などの材料が用いられる。
【0003】
海面処分場においては遮水材を二重に敷設し、さらにその上に潮位、波力による遮水構造の浮き上がり防止のためのカウンターウェイトとして土質材料の被覆層を敷設する。海面処分場の底面の法面部に遮水構造を施工する場合には、通常1:1.5から1:3の法勾配で施工され、その覆土重量によるせん断力が遮水構造全体にかかる。
【0004】
特許文献1では、保護マットの遮水シートと接する面に滑り止めを設け、処分場の法面で遮水シートの上面に敷設した保護マットが滑り落ちるのを防止している。
【特許文献1】特開2001−314830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで特許文献1の方法では保護マットは滑り落ちないものの、上部被覆層や、投入された埋立廃棄物の荷重に基づいて保護マットの受ける負荷の多くが遮水シートにかかった。万が一遮水シートが破損した場合には、陸上であれば容易に修復が可能であったが、海中では既に投入された廃棄物や覆土を一度取り除き、遮水シートを海上に引き上げ、船上で溶着等の修復を行い、再び沈めて遮水構造を作り直す必要があった。
【0006】
従来技術では保護材(保護マット)として不織布を用いていたが、保護材は突起物が遮水シートに突き刺さったり遮水シートを引き裂いたりするのを防止するのが主目的であるため、最終覆土重量による下部への張力発生が保護材、及び、合成樹脂製遮水材へ与える影響を考慮できていなかった。法面部若しくは側面部遮水構造の最終覆土が敷設されると直近の保護材を摩擦により引き下げてシートに有害な、荷重を分担させる。したがって保護材の応力変形を防止するため、安定性が十分確保できるように覆土の法勾配をゆるくする必要がある。あるいは保護材の補強などにより法面の崩壊を防止するための対策をとる必要があった。
【0007】
本発明の課題は、覆土等によって遮水シートにかかる引張力を減じて遮水シートの変形を軽減し、安全で施工性のよい海面処分場の遮水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、海面処分場の法面を有する底面の少なくとも法面部分上に、遮水シート及び長繊維不織布からなる保護材を有する多層シートが、中間保護層を介して上下二重に敷設されるとともに上側の多層シート上に上部被覆層が設けられる海面処分場の遮水構造であって、
前記多層シートが、遮水シートとこの遮水シートの上下面にそれぞれ設けられた保護材とから3層以上に形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の海面処分場の遮水構造であって、前記遮水シートは下側の前記保護材と、または下側及び上側の前記保護材と、一部で接合していることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の海面処分場の遮水構造であって、前記中間保護層は土質材料からなることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造であって、前記保護材のヤング率は前記遮水シートのヤング率よりも高いことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造であって、前記保護材のヤング率が20000kN/m2以上であることを特徴とする。
ここで、ヤング率は二軸引張り試験機を用いた拘束引張試験により得られたものである。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造であって、前記遮水シートと下側の前記保護材との摩擦係数は前記遮水シートと上側の前記保護材との摩擦係数よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造を構築する際に用いられる海面処分場の遮水工法であって、海面処分場の法面を有する底面の少なくとも法面部分上に前記多層シートを敷設した後に、敷設された多層シート上を土質材料からなる中間保護層で覆い、この中間保護層上に前記多層シートを敷設し、敷設された多層シート上を土質材料からなる上部被覆層で覆い、かつ、多層シートを敷設する際に、遮水シートと下側の保護材とを接合してこれら遮水シートと下側の保護材を同時に敷設するか、もしくは、遮水シートと上下の保護材とを接合し、これら遮水シートと上下の保護材とを同時に敷設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、前記多層シートが、遮水シートとこの遮水シートの上下面にそれぞれ設けられた保護材とから3層以上に形成されているので、遮水シートが受ける負荷を遮水シートの上下面に設けられた保護材に分散してより一層、減ずることができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、遮水シートと下側の保護材とを接合した場合には、遮水シートと下側の保護材とを同時に敷設することができ、敷設時の手間を省略し工期を短縮することができる。また上側の保護材にかかるせん断力は遮水シートに伝達されにくく、遮水シートにかかる引張力は接合部から下側の保護材へ効果的に伝達されるので、遮水シートの負担する引張力を小さくすることができる。
さらに遮水シートと下側の保護材、及び遮水シートと上側の保護材とをそれぞれ接合して一体とした場合には、遮水シートと上下2枚の保護材とを全て同時に敷設することができ、更に敷設時の手間を省略し工期を短縮することができる。この場合、遮水シートと上側の保護材との接合に、水中で時間とともに接着効果が失われる接着剤を使用して施工後に接着が水中ではずれて上側の保護材にかかるせん断力が遮水シートに伝達されにくくする。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、前記中間保護層が土質材料からなるので、中間保護層の重量で、潮汐や波浪による楊圧力によって遮水シートが浮き上がるのを防ぐことができる。また、中間保護層として土質材料を用いても、中間保護層と遮水シートとの間には保護材が配置されるので、土質材料によって遮水シートが傷つくことが無い。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、保護材のヤング率が遮水シートのヤング率よりも高いので、遮水構造にかかる引張力の多くを保護材が負担することとなり、遮水シートにかかる負荷を軽減することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、前記保護材のヤング率が20000kN/m2以上であることにより、保護材に載荷された荷重による保護材の変形を極力小さく抑え、遮水シートに与える応力を極力小さく抑えることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、前記遮水シートと下側の前記保護材との摩擦係数は上側の前記保護材との摩擦係数よりも大きいので、上側の保護材から遮水シートに伝達されるせん断応力を減少させ、また遮水シートにかかる引張力を下側の保護材に伝達しやすくなる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、請求項1〜6のいずれか一項、特に請求項2に記載の発明と同様の効果が得られる海面処分場の遮水構造を容易に施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態例を示す管理型廃棄物最終処理場(海面処分場)が造成される埋立予定地である。埋立地1に隣接して既設護岸3と外周護岸4により海の海域2の一部を囲って埋立地を造成する。外周護岸4で囲われた内部はさらに中仕切護岸5で区画されている。その区画が本発明の実施の形態例を使用する海面処分場10である。なお海面処分場10の一角には水処理施設6が設けられ、海面処分場10の保有水を浄化処理して海域2へ放流している。
【0024】
図2は図1の海面処分場10の遮水構造を示す断面図である。中仕切り護岸5の背面(法面)に腹付け土11aと、海底面7を被覆する下地11bとが設置されている。腹付け土11aおよび下地11bは土質材料からなる。土質材料としては、山土、石材やスラグ等を用いることができる。
腹付け土11aおよび下地11bの上に遮水構造20(遮水工)が敷設され、上部被覆層12(覆土)によって被覆されている。遮水構造20は、2重の多層シート30、30と、その間に挟まれた中間保護層40とからなる。
【0025】
図3は海面処分場10の法面部分の断面のモデル図である。腹付け土11aおよび下地11bの上に多層シート30、中間保護層40、多層シート30、上部被覆層12の順に重なっている。上下の多層シート30、30はそれぞれ、合成繊維性の保護材(保護マット31)と、保護マット31、31に上下面を覆われた合成樹脂製の遮水シート32から形成されている。
【0026】
保護マット31のヤング率は遮水シートのヤング率よりも大きいことが望ましく、20000kN/m2以上、好ましくは35000kN/m2以上、更に好ましくは45000kN/m2以上であることが望ましい。ここで、ヤング率は二軸引張り試験機を用いた拘束引張試験により得られたものである。保護材31のヤング率を高めることで、保護材31に載荷された荷重による保護材31の変形を極力小さく抑え、遮水シート32に与える応力を極力小さく抑えることができる。保護マット31としては、例えばポリエステル製の長繊維不織布などを用いることができるが、上記のヤング率を満たすものであれば、他の合成繊維製の長繊維不織布や織布などを用いてもよい。
【0027】
遮水シート32は保護材31から受けるせん断応力に耐えうるべく、ヤング率が6000kN/m2以上、好ましくは6600kN/m2以上であることが望ましい。ヤング率は同様に、二軸引張り試験機を用いた拘束引張試験により得られたものである。遮水シート32としては、PVCシートなどを用いることができるが、上記のヤング率を満たすものであれば、他の合成樹脂製のシートなどを用いてもよい。
【0028】
ここで、遮水シート32と下側の保護マット31との摩擦係数が、遮水シート32と上側の保護マット31との摩擦係数よりも大きくなるよう設計されていてもよい。遮水シート32と上側の保護マット31との摩擦係数を小さくすることで、法面方向下向きにかかる上部被覆層12の滑動力の多くを上側の保護材が受けることとなり、遮水シート32に伝達されるせん断応力は極力小さくなる。また遮水シート32と下側の保護マット31との摩擦係数を大きくすることで、遮水シート32が上側の保護マット31から受けるせん断応力は効率よく下側の保護マット31へ伝達されるので、遮水シート32の負担する引張力を小さくすることができる。
【0029】
遮水シート32と上側の保護材31との摩擦係数を低下させる方法としては、遮水シートの表面を平滑に仕上げる方法がある。また遮水シートの表面を平滑に仕上げてかつ遮水シートの硬度を高めるなどの方法がある。また上側の保護材31の表面を火炎処理して滑らかにする方法や、遮水シート32の上側に樹脂製の突起を設けて接触面積を減らす方法、あるいは遮水シート32と上側の保護材31との間に潤滑材を入れる等の方法がある。遮水シート32と下側の保護材31との摩擦係数を増加させる方法としては、遮水シート32の下面をエンボス加工して凹凸をつける方法や、遮水シート32と下側の保護材31との間に滑り止めを入れる等の方法がある。
【0030】
あるいは、遮水シート32と保護材31とは、一部若しくは全面で接合していてもよい。一部で接合する場合には、多数箇所で点接合あるいは線接合してもよい。
接合方法としては,遮水シート表面を熱で溶かし、保護マットの繊維に圧力をかけて溶けた遮水シート表面へめり込ませる熱融着方法を使用してもよい。あるいは熱により分解し、粘着性が発生するアクリル系接着剤(ヒロダイン製接着剤など)を使用してもよい。接着剤としては、他にもウレタン系、アクリル系、ゴムアスファルト系、エポキシ系等の接着剤を使用することができる。あるいは遮水シート表面を例えば面ファスナー雄材状に毛羽加工して保護マットの繊維に絡ませる機械的な接着方法を使用してもよい。
【0031】
遮水シート32と下側の保護材31とを接合した場合には、遮水シート32が上側の保護材31から受けるせん断応力は接合部分から効率よく下側の保護材31へ伝達されるので、遮水シート32の負担する引張力を軽減することができる。
また遮水シートと下側の保護材31とを同時に敷設することができ、敷設時の工期を短縮することができる。
【0032】
遮水シート32と下側の保護材31とを接合した上に、遮水シート31と上側の保護材32とを接合して一体とした場合には、遮水シート32と上下2枚の保護材31、31とを全て同時に敷設することができ、更に敷設時の工期を短縮することができる。
なお遮水シート32と上側の保護材31との接合に水溶性の接着剤を使用した場合には、施工後に水中で外れる。水溶性でなくとも、接着剤で接着した場合には水中で外れやすい傾向がある。したがって、上側の保護材31にかかるせん断力が遮水シート32に伝達されにくくなる。
遮水シート32と下側の保護材31との接合には、熱融着方法や機械的な接着方法など、施工後にも外れないような接着法を採用することで、遮水シート32にかかる引張力が接着部から効率よく下側の保護材31へ伝達され、遮水シート32の負担する引張力を極力小さくすることができる。
【0033】
上記の多層シート30、30の間には中間保護層40が造成される。また上側の多層シート30の上には上部被覆層12が造成される。中間保護層40及び上部被覆層12としては、土質材料を用いることができる。中間保護層40及び上部被覆層12として土質材料を用いた場合には、波浪や潮汐の影響による楊圧力に抗して遮水構造20の浮き上がりを防止する作用を得ることができる。
中間保護層40及び上部被覆層12に用いる土質材料としては、山土、石材やスラグなどを好適に使用することができる。特に比重の大きい製鋼スラグ、銅スラグを用いた場合には、遮水構造20を海中に沈めるのに必要な中間保護層40及び上部被覆層12の体積を減らすことができ、限定された用地内における廃棄物の処分容量を増大することができる。
【0034】
次に遮水構造20を施工する遮水工法について説明する。まず腹付け土11aを外周護岸4の背面に設置し、下地11bを海底面7を被覆するよう設置し、その上に、下側の多層シート30を敷設する。多層シート30を構成する保護マット31、遮水シート32が接着されていないときは、保護マット31、遮水シート32、保護マット31の順に重ねて敷設する。なお、保護マット31と遮水シート32との間には滑り止めや潤滑材を適宜、挟み込んでもよい。
【0035】
遮水シート32と下側の保護マット31とが接着されている場合には、接着されている遮水シート32と下側の保護マット31とを同時に敷設し、その上に保護マット31を重ねて敷設する。さらに遮水シート32が上側の保護マット31とも接着されているときには、遮水シート32とその上下面に接着された保護マット31、31とを同時に敷設する。
【0036】
次に下側の多層シート30の上に中間保護層40を造成する。土質材料からなる中間保護層40を造成することで、下側の多層シート30が潮汐や波浪による楊圧力によって浮き上がるのを防ぐことができる。
【0037】
中間保護層40を造成した後に、下側の多層シート30と同様にして上側の多層シート30を中間保護層40の上に敷設する。その後中間保護層40と同様に、上側の多層シート30の上に上部被覆層12を造成する。上部被覆層12を造成することで、上下の多層シート30、30及び中間保護層40の潮汐や波浪による楊圧力によって浮き上がるのを防ぐことができる。
【0038】
以上のように、本実施例によれば、上側の保護マット31にかかる中間保護層40や上部被覆層12による斜面下方への滑動力から受ける遮水シート32へのせん断応力を極力小さく抑え、また遮水シート32が受ける引張力は効率よく下側の保護マット31に伝達されるので、遮水シート32への負荷を極力小さくすることができ、安全で効率のよい海面処分場の施工を行うことができ、また使用時、すなわち廃棄物の埋立時の法面の安定を計ることができる。
【0039】
〔実施例〕
以下に本発明に関する評価を示す実験結果を記載する。
【0040】
実験1.せん断力を受けるジオシンセティックス多層ライナーの荷重伝達特性
法面部に敷設される多層ライナー(遮水構造)の部分モデルを対象として多層構造せん断装置を開発し、せん断力を受けるジオシンセティックス多層ライナーの法面模型実験を実施した。
【0041】
<実験方法>
(1)実験装置と原理
多層せん断試験装置の概念図(5層構造の場合)を図4に示す。最上層(第1層)の土質材料61を詰めたせん断箱51(B188mm×L288mm×H150mm)は法面上の土塊に相当し、これに水平に作用させるせん断力Fは土塊自重による滑動力に相当する。実際の側面遮水工の全体構造系に対しては部分構造モデルであり、不織布62・シート63はそれぞれ端部を締付金具で固定し、剛性が高くヒンジをもつ接続金具を介して支柱に固定されている。固定端にセットしたロードセルで各層に発生する張力を測定する。各層の固定端からせん断箱の後端の間(自由長)は、引張力に応じて自由に伸びが発生する。また、最下層の境界条件として、土質材料61(下部土槽52)を図示しているが、伸び拘束(固定)、伸び自由(ローラー)、も選定できる。
【0042】
本実験では、せん断部の載荷範囲(B=188mmまたは240mm)に対してせん断部でネッキングの影響が少なくなる様に、シート・不織布供試体の幅を30cmとした。また、せん断箱の変位が150mmになるまで変位速度50mm/minでせん断力を載荷した。なお、第1層を不織布とする実験では、せん断箱に固定したダミー板(B240mm×L340mm)に不織布を接着した供試体を用いた。
【0043】
(2)層間のせん断力・せん断応力
図4において、層間に作用するせん断力・せん断応力などを説明する。5層構造の場合、第1層:土質材料61(せん断箱51)、第2層:不織布62、第3層:シート63、第4層:不織布62、第5層:土質材料61(下部土槽52)から構成される。実験の基本的な計測項目は、せん断力F1および第i層(シート63/不織布62)に発生した引張力(i = 2, 3, 4)とせん断箱51の変位量u1
の関係である。Frは、第5層が発揮するせん断力あるいは第4層と第5層間のせん断力F45であり、全体の力の釣合から次式で得られる。
Fr= F1 − F2 − F3 − F4 (1)
【0044】
Fijは接触する第i層と第j層の間に作用する層間せん断力である。各層の力の釣合から以下の関係があり、計測値Fi(i=1〜4)から算定される。
F12 = F1
F23 = F12 − F2 = F1 − F2 (2)
F34 = F23 − F3 = F1 − F2 − F3
F45 = F34 − F4 = F1 − F2 − F3 − F4 = Fr
【0045】
これより、接触する第i層と第j層の層間に作用するせん断応力τijは、以下のように求められる。
τij = Fij / A (A:接触面積) (3)
【0046】
第i層、第j層におけるそれぞれの任意点で発生する変位をui 、ujとすると、この2点間の相対変位uijは、以下の通りである。
uij = ui − uj (4)
【0047】
せん断力F1 が作用する範囲でにおいて、シート・不織布の変位は、自由長Liの伸びδLiと、せん断部直下部分の伸びの和となる。また、せん断箱内の土質材料の変位は、せん断箱の変位と必ずしも一致しない。ここでは簡単のため、第1層の変位は直接測定されたせん断箱の変位u1 とした。また、第2〜4層の変位ui は各層の自由長の伸びδLiとした。
ui = δLi = Fi / (EAs)i × Li (i>1) (5)
ここで、(EAs)iは第i層の自由長部の引張剛性であり、Eはヤング率、Asは断面積である。
【0048】
(3)実験ケースと実験材料
5層構造のプロトタイプに対して、多層ライナーを構成する4層構造を実験した。その構成材料と最下層の拘束条件(伸び拘束・自由)を実験パラメーターとした。
【0049】
遮水シートとして厚さ3mmのPVCシート、保護マットとして厚さ5mm相当の短繊維不織布と長繊維不織布、土質材料として相対密度Dr=50−60%の緩い状態の製鋼スラグを用いた。これらは、海面処分場を対象として検討した材料である。
【0050】
実験材料の引張剛性EAsは、本試験装置のキャリブレーションの中で、シート・不織布供試体にダミー板を用いて固定したせん断箱にせん断力を作用させ、せん断力〜変位関係、すなわち引張力〜自由長伸び量の関係から測定した。その結果、シートはEAs=4.22kN、短繊維不織布はEAs=3.04kN、長繊維不織布はEAs=7.43kNであった。これらの値を式(5)にて用いた。
【0051】
<実験結果と考察>
本報告では、長繊維不織布を用いた4層、5層構造のケースについて実験結果と考察を示す。
【0052】
(1)せん断力・せん断応力と変位・相対変位関係
a)4層実験
第1層をせん断箱に詰めたスラグ65、第2層を長繊維不織布62、第3層をシート63、第4層を長繊維不織布62とする4層構造であり、第2〜3層は伸び自由、第4層は伸び拘束の条件である(図5)。図6に鉛直応力σn=30(kN/m2)に対して得られたF1〜u1と Fij〜u1関係を示す。F3が小さく、シート63に働く引張力が極めて小さいことがわかる。また、第2層と第3層、第3層と第4層とで摩擦係数を変えていないため、F23、F34(=Fr)の大きさは非常に近い値を示している。
【0053】
b)5層構造
5層構造では、第1層をせん断箱に詰めたスラグ、第2〜4層は長繊維不織布−シート−長繊維不織布からなり、伸び自由、第5層は下部土槽のスラグである(図4参照)。5層実験ではσn=30, 50(kN/m2)の2ケースを実施した。ここでは、大きい引張力が生じるσn=50(kN/m2)のケースを示す。図7にF1〜u1と Fij〜u1関係を示す。F3、F4 が小さく、シート63および第4層の長繊維不織布62に働く引張力が極めて小さいことがわかる。
また、F23、F34、F45(=Fr)の大きさは非常に近い値を示している。F1が最大となる変位はu1=30mmであり、4層構造の場合より大きい。ここに示した5層実験の方が鉛直応力σnが大きいために、最大せん断力が大きくなって各層の伸びが増加したことが考えられる。F3>F4となった点については、第3層と第4層の剛性の差と、第3〜4層間と第4〜5層間とのせん断強度の差の両者に起因していると思われる。
【0054】
(2)荷重伝達率
多層せん断実験におけるせん断力F1に対して、第i層に生じる引張力Fiの割合Fi / F1を荷重分担率と定義する。4層、5層構造の実験結果について荷重分担率Fi / F1〜せん断変位u1の関係をそれぞれ図8、図9に示す。
4層、5層構造のいずれについても、シートに対する荷重伝達率F3/F1が最も小さくなっており、第2層の長繊維不織布が荷重の多くを負担していることがわかる。
【0055】
実験2.管理型海面処分場の表面遮水工における斜面滑りに関するFEM解析(シミュレーション)
管理型海面処分場の側面遮水工に関する安定検討において、先に実施した模型実験(多層せん断実験、実験1)の結果に基づき、力学的設計法・数値解析手法の開発を目的としている。ここで検討する断面は、二重遮水シートによる表面遮水工であり、上部遮水工と下部遮水工がそれぞれ「土質材料〜不織布〜遮水シート〜不織布〜土質材料」の5層から成る構造である(図2)。まず、一面せん断試験から得られた材料間のせん断特性について数値解析モデルを構築し、これを多層せん断実験のFEM解析に適用して多層構造に関する数値解析手法の妥当性を検証した。この解析手法を用いて海面処分場の側面遮水工の全体挙動について評価した。
【0056】
<検討条件>
(1)検討断面
図2における管理型海面処分場の二重遮水シートから成る表面遮水工(遮水構造20)に関する検討断面を図10に示す。海面処分場外周護岸を透過する波浪による圧力と、潮位変動によって処分場内外に生じる水位差による静水圧が、遮水工に揚圧力として作用する。この揚圧力による浮き上がりに抵抗するため、表面遮水工の中間保護層と上部被覆層の両者に土質材料を用いて載荷重としての役割をもたせた構造である。中間保護層40、上部被覆層12の厚さがそれぞれ3m、5mであり、全体が8mとなる。これを決定した海象条件は、設計波高Ho=3.1m, 周期T=5.8sec、水深h=14.5m(海底地盤からMSL)、潮位差HWL−LWL:3.6mである。
【0057】
図10の図中の番号は側面遮水工の施工段階を示している。護岸背面に(1)腹付け土11a、底面部に土質材料で(2)下地層(下地11b)を設置した後、(3)下部遮水工(多層シート30)を敷設する。中間保護層40を(4)底面部と(5)側面部に造成後、(6)上部遮水工(多層シート30)を敷設する。上部被覆層12を(7)底面と(8)側面部に造成後、(9)覆土する。ここでは、上部・下部遮水工はそれぞれ、保護マット(長繊維不織布)〜遮水シート(PVCシート)〜保護マット(長繊維不織布)から成り、土質材料として製鋼スラグ(粒径30mm以下)を用いる場合を検討する。
【0058】
(2)材料の物性値
解析に用いた材料の変形・強度特性に関する物性値を表1、表2に示す。
表1 材料の変形特性
【表1】
表2 材料(間)のせん断強度特性
【表2】
【0059】
図11は、PVCシート、長繊維不織布について試験片寸法20cm×20cmにより、通常の引張試験と拘束引張試験を実施した結果である。ここで、拘束引張試験には二軸引張り試験機を用いた。土中に敷設された場合、ネッキングが拘束されると考え、拘束引張試験で得られた弾性係数を用いた。
中間保護層・上部被覆層は海中施工が中心となり、締固めを行わない場合、相対密度がDr=50〜60%程度の緩く堆積した状態になると想定される。スラグの強度変形特性は、初期相対密度Dr=60%の大型供試体(寸法D300mm×H600mm)を用いた圧密排水三軸圧縮試験から求めた。なお、単位体積重量は、気中γ=21kN/m3、水中γ'=14kN/m3とした((財)沿岸開発技術研究センター・鐵鋼スラグ協会:「港湾工事用製鋼スラグ利用手引書」、平成12年3月)。
【0060】
(3)安定解析
極限平衡法による安定解析から、検討断面(図10)における遮水工に必要な層間摩擦角を算定した。極限平衡法であるため、土塊や遮水材に発生する変形・ひずみを無視し、最大摩擦角が滑り面に沿って同時に発揮されると仮定している。
【0061】
安定解析モデルとして、既往の法面部分を対象とする法面モデル(R.M. Koerner: Designing with Geosynthetics - fourth edition, Prentice Hall, Chapter 5 Designing with Geomenbrane, 1999,J.P.Giroud and J.F.Beech: Stability of soil layers on geosynthetic lining system, Proceedings of Geosynthetics '89, Vol.1, pp.35-46, 1989)と底面部を含めた全体モデル(図12)の2種について解析した。
【0062】
図12において、以下の式が成り立つ。
NA = WA cosβ − F
NP = WP + EP sinβ − F’
EA sinβ = WA − NA cosβ − ( NA tanδ +Ca ) sinβ / FS
EP cosβ = ( NP tanδ + C ) / FS + AP
EA = EP
【0063】
ここに、WA:滑動土塊総重量(kN/m)、WP:抵抗土塊総重量(kN/m)、NA:斜面垂直方向の反力(kN/m)、NP:底面垂直方向の反力(kN/m)、β:法勾配(°)、F:法面にかかる波圧(kN/m)、F’:底面にかかる波圧(kN/m)、PP:抵抗土塊(水平部)による受動土圧(kN/m)、EA:抵抗荷重の法面水平方向の力(kN/m)、EP:滑動荷重の法面水平方向の力(kN/m)、δ:土塊と遮水材の層間摩擦角(°)、FS:遮水材上の土塊滑りの安全率、Ca:土塊と遮水材の付着力(kN/m)、C:土塊の粘着力(kN/m)、φ:土塊の内部摩擦力(°) である。
【0064】
全体モデルでは、このように底面部の土塊と受働土圧を考慮している。処分場底面にも遮水工を敷設する必要がある場合には、底面遮水工に沿った滑りがクリティカルになる場合がある。
【0065】
図10の検討断面におけるa)下部遮水工と中間保護層、b)上部遮水工と上部被覆層、c)下部遮水工と遮水工全体の3断面に関して、全体モデルによる安定解析結果を図13に示す。ここで、層間摩擦角δは、多層ライナー構造である遮水工の全体と覆土(中間保護層と上部被覆層)および下地との間で発揮される摩擦角と見なしている。ただし、外力として遮水工に作用する波圧の影響は、法面、底面からの反力NA、NPを低減させる様に働くと考えているが(図12)、この安定解析では考慮していない。
【0066】
不織布−シートおよびスラグ−不織布(水中)の層間摩擦角δ=27°が小さく(表2)、法勾配1:2 (傾斜角θ=26.6°)の遮水工全体の滑りについて支配的と考えられる。検討した3断面についてδ=27°に対する安全率Fsは、それぞれa) Fs=1.8, b)Fs=1.4, c)Fs=2.2 である。これは、覆土と遮水工との摩擦抵抗力、覆土底面の土の摩擦抵抗力あるいは受働土圧が発揮され、側面遮水工の安定が確保されることを示している。一方、不織布−シートの層間摩擦角が小さくFs<1.0になる場合には、遮水工を補強して土塊の滑動力に抵抗するか、遮水材の発揮する引張力に期待して必要安全率を満たす必要がある。
【0067】
<側面遮水工のFEM解析>
(1)解析条件
管理型海面処分場の側面遮水工(図10)を対象として、2次元平面ひずみ弾塑性FEM解析によって施工過程における遮水工の安定と多層ライナー構造の挙動を検討した。
【0068】
土質材料は平面要素でモデル化し、法面部分は高さ・幅を約0.5mに分割した。材料モデルはMohr−Coulombの降伏側に従う弾塑性体とした。シート(t=3mm)と不織布(t=5mm)は、引張剛性だけもつ(曲げ剛性と圧縮剛性をもたない)部材として、非線形トラス要素でモデル化した。各材料の物性値は表1、表2に示した通りである。スラグ〜不織布、不織布〜シートの境界に弾塑性モデルの境界要素を配置し、一面せん断試験結果のシミュレーションから得たモデルパラメーターを用いた。なお、今回の検討範囲では、境界要素のメッシュサイズ依存性が無視できるくらい小さいことを事前計算により確認している。
境界条件として、裏込め石と基礎地盤との境界は固定境界、処分場側の側方境界は鉛直ローラーとした。シート・不織布の天端は、遮水工の天端位置に固定した。
【0069】
<検討条件>に述べた施工過程に従った解析手順で段階解析を行った(計61ステップ)。法面部の覆土層は高さ0.5m毎(要素高さ)に平面要素を発生させ、その自重を作用させていく形で、段階的な盛土解析を行った。その間のシート・不織布の敷設段階で、非線形トラス要素を発生させた。
【0070】
(2)解析結果(基本ケース)
ここでは、覆土の滑動力によって多層構造遮水工の各構成材に発生する引張力に着目し、層間せん断抵抗との相互作用を検討する。
上側不織布、下側不織布、シートのそれぞれに発生する引張力とこれらの合力について、天端から法面に沿った距離に対する分布を図14に示す。法尻の位置は、下部遮水工ではX=37.5m、上部遮水工ではX=29.7mである。ここでは、a)下部遮水工の中間保護層完了時(39ステップ)、b)下部遮水工の覆土(9)完了時、c)上部遮水工の覆土(9)完了時(以降、最終時と称す)、の3通りについて示した。
【0071】
全般的な傾向として、引張力の発生する範囲は上部法面だけである。a)とb)を比較すると、上部被覆層の荷重により下部遮水工の引張力が増加していき、引張力の発生する範囲が法面の約1/2から2/3に拡大している。また、a)とc)は類似の分布傾向を示すが、上部被覆層の方が中間保護層より法面の覆土厚が大きく、底面の覆土厚が薄いため、c)の引張力が大きくなっている。
【0072】
上側・下側不織布の引張力は、シートの引張力の10倍程度大きく、全体の大部分の力を負担している。この基本ケースに関しては、上部・下部遮水工とも、また中間保護層完了時と最終時の両者ともこの傾向を示す。これは、層間の相対変位が比較的小さく、不織布の方がシートより弾性係数が高いためと考えられる。また、天端付近では、直接覆土層のせん断力を受ける上側不織布の方が下側不織布よりも大きい傾向を示すが、法面の途中では、ほぼ同様な大きさになっている。
【0073】
なお、シート・不織布に発生しているひずみは、最大で1%程度であり、弾性範囲内にある。安定解析によるとFs>1.4を満足している断面に関して応力変形解析による照査を行ったが、基本ケースの設定条件に対しては、側面遮水工全体および構成材料の応力ひずみについて安定上問題ないと言える。
【0074】
(3)パラメータースタディ
不織布〜シートの層間せん断強度と不織布の弾性係数に関してパラメータースタディを実施した。各ケースで得られた下部遮水工(最終時)の引張力分布を図15〜18に示す。
【0075】
a)不織布〜シートの層間せん断強度の影響
上側・下側の不織布〜シートの層間せん断強度だけを変化させた場合について解析した。これは不織布〜シート間の摩擦係数を低下させた場合に相当する。上側・下側の不織布〜シートの層間せん断強度を基本ケースの0.5倍にすると、層間摩擦角ではφ=27.0°からφ=14.3°に低下させることに相当し、遮水工全体の安全率はFs=1.1になる(図13)。直接土塊からせん断力を受ける上側不織布の引張力が基本ケースの2〜5倍程度大きくなり、下側不織布の分担する引張力は相対的に小さくなる。引張力の発生する範囲は法長の90%程度となり、引張力の合力は4倍程度増加する(図15)。一方、不織布〜シートの層間せん断強度を1.5倍にした場合(φ=37.4°)、すなわち、摩擦係数を上げた場合、大きな変化はないが、基本ケース(図14b)と比較した場合、基本ケースでは上側不織布の引張力が下側不織布より高くなっているが、層間せん断強度を1.5倍にした場合では上側不織布と下側不織布とで同等の引張力となっている。したがって、シートと下側不織布との摩擦係数を高くすれば下側不織布が引張力を分担する割合を増やしてシートにかかる引張力を減少させることができる。
【0076】
極端なケースとして、上側・下側の不織布〜シートの層間せん断強度を基本ケースの0.05倍にした場合(φ=1.5°)、引張力の合力が基本ケースの20倍程度に増加し、そのほとんどを上側不織布の引張力が負担している。これは、不織布の引張強さの1/2程度の値である。一方、下側不織布とシートには、基本ケースと同様な引張力しか生じていない(図17)。
以上のことから、上側不織布とシートとのせん断強度は小さく、下側不織布とシートとのせん断強度は大きくすると、シートにかかる引張力は極力小さくすることができると考えられる。
【0077】
b)不織布の剛性の影響
上側・下側不織布の弾性係数を基本ケースの1/10倍にしたケースの下部遮水工(最終時)の引張力分布を図18に示す。不織布の引張力は、不織布の剛性に対してほぼ比例関係を示し、1/10倍になった。上側・下側不織布の弾性係数を10倍にした場合も上記と同様な傾向であった。
一方、シートの引張力は不織布の剛性に関係なくほぼ一定値であった。このため、不織布の剛性が低い時には相対的に大きな引張力をシートが負担し、反対に不織布の剛性が高い時には不織布が負担する引張力が大きくなると考えられる。したがって、シートより不織布の剛性(ヤング率)が高いほうがよいと考えられる。
【0078】
実験3.
図19に示すように、転炉スラグで作成した方面角度1:2、高さ5mの盛土斜面81に、500g/m2、ヤング率35000kN/m2のポリエステル製長繊維不織布31(保護材)と、3mmの塩ビの遮水シート32とを、保護マット31〜遮水シート32〜保護マット31の順に積層し敷設した。遮水シート32は下面をエンボス加工して摩擦係数を高くした。各材料の上端は遮水シート32、保護マット31を個別に斜面81の上の固定部84に固定し、個別に移動量を測定できるように各固定部にコイル式のエキスパンダー82を設置した。遮水シート32、保護マット31を固定後に法面上端と同じ高さまで山砂83を積み立てて遮水シート32、保護マット31の移動量を確認した。
【0079】
評価方法として材料間の摩擦係数はJIS K7125を用いて各3回測定し最大値を採用した。
【0080】
比較例として上下の保護マットに通常の500g/m2、ヤング率15000kN/m2の短繊維不織布とエンボス加工のない3mm塩ビ遮水シートを敷設しテストした。その結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
以上に示したように、本発明の実施例によれば、ヤング率が高い保護マット31を使用し、また遮水シート32の下面をエンボス加工して下側の保護マット31との摩擦係数を大きくしたことにより、遮水シートの移動量を大幅に抑えることができ、また上側の保護マットの移動量も大幅に抑えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態例を示す管理型廃棄物最終処理場(海面処分場)が造成される埋立予定地である。
【図2】図1の海面処分場の遮水構造を示す断面図である。
【図3】海面処分場10の法面部分の断面のモデル図である
【図4】実験1の多層せん断実験(5層実験)の概念図である。
【図5】実験1の4層実験の構造図である。
【図6】実験1の4層実験におけるFi〜u1と F23(=Fr)〜u1の関係を示す図である。
【図7】実験2の5層実験におけるFi〜u1と F23(=Fr)〜u1の関係を示す図である。
【図8】実験1の4層構造の実験結果について荷重分担率Fi / F1〜せん断変位u1の関係を示す図である。
【図9】実験1の5層構造の実験結果について荷重分担率Fi / F1〜せん断変位u1の関係を示す図である。
【図10】実験2で検討する管理型海面処分場の二重遮水シートから成る表面遮水工に関する検討断面図である。
【図11】実験2の解析に用いたPVCシート、長繊維不織布についての引張試験結果である。
【図12】実験2で検討する底面図の土塊と受動土圧を考慮した安定解析のための全体モデルを示す図である。
【図13】図12の全体モデルによる安定解析結果を示す図である。
【図14】実験2において、a)下部遮水工の中間保護層完了時、b)中間保護層の覆土完了時、c)最終時の、上側不織布、下側不織布、シートのそれぞれに発生する引張力とこれらの合力について、天端から法面に沿った距離に対する分布を示す図である。
【図15】実験2において、不織布〜シートのφ=14.3°における最終時の引張力分布を示す図である。
【図16】実験2において、不織布〜シートのφ=37.4°における最終時の引張力分布を示す図である。
【図17】実験2において、不織布〜シートのφ=1.5°における最終時の引張力分布を示す図である。
【図18】実験2において、上側・下側不織布の弾性係数を基本ケースの1/10倍にしたケースの下部遮水工の最終時の引張力分布を示す図である。
【図19】実験3の装置を示す図である。
【図20】従来の海面処分場の遮水構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 埋立地
2 水域
3 既設護岸
4 外周護岸
5 中仕切護岸
6 水処理施設
7 海底面
11a 腹付け土
11b 下地
12 上部被覆層
20 遮水構造
30 多層シート
31 保護マット(保護材)
32 遮水シート
40 中間保護層
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物の海面処分場の遮水構造、及び海面処分場の遮水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
海面処分場の遮水構造としては、ゴム、塩ビ等の合成樹脂系遮水材を用いる遮水構造がある。合成樹脂系遮水材を使用した場合には不織布等の合成繊維性保護材を上下に併用することが関係官庁の規格に記載されている。図20に示すように、遮水シートを2重にし、2枚の遮水シートの間に不織布等からなる中間保護層を敷設し、上下に地盤や土質材料から遮水シートを保護する保護マットを敷設した遮水構造が必要とされている。中間保護層は、廃棄物の埋立処分等の負荷により上下の遮水シートが同時に損傷することを防止する目的で、十分な厚さと強度を有する不織布などの材料が用いられる。
【0003】
海面処分場においては遮水材を二重に敷設し、さらにその上に潮位、波力による遮水構造の浮き上がり防止のためのカウンターウェイトとして土質材料の被覆層を敷設する。海面処分場の底面の法面部に遮水構造を施工する場合には、通常1:1.5から1:3の法勾配で施工され、その覆土重量によるせん断力が遮水構造全体にかかる。
【0004】
特許文献1では、保護マットの遮水シートと接する面に滑り止めを設け、処分場の法面で遮水シートの上面に敷設した保護マットが滑り落ちるのを防止している。
【特許文献1】特開2001−314830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで特許文献1の方法では保護マットは滑り落ちないものの、上部被覆層や、投入された埋立廃棄物の荷重に基づいて保護マットの受ける負荷の多くが遮水シートにかかった。万が一遮水シートが破損した場合には、陸上であれば容易に修復が可能であったが、海中では既に投入された廃棄物や覆土を一度取り除き、遮水シートを海上に引き上げ、船上で溶着等の修復を行い、再び沈めて遮水構造を作り直す必要があった。
【0006】
従来技術では保護材(保護マット)として不織布を用いていたが、保護材は突起物が遮水シートに突き刺さったり遮水シートを引き裂いたりするのを防止するのが主目的であるため、最終覆土重量による下部への張力発生が保護材、及び、合成樹脂製遮水材へ与える影響を考慮できていなかった。法面部若しくは側面部遮水構造の最終覆土が敷設されると直近の保護材を摩擦により引き下げてシートに有害な、荷重を分担させる。したがって保護材の応力変形を防止するため、安定性が十分確保できるように覆土の法勾配をゆるくする必要がある。あるいは保護材の補強などにより法面の崩壊を防止するための対策をとる必要があった。
【0007】
本発明の課題は、覆土等によって遮水シートにかかる引張力を減じて遮水シートの変形を軽減し、安全で施工性のよい海面処分場の遮水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、海面処分場の法面を有する底面の少なくとも法面部分上に、遮水シート及び長繊維不織布からなる保護材を有する多層シートが、中間保護層を介して上下二重に敷設されるとともに上側の多層シート上に上部被覆層が設けられる海面処分場の遮水構造であって、
前記多層シートが、遮水シートとこの遮水シートの上下面にそれぞれ設けられた保護材とから3層以上に形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の海面処分場の遮水構造であって、前記遮水シートは下側の前記保護材と、または下側及び上側の前記保護材と、一部で接合していることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の海面処分場の遮水構造であって、前記中間保護層は土質材料からなることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造であって、前記保護材のヤング率は前記遮水シートのヤング率よりも高いことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造であって、前記保護材のヤング率が20000kN/m2以上であることを特徴とする。
ここで、ヤング率は二軸引張り試験機を用いた拘束引張試験により得られたものである。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造であって、前記遮水シートと下側の前記保護材との摩擦係数は前記遮水シートと上側の前記保護材との摩擦係数よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造を構築する際に用いられる海面処分場の遮水工法であって、海面処分場の法面を有する底面の少なくとも法面部分上に前記多層シートを敷設した後に、敷設された多層シート上を土質材料からなる中間保護層で覆い、この中間保護層上に前記多層シートを敷設し、敷設された多層シート上を土質材料からなる上部被覆層で覆い、かつ、多層シートを敷設する際に、遮水シートと下側の保護材とを接合してこれら遮水シートと下側の保護材を同時に敷設するか、もしくは、遮水シートと上下の保護材とを接合し、これら遮水シートと上下の保護材とを同時に敷設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、前記多層シートが、遮水シートとこの遮水シートの上下面にそれぞれ設けられた保護材とから3層以上に形成されているので、遮水シートが受ける負荷を遮水シートの上下面に設けられた保護材に分散してより一層、減ずることができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、遮水シートと下側の保護材とを接合した場合には、遮水シートと下側の保護材とを同時に敷設することができ、敷設時の手間を省略し工期を短縮することができる。また上側の保護材にかかるせん断力は遮水シートに伝達されにくく、遮水シートにかかる引張力は接合部から下側の保護材へ効果的に伝達されるので、遮水シートの負担する引張力を小さくすることができる。
さらに遮水シートと下側の保護材、及び遮水シートと上側の保護材とをそれぞれ接合して一体とした場合には、遮水シートと上下2枚の保護材とを全て同時に敷設することができ、更に敷設時の手間を省略し工期を短縮することができる。この場合、遮水シートと上側の保護材との接合に、水中で時間とともに接着効果が失われる接着剤を使用して施工後に接着が水中ではずれて上側の保護材にかかるせん断力が遮水シートに伝達されにくくする。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、前記中間保護層が土質材料からなるので、中間保護層の重量で、潮汐や波浪による楊圧力によって遮水シートが浮き上がるのを防ぐことができる。また、中間保護層として土質材料を用いても、中間保護層と遮水シートとの間には保護材が配置されるので、土質材料によって遮水シートが傷つくことが無い。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、保護材のヤング率が遮水シートのヤング率よりも高いので、遮水構造にかかる引張力の多くを保護材が負担することとなり、遮水シートにかかる負荷を軽減することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、前記保護材のヤング率が20000kN/m2以上であることにより、保護材に載荷された荷重による保護材の変形を極力小さく抑え、遮水シートに与える応力を極力小さく抑えることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、前記遮水シートと下側の前記保護材との摩擦係数は上側の前記保護材との摩擦係数よりも大きいので、上側の保護材から遮水シートに伝達されるせん断応力を減少させ、また遮水シートにかかる引張力を下側の保護材に伝達しやすくなる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、請求項1〜6のいずれか一項、特に請求項2に記載の発明と同様の効果が得られる海面処分場の遮水構造を容易に施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態例を示す管理型廃棄物最終処理場(海面処分場)が造成される埋立予定地である。埋立地1に隣接して既設護岸3と外周護岸4により海の海域2の一部を囲って埋立地を造成する。外周護岸4で囲われた内部はさらに中仕切護岸5で区画されている。その区画が本発明の実施の形態例を使用する海面処分場10である。なお海面処分場10の一角には水処理施設6が設けられ、海面処分場10の保有水を浄化処理して海域2へ放流している。
【0024】
図2は図1の海面処分場10の遮水構造を示す断面図である。中仕切り護岸5の背面(法面)に腹付け土11aと、海底面7を被覆する下地11bとが設置されている。腹付け土11aおよび下地11bは土質材料からなる。土質材料としては、山土、石材やスラグ等を用いることができる。
腹付け土11aおよび下地11bの上に遮水構造20(遮水工)が敷設され、上部被覆層12(覆土)によって被覆されている。遮水構造20は、2重の多層シート30、30と、その間に挟まれた中間保護層40とからなる。
【0025】
図3は海面処分場10の法面部分の断面のモデル図である。腹付け土11aおよび下地11bの上に多層シート30、中間保護層40、多層シート30、上部被覆層12の順に重なっている。上下の多層シート30、30はそれぞれ、合成繊維性の保護材(保護マット31)と、保護マット31、31に上下面を覆われた合成樹脂製の遮水シート32から形成されている。
【0026】
保護マット31のヤング率は遮水シートのヤング率よりも大きいことが望ましく、20000kN/m2以上、好ましくは35000kN/m2以上、更に好ましくは45000kN/m2以上であることが望ましい。ここで、ヤング率は二軸引張り試験機を用いた拘束引張試験により得られたものである。保護材31のヤング率を高めることで、保護材31に載荷された荷重による保護材31の変形を極力小さく抑え、遮水シート32に与える応力を極力小さく抑えることができる。保護マット31としては、例えばポリエステル製の長繊維不織布などを用いることができるが、上記のヤング率を満たすものであれば、他の合成繊維製の長繊維不織布や織布などを用いてもよい。
【0027】
遮水シート32は保護材31から受けるせん断応力に耐えうるべく、ヤング率が6000kN/m2以上、好ましくは6600kN/m2以上であることが望ましい。ヤング率は同様に、二軸引張り試験機を用いた拘束引張試験により得られたものである。遮水シート32としては、PVCシートなどを用いることができるが、上記のヤング率を満たすものであれば、他の合成樹脂製のシートなどを用いてもよい。
【0028】
ここで、遮水シート32と下側の保護マット31との摩擦係数が、遮水シート32と上側の保護マット31との摩擦係数よりも大きくなるよう設計されていてもよい。遮水シート32と上側の保護マット31との摩擦係数を小さくすることで、法面方向下向きにかかる上部被覆層12の滑動力の多くを上側の保護材が受けることとなり、遮水シート32に伝達されるせん断応力は極力小さくなる。また遮水シート32と下側の保護マット31との摩擦係数を大きくすることで、遮水シート32が上側の保護マット31から受けるせん断応力は効率よく下側の保護マット31へ伝達されるので、遮水シート32の負担する引張力を小さくすることができる。
【0029】
遮水シート32と上側の保護材31との摩擦係数を低下させる方法としては、遮水シートの表面を平滑に仕上げる方法がある。また遮水シートの表面を平滑に仕上げてかつ遮水シートの硬度を高めるなどの方法がある。また上側の保護材31の表面を火炎処理して滑らかにする方法や、遮水シート32の上側に樹脂製の突起を設けて接触面積を減らす方法、あるいは遮水シート32と上側の保護材31との間に潤滑材を入れる等の方法がある。遮水シート32と下側の保護材31との摩擦係数を増加させる方法としては、遮水シート32の下面をエンボス加工して凹凸をつける方法や、遮水シート32と下側の保護材31との間に滑り止めを入れる等の方法がある。
【0030】
あるいは、遮水シート32と保護材31とは、一部若しくは全面で接合していてもよい。一部で接合する場合には、多数箇所で点接合あるいは線接合してもよい。
接合方法としては,遮水シート表面を熱で溶かし、保護マットの繊維に圧力をかけて溶けた遮水シート表面へめり込ませる熱融着方法を使用してもよい。あるいは熱により分解し、粘着性が発生するアクリル系接着剤(ヒロダイン製接着剤など)を使用してもよい。接着剤としては、他にもウレタン系、アクリル系、ゴムアスファルト系、エポキシ系等の接着剤を使用することができる。あるいは遮水シート表面を例えば面ファスナー雄材状に毛羽加工して保護マットの繊維に絡ませる機械的な接着方法を使用してもよい。
【0031】
遮水シート32と下側の保護材31とを接合した場合には、遮水シート32が上側の保護材31から受けるせん断応力は接合部分から効率よく下側の保護材31へ伝達されるので、遮水シート32の負担する引張力を軽減することができる。
また遮水シートと下側の保護材31とを同時に敷設することができ、敷設時の工期を短縮することができる。
【0032】
遮水シート32と下側の保護材31とを接合した上に、遮水シート31と上側の保護材32とを接合して一体とした場合には、遮水シート32と上下2枚の保護材31、31とを全て同時に敷設することができ、更に敷設時の工期を短縮することができる。
なお遮水シート32と上側の保護材31との接合に水溶性の接着剤を使用した場合には、施工後に水中で外れる。水溶性でなくとも、接着剤で接着した場合には水中で外れやすい傾向がある。したがって、上側の保護材31にかかるせん断力が遮水シート32に伝達されにくくなる。
遮水シート32と下側の保護材31との接合には、熱融着方法や機械的な接着方法など、施工後にも外れないような接着法を採用することで、遮水シート32にかかる引張力が接着部から効率よく下側の保護材31へ伝達され、遮水シート32の負担する引張力を極力小さくすることができる。
【0033】
上記の多層シート30、30の間には中間保護層40が造成される。また上側の多層シート30の上には上部被覆層12が造成される。中間保護層40及び上部被覆層12としては、土質材料を用いることができる。中間保護層40及び上部被覆層12として土質材料を用いた場合には、波浪や潮汐の影響による楊圧力に抗して遮水構造20の浮き上がりを防止する作用を得ることができる。
中間保護層40及び上部被覆層12に用いる土質材料としては、山土、石材やスラグなどを好適に使用することができる。特に比重の大きい製鋼スラグ、銅スラグを用いた場合には、遮水構造20を海中に沈めるのに必要な中間保護層40及び上部被覆層12の体積を減らすことができ、限定された用地内における廃棄物の処分容量を増大することができる。
【0034】
次に遮水構造20を施工する遮水工法について説明する。まず腹付け土11aを外周護岸4の背面に設置し、下地11bを海底面7を被覆するよう設置し、その上に、下側の多層シート30を敷設する。多層シート30を構成する保護マット31、遮水シート32が接着されていないときは、保護マット31、遮水シート32、保護マット31の順に重ねて敷設する。なお、保護マット31と遮水シート32との間には滑り止めや潤滑材を適宜、挟み込んでもよい。
【0035】
遮水シート32と下側の保護マット31とが接着されている場合には、接着されている遮水シート32と下側の保護マット31とを同時に敷設し、その上に保護マット31を重ねて敷設する。さらに遮水シート32が上側の保護マット31とも接着されているときには、遮水シート32とその上下面に接着された保護マット31、31とを同時に敷設する。
【0036】
次に下側の多層シート30の上に中間保護層40を造成する。土質材料からなる中間保護層40を造成することで、下側の多層シート30が潮汐や波浪による楊圧力によって浮き上がるのを防ぐことができる。
【0037】
中間保護層40を造成した後に、下側の多層シート30と同様にして上側の多層シート30を中間保護層40の上に敷設する。その後中間保護層40と同様に、上側の多層シート30の上に上部被覆層12を造成する。上部被覆層12を造成することで、上下の多層シート30、30及び中間保護層40の潮汐や波浪による楊圧力によって浮き上がるのを防ぐことができる。
【0038】
以上のように、本実施例によれば、上側の保護マット31にかかる中間保護層40や上部被覆層12による斜面下方への滑動力から受ける遮水シート32へのせん断応力を極力小さく抑え、また遮水シート32が受ける引張力は効率よく下側の保護マット31に伝達されるので、遮水シート32への負荷を極力小さくすることができ、安全で効率のよい海面処分場の施工を行うことができ、また使用時、すなわち廃棄物の埋立時の法面の安定を計ることができる。
【0039】
〔実施例〕
以下に本発明に関する評価を示す実験結果を記載する。
【0040】
実験1.せん断力を受けるジオシンセティックス多層ライナーの荷重伝達特性
法面部に敷設される多層ライナー(遮水構造)の部分モデルを対象として多層構造せん断装置を開発し、せん断力を受けるジオシンセティックス多層ライナーの法面模型実験を実施した。
【0041】
<実験方法>
(1)実験装置と原理
多層せん断試験装置の概念図(5層構造の場合)を図4に示す。最上層(第1層)の土質材料61を詰めたせん断箱51(B188mm×L288mm×H150mm)は法面上の土塊に相当し、これに水平に作用させるせん断力Fは土塊自重による滑動力に相当する。実際の側面遮水工の全体構造系に対しては部分構造モデルであり、不織布62・シート63はそれぞれ端部を締付金具で固定し、剛性が高くヒンジをもつ接続金具を介して支柱に固定されている。固定端にセットしたロードセルで各層に発生する張力を測定する。各層の固定端からせん断箱の後端の間(自由長)は、引張力に応じて自由に伸びが発生する。また、最下層の境界条件として、土質材料61(下部土槽52)を図示しているが、伸び拘束(固定)、伸び自由(ローラー)、も選定できる。
【0042】
本実験では、せん断部の載荷範囲(B=188mmまたは240mm)に対してせん断部でネッキングの影響が少なくなる様に、シート・不織布供試体の幅を30cmとした。また、せん断箱の変位が150mmになるまで変位速度50mm/minでせん断力を載荷した。なお、第1層を不織布とする実験では、せん断箱に固定したダミー板(B240mm×L340mm)に不織布を接着した供試体を用いた。
【0043】
(2)層間のせん断力・せん断応力
図4において、層間に作用するせん断力・せん断応力などを説明する。5層構造の場合、第1層:土質材料61(せん断箱51)、第2層:不織布62、第3層:シート63、第4層:不織布62、第5層:土質材料61(下部土槽52)から構成される。実験の基本的な計測項目は、せん断力F1および第i層(シート63/不織布62)に発生した引張力(i = 2, 3, 4)とせん断箱51の変位量u1
の関係である。Frは、第5層が発揮するせん断力あるいは第4層と第5層間のせん断力F45であり、全体の力の釣合から次式で得られる。
Fr= F1 − F2 − F3 − F4 (1)
【0044】
Fijは接触する第i層と第j層の間に作用する層間せん断力である。各層の力の釣合から以下の関係があり、計測値Fi(i=1〜4)から算定される。
F12 = F1
F23 = F12 − F2 = F1 − F2 (2)
F34 = F23 − F3 = F1 − F2 − F3
F45 = F34 − F4 = F1 − F2 − F3 − F4 = Fr
【0045】
これより、接触する第i層と第j層の層間に作用するせん断応力τijは、以下のように求められる。
τij = Fij / A (A:接触面積) (3)
【0046】
第i層、第j層におけるそれぞれの任意点で発生する変位をui 、ujとすると、この2点間の相対変位uijは、以下の通りである。
uij = ui − uj (4)
【0047】
せん断力F1 が作用する範囲でにおいて、シート・不織布の変位は、自由長Liの伸びδLiと、せん断部直下部分の伸びの和となる。また、せん断箱内の土質材料の変位は、せん断箱の変位と必ずしも一致しない。ここでは簡単のため、第1層の変位は直接測定されたせん断箱の変位u1 とした。また、第2〜4層の変位ui は各層の自由長の伸びδLiとした。
ui = δLi = Fi / (EAs)i × Li (i>1) (5)
ここで、(EAs)iは第i層の自由長部の引張剛性であり、Eはヤング率、Asは断面積である。
【0048】
(3)実験ケースと実験材料
5層構造のプロトタイプに対して、多層ライナーを構成する4層構造を実験した。その構成材料と最下層の拘束条件(伸び拘束・自由)を実験パラメーターとした。
【0049】
遮水シートとして厚さ3mmのPVCシート、保護マットとして厚さ5mm相当の短繊維不織布と長繊維不織布、土質材料として相対密度Dr=50−60%の緩い状態の製鋼スラグを用いた。これらは、海面処分場を対象として検討した材料である。
【0050】
実験材料の引張剛性EAsは、本試験装置のキャリブレーションの中で、シート・不織布供試体にダミー板を用いて固定したせん断箱にせん断力を作用させ、せん断力〜変位関係、すなわち引張力〜自由長伸び量の関係から測定した。その結果、シートはEAs=4.22kN、短繊維不織布はEAs=3.04kN、長繊維不織布はEAs=7.43kNであった。これらの値を式(5)にて用いた。
【0051】
<実験結果と考察>
本報告では、長繊維不織布を用いた4層、5層構造のケースについて実験結果と考察を示す。
【0052】
(1)せん断力・せん断応力と変位・相対変位関係
a)4層実験
第1層をせん断箱に詰めたスラグ65、第2層を長繊維不織布62、第3層をシート63、第4層を長繊維不織布62とする4層構造であり、第2〜3層は伸び自由、第4層は伸び拘束の条件である(図5)。図6に鉛直応力σn=30(kN/m2)に対して得られたF1〜u1と Fij〜u1関係を示す。F3が小さく、シート63に働く引張力が極めて小さいことがわかる。また、第2層と第3層、第3層と第4層とで摩擦係数を変えていないため、F23、F34(=Fr)の大きさは非常に近い値を示している。
【0053】
b)5層構造
5層構造では、第1層をせん断箱に詰めたスラグ、第2〜4層は長繊維不織布−シート−長繊維不織布からなり、伸び自由、第5層は下部土槽のスラグである(図4参照)。5層実験ではσn=30, 50(kN/m2)の2ケースを実施した。ここでは、大きい引張力が生じるσn=50(kN/m2)のケースを示す。図7にF1〜u1と Fij〜u1関係を示す。F3、F4 が小さく、シート63および第4層の長繊維不織布62に働く引張力が極めて小さいことがわかる。
また、F23、F34、F45(=Fr)の大きさは非常に近い値を示している。F1が最大となる変位はu1=30mmであり、4層構造の場合より大きい。ここに示した5層実験の方が鉛直応力σnが大きいために、最大せん断力が大きくなって各層の伸びが増加したことが考えられる。F3>F4となった点については、第3層と第4層の剛性の差と、第3〜4層間と第4〜5層間とのせん断強度の差の両者に起因していると思われる。
【0054】
(2)荷重伝達率
多層せん断実験におけるせん断力F1に対して、第i層に生じる引張力Fiの割合Fi / F1を荷重分担率と定義する。4層、5層構造の実験結果について荷重分担率Fi / F1〜せん断変位u1の関係をそれぞれ図8、図9に示す。
4層、5層構造のいずれについても、シートに対する荷重伝達率F3/F1が最も小さくなっており、第2層の長繊維不織布が荷重の多くを負担していることがわかる。
【0055】
実験2.管理型海面処分場の表面遮水工における斜面滑りに関するFEM解析(シミュレーション)
管理型海面処分場の側面遮水工に関する安定検討において、先に実施した模型実験(多層せん断実験、実験1)の結果に基づき、力学的設計法・数値解析手法の開発を目的としている。ここで検討する断面は、二重遮水シートによる表面遮水工であり、上部遮水工と下部遮水工がそれぞれ「土質材料〜不織布〜遮水シート〜不織布〜土質材料」の5層から成る構造である(図2)。まず、一面せん断試験から得られた材料間のせん断特性について数値解析モデルを構築し、これを多層せん断実験のFEM解析に適用して多層構造に関する数値解析手法の妥当性を検証した。この解析手法を用いて海面処分場の側面遮水工の全体挙動について評価した。
【0056】
<検討条件>
(1)検討断面
図2における管理型海面処分場の二重遮水シートから成る表面遮水工(遮水構造20)に関する検討断面を図10に示す。海面処分場外周護岸を透過する波浪による圧力と、潮位変動によって処分場内外に生じる水位差による静水圧が、遮水工に揚圧力として作用する。この揚圧力による浮き上がりに抵抗するため、表面遮水工の中間保護層と上部被覆層の両者に土質材料を用いて載荷重としての役割をもたせた構造である。中間保護層40、上部被覆層12の厚さがそれぞれ3m、5mであり、全体が8mとなる。これを決定した海象条件は、設計波高Ho=3.1m, 周期T=5.8sec、水深h=14.5m(海底地盤からMSL)、潮位差HWL−LWL:3.6mである。
【0057】
図10の図中の番号は側面遮水工の施工段階を示している。護岸背面に(1)腹付け土11a、底面部に土質材料で(2)下地層(下地11b)を設置した後、(3)下部遮水工(多層シート30)を敷設する。中間保護層40を(4)底面部と(5)側面部に造成後、(6)上部遮水工(多層シート30)を敷設する。上部被覆層12を(7)底面と(8)側面部に造成後、(9)覆土する。ここでは、上部・下部遮水工はそれぞれ、保護マット(長繊維不織布)〜遮水シート(PVCシート)〜保護マット(長繊維不織布)から成り、土質材料として製鋼スラグ(粒径30mm以下)を用いる場合を検討する。
【0058】
(2)材料の物性値
解析に用いた材料の変形・強度特性に関する物性値を表1、表2に示す。
表1 材料の変形特性
【表1】
表2 材料(間)のせん断強度特性
【表2】
【0059】
図11は、PVCシート、長繊維不織布について試験片寸法20cm×20cmにより、通常の引張試験と拘束引張試験を実施した結果である。ここで、拘束引張試験には二軸引張り試験機を用いた。土中に敷設された場合、ネッキングが拘束されると考え、拘束引張試験で得られた弾性係数を用いた。
中間保護層・上部被覆層は海中施工が中心となり、締固めを行わない場合、相対密度がDr=50〜60%程度の緩く堆積した状態になると想定される。スラグの強度変形特性は、初期相対密度Dr=60%の大型供試体(寸法D300mm×H600mm)を用いた圧密排水三軸圧縮試験から求めた。なお、単位体積重量は、気中γ=21kN/m3、水中γ'=14kN/m3とした((財)沿岸開発技術研究センター・鐵鋼スラグ協会:「港湾工事用製鋼スラグ利用手引書」、平成12年3月)。
【0060】
(3)安定解析
極限平衡法による安定解析から、検討断面(図10)における遮水工に必要な層間摩擦角を算定した。極限平衡法であるため、土塊や遮水材に発生する変形・ひずみを無視し、最大摩擦角が滑り面に沿って同時に発揮されると仮定している。
【0061】
安定解析モデルとして、既往の法面部分を対象とする法面モデル(R.M. Koerner: Designing with Geosynthetics - fourth edition, Prentice Hall, Chapter 5 Designing with Geomenbrane, 1999,J.P.Giroud and J.F.Beech: Stability of soil layers on geosynthetic lining system, Proceedings of Geosynthetics '89, Vol.1, pp.35-46, 1989)と底面部を含めた全体モデル(図12)の2種について解析した。
【0062】
図12において、以下の式が成り立つ。
NA = WA cosβ − F
NP = WP + EP sinβ − F’
EA sinβ = WA − NA cosβ − ( NA tanδ +Ca ) sinβ / FS
EP cosβ = ( NP tanδ + C ) / FS + AP
EA = EP
【0063】
ここに、WA:滑動土塊総重量(kN/m)、WP:抵抗土塊総重量(kN/m)、NA:斜面垂直方向の反力(kN/m)、NP:底面垂直方向の反力(kN/m)、β:法勾配(°)、F:法面にかかる波圧(kN/m)、F’:底面にかかる波圧(kN/m)、PP:抵抗土塊(水平部)による受動土圧(kN/m)、EA:抵抗荷重の法面水平方向の力(kN/m)、EP:滑動荷重の法面水平方向の力(kN/m)、δ:土塊と遮水材の層間摩擦角(°)、FS:遮水材上の土塊滑りの安全率、Ca:土塊と遮水材の付着力(kN/m)、C:土塊の粘着力(kN/m)、φ:土塊の内部摩擦力(°) である。
【0064】
全体モデルでは、このように底面部の土塊と受働土圧を考慮している。処分場底面にも遮水工を敷設する必要がある場合には、底面遮水工に沿った滑りがクリティカルになる場合がある。
【0065】
図10の検討断面におけるa)下部遮水工と中間保護層、b)上部遮水工と上部被覆層、c)下部遮水工と遮水工全体の3断面に関して、全体モデルによる安定解析結果を図13に示す。ここで、層間摩擦角δは、多層ライナー構造である遮水工の全体と覆土(中間保護層と上部被覆層)および下地との間で発揮される摩擦角と見なしている。ただし、外力として遮水工に作用する波圧の影響は、法面、底面からの反力NA、NPを低減させる様に働くと考えているが(図12)、この安定解析では考慮していない。
【0066】
不織布−シートおよびスラグ−不織布(水中)の層間摩擦角δ=27°が小さく(表2)、法勾配1:2 (傾斜角θ=26.6°)の遮水工全体の滑りについて支配的と考えられる。検討した3断面についてδ=27°に対する安全率Fsは、それぞれa) Fs=1.8, b)Fs=1.4, c)Fs=2.2 である。これは、覆土と遮水工との摩擦抵抗力、覆土底面の土の摩擦抵抗力あるいは受働土圧が発揮され、側面遮水工の安定が確保されることを示している。一方、不織布−シートの層間摩擦角が小さくFs<1.0になる場合には、遮水工を補強して土塊の滑動力に抵抗するか、遮水材の発揮する引張力に期待して必要安全率を満たす必要がある。
【0067】
<側面遮水工のFEM解析>
(1)解析条件
管理型海面処分場の側面遮水工(図10)を対象として、2次元平面ひずみ弾塑性FEM解析によって施工過程における遮水工の安定と多層ライナー構造の挙動を検討した。
【0068】
土質材料は平面要素でモデル化し、法面部分は高さ・幅を約0.5mに分割した。材料モデルはMohr−Coulombの降伏側に従う弾塑性体とした。シート(t=3mm)と不織布(t=5mm)は、引張剛性だけもつ(曲げ剛性と圧縮剛性をもたない)部材として、非線形トラス要素でモデル化した。各材料の物性値は表1、表2に示した通りである。スラグ〜不織布、不織布〜シートの境界に弾塑性モデルの境界要素を配置し、一面せん断試験結果のシミュレーションから得たモデルパラメーターを用いた。なお、今回の検討範囲では、境界要素のメッシュサイズ依存性が無視できるくらい小さいことを事前計算により確認している。
境界条件として、裏込め石と基礎地盤との境界は固定境界、処分場側の側方境界は鉛直ローラーとした。シート・不織布の天端は、遮水工の天端位置に固定した。
【0069】
<検討条件>に述べた施工過程に従った解析手順で段階解析を行った(計61ステップ)。法面部の覆土層は高さ0.5m毎(要素高さ)に平面要素を発生させ、その自重を作用させていく形で、段階的な盛土解析を行った。その間のシート・不織布の敷設段階で、非線形トラス要素を発生させた。
【0070】
(2)解析結果(基本ケース)
ここでは、覆土の滑動力によって多層構造遮水工の各構成材に発生する引張力に着目し、層間せん断抵抗との相互作用を検討する。
上側不織布、下側不織布、シートのそれぞれに発生する引張力とこれらの合力について、天端から法面に沿った距離に対する分布を図14に示す。法尻の位置は、下部遮水工ではX=37.5m、上部遮水工ではX=29.7mである。ここでは、a)下部遮水工の中間保護層完了時(39ステップ)、b)下部遮水工の覆土(9)完了時、c)上部遮水工の覆土(9)完了時(以降、最終時と称す)、の3通りについて示した。
【0071】
全般的な傾向として、引張力の発生する範囲は上部法面だけである。a)とb)を比較すると、上部被覆層の荷重により下部遮水工の引張力が増加していき、引張力の発生する範囲が法面の約1/2から2/3に拡大している。また、a)とc)は類似の分布傾向を示すが、上部被覆層の方が中間保護層より法面の覆土厚が大きく、底面の覆土厚が薄いため、c)の引張力が大きくなっている。
【0072】
上側・下側不織布の引張力は、シートの引張力の10倍程度大きく、全体の大部分の力を負担している。この基本ケースに関しては、上部・下部遮水工とも、また中間保護層完了時と最終時の両者ともこの傾向を示す。これは、層間の相対変位が比較的小さく、不織布の方がシートより弾性係数が高いためと考えられる。また、天端付近では、直接覆土層のせん断力を受ける上側不織布の方が下側不織布よりも大きい傾向を示すが、法面の途中では、ほぼ同様な大きさになっている。
【0073】
なお、シート・不織布に発生しているひずみは、最大で1%程度であり、弾性範囲内にある。安定解析によるとFs>1.4を満足している断面に関して応力変形解析による照査を行ったが、基本ケースの設定条件に対しては、側面遮水工全体および構成材料の応力ひずみについて安定上問題ないと言える。
【0074】
(3)パラメータースタディ
不織布〜シートの層間せん断強度と不織布の弾性係数に関してパラメータースタディを実施した。各ケースで得られた下部遮水工(最終時)の引張力分布を図15〜18に示す。
【0075】
a)不織布〜シートの層間せん断強度の影響
上側・下側の不織布〜シートの層間せん断強度だけを変化させた場合について解析した。これは不織布〜シート間の摩擦係数を低下させた場合に相当する。上側・下側の不織布〜シートの層間せん断強度を基本ケースの0.5倍にすると、層間摩擦角ではφ=27.0°からφ=14.3°に低下させることに相当し、遮水工全体の安全率はFs=1.1になる(図13)。直接土塊からせん断力を受ける上側不織布の引張力が基本ケースの2〜5倍程度大きくなり、下側不織布の分担する引張力は相対的に小さくなる。引張力の発生する範囲は法長の90%程度となり、引張力の合力は4倍程度増加する(図15)。一方、不織布〜シートの層間せん断強度を1.5倍にした場合(φ=37.4°)、すなわち、摩擦係数を上げた場合、大きな変化はないが、基本ケース(図14b)と比較した場合、基本ケースでは上側不織布の引張力が下側不織布より高くなっているが、層間せん断強度を1.5倍にした場合では上側不織布と下側不織布とで同等の引張力となっている。したがって、シートと下側不織布との摩擦係数を高くすれば下側不織布が引張力を分担する割合を増やしてシートにかかる引張力を減少させることができる。
【0076】
極端なケースとして、上側・下側の不織布〜シートの層間せん断強度を基本ケースの0.05倍にした場合(φ=1.5°)、引張力の合力が基本ケースの20倍程度に増加し、そのほとんどを上側不織布の引張力が負担している。これは、不織布の引張強さの1/2程度の値である。一方、下側不織布とシートには、基本ケースと同様な引張力しか生じていない(図17)。
以上のことから、上側不織布とシートとのせん断強度は小さく、下側不織布とシートとのせん断強度は大きくすると、シートにかかる引張力は極力小さくすることができると考えられる。
【0077】
b)不織布の剛性の影響
上側・下側不織布の弾性係数を基本ケースの1/10倍にしたケースの下部遮水工(最終時)の引張力分布を図18に示す。不織布の引張力は、不織布の剛性に対してほぼ比例関係を示し、1/10倍になった。上側・下側不織布の弾性係数を10倍にした場合も上記と同様な傾向であった。
一方、シートの引張力は不織布の剛性に関係なくほぼ一定値であった。このため、不織布の剛性が低い時には相対的に大きな引張力をシートが負担し、反対に不織布の剛性が高い時には不織布が負担する引張力が大きくなると考えられる。したがって、シートより不織布の剛性(ヤング率)が高いほうがよいと考えられる。
【0078】
実験3.
図19に示すように、転炉スラグで作成した方面角度1:2、高さ5mの盛土斜面81に、500g/m2、ヤング率35000kN/m2のポリエステル製長繊維不織布31(保護材)と、3mmの塩ビの遮水シート32とを、保護マット31〜遮水シート32〜保護マット31の順に積層し敷設した。遮水シート32は下面をエンボス加工して摩擦係数を高くした。各材料の上端は遮水シート32、保護マット31を個別に斜面81の上の固定部84に固定し、個別に移動量を測定できるように各固定部にコイル式のエキスパンダー82を設置した。遮水シート32、保護マット31を固定後に法面上端と同じ高さまで山砂83を積み立てて遮水シート32、保護マット31の移動量を確認した。
【0079】
評価方法として材料間の摩擦係数はJIS K7125を用いて各3回測定し最大値を採用した。
【0080】
比較例として上下の保護マットに通常の500g/m2、ヤング率15000kN/m2の短繊維不織布とエンボス加工のない3mm塩ビ遮水シートを敷設しテストした。その結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
以上に示したように、本発明の実施例によれば、ヤング率が高い保護マット31を使用し、また遮水シート32の下面をエンボス加工して下側の保護マット31との摩擦係数を大きくしたことにより、遮水シートの移動量を大幅に抑えることができ、また上側の保護マットの移動量も大幅に抑えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態例を示す管理型廃棄物最終処理場(海面処分場)が造成される埋立予定地である。
【図2】図1の海面処分場の遮水構造を示す断面図である。
【図3】海面処分場10の法面部分の断面のモデル図である
【図4】実験1の多層せん断実験(5層実験)の概念図である。
【図5】実験1の4層実験の構造図である。
【図6】実験1の4層実験におけるFi〜u1と F23(=Fr)〜u1の関係を示す図である。
【図7】実験2の5層実験におけるFi〜u1と F23(=Fr)〜u1の関係を示す図である。
【図8】実験1の4層構造の実験結果について荷重分担率Fi / F1〜せん断変位u1の関係を示す図である。
【図9】実験1の5層構造の実験結果について荷重分担率Fi / F1〜せん断変位u1の関係を示す図である。
【図10】実験2で検討する管理型海面処分場の二重遮水シートから成る表面遮水工に関する検討断面図である。
【図11】実験2の解析に用いたPVCシート、長繊維不織布についての引張試験結果である。
【図12】実験2で検討する底面図の土塊と受動土圧を考慮した安定解析のための全体モデルを示す図である。
【図13】図12の全体モデルによる安定解析結果を示す図である。
【図14】実験2において、a)下部遮水工の中間保護層完了時、b)中間保護層の覆土完了時、c)最終時の、上側不織布、下側不織布、シートのそれぞれに発生する引張力とこれらの合力について、天端から法面に沿った距離に対する分布を示す図である。
【図15】実験2において、不織布〜シートのφ=14.3°における最終時の引張力分布を示す図である。
【図16】実験2において、不織布〜シートのφ=37.4°における最終時の引張力分布を示す図である。
【図17】実験2において、不織布〜シートのφ=1.5°における最終時の引張力分布を示す図である。
【図18】実験2において、上側・下側不織布の弾性係数を基本ケースの1/10倍にしたケースの下部遮水工の最終時の引張力分布を示す図である。
【図19】実験3の装置を示す図である。
【図20】従来の海面処分場の遮水構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 埋立地
2 水域
3 既設護岸
4 外周護岸
5 中仕切護岸
6 水処理施設
7 海底面
11a 腹付け土
11b 下地
12 上部被覆層
20 遮水構造
30 多層シート
31 保護マット(保護材)
32 遮水シート
40 中間保護層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海面処分場の法面を有する底面の少なくとも法面部分上に、遮水シート及び長繊維不織布からなる保護材を有する多層シートが、中間保護層を介して上下二重に敷設されるとともに上側の多層シート上に上部被覆層が設けられる海面廃棄物処分場の遮水構造であって、
前記多層シートが、遮水シートとこの遮水シートの上下面にそれぞれ設けられた保護材とから3層以上に形成されていることを特徴とする海面処分場の遮水構造。
【請求項2】
前記遮水シートは下側の前記保護材と、または下側及び上側の前記保護材と、一部で接合していることを特徴とする請求項1に記載の海面処分場の遮水構造。
【請求項3】
前記中間保護層は土質材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の海面処分場の遮水構造。
【請求項4】
前記保護材のヤング率は前記遮水シートのヤング率よりも高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造。
【請求項5】
前記保護材のヤング率が20000kN/m2以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造。
【請求項6】
前記遮水シートと下側の前記保護材との摩擦係数は前記遮水シートと上側の前記保護材との摩擦係数よりも大きいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造を構築する際に用いられる海面処分場の遮水工法であって、海面処分場の法面を有する底面の少なくとも法面部分上に前記多層シートを敷設した後に、敷設された多層シート上を土質材料からなる中間保護層で覆い、この中間保護層上に前記多層シートを敷設し、敷設された多層シート上を土質材料からなる上部被覆層で覆い、かつ、多層シートを敷設する際に、遮水シートと下側の保護材とを接合してこれら遮水シートと下側の保護材を同時に敷設するか、もしくは、遮水シートと上下の保護材とを接合し、これら遮水シートと上下の保護材とを同時に敷設することを特徴とする海面処分場の遮水工法。
【請求項1】
海面処分場の法面を有する底面の少なくとも法面部分上に、遮水シート及び長繊維不織布からなる保護材を有する多層シートが、中間保護層を介して上下二重に敷設されるとともに上側の多層シート上に上部被覆層が設けられる海面廃棄物処分場の遮水構造であって、
前記多層シートが、遮水シートとこの遮水シートの上下面にそれぞれ設けられた保護材とから3層以上に形成されていることを特徴とする海面処分場の遮水構造。
【請求項2】
前記遮水シートは下側の前記保護材と、または下側及び上側の前記保護材と、一部で接合していることを特徴とする請求項1に記載の海面処分場の遮水構造。
【請求項3】
前記中間保護層は土質材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の海面処分場の遮水構造。
【請求項4】
前記保護材のヤング率は前記遮水シートのヤング率よりも高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造。
【請求項5】
前記保護材のヤング率が20000kN/m2以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造。
【請求項6】
前記遮水シートと下側の前記保護材との摩擦係数は前記遮水シートと上側の前記保護材との摩擦係数よりも大きいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の海面処分場の遮水構造を構築する際に用いられる海面処分場の遮水工法であって、海面処分場の法面を有する底面の少なくとも法面部分上に前記多層シートを敷設した後に、敷設された多層シート上を土質材料からなる中間保護層で覆い、この中間保護層上に前記多層シートを敷設し、敷設された多層シート上を土質材料からなる上部被覆層で覆い、かつ、多層シートを敷設する際に、遮水シートと下側の保護材とを接合してこれら遮水シートと下側の保護材を同時に敷設するか、もしくは、遮水シートと上下の保護材とを接合し、これら遮水シートと上下の保護材とを同時に敷設することを特徴とする海面処分場の遮水工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−284551(P2008−284551A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156882(P2008−156882)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【分割の表示】特願2002−352640(P2002−352640)の分割
【原出願日】平成14年12月4日(2002.12.4)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【分割の表示】特願2002−352640(P2002−352640)の分割
【原出願日】平成14年12月4日(2002.12.4)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】
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