説明

消磁回路付高勾配磁気分離装置

【課題】超伝導マグネットの特性を有効利用し、小型で安価な装置によって素早く磁性フィルター及び磁性ビーズの消磁を行うことができるようにした消磁回路付高勾配磁気分離装置とする。
【解決手段】超伝導コイルを用いた磁界内に微細な線からなる磁性フィルターを設け、その磁性フィルターによりこのフィルター内を流れる溶液中の磁性ビーズを吸着して捕捉し、磁界を消磁することにより捕捉した磁性ビーズをフィルターから分離可能として高勾配磁気分離装置を構成する。この装置において、超伝導コイルLの電源回路切断時に、超伝導コイルLに対して抵抗R及びコンデンサCを直列接続し、超伝導コイルに磁場を発生させた状態から、LRCの直列共振回路を形成して交流磁場を発生させ、この交流磁場によりコイルを減衰させて消磁する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は溶液中において周囲に特定の抗体に特異的に結合する結合部位を備えた微細な磁性ビーズを混合し、溶液中の所望の抗体を結合させた状態で、高勾配で磁化した細線からなるフィルターを通して磁性ビーズを細線に吸着して分離する高勾配磁気分離装置において、吸着後にフィルターを素早く消磁することができるようにした消磁回路付高勾配磁気分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は特にバイオや創薬の分野において、マイクロビーズや更に微細なナノビーズを用いた細胞・分子のタンパク質を分離するスクリーニング技術が国際的に研究されており、その一つの手法として、多くの細胞・分子のタンパク質をビーズを用いて分離する技術が確立してきている。この技術では例えば図4(a)に示すように、直径がマイクロメータ或いはナノメータ単位の微細な磁性体からなる磁性ビーズ51の周囲に固定化用機能性膜32を形成し、それにより選択官能基33を固定できるようにしている。
【0003】
このような磁性ビーズを用いると、同図(b)に一部を拡大して示すように、選択官能基33の先端における特定の抗体に特異的に結合する結合部位34に所望の抗体35を結合させ、その状態でこの磁性ビーズ31に磁気を帯びさせて磁気ビーズとし、この磁気ビーズを、周囲に配置した永久磁石や電磁石により吸着し収集することによって、特定の抗体35を液体中から分離し精製することができる。
【0004】
ビーズを用いた分離技術はビーズと目的物質との反応効率を向上させることが重要で、反応表面積を増大させることが、分離効率向上および作業時間短縮になるため、サイズを小さくすることが課題である。ビーズのサイズを1/10に出来れば、表面積は1/102になり、同じ質量のビーズであれば、個数は103倍になり、全反応面積は(1/102×103=10)10倍になり、微量含有の目的物と結合する確率を飛躍的に大きくし、捕捉反応時間を大幅に短縮することが出来る。現在開発されているアフィニティー(Affinity :分子間親和性)ビーズは、磁性ビーズと非磁性ビーズに大別される。
【0005】
非磁性ビーズはポリマービーズなどの有機系と多孔質シリカビーズなどの無機系に分けられ、サイズを小さくすることは比較的容易であり、すでにナノサイズのアフィニティービーズが開発されている。しかし、これらの非磁性ビーズはターゲットを希釈してカラムに導入し、アフィニティークロマトグラフィーによる分離・精製が必要になり、検査・分析用のバッチ処理には適するが、産業応用に必要な高濃度化や高速・大量・連続分離精製には向かない。これに対し、磁性ビーズは磁気力により分離・精製するので高濃度化が容易であり、高速・大量・連続分離精製には向いているため、産業用には磁性ナノビーズによる分離精製技術が嘱望される。
【0006】
しかし、現在開発されているものは、永久磁石による高勾配磁気分離で分離・検出するシステムであるため、磁気力に限界があり、磁気ビーズを溶液中の粘性抵抗に逆らって引き寄せ磁気回収するためにはある程度以上の磁気量を体積で稼ぐ必要があり、ナノサイズの磁性ビーズは使用されていない。現在は小さいものでも直径約1.5〜1.0ミクロン程度が使用限界である。磁気分離以外の利用では、直径数十ナノメートルの磁性ビーズのリゾヒスト(SPIO:Super Paramagnetic Iron Oxide)がMRI造影剤として臨床用に使用されている。そこで、本技術では、超伝導磁石を用いた高勾配磁気分離を採用することにより、磁性ナノビーズによる分離精製技術を確立しようとするものである。今や磁性ビーズは医療・メディカルエンジニアリングの発展にとって不可欠なツールとなっている。
【0007】
このような微細な磁性ビーズを実際に用いるときには、種々の抗体や各種物質が含まれている液体中に存在する所望の抗体を前記のような官能基に固定し、液体中に設けた金属細線あるいは金属球を磁化して磁石化したところに、前記磁気を帯びた磁気ビーズを吸着させ、その後金属細線の磁化を取り除くことによって、吸着していた磁気ビーズを金属細線から分離することによって、所望の抗体を収集している。この技術については既に、例えば2ないし4種類のスクリーニングを自動ロボット化した分析装置が市販されるようにもなって確立している。しかしながら未だ溶液中の抗体のほとんどを分離するところまでは至らず、効率的な分離・精製が行われているとはいえない。また、できる限り多くの分離を行おうとすると分離・精製に要する時間が長くなる。更に装置は大型であり、取り扱い性に未だ難がある。
【0008】
したがって、より効率的な分離精製を行うと共に装置を小型化するには、ナノサイズの微細なビーズを用いるとともにそのビーズを高磁性化し、またこのビーズを吸着して捕捉する金属細線についてもより高磁性化、細線化し、更に多くの抗体を液体中から分離できるようにすることが望まれている。
【0009】
本件発明者等は前記課題を解決するため、磁性ビーズ及びこれを吸着する金属細線を磁化するために、超伝導マグネットを用いて高勾配磁場を形成し、その磁場の中で前記のような所望の抗体の精製・分離を行い、微量含有タンパク質等の有用物質を高速・高効率で連続的に大量に分離精製するシステムを開発している。
【0010】
この技術のシステム原理図を図6に示す。このシステムに基づく実験においては、小型冷凍機を採用した伝導冷却式である卓上型の小型超伝導電磁石41を用いて、永久磁石の数十〜数百倍もの強力な磁場である、最大5Tの磁場を発生させる。小型超伝導電磁石41の中心部分42には直径約26mmの円筒状の室温の空間を持たせ、この空間に内径20mm、外形24mmのガラス管43を通し、この管43の中に直径数〜数十ミクロン程度の磁性細線のステンレスウール44からなるフィルター45を挿入する。この直径数ミクロン程度のステンレス細線の周辺に高勾配磁場を作り出す。
【0011】
このような装置において、所望の抗体のほか種々のタンパク質や他の物質が混入した溶液中に更に前記磁性ビーズを混合し、前記図4(a)〜(c)のように磁性ビーズに所望の抗体を結合した状態となっている溶液46を、管53の上方から注ぎ込む。この溶液46は前記のような高勾配磁場を周囲に作り出すステンレスウール54からなるフィルター45内を通過するとき、磁性ビーズは超伝導電磁石により得られる高磁界により磁気を帯びて磁気ビーズとなり、且つ4T程度の高磁界により局所的に磁化した磁性細線であるフィルター45の周りに作られた図6(d)に図示するような原理で生じる、非常に大きな磁場勾配によって所望の抗体を結合した磁気ビーズをフィルター45に吸着する。
【0012】
その後磁場を4Tから0Tに下げた後、磁性微粒子を含まないエタノールを前記と同様にフィルター45に流し、それを更に濾紙で濾過して、濾紙上に磁性微粒子を捕捉することによって分離する。このように、固定したい目的物質を含む原液に磁性ナノビーズを混合し、この管に流すだけで、大容量の溶液から短時間に高効率で微量含有の貴重な目的物質を捕獲・分離できるようになった。
【0013】
上記のような装置を用いて実際に免疫グロブリンを分離・精製する実験を行いその性能を確かめた。免疫グロフリンは糖を2%含むポリペプチドで、約10〜15nmのY字形の分子で、図5(a)に示すようにY端部のL鎖(Light Chain)先端には抗体に特異的に結合する部位をもつ。したがってこの部位と特異的に結合する物質を磁性ナノ粒子の表面に付けることにより、免疫グロブリンの連続・高速の分離・精製が可能となる。このときに用いる表面活性剤は、既に酸化鉄等に対して開発されており、直径数ミクロンの磁性マイクロビーズは市販されている。
【0014】
実験においては約150ccのエタノールに、平均粒径約100nmのナノ磁性微粒子を0.05g加え、良く攪拌した後、強加工されて磁性を持った磁気分離用のSUS304細線フィルターとほぼ同一のフィルターで濾過した。次に濾過した磁性微粒子を含むエタノールを、4Tの磁場中にセットしたフィルターの中を約7〜25cc/minの速度で流し、それを更に濾紙で濾過して磁性微粒子を捕捉した。その結果は、濾過後の液体について微粒子は検出できなかったのに対して、磁場をゼロにして同様の処理を行ったところ、0.04gの微粒子が検出された。このことからこのシステムは極めて効率よく平均粒径約100nmの磁性微粒子を捕捉できることがわかった。このことから、医療用タンパク質のうち特に血清中に微量存在する免疫グロブリンの分離/精製に超伝導マグネットを用いた高勾配磁気分離システムが有効であることを確認した。
【0015】
なお、粒子状物質の表面に特定の抗体に特異的結合性を有する性状を持たせ、液体中から所望の抗体等を分離する技術は特開2002−1163号公報(特許文献1)に開示されている。
【特許文献1】特開2002−1163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者等が開発した上記のような装置において、ほぼ確実にフィルターに磁性微粒子を捕捉することができることがわかったが、ここで最も重要な点は、前記のように磁性ビーズを吸着したフィルターから、この磁性ビーズを確実に回収できることである。即ち、このフィルターに求められる性能は、磁場の印可時には効率よく磁気ビーズを捕捉・分離し、磁場を減少させた時にはほとんど全ての磁気ビーズをフィルターから回収できることである。現在一般的に採用しているステンレス細線のウールからなるフィルターは製造が容易であり、比較的捕捉率も良いという利点があるが、フィルターを通過しようとする各種物質が物理的に捕捉されて目詰まりを起こしやすく、また磁場を取り除いたときに、フィルターに電磁的に捕捉されていた磁気ビーズを効率よく回収するのは難しい。
【0017】
その理由は、フィルターの細線の一部が交差接触する部分に一度捕捉されたビーズは、付近の他の磁化したビーズを引き付けて凝集してしまうため、磁場が全くなくなってもステンレスウールに物理的に挟まれた状態でフィルターに捕捉されたままとなり、回収され難いからである。高価で取り扱いに十分な注意を要する前記のような磁性ビーズを、医用タンパク質の高勾配磁気分離装置の分離・精製に利用するためには、捕捉後に付加価値の極めて高い目的物質(タンパク質)を捕捉しているビーズを回収する効率が極めて高いフィルターを用いることが必須である。
【0018】
本発明者等は前記問題点を解決するため、既に種々の提案を行っており、例えば図6(c)に示すように、ドーナツ状のフレーム51の上面52に捕捉する磁性ビーズの径より大きな所定の間隔で、互いに平行な磁性細線53を固定して第1単位フィルター54を構成し、この第1単位フィルター54の平行な磁性細線53とは直交する方向に平行な磁性細線を配置した第2単位フィルター54とを組み合わせることにより、互いの細線が前記磁性ビーズの径より大きな所定の間隔で、且つ平面視交差するように組み合わせて組立単位フィルター56を構成し、この組立単位フィルター56を複数積層することによりフィルター積層体としたものを用いることを提案している。
【0019】
このような技術によって前記のように磁場が全くなくてもステンレスウールに物理的に挟まれた状態でフィルターに捕捉されたままとなって回収されない問題点を解消することができたものであるが、磁場が全くなくなっても磁性ビーズがステンレスウール状のフィルター或いは前記のようなフィルター積層体から分離できない原因として、更に一度捕捉された磁性ビーズは、磁場が減少しても残留磁気をもち、この残留磁気によりビーズ同士が互いに引き合って大きな固まりとなり、磁性をもち残留磁気が残っているフィルターに捕捉されたままで、回収されにくいことがわかった。
【0020】
そこで磁性ビーズ及びフィルターの残留磁気を消去(消磁)する方法を検討した結果、従来よりコイルの残留磁気を消磁する技術として知られているLRCの直列回路を用いた交流消磁法を適用することを検討した。このLRC回路は図6に示すようなものであり、超伝導磁石用のコイルがLであるとき、これと直列にRとCを接続し、この回路にステップ上の直流電圧を印可し、或いは交流電流を流しながら電流を減衰させる方法をとることとなる。
【0021】
図7にこの回路においてステップ状の直流電圧を印可した場合の電流(磁場)の変化の様子を示す。ここではLRCの直列接続回路に一定電圧をかけて直列共振により交流磁場を発生させ、減衰させる。なお、図7に示す例においては、R=10.0(Ω)、L=22.13(H)、C=0.04(mF)、E=100(V)である。
【0022】
このような従来の装置においては、コイルが超伝導ではないので、磁性を発生させるには大電流を流さなければならず、そのためにはコイル形状は大きくなり、また高電圧をかける必要があり、装置が大がかりで高価なものとならざるを得ない。更に、この交流消磁を行う装置を、高勾配磁気分離装置に新たに組み込むことは、物理的空間的にも困難であり、また装置も大がかりになり、費用もかさむことになる。
【0023】
したがって本発明は、超伝導マグネットの特性を有効利用し、小型で安価な装置によって素早く磁性フィルター及び磁性ビーズの消磁を行うことができるようにした消磁回路付高勾配磁気分離装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者等は前記課題を解決するため、本発明が対象としている超伝導マグネットを用いた高勾配磁気分離装置には、高い磁場を作り出す大きなインダクタンスをもち、且つ抵抗の小さな(ほとんど抵抗のない)超伝導マグネットシステムが用いられていることに着眼し、この超伝導マグネットを消磁用の磁場発生装置として利用し、交流消磁を行わせるものである。
【0025】
即ち、通常の交流消磁回路はLRC直列回路にステップ状一定電圧をかけてLRCの直列共振により、図7に示すように交流磁場を発生させて減衰させる。これに対して超伝導マグネットを用いている場合はLRC直列回路にステップ状の電圧をかけてLRC共振をさせるのではなく、消磁に必要な磁場を超伝導マグネットに発生させた状態(通電状態)から、抵抗RとコンデンサーCを直列接続に切り替えることにより、LRCの直列共振により交流磁場を発生させ減衰させて消磁を行うものである。
【0026】
上記のような本発明の技術思想に基づき、本発明は次のような構成を採用する。即ち、本発明に係る消磁回路付高勾配磁気分離装置は、前記課題を解決するため、超伝導コイルを用いて発生させた磁界内に磁性フィルターを設け、該磁性フィルターにより磁性ビーズを吸着して捕捉し、磁界を消磁することにより捕捉した磁性ビーズをフィルターから分離可能とする高勾配磁気分離装置において、前記超伝導コイルLの電源回路切断時に、該超伝導コイルLに対して抵抗R及びコンデンサCを直列接続し、該超伝導コイルに磁場を発生させた状態から、該LRCの直列共振回路を形成して交流磁場を発生させ、該交流磁場によりコイルを減衰させて消磁することを特徴とする。
【0027】
また、本発明に係る他の消磁回路付高勾配磁気分離装置は、前記消磁回路付高勾配磁気分離装置において、前記超伝導コイルは電源回路切断時に補助抵抗を接続することを特徴とする。
【0028】
また、本発明に係る他の消磁回路付高勾配磁気分離装置は、前記消磁回路付高勾配磁気分離装置において、前記補助抵抗により、超伝導コイルが所定電流に低下したとき、前記LRCの直列共振回路を形成することを特徴とする。
【0029】
また、本発明に係る他の消磁回路付高勾配磁気分離装置は、前記消磁回路付高勾配磁気分離装置において、前記消磁回路を高勾配磁気分離装置の制御装置に組み込んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明は上記のように構成したので、高勾配磁気分離装置において、超伝導マグネットの特性を有効利用し、小型で安価な装置によって素早く磁性フィルター及び磁性ビーズの消磁を行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、高勾配磁気分離装置において、超伝導マグネットの特性を有効利用し、小型で安価な装置によって素早く磁性フィルター及び磁性ビーズの消磁を行うことができるようにするという課題を、超伝導コイルを用いて発生させた磁界内に磁性フィルターを設け、該磁性フィルターにより磁性ビーズを吸着して捕捉し、磁界を消磁することにより捕捉した磁性ビーズをフィルターから分離可能とする高勾配磁気分離装置において、前記超伝導コイルLの電源回路切断時に、該超伝導コイルLに対して抵抗R及びコンデンサCを直列接続し、該超伝導コイルに磁場を発生させた状態から、該LRCの直列共振回路を形成して交流磁場を発生させ、該交流磁場によりコイルを減衰させて消磁することによって実現した。
【実施例1】
【0032】
本発明を実施する高勾配磁気分離装置の例を図1に示す。図1に示す例においては、所望の抗体のほか種々のタンパク質や他の物質が混入した溶液の入った溶液槽S1について、バルブV1を開くことにより攪拌槽S2内に供給可能とし、その際前記のような目的物質捕捉用の磁性ナノビーズも攪拌槽S2に供給可能としている。攪拌槽S2においては攪拌機により攪拌可能とし、これをバルブV2を介して管3内に流下できるようにしている。この管3にはそのほか洗浄・回収搬送液の入った洗浄・回収液槽S3から、バルブV3を開放することにより内部の液を供給可能としている。
【0033】
管3は超伝導磁石1の中心に配置され、内部に前記のような磁性フィルター5を内装している。この超伝導磁石1は冷凍システム4によって冷却され、且つシステム制御装置6のコイル励磁制御回路7で内部の電磁コイルの励磁が制御されるとともに、冷凍制御回路9によって冷凍システム4も関連制御される。また、超伝導磁石1のコイルは、磁性フィルターの洗浄に際して、システム制御装置に設けた図1(b)に例示するような消磁回路8を用いて消磁制御される。
【0034】
管3の下部には切替弁V4を設け、超伝導磁石による磁界発生中に管3に攪拌槽S2から攪拌溶液が供給されて、高勾配磁気分離用磁性フィルター5に磁性ビーズを捕捉し、捕捉されないものは、その他回収槽S5側に流れるように切り替えが行われる。次にバルブV2を閉じV3を開けて、管3に洗浄・回収搬送液が流れて、管3および磁性フィルター5を洗浄する。次に洗浄後は、超伝導磁石を消磁し、更に消磁回路を動作させて磁性ビーズと磁性フィルターを消磁し、V4を目的物回収糟S4側に流れるように切り替え、S3から回収搬送液を流して、目的物質回収糟に磁性ビーズを回収する。システム制御装置7にはバルブ切替制御回路11を備えており、前記のようなバルブV1〜V4の制御を行い、一連の作動を自動的に行うことを可能とする。
【0035】
図1(b)に示す消磁回路は図2(a)に示しており、以降この消磁回路について図2(a)〜(d)に沿って説明する。この回路においてはスイッチS1〜S4の4個のスイッチを用いており、順に開閉させるため、各スイッチの作動毎に図(a)〜(d)として示している。最初この回路の構成を述べる。図中のLは超伝導マグネット用のコイルであり、図6の従来例、及び図1の例と同様に、管の内部のフィルターを磁化し、またフィルターを通過する液体中の磁性ビーズを超伝導による高勾配の磁界の中で磁化して、磁性ビーズを磁気フィルターに効率よく吸着させる作用を行っている。
【0036】
このコイルLに対して、直流電源E、スイッチS1、スイッチS2を順に直列に接続し、これらのスイッチS1及びS2を閉じることにより、直流電源EからコイルLに電流を供給し、超伝導電磁石の駆動を行い、電磁フィルターを励磁する。この状態から電磁フィルターの作用を停止してコイルを消磁し、磁気フィルター及び磁性ビーズを消磁するときには、このまま所定の電流まで超伝導マグネットを減磁する。前記の作動は、図1(b)及び図2(a)の回路状態で行うことができる。
【0037】
その後図2(b)に示すようにスイッチS3のみを閉じ、保護抵抗R0を介してコイルL内の電流をL-R0の閉回路に転流させ、次いで図2(c)のようにスイッチS1を開放し、超伝導コイルLへの通電を完全に停止する。更にその後同図(d)に示すようにスイッチS2を開くと共にスイッチS4を閉じる。このときLRC回路が形成されて、電源の接続なしに交流消磁回路を形成し、それによるコイル、及びその周囲の磁性フィルター及び磁性ビーズの消磁がなされる。
【0038】
このような消磁回路において、コイルLは超伝導マグネットは高い磁場を作り出す大きなインダクタンスをもち、且つ抵抗の小さな超伝導マグネットシステムが用いられているので、ここでは前記のように消磁用の磁場発生装置として利用して、交流消磁を行わせることができる。しかもこのような回路を予めシステム制御装置7に組み込んでおくことにより、これらのスイッチS1〜S4を所定のタイミングで前記の順序で開閉作動させることによって自動化が図れる。
【0039】
前記のような回路を用いて実際の回路素子に所定の値のものを当てはめると、図3に示すようになる。即ち、図3(a)には前記図2(d)に示すようなLRC直列共振により交流磁場を発生させて減衰、消磁を行わせる状態を示しており、その際には、同図(b)に示すような超伝導マグネットを用いたLRC消磁回路の電流変化(磁界)が得られ、前記図7(b)に示す従来の別途電源を用いたLRC共振回路とほぼ同様の作動を行うことができることがわかる。
【0040】
この例においてはコイルインダクタンスを22.1(H)、直列キャパシタンスを500F、保護抵抗0.5Ωを含む直列(減衰用)抵抗を20Ω、初期電流1A(0.2T)としている。即ち、図2(c)の超伝導コイルへの通電停止後、保護抵抗によって次第に減衰させ、コイルへの電流が所定電流の1Aになったとき、同図(d)の状態にして前記作動を行わせている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の高勾配磁気分離用フィルターを用いる医療用抗体タンパク質分離・精製用高勾配磁気分離システムの構成概要図、及び消磁回路例を示す図である。
【図2】本発明の消磁回路の作動を示す図である。
【図3】本発明の消磁回路の作動例を示す図である。
【図4】磁性ビーズを用いて所望の抗体を分離する原理を示す説明図である。
【図5】(a)は免疫グロブリンの模式構造図であり、(b)は直径100nmの磁気ビーズによる免疫グロブリンの捕捉の概念図である。
【図6】(a)(b)は本発明者等が先に提案している、ステンレスウールからなるフィルターを用いた医療用抗体タンパク質分離・精製用高勾配磁気分離システムの構成概要、図、(c)は本発明者等が提案しているフィルターの改良技術、(d)は超伝導マグネットの作用を示す図である。
【図7】従来のコイル消磁手法を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 超伝導電磁石
2 中心部分
3 管
4 冷凍システム
5 フィルター
6 システム制御装置
7 コイル励磁制御回路
8 消磁回路
9 冷凍制御回路
10 バルブ切替制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導コイルを用いて発生させた磁界内に磁性フィルターを設け、該磁性フィルターにより磁性ビーズを吸着して捕捉し、磁界を消磁することにより捕捉した磁性ビーズをフィルターから分離可能とする高勾配磁気分離装置において、
前記超伝導コイルLの電源回路切断時に、該超伝導コイルLに対して抵抗R及びコンデンサCを直列接続し、該超伝導コイルに磁場を発生させた状態から、該LRCの直列共振回路を形成して交流磁場を発生させ、該交流磁場によりコイルを減衰させて消磁することを特徴とする消磁回路付高勾配磁気分離装置。
【請求項2】
前記超伝導コイルは電源回路切断時に補助抵抗を接続することを特徴とする請求項1記載の消磁回路付高勾配磁気分離装置。
【請求項3】
前記補助抵抗により、超伝導コイルが所定電流に低下したとき、前記LRCの直列共振回路を形成することを特徴とする請求項2記載の消磁回路付高勾配磁気分離装置。
【請求項4】
前記消磁回路を高勾配磁気分離装置の制御装置に組み込んだことを特徴とする請求項1記載の消磁回路付高勾配磁気分離装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−42367(P2010−42367A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208951(P2008−208951)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】