説明

液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】高速かつ安定して連続吐出できる高い吐出周波数応答性を得ることができる液体吐出ヘッドおよびその製造方法の提供。
【解決手段】共通液室109から導かれた液体をヒータ103やノズノ側壁107が備えられたノズルから吐出する液体吐出ヘッドで、該ノズルの前記ヒータ103が設けられた面と対向する面に、感光性樹脂によって形成された天板ノズル上壁層205を備え、該天板ノズル上壁層205によって前記ノズルの流路長を決定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出ヘッドの製造方法に関し、特に液体を吐出するためのエネルギを発生する素子が複数形成された基板と、その基板に接合される天板と、を具えた液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置(以下、単に記録装置ともいう)などに用いられる液体吐出ヘッドは、一般的に液路に満たされた液体(以下、インクともいう)にエネルギを作用させてインクを吐出させる。そのため液体吐出ヘッドは、インクにエネルギを作用させるエネルギ発生素子を備えている。さらに液体吐出ヘッドは、インク供給口および共通液室を備えており、インクをインク供給口から共通液室を介して液路へと導き、ここでエネルギ発生素子からインクにエネルギを作用させる。インクにエネルギを作用させることで、液路の先端に設けられた吐出口からインクを例えば滴として吐出させ、そのインクにより記録媒体上にドットを形成して記録が行われる。
【0003】
インクに作用させるエネルギとしては複数あるが、中でも、熱エネルギを利用してインクを吐出する液体吐出ヘッドは、吐出口、液路およびエネルギ発生素子である発熱素子を高密度に多数配列することが可能である。以下、これらの吐出口、液路、発熱素子の集合をノズルと総称する。
【0004】
このように発熱素子を高密度に多数配列することが可能であるため、記録装置の全体的なコンパクト化も容易であること等の利点から、熱エネルギを利用して吐出する液体吐出ヘッドは、パーソナルまたはオフィスユースの記録装置として広く用いられている。
【0005】
一方、特に産業用途のインクジェット記録装置においては、記録の一層の高速度化が求められている。高速記録を可能にするには、エネルギ発生素子への駆動信号の印加、液路内の液体への圧力伝播、液体の吐出およびその後の液路へのインクリフィル等の一連の動作が、高速かつ安定して連続的に行われること、すなわち高度な吐出周波数応答性が求められる。そのため液体吐出ヘッドには、より高精度なノズル寸法が求められることになる。
【0006】
発熱素子を用いたインクジェット記録方式は、駆動信号の印加によって発熱素子(以下、ヒータともいう)が加熱させられることで液体(インク)に発砲が始まり、液流路内の液体への圧力伝播が吐出口方向に働くことにより液滴が吐出される。そのため、吐出口からヒータまでの流路寸法(流路抵抗)にバラツキが生じると、液滴の吐出速度およびインクのリフィル速度に影響を与えることになり、吐出特性が安定しないことがあった。
【0007】
そこで、吐出口から発熱素子までの寸法管理を行いながら液体吐出ヘッドを製造する方法として特許文献1に開示された方法がある。ここでは、基板に電気熱変換素子を形成する工程で、くし型の段階的に変化した傾斜パターンをパターニングし、基板の表面を保護層によって覆った上で液流路を形成するノズル層を積層した後、吐出口部を切断して液流路の吐出口を形成する。そして、切断後の吐出口部から流路方向に観測すると、切断面には傾斜パターンの帯状部分のいくつかの先端が現れる。その切断面に露出する帯状部分の数を数えることで、発熱素子から吐出口形成面までの距離を簡単に検知することができ、これに応じて液体吐出ヘッドをランク分けし、液体吐出ヘッドの特性に応じて適切な駆動信号を与えることができるようになる。
【0008】
【特許文献1】特開平9−1807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、発砲が始まり液流路内の液体への圧力伝播が吐出口方向に働くと同時に、この圧力伝播はヒータから吐出口とは反対方向にある共通液室に向けても働くことになる。そして、ヒータから共通液室までの寸法が短い場合、圧力伝播は共通液室側へ逃げ易くなり、必要な液滴の吐出速度を得ることができなくなることがある。また逆に、ヒータから共通液室までの寸法が長い場合は、後方流路抵抗が大きいため圧力伝播は共通液室側へ逃げにくくなるが、ヒータまでの距離が長いためにインクのリフィル性が阻害され、吐出周波数応答性が悪くなることがある。
【0010】
特許文献1は、吐出口から発熱素子までの寸法精度向上を狙った提案であるが、インクの吐出周波数応答性や吐出速度等の液体吐出ヘッド特性に大きな影響を与える要素である発熱素子の中心から共通液室の入り口部までの寸法精度については加味していなかった。すなわち、吐出口から発熱素子までの寸法精度だけでは、高速かつ安定して連続で吐出するという高度な吐出周波数応答性を得ることができない場合があった。
【0011】
更に、この共通液室の入り口部は、天板基板(シリコン基板)に異方性エッチングにて形成される傾斜面の位置によって決まり、微妙なエッチング条件(エッチング液濃度、温度等、マスキング状態)によって位置のバラツキを持っていた。
【0012】
よって本発明は、高速かつ安定して連続で吐出するという高度な吐出周波数応答性を得ることができる液体吐出ヘッドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そのため本発明の液体吐出ヘッドは、共通液室から導かれた液体を発熱素子やノズル壁が備えられたノズルから吐出する液体吐出ヘッドにおいて、前記ノズルの前記発熱素子が設けられた面と対向する面に、感光性樹脂によって形成された天板ノズル上壁層を備え、該天板ノズル上壁層によって前記ノズルの流路長が決定されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、共通液室から導かれた液体を発熱素子やノズル壁が備えられたノズルから吐出する液体吐出ヘッドの製造方法において、前記ノズルの前記発熱素子が設けられた面と対向する面に、感光性樹脂の天板ノズル上壁層を形成する工程と、該天板ノズル上壁層によって前記ノズルの流路長を決定する工程と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液体吐出ヘッドは、ノズルの発熱素子が設けられた面と対向する面に、感光性樹脂によって形成された天板ノズル上壁層を備え、その天板ノズル上壁層によってノズルの流路長が決定されている。これによって、高速かつ安定して連続で吐出するという高度な吐出周波数応答性を得ることができる液体吐出ヘッドを実現することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の液体吐出ヘッドユニット101を備えた記録装置301の概略的な内部構成を示した図である。本実施形態の記録装置301には、複数の液体吐出ヘッドユニット101K〜101Yのそれぞれに、個別の回復ユニット305、インクカートリッジ303およびサブタンク304が具えられている。さらに、記録装置301は、搬送部308、オペレーションパネル310および給紙部306等を具えている。
【0017】
図中のK、C、LC、M、LMおよびYは、それぞれ、ブラック、シアン、淡シアン、マゼン、淡マゼンタおよびイエローの各々のインク色を表している。本実施形態が適用可能な記録装置301は、これら6色に対応して設けられた液体吐出ヘッドユニット(以下、特定しない場合は符号101にて総括的に参照される)によってカラー記録が可能である。液体吐出ヘッドユニット101は、例えば600dpi(ドット/インチ;参考値)の密度で2,560個のノズルをライン状に配列してなる最大記録幅4.3インチのものである。液体吐出ヘッドユニット101の吐出口が形成された面(以下、吐出口面)は、非記録動作時には回復ユニット305により密閉(キャッピング)されているが、記録動作時にはキャッピング状態から解かれて、液体吐出ヘッドユニット101は記録動作に備える。
【0018】
給紙部306に積載された記録媒体Pは、一枚毎にピックアップされ、記録装置301の本体側の矢印α方向に送出され、搬送部308に受け渡される。搬送部308は、搬送ベルトによって矢印α方向に記録媒体Pを一定速度で搬送するように動作する。そして記録媒体Pは、液体吐出ヘッドユニット101の吐出口面の下部を通過するときに、吐出されたインクを受容し、その後、排紙部309に排出、積載される。
【0019】
図2は、本実施形態の液体吐出ヘッドユニット101の構成例を示す側断面図である。液体吐出ヘッドユニット101は、その主要部としてチップ状の液体吐出ヘッド100を有し、これはセラミック製のベースプレート1200によって支持されている。このベースプレート1200上に設けられた発熱素子基板102の後方(図の右側)には、プリント配線基板(PCB)1202が両面テープにより支持されている。そして、発熱素子基板102上の発熱部とPCB1202とは、各々の配線に対応してワイヤボンディング1201により電気的に接続されている。
【0020】
液体吐出ヘッド100は、発熱素子基板102に天板202が接合されることで構成されており、当該接合によって後述する液路や共通液室109などが画成される。共通液室109に対しては、異方性エッチング等により天板202に設けた開口201を介し、インク流路形成部材1203からインクが導入される。
【0021】
図3は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド100のノズル近傍を示す一部破断斜視図である。また図4は、液体吐出ヘッド100の発熱素子基板102の上面を示した図である。
【0022】
発熱素子基板102には、液体(インク)を加熱発泡するための電気熱変換体などの発熱部(以下、ヒータともいう)103が複数、ノズルに対応した位置に形成されている。ヒータ103にはチッ化タンタル等の抵抗体が用いられ、厚さは0.01〜0.5μm、シート抵抗は単位正方形あたり10〜300Ωのものが用いられる。なお、ヒータ103はチッ化タンタル以外の材料、例えばホウ化ハフニウムなどで形成されたものでもよく、厚さやシート抵抗についても特に限定されるものではない。
【0023】
ヒータ103の両端部には、通電を行うためのアルミニウム等からなる一対の電極配線(不図示)が接続され、一方の電極配線には通電をオン/オフするためのスイッチングトランジスタ(不図示)が設けられる。スイッチングトランジスタは、PCB1202を介して液体吐出ヘッド外部から入力される記録信号に応じ、ゲート素子等を含む回路からなる制御用ICによって駆動が制御される。
【0024】
発熱素子基板102上の隣接するヒータ間には、感光性樹脂を用いてノズル側壁(ノズル壁)107が形成される。発熱素子基板102と接合し合うSi等で形成された天板202には、感光性樹脂を用いて天板ノズル上壁層(天板DF)と液室枠101Aが形成される。さらにノズル側壁107の上面には、厚さ2μm程度の天板接着層517を介して、天板202が配置される。これにより、発熱素子基板102、ノズル側壁107および天板接着層517で囲まれた管状の液路106が画成される。また、発熱素子基板102上で、各液路106の吐出口104側には厚さ5〜10μm程度のノズル補強壁516が形成されている。複数の液路106は、液室枠110Aにより周囲が画設された共通液室109に連通している。
【0025】
なお、図3に示すように、発熱素子基板102上には、可動部材512の保持部材513を配置することができる。保持部材513は、各ノズルに対応する可動部材512を片持ち支持した状態で形成され可能である。そして保持部材513は、可動部材512の自由端518の側が吐出口104の方向に延在し、支点が共通液室109内に位置するような状態で配置されている。
【0026】
以上の構成において、液体吐出ヘッド外部から入力される記録信号に応じ、制御用ICによってスイッチングトランジスタの駆動が制御され、これによってヒータ103の通電がオン/オフされる。共通液室109から各液路106に供給されたインクは、ヒータ103上で加熱されて発泡する。インクの発泡が始まると、それに伴い可動部材512も変位を開始し、発泡の圧力を効果的に作用させて、インクの流れが吐出口104の方向へ向かうのを促進する。その後、発生した気泡内の圧力が減少することによって気泡は収縮し、吐出口104から出たインク滴が切り離されて吐出される。
【0027】
次に、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド100の製造方法を説明する。
図5(a)〜(i)は、液体吐出ヘッド100の製造工程を順に示した図であり、液体吐出ヘッド100の吐出口104側から見た図を示している。
【0028】
図5(a)に示すシリコンウエハでなる基体(第1の基体)102B上に、半導体製造工程で用いるものと同様の製造装置を用いて、ホウ化ハフニウム、ホウ化ニオブまたはチッ化タンタル等からなるヒータ103(同図には不図示)を形成する。なお、基体102Bには、ヒータ103を選択的に駆動するためのスイッチングトランジスタ等の半導体素子でなる駆動回路を予め作り込こんでおくことができる。更に次工程における感光性樹脂フィルムとの密着性向上を目的として、基体102Bの表面に洗浄を施し、紫外線−オゾン等による表面改質を行った後、例えばシランカップリング剤をエチルアルコールで1重量%に希釈した液を上記改質表面上にスピンコートする。
【0029】
次に表面洗浄を行い、密着性を向上した基体102B上に、図5(b)に示すように感光性樹脂フィルムDF1をラミネートする。次に、図5(c)に示すように、フォトマスクM1を介して、ノズル補強壁516および、保持部材513を接着するための台座として残すために感光性樹脂フィルムDF1に紫外線を照射する。そして、次の工程では、図5(d)に示すように、さらに感光性樹脂フィルムDF2をラミネートする。次に、図5(e)に示すように、このラミネートした感光性樹脂フィルムにフォトマスクM2を配し、ノズル側壁107および液室枠110A(図4参照)として残す部分に紫外線を照射する。
【0030】
次に、図5(f)に示すように、感光性樹脂フィルムDF1およびDF2をキシレンとブチルセルソルブアセテートとの混合液からなる現像液で現像し、感光性樹脂フィルムの未露光部分を融解させる。これにより、露光して硬化した部分により基体102B上には、ノズル補強壁516、台座、ノズル側壁107および液室枠110Aが形成される。
【0031】
そして、不図示の台座(後述の図8において符号520で示す)に保持部材513を接着することで、図5(g)に示すように、各液路に対応して可動部材512が配置される。
【0032】
次に、図5(h)に示すように、基体102Bと接合される天板202用の基体(第2の基体)202Bの面に感光性樹脂フィルムDF3をラミネートする。フォトマスクM3を介して、天板ノズル上壁層205(天板DF)と液室枠110B(不図示)として残す部分に紫外線を照射する。感光性樹脂フィルムDF3をキシレンとブチルセルソルブアセテートとの混合液からなる現像液で現像し、感光性樹脂フィルムの未露光部分を融解させる。これにより、露光して硬化した部分により基体202B上には、天板ノズル上壁層205と液室枠110B(不図示)が形成される。
【0033】
次に、図5(i)に示すように、天板ノズル上壁層205と液室枠110B(不図示)の面に、感光性樹脂フィルムを材料とした天板接着層517を予めラミネートしておいた基体202Bをノズル側壁107および液室枠110Aの上に溶着する。
【0034】
ここで、発熱素子基板102となる部分および天板202となる部分は、ウエハの基体上にそれぞれ複数が形成され、それぞれが発熱素子基板102と天板202とで対応するようになっている。このようにて基体同士を接合させた上で、各液体吐出ヘッドに分離する。
【0035】
図6は、ヒータ103と、液路106を画設するためのノズル側壁107等と、が形成された発熱素子基板102になる部分を複数個分パターニングした基体102Bを示した図である。発熱素子基板102になる部分は、略円形の基体102Bに対して並列に複数形成されているが、これらは半導体製造工程と同様の上述した工程により形成されるため、それぞれの形状、寸法および配列の精度は高いものである。
【0036】
そして本実施形態では、配列範囲の中央部位置している発熱素子基板102となる部分の両側に、基体102Bと基体202Bとを接合する際に位置決めとして利用するためのマーキング(第1のマーキング)801Aおよび801Bを感光性樹脂で施してある。このマーキング801A、801Bは、ノズル側壁107等をパターニングするために利用されるマスクM2を、予めマーキング801A、801Bにも対応したものとしておくことで、ノズル側壁107等と同時期にパターニングされるようにしている。
【0037】
図7は、共通液室109の天井部となる凹部109Aと共通液室109に連通するインク供給口201とがエッチングにより形成された後、天板202となる部分を複数チップ分パターニングした基体202Bを示した図である。天板202となる部分は、これと接合される発熱素子基板102となる基体102Bに対応して、略円形の基体202Bに並列に複数形成されている。天板202となるこれらの部分も、半導体製造工程と同様の工程により形成されるため、それぞれの形状、寸法および配列の精度は高い。そして、上記1つの発熱素子基板102に対応した天板202の両側には、基体102Bに形成したマーキング801に合わせてパターニングした感光性樹脂のマーキング(第2のマーキング)204を施してある。なお、マーキング204を感光性樹脂で形成する場合、天板ノズル上壁層205等をパターニングするために利用されるマスクM3を、予めマーキング204にも対応させておくことで、マーキング204も天板ノズル上壁層205等と同時期にパターニングされる。
【0038】
図8は、従来の液体吐出ヘッドにおけるばらつきの発生を説明するための図である。従来はエッチングによって共通液室を形成する前に予め天板用基体1202Bに設けたアライメントマークと、発熱素子基板用基体1102Bにノズル側壁1107等をパターニングする前に予め設けたマーキングと、を合わせて両基体を接合するのが一般的であった。そのため、共通液室1109のエッチングのばらつきによって、ヒータ1103中心部Cから共通液室の入り口部までの寸法には±a(ここでaは50〜60μm)のばらつきが発生していた。そして、そのばらつきはそのままノズルにおける流路抵抗のばらつきになっていた。
【0039】
記録時にインクがリフィルされる場合、共通液室に比べてノズル部分は狭くなっているため、共通液室部分での流路抵抗に比べて、ノズル部分における流路抵抗は大きなものになる。そして、そのノズル部分での流路抵抗がばらつくと吐出に影響するため、ヒータ1103中心部Cから共通液室の入り口部までの寸法のばらつきは、吐出特性を不安定にさせる要因となっていた。流路長L2が長い(L2=450μm以上)低速用の液体吐出ヘッドでは、このばらつきによる吐出への影響は少ない。しかし、記録速度が速くなるに連れてインクのリフィル性向上のためノズル流路の低抵抗化が進み流路長L2も短くなり、ばらつきによる流路抵抗差の影響度が大きくなってきた。
【0040】
そこで本発明は、ヒータから共通液室の入り口部までの寸法のばらつきを少なくした液体吐出ヘッドとその液体吐出ヘッドの製造方法を提案するものである。
図9は、本実施形態のばらつきを少なくした液体吐出ヘッドを説明するための図である。本実施形態の液体吐出ヘッド100は、従来とは異なりノズルの天板部分に天板ノズル上壁層205を設けている。この天板ノズル上壁層205を高精度で設けることでノズルにおける流路長のばらつきを少なくしている。以下に天板ノズル上壁層205を高精度で設ける方法について説明する。
【0041】
天板202の共通液室109の天井部となる凹部109Aをエッチングにより掘り込んだ後、発熱発生素子102と接合する天板203の面に天板ノズル上壁層205を形成すると同時期に、マーキング204が形成されるようにしている。天板ノズル上壁層205とマーキング204は、同一パターン内に配置し、一度の露光でパターニングされている。一方で、発熱素子基板102のノズル側壁107を形成する際に、基体102Bにマーキング801が同時期に形成されるようにしている。そして、それらのマーキングに基づいて両基体を位置合わせして接合させている。これによってヒータ103の中心部Cから天板ノズル上壁層端部Xまでの寸法L2'は高精度に仕上がる。
【0042】
なお、寸法L2'は必要な吐出周波数応答性および吐出速度によって決まる。また天板ノズル上壁層205の端部Xから共通液室109の入口部Zまでの距離L2"は、エッチングによるばらつきが発生したとしてもL2"≧2aとなるように、天板203の凹部109Aを設けている。
【0043】
また、天板ノズル上壁層205の厚みGは、エッチングにより共通液室の入り口部Zが流路抵抗が大きくなる方向(矢印H方向)に最大まで位置ずれしても、所望の吐出特性を損なわないほどの低抵抗となる厚みを備えることが望ましい。つまり、天板ノズル上壁層205の端部Xから天板202の共通液室109の入り口部Zまでの流路抵抗R2と、寸法L2'の流路抵抗R1との関係において、流路抵抗R2が流路抵抗R1の20%以下となる厚みGとすることが望ましい。
【0044】
ここで、流路Sの断面積D、流路幅W、流路高さhを用いて流路Sの流路抵抗R1を式で表わすと以下のようになる。
R1=L2'/D2=L2'/(h×W)2
また、流路抵抗R2を式で表わすと以下のようになる。
R2=2a/((h+G)×W)2
これらの式より、R2/R1×100≦20%となるような天板ノズル上壁層205の厚みGを選定することが望ましい。
【0045】
次に、上述したマーキングを用いた基体102Bと基体202Bの両基体の位置合わせの態様について説明する。
【0046】
図10(a)は、発熱素子基板102用の基体102Bと天板202用の基体202Bとを貼り合わせて接合する際の、図6および図7における矢印A方向から見た側面図であり、図10(b)は同じく図6および図7におけるB−B線断面図である。図10(a)および図10(b)に示すように、発熱素子基板102用の基体102Bにあるマーキング801と、天板202用の基体202B上にあるマーキング204同士が重なり合うように位置合わせを行い接合を行う。
【0047】
図11は、マーキング801A、801Bとマーキング204A、204Bを拡大して示した図である。この位置合わせはIR観察が可能な顕微鏡にて、各々のマーキングを確認しながら行う。よって高精度(数μm内)に位置合わせを行うことができる。
【0048】
なお本実施形態では、両基体の接合面にはそれぞれのマーキングが突設され、マーキング801A、801Bとノズル側壁107とは同一面上に同時期に形成され、マーキング204A、204Bと天板ノズル上壁層205とは同一面上に同時期に形成されている。このため、両基体同士でマーキング同士が干渉することはない。また、マーキングが施される位置については、左右対称の位置に設けることが、位置合わせを容易勝つ確実なものとする上で好ましい。
【0049】
また、両基体が接合されてから、ダイシング加工等によりそれぞれの液体吐出ヘッド100(すなわち発熱素子基板および天板の接合体)を分離することができる。この際、特許文献1に開示された方法を用いることで、発熱素子から吐出口形成面までの距離を簡単に検知することができる。この方法は、吐出口形成面からヒータ中心部Cまでの寸法L1を管理することが可能で、ダイシング後の吐出面の研磨量をコントロールすることが容易となり、寸法L1も高精度に仕上げることが可能である。
【0050】
このように、ノズルの天板となる部分に天板ノズル上壁層を設けて、ノズル流路長の寸法のばらつきを少なくする。これによって、安定した吐出特性を得ることができる液体吐出ヘッドを実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態の液体吐出ヘッドユニットを備えた記録装置の概略的な内部構成を示した図である。
【図2】本実施形態の液体吐出ヘッドユニットの構成例を示す側断面図である。
【図3】本実施形態に係る液体吐出ヘッドのノズル近傍を示す一部破断斜視図である。
【図4】液体吐出ヘッドの発熱素子基板の上面を示した図である。
【図5】(a)〜(i)は、液体吐出ヘッドの製造工程を順に示した図である。
【図6】ヒータと、液路を画設するためのノズル側壁等と、が形成された発熱素子基板になる部分を複数個分パターニングした基体を示した図である。
【図7】天板となる部分をパターニングした基体を示した図である。
【図8】従来の液体吐出ヘッドにおけるばらつきの発生を説明するための図である。
【図9】本実施形態のばらつきを少なくした液体吐出ヘッドを説明するための図である。
【図10】(a)は、発熱素子基板用の基体と天板用の基体とを貼り合わせて接合した状態の側面図であり、(b)は図6および図7におけるB−B線断面図である。
【図11】基体のマーキングを拡大して示した図である。
【符号の説明】
【0052】
100 液体吐出ヘッド
102 発熱素子基板
102B 基体
103 ヒータ
104 吐出口
106 液路
107 ノズル側壁
109 共通液室
202 天板
202B 基体
204 マーキング
205 天板ノズル上壁層
512 可動部材
513 保持部材
517 天板接着層
801 マーキング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通液室から導かれた液体を発熱素子やノズル壁が備えられたノズルから吐出する液体吐出ヘッドにおいて、
前記ノズルの前記発熱素子が設けられた面と対向する面に、感光性樹脂によって形成された天板ノズル上壁層を備え、
該天板ノズル上壁層によって前記ノズルの流路長が決定されることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記発熱素子が形成された第1の基体と、前記天板ノズル上壁層が形成された第2の基体とは、前記第1の基体に設けられた第1のマーキングおよび第2の基体に設けられた第2のマーキングによって位置決めされることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記天板ノズル上壁層の厚さは、
前記ノズルに前記液体が流れる場合の、前記液体が流れる方向における前記発熱素子の中心部から、前記天板ノズル上壁層の前記共通液室側の端部まで、の流路抵抗R1と、前記ノズルに前記液体が流れる場合の、前記天板ノズル上壁層の前記端部から、前記共通液室の入口部まで、の流路抵抗R2との関係において、
前記流路抵抗R2が前記流路抵抗R1の20%以下になる厚さを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1のマーキングは前記ノズル壁と同時期に形成され、前記第2のマーキングは前記天板ノズル上壁層と同時期に形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1の基体に設けられた第1のマーキングと第2の基体に設けられた第2のマーキングとは、感光性樹脂によって形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
共通液室から導かれた液体を発熱素子やノズル壁が備えられたノズルから吐出する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記ノズルの前記発熱素子が設けられた面と対向する面に、感光性樹脂の天板ノズル上壁層を形成する工程と、
該天板ノズル上壁層によって前記ノズルの流路長を決定する工程と、
を備えていることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−94900(P2010−94900A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267772(P2008−267772)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】