説明

液体収納容器及びその製造方法

【課題】 液体収納容器に液体を注入後、針を抜脱する工程において、針内及び針先に残存する液体が、液体収納容器の表面へ付着する。
【解決手段】 ハウジング部材により供給口に嵌合された第1及び第2の弾性体が、液体収納容器側から順に供給口に配置され、液体を注入する針を抜脱する際に、第2の弾性体の位置または形状の少なくとも一方を変化させることで、第1の弾性体と第2の弾性体との間に、負圧を生じる空間を形成する液体収納容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に搭載される、液体を貯留する液体収納容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に従来の形態である、液袋を有する液体収納容器46を示す。インク等の液体を貯留する液袋41に筒状部材42が固着され、該筒状部材42内に液袋41の外部と内部との連通を遮断する弾性体43が挿入・嵌合されている。筒状部材42をケース44の一側面部に固定し、該ケース45内に液袋41が収容される。液体収納容器の内部と外部とを連通させる供給部に、インクを供給する針45がさされ、針45を通じて、インクを吐出するヘッドにインクが供給される。
【0003】
供給部に関し、特許文献1には、ハウジングによって径方向に縮められた弾性体が開示される。弾性体の弾性力による液体の封印性により、液体収納容器の内部のインクが、供給部より滲み出しを防ぐ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−76525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の構造では、インク注入時にインクを加圧しながら注入する、現インク注入工程において、インク注入後、インクを供給する針を抜く際に弾性体が針表面のインクを拭き取る事は可能である(図5(a))。しかしながら、インク注入後、インク注入配管内の残圧がない状態で針内及び針先にインクが残存してしまう(図5(b))。この針先に残存するインクが、針を弾性体から引き抜く際に液体収納容器の表面へ付着する事が懸念される。この為、従来の方法においては、インクを注入する針に残ったインクを拭きとる工程が必要とされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液体を貯留する液体収納容器に設けられた供給口から、液体を注入する針を挿入して、前記液体収納容器に液体を注入する形態の液体収納容器において、ハウジングにより嵌合された、第1の弾性体と第2の弾性体とが、前記液体収納容器側から順に、前記供給口に配置され、前記第2の弾性体の位置または形状の少なくとも一方を変化させることで、前記第1の弾性体と前記第2の弾性体との間に、負圧を生じる空間を形成することを特徴とる。
【発明の効果】
【0007】
針を用いて、液体収納容器に液体を注入後、針を抜き出す工程において、針内及び針先に残存する液体が、液体収納容器の表面へ付着する事を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】液体収納容器の断面図。
【図2】実施例1の供給部を示す概略構成図。
【図3】実施例2の供給部を示す概略構成図。
【図4】従来例の説明図。
【図5】従来例のインクを供給する針の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明では、同一の機能を有する構成には図面中同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0010】
図1に、本発明に適用可能な液体収納容器の構成を示す。本形態の液体収納容器は、インクジェットなどの液体吐出装置に搭載される。
【0011】
液体収納容器11は、箱形状のケース13内に、インク等の液体が貯留される液袋12が収納されて構成される。液袋12には、液体収納容器に対して液体を注入(充填)する際と、液体収納容器からヘッドに液体を供給する際に針を刺す供給部14が設けられる。供給部14は、ケース13に取り付けられるハウジング16と、ハウジング内部に嵌合され、液袋12の外部と内部との連通を遮断する弾性体17から構成される。本発明が適用される液体収納容器は、上述したように、針を挿入することで供給部から液体を注入(充填)する形態の液体収納容器である。
【0012】
このような液体収納容器から、チューブなどを用いて、液体を吐出するエネルギーを発生する素子が設けられたヘッドに液体の供給を行い、吐出された液体で印字などを行う。
【0013】
以下、実施例において上述の液体収納容器の、供給部の構成と、液体収納容器に液体を注入(充填)する製造方法について説明を行う。
【実施例1】
【0014】
(供給部について)
図2(a)は、供給部14を拡大した図である。液袋の口に相当する供給口に設けられるハウジング部材16は、液袋側の内径が大きく、外部側の内径が小さい段構造を有する。第1の弾性体17Aは、ハウジング部材16内の内径が大きな部分に配置され、供給口に当接するように位置固定されている。第2の弾性体17Bは、第1の弾性体に対して供給口と反対側の内径が小さな部分に配置される。つまり、供給口において、液体収納容器側から順に、ハウジングにより嵌合された、第1の弾性体と第2の弾性体とが配置される。
【0015】
第1の弾性体17Aは、ハウジングの液袋側の内径より大きな外径を有し、圧縮された状態でハウジングに嵌合され、液袋の口15を塞ぐように配置される。
【0016】
第2の弾性体17Bは、第1の弾性体17Aより外径が小さく、かつハウジング16の外部側の内径より外径が大きく、第2の弾性体も圧縮された状態でハウジング16に嵌合される。第2の弾性体17Bは、第1の弾性体17Aより外部側に位置する。
【0017】
また、第2の弾性体17Bは、ハウジング内を移動可能な形態であり、第2の弾性体17Bがハウジング16を移動する摩擦力よりも第2の弾性体17Bから針18を抜く摩擦力の方が大きい関係となるように設計される。これにより、針を抜脱する動作によって、第2の弾性体がハウジング内を移動する。
【0018】
(液体の注入について)
図2(b)は液袋にインクなどの液体を注入する状態における供給部14付近の図である。ハウジング16上部の円筒孔より、液体を注入する針18が、供給口の第2の弾性体17B、第1の弾性体17Aとの順に刺し抜き、液袋の口15を通過して挿入され、液袋12内に液体を注入する。
【0019】
第2の弾性体17Bは、力が加わる方向に第1の弾性体17Aがある為ハウジング内で移動することは無く、また、第1の弾性体17Aは液袋の口に固定されている。この際の液袋12内の減圧有無は問わない。
【0020】
図2(c)は液体の注入が完了した後、針18を抜脱する際の供給部14付近の図である。針18を液袋12から抜く際、第1の弾性体17Aは、ハウジング16の段構造を有する側壁(第2の弾性体が保持される側壁)により、針を抜く方向には動かない。針18側面(表面)のインクは第1の弾性体17Aによって拭き取られる。
【0021】
また、針18が抜かれる抵抗により、第2の弾性体17Bの位置はハウジング16の内壁を擦りながら、針を抜く方向(上部方向)に変化する。第2の弾性体はハウジング上部方向にある、ハウジングの外部側の内径よりさらに小さい内径を有する円筒孔を構成する側壁で止まる。第2の弾性体の移動により、第1の弾性体17Aと、第2の弾性体17Bとの間には空間が生じ負圧状態となる。
【0022】
図2(d)は、抜かれる針先18が第2の弾性体17Bを通過する際の供給部14の図である。第2の弾性体17Bの移動により発生した空間(負圧空間)内を針18の先端が移動する際、針先18に存在する液体は、空間内の負圧により微小量吸い出され、針先から離れる。
【0023】
本発明者の実験において、第2の弾性体17Bの移動により発生した空間の負圧は−30〜−40kPaの負圧であることが測定され、この負圧範囲において、針先の液体は確実にこの負圧空間内に吸い出されることが確認された。
【0024】
図2(e)は、針18が供給部14から完全に抜脱した状態の図である。第1及び第2の弾性体17A、17Bに形成された空間内に、先ほど針先18から吸引された液体が微小量、貯め置かれている。針18の表面に付着したインクも第2の弾性体17Bに拭き取られ、この空間に貯め置かれる。
【0025】
第1及び第2の弾性体17A、17Bはハウジング16内に径方向に縮められた圧縮状態のため、針18が弾性体17A、17Bから抜き取られた後、穴は閉じ、液体の滲み出しを防ぐ。針を抜いた後、第2の弾性体はハウジング上部側に保持されてもよいし、第1の弾性体側に移動してもよいが、どちらにしろ前記第1の弾性体と第2の弾性体の隙間に先ほど吸い出された液体が存在する。
【実施例2】
【0026】
本発明の実施例2について図3を参照して説明する。本実施例で用いられる第2の弾性体17Bは、ドーム状の空間を有するダイヤフラム構造の弾性体17C(以下ダイヤフラム弾性体)である。この点以外は実施例1と同様のため、説明は省略する。
【0027】
ダイヤフラム弾性体のドーム状の中心部に対して針18を抜き差しすることで、ドーム形状が針の上下動に連動し反転するような形態をとる。これにより、第1の弾性体とダイヤフラム弾性体との間の空間の容積が変化する。実施例1のように弾性体の移動を伴わす、弾性体の変形によって効果を得られる。
【0028】
図3(a)はダイヤフラム弾性体17Cを用いた供給部14付近の拡大図である。ダイヤフラム弾性体17Cの中心部にあるドーム状の突部は、液袋側に凸となる形状をとる。
【0029】
液体を注入する際、ハウジング16上部の円筒孔より針18がダイヤフラム弾性体17C、第1の弾性体17Aを貫通し、液袋12の供給孔15を通過し液袋12内に侵入し、インクを注入する。この際、ダイヤフラム弾性体17Cの中心部にあるドーム状の突部は、針を刺す方向に凸となっている為、大きな変形は生じない。液袋12内の減圧有無は問わない。
【0030】
液体注入が完了した後、針18を液袋12から抜く際に、針18表面のインクが第1の弾性体17Aに拭き取られる。ダイヤフラム弾性体17Cから針18が抜かれる抵抗により、ダイヤフラム弾性体17Cのドーム状の突部の形状が、先ほどとは逆方向である、針を抜く方向(液袋と反対方向)に凸と変化する。このダイヤフラム弾性体の変形により、第1の弾性体17Aとダイヤフラム弾性体17Cの間の空間は容積を増し、負圧状態となる。これにより、針先の液体は負圧空間内に吸い出される。この時、ダイヤフラム弾性体17Cのドーム状の形状変化により生じる復元力よりも、ダイヤフラム弾性体17Cから針18が抜かれる摩擦力の方が大きい関係となるように設計される。
【0031】
図3(b)は針18が抜かれた状態の供給部14の図である。実施例1と同様、弾性体17A、17C間の空間内に針先18とバルブ間に存在したインクを微小量貯め置くことができる。
【0032】
第1及び第2の実施例では、第2の弾性体の位置または形状のどちらか一方を変化させたが、実施例1と実施例2を組み合わせたような、第2の弾性体の位置と形状の両方を変化させる形態でもよい。つまり、ダイヤフラム弾性体17Cの位置が、ハウジング16内壁を擦りながらハウジング16上部方向に変化しても良い。この場合、空間の体積変化がより大きいため、負圧も大きくなり、針先の液体の吸出しもよりスムーズに行われる。
【0033】
また、上述の実施例は、液体収納容器の初回製造時に、液体収納容器に対して液体を供給する針を利用する例を開示したが、本願発明及びその効果はこれに限らない。例えば、ヘッドに液体を供給する針に対しても同様の効果は得られるし、使用済の液体収納容に対して、針を用いて液体を再注入するような場合においても同様の効果はある。
【符号の説明】
【0034】
11 液体収納容器
12 液袋
13 液体収納容器ケース
14 供給部
15 液袋の口(液体供給口)
16 ハウジング
17 弾性体
17A 第1の弾性体
17B 第2の弾性体
18 針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する液体収納容器と、前記液体収納容器に液体を注入する針が挿入される供給口と、前記供給口に配置される弾性体と前記液体収納容器とを嵌合するためのハウジング部材とを備える液体収納容器において、
前記ハウジング部材により前記供給口に当接する第1の弾性体と、前記第1の弾性体に対して前記供給口と反対側に配される第2の弾性体と、を備え、
前記針が前記供給口に挿入される際に、前記第1の弾性体及び第2の弾性体に対して前記針は挿入され、
前記針を前記供給口から抜脱する際、前記第2の弾性体の位置または形状の少なくとも一方を変化させることで、前記第1の弾性体と前記第2の弾性体との間に空間を形成し、該空間により負圧を発生させることを特徴とする液体収納容器。
【請求項2】
前記第2の弾性体の位置が変化する際に生じる、前記ハウジング部材と前記第2の弾性体との摩擦力よりも、前記第2の弾性体から前記針が抜かれる際に生じる、前記第2の弾性体と前記針との摩擦力が大きいことを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項3】
前記第2の弾性体は、ダイヤフラム構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体収納容器。
【請求項4】
前記第2の弾性体の形状が変化することにより生じる復元力よりも、前記第2の弾性体から前記針が抜かれる際に生じる摩擦力の方が大きいことを特徴とする請求項3に記載の液体収納容器。
【請求項5】
液体を貯留する液体収納容器と、前記液体収納容器に液体を注入する針が挿入される供給口と、前記供給口に配置される弾性体と前記液体収納容器とを嵌合するためのハウジング部材とを備える液体収納容器の製造方法において、
第1の弾性体と、前記第1の弾性体に対して前記供給口と反対側に配される第2の弾性体と、に対し、前記針を貫通させて前記液体収納容器に液体を注入する工程と、
前記針を前記液体収納容器から抜脱する際に、前記第1の弾性体により前記針の側面に付着した液体を拭き取りつつ、前記針と前記第2の弾性体との摩擦力によって、前記第2の弾性体の位置または形状の少なくとも一方を変化させて、前記第1の弾性体と前記第2の弾性体との間に負圧の空間を形成する工程と、
前記針先の液体を前記負圧の空間内に吸い出す工程と、
を有することを特徴とする液体収納容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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