説明

液体クロマトグラフィー装置

【課題】目的成分の濃縮率をさらに高めた液体クロマトグラフィー装置を提供すること。
【解決手段】第一の移動相により導かれた試料中の成分を分離する第一の分析カラムと、前記成分を検出する第一の検出手段と、前記第一の検出手段で検出された成分を分画して分取部に保持する分画用流路と、前記分取部に保持された成分をトラップカラムに送り出して前記成分をトラップカラムに捕捉させて濃縮せしめるトラップ用流路と、第二の移動相により前記トラップカラムから溶出させられた前記トラップカラムに捕捉・濃縮された成分を分離する第二の分析カラムと、前記第二の分析カラムで分離された成分を検出する第二の検出手段とを備えた液体クロマトグラフィー装置において、第二の分析カラムがミクロカラムもしくはナノカラムであり、第二の検出手段の検出器セルがミクロセルもしくはナノセルであることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の成分を含む試料中の成分を第一の分析カラムにより分離し、前記成分を第一の紫外光検出器により検出し、前記成分をトラップカラムに捕捉して濃縮し、これを第二の分析カラムに送り出して分離し、第二の紫外光検出器により検出する液体クロマトグラフィー装置が知られており(例えば特許文献1および2参照。)、このような液体クロマトグラフィー装置を用いることにより、試料中の成分を容易に濃縮することができる。
【0003】
一方で、医薬、農薬等の開発においては、極めて微量の成分の構造を同定することが必要とされる場合も多く、試料中の成分の濃縮率をさらに高め、構造の同定をより容易にすることが望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特許第2892795号公報
【特許文献2】国際公開第99/61905号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況のもと、本発明者らは、成分の濃縮率をさらに高めた液体クロマトグラフィー装置を開発すべく検討したところ、第二の分析カラムとして、ミクロカラムもしくはナノカラムを用いるとともに、第二の検出手段の検出器セルとして、ミクロセルもしくはナノセルを用いることにより、目的成分の濃縮率をさらに高めることができることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、第一の移動相により導かれた試料中の成分を分離する第一の分析カラムと、
前記成分を検出する第一の検出手段と、
前記第一の検出手段で検出された成分を分画して分取部に保持する分画用流路と、
前記分取部に保持された成分をトラップカラムに送り出して前記成分をトラップカラムに捕捉させて濃縮せしめるトラップ用流路と、
第二の移動相により前記トラップカラムから溶出させられた前記トラップカラムに捕捉・濃縮された成分を分離する第二の分析カラムと、
前記第二の分析カラムで分離された成分を検出する第二の検出手段とを備えた液体クロマトグラフィー装置において、
第二の分析カラムがミクロカラムもしくはナノカラムであり、第二の検出手段の検出器セルがミクロセルもしくはナノセルであることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液体クロマトグラフィー装置によれば、試料中の目的成分の濃縮率をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。図1に、本発明の液体クロマトグラフィー装置の一つの実施態様を示した。図1に示した液体クロマトグラフィー装置は、一つのトラップカラムを備え、第二の分析カラムがミクロカラムで、かつ、第二の検出手段の検出器セルがミクロセルである液体クロマトグラフィー装置である。
【0009】
送液ポンプ2aおよび2bは、有機溶媒、水等の移動相として使用され得る溶媒を送液可能なものであればよい。かかる送液ポンプは、流量を任意に設定することができるものが好ましい。
【0010】
送液ポンプ2aの上流側に、流路L1により切替えバルブ10が接続されており、切替えバルブ10と第一の移動相を構成する有機溶媒4aとは、流路L2で接続されている。流路L2の途中にはオンラインデガッサ8が設けられている。オンラインデガッサ8は、流路内を流れる有機溶媒4aおよび希釈液6a中への気泡の噛み込みを防止する機能を有するものであり、安定した送液状態を保つ点で設けておくことが好ましい。また、切替えバルブ10には、希釈液6aとの流路L3が接続されている。切替えバルブ10を切替えることにより、流路L1と流路L2とを接続したり、流路L1と流路L3とを接続したりするようになっている。
【0011】
同様に、送液ポンプ2bの上流側には、流路L4により切替えバルブ10が接続され、切替えバルブ10と第一の移動相を構成する水4bとが流路L5で、切替えバルブ10と搬送液6bとが流路L6でそれぞれ接続されている。さらに、流路L5およびL6の途中に、オンラインデガッサ8が設けられている。切替えバルブ10を切替えることにより、流路L4とL5とを接続したり、流路L4とL6とを接続したりするようになっている。なお、図1に示す実施態様では、第一の移動相を構成する有機溶媒4aと希釈液6aとを、切替えバルブ10を介して、送液ポンプ2aにより送液するようになっているが、切替えバルブ10を介することなく、それぞれを送液する送液ポンプを設けてもよい。また、第一の移動相を構成する水4bと搬送液6bについても、同様に、切替えバルブ10を介することなく、それぞれを送液する送液ポンプを設けてもよい。
【0012】
希釈液6aは、後述する分取部25a〜25eから押し出された成分を希釈しながらトラップカラム30へ送り出す液であり、搬送液6bは、後述する分取部25a〜25eに保持された成分をトラップカラム30に押し出す液であり、それぞれ同じ溶媒であってもよいし、異なる溶媒であってもよく、第一の移動相を構成する有機溶媒4aおよび水4b、成分等に応じて、トラップカラム30への成分の吸着効率を高めるような溶媒を選択することが好ましい。また、かかる希釈液6aおよび搬送液6bとしては、不揮発性塩等の緩衝剤を含まない水もしくは水溶液も使用することができる。緩衝剤を含む第一の移動相を用いた場合に、かかる緩衝剤を含まない搬送液を用いることにより、成分をトラップカラムへ捕捉・濃縮させる際に、脱塩処理を行うことができる。
【0013】
送液ポンプ2aおよび2bの下流側の流路L7およびL8は、切替えバルブ12を介して両流路を流れる液を混合するミキサ14に接続されており、ミキサ14で混合された溶液の流路が、試料注入部であるオートサンプラ16を介して第一の分析カラム18に接続されている。
【0014】
送液ポンプ2aおよび2bの流量は、試料、第一の分析カラム等に応じて適宜選択すればよく、それぞれの送液ポンプの流量は一定であってもよいし、それぞれ独立に、経時的に変化させてもよい。なお、図1に示した実施態様では、第一の移動相を構成する有機溶媒4aと水4bとを2つの送液ポンプで送液し、ミキサ14で混合し、所定の組成の第一の移動相を調製し、第一の分析カラム18に送液するようにしているが、あらかじめ有機溶媒4aと水4bを所定の割合で混合しておき、一つの送液ポンプにより送液するようにしてもよい。また、第一の移動相の組成も、有機溶媒と水との混合溶液に限らず、単独の有機溶媒としてもよいし、異なる二種の有機溶媒の混合溶液としてもよく、試料やその成分、分析カラム等に応じて適宜選択すればよい。また、試料中の成分の分離をよくするため、不揮発性塩等の緩衝剤が溶解した緩衝溶液等を第一の移動相を構成する溶媒として用いてもよい。
【0015】
本発明において、試料とは、濃縮したい成分を含むものであればよく、あらゆる形態の試料を意味し、試料成分自体、試料成分含有製剤等を溶液にしたものの他、例えば、血液、血漿、尿等を媒体とした試料成分等も挙げることができる。
【0016】
第一の分析カラム18としては、順相カラム、逆相カラム、イオン交換カラム、アフィニティカラム、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)カラム等種々のカラムが使用でき、分離しようとする試料中の成分に応じて、適宜選択すればよい。かかる分析カラムの内径や長さも特に制限されない。
【0017】
第一の分析カラム18の下流側には、第一の検出手段である紫外光検出器20が接続され、第一の分析カラム18で分離された試料中の成分が紫外光検出器20で検出されるようになっている。第一の分析カラム18で分離された成分の、紫外領域の特定の波長における吸光スペクトルが取得できる。検出された吸光スペクトルは、記憶手段(図示しない)に記憶される。
【0018】
図1に示した液体クロマトグラフィー装置では、第一の検出手段として、紫外光検出器が用いられているが、例えばPDA検出器、赤外検出器、放射性同位体検出器、蛍光検出器等を用いてもよい。
【0019】
紫外光検出器20には、切替えバルブ22を介して、分画用流路24が接続されている。分画用流路24は、2つの分配バルブ26aおよび26bとの間に分取部を有した流路を複数、並列に備え、切替えバルブ22と、流路L9およびL10により接続されており、第一の分析カラム18で分離された成分が、分配バルブの分配操作により分画され、分画された成分が移動相とともに、分取部25a〜25eに保持されるようになっている。切替えバルブ22には、ドレインへつながる流路L22も接続されている。図1では、分取部は5つ設けられているが、その数は制限されない。
【0020】
切替えバルブ12と切替えバルブ22との間には2つの流路L11およびL12が接続されており、一方の流路L11は、途中で分岐してトラップ用流路に接続されている。トラップ用流路は、前記分取部25a〜25eに保持された成分をトラップカラムに送り出して前記成分をトラップカラムに捕捉させて濃縮せしめる流路であり、一つのトラップカラム30が設けられている。トラップカラム30は、切替えバルブ28と、流路L16およびL17でそれぞれ接続されている。前記流路L11から分岐した流路L13は切替えバルブ28に接続されており、該切替えバルブ28には、トラップカラム30に捕捉・濃縮された成分を分離する第二の分析カラム32と第二の分析カラム32で分離された成分を検出する第二の検出手段である紫外光検出器33が設けられている。
【0021】
トラップカラム30としては、通常その内径が、前記第一の分析カラム18の内径よりも小さいカラムが用いられ、第一の分析カラム18の内径にもよるが、通常0.03〜6mmの内径のカラムが使用される。また、トラップカラム30としては、例えば筒状部材内に充填剤を充填した充填型カラム、モノリス型カラム等を用いることができる。充填型カラムをトラップカラムとして用いる場合には、トラップカラム内の圧力を小さくするという点で、その粒径が10〜60μmである充填剤が充填された充填型カラムを用いることが好ましい。また、トラップカラム30の長さは特に制限されないが、通常は10〜100mm程度である。
【0022】
図1に示した実施態様では、第二の分析カラム32として、内径0.1〜0.3mm程度のミクロカラムが用いられているが、かかる第二の分析カラムとしては、内径0.03〜0.1mm程度のナノカラムを用いてもよい。第二の分析カラム32の長さは、通常10〜30cmである。
【0023】
トラップカラム30から溶出した成分が、第二の検出手段である紫外光検出器(ミクロセル)33で検出され、該成分の、紫外領域の特定波長における吸光スペクトルが取得できる。検出された吸光スペクトルは、記憶手段(図示しない)に記憶される。
【0024】
図1に示した実施態様では、かかる紫外光検出器33を構成する検出器セルは、内容量が20nL〜2μLのミクロセルであるが、検出器セルとして、内容量が、1nL〜20nLのナノセルを用いてもよい。先に述べた第二の分析カラムとしてミクロカラムもしくはナノカラムを用い、かつ、第二の検出手段の検出器セルとしてミクロセルもしくはナノセルを用いることにより、目的成分の濃縮率をさらに高めることができる。
【0025】
切替えバルブ28には、第二の移動相を構成する有機溶媒38aおよび水38bを供給するための送液ポンプ36aおよび36bが、ミキサ40を介して接続されている。有機溶媒38aおよび水38bと送液ポンプ36aおよび36bとを接続する流路には、オンラインデガッサ39が設けられている。また、切替えバルブ28には、ドレインへの排出流路が接続されている。
【0026】
第二の移動相は、トラップカラム30からの成分の溶出をより容易にするため、成分やトラップカラム30に応じて適宜決めればよい。また、第二の移動相は、トラップカラム30に捕捉・濃縮された成分を溶出させるものであるため、成分の分離をよくするための不揮発性塩等の緩衝剤等を用いなくてもよい。
【0027】
第一の分析カラム18およびトラップカラム30は、カラムオーブン41中に設けられており、略一定の温度に保持されている。図1に示した実施態様では、第一の分析カラム18およびトラップカラム30が一つのカラムオーブンに設けられているが、それぞれのカラムごとにカラムオーブンを設けてもよい。また、第二の分析カラム32も、前記カラムオーブン41もしくは図示しない別のカラムオーブン中に設けられ、略一定の温度に保持されている。
【0028】
続いて、本発明の一実施態様である液体クロマトグラフィー装置の動作について説明する。図1は、試料中の成分の分離工程および分離された成分の分画工程が行われている状態を示しており、かかる工程で使用される流路が太線で、液の流れが矢印で表わされている。図2は、成分のトラップカラムへの捕捉・濃縮工程が行われている状態を示しており、図1と同様に、かかる工程で使用される流路が太線で、液の流れが矢印で表わされている。図3は、トラップカラムに捕捉・濃縮されていた成分の第二の分析カラムによる分離工程が行われている状態を示しており、図1および2と同様に、かかる工程で使用される流路が太線で、液の流れが矢印で表わされている。
【0029】
まず、試料中の成分の分離工程および分離された成分の分画工程が行われている状態について、図1に基づいて説明する。
【0030】
<試料中の成分の分離工程>
切替えバルブ10が操作され、流路L1と流路L2とが接続されるとともに、流路L4と流路L5とが接続される。送液ポンプ2aおよび2bが起動されると、有機溶媒4aおよび水4bがそれぞれ送液ポンプ2aおよび2bにより送液され、それぞれ流路L7およびL8を通り、切替えバルブ12を経てミキサ14で混合され、第一の移動相となり、オートサンプラ16を経て第一の分析カラム18に送液される。試料をオートサンプラ16により注入すると、注入された試料は第一の移動相により第一の分析カラム18に導かれ、試料中の成分が、第一の分析カラム18で分離される。
【0031】
<分離された成分の分画工程>
分離された成分は第一の分析カラム18から溶出していき、紫外光検出器20で検出され、切替えバルブ22を経て、流路L9を通り、分画用流路24へ流れる。紫外光検出器20で成分が検出されると、その検出信号に応じて分配バルブ26aおよび26bとが働き、分画用流路24内の分取部25a〜25eのうちのいずれかが選択され、分離された成分を分画し、選択された分取部に分画された成分が第一の移動相とともに保持される。紫外光検出器20で検出されたスペクトルは、記憶手段(図示しない)に記憶される。図1では、分取部25eが選択され、成分が分取部25eに分画されている。紫外光検出器20で成分が検出される毎に分配バルブ26aおよび26bが切替えられ、分画用流路24内のいずれかの分取部が選択され、分離された成分毎に分画動作が行われ、分画された成分が第一の移動相とともに選択された分取部に保持される。第一の分析カラム18から流出する第一の移動相により分画用流路24の分取部に保持されなかったものは、分配バルブ26b、流路L10、切替えバルブ22、流路L22を経て、ドレインから排出される。
【0032】
一方で、送液ポンプ36aおよび36bも起動され、第二の移動相を構成する有機溶媒38aおよび水38bがそれぞれ送液ポンプ36aおよび36bにより送液され、ミキサ40で混合され、第二の移動相となり、切替えバルブ28を経て、トラップカラム30に送液され、コンディショニングが行われるようになっている。
【0033】
次に、成分のトラップカラムへの捕捉・濃縮工程が行われている状態について、図2に基づいて説明する。
【0034】
<成分のトラップカラムへの捕捉・濃縮工程>
切替えバルブ10が操作され、流路L1と流路L3とが接続されるとともに、流路L4と流路L6とが接続される。送液ポンプ2aおよび2bにより希釈液6aおよび搬送液6bが送液され、搬送液6bは、流路L6、L4およびL8を通り、切替えバルブ12、流路L12、さらに切替えバルブ22を経て、流路L10へ導かれる。分配バルブ26aおよび26bが操作され、分画された成分が保持された分取部のうちの一つが選択され、搬送液6bが、分配バルブ26bから選択された分取部を通り、前記分取部に保持されていた成分と第一の移動相とともに、分配バルブ26a、流路L9、切替えバルブ22、流路L11、流路L13、切替えバルブ28、流路L16を通り、トラップカラム30へ導かれる。一方、希釈液6aは、流路L3、L1およびL7を通り、切替えバルブ12を経て、流路L11を通り、前記選択された分取部に保持されていた成分、第一の移動相および搬送液6bの流れと合流し、トラップカラム30へ導かれる。トラップカラム30に導かれた成分は、トラップカラム30に捕捉され、濃縮される。トラップカラム30を経た第一の移動相と希釈液6aと搬送液6bは、流路L17を通り、切替えバルブ28を経てドレインから排出される。
【0035】
続いて、トラップカラムに捕捉・濃縮された成分の第二の分析カラムによる分離工程が行われている状態について図3に基づいて説明する。
【0036】
<トラップカラムに捕捉・濃縮されていた成分の第二の分析カラムによる分離工程>
第二の移動相を構成する有機溶媒38aおよび水38bが、オンラインデガッサ39を経て、気泡が除去された状態で、それぞれ送液ポンプ36aおよび36bにより送液され、ミキサ40で混合され、第二の移動相となって、切替えバルブ28を経て、流路L16を通り、トラップカラム30に導かれる。トラップカラム30にすでに捕捉され濃縮された成分は、第二の移動相により溶出し、溶出した成分は第二の移動相とともに、流路L17を通り、切替えバルブ28を経て、第二の分析カラム(ミクロカラム)32へ導かれ、第二の分析カラム(ミクロカラム)32で分離される。分離された成分は、第二の検出器である紫外光検出器(ミクロセル)33で検出され、吸収スペクトルが取得される。取得された吸収スペクトルは、記憶手段(図示しない)に記憶される。
【0037】
なお、図1〜図3では、分画用流路24内の分取部25a〜25eに保持された成分を、希釈液6aおよび搬送液6bで希釈し、押し出しながらトラップカラム30へ導くようにしているが、分画された成分を、搬送液6bとともに分取部25a〜25eに保持するようにしてもよい。
【0038】
続いて、本発明の別の実施態様である液体クロマトグラフィー装置の動作について、図4〜図6に基づいて説明する。図4〜図6に示す液体クロマトグラフィー装置は、トラップカラムが2つ並列に設けられるとともに、流路切替え機構が設けられた液体クロマトグラフィー装置である。図1に示した液体クロマトグラフィー装置では、一つのトラップカラムで、成分の捕捉・濃縮動作と成分の溶出動作が交互に行われるため、溶出しきれず、トラップカラム内に成分が残存した場合には、次に捕捉・濃縮しようとする成分と混ざり合う可能性があるため、例えば成分の溶出動作に要する時間を延ばす等の必要が生じる場合があるが、図4に示す液体クロマトグラフィー装置では、トラップカラムが2つ並列に設けられているため、成分を捕捉・濃縮させるトラップカラムを代えることができるため、より高い濃縮率で目的成分を得ることができるとともに、かかる濃縮操作をより効率的に行うことができる。
【0039】
図4は、試料中の成分の分離工程および分離された成分の分画工程が行われている状態を示しており、かかる工程で使用される流路が太線で、液の流れが矢印で表わされている。図5および図6は、成分のトラップカラムへの捕捉・濃縮工程とトラップカラムに捕捉・濃縮されていた成分の溶出・第二の分析カラムでの分析工程が同時に行われている状態を示しており、かかる工程で使用される流路が太線で、液の流れが矢印で表わされている。
【0040】
図4に示した試料中の成分の分離工程および分離された成分の分画工程が行われている状態については、前記図1に示した状態について説明したと同様の動作が行われている。
【0041】
次に、成分の別のトラップカラムへの捕捉・濃縮工程とトラップカラムに捕捉・濃縮されていた成分の溶出・取り出し工程が同時に行われている状態について、図5に基づいて説明する。
【0042】
<成分のトラップカラムへの捕捉・濃縮工程>
切替えバルブ10が操作され、流路L1と流路L3とが接続されるとともに、流路L4と流路L6とが接続される。送液ポンプ2aおよび2bにより希釈液6aおよび搬送液6bが送液され、搬送液6bは、流路L6、L4およびL8を通り、切替えバルブ12、流路L12、さらに切替えバルブ22を経て、流路L10へ導かれる。分配バルブ26aおよび26bが操作され、分画された成分が保持された分取部のうちの一つが選択され、搬送液6bが、分配バルブ26bから選択された分取部を通り、前記分取部に保持されていた成分と第一の移動相とともに、分配バルブ26a、流路L9、切替えバルブ22、流路L11、流路L13、切替えバルブ28b、流路L17を通り、トラップカラム30bへ導かれる。一方、希釈液6aは、流路L3、L1およびL7を通り、切替えバルブ12を経て、流路L11を通り、前記選択された分取部に保持されていた成分、第一の移動相および搬送液6bの流れと合流し、トラップカラム30bへ導かれる。トラップカラム30bに導かれた成分は、トラップカラム30bに捕捉され、濃縮される。トラップカラム30bを経た第一の移動相と希釈液6aと搬送液6bは、流路L16を通り、切替えバルブ28a、流路L23を経てドレインから排出される。
【0043】
<トラップカラムに捕捉・濃縮されていた成分の溶出・取り出し工程>
一方で、第二の移動相を構成する有機溶媒38aおよび水38bが、オンラインデガッサ39を経て、気泡が除去された状態で、それぞれ送液ポンプ36aおよび36bにより送液され、ミキサ40で混合され、第二の移動相となって、切替えバルブ28aを経て、流路L14を通り、トラップカラム30aに導かれる。トラップカラム30aにすでに捕捉され濃縮された成分は、第二の移動相により溶出し、溶出した成分は第二の移動相とともに、流路L15を通り、切替えバルブ28bを経て、第二の分析カラム(ミクロカラム)32へ導かれ、第二の分析カラム(ミクロカラム)32で分離される。分離された成分は、第二の検出器である紫外光検出器(ミクロセル)33で検出され、吸収スペクトルが取得される。取得された吸収スペクトルは、記憶手段(図示しない)に記憶される。
【0044】
次に、成分の別のトラップカラムへの捕捉・濃縮工程とトラップカラムに捕捉・濃縮されていた成分の溶出・第二の分析カラムでの分析工程が同時に行われている状態について、図6に基づいて説明する。
【0045】
図5に示す上記したトラップカラム30aからの成分の溶出工程とトラップカラム30bへの成分の捕捉・濃縮工程とが終了すると、図6に示すように、分配バルブ26aおよび26bが切替えられ、別の分画された成分が保持されている分取部25dが選択される。さらに、切替えバルブ28aおよび28bが切替えられ、分取部25dに保持された成分が、第一の移動相、希釈液6aおよび搬送液6bとともに切替えバルブ28bを経て、流路L15を通り、トラップカラム30aに導かれ、トラップカラム30aに成分が捕捉され、濃縮される。一方で、トラップカラム30bに捕捉され、濃縮されていた成分は、切替えバルブ28aを経て、流路L16を通った第二の移動相により溶出し、溶出した成分は第二の移動相とともに、流路L17を通り、切替えバルブ28bを経て、第二の分析カラム(ミクロカラム)32へ導かれ、第二の分析カラム(ミクロカラム)32で分離される。分離された成分は、第二の検出器である紫外光検出器(ミクロセル)33で検出され、吸収スペクトルが取得される。取得された吸収スペクトルは、記憶手段(図示しない)に記憶される。
【0046】
このように、図4〜図6に示した液体クロマトグラフィー装置では、トラップカラムを複数有し、トラップ用流路の一つのトラップカラムに成分を捕捉させて濃縮せしめる捕捉・濃縮動作と、他のトラップカラムから捕捉された成分を溶出させる溶出動作を同時に行うための流路切替え機構を備えていることから、トラップカラムにおける成分の捕捉・濃縮動作と別のトラップカラムに捕捉・濃縮されていた成分の溶出動作を同時に、また連続的に行うことができるため、目的成分の濃縮率をさらに高めることができるだけでなく、濃縮操作をより効率的に行うことができる。
【0047】
また、不揮発性塩等の緩衝剤を含む第一の移動相を用いた場合には、不揮発性塩等の緩衝剤を含まない希釈液や搬送液を用いることにより、脱塩処理も同時に行うことができるため、不揮発性塩等の緩衝剤の影響を受けやすい質量分析等に適した前記緩衝剤を実質的に含まない分析サンプルを調製することもできる。そのため、質量分析装置や核磁気共鳴装置を紫外光検出器33の後方に接続し、オンライン分析を行うこともでき、目的成分の濃縮率が向上していることから、より高感度の分析も可能となる。
【0048】
なお、図4〜図6に示した実施態様では、トラップカラムが2つ並列に設けられているが、複数のトラップカラムを2組並列に設けることもできる。これにより、トラップ用流路の一つのトラップカラムに成分を捕捉させて濃縮せしめる捕捉・濃縮動作と、他のトラップカラムから捕捉された成分を溶出させる溶出動作を同時に行うことができる。
【0049】
また、図1〜図6に示した実施態様では、切替えバルブ10を設けて、送液ポンプ2aおよび2bにより、第一の移動相を構成する有機溶媒4aおよび水4bと、希釈液6aおよび搬送液6bとを、切替えて送液し、同じ流路を通り、分画用流路24へ送液されるようになっているが、希釈液6aおよび搬送液6bを送液する送液ポンプを別途設けるとともに、希釈液6aおよび搬送液6bが、第一の移動相を構成する有機溶媒4aおよび水4bが流れる流路とは異なる流路を通るようにして、分画用流路24へ送液するようにすることにより、試料中の成分の分離および分離された成分の分画工程と成分の溶出・取り出し工程もしくは成分の第二の分析カラムでの分析工程と、成分のトラップカラムへの捕捉・濃縮および濃縮された成分の溶出・取り出しもしくは第二の分析カラムでの分析工程とを同時に行うようにすることもできる。
【実施例】
【0050】
実施例1
目的成分Aを1mg秤量し、アセトニトリル1mLに溶解させ、得られた目的成分Aのアセトニトリル溶液を、さらに、100倍に希釈し、モデル液を調製した。図4に示す液体クロマトグラフィー装置を用い、モデル液中の目的成分Aの濃縮処理を行った。注入量は、1μLとし、第二の分析カラム32として、内径0.3mmのミクロカラムを用い、紫外光検出器33の検出器セルとして、内容量35nLのミクロセルを用いた。また、紫外光検出器20および紫外光検出器(ミクロセル)33の検出波長をそれぞれ254nmとした。紫外光検出器20で得られたクロマトグラムを図7に、紫外光検出器(ミクロセル)33で得られたクロマトグラムを図8に示した。目的成分Aのピーク面積を比較し、濃縮率(紫外光検出器(ミクロセル)33で得られたクロマトグラム中の目的成分Aのピーク面積/紫外光検出器20で得られたクロマトグラム中の目的成分Aのピーク面積)を計算したところ、74376/2881=25.8倍であった。
【0051】
比較例1
前記実施例1で用いた液体クロマトグラフィー装置において、紫外光検出器(ミクロセル)33に代えて、内容量2.5μLのセミミクロセルを用いた以外は、前記実施例1と同様に、モデル液中の目的成分Aの濃縮処理を行った。紫外光検出器20で得られたクロマトグラムを図9に、紫外光検出器(セミミクロセル)で得られたクロマトグラムを図10に示した。目的成分Aのピーク面積を比較し、濃縮率(紫外光検出器(セミミクロセル)で得られたクロマトグラム中の目的成分Aのピーク面積/紫外光検出器20で得られたクロマトグラム中の目的成分Aのピーク面積)を計算したところ、82512/4395=18.8倍であった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一つの実施態様の液体クロマトグラフィー装置およびその動作を示す図であって、試料中の成分の分離工程および分離された成分の分画工程が行われている状態を示す。
【図2】本発明の一つの実施態様である液体クロマトグラフィー装置およびその動作を示す図であって、成分のトラップカラムへの捕捉・濃縮工程が行われている状態を示す。
【図3】本発明の一つの実施態様である液体クロマトグラフィー装置およびその動作を示す図であって、トラップカラムに捕捉・濃縮されていた成分の第二の分析カラムでの分析工程が行われている状態を示す。
【図4】本発明の別の実施態様の液体クロマトグラフィー装置およびその動作を示す図であって、試料中の成分の分離および分離された成分の分画工程が行われている状態を示す。
【図5】本発明の別の実施態様の液体クロマトグラフィー装置およびその動作を示す図であって、成分のトラップカラムへの捕捉・濃縮および濃縮された成分の溶出工程と成分の第二の分析カラムでの分析工程が同時に行われる状態を示す。
【図6】本発明の別の実施態様の液体クロマトグラフィー装置およびその動作を示す図であって、成分の別のトラップカラムへの捕捉・濃縮工程とトラップカラムに捕捉・濃縮されていた成分の溶出・第二の分析カラムでの分析工程が同時に行われている状態を示す。
【図7】実施例1において、紫外光検出器20で得られたクロマトグラムである。
【図8】実施例1において、紫外光検出器(ミクロセル)33で得られたクロマトグラムである。
【図9】比較例1において、紫外光検出器20で得られたクロマトグラムである。
【図10】比較例1において、紫外光検出器(セミミクロセル)で得られたクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0053】
2a,2b,36a,36b 送液ポンプ
4a 第一の移動相を構成する有機溶媒
4b 第一の移動相を構成する水
6a 希釈液
6b 搬送液
8,39 オンラインデガッサ
10,12,22,28,28a,28b 切替えバルブ
14,40 ミキサ
16 オートサンプラ
18 第一の分析カラム
20 紫外光検出器
24 分画用流路
25a〜25e 分取部
26a,26b 分配バルブ
30,30a,30b トラップカラム
32 第二の分析カラム(ミクロカラム)
33 紫外光検出器(ミクロセル)
38a 第二の移動相を構成する有機溶媒
38b 第二の移動相を構成する水
41 カラムオーブン
L1〜L17,L22〜L23 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の移動相により導かれた試料中の成分を分離する第一の分析カラムと、
前記成分を検出する第一の検出手段と、
前記第一の検出手段で検出された成分を分画して分取部に保持する分画用流路と、
前記分取部に保持された成分をトラップカラムに送り出して前記成分をトラップカラムに捕捉させて濃縮せしめるトラップ用流路と、
第二の移動相により前記トラップカラムから溶出させられた前記トラップカラムに捕捉・濃縮された成分を分離する第二の分析カラムと、
前記第二の分析カラムで分離された成分を検出する第二の検出手段とを備えた液体クロマトグラフィー装置において、
第二の分析カラムがミクロカラムもしくはナノカラムであり、第二の検出手段の検出器セルがミクロセルもしくはナノセルであることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。
【請求項2】
トラップカラムが複数設けられ、前記トラップ用流路の一つのトラップカラムに成分を捕捉させて濃縮せしめる捕捉・濃縮動作と、他のトラップカラムから捕捉された成分を溶出させる溶出動作を同時に行うための流路切替え機構とを備えてなる請求項1に記載の液体クロマトグラフィー装置。
【請求項3】
ミクロセルもしくはナノセルの内容量が、1nL〜2μLである請求項1に記載の液体クロマトグラフィー装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−275873(P2006−275873A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97483(P2005−97483)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)