説明

液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドの製造方法、及び液体を供給する液体供給部材の製造方法

【課題】 気体を保持するバッファ部内に液体が侵入することを抑制できる、または、バッファ部内に液体が侵入した場合の液体の侵入量を低減できる、液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】 液体吐出ヘッドの製造方法は、第1の供給路形成部材120及び前記第2の供給路形成部材110のうちの少なくともいずれか一方には、バッファ部201となる溝211の近傍で、第1の供給路形成部材120に設けられた凸部206と、該凸部206に対応して第2の供給路形成部材110に設けられた凹部207と、を当接する工程と、当接がなされた当接部213を溶着する工程と、を有し、当接する工程において、凹部207を構成する内面のうちの、溝211の側に設けられた側面、と離れた位置で、凸部206と凹部207が当接される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドの製造方法、及び液体を供給する液体供給部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッドは、流体であるインクを用いて画像を形成するため、インクの吐出時には、吐出口近傍に形成されたインクのメニスカスが振動する。メニスカスが振動した状態でインクの吐出を行うと、画像品位を損なう恐れがある。例えば、吐出口からメニスカスが飛び出した状態で吐出を行うと、主滴に加えて小さな液滴(サテライト)が飛び散る、いわゆるスプラッシュ印字となる可能性がある。また、メニスカスが吐出口から引いた状態で吐出を行うと、インク滴の吐出量が減ることから被記録媒体に対するインクの着弾精度が低減する可能性がある。
【0003】
このメニスカス振動を安定させるため方法として、特許文献1には、インクタンクに収容されるインクをインクジェットヘッドへ供給するためのインク供給路に、内部に気体を保持するバッファ部を接続する構成が記載されている。このように、バッファ部を設けることで、バッファ部内の気体がインク吐出時の圧力振動を吸収するので、メニスカス振動は安定化され、画像品位の低下を抑制することができる。
【0004】
ところで、特許文献1には、部材同士を超音波溶着で接合して、インク供給路とバッファ部とを形成することが記載されている。部材同士を溶着した場合に、溶着部から発生した溶着バリがインク供給路内へ突出した状態となると、インクを供給する際にインクの流れを阻害する恐れがある。そこで、特許文献2の図19に記載のように、溶着バリを溜めるためのバリ溜めをインク供給路となる溝の近傍に設けることで、溶着バリをバリ溜めに溜めて、インク供給路内への溶着バリの突出を抑える構成が知られている。
【0005】
一方で、バッファ部については、バッファ部となる溝の近傍にバリ溜めを設けずに、バッファ部を形成する壁と面一になるように溶着リブを設ける構成が採られてきた。バッファ部となる溝の近傍に設けると、バリ溜めが溶着バリで埋まり切らなかった場合、その埋まり切らなかった部分をインクがつたってバッファ部に侵入し、バッファ部内の気体の体積が減少し、メニスカス振動抑制の効果が低減すると考えられていたためである。また、バッファ部はインクを流すためのものではないため、バッファ部内に溶着バリが突出した状態となっても、インク供給路のようなインク供給への影響は軽微であると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−144602号公報
【特許文献2】特開2005−96422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のように、インク供給路のとなる溝の近傍にはバリ溜めを設けて、バッファ部となる溝の近傍には、バリ溜めを設けない構成とし、インク侵入量とバリの発生状況を確認したところ、バッファ部にインクが大量に侵入してしまうことがわかった。これは、溶着バリがバッファ部内に面上に分布して、この溶着バリで形成されたバリ面をつたってインクが毛管力によりバッファ部内へインクが侵入するためである。
【0008】
そこで、本発明は、気体を保持するバッファ部内に液体が侵入することを抑制できる、または、バッファ部内に液体が侵入した場合の液体の侵入量を低減できる、液体吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、液体を吐出する液体吐出基板と、該液体吐出基板に液体を供給する液体供給路と、該液体供給路に接続され、気体を保持するバッファ部と、を備えた液体供給部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記液体供給部材は、第1の供給路形成部材と第2の供給路形成部材とを備え、前記第1の供給路形成部材及び前記第2の供給路形成部材のうちの少なくともいずれか一方には、前記バッファ部となる溝が設けられており、前記溝の近傍で、前記第1の供給路形成部材に設けられた凸部と、該凸部に対応して前記第2の供給路形成部材に設けられた凹部と、を当接する工程と、前記当接がなされた当接部を溶着する工程と、を有し、前記当接する工程において、前記凹部を構成する内面のうちの、前記溝の側に設けられた側面、と離れた位置で、前記凸部と前記凹部が当接されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、気体を保持するバッファ部内に液体が侵入することを抑制できる、または、バッファ部内に液体が侵入した場合の液体の侵入量を低減できる、液体吐出ヘッドの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】インクジェットヘッドユニットの分解斜視図である。
【図2】タンクホルダーユニットの底面図である。
【図3】供給路形成部材をタンクホルダーユニットに接合される面から見た図である。
【図4】(a)はタンクホルダーから記録素子基板保持部材に形成された流路の構成を示す斜視図であり、(b)は供給路とバッファ部の上面図である。
【図5】供給路を形成する工程を説明するための図である。
【図6】(a−1)〜(a−3)は第1の実施形態におけるバッファ部を形成する工程を説明するための図であり、(b−1)〜(b−3)は比較例のバッファ部を形成する工程を説明するための図である。
【図7】(a−1)〜(a−3)は第2の実施形態におけるバッファ部を形成する工程を説明するための図であり、(b−1)〜(b−3)は第3の実施形態におけるバッファ部を形成する工程を説明するための図である。
【図8】第4の実施形態におけるバッファ部の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態のインクジェットヘッドユニット100(液体吐出ヘッド)を模式的に示す分解斜視図である。
【0014】
本実施形態のインクジェットヘッドユニット100は、タンクホルダーユニット110、供給路形成部材120、記録素子基板保持部材130、記録素子基板140を含んで構成されている。
【0015】
液体吐出基板としての記録素子基板140には、インクを吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子としての記録素子(不図示)が設けられており、供給されたインクを吐出する吐出口(不図示)が記録素子に対応して設けられている。
【0016】
記録素子基板保持部材130は、記録素子基板140を保持するための部材であり、記録素子基板保持部材130には記録素子基板140が接着される。
【0017】
樹脂で形成されたタンクホルダーユニット110には、それぞれ異なる色のインク(例えば、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック二種類)が収容された複数のインクタンクが装着される装着部111が設けられている。この装着部111には、インク中に混在するゴミなどの微小な異物を捉えるためのフィルター115が設けられている。
【0018】
樹脂で形成された供給路形成部材120(第1の供給路形成部材)とタンクホルダーユニット110(第2の供給路形成部材)とは溶着されて、インクタンクから流入したインクを記録素子基板140へ供給するための供給路200(液体供給路)を形成する。すなわち、両部材が溶着されて供給路200が設けられた液体供給部材が形成される。供給路200は、各色のインクタンクで独立して設けられる。図2は、タンクホルダーユニット110を底面から見た図を示し、図3は、供給路形成部材120を、タンクホルダーユニット110の底面に溶着される側の面から見た図である。
【0019】
タンクホルダーユニット110の底面には、インクタンクからのインクが流入されるインク流入口202、溶着溝、バリ受け形成部が設けられている。また、供給路形成部材120には、供給路200となる溝、バッファ部201となる溝、溶着リブ、供給路200を通ったインクを記録素子基板保持部材130内に形成された液室131へ流出するためのインク流出口203が設けられている。供給路200やバッファ部201を高密度に配設するために、溶着リブや溶着溝は、供給路200やバッファ部201の近傍に設けられている。これらの構成の詳細については後述する。
【0020】
本実施形態では、タンクホルダーユニット110と供給路形成部材120との接合を超音波溶着により行っている。これは、超音波溶着が外気の透過防止性に優れるため、供給路中へ気泡の発生を防止でき、気泡がノズルに滞留することにより生じる不吐出などの印字問題を抑制するためである。なお、溶着方法は、超音波溶着に限定されるものではなく、レーザー溶着等、他の溶着方法を用いることが可能である。
【0021】
図4(a)は、フィルター115から記録素子基板保持部材130に形成された液室までの流路を示す斜視図である。供給路200には接続部214でバッファ部201が接続されている。また、図4(b)は、供給路200とバッファ部201の上面図である。
【0022】
タンクホルダーユニット110に設けられたフィルター115を通過したインクは、タンクホルダーユニット110の底面に設けられたインク流入口202より供給路200へ供給される。更に、供給路200を通ったインクは、供給路形成部材120に設けられたインク流出口203から、記録素子基板保持部材130に設けられた液室131へと供給され、液室131から記録素子基板140へと供給される。
【0023】
印字中の吐出口の近傍におけるメニスカスの振動を抑えて、良好な印字を行うために、供給路200には、気体を保持する空間であるバッファ部201が接続されている。インクジェットヘッドユニット100にインクを充填すると、供給路200にはインクが充填され、バッファ部201にはインクは供給されずに気体を保持することができる構成となっている。供給路200と同様に、バッファ部201も、タンクホルダーユニット110の底面と、供給路形成部材120とが接合されることで形成されている。
【0024】
次に、供給路200およびバッファ部201を形成するための部材の構成について説明する。
【0025】
図5(a−1)〜(a−3)は、第1の実施形態における、タンクホルダーユニット110と供給路形成部材120とを溶着して供給路200を形成する工程を、図4(a)のA−A断面で説明するための図である。図5(a−1)は溶着前のタンクホルダーユニット110と供給路形成部材120、(a−2)は両部材の当接時、(a−3)は溶着後の図を示している。
【0026】
図5(a−1)に示すように、供給路形成部材120の第1の面120aには、供給路200となる空間を形成する供給路溝210aが設けられている。また、第1の面120aには、供給路溝210aの両脇に沿って、供給路形成部材120とタンクホルダーユニット110の底面とを溶着するための溶着リブ206a(凸部)が設けられている。タンクホルダーユニット110の第2の面110aには、2つの溶着リブ206aにそれぞれ対応して設けられた2つの溶着溝207a(凹部)と、2つの溶着溝207aの間に設けられた溶着バリ受け形成部208aが形成されている。
【0027】
図5(a−2)に示すように、溶着溝207aの内面のうちの、供給路溝210a側に設けられた側面と離れた位置に、溶着リブ206aと溶着溝207aとの当接部212aが形成されるように、溶着リブ206aと溶着溝207aとを当接する。このとき、溶着バリを納めるための空間である溶着バリ受け部209aが、供給路溝210aの近傍に、供給路溝210aに沿うように形成される。当接部212aに超音波エネルギーを供給し、図5(a−3)に示すように当接部212aを溶着した後には、供給路形成部材120の第1の面120aとタンクホルダーユニット110の第2の面110aとの間に、供給路200が形成される。両部材を溶着した際に、当接部212aが溶融し固化した固化物である溶着バリ205aは、溶着バリ受け部209aに収容される。これにより、溶着バリ205aの供給路200内への突出によってインクの流れが阻害されることを抑制し、良好な印字を保つことができる。
【0028】
ここで、図5(a−1)に示すように、供給路溝210aの幅W1と、溶着リブ206a間距離L1とは、W1<L1との関係になっている。また、タンクホルダーユニット110の基準面である第2の面110aと溶着溝207aの底面との距離である溶着溝深さd1と、第2の面110aと溶着バリ受け形成部208aの上面との距離である溶着バリ受け形成部深さh1は、d1>h1の関係にある。また、溶着バリ受け形成部208aの幅p1は、溶着リブ206間の距離L1に対して、p1<L1の関係にある。
【0029】
図5(a−2)、(a−3)に示すように、溶着バリ受け部209aの容積を十分に確保し、溶着バリ205aが溶着バリ受け部209a内で収まる構成となっている。また、図5(a−2)に示すようにL字型のバリ受け部209aを形成することにより、溶着バリ205aを供給路200内に突出させにくくすることができる。
【0030】
次に、バッファ部201を形成するための構成について、図6を用いて説明する。なお、本実施形態のバッファ部201を形成するための構成は、上述した供給路を形成するための構成と同様の構成となっている。
【0031】
図6(a−1)〜(a−3)は、本実施形態における、タンクホルダーユニット110と供給路形成部材120とを溶着してバッファ部201を形成する工程を、図4(a)のB−B断面で説明するための断面図である。図6(a−1)は溶着前のタンクホルダーユニット110と供給路形成部材120、(a−2)は両部材の当接時、(a−3)は溶着後の図を示している。
【0032】
図6(a−1)に示すように、供給路形成部材120には、バッファ部201となる空間を形成するバッファ部溝211bが設けられている。また、バッファ部溝211bの両脇に沿って、供給路形成部材120とタンクホルダーユニット110の底面とを溶着するための溶着リブ206bが設けられている。タンクホルダーユニット110の底面には、2つの溶着リブ206bにそれぞれ対応して設けられた2つの溶着溝207bと、2つの溶着溝207bの間に設けられた溶着バリ受け形成部208bが形成されている。
【0033】
図6(a−2)に示すように、溶着溝207bの内面のうちの、バッファ部溝211b側に設けられた側面と離れた位置に、溶着リブ206bと溶着溝207bとの当接部213bが形成されるように、溶着リブ206bと溶着溝207bとを当接する。このとき、溶着バリを納めるための空間である溶着バリ受け部209bが、バッファ部溝211bの近傍に、バッファ部溝211bに沿うように形成される。図6(a−3)に示すように、当接部213bを溶着した後には、供給路形成部材120の第1の面120aとタンクホルダーユニット110の第2の面110aとの間に、バッファ部201が形成される。
【0034】
ここで、本実施形態では、バッファ部201を形成するための部材の寸法関係は、供給路200を形成するための部材の寸法関係と同じである。すなわち、バッファ部溝211bの幅W2と、溶着リブ206b間距離L2とは、W2<L2との関係になっている。タンクホルダーユニット110の基準面である第2の面110aと溶着溝207bの底面との距離である溶着溝深さd2と、第2の面110aと溶着バリ受け形成部208bの上面との距離である溶着バリ受け形成部深さh1は、d2>h2の関係にある。溶着バリ受け形成部208bの幅p2は、溶着リブ206b間の距離L2に対して、p2<L2の関係にある。また、供給路200とバッファ部201とでは、互いの寸法も等しくなっている。すなわち、W1=W2、L1=L2、d1=d2、h1=h2、p1=p2となっている。
【0035】
このように、バッファ部201を形成する際も、溶着バリ受け部209bを形成することで、溶着によって発生した溶着バリ205bは溶着バリ受け部209bに収容される。
【0036】
次に、図6(b−1)〜(b−3)は、本実施形態の比較例における、タンクホルダーユニット110と供給路形成部材120とを溶着してバッファ部201を形成する工程を、図4(a)のB−B断面で説明するための断面図である。図6(b−1)は溶着前のタンクホルダーユニット110と供給路形成部材120、(b−2)は両部材の当接時、(b−3)は溶着後の図を示している。
【0037】
図6(b−1)に示すように、供給路形成部材120には、バッファ部201となる空間を形成するバッファ部溝211cが設けられている。また、バッファ部溝211cの両脇に沿って、供給路形成部材120とタンクホルダーユニット110との底面とを溶着するための溶着リブ206cが設けられている。タンクホルダーユニット110の底面には、2つの溶着リブ206cと溶着される1つの溶着溝207cが設けられている。
【0038】
ここで、バッファ部溝211cの幅W3と溶着リブ206c間の距離L3は、W3=L3の関係にある。また、タンクホルダーユニット110の基準面である第2の面110aと溶着溝207cの底面との距離である溶着溝深さd3は、供給路溝210aの深さd1と等しくなっている。
【0039】
上記構成のタンクホルダーユニット110と供給路形成部材120とを当接した際は、図6(b−2)に示すように、バッファ部溝211cの側には溶着バリ受け部は形成されない。したがって、両部材を溶着すると、図6(b−3)に示すように、バッファ部201内の底面上に溶着バリ205cが発生する。そのため、溶着バリ205cで形成されたバリ面をつたってバッファ部201内にインクが多量に侵入し、バッファ部201の気体の容積が少なくなり、バッファとしての機能を損なう恐れがある。
【0040】
一方で、図6(a−1)〜(a−3)に示す本実施形態では、バッファ部201を形成する際にも、溶着バリ受け部209bを形成することで、溶着によって発生した溶着バリ205bは溶着バリ受け部209bに収容される。したがって、バッファ部201内に溶着バリ面が形成されて、これをつたってバッファ部201内にインクが大量に侵入することを防ぐことができる。溶着バリ受け部209bが溶着バリ205bで埋まり切らずに空間が残ってしまっても、インクが侵入しやすい箇所はこの部分のみであるため、比較例の構成と比べて、バッファ部201へインクが多量に侵入することを防ぐことが可能である。これにより、バッファ部201に保持された気体の体積を安定して保つことができるため、メニスカス振動を低減するバッファとしての機能を損なうことなく、印字品位を良好に保つことができる。
【0041】
また、製造工程上で行う印字検査において供給路200中に充填される検査インクがバッファ部201内に侵入すると、取り除くことが困難であり、検査インクが残留した状態で出荷されてしまう可能性があった。物流時にインク供給路中に物流インクを充填せずに供給路200が乾いた状態でインクジェットヘッドを出荷する場合、検査インクがバッファ部に残留していると、検査インクは吐出口側まで流動し、これが析出物となって良好な印字不良を引き起こす恐れがあった。したがって、本実施形態の構成により、製造工程でのバッファ部201内の検査インクの残留量を抑制できるため、検査インクの残留に伴って印字不良が起きる可能性を低減することもできる。
【0042】
なお、本実施形態は、供給路形成部材120に供給路溝210aやバッファ部溝211aを設けているが、これらの溝は、供給路形成部材120及びタンクホルダーユニット110のうちの少なくともいずれか一方に設けられていればよい。また、本実施形態では、供給路形成部材120に溶着リブ206を設け、タンクホルダーユニット110に溶着溝207や溶着バリ受け形成部208を設けているが、いずれかの部材に設けた構成であればよい。
【0043】
(第2の実施形態)
図7(a−1)〜(a−3)は、第2の実施形態における、タンクホルダーユニット110と供給路形成部材120とを溶着してバッファ部201を形成する工程を、図4(a)のB−B断面で説明するための断面図である。図7(a−1)は溶着前のタンクホルダーユニット110と供給路形成部材120、(a−2)は両部材の当接時、(a−3)は溶着後の図を示している。
【0044】
本実施形態は、バッファ部201の溶着バリ受け部の構成が第1の実施形態と異なっており、これについて、以下説明する。
【0045】
図7(a−1)に示すように、供給路形成部材120には、バッファ部201となる空間を形成するバッファ部溝211dが設けられている。また、バッファ部溝211dの両脇に沿って、供給路形成部材120とタンクホルダーユニット110の底面とを溶着するための溶着リブ206dが設けられている。タンクホルダーユニット110の底面には、2つの溶着リブ206dにそれぞれ対応して設けられた2つの溶着溝207dと、2つの溶着溝207dの間に設けられた溶着バリ受け形成部208dが形成されている。
【0046】
図7(a−2)に示すように、溶着溝207dの内面のうちの、バッファ部溝211d側に設けられた側面と離れた位置に、溶着リブ206dと溶着溝207dとの当接部213dが形成されるように、溶着リブ206dと溶着溝207dとを当接する。このとき、溶着バリを納めるための空間である溶着バリ受け部209dが、バッファ部溝211dの近傍に、バッファ部溝211dに沿うように形成される。図7(a−3)に示すように、当接部213dを溶着した後には、供給路形成部材120の第1の面120aとタンクホルダーユニット110の第2の面110aとの間に、バッファ部201が形成される。
【0047】
ここで、バッファ部溝211dの幅W4と、溶着リブ206d間の距離L4とは、W4<L4の関係にある。本実施形態のバッファ部201の溶着溝深さd4と、供給路200の溶着溝深さd1とは、d4<d1の関係にある。その他の寸法に関しては、溶着バリ受け形成部208dの深さh4、溶着バリ受け部209dの幅p4は、ともに供給路200の構成と等しく、p1=p4、h1=h4とし、p4<L4の関係にある。
【0048】
すわなち、本実施形態では、バッファ部溝211dの近傍に形成される、L字形の溶着バリ受け部209dの容積は、供給路溝210aの近傍に形成される溶着バリ受け部209aの容積よりも小さくなっている。したがって、図7(a−3)に示すように、溶着後に、溶着バリ205dはバッファ部201の内方にわずかに突出する。これにより、溶着バリ受け部209dは溶着バリ205dで埋まりやすくなり、溶着バリ205dで溶着バリ受け部209dが埋まらない部分が発生しにくくなる。このように、溶着バリ205dがわずかにバッファ部201内へ突出するように溶着バリ受け部209dを形成することで、溶着バリ受け部209dへのインク侵入の恐れを抑制することが可能となる。更に、溶着時には溶着バリ205dは第1の面120aに押されるので、溶着バリ205dは、溶着バリ受け形成部208dの上面に沿って形成されやすくなる。図6(b−3)に示した比較例のように溶着バリ205cが発生すると、溶着バリ205cとバッファ部201との間に空間が形成されやすく、この空間をつたってインクがバッファ部201内に侵入しやすかった。したがって、図7(a−3)に示した本実施形態のように、溶着バリ205dが溶着バリ受け形成部208dの上面に沿うように形成されることで、よりバッファ部201内へのインクの侵入を抑制することができる。
【0049】
一方で、供給路溝210aの近傍に形成された溶着バリ受け部209aは、発生し得る最大量の溶着バリ205aが十分に収まる容積を確保している。したがって、溶着後には、供給路200の内方に溶着バリ205aは突出していないので、インクの流れが阻害されることを抑制できる。
【0050】
(第3の実施形態)
図7(b−1)〜(b−3)は、第3の実施形態における、タンクホルダーユニット110と供給路形成部材120とを溶着してバッファ部201を形成する工程を、図4(a)のB−B断面で説明するための断面図である。図7(b−1)は溶着前のタンクホルダーユニット110と供給路形成部材120、(b−2)は両部材の当接時、(b−3)は溶着後の図を示している。
【0051】
本実施形態は、バッファ部201の溶着バリ受け部の構成が上述の実施形態と異なっており、これについて、以下説明する。
【0052】
図7(b−1)に示すように、供給路形成部材120には、バッファ部201となる空間を形成するバッファ部溝211eが設けられている。また、バッファ部溝211eの両脇に沿って、供給路形成部材120とタンクホルダーユニット110の底面とを溶着するための溶着リブ206eが設けられている。タンクホルダーユニット110の底面には、2つの溶着リブ206eにそれぞれ対応して設けられた2つの溶着溝207dと、2つの溶着溝207eの間に設けられた溶着バリ受け形成部208eが形成されている。
【0053】
図7(b−2)に示すように、溶着溝207eの内面のうちの、バッファ部溝211e側に設けられた側面と離れた位置に、溶着リブ206eと溶着溝207eとの当接部213eが形成されるように、溶着リブ206eと溶着溝207eとを当接する。このとき、溶着バリを納めるための空間である溶着バリ受け部209eが、バッファ部溝211eの近傍に、バッファ部溝211eに沿うように形成される。図7(a−3)に示すように、当接部213eを溶着した後には、供給路形成部材120の第1の面120aとタンクホルダーユニット110の第2の面110aとの間に、バッファ部201が形成される。
【0054】
ここで、バッファ部溝211eの幅W5と、溶着リブ206e間の距離L5とは、W5=L5の関係にある。すなわち、本実施形態では、バッファ部201を形成する壁に対して、溶着リブ206eが面一で設けられている。溶着溝207eの深さd5は、供給路200の溶着溝207aの深さd1に対してd5<d1となるよう浅く形成する。また、その他の寸法に関しては、溶着バリ受け形成部208eの深さh5、溶着バリ受け部209eの幅p5は、ともに供給路200と同値とし(p1=p5、h1=h5)、p5<L5の関係となるよう形成される。
【0055】
すなわち、本実施形態では、バッファ部溝211eの近傍に形成される溶着バリ受け部209eの容積は、供給路溝210aの近傍に形成される溶着バリ受け部209aの容積よりも小さい。これにより、図7(b−3)に示すように、溶着バリ205eはバッファ部201へ上方に向かってわずかに突出することとなる。したがって、溶着バリ受け部209eは溶着バリ205eで埋まり、溶着バリ205dで溶着バリ受け部209dが埋まらない部分が発生しにくくなり、溶着バリ受け部209eへのインク侵入を抑制することが可能となる。更に、溶着バリ205eが突出する方向を図面の上方に規定しやすくなり、バッファ部201の両側から発生する溶着バリ205eは、図6(b−3)に示す比較例のように、両側から互いの溶着バリ205cが近づくように発生してしまうことを抑制できる。図7(b−3)に示した本実施形態のように、溶着バリ205dがバッファ部溝211eの側面に沿うように形成されることで、よりバッファ部201内へのインクの侵入を抑制することができる。
【0056】
一方で、第2の実施形態と同様に、供給路溝210aの近傍に設けられた溶着バリ受け部209aは、発生し得る最大量の溶着バリ205aが溶着バリ受け部209a内に十分に収まる容積を確保している。したがって、溶着後には、供給路200の内方に溶着バリ205aは突出していないので、インクの流れが阻害されることを抑制できる。
【0057】
(第4の実施形態)
本実施形態は、上述の実施形態のようにバリ受け部の構成に特徴があるのではなく、バッファ部201そのものの形状に特徴がある。したがって、バリ受け部の構成は上述した実施形態のいずれも適用できる。図8は本実施形態のバッファ部201を説明するための図である。図8(a)は、フィルター115から記録素子基板保持部材130に形成された液室131までの流路を示す斜視図である。図8(b)は、バッファ部201の一部を示す図8(a)のC−C断面図であり、(c)はバッファ部201を図8(a)の下方側から見た斜視図である。
【0058】
図8(a)に示すように、バッファ部201は供給路200に対して、接続部214で接続されている。図8(b)に示すように、バッファ部201の途中でバッファ部201の高さが高くなっている。すなわち、接続部214からバッファ部201の拡大部215までバッファ部201の高さはm1で浅く、拡大部215以降のバッファ部201の高さはm2で高くなっている。
【0059】
これにより、仮に供給路200からバッファ部201内にインクが侵入してしまった場合にも、インクは拡大部215よりも接続部214側までで保持されやすく、拡大部215以降に侵入しにくくなる。したがって、気体を保持するバッファ部201の容積を確保することができるので、バッファ部201のバッファとしての機能を損なう恐れをより低減することができる。
【0060】
バッファ部201の延伸方向に対して垂直な断面の面積がバッファ部201の途中で変化する部分があり、該部分よりも接続部から離れる側の断面の面積が、接続部に近づく側の断面の面積より大きくなれば上述の効果を得ることができる。したがって、バッファ部201の高さが高くなる構成を説明したが、バッファ部201の幅が大きくなる構成や、幅と高さの両方が大きくなる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
100 インクジェットヘッドユニット(液体吐出ヘッド)
110 タンクホルダーユニット(第2の供給路形成部材)
120 供給路形成部材(第1の供給路形成部材)
140 記録素子基板(液体吐出基板)
200 供給路(液体供給路)
201 バッファ部
206 溶着リブ(凸部)
207 溶着溝(凹部)
209 溶着バリ受け部
210 供給路溝
211 バッファ部溝
213 当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出基板と、該液体吐出基板に液体を供給する液体供給路と、該液体供給路に接続され、気体を保持するバッファ部と、を備えた液体供給部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記液体供給部材は、第1の供給路形成部材と第2の供給路形成部材とを備え、前記第1の供給路形成部材及び前記第2の供給路形成部材のうちの少なくともいずれか一方には、前記バッファ部となる溝が設けられており、
前記溝の近傍で、前記第1の供給路形成部材に設けられた凸部と、該凸部に対応して前記第2の供給路形成部材に設けられた凹部と、を当接する工程と、
前記当接がなされた当接部を溶着する工程と、
を有し、
前記当接する工程において、前記凹部を構成する内面のうちの、前記溝の側に設けられた側面、と離れた位置で、前記凸部と前記凹部が当接されることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記第1の供給路形成部材には、前記バッファ部となる溝が設けられており、
前記凸部は、前記第1の供給路形成部材に設けられた前記バッファ部となる溝の側面に対して面一で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法で製造された液体吐出ヘッドであって、
前記当接部が溶着によって溶融して固化した固化物の一部が前記溝の内方に突出していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1の供給路形成部材及び前記第2の供給路形成部材のうちの少なくともいずれか一方には、前記液体供給路となる、前記溝とは別の溝が設けられており、該別の溝の近傍で、前記当接部とは別の、前記第1の供給路形成部材と前記第2の供給路形成部材との当接部が溶着されており、該別の当接部が溶着によって溶融して固化した固化物は、前記別の溝の内方に突出していないことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法で製造された液体吐出ヘッドであって、
前記第1の供給路形成部材と前記第2の供給路形成部材とは、前記溝の両側に設けられた前記当接部で溶着されており、該当接部が溶着によって溶融して固化した固化物は、前記第1の供給路形成部材に設けられた前記バッファ部となる溝の側面に沿って形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法で製造された液体吐出ヘッドであって、
前記バッファ部には、前記バッファ部の延伸方向に垂直な断面の面積が変化する部分があり、該部分よりも前記液体供給路と前記バッファ部との接続部から離れる側の前記断面の面積の方が、前記部分よりも前記接続部に近づく側の前記断面の面積より大きいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
第1の供給路形成部材と、第2の供給路形成部材と、液体を吐出する液体吐出基板に液体を供給する液体供給路と、該液体供給路に接続され、気体を保持するバッファ部と、を有する液体供給部材の製造方法であって、
前記第1の供給路形成部材及び前記第2の供給路形成部材のうちの少なくともいずれか一方には、前記バッファ部となる溝が設けられており、
前記溝の近傍で、前記第1の供給路形成部材に設けられた凸部と、該凸部に対応して前記第2の供給路形成部材に設けられた凹部と、を当接する工程と、
前記当接がなされた当接部を溶着する工程と、
を有し、
前記当接する工程において、前記凹部を構成する内面のうちの、前記溝の側に設けられた側面、と離れた位置で、前記凸部と前記凹部とが当接されることを特徴とする液体供給部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−223885(P2012−223885A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90371(P2011−90371)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】