説明

消臭性ポリウレタン発泡体

【課題】アセトアルデヒド類等の揮発性有機化合物(VOC)に対する酸化・分解性能が高く、その高い酸化・分解性能を長期に渡って発揮できる消臭性ポリウレタン発泡体の提供を目的とする。
【解決手段】ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び消臭剤を含む原料を発泡させたポリウレタン発泡体において、消臭剤は、金属化合物を担持させた無機多孔質体からなり、前記金属化合物が、揮発性有機化合物を酸化、分解すると共に自身も酸化され、前記酸化、分解後に自身が水分により還元されて元の金属化合物に戻る化合物からなり、前記消臭剤の量が前記ポリオール類100質量部当たり5〜40質量部であり、ポリウレタン発泡体11の表面12が火炎処理により溶融し、固化したものからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭剤を含むポリウレタン原料から発泡させた消臭性ポリウレタン発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリウレタン発泡体は、自動車の座席、ヘッドレスト、住宅の椅子、ソファー、壁材等、自動車や住宅の内装材用クッション体として広く使用されている。
【0003】
また、住宅及び自動車の内装材においては、シックハウス症候群対策としてアルデヒド類などの揮発性有機化合物〔VOC(Volatile Organic Compounds)〕を低減させると共に、臭いを低減させるために、活性炭やゼオライト等の無機多孔質体からなる吸着剤をポリウレタン発泡体に含有させることが提案されている。
【0004】
また、酸化還元反応により何度も何度も繰り返し使用可能な吸着・分解型の消臭剤をポリウレタン発泡体の原料に含有させて発泡させた消臭性ポリウレタン発泡体も提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−50556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、活性炭やゼオライト等の無機多孔質体からなる吸着剤をポリウレタン発泡体に含有させた場合には、吸着剤に吸着した吸着物質の飽和による吸着限界があり、また一旦吸着剤に吸着した吸着物質が、ポリウレタン発泡体の加熱や振動などによって吸着剤から再放出され、再び室内や車内の揮発性有機化合物(VOC)濃度が上昇する問題がある。一方、酸化還元反応により何度も何度も繰り返し使用可能な吸着・分解型の消臭剤を含有する消臭性ポリウレタン発泡体は、アルデヒド類などの揮発性有機化合物(VOC)に対する酸化・分解性能を長期に渡って発揮できる利点を有するが、さらなる消臭性向上が求められている。
【0006】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、揮発性有機化合物(VOC)に対する酸化・分解性能が高く、その高い酸化・分解性能を長期に渡って発揮できる消臭性ポリウレタン発泡体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び消臭剤を含む原料を発泡させたポリウレタン発泡体において、前記消臭剤は、金属化合物を担持させた無機多孔質体からなり、前記金属化合物が、揮発性有機化合物を酸化、分解すると共に自身も酸化され、前記酸化、分解後に自身が水分により還元されて元の金属化合物に戻る化合物からなり、前記ポリウレタン発泡体の表面は熱溶融後固化したものからなることを特徴とする消臭性ポリウレタン発泡体に係る。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、前記ポリウレタン発泡体の熱溶融は前記ポリウレタン発泡体の表面を火炎であぶる火炎処理によることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記消臭剤の量が前記ポリオール類100質量部当たり5〜40質量部であることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1から3の何れか一項において、前記消臭剤の金属化合物が鉄系化合物又は銀系化合物であることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1から4の何れか一項において、前記揮発性有機化合物がアルデヒド類であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属化合物を担持させた無機多孔質体からなる消臭剤は、ポリウレタン発泡体の表面の熱溶融によって溶融しないため、ポリウレタン発泡体表面の熱溶融時にポリウレタン発泡体の表面に効果的に析出し、外気と接触しやすくなって、消臭効果が一層向上する。また、ポリウレタン発泡体表面の熱溶融時に無機多孔質体に熱が加わるため、無機多孔質体自体が持つ消臭作用を再活性させることができ、これによっても消臭効果が高くなる。
【0013】
また、本発明によれば、無機多孔質体に担持されている金属化合物が、揮発性有機化合物を酸化、分解すると共に自身も酸化され、その酸化、分解後に自身が水分により還元されて元の金属化合物に戻る化合物からなるため、本発明の消臭性ポリウレタン発泡体は、アルデヒド類などの揮発性有機化合物に触れると、金属化合物がアルデヒド類を酸化してカルボン酸とし、さらに二酸化炭素と水に分解するため吸着物の飽和を生じることがなく、しかも、その際に金属化合物自身は酸化されるが、空気中の水分により還元されて元の還元状態に戻るため、継続的に揮発性有機化合物に対する酸化、分解機能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の一実施例に係る消臭性ポリウレタン発泡体の断面図である。
図1に示す消臭性ポリウレタン発泡体10は、ポリウレタン発泡体11の表面12が熱溶融後固化したものからなり、建築物(住宅、オフィス等)及び自動車の内装材あるいは家具用のクッション体として好適なものである。例えば建築物の内装材としては壁材等を挙げることができ、また、自動車の内装材としては、座席、ヘッドレスト、ドアの内張等を挙げることができ、また家具用としては、椅子、ソファー、ベッド等を挙げることができる。
である。
【0015】
ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び消臭剤を含む原料を発泡させたものからなる。
【0016】
ポリオール類としては、ポリウレタン発泡体に用いられる公知のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオールの何れか一つが単独で又は二以上が混合いて用いられる。
【0017】
ポリエーテルポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコール、またはその多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールを挙げることができる。また、ポリエステルポリオールとしては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオールを挙げることできる。ポリエーテルエステルポリオールとしては、前記ポリエーテルポリオールと多塩基酸を反応させてポリエステル化したもの、あるいは1分子内にポリーエーテルとポリエステルの両セグメントを有するものを挙げることができる。なお、ポリオール類としては、熱溶融後の固化の促進に優れる、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオールを含むものが好ましい。クッション特性、歪特性の要求から中でも、ポリエーテルエステルポリオールとポリエーテルポリオールを併用したものが好ましい。
【0018】
ポリイソシアネートとしては、芳香族系、脂環式、脂肪族系の何れでもよく、また、1分子中に2個のイソシアネート基を有する2官能のイソシアネートであっても、あるいは1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する3官能以上のポリイソシアネートであってもよく、それらを単独であるいは複数組み合わせて使用してもよい。
【0019】
例えば、2官能のポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネートなどの芳香族系のもの、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環式のもの、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、リジンイソシアネートなどの脂肪族系のものを挙げることができる。
【0020】
また、3官能以上のポリイソシアネートとしては、1−メチルベンゾール−2,4,6−トリイソシアネート、1,3,5−トリメチルベンゾール−2,4,6−トリイソシアネート、ビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4,4’−トリイソシアネート、メチルジフェニルメタン−4,6,4’−トリイソシアネート、4,4’−ジメチルジフェニルメタン−2,2’,5,5’テトライソシアネート、トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート、ポリメリックMDI等を挙げることができる。なお、その他ウレタンプレポリマーも使用することができる。また、ポリイソシアネートは、それぞれ一種類に限られず一種類以上であってもよい。例えば、脂肪族系イソシアネートの一種類と芳香族系イソシアネートの二種類を併用してもよい。
【0021】
なお、ポリイソシアネート類のイソシアネートインデックスは、100〜130が好ましい。イソシアネートインデックスは、ポリウレタンの分野で使用される指数でああって、原料中の活性水素基(例えばポリオール類の水酸基及び発泡剤としての水等の活性水素基等に含まれる活性水素基)に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表した数値である。
【0022】
発泡剤としては水、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、炭酸ガス等が用いられる。発泡剤が水の場合、添加量は目的とする密度や良好な発泡状態が得られる範囲に決定され、通常はポリオール類100質量部に対して1〜5質量部が好ましい。発泡剤の量が1質量部未満では発泡が不十分になり、低密度のポリウレタン発泡体を得るのが難しくなる。発泡剤の量が5質量部を超えると、発泡過剰となって発泡体の硬さ、強度等が低下する。
【0023】
触媒としては、ポリウレタン発泡体用として公知のものを用いることができる。例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノモルフォリン、N−エチルモルホリン、テトラメチルグアニジン等のアミン触媒や、スタナスオクトエートやジブチルチンジラウレート等の錫触媒やフェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)を挙げることができる。触媒の一般的な量は、ポリオール類100質量部に対して0.2〜2.0質量部が好ましい。触媒の量が0.2質量部未満の場合、反応が不十分になってポリウレタン発泡体の機械的物性が低下するようになる。一方、触媒の量が2.0質量部を超えると、反応の進行が急激になって、ウレタン化反応と泡化反応のバランスが崩れ、ポリウレタン発泡体の歪特性が低下するようになる。
【0024】
消臭剤としては、金属化合物を担持させた常温固体の無機多孔質体が用いられる。本発明における担持とは、金属化合物が物理的または化学的な吸着により、無機多孔質体に保持されている状態をいう。前記無機質多孔質体としては、ゼオライト、セピオライト、酸化アルミニウム、シリカ等からなり、物理的な吸着作用を有する。前記無機多孔質体が担持する前記金属化合物は、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類などの揮発性有機化合物(VOC)を酸化、分解すると共に自身も酸化され、前記酸化、分解後に自身が水分により還元されて元の金属化合物に戻る化合物からなる。前記金属化合物としては、硫酸第一鉄(FeSO)、酸化第一鉄(FeO)、塩化第一鉄(FeCl)等の鉄系化合物(二価鉄化合物)、酸化銀(AgO)、硝酸銀(AgNO)、塩化銀(AgCl)、硫酸銀(AgSO)等の銀系化合物(一価の銀化合物)などが用いられる。前記金属化合物には金属イオンとキレート化合物を形成して安定化させるためにEDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のキレート剤を含むことが好ましい。
【0025】
前記金属化合物によるアルデヒド類などの揮発性有機化合物(VOC)の酸化、分解は次のように行われる。例えば、アセトアルデヒド(CHCHO)は、[CHCHO→CHCOOH→CO+HO]のように、前記金属化合物による酸化によって酢酸(CHCOOH)となり、その酢酸がさらに酸化、分解されて二酸化炭素(CO)と水(HO)になる。また、ホルムアルデヒド(HCHO)は、[HCHO→HCOOH→CO+HO]のように、前記金属化合物による酸化によって蟻酸(HCOOH)となり、その蟻酸がさらに酸化、分解されて二酸化炭素(CO)と水(HO)になる。
【0026】
前記金属化合物は、前記アルデヒド類などの揮発性有機化合物(VOC)の酸化、分解の過程で、自身も酸化され、前記酸化、分解後に自身が水分により還元されて元の金属化合物に戻る。例えば、硫酸第一鉄(FeSO)は硫酸第二鉄〔(Fe(SO〕に酸化され、その硫酸第二鉄〔(Fe(SO〕が空気中の水分(還元剤)により還元されて元の硫酸第一鉄(FeSO)に戻る。また、一価の酸化銀(AgO)は二価の酸化銀(AgO)に酸化され、その二価の酸化銀が空気中の水分(還元剤)により還元されて元の一価の酸化銀(AgO)に戻る。したがって、前記金属化合物は、アルデヒド類などの揮発性有機化合物(VOC)を酸化、分解することができ、しかも、前記還元状態から酸化状態を経て再び還元状態へ戻る繰り返しが例えば10回以上繰り返され、長期間消臭作用を維持することができる。
【0027】
前記無機多孔質体に担持された金属化合物の含有量は、消臭剤中に0.3〜6.0%の範囲のものが好ましい。また、消臭性ポリウレタン発泡体における金属化合物の含有量は、無機多孔質体に担持されていることから、ポリオール類100質量部当たり0.01〜2.0質量部の範囲が、消臭性能を迅速かつ長期に渡って発揮することができる点で好ましい。また、消臭性ポリウレタン発泡体に対する消臭剤の含有量は、ポリオール類100質量部当たり5〜40質量部の範囲が好ましい。5質量部未満の場合、消臭効果が不十分となり、一方、40質量部を超える場合、過剰な消臭剤の添加によりポリウレタン発泡体の機械的物性が著しく低下する。
【0028】
前記消臭剤の粒子径は、20〜100μmが好ましい。消臭剤の粒子径が20μm未満であると、長期的な消臭性能維持は可能であるが、ポリウレタン発泡体のセル骨格の幅よりも粒子径が小さくなることから、迅速な消臭性能を発揮し難くなる。一方、消臭剤の粒子径が100μmを超えると、ポリウレタン発泡体の発泡時に消臭剤によってポリウレタン発泡体の発泡安定性が阻害されるおそれがあり、また、消臭剤の粒子が大きすぎて消臭剤がポリウレタン発泡体から脱落するおそれがある。
【0029】
その他、前記発泡原料には整泡剤や着色剤、架橋剤等の添加剤が適宜添加される。整泡剤は、良好なセル状態のポリウレタン発泡体を得るために、ポリウレタン原料に添加されるのが好ましいものである。整泡剤としては、ポリウレタン発泡体の製造に用いられる公知のものを使用することができる。例えば、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等を挙げることができる。これらの中でも、線状あるいは分枝状ポリエーテル−シロキサン共重合体が好ましく、また、特に連通性を高めるためには線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体がより好ましい。整泡剤の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.5〜2.5質量部が好ましい。0.5質量部未満の場合、整泡作用を充分に発揮できず、良好なポリウレタン発泡体を得難くなる。一方、2.5質量部を超える場合、整泡作用が強くなりすぎて連通性が低下する。
【0030】
前記ポリウレタン発泡体11の製造は、公知のポリウレタン製造方法によって行われ、ワンショット法、プレポリマー法の何れでもよい。ワンショット法は、ポリオール類とポリイソシアネート類を発泡剤、触媒、整泡剤等の存在下、直接反応させて発泡体を得る方法であり、一方、プレポリマー法は、予めポリール類とポリイソシアネート類を反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを生成し、そのプレポリマーとポリオール類を発泡剤、触媒、整泡剤等の存在下反応させて発泡体を得る方法である。
【0031】
また、前記ポリウレタン発泡体11は、モールド発泡あるいはスラブ発泡の何れでもよい。モールド発泡は、ポリウレタン原料をモールド(成形型)内に充填してモールドの内面形状に発泡させる方法である。一方、スラブ発泡は、ポリウレタン原料を公知のポリウレタン発泡成形装置で混合して、コンベア上の紙又はフィルム上に吐出し、あるいはコンベア以外の上方が開放された空間に吐出して、大気圧下、常温で発泡硬化させることにより行われる。スラブ発泡の場合、発泡後に裁断等で所定寸法、形状とされる。
【0032】
前記ポリウレタン発泡体11の物性は、消臭性ポリウレタン発泡体10の用途に応じて適宜決定されるが、例えば見かけ密度(JIS K 7222(1999)準拠)20〜100kg/m、硬さ(JIS K6400−2(2004、D法)準拠)50〜250N、引張強度(JIS K6400−5(2004)準拠)70〜200kPa、伸び(JIS K6400−5(2004)準拠)80〜300%、圧縮歪(JIS K6400−4 A法準拠)0.5〜10.0%を挙げる。
【0033】
前記ポリウレタン発泡体11の表面12は熱溶融後固化したものからなる。前記表面12の熱溶融は、ポリウレタン発泡体の表面12に熱溶融処理を施すことにより行われ、溶融表面は、熱溶融処理後の自然冷却等により固化する。熱溶融処理としては、前記ポリウレタン発泡体の表面を熱媒体を介し、表面溶融処理する方法あるいは火炎処理が好ましい。表面溶融処理は、例えば、300〜400℃の熱ロールをポリウレタン発泡体の表面に押し当ててポリウレタン発泡体の表面を溶融させ、溶融固形物、または溶融被膜をポリウレタン発泡体の表面に作成する方法である。火炎処理は、フレーム処理とも称され、都市ガスやプロパンガス等を用いるガスバーナーの火炎でポリウレタン発泡体の表面をあぶる処理である。前記ガスバーナーの火炎は600〜1000℃が好ましい。前記消臭剤の無機多孔質体は溶融温度が高いため、前記ポリウレタン発泡体11の表面12が熱溶融処理で熱溶融しても、溶融することなくポリウレタン発泡体11の表面12に存在する。そして、前記消臭剤はポリウレタン発泡体10の固化後の表面12に析出し、外気との接触効率が向上する。また、前記ポリウレタン発泡体の表面12を熱溶融させる際に、前記ポリウレタン発泡体11の表面12に存在する無機質多孔質体が熱で再活性し、無機質多孔質体自体の持つ消臭作用が高いものとなる。
【0034】
なお、前記ポリウレタン発泡体11では、熱溶融処理後、溶融処理面の固化が早いものが好まれる為、ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、またはポリエーテルエステルポリオールを少なくとも、全ポリオール100質量部あたり、20〜100質量部含まれることが好ましい。また、前記ポリウレタン発泡体11において熱溶融処理される表面は、前記ポリウレタン発泡体11の全表面が好ましいが、使用時に金属板等で塞がれて外気と接触することがない表面については熱溶融処理を行わず、外気と接触する表面のみ熱溶融処理するようにしてもよい。図示の例では、両側の表面12についてのみ熱溶融処理され、他の表面(側面)13については熱溶融処理されていない。
【実施例】
【0035】
表1及び表2に示すポリウレタン原料の配合に基づき各原料を混合し、縦、横及び深さが各500mmの発泡容器に注入し、常温、大気圧下で発泡させた後、加熱炉を通過させて硬化(キュア)させることにより実施例1〜7及び比較例1〜6の軟質スラブポリウレタン発泡体を得た。
【0036】
表1及び表2の原料を説明する。ポリオールAは、ポリエーテルポリオール、分子量3000、水酸基価56mgKOH/g、官能基数3、三洋化成工業株式会社製、品番GP−3050、ポリオールBは、ポリエーテルポリエステルポリオール、分子量約3000、水酸基価56mgKOH/g、官能基数3、三井武田ケミカル株式会社製、品番L−50である。アミン触媒は、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、花王(株)、カオーライザーNo.25、金属触媒はジブチルスズジラウレート、城北化学工業(株)製、MRH110、整泡剤はシリコーン整泡剤、デグサジャパン(株)、B8110である。
【0037】
消臭剤Aは無機多孔質体としてのゼオライトに金属化合物として硫酸第一鉄(FeSO)を0.5質量%担持させ、キレート剤(EDTA)などを含むものであり、粒子径30〜50μm(平均粒子径40μm)の製品。消臭剤Bは無機多孔質体としてのゼオライトに金属化合物として硫酸第一鉄(FeSO)を0.5質量%担持させ、キレート剤(EDTA)などを含むものであり、粒子径80〜100μm(平均粒子径90μm)の製品。消臭剤Cは無機多孔質体としてのゼオライトに金属化合物として酸化銀(AgO)を0.5質量%担持させ、キレート剤(EDTA)などを含むものであり、粒子径30〜50μm(平均粒子径40μm)の製品。消臭剤Dはモレキュラーシーブ、ユニオン昭和(株)製、モレキュラーシーブ3Aであり、消臭剤Eは3,3‘,4’,5,7−フラバンフェノールである。
【0038】
ポリイソシアネートはトリレンジイソシアネート(2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの質量比=80/20)、日本ポリウレタン工業(株)製、T−80である。なお、表1及び表2において配合の数字は質量部を示す。
【0039】
実施例1〜7及び比較例1〜6のポリウレタン発泡体に対して、見かけ密度(JIS K 7222(1999)準拠)、硬さ(JIS K6400−2(2004、D法)準拠)、伸び(JIS K6400−5(2004)準拠)、圧縮歪(JIS K6400−4 A法準拠)を測定した。測定結果は表1及び表2に示すとおりである。
【0040】
また、実施例1〜7のポリウレタン発泡体を裁断して400×200×12mmのブロックとし、このブロック状ポリウレタン発泡体の両側表面に対して熱溶融処理を施してポリウレタン発泡体の表面を溶融、固化させて実施例1〜7の消臭性ポリウレタン発泡体を得た。
【0041】
実施例1〜4は、同一消臭剤で消臭剤の量をポリオール類100質量部当たり5〜30質量部で変化させた例、実施例2と実施例5は消臭剤の粒径を異ならせた例、実施例2と実施例6は消臭剤の粒径及び消臭剤の量を一定にして消臭剤の種類を異ならせた例、実施例2と実施例7は熱溶融処理を火炎処理と表面溶融処理で異ならせた例である。火炎処理は、プロパンガスバーナーの火炎(600〜800℃)でポリウレタン発泡体の表面を1秒間あぶることにより行った。一方、表面溶融処理は、ポリウレタン発泡体の表面を熱ロールで約2mm溶融させることにより行った。表面溶融処理を行った実施例7ではポリウレタン発泡体の溶融処理表面に溶融による被膜が形成された。
【0042】
比較例1と比較例2は消臭剤を含有しないポリウレタン発泡体に対し、熱溶融処理を施していない例(比較例1)と熱溶融処理として火炎処理を施した例(比較例2)、比較例3と4は消臭剤として無機多孔質体(モレキュラーシーブ)を含有するポリウレタン発泡体に対し、熱溶融処理を施していない例(比較例3)と熱溶融処理として火炎処理を施した例(比較例4)、比較例5と6は消臭剤として有機系の消臭剤E(3,3‘,4’,5,7−フラバンフェノール)を含有したポリウレタン発泡体に対し、熱溶融処理を施していない例(比較例5)と熱溶融処理として火炎処理を施した例(比較例6)である。
【0043】
実施例及び比較例の消臭性ポリウレタン発泡体に対して、アセトアルデヒドの低減効果を、次のようにして測定した。5Lのフッ素樹脂製の袋に、縦100mm、横100mm、厚み10mmとした実施例および比較例のサンプルをそれぞれ入れた後、アセトアルデヒドを清浄空気(湿度50%)中の濃度が50ppmとなるように袋内の濃度を調整した。次に前記袋を25℃の恒温槽に収容し、23時間後に検知管によりアセトアルデヒドの濃度を測定した。その後、恒温槽内を80℃まで加熱して2時間後に検知管でアセトアルデヒドの濃度を測定した。
【0044】
各測定結果を表1及び表2の「アルデヒド低減」欄に示す。なお、表1及び表2のアルデヒド低減欄における「未変化率:%、23/0hr比」の値は、[23時間後のppm/0時間(初期値)のppm×100]の値であり、23時間で処理されなかったアルデヒドの割合を示しており、この値が小さい程、アルデヒドの低減効果が大きいことを示す。また、実施例については、比較対象として、熱溶融処理を施してないポリウレタン発泡体に対してアルデヒド低減効果の測定を行い、その測定結果を表1におけるアルデヒド低減結果欄の「未処理」欄に示した。表1における「処理有無での差:%」欄の値は、23時間後の測定結果において[処理有りの値/未処理の値×100]の計算結果であり、値が小さい程、処理有りのサンプルにおけるアルデヒド低減効果が大きいことを示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表1及び表2に示した結果から、実施例1〜実施例7においては、アルデヒドの測定値が0時間後よりも23時間後で小さくなっており、アルデヒド低減効果を発揮していることがわかる。また、同一ポリウレタン発泡体における熱溶融処理有りと未処理の23時間後:ppmの値をみると、処理有りの方が未処理のものよりもアルデヒドの濃度が小さくなっており、熱溶融処理によってアルデヒド低減効果、すなわちアルデヒドの酸化、分解作用が高まっていることがわかる。このことは、未処理よりも処理有りの方で未変化率:%の値が小さくなっていること、及び処理有無での差:%の値が100より小さいことからもわかる。また熱溶融処理が火炎処理の実施例2と表面溶融処理の実施例7のアルデヒド低減結果をみると、変化率:%、23/0hr比の値は、火炎処理を施した実施例2方が表面溶融処理の実施例7よりも小さくなっていることから、火炎処理の方が表面溶融処理よりもアルデヒドの酸化、分解によるアルデヒド低減効果が高くなっているのがわかる。これは、表面溶融処理によってポリウレタン発泡体の表面に形成される溶融被膜によって、ポリウレタン発泡体の通気性が妨げられ、外気とポリウレタン発泡体内部の消臭剤との接触が妨げられることによると推測される。また、実施例1〜実施例7は、23時間後の測定後、さらに80℃で2時間加熱してもアルデヒドの濃度は上昇せず、アセトアルデヒドの酸化、分解性能が長期にわたって発揮できることが、加熱後:ppmの値からわかる。
【0048】
これらのことから、揮発性有機化合物を酸化、分解すると共に自身も酸化され、前記酸化、分解後に自身が水分により還元されて、元の金属化合物に戻る化合物を無機多孔質体に担持させた消臭剤を含有するポリウレタン原料から発泡させたポリウレタン発泡体の表面を、熱溶融処理(火炎処理等)で溶融後固化させた消臭性ポリウレタン発泡体は、アセトアルデヒド類などの揮発性有機化合物を酸化、分解する消臭効果が高く、その消臭性能を長期に渡って発揮できることがわかる。
【0049】
一方、比較例に関する表2のアセトアルデヒド低減結果から、消臭剤を添加していない比較例1及び比較例2では、アルデヒド低減効果が得られないことがわかる。なお、消臭剤を添加せず火炎処理を施した比較例2は、23時間後のアルデヒド濃度が増加しているが、これは火炎処理時の熱により有機化合物が分解したことによるものと考えられるが、明確な理由は不明である。比較例3及び比較例4は、モレキュラーシーブからなる消臭剤を含む例であり、比較例3及び比較例4では、アセトアルデヒドの低減効果を有することがわかる。また、火炎処理を施した比較例4の方が火炎処理を施していない比較例3よりもアセトアルデヒドの低減効果が高かった。しかし、比較例3及び比較例4では、23時間後の測定後、さらに80℃で2時間加熱することにより、アセトアルデヒドの濃度が高くなった。これは、比較例3及び比較例4では、アセトアルデヒドが消臭剤に物理的吸着されているだけのため、加熱によってアセトアルデヒドが消臭剤から再放出されたことによると推測される。比較例5及び比較例6は、消臭剤が有機系からなるものであり、23時間後のアルデヒド低減効果はそれなりに得られるが、火炎処理を施してもアルデヒド低減効果は増大せず、逆にアルデヒド濃度が増大した。これは、比較例6に含まれている消臭剤が火炎処理の熱で消臭機能が損なわれたことによると推測される。なお、23時間後の測定後、さらに80℃で2時間加熱しても、アセトアルデヒドの濃度はほとんど変化しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施例における消臭性ポリウレタン発泡体の断面図である。
【符号の説明】
【0051】
10 消臭性ポリウレタン発泡体
11 ポリウレタン発泡体
12 ポリウレタン発泡体の表面(熱溶融処理された表面)
13 ポリウレタン発泡体の表面(熱溶融処理されてない表面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、触媒及び消臭剤を含む原料を発泡させたポリウレタン発泡体において、
前記消臭剤は、金属化合物を担持させた無機多孔質体からなり、前記金属化合物が、揮発性有機化合物を酸化、分解すると共に自身も酸化され、前記酸化、分解後に自身が水分により還元されて元の金属化合物に戻る化合物からなり、
前記ポリウレタン発泡体の表面は熱溶融後固化したものからなることを特徴とする消臭性ポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記ポリウレタン発泡体の熱溶融は前記ポリウレタン発泡体の表面を火炎であぶる火炎処理によることを特徴とする請求項1に記載の消臭性ポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記消臭剤の量が前記ポリオール類100質量部当たり5〜40質量部であることを特徴とする請求項1または2に記載の消臭性ポリウレタン発泡体。
【請求項4】
前記消臭剤の金属化合物が鉄系化合物又は銀系化合物であることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の消臭性ポリウレタン発泡体。
【請求項5】
前記揮発性有機化合物がアルデヒド類であることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の消臭性ポリウレタン発泡体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263551(P2009−263551A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116640(P2008−116640)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】