説明

液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップおよび液体吐出装置

【課題】バリア機能と内圧変動の緩和機能を有しており、構造が単純で製造コストが低い液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップを提案すること。
【解決手段】インクジェットプリンター1は、インクジェットヘッド13のノズル群13A、13Bのうち、吸引用ヘッドキャップ22によってキャッピングされていない側のノズル群をキャッピングする保湿用ヘッドキャップ23を備えている。保湿用ヘッドキャップ23は、枠状のホルダ26と熱可塑性エラストマーからなる膜27およびシール部28を一体成形して製造されている。膜27は、水分透過性が低いため、長時間キャッピング状態を維持しても、ノズル内のインクの増粘率がインクの吐出に支障があるほどには増大しない。また、キャッピングにより形成した密閉空間30の内圧変動を膜27の変形によって吸収して密閉空間30の内圧を一定に維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復移動するキャリッジに搭載された液体吐出ヘッドのノズル内のインクの増粘を抑制すると共にノズル内のメニスカスを破壊せず保持させるための液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップ、および、このような保湿用ヘッドキャップを備える液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
往復移動するキャリッジにインクジェットヘッドを搭載した構造のインクジェットプリンターでは、待機時にキャリッジおよびインクジェットヘッドをキャリッジ走査領域の左端のホームポジションに戻し、この位置でメンテナンス用の吸引用ヘッドキャップによってノズル面を密閉してノズル内のインクの増粘を抑制していた。ここで、インクジェットヘッドに2つのノズル群を設け、これらをキャリッジ走査方向に並べて配置した構造では、2つのノズル群に対応させて吸引用ヘッドキャップを2つ設けると吸引機構やインク回収機構がそれぞれ2系統必要になり、構造が複雑化してしまう。
【0003】
そこで、吸引用ヘッドキャップに隣接して、ノズル面を密閉するだけで吸引は行わない保湿用ヘッドキャップを設ければ、2つのノズル群を同時に密閉してノズル内のインクの状態を良好に保ちながら待機させておくことができる。そして、メンテナンス時にはキャリッジを走査して各ノズル群を吸引用ヘッドキャップに対向する位置に移動させることにより、2つのノズル群を1つの吸引用ヘッドキャップで順番に密閉してノズルクリーニングやフラッシングなどを行うことができる。
【0004】
保湿用ヘッドキャップは、外気への水分拡散を防止するバリア機能に加えて、待機時に温度変化等によってノズル周囲の密閉空間の内圧が変動してノズル内のメニスカスが破壊されるのを防止するために、内圧変動を緩和する機能を有していることが望ましい。特許文献1には、バリア機能と内圧変動緩和機能を有するプリントヘッド用キャップ・システム(保湿用ヘッドキャップ)が記載されている。特許文献1のプリントヘッド用キャップ・システムは、ノズル面に対向するように柔軟性のあるダイヤフラムを設け、このダイヤフラムの外側に外気に連通する孔を有するバリア部を設けている。この構造により、ダイヤフラムの変形によってキャップ内部の圧力変動を緩和しつつ、ダイヤフラムを通過した水分が拡散することをバリア部によって防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3342511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のプリントヘッド用キャップ・システムは、ダイヤフラムの外側にバリア部を設けた2重構造になっているため、構造が複雑で部品点数が多く、組み立てに手間がかかるため、廉価に製造することができないという問題点がある。
【0007】
本発明の課題は、この点に鑑みて、バリア機能と内圧変動の緩和機能を有しており、構造が単純で製造コストが低い液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップ、および、このような保湿用ヘッドキャップを備えた液体吐出装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、
液体吐出ヘッドのノズル面側を覆って外気から遮断した密閉空間を形成可能に構成されている液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップにおいて、
前記密閉空間を外気から遮断している部分の少なくとも一部が外気に面する可撓性の膜であることを特徴としている。
【0009】
本発明は、このように、ノズル面が可撓性の膜によって外気から遮断された単純な構成であるので、部品点数が少なく、製造コストを抑制できる。また、膜の変形によって温度変化などによる内圧低下を緩和できるので、ノズル内のメニスカスを破壊することなく保持できる。更に、ノズル面の周囲に密閉空間を形成しているので、外気への水分拡散を抑制でき、ノズル内の液体の増粘を抑制できる。
【0010】
本発明において、前記膜は、前記密閉空間側から外気側への水分透過率が予め設定した値よりも低いことが望ましい。例えば、良好な吐出を行うことが可能なノズル内の液体の増粘率の範囲を設定しておき、予め想定した待機時間内であれば、この増粘率の範囲でノズル内の液体の状態を維持できる水分透過率に設定するとよい。このようにすれば、想定した条件下においては、確実にノズルを液体吐出可能な状態に維持できる。
【0011】
また、前記膜は、前記密閉空間と外気との圧力差を吸収して前記密閉空間の内圧を一定に維持可能な変形性能を有していることが望ましい。例えば、想定される温度変化などによって生じる内圧変動の範囲であれば、膜の変形によって内圧を一定に維持できる変形性能の膜を用いることが望ましい。このようにすれは、想定した条件下においては、確実に内圧を一定に維持でき、ノズル内のメニスカスを破壊することなく保持できる。
【0012】
本発明において、前記密閉空間を形成したときに前記ノズル面に対向している部分が前記膜であり、前記膜と前記ノズル面との距離が、前記密閉空間の内圧低下時に前記ノズル面側に凹んだ前記膜が前記ノズル面に干渉しない範囲で最小限の寸法に設定されていることが望ましい。例えば、ノズル面と膜との距離を、予め想定した内圧低下に応じて膜が密閉空間の内側に凹んだときに、最も凹んでいる膜の中央部分がノズル面に接触しない程度にしておくとよい。このようにすれば、膜とノズル面との接触によってメニスカスを破壊してしまうことがない。また、変形時に膜がノズル面に接触しない範囲で膜を極力ノズル面に近づけた構成にすると、膜の面積を変えずに密閉空間の容積を必要最小限に小さくすることができ、内圧変動に伴う密閉空間の体積変化が必要最小限になる。これにより、内圧変動を緩和するための必要コンプライアンス(基準圧力当たりの体積変化量)が小さくなり、基準圧力当たりの変形量が小さい膜を用いても内圧変動を緩和することが可能になる。
【0013】
また、本発明において、枠状の基材部と、当該基材部における枠の内側開口を塞いでいる前記膜と、前記膜の外周に沿って前記膜の面方向と直交する方向に立ち上がるシール部とを備え、前記膜を前記液体吐出ヘッドのノズル面に対峙させて前記シール部を前記ノズル面の外周部分に圧接することにより、前記密閉空間を形成可能に構成されており、前記基材部、前記膜、および前記シール部が一体成形されている構成にすることができる。例えば、膜の外周部分のシール部を膜と同じ熱可塑性樹脂製とし、基材部を別の熱可塑性樹脂製として、これらを2色成形により一体に成形して製造するとよい。このようにすれば、複雑な組立作業を行うことなく、保湿用ヘッドキャップを製造できる。
【0014】
次に、本発明の液体吐出装置は、
キャリッジ走査方向に隣接配置されている第1のノズル群と第2のノズル群を備える液体吐出ヘッドと、
前記第1のノズル群と前記第2のノズル群のいずれか一方を選択的に密閉して、密閉状態のノズル群の周囲に負圧を形成して各ノズルから液体を吸引可能に構成されている吸引用ヘッドキャップと、
前記第1のノズル群と前記第2のノズル群のうち、前記液体吐出ヘッドがホームポジションにあるときに前記吸引用ヘッドキャップによって密閉されない側のノズル群を密閉可能に構成されている上記各構成の保湿用ヘッドキャップとを有することを特徴としている。
【0015】
本発明は、このような構成により、2つのノズル群を同時に密閉して待機させておくことができるので、ノズル内の液体の増粘を抑制できると共に、ノズル内のメニスカスを破壊することなく保持できる。そして、メンテナンス時にはキャリッジを走査して各ノズル群を吸引用ヘッドキャップに対向する位置に移動させることにより、2つのノズル群を1つの吸引用ヘッドキャップで順番に密閉してノズルクリーニングやフラッシングなどを行うことができる。
【0016】
本発明において、前記吸引用ヘッドキャップと前記保湿用ヘッドキャップは、前記液体吐出ヘッドのホームポジションに対向する位置において、前記保湿用ヘッドキャップがキャリッジ走査範囲の端側となり、且つ、前記吸引用ヘッドキャップがキャリッジ走査範囲の中央側となるようにキャリッジ走査方向に隣接配置されている構成にすることができる。このようにすれば、吸引用ヘッドキャップに密閉されているノズルはヘッド待機中にノズルクリーニングやフラッシングなどのメンテナンスを行うことができる。また、保湿用ヘッドキャップに密閉されているノズルのメンテナンスは、ホームポジションから吐出位置側にヘッドを移動させる途中に行うことができる。よって、待機状態から復帰するときの吐出前フラッシングなどを行うためにキャリッジをホームポジション側に戻す必要がない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ノズル面が膜によって外気から遮断された単純な構成であるので、部品点数が少なく、製造コストを抑制できる。また、膜の変形によって温度変化などによる内圧低下を緩和できるので、ノズル内のメニスカスを破壊することなく保持できる。更に、ノズル面の周囲に密閉空間を形成しているので、外気への水分拡散を抑制でき、ノズル内の液体の増粘を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用したインクジェットプリンターの外観斜視図である。
【図2】プリンター機構部の概略斜視図である。
【図3】ヘッドメンテナンスユニットの斜視図である。
【図4】プリンター前面側から見たインクジェットヘッドと吸引用ヘッドキャップおよび保湿用ヘッドキャップの動作位置を示す説明図である。
【図5】保湿用ヘッドキャップの斜視図および部分断面図である。
【図6】保湿用ヘッドキャップによりインクジェットヘッドのノズル面をキャッピングした状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明の液体吐出装置の実施の形態であるインクジェットプリンターおよびその制御方法を説明する。
【0020】
(インクジェットプリンターの全体構成)
図1はインクジェットプリンターの外観斜視図である。インクジェットプリンター1(液体吐出装置)は、複数種類のカラーインクを用いてロール紙から繰り出される長尺状の記録紙にカラー印刷を行うものであり、全体として直方体形状をしたプリンターケース2を備え、このプリンターケース2の前面中央部分にはロール紙装着用の開口部3が形成されている。開口部3は上端に記録紙排出ガイド4が取り付けられた開閉蓋5によって封鎖されている。記録紙排出ガイド4とプリンターケース2の開口部3の上縁部分との間に記録紙排出口6が形成されている。不図示のロックを解除して記録紙排出ガイド4に指を掛けて手前に引くと、開閉蓋5を、図示の閉じ位置から、下端を中心として前方に倒れた開き位置まで開けることができる。
【0021】
プリンターケース2の前面における開閉蓋5の右側部分には電源スイッチ7a、紙送りスイッチ7b、複数個の動作状態表示ランプ7cなどが配列されている。プリンターケース2の前面における開閉蓋5の左側部分には、プリンター前後方向に延びる縦長の長方形断面のインクカートリッジ装着部8の装着口8aが開口しており、このインクカートリッジ装着部8にインクカートリッジ9が装着されている。不図示のボタンを操作すると、ロックが解除されてインクカートリッジ9がばね力によって前方に押し出され、インクカートリッジ9を引き抜くことが可能となっている。
【0022】
図2はインクジェットプリンター1におけるプリンターケース2で覆われているプリンター機構部10を示す概略斜視図である。プリンター機構部10の内部中央にはロール紙収納部が形成されており、開閉蓋5を開けると、このロール紙収納部が前方に開口し、ロール紙の交換などを行うことができる。ロール紙収納部の上側には、プリンター幅方向にプラテン12が架け渡されており、このプラテン12の上側には、ノズル面を下向きにしたインクジェットヘッド13(液体吐出ヘッド)を搭載したキャリッジ14が配置されている。
【0023】
キャリッジ14には、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの4色のインクのそれぞれを貯留するサブタンク15a〜15dを備えるダイヤフラムポンプユニット16が搭載されている。ダイヤフラムポンプユニット16からインクジェットヘッド13に供給されるインクは、一旦、各サブタンク15a〜15d内に貯留され、その後、インクジェットヘッド13のヘッド内流路に供給される。各サブタンク15a〜15dには可撓性インクチューブ17a〜17dの一端がそれぞれに接続されている。可撓性インクチューブ17a〜17dの他端はインクカートリッジ装着部8の後端側の部位に配置されている上下方向に延びる4本のインク供給路(図示せず)のそれぞれに接続されている。インク供給路のそれぞれはインクカートリッジ装着部8に装着されているインクカートリッジ9の側に連通している。
【0024】
キャリッジ14は、プリンター幅方向に架け渡したキャリッジガイド軸14aに沿って、プラテン12から右側に外れた図2において実線で示すホームポジションAから、プラテン12の左側に外れた図2において想像線で示す左端位置Bまでの間を移動可能である。インクジェットプリンター1は、不図示の記録紙搬送機構によりロール紙から繰り出した記録紙をプラテン12の表面に沿って搬送し、この搬送動作と連動してキャリッジ14を走査しながら記録紙に向けてインクジェットヘッド13からインクを吐出することにより、記録紙への印刷を行う。
【0025】
(ヘッドメンテナンスユニット)
プラテン12の右側に外れた部位には、ヘッドメンテナンスユニット20が配置されている。図3はヘッドメンテナンスユニット20を取り出して示す斜視図である。ヘッドメンテナンスユニット20は、全体としてプリンター前後方向に細長い直方体形状をしたユニットケース21を備えている。このユニットケース21の前側部分の上端には吸引用ヘッドキャップ22および保湿用ヘッドキャップ23を備えたヘッドキャップユニット24が配置されている。吸引用ヘッドキャップ22および保湿用ヘッドキャップ23は、プリンター幅方向すなわちキャリッジ走査方向に隣接配置されており、それぞれ上方に開口している。ヘッドキャップユニット24の下側には、これらを昇降させるヘッドキャップ昇降機構(図示せず)が組み込まれている。
【0026】
図4(a)〜(d)は、プリンター前面側から見たインクジェットヘッド13と吸引用ヘッドキャップ22および保湿用ヘッドキャップ23の動作位置を示す説明図である。本実施形態では、2つのヘッドキャップのうちの吸引用ヘッドキャップ22をキャリッジ走査方向(プリンター幅方向)の中央寄りに配置し、保湿用ヘッドキャップ23をキャリッジ走査方向の端寄り(ホームポジション寄り)に配置している。インクジェットヘッド13はプリンター前後方向に延びる平行な一対のノズル群13A、13B(第1のノズル群、第2のノズル群)を備えている。
【0027】
ヘッドキャップユニット24は、図4(a)に示すように、印刷動作中などにおいてキャリッジ14がホームポジションAから離れているときには、インクジェットヘッド13のノズル面の高さ位置よりも下方に退避した退避位置Cにある。キャリッジ14がホームポジションAに戻ると、図4(b)に示すように、当該キャリッジ14に搭載されているインクジェットヘッド13のノズル群13A、13Bの各ノズル面が、吸引用ヘッドキャップ22、保湿用ヘッドキャップ23に対してそれぞれ上側から対峙した状態になる。この状態において、吸引用ヘッドキャップ22および保湿用ヘッドキャップ23を退避位置Cから上昇させることにより、図4(c)に示すように、インクジェットヘッド13のノズル群13A、13Bの各ノズル面を吸引用ヘッドキャップ22および保湿用ヘッドキャップ23によってそれぞれ下側からキャッピングしたキャッピング位置Dにヘッドキャップユニット24が位置決めされる。この状態では、ノズル群13A、13Bが両方ともキャッピングされているため、乾燥によるノズル内のインクの増粘を抑制した状態でインクジェットヘッド13を待機させておくことができる。
【0028】
ユニットケース21におけるヘッドキャップ昇降機構の後側の部分には、チューブポンプ(図示せず)およびチューブポンプ駆動用のモーター(図示せず)が組み込まれている。図4(c)のキャッピング位置Dにおいて、ノズル群13Aのノズル面に吸引用ヘッドキャップ22をキャッピングした状態でチューブポンプを駆動することにより、吸引用ヘッドキャップ22によって形成した密閉空間に負圧を形成し、ノズル群13Aの各インクノズルからインクを吸引してノズルクリーニングを行うことができる。また、ノズル群13Aのノズル面に吸引用ヘッドキャップ22をキャッピングした状態で各インクノズルからインクを吐出して、フラッシングを行うことができる。吸引あるいは吐出された廃インクは、廃インクチューブ25を通ってインクカートリッジ装着部8に装着されているインクカートリッジ9内の廃インク収納部に回収される。
【0029】
保湿用ヘッドキャップ23にはチューブポンプおよび廃インクチューブ25が接続されていない。そこで、ノズル群13Bのノズルクリーニングあるいはフラッシングを行うときには、図4(d)に示すように、キャリッジ14をホームポジションAからプラテン12側にノズル群13A、13Bの間隔分だけ移動させたメンテナンス位置Eに位置決めして、ノズル群13Bを吸引用ヘッドキャップ22に対峙させる。そして、ヘッドキャップユニット24をキャッピング位置Dに移動させ、図4(d)に示すように、ノズル群13Bの各ノズル面を吸引用ヘッドキャップ22によって下側からキャッピングする。これにより、ノズル群13Bのノズルクリーニングあるいはフラッシングを行うことができる。
【0030】
(保湿用ヘッドキャップ)
図5(a)は保湿用ヘッドキャップ23の斜視図であり、図5(b)はその部分断面図である。保湿用ヘッドキャップ23は、中央に矩形の開口26a(内側開口)が形成された枠状のホルダ26(基材部)と、このホルダ26における開口26aを覆って塞いでいる均一な厚さの可撓性の膜27を備えている。膜27の外周部分27aは開口26aを囲むホルダ26の上側端面を覆って延びており、この上側端面に密着している。そして、外周部分27aの外周端に沿って、膜27の面方向と交差する方向(本実施形態では、膜27の面方向と直交する方向)に立ち上がるリブ状のシール部28が形成されている。このシール部28によって、保湿用ヘッドキャップ23の上面に上向きの凹部29が形成されている。
【0031】
図6は保湿用ヘッドキャップ23によりインクジェットヘッド13のノズル面をキャッピングした状態を示す断面説明図である。保湿用ヘッドキャップ23は、膜27の表面をインクジェットヘッド13のノズル面に対峙させ、シール部28をノズル面側に上向きに延ばした姿勢で配置されている。保湿用ヘッドキャップ23は、キャッピング位置Dでは、シール部28の先端が、インクジェットヘッド13におけるノズル群13Aあるいはノズル群13Bのノズル面の外周部分に圧接される。これにより、上向きの凹部29内がノズル面を囲む密閉空間30となり、膜27およびシール部28によって密閉空間30が外気から遮断される。このとき、膜27の下面全体が直接外気に接した状態となっている。
【0032】
保湿用ヘッドキャップ23は、膜27からシール部28までの部分が同一の熱可塑性樹脂素材によって形成されており、ホルダ26の部分が別の熱可塑性樹脂素材によって形成されている。保湿用ヘッドキャップ23は、これらの2素材を2色成形によって一体成形することにより製造されているので、構造が単純であり、部品点数も少ない。よって、低コストで製造することができる。
【0033】
膜27およびシール部28の部分を形成している素材は、ゴムに近い弾性を有する熱可塑性エラストマーであり、例えば、アロン化成株式会社の製品であるエラストマーAR(スチレン系熱可塑性エラストマー)を用いることができる。この熱可塑性エラストマーは水分透過率が極めて低く、そのため、膜27全体が直接外気に接しているにも拘わらず、長時間にわたって密閉空間30内の水分を外部に逃がさずに保持可能なバリア性を備えている。すなわち、この熱可塑性エラストマーは、膜27の水分透過率が、予め設定した待機時間の間キャッピング状態を維持しても、密閉空間30内のノズル内のインクの増粘率が、正常なインクの吐出に支障が生じるほどには増大しない程度となっている。
【0034】
膜27は、温度変化などに起因して密閉空間30の内圧が変動するときには、外気との圧力差を反映して変形することにより、内圧変動を緩和する。例えば、密閉空間30の内圧が外気よりも低下したときには、膜27がノズル面側に凹んだ凹み状態F(図6の破線の状態)となり、内圧変動を緩和する。また、密閉空間30の内圧が外気よりも上昇したときには、膜27が外気側に膨らんだ膨張状態G(図6の一点鎖線の状態)となり、内圧変動を緩和する。本実施形態では、予め想定した範囲の内圧変動が生じても、膜27の変形によって内圧を一定に維持することができる程度の変形機能を有する膜27を用いている。
【0035】
すなわち、膜27は、予め想定した範囲の内圧変動を吸収するための必要コンプライアンス(基準圧力当たりの体積変化量)よりも、膜27のコンプライアンス(基準圧力当たりの変形量)が大きくなるように形成されており、この基準を満たす基準圧力当たりの変形量を得られるように、膜厚、膜平面形状、ヤング率などの特性が決定されている。
【0036】
保湿用ヘッドキャップ23は、キャッピング状態でのノズル面と膜27との距離を、凹み状態Fにおいて膜27がノズル面に干渉しない範囲で極力小さくなるようにシール部28の高さが決定されており、これにより、密閉空間30の容積を極力小さくするように構成されている。密閉空間30を小さくすることにより、内圧変動時の体積変動量を小さくできるので、必要コンプライアンスを小さくすることができる。よって、基準圧力当たりの変形量が小さい膜27を用いても内圧変動を緩和することが可能になる。
【0037】
(他の実施形態)
上記実施形態は、本発明をインクジェットプリンター1の制御方法に適用した例であったが、本発明は、インク以外の液体を吐出する他の液体吐出装置にも適用できる。例えば、試薬溶液や液状の試料などを液体吐出ヘッドから吐出するための液体吐出装置、液状塗料や液状材料を液体吐出ヘッドから吐出して印刷により塗布するための液体吐出装置、などにも適用可能である。
【0038】
(改変例)
上記実施形態では、保湿用ヘッドキャップ23の凹部29を浅い矩形の皿状に形成して、可撓性の膜27をキャッピング時にインクジェットヘッド13のノズル面に対峙する位置(皿の底面部分)に設けたが、保湿用ヘッドキャップ23の凹部29の形状は矩形の皿状に限定されず、多角形状や楕円形の皿状に形成することもできる。また、インクジェットヘッド13のノズル面に対峙する部分を曲面にして、曲面の全部あるいは一部を可撓性の膜27にしてもよい。あるいは、インクジェットヘッド13のノズル面に対峙していない側面部分を可撓性の膜状にしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…インクジェットプリンター(液体吐出装置)、2…プリンターケース、3…開口部、4…記録紙排出ガイド、5…開閉蓋、6…記録紙排出口、7a…電源スイッチ、7b…紙送りスイッチ、7c…動作状態表示ランプ、8…インクカートリッジ装着部、8a…装着口、9…インクカートリッジ、10…プリンター機構部、12…プラテン、13…インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)、13A…ノズル群(第1のノズル群)、13B…ノズル群(第2のノズル群)、14…キャリッジ、14a…キャリッジガイド軸、15a〜15d…サブタンク、16…ダイヤフラムポンプユニット、17a〜17d…可撓性インクチューブ、20…ヘッドメンテナンスユニット、21…ユニットケース、22…吸引用ヘッドキャップ、23…保湿用ヘッドキャップ、24…ヘッドキャップユニット、25…廃インクチューブ、26…ホルダ(基材部)、26a…開口、27…膜、27a…外周部分、28…シール部、29…凹部、30…密閉空間、A…ホームポジション、B…左端位置、C…退避位置、D…キャッピング位置、E…メンテナンス位置、F…凹み状態、G…膨張状態


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッドのノズル面側を覆って外気から遮断した密閉空間を形成可能に構成されている液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップにおいて、
前記密閉空間を外気から遮断している部分の少なくとも一部が外気に面する可撓性の膜であることを特徴とする液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップ。
【請求項2】
請求項1において、
前記膜は、前記密閉空間側から外気側への水分透過率が予め設定した値よりも低いことを特徴とする液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップ。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記膜は、前記密閉空間と外気との圧力差を吸収して前記密閉空間の内圧を一定に維持可能な変形性能を有していることを特徴とする液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの項において、
前記密閉空間を形成したときに前記ノズル面に対向している部分が前記膜であり、
前記膜と前記ノズル面との距離が、前記密閉空間の内圧低下時に前記ノズル面側に凹んだ前記膜が前記ノズル面に干渉しない範囲で最小限の寸法に設定されていることを特徴とする液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項において、
枠状の基材部と、
当該基材部における枠に囲まれた開口部分を覆って塞いでいる前記膜と、
前記膜の外周に沿って前記膜の面方向と直交する方向に立ち上がるシール部とを備え、
前記膜を前記液体吐出ヘッドのノズル面に対峙させて前記シール部を前記ノズル面の外周部分に圧接することにより、前記密閉空間を形成可能に構成されており、
前記基材部、前記膜、および前記シール部が一体成形されていることを特徴とする液体吐出ヘッドの保湿用ヘッドキャップ。
【請求項6】
キャリッジ走査方向に隣接配置されている第1のノズル群と第2のノズル群を備える液体吐出ヘッドと、
前記第1のノズル群と前記第2のノズル群のいずれか一方を選択的に密閉して、密閉状態のノズル群の周囲に負圧を形成して各ノズルから液体を吸引可能に構成されている吸引用ヘッドキャップと、
前記第1のノズル群と前記第2のノズル群のうち、前記液体吐出ヘッドがホームポジションにあるときに前記吸引用ヘッドキャップによって密閉されない側のノズル群を密閉可能に構成されている請求項1ないし5のいずれかの項に記載の保湿用ヘッドキャップとを有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記吸引用ヘッドキャップと前記保湿用ヘッドキャップは、前記液体吐出ヘッドのホームポジションに対向する位置において、前記保湿用ヘッドキャップがキャリッジ走査範囲の端側となり、且つ、前記吸引用ヘッドキャップがキャリッジ走査範囲の中央側となるようにキャリッジ走査方向に隣接配置されていることを特徴とする液体吐出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−56792(P2011−56792A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208987(P2009−208987)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】