説明

消火設備及び消火方法

【課題】消火に寄与するミストの有効性を格段に高めた消火設備、又は消火方法を提供する。
【解決手段】消火設備100は、ミストノズル11と、ミストノズル11に対してミストの源を送給する送給手段と、ミストノズル11から噴射されるミストの粒径を調整する制御装置21とを備える。送給手段は、消火剤を貯留するタンク19、ポンプ17、ポンプ制御部18、配管10への消火剤の送給のON/OFFを切り替える開閉動作を行う手動バルブ14、電動バルブ15、バルブ制御部16、及び圧力調整バルブ13を備える。また、制御装置21は、監視装置21aと、ミストの粒径を調整する粒径制御装置21bと、ミストの噴射時間を調整する噴射時間制御装置21cとを備える。粒径制御装置21bは、ミストの粒径分布においてミスト個数の2つのピークを有するミストをミストノズル11から交互に噴射させるようにミストの粒径を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミストによる消火設備及びその消火設備による消火方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、消火のためにミストを用いる技術が複数提案されている。例えば、本願出願人が提案したプール火災の消火方法は、燃焼面の上方の複数箇所から火炎基部よりも上方の火炎中心軸に向かってウォーターミストを放射する方法である。これにより、ウォーターミストが火炎内で水蒸気になり、その水蒸気により火炎の内部の圧力が高まるため、火炎基部への酸素の流入が抑制され、その結果、消火に寄与することになる。また、本願出願人が別に提案したプール火災の消火方法においても、ウォーターミストによるプール火災の消火方法が提案されている。
【特許文献1】特開2007−244723号公報
【特許文献2】特開2007−307096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のとおり、火炎による熱の吸収を容易にして蒸発を促進させるために、火炎に対して消火剤の連続的な棒状放射の代わりにそのミストを噴射する方法が消火に対して有効である。また、ミストによる消火は、前述のような消火剤の連続的な放射とは異なり、周辺環境への影響が少ないため、将来的に非常に有望な消火手段の一つと言える。しかしながら、従来の技術では、ウォーターミストが火炎内で水蒸気になって火炎への酸素の流入を抑制したとしても、火災による燃料面の温度上昇が可燃性ガスの発生を促すと消火を阻害する可能性がある。従って、ミストを更に有効かつ適切に活用する消火設備又は消火方法が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上述の各技術課題を同時に解決することにより、ミストによる消火効果の更なる向上に貢献するものである。本発明者らは、ミストを用いた消火設備及び消火方法について鋭意研究を行った結果、ミストが、従来果たしていた役割に新たな役割を加えることにより、消火に寄与するミストの有効性が格段に高まることを知見した。すなわち、本発明者らは、火炎内で蒸気化させることに加え、火炎内で蒸気化させずに直接燃料面に到達させるミストを用いることが消火に非常に有効であることを見出した。本発明は上述のような視点から創出された。
【0005】
本発明の1つの消火設備は、ミストの粒径分布において2つのミスト個数のピークを有し、且つそれらのピークのうち一方のピークの粒径のミストを含むミストとそのピークのうち他方のピークの粒径のミストを含むミストとを交互に噴射するミストノズルと、そのミストノズルにそのミストの源を送給する送給装置とを備えている。その上で、前述の一方のピークの粒径のミストは、火炎内で蒸気化するとともに、前述の他方のピークの粒径のミストは、火炎高温部分を通過して燃料面に到達する。
【0006】
この消火設備によれば、前述の一方のピークの粒径のミストが火炎内で蒸気になり、その蒸気により火炎の内部の圧力が高まるため、火炎内への酸素の流入が抑制される。また、前述の他方のピークの粒径のミストが火炎高温部分を通過した後、燃料面に到達することによって燃料面を冷却するため、燃料面の温度上昇による可燃性ガスの発生が抑制される。この複合的なミストの作用により、消火に寄与するミストの有効性を更に高めることができる。加えて、この消火設備のミストノズルは、前述の一方のピークの粒径のミストを含むミストと、前述の他方のピークの粒径のミストを含むミストとを交互に噴射することができるため、複数のミストノズルを備えることを要しない。このため、装置の大幅なコスト削減が達成される。
【0007】
本発明のもう1つの消火設備は、ミストの粒径分布において2つのミスト個数のピークを有し、且つそれらのピークのうち一方のピークの粒径のミストを含むミストとそのピークのうち他方のピークの粒径のミストを含むミストとを交互に噴射するミストノズルと、そのミストノズルに前記ミストの源を送給する送給手段とを備えている。その上で、前述のミストノズルから噴射された直後のミストの粒径をd、そのミストノズルから噴射されたミストの火炎高温部分への流入速度をv、蒸発速度係数をkとしたときに、前述の一方のピークの粒径のミストのdは、(k×v×10−21/2以下であり、前述の他方のピークの粒径のミストのdは、(k×v×10−21/2よりも大きい。
【0008】
この消火設備によれば、d≦(k×v×10−21/2を満足する粒径のミストが火炎内で蒸気になる。加えて、d>(k×v×10−21/2を満足する粒径のミストが火炎高温部分を通過するため相当量のミストが燃料面に到達する。ここで、d=(k×v×10−21/2は、火炎高温部分において、噴射されたミストが蒸気に状態変化する条件となるdとvとの関係式である(図2参照)。従って、前述の一方のピークの粒径のミストが火炎内で蒸気になり、その蒸気により火炎の内部の圧力が高まるため、火炎内への酸素の流入が抑制される。また、前述の他方のピークの粒径のミストが火炎高温部分を通過した後、燃料面に到達することによって燃料面を冷却するため、燃料面の温度上昇による可燃性ガスの発生が抑制される。この複合的なミストの作用により、消火に寄与するミストの有効性を更に高めることができる。加えて、この消火設備のミストノズルは、前述の一方のピークの粒径のミストを含むミストと、前述の他方のピークの粒径のミストを含むミストとを交互に噴射することができるため、複数のミストノズルを備えることを要しない。このため、装置の大幅なコスト削減が達成される。
【0009】
本発明の1つの消火方法は、ミストの粒径分布において2つのミスト個数のピークを有するミストを噴射する消火方法であって、それらのピークのうち一方のピークの粒径のミストを含むミストとそれらのピークのうち他方のピークの粒径のミストを含むミストとを1つのミストノズルで交互に噴射することにより、その一方のピークの粒径のミストを含むミストを火炎内で蒸気化させ、その他方のピークのミストを含むミストを火炎高温部分を通過させたのち燃料面に到達させる。
【0010】
この消火方法によれば、前述の一方のピークの粒径のミストが火炎内で蒸気になり、その蒸気により火炎の内部の圧力が高まるため、火炎内への酸素の流入が抑制される。また、前述の他方のピークの粒径のミストが火炎高温部分を通過した後、燃料面に到達することによって燃料面を冷却するため、燃料面の温度上昇による可燃性ガスの発生が抑制される。この複合的なミストの作用により、消火に寄与するミストの有効性を更に高めることができる。加えて、この消火設備のミストノズルは、前述の一方のピークの粒径のミストを含むミストと、前述の他方のピークの粒径のミストを含むミストとを交互に噴射することができるため、複数のミストノズルを備えることを要しない。このため、装置の大幅なコスト削減が達成される。
【0011】
尚、本出願において「燃料面」とは、前述の可燃物の最表面を意味する。なお、この「燃料面」は「燃焼面」と呼ばれることもある。また、「火炎基部領域」とは、燃料面の表面からその鉛直上方300mm以下の柱状空間領域を意味する。また、本出願において「火炎高温部分」とは、火炎の最外縁部から火炎内側に向かって約10mmの層状領域を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の1つの消火設備によれば、一方のピークの粒径のミストが火炎内で蒸気になり、火炎内への酸素の流入が抑制されるだけでなく、他方のピークの粒径のミストが燃料面を冷却するため、燃料面の温度上昇による可燃性ガスの発生が抑制される。この複合的なミストの作用により、消火に寄与するミストの有効性を更に高めることができる。加えて、この消火設備のミストノズルは、前述の一方のピークの粒径のミストを含むミストと、前述の他方のピークの粒径のミストを含むミストとを交互に噴射することができるため、複数のミストノズルを備えることを要しない。このため、装置の大幅なコスト削減が達成される。
【0013】
また、本発明の1つの消火方法によれば、一方のピークの粒径のミストが火炎内で蒸気になり、火炎内への酸素の流入が抑制されるだけでなく、他方のピークの粒径のミストが燃料面を冷却するため、燃料面の温度上昇による可燃性ガスの発生が抑制される。この複合的なミストの作用により、消火に寄与するミストの有効性を更に高めることができる。加えて、この消火設備のミストノズルは、前述の一方のピークの粒径のミストを含むミストと、前述の他方のピークの粒径のミストを含むミストとを交互に噴射することができるため、複数のミストノズルを備えることを要しない。このため、装置の大幅なコスト削減が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。尚、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしもスケール通りに示されていない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略されうる。
【0015】
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態における消火設備100を示す構成図である。
【0016】
図1に示す消火設備100は、ミストノズル11と、ミストノズル11に対して消火剤を送給する送給手段と、ミストノズル11から噴射されるミストの粒径や噴射時間を調整する制御装置21とを備える。
【0017】
本実施形態の送給手段は、ミストの源である消火剤(本実施形態では水)を貯留するタンク19、ポンプ17、ポンプ制御部18、配管10への消火剤の送給のON/OFFを切り替える開閉動作を行う手動バルブ14及び電動バルブ15、バルブ制御部16、及び圧力調整バルブ13を備える。
【0018】
また、本実施形態の制御装置21は、火炎2の状態を監視する監視装置21aと、ミストノズル11から噴射されるミストの粒径を調整する粒径制御装置21bと、ミストノズル11から噴射されるミストの噴射時間を調整する噴射時間制御装置21cとを備える。
【0019】
また、本実施形態のミストノズル11として、公知の種々のミストノズルが適用できる。また、本実施形態のミストノズルの代わりに、既に出願人が特願2007−235227号の中で提案している薄型ミストノズルを採用することも好ましい一態様である。さらに、その他の例として、特開2004−135742号公報に記載の消火器と同じ原理でミストを噴射させることもできる。また、ミストノズル11及び配管10は、耐熱性や耐圧性の観点からSUS304で形成されることが好ましい。また、本実施形態では、ミストノズル11が配管10に公知の技術により螺合、接着、又は接合(以下、これらを総称して接続という)している。
【0020】
上述の構成により、タンク19内の消火剤は、バルブ制御部16からの信号による電動バルブ15又は手動バルブ14の「開」動作と、ポンプ制御部18からの信号によるポンプ17の送給動作によって、配管10に送給される。加えて、制御装置21によって調整されたミストの粒径及びミストの噴射時間で、ミストノズル11からミストが噴射される。尚、上述のバルブ制御部16及び制御装置21は、公知の制御装置及び制御プログラムが適用される。
【0021】
監視装置21aは、例えば、CCDカメラ、公知の炎センサ、及び公知の温度センサにより構成されても良い。制御装置21は、この監視装置21aにより撮像された燃料面1及び火炎2の映像、光の波長、温度等を解析し、火炎高温部分の大きさ、燃料面の温度、火炎高温部分を通過するミストの量や燃料面に到達するミストの量を公知の手段により計測する機能を有している。
【0022】
粒径制御装置21bは、ミストの粒径分布においてミスト個数の2つのピークを有する消火剤を含むミストを1つのミストノズル11から交互に噴射させるようにミストの粒径を調整する。ここで、ミストの粒径分布において一方のピークの粒径がd≦(k×v×10−21/2を満足し、他方のピークの粒径がd>(k×v×10−21/2を満足する。尚、ミストノズルから噴射された直後のミストの粒径をd、前記ミストノズルから噴射されたミストの火炎高温部分への流入速度をv、蒸発速度係数をkとする。
【0023】
ここで、蒸発速度係数kは、以下の式[数1]により表されるものとする。但し、Nuはヌセルト数、Tgは火炎高温部分の平均温度、Twはミスト内部の平均温度、ρwはミストの密度、cwは水蒸気の平均定圧比熱、Lはミストの蒸発潜熱、λgは水蒸気層(80%の水蒸気を含む空気)の熱伝導率、λgsは水の熱伝導率とする。
【0024】
【数1】

【0025】
ところで、粒径制御装置21bによる調整は、配管10に供給される消火剤に対し、圧力の異なる不活性ガス(本実施形態では、窒素)を混入することにより行われても良い。ここで、消火剤と窒素とを混合させるためには、窒素の送給圧力を、少なくとも消火剤の送給圧力よりも大きくする必要があると考えられる。例えば、これまでの発明者らによる実験結果から、消火剤の送給圧力を0.2MPaとし、窒素の送給圧力を0.25MPa〜0.4MPaとすることが好ましいことが分かっている。上記のような送給圧力であれば、ミストの粒径分布において一方のピークの粒径がd≦(k×v×10−21/2を満足し、他方のピークの粒径がd>(k×v×10−21/2を満足するためである。尚、消火剤の送給圧力を0.2MPaとする場合に、窒素の送給圧力を0.2MPa以下とすると、消火剤に対して窒素を混合することができず、ミストノズル11から消火剤のみが噴射される結果となった。一方、消火剤の送給圧力を0.2MPaとする場合に、窒素の送給圧力を0.4MPaを超える値にすると、ミストノズル11から窒素のみが噴射される結果となった。なお、本実施形態では、不活性ガスとして窒素が選択されているが、これに限定されない。例えば、代替の不活性ガスとして、アルゴンや二酸化炭素も適用できる。
【0026】
ここで、所定の送給圧力の消火剤と所定の送給圧力の窒素とを混合することにより、ミストノズル11から、ミストの粒径分布において2つのミスト個数のピークを有する消火剤を含むミストが噴射される理由として、以下の理由が考えられる。
【0027】
配管10内で混合された消火剤と窒素とは、ミストノズル11内で再び消火剤と窒素とに分離され、消火剤と窒素とが交互に送給されると考えられる。このとき、ミストノズル11内での消火剤の圧力が窒素の圧力よりも大きくなっていると考えられる。従って、ミストノズル11から窒素が噴射されようとするときに、窒素の後方に位置する消火剤が窒素を押圧する。これにより、窒素の圧力がミストノズル11の外部の大気圧よりも大きくなる。他方、ミストノズル11から窒素が噴射されようとするときに、ミストノズル11に残留する消火剤が巻き込まれて、窒素とともに噴射される。この結果、ミストノズル11から噴射される際に膨張して大気中に拡散される窒素とともに、巻き込まれて噴射された消火剤が細分化された状態で拡散される。他方、その窒素と残留する消火剤が噴射された後、それに続く消火剤のみが噴射される際には、上述のような窒素による影響がないため、比較的大きな粒径のミストが噴射されることになる。このようにして、所定の送給圧力の消火剤と所定の送給圧力の窒素とを混合することにより、ミストノズル11から、ミストの粒径分布において2つのミスト個数のピークを有する消火剤を含むミストが噴射されると考えられる。
【0028】
また、噴射時間制御装置21cは、d≦(k×v×10−21/2を満足するミストを含むミストの噴射時間と、d>(k×v×10−21/2を満足するミストを含むミストの噴射時間とを制御する。
【0029】
粒径制御装置21bの具体的な働きは以下の通りである。例えば、制御装置21により、火炎(特に火炎基部領域)への酸素の流入量が多いと判断された場合には、d≦(k×v×10−21/2を満足するミストを含むミストを噴射させる。また、制御装置21により、燃料面1の温度が燃料面1を通じた火炎2の転移速度を速めるに十分又は多量の可燃性ガスを発生させるに十分であると判断された場合には、d>(k×v×10−21/2を満足するミストを含むミストを噴射させるように制御しても良い。
【0030】
また、噴射時間制御装置21cの具体的な働きは以下の通りである。例えば、制御装置21により、火炎(特に火炎基部領域)への酸素の流入量が多いと判断された場合には、d≦(k×v×10−21/2を満足するミストを含むミストの噴射時間を長くさせる。また、制御装置21により、燃料面1の温度が燃料面1を通じた火炎2の転移速度を速めるに十分又は多量の可燃性ガスを発生させるに十分であると判断された場合には、d>(k×v×10−21/2を満足するミストの噴射時間を長くさせるように制御しても良い。
【0031】
以下、ミストの粒径分布においてミスト個数の複数のピークを有する消火剤を含むミストをミストノズル11から噴射させる理由について、説明する。
【0032】
図2は、火炎高温部分を通過する際に全てが蒸発するためのミストの粒径とミストの初速度との関係を示す図である。尚、図2のミストの粒径dとミストの初速度vとの関係は、d=(k×v×10−21/2を満足する。また、図2における蒸発速度係数kは、ヌセルト数Nu≒2.3、火炎高温部分の平均温度Tgを1200(K)、ミスト内部の平均温度Twを320(K)、ミストの密度ρwを989.47(kg/m)、水蒸気の平均定圧比熱cwを2.124(kJ/(kg・K))、ミストの蒸発潜熱Lを2257(kJ/kg)、水蒸気層(水蒸気を含む空気)の熱伝導率λgを59.96(mW/(m・K))、水の熱伝導率λgsを24.70(mW/(m・K))として計算される。
【0033】
この図2に示すように、d≦(k×v×10−21/2を満足するミストは、火炎高温部分を通過する際に略全てが蒸発すると考えられる。このように、d≦(k×v×10−21/2を満足するミストが火炎2内で水蒸気になると、火炎2内の圧力が高まる。これにより、火炎2内への酸素の流入を抑制することができる。
【0034】
一方、d>(k×v×10−21/2を満足するミストは、火炎高温部分を通過する際に全てが蒸発せず、火炎高温部分を通過して火炎2内部に突入すると考えられる。尚、火炎2内部において火炎高温部分の内側は比較的低温であるため、火炎高温部分を通過したミストはその多くが燃料面に到達する。これにより、ミストにより直接燃料面を冷却することができる。これにより、燃料面1の温度上昇による可燃性ガスの発生が抑制される。
【0035】
ところで、d>(k×v×10−21/2を満足するミストが火炎高温部分を通過することにより、ミスト自体が周囲の空気(特に酸素)を巻き込んで火炎(特に火炎基部領域)内に酸素を流入させ、火炎(特に火炎基部領域)内を不安定な状態にさせる危険性を有する。但し、ミスト自体が周囲の空気(特に酸素)を巻き込んで火炎(特に火炎基部領域内)に酸素を流入させるためには、ミストの火炎2内部に突入する際の速度が0.3m/s以上であることが必要であると考えられる。このため、d>(k×v×10−21/2を満足するミストの火炎2内部に突入する際の速度が0.3m/s未満であることが好ましい。さらに、図2に示すように、d>(k×v×10−21/2を満足するミストが0.3m/s未満であるためには、45μmを超える粒径であることが好ましい。
【0036】
<第2の実施形態>
図3は、本実施形態における消火設備200を示す構成図である。
【0037】
第2の実施形態における消火設備200は、第1の実施形態における消火設備100の制御装置21に換えて窒素送給手段220を備える点で、第1の実施形態における消火設備100と異なる。その他の構成は、特に言及が無いかぎり第1の実施形態と同じである。
【0038】
本実施形態の窒素送給手段220は、ミストノズル11に送給される消火剤に対して、窒素を送給するものである。この窒素送給手段220は、窒素を貯留する窒素タンク221、配管10への窒素の送給のON/OFFを切り替える開閉動作を行う手動バルブ214、及び圧力調整バルブ213を備える。
【0039】
これらの構成により、タンク19内の消火剤は、バルブ制御部16からの信号による電動バルブ15又は手動バルブ14の「開」動作と、ポンプ制御部18からの信号によるポンプ17の送給動作によって、配管10に送給される。一方、窒素タンク221内の窒素は、手動バルブ214の「開」動作によって、配管10に送給される。これにより、配管10内で、消火剤と窒素とが混合される。その結果、ミストノズル11から、ミストの粒径分布において2つのミスト個数のピークを有する消火剤を含むミストが噴射される。さらに、ピークのうち一方のピークの粒径のミストと他方のピークの粒径のミストとが所定時間毎に交互に噴射される。
【0040】
ところで、上述した第1の実施形態においては、監視装置21aを備える構成を採用しているが、監視装置21aを備えず、操作者の目視により、火炎高温部分の大きさ、火炎高温部分を通過するミストの量や燃料面に到達するミストの量等を監視する構成を採用しても良い。
【0041】
また、上述した第1の実施形態においては、ミストの粒径を調整する粒径制御装置21bとミストの噴射時間を調整する噴射時間制御装置21cとの双方を備える構成を採用しているが、ミストの粒径を調整する粒径制御装置21bとミストの噴射時間を調整する噴射時間制御装置21cとのうち何れか一方を備える構成を採用しても良い。
【0042】
また、上述した第1の実施形態においては、ミストの粒径分布において一方のピークの粒径がd≦(k×v×10−21/2を満足し、他方のピークの粒径がd>(k×v×10−21/2を満足するように制御する構成を採用しているが、このような複雑な計算を必要とせず、単に監視装置21aと粒径制御装置21bとを利用したフィードバック制御により制御する構成を採用しても良い。より詳細には、例えば、ミストの粒径分布において小さい方のピークの粒径のミストが火炎高温部分を通過する割合が高い場合には、ピークの粒径を更に小さく調整し、ミストの粒径分布において大きい方のピークの粒径のミストが燃料面に到達する割合が低い場合には、ピークの粒径を更に大きく調整しても良い。
【0043】
また、上述した実施形態においては、消火剤を水としていたが、これに限定されない。例えば、公知のアルカリ性強化液が添加された水や、中性強化液等の公知の消火薬液、界面活性剤、及びエタノール等のアルコール類の群から選ばれた少なくとも一種類を添加剤として含む水であっても良い。但し、人体に悪影響を与えない液体(例えば、水やエタノール含有水)が選択されることが非常に好ましい。その中でも、水は、その準備の容易性及び人体への影響を考慮すると最も好ましい。
【0044】
また、上述した第1の実施形態においては、ミストの粒径分布においてミスト個数の2つのピークを有するミストをミストノズル11から噴射させる構成を採用しているが、ミストの粒径分布において3以上のピークを有する消火剤を含むミストをミストノズル11から順次噴射させる構成を採用しても良い。
【0045】
さらに、上述した第2の実施形態においては、圧力調整バルブ13、213を備える構成を採用しているが、圧力調整バルブ13、213を備えない構成を採用しても良い。但し、この場合は、消火剤の送給圧力と窒素の送給圧力とを予め所定値に設定しておく必要がある。
【実施例1】
【0046】
つぎに、本発明の実施例と比較例とを比較して、本発明の効果を説明する。表1は、本発明の実施例と、比較例とのミストの粒径とミストの初速度とを示している。また、図5は、本実施例で用いられたミストの粒径分布を概念的に示した図である。なお、図5における破線は、説明の便宜上設けられたものである。また、図5におけるdは、d=(k×v×10−21/2の意味である。なお、本実施例及び各比較例では、消火剤の送給圧力はいずれも0.2MPaである。また、消火対象は、いずれも、直径700mmの有底円筒形状のプール(槽)内に収められたn−ヘプタンである。
【0047】
【表1】

【0048】
表1及び図5に示すように、実施例1は、ミストの粒径分布において2つのミスト個数のピークを有する消火剤を含むミストを噴射する。この実施例1では、ミストの粒径分布において粒径がd≦(k×v×10−21/2を満足する一方のピークの粒径が44.4(μm)であり、そのミストの初速度が0.30(m/s)であった。また、粒径がd>(k×v×10−21/2を満足する他方のピークの粒径は46.9(μm)であり、そのミストの初速度は0.39(m/s)であった。また、比較例1乃至比較例4で用いられたミストは、その粒径分布において、d<(k×v×10−21/2又はd>(k×v×10−21/2のいずれか一方のみの範囲における単一のミスト個数のピークを有している。比較例1では、ミストの粒径分布におけるピークの粒径が52.9(μm)であり、そのミストの初速度が0.54(m/s)であった。また、比較例2では、ミストの粒径分布におけるピークの粒径が58.3(μm)であり、そのミストの初速度が0.69(m/s)であった。また、比較例3では、ミストの粒径分布におけるピークの粒径が35.6(μm)であり、そのミストの初速度が0.84(m/s)であった。そして、比較例4では、ミストの粒径分布におけるピークの粒径が56.0(μm)であり、そのミストの初速度が0.94(m/s)であった。
【0049】
この実施例1、及び比較例1乃至比較例4のミストを噴射した結果、実施例1では、約30秒で消火されたが、比較例1乃至比較例4では、調査時間内(約2分)では消火することができなかった。
【0050】
ここで、実施例1において、d≦(k×v×10−21/2を満足する粒径をピークの粒径とするミストは、d≒0.69×(k×v×10−21/2である。また、d>(k×v×10−21/2を満足する粒径をピークの粒径とするミストのdの上限は、上述のとおり、ミストが火炎高温部分を通過することが出来ればよいため特に定められないが、消費される消火剤の量を低減する観点から、d≦5.0×(k×v×10−21/2を満たすことが好ましい。従って、図4の点線(a)及び(b)で示すように、d≦(k×v×10−21/2を満足する粒径をピークの粒径とするミストは、好ましくは、d≧0.69×(k×v×10−21/2である。また、d>(k×v×10−21/2を満足する粒径をピークの粒径とするミストは、好ましくは、d≦5.0×(k×v×10−21/2であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、種々の火災に対する消火設備又は消火方法として広く利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の1つの実施形態における消火設備を示す構成図である。
【図2】火炎高温部分を通過する際に全てが蒸発するためのミストの粒径とミストの初速度との関係を示す図である。
【図3】本発明の他の実施形態における消火設備を示す構成図である。
【図4】噴射されるミストの粒径とミストの火炎高温部分への流入速度との関係の好ましい範囲を示す図である。
【図5】本発明の1つの実施例におけるミストの粒径分布を概念的に示した図である。
【符号の説明】
【0053】
1 燃料面
2 火炎
10 配管
11 ミストノズル
13,213 圧力調整バルブ
14,214 手動バルブ
15 電動バルブ
16 バルブ制御部
17 ポンプ
18 ポンプ制御部
19 タンク
21 制御装置
21a 監視装置
21b 粒径制御装置
21c 噴射時間制御装置
100,200 消火設備
220 窒素送給手段
221 窒素タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミストの粒径分布において2つのミスト個数のピークを有し、かつ前記ピークのうち一方のピークの粒径のミストを含むミストと前記ピークのうち他方のピークの粒径のミストを含むミストとを交互に噴射するミストノズルと、
前記ミストノズルに前記ミストの源を送給する送給装置とを備え、
前記一方のピークの粒径のミストは、火炎内で蒸気化し、
前記他方のピークの粒径のミストは、火炎高温部分を通過して燃料面に到達する
消火設備。
【請求項2】
ミストの粒径分布において2つのミスト個数のピークを有し、かつ前記ピークのうち一方のピークの粒径のミストを含むミストと前記ピークのうち他方のピークの粒径のミストを含むミストとを交互に噴射するミストノズルと、
前記ミストノズルに前記ミストの源を送給する送給手段とを備え、
前記ミストノズルから噴射された直後のミストの粒径をd、前記ミストノズルから噴射されたミストの火炎高温部分への流入速度をv、蒸発速度係数をkとしたときに、
前記一方のピークの粒径のミストのdは、(k×v×10−21/2以下であり、
前記他方のピークの粒径のミストのdは、(k×v×10−21/2よりも大きい
消火設備。
【請求項3】
前記一方のピークの粒径のミストを含むミストの噴射時間と、前記他方のピークの粒径のミストを含むミストの噴射時間とを制御する噴射時間制御装置をさらに備える
請求項1又は請求項2に記載の消火設備。
【請求項4】
前記ミストの粒径を制御する粒径制御装置をさらに備える
請求項1又は請求項2に記載の消火設備。
【請求項5】
前記ミストの源に不活性ガスを混入することにより、前記一方のピークの粒径のミストを含むミストの噴射時間と、前記他方のピークの粒径のミストを含むミストの噴射時間とを制御する噴射時間制御装置と、
前記ミストの源に不活性ガスを混入することにより、前記ミストの粒径を制御する粒径制御装置とをさらに備える
請求項1又は請求項2に記載の消火設備。
【請求項6】
前記ミストの源が水である
請求項1又は請求項2に記載の消火設備。
【請求項7】
ミストの粒径分布において2つのミスト個数のピークを有するミストを噴射する消火方法であって、
1つのミストノズルで前記ピークのうち一方のピークの粒径のミストを含むミストと前記ピークのうち他方のピークの粒径のミストを含むミストとを交互に噴射することにより、前記一方のピークの粒径のミストを含むミストを火炎内で蒸気化させ、前記他方のピークのミストを含むミストを火炎高温部分を通過させたのち燃料面に到達させる
消火方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−285348(P2009−285348A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143658(P2008−143658)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(391008320)株式会社初田製作所 (78)
【出願人】(501103619)
【Fターム(参考)】