説明

消耗電極式アーク溶接装置

【課題】 スラグ発生量を低減して溶接欠陥をなくした溶接をする。
【解決手段】 セルフシールド溶接用の溶接トーチ101から溶接ワイヤ103を送給し、アーク104を形成して溶接を行う。このとき、溶接ワイヤ103の溶融に伴い発生するガス及びスラグによりアーク及び溶融池部分が大気から保護される。ガス添加ノズル110は、ジグ120を介して溶接トーチ101に連結されており、このガス添加ノズル110により、シールドガス111がアーク部分に添加・供給される。シールドガス111は、05.〜10リットル/分の割合で供給されて、アーク及び溶融池部分を大気から保護すると共に、溶接ワイヤから生成されるスラグ量を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は消耗電極式アーク溶接装置に関し、セルフシールドアーク溶接装置の利点を維持しつつ溶接欠陥を低減することができるように工夫したものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式アーク溶接法の一種に、セルフシールドアーク溶接法がある。このセルフシールドアーク溶接法では、専用のフラックスが入った溶接ワイヤを用い、外部からシールドガスを供給しないで大気中で溶接を行う。溶接ワイヤ内に充填されているフラックスには、ガス発生剤、脱酸剤、脱窒剤、スラグ形成剤などが含まれている。溶接中は、ガス発生剤から発生するガスがアーク(溶接部)を大気から保護すると共に、脱酸剤や脱窒剤が、大気から溶融池に入り込んだ酸素や窒素をスラグ化したり固定したりして、酸素や窒素の悪影響を防いでいる。
【0003】
図5は、従来のセルフシールドアーク溶接装置のトーチ部分を示す。同図において、1は絶縁管、2はコンタクトチップ、3は溶接ワイヤ、4は溶接電源、5はアーク、6は母材、7は溶融金属、8は溶接金属、9はスラグである。
【0004】
コンタクトチップ2と母材6との間に溶接電源4から電圧を印加して、溶接ワイヤ3に電流を供給することによりアーク5が発生する。アーク5の熱により、溶接ワイヤ3が溶けるとともに、溶接ワイヤ3に充填されているフラックスからガスが発生し、このガスにより、アーク5並びに溶融金属7の部分を、大気から遮断して溶接金属8による溶接ができるようになっている。
【0005】
【非特許文献1】溶接学会編 「第2版 溶接・接続便覧」丸善、2003年2月25日刊、278ページ〜283ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで従来のセルフシールドアーク溶接法では、スラグの発生量が多いという問題があった。
また、セルフシールドアーク溶接法を用いて多パス溶接をした場合には、スラグ噛み込みやスラグ巻き込み等の溶接欠陥が発生し易いという問題があった。このような溶接欠陥の発生を防止するためには、1パスの溶接が終了するたびに、グラインダによるスラグ除去作業等が必要であり、スラグ除去に多大な時間を要していた。
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、スラグの発生量を抑制すると共に、多パス溶接をする場合にスラグの除去作業が不要になる消耗電極式アーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の構成は、
ガス発生剤を含むフラックスが入った溶接ワイヤを送給する溶接トーチと、
前記溶接トーチに連結されており、前記溶接トーチと母材との間で形成されるアークに向けてシールドガスを供給するガス添加ノズルとを備えており、
前記ガス添加ノズルは、0.5〜10リットル/分の割合でシールドガスを供給することを特徴とする。
【0009】
また本発明の構成は、前記ガス添加ノズルの内径が2〜8mmであることを特徴とする。
【0010】
また本発明の構成は、溶接方向に関して、前記溶接トーチと前記ガス添加ノズルとが前後に位置ずれして配置されていることを特徴とする。
【0011】
また本発明の構成は、
溶接方向に関して、前記溶接トーチと前記ガス添加ノズルとが前後に位置ずれして配置されていると共に、
溶接方向に直交する方向に関して、前記溶接トーチと前記ガス添加ノズルとが位置ずれして配置されていることを特徴とする。
【0012】
また本発明の構成は、前記シールドガスは、不活性ガス、または、不活性ガスを主体とする混合ガスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、セルフシールドアーク溶接用の溶接ワイヤから発生するシールドガスに、ガス添加ノズルにより添加したシールドガスが更に追加されるため、アーク発生部分では、シールドガスにより大気から確実に保護されて、良好な溶接を行うことができる。
【0014】
また、ガス添加ノズルにより添加するシールドガスの吹きつけ位置を、溶接ビードの中央からずらすことにより、スラグ発生位置を偏らせることにより、スラグ発生の少ない側に順に溶接パスを形成していくことにより、スラグ除去作業することなく、連続的に多パス溶接を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を、実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の実施例1に係る消耗電極式アーク溶接装置の溶接トーチ部分100を示す構成図である。この溶接トーチ部分100では、セルフシールドアーク溶接用の溶接トーチ101と、ガス添加ノズル110とが、トーチ/ノズル連結ジグ120により連結されている。
【0017】
この場合、溶接トーチ101とガス添加ノズル110とがタンデム状態(縦並び状態)で連結されている。換言すると、溶接方向Aに沿い、溶接トーチ101が前側に位置し、ガス添加ノズル110が後ろ側に位置する状態となるように、両者が連結されている。
しかも、この実施例1では、溶接トーチ部分100が溶接方向Aに沿い移動していったときに、溶接トーチ101の中心軸101aの移動軌跡と、ガス添加ノズル110の中心軸110aの移動軌跡が一致するように、両者の位置が配置されている。
なお、溶接トーチ101とガス添加ノズル110の前後配置位置を逆にしても良い。
【0018】
溶接トーチ101は、給電用の溶接チップ102を内包しており、セルフシールドアーク溶接用の溶接ワイヤ103を送給する。この溶接ワイヤ103には、ガス発生剤、脱酸剤、脱窒剤、スラグ形成剤などが含まれているフラックスが入っている。
【0019】
溶接トーチ101の溶接チップ102と母材200との間に電圧を印加すると、アーク104が形成され、溶融池201ができて溶接ビード202が形成されて溶接が行われる。このときガス発生剤からガスが発生して、アーク104及び溶融池201の形成部分が大気から保護される。
【0020】
ガス添加ノズル110は、シールドガス111を、アーク104及び溶融池201の形成部分に向けて供給する。このため、ガス発生剤から発生したガスに、ガス添加ノズル110から供給したシールドガス111が更に添加されることになる。
【0021】
シールドガス111のガス供給量(供給割合)は、0.5〜10リットル/分の範囲の中の任意の値としている。このような割合でガスを供給するため、ガス添加ノズル110の内径(直径)を、2〜8mmにしている。
【0022】
またシールドガス111としては、不活性ガス、または、不活性ガスを主体とする混合ガスを採用している。具体的には、Arガス、Heガス、ArガスとO2ガスとの混合ガス(O2の割合は2%)、ArとCO2との混合ガス(CO2の割合は20%)、CO2ガス、等を採用している。
【0023】
実施例1では、前述したように、溶接トーチ部分100が溶接方向Aに沿い移動していったときに、溶接トーチ101の中心軸101aの移動軌跡とガス添加ノズル110の中心軸110aの移動軌跡が一致するように、溶接トーチ101及びガス添加ノズル110がタンデム状態で配置されている。このため、図2に平面図で示すように、アーク104の発生部分αと、シールドガス111の供給部分βとは、溶接ビード202の中央に位置する。このため、添加したシールドガス111が、アーク発生部分に良好に添加され、良好な溶接ができる。
【0024】
ここで、図3を参照して、各ガス組成毎の、添加シールドガス111の流量(L(リットル)/min)とスラグ重量との関係を説明する。図3において、縦軸は、「単位溶接長当たりのスラグ重量低減率」を示しており、縦軸の「100」は、シールドガス111を全く添加していないときのスラグ重量を示している。つまり、シールドガス111を全く添加していないときのスラグ重量を「100」として、スラグ重量低減率を表している。
【0025】
図3から分かるように、シールドガス111を添加する流量を増加していくと、発生するスラグ重量が低減していく。しかも、添加するシールドガス111の流量が0.5[L/min]を越えるとスラグ重量が8割程度低減する。また、通常のシールドガス溶接では、シールドガスを20[L/min]程度使用するので、その半分の10[L/min]以下にすればシールドガス111の使用費用の削減ができる。
かかる点を考慮して、本実施例1では、添加するシールドガス111のガス供給量を、0.5〜10リットル/分の範囲の中の任意の値としている。
【0026】
このようにすることにより、効果的にスラグ発生を抑制して、スラグ巻き込み等の溶接欠陥の少ない良好な溶接を実現することができると共に、シールドガス111の使用量(使用費用)を、通常のシールドガス溶接の場合の半分以下にして費用削減も図ることができる。
【実施例2】
【0027】
本発明の実施例2に係る消耗電極式アーク溶接装置の溶接トーチ部分100の構成部品は、図1に示す実施例1と同じである。ただし、溶接トーチ101に対するガス添加ノズル110の配置位置が異なっている。即ち、実施例1では、溶接方向Aに直交する方向(図1では紙面に直交する方向)に関して、溶接トーチ101とガス添加ノズル110の配置位置は一致していたが、実施例2では溶接トーチ101に対してガス添加ノズル110の配置位置がずれている。
【0028】
このため、図3に示すように、溶接トーチ101により溶接して形成される溶接ビード202の中央(中心線202a)に対して、シールドガス111の供給部分βが偏心する。つまり、アーク104の発生部分αは溶接ビード202の中央に位置するが、シールドガス111の供給位置βは溶接ビード202の中央から偏心する。
【0029】
このように、シールドガス111の供給位置βが溶接ビード202の中央から偏心している。この結果、溶接ビード202の中心線202aを境にして、供給位置βが位置する側の領域Xではシールドガス111による吹きつけが多くスラグ発生量が少なくなり、供給位置βが位置しない側の領域Yではシールドガス111の吹きつけが少なくスラグ発生量が多くなる。
【0030】
このようにスラグ発生量を溶接ビード202の中心線202aを境にして左右で異ならせることにより、多パス溶接をする場合には、先行する溶接ビード202のうちスラグ発生量の少ない側(X領域)に隣接する位置に、次の後行する溶接ビード202を形成していくようにする。
【0031】
このように、スラグ発生量の少ない部分に次の溶接ビードがラップするよう溶接を繰り返すことにより、1パスごとに、グラインダ等によるスラグ除去作業をしなくても、良好な多パス溶接を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、セルフシールドアーク溶接の高能率・高品質化を目指す溶接技術分野に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1に係る消耗電極式アーク溶接装置の溶接トーチ部分を示す構成図である。
【図2】実施例1における溶接ビードと、アーク発生部分α及びシールドガス供給部分βの関係を示す平面図。
【図3】シールドガスの流量とスラグ重量との関係を示す特性図。
【図4】実施例2における溶接ビードと、アーク発生部分α及びシールドガス供給部分βの関係を示す平面図。
【図5】従来のセルフシールドアーク溶接装置の溶接トーチ部分を示す構成図である。
【符号の説明】
【0034】
100 溶接トーチ部分
101 溶接トーチ
101a 中心軸
102 溶接チップ
103 溶接ワイヤ
104 アーク
110 ガス添加ノズル
110a 中心軸
111 シールドガス
200 母材
201 溶融池
202 溶接ビード
202a 中心線
α アークの発生部分
β シールドガスの供給部分
A 溶接方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス発生剤を含むフラックスが入った溶接ワイヤを送給する溶接トーチと、
前記溶接トーチに連結されており、前記溶接トーチと母材との間で形成されるアークに向けてシールドガスを供給するガス添加ノズルとを備えており、
前記ガス添加ノズルは、0.5〜10リットル/分の割合でシールドガスを供給することを特徴とする消耗電極式アーク溶接装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ガス添加ノズルの内径が2〜8mmであることを特徴とする消耗電極式アーク溶接装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
溶接方向に関して、前記溶接トーチと前記ガス添加ノズルとが前後に位置ずれして配置されていることを特徴とする消耗電極式アーク溶接装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、
溶接方向に関して、前記溶接トーチと前記ガス添加ノズルとが前後に位置ずれして配置されていると共に、
溶接方向に直交する方向に関して、前記溶接トーチと前記ガス添加ノズルとが位置ずれして配置されていることを特徴とする消耗電極式アーク溶接装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項において、
前記シールドガスは、不活性ガス、または、不活性ガスを主体とする混合ガスであることを特徴とする消耗電極式アーク溶接装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−82122(P2006−82122A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270968(P2004−270968)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】