説明

液体吐出ヘッドの製造方法、および液体吐出ヘッド

【課題】製造工程において、フレキシブルケーブルに設けられた配線が他の部材に接触して破壊されるのを防止する。
【解決手段】フレキシブルケーブル4の引出部を押さえ板7の側面に接合して、流路ユニット2のフレキシブルケーブル4と圧電アクチュエータ3が接合される面に対して、引出部を立ち上げる。その後、補強フレーム8の開口をフレキシブルケーブル4の引出部が通過するように、流路ユニット2と補強フレーム8を積層して接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体を吐出する液体吐出ヘッドとして、例えばインクジェットプリンタに搭載されたインクジェットヘッドがある。特許文献1に記載されたインクジェットヘッドは、複数のノズルを外部に開口させ内部にインク流路を有するキャビティユニットと、キャビティユニット内のインクに複数のノズルから選択的に吐出する圧力を与える圧電アクチュエータと、圧電アクチュエータに駆動信号を出力するフレキシブルフラットケーブルとが積層配置される構造のヘッドユニットと、ヘッドユニットの背面側に剛性板と補強フレームを備えている。
【0003】
この特許文献1に記載されたインクジェットヘッドにおいて、印字高速化のためにノズル数を増やすと、駆動電圧が付与される圧電アクチュエータの電極も増え、その結果、圧電アクチュエータの電極と接続されるフレキシブルフラットケーブルの端子電極から引き出される配線数が増えることとなる。フレキシブルフラットケーブルの配線数が増えて、配線密度が高くなると、隣接する配線同士でクロストークが発生するおそれがある。一方、フレキシブルフラットケーブルに配置される配線の配線密度が高くなるのを抑えるためには、フレキシブルフラットケーブルの配線が配置される面積を大きくする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−276330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本願出願人は、フレキシブルフラットケーブルの配線が設けられる引出部を端子電極が配置される接続部に対して複数設け、フレキシブルフラットケーブルの端子電極から配線を複数の引出部のそれぞれに引き出して配置する構成を考え出した。この構成により、配線密度を高くすることなく、かつ、配線が配置されたそれぞれの引出部の面積大きくすることなく、多くの配線を配置できるようになった。
【0006】
しかしながら、この引出部を複数設ける構成では、インクジェットヘッドの製造工程において、補強フレームとフレキシブルフラットケーブルが干渉して、補強フレームの角部のバリなどがフレキシブルフラットケーブルを傷つけてしまい、その結果、フレキシブルフラットケーブル上の配線が断線してしまうおそれがあった。従来は、図6(a)に示すように、フレキシブルフラットケーブル4の引出部13が1つのみであったため、引出部13を補強フレーム8の開口部を通過させるとともに、引出部13持ち上げることで、引出部13を補強フレーム8に接触させることなく、図6(b)に示すように、補強フレーム8をヘッドユニット2に接合することができた。
【0007】
しかし、図6(c)に示すように、フレキシブルフラットケーブル4の引出部13が2つ設けられた構成では、一方の引出部13を補強フレーム8の開口部を通過させるだけでは、図6(d)に示すように、補強フレーム8をヘッドユニット2に接合することができず、両方の引出部13を同時に湾曲させて持ち上げることで補強フレーム8の開口部を通過させるか、あるいは、一方の引出部13を補強フレーム8の開口部を通過させた後に、他方の引出部13を湾曲させて補強フレーム8の開口部を通過させる必要がある。いずれの方法でも、フレキシブルフラットケーブル4が補強フレーム8の開口部と接触し、フレキシブルケーブル4に配置された配線が断線するおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、端子電極が配置された接続部に対して、端子電極から引き出された配線を配置する引出部が複数設けられたフレキシブルフラットケーブルなどの平型柔軟ケーブルを備えた液体吐出ヘッドにおいて、平型柔軟ケーブル上の配線を断線させることなく液体吐出ヘッドを製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、圧力室と、前記圧力室に連通するノズルを有する液体流路が形成された流路ユニットと、前記流路ユニットに接合され、前記ノズルから液体を吐出させるために前記圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、前記アクチュエータと電気的に接続される複数の接続端子が設けられた1つの接続部と、この接続部に連なって形成されるものであって、前記複数の接続端子から延びる配線が設けられた複数の引出部とを備えており、前記複数の引出部が前記接続部から互いに異なる方向に延出するように構成された配線部材と、前記配線部材の前記アクチュエータと反対側の面における前記接続部の前記複数の接続端子よりも前記引出部側に接合された、前記配線部材が前記アクチュエータから剥離するのを抑制する剥離抑制部材と、前記流路ユニットの前記アクチュエータと前記接続部が接合される領域の周囲に接合され、前記流路ユニットを補強するための補強フレームと、を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記流路ユニットと前記アクチュエータを接合する第1工程と、前記アクチュエータと前記配線部材を電気的に接続させる第2工程と、前記配線部材と前記剥離抑制部材を接合する第3工程と、前記流路ユニットと前記補強フレームを接合する第4工程と、を備え、前記第3工程において、前記配線部材の前記複数の引出部を前記剥離抑制部材に接合させて、前記複数の引出部を前記接続部に対して立ち上げて形成することを特徴としている。
【0010】
配線部材に設けられた配線が他の部材と接触すると、配線が傷付き断線してしまうおそれがあるが、この発明によれば、配線部材の引出部を接続部に対して立ち上げて形成しているため、引出部が補強フレームと接触することがない。そのため、引出部に設けられた配線が他の部材と接触することがなく、配線が傷付き断線することなく、液体吐出ヘッドを製造することができる。そして、配線部材の引出部を立ち上げる際に、部材を追加することなく、配線部材がアクチュエータから剥離するのを抑制する剥離抑制部材に配線部材の引出部を接合させることで、配線部材の引出部を接続部に対して容易に立ち上げることができる。
【0011】
第2の発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、前記第1の発明において、前記アクチュエータは、圧電材料が積層されて形成された板状の圧電アクチュエータであり、前記アクチュエータの一方の面が前記流路ユニットと接合されるとともに、前記アクチュエータの他方の面が前記配線部材の前記接続部と接合されており、前記第1工程から前記第4工程の全ての工程の後に、前記アクチュエータの露出した側面を大気と遮断するために、前記側面を封止材で封止する第5工程をさらに備えたことを特徴としている。
【0012】
これによれば、圧電アクチュエータが大気と接触することで、圧電アクチュエータが大気中の水分を吸収し、圧電アクチュエータに設けられた電極がマイグレーションを起こして、電極同士が導通することで、圧電アクチュエータが破壊されることがある。そのため、圧電アクチュエータを大気から遮断するために封止材で封止することがあるが、この発明によれば、封止材で圧電アクチュエータの側面を封止する際に、圧電アクチュエータに接続させる配線部材の引出部が立ち上げられているため、圧電アクチュエータの側面が露出しており、その露出した圧電アクチュエータの側面を容易に封止材で封止することができる。
【0013】
第3の発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、前記第2の発明において、前記剥離抑制部材における前記配線部材の前記複数の引出部が接合される領域は、前記剥離抑制部材と前記配線部材の前記接続部が接合される面から離れるほど近づくように前記接続部が接合される面に対して傾斜しており、前記第3工程において、前記配線部材の前記複数の引出部を前記剥離抑制部材の前記傾斜した領域に接合して、前記複数の引出部を前記接続部に対して立ち上げることを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、配線部材の複数の引出部を、配線部材と剥離抑制部材の積層方向から見たときに、配線部の接続部と重なる領域に配置することができるため、引出部に設けられた配線が他の部材と接触することを確実に防止することができる。
【0015】
第4の発明の液体吐出ヘッドは、圧力室と、前記圧力室に連通するノズルを有する液体流路が形成された流路ユニットと、前記流路ユニットに接合され、前記ノズルから液体を吐出させるために前記圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、前記アクチュエータと電気的に接続される複数の接続端子が設けられた1つの接続部と、この接続部に連なって形成されるものであって、前記複数の接続端子から延びる配線が設けられた複数の引出部とを備えており、前記複数の引出部が前記接続部から互いに異なる方向に延出するように構成された配線部材と、前記配線部材の前記アクチュエータと反対側の面における前記接続部の前記複数の接続端子よりも前記引出部側に接合された、前記配線部材が前記アクチュエータから剥離するのを抑制する剥離抑制部材と、前記流路ユニットの前記アクチュエータと前記接続部が接合される領域の周囲に接合され、前記流路ユニットを補強するための補強フレームと、を備えた液体吐出ヘッドであって、前記配線部材の前記複数の引出部を前記剥離抑制部材に接合させて、前記複数の引出部を前記接続部に対して立ち上げられていることを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、配線部材の複数の引出部と補強フレームが接触しないため、引出部に設けられた配線が傷付き断線することがない。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法は、配線部材の引出部を接続部に対して立ち上げて形成しているため、引出部が補強フレームと接触することがない。そのため、引出部に設けられた配線が他の部材と接触することがなく、配線が傷付き断線することなく、液体吐出ヘッドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す外観斜視図である。
【図2】図1のインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図3】図1のV−V線断面図である。
【図4】本実施形態に係るインクジェットヘッドの製造工程を示す工程図である。
【図5】他の実施形態に係るフレキシブルフラットケーブルを示す平面図である。
【図6】(a)、(b)は、1の引出部を有するフレキシブルフラットケーブルが接合された流路ユニットに補強フレームを接合する図、(c)、(d)は、2の引出部を有するフレキシブルフラットケーブルが接合された流路ユニットに補強フレームを接合する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態は、液体供給装置として、記録用紙に対してインクを噴射して画像等を記録する、インクジェットプリンタのインクジェットヘッドに本発明を適用したものである。
【0020】
図1は、本実施形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す外観斜視図である。図1に示すように、インクジェットヘッド1は、ノズルや圧力室などのインク流路を有する流路ユニット2と、圧力室内のインクにノズルから吐出させるための圧力を付与する圧電アクチュエータ3(アクチュエータ)と、圧電アクチュエータ3に駆動電圧を供給するフレキシブルケーブル4(配線部材)と、フレキシブルケーブル4が圧電アクチュエータ3から剥離するのを防止する押さえ板7(剥離抑制部材)と、流路ユニット2の変形を抑制するための補強フレーム8などを備えている。
【0021】
流路ユニット2は、SUSなどの薄板金属プレートを複数枚積層して形成されており、これらの金属プレートのそれぞれには、エッチングなどにより穴や溝が形成されている。そして、複数の金属プレートが積層して接合されることで、その内部にインク流路を形成する。インク流路は、図2に示すように、インク流入口10と、インク流入口10に連通する図示しない共通液室と、共通液室に連通する複数の圧力室と、それぞれの圧力室に連通するノズルを備えている。
【0022】
圧電アクチュエータ3は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のセラミックス材料を積層して形成されており、流路ユニット2上に設けられている。圧電アクチュエータ3の上面には、流路ユニット2の複数の圧力室のそれぞれに対応する複数の電極11と、これら複数の電極11に対応する図示しない共通電極を有している。圧電アクチュエータ3は、電界が付与されたときに圧電変形をするものであれば、PZTに限られない。
【0023】
フレキシブルケーブル4は、可撓性の樹脂(ポリイミドなど)で形成されており、圧電アクチュエータ3の複数の電極11のそれぞれと電気的に接続される図示しない接続端子と、これらの接続端子のそれぞれから延びた配線と、これらの配線に接続されているドライバIC5と、ドライバIC5と外部の制御基板を接続する端子6が備えられている。
【0024】
このフレキシブルケーブル4は、接続端子が圧電アクチュエータ3の複数の電極11とハンダなどにより電気的に接合され、圧電アクチュエータ3上に積層して配置される。この接続端子が配置された接続部12(図2の点線で囲まれた部分)の両側に接続端子から延びた配線が配置された一対の引出部13が形成されている。すなわち、配線は、接続部12の接続端子からいずれかの引出部13に向けて配置されている。そして、引出部13のそれぞれの端側には、ドライバIC5と端子6が備えられている。ドライバIC5は駆動することで発熱するが、ドライバIC5の温度が上昇すると、ドライバIC5が破壊されてしまうおそれがある。そのため、ドライバIC5の発熱を放熱する必要があり、複数のドライバIC5が配置されている場合には、互いに離隔して配置されている方が好ましい。そこで、後述するフレキシブルケーブル4を立ち上げた際に、ドライバIC5同士の距離が遠くなるようにドライバIC5は、フレキシブルケーブル4の圧電アクチュエータ3と接合させる面側に配置されている。
【0025】
押さえ板7は、フレキシブルケーブル4上に積層され、平面視で圧電アクチュエータ3とほぼ同じ外形を有する矩形状の金属板である。この押さえ板7がフレキシブルケーブル4上に両面テープや接着剤などで接合されており、フレキシブルケーブル7が圧電アクチュエータ3から剥離するのを抑制している。すなわち、押さえ板7がない場合に、フレキシブルケーブル4に圧電アクチュエータ3から剥離させる力が働くと、フレキシブルケーブル4の幅方向最外側の端子から順番に内側に向かって、圧電アクチュエータ3の電極11とを接合しているハンダバンプ14が剥離することとなる。しかし、押さえ板7がある場合には、フレキシブルケーブル4に圧電アクチュエータ3から剥離させる力が働いても、フレキシブルケーブル4の幅方向に直交する方向における最外側の端子列におけるすべての端子に均等に剥離する力が作用することとなる。そのため、押さえ板7がない場合に比べて、フレキシブルケーブル4が圧電アクチュエータ3から剥離するのを抑制することができる。この押さえ板7は、フレキシブルケーブル4が圧電アクチュエータ3から剥離するのを抑制するものであるため、圧電アクチュエータ3とほぼ同じ外形であることに限られず、圧電アクチュエータ3の最外側に位置する電極11上のハンダバンプ14を覆う形状であれば例えば、最外側に位置する電極11のみに対応する棒状部材など、いかなる形状であってもよい。また、押さえ板7は、金属材料に限られず、樹脂等で形成されていてもよい。
【0026】
そして、この押さえ板7の側面は、図3に示すように、押さえ板7とフレキシブルケーブル4の積層方向に対して、フレキシブルケーブル4から離れるほど押さえ板7の水平断面が小さくなるように傾斜している。すなわち、押さえ板7の側面は、フレキシブルケーブル4が接合される面に直交する方向に対して傾斜しており、押さえ板7のフレキシブルケーブル4が接合される面と反対側の面の面積は、フレキシブルケーブル4が接合される面の面積よりも小さくなっている。この押さえ板7の側面に、両面テープや接着剤などにより、フレキシブルケーブル4の引出部13が貼り付けられており、フレキシブルケーブル4は、上方ほど引出部13の距離が近づくように折り曲げて立ち上げられている。
【0027】
補強フレーム8は、金属材料からなり、中央部が開口した流路ユニット2を補強するためのロの字型のフレームである。流路ユニット2とは、両面テープや接着剤などで接合されている。そして、流路ユニット2と積層して接合されたときに、流路ユニット2上の圧電アクチュエータ3とフレキシブルケーブル4に対応する中央部が開口している。また、流路ユニット2のインク流入口10に対応する部分にインク供給口9が形成されている。このインク供給口9は、図示しない外部のインクタンクと連通している。
【0028】
流路ユニット2は、上述の通り、薄板金属プレートを積層して形成されているため、積層方向の曲げ剛性が低く、外力が作用したときに曲がり塑性変形してしまうおそれがあるため、補強フレーム8で補強している。また、流路ユニット2を走査方向に移動させるための移動手段である図示しないキャリッジ等に取り付ける場合にも、薄板金属プレートを積層してあるため、ねじ留めなどにより固定することが困難であるが、補強フレーム8を介してキャリッジ等と接合することで、製造工程を容易にすることができる。この補強フレーム8は流路ユニット2を補強するものであるため、金属材料に限られず、樹脂等で形成されていてもよく、必要な曲げ剛性を得られるだけその厚さが確保されていればよい。また、その形状は、ロの字型に限られず、コの字型でもよく、さらには、流路ユニット2の短辺方向の両側端部に一対の棒状のものでもよい。すなわち、流路ユニット2の長辺方向に垂直な方向の断面の曲げ剛性を補強するものであれば、いかなる形状であってもよい。
【0029】
さらに、圧電アクチュエータ3の周囲には、圧電アクチュエータ3の側面を封止するように樹脂などの封止材15が配置されている。この封止材15は、圧電アクチュエータ3の側面を覆うように、流路ユニット2とフレキシブルケーブル4、および圧電アクチュエータ3の上面端部にも付着している。圧電アクチュエータ3は、セラミックス材料で形成されているため、大気中の水分を吸収すると、圧電アクチュエータ3の電極11間や共通電極との間でマイグレーションが発生するのを促進してしまう。そのため、封止材15により、圧電アクチュエータ3を大気から遮断している。
【0030】
このインクジェットヘッド1の駆動方法について説明する。
【0031】
制御基板に入力されたデータに基づき、制御基板から端子6を介してそれぞれのドライバIC5に駆動電圧および駆動信号が供給される。制御基板から供給された駆動電圧と駆動信号に基づき、ドライバIC5が駆動波形を生成する。この駆動波形は、2種類の所定の電圧(例えば、0Vと20V)を選択的に切り替えるものである。そして、ドライバIC5が接続端子を介して圧電アクチュエータ3の複数の電極11にその駆動波形を供給する。また、圧電アクチュエータ3の共通電極は常に0Vに保持されており、電極11に付与された電圧との電位差によって電極11と共通電極に挟まれたPZTに電界が付与され、PZTが圧電変形する。この圧電変形が、流路ユニット2の圧力室の容積を変化させ、圧力室内のインクに圧力を付与することで、ノズルからインクを吐出させる。
【0032】
次に、インクジェットヘッド1の製造方法について説明する。
【0033】
まず、図4(a)に示すように、流路ユニット2と圧電アクチュエータ3を接合する(第1工程)。ここでは、流路ユニット2と圧電アクチュエータ3を個別に形成した後、両面テープや接着剤で接合してもよく、また、流路ユニット2上に、エアロゾルデポジション法、ゾルゲル法、スパッタ法などで直接圧電アクチュエータ3を形成してもよい。さらに、流路ユニット2の上に圧電材料となるPZTを主成分とするグリーンシートを積層した後、流路ユニット2とグリーンシートを加熱して焼成させて圧電アクチュエータ3を形成してもよい。
【0034】
次に、図4(b)に示すように、圧電アクチュエータ3の複数の電極11上にハンダバンプ14を形成し、圧電アクチュエータ3上にフレキシブルケーブル4を積層して電極11とフレキシブルケーブル4の接続端子と接合する(第2工程)。
【0035】
次に、図4(c)に示すように、フレキシブルケーブル4上の圧電アクチュエータ3と重なる領域に、押さえ板7を両面テープや接着剤などで接合する。そして、図4(d)に示すように、フレキシブルケーブル4を折り曲げて引出部13を押さえ板7の側面に両面テープや接着剤などで接合する(第3工程)。この際、押さえ板7の側面の傾斜に合わせてフレキシブルケーブル4を接合することで、フレキシブルケーブル4は、上方ほど引出部13の距離が近づくように立ち上げられている。
【0036】
その後、図4(e)に示すように、上方から補強フレーム8のロの字の開口に上記フレキシブルケーブル4の立ち上げた部分を通過させて、補強フレーム8を流路ユニット2上に積層して、両面テープや接着剤などにより接合する(第4工程)。
【0037】
そして、図4(f)に示すように、圧電アクチュエータ3の周囲にその側面を覆うように、封止材15を塗布する(第5工程)。
【0038】
補強フレーム8の開口部は、プレス加工により開口されている場合には、開口部にバリが生じていることがある。このバリがフレキシブルケーブル4と接触すると、フレキシブルケーブル4に配置された配線が傷つき断線するおそれがある。一方、補強フレーム8のバリを除去することも考えられるが、その場合には、バリを除去する工程が必要となり、製造コストが高くなる。また、開口部をエッチングなど他の方法により開口する場合には、プレス加工に比べて製造コストが高くなる。さらに、仮に、フレキシブルケーブル4を立ち上げておらず、図4(c)の態様で補強フレーム8を流路ユニット2に接合しようとすると、フレキシブルケーブル4の片持ち梁状の両方の引出部13を同時に湾曲させて補強フレーム8の開口部を通過させる必要があり、製造工程が煩雑となる。さらに、引出部13を湾曲させて補強フレーム8の開口部を通過させると、引出部13が補強フレーム8の開口部や、開口部のバリと接触するおそれがあり、その結果、フレキシブルケーブル4に配置された配線が傷つき断線するおそれがある。
【0039】
しかしながら、本実施形態の製造工程では、フレキシブルケーブル4を立ち上げて押さえ板7の側面に接合して固定しており、フレキブルケーブル4の立ち上げた引出部13を容易に補強フレーム8の開口部を通過させることができる。この場合に、補強フレーム8の開口部に多少バリがあったとしても、フレキシブルケーブル4の引出部13が立ち上げて押さえ板7の側面に固定されているため、バリと接触するおそれもない。そのため、フレキシブルケーブル4の配線が断線することなく、かつ簡単な製造工程でインクジェットヘッド1を製造することができる。
【0040】
また、フレキシブルケーブル4の引出部13を立ち上げる際に、部材を追加することなく、従来から用いられているフレキシブルケーブル4が圧電アクチュエータ3から剥離するのを抑制する押さえ部材7の側面に引出部13を接合させることで、引出部13を容易に立ち上げて固定することができる。
【0041】
また、仮に、引出部13が垂直に立ち上げられているとすると、引出部13を補強フレーム8の開口部を通過させる際に、引出部13と補強フレーム8、あるいは、引出部13に配置されたドライバIC5と補強フレーム8が接触するおそれがある。しかし、本実施形態では、フレキシブルケーブル4は、上方ほど引出部13の距離が近づくように立ち上げられている。フレキシブルケーブル4とドライバIC5が補強フレーム8と接触して、フレキシブルケーブル4の配線が断線することなく、さらに、ドライバIC5を破壊することもない。
【0042】
さらに、フレキシブルケーブル4の引出部13が立ち上げて押さえ板7の側面に固定されているため、第5工程において、圧電アクチュエータ3の周囲に封止材15を容易に塗布することができる。
【0043】
以上のとおり、フレキシブルケーブル4の引出部13を立ち上げて押さえ板7の側面に固定させることで、補強フレーム8の開口部にフレキシブルケーブル4を接触させることがなく、さらに、封止材15を容易に塗布することができる。
【0044】
なお、第1工程から第4工程の工程は、いかなる順序で行ってもよい。すなわち、圧電アクチュエータ3が接合された流路ユニット2(第1工程)に、補強フレーム8を先に接合した(第4工程)後に、フレキシブルケーブル4上に接合した押さえ板7の側面にフレキシブルケーブル4の引出部13を立ち上げて固定し(第3工程)、その後、フレキシブルケーブル4と圧電アクチュエータ3を接合(第2工程)してもよい。
【0045】
また、流路ユニット2に補強フレーム8を接合した(第4工程)ユニットと、圧電アクチュエータ3上にフレキシブルケーブル4と押さえ板7を積層して接合したユニットのフレキシブルケーブル4の引出部13を立ち上げて押さえ板7の側面に固定して(第2工程、第3工程)、これらのユニットを接合することで、流路ユニット2と圧電アクチュエータ3を接合(第1工程)してもよい。
【0046】
以上では、フレキシブルケーブル4の接続部12の両側に一対の引出部13が設けられていたが、これに限られず、図5(a)に示すように、接続部12と引出部13が直線上に配置されていなくてもよい。さらに、図5(b)、(c)に示すように、引出部13が接続部12に対して、3つ以上設けられていてもよい。これらの場合には、引出部13を立ち上げた際に、互いに干渉することがないように、引出部13の接続部12側の幅に対して、引出部13の接続部12と反対側の幅を狭く構成している。
【符号の説明】
【0047】
1 インクジェットヘッド
2 流路ユニット
3 圧電アクチュエータ(アクチュエータ)
4 フレキシブルケーブル(配線部材)
7 押さえ板(剥離抑制部材)
8 補強フレーム
12 接続部
13 引出部
15 封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室と、前記圧力室に連通するノズルを有する液体流路が形成された流路ユニットと、
前記流路ユニットに接合され、前記ノズルから液体を吐出させるために前記圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、
前記アクチュエータと電気的に接続される複数の接続端子が設けられた1つの接続部と、この接続部に連なって形成されるものであって、前記複数の接続端子から延びる配線が設けられた複数の引出部とを備えており、前記複数の引出部が前記接続部から互いに異なる方向に延出するように構成された配線部材と、
前記配線部材の前記アクチュエータと反対側の面における前記接続部の前記複数の接続端子よりも前記引出部側に接合された、前記配線部材が前記アクチュエータから剥離するのを抑制する剥離抑制部材と、
前記流路ユニットの前記アクチュエータと前記接続部が接合される領域の周囲に接合され、前記流路ユニットを補強するための補強フレームと、を備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記流路ユニットと前記アクチュエータを接合する第1工程と、
前記アクチュエータと前記配線部材を電気的に接続させる第2工程と、
前記配線部材と前記剥離抑制部材を接合する第3工程と、
前記流路ユニットと前記補強フレームを接合する第4工程と、を備え、
前記第3工程において、
前記配線部材の前記複数の引出部を前記剥離抑制部材に接合させて、前記複数の引出部を前記接続部に対して立ち上げて形成することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記アクチュエータは、圧電材料が積層されて形成された板状の圧電アクチュエータであり、
前記アクチュエータの一方の面が前記流路ユニットと接合されるとともに、前記アクチュエータの他方の面が前記配線部材の前記接続部と接合されており、
前記第1工程から前記第4工程の全ての工程の後に、前記アクチュエータの露出した側面を大気と遮断するために、前記側面を封止材で封止する第5工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記剥離抑制部材における前記配線部材の前記複数の引出部が接合される領域は、前記剥離抑制部材と前記配線部材の前記接続部が接合される面から離れるほど近づくように前記接続部が接合される面に対して傾斜しており、
前記第3工程において、前記配線部材の前記複数の引出部を前記剥離抑制部材の前記傾斜した領域に接合して、前記複数の引出部を前記接続部に対して立ち上げることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
圧力室と、前記圧力室に連通するノズルを有する液体流路が形成された流路ユニットと、
前記流路ユニットに接合され、前記ノズルから液体を吐出させるために前記圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、
前記アクチュエータと電気的に接続される複数の接続端子が設けられた1つの接続部と、この接続部に連なって形成されるものであって、前記複数の接続端子から延びる配線が設けられた複数の引出部とを備えており、前記複数の引出部が前記接続部から互いに異なる方向に延出するように構成された配線部材と、
前記配線部材の前記アクチュエータと反対側の面における前記接続部の前記複数の接続端子よりも前記引出部側に接合された、前記配線部材が前記アクチュエータから剥離するのを抑制する剥離抑制部材と、
前記流路ユニットの前記アクチュエータと前記接続部が接合される領域の周囲に接合され、前記流路ユニットを補強するための補強フレームと、を備えた液体吐出ヘッドであって、
前記配線部材の前記複数の引出部を前記剥離抑制部材に接合させて、前記複数の引出部を前記接続部に対して立ち上げられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−73309(P2011−73309A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227699(P2009−227699)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】