説明

液中の粒子の浮上分離方法およびその装置

【課題】液中の比重が大きい粒子を、ナノバブルとマイクロバブルを同時に使用して浮上分離させる方法及びその装置の提供。
【解決手段】粒子を含む液を収容した分離槽1にナノバブル発生用配管10aおよびマイクロバブル発生用配管10bが接続され、各配管からのナノバブルおよびマイクロバブルが共に粒子を含む液中に導入されて液中の粒子を浮上分離する浮上分離装置であって、ナノバブル発生用配管10aおよびマイクロバブル発生用配管が、気体を加圧溶解した加圧液体が導入される加圧液体導入用配管7に圧力調整弁8を介して接続され、ナノバブル発生用配管内およびマイクロバブル発生用配管内にはそれぞれ縮径部が設けられ、縮径部の吐出流路の直径が、加圧液体導入用配管内の圧力(P1)とナノバブル発生用配管内およびマイクロバブル発生用配管内の圧力(P2)の比(P2/P1)が発生する比になるようにそれぞれ設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中に混在する粒子を、ナノバブルおよびマイクロバブルを使用して浮上分離させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微細バブルを使用して液中の粒子を浮上させて分離する技術について、従来から多くの提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、塗料スラッジ等の分離対象物を浮上分離させる分離処理槽内の処理液中に粒径が約1〜100μmのマイクロバブル又は粒径が1μm未満のナノバブル等の微小粒径バブルを発生させるバブル発生手段を設けた浮上分離装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献2にはマイクロバブルまたはナノバブルと水性媒体を接触させて水性媒体中に含まれる疎水性化合物をバブル界面に捕集した後、バブルを水性媒体から分離する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、懸濁液内にマイクロバブル発生装置を用いてマイクロバブルを発生させ、マイクロバブル表面に懸濁物を付着させ、このマイクロバブルを分散させた懸濁液に超音波を照射することにより、マイクロバブルどうしの凝集を促し、懸濁物の浮上分離を促進することが記載されている。
【特許文献1】特開2008−119612号公報
【特許文献2】特開2008−049243号公報
【特許文献3】特開2008−036585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献では、使用するバブル径は単一径のバブルもしくは発生させる装置の特性上、多分散気泡を使用しているが、比重が大きい粒子を十分に浮上分離することができない。
【0007】
そこで本発明は、従来は浮上分離できなかった液中の比重が大きい粒子を、サイズが異なる微細バブルを同時に使用して浮上分離させることができる、液中の粒子の浮上分離方法およびその装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液中の粒子の浮上分離方法は、液中の粒子の浮上分離に、ナノバブルおよびマイクロバブルを同時に使用するもので、ナノバブルおよびマイクロバブルのサイズおよび、ナノバブルおよびマイクロバブルを含むそれぞれの液体の量の混合割合を、目的、用途、浮上させたい粒子のサイズ、比重、表面粗度、濡れ性に応じて調整する。
【0009】
本発明の液中の粒子の浮上分離装置は、粒子を含む液を収容した分離槽にナノバブルを発生させるナノバブル発生用配管およびマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生用配管が接続され、ナノバブル発生用配管からのナノバブルおよびマイクロバブル発生用配管のマイクロバブルが共に粒子を含む液中に導入されて液中の粒子を浮上分離する浮上分離装置であって、前記ナノバブル発生用配管およびマイクロバブル発生用配管のそれぞれが、気体を加圧溶解した加圧液体が導入される加圧液体導入用配管に圧力調整弁を介して接続され、前記ナノバブル発生用配管内およびマイクロバブル発生用配管内にはそれぞれ縮径部が設けられ、前記縮径部の吐出流路の直径が、加圧液体導入用配管内の圧力(P1)と前記ナノバブル発生用配管内およびマイクロバブル発生用配管内の圧力(P2)の比(P2/P1)がナノバブルおよびマイクロバブルを発生する比になるようにそれぞれ設定されていることを特徴とする。
【0010】
図4は、粒子への気泡吸着の模式図である。図4(a)に示すように、例えば、比重3.8でサイズ15μmの粒子には2μm程度のマイクロバブルB3さえ吸着率が悪く、結果として粒子の浮上に必要な浮力を得ることができないために、粒子Pが沈降してしまい浮上させることができなかった。
【0011】
これに対して、図4(b)の模式図に示すように、0.05μm、2μmの微細気泡B1、B2を同時に導入すると、比重3.8でサイズ15μmの粒子Pを浮上させることができた。これは、粒子Pの周りに、先ず表面張力(物質への吸着力)が最も大きい0.05μmの微細気泡B1が吸着し、この微細気泡B1に2μmの微細気泡B2が環状に吸着し、浮上に必要な浮力を獲得することで粒子Pが浮上したものと考えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、粒子に応じて気泡径が制御された2種類以上のサイズが異なる微細気泡を同時に導入するとともに、液体の混合割合を調整する事で、従来装置では成しえなかった液中に含まれる比重が大きい粒子(例:比重3.8、サイズ:15ミクロン)を浮上分離させることができる。
【0013】
また、本発明は、気泡径と流量割合を制御することで、液中に含まれる比重やサイズが異なる粒子(例:5ミクロン、15ミクロン)の選別浮上や、表面粗度、濡れ性等が異なる粒子の選別浮上ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、図4(b)に示すように、粒子を含む液中に気泡径を制御したナノバブルとマイクロバブルを同時に使用することで、先ず対象となる粒子Pに最も気泡径が小さく表面張力が大きいナノバブルB1が吸着し、次にナノバブルB1より気泡径が大きいマイクロバブルB2が環状に吸着することで、粒子への気泡吸着が確実となると同時に、吸着した気泡により粒子の浮上に必要な浮力を獲得する。
【0015】
この時のB1、B2の気泡径およびB1、B2を含む液体の混合割合を調整することで、対象となる粒子の比重、サイズ、表面粗度、濡れ性等の異なる粒子の選別浮上ならびに浮上時間の短縮が可能となる。
【0016】
なお、B1、B2の微細気泡は通常同時に導入するが、選別対象物や選別内容によっては時間差を設けて導入することもできる。
【実施例】
【0017】
本発明の浮上分離装置を図面により説明する。
【0018】
図1は本発明の分離装置の全体図、図2はナノバブルとマイクロバブルの系統毎に加圧溶解装置を設けた全体図、図3(a)は気泡発生部9の断面図、(b)はA−Aの断面図である。
【0019】
図1において、分離槽1に処理対象となる粒子を含む液体2が収容される。
【0020】
分離槽1内の液体2を液送するための供給用配管3が加圧ポンプ4に接続されている。供給用配管3の途中には、液体2に混入される気体を取り入れるための気体取入れ用配管5が接続されている。液体中に取り込まれる気体は、空気、酸素、窒素、オゾンなど液の処理内容や選別浮上の内容に応じて適宣選択することができる。
【0021】
加圧ポンプ4の下流には加圧タンク6が配置されている。加圧ポンプ4により分離槽1から粒子を含む液体2が吸引され、液体中に気体取入れ用配管5から気体が取り入れられ、加圧タンク6へ送られる。加圧タンク6では、液体中に取り込まれた気体が加圧下で溶解する。
【0022】
加圧タンク6の加圧液体の吐出側は、加圧液体導入用配管7が接続され、加圧液体導入用配管7は圧力調整弁8を介して、気泡発生部9に接続されている。気泡発生用配管10は、図1では分離槽1に気泡径および液体の混合割合を調整され、気泡発生用配管10a、10bとして各々接続される。
【0023】
図2はナノバブルとマイクロバブルの系統毎に加圧溶解装置を設けた例であるが、図1と同一部材には同一符号を付してその説明は重複するので省略する。
【0024】
図3において、気泡発生部9は加圧液体導入用配管7に気泡を発生させる気泡発生用配管10が圧力調整弁8を介して接続されている。圧力調整弁8は、気泡発生部9への送水圧を所定の圧力に調整するために設けられる。
【0025】
気泡発生用配管10の吐出側には直径が絞られた吐出流路11を形成する縮径部12が配設される。異なる径の吐出流路の縮径部12が気泡発生用配管10にネジなどの螺合などにより交換可能に接続される。
【0026】
ナノバブルにする場合は、縮径部12の少なくとも一方の端部に、アールまたはテーパー13を施す。
【0027】
液体中に加圧溶解させた空気を圧力開放する際、乱流の発生を防止することにより、気泡の析出を抑えることができる。
【0028】
加圧液体導入用配管7には、加圧液体導入用配管内の圧力(P1)を測定する圧力計14が設けられ、気泡発生用配管10に気泡発生用配管内の圧力(P2)を測定する圧力計15が設けられている。
【0029】
前記構成の気泡発生方法は次のとおりである。
【0030】
加圧液体導入用配管側7の圧力(P1)と気泡発生用配管側の圧力(P2)の比(以下「P2/P1比」という)を調整することにより、サイズの異なる気泡を発生する。P2/P1比の調整は、吐出流路11の直径が異なる縮径部12を交換して、吐出流路11の直径を変化させて気泡発生用配管内の圧力(P2)を調整し、気泡径を制御する。
【0031】
縮径部がない場合、気泡発生用配管10側の圧力(P2)は大気開放となり、P2/P1比が0となって、白濁したマイクロバブルの気泡を生成する。
【0032】
縮径部12を設け、気泡発生用配管10側の圧力(P2)が大気圧を超える圧力になるようにし、吐出流路11の直径をP2/P1比がナノバブルを発生させる範囲になるよう設定することにより、ナノバブルの発生が可能となる。
【0033】
図5はP2/P1と気泡水の白濁度の関係を示すグラフである。
【0034】
縮径部12が設けられていない場合、大気開放となるため気泡発生用配管10側の圧力(P2)は0となる。したがって、P2/P1比が0となり、ナノバブルはほとんど発生せずにマイクロバブルが発生し、液体が白濁する。
【0035】
吐出流路11の直径が異なる縮径部12を吐出流路11の直径が小さくなるように交換して変化させていくと、気泡は徐々に小さくなり、液体の白濁が減少し透明に変化することでナノバブルの発生を確認することができる。縮径12の吐出流路11の直径を小さくさせていくことにより、気泡発生用配管10側の圧力(P2)が上がってP2/P1比が徐々に大きくなる。
【0036】
これに伴い、気泡径はP2/P1比に反比例して徐々に小さくなる。この気泡径の変化はP2/P1比が大きくなるに連れ、液体の白濁度が徐々に薄くなり、透明な状態に近づくことでナノバブルの発生を確認できる。
【0037】
本件装置にて、気液比を一定にして生成した気泡水を水槽に溜めて観察したところ、P2/P1比が0.577の場合を境に、その前後において白濁度が濃くなることを確認した。
【0038】
表1は、P2/P1比と白濁度、吐出流路の直径の関係を示すものである。
【0039】
【表1】

【0040】
縮径部を設けない開放の状態では気泡が目視でき、縮径部の吐出流路の直径が小さくなるにつれ、すなわちP2/P1比が増加するにつれて気泡径も小さくなっていき白濁度が小さくなって試験NO.4で透明になるのが確認された。試験NO.5で吐出流路の直径をさらに小さくすると、試験NO.3と同程度に白濁した。
【0041】
<試験例1>
サイズ15ミクロンの機械研磨スラッジの粒子を分散させた洗浄液を分離槽1に供給して試験した。
【0042】
マイクロバブルの発生用配管10bから2μmのマイクロバブルのみを分離槽1に導入し、表面に浮上した泡を分離槽1外に除去し静置したところ、静置後も粒子は液中に分散し、分離槽1の底部に機械研磨スラッジが堆積し始めた。
【0043】
<試験例2>
本発明に従ってナノバブルとマイクロバブルの発生用配管10a、10bから各々を、ナノバブルとマイクロバブルの混合割合を調整して導入した。
【0044】
ナノバブルとマイクロバブルの径は、0.05μm、2μm混合割合は4:6である。
【0045】
表面に浮上した泡を分離槽1外に除去し静置したところ、静置後液中の粒子の分散はほとんど見られず、分離槽1の底部にも機械研磨スラッジの堆積はほとんど確認できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の分離装置の全体図である。
【図2】本発明の分離装置において、ナノバブルとマイクロバブルの系統毎に加圧溶解装置を設けた全体図である。
【図3】(a)は気泡発生部9の断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図4】は、粒子への気泡吸着の模式図である。
【図5】は、P2/P1と気泡径の相関を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1:分離槽
2:粒子を含む液体
3:供給用配管
4:加圧ポンプ
5:気体取入れ用配管
6:加圧タンク
7:加圧液体導入用配管
8:圧力調整弁
9:気泡発生部
10:気泡発生用配管
11:吐出流路
12:縮径部
13:アールまたはテーパー
14:圧力計
15:圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生成される気泡のサイズを制御して得られるナノバブルと、生成される気泡のサイズを制御して得られるマイクロバブルのそれぞれを、粒子を含む液に同時に導入するとともに、ナノバブルを含む液とマイクロバブルを含む液の導入割合を調整することを特徴とする液中の粒子の浮上分離方法。
【請求項2】
粒子を含む液を収容した分離槽にナノバブルを発生させるナノバブル発生用配管およびマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生用配管が接続され、ナノバブル発生用配管からのナノバブルおよびマイクロバブル発生用配管のマイクロバブルが共に粒子を含む液中に導入されて液中の粒子を浮上分離する浮上分離装置であって、
前記ナノバブル発生用配管およびマイクロバブル発生用配管のそれぞれが、気体を加圧溶解した加圧液体が導入される加圧液体導入用配管に圧力調整弁を介して接続され、
前記ナノバブル発生用配管内およびマイクロバブル発生用配管内にはそれぞれ縮径部が設けられ、
前記縮径部の吐出流路の直径が、加圧液体導入用配管内の圧力(P1)と前記ナノバブル発生用配管内およびマイクロバブル発生用配管内の圧力(P2)の比(P2/P1)がナノバブルおよびマイクロバブルを発生する比になるようにそれぞれ設定されていることを特徴とする液中の粒子の浮上分離装置。
【請求項3】
加圧液体導入用配管に加圧液体導入用配管内の圧力(P1)を測定する圧力計が設けられ、ナノバブル発生用配管内およびマイクロバブル発生用配管内の圧力(P2)を測定する圧力計がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項2に記載の液中の粒子の浮上分離装置。
【請求項4】
縮径部の少なくとも一方の端部の全周に、アールもしくはテーパーを施したことを特徴とする請求項2または3に記載の液中の粒子の浮上分離装置。
【請求項5】
微細気泡発生用配管の先端に縮径部が交換可能に接続されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の液中の粒子の浮上分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−42338(P2010−42338A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207226(P2008−207226)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(398005630)株式会社オ−ラテック (15)
【Fターム(参考)】