説明

浸漬型膜モジュールの運転方法

【課題】 浸漬槽内に設置した膜モジュールによって水を膜分離する際、水回収率を効率よく高め、かつ膜モジュールへの負荷を軽減させ、膜の目詰まりを抑えることができる運転方法を提供する。
【解決手段】 原水貯留の浸漬槽内にろ過膜モジュールが浸漬設置され、ろ過膜モジュール上端より下方に原水供給口が設けられている水処理装置によって膜ろ過水を製造する方法であって、(a)膜ろ過水取出し水量と同量以上の原水を給水しながら、ろ過膜モジュールの膜ろ過水側を吸引して膜ろ過水を取出す給水ろ過工程と(c)膜ろ過を停止し膜モジュールの原水側に空気を供給してろ過膜モジュールを洗浄する空洗工程とを1回もしくは繰り返して行った後、前記(a)給水ろ過工程を行い、次いで(b)原水供給量を零もしくは膜ろ過水の水量よりも少ない量として膜ろ過することにより浸漬槽内の液面を下げる液面低下ろ過工程と前記(c)空洗工程と(d)浸漬槽内の原水を浸漬槽外へ排出する排水工程とをこの順で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の膜ろ過処理を行うための浸漬型膜モジュールの運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膜ろ過による膜分離法は、省エネルギー、省スペース、省力化およびろ過水質向上等の特長を有するため、様々な分野において使用が拡大してきている。例えば、精密ろ過膜や限外ろ過膜を河川水や地下水や下水処理水から工業用水や水道水を製造する浄水プロセスへの適用や、海水淡水化逆浸透膜処理工程における前処理への適用があげられる。また、膜分離に用いられるろ過膜モジュールは、処理分野に係わらず加圧型と浸漬型に分類される。浸漬型の膜モジュールは浸漬槽内に浸漬設置され、吸引あるいは水頭差を駆動力として、ろ過膜を介して浸漬槽内の原水から膜ろ過水を得る浸漬型膜分離手段に用いられる。
【0003】
浸漬型膜モジュールで水処理を行う場合、原水を浸漬槽内に連続または間欠的に給水し、浸漬槽内に浸漬設置された膜モジュールをポンプ等で吸引ろ過することによって膜ろ過水が得られる。原水を膜でろ過すると、原水に含まれる濁質や有機物、無機物等の除去対象物が膜面に蓄積し、膜の目詰まりが起こる。これにより膜のろ過抵抗が上昇し、やがてろ過を継続することができなくなる。そこで膜ろ過性能を維持するため、定期的に膜の洗浄を行う必要がある。膜の洗浄には膜ろ過水を膜の2次側(ろ過水側)から1次側(原水側)へ逆流させる逆洗工程や、気体を膜の1次側に供給して膜の汚れを取る空洗工程や、空洗工程や逆洗工程で出た汚れを膜が浸漬された槽内から排出する排水工程がある。また逆洗工程や空洗工程で取れない汚れがある場合には、薬液を一定時間膜と接触させて洗浄する薬液洗浄がある。これらの洗浄手段を有効に行うことが膜ろ過を安定に運転するために非常に重要である。
【0004】
また、膜ろ過において、装置に給水する原水の量と装置から得られる膜ろ過水の比、すなわち回収率(膜ろ過水量/原水量)を高めることが求められ、装置の性能として重要である。例えば装置に供給した原水量が100で、装置から得られた膜ろ過水量が90の場合、回収率は90%となる。回収率を高めるには逆洗工程や空洗工程で膜から剥がれた汚れを浸漬槽から排水する排水量を減らせば良いが、この排水量を減らすと浸漬槽内に汚れを多く残存することとなり、膜にかかる負荷が増えるため、膜の目詰まりが起こりやすくなる傾向がある。
【0005】
回収率を効率的に高め、かつ膜の目詰まりを防ぎながら運転する方法として、特許文献1には、浸漬型膜ろ過装置の下部に汚れを溜めて、回収率を高める方法が記載されている。また特許文献2には、空洗工程や逆洗工程で膜から剥がれた汚れを浸漬槽上部から排出する方法が記載されている。しかし、特許文献1の方法では、浸漬槽下部に汚れ保留スペースを設ける必要があるため、薬液洗浄時に薬液量が多く必要になるという問題がある。また、特許文献2の方法では、十分に回収率を高めることができないという問題がある。
【特許文献1】特開2006−255587号公報
【特許文献2】特表2003−513785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、浸漬槽内に浸漬設置したろ過膜モジュールによって原水を膜分離して膜ろ過水を製造する際に、水回収率を効率良く高めるとともに、膜モジュールへの負荷を軽減させ、膜の目詰まりを抑えることができる運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の浸漬型膜モジュールの運転方法は、次の特徴を有するものである。
(1)原水を貯留した浸漬槽内にろ過膜モジュールが浸漬設置され、ろ過膜モジュール上端よりも下方に原水供給口が設けられている水処理装置によって膜ろ過水を製造する際の、ろ過膜モジュールの運転方法であって、(a)膜ろ過水の取り出し水量と同量以上の原水を給水しながら、ろ過膜モジュールの膜ろ過水側を吸引して膜ろ過水を取り出す給水ろ過工程と(c)膜ろ過を停止し膜モジュールの原水側に空気を供給してろ過膜モジュールを洗浄する空洗工程とを1回もしくは繰り返して行った後、前記(a)給水ろ過工程を行い、次いで、(b)原水供給量を零もしくは膜ろ過水の水量よりも少ない量として膜ろ過することにより浸漬槽内の液面を下げる液面低下ろ過工程と、前記(c)空洗工程と、(d)浸漬槽内の原水を浸漬槽外へ排出する排水工程とをこの順で行うことを特徴とする浸漬型膜モジュールの運転方法。
(2)上記(1)記載の運転方法において、膜モジュール上端より下の浸漬槽内の貯水体積(V)に対する、(c)空洗工程の実施後に(a)給水ろ過工程を開始から5分間における原水供給量と膜ろ過水取り出し量との差(I)の比(I/V)が0.5以上であることを特徴とする浸漬型膜モジュールの運転方法。
(3)上記(1)記載の運転方法において、(a)給水ろ過工程の間に(c)空洗工程を実施する際、膜モジュール上端より下の浸漬槽内の貯水体積(V)に対する、膜モジュール上端より上部の浸漬槽内の原水量(H)の比(H/V)が0.5以上であることを特徴とする浸漬型膜モジュールの運転方法。
(4)上記(2)又は上記(3)記載の運転方法において、(b)液面低下ろ過工程の実施時の膜ろ過流束が(a)給水ろ過工程の実施時の膜ろ過流束よりも低いことを特徴とする浸漬型膜モジュールの運転方法。
(5)上記(4)記載の運転方法において、(a)給水ろ過工程におけるろ過流量制御手段が定流量ろ過であり、かつ、(b)液面低下ろ過工程におけるろ過流量制御手段が定圧ろ過であることを特徴とする浸漬型膜モジュールの運転方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の浸漬型膜モジュールの運転方法によれば、効率良く回収率を高めながら、かつ膜モジュールへ負荷を軽減させ、膜の目詰まりを抑えながら運転することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明法の実施形態を、図1に示す浸漬型膜モジュールろ過装置を用いて水処理する場合を例にとって、図1及び図2を参照しながら以下に説明する。但し、本発明が以下に示す実施態様に限定される訳ではない。
【0010】
図1は、本発明法が適用される浸漬型膜ろ過装置の一例を模式的に示す概略フロー図である。浸漬槽1内にはろ過膜モジュール2が浸漬設置されている。ろ過膜モジュールよりも下方に原水供給口が設けられている。
【0011】
(a)膜ろ過水の取り出し水量と同量以上の原水を給水しながら、ろ過膜モジュールの膜ろ過水側を吸引して膜ろ過水を取り出す給水ろ過工程(以下、給水ろ過工程(a)という。)では、原水が浸漬槽1に原水配管3を介して原水供給口から給水され、吸引ポンプ5によって膜モジュール2、ろ過弁6、膜ろ過水配管4を介して膜ろ過水が取り出される。この工程では、原水の給水量をろ過水量と同量ないしはそれ以上とすることにより、浸漬槽内液の液面WLは一定に保たれまたは徐々に上昇する。給水ろ過工程(a)を所定時間行った後、吸引ポンプ5を停止し、ろ過弁6を閉じ、給水ろ過工程を停止する。本工程では、膜ろ過水が得られると同時に原水中の懸濁物が膜に蓄積し、膜の汚れが進む。
【0012】
そこで、給水ろ過工程(a)の後には、(c)膜ろ過を停止し膜モジュールの原水側に空気を供給してろ過膜モジュールを洗浄する空洗工程(以下、空洗工程(c)という。)を行う。この時、給水も停止させることが好ましい。この空洗工程(c)では、膜モジュール2の下方に配置した散気装置から、空洗弁12、空洗エア配管11を介して、ブロワ10により供給される空気を気泡として散気する。また空洗工程(c)と同時またはその前後に、逆洗弁9を開き、逆洗ポンプ8によって逆洗水配管7を介して膜モジュール2の2次側へ逆洗水を送り込み逆流洗浄を行う工程(以下、逆洗工程という。)を実施してもかまわない。これらによって膜表面に空気や水を衝突させ、ろ過膜を揺動させ、膜表面や膜間の流路に蓄積した懸濁物質を剥離・除去され、剥がされた汚れは浸漬槽内の液中の全体に均一に懸濁物質として分散する。
【0013】
本発明法では、給水ろ過工程(a)の後に空洗工程(c)を行なう。この給水ろ過工程(a)と空洗工程(c)とは、繰り返して行ってもかまわない(図2における繰り返しA)。
【0014】
給水ろ過工程(a)と空洗工程(c)との後には再度、給水ろ過工程(a)を行ない、その後に、(b)原水供給量を零もしくは膜ろ過水の水量よりも少ない量として膜ろ過することにより浸漬槽内の液面を下げる液面低下ろ過工程(以下、液面低下ろ過工程(b)という。)を行う。この工程では、原水の給水を停止または膜ろ過水量より少ない量で原水を給水しながら膜ろ過することにより浸漬槽内の液面WLを下げていく。
【0015】
液面低下ろ過工程(b)の次に、前記した空洗工程(c)を行った後に、(d)浸漬槽内の原水を浸漬槽外へ排出する排水工程(以下、排水工程(d)という。)を行う。この工程では、排水弁14を開き、排水配管13を介して槽内液を浸漬槽外へと引抜く。この槽内液の排水により、槽内液中に分散した懸濁物質は槽内液とともに排出される。排水工程(d)の終了後は、給水ろ過工程(a)を再度行うために、原水配管3を介して浸漬槽内に原水を給水する給水工程が行われ、次いで、給水ろ過工程(a)が再開される。
【0016】
本発明法によって実施される運転工程の工程順序の一例を図2(工程フロー図)に示す。この図2の実施態様では、給水ろ過工程(a)と空洗工程(c)を繰り返して行った後、給水ろ過工程(a)、液面低下ろ過工程(b)、空洗工程(c)、排水工程(d)をこの順で行う。その後は、給水を行い、給水ろ過工程(a)に戻り、運転を繰り返す(繰り返しB)。
【0017】
給水ろ過工程(a)と空洗工程(c)とは、1回ずつ行うのでもよいし、繰り返して行ってもかまわない(繰り返しA)。また、その給水ろ過工程(a)と空洗工程(c)との間に液面低下ろ過工程(b)を行ってもかまわない。このように液面低下ろ過工程(b)を実施すると、浸漬槽の膜モジュール上端より上に水を溜めるスペースを最小限に抑えることができるため、より好ましい。繰り返しAにおける繰り返し回数は、多くても数十回程度以下の範囲とすることが好ましい。給水ろ過工程(a)の後に空洗工程(c)を行うことにより、膜に蓄積した汚れが一旦膜から剥離するため、空洗工程(c)を実施しない場合に比べ、膜への汚れの蓄積を減らすことができる。
【0018】
給水ろ過工程(a)を行う際には、膜モジュールよりも下方の原水供給口から原水を槽内に供給し、膜ろ過水量と同量以上の原水量を給水することが重要である。空洗工程(c)を実施した後、給水ろ過工程(a)を実施すると、膜モジュール上端より下方の浸漬槽内の槽内液(w2)は再び膜モジュール側に引き寄せられてろ過されるが、それと同時にその槽内液(w2)中に浮遊している懸濁物質は再び膜モジュール内のろ過膜に付着する。しかし、原水給水量が膜ろ過水量以上であるため、膜モジュール上端より上の浸漬槽内の液(w1)は、膜モジュール側に引き寄せられることが少なく、その液(w1)中に浮遊した懸濁物質は、膜ろ過されることなくそのまま膜モジュール上端より上の浸漬槽内液(w1)中に浮遊して残留する。
【0019】
その給水ろ過工程(a)を続けていくと、膜モジュール上端より下の膜モジュール近傍の浸漬槽内液は、やがて給水される原水と同等の水質となる。膜モジュール上端より上の浸漬槽内液(w1)中に浮遊した懸濁物質は、空洗工程によって剥がれた濁質であり、非常に細かい懸濁物質となっているため、ほとんどは自然沈降することなくそのまま浮遊した状態を保つ。これにより、膜モジュールの膜面に付着して蓄積されるはずの汚れを膜モジュール上部に浮遊させたままの状態で膜ろ過を行うことができ、膜面の汚れ負荷を下げることができるため、膜の目詰まりを防ぎながら運転することが可能である。
【0020】
液面低下ろ過工程(b)では、給水ろ過工程(a)によって膜モジュール上端より上の浸漬槽内液(w1)中に溜まった液を、原水の給水を停止または膜ろ過水量より少ない給水量として膜ろ過することにより、浸漬槽内液面WLを徐々に下げていく。本工程を行うことによって、続いて行う排水工程(d)の実施時に、浸漬槽内から排出する排水量を減らし、回収率を向上させることができる。この際、浸漬槽内液面WLが低下することにより、膜モジュール上端より上部の浸漬槽内に溜まった懸濁物質を多く含む水が膜モジュール近傍に降下し、膜モジュールの膜面でろ過されることとなるため、膜への負荷が一時的に大きくなる。そこで、液面低下ろ過工程(b)においては給水ろ過工程(a)に比べ、膜ろ過流束を下げ、膜の負荷を一時的に低減させることが好ましい。
【0021】
液面低下ろ過工程(b)を行う時間は給水ろ過工程(a)の時間に比べると1/10程度と短いため、一時的に膜ろ過流束を下げても、装置の平均膜ろ過水量が大幅に減ることが無いため、効率の良い運転を実現することが可能である。膜ろ過流束を下げる方法としては、給水ろ過工程(a)の際は吸引ポンプ5のインバーターや、ろ過水配管4途中に設置された定流量弁によって、膜ろ過流量を一定流量に保つ定流量ろ過とし、液面低下ろ過工程(b)の際には、これらインバーターの制御や定流量弁の制御値を給水ろ過工程(a)終了時の制御値のままに保ち、定圧ろ過とすることによって、自然にろ過流量を低下させる方法が、最も簡単に実施することができるため好ましい。定圧ろ過とすることにより、懸濁物質を多く含む水をろ過することになる液面低下ろ過工程(b)の際にも、運転差圧を高めること無く、安定に運転することができ、膜ろ過差圧が膜モジュールの限界差圧以上に達することなく、運転することが可能となる。
【0022】
液面低下ろ過工程(b)に続いて空洗工程(c)を行い、浸漬槽内液中の全体に懸濁物質を浮遊させた後、排水工程(d)で浸漬槽内から浸漬槽内液中1aの懸濁物質を排出する。
【0023】
給水ろ過工程(a)を行う際に、懸濁物質を膜モジュール上端より上の槽内に溜めながら運転するためには、膜モジュール上端より下の浸漬槽内貯水体積(V)に比較して、空洗工程(c)実施後に給水ろ過工程(a)を開始から5分間における原水給水量と膜ろ過水取り出し量との差(I)の比(I/V)が0.5以上であることが好ましい。ここでは、原水の給水量と膜ろ過水取り出し量とは体積でもって表す。その差(I)の体積が大きいほど、懸濁物質を膜上部へと迅速に押し上げることができ、膜モジュールでろ過する懸濁物質量を減らすことができ、膜モジュールの負荷が低下し、膜のファウリングを抑えることが可能となる。特に、給水ろ過工程(a)開始時は懸濁物質が浸漬槽内全体に分散した状態であるため、給水ろ過工程(a)を開始してすぐに多量の原水を給水し、その後原水給水量を膜ろ過水量と同等まで減らしていくことも好ましい。ただし、原水の給水量から膜ろ過水量を引いた量(I)が大きすぎると、液面が急激に上昇し過ぎて槽内液が浸漬槽から溢れ出やすくなるので、浸漬槽の上部スペースが多く必要となって、浸漬槽が大きくなり過ぎ、装置コスト的に好ましくない。そのため、膜モジュール上端より下の浸漬槽内貯水体積(V)に比較して、空洗工程(c)実施後に給水ろ過工程(a)を開始から5分間における原水給水量と膜ろ過水量との差(I)との比(I/V)は大きくても2以下とすることが好ましい。
【0024】
懸濁物質を膜上部に溜めながら運転するための、もう一つの方法としては、給水ろ過工程(a)の間に空洗工程(c)を実施する時に、膜モジュール上端より下の浸漬槽内の貯水体積(V)に対する、膜モジュール上端より上部の浸漬槽内の液量(H)との比(H/V)を0.5以上とすることが好ましい。上記した比(H/V)が大きいほど、空洗工程(c)実施時に懸濁物質が浸漬槽内の液の全体に均一に懸濁した時でも、膜モジュール上端より上部の液(w1)中により多くの懸濁物質が移行するため、給水ろ過工程(a)を開始した際に、膜モジュール上端より下の液(w2)中に存在する懸濁物質が相対的に少なくなるため、膜モジュールでろ過される液中の懸濁物質が少なくなり、負荷量が低減させることができる。上記した比(H/V)が大きいほど膜の負荷を減らすことができるが、大きすぎると浸漬槽上部のスペースが多く必要となるため、浸漬槽が大きくなり装置コスト的に好ましくない。そのため、上記した比(H/V)は大きくても5以下とすることが好ましい。
【0025】
浸漬槽内に原水を給水する原水供給口の位置は、膜モジュール上端よりも下方であればよい。槽内に供給された水が、膜モジュール上端より上部の浸漬槽内液(w1)と混ざらないようにするためには、膜モジュール上端に近い位置ではなく、膜モジュールの下端位置近傍もしくはそれよりも下であることが好ましく、さらに、浸漬槽の最も下部付近に原水供給口を設けることが好ましい。また、給水によって浸漬槽内の液の全体が混合流とならないように、給水口に整流筒を設け、給水の勢いを分散させて給水することがより好ましい。
【0026】
なお、ここで、膜モジュール上端より下の浸漬槽内の貯水体積(V)は、膜モジュール上端より下の浸漬槽内体積から、浸漬されている膜モジュール体積及び槽内の配管や部材や散気管等の体積を除いた体積であり、即ち、原水が溜まる部分の浸漬槽内の体積のことである。また、膜モジュール上端より上部の浸漬槽内の原水量(H)は、膜モジュール上端より上の浸漬槽内体積から、槽内の配管や部材等を除いた体積であり、即ち、原水が溜まる部分の浸漬槽内の液量のことである。
【0027】
浸漬槽内に浸漬設置された膜モジュールの上端とは、ろ過膜が膜モジュールとして配置され、その膜モジュール内で実際にろ過機能を発揮するろ過膜部分のうちの垂直方向の最も高い位置のことである。図1の場合では符号Pが膜モジュールの上端の高さに相当する。ここで、膜モジュール内に配置したろ過膜は、中空糸膜でも平膜でも良いが、膜の洗浄性および設置面積あたりの膜面積比から中空糸膜の方がより好ましい。中空糸膜は、垂直に配置されていることが好ましいが、水平に配置されていてもよい。
【0028】
ここで、膜ろ過流束とは、膜面積あたりの膜ろ過水量のことであり、膜ろ過流束を高めることは、膜ろ過装置の効率を高める上で重要となる。
【0029】
本発明において用いる浸漬型膜モジュール装置は、膜モジュール上端より上部に水を溜めるスペースが必要である。また、膜モジュール上端より下の浸漬槽内スペースは膜モジュールを除いた容積ができる限り小さい方がより好ましく、かつ浸漬槽内体積あたりの膜モジュール密度が高い方が好ましい。またこのような理由から膜モジュール下部にスペースを設けず、なるべく浸漬槽の下部に近い部分に膜モジュールを設置したほうがより好ましい。
【0030】
給水ろ過工程(a)は通常5〜60分程度であり、空洗工程(c)は5〜120秒程度であるのが好ましい。排水工程(d)では浸漬槽内液を全量排出するのが好ましいが、浸漬槽内液の一部を排出することでもかまわない。液面低下ろ過工程(b)では、液面を下げれば下げるほど回収率が高くなるため好ましいが、通常、膜モジュール上端の上50cmの位置から膜モジュール中央部の位置までの間となるまで液面を低下させることが好ましい。
【0031】
ここで、膜モジュールに使用するろ過膜としては、ろ過機能を有する多孔質膜であれば特に限定しないが、セラミック等の無機素材や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエーテルスルホン、塩化ビニールからなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体を含んでいる多孔質膜が挙げられる。さらに膜強度や耐薬品性の点からはポリフッ化ビニリデン(PVDF)製多孔質膜が好ましく、親水性が高く耐汚れ性が強いという点からはポリアクリロニトリル製多孔質膜が好ましい。膜表面の細孔径については特に限定されず、精密ろ過膜であっても限外ろ過膜であってもかまわない。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
外圧式PVDF限外ろ過中空糸膜を配設した浸漬型膜モジュールCFU−1015V(東レ(株)製)1本を浸漬槽内に浸漬設置した装置を使用して、図1に示したフローにて以下の条件で水処理実験を行った。この装置において、膜モジュールの上端より下の浸漬槽内の貯水体積(V)は25リットルであり、原水供給口は膜モジュールの下端よりも下に配置されていた。
【0033】
下水処理場で処理した水を原水として供給し、ろ過流速1.5m/(m・d)の定流量ろ過方式にて、給水ろ過工程(a)を10分間行った後、空洗工程(c)を15秒間実施し、再び給水ろ過工程(a)を10分間、空洗工程(c)を15秒間、給水ろ過工程(a)を10分間実施した。給水ろ過工程(a)ではろ過水量よりも3リットル/分多い量の給水を行った。
【0034】
最後の給水ろ過工程(a)の後、液面低下ろ過工程(b)を実施し、膜モジュール上端まで浸漬槽内液面を低下させた。液面低下ろ過工程(b)実施の際、原水の給水は停止し、給水ろ過工程(a)終了時のろ過圧力で定圧ろ過を行った。液面低下ろ過工程(b)の終了後、空洗工程(c)を30秒間実施した。この際、同時に逆洗工程を実施した。空洗工程(c)実施後、排水工程(d)を実施し、浸漬槽内水を全て浸漬槽外に排出した。その後、原水を浸漬槽内に給水し、膜モジュールの上端部まで原水を満たした。その後再び給水ろ過工程(a)に戻るという手順で、一連の運転を繰り返し実施した。
【0035】
運転を開始した初期の膜差圧は25℃温度補正差圧で20kPaであり、1ヶ月間運転を行った後の膜差圧は25℃温度補正差圧で30kPaであり、安定した運転を続けることができた。また、排水工程(d)終了から次の排水工程(d)終了までの間の、膜ろ過運転中の最小差圧と最大差圧の差は、平均5kPaであった。また回収率は95%であった。
【0036】
なお、本実施例では、膜モジュール上端より下の浸漬槽内の貯水体積(V)に対する、空洗工程(c)実施後の給水ろ過工程(a)開始から5分間の原水給水体積から膜ろ過水体積を引いた体積(I)の比(I/V)は0.6であった。
【0037】
(比較例1)
実施例1と同様の原水、装置を用いて、ろ過流速1.5m/(m・d)の定流量ろ過方式にて給水ろ過工程(a)を30分間行った後、空洗工程(c)を60秒間実施した。この際同時に逆洗工程を実施した。空洗工程(c)実施後に、排水工程(d)を実施し、浸漬槽内液を全て浸漬槽外に排出した。その後、原水を浸漬槽内に給水し、膜モジュール上端部まで原水を満たした。その後再び給水ろ過工程(a)に戻りこの一連の運転を繰り返し実施した。給水ろ過工程(a)ではろ過水量と同量の水を給水した。
【0038】
運転を開始した初期の膜差圧は25℃温度補正差圧で20kPaであり、1ヶ月間運転を行った後の膜差圧は25℃温度補正差圧で50kPaであり、実施例1に比べ差圧上昇が速かった。また、排水工程(d)終了から次の排水工程(d)終了までの間の、膜ろ過運転中の最小差圧と最大差圧の差は、平均10kPaであった。また回収率は94%であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明法は、浸漬槽内にろ過膜モジュールを浸漬設置した水処理装置を運転する際に適用される。さらに詳しくは、上水道における飲料用水製造分野、工業用水、工業用超純水、食品、医療といった産業用水製造分野、都市下水の浄化および工業廃水処理といった下廃水処理分野や海水淡水化逆浸透膜前処理などに使用される浸漬型膜モジュールを用いた水処理方法に適用されるが、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明法が適用される浸漬型膜ろ過装置の一例を示す装置概略フロー図である。
【図2】本発明法を実施する工程順序の好ましい一実施態様を示す工程フロー図である。
【符号の説明】
【0041】
1 :浸漬槽
w1:膜モジュール上端より上の浸漬槽内液
w2:膜モジュール上端より下の浸漬槽内液
WL:浸漬槽内液の液面(水位)
P:膜モジュール上端の水平面
2 :膜モジュール
3 :原水配管
4 :膜ろ過水配管
5 :吸引ポンプ
6 :ろ過弁
7 :逆洗水配管
8 :逆洗ポンプ
9 :逆洗弁
10 :ブロワ
11 :空洗エア配管
12 :空洗弁
13 :排水配管
14 :排水弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を貯留した浸漬槽内にろ過膜モジュールが浸漬設置され、ろ過膜モジュール上端よりも下方に原水供給口が設けられている水処理装置によって膜ろ過水を製造する際の、ろ過膜モジュールの運転方法であって、(a)膜ろ過水の取り出し水量と同量以上の原水を給水しながら、ろ過膜モジュールの膜ろ過水側を吸引して膜ろ過水を取り出す給水ろ過工程と(c)膜ろ過を停止し膜モジュールの原水側に空気を供給してろ過膜モジュールを洗浄する空洗工程とを1回もしくは繰り返して行った後、前記(a)給水ろ過工程を行い、次いで、(b)原水供給量を零もしくは膜ろ過水の水量よりも少ない量として膜ろ過することにより浸漬槽内の液面を下げる液面低下ろ過工程と、前記(c)空洗工程と、(d)浸漬槽内の原水を浸漬槽外へ排出する排水工程とをこの順で行うことを特徴とする浸漬型膜モジュールの運転方法。
【請求項2】
請求項1記載の運転方法において、膜モジュール上端より下の浸漬槽内の貯水体積(V)に対する、(c)空洗工程の実施後に(a)給水ろ過工程を開始から5分間における原水供給量と膜ろ過水取り出し量との差(I)の比(I/V)が0.5以上であることを特徴とする浸漬型膜モジュールの運転方法。
【請求項3】
請求項1記載の運転方法において、(a)給水ろ過工程の間に(c)空洗工程を実施する際、膜モジュール上端より下の浸漬槽内の貯水体積(V)に対する、膜モジュール上端より上部の浸漬槽内の原水量(H)の比(H/V)が0.5以上であることを特徴とする浸漬型膜モジュールの運転方法。
【請求項4】
請求項2または3記載の運転方法において、(b)液面低下ろ過工程の実施時の膜ろ過流束が(a)給水ろ過工程の実施時の膜ろ過流束よりも低いことを特徴とする浸漬型膜モジュールの運転方法。
【請求項5】
請求項4記載の運転方法において、(a)給水ろ過工程におけるろ過流量制御手段が定流量ろ過であり、かつ、(b)液面低下ろ過工程におけるろ過流量制御手段が定圧ろ過であることを特徴とする浸漬型膜モジュールの運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−214062(P2009−214062A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62252(P2008−62252)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】