説明

浸漬ノズルの詰まり防止方法

【課題】操業性の低下やコストの増加を招くことなく、浸漬ノズルの詰まりを抑制し、連続鋳造の操業の安定化及び連続鋳造鋳片の品質の安定化を図ることが可能な浸漬ノズルの詰まり防止方法を提供する。
【解決手段】二次精錬装置で溶製した低炭素又は極低炭素のアルミキルド鋼を、複数チャージ続けて連続鋳造する際の浸漬ノズルの詰まり防止方法であって、二次精錬装置で溶製中のアルミキルド鋼に、1又は2以上のチャージおきに希土類元素を(1)式で示す量添加する。{(t×N+130)/1950} < WREM < 0.02 ・・・(1)
ここで、WREM:1チャージで添加される希土類元素の量(kg/トン)、t:1チャージ当たりの鋳造時間(分)、N:次に希土類元素を添加するまでの希土類元素を添加しないチャージ数、ただしN≧1

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車用薄鋼板等に用いられる低炭素又は極低炭素のアルミキルド鋼を連続鋳造する際の浸漬ノズルの詰まり防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低炭素もしくは極低炭素のアルミキルド鋼は、ブリキや自動車用薄鋼板など、高級な薄鋼板への使用用途が多い鋼種である。特に、自動車用薄鋼板においては、近年品質の厳格化が急速に進んでおり、連続鋳造時に鋳片への介在物の混入を防止する必要がある。
このような介在物には、大きく分けて、アルミナクラスター(脱酸生成物であるアルミナがクラスタリングしたもの)とパウダー(連続鋳造時に鋳型と鋳片の潤滑性を保持するために使用する酸化物を主成分とするもの)がある。
【0003】
上記したアルミナクラスターのうち、大型のアルミナクラスターが鋳片表面に捕捉されると、圧延時に細長い筋状の欠陥となる。このような大型のアルミナクラスターの生成要因の一つとしては、連続鋳造時に使用する浸漬ノズル(以下、単にノズルともいう)内に付着したアルミナ粒子の凝集体の脱落が考えられる。
また、浸漬ノズルへのアルミナ付着による詰まりが、ノズルから供給される溶鋼流れの偏りを誘因し、この溶鋼流れの偏りが、パウダーの溶鋼中への巻き込みを助長する。巻き込まれたパウダーは、プレス時の割れの起点となる。
【0004】
従って、浸漬ノズルへのアルミナ付着を抑制することが、大型のアルミナクラスター及びパウダーの巻き込みに起因した介在物起因の欠陥発生の低減に繋がる。このような浸漬ノズルのアルミナ付着による詰まり現象は、自動車用薄鋼板に使用する溶鋼で特に顕著であり、これまで以下に示すような種々の対策が講じられてきた。
1)浸漬ノズル内への不活性ガスの吹き込み
2)浸漬ノズル耐火物の改善
3)脱酸生成物の組成制御
【0005】
上記した1)の方法は最も一般的であり、ノズル詰まりの防止効果としては完全でないものの、鋼種やその他の条件に関わらず効果がある。
また、2)の方法としては、耐火物中にCaOなどを混入させ、CaOとAlの反応を利用して低融点のCaO−Alを生成させることで、アルミナを耐火物に吸収させて付着厚みを軽減する方法がある。しかし、この方法は、鋳造初期に効果を発揮するものの、耐火物へのアルミナ吸収能には限界があり、完全に付着防止できないこと、更にCaOを含む耐火物は、水分管理を厳重に行わないといけないなど、作業性にも問題がある。
そして、3)の代表的な例としては、Ca添加が挙げられる。このCa添加は、Al脱酸した後にCaを添加し、酸化物の組成を低融点化して、ノズルへの付着を防止するものである。しかし、Caの添加歩留は非常に悪く、コストの増大を招いたり、またスラグなどからの再酸化によりアルミナが生成して酸化物の融点が高くなると、アルミナ以上にノズル詰まりを起こし易くなるといった問題がある。
【0006】
これに対して、例えば、特許文献1には、連続鋳造時の浸漬ノズル詰まりを安価かつ簡便に防止する方法として、微量の希土類元素を用いる方法が開示されている。
この方法によれば、微量の希土類元素添加による浸漬ノズルの詰まり防止メカニズムは、アルミナクラスター間に存在するFeO及びAl・FeOの低融点酸化物バインダーを希土類元素で還元して、溶鋼中でのアルミナ粒子の凝集合体を抑制し、かつ発生量も低減化するものであり、これにより、ノズル内面への付着物の発生を防止できる。
【0007】
【特許文献1】特開2005−177831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法は、希土類元素の添加量や添加方法、脱酸生成物の組成の制御範囲などを規定しているため、これによって、Al脱酸時よりも浸漬ノズルへの付着を抑制することはできる。しかし、1基のタンディッシュで複数の鍋を連続的に交換して鋳造する連々鋳(多連続鋳造)数が増加するに伴い、ノズル詰まりが生じてしまうという課題があった。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、操業性の低下やコストの増加を招くことなく、浸漬ノズルの詰まりを抑制し、連続鋳造の操業の安定化及び連続鋳造鋳片の品質の安定化を図ることが可能な浸漬ノズルの詰まり防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するためになされた本発明の要旨は、以下の通りである。
手段1は、二次精錬装置で溶製した低炭素又は極低炭素のアルミキルド鋼を、複数チャージ続けて連続鋳造する際の浸漬ノズルの詰まり防止方法であって、
前記二次精錬装置で溶製中のアルミキルド鋼に、1又は2以上のチャージおきに希土類元素を(1)式で示す量添加する。
{(t×N+130)/1950} < WREM < 0.02 ・・・(1)
ここで、WREM:1チャージで添加される希土類元素の量(kg/トン)
t:1チャージ当たりの鋳造時間(分)
N:次に希土類元素を添加するまでの希土類元素を添加しないチャージ数、ただしN≧1
【0011】
手段2は、二次精錬装置で溶製した低炭素又は極低炭素のアルミキルド鋼を、タンディッシュを介して連続鋳造する際の浸漬ノズルの詰まり防止方法であって、
前記タンディッシュ内のアルミキルド鋼に、(2)式を満たすように、希土類元素を間欠的に添加する。
< 20×(W×t1/2 ・・・(2)
ここで、W:希土類元素を添加する速度(kg/分)
:希土類元素を添加しない時間(分)、ただしt>0
:希土類元素を連続添加する時間(分)、ただしt>0
【0012】
なお、上記した希土類元素(REM)とは、元素の周期律表中のLa(ランタン)からLu(ルテチウム)まで(原子番号57〜71まで)の15元素であり、アルミキルド鋼に添加するに際しては、上記希土類元素のうちいずれか1種又は2種以上が含まれるものを使用できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る浸漬ノズルの詰まり防止方法は、希土類元素が添加されたアルミキルド鋼を鋳造するに際し、希土類元素が添加されていないアルミキルド鋼を間欠的に鋳造するので、連続鋳造時の浸漬ノズルの詰まりを、安価かつ容易に、しかもばらつきなく安定的に抑制でき、連続鋳造時の操業及び品質の安定化を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は希土類元素添加量と希土類元素を添加しないアルミキルド鋼の鋳造時間とノズル詰まり状況との関係を示す説明図、図2はタンディッシュでの希土類元素添加量と希土類元素を添加しない時間とノズル詰まり状況との関係を示す説明図、図3は希土類元素添加量と浸漬ノズルの最大付着厚みとの関係を示す説明図、図4は希土類元素添加量と浸漬ノズル付着物の割合及び溶鋼中の介在物内の複合酸化物の割合との関係を示す説明図、図5は希土類元素を添加しないチャージの鋳造時間と浸漬ノズルの最大付着厚み及びアルミナ層厚みとの関係を示す説明図である。
【0015】
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る浸漬ノズルの詰まり防止方法は、二次精錬装置の一例である真空脱ガス装置(以下、RHともいう)で溶製した低炭素又は極低炭素のアルミキルド鋼を連続鋳造する際に、浸漬ノズル(以下、単にノズルともいう)の詰まりを防止する方法であって、このアルミキルド鋼に希土類元素(以下、REMともいう)を添加する方法である。
本発明者らは、低炭素又は極低炭素のアルミキルド鋼において、連続鋳造時の浸漬ノズルの付着物調査結果から推定した付着機構から、適正な希土類元素の添加量と添加方法があることを見出した。以下、詳しく説明する。
【0016】
本発明者らは、まず、希土類元素添加によるアルミナ付着の抑制効果について調査した。
具体的には、アルミキルド鋼(自動車用薄鋼板に使用)として、表1に示す成分範囲を有する鋼種Aを用い、これに添加する希土類元素の添加量を種々変え、浸漬ノズルの詰まり状況及び付着物組成と、溶鋼中の酸化物系介在物について調査した。この連続鋳造の実施方法を以下に示す。なお、表1に示す化学組成以外の残部は鉄である。
【0017】
【表1】

【0018】
まず、転炉で脱炭した溶鋼(鋼種A)を取鍋に受け、RHを用いて溶鋼に脱炭処理を行った。この脱炭された溶鋼にAlを添加して脱酸し、所定時間の撹拌を行った後、成分調整のための合金類を添加した。合金類の添加後に、RHで希土類元素(ここでは、Fe−Si−30%REM合金を使用)を添加した。
上記した方法で成分調整を行ったアルミキルド鋼を、取鍋から中間容器であるタンディッシュに、耐火物製のロングノズルを介して供給し、更にタンディッシュから鋳型へ、浸漬ノズルを用いて供給した。
【0019】
ここで、浸漬ノズルからのアルミキルド鋼の供給速度は、浸漬ノズルの直上に設置されたスライディングノズルにより制御した。また、浸漬ノズル内には、詰まり防止のためにArガス(不活性ガス)を吹き込んだ。
使用した浸漬ノズルは、その下部両側に1つずつ貫通孔が形成されたものであり、この各貫通孔から鋳型内へアルミキルド鋼が供給される。なお、浸漬ノズルは、Al:47mass%、グラファイト:26mass%、SiO:18mass%、SiC:7mass%、及びその他の微量酸化物で構成されている。
【0020】
この浸漬ノズルの詰まり状況は、浸漬ノズルの付着物の最大厚みを、鋳込んだチャージ数(取鍋からタンディッシュへアルミキルド鋼を供給する回数)で割った付着速度(mm/ch)により評価した。なお、鋳造条件は、鋳造幅:1900mm、鋳造厚:280mm、鋳造速度:1.3m/分とした。また、浸漬ノズルへのArガスの吹き込み速度は5(NL/分)とした。そして、1チャージ当たりの溶鋼量は400トンであり、合計8チャージの連々鋳を実施した。この連々鋳の間、RHで添加する希土類元素の添加量を一定とした。この結果を図3に示す。
【0021】
図3に示すように、鋳造後の浸漬ノズルの最大付着物厚みから求めた付着速度は、アルミキルド鋼1トン当たりの希土類元素の添加量が、0.005kg/トン以上0.02kg/トン未満の範囲で小さくなることが分かった。なお、希土類元素の添加量が、0.02kg/トン以上になると、取鍋からタンディッシュに注入するロングノズル(取鍋ノズル)に詰まりが散発する結果となった。
このときの付着物の組成と溶鋼中の酸化物系介在物の組成を、EPMAを用いて分析した。この結果を図4に示す。
【0022】
図4は、浸漬ノズルの付着物(ノズル付着物)と溶鋼中に存在する酸化物系介在物(溶鋼中介在物)の中で、アルミナに20mass%以上の希土類元素の酸化物が含まれる複合酸化物(以下、単に複合酸化物ともいう)の個数割合を示している。
図4から、希土類元素の添加量の増加に伴って、浸漬ノズルの付着物が100mass%アルミナ(以下、100%アルミナという)から複合酸化物に変化することが分かった(図4中の◆)。また、浸漬ノズルへの付着物の付着速度が小さくなる領域(例えば、0.005kg/トン以上0.02kg/トン未満の範囲)では、溶鋼中の酸化物系介在物の組成が、主として100%アルミナ(75〜90%程度)であるが、浸漬ノズルの付着物は複合酸化物の割合が高く(50〜90%程度)なっていることが分かった。
【0023】
以上の調査結果に基づいて、アルミキルド鋼に希土類元素を添加した場合の浸漬ノズルの詰まり(酸化物の付着)抑制メカニズムについて検討した。
前記したように、浸漬ノズルへの付着物の付着速度が小さくなる領域では、溶鋼中の酸化物系介在物の組成が、主として100%アルミナであり、一方、浸漬ノズルの付着物は、複合酸化物の割合が高くなっていた。これは、以下のようなメカニズムが作用していると推定している。
Al脱酸後のアルミキルド鋼に希土類元素を添加すると、アルミキルド鋼中に存在するアルミナの一部が希土類元素によって還元され、複合酸化物となる。この複合酸化物は、アルミキルド鋼との界面で平衡する酸素濃度がアルミナよりも低くなるため、酸化物と溶鋼間の界面張力が大きくなる。一方、浸漬ノズルの耐火物と溶鋼との界面で平衡する酸素濃度は高く、界面張力が小さくなる。
【0024】
従って、アルミキルド鋼中の酸化物には、界面張力が小さくなる方向に力が働き、その力は溶鋼と平衡する酸素濃度差が大きいほど大きくなるため、アルミナよりも複合酸化物のほうが、浸漬ノズルに付着し易くなると考えられる。
一旦、複合酸化物が付着すると、付着物側の酸素濃度は低くなり、100%アルミナに対しては斥力が働いて付着を抑制する。希土類元素の添加量が少なく、複合酸化物が非常に少ない場合には、浸漬ノズルの耐火物の全面に複合酸化物が付着するよりも、100%アルミナの方が先に付着するため、その効果が少なくなると考えられる。
【0025】
以上のことから、微量の希土類元素を添加することによる浸漬ノズルの詰まり抑制メカニズムは、従来考えられていたアルミナクラスター間に存在するFeO及びAl・FeOの低融点酸化物バインダーを、希土類元素で還元することによって、溶鋼中でのアルミナ粒子の凝集合体を抑制するのではなく、希土類元素の添加によって生成した複合酸化物が浸漬ノズルに先に付着し、アルミナの付着を抑制するものであることが分かった。
従って、希土類元素の添加によってアルミナの付着は抑制されるものの、希土類元素を含む複合酸化物が徐々に付着していくため、連々鋳数が増えていくとノズル詰まりを生じてしまい、更に連々鋳を増加させた場合には、複合酸化物の付着抑制が必要となる。
【0026】
本発明者らは、以上に記載したメカニズムから、希土類元素を添加したアルミキルド鋼を鋳造することにより、一旦ノズル内面に複合酸化物を付着させ、そのアルミナ付着の抑制効果が持続する間は、希土類元素を添加しないアルミキルド鋼を鋳造することにより、アルミナ付着の抑制と複合酸化物の付着厚増加の防止を両立できるのではないかと発想した。
【0027】
そこで、取鍋で希土類元素を添加したチャージのアルミキルド鋼を鋳造し、浸漬ノズルに複合酸化物を付着させた後、希土類元素を添加しないチャージのアルミキルド鋼を鋳造することで、浸漬ノズルの詰まりが抑制できるかを検討した。
具体的には、連々鋳の1チャージ目のアルミキルド鋼に、希土類元素を0.012kg/トン添加し、2チャージ目以降のアルミキルド鋼には希土類元素を添加しないで、希土類元素を添加しないチャージ数を1チャージずつ増加させながら、浸漬ノズルの詰まり状況を確認した。なお、鋳造条件は、希土類元素の添加条件以外、前記した試験と同じとした。この条件下では、1チャージのアルミキルド鋼の鋳造時間はおよそ40分である。また、鋳造するアルミキルド鋼には、前記した表1に示す鋼種Bを使用した。
【0028】
このときの浸漬ノズルの最大付着厚みと100%アルミナの付着層厚みを調査した結果を、図5に示す。
図5に示すように、希土類元素を添加したアルミキルド鋼を鋳造した後、鋳造時間が40分(1チャージ分)を経過するまでは、100%アルミナの付着は全く見られず、最大付着厚みも変化しないことが分かった。
これは、1チャージ目のアルミキルド鋼を鋳造した際に、浸漬ノズルに付着した複合酸化物による100%アルミナの付着防止効果が、40分間持続することを意味している。
【0029】
次に、希土類元素を添加するチャージ数を増やしたときのアルミナ付着の抑制効果の持続性について調査した。
その結果、希土類元素を添加するチャージ数が増えるほど、複合酸化物の付着厚みは厚くなるものの、アルミナ付着の抑制効果の持続性はほとんど変わらないことが分かった。100%アルミナの付着抑制効果が持続するメカニズムは、浸漬ノズルに付着した複合酸化物中の希土類元素が、脱酸平衡により溶鋼中に分解し、溶鋼中の酸素濃度を低下させるためと考えられる。
従って、溶鋼に接触している複合酸化物中の希土類元素量が、100%アルミナの付着抑制効果の持続時間に影響を与えるため、有効に働く複合酸化物層の厚みが薄く、添加量が同一であれば、希土類元素を添加するチャージ数を増やしても、付着抑制効果の持続性はほとんど変わらないと考えられる。
【0030】
続いて、希土類元素の添加量とアルミナ付着の抑制効果の持続性との関係について調査した。
具体的には、最初の1チャージ目のアルミキルド鋼に添加する希土類元素の量を種々変え、このアルミキルド鋼を鋳造した後、次のチャージ以降のアルミキルド鋼には希土類元素を添加することなく鋳造し、鋳造後の浸漬ノズルの詰まり状況を調査した。なお、浸漬ノズルの詰まり状況は、前記した付着速度(mm/ch)において、全チャージに希土類元素を添加した場合に最も良好であった2.5(mm/ch)以下のものを良好とした。
図1から明らかなように、希土類元素を添加しないアルミキルド鋼の鋳造時間が、以下の(1´)式で示される範囲であれば、浸漬ノズルの詰まり状況が良好であることが分かった。なお、上記した図1の縦軸は、1チャージ当たりの鋳造時間tと希土類元素を添加しないチャージ数Nとを掛け合わせた時間である。
【0031】
t×N < −130+1950×WREM1/2 ・・・(1´)
(1´)式は、一旦、複合酸化物が浸漬ノズルに付着した後に、100%アルミナの付着を抑制できる時間から決まるものである。
また、希土類元素の添加量WREMの上限については、前述した通り、過剰の希土類元素添加のために取鍋からタンディッシュに注入する際に詰まりが生じるため、0.02(kg/トン)未満とする必要があるが、0.018(kg/トン)以下、更には0.015(kg/トン)以下とすることが好ましい。
これらを整理すると、(1)式で示される。
【0032】
{(t×N+130)/1950} < WREM < 0.02 ・・・(1)
ここで、WREM:1チャージで添加される希土類元素の量(kg/トン)
t:1チャージ当たりの鋳造時間(分)
N:次に希土類元素を添加するまでの希土類元素を添加しないチャージ数、ただしN≧1
従って、RHで溶製中のアルミキルド鋼に、上記した(1)式を満足する量の希土類元素を1又は2以上のチャージおきに添加する。なお、希土類元素を添加しないチャージ数の上限は、1チャージの鋳造時間にもよるが、現実的には、3チャージ、4チャージ、又は5チャージである。
【0033】
以上に示した考えを更に発展させると、取鍋内でRHを用いて希土類元素を添加するよりも、タンディッシュで希土類元素を添加した方が、柔軟かつ効果的であると推定される。
そこで、タンディッシュ内のアルミキルド鋼に希土類元素を連続添加し、浸漬ノズルの詰まりを防止する方法について検討した。なお、鋳造条件は、希土類元素の添加方法以外、前記した試験と同じとした。また、鋳造するアルミキルド鋼には、前記した表1に示す鋼種Cを使用した。ここで、タンディッシュでの希土類元素の添加は、取鍋からタンディッシュへアルミキルド鋼を注入するノズル付近に、ワイヤーで添加した。このワイヤーは、外径:5mm、内径:3mmの鉄製のものであり、内部に、Fe−Si−30mass%REM合金が装填されたものである。
上記条件のもと、希土類元素の添加速度を、ワイヤーの送り速度で制御し、ワイヤー供給の時間や間隔を種々変更する試験を行った。
【0034】
図2に示すように、縦軸に希土類元素を添加していない時間tを、横軸に希土類元素の添加量W×tをそれぞれとると、この縦軸と横軸は、前記した図1と同様の意味合いを持つ。なお、横軸は、希土類元素の添加速度と希土類元素を連続添加する時間を掛け合わせたものであり、希土類元素の添加量を示す指標となる。
この図2において、希土類元素を添加しないアルミキルド鋼の鋳造時間が、以下の(2)式で示される範囲であれば、浸漬ノズルの詰まり状況が良好であることが分かった。なお、浸漬ノズルの詰まりの良否は、前記した図1の場合と同様の方法で判定した。
【0035】
< 20×(W×t1/2 ・・・(2)
ここで、W:希土類元素を添加する速度(kg/分)
:希土類元素を添加しない時間(分)、ただしt>0
:希土類元素を連続添加する時間(分)、ただしt>0
従って、タンディッシュ内のアルミキルド鋼に希土類元素を直接添加するに際しては、上記した(2)式を満足するように、希土類元素を間欠的に添加する。
【0036】
なお、希土類元素を添加しない時間tの下限は、0よりも大きくしているが、作業性等を考慮すれば、現実的には、5分以上、更には10分以上である。また、ここでは、アルミキルド鋼の量に対する希土類元素の添加量については記載していないが、前記した図3から、アルミキルド鋼1トン当たり0.005kg以上0.02kg未満である。なお、この量は、タンディッシュ内のアルミキルド鋼の滞留時間に基づき、前記した希土類元素を添加する速度Wを調整することで調整できる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、以下に示す表2の条件で連続鋳造し、浸漬ノズル詰まり解消のために行う付着物除去作業の有無と、鋳造後の浸漬ノズルの付着速度と、製造した製品の品質結果について比較した。上記した鋳造条件、連続鋳造の実施方法、及び試験結果を、以下に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
まず、転炉で脱炭した溶鋼を取鍋に受け、RH(真空脱ガス装置)を用いて溶鋼に脱炭処理を行った。この脱炭された溶鋼にAlを添加して脱酸し、所定時間の撹拌を行った後、成分調整のための合金類を添加した。なお、希土類元素(ここでは、Fe−Si−30%REM合金を使用)は、上記したRHで、合金類を添加した後に添加した。
このように成分調整を行った溶鋼を、取鍋から中間容器であるタンディッシュに、耐火物製のロングノズルを介して供給し、更にタンディッシュから鋳型へ、浸漬ノズルを用いて供給した。
【0040】
ここで、浸漬ノズルからの溶鋼の供給速度は、浸漬ノズルの直上に設置されたスライディングノズルにより制御した。また、浸漬ノズル内には、詰まり防止のためにArガス(不活性ガス)を吹き込んだ。
そして、使用した浸漬ノズルは、その下部両側に1つずつ貫通孔が形成されたものであり、この各貫通孔から鋳型内へ溶鋼が供給される。なお、浸漬ノズルは、Al:47mass%、グラファイト:26mass%、SiO:18mass%、SiC:7mass%、及びその他の微量酸化物で構成されている。
【0041】
上記した方法で、1ストランド(1つのタンディッシュ)当たり1600トンの溶鋼を鋳造した。なお、鋳造条件は、鋳造幅:1900mm、鋳造厚:280mm、鋳造速度:1.3m/分とした。また、浸漬ノズルへのArガスの吹き込み速度は5(NL/分)とした。
前記した表2に示す各鋳造条件で使用した溶鋼(アルミキルド鋼)の成分範囲(連々鋳単位(8チャージ)における成分範囲)を表3に、また表2中に示した試験結果の総合評価の基準を表4に、それぞれ示す。なお、表3に示す化学組成以外の残部は鉄である。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
この表2、表4中の表面欠陥発生率とは、全冷延コイルの本数に対する表面欠陥が発生した冷延コイルの本数の比率である。この表面欠陥の有無は、冷延後の通板ラインで目視確認した表面疵の有無により判断している。
また、表2、表4中の浸漬ノズルの詰まりは、最大付着厚みを、鋳造したチャージ数で割った付着速度で評価した。この付着速度の基準は、全チャージに希土類元素を添加した場合に最も付着速度が遅かった2.5(mm/ch)を基準とし、2.5(mm/ch)以上を△、2.0(mm/ch)以上2.5(mm/ch)未満を○、2.0(mm/ch)未満を◎とした。なお、浸漬ノズルへの付着速度が2.0(mm/ch)未満となれば、浸漬ノズルの寿命(パウダーラインの溶損)まで、ノズル詰まり解消作業を行わず鋳造可能となる。
【0045】
表2に示す実施例1、2は、1チャージおきに希土類元素が添加されたアルミキルド鋼を鋳造した結果である。
表2から明らかなように、希土類元素の添加量は、添加量指標を満たす前記(1)式の範囲内に入っており、浸漬ノズル詰まり解消作業はなく、表面欠陥発生率も低位であった。
また、付着速度に着目すると、後述する比較例2のように、全チャージに希土類元素を添加している場合よりも、付着速度は更に小さく、連々鋳数を更に向上させることが可能であることを確認できた。
【0046】
また、実施例3には、2チャージおきに0.012kg/トンの希土類元素を、実施例4には、3チャージおきに0.018kg/トンの希土類元素を、それぞれ添加したアルミキルド鋼を鋳造した結果を示している。この実施例3、4についても、実施例1、2と同様、希土類元素の添加量を、添加量指標を満たす前記(1)式の範囲内としているため、浸漬ノズル詰まり解消作業はなく、表面欠陥発生率も低位であった。
【0047】
一方、表2に示す比較例1では、希土類元素を添加していないアルミキルド鋼を鋳造したため、浸漬ノズルの詰まり解消作業を実施する必要があった。また、表面欠陥発生率も非常に高かった。
比較例2は、全チャージに希土類元素を添加したアルミキルド鋼を使用したため、浸漬ノズル詰まり解消作業はなく、また表面欠陥発生率も低位であったが、実施例1〜4に比較して、付着速度が速く、これ以上の連々鋳数の向上は望めなかった。
【0048】
そして、比較例3は、希土類元素を添加したアルミキルド鋼を使用した結果であるが、希土類元素の添加量が、添加量指標よりも少なく前記(1)式の範囲外であるため、浸漬ノズルの付着速度が速く、表面欠陥発生率も高くなった。更に、比較例4では、希土類元素を0.024kg/トン添加しており、希土類元素の添加量が、前記(1)式の範囲外であるため、取鍋の詰まりが発生した。
以上のことから、RHで溶製されるアルミキルド鋼に、1又は2以上のチャージおきに希土類元素を、前記(1)式を満足する量添加することで、操業性の低下やコストの増加を招くことなく、浸漬ノズルの詰まりを抑制できることを確認できた。
【0049】
続いて、表5に示す条件で連続鋳造し、浸漬ノズル詰まり解消のために行う付着物除去作業の有無と、鋳造後の浸漬ノズルの付着速度と、製造した製品の品質結果について比較した。上記した鋳造条件、連続鋳造の実施方法、及び試験結果を、以下に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
なお、鋳造条件は、希土類元素の添加方法以外、前記した試験と同じとした。ここで、タンディッシュでの希土類元素の添加は、取鍋からタンディッシュへアルミキルド鋼を注入するノズル付近に、ワイヤーで添加した。このワイヤーは、外径:5mm、内径:3mmの鉄製のものであり、内部に、Fe−Si−30mass%REM合金が装填されたものである。
上記条件のもと、タンディッシュ内のアルミキルド鋼への希土類元素の添加速度を、ワイヤーの送り速度で制御し、ワイヤー供給の時間や間隔を種々変更した。なお、表5中に示した試験結果の総合評価の基準は、前記した表4と同様である。
ここで、前記した表5に示す各鋳造条件で使用したアルミキルド鋼の成分範囲(連々鋳単位(8チャージ)における成分範囲)を表6に示す。なお、表6に示す化学組成以外の残部は鉄である。
【0052】
【表6】

【0053】
表5に示す実施例5〜8は、希土類元素の添加量が、添加量指標を超えて前記(2)式を満足しており、浸漬ノズル詰まり解消作業はなく、表面欠陥発生率も低位であった。
一方、比較例5、6は、希土類元素を添加しているが、添加量指標よりも少なく前記(2)式を満足しなかった。このため、比較例5では、浸漬ノズルの詰まり解消作業を実施する必要があり、表面欠陥発生率も非常に高く、また、比較例6では、浸漬ノズルの詰まり解消作業は実施していないが、付着速度が非常に速く、表面欠陥発生率も高かった。
【0054】
以上のことから、タンディッシュ内のアルミキルド鋼に、前記(2)式を満たすように、希土類元素を間欠的に連続添加することで、操業性の低下やコストの増加を招くことなく、浸漬ノズルの詰まりを抑制できることを確認できた。
従って、本発明に係る浸漬ノズルの詰まり防止方法を使用することで、操業性の低下やコストの増加を招くことなく、浸漬ノズルの詰まりを抑制でき、操業及び品質の安定化を達成することが可能であり、全チャージに希土類元素を添加した場合に比べて、更に安定して連々鋳数を向上させることが可能であることを確認できた。
【0055】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の浸漬ノズルの詰まり防止方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】希土類元素添加量と希土類元素を添加しないアルミキルド鋼の鋳造時間とノズル詰まり状況との関係を示す説明図である。
【図2】タンディッシュでの希土類元素添加量と希土類元素を添加しない時間とノズル詰まり状況との関係を示す説明図である。
【図3】希土類元素添加量と浸漬ノズルの最大付着厚みとの関係を示す説明図である。
【図4】希土類元素添加量と浸漬ノズル付着物の割合及び溶鋼中の介在物内の複合酸化物の割合との関係を示す説明図である。
【図5】希土類元素を添加しないチャージの鋳造時間と浸漬ノズルの最大付着厚み及びアルミナ層厚みとの関係を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次精錬装置で溶製した低炭素又は極低炭素のアルミキルド鋼を、複数チャージ続けて連続鋳造する際の浸漬ノズルの詰まり防止方法であって、
前記二次精錬装置で溶製中のアルミキルド鋼に、1又は2以上のチャージおきに希土類元素を(1)式で示す量添加することを特徴とする浸漬ノズルの詰まり防止方法。
{(t×N+130)/1950} < WREM < 0.02 ・・・(1)
ここで、WREM:1チャージで添加される希土類元素の量(kg/トン)
t:1チャージ当たりの鋳造時間(分)
N:次に希土類元素を添加するまでの希土類元素を添加しないチャージ数、ただしN≧1
【請求項2】
二次精錬装置で溶製した低炭素又は極低炭素のアルミキルド鋼を、タンディッシュを介して連続鋳造する際の浸漬ノズルの詰まり防止方法であって、
前記タンディッシュ内のアルミキルド鋼に、(2)式を満たすように、希土類元素を間欠的に添加することを特徴とする浸漬ノズルの詰まり防止方法。
< 20×(W×t1/2 ・・・(2)
ここで、W:希土類元素を添加する速度(kg/分)
:希土類元素を添加しない時間(分)、ただしt>0
:希土類元素を連続添加する時間(分)、ただしt>0

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−274079(P2009−274079A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124841(P2008−124841)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】