説明

消音器

【課題】 省スペースで、十分に消音する。
【解決手段】 気体を流通させる消音器本体2と、下流側の端部で合流された主流路3aおよび副流路3bを内側および外側に形成するように消音器本体2内に設けられた多孔板4と、気体が主流路3aを旋回しながら流動するように、気体を主流路3aに流入させる配管5aと、多孔板4に設けられ、主流路3aを流動する気体の一部を副流路3bに通過させる貫通孔4aとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流れに重畳した騒音を消音する消音器に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、流体(気体)の流れに重畳した騒音を消音するために、様々な構造が提案されている。例えば、特許文献1には、気体が流通する複数の貫通孔を有した多孔質防音構造体が開示されている。かかる多孔質防音構造体は、外装板と多数の貫通孔を有した内装板とを対向配置して形成されており、内装板は、板厚、孔径および開口率が貫通孔を流通する気体に粘性作用を発生させる設計条件を満足するように設定されている。そして、その粘性作用により音波のエネルギーを消散させて、吸音している。このような多孔質防音構造体を吸音部材として用いたものも気体の流れに重畳した騒音を消音する構造の1つである。
【0003】
【特許文献1】特開2003−50586号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の吸音構造は、広い周波数範囲において吸音効果が得られるが、その吸音率は0.3程度と小さく、この吸音構造を消音器の吸音部材として用いた場合、十分な消音性能を得るためには、消音器本体を大きくする必要がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、省スペースで、十分な消音性能を有した消音器を提案することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明は、流体を流通させる消音器本体と、下流側の端部で合流された主流路および副流路を内側および外側に形成するように消音器本体内に設けられた仕切部材と、流体が主流路を旋回しながら流動するように、流体を主流路に流入させる旋回開始手段と、仕切部材に設けられ、主流路を流動する流体の一部を副流路に通過させる貫通孔とを有している。
【0007】
この構成によると、流体は仕切部材の内周面に沿って旋回しながら主流路を流動するため、遠心力により外側に広がろうとし、流体は仕切部材に設けられた貫通孔を容易に通過することができる。音波が貫通孔を通過すると、孔壁面における粘性作用により、音波の減衰(消音)効果を得られ、音波が重畳した流体の流れが貫通孔を通過すると、粘性作用に加えて、その流れの圧損作用により音波の減衰(消音)効果を格段に大きくすることができる。これにより、十分な消音性能を有した消音器を省スペースで実現することができる。また、貫通孔に流体を流すために、流体を旋回させることによる遠心力を利用しており、貫通孔を設けた仕切部材の主流路内の流体の流動に対する抵抗を小さくすることができる。
【0008】
本発明の仕切部材が円筒形状であることが好ましい。これによると、主流路を流動する流体が仕切部材の内周面に沿って旋回しやすくなり、さらに貫通孔を通過させやすくなる。
【0009】
本発明は、間隔をあけて仕切部材を囲繞するように配設され、流体が通過する通過孔が設けられた補助仕切部材を有していることが好ましい。これによると、より広い周波数範囲でより大きな消音効果を得ることができる。
【0010】
本発明は、副流路内を流通する流体に重畳する音波を反射し、流体は下流側へ流れるように設けられた阻止部材を有していてもよい。この構成によると、副流路内での無用な音波の共鳴を防止することができ、より高い周波数まで消音することができる。
【0011】
この場合、音波の最高周波数をf、気体中の音波の音速をc、阻止部材の間隔をbとするとき、b=<c/(2f)の関係を満たすことが好ましい。これによると、阻止部材の間隔を調節することで確実に消音することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。本実施形態に係る消音器1は、例えば自動車や鉄道車両、建設車両、船舶、自動搬送装置のように内部にエンジン等の駆動機構を備えた移動装置、モータやギヤ等の駆動機構を内部に備えた設備機械等から騒音(音波)が重畳した気流(流体)を排出する際に用いる排気筒、または、圧縮機等、圧縮気体の流れに重畳して音波が伝搬する配管等に好適に使用される。尚、本実施の形態では、消音器1に流通する流体を気体として説明するが、水や油などの液体であってもよい。
【0014】
消音器1は、図1(a)及び図1(b)に示すように、音波が重畳した気流が流通する流路3を形成する円筒状の消音器本体2と、同じく円筒状の多孔板4(仕切部材)と、配管5a(旋回開始手段)・5bとを有している。これらの消音器本体2、多孔板4および配管5a・5bは、鉄やアルミニウム等の金属や合成樹脂により形成されている。尚、消音器本体2、多孔板4および配管5a・5bは、リサイクル時の分別処理を不要にするように、同一の材質で形成されていることが望ましい。
【0015】
多孔板4は、消音器本体2の軸方向に延在し、内側に主流路3a、外側に副流路3bを形成するように流路3を分割し、多孔板4の中心軸と消音器本体2の中心軸とが一致するように配設されている。つまり、円筒状の主流路3aの外周を副流路3bが囲繞するように形成されている。さらに、多孔板4は、分割した主流路3aと副流路3bとが下流側の端部で合流するように配設されている。また、多孔板4は、気体が通過する複数の貫通孔4aを有しており、貫通孔4aを介して、気体は、主流路3aと副流路3bとの間を移動することができるようになっている。尚、多孔板4の板厚、貫通孔4aの開口率および孔径等のパラメータは、貫通孔4aを通過する気体に対して粘性作用と圧力損失とによる減衰効果を生じさせるように設定されていることが好ましい。
【0016】
さらに、気体が常温、常圧の空気の場合、貫通孔4aの孔径は、特に範囲が限定されるものではないが、2mm以下であることが望ましい。そして、このように貫通孔4aの孔径を2mm以下に設定した場合には、貫通孔4aを流動する気体に粘性作用を確実に発生させることができる。
【0017】
また、同じく貫通孔4aの直径の下限値は、0.2mmであることが好ましい。この理由は、貫通孔4aの直径が0に近づくと、その吸音率のピークが理論上1.0になるが、現実的には1.0に至ることはなく、直径が0.2mm以下のように極めて小さくなると、貫通孔4aの空気の粘性が大きくなりすぎるため、貫通孔4aの空気の流れに対する抵抗が大きくなり、吸音率が却って低下すると考えられるからである。また、直径が0.2mm以下のように極めて小さくなると、製造が大幅に困難となり、使用環境によってはゴミや埃等により貫通孔4aが閉塞し易くなるからである。尚、貫通孔4aの径は、上述の数値に限定されることはなく、気体の状態、特性、消音したい音波の周波数等で好適な数値を決定すればよい。
【0018】
また、貫通孔4aは、楕円形状や矩形状、多角形状、スリット状であっても良いし、同一のサイズおよび形状に設定されていても良いし、各種のサイズや形状が混在していても良い。各種のサイズや形状が混在している場合には、十分な吸音性能を発揮する周波数帯域幅を拡大することができる。
【0019】
配管5a・5bは、消音器本体2に配設され、気体を消音器本体2に流入及び流出する。配管5aは、消音器本体2の上面に、約45度の角度を設けて配設されており、配管5bは、多孔板4の径と略同じ径を有しており、消音器本体2の下面の略中央部に配設されている。また、配管5aは、気体を主流路3aに流入させる位置、つまり、多孔板4の内側に配設されている。配管5aを、角度を設けて配設することで、気体は斜めに消音器本体2に流入され、多孔板4と当たり、多孔板4の内壁に沿って、図中矢印のように旋回しながら主流路3aを流通するようになっている。ここで、消音器本体2の上面は、流通する気体の上流側の面、下面は下流側の面をいう。尚、配管5aに設ける角度は、前述した気体が主流路3aを旋回しながら流通できる範囲内であれば、45度に限定されない。
【0020】
次に、気体の挙動について説明する。気体が配管5aから流入すると、多孔板4の内壁に沿って旋回する。そして、気体には遠心力が加わり、外側に広がろうとする。このため、気体の流れは、多孔板4に設けられた貫通孔4aを通過する。そして、気体の流れが貫通孔4aを通過することにより、気体の流れに重畳している音波が各段に大きく吸音される。貫通孔4aを通過した気体は、副流路3bを流通し、下流側で、主流路3aを流通する気体と合流し、配管5bから流出する。
【0021】
以上、説明したように、本発明の第1の実施の形態に係る消音器1は、気体(流体)を流通させる消音器本体2と、下流側の端部で合流された主流路3aおよび副流路3bを内側および外側に形成するように消音器本体内に設けられた多孔板4(仕切部材)と、気体が主流路3aを旋回しながら流動するように、気体を主流路3aに流入させる配管5a(旋回開始手段)と、多孔板4に設けられ、主流路3aを流動する気体の一部を副流路3bに通過させる貫通孔4aとを有している。
【0022】
この構成によれば、気体は仕切部材の内周面に沿って旋回しながら主流路3aを流動するため、遠心力により外側に広がろうとし、気体は多孔板4に設けられた貫通孔4aを容易に通過することができる。音波が貫通孔4aを通過すると、孔壁面における粘性作用により、気体の流れに重畳した音波の減衰(消音)効果を得られ、音波が重畳した気体の流れが貫通孔を通過すると、粘性作用に加えて、その流れの圧損作用によりその流れに重畳している音波の減衰(消音)効果を格段に大きくすることができる。これにより、十分な消音性能を有した消音器1を省スペースで実現することができる。また、貫通孔4aに気体を流すために、気流を旋回させることによる遠心力を利用しており、貫通孔4aを設けた多孔板4の主流路3a内の気体の流動に対する抵抗を小さくすることができる。
【0023】
また、消音器本体2および多孔板4(仕切部材)が円筒状となっているため、流通する気体(流体)が旋回しやすいようになっている。これにより、さらに貫通孔4aを通過させやすくなり、より確実に音波を消音することができる。また、消音器1は、従来産業廃棄物等として処分せざるを得なかったグラスウール等の難リサイクル材を使用していないため、リサイクルが容易である。
【0024】
また、本発明を好適な実施の形態に基づいて説明したが、本発明はその趣旨を超えない範囲において変更が可能である。即ち、本実施の形態において、消音器本体2および多孔板4は円筒状としているが、これに限定されない。気体が旋回しながら流通できるような形状であれば良い。また、気体が主流路3aを旋回して流通するように配管5aを斜めに配設しているが、これに限定することはない。例えば、図2に示すように、配管5a・5bを消音器本体2に垂直に配設するようにしてもよい。この場合、消音器本体2に水平に流入する気体が多孔板4に当たり、多孔板4の内壁に沿って旋回するようになっている。
【0025】
さらに、図3に示すように、角度を設けずに配管5aを配設して、配管5a・5b及び主流路3aを一直線に形成し、かつ、旋回板7を主流路3aの入口に気体の進行方向に対して斜めに配置し、気体を旋回させて、主流路3aに流入させるようにしてもよい。この場合、配管を直線に形成することができるため、容易に作成でき、耐久性がよくなる。尚、旋回板7は気体を旋回させることができる形状であればよい。
【0026】
また、図4に示すように、気体が通過する貫通孔4c(通過孔)が設けられた補助多孔板4b(補助仕切部材)を、間隔をあけて多孔板4を囲繞するように配置して、多孔板による2重構造としてもよい。これにより、2枚の多孔板の相乗効果で、より広い周波数範囲でより大きく消音することができる。
【0027】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る消音器について説明する。本実施の形態に係る消音器10は、図5に示すように、第1の実施形態の消音器1の副流路3bに、副流路3b内を流通する気体に重畳した音波を反射させるように板状の阻止板8(阻止部材)が軸方向に複数配設されている。また、阻止板8は、気体が下流側へ流通可能なように配置されている。阻止板8を配置することで、多孔板による消音の効果の妨げとなる副流路3b内での音波の共鳴が起こる周波数を高くすることができ、より高い周波数まで消音できるようになる。尚、阻止板8は、気体の一部を阻止できる形状であれば板状でなくてもよい。
【0028】
なお、阻止板8は、消音させる音波の最高周波数をf、気体中の音波の速度をc、阻止板8の配置間隔bとするとき、b=<c/(2f)の関係を満たすように配置されていることが好ましい。これは、阻止板8の間隔を最高周波数fの音波の半波長以下とすることで、周波数f以下で共鳴が起こることを確実に防止することができる。尚、阻止板8の配置間隔bは、上式を満たすことが好ましいが、間隔bが不均一であってもよく、音波が様々な周波数を含んでいても、広帯域で消音することができる。
【0029】
また、図示しないが、阻止板8が副流路3b内の円周方向に複数配置されていてもよい。これにより、副流路3bは円周方向に複数の小室が形成されるようになる。この場合、円周方向での共鳴を防止することができる。
【0030】
以上説明したように、本実施の形態に係る消音器10は、第1の実施形態の効果に加え、より高い周波数まで音波を消音することができる。
【実施例1】
【0031】
次に、第1の実施の形態における、音波が重畳した気体の流れを貫通孔に通過させることによる多孔板吸音効果の増大を確認するため、図6に示すような装置を用い、下記の試験を行った。即ち、気体を流入する孔101aと流出する孔101bとを有するシリンダ101内の断面内に、図1に示す消音器1の多孔板4と同様の、貫通孔100aを有する多孔板100を配置する。そして、孔101aから気体を流通させると同時に、スピーカ104から音波を発し、音波を気体とともに、多孔板100に入射させる。気体は、孔101bから排出する。そして、シリンダ101内の2ヶ所でマイク102により、音圧を測定し、多孔板による吸音率を算出した。図7は、上記の試験結果から、横軸を音波の周波数(単位はHz)、縦軸を吸音率とし、貫通孔100aを通過する流れの速度が、0,2,4,8m/sの場合についてグラフ化したものである。尚、速度0m/sは、気体の流れがないことを意味する。
【0032】
また、ピストン103は軸方向に移動可能となっており、多孔板100との距離を変動させることができ、第1の実施形態の副流路3bの幅に相当する。この距離を変化させることで、特に大きな吸音効果が得られる周波数を設定することができる。本試験で用いた多孔板100は、板厚が0.8mm、貫通孔100aの孔径が2.0mm、開口率が5%であり、ピストン103と多孔板100との距離は350mmとした。
【0033】
図7からわかるように、気体が貫通孔100aを通過し、その速度が速いほど多孔板の吸音率は大きくなる。つまり、多孔板4に気体を通過させると、消音器の消音性能を格段に向上させることができることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、上述した装置以外にも、油圧を用いた建設機械やプレス機械、又はポンプ等の液体が流通する配管部分等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)本発明の第1の実施の形態に係る消音器の側面透視図。(b)本発明の第1の実施の形態に係る消音器の上面図。
【図2】本発明の第1の実施形態の変形例を示す図。
【図3】本発明の第1の実施形態の別の変形例を示す図。
【図4】本発明の第1の実施形態のさらに別の変形例を示す図。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る消音器の側面透視図。
【図6】多孔板に気体を流した場合の効果を確認するための試験装置図。
【図7】図6の試験結果を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0036】
1 消音器
2 消音器本体
3 流路
3a 主流路
3b 副流路
4 多孔板
4a 貫通孔
5a・5b 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流通させる消音器本体と、
下流側の端部で合流された主流路および副流路を内側および外側に形成するように前記消音器本体内に設けられた仕切部材と、
前記流体が前記主流路を旋回しながら流動するように、前記流体を前記主流路に流入させる旋回開始手段と、
前記仕切部材に設けられ、前記主流路を流動する流体の一部を前記副流路に通過させる貫通孔と
を有していることを特徴とする消音器。
【請求項2】
前記仕切部材が円筒形状であることを特徴とする請求項1に記載の消音器。
【請求項3】
間隔をあけて前記仕切部材を囲繞するように配設され、前記流体が通過する通過孔が設けられた補助仕切部材を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の消音器。
【請求項4】
前記副流路を流通する前記流体に重畳する音波を反射し、前記流体は下流側へ流れるように設けられた阻止部材を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の消音器。
【請求項5】
消音したい騒音の最高周波数をf、前記音波の音速をc、前記阻止部材の間隔をbとするとき、b=<c/(2f)の関係を満たすことを特徴とする請求項4に記載の消音器。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−119432(P2006−119432A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308098(P2004−308098)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】