説明

液体分離装置に用いる流路材用トリコット編地とその製造方法

【課題】本発明は、流路材用トリコット編地の流路性能を高めることで分離作用の効率を上げることを最大の目的とし、併せて、安価で加工精度の良い流路材用トリコット編地を提供すること。
【解決手段】 液体分離装置に使用する流路材用トリコット編地Tの組織を、バック組織BCとフロント組織FCで形成される2枚オサ組織とし、その内、バック組織BCを熱融着機能を有するバック組織編成糸Y2で編成して、これを加熱融着処理することにより剛性を得て本流路材用トリコット編地Tの骨格体Gとなし、同時にフロント組織FCを非熱融着性のフロント組織編成糸Y1で編成して前記骨格体Gを表裏から挟み込む補強緩衝体Hとした、骨格体Gと補強緩衝体Hとで構成され流路材用トリコット編地T。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体分離装置の液体分離膜エレメントに用いられる流路材用トリコット編地に関し、従来のトリコット編地で形成される流路材に比べて、流路性能や加工精度が良く、しかも安価に製造できる流路材用トリコット編地を提供する。
【背景技術】
【0002】
液体分離装置は、海水の淡水化や排水のリサイクル、或いは超純水等の造水装置等に用いられる。
そして、この液体分離装置の主構成要素に図1に示す液体分離膜モジュールMがある。
この液体分離膜モジュールMには、図2に示すような液体分離膜エレメントEが内装される。
【0003】
この液体分離膜エレメントEは、液体分離膜Bと流路材Fと原液流路スペーサーSとで構成されていて、液体分離膜Bは扁平筒体BFに形成され、その中に流路材Fが挿入されている。
流路材Fを内包する扁平筒体BFは、原液流路スペーサーSと重ねて透過液排出管Pにスパイラル状に巻かれ、その巻き始めは透過液排出管P内に通じている。
また、その巻き終わりには閉じ部BEが形成されている。
【0004】
このような構成の液体分離膜モジュールMでは、まず、原液供給管PIから原液を供給する。
供給された原液は、液体分離膜エレメントEの原液流路スペーサーSの巻き終わりから中に入って行き巻き終わりに到達する。
その間、原液は液体分離膜Bで濾過処理され、濾過された処理液は、流路材Fにより透過液排出管Pに到達し排出される。
そして、巻き終わりに到達した残留物を含む原液は、原液流路スペーサーSの巻き始め箇所近傍の出口から残留流体排出管PXを通って排出されることとなる。
【0005】
上記のような処理機能を有するタイプの液体分離膜モジュールMでは、液体分離膜エレメントEの構成部材である流路材Fとして、トリコット編地を使用するものが主流となっている。
【0006】
従来例としてはトリコット機で編成される逆ハーフ組織のトリコット編地(特許文献1)や、鎖編みを採用して畝を形成しているもの(特許文献2)等があげられる。
【0007】
これら流路材用トリコット編地Tは、図3の部分実体模式図に示すように、扁平筒体BFに形成された液体分離膜Bに内挿されていて、上下から液体分離膜Bで挟まれた状態となっている。
液体分離膜Bを通過し分離された透過液が、流路材用トリコット編地Tの各ウエールW間に形成されている流路溝Rを流れて、透過液排出管Pより排出される。
【0008】
そして、これらの流路材用トリコット編地Tに要求される機能の一つに、液体分離膜Bが原液により外圧Vを受けた際、図4に示すように流路材用トリコット編地TのウエールWが押しつぶされて流路溝Rが閉塞してしまう現象が生じないようにウエールWに剛性を付与することが求められる。
【0009】
また、別の一つに、図5に示すように液体分離膜Bが原液により外圧Vを受けた際、特に使用開始時の初期の外圧Vにより液体分離膜BがウエールW間の流路溝Rに押し込まれる現象が生じ、そのまま液体分離膜Bが下方に、へたった状態となり分離効率が低下してしまう。
極端には、流路溝Rが閉塞されてしまい、分離作用が停止してしまう場合もあり、液体分離膜Bのへたりを防止する機能が要求される。
【0010】
これらの機能要求を満たすために、前者については、トリコット編地にエポキシ樹脂やメラミン樹脂等を含浸させて剛性を付与することにより、流路材用トリコット編地TのウエールWが外圧Vにより潰されて流路溝Rが閉塞されることを防止する手段が提案された。
【0011】
また、流路材用トリコット編地Tの編成糸として、図6に示すように芯部Jに高融点合成繊維を、鞘部Kに低融点合成繊維を用いた芯鞘構造単糸KJを複数本合わせて形成される芯鞘構造マルチフィラメント糸MKとして用いて編成した後、低融点合成繊維のみが溶融する温度で熱処理することにより、図7に示すように鞘部Kが溶融固化して1本の熱融着芯鞘構造糸SKとなって剛性を得る手段(特許文献1)等が提案された。
【0012】
そして、後者の要求機能については、液体分離膜Bの下方へのへたりによる流路溝Rの閉塞を防止する手段として、流路材用トリコット編地Tと液体分離膜Bとの間に布帛を介在させて、その布帛により液体分離膜Bが流路溝Rへ押しこまれることを防いでいるもの(特許文献3)等があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3559475号公報
【特許文献2】特許公平3ー66008号公報
【特許文献3】特許第3956262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、エポキシ樹脂やメラミン樹脂等を用いて剛性を得る手段については、取り扱う原液が高温であったり、透過液が食用に供される場合には、液中にエポキシ樹脂やメラミン樹脂が溶け出す危険があり、衛生上や環境上の問題があった。
【0015】
また、同じく剛性を得る手段として、上記特許文献3に示されるように流路材用トリコット編地を2枚オサで編成される逆ハーフ組織で形成し、そのすべての編成糸に芯鞘構造糸を使用する場合には、熱処理後の流路材用トリコット編地の剛性が必要以上に大きくなり、扁平筒体に形成された液体分離膜間に当流路材用トリコット編地を内挿する際、液体分離膜とのなじみが悪く液体分離膜エレメントとしての加工精度に欠ける問題があった。
また、この剛性が必要以上に大き過ぎることは、液体分離膜エレメントを透過液排出管に巻き付ける際にも原液流路スペーサーとのなじみに欠け液体分離膜モジュール自体の加工精度に悪影響を及ぼす問題があった。
【0016】
そして、流路材用トリコット編地Tが熱処理によって剛性を得た後は、溝壁となるウエールW自体も当然硬くなり、この衝撃吸収機能を失した硬いウエールWが液体分離膜を直接支えることとなり、図5に示すように、大きな初期外圧Vを受けた液体分離膜Bは、「逃げ」がなくなり流路溝Rに押し込まれて、そのまま「へたり」が生じ、極端には流路溝Rが塞がれてしまう問題があった。
また、編成糸として使用する芯鞘構造糸が高価であるので、すべての編成糸に芯鞘構造糸を使用する従来の流路材用トリコット編地Tではコストが高くなる最大の問題があった。
【0017】

さらに、液体分離膜Bの下方へのへたりによる流路溝Rの閉塞を防止するために流路材用トリコット編地Tと液体分離膜Bとの間に布帛を介在させる手段においては、余分な布帛を用いることによる材料増や加工工程増による製造コスト高に加えて、液体分離膜エレメントE自体の厚みが増すことや加工の煩雑化等の技術的問題もあり、十分な解決手段とはなり得なかった。
【0018】
そして、編み組織上の問題として、従来例では、図8に示すように2枚オサで編成される逆ハーフ組織が採用され、そのバック組織BC、フロント組織FCのいずれの編み組織も閉じ目で編成されていることから、編成原理上、編目の締まり、つまり目締まりが低下する。
この結果、ウエールWとウエールWの間に形成される流路溝Rの確保に劣る問題があった。上記の編み組織上の問題に関しては下記の発明を実施するための形態の項で詳細に説明する。
【0019】
従来の流路材用トリコット編地Tには上記のごとき多くの問題点があった。
これらの問題点は、すべて流路材用トリコット編地Tが有すべき流路性能が劣るところに帰結する。
本発明においては、流路材用トリコット編地Tの流路性能を高めることで分離作用の効率を上げることを最大の目的とし、併せて、安価で加工精度の良い流路材用トリコット編地Tを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そこで、本発明においては、図9に示すように流路材用トリコット編地Tの組織を2枚オサのトリコット機で編成されるハーフ組織とし、その内、バック組織BCとして、熱融着機能を有するバック組織編成糸Y2で編成するデンビー組織Dを採用し、このデンビー組織Dに後工程での加熱融着処理により剛性を付与して、図10(一部を省略して示した)、図11に示すように、本流路材用トリコット編地Tの骨格体Gとなし、同時にフロント組織FCとして、非熱融着性のフロント組織編成糸Y1で編成するコード組織Cを採用して前記骨格体Gを表裏から挟み込む補強緩衝体Hとする構成を採用することとした。
【0021】
同時に、バック組織BCには開き目のデンビー組織Dを採用して高価な編成糸の使用糸量の削減を図り、フロント組織FCには閉じ目のコード組織Cを採用して編地の寸法安定性を得ることを可能にした。
【0022】
これらの構成により、編地の剛性を熱融着したバック組織BCで確保し、同時にこれを補強緩衝体Hで表裏から挟み込んで液体分離膜Bや原液流路スペーサーSとのなじみをよくして加工精度を向上させるとともに、補強緩衝体Hが原液による液体分離膜Bへの外圧Vを受け流す緩衝機能を発揮することにより液体分離膜Bのへたりを防止することを可能とした。
【0023】
即ち、本発明は、(1)、液体分離装置に使用される流路材用トリコット編地Tの組織を、バック組織BCとフロント組織FCで形成される2枚オサ組織とし、その内、バック組織BCを熱融着機能を有するバック組織編成糸Y2で編成して、これを加熱融着処理することにより剛性を得て本流路材用トリコット編地Tの骨格体Gとなし、同時にフロント組織FCを非熱融着性のフロント組織編成糸Y1で編成して前記骨格体Gを表裏から挟み込む補強緩衝体Hとした、骨格体Gと補強緩衝体Hとで構成される流路材用トリコット編地Tに存する。
【0024】
即ち、本発明は、(2)、バック組織BCが開き目のデンビー組織D(2−1/0−1)で、フロント組織FCが閉じ目のコード組織C(1−0/2−3)である上記(1)記載の流路材用トリコット編地Tに存する。
【0025】
即ち、本発明は、(3)、バック組織編成糸Y2が、芯部Jが高融点合成繊維で鞘部Kが低融点合成繊維の芯鞘構造単糸KJを複数本引き揃えた芯鞘構造マルチフィラメント糸MK(26dt〜52dt/24f〜48f)である上記(1)記載の流路材用トリコット編地Tに存する。
【0026】
即ち、本発明は、(4)、フロント組織編成糸Y1がポリエステルマルチフィラメント糸(33dt〜84dt/6f〜48f)である上記(1)記載の流路材用トリコット編地Tに存する。
【0027】
即ち、本発明は、(5)、フロント組織編成糸Y1が合成繊維マルチフィラメントかさ高加工糸である上記(1)記載の流路材用トリコット編地Tに存する。
【0028】
即ち、本発明は、(6)、液体分離装置に使用される流路材用トリコット編地Tの組織をバック組織BCとフロント組織FCで形成される2枚オサ組織とし、その内、バック組織BCが、芯部Jが高融点合成繊維で鞘部Kが低融点合成繊維の芯鞘構造単糸KJを複数本引き揃えた芯鞘構造マルチフィラメント糸MK(52dt/24f)を用いて形成される開き目のデンビー組織D(2−1/0−1)であり、フロント組織FCが、ポリエステルマルチフィラメント糸(56dt/24f)を用いた、前記デンビー組織Dと同方向にオーバーラップして編成される閉じ目のコード組織C(1−0/2−3)であり、バック組織BCに使用するバック組織編成糸Y2は、加熱融着処理され剛性を得て骨格体Gを形成し、フロント組織FCに使用するフロント組織編成糸Y1は、前記骨格体Gを表裏から挟み込む補強緩衝体Hを形成して、同時にバック組織BCのニードルループNL2とフロント組織FCのニードルループNL1が2段に組み重ねられて2重ループNL3となりウエールWを形成して各ウエールW間に流路溝Rが形成されている流路材用トリコット編地Tに存する。
【0029】
即ち、本発明は、(7)、液体分離装置に使用される流路材用トリコット編地Tを、バック組織BCとフロント組織FCで形成される2枚オサ組織で編成するものであって、バック組織BCを開き目のデンビー組織D(2−1/0−1)とし、同時にフロント組織FCを閉じ目のコード組織C(1−0/2−3)として、前記両組織を編成する際のオーバーラップOL方向を同一方向に編成することにより、形成されるそれぞれのニードルループNL2、NL1を緊締せしめて、該それぞれのニードルループNL2、NL1が2段に組み重ねられた2重ループNL3で形成されるウエールWのウエール列幅WHを縮小させ、ウエールW間の流路溝幅RHを拡張した流路材用トリコット編地Tの製造方法に存する。
【0030】
なお、本発明の目的に沿ったものであれば上記(1)から(7)を適宜組み合わせた構成の採用が可能である。
【発明の効果】
【0031】
本発明においては、流路材用トリコット編地Tが、剛性を有する骨格体Gと該骨格体を表裏から挟み込む柔軟な補強緩衝体Hとで構成されているので、液体分離膜Bが大きな初期の外圧Vを受けた際に補強緩衝体Hが緩衝材となって外圧Vを受け流すことで液体分離膜Bの流路溝Rへの進入を極力防止できる。
そして、その後、補強緩衝体Hの復元力によって原型にもどることで、液体分離膜Bの「へたり」を回避することができることから流路性能が格段と良くなり、液体分離作用の効率を上げる効果が得られる。
特に補強緩衝体Hを合成繊維マルチフィラメントかさ高加工糸で形成する場合には、その弾性と復元力により更に大きな緩衝効果が得られる。
【0032】
そして、バック組織BCとフロント組織FCを編成する際、オーバーラップOL方向、つまり編み針Nに編成糸Yを掛け渡す方向を同方向にしているので、編成原理上、バック組織BCのニードルループNL2とフロント組織FCのニードルループNL1とが2段に組み重ねられた2重ループNL3がしっかりと締まり、ウエール列幅WHが縮小して流路溝Rの幅が拡大し、その結果、透過液量の流量を拡大でき液体分離の処理効率があがる。
【0033】
そして、組織を2枚オサ組織とし、その内、バック組織BCで骨格体Gを形成し、フロント組織FCで補強緩衝体Hを形成しているので外側が適度な柔軟性を有し、内部が剛性を有する構造となり、流路材Fとして必要な剛性を維持しつつ、しかも液体分離膜Bや原液流路スペーサーSとのなじみが良く加工精度が上がり、結果的に分離装置としての機能向上が図られる。
【0034】
そして、バック組織BCのみに熱融着機能を有するバック組織編成糸Y2を使用しているので、流路材用トリコット編地Tの製造コストが大きく下がり経済的効果が得られる。
加えて、バック組織BCをデンビー組織Dの開き目とし、フロント組織FCをコード組織Cの閉じ目としているので、バック組織BCの使用編成糸長を最小限にとどめることができ、更にコスト削減が図れる。
かつ、フロント組織FCを閉じ目とすることで編地自体の締まりが良くなり形態安定性が保たれ、加工精度も向上する効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は液体分離膜モジュールMの実態模式図である。
【図2】図2は液体分離膜エレメントEの断面模式図である。
【図3】図3は扁平筒体BFに形成された液体分離膜Bに流路材用トリコット編地Tが内挿されている部分模式図である。
【図4】図4は流路材用トリコット編地TのウエールWが外圧Vにより押圧されている断面実体模式図である。
【図5】図5は液体分離膜Bが流路溝Rに押し込まれている状態の断面模式図である。
【図6】図6は、芯鞘構造マルチフィラメント糸MKの実態模式図である。
【図7】図7は、芯鞘構造マルチフィラメント糸MKを熱処理し、1本の融着芯鞘構造糸SKとなった実態模式図である。
【図8】図8は、従来例の流路材用トリコット編地Tの逆ハーフ組織図である。
【図9】図9は、本発明の流路材用トリコット編地Tのハーフ組織図である。
【図10】図10は、本流路材用トリコット編地Tの実態模式図である。
【図11】図11は、本流路材用トリコット編地Tの断面模式図である。
【図12】図12は、本発明に用いられるトリコット機KWのオサLとニードルN周りの説明図である。
【図13】図13は、本発明に係る編成状態を示す説明図である。
【図14】図14は、本発明に係る編成状態を示す説明図である。
【図15】図15は、本発明に係る編成状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】

以下、本発明の実施の形態についてその詳細を図面に基づき説明する。本発明の流路材用トリコット編地Tは、図12の説明図に示すように2枚オサのトリコット機KWで編成される。
本トリコット機KWは、編機前方から後方に向けてフロントオサL1とバックオサL2の2枚のオサを擁する。
オサL1、L2はそれぞれのオサに通したフロント組織編成糸Y1、バック組織編成糸Y2を制御して編地を形成する機能を有する。
【0037】
フロントオサL1で編成される組織がフロント組織FCであり、バックオサL2で編成される組織がバック組織BCであるが、本実施の形態では、図9に示すようにフロント組織FCに閉じ目のコード組織C(1−0/2−3)を、バック組織に開き目のデンビー組織D(2−1/0−1)を採用している。
【0038】
上記2枚オサのトリコット機KWで編成される編地においては、図10の実体模式図、並びに図11の断面模式図に示すようにフロント組織であるコード組織CのニードルループNL1とバック組織であるデンビー組織DのニードルループNL2は組み重ねられて2重ループNL3が形成され、この2重ループNL3が縦方向に連ねられてウエールW列を形成し、このウエールW列が溝壁となって流路溝Rが形成されている。
【0039】
この流路溝Rに関しては、本実施の形態における流路材用トリコット編地Tでは、図10に示すウエール列幅WHを小さくしてできるだけ流路溝幅RHを大きくする編成法を見いだしている。
図13の編成状態を示す説明図に従いこの編成法についてその詳細を説明する。
まず、ウエールWを形成しているニードルループNLを形成するためには、編成の際、編み針Nに編成糸Yを掛け渡す。
これをオーバーラップOLと言う。
オーバーラップOLされて編み針Nに巻き付けられた編成糸Yは、その後、編み針Nの下降によりニードルループNLを形成する。
【0040】
2枚オサで編成される組織の場合には図14に示すように、1本の編み針Nにフロント組織編成糸Y1、バック組織編成糸Y2が同時にオーバーラップOLされる。
この時、フロント組織編成糸Y1、バック組織編成糸Y2が互いに反対方向にオーバーラップOLする場合と同方向にオーバーラップOLする場合があるが、図14に示すように、フロント組織編成糸Y1、バック組織編成糸Y2が互いに反対方向にオーバーラップOLする場合にはフロント組織編成糸Y1、バック組織編成糸Y2同士が、交差部Xでこすれ合い、摩擦を生じて編み針Nに巻き付く力が阻害され結果的に形成されるニードルループNLが緩みがちになる。
これに対し、図15に示すようにオーバーラップOLが同方向の場合には、フロント組織編成糸Y1、バック組織編成糸Y2が同方向に引かれるので交差部Xが生ぜずフロント組織編成糸Y1、バック組織編成糸Y2同士の摩擦が発生しないので、結果的にニードルループNLが締まった状態で形成されるのである。
【0041】
本実施の形態では、バック組織BCを図9に示すように開き目のデンビー組織D(2−1/0−1)とし、フロント組織FCを閉じ目のコード組織C(1−0/2−3)とすることで、それぞれのオーバーラップOL方向を同一方向にすることを可能としたことによりニードルループNLがより締まった状態で編成されるに至った。
ここで、デンビー組織Dとコード組織Cの組み合わせにおいてオーバーラップOL方向が同一になる組織は他にも存在し、必要に応じて採用可能である。
【0042】
次に、使用する編成糸Yについて説明する。
本実施の形態においては、フロント組織FC、バック組織BCのフロント組織編成糸Y1、バック組織編成糸Y2を使い分ける。つまり、フロント組織FCのコード組織Cには非熱融着性のフロント組織編成糸Y1を用いて、バック組織BCのデンビー組織Dには熱融着機能を有するバック組織編成糸Y2を用いる。
そして、図6に示すように、熱融着機能を有するバック組織編成糸Y2としては、芯部Jが高融点合成繊維で鞘部Kが低融点合成繊維の芯鞘構造単糸KJを複数本引き揃えた芯鞘構造マルチフィラメント糸MKを用いる。
同時に非熱融着性のフロント組織編成糸Y1としては、合成繊維マルチフィラメント糸を用いている。
【0043】
以上の組織と編成糸で形成された編地を、後工程で、鞘部Kの低融点合成繊維のみが溶融する温度で加熱処理することにより熱融着機能を有するバック組織編成糸Y2で編成されたバック組織BCを溶融固化して剛性を得て、本流路材用トリコット編地Tの骨格体Gとなす。
同時に非熱融着性の合成繊維マルチフィラメント糸で編成されたフロント組織FCが前記骨格体Gを上下から挟み込む補強緩衝体Hとなり、外柔内剛を特徴とする流路材用トリコット編地Tを形成する。
【0044】
ここで、骨格体Gと補強緩衝体Hについて、その詳細を説明する。
図10、図11に示すように骨格体Gと補強緩衝体HのそれぞれのニードルループNL2、NL1が上下に組み重ねられた2重ループNL3が順次、縦方向にウエールW(畝)を形成することで、各ウエールW間に流路溝Rが形成される。
【0045】
このニードルループNL2、NL1の上下位置関係については、トリコット編地の編成原理上、図11に示す断面模式図のようにバック組織BCであるデンビー組織DのニードルループNL2に対しフロント組織FCであるコード組織CのニードルループNL1が上となり編地表側に表出する。
また、フロント組織FCのシンカーループSL1はバック組織BCのシンカーループSL2の外側(編地裏側)に表出する。
この結果、バック組織BCで形成される骨格体Gはフロント組織FCで形成される補強緩衝体Hで上下から挟み込まれることとなる。
つまり、全体的に骨格体Gが補強緩衝体Hで被覆される構造が形成される。
【0046】
上記構成の流路材用トリコット編地Tによれば、編地の剛性を熱融着したバック組織BCのデンビー組織Dで確保し、同時にこれを補強緩衝体Hで上下から挟み込んで液体分離膜Bや原液流路スペーサーSとのなじみをよくして加工精度を向上させることが可能となる。
補強緩衝体Hは、非熱融着性のフロント組織編成糸Y1で形成されるので一定の柔軟性を有していて、液体分離膜Bが大きな初期の外圧Vを受けた際は、補強緩衝体Hとしてその外圧Vを受け止め、一旦、圧縮されて液体分離膜Bへの外圧Vを逃す作用をして液体分離膜Bの「へたり」を防ぐ働きをする。
そして一旦、圧縮された補強緩衝体Hは、再び原型に復帰して元の流路溝Rを確保することが可能となる。
つまり、補強緩衝体Hが原液による液体分離膜Bへの外圧Vを受け流す緩衝機能を発揮することにより結果的に液体分離膜Bのへたりを防止することを可能としている。
【0047】
また、バック組織BCには開き目のデンビー組織Dを採用していることについては、フロント組織FCのコード組織CとのオーバーラップOL方向を同一にする目的と併せて、高価な熱融着機能を有するバック組織編成糸Y2の使用糸量を最小限に止める目的がある。
つまり、同じデンビー組織Dであってもこれを閉じ目とした場合に比較して約1.5%の使用糸量を削減できる。
【0048】
同時に、フロント組織FCのコード組織Cを閉じ目とすることはバック組織BCのデンビー組織DのオーバーラップOL方向と同方向にする目的の他に、閉じ目は開き目に比較して編地の締まりが良くなり、引張力に対して寸法安定性が得られる利点があるので、これを閉じ目とすることでバック組織BCのデンビー組織Dが開き目であることを補完する効果が得られる。
開き目は互いに関連するニードルループNLを開く方向に作用するので編地自体が閉じ目の編地に比較して緩めの状態となり、引張力に対する編地の形態安定性に欠ける面がある。
このことは流路材用トリコット編地Tを加熱処理加工する際に編地に微妙な伸びが生じ、結果的に均一な流路材用トリコット編地Tが得られない等の問題となる。
【0049】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、これらを総合的に説明する。
本流路材用トリコット編地Tは2枚オサのトリコット機KWで編成される。
2枚オサでバック組織BCとフロント組織FCを編成するが、バック組織BCを開き目のデンビー組織D(2−1/0−1)とし、フロント組織FCを閉じ目のコード組織C(1−0/2−3)とする。
【0050】
そして、バック組織BCに熱融着機能を有するバック組織編成糸Y2を、フロント組織FCに非熱融着性のフロント組織編成糸Y1を用いて編成し、これを加熱処理してバック組織BCに剛性を付与して骨格体Gとなし、フロント組織FCにより補強緩衝体Hを形成して骨格体Gを上下から挟み込む構成として加工精度の向上や流路材用トリコット編地Tが有すべき機能を得る。
そして、バック組織BCを開き目のデンビー組織Dとして高価な熱融着機能を有するバック組織編成糸Y2の使用量を最小限にとどめ、フロント組織FCを閉じ目のコード組織Cとして加工時の編地の形態安定性を得るものである。
【0051】
このように、本発明に係る流路材用トリコット編地Tは本実施の形態に示すように、編成糸、並びに組織の開き目、閉じ目を効果的に使い分けることによって、従来にない機能と生産コスト面での経済的効果を得ている。
【0052】
(実施例1)
本発明を実施例により詳細に説明する。
実施例1においてはトリコット機KWとして、カール・マイヤー製の2枚オサトリコット機(28ゲージ)を使用する。
フロント組織FCは閉じ目のコード組織C(1−0/2−3)とし、バック組織BCは開き目のデンビー組織D(2−1/0−1)としている。
【0053】
フロント組織FCに使用するフロント組織編成糸Y1にはポリエステル・マルチフィラメント糸(56dt/24f)を用いる。
そして、バック組織BCに使用するバック組織編成糸Y2には、芯部Jが高融点ポリエステルで、鞘部Kが低融点ポリエステルで形成される芯鞘構造単糸KJを複数本引き揃えたポリエステルマルチフィラメント芯鞘構造糸MK(52dt/24f)を用いている。
【0054】
この設定で編成した流路材用トリコット編地Tを、後工程で加熱処理する。加熱処理は、150度C〜180度C、加熱時間1分〜2分の範囲内に選択的に設定して行い、ポリエステルマルチフィラメント芯鞘構造糸MK(52dt/24f)を溶融固化して熱融着芯鞘構造糸SKの形態に変化させて剛性を得る。
【0055】
コード組織C(1−0/2−3)を編成するために、その使用編成糸長は、1ランナー長に略185cmを要する。
ここで1ランナー長とは、経編地の480コースを編成するために必要な編成糸長を言う。
このランナー長は、使用編成糸長を表現するために、当分野で使用が認められている単位用語である。
これに対しデンビー組織D(2−1/0−1)は1ランナー長が略138cmとなり、前記コード組織Cと比較して約75%の使用編成糸となり、その分、高価なポリエステルマルチフィラメント芯鞘構造糸MKを節約できる。
【0056】
また、デンビー組織Dにおいてこれを閉じ目とするか開き目にするかについては、本実施例においては、閉じ目の場合、1ランナー長が略140cmとなり、開き目の場合、略138cmとなり、開き目とした方が、閉じ目に比して約1.5%の節約となる。
この数字は小さなものと捉えられがちであるが、コストの面で決して無視できない数値である。
【0057】
そして、フロント組織FCとバック組織BCのオーバーラップOLを同方向にすることで、編成原理上ウエール幅WHが縮小され、その縮小した分、流路幅RHが拡大されることとなり分離効率が良くなっている。
この流路幅RHの拡大は微少ではあるが、長時間を考慮すると効果的である。
【0058】
(実施例2)
本実施例では、他の設定は実施例1と同様として、フロント組織FCに使用するフロント組織編成糸Y1にポリエステル・マルチフィラメント仮撚り加工糸(56dt/24f)を用いている。
実施例1で用いるポリエステル・マルチフィラメント糸(56dt/24f)に比較して、編成後のかさ高性が得られ、その分、外圧Vを受けた際の緩衝機能効果が発揮される。
また、圧縮を受けた後の回復性についてもポリエステル・マルチフィラメント仮撚り加工糸の有する復元力が効果的に発揮される。
【0059】
以上、実施例を示し本発明を説明したが、本発明は要旨の変更のない限り、多様な変化が可能である。
例えば、必要に応じてフロント組織FC、バック組織BCをいずれもデンビー組織とすること等が可能であるし、同様に目的に応じて、両者をコード組織Cとすること等も可能である。
更には、デンビー組織(0−1/2−1)と、飛び数の大きなコード組織を組み合わせることも可能である。
【0060】
また、その構成が骨格体Gと補強緩衝体Hで形成されることが阻害されなければ、フロント組織FC、バック組織BCにその他の組織を加えることも可能である。
更に使用するトリコット機KWのゲージについては、例えば24、28、32、36ゲージといったようにゲージ変換が可能である。
また、バック組織BCに使用するバック組織編成糸Y2についても、加工処理によって剛性が得られるものであれば熱融着糸にこだわるものではない。
同時に必要に応じてはバック組織編成糸Y2が、モノフィラメントの非熱融着糸であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の流路材用トリコット編地は、熱融着機能を有する編成糸を加熱融着処理することで剛性を得た骨格体と、非熱融着機能の編成糸で編成して前記骨格体を表裏から挟み込む補強緩衝体とで構成され、外柔内剛の特徴があり、この特徴を適用する限り、液体分離装置に用いられる流路材用に限らず、衣料用や椅子・ソファーのシート等の芯材、或いは医療用等としても広く利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
B・・・液体分離膜
BC・・・バック組織
BE・・・閉じ部
BF・・・扁平筒体
C・・・コード組織
D・・・デンビー組織
E・・・液体分離膜エレメント
F・・・流路材
FC・・・フロント組織
G・・・骨格体
H・・・補強緩衝体
J・・・芯部
K・・・鞘部
KJ・・・芯鞘構造単糸
MK・・・芯鞘構造マルチフィラメント糸
SK・・・熱融着芯鞘構造糸
L・・・オサ
L1・・・フロントオサ
L2・・・バックオサ
M・・・液体分離膜モジュール
N・・・編み針
NL・・・ニードルループ
NL1・・・フロント組織であるコード組織のニードルループ
NL2・・・バック組織であるデンビー組織のニードルループ
NL3・・・2重ループ
OL・・・オーバーラップ
P・・・透過液排出管
PI・・・原液供給管
PX・・・残留物流体排出管
R・・・流路溝
RH・・・流路溝幅
S・・・原液流路スペーサー
SL1・・・フロント組織のシンカーループ
SL2・・・バック組織のシンカーループ
T・・・流路材用トリコット編地
V・・・外圧
W・・・ウエール
WH・・・ウエール列幅
X・・・交差部
Y・・・編成糸
Y1・・・フロント組織編成糸
Y2・・・バック組織編成糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体分離装置に使用される流路材用トリコット編地の組織を、バック組織とフロント組織で形成される2枚オサ組織とし、その内、バック組織を熱融着機能を有するバック組織編成糸で編成して、これを加熱融着処理することにより剛性を得て本流路材用トリコット編地の骨格体となし、同時にフロント組織を非熱融着性のフロント組織編成糸で編成して前記骨格体を表裏から挟み込む補強緩衝体とした、骨格体と補強緩衝体とで構成されることを特徴とする流路材用トリコット編地。
【請求項2】
バック組織が開き目のデンビー組織(2−1/0−1)で、フロント組織が閉じ目のコード組織(1−0/2−3)であることを特徴とする、請求項1記載の流路材用トリコット編地。
【請求項3】
バック組織編成糸が、芯部が高融点合成繊維で鞘部が低融点合成繊維の芯鞘構造単糸を複数本引き揃えた芯鞘構造マルチフィラメント糸(26dt〜52dt/24f〜48f)であることを特徴とする、請求項1記載の流路材用トリコット編地。
【請求項4】
フロント組織編成糸がポリエステルマルチフィラメント糸(33dt〜84dt/6f〜48f)であることを特徴とする、請求項1記載の流路材用トリコット編地。
【請求項5】
フロント組織編成糸が合成繊維マルチフィラメントかさ高加工糸であることを特徴とする、請求項1記載の流路材用トリコット編地。
【請求項6】
液体分離装置に使用される流路材用トリコット編地の組織を、バック組織とフロント組織で形成される2枚オサ組織とし、その内、バック組織が、芯部が高融点合成繊維で鞘部が低融点合成繊維の芯鞘構造単糸を複数本引き揃えた芯鞘構造マルチフィラメント糸(52dt/24f)を用いて形成される開き目のデンビー組織(2−1/0−1)であり、フロント組織が、ポリエステルマルチフィラメント糸(56dt/24f)を用いた、前記デンビー組織と同方向にオーバーラップして編成される閉じ目のコード組織(1−0/2−3)であり、バック組織に使用するバック組織編成糸は、加熱融着処理され剛性を得て骨格体を形成し、フロント組織に使用するフロント組織編成糸は、前記骨格体を表裏から挟み込む補強緩衝体を形成して、同時にバック組織のニードルループとフロント組織のニードルループが2段に組み重ねられて2重ループとなりウエールを形成して各ウエール間に流路溝が形成されていることを特徴とする流路材用トリコット編地。
【請求項7】
液体分離装置に使用される流路材用トリコット編地を、バック組織とフロント組織で形成される2枚オサ組織で編成するものであって、バック組織を開き目のデンビー組織(2−1/0−1)とし、同時にフロント組織を閉じ目のコード組織(1−0/2−3)として、前記両組織を編成する際のオーバーラップ方向を同一方向に編成することにより、形成されるそれぞれのニードルループを緊締せしめて、該それぞれのニードルループが2段に組み重ねられた2重ループで形成されるウエールのウエール列幅を縮小させ、ウエール間の流路溝幅を拡張したことを特徴とする、流路材用トリコット編地の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−245454(P2011−245454A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123615(P2010−123615)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(393018358)福井経編興業株式会社 (6)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】