説明

消泡材とその製造方法

【課題】優れた消泡特性を有しながら、導管を挿入する際に内側層が位置ズレしたり、内側層が導管の開口を塞いだりする問題が生じにくい半二重構造の消泡材を提供する。
【解決手段】消泡材20は、外側層21と、外側層21の内側に配された内側層22とを備え、内側層22が上側のみに配された半二重構造を有している。外側層21の上端と内側層22の上端とが薄肉部101a,101bを介して連続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心肺手術等を行う際に使用される、心内血を濾過するカーディオトミー部内に配置される消泡材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓手術等を行う場合、患者の心臓や肺の機能を代替するための血液ポンプや人工肺を備えた体外血液循環回路が用いられる。体外血液循環回路には、患者の静脈から脱血された静脈血を一時的に貯留して循環回路血液量を調整するための貯血槽(「静脈血貯血槽」と呼ばれることがある)や、術野に溢れた血液(心内血)を吸引して回収して一時的に貯留するための貯血槽(「心内血貯血槽」と呼ばれることがある)が設けられる。静脈血と心内血とを共通する貯血槽に貯留することも広く行われている。
【0003】
心内血は、静脈血に比べて、肉片、脂肪、凝血塊などの異物や気泡を多く含むので、心内血を貯留する貯血槽には、異物を除去するためのフィルタと気泡を破泡させるための消泡材とからなるカーディオトミー部が設けられる。
【0004】
カーディオトミー部内の消泡材の消泡特性が劣ると、血液面上に気泡が盛り上がるように増大(成長)する。これによりカーディオトミー部内の気圧が上昇するので、カーディオトミー部に対する血液の流入抵抗が増大する。
【0005】
特許文献1には消泡特性が向上したカーディオトミー部が記載されており、その概略構成を図4に示す。
【0006】
カーディオトミー部300は、全体として袋形状(即ち、コーヒー抽出の際に使用される紙製のコーヒーフィルタに類似した形状)を有するフィルタ310と、フィルタ310の内側に配置された消泡材320とを備える。消泡材320は、上側に外側層321と内側層322とからなる二重構造を有する二重部320D、下側に外側層321のみからなる一重構造を有する一重部320Sを備えた半二重構造を有している。フィルタ310の上端に樹脂板360が接着されている。樹脂板360の略中央には貫通孔361が形成されている。貫通孔361には、上方から導管390が挿入されている。導管390を通じて、心内血や薬液がカーディオトミー部300内に流入する。
【0007】
消泡材320の製造方法を図5A〜図5Dを用いて説明する。
【0008】
最初に、図5Aに示すように、同一寸法の2枚の消泡材用材料200a,200bを作成する。消泡材用材料200a,200bは、略矩形の主要部201a,201bと、主要部201a,201bの対向する二辺(短辺)にそれぞれ設けられた略矩形の副部202a1,202a2;202b1,202b2とを備え、全体として略「T」字状を有している。消泡材用材料200a,200bとして、例えば連続気泡を有する一定厚さのポリウレタン等の発泡体の表面に消泡材料をコーティングした材料を用いることができる。
【0009】
次いで、消泡材用材料200aと消泡材用材料200bとを重ね合わせて、ドット模様を付した領域203a1,203b1;203a2,203b2で熱溶着等の方法により接合する。
【0010】
かくして、図5Bに示すように、2枚の消泡材用材料200a,200bが接合部205a,205bで環状に接合された消泡材用材料環状体207を得る。
【0011】
次いで、消泡材用材料環状体207を矢印208方向に表裏を裏返して、図5Cに示す消泡材320を得る。消泡材320では、副部202a1,202a2が主要部201aに重なり合うように、消泡材用材料200aが接合部205a,205bに沿って折り返されている。同様に、副部202b1,202b2が主要部201bに重なり合うように、消泡材用材料200bが接合部205a,205bに沿って折り返されている。そして、環状に接合された主要部201a,201bの内側に副部202a1,202a2;202b1,202b2が配置されている。
【0012】
次いで、図5Dに示すように、フィルタ310内に消泡材320を挿入する。消泡材用材料200a,200bは被圧縮性を有するので、消泡材320は適宜圧縮変形してフィルタ310内に収納される。
【0013】
その後、フィルタ310の上端に樹脂板360を接着することで、図4に示したカーディオトミー部300が得られる。図4において、外側層321は主要部201a,201bで構成され、内側層322は、副部202a1,202a2,202b1,202b2で構成される。樹脂板360の貫通孔361に上方から導管390が挿入される。
【0014】
図4において、参照符号301は、通常の使用状態での血液面である。導管190の下端の開口からカーディオトミー部100に流入した血液内に含まれていた気泡は、血液面301上に浮上し、時間の経過とともにその数が増加し、徐々に盛り上がるように成長する。しかしながら、血液面301上のほとんどの気泡は外側層321の下端面321bに接して破泡してしまう。わずかな気泡は、外側層321の下端面321bと導管390との間の隙間を通り抜けて上方に向かって成長するかもしれないが、そのような気泡は外側層321の内周面321a又は内側層322の下端面322bに接触して破泡してしまう。従って、半二重構造の消泡材320を内蔵した図4に示したカーディオトミー部300は優れた消泡特性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−162208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記の図4のカーディオトミー部300の消泡材320は、樹脂板360の貫通孔361に上方から導管390を挿入する組み立て工程において以下の問題を有している。
【0017】
第1に、貫通孔361に挿入され下方に移動する導管390の下端が内側層322に引っかかるという問題がある。図5及び図5Dから理解できるように、内側層322を構成する副部202a1,202b1,202a2,202b2のそれぞれは、その水平方向の一側端のみが接合部205a又は205bで支持された片持ち構造であるので、導管390の下端に引っかかった副部は導管390とともに下方に位置ズレしてしまう。その結果、内側層322が上下方向の所望する位置に形成されないので、カーディオトミー部300の消泡特性が劣化してしまう。
【0018】
第2に、貫通孔361に挿入された導管390の下端に内側層322が衝突し、導管390の下端の開口が内側層322によって塞がれてしまうという問題がある。その結果、導管390を通って流入する血液や薬液の流入抵抗が増大する。
【0019】
これらの問題は、導管190の外径が大きい場合に特に顕著に発現する。
【0020】
本発明は、優れた消泡特性を有しながら、導管を挿入する際に内側層が位置ズレしたり、内側層が導管の開口を塞いだりする問題が生じにくい半二重構造の消泡材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の消泡材は、カーディオトミー部に内蔵される消泡材であって、外側層と、前記外側層の内側に配された内側層とを備え、前記内側層が上側のみに配された半二重構造を有し、前記外側層の上端と前記内側層の上端とが薄肉部を介して連続している。
【0022】
本発明の消泡材の製造方法は、略台形状の一対の主要部と略台形状の一対の副部とを含み、前記一対の主要部がそれぞれの第一辺を一致させて互いに連続し、且つ、前記一対の主要部がその第二辺を介して前記一対の副部とそれぞれ連続している消泡材用材料を得る工程と、前記第二辺に沿って前記消泡材用材料を薄肉化する工程と、前記消泡材用材料を、前記一対の主要部が互いに重なり合うように前記第一辺で折り曲げて、前記一対の主要部を、前記第一辺及び前記第二辺を除く2辺で接合して袋形状を有する消泡材用材料を得る工程と、前記一対の副部が前記一対の主要部の間に位置するように、前記第二辺で前記消泡材用材料を折り返す工程とを備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明の消泡材は、半二重構造を有しているので、優れた消泡特性を有している。
【0024】
また、外側層の上端と内側層の上端とが薄肉部を介して連続しているので、消泡材内に導管を挿入する際に内側層が位置ズレしたり、内側層が導管の開口を塞いだりする問題が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るカーディオトミー部の概略構成を示した断面図である。
【図2A】図2Aは、本発明の一実施形態に係る消泡材の製造方法の一工程を示した図であり、消泡材用材料を示した斜視図である。
【図2B】図2Bは、本発明の一実施形態に係る消泡材の製造方法の一工程を示した図であり、主要部と副部との間に薄肉部が形成された消泡材用材料を示した斜視図である。
【図2C】図2Cは、本発明の一実施形態に係る消泡材の製造方法の一工程を示した図であり、一対の主要部が互いに重なり合うように折り曲げられた消泡材用材料を示した斜視図である。
【図2D】図2Dは、図2Cの矢印2Dに沿って見た消泡材用材料の正面図である。
【図2E】図2Eは、本発明の一実施形態に係る消泡材の製造方法の一工程を示した図であり、一対の主要部がその両斜辺に沿って接合された袋形状の消泡材用材料を示した斜視図である。
【図2F】図2Fは、本発明の一実施形態に係る消泡材の製造方法の一工程を示した図であり、表裏が裏返された袋形状の消泡材用材料を示した斜視図である。
【図2G】図2Gは、本発明の一実施形態に係る消泡材の製造方法の一工程を示した図であり、一対の副部が一対の主要部間に位置するように折り返された袋形状の消泡材を示した斜視図である。
【図2H】図2Hは、本発明の一実施形態に係る消泡材をフィルタに挿入する直前の状態を示した斜視図である。
【図3】図3は、導管が挿入された本発明の一実施形態に係るカーディオトミー部を示した断面図である。
【図4】図4は、従来のカーディオトミー部の一例の概略構成を示した断面図である。
【図5A】図5Aは、図4に示したカーディオトミー部に内蔵される従来の消泡材の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【図5B】図5Bは、図4に示したカーディオトミー部に内蔵される従来の消泡材の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【図5C】図5Cは、図4に示したカーディオトミー部に内蔵される従来の消泡材の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【図5D】図5Dは、図4に示したカーディオトミー部に内蔵される従来の消泡材の製造方法の一工程を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の消泡材は、カーディオトミー部に内蔵される消泡材であって、外側層と、前記外側層の内側に配された内側層とを備え、前記内側層が上側のみに配された半二重構造を有し、前記外側層の上端と前記内側層の上端とが薄肉部を介して連続している。
【0027】
本発明の上記の消泡材は、上側のみが開口した袋形状を有することが好ましい。これにより、上側の開口を介して気泡を含む血液を消泡材内に流入させると、気泡が消泡材に接触しやすくなるので、消泡特性が向上する。
【0028】
前記外側層が、互いに対向するように配置された略台形状の一対の主要部を含むことが好ましく、また、前記内側層が、略台形状の一対の副部を含むことが好ましい。これにより、消泡材の設計を簡単化することができる。
【0029】
前記一対の主要部は、それぞれの4辺のうちの1辺を一致させて互いに連続し、袋形状となるように他の2辺で互いに接合されていることが好ましい。これにより、コーヒー抽出の際に使用される紙製のコーヒーフィルタに類似した袋形状の消泡材を容易に得ることができる。
【0030】
前記1辺は、前記袋形状の底辺をなすことが好ましい。これにより、袋形状の底辺が、連続する消泡材用材料で構成されるので、消泡材からの血液の流出が容易になる。また、これにより、気泡が消泡材に接触しやすくなるので、消泡特性が更に向上する。
【0031】
本発明の消泡材の製造方法は、略台形状の一対の主要部と略台形状の一対の副部とを含み、前記一対の主要部がそれぞれの第一辺を一致させて互いに連続し、且つ、前記一対の主要部がその第二辺を介して前記一対の副部とそれぞれ連続している消泡材用材料を得る工程と、前記第二辺に沿って前記消泡材用材料を薄肉化する工程と、前記消泡材用材料を、前記一対の主要部が互いに重なり合うように前記第一辺で折り曲げて、前記一対の主要部を、前記第一辺及び前記第二辺を除く2辺で接合して袋形状を有する消泡材用材料を得る工程と、前記一対の副部が前記一対の主要部の間に位置するように、前記第二辺で前記消泡材用材料を折り返す工程とを備える。
【0032】
上記の本発明の製造方法において、前記第二辺が、前記主要部の互いに平行な2辺のうちの長い方の辺であることが好ましい。これにより、上側の開口径が大きな消泡材を得ることができる。
【0033】
前記副部の互いに平行な2辺のうち長い方の辺が前記第二辺と一致することが好ましい。これにより、一対の副部を一対の主要部の間に容易に収納することができる。
【0034】
前記第一辺が、前記主要部の互いに平行な2辺のうちの短い方の辺であることが好ましい。これにより、コーヒー抽出の際に使用される紙製のコーヒーフィルタに類似した袋形状の消泡材を容易に得ることができる。また、袋形状の底辺で一対の主要部が連続した消泡材を得ることができる。
【0035】
前記消泡材用材料を薄肉化する工程を、前記消泡材用材料を加熱して融着させることにより行うことが好ましい。これにより、消泡材用材料を薄肉化する工程を簡単且つ迅速に行うことができる。
【0036】
前記一対の主要部を前記2辺で接合する工程を、前記消泡材用材料を加熱して融着させることにより行うことが好ましい。これにより、一対の主要部を接合する工程を簡単且つ迅速に行うことができる。
【0037】
前記第二辺で前記消泡材用材料を折り返す工程の前に、袋形状を有する前記消泡材用材料を裏返す工程をさらに備えることが好ましい。これにより、対向する一対の主要部間の内寸法が大きな消泡材を容易に得ることができる。
【0038】
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態の構成部材のうち、本発明を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、以下の各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態に係るカーディオトミー部1の概略構成を示した断面図である。
【0040】
カーディオトミー部1は、全体として袋形状を有するフィルタ10と、フィルタ10の内側に配置された消泡材20とを備える。
【0041】
フィルタ10は、これを血液が通過する際に血液中の異物を捕捉する機能を有してることが好ましく、さらに、気泡を捕捉する機能を有していることがより好ましい。フィルタ10としては、特に制限はなく、例えばスクリーンフィルタ(又はメッシュフィルタ)、不織布フィルタなど、従来のカーディオトミー部に使用されていた公知のフィルタを用いることができる。本実施形態では、スクリーンフィルタの両側にメッシュ部材を配した三層積層構造のフィルタ部材に多数のプリーツを形成した後、袋形状に形成した特許文献1に記載されたフィルタを用いている。
【0042】
本実施形態では、フィルタ10は、コーヒー抽出の際に使用される紙製のコーヒーフィルタに類似した形状を有しているが、本発明のフィルタ10の形状はこれに限定されない。一般に、上側のみが開口した袋形状を有していることが好ましい。
【0043】
消泡材20は、上側(樹脂板60側)が開口した、全体として袋形状を有している。消泡材20は、袋形状をなす外側層21と、外側層21の内側に配された内側層22とを備え、内側層22が上側にのみに配された半二重構造を有している。すなわち、消泡材20は、上下方向において上側の領域に、外側層21と内側層22とが重ね合わされた二重構造を有し、下側の領域に、内側層22が存在せず、外側層21のみで構成された一重構造を有している。上側の二重構造を有する部分を「二重部20D」、下側の一重構造を有する部分を「一重部20S」と呼ぶ。二重部20Dにおいて、全周にわたって二重構造を有している必要はなく、例えば内側層22が存在しない部分が周方向の一部に存在していても良い。二重部20Dと一重部20Sとの上下方向の寸法比率は任意に設定することができる。
【0044】
外側層21の上端と内側層22の上端とは薄肉部101a,101bを介して連続している。
【0045】
外側層21及び内側層22の厚みは同一でも異なっていても良い。但し、同一であると、後述するように外側層21と内側層22とを、一定厚みの原反シートから所定形状の消泡材用材料(後述する図2Aの消泡材用材料100)を切り出して消泡材20を一体的に作成することができるので、消泡材20を効率良く製造することができる。
【0046】
本実施形態では、消泡材20は、コーヒー抽出の際に使用される紙製のコーヒーフィルタに類似した形状を有しているが、本発明の消泡材20の形状はこれに限定されない。一般に、上側のみが開口した袋形状を有していることが好ましい。
【0047】
消泡材20の材料としては、接触した気泡を破泡させる機能を有していれば特に制限はなく、従来のカーディオトミー部に使用されていた公知の消泡材料を任意に選択して使用することができる。例えば、基層としてのポリウレタンの表面に消泡剤としてのシリコーンがコーティングされた材料を用いることができる。また、形態としては、連続気泡を有する発泡体、織物、編み物、不織布などを用いることができる。消泡材20は可撓性及び柔軟性を有していることが好ましい。
【0048】
消泡材20の下端20bは、フィルタ10の内面の最下部(これを「内底部」という)10bから上側に離間していることが好ましい。これにより、心内血用導管91(後述する図3を参照)を通じて消泡材20内に流入した血液は、消泡材20内に滞留することなく、直ちに消泡材20を通過し、フィルタ10内に一時的に滞留する。血液が消泡材20を通過する際に、血液中の気泡の一部は消泡材20に接触して破泡し、残りは血液から分離されて消泡材20内にとどまる。このように、消泡材20によって血液中の気泡が血液から分離され、消泡材20内に血液がほとんど滞留しない。その結果、気泡が消泡材20に接触する可能性が増大するので、消泡特性が向上する。消泡特性が良好であるのでカーディオトミー部1内に流入する血液及び薬液の流入抵抗が増大するのを抑えることができる。
【0049】
フィルタ10の上端及び消泡材20の上端に樹脂板60が接着されている。樹脂板60の略中央には貫通孔61が形成されている。貫通孔61には、上方から導管90が挿入さる(後述する図3を参照)。
【0050】
消泡材20及びこれを含むカーディオトミー部1の製造方法を以下に説明する。
【0051】
最初に、図2Aに示すように、消泡材用材料100を作成する。消泡材用材料100は、互いに同一形状の一対の主要部110a,110bと、これらを挟んで配置された互いに同一形状の一対の副部120a,120bとを含む。
【0052】
主要部110aは略台形状を有し、互いに平行な下底(第一辺)111a及び上底(第二辺)112a(下底111aは上底112aより短い)と、これらの端部を結ぶ斜辺113a,114aとを有する。同様に、主要部110bも略台形状を有し、互いに平行な下底(第一辺)111b及び上底(第二辺)112b(下底111bは上底112bより短い)と、これらの端部を結ぶ斜辺113b,114bとを有する。下底111aと下底111bとは一致し、下底111a,111bを介して主要部110aと主要部110bとは連続している。
【0053】
副部120a,120bはいずれも略台形状を有する。副部120aの互いに平行な一対の辺のうちの長い方である上底122aは、主要部110aの上底112aと一致し、上底112a,122aを介して主要部110aと副部120aとが連続している。同様に、副部120bの互いに平行な一対の辺のうちの長い方である上底122bは、主要部110bの上底112bと一致し、上底112b,122bを介して主要部110bと副部120bとが連続している。
【0054】
消泡材用材料100の形状は、下底111a,111bに対して線対称である。
【0055】
消泡材用材料100は、例えば一定厚さのポリウレタン発泡体からなる原反シートを上記の形状に切り出すことで作成することができる。
【0056】
次いで、図2Bに示すように、主要部110aと副部120aとの間の上底112a,122aに沿って薄肉部101aを形成する。同様に、主要部110bと副部120bとの間の上底112b,122bに沿って薄肉部101bを形成する。薄肉部101a,101bは、消泡材用材料100の他の部分に比べて相対的に厚さを減少させた(即ち、薄肉化した)部分である。薄肉部101a,101bの形成方法は、消泡材用材料100の材料等に応じて任意に選択することができるが、例えば熱、高周波、又は超音波等で消泡材用材料100を加熱しながら圧縮することで熱融着する方法、接着剤を付与して消泡材用材料100を圧縮する方法、あるいは、糸等で縫合する方法などを用いることができるが、これらの中でも熱融着する方法が簡便に実施できるために好ましい。図2Bでは、平板上に載置した消泡材用材料100の一方の面(図2Bの上面)に、加熱した直線状のこてを押し当てて消泡材用材料100を加熱圧縮して熱融着させて薄肉部101a,101bを形成している。
【0057】
次いで、図2Cに示すように、下底111a,111bに沿って消泡材用材料100を折り曲げる。図2Dは、図2Cの矢印2Dに沿って見た消泡材用材料100の正面図である。上述したように、消泡材用材料100は下底111a,111bに対して対称であるので、一対の主要部110a,110bが互いに重なり合い、また、一対の副部120a,120bが互いに重なり合う。この状態で、主要部110a,110bを、斜辺113aと斜辺113bとで接合し、また、斜辺114aと斜辺114bとで接合する。図2C及び図2Dにおいて、ドット模様を付した領域115a,115bは、接合予定領域を示す。接合方法は、特に制限はなく、消泡材用材料100の材料等に応じて任意に選択することができるが、例えば熱、高周波、又は超音波等で消泡材用材料100を加熱しながら圧縮することで熱融着する方法、接着剤を付与して消泡材用材料100を圧縮する方法、あるいは、糸等で縫合する方法など、薄肉部101a,101bの形成と同じ方法を用いることができる。これらの中でも熱融着する方法が簡便に実施できるために好ましい。
【0058】
かくして、図2Eに示すように、接合部102a,102bで一対の主要部110a,110bが接合された、袋形状を有する消泡材用材料100を得る。図2Eでは、重ね合わされた一対の主要部110a,110bを加熱した直線状の一対のこての間に挟んで、こてを主要部110a,110bに押し当てて加熱圧縮して熱融着させて接合部102a,102bを形成している。接合部102a,102bを形成するためにこてが押し当てられた面と、薄肉部101a,101bを形成するためにこてが押し当てられた面とは、消泡材用材料100の同じ側の面である。
【0059】
次いで、図2Eの矢印103方向に袋形状の消泡材用材料100の表裏を裏返して、図2Fに示す袋形状の消泡材用材料100を得る。袋形状の消泡材用材料100を裏返すことにより、消泡材用材料100が有する弾性力により、主要部110a,110b間の間隔が拡大する。
【0060】
次いで、図2Fにおいて、一対の副部120a,120bが一対の主要部110a,110b間に位置するように、薄肉部101a,101bに沿って消泡材用材料100を矢印1104の方向に折り返す。かくして、図2Gに示すように、半二重構造を有し、上側のみが開口した消泡材20を得る。薄肉部101a,101bでは消泡材用材料100が相対的に薄いので、薄肉部101a,101bによって消泡材用材料100の折り位置が確定され、消泡材用材料100を薄肉部101a,101bに沿って容易に折り返すことができる。また、薄肉部101a,101bに沿って消泡材用材料100が折り返された折り返し部分(即ち、消泡材20の開口端縁)の外表面の曲率半径は、薄肉部101a,101bを形成せずに折り返した場合に比べて小さくなる。副部120a,120bは略台形状を有するので、副部120a,120bを主要部110a,110b間に容易に収納することができる。消泡材用材料100の折り返し部分に薄肉部101a,101bが形成されているので、折り返された消泡材用材料100が弾性回復して、一対の主要部110a,110b間に収納された副部120a,120bが主要部110a,110b間から外に飛び出すのを抑えることができる。
【0061】
次いで、図2Hに示すように、フィルタ10及び消泡材20を、それぞれの開口が上を向くように配置して、フィルタ10内に消泡材20を挿入する。一般に消泡材用材料100は被圧縮性を有するので、消泡材20を適宜弾性圧縮変形させてフィルタ10内に収めることができる。
【0062】
その後、フィルタ10の上端及び消泡材20の上端(即ち、薄肉部101a,101b)に樹脂板60を接着する。樹脂板60の材料は特に制限はないが、例えばポリウレタンなどの接着剤を用いることができる。樹脂板60を設けることより、フィルタ10及び消泡材20の形状保持特性が向上する。樹脂板60には、血液が流入するための貫通孔61が形成される。樹脂板60の平面形状は、本実施形態では長円形(即ち、陸上競技場のトラック(走路)状)であるが、これに限定されず、楕円形、円形、長方形など任意の形状を選択できる。
【0063】
かくして、図1に示したカーディオトミー部1が得られる。上述した消泡材20の製造方法から容易に理解できるように、消泡材20の外側層21は、一対の主要部110a,110bで構成され、内側層22は、一対の副部120a,120bで構成される。消泡材20の下端20bは、一対の主要部110a,110bの下底111a,111bで構成される。
【0064】
消泡材20の上下方向寸法よりフィルタ10を深くすることにより、図1に示すように、消泡材20の下端20bを、フィルタ10の内底部10bから上側に離間させることができる。
【0065】
上記の消泡材20の製造方法において、必要に応じて消泡材20の表面にシリコーンなどの消泡剤をコーティングしても良い。コーティング工程はどの段階で行っても良いが、例えば図2E、図2F、図2Gのいずれかの段階、すなわち、消泡材用材料100を袋形状に形成した後であって、フィルタ10内に挿入する前のいずれかの段階で行うことが好ましい。
【0066】
上記の消泡材20の製造方法は例示に過ぎず、本発明の消泡材20は上記の方法以外の方法で製造することももちろん可能である。
【0067】
例えば、図2Eで得た袋形状の消泡材用材料100を、その表裏を裏返すことなく、フィルタ10内に収納しても良い。
【0068】
以上のように構成された本発明の消泡材20の作用を説明する。
【0069】
図3は、図1に示した本実施形態のカーディオトミー部1の樹脂板60の貫通孔61に導管90を挿入した状態を示した断面図である。図3では、カーディオトミー部1が内蔵される貯血槽(図示せず)の蓋体36を併せて示している。
【0070】
導管90は、心内血をカーディオトミー部1に流入させるための心内血用導管91と、薬液等をカーディオトミー部1に流入させるための薬液用導管92とを含む。心内血用導管91は、蓋体36の上面に設けられた心内血流入ポート50と連通し、薬液用導管92は、蓋体36の上面に設けられた薬液注入ポート72と連通している。
【0071】
カーディオトミー部1に心内血及び薬液がそれぞれ流入する際に発生する圧力変動が互いに相手方の流入に影響するのを防止する等のために、心内血用導管91と薬液用導管92とは分離壁93を隔てて互いに独立している。この結果、導管90の外径が大きくなり、太い導管90によって消泡材20の上部が圧縮変形している。
【0072】
本発明では、上述した消泡材20の製造方法から容易に理解できるように、連続する消泡材用材料100を薄肉部101a,101bで折り返すことにより外側層21及び内側層22からなる二重部20Dが形成されている。即ち、外側層21の上端と内側層22の上端とは薄肉部101a,101bを介して連続している(図1参照)。しかも、薄肉部101a,101bでは消泡材用材料100の厚みが減少されている。従って、薄肉部101a,101bでの消泡材20の折り返し部分での消泡材20の外寸法(または、消泡材20の外表面の曲率半径)は小さい。その結果、図1に示したカーディオトミー部1の樹脂板60の貫通孔61に上方から太い導管90を挿入する際に、導管90の下端が内側層22に引っかかりにくい。これにより、消泡材20を内蔵したカーディオトミー部1に導管90を挿入する組み立て工程において、内側層22の位置ズレが生じにくい。従って、内側層22が位置ズレすることによって消泡特性が劣化するという図4に示した従来の消泡材320を内蔵したカーディオトミー部300が有していた問題が解消される。
【0073】
本実施形態では、薄肉部101a,101bにおいて消泡材20は樹脂板60に接着されている。これにより、樹脂板60の貫通孔61に上方から挿入された導管90の下端が仮に内側層22に引っかかっても、内側層22が導管90とともに下方に位置ズレするのをより確実に防止することができる。
【0074】
また、消泡材20の折り返し部分での消泡材20の外寸法(または、消泡材20の外表面の曲率半径)が小さく、且つ、内側層22が位置ズレしにくいので、内側層22が導管90の下端の開口を塞ぐこともない。従って、導管190の下端の開口が内側層122によって塞がれることによって導管190を通って流入する血液や薬液の流入抵抗が増大するという図4に示した従来の消泡材320を内蔵したカーディオトミー部300が有していた問題が解消される。
【0075】
しかも、本発明の消泡材20は、図4に示した従来の消泡材320と同様に半二重構造を有しているので、本発明の消泡材20を内蔵したカーディオトミー部1は優れた消泡特性を有している。更に、本発明の消泡材20は、上側のみが開口した袋形状を有しているので、上側及び下側が開口した消泡材320に比べて、気泡が消泡材20に接触する可能性が高くなる。その結果、消泡特性は更に向上する。
【0076】
上述した実施形態は一例であって、本発明はこれに限定されず、種々の変更が可能である。
【0077】
上記の実施形態では、消泡材20は、上側のみが開口した袋形状を有していたが、消泡材20の形状はこれに限定されない。例えば、上側及び下側が開口した略筒形状を有していても良い。但し、上記の実施形態のような下側が閉じた袋形状は、消泡特性に関して有利である。
【0078】
上記の消泡材用材料100では、略台形状の一対の主要部110a,110bが、下底111aと下底111bとを一致させて連続していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、一対の主要部110a,110bが、斜辺113aと斜辺113b又は斜辺114aと斜辺114bを一致させて連続していても良い。この場合、消泡材用材料100は、一致させた一方の斜辺に沿って折り曲げられ、下底111a,111b同士及び他方の斜辺同士を接合して袋形状に形成することができる。
【0079】
カーディオトミー部1を構成するフィルタ10は、上記の実施形態に示した、スクリーンフィルタを含む三層積層構造のフィルタ部材をプリーツ加工し袋形状に形成したフィルタに限定されない。例えば不織布をプリーツ加工することなく袋形状に形成したフィルタであっても良い。
【0080】
上記のカーディオトミー部1では、消泡材20は樹脂板60に接着されて保持されていたが、消泡材20の保持方法はこれに限定されない。例えば、フィルタ10に対して消泡材20が下降しないように消泡材20の下端に設けられた治具で消泡材20を保持しても良い。本発明の消泡材20では、その上端の薄肉部101a,101bにて内側層22が外側層21の内側になるように折り返されているので、消泡材20の上端が樹脂板60に接着されていなくても、内側層22の位置ズレは生じにくい。
【0081】
本発明の消泡材20を含むカーディオトミー部1を内蔵する貯血槽の構成は特に限定はなく、例えば公知の貯血槽の中から適宜選択することができる。貯血槽は、静脈血と心内血とが流入する心内血貯血槽一体型静脈血貯血槽に限定されず、例えば、静脈血が流入しない心内血貯血槽であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、心肺手術等を行う際に使用される体外血液循環回路中に設けられる貯血槽に内蔵されるカーディオトミー部内に配置される消泡材として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 カーディオトミー部
10 フィルタ
20 消泡材
20D 二重部
20S 一重部
21 外側層
22 内側層
60 樹脂板
61 樹脂板に形成された貫通孔
90 導管
100 消泡材用材料
101a,101b 薄肉部
110a,110b 主要部
111a,111b 主要部の下底(第一辺)
112a,112b 主要部の上底(第二辺)
120a,120b 副部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーディオトミー部に内蔵される消泡材であって、
外側層と、前記外側層の内側に配された内側層とを備え、前記内側層が上側のみに配された半二重構造を有し、
前記外側層の上端と前記内側層の上端とが薄肉部を介して連続していることを特徴とする消泡材。
【請求項2】
上側のみが開口した袋形状を有する請求項1に記載の消泡材。
【請求項3】
前記外側層が、互いに対向するように配置された略台形状の一対の主要部を含み、
前記内側層が、略台形状の一対の副部を含む請求項1又は2に記載の消泡材。
【請求項4】
前記一対の主要部は、それぞれの4辺のうちの1辺を一致させて互いに連続し、袋形状となるように他の2辺で互いに接合されている請求項3に記載の消泡材。
【請求項5】
前記1辺は、前記袋形状の底辺をなす請求項4に記載の消泡材。
【請求項6】
略台形状の一対の主要部と略台形状の一対の副部とを含み、前記一対の主要部がそれぞれの第一辺を一致させて互いに連続し、且つ、前記一対の主要部がその第二辺を介して前記一対の副部とそれぞれ連続している消泡材用材料を得る工程と、
前記第二辺に沿って前記消泡材用材料を薄肉化する工程と、
前記消泡材用材料を、前記一対の主要部が互いに重なり合うように前記第一辺で折り曲げて、前記一対の主要部を、前記第一辺及び前記第二辺を除く2辺で接合して袋形状を有する消泡材用材料を得る工程と、
前記一対の副部が前記一対の主要部の間に位置するように、前記第二辺で前記消泡材用材料を折り返す工程とを備えることを特徴とする消泡材の製造方法。
【請求項7】
前記第二辺が、前記主要部の互いに平行な2辺のうちの長い方の辺である請求項6に記載の消泡材の製造方法。
【請求項8】
前記副部の互いに平行な2辺のうち長い方の辺が前記第二辺と一致する請求項6又は7に記載の消泡材の製造方法。
【請求項9】
前記第一辺が、前記主要部の互いに平行な2辺のうちの短い方の辺である請求項6〜8のいずれかに記載の消泡材の製造方法。
【請求項10】
前記消泡材用材料を薄肉化する工程を、前記消泡材用材料を加熱して融着させることにより行う請求項6〜9のいずれかに記載の消泡材の製造方法。
【請求項11】
前記一対の主要部を前記2辺で接合する工程を、前記消泡材用材料を加熱して融着させることにより行う請求項6〜10のいずれかに記載の消泡材の製造方法。
【請求項12】
前記第二辺で前記消泡材用材料を折り返す工程の前に、袋形状を有する前記消泡材用材料を裏返す工程をさらに備える請求項6〜11のいずれかに記載の消泡材の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図2H】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公開番号】特開2013−13598(P2013−13598A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149004(P2011−149004)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】