説明

消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法

【課題】ピーク期間中のピーク電流の通電とベース期間中のベース電流の通電とを1パルス周期として溶接電流を通電して溶接する消耗電極パルスアーク溶接において、アーク長の変動を抑制する。
【解決手段】本発明は、第n回目のパルス周期の開始時点から平均溶接電流値Iavを刻々と算出し、ピーク電圧値Vpを検出し、このピーク電圧値Vpを入力として予め定めた外部特性L3によって平均溶接電流設定値を算出し、ピーク期間に続くベース期間中に平均溶接電流値Iavと平均溶接電流設定値とが等しくなった時点で第n回目のパルス周期を終了し、続けて第n+1回目のパルス周期を開始する消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク長制御の安定性を向上させるための消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極パルスアーク溶接では、美しいビード外観、均一な溶込み深さ等の良好な溶接品質を得るためには、溶接中のアーク長(見かけのアーク長)を適正値に維持することが極めて重要である。一般的に、アーク長は溶接ワイヤの送給速度とアーク熱等による溶融速度とのバランスによって決まる。したがって、溶接電流の平均値Iavに略比例する溶融速度が送給速度と等しくなるとアーク長は常に一定となり安定化する。しかし、送給モータの回転速度の変動、溶接トーチケーブルの引き回しによる送給経路の摩擦力の変動等によって、溶接中の送給速度が変動する。このために、溶融速度とのバランスが崩れてアーク長が変化することになる。さらには、溶接作業者の手振れ等による給電チップ・母材間距離(トーチ高さ)の変動、溶融池の不規則な振動等によっても、アーク長は変動する。したがって、これらの種々の変動要因(以下、外乱という)によるアーク長の変動を抑制するためには、外乱に応じて常に溶融速度を調整してアーク長の変化を抑制するアーク長制御が必須となる。
【0003】
消耗電極パルスアーク溶接を含む消耗電極ガスシールドアーク溶接において、上述した種々の外乱に起因するアーク長の変動を抑制する方法として、溶接電源の外部特性を所望値に形成する出力制御を行うことが慣用されている。図6は、外部特性の例を示す。同図の横軸は溶接ワイヤを通電する溶接電流の平均値Iavであり、縦軸は溶接ワイヤと母材との間に印加する溶接電圧の平均値Vavである。一般的に、溶接電圧値はアーク長と比例関係にあるので、平均溶接電圧値Vavは平均アーク長と比例関係にある。また、平均溶接電流値Iavは、上述したように溶融速度と比例関係にある。したがって、同図は溶融速度と平均アーク長との関係を示していることになる。アーク長が変動したときに、溶融速度をこの外部特性に基づいて変化させることでアーク長の変動を抑制する。同図に示す外部特性L1は、傾きKs=0V/Aの完全な定電圧特性の場合である。また、外部特性L2は、傾きKs=−0.1V/Aと右下がりの傾きを有する定電圧特性の場合である。外部特性は直線として表すことができるので、溶接電流基準値Isと溶接電圧基準値Vsとの交点P0を通り傾きがKsである外部特性は下式で表すことができる。
Vav=Ks・(Iav−Is)+Vs ……(1)式
【0004】
ところで、溶接電源の外部特性の傾きKsによってアーク長制御の安定性(自己制御作用と呼ばれる)が大きく影響されることが広く知られている。すなわち、外乱に対してアーク長を安定化するためには、溶接法を含む溶接条件に応じて外部特性の傾きKsを適正値に制御する必要がある。例えば、傾きKsの適正値は、炭酸ガスアーク溶接法では0〜−0.03V/A程度の範囲であり、パルスアーク溶接法では−0.05〜−0.3V/A程度の範囲である。したがって、本発明の対象とするパルスアーク溶接法においては、アーク長制御を安定化するためには、同図に示す外部特性L1ではなく−0.05〜−0.3V/A程度の範囲内で予め定めた傾きKsを有する外部特性L2等を形成する必要がある。以下、パルスアーク溶接において所望の傾きKsを有する外部特性を形成する従来技術について説明する。
【0005】
図7は、パルスアーク溶接の電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流(瞬時値)ioの、同図(B)は溶接電圧(瞬時値)voの波形図である。以下,同図を参照して説明する。
【0006】
(1)時刻t1〜t2のピーク期間Tp
予め定めたピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、溶接ワイヤを溶滴移行させるために大電流値の予め定めたピーク電流Ipを通電し、同図(B)に示すように、この期間中のアーク長に略比例したピーク電圧Vpが印加する。
【0007】
(2)時刻t2〜t3のベース期間Tb
後述する溶接電源の出力制御によって定まるベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、溶接ワイヤ先端の溶滴を成長させないために小電流値の予め定めたベース電流Ibを通電し、同図(B)に示すように、この期間中のアーク長に略比例したベース電圧Vbが印加する。
【0008】
上記のピーク期間Tp及びベース期間Tbからなる時刻t1〜t3の期間を1パルス
Tpbとして繰り返して溶接を行う。同図(A)に示すように、このパルス周期Tpbごとの溶接電流の平均値がIavとなり、同様に、同図(B)に示すように、このパルス周期Tpbごとの溶接電圧の平均値がVavとなる。溶接電源の外部特性を形成するための出力制御は、パルス周期Tpbの時間長さを操作量としてフィードバック制御することで行われる。すなわち、ピーク期間Tpを一定値としてパルス周期Tpb(ベース期間Tb)を増減させることによって出力制御を行う。
【0009】
図8に示すように、時刻t(n)〜t(n+1)の第n回目のパルス周期Tpb(n)の溶接電流の平均値がIav(n)となり、溶接電圧の平均値がVav(n)となる。上述した図6において、これらIav(n)とVav(n)との交点P1が、予め設定された外部特性L2上に乗るように出力制御される。以下、所望の傾きKsを有する外部特性を形成するための溶接電源の出力制御方法について説明する。
【0010】
図7で上述したパルスアーク溶接の波形図を参照して従来技術の外部特性形成方法を説明する。形成すべき目標の外部特性は、上述した(1)式の外部特性である。第n回目のパルス周期Tpb(n)における平均溶接電流値Iav及び平均溶接電圧値Vavは下式で表すことができる。
Iav=(1/Tpb(n))・∫ia・dt ……(2)式
Vav=(1/Tpb(n))・∫va・dt ……(3)式
但し、積分は第n回目のパルス周期Tpb(n)の間行い、iaは溶接電流ioの絶対値であり、vaは溶接電圧voの絶対値である。
【0011】
これら(2)式及び(3)式を上述した(1)式に代入して整理すると下式となる。
∫(Ks・ia−Ks・Is+Vs−va)・dt=0 ……(4)式
但し、積分は第n回目のパルス周期Tpb(n)の間行い、Ksは外部特性の傾きであり、Isは溶接電流基準値であり、Vsは溶接電圧基準値である。
【0012】
したがって、第n回目のパルス周期Tpb(n)が終了した時点においては上記(4)式が成立することになる。ここで、上記(4)式の左辺を積分値SViとして定義すると下式となる。
Svj=∫(Ks・ia−Ks・Is+Vs−va)・dt ……(5)式
【0013】
第n回目のパルス周期Tpb(n)が開始した時点から上記(5)式の積分値Sviの演算を開始する。第n回目の予め定めたピーク期間Tpが終了して第n回目のベース期間Tb中に上記の積分値Svi=0(又はSvi≧0)となった時点で第n回目のパルス周期Tpb(n)を終了する。この動作を繰り返すことによって、上述した(1)式の外部特性を形成することができる。
【0014】
上述した外部特性形成方法を以下に整理して記載する。
(1)傾きKs、溶接電流基準値Is及び溶接電圧基準値Vsによって目標の溶接電源の外部特性を予め設定する。
(2)溶接中の溶接電圧voの絶対値va及び溶接電流ioの絶対値iaを検出する。
(3)第n回目のパルス周期Tpb(n)の開始時点から積分値Svi=∫(Ks・ia−Ks・Is+Vs−va)・dtの演算を開始する。
(4)第n回目の予め定めたピーク期間Tpに続く第n回目のベース期間Tb中の上記積分値Sviが0以上(Svi≧0)になった時点で第n回目のパルス周期Tpb(n)を終了する。
(5)続けて第n+1回目のパルス周期Tpb(n+1)を開始して、上記(3)〜(4)の動作を繰り返し行うことによって、上記(1)で設定した所望の外部特性を形成する。
【0015】
図9は、上述した外部特性を形成するための出力制御を搭載した溶接電源のブロック図である。以下,同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0016】
電源主回路PMは、交流商用電源(3相200V等)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の電力制御を行い、溶接に適した溶接電流io及び溶接電圧voを出力する。溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給装置の送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給されて、母材2との間でアーク3が発生する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧voを検出して絶対値に変換し、溶接電圧絶対値信号vaを出力する。電流検出回路IDは、上記の溶接電流ioを検出して絶対値に変換し、溶接電流絶対値信号iaを出力する。
【0017】
溶接電流基準値設定回路ISは、予め定めた溶接電流基準値信号Isを出力する。溶接電圧基準値設定回路VSは、予め定めた溶接電圧基準値信号Vsを出力する。傾き設定回路KSは、予め定めた外部特性の傾き設定信号Ksを出力する。これらの3つの信号Is、Vs、Ksによって所望の外部特性を設定する。積分回路SVIは、上記の溶接電圧絶対値信号va、溶接電流絶対値信号ia、溶接電圧基準値信号Vs、溶接電流基準値信号Is及び傾き設定信号Ksを入力として、上記(5)式の積分値Svi=∫(Ks・ia−Ks・Is+Vs−va)・dtを演算して、積分値信号Sviを出力する。比較回路CMは、上記の積分値信号Sviの値が0以上(Svi≧0)になったことを判別すると短時間Highレベルとなる比較信号Cmを出力する。
【0018】
溶接電流波形パラメータ設定回路PFは、溶接電流波形を形成するピーク電流設定値Ips、ベース電流設定値Ibs及びピーク期間設定値Tpsから成る溶接電流波形パラメータ設定信号Pfを出力する。電流設定回路ICSは、上記の比較信号Cm、溶接電流波形パラメータ設定信号Pfを入力として、第n回目のパルス周期Tpb(n)を開始すると、上記のピーク期間設定値Tpsによって定まる期間中は上記のピーク電流設定値Ipsを溶接電流設定信号Icsとして出力し、続いて上記の比較信号CmがHighレベルになるまでの期間中は上記のベース電流設定値Ibsを溶接電流設定信号Icsとして出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の溶接電流設定信号Icsと溶接電流絶対値信号iaとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。これにより、溶接電流設定信号Icsと溶接電流ioとは同じ波形となる。
【0019】
図10は、上述した溶接電源の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流ioの、同図(B)は溶接電圧voの、同図(C)は積分値信号Sviの時間変化を示す。以下,同図を参照して説明する。
【0020】
時刻t(n)において、第n回目のパルス周期Tpb(n)が開始すると、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpが印加する。これに応動して、同図(C)に示すように、積分値信号Sviの値は負の方向へ減少する。時刻t2において、ベース期間Tbが開始すると、同図(A)に示すように、ベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが印加する。同図(C)に示す積分値信号Sviの値は増加して時刻t3において0となり、第n回目のパルス周期Tpb(n)を終了する。以後、上述した動作を繰り返す(例えば、特許文献1、2参照)。
【0021】
【特許文献1】特開2003−230958号公報
【特許文献2】特開2005−118872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述したように、アーク長制御の安定性を良好にするためには、図6で上述した所望の傾きKsを有する外部特性を形成する必要がある。図6において、縦軸の平均溶接電圧値Vavはパルス周期Tpbごとの平均値であり、溶接電圧値とアーク長とは比例関係にあるので、結果的に縦軸はパルス周期ごとの平均アーク長を示すことと等価である。したがって、アーク長制御の安定性は、平均溶接電流Iavによって定まる溶融速度とアーク長との関係が所望の傾きを有する外部特性に制御されることによって実現される。
【0023】
図11は、アーク発生部の模式図であり、同図(A)はピーク期間Tp中のアーク発生部を示し、同図(B)はベース期間Tb中のアーク発生部を示す。同図(A)に示すように、ピーク期間Tp中は大電流値のピーク電流Ipが通電するので、アーク3の指向性が強くなり、アーク3は溶接ワイヤ1直下の母材2との間に発生する。溶接ワイヤ先端から母材2までの最短距離が見かけのアーク長La1と呼ばれ、溶接品質に大きな影響を及ぼす。したがって、単にアーク長と言うときは、通常この見かけのアーク長La1のことを指している。上述したアーク長制御とは、溶接品質に重大な影響を及ぼす見かけのアーク長La1を適正値に制御することである。同図(A)において、真のアーク長Lt1は、アーク3の実際の距離であり、アーク3が直下に発生しているときはLt1≒L a1となる。この真のアーク長Lt1が溶接電圧値(ピーク電圧値Vp)と比例関係にある。したがって、この場合には、本来検出したい見かけのアーク長を溶接電圧値(ピーク電圧値Vp)によって検出することができる。同様に、ベース期間Tbにおいてもアーク3が直下に発生しているときは、見かけのアーク長を溶接電圧値(ベース電圧値Vb)で検出することができる。上述した状態、すなわち見かけのアーク長を溶接電圧値で正確に検出することができることを前提条件として従来技術の出力制御は構築されている。
【0024】
しかし、同図(B)に示すように、ベース期間Tb中は小電流値のベース電流Ibが通電するために、アーク3の指向性が弱い。このために、母材2の表面状態、シールドガスの遮蔽状態、溶融池の不規則振動等の変動によって、アーク3は直下に発生せず斜め方向に発生することがある。この斜め方向へのアーク3の発生は、母材表面の酸化皮膜を求めてアーク陰極点が移動するミグ溶接においてしばしば発生する。この状態になると、同図(B)に示すように、見かけのアーク長La2と真のアーク長Lt2とはかなり異なった値となる。このときに、溶接電圧値(ベース電圧値Vb)は真のアーク長Lt2に比例した値となり、見かけのアーク長La2には比例しない。このために、パルス周期ごとの平均溶接電圧値Vavは、見かけのアーク長に比例するピーク電圧値Vpと見かけのアーク長に比例しないベース電圧値とが平均された値となるために、この平均溶接電圧値Vavではパルス周期ごとの見かけのアーク長を正確に検出することができない。この結果、アーク長制御性が低下することになる。
【0025】
そこで、本発明は、アークが斜め方向に発生する頻度が高い溶接条件においてもアーク長制御性を良好にすることができる消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、ピーク期間中のピーク電流の通電とベース期間中のベース電流の通電とを1パルス周期として溶接電流を通電して溶接する消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法において、
第n回目のパルス周期の開始時点から平均溶接電流値を刻々と算出し、前記ピーク期間中のピーク電圧値を検出し、このピーク電圧値を入力として予め定めた外部特性によって平均溶接電流設定値を算出し、
前記ピーク期間に続くベース期間中に前記平均溶接電流値と前記平均溶接電流設定値とが等しくなった時点で前記第n回目のパルス周期を終了し、続けて第n+1回目のパルス周期を開始する、ことを特徴とする消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法である。
【0027】
第2の発明は、前記ピーク電流が立上り及び/又は立下りに傾斜を有する、ことを特徴とする第1の発明記載の消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法である。
【0028】
第3の発明は、前記ピーク期間の前に電極マイナス期間を設け、この電極マイナス期間中は電極マイナス極性に切り換えて電極マイナス電流を通電する、ことを特徴とする第1の発明又は第2の発明記載の消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法である。
【0029】
第4の発明は、前記平均溶接電流値の算出を前記溶接電流の設定信号によって行う、ことを特徴とする第1〜第3の発明のいずれか1項に記載の消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法である。
【発明の効果】
【0030】
上記第1の発明によれば、アークが斜め方向に発生する頻度が高い溶接条件において、見かけのアーク長の変化をピーク電圧値によって正確に検出し、このピーク電圧値Vpを入力として予め定めた外部特性に基づいて平均溶接電流設定値を算出し、パルス周期ごとの平均溶接電流値がこの平均溶接電流設定値になるように出力制御する。これにより、アークが斜め方向に発生する頻度の高い溶接条件(例えば、ミグ溶接時)下でも、アーク長制御性が向上し良好な溶接品質を得ることができる。
【0031】
さらに、第2の発明によれば、ピーク電流の立上り及び/又は立下りに傾斜を有する場合でも、上述した第1の発明と同様の効果を奏することができる。
【0032】
さらに、第3の発明によれば、電極マイナス期間のある交流パルスアーク溶接においても、上述した第1の発明と同様の効果を奏することができる。
【0033】
さらに、第3の発明によれば、溶接電流の設定信号によって平均溶接電流値を算出することができ、上述した第1の発明と同様の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る溶接電源の外部特性を示す図である。同図の横軸は平均溶接電流Iavを示し、縦軸はピーク電圧値Vpを示す。従来技術を示す図6とは異なり、縦軸をピーク電圧値Vpに変更した理由は以下のとおりである。図11で上述したように、ピーク期間Tp中は大電流値のピーク電流Ipが通電するためにアークの指向性が強くなり、アークは溶接ワイヤ直下に発生する。この結果、見かけのアーク長と真のアーク長とが略等しくなるために、真のアーク長と比例するピーク電圧値Vpによって見かけのアーク長を検出することができる。したがって、パルス周期ごとの見かけのアーク長の変化をピーク期間Tp中の見かけのアーク長の変化によって検出するものである。溶接品質には数周期〜十数周期のパルス周期における見かけのアーク長の変化が問題になるので、1パルス周期中の平均の見かけのアーク長をk検出する必要はない。パルス周期ごとのピーク期間Tpの見かけのアーク長を検出し、数数周期〜十数周期にわたる見かけのアーク長の変化幅を正確に検出することが重要である。
【0036】
同図において、縦軸をピーク電圧値Vpとすることは、見かけのアーク長を縦軸にした外部特性を設定していることと等価である。したがって、同図の外部特性が形成されるように溶接電源の出力制御を行うことによって良好なアーク長制御を行うことができる。同図に示す外部特性L3は、P0点を通り傾きKsの直線であり、下式で表すことができる。P0点は溶接電流基準値Isとピーク電圧基準値Vpsとの交点である。
Vp=Ks・(Iav−Is)+Vps …(6)式
【0037】
図2は、上述した外部特性L3を形成する出力制御を搭載した溶接電源のブロック図である。同図において上述した図9と同一のブロックには同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、図9と異なる点線で示すブロックについて説明する。
【0038】
ピーク電圧検出回路VPDは、ピーク電圧Vpを検出して、ピーク電圧検出信号Vpdを出力する。平均電流算出回路IAVは、各パルス周期の開始時点から刻々と平均値を算出して、平均溶接電流値信号Iavを出力する。平均値の算出方法については、図3で詳述する。ピーク電圧基準値設定回路VPSは、予め定めたピーク電圧基準値信号Vpsを出力する。平均溶接電流設定回路IAVSは、溶接電流基準値信号Is、傾き設定信号Ks、上記のピーク電圧基準値信号Vps及び上記のピーク電圧検出信号Vpdを入力として、上記の(6)式を変形した
Iavs=((Vpd−Vps)/Ks)+Is …(7)
によって演算して、平均溶接電流設定信号Iavsを出力する。これにより、ピーク電圧検出信号Vpdに対応する図1の外部特性上の平均溶接電流値Iav(平均溶接電流設定信号Iavs)を算出している。第2比較回路CM2は、ピーク期間に続くベース期間に上記の平均溶接電流値信号Iavの値と平均溶接電流設定信号Iavsの値とが等しくなった時点で現パルス周期を終了するための短時間Highレベルになる比較信号Cmを出力する。
【0039】
図3は、上述した溶接電源の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流ioの、同図(B)は溶接電圧voの、同図(C)は平均溶接電流値信号Iav及び平均溶接電流設定信号Iavsの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0040】
時刻t1において、第n回目のパルス周期Tpb(n)が開始すると、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpが印加する。このピーク電圧値Vpを入力として、上記(7)式によって同図(C)に示す平均溶接電流設定信号Iavsの値が算出される。したがって、この平均溶接電流設定信号Iavsの値は、パルス周期Tpbごとにピーク電圧値Vpに対応して新たに算出される。
【0041】
第n回目のパルス周期Tpb(n)の開始時点である時刻t1からの経過時間をtとすると、経過時間tにおける平均溶接電流値Iavは下式で表すことができる。
Iav=(1/t)・∫ia・dt …(8)式
但し、iaは溶接電流絶対値信号であり、積分は経過時間tの間行う。
同図(C)に示すように、平均溶接電流値信号Iavの値は、上記(8)式に従い変化し、ピーク期間Tp中はIav>Iavsとなり、ベース期間Tb中は次第に減少し、時刻t3においてIav=Iavsになる。この時刻t3の時点で第n回目のパルス周期Tpb(n)を終了する。
【0042】
上述した本発明の出力制御方法を整理すると以下のようになる。
(1)溶接電流基準値信号Is、ピーク電圧基準値信号Vps及び傾き設定信号Ksによって所望の外部特性を上記(6)式で設定する。
(2)第n回目のパルス周期Tpb(n)のピーク電圧検出信号Vpdを入力として、上記(7)式によって平均溶接電流設定信号Iavsを算出する。
(3)第n回目のパルス周期Tpb(n)の開始時点から上記(8)式によって平均溶接電流値信号Iavを刻々と算出する。
(4)第n回目のパルス周期Tpb(n)のピーク期間Tpに続くベース期間Tb中において、平均溶接電流値信号Iavの値が平均溶接電流設定信号Iavsの値と等しくなった時点で第n回目のパルス周期Tpb(n)を終了する。
【0043】
上記した実施の形態1によれば、アークが斜め方向に発生する頻度が高い溶接条件において、見かけのアーク長の変化をピーク電圧値によって正確に検出し、平均溶接電流と見かけのアーク長との関係を示す外部特性を所望値に形成することができる。このために、アーク長制御性が向上し良好な溶接品質を得ることができる。
【0044】
[実施の形態2]
図4は、溶接電流・電圧波形においてピーク期間Tpの前後に立上り期間Tu及び立下り期間Tdを設けた場合の図3に対応するタイミングチャートである。立上り期間Tu中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する遷移電流が通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbからピーク電圧Vpへと上昇する遷移電圧が印加する。続くピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpが印加する。続く立下り期間Td中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降する遷移電流が通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpからベース電圧Vbへと下降する遷移電圧が印加する。続くベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが印加する。
【0045】
同図(C)に示すように、平均溶接電流設定信号Iavsは同図(B)に示すピーク電圧値Vpを入力として、上記(7)式によって算出される。また、平均溶接電流値信号Iavは上記(8)式によって算出される。平均溶接電流値信号Iavの値は、立上り期間Tu及びピーク期間Tp中は増加し、立下り期間Td及びベース期間Tb中は減少し、時刻t4においてIav=Iavsとなりこのパルス周期を終了する。
【0046】
立上り期間Tuと立下り期間Tdは、両方又はどちらか一方でも良い。実施の形態2によれば、ピーク電流の立上り及び/又は立下りに傾斜がある場合でも、上述した実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0047】
[実施の形態3]
図5は、溶接電流・電圧波形においてピーク期間Tpの前に電極マイナス期間Tnを設けた交流パルスアーク溶接の場合の図3に対応するタイミングチャートである。電極マイナス期間Tn中は、同図(A)に示すように、電極マイナス極性で電極マイナス電流In流が通電し、同図(B)に示すように、電極マイナス電圧Vnが印加する。続くピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、通常の電極プラス極性に切り換えてピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpが印加する。続くベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが印加する。
【0048】
同図(C)に示すように、平均溶接電流設定信号Iavsは同図(B)に示すピーク電圧値Vpを入力として、上記(7)式によって算出される。また、平均溶接電流値信号Iavは上記(8)式によって算出される。平均溶接電流値信号Iavの値は、電極マイナス期間Tn及びピーク期間Tp中は増加し、ベース期間Tb中は減少し、時刻t4においてIav=Iavsとなりこのパルス周期を終了する。
【0049】
電極マイナス期間Tnは、ピーク期間Tpの前後のどちらに設けても良い。実施の形態3によれば、電極マイナス期間Tnのある交流パルスアーク溶接でも、上述した実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0050】
[実施の形態4]
上述したように、平均溶接電流平均値Iavは、上記(8)式によって算出される。図3(A)で上述した溶接電流波形において、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは、図2で上述した溶接電流設定信号Icsによって設定される。したがって、溶接電流ioの絶対値iaの代わりに溶接電流設定信号Icsを使用すると、上記(8)式は下式に修正される。
Iav=(1/t)・∫Ics・dt …(81)式
但し、経過時間tはパルス周期開始時点からの経過時間であり、積分はこの経過時間tの間行う。溶接電流波形が、上述した図4及び図5のときも同様である。
【0051】
さらに、図3において、時刻t3時点で平均溶接電流値Iavと平均溶接電流設定信号Iavsとが等しくなり、ピーク電流Ipはピーク電流設定値Ipsによって、ベース電流Ibはベース電流設定値Ibsによって、ピーク期間Tpはピーク期間設定値Tpsによって予め設定されているので、下式が成立する。
Iavs=(Ips・Tps+Ibs・Tb)/(Tps+Tb)
上式をベース期間Tbによって整理すると下式となる。
Tb=(Ips−Iavs)・Tps/(Iavs−Ibs) …(91)式
したがって、パルス周期を開始し、ピーク電圧値Vpによって平均溶接電流設定信号Iavsが算出されると、上記(91)式によって現パルス周期のベース期間Tbを算出することができる。
【0052】
同様に、図4の溶接電流波形においては、平均溶接電流設定信号Iavsが決まるとベース期間Tbは下式で算出される。
Tb=((A・Tus+Ips・Tps+A・Tds)/(Iavs−Ibs))−Tus−Tps−Tds
…(92)式
但し、A=(1/2)・(Ips−Ibs)であり、Tusは予め定めた立上り期間設定値であり、Tdsは予め定めた立下り期間設定値である。
【0053】
同様に、図5の溶接電流波形においては、平均溶接電流設定信号Iavsが決まるとベース期間Tbは下式で算出される。
Tb=((Ins−Iavs)・Tns+(Ips−Iavs)・Tps)/(Iavs−Ibs)
…(93)式
但し、Insは予め定めた電極マイナス電流設定値であり、Tnsは予め定めた電極マイナス期間設定値である。
【0054】
上述したように、実施の形態4によれば、溶接電流設定信号Ics又は溶接電流波形パラメータによってベース期間Tbを制御し、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態1に係る溶接電源の外部特性を示す図である。
【図2】図1の外部特性を形成する出力制御を搭載した溶接電源のブロック図である。
【図3】図2の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【図4】溶接電流・電圧波形においてピーク期間Tpの前後に立上り期間Tu及び立下り期間Tdを設けた場合の図3に対応するタイミングチャートである。
【図5】溶接電流・電圧波形においてピーク期間Tpの前に電極マイナス期間Tnを設けた場合の図3に対応するタイミングチャートである。
【図6】従来技術における外部特性を示す図である。
【図7】従来技術におけるパルスアーク溶接の電流・電圧波形図である。
【図8】従来技術において、第n回目のパルス周期Tpb(n)の溶接電流の平均値Iav(n)及び溶接電圧の平均値Vav(n)を示す電流・電圧波形図である。
【図9】図6の外部特性を形成する出力制御を搭載した溶接電源のブロック図である。
【図10】図9の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【図11】課題を説明するためのアーク発生部の模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
CM 比較回路
Cm 比較信号
CM2 第2比較回路
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ia 溶接電流絶対値(信号)
IAV 平均電流算出回路
Iav 平均溶接電流値(信号)
IAVS 平均溶接電流設定回路
Iavs 平均溶接電流設定信号
Ib ベース電流
Ibs ベース電流設定値
ICS 電流設定回路
Ics 溶接電流設定信号
ID 電流検出回路
In 電極マイナス電流
Ins 電極マイナス電流設定値
io 溶接電流
Ip ピーク電流
Ips ピーク電流設定値
IS 溶接電流基準値設定回路
Is 溶接電流基準値(信号)
KS 傾き設定回路
Ks 傾き設定信号
L1〜L3 外部特性
La1、La2 見かけのアーク長
Lt1、Lt2 真のアーク長
PF 溶接電流波形パラメータ設定回路
Pf 溶接電流波形パラメータ設定信号
SVI 積分回路
Svi 積分値(信号)
Tb ベース期間
Td 立下り期間
Tds 立下り期間設定値
Tn 電極マイナス期間
Tns 電極マイナス期間設定値
Tp ピーク期間
Tpb パルス周期
Tps ピーク期間設定値
Tu 立下り期間
Tus 立下り期間設定値
va 溶接電圧絶対値(信号)
Vav 平均溶接電圧値
Vb ベース電圧
VD 電圧検出回路
Vn 電極マイナス電圧
vo 溶接電圧
Vp ピーク電圧
VPD ピーク電圧検出回路
Vpd ピーク電圧検出信号
VPS ピーク電圧基準値設定回路
Vps ピーク電圧基準値(信号)
VS 溶接電圧基準値設定回路
Vs 溶接電圧基準値(信号)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク期間中のピーク電流の通電とベース期間中のベース電流の通電とを1パルス周期として溶接電流を通電して溶接する消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法において、
第n回目のパルス周期の開始時点から平均溶接電流値を刻々と算出し、前記ピーク期間中のピーク電圧値を検出し、このピーク電圧値を入力として予め定めた外部特性によって平均溶接電流設定値を算出し、
前記ピーク期間に続くベース期間中に前記平均溶接電流値と前記平均溶接電流設定値とが等しくなった時点で前記第n回目のパルス周期を終了し、続けて第n+1回目のパルス周期を開始する、ことを特徴とする消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法。
【請求項2】
前記ピーク電流が立上り及び/又は立下りに傾斜を有する、ことを特徴とする請求項1記載の消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法。
【請求項3】
前記ピーク期間の前に電極マイナス期間を設け、この電極マイナス期間中は電極マイナス極性に切り換えて電極マイナス電流を通電する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法。
【請求項4】
前記平均溶接電流値の算出を前記溶接電流の設定信号によって行う、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の消耗電極パルスアーク溶接の出力制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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