説明

浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法及び印刷物

【課題】従来の黄、紅、藍、墨プロセス4色印刷で表現していたRGBの色再現領域よりもより広い色領域を再現することを可能とする印刷方法。
【解決手段】黄インキ、紅インキ、及び藍インキのうちいずれか2つ又は3つ、ならびに墨インキを使用して、白色度が60〜85%の高白色新聞用紙上に印刷する印刷方法であって、特定の黄、紅、藍のうち2色と墨インキとの組み合わせ、更には、特定の3色と墨インキとの組み合わせで印刷することにより、L*a*b*表色系の色空間を広げることが可能な浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄、紅、藍、墨のプロセス4色とFMスクリーン版との組み合わせからなる浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法であって、4色で高彩度の色再現性に優れたインキシステムを用いた印刷方法に関する。
【0002】
また、白色度の高い新聞用紙(高白新聞紙)上に、上記記載の高彩度な色再現可能である、黄、紅、藍、墨のプロセス4色からなる浸透乾燥型オフセット印刷用インキを用いて、規定濃度で印刷することにより、従来の浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法では成し得なかった高彩度の色再現性に優れた浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法に関する。
【背景技術】
【0003】
90年代より始まったIT革命は、印刷現場を取り巻く環境を著しくデジタル化の方向へと導いてきており、このデジタル化によって、従来の印刷方式のワークフロー(撮影・ポジ・スキャン・データ・デザイン・EPS・面付け・フィルム・刷版・印刷)が多段階式過程であったのに対し、デジタルカメラによる撮影・DTP・CTP・印刷とその過程を飛躍的に短縮することに成功した。それによって、入稿データの「RGB」化が標準化しつつあり、取り扱われるデータがより色再現領域の広いものへとシフトしつつあるのが現状である。
【0004】
しかし、現在主流となっている黄、紅、藍、墨のプロセス4色(CMYK)からなる平版オフセット印刷では、減色混合による色相となるため、必然的に色再現領域がRGBのそれよりも狭いものとなり、デジタルデータと印刷物との間の色再現性の差異が問題となっていった。
【0005】
特に浸透乾燥型インキを用いる更紙用印刷(新聞印刷)においては、用紙の白色度、平滑性の問題があり、コート紙用印刷よりも、更に色再現領域が狭くなり、デジタルデータからの見本印刷物との色再現性の差異が非常に問題となってしまう。
【0006】
また、浸透乾燥型インキを用いる新聞印刷においては、近年、モアカラー化の要望が強まり、新聞紙面のカラーページが増加する傾向にあるため、これに対応すべく印刷品質の向上や、カラー広告の高品質化による紙面の差別化が強く望まれている。
【0007】
これを解決する手段として、特許文献1では高彩度の印刷システムとして5〜7色のインキセットを使用する印刷方法が確立され、それぞれの特定した色相を持つインキセットを用いる印刷方法として、プロセス4色に橙、緑を加えた6色(ヘキサクロム印刷)やプロセス4色に橙、緑、紫を加えた7色(ハイファイ印刷)等が確立されている。また、ヘキサクロムインキに代表されるように、色再現領域を広げる手段として一部の色に蛍光顔料を含有させる等の手法もとられるが、印刷適性の劣化(転移不良、光沢低下等)や耐光性不足による印刷物の褪色等のデメリットもある。更に、使用するインキの色数が6色、7色となり、印刷機の胴数が6胴以上の高価な多色印刷機を必要とする事に加え、それと同数の多色分解した版数が必須条件となり、新たに始めるには巨額な設備投資と、色調管理の複雑化などで本システムを用いるには限られた範囲に止まっている。
【0008】
また、特許文献2では、高彩度の印刷システムとして4色のインキセットを使用する印刷方法が開示はされているが、各色インキの製造方法について記載がなく、特許として甚だ疑義が生じる。
【0009】
新聞印刷においては、特にプロセス4色用の印刷機がほとんどであり、5色機以上の多色機が汎用品として市場に導入されていないこともあり、多色印刷機を用いた5胴以上の多色印刷方法による紙面の高彩度化は更に困難であり、そのため高演色用インキの存在や、印刷用紙を含めた高彩度を得るために印刷方法の確立が重要になってくる。
【0010】
従来、新聞印刷において、インキ盛り量を通常より多くし、紙面濃度を上げることによって高彩度化を図ることが試みられてきた、しかし、インキ盛り量を多くすることによって、紙面の彩度は向上するものの、セット性が遅延し、オフセット汚れ、ガイド汚れの誘発を招く。また、顔料濃度を高濃度化し、インキの盛り量を変化させずに紙面濃度を上げることも試みられてきたが、乳化適性等の印刷適性の劣化を招き、現在もこれらの方法による浸透乾燥型オフセットインキ印刷方法は一般的に普及していない。
【0011】
また、特許文献3では以下のことが開示されている。すなわち、製版に関する技術としてコンタクトスクリーンの時代から現在に至るまで、最も一般的に使用されている網点(ドット)の大小で色の濃淡を表現していた振幅変調スクリーニング(AMスクリーニング)である。AMスクリーンの長所としては、ざらざらとした粒状感のない均一で美しい平網の再現と、自然の仕上がり、また、長年に渡る経験の蓄積から印刷した時の色調予測が容易であることが上げられる。しかしながら、スクリーン角度の影響による干渉モアレ、ロゼッタ模様等の発生が避けられないのが現状である。ロゼッタ模様に関してはスクリーン線数を上げることで解消に向かうが、むやみに線数を変更することは網点のつぶれ等を考慮すると、実印刷に適していない。昨今では、CTPによる製版技術の進歩により、AMスクリーニングに対して更に微細なドットをランダムに配置し、ドットの密度を変化させて色の濃淡を表現する周波数変調スクリーニング(FMスクリーニング)が増加しつつあり、AMスクリーンで問題になっているモアレやロゼッタ模様の発生を抑制するととに、高精細(微細)な表現が可能になってきたが、最終印刷物の色調予測が難しいこと、印刷標準化の為の条件詰めが必要なことなどの問題があった。
【0012】
一方でFMスクリーニングは、インキ膜厚が薄膜化されることによって画像の鮮明性が向上し、色再現領域の向上が期待されているが、従来のプロセス4色とFMスクリーニングとの組み合わせではインキ自体の色再現領域が限られている(ベタ部の色再現性はAMスクリーニングと差異無し)為、その向上にも限界があった。また、最近ではAMスクリーンとFMスクリーンの長所を組み合わせたハイブリットタイプのスクリーニングも増加傾向にある(特許文献4)。
【特許文献1】特開2001−260516号公報
【特許文献2】特表2007−500091号公報
【特許文献3】特開平7−264402号公報
【特許文献4】特開平10−210292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような従来の技術における問題点を解決する為になされたものであり、その課題とするところは、従来多く普及している4色印刷機を用いて、RGBの色再現領域を限りなく表現することができる、黄、紅、藍、墨のプロセス4色からなる浸透乾燥型オフセット印刷用インキ及びその印刷方法を提供するものである。
【0014】
すなわち本発明は、黄インキ、紅インキ、及び藍インキのうちいずれか2つ又は3つ、ならびに墨インキを使用して、白色度が60〜85%の高白色新聞用紙上に印刷する浸透乾燥型オフセット印刷において、周波数変調スクリーン(FMスクリーン)の版を用いて印刷することを特徴とし、且つ黄、紅、藍の各濃度値を、黄が0.90〜1.00、紅が0.90〜1.02、藍が0.90〜1.05の範囲内で各色インキを単独又は重ね合わせにより印刷した時、L*a*b*表色系による色度(JIS Z 8729)が、
黄インキで、L*:82〜92、a*:−10〜0、b*:75〜85
紅インキで、L*:55〜65、a*:56〜67、b*:−24〜−12
藍インキで、L*:55〜65、a*:−35〜−25、b*:−50〜−35
の範囲内にあり、上記インキ2色の重ね刷りの色度が(JIS Z 8729)、
紅インキ×黄インキの刷り重ねで、
L*:52〜62、a*:47〜57、b*:30〜40
藍インキ×黄インキの刷り重ねで、
L*:50〜60、a*:−55〜−40、b*:20〜30
藍インキ×紅インキの刷り重ねで、
L*:37〜47、a*:12〜27、b*:−47〜−37
の範囲内になる高彩度の色再現に優れた浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法であって、上記3色の組み合わせ、及び、上記2色と墨インキとの組み合わせ、更には、上記3色と墨インキとの組み合わせで印刷することにより、従来の印刷方法では成し得なかったL*a*b*表色系の色空間を広げることが可能な浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法である。
【0015】
また、本発明は周波数変調スクリーニングによって得られるドットが1〜50μmである上記浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明が提供する浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法を用いることにより、従来の黄、紅、藍、墨プロセス4色印刷で表現していたRGBの色再現領域よりもより広い色領域を再現することが可能になる。更に、FMスクリーン版との組み合わせにより、従来のAMスクリーン版を使用して印刷した場合よりも広い色再現領域を表現可能である。また、本発明では、印刷物の色再現領域を向上させる手段として蛍光顔料を使用していないため、印刷適性、印刷物の経時での褪色等を劣化させることなく、高彩度の印刷物を得ることができる。
【0017】
その上、ISO規格の新聞用ジャパンカラー標準用紙よりも大幅に白色度の高い、高白色新聞用紙を用いることにより、更紙による可視光領域の吸収、特に波長領域が380〜600nmの紙による吸収を防ぐことができるため、特に黄・緑(藍×黄)・藍・青紫(藍×紅)領域の反射率が向上し、黄・緑・藍・青紫の色再現性を大きく向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0019】
本発明は、顔料と、合成樹脂、植物油、石油系溶剤とを必要に応じてステアリン酸アルミニウム、アルミキレート等のゲル化剤と共に加熱溶解したビヒクル成分と、耐摩擦剤等の補助剤とからなる黄、紅、藍、墨の4色からなるオフセットインキであって、白色度が60〜85%の高白新聞用紙、例えば王子製紙(株)製高白新聞用紙(秤量52g/m、L*:92、a*:0.2、b*:0.8)にFMスクリーン版を用いて印刷し、黄、紅、藍の各色を Gretag Macbeth Spectro Eye(45/0、D50、2度視野:Status T)濃度計にて測定した際の濃度値が、黄が0.90〜1.00、紅が0.90〜1.02、藍が0.90〜1.05の範囲内であるときに単色及び各単色の刷り重ねのL*a*b*表色系による色度(JIS Z 8729)が、
黄インキで、L*:82〜92、a*:−10〜0、b*:75〜85
紅インキで、L*:55〜65、a*:56〜67、b*:−24〜−12
藍インキで、L*:55〜65、a*:−35〜−25、b*:−50〜−35
の範囲内にあり、上記インキ2色の重ね刷りの色度が(JIS Z 8729)、
紅インキ×黄インキの刷り重ねで、
L*:52〜62、a*:47〜57、b*:30〜40
藍インキ×黄インキの刷り重ねで、
L*:50〜60、a*:−55〜−40、b*:20〜30
藍インキ×紅インキの刷り重ねで、
L*:37〜47、a*:12〜27、b*:−47〜−37
の範囲内になることを特徴とする。
【0020】
色再現領域の表現方法としては、XYZ表色系(CIE1931表色系)、X10Y10Z10表色系(CIE1964表色系)、L*a*b*表色系(CIE1976)、ハンターLab表色系、マンセル表色系、L*u*v*表色系(CIE1976)等挙げられる。
【0021】
L*a*b*表色系では、色相に関係なく比較できる明るさの度合いとして「明度」をL*で表現し、L*が大きくなるほど色が明るく、小さくなるほど暗くなることを示している。また、各色によって異なる「色相」をa*、b*の値で示し、a*は赤(+)から緑(−)方向、そしてb*は黄(+)から青(−)方向を示し、各方向とも絶対値が大きくなるに従って色鮮やかになり、0に近づくに従ってくすんだ色になることを示している。これによって一つの色を、L*、a*、b*を用いて数値化することが可能となる。また「明度」「色相」とは別に、鮮やかさの度合いを数値化する方法として「彩度(C)」があり、以下の計算式にて求めることができる。
【0022】
【数1】


Cに関しても同様に、絶対値が大きくなるに従って色鮮やかになり、値が小さくなるにつれてくすんだ色になることを示している。
【0023】
一つの印刷物(印刷物以外のカラースペースも含む)で表現できる全ての色再現領域を演色領域(ガモット)と呼ぶが、ガモットを表す最も簡便な方法として、a*を横軸、b*縦軸とした2次元空間に、単色ベタ部(黄、紅、藍)、及び、単色ベタ刷り重ね部(黄×紅、紅×藍、藍×黄)計6色のa*対b*の値を、プロットした六角形の面積で表現することが可能である。ガモットの面積が広い程、色再現領域が広いことを示している。
【0024】
本発明に用いられる高白色新聞用紙としては、白色度が60〜85%の高白色新聞用紙がよく、より好ましくは63〜85%がよい。60%以下であると、現在一般的に使用されている更紙の白色度は約53%程度であるため、大きな差異を得ることができず、また85%以上であると、白色度を上げるために古い古紙配合率を維持できなくなるため、印刷紙が高コストになり、さらには環境に負荷がかかるため好ましくない。また、本発明に用いられる高白色新聞用紙としては、白色度が60〜85%の範囲内であれば、酸性紙でも中性紙でもよい。
【0025】
一般的に浸透乾燥型インキを用いる更紙(特に新聞印刷用更紙)印刷においては、可視光領域の一部である380〜600nmにかけて、約5〜15%の紙による吸収が潜在的に起こっている。そのため、この波長領域の反射率が低下し紙の黄味色相が強くなってしまうため、ハロゲン化銅フタロシアニン化合物による青味成分の発色効果、特に藍と紅の重ねの紫領域から藍と黄の重ねの緑領域にかけて発色効果が阻害されてしまう。しかし、白色度の高い高白色新聞用紙に印刷することにより、380〜600nmにかけての可視光領域の反射率を5〜15%上昇させることが可能になるため、藍インキ単色の色再現領域を縮小することなく、また、黄及び紅インキと刷り重ねた緑及び紫の色再現領域を従来の更紙を使用したときより広げることが可能になる。白色度の高い用紙に印刷するほど、380〜600nmの可視光領域の反射率向上効果が高くなるため、より白色度の高い高白紙を使用することが好ましい。
【0026】
本発明に用いられる黄顔料としては、ジスアゾイエロー系化合物、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、等であって、濃度値1.10〜1.20の範囲内で印刷した墨インキ上に、黄インキの濃度を0.85〜0.91の範囲で刷り重ねした場合のL*値が31を超えない透明性を有していれば、新聞印刷に使用される平滑度が劣り、白色度の劣る更紙においては、下紙を隠蔽することによって黄インキ本来の発色性が出るため、良好な色再現領域を得ることができる。L*値が31未満であると、下紙の影響を受け黄インキ本来の発色性が得られない。
【0027】
また、補色としてC.I.ピグメントイエロー83を上記黄顔料の0.5〜10%、好ましくは2〜5%加えて使用することも可能である。
【0028】
紅顔料としては、ローダミンB、ローダミン3G、ローダミン6Gなどのローダミン系染料のモリブデン、タングステン金属レーキ化合物、例えばC.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントバイオレット1等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら紅顔料は単独で使用してもよく、また2種類以上の組み合わせて使用することも可能である。これらの紅顔料は、全インキに対し10〜30%、より好ましくは10〜20%含有させるのがよい。
【0029】
藍顔料としては、フタロシアニン系化合物、例えばC.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4等が挙げられる。更には、補色としてC.I.ピグメントグリーン7を上記藍顔料の5〜15%、好ましくは8〜11%加えて使用することも可能である。
【0030】
本発明で使用する藍顔料である銅フタロシアニン系化合物は、結晶多型(同質異晶)を示す物質であり、その結晶構造の違いによってα、β、γ、ε、π、τ、ρ、χ、R型などに分類されるが、結晶安定性、分散性が優れているβ型を使用することが好ましく、更には比表面積が74m2/g以上の微細なβ型銅フタロシアニンであることが好ましい。
【0031】
墨顔料としては、カーボンブラック、例えばC.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0032】
本発明に用いられる合成樹脂としては、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、石油樹脂変性アルキッド樹脂、ロジンエステル等が考えられる。好ましくは、ロジン変性フェノール樹脂を使用する。ロジン変性フェノール樹脂は、特に限定されないが、重量平均分子量1万〜30万のものを使用するのが好ましい。分子量1万以下ではインキの粘弾性が低下し、40万以上ではインキとしての流動性が不十分となる。
【0033】
植物油としては、たとえばパーム核油、ヤシ油、綿実油、落花生油、パーム油、コーン油、オリーブ油、亜麻仁油、コーン油、大豆油、サフラワー油、桐油等の植物油由来のものが例示できるとともに、それらの熱重合油および酸素吹き込み重合油なども使用できる。また、本発明ではこれら植物油を単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0034】
また、インキに用いられる石油系溶剤は、芳香族炭化水素の含有率が1%以下でアニリン点が75〜95℃好ましくは80〜95℃及び、沸点が260℃〜350℃好ましくは280〜350℃の範囲にある石油系溶剤である。アニリン点が75%未満の場合には、樹脂を溶解させる能力が高すぎる為、インキのセット性が遅くなり好ましくなく、また95℃を超える場合には樹脂の溶解性が乏しい為、光沢、着肉等が悪くなり好ましくない。沸点が260℃未満に場合には、印刷機上でのインキ溶剤の蒸発が多くなり、インキの流動性の劣化により、インキがローラー、ブランケット、版等への転移性が悪くなり好ましくない。また、350℃を超える場合には、紙に浸透した溶剤の蒸発が遅くなるため裏抜け性の劣化を招く。
【0035】
更に、本発明のオフセットインキ組成物には、必要に応じてゲル化剤、顔料分散剤、金属ドライヤー、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界面活性剤、多価アルコールなどの添加剤を適宜使用することができる。
【0036】
本発明に使用するFMスクリーニングは、ランダム・スクリーニング又はストカスティック・スクリーニングとも呼ばれることがある。本発明でいうFMスクリーニングとは、ドットとドットの間隔すなわち周期性を変調すること、基本ドットを打つ頻度(ドットの密度)により色の濃淡を表現する方法を指す。具体的にはクリスタル・ラスター・スクリーニング法、ダイヤモンド・スクリーン法、クラス・スクリーニング法、フルトーン・スクリーニング法、ベルベット・スクリーニング法、アキュトーン・スクリーニング法、メガドット・スクリーニング法、クリア・スクリーニング法、モネット・スクリーニング法等が知られている。こうれらの方法はいずれもドット発生のアルゴリズムは異なっているが、ドットの密度の変化により濃淡を表現する方法であり、FMスクリーニング法の方法である。
【0037】
また、AMスクリーニング法は、規則的に配置された網点の大小(網点面積)で諧調を表現する方法であり、網点の形状によってスクエア・ドット・スクリーン、チェーン・ドット・スクリーン等がAMスクリーニング法の種々の方法として用いられる。AMスクリーニング法においては、解像度を表現する方法としてスクリーン線数(1インチ当たりに並んでいる網点の数)が用いられ、65線程度から1500線程度の高精細線印刷の任意の解像度においてAMスクリーニング法を用いることが出来る。AMスクリーニングによる網点はその配置に規則性があるため複数の網点を重ね合わせたときにモアレが発生しやすく、通常の4色印刷物では、カラー原稿を色分解後、4色(C、M、Y、K)に分版する際に、各色ごとの網目スクリーンの角度をずらすことでモアレの発生を防止していた。一般的には網目スクリーンの角度を0〜90度の角度の中で振り分けるものもあるが、モアレを認識しにくくすることは出来ても、規則性網点を使用する限りモアレを完全には防止することは出来ない。
【0038】
FMスクリーニング法で用いる一定の大きさのドットとしては、1〜50μmのドットが好ましい。1μm以下では印刷手法にもよるが安定的なドット径の再現が難しく表現する濃度階調が不安定となり、50μmを超えると解像度の実用性能が見劣りする。一般的には、印刷適正を考慮すると、10〜20μmが好ましい。
【0039】
FMスクリーニング法も面積階調の一種であり、この点では従来の網点と同じであるが、規則性がないのが最大の特徴であり、規則性に起因するモアレ、更にはロゼッタ模様の発生も解消できる等の利点がある。
【0040】
一方、FMスクリーニングはドットがランダムに配置されている為、平網特に中間部の平網においてガサツキが発生するのも事実である。これは、隣接するドット同士が「接触する箇所」と「接触しない箇所」とが同時に存在し、それがざらつきとして認識されるためである。
【0041】
上記問題を解決する手段としては、昨今ではAMスクリーニングの持つ扱いやすさと、FMスクリーニングの持つ品質の高さの両方を兼ね備えたハイブリッドスクリーニングの開発も進んでいる。ハイブリッドスクリーニングとは、画像の濃淡に応じて網を使い分け、絵柄のあらゆる部分において最適な表現を行うことであり、ハイライト領域(1〜10%)とシャドウ領域(90〜99%)ではFMスクリーニングの様に一定の網点密度を変化させ、10〜90%の中間領域では、AMスクリーニングの様に網点の大きさを変化させて階調を表現する方法である。近年、CTPの導入により、このような新しいスクリーニングを使用した高付加価値印刷も多くなっている。
【0042】
本発明では、一般的なオフセット印刷に使用されているジャパンカラー準拠のインキより色再現領域の広いインキを用いることで、インキ自身の色再現領域を広げると共に、更にFMスクリーン版とを組み合わせて印刷することにより、色再現領域の拡大に効果を発揮する。これは、AMスクリーンと比べてライト〜中間部のインキ膜厚が薄膜化されることで、インキの透明性が高くなり、画像の鮮やかさが増し、良好な色再現性を誇る。
【実施例】
【0043】
次に具体例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら記載実施例に限定されるものではない。なお、以下の記述の部は重量部、%は重量%を表す。
(オフセット用ロジン変性フェノール樹脂ゲルワニスAの製造)
コンデンサー、温度計、及び攪拌機を装着した四つ口フラスコにロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業(株)製:重量平均分子量15万、酸価20、軟化点160℃)38.5部、大豆油30部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製)30部を仕込み、180℃に昇温して、同温で30分間攪拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1.0部(川研ファインケミカル(株)製ALCH)を仕込み、180℃で30分間攪拌してオフセット用ロジン変性フェノール樹脂ゲルワニスA(以下ゲルワニスAと称す)を得た。
【0044】
〔インキ実施例〕(黄インキ)
表1のような配合にてC.I.ピグメントイエロー12(東洋インキ製造(株)製LIONOL YELLOW 1245−P)をニーダー中で温度75℃の条件下、ゲルワニスAを徐々に添加して混練して一次脱水を行った。次にニーダー温度100℃〜120℃、減圧度76mmHgの条件下で1時間バキュームし、ベースインキ中の水分を0.5%以下になるように二次脱水を行った。脱水後、残りのゲルワニスA、AFソルベント5号、大豆油を添加して混練して希釈し、ニーダーより未分散ベースインキを取り出した。取り出したベースインキをロール温度60℃の3本ロールを用いて、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で7.5ミクロン以下になるまで練肉し、黄のベースインキ1を得た。次いで、ベースインキ1に対して、表2の配合でゲルワニスA、大豆油、コンパウンド、AFソルベント5号を添加し黄インキ1を得た。
【0045】
〔インキ実施例〕(紅インキ)
黄インキと同様に、表1の配合にてC.I.ピグメントレッド81(不二化成(株)製ファナルローズRNN−P)を用い、紅のベースインキ2を得た。次いで、ベースインキ2に対して、表2の配合でゲルワニスA、大豆油、コンパウンド、AFソルベント5号を添加し紅インキ2を得た。
【0046】
〔インキ実施例〕(藍インキ)
表2の配合にて、C.I.ピグメントブルー15:3(東洋インキ製造(株)製LIONOL BLUE FG 7330)をワニスと混合し、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で7.5ミクロン以下になるまで練肉後、更に大豆油、コンパウンド、AFソルベント5号を添加し藍インキ3を得た
黄インキの透明性評価については、下記の試験法で評価した。
【0047】
濃度値1.10〜1.20の範囲内で新聞印刷用更紙面に印刷した墨インキ上に、黄インキの濃度を0.80〜1.10の範囲で刷り重ねし、L*値を測定した。結果を表4に示す。
【0048】
実施例の黄インキは、濃度値1.10まで上げてもL*が31を超えず、下刷りの墨インキに影響を与え難く、透明性に優れているといえる(L*は値が小さいほど黒く、大きくなるほど白くなることを示している)。
【0049】
一方、比較例はL*が高く、上刷りの黄インキが不透明であるために下刷りの墨インキの黒さを阻害してしまっていることがわかる。
【0050】
〔印刷評価試験〕
上記実施例及び比較例のインキについて、下記印刷条件の下、黄、紅、藍の各ベタ濃度値を、黄:0.90〜1.00、紅:0.90〜1.02、藍:0.90〜1.05の範囲内で印刷し、印刷物の評価を実施した。尚、墨インキは、一般的なオフセット用新聞印刷インキを使用し、濃度値1.12〜1.20の範囲内で印刷した。
【0051】
〔印刷条件〕
FMスクリーンはコダック株式会社製のStaccato、AMスクリーンは100線を使用した。また、印刷用紙は王子製紙株式会社製高白新聞用紙(中質紙:秤量52g/m、測色値:L*:92、a*:0.2、b*:0.8)、日本製紙株式会社製新聞用更紙(超軽量紙:秤量43g/m、測色値:L*:82、a*:−0.4、b*:4.6)を使用して、表3の組み合わせにて印刷テストを実施した。
【0052】
以下に、印刷に関する詳細な条件を示す。
印刷機 :LITHOPIA BT2−800 NEO(三菱重工(株))
:刷り順:墨→藍→紅→黄
湿し水 :NEWSKING ALKY(東洋インキ製造(株))0.5%水道水溶 液
印刷速度:10万部/時
比較例として用いるインキは一般的な浸透乾燥型オフセット印刷インキを使用した。
【0053】
〔印刷物測定条件〕
濃度 :Gretag Macbeth Spectro Eye(45/0、D50、2度視野:Status T)にて印刷 物の単色(黄、紅、藍、墨)ベタ部の濃度値を測定。
測色 :Gretag Macbeth Spectro Eye(45/0、D50、2度視野:Status T)にて印刷 物の単色ベタ部(黄、紅、藍)、及び、単色ベタ刷り重ね部(黄×紅、紅 ×藍、藍×黄)のL*、a*、b*値を測定。
C値はa*及びb*から下記の計算式にて求めた。

【0054】
【数2】

結果を表4、5に示す。比較例と比べて実施例のC値が大きく、印刷物の彩度が高い。また、a*を横軸、b*縦軸とした2次元空間に、各a*、b*値をプロットし、2次元のガモットで比較した結果、実施例の色再現領域が広いことがわかる。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄インキ、紅インキ、及び藍インキのうちいずれか2つ又は3つ、ならびに墨インキを使用して、白色度が60〜85%の高白色新聞用紙上に印刷する浸透乾燥型オフセット印刷において、周波数変調スクリーン(FMスクリーン)の版を用いて印刷することを特徴とし、且つ黄インキ、紅インキ、藍インキの各濃度値を、黄インキが0.90〜1.00、紅インキが0.90〜1.02、藍インキが0.90〜1.05の範囲内で各色インキを単独又は重ね合わせにより印刷した時、L*a*b*表色系による色度(JIS Z 8729)が、
黄インキで、L*:82〜92、a*:−10〜0、b*:75〜85
紅インキで、L*:55〜65、a*:56〜67、b*:−24〜−12
藍インキで、L*:55〜65、a*:−35〜−25、b*:−50〜−35
の範囲内にあり、上記インキ2色の重ね刷りの色度が(JIS Z 8729)、
紅インキ×黄インキの刷り重ねで、
L*:52〜62、a*:47〜57、b*:30〜40
藍インキ×黄インキの刷り重ねで、
L*:50〜60、a*:−55〜−40、b*:20〜30
藍インキ×紅インキの刷り重ねで、
L*:37〜47、a*:12〜27、b*:−47〜−37
の範囲内になる高彩度の色再現に優れた浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法であって、上記3色の組み合わせ、及び、上記2色と墨インキとの組み合わせ、更には、上記3色と墨インキとの組み合わせで印刷することにより、L*a*b*表色系の色空間を広げることが可能な浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法。
【請求項2】
周波数変調スクリーニング法によって得られるドットが1〜50μmであることを特徴とする請求項1記載の浸透乾燥型オフセット印刷用インキの印刷方法。
【請求項3】
請求項1記載の高白色新聞用紙、印刷濃度、周波数変調スクリーン(FMスクリーン)の版で印刷してなる印刷物。


【公開番号】特開2009−12293(P2009−12293A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176697(P2007−176697)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】