説明

消化ガス精製装置

【課題】消化ガス中の有機シリカ化合物の成分が多く含まれても、ほぼ100%除去することができ、長期にわたって高い効率を保つことができる消化ガス精製装置を提供すること。
【解決手段】シロキサン類を含む消化ガスを導入する導入部40と、該消化ガス中の前記シロキサン類を吸着除去処理する活性炭吸着剤を充填した充填層41、42と、処理後のガスを排出する排出部43とを有する活性炭吸着塔4を少なくとも備えた消化ガス精製装置において、前記活性炭吸着剤が、比表面積が800m/g以上を有し、細孔分布ピークが15〜30Åであり、そのピークにおける細孔容積が0.25ml/ml以上で、且つ、PHが9.0以上である活性炭吸着剤Iと、比表面積が800m/g以上を有し、細孔分布ピークが5〜15Åの範囲にあり、そのピークにおける細孔容積が0.20ml/ml以上で、且つ、PHが9.0以上である活性炭吸着剤IIを含む少なくとも2種の組み合わせからなることを特徴とする消化ガス精製装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は消化ガス精製装置に関し、詳しくは、例えばメタン醗酵バイオガスなどの消化ガス中の有機シリカ化合物の成分が多く含まれても、ほぼ100%除去することができ、長期にわたって高い効率を保つことができる消化ガス精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥を嫌気性消化させて発生したバイオガス(消化ガス)中には、シリコーンの構成物質であるシロキサン類がガス状で存在することが知られている。
【0003】
従って、かかる消化ガスをガスエンジンに使用する場合には、消化ガスにシロキサン類が同伴することから、ガスの燃焼により酸化ケイ素が生成し、エンジンのシリンダーなどにシリカ結晶物として付着、または潤滑油中に混入して、シリンダーの磨耗を早めるなどエンジンの耐久性に支障をきたし、補修費用の増加を招く問題がある。
【0004】
またガスエンジンには、一般にNOx対策として、三元触媒、卑金属系触媒などによる脱硝設備が設けられているが、シロキサン類はこの触媒に作用し、急速な触媒の劣化を招く問題があり、例えば触媒表面でシロキサン類の分解によりシリカが触媒活性表面を覆い、触媒の効果を低下させる問題がある。
【0005】
これらの問題を解決する手段として、活性炭による吸着が効果があることが知られている(特許文献1、2)。
【0006】
特許文献1、2に記載の技術は、シロキサン化合物を含有する下水汚泥消化ガスから前記シロキサン化合物を吸着除去するための精製剤で、比表面積が500m2/g以上、10Å〜20Åの範囲の細孔径を有する細孔の積算容量が0.1cm3/g以上となるように賦活処理が施された炭素質からなるものである。また消化ガス中に含有されるシロキサン化合物については、メトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、およびドデカメチルペンタシロキサンのような鎖状化合物と、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3体)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4体)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5体)、およびドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6体)のような環状化合物を挙げている。
【特許文献1】米国特許5,899,187号
【特許文献2】特開平2002−58996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載のような単一の活性炭では、シロキサン類の吸着は、それぞれのシロキサンに対し吸着容量が異なるという問題があり、また、例えばD4体、D5体の両成分の存在するガスでは、吸着したD4体が、D5体の吸着によって追い出されることから、D4体成分が早期に排出されてしまい、装置全体では活性炭が破過する時間が短くなるという問題があった。
【0008】
また、消化ガス(バイオガス)中のシロキサン吸着は、ガス中の水分の影響を受けやすいという特徴があり、消化ガスはガス中に水分を多く含み、相対湿度が高く、活性炭の吸着能力低下を招く問題があり、さらに悪い条件では、同伴した水滴が活性炭に付着し、吸着能力を低下させる問題がある。
【0009】
また、ガスの流入時などにおいて、活性炭粉末がガスに同伴し、後続のエンジンなどに悪影響を及ぼす恐れもある。
【0010】
そこで、本発明は、消化ガス中の有機シリカ化合物の成分が多く含まれても、ほぼ100%除去することができ、長期にわたって高い効率を保つことができる消化ガス精製装置を提供することを課題とする。
【0011】
また本発明は、ガス中の水分の影響による活性炭の吸着能力低下を防止できる消化ガス精製装置を提供することを課題とする。
【0012】
更に本発明は、ガス流入時に、活性炭粉末がガスに同伴し、後続のエンジンなどに悪影響を及ぼすことがない消化ガス精製装置を提供することを課題とする。
【0013】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0015】
(請求項1)
有機シリカ化合物を含む消化ガスを導入する導入部と、該消化ガス中の前記有機シリカ化合物を吸着除去処理する活性炭吸着剤を充填した充填層と、処理後のガスを排出する排出部とを有する活性炭吸着塔を少なくとも備えた消化ガス精製装置において、
前記活性炭吸着剤が、比表面積が800m/g以上を有し、細孔分布ピークが15〜30Åであり、そのピークにおける細孔容積が0.25ml/ml以上で、且つ、PHが9.0以上である活性炭吸着剤Iと、比表面積が800m/g以上を有し、細孔分布ピークが5〜15Åの範囲にあり、そのピークにおける細孔容積が0.20ml/ml以上で、且つ、PHが9.0以上である活性炭吸着剤IIを含む少なくとも2種の組み合わせからなることを特徴とする消化ガス精製装置。
【0016】
(請求項2)
消化ガスが、下水汚泥、都市ごみ、し尿汚泥又は生ごみを嫌気性醗酵させて発生したものであることを特徴とする請求項1記載の消化ガス精製装置。
【0017】
(請求項3)
消化ガスの導入部又は導入部に至る部位に、水分除去設備を設けることを特徴とする請求項1又は2記載の消化ガス精製装置。
【発明の効果】
【0018】
請求項1、2記載の発明によると、消化ガス中の有機シリカ化合物の成分が多く含まれても、ほぼ100%除去することができ、長期にわたって高い効率を保つことができる消化ガス精製装置を提供することができる。
【0019】
また、請求項3記載の発明によると、ガス中の水分の影響による活性炭の吸着能力低下を防止できる消化ガス精製装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
消化ガスは、下水汚泥、都市ごみ、し尿汚泥又は生ごみを消化槽において嫌気消化させることにより発生し、バイオガスとも称される。下水汚泥、都市ごみ、し尿汚泥又は生ごみ以外に家畜糞尿などを嫌気消化させて発生する消化ガスでもよい。さらに、下水汚泥、都市ごみ、し尿汚泥及び生ごみを2種以上組み合わせたものを嫌気消化させて発生する消化ガスでもよい。以下、下水汚泥を代表例として説明する。
【0022】
下水汚泥から発生する消化ガス中にはシロキサン類(有機シリカ化合物)を含有しており、かかるシロキサン類としては、シロキサン結合(Si−O−Si)を有する鎖状または環状構造の化合物があり、鎖状化合物としては、例えば、メトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、およびドデカメチルペンタシロキサンなどが挙げられ、環状化合物としては、例えばヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3体)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4体)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5体)、およびドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6体)などが挙げられる。
【0023】
次に、本発明に係る消化ガス精製装置の一例を図1に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る消化ガス精製装置の一例を示すフロー図である。同図に示す装置例は下水処理場の消化ガス精製装置である。
【0025】
消化槽1から発生した有機シリカ化合物を含む消化ガス(バイオガス)は、配管10を通過し、脱硫剤を充填した脱硫装置2で硫化水素などを除去後、除湿装置3により湿度除去を行う。
【0026】
除湿装置3は、消化ガス(バイオガス)には、多量の水分を含み、シロキサンの吸着に悪影響を及ぼすことから、流入前に流入ガスの湿度低下対策が望ましいからである。
【0027】
除湿装置3としては、低温化による湿度低下を目的とした冷凍式除湿器又は冷水による間接冷却を用いることもでき、またシリカゲル等の吸湿剤を充填した充填搭も効果的である。
【0028】
本発明においては、除湿装置3を設けることなく、配管を冷却してガス中の水分を凝縮させて除湿するようにしてもよい。即ち、活性炭吸着塔4に至る過程で底部に位置する部位の配管30を冷却してガスを冷却し、ガス中の水分を凝縮し、底部の配管30に凝縮水が所定量溜まったら、ガストラップで凝縮水を外部に排出する構成を採用することができる。かかる構成により配管中の凝縮水が、活性炭層に流入しないように自動的に排出することができる。
【0029】
逆に、必要に応じ、ヒーターやエンジン廃熱などを利用して、活性炭層に流入する消化ガスを加温して相対湿度を下げる工夫も有効である。
【0030】
除湿して湿度を低下させた後のガスは、活性炭吸着塔4の上部に位置するガス導入部40から該活性炭吸着塔4に導入される。
【0031】
活性炭吸着塔4には、活性炭吸着剤Iを充填した充填層41と、活性炭吸着剤IIを充填
した充填層42を備えている。充填層42の下部は図示しないパンチングメタルなどによ
って支持されている。43はガスの排出部である。
【0032】
活性炭吸着剤Iは、比表面積が800m/g以上を有し、細孔分布ピークが15〜3
0Åであり、そのピークにおける細孔容積が0.25ml/ml以上で、且つ、PHが9.0以上であるという特性を有するもので、シロキサンの主構成体であるD5に対し大きな吸着能を持つ活性炭である。
【0033】
また活性炭吸着剤IIは、比表面積が800m/g以上を有し、細孔分布ピークが5〜15Åの範囲にあり、そのピークにおける細孔容積が0.20ml/ml以上で、且つ、PHが9.0以上であるという特性を有するもので、シロキサンの構成体であるD3、D4に対し、吸着力の強い活性炭である。
【0034】
導入されたガスは充填層41の活性炭吸着剤Iと充填層42の活性炭吸着剤IIを通過・
接触する。
【0035】
本発明では、かかる2種の活性炭吸着剤を組み合わせて使用することにより、シロキサン類(有機シリカ化合物)の複数成分がほぼ100%吸着除去し、ガスエンジン等の使用に問題のない性状のガスに精製する。
【0036】
本発明で2種の活性炭吸着剤を組み合わせて使用しているのは、以下の理由による。即ち、シロキサン類はガス状であり、分子の大きさが消化ガス中に含まれる他の不純物質に較べ大きく、それに見合う活性炭の採用が必要であるが、1種類の活性炭では複数の吸着形態をもつシロキサンに対して有効でないことがわかった。
【0037】
更に詳述すれば、シロキサンの活性炭による吸着は、シロキサンの種類によって吸着能力が異なるため、効率よく除去するには、単一の活性炭では、十分吸着除去しないで活性炭層を通過するシロキサンが存在する。このため複数種の活性炭の組み合わせを検討したが、複数種の細孔分布を持つ活性炭タイプの組み合わせでも、必ずしも持続的な除去能力を維持することは容易でないことがわかった。
【0038】
後述の実施例で詳述してあるが、本発明者は、D4体、D5体の両成分の存在するガスでは、D5体は吸着除去効果が高いが、D4体に着目すると、一旦吸着したD4体が、D5体の存在によって追い出されることを見出した。
【0039】
更に実験を継続し、本発明者は、本発明特有の2種の活性炭吸着剤を組み合わせて使用することにより、D5体の吸着能力が高いことは勿論、D4体についても、入口濃度より出口濃度が高くなるまでの時間が長いことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。即ち、本発明では、本発明特有の2種の活性炭吸着剤を組み合わせて使用することにより、吸着能力が大きく、且つ長期的に除去能力を有する吸着装置を提供できる。
【0040】
上記の説明では、ガス流れを下向流としているが、上向流であってもよい。なお、下向流にすると、以下の効果がある。すなわち運転開始時には、ガスの急激な流入にしたがって、吸着剤の微粉末が精製バイオガスに同伴し、流出することが起るため、後続のエンジンなどの運転に支障をきたす。ガス流れを下向流とし、ガス流入時に微細な活性炭の流動化を防ぎ、粉塵の発生を防止できる。
【0041】
更に、必要に応じて排出管44に図示しないフィルターを設置することで、飛散防止をより確実なものにすることができる。
【0042】
図1に示す態様は、吸着搭4は1基のみでもよいが、2基以上設けることもできる。2基を設けた場合には、1基のみの運転中に他の1基の活性炭を交換することができ、また1基を配置する場合は、エンジンの点検停止時に合わせて、活性炭の交換をすることによ
り対応可能である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明の効果を例証する。
【0044】
実施例1
図2に示すテスト装置を用いて、シロキサン除去テストを行った。
【0045】
図2に示すように、シロキサン吸着塔は2基備えており、50は比較用吸着塔であり、51は実施例用吸着塔である。52は消化ガスブロワであり、シロキサン含有消化ガスをテスト装置に導入する。比較用吸着塔50及び実施例用吸着塔51には、2種類の活性炭が充填されている。ガス導入方式は下向流方式とした。各吸着塔には、サンプリングノズルSが設けられている。
【0046】
比較用吸着塔50と実施例用吸着塔51のテスト条件は、以下の表1に示す通りである。
【0047】
【表1】

【0048】
活性炭物性は、表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
使用した活性炭の細孔分布は図3に示す。
【0051】
図3に示すように、活性炭Aは15〜30Åに細孔分布ピークがあり、活性炭Cは5〜15Åに細孔分布ピークがあり、活性炭Bは10〜20Åに細孔分布ピークがある。
【0052】
テスト結果
比較用吸着塔50及び実施例用吸着塔51の入口シロキサン(D4)濃度と、比較用吸着塔50及び実施例用吸着塔51の出口シロキサン(D4)濃度を測定し、その結果を表3及び図4に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3および図4から明らかなように、比較用吸着塔50では、447時間経過時点で出口シロキサン(D4)濃度が0になり、実施例用吸着塔51では575時間経過時点で出口シロキサン(D4)濃度が0になった。なお、シロキサン(D5)濃度は両方とも100%近く除去されていることが確認されている。
【0055】
従って、活性炭A+Bを用いた比較用吸着塔50より、活性炭A+Cを用いた実施例用吸着塔51の方が、破過時間が格段に長いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る消化ガス精製装置の一例を示すフロー図
【図2】テスト装置を示すフロー図
【図3】使用した活性炭の細孔容積と細孔分布ピークの関係を示す図
【図4】テスト結果を示す図
【符号の説明】
【0057】
1:消化槽
2:脱硫装置
3:除湿装置
4:活性炭吸着塔
10:配管
30:配管
40:ガス導入部
41:充填層
42:充填層
43:ガス排出部
44:排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン類を含む消化ガスを導入する導入部と、該消化ガス中の前記シロキサン類を吸着除去処理する活性炭吸着剤を充填した充填層と、処理後のガスを排出する排出部とを有する活性炭吸着塔を少なくとも備えた消化ガス精製装置において、
前記活性炭吸着剤が、比表面積が800m/g以上を有し、細孔分布ピークが15〜30Åであり、そのピークにおける細孔容積が0.25ml/ml以上で、且つ、PHが9.0以上である活性炭吸着剤Iと、比表面積が800m/g以上を有し、細孔分布ピークが5〜15Åの範囲にあり、そのピークにおける細孔容積が0.20ml/ml以上で、且つ、PHが9.0以上である活性炭吸着剤IIを含む少なくとも2種の組み合わせからなることを特徴とする消化ガス精製装置。
【請求項2】
消化ガスが、下水汚泥、都市ごみ、し尿汚泥又は生ごみを嫌気性醗酵させて発生したものであることを特徴とする請求項1記載の消化ガス精製装置。
【請求項3】
消化ガスの導入部又は導入部に至る部位に、水分除去設備を設けることを特徴とする請求項1又は2記載の消化ガス精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−199954(P2006−199954A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369911(P2005−369911)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(592141927)三造環境エンジニアリング株式会社 (15)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】