説明

液体クロマトグラフィー装置

【課題】同一の液体クロマトグラフィーの2本のカラムを並列接続してなる分離精製装置であって、液体クロマトグラフィーへの試料の注入の操作を連続的に行う。
【解決手段】分離カラムC1とC2のすぐ上流側には、それぞれスイッチバルブSW1とSW2が設けられ、分離カラムC1とC2のすぐ下流側には、それぞれスイッチバルブSW3とSW4が設けられ、リザーバーR1、リザーバーR2、リザーバーR4、リザーバーR4の溶液は、選択バルブSV1により、ポンプP2につながる配管につなげられるか否かが選択され、つなげられることが選択された場合において、ポンプP2を介して、選択バルブSV2により、スイッチバルブSW1側の配管に送られるかもしくはスイッチバルブSW2側の配管に送られるかが選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中の物質の分離精製に関わる分野であって、液体クロマトグラフィーを用いて溶液中の物質を分離精製する装置に関するものである。特に、図1に示す流路系で示されるように同一の液体クロマトグラフィーの2本のカラムを並列接続してなる分離精製装置であって、液体クロマトグラフィーへの試料の注入の操作を連続的に行うことを特徴とする、液体クロマトグラフィーによるタンパク質の分離精製装置に関する。本装置は、非常に低濃度で且つ大量溶液からなるタンパク質の濃縮回収および分離精製に適する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィーは取り扱いの容易さ、広範な分析対象、高い分離効率など、優れた性能を有することから、溶液中の物質の分離精製において有力な手段となっている。特に、近年のタンパク質医薬品の市場の広がりに伴い、大腸菌などの宿主細胞で発現させた組み換えタンパク質などの精製に広く利用されている。
組み換えタンパク質を代表とする目的タンパク質は、大腸菌などの宿主細胞などを破砕して得られる無細胞抽出液などのタンパク質の混合溶液から、他の共雑タンパク質やそれ以外の共雑物を取り除くことにより精製がおこなわれるが、その際用いられる方法としては、目的タンパク質を共雑タンパク質ごともしくは目的タンパク質のみクロマト担体に吸着させ、その後、適切な溶出方法により、共雑タンパク質や共雑物と区別する条件で溶出回収すること、すなわち、吸着クロマトグラフィーにより分離する方法が極めて有効である。タンパク質の分離精製に用いられる液体クロマトグラフィーにおいては、吸着クロマトグラフィー以外に、分子ふるい(もしくはゲルろ過)など、タンパク質の分子サイズの差などによる方法他も利用されているが、大量のサンプルを処理でき、且つ、処理以前に比べてより濃縮した形態で回収できる方法としては、吸着クロマトグラフィーが最適であると考えられている。
タンパク質の分離精製の際に主に用いられる吸着型の液体クロマトグラフィーによる分離は、いわゆる、回分(バッチ)式の分離が広く適用されている。ここで、回分式とは、一つの充填カラムを使用し、カラムの平衡、カラムへのサンプルの注入による吸着、カラムからの目的物の溶出、及びカラムの再生と洗浄からなる一連の操作により完結する操作を示している。
バッチ式の吸着型クロマトグラフィーを適用する場合は、分離対象とする試料に合わせて、分離カラムのサイズ(容量)が定まってくる。すなわち、カラムへの目的タンパク質の吸着が完全に行われるだけの容量(結合容量)が担保できるだけのカラムが最低必要となる。
従って、多量の試料を液体クロマトグラフィーで分離精製する場合においては、試料に合わせて巨大な分離カラムを用いることが要求される。もし、巨大なカラムが準備できない場合は、試料をいくつかに分割して、液体クロマトグラフィーの操作を繰り返して行うことが必要となる。前者は、巨大なカラムを用いることによるカラムのコストと、そのサイズにあった設備を準備しなければならないなどの設備コストが大きな障害となる。一方、後者においては、適切なサイズに分割して、バッチ操作を行うことにより、上記コストの問題は解消できるが、バッチ操作を繰り返すことによる操作時間が、分割の回数に比例して必要となり、大量のサンプルの処理において長時間を要することが大きな障害となる。
既に、本発明者らは、上記の障害を解消する目的において、試料を連続的に注入して吸着クロマトグラフィーを行うことを考案し、3本の分離カラムを並列化した液体クロマトグラフィー装置を開発し、それを用いた、タンパク質の大量精製における効率化を可能にしたものを特許出願した(特許文献1参照)。
【0003】
本発明者らが既に開発している3本の分離カラムを並列化した液体クロマトグラフィー装置は、アフィニティカラムなどの目的タンパク質への吸着特性が非常に高い分離担体において、且つ、タンパク質の混合溶液中における目的タンパク質の含量が非常に高いものから低いものまで広く適用できることを念頭において開発したものであり、精製の低コスト化及び装置の簡便性且つ信頼性などにおいて、無駄の排除、操作の簡便性、および信頼性向上において更なる考案の要素が含んでいることが考えられた。特に、タンパク質の分離精製の実態に即した対応に対して最適化することが必要であると考えられた。
【0004】
本発明は、タンパク質分離に利用される吸着クロマトグラフィーの連続化技術に関するものであるが、クロマトグラフィーの連続化技術に関連しては、既にいくつかの試みがなされている。例えば、液体クロマトグラフィーの分野において、分離度を高めるために、複数本のカラムを無端円状に連結し、移動相の流れ方向に供給口、抜取口を切り替えていき、擬似的に固定相を移動相の流れに対して逆方向に移動させ目的成分を連続的に分離するシステム(擬似移動床法:Simulated Moving Bed(SMB)法)が、開発され利用されている(特許文献2、3参照)。この方法においては、多数本のカラムを直列に接続し、各液タンクとカラムとの接続配管の途中にロータリーバルブ等を配したシステムとなっている。ロータリーバルブを一定時間(ピリオドタイム)毎に同時に次々と切り替えていき、各液の仕込み口、取り出し口をひとつずつ左へ順次移動させることにより行う。この方法の特徴は、2つ以上の成分を含む溶液から各成分の移動速度の差に応じて2つの画分に分離するために用いられ、8〜16の分離カラムから構成され、優れたプロセス原理に基づき高い分離精度と効率を得ることが出来るが、設備構成及び制御が複雑になり建設コストが高価となる。
近年、タンパク質の精製分離には、タンパク質リガンドを固定化したアフィニティカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィーや各種吸着クロマトグラフィー用カラムが広く用いられる。例えば、アフィニティクロマトグラフィーを用いることにより、特定のタンパク質だけを選択的に精製できるため、分離性の悪い2つの成分を分離する目的で開発されたSMB法を適用してわざわざ複雑な分離システムを組む必要性が無い。すなわち、装置の複雑さ、また、分離特性のよい分離担体の開発などの理由によりSMB法の適用はあまり行われていない。
一方、液体クロマトグラフィーを用いた分析においては、繰り返し測定を効率よくするための装置が開発されており、繰り返し測定の煩雑さと総分析時間を短縮することなどの目的で、複数のカラムを並列化することにより、分析の連続化を実現する装置の開発が行われている(特許文献4、特許文献5参照)。並列カラムを用いた測定においては、1本のカラムにおいて分離分析を行い、その時間内に並列化したその他のカラムにおいては、カラムの洗浄、平衡化などの操作を行わせている。分析の連続化もしくは効率化を目的とした並列カラムを用いた液体クロマトグラフィーにおいては、分析のため用いられるサンプルの量が少量で済むために、サンプルを連続的に注入することが必須ではないため、サンプルの導入を間歇的に行いつつ、並列化したカラムによる分析を効率よく行うための装置が開発されているが、連続的にサンプルを導入し、精製分離を行う目的、すなわち、タンパク質の大量精製などには転用できない仕様の装置となっている。一般に、サンプルの導入を連続的に行う場合は、カラムを多数用い、サンプル導入と導入の間歇時間(待ち時間)を事実上ゼロにする必要があると考えられており、分析を目的とする場合は、そのような目的のために利用できる装置とはなっていない。従って、サンプルを連続的にカラムに注入して、精製に要する時間をできるとして考案された吸着型の液体クロマトグラフィー装置としては、本発明者らが発明している方法が唯一であった(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2009−104625号
【特許文献2】特表2008−539395号公報
【特許文献3】特表2004−533919号公報
【特許文献4】特表2002−40008号公報
【特許文献5】特開2003−329660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タンパク質の製造プロセスを考える場合、希釈されたタンパク質の回収、もしくは、原材料として、大量の試料中に目的タンパク質の存在量が著しく少ない場合などの場面に多く遭遇する。また、純度の高いタンパク質を得るためには、いくつかの分離操作を行わなければならないが、その過程において吸着クロマトグラフィーを適用する場合は、使用する担体に対して吸着できる溶媒条件に目的タンパク質を調整する必要が生じる。いわゆる、バッファー交換という操作である。小容量のタンパク質溶液を取り扱う場合においては、透析などにより溶媒を交換することは容易であるが、大容量の試料溶液の場合は、その実行が困難となることや、透析に要する時間が長時間であるなどの問題が生じる。溶媒交換の問題を解消する最も単純な方法としては、希釈方法があげられる。元の試料溶液を、目的溶媒で、例えば、100倍希釈することで、吸着クロマトグラフィーの目的の溶媒交換は、実質上達成される。また、希釈に要する時間は、透析などの他の溶媒交換に要する時間に比べれば、はるかに少なく、混合に要する時間だけであることから、実質上瞬時に操作を完了することができる。
しかしながら、例えば100倍の希釈を行うと、対象となる試料溶液の容量は、100倍になり、これを通常の液体カラムクロマトグラフィーで精製しようとした場合、大容量のカラムが必要となり、取り扱いにおいてあらたな問題が生じる。このような大容量の試料をできるだけ小さなカラムで処理する方法としては、すでに本発明者らが発明している装置を用いて行うのが効果的であり、且つ、大容量の試料溶液をできるだけ小さいカラムを用いて精製処理する目的で開発されたという開発主旨にかなうものである(特許文献1参照)。
本発明においては、吸着型の液体クロマトグラフィーにより、非常に希釈された大量のタンパク質試料もしくは大量の混合溶液中の目的タンパク質濃度が著しく低いサンプルを効率よく濃縮しながら精製する装置の開発を目的に、大容量の低濃度のタンパク質溶液を、迅速かつ低コストで精製・濃縮するのにより適した方法および装置の開発のために鋭意研究を行った結果得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
既に、本発明者らは、アフィニティ担体に代表される吸着型クロマトグラフィー・カラムを並列化し、1本目のカラムにおいてタンパク質試料の吸着が飽和するに要する時間内に、2本目のカラムにおいて洗浄および分離を完了できること、また、3本目のカラムにおいてカラム、再生および初期平衡化が完了できることになり、この3本のカラムの役割を循環的に変えることにより、タンパク質試料を、連続的に注入し続けることができることを考案し、試料を連続的に注入しながら分離精製を行わせる液体クロマトグラフィー装置を開発している(特許文献1)。
このような連続注入を行う場合、希釈されたタンパク質溶液を用いる場合は、1本目のカラムにおいてタンパク質試料の吸着がするに要する時間は、2本目のカラムにおける洗浄および分離、また、3本目のカラムにおける再生および初期化に必要な時間に比較して、圧倒的に長時間を要することから、2本目のカラムの工程と3本目のカラムの工程を分ける必要が無いことが判明した。すなわち、カラムの並列化において、3本にする必然性が無い場合があることが、本発明者らの発明による連続注入しながら分離精製を行わせる液体クロマトグラフィー装置を利用しながら、タンパク質の分離精製を行ったことにより明らかになってきた。またこのことにより、タンパク質溶液が希薄であるか希薄でないかということに関して、連続注入クロマトグラフィーを適用するという観点で明確にする必要性が考えられた。
【0008】
本発明において、対象とするタンパク質試料溶液が希薄であるか否かということを、以下のように整理することにする。
吸着クロマトグラフィーを用いて精製・濃縮を試みる際に、タンパク質が希薄であるか否かを論じるためには、分離カラムについて単位体積当たりの、(1)適用するカラム担体が示すタンパク質の最大結合容量(これを、Q単位:mg/mL−カラム)とあらわすことにする)、(2)タンパク質の吸着以外の操作に必要な各種溶液の総量(これを、W(単位:mL)とあらわすことにする)、(3)対象とするタンパク質溶液中のタンパク質の総量(これを、P(単位:mg)とあらわすことにする)、(4)対象とするタンパク質溶液の総容量(これを、V(単位:mL)とあらわすことにする)、という値を用いると、Q×W>P×V、という条件が成り立つ場合は、対象となるタンパク質溶液は、単に体積当たりの分離カラムに対して十分希薄であるということができる。もしくは、タンパク質溶液中のタンパク質濃度(これを、C(mg/mL)(=P/V)とあらわすことにする)を用いると、Z=Q/C(mL/mL−カラム)という値が計算されるが、Zカラム容量内において、吸着クロマトグラフィーにおけるタンパク質の吸着以外の操作が完了できる場合は、対象となるタンパク質溶液が希薄であるということができる。
このことは、タンパク質溶液が希薄であるか否かということが、用いる分離カラムの特性、用いる各種溶媒、用いるクロマトグラフィー装置、他の要素により大きく変動することになる。
このことから、本発明者らは、できるだけ希薄という条件が広く適用できる装置の開発を目指した。
【0009】
そのために、最も単純な並列カラム装置である、2本の同一の分離カラムを並列化した装置について、種々検討を行い、図1で示す流路構成をもつものが、希薄という条件を幅広くとりうる装置であるとの結論に達し、この流路構成をもつ装置を製作し、その動作確認を確認することにより、連続プロセスが達成されることを示し、本発明を完成させた。以下にそのための検討の概要を示す。
【0010】
吸着型カラムクロマトグラフィーにおいては、通液する溶液の特性に応じてカラムクロマトグラフィーのプロセスを複数の段階に分けることができる。一つのカラムを用いた場合、クロマトグラフィーのステップは、(i)サンプルアプライ(目的タンパク質のカラムへの吸着)、(ii)非特異的吸着物等の洗浄、(iii)目的成分の溶出、(iv)カラム再生化(目的成分以外の吸着物の溶出を含む)、(v)平衡化(イニシャライズ)、の5つのステップに、分けられる。
今、タンパク質溶液が、上記希薄であるという条件を満足する場合、注入するサンプル容量に比べて、カラムの平衡化、洗浄、目的成分の溶出、および再生化に用いる溶液の量が十分小さくなる。既に、本発明者が着目したように、同じ流速で通液を行ったとしても、サンプル注入に必要な時間内に、イニシャライズ(平衡化)、洗浄、溶出、再生の操作を組み合わせて行うことが可能となる(特許文献1参照)。このことにより、2つのカラムを並列に用いることにより、既に本発明者らが開発した並列カラムを用いたサンプルの連続注入型のクロマトグラフィー装置をより簡便化した装置に改造することにより目的が達成できる。
図2は、本発明者らが既に作製している3本カラムよりなる装置の流路図を示している。この流路図から、3本目のカラム部分を取り除くと、本発明に関わる図3に示す流路図が考案できる。
ここで、2本カラムと3本カラムを用いた場合についての大きな違いは、2本カラムの場合は、サンプルアプライに要する時間内に、イニシャライズ(平衡化)、洗浄、溶出、再生の操作の操作を完了させなければならないが、3本カラムの場合は、最大その半分の時間ですべての操作が完了できることである。すなわち、2本カラムの場合は、3本カラムの半分の濃度のサンプルしか適用できないことになり、希薄の条件が厳しくなることになる。そのため、装置を工夫することにより、イニシャライズ(平衡化)、洗浄、溶出、再生の操作に要する時間をより短くすることを検討した。
【0011】
イニシャライズ(平衡化)、洗浄、溶出、再生の操作に要する時間については、用いられる分離カラムそれぞれについて特性があり、そのような特性そのものを用いるクロマトグラフィー装置によって変えることはできない。
【0012】
一方、実際のクロマトグラフィーにおいては、各種溶液を連続的に通液するために、溶液を切り替えたのちに、流路内において完全に溶液が切り替わるためには、ある程度の時間が必要である。このことが特に問題となるのは、流路を形成する配管内において、切り替え前の溶液と切り替え後の溶液の混合がおこり、溶液勾配が生じることでる。このことは、分離特性に影響するだけでなく、イニシャライズ(平衡化)、洗浄、溶出、再生の操作に要する時間そのものにも大きく影響する。例えば、カラム容量の1ないし2倍の溶液を通じることでカラム内の溶液が完全に切り替わるような場合においても、配管内での前後の溶液の混合により、実際は、溶液の完全切り替えに、より多くの時間を要するだけでなく、本発明のような連続的に繰り返し操作を行う場合は、その再現性を確保するために、余裕をもった操作時間の確保が必要である。このことは、流路系の改良により、イニシャライズ(平衡化)、洗浄、溶出、再生の操作に要する実際の時間を、短縮できることを示している。
【0013】
配管内での前後の溶液の混合の与える分離カラムへ影響をできるだけ少なくする方法としては、図3で示すRT1からカラムまでの配管をできるだけ短くすることがその方策として考えられるが、装置作製上確実に行えるというわけではない。そこで、本発明者は、より確実に影響を排除するために、カラムのすぐ上流に切り替えバルブを設置し、溶液の切り替えを行う時に、切り替えバルブを廃液としてカラムに流さないようにする操作をできる装置とし、一定時間切り替え後の溶液を通じ、配管内の溶液を完全に切り替えたのちに、再度バルブを切り替え、溶液をカラムに通じるという方法(いわゆる流路のパージ)を採用した。切り替えバルブは、ほぼカラムと直結できることから、溶液の切り替えの際の前後の溶液の切り替えの効果を最小限にできる。この効果を実現した流路系が図1に示す本発明である。なお、図1の装置において、パージを行わないようにすると、図3の構成にと同等であることから、図1の構成は、当然図3の構成を含んでいることになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果の特徴としては、たった2本の同一の吸着型分離カラムを用いることで、そのカラムの耐久性が許す限り連続的に吸着・溶出よりなる精製且つ濃縮処理ができることである。また、その処理時間は、カラムのサイズによらず、精製目的のサンプルの容量と単位時間に本装置にサンプルを送液する速度、すなわち、流速によって決まることである。すなわち、サンプルをすべて装置に注入し終わる時間とほぼ同程度の時間、正確には、運転開始の初期化の時間と最終注入が終了後の洗浄・溶出・再生・初期化に要する時間を加えた時間であるが、にすべての操作を完了できることである。1本のカラムを用いた場合、運転開始の初期化の時間、サンプル溶液注入の時間、洗浄・溶出・再生・初期化に要する時間が必要であることに比べると、処理時間を短縮できることは明白である。1本カラムを用いた場合は、本発明の場合と異なり、必要とされるカラム容量をサンプル中の目的タンパク質をすべて吸着できるだけの結合容量が必要であるため、必然的に大型のカラムを使用しなければならない。これに比べ、例えば、100回繰り返しを行う場合、1本カラムで1回の操作で行う場合の100分の1の容量のカラムの使用ですむことになる。このことは、本発明の装置を使用することにより、用いるカラムのスケールダウンもしくは繰り返しバッチ精製における労力を大幅に減らすことができ、精製の精度を変えることなく低コスト化、省力化を達成に貢献することができる。また、担体の寿命を考慮することにより、サイクル数を設計することも可能となり、小容量のカラムを使い捨て使用することも可能となり、異なるロットのタンパク質標品もしくは異なるタンパク質への利用の際に生ずるクロス・コンタミネーションやそれを防ぐための、精製バッチごとのカラムの洗浄(CIP操作)という操作を避けることも可能となる。
【0015】
本発明は2本のカラムを並列化するために、図1に示すような流路系を採用した。一方、2台のクロマトグラフィー装置を2台並列化することによっても、サンプルの流入を制御することにより同じような効果が期待できるものと考えられる。2台のクロマトグラフィー装置をそのまま利用し、装置の並列化を行い、本発明の目的であるサンプルの連続注入を達成することを考える場合、図4に示す流路図が検討される。図4においては、例えば、ポンプP1下流の構成は、普遍的なカラムクロマトグラフィー装置に本発明のパージバルブと回収のためのバルブを接続しただけである。一方、ポンプP1上流においては、流路切り替えバルブを用いて、S液、R1液、R2液、R3液、R4液を流すようになっている。本発明の図1に示す流路図と単純に2台の液体クロマトグラフィーをつなげるために、ポンプ上流側に改造を加えた図4に示す流路系の大きな特徴は、ポンプP1が、サンプルを送液するためにだけ用いられていることにある。タンパク質の精製において、分離用のサンプルはクルードなものが多い。そのため、流路やポンプの洗浄が問題となるが、本発明の流路系の場合、ポンプ1だけがサンプルと接触するため、ポンプ2については、タンパク質サンプルの汚れを気にする必要がないことが上げられる。さらに、本発明の図1に示す流路系においては、ポンプ1とポンプ2は全く異なった仕様でも全く問題はないが、図4に示す流路においては、並列カラムによる同期(シンクロナイズ)を図るために、全く同一の仕様のポンプであることが必要である。
本発明においては、2本の並列カラムによる連続操作が可能となる要件として、分離目的のタンパク質溶液が、希薄であるか否かが重要な要素であることを述べてきたが、図1の構成をとることにより、ポンプP1の流速を適宜変化させることにより、すべてのタンパク質溶液が、希薄であるということを達成できる。すなわち、分離カラムの結合容量によって、通液できるサンプル溶液の容量の上限が定まる。例えば、ポンプP2を介したイニシャライズ(平衡化)、洗浄、溶出、再生の操作に要する最適な時間(T(最適、もしくは設定))は、精製対象のタンパク質と用いられる分離カラムの特性、各操作に用いられる溶液により定まる。一方、サンプルの流速は、ポンプの性能が許す限り任意に選ぶことができる。従って、ポンプP2を介したイニシャライズ(平衡化)、洗浄、溶出、再生の操作に要する最適な時間×ポンプP1の流速×サンプル溶液のタンパク質濃度を、分離カラムC1およびC2の特性であるポンプP1の流速における動的結合容量の値以下になるようにポンプP1の流速を設定すれば、分離目的のタンパク質溶液が希薄であるとして取り扱うことができるのである。また、ポンプP1の流速を、ポンプP2を介したイニシャライズ(平衡化)、洗浄、溶出、再生の操作に要する最適な時間との兼ね合いで適宜設定することにより、効率のよい分離精製が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の液体クロマトグラフィー装置の流路図を示す。図中、S,R1、R2、R3,R4は、溶液のリザーバーを示し、SV1、SV2は、選択バルブを示す、その中の数字は、バルブが選択できる流路を示し、SW1、WS3,SW3,SW4は、スイッチバルブを示し、その中の数字は、切り替える流路を示し、P1およびP2は送液ポンプを示し、C1、C2は分離カラムを示している。また、精製されたサンプルの回収用リザーバーおよびUVモニターも図中に示している。なお、図中、黒丸は流路が結ばれていることを示している。
【図2】図2は、本発明者らが既に発明している(特許文献1参照)、3本カラムを並列化し、サンプルの連続注入を可能にした液体クロマトグラフィー装置の流路図を示す。図中、S,R1、R2、R3,R4は、溶液のリザーバーを示し、SV1、SV2、SV3,SV4,SV5は、選択バルブを示す、その中の数字は、バルブが選択できる流路を示し、SW1、WS3は、スイッチバルブを示し、その中の数字は、切り替える流路を示し、P1、P2、P3は送液ポンプを示し、C1、C2、C3は分離カラムを示している。また、精製されたサンプルの回収用リザーバーおよびUVモニターも図中に示している。なお、図中、黒丸は流路が結ばれていることを示している。
【図3】図3は、溶液切り替えの際のパージ機能をもたない流路図を示す。図中、S,R1、R2、R3,R4は、溶液のリザーバーを示し、SV1、SV2は、選択バルブを示す、その中の数字は、バルブが選択できる流路を示し、SW3,SW4は、スイッチバルブを示し、その中の数字は、切り替える流路を示し、P1およびP2は送液ポンプを示し、C1、C2は分離カラムを示している。また、精製されたサンプルの回収用リザーバーおよびUVモニターも図中に示している。なお、図中、黒丸は流路が結ばれていることを示している。
【図4】図4は、単純に2台の液体クロマトグラフィー装置を利用して、連続化の達成を考えた場合の、流路図を示す。図中、S,R1、R2、R3,R4は、溶液のリザーバーを示し、SV1、SV2は、選択バルブを示す、その中の数字は、バルブが選択できる流路を示し、SW1、WS3,SW3,SW4は、スイッチバルブを示し、その中の数字は、切り替える流路を示し、P1およびP2は送液ポンプを示し、C1、C2は分離カラムを示している。また、精製されたサンプルの回収用リザーバーおよびUVモニターも図中に示している。なお、図中、黒丸は流路が結ばれていることを示している。
【図5】図5は、高塩濃度溶液であるR1から低塩濃度溶液であるR2への溶液を切り替えた際のカラムから出てくる溶出液の伝導度の経時変化を示している。時間ゼロにおいてR2に切り替えた溶液カラムに通液される時間としてプロットしている。図中、横軸は経過時間(単位:分)を、縦軸は、カラムから出てくる溶液の伝導度(任意単位)で示している。点線で示す曲線が、パージ時間を0としたとき、実線で示す曲線がパージ時間を30秒としたときの伝導度の変化を表している。
【図6】図6は、上記実験で得られたタンパク質の回収を280nmの吸収でモニターしたものである。図中横軸は、経過時間を分で表し、縦軸は、280nmの吸光度(任意単位)で表す。なお、吸光度のサンプリング間隔5秒ごとのデータをプロットしている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を構成する装置は、図1に示した流路図をもって示すことができる。
すなわち、本発明の液体クロマトグラフィー装置は、2本の分離カラム(これを、それぞれ、カラムC1およびカラムC2と呼ぶ)、2台の送液用ポンプ(それぞれ、ポンプP1およびポンプP2と呼ぶ)、最低5種類の溶液リザーバー(これを、それぞれリザーバーS、リザーバーR1、リザーバーR2、リザーバーR4、リザーバーR4と呼ぶ)、6か所の流路切り替え部位装置(これを、それぞれ、スイッチバルブSW1、スイッチバルブSW2、スイッチバルブSW3、スイッチバルブSW4、選択バルブSV1、選択バルブSV2、と呼ぶ)、およびそれらをつなぐ配管の部品より構成され、その配管の構成が、図1に示した流路図で表されるように、リザーバーSの溶液が、ポンプP1を介して、選択バルブSV2により、スイッチバルブSW1側の配管に送られるかもしくはスイッチバルブSW2側の配管に送られるかが選択され、リザーバーR1、リザーバーR2、リザーバーR4、リザーバーR4の溶液は、選択バルブSV1により、ポンプP2につながる配管につなげられるか否かが選択され、つなげられることが選択された場合において、ポンプP2を介して、選択バルブSV2により、スイッチバルブSW1側の配管に送られるかもしくはスイッチバルブSW2側の配管に送られるかが選択され、選択バルブSV2の選択において、ポンプP1側からの配管がスイッチバルブSW1側に選択された場合は、ポンプP2側の配管がスイッチバルブSW2側に同時に選択される、もしくは、ポンプP1側からの配管がスイッチバルブSW2側に選択された場合は、ポンプP2側の配管がスイッチバルブSW1側に同時に選択される、のいずれかが選択され、スイッチバルブSW1においては、カラムC1側の配管もしくは廃液側の配管のいずれかが選択され、スイッチバルブSW2においては、カラムC2側の配管もしくは廃液側の配管のいずれかが選択され、スイッチバルブSW1側とカラムC1とを結ぶ配管の反対側の配管がスイッチバルブSW3につながれ、スイッチバルブSW2側とカラムC2とを結ぶ配管の反対側の配管がスイッチバルブSW4につながれ、スイッチバルブSW3においては、回収容器側の配管もしくは廃液側の配管のいずれかが選択され、スイッチバルブSW4においては、回収容器側の配管もしくは廃液側の配管のいずれかが選択される、ように流路が配管され、すべてのポンプおよび流路切り替え装置が、あらかじめプログラムした順番に従って作動されるように、制御されることにより、液体クロマトグラフィーを自動的かつ連続的に行わせることができる特徴を有している。また、選択バルブSV1により、ポンプP2につなげられるリザーバーの種類としては、最低4種類が必要であるが、これより多くなることは構わない。あらかじめ、6種類のリザーバー(これを、それぞれ、R1、R2、R、R4、R5、R6と称する)を設置した場合は、最大6種類の溶液を選択できる。また、12種類のリザーバーを設置した場合は、最大12種類の溶液を選択できる。
図1において、C1とC2は、それぞれ、分離カラムである。分離カラムC1とC2のすぐ上流側には、それぞれスイッチバルブSW1とSW2が設けられ、スイッチバルブSW1とSW2は、分離カラムに通液する溶液をあらかじめ廃液側に流し、カラムに通じる溶液の切り替えの際、前後の溶液の混合を最小にする。分離カラムC1とC2のすぐ下流側には、それぞれスイッチバルブSW3とSW4が設けられ、スイッチSW3とSW4は、各分離カラムから出てくる溶液を廃液リザーバー用容器に通液するか、回収用容器に通液するかを切り替える。S,R1,R2,R3,R4は各種溶液リザーバーで、Sには第1分離対象のサンプル溶液が入っており、送液ポンプP1を介して選択バルブSV2に供給される。R1にはカラムの初期化用溶液が、R2には洗浄用溶液が入っており、R3には、溶出用溶液が、R4には再生用溶液が入っており、選択バルブSV1によって、R1,R2,R3,R4を切り替えて、送液ポンプP2を介して選択バルブSV2に供給される。
選択バルブSV2は、P1側から流される溶液とP2側から流される溶液を、C1側もしくはC2側に互いに同時に同じカラムを選択しないように切り替えながら、流路を選択しながら切り替えるためのバルブであり、例えば、P1側からの流れが、C1カラム側に流れるようにした場合は、P2側からの流れをC2側に流れるように、また、P1側からの流れが、C2カラム側に流れるようにした場合は、P2側からの流れをC1側に流れるように、同時に切り替えことを行う機能を有する選択バルブである。各スイッチバルブSW1,SW2,SW3,SW4、および、各選択バルブSV1,SV2は、図示しない制御装置によって、自動的に動作制御される。カラムC1もしくはC2により分離された精製タンパク質は、SW3,SW4のスイッチバルブで、回収したいときだけ回収用の容器に送ることにより、間歇的に回収される。なお、回収が正常に行われているかをモニターするために、回収ラインの途中に紫外線モニター(UVモニター)を付けることにより、クロマトグラフィーのモニタリングを行うことができる。
リザーバーの溶液として、R1、R2,R3,R4だけの4種類を使用する場合について図示したが、SV1に示すバルブを変更し、所望の数に変更することにより4種類以上の溶液を用いて、クロマトグラフィーを行うことが可能である。本発明においては、吸着クロマトグラフィーにおいて必要とされる溶液としては、初期化用溶液、洗浄用溶液、溶出用溶液、および、再生用溶液が必要であることから、最小単位の装置としての装置について記述している。従って、SV1の上流に、4種類以上の溶液をつなぎ制御する場合も、本発明に含まれることは自明である。
ポンプのオン、オフ、流速やバルブの切り替えなどは、あらかじめコンピュータ等でプログラムしておくことにより制御できる。従って、本装置を用いることにより、サンプルの送液を開始した後は、サンプルが尽きるまで、連続的に作動し、完全自動化により、タンパク質の精製を行うことができる。
【0018】
本発明のクロマトグラフィー装置の最少構成としては、図1に示されるように、5つの溶液リザーバー(S,R1,R2,R3,R4で示す)、2つの同じ性能の送液ポンプ(P1,P2で示す)、2つの同じ分離カラム(C1,C2で示す)、4つのスイッチバルブ(SW1,SW2,SW3,SW4で示す)、2つの選択バルブ(SV1,SV2で示す)、廃液リザーバー、回収用容器、および、それらをつなぐ配管で構成される。なお、タンパク質の回収状況をモニターするためのUVモニターは、できる限り装備した方が良いが、必須ではない。図中、黒丸で示した線の交差部分は、そこで配管がつながっていることを示すが、逆流を防ぐ機能を有するものが望ましい。本装置の動作は、あらかじめプログラムされたバルブの切り替え(一定時間ごとに切り替えられる)により、自動的に行われる。プログラムに必要なパラメータは、非常に単純であり、スイッチバルブSW1,SW2,SW3,SW4においては、一定時間ごとに制御信号を出し、流路を図の1もしくは2に切り替えることを、プログラムする。選択バルブSV1,SV2においては、一定時間ごとに制御信号を出し、それぞれ、数字で示す流路のうち、一つ流路を選択的することを、プログラムする。
【0019】
図1に示す装置を用いて、サンプルSをポンプP1により連続的に通液するだけで、適宜カラムを切り替え、C1とC2のカラムを用いて吸着クロマトグラフィーにより精製を行うためには、以下に述べる手続きにより、SW1,SW2,SW3,SW4,SV1,SV2の切り替えのタイムプログラムを作成し、作動させればよい。
タイムプログラム作成するためのパラメータとしては、溶液の切り替えの際の流路パージに要する時間、これを、T(P)とする、溶液R1、R2、R3、R4を通液する時間、これをそれぞれ、T(R1)、T(R2)、T(R3)、T(R4)とする、溶出溶液R2を通液してから、精製タンパク質がカラムから溶出され始めるまでの時間、これを、T(S)とする、溶出溶液R2を通液してから、精製タンパク質がカラムから溶出し終わるまでの時間、これを、T(E)とする、をあらかじめ予備実験で決めておくと、このパラメータを用いつことにより、タイムプログラムを作成できる。
本装置は、1本で行われる通常の精製プロセスを繰り返すことを行うことから、n回目のサイクルについて、タイムプログラムを決めて、これを繰り返すことをプログラムすればよい。
1本カラムを用いた通常のクロマトグラフィーにおいては、初期化が行われたカラムに、リザーバーSのサンプル溶液を、時間T(S)の間通液して、その後、R2液(洗浄用溶液)を、T(R2)の間通液し、非特異吸着物を洗い出し、ついで、R3液(溶出用溶液)を、T(R3)の間通液し、吸着した精製目的蛋白質を溶出する。このとき、時間T(S)に目的蛋白質が溶出されてくるから、回収操作を開始する。その後、時間T(E)に目的蛋白質の溶出が終了することから、回収操作を終了する。R3液の通液が終了した後に、R4液(再生用溶液)を、T(R4)の間通液し、カラムを再生し、その後、R1液(初期化用溶液)を、T(R1)の間通液し、カラムを初期化することで、次の精製サイクルのためのサンプル溶液の通液操作に移ることができる。
従って、2本の分離カラム(C1,C2)のうち、n回目の精製サイクルとして、C1カラムにサンプル溶液を通液すると同時に、C1カラムにサンプルを通液している時間T(S)と完全に同じ時間内に、C2カラムにおいて、R2液通液、パージ、R3液通液、サンプル回収開始、サンプル回収終了、R4液通液、R1溶液通液をすべて行い、その後、SV2を切り替えることにより、C2カラムにサンプル溶液を通液すると同時に、C2カラムにサンプルを通液している時間T(S)と完全に同じ時間内に、C1カラムにおいて、R2液通液、パージ、R3液通液、サンプル回収開始、サンプル回収終了、R4液通液、R1溶液通液をすべて行うことにより、C1カラムにおける1回の精製操作が完了するとともに、C2カラムにおいては、サンプルの通液が終了できることになる。この操作を繰り返し続けるバルブ操作をプログラムすれば、自動的に運転できることができる。
ここで、T(S)=T(R2)+T(P)+T(R3)+T(P)+T(R4)+T(P)+T(R1)という関係が成り立つことから、作成するタイムプログラムにおいて必要なパラメータとしては、繰り返しの操作回数NとT(P)、T(R1)、T(R2)、T(R3)、T(R4)、T(S)、T(E)で十分であり、それぞれ設定することにより、図1に示した各種バルブの操作を自動的に行わせるプログラムを作成することができ、作成したプログラムを実行することにより、連続注入を特徴とする本装置を用いたクロマトグラフィーを実施することができる。
【0020】
本発明の図1で示される流路系を有するサンプルの注入を連続的に行いながらタンパク質の濃縮・精製を行うことを可能にする液体クロマトグラフィー装置の利用としては、タンパク質の濃縮・精製において幅広い利用が可能である。下記に典型的な利用例を説明するが、吸着タイプのカラムを利用したクロマトグラフィーに幅広く適用できる。
【0021】
[典型的な利用例1]:希釈されたタンパク質溶液を用いたタンパク質の濃縮・回収
希釈されたタンパク質溶液中の濃縮の対象となるタンパク質を用いた場合、該溶液条件において、対象蛋白質を吸着・結合できるカラムを用いることにより、吸着−溶出−カラム再生−初期化のうち、一方のカラムにおいて、吸着を行い、もう一方のカラムにおいて溶出−カラム再生−初期化を行い、相互のカラムを相互に取り換える操作を本装置で自動的に行うことにより、用いたカラムの結合容量を最大とする濃縮を行うことができる。用いられるカラムとしては、対象となるタンパク質の特性に依存するが、陰イオン交換担体、陽イオン交換担体、疎水性担体、ヒドロキシアパタイト担体、ニッケルキレート担体などの低分子の官能基をつけた各種アフィニティ担体、プロテインAカラムなどのタンパク質リガンドを結合した各種アフィニティ担体などが好適である。
【0022】
[典型的な利用例2]:無細胞抽出液からのアフィニティ精製
大腸菌で発現したヒスタグなどの各種タグ付きタンパク質とタグ部分を結合するアフィニティ担体を組み合わせることにより、アフィニティ精製を行うことができる。実施例において、ヒスタグタンパク質の精製例を示す。なお、大腸菌における多くのタグタンパク質の発現量は、大体100mg/L程度であり、タグ用精製用のアフィニティ担体の結合容量は、その千倍である100mg/mL程度であることから、大腸菌における発現タンパク質はタグ精製において十分希薄であるとして扱うことができる、本発明のクロマトグラフィー装置が容易に適用できる。
【0023】
[典型的な利用例3]:CHO細胞で発現させたモノクローナル抗体のアフィニティ精製
CHO細胞で発現したモノクローナル抗体の精製において、抗体のFc領域を特的に認識結合するタンパク質であるプロテインAやプロテインGもしくはその誘導体などのタンパク質リガンドを固定化したアフィニティ担体を用いた精製に有効である。実施例において、本発明者らが開発したプロテインA誘導体のタンパク質リガンドを固定化したヒトモノクローナル抗体の精製例を示す。なお、CHO細胞を用いたモノクローナル抗体の発現は、多くの場合1g/Lであるが、CHO細胞の発現屋培養方法の改良により,10g/L以上におよぶ高発現が達成されているが、この場合においても、サンプルアプライの際の流速を1/10程度に落とすことにより、本発明のクロマトグラフィー装置の適用が可能である。
【0024】
[典型的な利用例4]:多段階精製における後段のクロマトグラフィーの精製
純度の高いタンパク質を得るためには、いくつかの分離操作を行わなければならない、すなわち、複数のクロマトグラフィー手法を用いた多段階精製がおこなわれる。その際、吸着型クロマトグラフィーを続けて行う場合、前段のクロマトグラフィーにおいて精製回収されたサンプル溶液を、後段に用いられる担体に対して吸着できる条件に調整する必要が生じる。いわゆる、バッファー交換という操作である。小容量のタンパク質溶液を取り扱う場合においては、透析などにより溶媒を交換することは容易であるが、大容量の試料溶液の場合は、その実行が困難となることや、透析に要する時間が長時間であるなどの問題が生じる。溶媒交換の問題を解消する最も単純な方法としては、希釈方法があげられる。元の試料溶液を、目的溶媒で、例えば、100倍希釈することで、吸着クロマトグラフィーの目的の溶媒交換は、実質上達成される。また、希釈に要する時間は、透析などの他の溶媒交換に要する時間に比べれば、はるかに少なく、混合に要する時間だけであることから、実質上瞬時に操作を完了することができる。しかしながら、希釈により取り扱う溶液量が大きく増えることから、大量のサンプルの処理をしなければならず、そのためには大型のカラムを用いるかもしくは小型のカラムを用いて繰り返し後段の精製を行うかなどの対処をしなければならず、サンプルの希釈という操作は事実上用いられていない。本発明の図1に示す装置は、大量の希釈されたサンプルの処理に最も適した方法であり、多段階精製における後段の精製および濃縮に威力を発揮できることは明らかである。
【0025】
[典型的な利用例5]:吸着型カラムに目的タンパク質を吸着させず余分な成分を吸着させるタイプの除去型クロマトグラフィーへの適用
本発明の装置は、サンプルを連続的に注入するということが大きな特徴であることから、図1に示す流路図において、例えば、カラムC1にP1側からサンプルが注入されている時にスイッチバルブSW3を回収側とし、余分な成分がカラムC1に吸着除去されたサンプルを精製サンプルとして回収し、同時にカラムC2側では、ポンプP2側から各種溶液が通液することにより、吸着した余分な成分を溶出するとともにカラムの再生・初期化を行い、初期化が終えた時点で、選択バルブSV2でカラムC1とカラムC2の上流側の流路を変更することで、連続的にサンプルを注入し、且つ、精製回収することができる。この場合は、目的タンパク質をカラムに吸着させる場合と異なり、タンパク質は連続的に精製・回収できることになる。
【0026】
[典型的な利用例6]:カラムの繰り返し使用に関わる性能評価(寿命等の測定)
本発明の装置は、サンプルを連続的に注入しながら液体クロマトグラフィーの操作を繰り返し行うことを可能としている。従って、カラムの繰り返し測定における劣化などの耐久試験を行う装置に本装置を活用できる。また、そのような場合、カラムC1とカラムC2に異なった担体を用いることにより、同じクロマト分離条件での劣化などの耐久試験を2本同時に行うことができるという利点もある。
【0027】
以上のように、本発明の装置を用いることにより液体クロマトグラフィーにおいて広範囲な利用を行うことができる。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
図1の流路図で表される連続注入クロマトグラフィー装置の構成を満たす本装置の一実施例として、必要な部品は、市販のものを用いて作製した。本装置を構成する部品としては、送液ポンプ送液ポンプP1,P2は、フロム社製SP−12−13を用い、選択バルブSV1は、フロム社製自動ロータリーバルブ401−74(1−6方ロータリー)を用い、選択バルブSV1は、フロム社製自動4方切り替えバルブ401−140を用い、スイッチバルブSW1,SW2,SW3,SW4,SW5は、TAKASAGO ELECTRIC,Inc.製のMTV−3−NM6NAを用い、分離カラムC1,C2は、2つとも同じものを用いるが分離する対象ごとに(精製しようとするタンパク質に応じて)選択したものを用い、UVモニターとしては、GE Healthcare製のUV−MIIを用い、溶液リザーバーR1,R2,R3,R4,R5としては、通常のガラスビーカーを用い、各装置をつなぐ配管は、通常の耐圧チューブを用い、各バルブ操作に対して、選択もしくは切り替え信号を伝え作動させるための制御装置としては、タイムプログラムにより上記ポンプ、選択バルブ、スイッチバルブに信号を出し、ポンプのオンオフ、選択バルブのバルブ位置、スイッチバルブの流路選択をPC制御行う装置を自作した。
作製した装置の動作確認は、以下に記載するように、各精製例において正常作動するという結果を得た。
なお、選択バルブSV1として用いたフロム社製自動ロータリーバルブ401−74は、1−6方ロータリーであることから、溶液リザーバーとして6種類利用できる。さらに、1−12方ロータリーバルブして、フロム社製自動ロータリーバルブ401−117にすることにより、溶液リザーバーを12種まで適宜増やすことができ、きめ細かな分離・精製条件を設定できることも確認した。
【0029】
[実施例2]
(流路パージの効果)
本発明において、図1に示すようにカラムのすぐ上流にスイッチバルブSW1,SW2を配して、通液する溶液の切り替えにおいて、前後の溶液の混合をできるだけ防ぐことを目的とした。このことにより効果を、溶液中の塩濃度を変え、伝導度を測定することで測定した。伝導度の測定のための伝導度計を、図1のUVモニターのところに設置し、R1として10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 1M NaCLを、R2として10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 5mM NaCLを用いて、分離カラムとして、陰イオン交換カラムHiTrap QXL (1mL)(GEヘルスケア社製プレパックカラム)を接続し、流速1mL/mLでR1とR2とを切り替えた際の伝導度変化を測定した。その結果、図5に示すように、パージ時間を0とした場合は、パージ時間を30秒取った場合に比べて、カラム内における溶液の完全交換に遅れが生じることが確認された。すなわち、パージを行うことにより、溶液交換をより速やかに行うことができることが示され、パージの効果が確認された。
【0030】
本発明の装置を利用する場合、あらかじめ設定する項目として、用いる分離カラムの種類とサイズ、サンプルの種類とその中における目的タンパク質の濃度、初期化溶液(R1)、洗浄溶液(R2)、溶出溶液(R3)、再生溶液(R4)、それぞれの種類と組成、パージ時間(X)、R1,R2,R3,R4それぞれの通液時間、T(R1)、T(R2)、T(R3)、T(R4)、溶出溶液を通液後の回収開始時間(Y)、回収時間(Z)、繰り返し回数(n)、ポンプP1、P2それぞれの送液速度を、それぞれ決める必要がある。以下の実施例においては、各種濃縮実験においては、このパラメータとその結果を記載する。
【0031】
[実施例3]
(希釈されたタンパク質溶液を用いたタンパク質の濃縮・回収)
本実施例においては、高度に精製したタンパク質標品を用いて、それを初期化溶液で希釈した低濃度タンパク質溶液とし、本発明の装置を用いて、希釈したタンパク質溶液をもちいて連続注入実験を行った。
【0032】
[アフィニティカラムとしてニッケルキレートカラムを用いたヒスタグタンパク質の濃縮]
タンパク質標品: 精製タンパク質PAA3T(本発明者らが既に開発している、抗体結合能を有するタンパク質(以下「PAA3T」と称する、特開2008−115151に記載のプラスミドpAA3Tにコードされている組み換えタンパク質)の高度精製標品)
タンパク質濃度: 0.1mg/mL (BCA法による測定)
注入したタンパク質溶液の総量: 588mL (59mg)
分離カラム: ニッケルキレートカラム HisTrap HP (1mL)(GEヘルスケア社製プレパックカラム)
R1:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 50mM NaCl、5mM イミダゾール
R2:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 500mM NaCl、75mM イミダゾール
R3:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 500mM NaCl、250mM イミダゾール
R4:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 500mM NaCl、1M イミダゾール
T(R1):10min
T(R2):10min
T(R3):10min
T(R4):10min
X: 0.5 min
Y: 1 min
Z: 3 min
繰り返し回数(n)=溶出サンプル回収回数: 7回
ポンプP1の流速(サンプル注入速度):2mL/min
ポンプP2の流速(精製処理速度): 1mL/min
上記条件で、連続クロマトグラフィーを行った。
その結果、図5に示すようなクロマトグラムが得られた。
回収されたサンプルの総容量は、21mL、タンパク質濃度は、2.5mg/mLであり、結果、53mgのタンパク質PAA3Tが、回収率90%で、25倍濃縮された形で回収できた。各溶出ピークの面積を求めたところ、平均値が360(任意単位)であり、その標準偏差が12(任意単位)であった。非常に再現良く回収が行われていることが示された。なお、本実験のクロマトグラフィーに係る総時間は、装置の初期化(自動運転)時間を入れて、5時間弱であった。
【0033】
[イオン交換カラムを用いたヒスタグタンパク質の濃縮]
タンパク質標品: 精製タンパク質PAA3T(本発明者らが既に開発している、抗体結合能を有するタンパク質(以下「PAA3T」と称する、特開2008−115151に記載のプラスミドpAA3Tにコードされている組み換えタンパク質)の高度精製標品)
タンパク質濃度: 0.05mg/mL (BCA法による測定)
注入したタンパク質溶液の総量: 966mL (48mg)
分離カラム: 陰イオン交換カラムHiTrap QXL (1mL)(GEヘルスケア社製プレパックカラム)
R1:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 5mM NaCL
R2:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 250mM NaCL
R3:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 500mM NaCL
R4:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 1M NaCL
T(R1):10min
T(R2):10min
T(R3):10min
T(R4):10min
X: 0.5 min
Y: 1 min
Z: 2 min
繰り返し回数(n)=溶出サンプル回収回数:23回
ポンプP1の流速(サンプル注入速度):1mL/min
ポンプP2の流速(精製処理速度): 1mL/min
上記条件で、連続クロマトグラフィーを行った。
その結果、回収されたサンプルの総容量は、46mL、タンパク質濃度は、1.0mg/mLであり、結果、46mgのタンパク質PAA3Tが、回収率96%で、20倍濃縮された形で回収できた。本実験のクロマトグラフィーに係る総時間は、装置の初期化(自動運転)時間をいれて、18時間弱であった。
【0034】
[アフィニティカラムとしてプロテインA担体をポリクローナル抗体の濃縮]
タンパク質標品: 人ポリクローナル抗体(シグマ社より購入、IgG from Hurman Serum,Technical Grade)
タンパク質濃度: 0.2mg/mL (BCA法による測定)
注入したタンパク質溶液の総量: 966mL (193mg)
分離カラム: アフィニティ担体 HiTrap ProteinA HP(1mL)(GEヘルスケア社製プレパックカラム)
R1:100mM リン酸ナトリウム、pH 7.2
R2:5mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 1M NaCL
R3:100mM クエン酸ナトリウム、pH 3.5
R4:100mM グリシン−HCl、pH 2.5
T(R1):10min
T(R2):10min
T(R3):10min
T(R4):10min
X: 0.5 min
Y: 1 min
Z: 3 min
繰り返し回数(n)=溶出サンプル回収回数:23回
ポンプP1の流速(サンプル注入速度):1mL/min
ポンプP2の流速(精製処理速度): 1mL/min
上記条件で、連続クロマトグラフィーを行った。
その結果、回収されたサンプルの総容量は、69mL、タンパク質濃度は、2.6mg/mLであり、結果、178mgの人ポリクローナル抗体が、回収率92%で、13倍濃縮された形で回収できた。本実験のクロマトグラフィーに係る総時間は、装置の初期化(自動運転)時間をいれて、18時間弱であった。
【0035】
[実施例4]
(無細胞抽出液からのアフィニティ精製)
大腸菌で発現したヒスタグなどの各種タグ付きタンパク質とタグ部分を結合するアフィニティ担体を組み合わせることにより、アフィニティ精製を行うことができる。本実施例においては、大腸菌で発現させたヒスタグタンパク質の精製例を示す。なお、大腸菌における多くのタグタンパク質の発現量は、大体100mg/L程度以下であり、タグ用精製用のアフィニティ担体の結合容量は、その千倍である100mg/mL程度であることから、大腸菌における発現タンパク質はタグ精製において十分希薄であるとして扱うことができた。
【0036】
[ヒスタグタンパク質、RRRRGの精製]
ヒスタグタンパク質して、既に本発明者らが発明し、抗体結合能を有するタンパク質(以下「RRRRG」と称する、特開2008−115151に記載のプラスミドpAA−RRRGにコードされている組み換えタンパク質)を用いた。
組換えプラスミドpAA−RRRGを形質転換した大腸菌JM109株を、2リッターの培地(20gの塩化ナトリウム、20gの酵母エキス、32gのトリプトン、100mgのアンピシリンナトリウムを含んでいる)で、35℃で一晩培養した。その後、培養液を20分間低速遠心(毎分5,000回転)することにより、湿重量約5gの菌体を得た。これを、20mLの10mMの燐酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、フレンチプレス装置により菌体を破砕した後、20分間高速遠心(毎分20,000回転)することにより、上清を分離した。得られた上清にストレプトマイシン硫酸を最終濃度が2%になるように加え20分間撹拌後、20分間高速遠心(毎分20,000回転)することにより、上清を分離した。この後、硫酸アンモニウム処理を行い、得られた上清を、0.05MのNaClおよび5mMイミダゾールを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.4)溶液を加え、全量を1100mLとした。このうち、1008mLを、下記の設定条件で、連続注入精製実験を行った。一方、対照実験として、全量1100mLの試料液のうち20mLを用いて、単一カラムでの精製を行った。単一カラムでの精製を別々に3回行った、ところ、毎回約1.7mgの精製タンパク質が得られた。
分離カラム: ニッケルキレートカラム HisTrap HP (1mL)(GEヘルスケア社製プレパックカラム)
R1:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 50mM NaCl、5mM イミダゾール
R2:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 500mM NaCl、75mM イミダゾール
R3:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 500mM NaCl、250mM イミダゾール
R4:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 500mM NaCl、1M イミダゾール
T(R1):10min
T(R2):10min
T(R3):10min
T(R4):10min
X: 0.5 min
Y: 1 min
Z: 3 min
繰り返し回数(n)=溶出サンプル回収回数: 12回
ポンプP1の流速(サンプル注入速度):2mL/min
ポンプP2の流速(精製処理速度): 1mL/min
上記条件で、連続クロマトグラフィーを行った。
その結果、回収されたサンプルの総容量は、36mL、タンパク質濃度は、2.4mg/mLであり、結果、86.4mgのタンパク質RRRRGが、回収できた。本実験のクロマトグラフィーに係る総時間は、装置の初期化(自動運転)時間をいれて、10時間弱であった。
本連続実験では、1008mLの試料液を用いて86.4mgの精製タンパク質(すなわち、0.086mg/mL試料)が回収され、単一カラム実験では、3回の実験で60mLの試料液から、5.1mgの精製タンパク質(すなわち、0.085mg/mL試料液)が回収され、連続注入精製を行っても回収量において単一カラムと同等もしくはそれよりも良い結果が得られた。
【0037】
[実施例4]
(CHO細胞で発現させたモノクローナル抗体のアフィニティ精製)
タンパク質標品: 抗IL8ヒト型モノクローナル抗体(ATCC CRL−12445のCHO株を培養した培養上清)
タンパク質濃度: 力価測定により、約0.096mg/mLのIgGを含むと推定される
注入したタンパク質溶液の総量: 1008mL (約97mg)
分離カラム: アミノ基で表面修飾したシリカモノリスに、上記記載のプロテインA変異体であるタンパク質PAA3Tを固定化したアフィニティ担体(1mL)
R1:100mM リン酸ナトリウム、pH 7.2
R2:5mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 1M NaCL
R3:100mM クエン酸ナトリウム、pH 3.5
R4:100mM グリシン−HCl、pH 2.5
T(R1):10min
T(R2):10min
T(R3):10min
T(R4):10min
X: 0.5 min
Y: 1 min
Z: 2 min
繰り返し回数(n)=溶出サンプル回収回数:12回
ポンプP1の流速(サンプル注入速度):2mL/min
ポンプP2の流速(精製処理速度): 1mL/min
上記条件で、連続クロマトグラフィーを行った。
その結果、回収されたサンプルの総容量は、24mL、タンパク質濃度は、3.7mg/mLであり、結果、88mgの抗IL8モノクローナル抗体が、回収率91%で回収できた。
対照実験として、同一の培養上清を20mL(約1.92mgのIgGを含むと推定)を用いて、単一カラムとしてアフィニティ担体 HiTrap ProteinA HP(1mL)(GEヘルスケア社製プレパックカラム)を用いて、同じ分離溶液条件で精製を行ったところ、1.76mgの抗IL8モノクローナル抗体が、回収された(回収率92%)。
【0038】
[実施例5]
(多段階精製における後段のクロマトグラフィーの精製)
実施例2において用いたヒスタグタンパク質でRRRRGについて、大腸菌の無細胞抽出液を用いた初段の精製において、実施例2に示すようにして、ニッケルキレートカラムを用いた精製を行い回収した標品について、水で20倍に薄め、陰イオン交換カラムHiTrap QXL (1mL)(GEヘルスケア社製プレパックカラム)による連続注入クロマトグラフィーを行った。ニッケルキレートカラムからの溶出液は、10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 500mM NaCl、250mM イミダゾールであり、これを20倍に水で薄めることにより、0.5mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 25mM NaCl、12.5mM イミダゾールという様に、用いた陰イオン交換担体に吸着できる溶液条件にすることができる。この希釈溶液を用いて、以下の条件で連続注入クロマト実験を行った。
タンパク質濃度: 0.12mg/mL (BCA法による測定)
注入したタンパク質溶液の総量: 714mL (86mg)
分離カラム: 陰イオン交換カラムHiTrap QXL (1mL)(GEヘルスケア社製プレパックカラム)
R1:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 5mM NaCL
R2:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 250mM NaCL
R3:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 500mM NaCL
R4:10mM リン酸ナトリウム、pH 7.4、 1M NaCL
T(R1):10min
T(R2):10min
T(R3):10min
T(R4):10min
X: 0.5 min
Y: 1 min
Z: 2 min
繰り返し回数(n)=溶出サンプル回収回数:17回
ポンプP1の流速(サンプル注入速度):1mL/min
ポンプP2の流速(精製処理速度): 1mL/min
上記条件で、連続クロマトグラフィーを行った。
その結果、回収されたサンプルの総容量は、34mL、タンパク質濃度は、2.3mg/mLであり、結果、75mgのタンパク質RRRRGが、回収率87%で、回収できた。本実験のクロマトグラフィーに係る総時間は、装置の初期化(自動運転)時間をいれて、14時間弱であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
吸着分離用担体として、アフィニティ担体とイオン交換担体を用いて、各種の実証実験を行ったが、本発明の装置は幅広く、各種分離カラムに適用し、精製プロセスの連続化を図ることができる。このように、クロマトグラフィーを用いたバッチプロセスを、連続プロセスに転換することができ、製造工程の革新につながる技術を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の分離カラム(以下、これを、それぞれ、「カラムC1」および「カラムC2」と呼ぶ。)、2台の送液用ポンプ(以下、これを、それぞれ、「ポンプP1」および「ポンプP2」と呼ぶ。)、最低5種類の溶液リザーバー(以下、これを、それぞれ「リザーバーS」、「リザーバーR1」、「リザーバーR2」、「リザーバーR4」、「リザーバーR4」と呼ぶ。)、6か所の流路切り替え部位装置(以下、これを、それぞれ、「スイッチバルブSW1」、「スイッチバルブSW2」、「スイッチバルブSW3」、「スイッチバルブSW4」、「選択バルブSV1」、「選択バルブSV2」、と呼ぶ。)、およびそれらをつなぐ配管の部品より構成された液体クロマトグラフィー装置であって、
前記配管の構成は、リザーバーSの溶液が、ポンプP1を介して、選択バルブSV2により、スイッチバルブSW1側の配管に送られるかもしくはスイッチバルブSW2側の配管に送られるかが選択され、
リザーバーR1、リザーバーR2、リザーバーR4、リザーバーR4の溶液は、選択バルブSV1により、ポンプP2につながる配管につなげられるか否かが選択され、つなげられることが選択された場合において、ポンプP2を介して、選択バルブSV2により、スイッチバルブSW1側の配管に送られるかもしくはスイッチバルブSW2側の配管に送られるかが選択され、
選択バルブSV2の選択において、ポンプP1側からの配管がスイッチバルブSW1側に選択された場合は、ポンプP2側の配管がスイッチバルブSW2側に同時に選択される、もしくは、ポンプP1側からの配管がスイッチバルブSW2側に選択された場合は、ポンプP2側の配管がスイッチバルブSW1側に同時に選択される、のいずれかが選択され、
スイッチバルブSW1においては、カラムC1側の配管もしくは廃液側の配管のいずれかが選択され、
スイッチバルブSW2においては、カラムC2側の配管もしくは廃液側の配管のいずれかが選択され、スイッチバルブSW1側とカラムC1とを結ぶ配管の反対側の配管がスイッチバルブSW3につながれ、スイッチバルブSW2側とカラムC2とを結ぶ配管の反対側の配管がスイッチバルブSW4につながれ、
スイッチバルブSW3においては、回収容器側の配管もしくは廃液側の配管のいずれかが選択され、
スイッチバルブSW4においては、回収容器側の配管もしくは廃液側の配管のいずれかが選択される、
ように流路が配管され、
すべてのポンプおよび流路切り替え装置が、あらかじめプログラムした順番に従って作動されるように、制御されることにより、液体クロマトグラフィーを自動的かつ連続的に行わせることができることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体クロマトグラフィー装置において、選択バルブSV1により、ポンプP2に送るように選択される溶液リザーバーの種類が5から12種類のうちいずれかであることを特徴とする液体クロマトグラフィー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−214837(P2011−214837A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80203(P2010−80203)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新機能抗体創製技術開発/高効率な抗体分離精製技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)