説明

消石灰水溶液の製造方法

【課題】 大型の溶解槽を用いる場合であっても、消石灰水溶液中への固体消石灰の混入を抑制し得る消石灰水溶液の製造方法を提供すること。
【解決手段】 好適な実施形態の消石灰水溶液の製造方法においては、溶解槽、流動層高抑制装置、攪拌翼及び消石灰水溶液抜出部材を備える消石灰水溶液製造装置を用いる。この方法においては、下側の領域から溶解槽の内部に水を供給する工程と、下側の領域に収容された固体消石灰と水とを攪拌翼により攪拌して消石灰水溶液を得る工程と、上側の領域に移動した消石灰水溶液を、消石灰水溶液抜出部材を経由して溶解槽の外側に抜き出す工程とを実施する。そして、流動層高抑制装置及びそれよりも下側の領域に含まれる固体消石灰の質量/水の体積の比を16kg/m以下とし、消石灰の溶解率が0.90以下となるように調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消石灰水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水道水の赤水防止技術としては、苛性ソーダ注入法、ソーダ灰注入法、消石灰注入法等が知られている。近年では、消石灰を粉体としてではなく水溶液として注入する技術が開発されて大規模な装置への適用が容易となったこと等により、消石灰注入法が、浄水場等において広く採用されつつある。また、下水処理方法としては、消石灰水溶液を下水に注入して下水中のリンを処理する方法も検討されている。
【0003】
このような消石灰水溶液は、溶解槽内に固体の消石灰を導入した後、槽下部から水を給水しながらこれらを攪拌して流動層を形成し、これにより得られた消石灰水溶液を槽上部から抜き出す方法によって製造されるのが一般的である。しかし、この方法においては、給水速度(槽内における水の上昇速度)を過度に大きくすると流動層が高くなるため、消石灰水溶液中に未溶解の固体消石灰が混入し易い傾向にあった。このように、上記従来の方法では、消石灰水溶液を大量に製造するのが困難な傾向にあった。
【0004】
そこで、上記方法を改良して消石灰水溶液の大量製造を可能にする方法としては、円筒型または角筒型の溶解槽、この溶解槽の下部に給水管、溶解槽内底部に攪拌翼及び上部に消石灰水溶液抜き出し管を有し、かつ、この溶解槽内の攪拌翼よりも上部に消石灰水溶液流動層高抑制装置が取り付けられている消石灰溶解装置に、水を張った後、消石灰を充填し、攪拌しながら、給水管より槽上部の円筒型又は角塔型部分における水上昇速度が0.25〜1.2mm/sとなる量の水を供給して消石灰水溶液抜き出し管から消石灰水溶液を抜き出す方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
この流動層高抑制装置は、液体を通しながら固体の上昇を抑制することができる機能を有している。このため、上記方法においては、流動層高抑制装置によって流動層の上昇を抑制することができ、その結果、給水速度を速めた場合であっても、消石灰水溶液中に固体消石灰が混入することが少なくなる。
【0006】
ところが、溶解槽内部にこのような流動層高抑制装置が設けられていたとしても、例えば、流動層高抑制装置の内部で偏流が生じて局所的に水の上昇速度が過大となった場合等には、この水流に同伴して固体消石灰が流動層高抑制装置よりも上側にまで流れ込み、これにより消石灰水溶液中に固体消石灰が混入してしまうことがあった。
【0007】
そこで、流動層高抑制装置内に生じる偏流の発生を抑制するために、流動層高抑制装置と攪拌翼との間に整流装置を設けることが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−68982号公報
【特許文献2】特開平7−149518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年では、消石灰水溶液の利用の増加に伴って、より大量の消石灰水溶液を一度に製造することを可能とするために、上記構造の消石灰水溶液の製造装置における溶解槽を大型化することが検討されている。しかしながら、溶解槽内の偏流は、当該溶解槽が大型化すればするほど、具体的には、溶解槽の水平断面積が9m(3m×3m)程度以上となると発生し易くなる。このため、大量製造に対応するために溶解槽を大型化した場合は、消石灰水溶液への固体消石灰の混入が顕著となる傾向にあった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、大型の溶解槽を用いる場合であっても、消石灰水溶液中への固体消石灰の混入を抑制し得る消石灰水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の消石灰水溶液の製造方法は、溶解槽と、この溶解槽内に設けられた複数の傾斜部材からなる流動層高抑制装置と、溶解槽内の流動層高抑制装置よりも下側の領域に配置された攪拌翼と、溶解槽内の流動層高抑制装置よりも上側の領域に設置された消石灰水溶液抜出部とを備える消石灰水溶液製造装置を用いて消石灰水溶液を製造する方法であって、下側の領域から溶解槽の内部に水を供給する工程と、下側の領域に収容された固体消石灰と水とを攪拌翼により攪拌して消石灰水溶液を得る工程と、上側の領域に移動した消石灰水溶液を、消石灰水溶液抜出部を経由して溶解槽の外部に抜き出す工程とを含み、流動層高抑制装置及び流動層高抑制装置よりも下側の領域に含まれる固体消石灰の質量/水の体積の比を16kg/m以下とするとともに、消石灰の溶解率が0.90以下となるように調節することを特徴とする。ここで、消石灰の溶解率とは、溶解槽中に収容された固体消石灰が、水に溶解した割合をいうものとする。
【0012】
上記本発明の消石灰水溶液の製造方法においては、まず、溶解槽内に流動層高抑制装置が設けられているため、当該流動層高抑制装置よりも上側の領域への固体消石灰の上昇を抑制することが可能となる。
【0013】
また、流動層高抑制装置内及びそれよりも下側の領域における水の量に対する固体消石灰の量を上記特定量とすることで、溶解槽中に過剰量の固体消石灰が存在しないようにすることができる。このように、本発明の消石灰水溶液の製造方法においては、固体消石灰の上昇を抑えることで、消石灰水溶液中への固体消石灰の混入を大幅に抑制することが可能となる。このため、大量製造のために溶解槽を大容量化したとしても、消石灰水溶液中への固体消石灰の混入を少なくすることができる。
【0014】
さらに、上記本発明の消石灰水溶液の製造方法においては、消石灰の溶解率が0.90以下となるように調節している。溶解槽に供給された固体消石灰は、溶解槽の内部で、さらに溶解槽内に供給される水に溶解され、ほぼ一定濃度の消石灰水溶液として溶解槽外に取り出される。したがって、消石灰水溶液の製造を続けると、溶解槽内に固体消石灰が残存しているうちは固体消石灰が徐々に溶解され、これに伴って消石灰の溶解率が徐々に増大していくことになる。ところが、本発明者らが検討を行った結果、消石灰の溶解率が0.90を超えると、得られる消石灰水溶液の濃度が急激に低下することが判明した。製造される消石灰水溶液の濃度が急激に変化すると、赤水防止等の用途に用いる際、消石灰水溶液の使用量の制御が極めて困難となるため、消石灰水溶液はできるだけ一定の濃度で製造することが好ましい。そこで、本発明においては、上述のように消石灰の溶解率を0.90以下となるように調節している。これにより、所定の濃度の消石灰水溶液を安定的に得ることが可能となる。こうして得られた消石灰水溶液は、上下水の処理等の用途に対して好適となる。
【0015】
また、本発明において、溶解槽の水平断面積が9m以上であると好ましい。上記のように、本発明によれば、固体消石灰の上昇を抑制するとともに、所定の濃度の消石灰水溶液を安定的に得ることができるので、特に、水平断面積が9m以上であるような大型の溶解槽を用いて大量の消石灰水溶液を製造する場合に、本発明の消石灰水溶液の製造方法は特に好適である。
【0016】
さらに、本発明においては、消石灰水溶液抜出部が、複数の抜き出し部を有しており、この複数の抜き出し部を経由して溶解槽から消石灰水溶液を抜き出すと好ましい。この場合、1箇所から抜き出す従来の消石灰水溶液製造装置に比べて、溶解槽内で上昇する水流の速度を均一化することができ、これにより溶解槽内における偏流の発生を抑制することができる。その結果、消石灰水溶液への固体消石灰の混入をさらに効果的に抑制することができるようになる。
【0017】
上記本発明の消石灰水溶液の製造方法においては、上記攪拌翼を、0.1〜0.5m/秒の周速度で回転させることが好ましい。ここで、周速度とは、攪拌翼の先端が走行する速度をいうものとする。このような周速度で攪拌翼を回転させると、固体消石灰と水との混合を良好に行いつつ、溶解槽内における偏流の発生を抑制することができる。その結果、消石灰水溶液中への固体消石灰の混入を更に効果的に低減することが可能となる。
【0018】
上記流動槽高抑制装置は、溶解槽の延び方向に直交する平面に対して45〜75°傾斜して設けられ、且つ、隣接するもの同士が10〜50mm離間して配置された複数の傾斜板からなるものであると更に好ましい。このような傾斜板は、これらの間を通る溶液中に含まれる固体成分である固体消石灰を効率よく沈降し得るものである。このため、かかる傾斜板を備える溶解槽内においては、これらよりも上側の上部領域への固体消石灰の上昇が極めて生じ難くなる。したがって、上記構成を採用すれば、消石灰水溶液中への固体消石灰の混入を一層抑制することが可能となる。
【0019】
また、本発明の消石灰水溶液の製造方法においては、上記消石灰水溶液抜出装置が、底面と、この底面に連接しており複数の抜き出し部を有する側面とを有する樋状部材を備えており、この抜き出し部は、溶解槽における消石灰水溶液の通過水平断面積1m2あたり10〜30個設けられていることが好ましい。こうすることで、溶解槽内部の消石灰水溶液を多数の抜き出し部から均一に抜き出すことができる。これにより、溶解槽内の偏流を抑制することが可能となり、消石灰水溶液の更なる大量製造が可能となる。
【0020】
より具体的には、上記消石灰水溶液の製造方法においては、抜き出し部は、側面の上部に設けられた切り欠きからなり、消石灰水溶液中に底面側から消石灰水溶液抜出装置を浸漬し、上記切り欠きから消石灰水溶液を溢れさせることにより、溶解槽の内部から消石灰水溶液を抜き出すことが好ましい。かかる構成とすることで、溶解槽のなかでも上層部に存在する消石灰水溶液を抜き出すことが可能となる。これにより、消石灰水溶液中への固体消石灰の混入を一層低減することができる。
【0021】
より具体的には、消石灰水溶液抜出装置に形成された切り欠きは、三角堰であると一層好ましい。切り欠きを三角堰とすることによって、各三角堰からの消石灰水溶液の抜き出し量の制御が容易となり、これにより全体として均一な抜き出しが可能となって、溶解槽内の偏流を更に効果的に抑制することができるようになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、大型の溶解槽を用いる場合であっても、消石灰水溶液中への固体消石灰の混入を抑制し得る消石灰水溶液の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る消石灰水溶液製造装置の断面構成を模式的に示す図である。
【図2】消石灰水溶液抜出装置の平面図である。
【図3】図2に示す消石灰水溶液抜出装置のIII−III方向断面図である。
【図4】消石灰水溶液抜出装置に設けられた切り欠き30(抜き出し部)を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、全図を通じ、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、上下左右等の表記は、図面の位置関係に基づくものとする。
【0025】
まず、図1及び図2を参照して、好適な実施形態に係る消石灰水溶液製造方法に用いる消石灰水溶液製造装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る消石灰水溶液製造装置の断面構成を模式的に示す図である。消石灰水溶液製造装置10は、溶解槽12と、溶解槽12内部に配置された攪拌翼18及び流動層高抑制装置14と、溶解槽12の上部に取り付けられた消石灰水溶液抜出装置16(消石灰水溶液抜出部)とを備えている。また、溶解槽12の下部には、溶解槽12内部に水を供給するための給水管26と、溶解槽12内部の不溶物を抜き出す排出管28とが取り付けられている。さらに、溶解槽12の上端部付近には、消石灰水溶液抜出装置16に溜まった消石灰水溶液を抜き出すための抜き出し管24が設けられている。
【0026】
溶解槽12は、底面と側壁とから構成される角筒状の形状を有している。側壁は、上部においては、その水平断面積が一定となるような形状を有しており、下部においては、この水平断面積が底面に向かって徐々に小さくなる形状(逆截頭錐状)を有している。また、溶解槽12には、一部に仕切り板25によって仕切られた副室22が設けられている。さらに、溶解槽12は、流動層高抑制装置14によってこれよりも上側の領域(上部領域40)と下側の領域(下部領域42)とに区画されている。
【0027】
攪拌翼18は、攪拌軸20に支持されて溶解槽12内部に導入され、下部領域42内に配置されている。つまり、攪拌翼18は、溶解槽12内において、流動層高抑制装置14よりも下側に配置されている。この攪拌翼18は、攪拌軸20の軸線周りに回転することで溶解槽12内部に収容された液体等を攪拌することができる。
【0028】
流動層高抑制装置14は、溶解槽12内部の略中央の高さ位置に設けられており、上記攪拌翼18よりも上方に配置されている。この流動層高抑制装置14は、溶解槽12の上下方向(延び方向)に対して傾斜して設けられた複数の傾斜板15により構成されている。また、この流動層高抑制装置14は、それぞれ傾斜方向が異なる2つの傾斜板15の群が上下に配置された2段構造からなっている。そして、各段の傾斜板群を構成している各傾斜板15は、上下方向に並ぶもの同士がそれぞれ連結されている。この連結された2つの傾斜板15を一体のものとして見れば、各傾斜板は、一定の高さ位置において同一方向に折れ曲がった形状を有している。
【0029】
このような構成を有する流動層高抑制装置14は、その下端面(各傾斜板15の下端部から構成される面)は、溶解槽12の底面から150〜400cm上方に位置するように配置されていることが好ましい。また、上端面(各傾斜板15の上端部から構成される面)は、消石灰水溶液製造装置10の使用時において内部に液体を収容したときに、この液体の液面よりも20〜70cm程度下側に位置するようにすることが好ましい。
【0030】
ここで、流動層高抑制装置14を構成している傾斜板15は、各段において平行に配置されており、それぞれ溶解槽12の水平方向(延び方向に直交する平面)に対して45〜75°、好ましくは55〜65°傾斜して設置されている。この傾斜角度が溶解槽12の水平方向に対して45°未満であるか又は75°以上であると、後述するような固体消石灰の上昇を抑制する効果が十分に得られ難くなる傾向にある。
【0031】
また、隣接する傾斜板15同士の間隔は、固体消石灰の上昇を抑制する効果を十分に得る観点からはできるだけ狭いことが好ましく、具体的には50mm以下であると好ましく、30mm以下であるとより好ましい。ただし、この間隔が狭すぎると溶解槽の実容積が小さくなるほか、スケールが発生して詰まりが生じ易くなるおそれがあるため、上記間隔の最小値は好ましくは10mm、より好ましくは20mmとする。
【0032】
消石灰水溶液抜出装置16は、複数の樋状の部材が格子状に配置された形状を有しており、溶解槽12の上部領域40内に配置されている。この消石灰水溶液抜出装置16は、その下部が溶解槽12内に収容された消石灰水溶液に浸漬されており、溶解槽12から溢れて樋内に流入した消石灰水溶液を溶解槽12の外部に取り出すように構成されている。消石灰水溶液抜出装置16は、流動層高抑制部材14の上端面よりも30cm以上上方に取り付けられていることが好ましい。これにより、溶解槽12内部の液体の水流が乱されて、固体消石灰が消石灰水溶液中に混入するのを低減することができる。ここで、図2〜図4を参照して消石灰水溶液抜出装置16について更に詳細に説明する。
【0033】
図2は、消石灰水溶液抜出装置の平面図である。また、図3は、図2に示す消石灰水溶液抜出装置のIII−III方向断面図である。さらに、図4は、消石灰水溶液抜出装置に設けられた切り欠き30(抜き出し部)を拡大して示す図である。図示のように、消石灰水溶液抜出装置16は、互いに平行に配置された複数の直線状の樋状部材38からなる群同士が交差(直交)して配置された構成を有している。つまり、複数の樋状部材38が格子状に配置された形状を有している。各樋状部材38は、底面34と、これに連接して設けられた側面36とから構成されており、内部に液体を収容可能となっている。また、樋状部材38のうちの一つは、その端部に側面36が形成されておらず、開口部32を有した状態となっている。
【0034】
樋状部材38の側面36は、その上部に所定間隔で設けられた複数の切り欠き30を有している。各切り欠き30は、頂角を下に有する三角形状(好ましくは2等辺三角形)を有しており、いわゆる三角堰と呼ばれるものである。この切り欠き30においては、消石灰水溶液抜出装置16の垂直方向(図4中上下方向)に引いた線と切り欠き30を構成している辺とのなす角の角度(図4中、θで表される角度)が、15〜60°となっている。したがって、切り欠き30を構成している辺同士がなす角は、30〜120°となっている。また、側面36の上辺から切り欠き30の頂角までの距離(図4中、hで表される距離)は、好ましくは30〜70mmとなっている。
【0035】
このような切り欠き30の数は、溶解槽12や当該切り欠き30自身の大きさに応じて適宜設定することが好ましいが、偏流の発生を抑制して固体消石灰の消石灰水溶液への混入を低減するとともに消石灰水溶液の生産量を増大させる観点からは、溶解槽12における消石灰水溶液の通過水平断面積1m2あたり10〜30個であると好ましく、15〜25個であるとより好ましい。ここで、溶解槽12における消石灰水溶液の通過水平断面積とは、溶解槽12における流動層高抑制装置14及び消石灰水溶液抜出装置16が設置された領域、つまり、溶解槽12における消石灰水溶液を抜き出す高さ位置の副室22を除く領域の、水平方向の開口面積をいうものとする。
【0036】
次に、上述した構成を有する消石灰水溶液製造装置10を用いて消石灰水溶液を製造する方法について説明する。まず、給水管26から溶解槽12内部に水を供給して、溶解槽12内部に水を張った状態とする。このとき、水は、定常運転時の水量の2/3程度を供給することが好ましい。
【0037】
次いで、一旦水の供給を止め、溶解槽12内部の水を攪拌翼18により攪拌しながら、副室22における上部の開口部から固体消石灰を投入して、溶解槽12における下部領域42に固体消石灰を収容する。投入する固体消石灰の形態は、粉体でもよく、所定の液体と混合したスラリーであってもよい。こうして、下部領域42において固体消石灰と水とが攪拌され、固体消石灰が水に溶解されて消石灰水溶液が製造される。このとき、下部領域42には、固体消石灰、水及び消石灰水溶液が攪拌されてなる流動層が形成される。
【0038】
攪拌の際の攪拌翼18の周速度は、0.1〜0.5m/秒とすることが好ましい。この周速度が0.1m/秒を下回ると攪拌が不十分となって固体消石灰の溶解が不十分となる傾向にある。一方、0.5m/秒を上回ると、溶解槽12中の液体に偏流が発生してしまい、固体消石灰が流動層高抑制装置よりも上側に上昇し易くなる傾向にある。なお、攪拌翼18の好適な周速度は、後述する各工程においても同様である。
【0039】
溶解槽12への固体消石灰の投入量は、以下の条件を満たすようにする。すなわち、溶解槽12における下部領域42及び流動層高抑制装置14内に含まれる水の体積(Ww;m3)に対する固体消石灰の質量(Wca;kg)の比、すなわち、Wca/Wwの値が、16kg/m3以下となるように、好ましくは15kg/m3以下となるようにする。こうすることで、流動層中の未溶解の固体消石灰の含有割合が低くなり、得られる消石灰水溶液中への未溶解の固体消石灰の混入を低減することが可能となる。
【0040】
固体消石灰の投入が完了したら、再び給水管26から溶解槽12内に水の供給を開始し、液面が消石灰水溶液抜出装置16の下端面よりもわずかに下の位置に到達したら、水の供給を停止する。このとき、溶解槽12の内部においては、液面の上昇に伴って流動層中の固体消石灰も上昇する。しかし、液体成分である消石灰水溶液は、流動層高抑制装置14を構成している複数の傾斜板の間を通って当該装置14よりも上部に流れ込むことが容易であるのに対し、消石灰水溶液に伴って上昇する固体消石灰は、かかる傾斜板により上昇を妨げられ、この傾斜板に沿って溶解槽12の下部領域42に落下することとなる。こうして、溶解槽12の上部領域40中には、殆ど消石灰水溶液のみが含まれる状態となる。
【0041】
その後、約1時間程度流動層の攪拌を続け、溶解槽12の下部領域42に含まれる各成分を均質に混合する。続いて、攪拌を継続しながら、再び溶解槽12内への水の供給を開始する。これにより、液面が徐々に上昇し、上部領域40に含まれる消石灰水溶液が消石灰水溶液抜出装置16に到達する。消石灰水溶液抜出装置16は、各樋状部材38の底面34側から徐々に消石灰水溶液中に浸漬されることとなる。
【0042】
溶解槽12内部への水の供給を続けると、やがて、消石灰水溶液は、図3中矢印で示されるように、消石灰水溶液抜出装置16における各樋状部材38の側面36に設けられた切り欠き30から溢れ、各樋状部材38の内部(樋状部材38の底面34及び側面36に囲まれた凹部)に流れ込む。そして、各樋状部材38内に溜まった消石灰水溶液は、各樋状部材38内で合流して、これらのうちの一つに設けられた開口部32から抜き出し管24を通って外部に流出する。こうして、溶解槽12における上部領域40から消石灰水溶液が抜き出される。このような消石灰水溶液の製造方法においては、溶解槽に供給された水は、下部領域42及び流動層高抑制装置14内で形成された流動層を通って、消石灰水溶液抜出装置16に達するまでに、約1600mg/リットルの濃度の消石灰水溶液となる。
【0043】
上述した一連の工程による消石灰水溶液の製造方法においては、消石灰の溶解率を0.90以下となるように調節することが好ましい。ここで、溶解率とは、上述の如く、溶解槽12に添加した固体消石灰の量(Msupp)に対する水に溶解した消石灰の量(Mdiss)、すなわちMdiss/Msuppを示す値である。水に溶解した消石灰の量には、取り出された消石灰水溶液中の消石灰及び溶解槽12中に存在する消石灰水溶液中の消石灰の量が含まれる。こうすることで、消石灰水溶液を製造する工程において、溶解槽12中には供給した固体消石灰の一割以上に相当する量が未溶解状態で含まれることとなる。
【0044】
ここで、上記消石灰水溶液の製造工程においては、消石灰の溶解率が0.90を超えると(すなわち、溶解槽12中の固体消石灰の残存率が0.10を切ると)、製造される消石灰水溶液の濃度が急激に変化する傾向にある。こうなると、消石灰水溶液を上下水に添加して赤水防止等を行う際、この消石灰水溶液の添加量を調整することが極めて困難となる。これに対し、本実施形態においては、消石灰の溶解率を0.90以下としているため、所定の濃度の消石灰水溶液を安定して得ることができる。
【0045】
このように消石灰の溶解率を0.90以下とする方法としては、かかる溶解率が0.90となった時点で消石灰水溶液の製造を停止する方法や、溶解槽12内に更に固体消石灰を追加する方法等が挙げられる。後者のように、消石灰の溶解率が0.90を超えないように固体消石灰の追加を行えば、適度な濃度を有する消石灰水溶液を連続的に製造することが可能となり、これにより消石灰水溶液の大量製造ができるようになる。ただし、このように固体消石灰の添加を行う場合であっても、溶解槽12内の流動層高抑制装置14及び下部領域42におけるWca/Wwの値は、上述した好適条件を満たすように調整する。
【0046】
溶解槽12中への固体消石灰の追加は、上述した方法と同様に、固体消石灰の粉体又はスラリーを、副室22から投入することにより行うことができる。なお、固体消石灰の追加を続けると、溶解槽12の下部領域42に未溶解物が蓄積して消石灰水溶液の製造の妨げになる可能性があることから、このような蓄積物は、消石灰水溶液製造装置10の動作を一旦停止し、下部領域42に取り付けられた排出管28から除去することが好ましい。
【0047】
上述した固体消石灰の追加を行う場合、固体消石灰の追加時期や追加量の決定や、蓄積物を除去すべき時期等は、溶解槽12への積算給水量、取り出された消石灰水溶液の濃度、溶解槽12中の消石灰水溶液の濃度等から、上述したWca/Wwの値や消石灰の溶解率等を算出することにより決定することができる。
【0048】
以上、好適な実施形態に係る消石灰水溶液製造装置及びこれを用いた消石灰水溶液の製造方法について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。
【0049】
例えば、まず、溶解槽12として角筒状のものを例示したが、これに限定されず、例えば円筒状のものであってもよい。また、流動層抑制装置14として、複数の傾斜板からなるものを例示したが、例えば、複数の傾斜管が多数集合した形状を有するものを適用することもできる。さらに、流動層高抑制装置14は、2段の傾斜板群からなるものに限られず、一段の傾斜板群からなる構造を有するものであってもよい。このような構成としても、固体消石灰の上昇を抑制する効果を十分に得ることができる。さらに、消石灰水溶液抜出装置16における切り欠き30としては、三角堰を例示したが、例えば、側面から見て四角形を有する四角堰や、台形を有する台形堰を適用することもできる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
上部が角塔型であり下部が逆截頭錐状である形状を有する、断面積3300mm×3300mm、高さ4.3mの溶解槽内部に、溶解槽を横切る水平面に対して60℃の角度を有する合計736枚の傾斜板を25mm間隔で2段に設置してなる流動層高抑制装置を備える、図1に示すような消石灰水溶液製造装置を用い、以下に示す条件にしたがって消石灰水溶液を調製した。なお、溶解槽内上部の消石灰水溶液抜出装置としては、合計で182個の三角堰が均等に配置されたものを用いた。
【0052】
まず、溶解槽に、消石灰水溶液抜出装置の底部よりも26cm下の位置に液面が来るまで水を張った後、固体消石灰の粉体345kgを溶解槽内に投入した。次いで、攪拌翼を1.18rpm(回転周速度0.14m/s)で回転させながら、槽下部から39.5m3/hの流量で給水した(角塔型部分における水の上昇速度;1.0m/s)。攪拌及び給水を継続し、生じた消石灰水溶液を、消石灰水溶液抜出装置から溶解槽の外部に抜き出し、消石灰水溶液を得た。
【0053】
給水量を測定しながら、消石灰の溶解率が0.85になった時点で、345kgの固体消石灰の粉体を溶解槽内に追加した。この固体消石灰の追加を3回行い、全体の消石灰の溶解率が0.85になった時点で、消石灰水溶液製造装置の動作を停止した。かかる一連の工程における消石灰水溶液製造装置の積算運転時間は17時間であった。
【0054】
上記工程中、消石灰水溶液の濃度を、消石灰水溶液の抜き出し開始から1時間後、消石灰追加の一時間前及び一時間後にそれぞれ測定したところ、消石灰水溶液の平均濃度は1680mg/リットルと安定していることが判明した。
【0055】
なお、上記消石灰水溶液の製造方法においては、消石灰水溶液製造開始時の溶解槽におけるWca/Wwの値は、溶解槽内の消石灰水溶液の濃度を1680mg/リットルとして計算すると8.8であった。さらに、全工程を通して、Wca/Wwの値は、1.6(1回目の固体消石灰追加直前時)〜15.6(3度目の固体消石灰追加時)であった。
【0056】
(比較例1)
最初に溶解槽に投入した固体消石灰の量を、600kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして消石灰水溶液の製造を行った。このとき、溶解槽内の消石灰水溶液の濃度を1680mg/リットルとして計算したWca/Wwの値は、16.8であった。
【0057】
その結果、消石灰水溶液の抜き出し開始から35分後に、消石灰水溶液中に未溶解の固体消石灰粒子が混入していることが目視で確認されたため、この時点で消石灰水溶液製造装置の動作を停止した。なお、運転停止直前に得られた消石灰水溶液の消石灰濃度は、2500mg/リットルであった。
【符号の説明】
【0058】
10…消石灰水溶液製造装置、12…溶解槽、14…流動層高抑制装置、16…消石灰水溶液抜出装置、18…攪拌翼、20…攪拌軸、22…副室、24…抜き出し管、25…仕切り板、26…給水管、28…排出管、30…切り欠き、32…開口部、34…底面、36…側面、38…樋状部材、40…上部領域、42…下部領域。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解槽と、該溶解槽内に設けられた複数の傾斜部材からなる流動層高抑制装置と、前記溶解槽内の前記流動層高抑制装置よりも下側の領域に配置された攪拌翼と、前記溶解槽内の前記流動層高抑制装置よりも上側の領域に設置された消石灰水溶液抜出部と、を備える消石灰水溶液製造装置を用いて消石灰水溶液を製造する方法であって、
前記下側の領域から前記溶解槽の内部に水を供給する工程と、
前記下側の領域に収容された固体消石灰と水とを前記攪拌翼により攪拌して消石灰水溶液を得る工程と、
前記上側の領域に移動した消石灰水溶液を、前記消石灰水溶液抜出部を経由して前記溶解槽の外部に抜き出す工程と、を含み、
前記流動層高抑制装置及び前記流動層高抑制装置よりも下側の領域に含まれる固体消石灰の質量/水の体積の比を16kg/m以下とするとともに、
消石灰の溶解率が0.90以下となるように調節することを特徴とする消石灰水溶液の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−24760(P2012−24760A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206471(P2011−206471)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【分割の表示】特願2005−77853(P2005−77853)の分割
【原出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000166708)株式会社クレハエンジニアリング (17)
【Fターム(参考)】