説明

液中微小粒子の分級測定装置

【課題】
測定対象液に非溶解性の微小粒子のみでなく、電解質成分が混在しているときであっても、電解質成分に妨害されずに非溶解性の微小粒子のみを分級して測定できるようにする。
【解決手段】
フィールド・フロー・フラクション装置2で非溶解性の粒子が溶解性成分から分離され、非溶解性の粒子が分取装置4で電解質を含まない液中に分取されて測定対象液となる。その測定対象液は気化器8によって微細液滴化され、その液体部分が蒸発させられて非溶解性微小粒子からなるエアロゾルが生成する。そのエアロゾルは中和器8aを経て電気移動度測定装置8に供給され、粒径ごとに分級して検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相中に存在する微小粒子、例えばナノ粒子と称されるナノサイズの微小粒子を測定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液中の微小粒子径分布を測定するために広く使用されているのは、動的散乱法である。動的散乱法は液体サンプルの場合、そのままの状態で測定できるという簡便性はあるが、粒度分布測定の精度が低いという問題がある。
【0003】
一方、気相中では電気移動度を用いて精度よく微小粒子の粒度分布を測定することができる。そのため、液体サンプルをエレクトロ・スプレー・イオン化(ESI)装置などの気化器で微小な液滴として噴霧し、乾燥させることで液中に存在する微量粒子をエアロゾル化し、そのエアロゾル中の微小粒子を、電気移動度測定装置を用いて粒径ごとに分級して検出する試みがなされている。その一例として、分析対象となる液体を微細液滴化し、キャリアガス中に浮遊した微細液滴群を生成する微細液滴生成装置と、微細液滴生成装置により生成された微細液滴群の液体成分を蒸発させ、キャリアガス中に浮遊したエアロゾル状態の微粒子群を生成するエバポレータと、エバポレータにより生成されたエアロゾル状態の微粒子群を粒径ごとに分級する分級器と、分級器により粒径ごとに分級された微粒子群を分析する微粒子分析器とを備えた液体中微粒子分析装置が提案されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−149124号公報
【特許文献2】特許第3459359号公報
【特許文献3】USP6,365,050B1号公報
【特許文献4】特開2001−183341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液中に微粒子とは別に溶解性の非揮発性成分として電解質成分が存在すると、微小液滴中に含まれる微小粒子だけでなく、溶解性成分が液の蒸発に伴って析出して微小粒子の表面に付着したり、元々粒子成分が存在していなかったにもかかわらず、エアロゾル化することにより発生してきたりすることがある。そのため、測定対象液中に測定目的の非溶解性微小粒子のみでなく、電解質成分が混在しているときは、非溶解性微小粒子自体の測定が困難となる。
【0005】
本発明は、測定対象液に非溶解性の微小粒子のみでなく、電解質成分が混在しているときであっても、電解質成分に妨害されずに非溶解性の微小粒子のみを分級して測定できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、測定対象液中の非溶解性の微小粒子を測定する装置であって、液相を微細液滴化し、液滴の液体部分を蒸発させて液滴中の非溶解性の微小粒子からなるエアロゾルを生成する気化器と、前記エアロゾル中の微小粒子を粒径ごとに分級して検出する電気移動度測定装置とを備えた微小粒子測定装置を改良するものであり、前記気化器の前段に、被測定液中の非溶解性微小粒子を溶解性電解質成分から分離して電解質成分を含まない液中に移動させて測定対象液を作成する微粒子分離装置を配置し、この微粒子分離装置により作成された測定対象液を前記気化器に供給して測定を行なうことを特徴とするものである。
【0007】
微粒子分離装置の好ましい一例は、フィールド・フロー・フラクション(FFF)装置を含み、非溶解性微小粒子を溶解性電解質成分から分離して分取する装置である。
液相を微細液滴化し、液滴の液体部分を蒸発させて液滴中の非溶解性の微小粒子からなるエアロゾルを生成し、そのエアロゾル中の微小粒子を粒径ごとに分級して検出する装置としては、特許文献1に記載されているものを使用するができる。そこでは、電気移動度測定装置としては微分型電気移動度測定装置(DMA)が使用されているが、イオン移動度測定装置(IMS)を使用してもよい。
【0008】
微分型電気移動度測定装置では、エアロゾルを帯電させて電場中を移動させ、その電場中での移動速度(電気移動度)の違いを利用して微小粒子の粒径を測定する(特許文献2参照。)。
イオン移動度測定装置では、エアロゾルを取り込み、それにβ線を照射してイオン化して電場の中を走らせ、イオンの移動速度の違いによって粒径ごとに分級して検出する。
【0009】
フィールド・フロー・フラクション装置としては、異なったメカニズムによって粒子を分離する種々の方式のものを使用することができる。その一例は、半透膜を通るフローによって生成される流体力学的場を利用するものであり、非溶解性の微小粒子を含む試料液を下面が半透膜のフィルターメンブレンとなった扁平な流路において、その流路に沿って流れるチャンネル流とそれに直交して上から下方向に流れるクロスフローを生じさせる(特許文献3参照。)。
【0010】
他の方式のフィールド・フロー・フラクション装置としては、溝を遠心分離器内で回転させることにより生成される重力場を使用する沈殿法を利用したもの、二つの等温プレートの間の温度差によって生成される熱的場を利用するもの、電極として作用する導電プレートによって生成される電気的な場を利用するもの(特許文献4参照。)などがある。
本発明の微粒子分離装置としては、いずれの方式のフィールド・フロー・フラクション装置を使用してもよい。
【0011】
フィールド・フロー・フラクション装置では、粒子成分はフィルターメンブレン上に沈殿しながら流路に沿ってチャンネル流により押し流されていくが、溶解している電解質成分はそれよりも早く溶出し、粒子成分は電解質成分から分離される。そこで、粒子成分がその流路から溶出されるタイミングで粒子成分を、電解質を含まない他の液体中に分取して、気化器に供給する測定対象液とする。
【0012】
フィールド・フロー・フラクションは比較的高分解で粒子サイズを測定することができるが、高分解能を実現するためには測定に10−30分と長時間を要する。しかし、本発明では微粒子分離装置での分離は非溶解性粒子と溶解性成分との分離だけでよく、その後に気化器を通して気相中で高速に電気移動度測定装置により粒子径分布を測定するので、微粒子分離装置は非溶解性微小粒子が粒径によって互いに分離されない程度に低い分離効率に設定されたものとするのが好ましい。その場合は、通常のフィールド・フロー・フラクションにより分級を行なう操作よりも短かい時間で非溶解性粒子と溶解性成分との分離を行なうことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の微小粒子測定装置では、液相を微細液滴化し、液滴の液体部分を蒸発させて微小粒子からなるエアロゾルを生成する気化器の前段に、微粒子分離装置を配置して溶解性電解質成分を除去するようにしたので、被測定液が溶解性成分を含んでいる場合であっても、その被測定液中の非溶解性粒子を気相において電気移動度測定法を用いて測定することができ、したがって従来の動的散乱法に比較して高精度の粒子径分布を求めることができる。
【0014】
微粒子分離装置にフィールド・フロー・フラクション装置を使用する場合は、フィールド・フロー・フラクション装置で非溶解性微小粒子を分級する必要がないので、フィールド・フロー・フラクション装置の分離効率を低く設定することができ、その場合には分級を目的とする通常のフィールド・フロー・フラクション操作に比べて短時間に測定を行なうことができる。またフィールド・フロー・フラクション装置により液相中で分級する場合には液分子との相互作用を含む粒子径が測定されるのに対し、本発明では電気移動度測定装置により気相中で分級するので、液分子の影響を受けないで粒子そのものの粒子径を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1と図2の概略図を参照して、一実施例の微小粒子測定装置を説明する。
図1は微小粒子測定装置を概略的に示すブロック図である。2はフィールド・フロー・フラクション装置であり、半透膜を通るフローによって生成される流体力学的場を利用するものを使用する。フィールド・フロー・フラクション装置2の流路にサンプルとして被測定液を供給し、キャリア液によりチャンネル流を生じさせてサンプルを流路に沿って移動させるとともに、それに直交して上から下方向に流れるクロスフローを流す。このときの、流量その他の条件は、図2に示されるように、溶解性成分と非溶解性の粒子とが分離される程度であり、粒子は種々の粒径のものを含んでいるが、それらの粒径に応じて分級されることがなく、粒子はすべての粒径のものが1つの塊となった状態で移動するように、低い分離能が達成されるように設定する。
【0016】
4は分取装置であり、流路切替えバルブを備えている。フィールド・フロー・フラクション装置2では、図2に示されるように、初めに溶解性成分Aが溶出し、その後に非溶解性の粒子部分Bが一塊となって溶出する。分取装置4では、非溶解性の粒子部分Bが溶出されるまでは溶出液を排出しておき、非溶解性の粒子部分Bが溶出される時間帯でバルブを切り替えて電解質を含まない液中に分取して測定対象液とする。
【0017】
8はその測定対象液を微細液滴化し、液滴の液体部分を蒸発させて液滴中の非溶解性の微小粒子からなるエアロゾルを生成する気化器である。気化器8は測定対象液を電荷をもった微細液滴にするエレクトロ・スプレー・イオン化装置と、その液滴の液体部分を蒸発させるヒータと、液体部分が蒸発した後に残った微小粒子をキャリアガス中に浮遊したエアロゾルとする希釈装置とを備えたものとすることができる。気化器8から生じるエアロゾルはその中の微小粒子が電荷をもったものとなっている。
【0018】
気化器8から生じたエアロゾルは中和器8aを経て電気移動度測定装置8に供給される。中和器8aはエアロゾルにα線を照射して荷電粒子の電荷分布を平衡荷電状態にするものである。電気移動度測定装置8は微分型電気移動度測定装置又はイオン移動度測定装置であり、エアロゾル中の微小粒子を粒径ごとに分級して検出する。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、例えば半導体プロセスで使用される洗浄水などの測定において、微小粒子を粒径ごとに分級して検出するのに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施例の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】同実施例におけるフィールド・フロー・フラクション装置の動作を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
2 フィールド・フロー・フラクション装置
4 分取装置
6 気化器
8 電気移動度測定装置
8a 中和器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象液中の非溶解性の微小粒子を測定する装置であって、液相を微細液滴化し、液滴の液体部分を蒸発させて液滴中の非溶解性の微小粒子からなるエアロゾルを生成する気化器と、前記エアロゾル中の微小粒子を粒径ごとに分級して検出する電気移動度測定装置とを備えた微小粒子測定装置において、
前記気化器の前段に、被測定液中の非溶解性微小粒子を溶解性電解質成分から分離して電解質成分を含まない液中に移動させて測定対象液を作成する微粒子分離装置を配置し、
この微粒子分離装置により作成された測定対象液を前記気化器に供給して測定を行なうことを特徴とする微小粒子測定装置。
【請求項2】
前記微粒子分離装置はフィールド・フロー・フラクション装置を含み、非溶解性微小粒子を溶解性電解質成分から分離して分取する装置である請求項1に記載の微小粒子測定装置。
【請求項3】
前記フィールド・フロー・フラクション装置は非溶解性微小粒子が粒径によって互いに分離されない低い分離効率に設定されている請求項2に記載の微小粒子測定装置。

【図1】
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【図2】
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