説明

消化酵素から保護される少なくとも1種のタンパク質活性成分を含む医薬組成物

本発明は、消化酵素から保護される少なくとも1種のタンパク質活性成分を含む医薬組成物に関する。前記医薬組成物は、遊離形態の前記少なくとも1種のタンパク質活性成分と、該組成物が液体の場合、4より大きく、8以下のpHで該組成物を緩衝化できる系、又は該組成物が固体の場合、該組成物を液体媒体に入れたとき、4より大きいpHから8以下のpHで緩衝作用を発揮できる系をも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主目的は組成物、より詳細には、消化酵素から保護される少なくとも1種のタンパク質活性成分を含む、薬物として使うための組成物又は医薬組成物である。前記組成物では、前記少なくとも1種の活性成分が、胃環境及び腸環境内における代謝に抵抗するように調合されている。前記組成物は、前記少なくとも1種のタンパク質活性成分(消化酵素に感受性)の経口経路(胃腸管経由)による投与用の組成物である。
【背景技術】
【0002】
現在まで、このように消化酵素、特にインスリン及びその類似体に感受性(より正確には、胃内ではペプシン及び腸内では主にトリプシン等のプロテアーゼに感受性)のタンパク質活性成分は、代替送達径路(特に患者にとってより快適な当該径路)を検討するために多数の研究が企てられたにもかかわらず、依然として基本的に非経口経路で投与されている。
2006年に、Timely Top. Med. Cardiovasc. Dis. 2006 Nov. 1; Vol 10: E29で発表されたSimona Cernea及びItamar Razによる論文は、注射によるインスリン投与の代替法を要約した。この主題に関するいくつかの特許文献、例えば、WO85/05029、US5,824,638及びWO2006/127361も存在する。
最先端の研究は、おそらく鼻腔径路による投与に関するものである。この投与経路は、非経口経路より技術的制約が実に少ないであろう。血管の多い鼻粘膜は、タンパク質を吸収してそれらを血管系に送る能力を有し、そのことが鼻腔径路を潜在的に良い候補にしている。しかしながら、患者次第である吸入器によって送達される投与量を制御する上で避けられない困難に悩まされる(特に患者が風邪をひいている場合など)。
【0003】
従来技術によれば、多数の変異体によって化学修飾されたタンパク質活性成分及び多数の変異体により調合された当該タンパク質活性成分がさらに一般的に開示されている。その例として、
−特許US4,692,433は、ポリペプチドホルモンの経口経路による投与を開示する。前記ホルモンは、リポソームに被包された緩衝水溶液で有利に投与される。それらは遊離形態では投与されない。
−文献WO97/33531、WO02/072075及びUS2003/0017203は、経口経路によるペプチドの投与用の胃耐性形態を開示する。これらの形態は胃耐性コーティングとpH低減剤を併せ持つ。前記コーティングは、その胃内通過中に活性成分を保護する。腸内に入ると、前記コーティングが溶解し、活性成分とpH低減剤を両方とも放出する。前記pH低減剤の作用のため、腸のpHが局所的に下がり、実際には存在する腸内プロテアーゼのタンパク質分解活性を低減する。このように胃内及び腸の入口における保護が、2つの異なる手段により、その作用がうまく進展することによって保証される。問題のペプチドは、遊離形態でも緩衝液の存在下でも介在しない。ちなみに、出願WO97/33531の23ページの表1がカルシトニンの緩衝液のバイオアベイラビリティーについての結果を提示していることに留意すべきである。この試験は、局所(ラットの腸内に直接)投与された溶液のpHの、活性成分の吸収に及ぼす影響を研究するために行われた。これらの試験は、提案された胃耐性形態において介在するpH低減剤の性質を最適化するために行われた。これらの試験は、以下に開示する本発明の経口組成物(医薬組成物又は薬物)について記載も示唆もしていない。
−出願US2002/0132757は、固体粒子の形態のカルシトニンの、上皮膜、経口又は鼻粘膜を介した投与に関する。胃腸管に関与しないこの特有タイプの投与では、活性成分を以下のように処理する。まず、活性成分を緩衝液(単なる加工助剤)に溶解する。溶液を得、1種以上の界面活性剤及び1種以上の吸収促進剤で補充し、凍結乾燥する。得られた乾燥粒子を最後に適切な溶媒又はビヒクル(例えばエタノール)と共に加圧容器に詰める。この溶媒又はビヒクルの機能は、圧力下で粘膜のできるだけ大きい領域にわたって前記粒子を分散させることである。前記粒子は緩衝液の存在下では投与されない。
−出願US2007/0154559は、経口経路による投与のために活性成分を調合する複雑な方法を開示する。胃腸吸収の改善が検討される。問題の吸収は、前記活性成分を含むナノ粒子の吸収である。開示方法によれば、活性成分をまずを緩衝液(単なる加工助剤)に溶解してから対イオンと複合体を形成させる。得られた複合体をポリマー及び脂質の存在下で有機溶媒中の溶液に入れる。次に、得られた有機溶液と乳化剤を含む水溶液とを利用してエマルションを生成する。最後に前記有機溶媒の蒸発によってナノ粒子を形成する。従って、活性成分は遊離形態でも緩衝液の存在下でも投与されない。
−出願WO2007/032018は、上記米国出願と同じタイプの、経口経路による投与のため、活性成分を調合する複雑な方法を開示する。活性成分はナノ粒子形態でも送達される。前記ナノ粒子(脂肪酸及びポリマーベース)はpHに感受性である。それらは酸性pHで縮む。従って、活性成分は胃内の通過中により良く保護される。この場合もやはり、活性成分は遊離形態でも緩衝液の存在下でも投与されない。
−出願FR2,123,524は、アシル化によって得られたインスリン誘導体を開示する。問題の化学反応を緩衝媒体中で実行する。出願WO01/36656は、生体分子とヒアルロン酸の間の複合体を開示する。従来技術のこれらの2つの文献は、遊離形態の活性成分と保護緩衝系とを兼ね備える医薬組成物を開示も示唆もしていない。
【0004】
上記所見は、経口組成物、遊離形態のタンパク質活性成分及び緩衝液の概念について教示する従来技術を、前記概念が後述する本発明の根拠を構成する限りにおいて要約する。
タンパク質活性成分を経口経路で投与することの技術的課題(消化酵素に感受性なので)は、もたらされる保護系が胃と腸の入口との両方で演繹的に有効でなければならない限り二元的である。保護系は、演繹的にまず胃液、次に膵液に耐えなければならない。実際には、胃の出口で、幽門部において、十二指腸を酸性糜粥が流れるとき、腸管からセクレチンが放出され、膵臓を刺激してビカルボナート(前記糜粥の酸性度を下げるため)と、酵素(エンテロキナーゼによってトリプシン及びキモトリプシンに変換されて活性化されるトリプシノーゲン及びキモトリプシノーゲン)に富む膵液の分泌を刺激するコレシストキニン(パンクレオザイミン)とを両方分泌する。炭化水素化(hydrocarbonated)セクレチンによって十二指腸内で酸性度が中和されると、次に膵臓分泌のフィードバック及び抑制が起こる。この正常な消化メカニズムは当業者に周知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タンパク質活性成分を経口経路で投与することの前記技術的課題に直面しているので、発明者らは、二元保護系に基づくのではなく、膵臓分泌をも抑制する胃内における保護系に基づく完全に新規な解決策を提案する(腸の入り口における活性成分の分解の問題を排除する)。発明者らは、本発明の組成物を用いて得られた良い結果に関するこの帰納的説明を提案する。提案する新規な保護系は緩衝系である。完全に驚くべき方法で、前記新規保護系、緩衝系は、経口経路(胃腸管経由)にて、遊離形態のタンパク質活性成分の投与を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の目的により、本発明は、上で述べたように、少なくとも1種のタンパク質活性成分の経口経路による投与を意図した(に適した)、新規な、薬物として使うための組成物又は医薬組成物であって、前記組成物が緩衝化されている組成物に関する。
さらに正確には、本発明の組成物は、液体又は固体形態で提供される。前記組成物は、少なくとも1種のタンパク質活性成分を含む経口組成物である。前記組成物は、前記活性成分の経口経路による投与に適している。
特徴的に、前記組成物は、
−該組成物を4より大きく、8以下のpHに緩衝化できる系(緩衝系)を含む液体;
−該組成物を液体媒体、一般的に水溶液に入れたとき、4より大きいpHから8以下のpHで緩衝作用を発揮する系(緩衝系)を含む固体
である。
【0007】
本発明の第1の目的によれば、本発明は、上で述べたように、
−液体形態又は固体形態の組成物であって、遊離形態の少なくとも1種のタンパク質活性成分と、液体では、4より大きく、8以下のpHに該組成物を緩衝化できる系(緩衝系)、又は固体では、該組成物を液体媒体に入れたとき、4より大きいpHから8以下のpHで緩衝作用を発揮する系(緩衝系)とを含み、前記少なくとも1種のタンパク質活性成分の経口経路(胃腸管経由)による投与用の薬物として使うための組成物;
−少なくとも1種のタンパク質活性成分を含む、経口経路(胃腸管経由)による投与のための、液体形態又は固体形態の医薬組成物であって、遊離形態の前記少なくとも1種のタンパク質活性成分と、液体では、4より大きく、8以下のpHに該組成物を緩衝化できる系(緩衝系)、又は固体では、該組成物を液体媒体に入れたとき、4より大きいpHから8以下のpHで緩衝作用を発揮する系(緩衝系)とを含む、医薬組成物
に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】表2の結果をプロットした、時間(分で表される)の関数として血糖の減少率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の前記組成物は、遊離形態の前記少なくとも1種のタンパク質活性成分の、液体形態では、該組成物を4より大きく、8以下のpHに緩衝化できる系(緩衝系)、又は固体形態では、該組成物を液体媒体に入れたとき、4より大きいpHから8以下のpHで緩衝作用を発揮する系(緩衝系)との(単純な)調合によって得られる。
【0010】
特徴的には、本発明の液体又は固体(いずれの場合も、単相(単一相))組成物は、遊離形態の少なくとも1種のタンパク質活性成分と緩衝系とを該組成物内に兼ね備える経口組成物である。前記緩衝系は、上述したように、遊離形態のタンパク質活性成分の経口経路による投与を可能にする。このことは、胃腸管内で前記遊離形態を保護する上で有効である。
【0011】
従って、本発明の組成物内では、タンパク質活性成分は、「そのままで」存在し、それ自体保護されず、とりわけ物理的バリアで保護されない。タンパク質活性成分は、そのままで存在し、又はその調合に必要な賦形剤との単純な混合物である。「遊離形態の前記活性成分」は、最も注目すべきは、コーティング、マトリックス又はカプセル壁のような多かれ少なかれ複雑な物理的保護系のない前記活性成分を意味する(前記活性成分は、コーティング、マトリックス化又はカプセル化(特にリポソーム内に)等されない)。
【0012】
明記したpH値を与えられた緩衝系は、胃環境内及び腸環境内で本発明の組成物を緩衝化できる。緩衝系は、当然に、消化の持続時間:例えば少なくとも2時間、有利には3時間まで(胃の酸性条件及び腸の塩基性条件で)その緩衝作用を発揮できる。当業者はこのような緩衝系に精通している。非限定例として、このような系の性質を以下に特定する。
【0013】
本発明の組成物は、
−遊離形態の少なくとも1種のタンパク質活性成分(上記参照)、一般的に1種の該活性成分(しかしこのタイプの数種の活性成分(又はこのタイプの少なくとも1種の活性成分と少なくとも1種の他の活性成分)の混合物によるか又は別々の併用介入は本発明の範囲から排除されない);及び
−上記pH範囲で緩衝作用を発揮できる系(緩衝系)
を兼ね備える。
【0014】
前記pH範囲(4<pH≦8)における前記緩衝作用の発揮は、当然に前記少なくとも1種のタンパク質活性成分の安定性と(いずれの場合も、存在する活性成分の安定性と)両立する。
【0015】
本発明の組成物は、4<pH≦8のpHに緩衝化される。本組成物は、有利には4.5〜7.5のpH(4.5≦pH≦7.5)に緩衝化され、非常に有利には5〜7のpH(5≦pH≦7)、実際には5より大きく、7未満のpH(5<pH≦7)に緩衝化される。特に好ましい変形では、本組成物は6.5又は6.5に近いpH(6.5±0.2)に緩衝化される。この値は、インスリンを含む本発明の組成物の文脈では非常に特に好ましい。
【0016】
本発明の組成物は、消化酵素から保護できる少なくとも1種のタンパク質活性成分を含む。インスリンは、消化酵素に感受性な該活性成分の1つとして既に言及されている。特にこの活性成分に関して本発明を開発した(後述する実施例及び試験を参照されたい)。しかし、当業者にはその応用範囲が疑う余地なく広いことが明白に分かる。演繹的に関係があるメカニズム(発明者らが帰納的に提案する)、すなわち胃内を通過中の保護(pH>4ではペプシンはもはや活性でない(又は事実上もはや活性でない))及び酸性糜粥がもはや十二指腸内を流れない限りにおける膵臓分泌の抑制(多かれ少なかれ結果として)は、消化酵素から全てのタンパク質活性成分を保護するのに適している。
【0017】
従って、本発明の組成物は、有利には、インスリン、その類似体及びその誘導体の中から選択される少なくとも1種のタンパク質活性成分(遊離形態の)を含む(一般的にかつ有利には、このタイプの単一の活性成分として、又は単一の活性成分としてインスリン又はその類似体若しくは誘導体を含む)。当業者は、例えば、Liproインスリン、Aspartインスリン、Glargineインスリン及びDetemirインスリン等のインスリン類似体に精通している。当業者は、出願FR2,123,524に記載されている当該インスリン誘導体のようなインスリン誘導体にも精通している。
【0018】
従って、本発明の組成物は、有利には、活性成分(遊離形態の)として、
−インスリン又はその類似体若しくは誘導体、
−ソマトトロピン(ヒト成長ホルモン)又はその誘導体、
−カルシトニン、又は
−LHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン(Luteinizing Hormone Releasing Hormone))類似体、例えばトリプトレリン(tryptoreline)
を含む。
【0019】
本発明の組成物は、これらの活性成分のいくつかを含有しうること、及び上記リストは決して排他的ではなく、全く限定的でないことを想起されたい。
本発明の目的に好適な緩衝系は通常の緩衝系であり、有利には大容量の緩衝系である。当業者は、このような系に精通しており、本発明の文脈の組合せ:少なくとも1種のタンパク質活性成分(遊離形態の)/緩衝系(例えば、インスリン/緩衝系)を最適化することができる。
【0020】
完全に非限定的様式で、本発明の組成物内で緩衝作用に関与する系は、有利には、リン酸、酢酸、マレイン酸、フタル酸、コハク酸、クエン酸、イミダゾール、テトラブチルアンモニウム、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(又はトリヒドロキシメチルアミノメタン又はトロメタモール(Trometamol)又はサム(Tham)又はトリス(Tris))、トリス-グリシン、バルビトール、トリス-EDTA BSA、硫酸銅及び双性イオン緩衝液の中から選択される緩衝液であると述べることができる。
【0021】
さらに一般的に、欧州薬局方、現行版(モノグラフ4.1.3)に掲載されている緩衝系のリストの中から本発明の組成物の緩衝系を選択することができる。
前記緩衝系は、有利にはリン酸又はトリス緩衝液である。
推奨されているリン酸緩衝液は、
2〜3質量%のリン酸二水素ナトリウムと、
97〜98質量%のリン酸水素二ナトリウムとを含み、
有利には、
約2.8質量%のリン酸二水素ナトリウムと、
97.2質量%のリン酸水素二ナトリウムとを含む。
【0022】
本発明の経口組成物(新規方法で、遊離形態の少なくとも1種のタンパク質活性成分と、選択された緩衝系:4<pH≦8とを兼ね備える)は、2つの変形により存在しうる。
【0023】
第1の、より一般的な変形によれば、前記組成物は単位形態で調合される。緩衝系を含めた全ての構成成分を一緒に調合する。この第1の変形の範囲内に、多くの可能性が存在する。特に液体形態(直接適切なpHに緩衝化された)、例えば溶液、懸濁液及びシロップ等、又は固体形態(液体、一般的に水中で消費されたとき、又は胃内でのそれらの消費後に緩衝作用を発生させる)、例えば錠剤(通常(嚥下するため)、吸引するため、舌下、分散性、口腔内分散性、発泡性)、カプセル剤、散剤、発泡性散剤、顆粒剤、発泡性顆粒剤及び凍結乾燥品で本発明の組成物を提供することができる。これらのリストは排他的でない。当業者は、問題の活性成分を、上述した1つ又は他の単位形態で、求められた緩衝作用に関与する適切な系と調合する方法を知っている。
【0024】
発泡性医薬形態の調製では、期待される発泡特性をもたらす成分を添加するのが賢明である。これらのタイプの成分(遊離ガスで反応する試薬(一般的に2種の試薬))は当業者に周知である。
この第1の変形の範囲内では、本発明の組成物は、有利には固体医薬製剤、特に分散性錠剤又は発泡性錠剤として提供される。
【0025】
第2の変形によれば、本発明の組成物は、少なくとも2種の別々の成分を有する組成物、特に
−遊離形態の少なくとも1種のタンパク質活性成分を含む1つの成分と、
−所望の緩衝作用を生じさせる少なくとも1つの系を含む別の成分と
を別々に含む組成物である。
これらの2つの別々の成分は、一緒に又は外見上一緒に、当然、消化管内(まず最初に胃内)を活性成分が通過中に緩衝作用が発生するように投与されるべきである。
【0026】
遊離形態の前記少なくとも1種のタンパク質活性成分(又は遊離形態の前記少なくとも1種のタンパク質活性成分及び少なくとも1種の他の活性成分)と、一般的に医薬的に許容しうる賦形剤(必要な場合、それらを発泡させる成分と共に)中で加えられた緩衝系とを含む本発明の(上記第1及び第2変形の)組成物は、当然、通常の医薬組成物中に存在する他の成分、例えば甘味料、香料及び/又は加工助剤(潤沢剤など)等を含有しうる。液体組成物は、前記少なくとも1種のタンパク質活性成分(又は遊離形態の前記少なくとも1種のタンパク質活性成分及び少なくとも1種の他の活性成分)及び適切な緩衝系だけを含んでよい。それらは、一般的にこれらの2つの成分に加えて、医薬製剤で常用される調合成分(例えば上記成分など)を含む。固体組成物は、一般的に前記少なくとも1種のタンパク質活性成分(又は遊離形態の前記少なくとも1種のタンパク質活性成分及び少なくとも1種の他の活性成分)と緩衝系に加えて、固体賦形剤(塩基、必要に応じて発泡に関与する成分と共に)と種々の添加剤(例えば上記成分など)を含む。
【0027】
単位形態か又はそうでない本発明の組成物の調製は、上述したように、本発明の第2の目的を構成する。前記調製は、緩衝化するか又は緩衝液と混ぜ合わせる、医薬組成物の調製である。特徴的に、本調製は、遊離形態の少なくとも1種のタンパク質活性成分の、液体形態では(特に胃環境内及び腸環境内)4より大きく8以下のpHで前記組成物を緩衝化できる系(緩衝系)、又は固体形態では、前記固体形態を液体媒体、特に水性媒体(特に胃環境内及び腸環境内)に入れたとき、4より大きいpHから8以下のpHで緩衝作用を発揮する系(緩衝系)との(単純な)調合を含む。用語「調合(formulation)」は、単位組成物の調製についての用語(ガレヌス(galenic))の通常の意味、及び別個成分を用いた組成物の調製についての広範な意味(調合=パッケージング)で解釈すべきである。
通常、本発明の組成物の調製に他の成分を含めてよい。
【0028】
当業者は、以下に示す実施例及び試験結果によって確認される本発明の重要性を理解する。緩衝液の「二重の正効果」、すなわち胃保護と膵臓分泌の抑制が特に有効である。この二重の効果とその有効性は純粋に驚くべきことである。
【0029】
本発明の別の態様によれば、本発明は、緩衝系の新たな適用を提供し、そのため本発明は、とりわけ上で特定した当該緩衝系の中から選択される上記緩衝系の、遊離形態の少なくとも1種のタンパク質活性成分をその胃腸管経由の通過中に保護するための使用にも関する。換言すれば、本発明は、消化酵素に対して(胃腸通過中)、タンパク質活性成分を保護するための新規方法を提供する。前記方法は、本質的に、遊離形態の前記活性成分の、とりわけ上で特定した当該緩衝系の中から選択される上述したような緩衝系との、単位形態又は非単位形態での調合を含む。
【0030】
最後に、本発明を少なくとも1種のタンパク質活性成分の経口経路による投与を含む治療方法及び/又は少なくとも1種のタンパク質活性成分の経口投与方法として理解することができる。特徴的に、前記方法の文脈では、前記少なくとも1種のタンパク質活性成分が(固体又は液体組成物に調合された、単位形態又は非単位形態)、遊離形態で、上記緩衝系、すなわち、上で特定した4<pH≦8のpHに緩衝化され(液体形態の場合)、又は液体媒体に入れたとき、該pHに緩衝化されうる(固体形態の場合)緩衝系と共に投与される。関連する現在既知の治療は、以下に要約する疾患又は障害の当該治療である:糖尿病(インスリンの投与に関して)、成長抑制(ソマトロピンの投与に関して)、骨粗しょう症(カルシトニンの投与に関して)、前立腺癌(LHRLの投与に関して)…。
ここで、純粋に説明的根拠で本発明の2つの緩衝化インスリン錠剤の処方を特定することによって本発明を説明し、かつインスリンを用いてin vitroで行った物理化学試験及びin vivoで行った薬理学試験の比較結果を以下に示すことによって、前記発明の大きな利益を示す。
【0031】
I 処方
本発明の下記2タイプの錠剤を、それ自体既知の方法(通常の調合方法)に従い、指定量で使用する指定成分から調製した。
−分散性錠剤A;及び
−発泡性錠剤B。
【0032】
錠剤A:
ヒトインスリン : 3.5mg(100U)
トロメタモール(TRIS) :100mg
リン酸カルシウム(二カルシウム) :250mg
微結晶性セルロース :250mg
マンニトール :250mg
ステアリン酸マグネシウム : 10mg
コロイドシリカ : 1mg
クロスポビドン : 50mg
安息香酸ナトリウム : 30mg
タルク : 10mg
クエン酸とクエン酸一ナトリウムを合わせて:適量 pH6.5
錠剤質量:1グラム
【0033】
錠剤B :
ヒトインスリン : 3.5mg(100U)
無水クエン酸一ナトリウム :1142.7mg
無水炭酸水素ナトリウム : 2076mg
安息香酸ナトリウム :152.60mg
リン酸一ナトリウム : 120mg
エタノール96%と脱塩水を合わせて :適量 顆粒化のため
理論質量:3.5gの錠剤のため
溶液で pH6.8。
【0034】
II in vitro試験
in vitroで試験を行って、酸性媒体中におけるペプシンの代謝役割、塩基性媒体中におけるトリプシンの代謝役割並びに本発明の緩衝媒体中におけるこれらの消化酵素の一方及び他方の不活性化を確認した。
これらの種々の試験中、インスリンを液体クロマトグラフィーで分析した。
【0035】
試験1’
ヒトインスリン溶液(100U)
+0.1N HCl(50ml)pH1
+37℃で1時間、2時間、3時間撹拌
【0036】

【0037】
酸媒体中、pH1、ペプシンなしでは、インスリンは37℃で3時間より長く安定している。
試験2’
ヒトインスリン溶液(100U)
+0.1N HCl(50ml)pH1
+ペプシン(160mg)
+37℃で1時間撹拌
【0038】

【0039】
胃酵素(ペプシン)の存在下、pH1で、インスリンは即座に分解される。
試験1(本発明)
ヒトインスリン溶液(100U)
+0.1N HCl(50ml)pH1
+ペプシン(160mg)
+リン酸緩衝液 pH6.8(50ml)
+37℃で1時間、2時間、3時間撹拌
【0040】

【0041】
pH6.8に緩衝化された媒体中では、ペプシンはもはや活性化されず、インスリンは37℃で3時間より長く安定している。
試験3’
ヒトインスリン溶液(100U)
+0.1N HCl
+リン酸緩衝液 pH8.5
+37℃で1時間、2時間、3時間撹拌
【0042】

【0043】
この試験は、緩衝液の有効性及び塩基性媒体中で酵素の非存在下ではインスリンが安定しているという事実を検証した。
試験2a、2b、2c(本発明)
ヒトインスリン溶液(100U)
+リン酸緩衝液 pH6(試験2a)、pH6.5(試験2b)、pH6.8(試験2c)
+トリプシン750U
+37℃で1時間、2時間撹拌
【0044】

【0045】
指示pHに緩衝化された媒体中では、トリプシンの代謝作用はほとんど弱まる。
試験4’
ヒトインスリン溶液(100U)
+リン酸緩衝液 pH8.5
+トリプシン750U
+37℃で1時間、2時間撹拌
【0046】

【0047】
腸酵素(トリプシン)の存在下、pH8.5で、インスリンは激しく分解される。
これらの(塩基性pHにおける)結果の検討は、pHがアルカリ度に向けて高くなるほど、トリプシンはその代謝作用を発揮することを示している。
トリプシンの存在にもかかわらず、2時間後に高率:72%のインスリンが見られる最適点はpH6.5(中性pHの近傍)であると思われる。
【0048】
III in vitro試験
糖尿病(高血糖症)にされたラットで、ストレプトゾトシンの投与によって、2タイプの発泡性錠剤(本発明の緩衝系あり:錠剤B(上記参照)及び本発明の緩衝系なし:コントロール発泡性錠剤(緩衝液のない錠剤B))の血糖降下活性を研究した。
化学的にニトロソウレアに関連する抗生物質であるストレプトゾトシンは、膵臓のランゲルハンス島の破壊による糖尿病誘発特性を有する。
【0049】
この試験は、当業者にかなりよく知られている。その原理を以下に要約する。
雄ラット(平均体重200g)に腹腔内径路で70mg/kgのストレプトゾトシンを投与して、72時間後、該動物に過食症、多飲症及び多尿症を伴う重症の高血糖症を引き起こす。
動物を8匹の3バッチに分割する。
バッチ1:体積10ml/kg中、pH6.8に緩衝化された錠剤(発泡性錠剤B(上記参照))に含まれる食道プローブ30単位のインスリンを用いて経口経路で受ける非高血糖性の正常な動物。
バッチ2:体積10ml/kg中、非緩衝化錠剤(緩衝液のない発泡性錠剤B)に含まれる食道プローブ30単位のインスリンを用いて経口経路で受ける糖尿病の動物。
バッチ3:体積10ml/kg中、pH6.8に緩衝化された錠剤(発泡性錠剤B(上記参照))に含まれる食道プローブ30単位のインスリンを用いて経口経路で受ける糖尿病の動物。
血液サンプルを3時間の間15分毎に動物の尾から採取し、Abbottグルコースメーターを用いて血糖を評価する。
結果を下表に示す。1リットル当たりのグラム数及びミリ当量のグルコース(表1)、並びに血糖の減少パーセンテージとして(表2)結果を表す。
【0050】

【0051】
表2の結果を添付の一図面上にプロットした(時間(分で表される)の関数としての血糖の減少パーセンテージ):
―■―曲線はバッチ1の結果を示し、
‥◆‥曲線はバッチ2の結果を示し、
―▲―曲線はバッチ3の結果を示す。
【0052】
結果の検討により以下のことが分かる。
−正常な(非高血糖症の)動物(バッチ1)では、緩衝化インスリンの投与45分後に血糖がわずかに減少し、75分で最高に減少してから150分後に血糖が正常値に戻る。膵臓が無傷のこれらの動物は、高血糖性であるグルカゴンを分泌することによって釣り合いを取る。
−糖尿病の動物(バッチ2)では、非緩衝化インスリンの投与は、血糖の非常にわずかな有意でない減少しかもたらさない。実験の間じゅう、動物は非常に高い血糖を維持する。
−糖尿病の動物(バッチ3)では、緩衝化インスリンの投与45分後に血糖が非常に有意に減少し、105分で最高に減少してから血糖の漸進的増加が観察される。全ての動物が非常に改善されるが、糖尿病の重症度のため正常の血糖には戻らない。
これらの結果は、使用した緩衝系が、経口経路で投与したインスリンの血糖降下活性を保護できるようにしたことを示し(in vitroで得られた結果と完全に一致する)、かつ前記インスリンの良いバイオアベイラビリティーを確証する。
【0053】
in vitro及びin vivoの両結果は、インスリンの活性を保護する際の緩衝系の有効性を実証する。
−in vitro
−非緩衝化酸媒体中では、インスリンはペプシンによって代謝される(試験2’)。pH6.8に緩衝化された媒体中では、ペプシンはもはや活性でなく、結果として3時間後に100%のインスリンが見られ(試験1)、
−塩基性媒体中では、インスリンはトリプシンによって代謝される(試験4’)。pH6、6.5及び6.8に緩衝化された媒体中では、前記トリプシンの活性が抑制され、多かれ少なかれ低減され;
−in vivo
−非緩衝化製剤は実際に活性を示さない。対照的に、緩衝化製剤は強力な血糖降下活性を示す。
全試験中、in vitro及びin vivoの両方で、ヒトインスリンを使用した。得られた結果が全てのインスリン類似体に適用可能であることは明らかである。
これらの結果を考慮すれば、本発明の重要性がかなり明白である。この重要性は、ヒトでの予備試験によって確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体形態又は固体形態の組成物であって、
遊離形態の少なくとも1種のタンパク質活性成分と、
液体では、4より大きく、8以下のpHに該組成物を緩衝化できる系、又は固体では、該組成物を液体媒体に入れたとき、4より大きいpHから8以下のpHで緩衝作用を発揮する系とを含み、
前記少なくとも1種のタンパク質活性成分の経口経路による投与用の薬物として使うための組成物。
【請求項2】
少なくとも1種のタンパク質活性成分を含む、経口経路による投与のための、液体形態又は固体形態の医薬組成物であって、
該組成物が、遊離形態の少なくとも1種のタンパク質活性成分と、
液体では、4より大きく、8以下のpHに該組成物を緩衝化できる系、又は固体では、該組成物を液体媒体に入れたとき、4より大きいpHから8以下のpHで緩衝作用を発揮する系とを含むことを特徴とする組成物。
【請求項3】
遊離形態の前記少なくとも1種のタンパク質活性成分の、液体形態では、該組成物を4より大きく、8以下のpHに緩衝化できる系、又は固体形態では、該組成物を液体媒体に入れたとき、4より大きいpHから8以下のpHで緩衝作用を発揮する系との調合によって得られる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記緩衝pHが、4.5〜7.5、非常に有利には5〜7であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種のタンパク質活性成分が、
−インスリン並びにその類似体及び誘導体、
−ソマトトロピン及びその誘導体、
−カルシトニン、及び
−LHRH類似体
の中から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種のタンパク質活性成分が、インスリン並びにその類似体及び誘導体の中から選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記緩衝作用に関与する前記系が、リン酸、酢酸、マレイン酸、フタル酸、コハク酸、クエン酸、イミダゾール、テトラブチルアンモニウム、トリヒドロキシメチルアミノメタン、トリス-グリシン、バルビトール、トリス-EDTA BSA、硫酸銅及び双性イオン緩衝液の中から選択される緩衝液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
単位形態で調合されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
液体として、溶液、懸濁液若しくはシロップの形態、或いは固体として、錠剤、特に分散性、口腔内分散性若しくは発泡性錠剤、カプセル剤、散剤、発泡性散剤、顆粒剤、発泡性顆粒剤又は凍結乾燥品の形態であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
固体医薬製剤、特に分散性錠剤又は発泡性錠剤の形態であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記緩衝作用に関与する前記系が、前記少なくとも1種のタンパク質活性成分とは別に調合されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物の調製方法であって、遊離形態の前記少なくとも1種のタンパク質活性成分の、液体形態では、該組成物を4より大きく、8以下のpHに緩衝化できる系、又は固体形態では、該組成物を液体媒体に入れたとき、4より大きいpHから8以下のpHで緩衝作用を発揮する系との調合を含むことを特徴とする前記方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−506587(P2011−506587A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538869(P2010−538869)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/FR2008/052357
【国際公開番号】WO2009/083686
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(510171656)
【Fターム(参考)】