説明

液体クロマトグラフィー溶離液を排流するためのシステム及び方法

本発明の実施形態に従えば、液体クロマトグラフィー質量分析システムにおいてバイオ医薬生成物中のマトリクス妨害成分を低減又は排除するための方法が提供される。この方法は、マトリクス妨害を引き起こす夾雑物が、抽出性物質の検出において所望の精度を実現するのに十分な程度に除去されるまでの所定時間にわたり、試料の液体クロマトグラフィーから発生する溶離液のフロー全体を排液部に排流することと;所定時間後に溶離液のフロー全体を質量分析器に送り、抽出性物質の存在を検出することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2007年8月24日出願の米国仮特許出願第60/966,116号明細書の利益を主張する。その教示の全体は、参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
フィルタ装置は、バイオ医薬生成物から粒子及び微生物を除去したり、又はタンパク質を精製したりするために広範に用いられている。ろ過中、フィルタ装置の材料が生成物中に抽出され、その効力及び安全性に影響を及ぼし得る。FDAは、ヒト用及び動物用の双方の薬物生成物について、ろ過抽出性物質を評価するよう求めている。
【0003】
ろ過抽出性物質は、低濃度のオリゴマーと多様な物理的及び化学的特性の添加剤とから主に構成される複合的な混合物である。他のバイオ医薬生成物成分のほうがより高濃度であるため、ろ過抽出性物質の分析シグナルがマスキングされ、従ってその存在を検出することができなくなる。従来は、モデルストリームアプローチ(Model Stream Approach)(Stone,T.E.;Goel,V.;Leszczak,J.Pharmaceutical Tech.1994,116−130)を使用して、ろ過工程後に存在する抽出性物質を調べる。この方法においては、フィルタ装置をモデル溶媒に供することで、生成物溶液の特定の化学効果を刺激する。この原理に基づき、フィルタ装置が曝露され得る極度の環境(高pH若しくは低pH、高塩濃度、又は有機溶媒)を代表するが、しかしバイオ医薬生成物の実際の含有物とは一致しないモデル溶媒が選択される。ろ過抽出性物質の含有物を最大化した攻撃的な条件下に、「最悪のシナリオ」が作成され得る。試験手順のなかでモデル溶媒中の抽出性物質の存在を検出するには、液体クロマトグラフィーUV検出法(LCUV)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GCMS)及びフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)などの分析技法が用いられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の実施形態に従えば、液体クロマトグラフィー質量分析システムにおいてバイオ医薬生成物中のマトリクス妨害成分を低減又は排除するための方法が提供される。本方法は、マトリクス妨害を引き起こす夾雑物が、抽出性物質の検出において所望の精度を実現するのに十分な程度に除去されるまでの所定時間にわたり、試料の液体クロマトグラフィーから発生する溶離液のフロー全体を排液部に排流することと;所定時間後に溶離液のフロー全体を質量分析器に送り、抽出性物質の存在を検出することとを含む。
【0005】
さらなる関連実施形態において、本方法は、所定時間にわたり校正液のフローを質量分析器に送ることを含んでもよく;及び、所定時間後に校正液のフローを排液部に送ることを含んでもよい。所定時間にわたり溶離液を排液部に排流することと、所定時間後に溶離液を質量分析器に送ることとは、6ポート注入バルブを使用して実施されてもよい。本方法は、溶離液のフロー全体を、6ポート注入バルブのなかの(i)そこからの液体が質量分析器に直接流れるポートと、(ii)そこからの液体が排液部に直接流れるポートとの双方に隣接するポートに送ることを含んでもよい。所定時間にわたり校正液のフローを質量分析器に送ることと、所定時間後に校正液のフローを排液部に送ることとは、6ポート注入バルブを使用して実施されてもよい。本方法は、6ポート注入バルブの隣接する2つのポート間にあるフローループを介して、所定時間にわたり校正液のフローを質量分析器に送ることを含んでもよい。
【0006】
本発明の別の実施形態に従えば、液体クロマトグラフィー質量分析システムにおいてバイオ医薬生成物中のマトリクス妨害成分を低減又は排除するための液体クロマトグラフィー排流装置が提供される。液体クロマトグラフィー排流装置は、6ポート注入バルブの溶離液流入ポートであって、液体クロマトグラフィーカラムと液流連通している溶離液流入ポートと;6ポート注入バルブの質量分析器流出ポートであって、質量分析器と液流連通している質量分析器流出ポートとを備える。6ポート注入バルブは、排液フロー構成と供給フロー構成との間を自動的に切り換わるように構成され、排液フロー構成は、溶離液流入ポートからフロー全体を排流して排液部に送り、及び供給フロー構成は、溶離液流入ポートからフロー全体を導いて質量分析器に送る。
【0007】
さらなる関連実施形態において、質量分析器流出ポートは、6ポート注入バルブのなかの溶離液流入ポートに隣接するポートであってもよく、且つ排液ポートは、溶離液流入ポートに隣接するもう一つのポートであってもよい。排液フロー構成は、溶離液流入ポートからのフロー全体を、排液ポートを介して排液部に送ってもよく、及び供給フロー構成は、溶離液流入ポートからのフロー全体を、質量分析器流出ポートを介して質量分析器に送ってもよい。液体クロマトグラフィー排流装置は、6ポート注入バルブの隣接する2つのポート間に校正液フローループをさらに備えてもよく、排液フロー構成は、校正液フローループを通じて校正液のフローを質量分析器に送り、及び供給フロー構成は、校正液のフローを排液部に送り、且つ校正液フローループを含む、閉じたフローループを形成する。
【0008】
上記は、添付の図面に示されるとおりの、本発明の例示的実施形態についての以下のより詳細な説明から明らかとなり、図面では、種々の図を通して同様の参照符号は同じ部分を参照している。図面は必ずしも一定の尺度ではなく、むしろ本発明の実施形態を説明することに重点を置いている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】液体クロマトグラフィー/質量分析技法に従来の注入バルブが使用されるときの液体のフローパターンの概略図であり、注入バルブは「排液」設定となっている。
【図1B】図1Aの従来の注入バルブが「供給」設定に切り換えられたときの液体のフローパターンの概略図である。
【図2A】本発明の実施形態に係る液体クロマトグラフィー排流装置を通じた液体のフローパターンの概略図であり、排流装置は「排液」設定となっている。
【図2B】本発明の実施形態に係る液体クロマトグラフィー排流装置を通じた液体のフローパターンの概略図であり、排流装置は「供給」設定となっている。
【図3】対照のクロマトグラムに重ね合わせたろ過標準抽出性物質の液体クロマトグラフィー分離工程からの基準ピーククロマトグラムである。
【図4】標準物質の液体クロマトグラフィー工程のクロマトグラムにおいて同定された2つのピークからの質量スペクトルである。
【図5】標準抽出性物質、小分子ベースの薬物生成物、及び標準抽出性物質をスパイクした小分子ベースの薬物生成物のクロマトグラムを並べ合わせたものである。
【図6】標準抽出性物質、巨大分子ベースの薬物生成物、及び標準抽出性物質をスパイクした巨大分子ベースの薬物生成物のクロマトグラムを並べ合わせたものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下には、本発明の例示的実施形態が記載される。本明細書に引用される全ての特許、公開出願及び参考文献の教示は、全体として参照により援用される。
【0011】
本発明の実施形態に従えば、液体クロマトグラフィー排流装置、及び液体クロマトグラフィーから得られる液体を排流する方法が提供され、これは、質量分析法によって分析される試料中にある妨害化合物の存在を低減するのに役立つ。本発明に係るこのような実施形態により、質量分光分析において抽出性物質のピークをマスキングし得る妨害化合物の存在が低減されることで、使用者は薬物又はバイオ医薬生成物中の抽出性物質の量を測定することが可能となる。
【0012】
本発明の実施形態に係る液体クロマトグラフィー排流装置を説明するため、初めに、同様の状況下における従来の注入バルブの使用について記載する。従来の注入バルブは、「排液」設定と「供給」設定との間で切り換えることができ、それによって注入バルブのポート間における液体のフローパターンが変わる。
【0013】
図1Aは、液体クロマトグラフィー/質量分析技法において従来の注入バルブが使用されるときの液体のフローパターンの概略図であり、注入バルブは「排液」設定となっている。分析される液体はポンプ101からオートサンプラー102に流入し、そこから液体クロマトグラフィーカラム103に至る。液体が液体クロマトグラフィーカラム103を通過した後、液体クロマトグラフィー溶離液104は従来の6ポート注入バルブの第1のポート105に入る。溶離液104は、薬物又はバイオ医薬生成物中の検出対象であるろ過抽出性物質、並びにそうした抽出性物質の測定を妨害する化合物を含む。従来の6ポート注入バルブが「排液」設定のとき、溶離液はバルブの第1のポート105から第2のポート106に直接流れ、そこから直接、質量分析器111に至る。その一方、シリンジポンプ112からバルブの(6ポート注入バルブの周りに反時計回りに数えて)第5のポート109に校正液が流れる。校正液は次に第6のポート110に流れ、そこから、6ポートバルブの第6のポート110と第3のポート107との間に連続フローをなす関係で位置するフローループ113を通る。校正液は第3のポート107から第4のポート108に進み、そこから排液部114に至る。
【0014】
図1Bは、図1Aの従来の注入バルブが「供給」設定に切り換えられたときの液体のフローパターンの概略図である。図1Aと同じく、液体は最初はポンプ101からオートサンプラー102に流れ、液体クロマトグラフィーカラム103を通ると溶離液104を生じ、その溶離液104が第1のポート105に導入される。6ポートバルブが「供給」設定のとき、溶離液104は次に第6のポート110に送り込まれ、フローループ113を通って第3のポート107に至る。図1Aの「排液」設定でフローループ113には既に校正液が入っているため、溶離液がフローループ113の中を流れるとき、いくらかの校正液が溶離液と共に押し流される。溶離液はその後、第3のポート107から第2のポート106に流れ、次に直接、質量分析器111に至る。溶離液と共にいくらかの校正液が運ばれるため、溶離液と共に校正液が質量分析器111に導入され、質量校正が可能となる。その一方、シリンジポンプ112から入ってくる校正液は第5のポート109に送られ、そこから第4のポート108を介して排液部114に至る。
【0015】
図1A及び図1Bのとおり従来の6ポート注入バルブを使用するとき、バルブは図1Aの「排液」設定と図1Bの「供給」設定との間を、取得方法の時間セグメントによって切り換えることができる。しかしながら、従来の6ポート注入バルブの双方の設定において、液体クロマトグラフィー溶離液104は連続的に質量分析器111に導入されるため、溶離液104と共に、質量分光分析を妨害するか、又は質量分光分析と適合しない化合物が運ばれる。従って、図1A及び図1Bの従来の6ポート注入バルブを使用して薬物試料中のろ過抽出性物質の存在を正確に検出及び測定することは、困難である。
【0016】
対照的に、図2Aは、本発明の実施形態に係る液体クロマトグラフィー排流装置を通じた液体のフローパターンの概略図であり、排流装置は「排液」設定となっている。図1A及び図1Bの従来の6ポート注入バルブと異なり、図2A及び図2Bの排流装置はフローループ215が6ポート注入バルブの隣接したポート間に含まれ、液体クロマトグラフィー溶離液204が、質量分析器211につながるポート206と排液部214につながるポート208との双方に隣接するポート207に導入される。「排液」設定では、校正液はシリンジポンプ212から6ポート注入バルブの第5のポート209に流入し、そこから第6のポート210に至る。次に校正液は、隣接し合う第6のポート210と第1のポート205との間にある追加的なフローループ215を用いて第1のポート205に流入する。そこから、校正液は第2のポート205に送られ、質量分析器211に至る。その一方、液体クロマトグラフィーカラム203からの溶離液204は第3のポート207から排流装置に入って第4のポート208に送られ、そこから排液部214に送られる。そのため、図2Aの実施形態の排流装置を用いると、「排液」設定では、液体クロマトグラフィーカラムからの溶離液204は全て排液部214に流れる。従って、「排液」設定では、溶離液204中に存在する全ての妨害化合物が、同じく溶離液と共に排液部214に送られ;一方、質量分析器211が受け取るのは校正液のみである。
【0017】
図2Bは、本発明の実施形態に係る液体クロマトグラフィー排流装置を通じた液体のフローパターンの概略図であり、排流装置は「供給」設定となっている。ここでは、液体クロマトグラフィーカラム203から発生する溶離液204は、第3のポート207に入って第2のポート206に送られ、そこから直接、質量分析器211に導かれることで、溶離液中のろ過抽出性物質の分析が可能となる。第5のポート209と第6のポート210との間の流路と同じく、第1のポート205と第2のポート206との間の流路は遮断されているため、第6のポート210から第1のポート205へのフローによって、フローループ215を伴う、閉じたループが形成される。その一方、シリンジポンプ212から流れる校正液は、第5のポート209から第4のポート208に送られ、そこから排液部214に至る。
【0018】
図2A及び図2Bの実施形態の排流装置を使用するとき、バルブは図2Aの「排液」設定と図2Bの「供給」設定との間を、取得方法における時間セグメントによって切り換えることができる。しかしながら、図1A及び図1Bの従来のバルブを使用した技術と異なり、図2A及び図2Bの実施形態は、「排液」設定で液体クロマトグラフィー溶離液204を全て排液部に送り;次に「供給」設定で全て質量分析器に送ることができる。このようにして、図2A及び図2Bの排流装置は、所定時間、例えば、液体クロマトグラフィー溶離液が流れる最初の10分間にわたって「排液」設定に切り換えられてもよい−この時間内に、抽出性物質の質量分析測定を妨害するか、又はそれと適合しないほとんど、又はほぼ全ての化合物が溶離される。次に、ほとんど、又はほぼ全ての妨害化合物が溶離され、排液部に送られたら、図2A及び図2Bの排流装置は「供給」設定に切り換えられてもよく、それによって液体クロマトグラフィー溶離液は質量分析器に直接流され、妨害化合物に妨げられることなく抽出性物質を測定することが可能となる。従って、図2A及び図2Bの液体クロマトグラフィー排流装置によれば、薬物又はバイオ医薬試料中の抽出性物質の存在をより正確に検出及び測定することが可能となる。
【0019】
図2A及び図2Bの実施形態に従えば、排流装置が「排液」モードにあり、液体クロマトグラフィー溶離液が排液部に直接送られる間の所定時間は、妨害化合物のほとんどが溶離される時点を、抽出性物質が溶離される時点と比較して分析することにより、決定されてもよい。例えば、ある時間にわたり妨害化合物の質量分析ピークが観測され、続いて抽出性物質のピークの出現が観測され得る。理想的には、排流装置は、目的とする最初の抽出性化合物の特徴が液体クロマトグラフィー溶離液に現れる前の可能な限り遅い時点で、「排液」から「供給」に切り換えられるべきである。上述のとおり、10分間が、排流装置の「排液」設定を使用するのに有用な所定時間の一例であるが、フィルタ材料の性質、抽出性化合物、妨害化合物、フィルタ装置の滅菌に使用されるオートクレーブサイクルのプロトコル、薬物又はバイオ医薬生成物の含有物、及び他の要因に応じて、他の所定時間が用いられてもよい。概して、溶離液の排流は、マトリクス妨害を引き起こす夾雑物が、抽出性物質の検出において所望の精度を実現するのに十分な程度に除去されるまでの時間にわたり行わなければならない。
【0020】
本発明の実施形態に従えば、図2A及び図2Bの排流装置で使用される6ポート注入バルブは、例えば、Bruker Daltonics Inc.(Billerica,MA)から入手可能な6ポート注入バルブに基づき、フローループ215を追加して本発明に係る実施形態のフローパターンを使用するように改造し得る。校正液は、例えば、毎分2〜10マイクロリットルの流量で流れる。質量分析器211は、例えば、Bruker Daltonics Inc.(Billerica,MA)から入手可能なmicrOTOF質量分析システムであってもよい。
【0021】
前述の排流装置が用いられ得る本発明に係る実施形態は、液体クロマトグラフィー質量分析を用いることにより、バイオ医薬生成物中の抽出性物質、例えば、バイオ医薬生成物のろ過によって取り込まれるろ過抽出性物質、又はプラスチックなどの、バイオ医薬生成物の製造及び加工において生成物の接触する材料から発生し得る他の抽出性物質の存在を検出するための技術である。現行の抽出性物質の試験技術と対照的に、本明細書に開示される方法を用いると、モデル溶媒系を使用するのではなく、実際のバイオ医薬生成物においてろ過抽出性物質及び他の抽出性物質の存在を検出することができる。実際の薬物生成物中のろ過抽出性物質及び他の抽出性物質を検出することで、加工されたバイオ医薬生成物によってヒト又は動物患者に取り込まれる可能性のある抽出性物質プロファイルの正確な特性決定がもたらされる。
【0022】
本発明の一実施形態は、いかなる抽出性物質も含まないバイオ医薬生成物の基準試料を調製することによってバイオ医薬生成物中の抽出性物質を検出する方法であり、その基準試料に標準抽出性物質が添加される。次に、液体クロマトグラフィー(LC)によって基準試料が分離される。分離後、試料は所定時間にわたり排液部に排流され、抽出性物質の検出にマトリクス妨害を引き起こす基準試料中の成分が除去される。残りの基準試料を質量分析器によって処理すると、基準質量スペクトルが得られる。同様に、被験試料が調製される。被験試料は、バイオ医薬生成物のろ過又はその製造プロセスによって取り込まれた抽出性物質を含有し得るバイオ医薬生成物である。被験試料は液体クロマトグラフィーを用いて分離される。分離後、被験試料は所定時間にわたり排液部に排流され、抽出性物質の検出にマトリクス妨害を引き起こす被験試料中の成分が除去される。残りの被験試料を質量分析器によって処理すると、被験質量スペクトルが得られる。被験試料の質量スペクトルは基準試料の質量スペクトルと比較され、被験試料における抽出性物質の存在又は不在が検証される。一実施形態において、抽出性物質は、バイオ医薬生成物のろ過によって取り込まれるろ過抽出性物質である。別の実施形態において、抽出性物質は、プラスチックなどの、バイオ医薬生成物又は中間物質の製造及び加工に使用される機器、材料又は表面から浸出し得る任意のものであり得る。特に好ましい実施形態において、ろ過抽出性物質は、ポリプロピレン(PP)支持膜又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)微孔膜(例えば、Durapore(登録商標)(Millipore(登録商標)Corporation)の商品名で市販されているフィルタ及び膜)に由来し得る。
【0023】
本発明の別の実施形態において、LCMSによってバイオ医薬生成物中に存在する抽出性物質の分量を測定することができる。
【0024】
本発明の別の実施形態は、ろ過抽出性物質の固有の滞留時間を用いた、液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)を使用してろ過抽出性物質を検出する方法に関する。さらなる実施形態は、約11.5分及び約12.4分の平均滞留時間を用いることである。
【0025】
本発明の別の実施形態は、液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)を使用してろ過抽出性物質の固有のイオンを検出する方法に関する。さらなる実施形態は、約329.2及び約357.2M/Zでイオンを検出することである。
【0026】
本発明の別の実施形態において、試料はLCによって分離され、次に所定時間にわたり排液部に排流されてから、MSによって処理される。本発明の別の実施形態において、LC分離後に試料が排液部に排流される時間の長さは、用いられるフィルタのタイプ、滅菌及びろ過条件、並びにバイオ医薬生成物の含有物に依存する。別の実施形態において、排流は、そのフィルタに固有の目的とする最初の標的抽出性化合物がLC工程から溶離される前の、可能な限り遅い時点で行われるべきである。本発明の別の実施形態において、所定時間は最長10分である。別の実施形態において、排液部への排流時間は10分である。
【0027】
本発明の別の実施形態において、マトリクス妨害を引き起こす成分は、活性医薬成分;緩衝剤;塩;防腐剤;可溶化剤;キレート剤;酸;塩基;糖;タンパク質、ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0028】
Food and Drug Administration(FDA)は、ヒト又は動物への使用を目的とした薬物の認可プロセスにおいて、ろ過抽出性物質を評価するよう求めている。FDAによれば、フィルタ装置からのろ過抽出性物質を抽出するために使用する溶媒は、理想的には薬物生成物それ自体であり、従って同じ定量抽出プロファイルが得られる(Guidance for Industry:“The Container Closure Systems for Packaging Human Drugs and Biologics.”1999;Attachment C:Extraction Studies)。しかしながら、実際のバイオ医薬品溶液でろ過抽出性物質の検出を達成することは困難で、その主な理由は、ろ過された薬物生成物中のろ過抽出性物質の濃度が、多くの場合に溶液の他の成分より数桁小さいことである。この分析上の障害を回避するため、現行のろ過抽出性物質の検出方法は、モデルストリームアプローチによって実現されている(Stone,T.E.;Goel,V.;Leszczak,J.Pharmaceutical Tech.1994,116−130)。このプロトコルでは、ろ過装置を極端な化学条件に供するための代用溶媒系が用いられ、これは必ずしもバイオ医薬生成物の条件を代表するものではない。代替溶媒を使用する目的は、最悪のシナリオを生じさせることで、所与のフィルタ装置からの可能性のある全ての抽出性物質を同定することである。モデルストリームアプローチは有用な情報を提供するが、これを使用してヒト又は動物に用いられるバイオ医薬生成物中に存在する実際のろ過抽出性物質を検出することはできない。バイオ医薬生成物中に実際に存在するろ過抽出性物質を検出することができれば、薬物の安全性及び効力を判定するのに役立つであろう。
【0029】
本発明は、モデル溶媒系ではなく、実際のバイオ医薬生成物におけるろ過抽出性物質の検出を可能にする方法を開示する。本方法は、液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)を利用して、バイオ医薬生成物のろ過によって取り込まれた抽出性物質に固有のイオンを検出する。以下の例においてろ過抽出性物質を検出するための本発明の方法が示されるが、それらの方法は、概して、製造又は加工中にバイオ医薬生成物に取り込まれる任意の抽出性物質、例えば、バイオ医薬生成物と接触する、浸出する可能性を有するフィルタハウジング又は他の機器からのプラスチック浸出性物質などに適用することが可能である。従って本発明の方法は、概してバイオ医薬生成物中の、抽出性物質の検出を可能とする。
【0030】
LCUV及びFTIRなどの従来の方法は、感度が限られていることか、又は激しいマトリクス妨害のいずれかに起因して、バイオ医薬生成物中で直接、抽出性物質を検出することは不可能である。しかしながら、ここで、マトリクス妨害を低減又は排除するための方法及びシステムが見出されたことから、本発明の方法に従えば抽出性物質の検出はバイオ医薬生成物中で直接、実現することができる。マトリクス妨害の一因となるバイオ医薬生成物中の成分を低減又は排除することで、そうでなければ妨害成分によってマスキングされてしまうであろう低レベル又は痕跡量レベルの抽出性物質を、質量分析法を使用して検出することが可能となる。本発明の方法を適用することにより、これからはバイオ医薬生成物中のろ過抽出性物質を検出することが可能となり、従って、いまだ対処されていないFDAに対する工業試験及び報告の要求事項が、効果的に提供される。
【0031】
本明細書に記載される方法は、バイオ医薬生成物中の夾雑物の検出、同定、及び場合により定量に有用であり、バイオ医薬生成物は、抽出性物質、浸出性物質又は不純物を含有し得る。抽出性物質は、溶媒の存在下にあるとき生成物が接触する材料のエラストマー又はプラスチック成分から抽出され得る化合物である。浸出性物質は、生成物が接触する材料のエラストマー又はプラスチック成分から調合物中に浸出する化合物である。不純物は、バイオ医薬生成物中に存在するか、又はバイオ医薬生成物に取り込まれ得る化合物である。本明細書に記載されるとおり、用語「抽出性物質」は、浸出性物質と見なされる化合物を網羅することが意図される。議論を簡単にするため、本発明の方法は抽出性物質に関連して説明されるが、浸出性物質及び不純物もまた企図される。抽出性物質は、オリゴマーと多様な物理的及び化学的特性の添加剤とから主に構成される複合的な混合物で、多くの場合にバイオ医薬生成物の任意の他の要素と比べてはるかに低い濃度で存在するため、その存在を検出することは困難である。FDAは、バイオ医薬生成物の安全性及び効力に対する影響について、抽出性物質を評価するよう求めている。
【0032】
バイオ医薬生成物は、ヒト又は動物に用いられる薬物生成物を含む。バイオ医薬生成物は、医薬品有効成分(API)と賦形剤とを含む。APIは、疾患の診断、治癒、緩和、治療、若しくは予防において薬理活性又は他の直接的な効果を付与したり、又は人間若しくは動物の体の構造若しくは任意の機能に作用したりすることを目的とした任意の成分である。用語「API」は、特定の活性又は効果を付与することを目的とした、薬物生成物の製造において化学的変化を受け、修飾形態で薬物生成物中に存在し得る成分を含む。本発明で用いるのに好適なAPIの例としては、限定はされないが、有機小分子、有機巨大分子、核酸、アミノ酸、及びタンパク質が挙げられる。典型的には、有機小分子は分子量が500ダルトン未満であり、一方、有機巨大分子は500ダルトンを超える。マトリクス妨害は、有機巨大分子が存在するときに一層激しくなることが多い。有機巨大分子が存在するときには、LCMS工程の前に前処理工程を含める必要があり得る。沈殿などの代表的な前処理工程が、以下に記載される。
【0033】
バイオ医薬生成物はさらに賦形剤を含んでもよく、賦形剤としては、限定はされないが、緩衝液、酸、塩基、塩、可溶化剤、防腐剤、キレート剤、糖、アミノ酸、タンパク質及び溶媒が挙げられる。こうした成分の1つ、いくつか、又は全てが、バイオ医薬生成物中に存在し得る。全てではないにしろ、こうした要素の多くは、ある部分で抽出性物質の検出可能なシグナルのマトリクス妨害の一因となり、抽出性物質の検出前にバイオ医薬生成物から排除又は低減されるべきである。タンパク質の沈殿など、マトリクス妨害の一因となる所定量の成分を除去又は低減するための公知の方法を用いることができる。例えば、アセトンをタンパク質溶液に4対1の容量割合で添加してもよい。反応の15分後、溶液は10分間、15,000RPMで遠心し得る。次に、続く分析のために目的の分析物を含有する上清が取り出される。マトリクス妨害成分を低減又は除去するための方法は、以下に詳細に記載される新規の排流方法及びシステムを用いて実現することもできる。
【0034】
生成過程において、バイオ医薬生成物には、それが接触している容器又はろ過装置から化学的化合物が抽出され得る。バイオ医薬生成物が接触している時間の長さ、接触が起きているときの温度、並びにバイオ医薬生成物中に存在する他の溶媒又は溶質が全て、バイオ医薬生成物中に存在し得る抽出性物質の量及び種類に影響する。抽出性物質は1つ又は複数の化学種を包含し、バイオ医薬生成物の生成中の様々な工程で発生し得る。例えば、抽出性物質は、バイオ医薬生成物がフィルタ装置を通過するときにろ過によって取り込まれ得る。フィルタ装置は、バイオ医薬生成物から粒子及び微生物を除去したり、又はタンパク質を精製したりするために使用される。代表的な例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)微孔膜及びポリプロピレン(PP)支持膜、例えば、Millipore(登録商標)Durapore(登録商標)フィルタ;ホウケイ酸ガラス繊維微孔膜及びポリプロピレン支持膜、例えば、Millipore(登録商標)Lifegard(登録商標)フィルタ;ポリプロピレン微孔膜及びポリプロピレン(PP)支持膜、例えば、Millipore(登録商標)Polygard(登録商標)フィルタ;ポリテトラフルオロエチレン微孔膜及びポリプロピレン支持膜、例えば、Millipore(登録商標)Opticap(登録商標)フィルタ;及び親水性ポリエーテルスルホン微孔膜及びポリプロピレン支持膜、例えば、Millipore Express(登録商標)フィルタが挙げられる。
【0035】
別の例において、薬物は、有効期間試験中にその容器の成分を抽出することがあり、それによって抽出性物質が混入することになり得る。代表的な例としては加工容器フィルムが挙げられ、そこでは、流体に接触する材料は超低密度ポリエチレン(ULDPE)で作製され;気体遮断材はポリエチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)で作製され;及び外層はエチレン酢酸ビニル(EVA)及びULDPE、例えば、Millipore(登録商標)PureFlex(登録商標)加工容器フィルムで作製される。Durapore(登録商標)、Lifegard(登録商標)、Polygard(登録商標)、Opticap(登録商標)、Millipore Express(登録商標)、PureFlex(登録商標)及びMillipore(登録商標)は、Millipore Corporation(Billerica,MA)の登録商標である。
【0036】
バイオ医薬生成物中の抽出性物質を検出するための方法には、被験試料の質量スペクトルを基準試料と比較することが関わる。本明細書で使用されるとき、「基準試料」は、生成中に取り込まれる抽出性物質を一切含まないバイオ医薬生成物の試料であり、但しそこに標準抽出性物質が添加される。例えば、基準試料は、ろ過されていないバイオ医薬生成物の試料であってもよく、そこに標準抽出性物質が添加される。標準抽出性物質は、特定の容器又はフィルタ装置の使用を介してバイオ医薬生成物に取り込まれ得る抽出性物質の混合物である。生成物が接触する材料、例えばフィルタ装置についての標準抽出性物質プロファイルは、既に確立されている方法によって決定することができる。例えば、広範な条件下で(極端な温度、極端なpH範囲、又は有機溶媒を含む反応性溶媒、長い抽出時間、オートクレーブサイクルの反復を含む)、生成プロセスの特定の構成要素、例えばフィルタ装置に対してモデルストリームアプローチを適用することができる。最適な溶媒は、試験されるバイオ医薬生成物中の溶媒を模倣して選択され得る。ほとんどのバイオ医薬生成物は水性媒体中に存在するため、多くの場合、水又は他の水性溶媒が最適な溶媒であり得る。このプロセスで見出された成分の分析から、バイオ医薬生成物の生成に使用される材料から抽出され得る、又は浸出し得る化学物質が示され、そのバイオ医薬生成物の抽出性物質プロファイルが提供され得る。標準抽出性物質は、こうした既知の成分を適当な濃度で含有し得る。
【0037】
本明細書で使用されるとき、「被験試料」は、確認対象の抽出性物質を含有し得るバイオ医薬生成物である。例えば、バイオ医薬生成物のろ過は抽出性物質を取り込み得るため、適切な被験試料となり得る。
【0038】
基準試料又は被験試料のいずれも、注入前に調製が実施され得る。1つの可能な調製は、試料の加熱又はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の添加によって存在する任意のタンパク質を変性及び/又は沈殿させることを伴い得る。バイオ医薬生成物のなかには、固相抽出法によるか、又は溶液のpH若しくはイオン強度を変化させることによって取り除くことのできる他の要素を含有し得るものもある。本発明の方法には、他の試料調製技術が用いられてもよい。モデル溶媒中の抽出性物質の濃度を分析するための一方法は、不揮発性残留物分析である。試料は、適切な濃度を実現するよう希釈してからLCMSに注入され得る。
【0039】
基準試料及び被験試料は、個別に液体クロマトグラフィーを使用して分離される。移動相、固定相、流量、温度及び注入量は、その方法を展開する間に最適化されなければならない。LC分離後、試料溶離液は所定時間にわたり排液部に排流される。この排流プロセスにより、信頼性のあるデータを生成することができないなどの、試験方法の実行を妨げるマトリクス妨害を引き起こし得る成分が、除去又は低減される。マトリクス妨害は、試料が、極端なpH値、高い塩濃度、反応性の化学成分、又は高濃度の非標的化合物を有することによって引き起こされる。以下の段落では、マトリクス妨害を引き起こし得る一般的な各種のバイオ医薬生成物成分について記載する。
【0040】
バイオ医薬生成物の医薬品有効成分(API)は、マトリクス妨害源である。ある状況下では、APIは標的抽出性物質より早い時点で溶離され、本明細書に記載されるとおりの排流方法を用いて排流することでMSから外すことができる。
【0041】
マトリクス妨害によく見られる別の原因は、緩衝剤である。可能性のある緩衝剤を列挙すれば、限定はされないが、ACES、酢酸塩、ADA、水酸化アンモニウム、AMP(2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール)、AMPD(2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール)、AMPSO、BES、BICINE、ビストリス、ビストリスプロパン、ホウ酸塩、CABS、カコジル酸塩、CAPS、CAPSO、炭酸塩、CHES、クエン酸塩、DIPSO、EPPS、HEPPS、エタノールアミン、ギ酸塩、グリシン、グリシルグリシン、HEPBS、HEPES、HEPPSO、ヒスチジン、ヒドラジン、イミダゾール、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、MES、メチルアミン、MOBS、MOPS、MOPSO、リン酸塩、ピペラジン、ピペリジン、PIPES、POPSO、プロピオン酸塩、ピリジン、ピロリン酸塩、コハク酸塩、TABS、TAPS、TAPSO、タウリン(AES)、TES、トリシン、トリエタノールアミン、Trizmaが挙げられる。
【0042】
塩は、検出にマトリクス妨害を導入し得る別のバイオ医薬生成物成分である。代表的な塩としては、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、酒石酸水素塩、臭化物塩、エデト酸カルシウム、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物塩、クエン酸塩、二塩酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストレート(estolate)、エシレート(esylate)、フマル酸塩、グリセプテート(glyceptate)、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩(glycollylarsanilate)、ヘキシルレゾルシン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物塩、イセチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メチルスルホン酸塩、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、パモ酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル化物塩、及びトリエトヨウ化物塩が挙げられる。アルカリ金属塩(特にナトリウム及びカリウム)、アルカリ土類金属塩(特にカルシウム及びマグネシウム)、アルミニウム塩及びアンモニウム塩、並びに生理学的に許容可能な有機塩基、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、ピリジン、ピペリジン、ピコリン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルアミン、ビス−(2−ヒドロキシエチル)アミン、トリ−(2−ヒドロキシエチル)アミン、プロカイン、ジベンジルピペリジン、デヒドロアビエチルアミン、N,N’−ビスデヒドロアビエチルアミン、グルカミン、N−メチルグルカミン、コリジン、キニーネ、キノリン、並びにリジン及びアルギニンなどの塩基性アミノ酸から得られる塩もまた挙げられる。
【0043】
有効期間を長くするため、バイオ医薬生成物には防腐剤が添加されることが多い。代表的なものを列挙すれば、アスコルビン酸、安息香酸、ベンジルアルコール、塩化ベンジルアルコニウム(benzylalkonium chloride)、エリソルビン酸、プロピオン酸、ソルビン酸、チオジプロピオン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、アスコルビン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、チオジプロピオン酸ジラウリル、グアヤク脂、メチルパラベン、メタ重亜硫酸塩、m−クレゾール、パラベン、亜硫酸水素カリウム、メタ重亜硫酸カリウム、ソルビン酸カリウム、没食子酸プロピル、プロピルパラベン、アスコルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化第一スズ、二酸化硫黄、トコフェロールが挙げられる。
【0044】
APIを溶解し、その溶解を維持するため、バイオ医薬生成物に可溶化剤を添加することができるが、こうした可溶化剤もまた、マトリクス妨害を引き起こし得る。PEG、Tween、CMC、及びSDSは、全てが可溶化剤として用いられる可能性のある薬剤である。
【0045】
キレート剤もまた、マトリクス妨害源となることがあり、限定はされないが、クエン酸、酒石酸、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、二酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、ヘキサメタリン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、フィチン酸カルシウム、リン酸二カリウム、リン酸二ナトリウム、クエン酸イソプロピル、リンゴ酸、クエン酸モノイソプロピル、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、二酢酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、チオ硫酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、クエン酸ステアリル、及びエチレンジアミンテトラ酢酸四ナトリウムが挙げられる。
【0046】
pHを調節したり、又は効力を高めたりするため、バイオ医薬生成物には酸及び塩基が添加されることが多く、しかしその存在は、マトリクス妨害源となる。代表的な酸としては、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、酢酸、アスコルビン酸、ホウ酸、ブタン酸、炭酸、クエン酸、ギ酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、シアン化水素酸、フッ化水素酸、乳酸、亜硝酸、オクタン酸、シュウ酸、ペンタン酸、リン酸、プロパン酸、亜硫酸、及び尿酸が挙げられる。代表的な塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アラニン、アンモニア、ジメチルアミン、エチルアミン、グリシン、ヒドラジン、メチルアミン、及びトリメチルアミンが挙げられる。
【0047】
グルコース(デキストロース)、フルクトース、ガラクトース、リボース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、アラビトール、エリスリトール、グリセロール、イソマルト、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、及びキシリトールを含む糖、アルブミンなどのタンパク質、並びにペプチドは、全てマトリクス妨害源となり得る。
【0048】
賦形剤として用いられるアミノ酸の例は、L−ヒスチジンである。
【0049】
賦形剤として用いられるタンパク質の例は、ウシ血清アルブミン(BSA)である。
【0050】
試料溶離液の排流には、本方法における液体クロマトグラフィー工程の直後に、試料を質量分析器から外して誘導することが関わる。排流プロセスは、先行実験の測定に基づき、予め設定した時間にわたり継続され得る。試料は、標準物質の最初の抽出性物質についての既知の滞留時間の直前まで排流されなければならない。排流時間は、試験されるバイオ医薬生成物の成分、存在する可能性のある抽出性物質の性質、及び抽出性物質の発生源となる装置のタイプに依存する。
【0051】
排流工程の後、残りの基準試料が質量分析器によって処理され、基準質量スペクトルが得られる。基準質量スペクトルは、基準試料、すなわち、バイオ医薬生成物の生成による抽出性物質を一切含有しない試料についてのm/z(質量電荷比)に対する強度のプロットである。基準質量スペクトルに見られるイオンは、LCMSへの注入前に基準試料に添加された標準抽出性物質によるものである。
【0052】
同様に、残りの被験試料が質量分析器によって処理され、被験質量スペクトルが得られる。被験質量スペクトルは、被験試料、すなわち、容器又はろ過装置と接触し、従って抽出性物質を含有し得るバイオ医薬生成物についてのm/z(質量電荷比)に対する強度のプロットである。被験試料の質量スペクトルを基準試料の質量スペクトルと比較することにより、被験試料中のろ過抽出性物質の存在又は不在が検出される。被験質量スペクトル中にイオンが存在する場合には、それは、バイオ医薬生成物の生成中に材料から浸出した抽出性物質によるものである。
【0053】
試料のLCクロマトグラム又は質量スペクトルにピークが現れることで、抽出性物質の存在が示される。抽出性物質の検出は、LCクロマトグラム又は質量スペクトルのいずれかにピークの存在を見つけることによって達成される。被験質量スペクトルと基準試料の質量スペクトルとの比較から、被験試料中の抽出性物質の存在又は不在が示される。基準質量スペクトル及び被験質量スペクトルの双方に現れるピークは、バイオ医薬生成物中のそのろ過抽出性物質の存在を示しているものと解釈される。基準質量スペクトルだけに現れ、被験質量スペクトルには現れないピークは、バイオ医薬生成物中にそのろ過抽出性物質がないことを示しているものと解釈される。
【0054】
この方法の別の実施形態は、バイオ医薬生成物中に全ての抽出性物質が存在する時点における濃度とともに、異なるろ過抽出性物質を定量するか、又はその数を決定することである。定量工程は、LCクロマトグラムにおけるピーク高さの計測を含み得る。
【実施例】
【0055】
実施例1:ろ過抽出性物質の単離及び検出
126℃で60分間のオートクレーブサイクルの後、10インチ、0.22μmのDurapore(登録商標)フィルタを、周囲温度で24時間にわたりMilli−Q(登録商標)水の中に抽出させた。Durapore(登録商標)及びMilli−Q(登録商標)は、Millipore Corporation(Billerica,MA)の登録商標である。同じ条件下、フィルタなしにMilli−Q(登録商標)水を使用して対照を調製した。次に不揮発性残留物分析によって溶液を分析し、Milli−Q(登録商標)水を使用して10倍希釈した後、LCMSに注入した。
【0056】
図3には、抽出性物質及び対照の基準ピーククロマトグラムが示される。対照と比較したとき、抽出性物質はDurapore(登録商標)フィルタに固有の2つのピークを含むことが分かる。図3のクロマトグラムに見られる2つのピークの原因となる種の質量スペクトルが、図4に示される。M/Z329及び357におけるピークは、ろ過抽出性物質に由来することが分かっている化合物に相当する。これらのピークを、膜の製造過程で使用されるフェノール系の抗酸化剤であると仮に同定した。これらの化合物は極めて低濃度でしか存在しないため、それらの存在を検出するにはLCMSが最良の態様を提供する。
【0057】
実施例2及び3−バイオ医薬生成物におけるろ過抽出性物質の単離及び検出
薬物生成物にppmレベルの標準抽出性物質をスパイクした。巨大分子の適用例では、バイオ医薬生成物からアミノ酸又はタンパク質を沈殿させ、次に試料がLCMSに注入される。同時に、スパイクなしの薬物生成物を同じように調製した後、注入した。
【0058】
標準抽出性物質、薬物生成物及び標準抽出性物質をスパイクした小分子ベースの薬物生成物のクロマトグラムを並べ合わせたもの(図5:小分子;図6:巨大分子)。これらの結果から、マトリクスの抑制にもかかわらず、スパイクした試料中の薬物要素の存在下に抽出性物質を検出することができたことが実証された。この方法を広範なバイオ医薬成分に適用したところ、ほとんどの適用例について高感度且つロバストであることが示された。本方法により、抽出性物質の存在又は不在をバイオ医薬生成物中で直接検証することが初めて可能となった。対照的に、従来の方法のいずれによっても、かかる検出は不可能である。
【0059】
本発明は、特にその例示的実施形態を参照して示され、説明されているが、当業者は、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、それらに様々な形態及び詳細の変更が加えられ得ることを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィー質量分析システムにおいてバイオ医薬生成物中のマトリクス妨害成分を低減又は排除するための方法であって、
マトリクス妨害を引き起こす夾雑物が、抽出性物質の検出において所望の精度を実現するのに十分な程度に除去されるまでの所定時間にわたり、試料の液体クロマトグラフィーから発生する溶離液のフロー全体を排液部に排流することと、
前記所定時間後に前記溶離液のフロー全体を質量分析器に送り、前記抽出性物質の存在を検出することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記所定時間にわたり校正液のフローを前記質量分析器に送ることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定時間後に前記校正液のフローを排液部に送ることをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記所定時間にわたり前記溶離液を排液部に排流することと、前記所定時間後に前記溶離液を前記質量分析器に送ることとが、6ポート注入バルブを使用して実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶離液のフロー全体を、前記6ポート注入バルブのなかの(i)そこからの液体が前記質量分析器に直接流れるポートと、(ii)そこからの液体が排液部に直接流れるポートとの双方に隣接するポートに送ることを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記所定時間にわたり前記溶離液を排液部に排流することと、前記所定時間後に前記溶離液を前記質量分析器に送ることが、6ポート注入バルブを使用して実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記溶離液のフロー全体を、前記6ポート注入バルブのなかの(i)そこからの液体が前記質量分析器に直接流れるポートと、(ii)そこからの液体が排液部に直接流れるポートとの双方に隣接するポートに送ることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記所定時間にわたり前記校正液のフローを前記質量分析器に送ることと、前記所定時間後に前記校正液のフローを排液部に送ることとが、6ポート注入バルブを使用して実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記6ポート注入バルブの隣接する2つのポート間にあるフローループを介して、前記所定時間にわたり前記校正液のフローを前記質量分析器に送ることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
液体クロマトグラフィー質量分析システムにおいてバイオ医薬生成物中のマトリクス妨害成分を低減又は除去するための液体クロマトグラフィー排流装置であって、
液体クロマトグラフィーカラムと液流連通している、6ポート注入バルブの溶離液流入ポートと、
質量分析器と液流連通している、前記6ポート注入バルブの質量分析器流出ポート
を備え、
前記6ポート注入バルブが、排液フロー構成と供給フロー構成との間を自動的に切り換わるように構成され、前記排液フロー構成が、前記溶離液流入ポートからフロー全体を排流して排液部に送り、及び前記供給フロー構成が、前記溶離液流入ポートからフロー全体を導いて前記質量分析器に送る、液体クロマトグラフィー排流装置。
【請求項11】
前記質量分析器流出ポートが前記6ポート注入バルブのなかの前記溶離液流入ポートに隣接するポートであり、且つ排液ポートが前記溶離液流入ポートに隣接するもう一つのポートであり、及び前記排液フロー構成が、前記溶離液流入ポートからのフロー全体を、前記排液ポートを介して排液部に送り、及び前記供給フロー構成が、前記溶離液流入ポートからのフロー全体を、前記質量分析器流出ポートを介して前記質量分析器に送る、請求項10に記載の液体クロマトグラフィー排流装置。
【請求項12】
前記6ポート注入バルブの隣接する2つのポート間に校正液フローループをさらに備え、前記排液フロー構成が、前記校正液フローループを通じて校正液のフローを前記質量分析器に送り、及び前記供給フロー構成が、前記校正液のフローを排液部に送り、且つ前記校正液フローループを含む閉じたフローループを形成する、請求項10に記載の液体クロマトグラフィー排流装置。
【請求項13】
前記6ポート注入バルブの隣接する2つのポート間に校正液フローループをさらに備え、前記排液フロー構成が、前記校正液フローループを通じて校正液のフローを前記質量分析器に送り、及び前記供給フロー構成が、前記校正液のフローを排液部に送り、且つ前記校正液フローループを含む閉じたフローループを形成する、請求項11に記載の液体クロマトグラフィー排流装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−537197(P2010−537197A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521894(P2010−521894)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/010027
【国際公開番号】WO2009/029232
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(500174638)ミリポア・コーポレーション (5)
【Fターム(参考)】