説明

液体吐出ヘッドを駆動するための駆動回路および駆動方法

【課題】液体を吐出する複数のノズルと複数のノズルに対応して設けられた複数のアクチュエーターとを有する液体吐出ヘッドを駆動する際の駆動信号の波形再現性を向上させる。
【解決手段】液体吐出ヘッドを駆動するための駆動回路は、アクチュエーターを駆動するための駆動信号の基準となる駆動波形信号をパルス密度変調方式によりパルス変調して変調信号とする変調回路と、変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、電力増幅変調信号を平滑化して駆動信号とする平滑フィルターと、を備える。変調回路は、駆動波形信号に同期した所定の信号に基づき、発振開始タイミングを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドを駆動するための駆動回路および駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷ヘッドの有する複数のノズルから印刷媒体上にインクを吐出して画像や文書を記録するインクジェットプリンターが広く普及している。このようなインクジェットプリンターでは、印刷ヘッドの各ノズルに対応して設けられたアクチュエーターが駆動信号に従い駆動されることにより、所定のタイミングで所定量のインクがノズルから吐出される。
【0003】
印刷ヘッドのアクチュエーターを駆動するための駆動信号は、例えば、駆動信号の基準となる駆動波形信号をパルス密度変調(Pulse Density Modulation、PDM)方式によりパルス変調して変調信号とし、変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とし、電力増幅変調信号を平滑化することにより生成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−114711号公報
【特許文献2】特開2007−168172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように生成された駆動信号には、一般に、パルス変調の発振周波数等に対応するリップルノイズが含まれる。ここで、パルス密度変調方式は自励式の変調方式であるため、発振周波数が信号レベル(電圧レベル)に応じて変動する。そのため、発振タイミングによっては、入力信号の波形が同じであっても、リップルノイズが重畳される位置のずれによって、出力される駆動信号の波形が異なることとなる場合がある。このように、パルス密度変調方式によりパルス変調を利用してアクチュエーターを駆動するための駆動信号を生成する場合には、波形再現性が低下する場合があるという課題があった。駆動信号の波形再現性が低下すると、インクの吐出安定性が低下する。
【0006】
なお、このような課題は、インクジェットプリンターにおける印刷ヘッドに限らず、液体を吐出する複数のノズルと複数のノズルに対応して設けられた複数のアクチュエーターとを有する液体吐出ヘッドを駆動する際に共通の課題であった。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、液体を吐出する複数のノズルと複数のノズルに対応して設けられた複数のアクチュエーターとを有する液体吐出ヘッドを駆動する際の駆動信号の波形再現性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本発明は、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルに対応して設けられた複数のアクチュエーターと、を有する液体吐出ヘッドを駆動するための駆動回路であって、
前記アクチュエーターを駆動するための駆動信号の基準となる駆動波形信号をパルス密度変調方式によりパルス変調して変調信号とする変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、
前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、を備え、
前記変調回路は、前記駆動波形信号に同期した所定の信号に基づき、発振開始タイミングを決定する、駆動回路。
【0010】
この駆動回路では、変調回路が駆動波形信号に同期した所定の信号に基づき発振開始タイミングを決定するため、変調回路の発振開始タイミングが駆動波形信号に同期したタイミングとなり、駆動回路から出力される駆動信号に含まれるリップルノイズも駆動波形信号の周期や波形に対応したノイズとなる。そのため、この駆動回路では、液体を吐出する複数のノズルと複数のノズルに対応して設けられた複数のアクチュエーターとを有する液体吐出ヘッドを駆動する際の、駆動信号の波形再現性を向上させることができる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の駆動回路であって、
前記所定の信号は、液体を吐出すべきノズルを選択する選択信号を前記液体吐出ヘッドの有するシフトレジスターからラッチするためのラッチ信号と、前記駆動波形信号を構成する各駆動パルスの出力タイミングを特定するチャンネル信号と、前記液体吐出ヘッドの位置に応じて生成されるタイミング信号と、の少なくとも1つである、駆動回路。
【0012】
この駆動回路では、変調回路が、駆動波形信号に同期した信号に基づき発振開始タイミングを決定することができる。
【0013】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の駆動回路であって、
前記デジタル電力増幅回路は、複数のスイッチング素子を有し、
前記アクチュエーターは、容量性負荷であり、
前記駆動回路は、前記駆動波形信号に応じた所定の期間に前記複数のスイッチング素子をオフ状態として前記デジタル電力増幅回路の動作を停止する停止制御を行う停止制御手段を備え、
前記変調回路は、前記デジタル電力増幅回路の動作が停止されているか否かに関わらず、前記発振開始タイミングの決定を行う、駆動回路。
【0014】
この駆動回路では、デジタル電力増幅回路の動作の停止制御によって消費電力の低減を図りつつ、駆動信号の波形再現性を向上させることができる。
【0015】
[適用例4]適用例3に記載の駆動回路であって、
前記停止制御手段は、前記デジタル電力増幅回路の動作を停止しているときに、前記変調回路により前記発振開始タイミングが決定されると、前記デジタル電力増幅回路の動作を再開させる、駆動回路。
【0016】
この駆動回路では、デジタル電力増幅回路の動作の停止制御によって消費電力の低減を図りつつ、駆動信号の波形再現性を向上させることができる。
【0017】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、液体吐出ヘッドを駆動するための駆動回路および駆動方法、そのような液体吐出ヘッドおよび駆動回路を有する液体吐出装置およびその制御方法、これらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータープログラム、そのコンピュータープログラムを記録した記録媒体、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例における印刷システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】プリンター100の制御ユニット40を中心とした概略構成を示す説明図である。
【図3】印刷ヘッド60に供給される各種信号の一例を示す説明図である。
【図4】印刷ヘッド60のスイッチングコントローラー61の構成を示す説明図である。
【図5】印刷ヘッド60を駆動するための駆動回路80の概略構成を示す説明図である。
【図6】変調回路82の機能ブロックを示す説明図である。
【図7】駆動回路80の具体的な機能構成の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0020】
A.実施例:
図1は、本発明の実施例における印刷システムの概略構成を示す説明図である。本実施例の印刷システムは、プリンター100と、プリンター100に印刷データPDを供給するホストコンピューター90と、を備えている。プリンター100は、コネクター12を介してホストコンピューター90と接続されている。
【0021】
本実施例のプリンター100は、液体を吐出する液体吐出装置の1つであるインクジェットプリンターである。プリンター100は、液体としてのインクを吐出することによって印刷媒体上にインクドットを形成し、これにより、印刷データPDに応じた文字、図形、画像等を記録する。
【0022】
図1に示すように、プリンター100は、印刷ヘッド60を搭載するキャリッジ30と、キャリッジ30をプラテン26の軸に平行な方向に沿って往復移動させる主走査を行う移動機構と、印刷媒体としての用紙Pを主走査方向と交差する方向(副走査方向)に搬送する副走査を行う搬送機構と、印刷に関する種々の指示・設定操作を行うための操作パネル14と、プリンター100の各部を制御する制御ユニット40と、を備えている。なお、キャリッジ30は、図示しないフレキシブルケーブル(FFC)を介して制御ユニット40と接続されている。
【0023】
用紙Pを搬送する搬送機構は、紙送りモーター22を有している。紙送りモーター22の回転は、ギヤトレイン(不図示)を介して用紙搬送ローラー(同)に伝達され、用紙搬送ローラーの回転により用紙Pは副走査方向に沿って搬送される。
【0024】
キャリッジ30を往復移動させる移動機構は、キャリッジモーター32と、プラテン26の軸と平行に架設されキャリッジ30を摺動可能に保持する摺動軸34と、キャリッジモーター32との間に無端の駆動ベルト36を張設するプーリー38と、を有している。キャリッジモーター32の回転は、駆動ベルト36を介してキャリッジ30に伝達され、これによりキャリッジ30が摺動軸34に沿って往復移動する。なお、プリンター100は、キャリッジ30(印刷ヘッド60)の主走査方向に沿った位置を検出するため、キャリッジモーター32の回転に伴ってパルス状の信号を制御ユニット40に出力するエンコーダー(不図示)を備えている。制御ユニット40は、エンコーダーから出力されたパルス状の信号に基づき、後述するシフトレジスター63への駆動信号選択信号SI&SPの入力タイミングを規定するタイミング信号PTSを生成する。
【0025】
キャリッジ30には、それぞれ所定の色(例えば、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、ブラック(K))のインクが収容された複数のインクカートリッジ70が搭載されている。キャリッジ30に搭載されたインクカートリッジ70に収容されたインクは、印刷ヘッド60に供給される。また、印刷ヘッド60は、インクを吐出する複数のノズルと、各ノズルに対応して設けられたアクチュエーター(ノズルアクチュエーター)を有している。本実施例では、ノズルアクチュエーターとして、ピエゾ素子(圧電素子)を用いている。ノズルアクチュエーターが後述する駆動信号により駆動されると、ノズルに連通するキャビティー(圧力室)内の振動板が変位してキャビティー内に圧力変化を生じさせ、その圧力変化によって対応するノズルからインクが吐出される。ノズルアクチュエーターの駆動に用いる駆動信号の波高値や電圧増減傾きを調整することで、インクの吐出量(すなわち形成するドットの大きさ)を調整することができる。
【0026】
図2は、プリンター100の制御ユニット40を中心とした概略構成を示す説明図である。制御ユニット40は、ホストコンピューター90から入力された印刷データPD等を入力するためのインターフェイス41と、インターフェイス41を介して入力された印刷データPDに基づいて所定の演算処理を実行する制御部42と、紙送りモーター22を駆動制御する紙送りモータードライバー43と、印刷ヘッド60を駆動制御するヘッドドライバー45と、キャリッジモーター32を駆動制御するキャリッジモータードライバー46と、各ドライバー43、45、46と紙送りモーター22、印刷ヘッド60、キャリッジモーター32とをそれぞれ接続するインターフェイス47と、を有している。
【0027】
制御部42は、各種演算処理を実行するCPU51と、プログラムやデータを一時的に格納・展開するRAM52と、CPU51が実行するプログラム等を格納するROM53と、を含んでいる。制御部42による各種の機能は、CPU51がROM53に格納されたプログラムに基づいて動作することによって実現される。なお、制御部42による機能の少なくとも一部は、制御部42が備える電気回路がその回路構成に基づいて動作することによって実現されても良い。
【0028】
制御部42は、ホストコンピューター90からインターフェイス41を介して印刷データPDを取得すると、印刷データPDに所定の処理を実行して、印刷ヘッド60の何れのノズルからインクを吐出するか、あるいは、どの程度の量のインクを吐出するかを規定するノズル選択データ(駆動信号選択データ)を生成し、印刷データPDや駆動信号選択データ等に基づいて、各ドライバー43、45、46に制御信号を出力する。各ドライバー43、45、46は、それぞれ紙送りモーター22、印刷ヘッド60、キャリッジモーター32を駆動するための駆動信号を出力する。例えば、ヘッドドライバー45は、印刷ヘッド60に対して、後述するクロック信号SCKとラッチ信号LATと駆動信号選択信号SI&SPとチャンネル信号CHと駆動信号COMとを供給する。紙送りモーター22、印刷ヘッド60、キャリッジモーター32が駆動信号に応じて動作することにより、用紙Pへの印刷処理が実行される。
【0029】
図3は、印刷ヘッド60に供給される各種信号の一例を示す説明図である。駆動信号COMは、印刷ヘッド60に設けられたノズルアクチュエーターを駆動するための信号である。駆動信号COMは、ノズルアクチュエーターを駆動する駆動信号の最小単位(単位駆動信号)としての駆動パルスPCOM(駆動パルスPCOM1ないしPCOM4)が時系列的に連続した信号である。駆動パルスPCOM1ないしPCOM4の4つの駆動パルスPCOMの組は、1つの画素(印刷画素)に対応している。
【0030】
各駆動パルスPCOMは、電圧台形波から構成されている。各駆動パルスPCOMの立ち上がり部分は、ノズルに連通するキャビティーの容積を拡大してインクを引き込む(インクの吐出面で考えればメニスカスを引き込むとも言える)ための部分であり、駆動パルスPCOMの立ち下がり部分は、キャビティーの容積を縮小してインクを押し出す(インクの吐出面で考えればメニスカスを押し出すとも言える)ための部分である。そのため、ノズルアクチュエーターを駆動パルスPCOMに従って駆動することにより、ノズルからインクが吐出される。
【0031】
駆動信号COMにおいて、駆動パルスPCOM2ないしPCOM4の波形(電圧増減傾きや波高値)は、互いに異なっている。ノズルアクチュエーターに供給される駆動パルスPCOMの波形が異なると、インクの引き込み量や引き込み速度、インクの押し出し量や押し出し速度が異なり、これによりインクの吐出量(すなわちインクドットの大きさ)が異なることとなる。駆動パルスPCOM2ないしPCOM4の中から1つまたは複数の駆動パルスPCOMを選択してノズルアクチュエーターに供給することにより、種々の大きさのインクドットを形成することができる。なお、本実施例では、駆動信号COMに、微振動と呼ばれる駆動パルスPCOM1が含まれる。駆動パルスPCOM1は、インクを引き込むのみで押し出しを行わない場合、例えばノズルの増粘を抑制する場合に用いられる。
【0032】
駆動信号選択信号SI&SPは、印刷データPDに基づいて、インクを吐出するノズルを選択すると共に、ノズルアクチュエーターの駆動信号COMへの接続タイミングを決定する信号である。ラッチ信号LATおよびチャンネル信号CHは、全ノズル分のノズル選択データが入力された後、駆動信号選択信号SI&SPに基づいて駆動信号COMと印刷ヘッド60のノズルアクチュエーターとを接続させる信号である。図3に示すように、ラッチ信号LATおよびチャンネル信号CHは、駆動信号COMに同期した信号である。すなわち、ラッチ信号LATは、駆動信号COMの開始タイミングに対応してハイレベルとなる信号であり、チャンネル信号CHは、駆動信号COMを構成する各駆動パルスPCOMの開始タイミングに対応してハイレベルとなる信号である。ラッチ信号LATに応じて一連の駆動信号COMの出力が開始され、チャンネル信号CHに応じて各駆動パルスPCOMが出力される。また、クロック信号SCKは、駆動信号選択信号SI&SPをシリアル信号として印刷ヘッド60に送信するための信号である。
【0033】
図4は、印刷ヘッド60のスイッチングコントローラー61の構成を示す説明図である。スイッチングコントローラー61は、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)をノズルアクチュエーター67に供給するために、印刷ヘッド60内に構築されている。スイッチングコントローラー61は、駆動信号選択信号SI&SPを保存するシフトレジスター63と、シフトレジスター63のデータを一時的に保存するラッチ回路64と、ラッチ回路64の出力をレベル変換して選択スイッチ66に供給するレベルシフター65と、駆動信号COMをノズルアクチュエーター67に接続する選択スイッチ66とを有している。
【0034】
シフトレジスター63には、駆動信号選択信号SI&SPが順次入力され、クロック信号SCKの入力パルスに応じて記憶される領域が順次後段にシフトする。なお、シフトレジスター63への駆動信号選択信号SI&SPの入力は、上述したタイミング信号PTSに従い実行される。ラッチ回路64は、ノズル数分の駆動信号選択信号SI&SPがシフトレジスター63に格納された後、入力されるラッチ信号LATに従いシフトレジスター63の各出力信号をラッチする。ラッチ回路64に保存された信号は、レベルシフター65によって次段の選択スイッチ66を切り替え(オン/オフ)できる電圧レベルに変換される。レベルシフター65の出力信号により閉じられる(接続状態となる)選択スイッチ66に対応するノズルアクチュエーター67は、駆動信号選択信号SI&SPの接続タイミングで駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に接続される。また、シフトレジスター63に入力された駆動信号選択信号SI&SPがラッチ回路64にラッチされた後、次の駆動信号選択信号SI&SPがシフトレジスター63に入力され、インクの吐出タイミングに合わせてラッチ回路64の保存データを順次更新する。この選択スイッチ66によれば、ノズルアクチュエーター67を駆動信号COM(駆動パルスPCOM)から切り離した後も、当該ノズルアクチュエーター67の入力電圧は切り離す直前の電圧に維持される。なお、図4中の符号HGNDは、ノズルアクチュエーター67のグランド端である。
【0035】
図5は、印刷ヘッド60を駆動するための駆動回路80の概略構成を示す説明図である。駆動回路80は、上述の駆動信号COMを生成して、印刷ヘッド60のノズルアクチュエーター67に供給する回路であり、制御ユニット40内の制御部42およびヘッドドライバー45(図2参照)内に構築されている。駆動回路80は、駆動波形信号発生回路81と、変調回路82と、デジタル電力増幅回路(いわゆるD級アンプ)83と、平滑フィルター87とを有している。
【0036】
駆動波形信号発生回路81は、予め記憶されている駆動波形データDWCOMに基づいて、ノズルアクチュエーター67を駆動する駆動信号COMの基準となる駆動波形信号WCOMを生成する。なお、本実施例では、駆動波形信号発生回路81は、デジタル電力増幅回路83中の後述するゲート駆動回路84に向けて、デジタル電力増幅回路83の動作を停止する動作停止信号/Disableを出力する。駆動波形信号発生回路81は、本発明における停止制御手段として機能する。
【0037】
変調回路82は、駆動波形信号発生回路81で生成された駆動波形信号WCOMをパルス変調して、変調信号MSを出力する。図6は、変調回路82の機能ブロックを示す説明図である。本実施例の変調回路82は、パルス密度変調(Pulse Density Modulation、PDM)方式によりパルス変調を行う、いわゆるΔΣ変調回路である。変調回路82は、入力信号と所定値とを比較して入力信号が所定値以上であるときにハイレベルとなる変調信号MSを出力する比較器822と、比較器822の入力信号と出力信号との誤差ERを算出する減算器824と、誤差ERを遅延する遅延器826と、遅延された誤差ERを原信号である駆動波形信号WCOMに加算する加算器828と、を備えている。変調回路82から出力される変調信号MSは、パルスの密度により波形を表す信号である。
【0038】
また、図6に示すように、本実施例では、上述したラッチ信号LATが変調回路82の比較器822に入力されている。比較器822は、ラッチ信号LATに応じたタイミングで変調信号MSを出力する。これにより、変調回路82の発振動作が一旦クリアされ、ラッチ信号LATに応じたタイミングで発振動作が開始されることとなる。この点については、後に詳述する。
【0039】
なお、他の代表的なパルス変調方式であるパルス幅変調(Pulse Width Modulation、PWM)方式では、発振周波数は一定(三角波の周波数)であり、印刷ヘッドのノズルアクチュエーター用の駆動信号のように非常に高い周波数(例えば5MHz)で動作させる場合に、特に低レベルの入力信号の波形再現性が劣るという問題があった。これに対し、本実施例において用いるパルス密度変調方式は自励式の変調方式であり、発振周波数が入力信号レベルに応じて変動する。具体的には、パルス密度変調方式における発振周波数は、入力信号レベルが中間値である場合に最も高くなり、入力信号レベルが中間値から大きくあるいは小さくなるにつれて低くなる。そのため、パルス密度変調方式では、入力信号が低レベルの場合にも波形再現性の低下を抑制することができる。また、パルス密度変調方式は、パルス幅変調方式のように外部に高周波数信号を発生する回路を設ける必要がないため、例えば1チップ化が比較的容易であるといったシステム構成上の利点がある。
【0040】
デジタル電力増幅回路83(図5)は、変調回路82から出力された変調信号MSを電力増幅して、電力増幅変調信号を出力する。デジタル電力増幅回路83は、実質的に電力を増幅するためのハイサイド側スイッチング素子Q1およびローサイド側スイッチング素子Q2からなるハーフブリッジ出力段85と、変調回路82からの変調信号MSに基づいて、スイッチング素子Q1およびQ2のゲート−ソース間信号GHおよびGLを調整するゲート駆動回路84とを備えている。デジタル電力増幅回路83では、変調信号MSがハイレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1はゲート−ソース間信号GHがハイレベルとなってオン状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はゲート−ソース間信号GLがローレベルとなってオフ状態となる。その結果、ハーフブリッジ出力段85の出力は、供給電圧VDDとなる。一方、変調信号MSがローレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1はゲート−ソース間信号GHがローレベルとなってオフ状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はゲート−ソース間信号GLがハイレベルとなってオン状態となる。その結果、ハーフブリッジ出力段85の出力は0となる。
【0041】
また、上述した駆動波形信号発生回路81から出力される動作停止信号/Disableがローレベルにあるときには、ゲート駆動回路84はスイッチング素子Q1およびQ2を共にオフ状態とする。スイッチング素子Q1およびQ2を共にオフ状態とすることは、デジタル電力増幅回路83の動作を停止することと同義であり、電気的には容量性負荷であるノズルアクチュエーター67がハイインピーダンス状態に維持されることになる。ノズルアクチュエーター67がハイインピーダンス状態に維持されると、容量性負荷であるノズルアクチュエーター67に貯えられた電荷が保持され、充放電状態が維持される(あるいは、非常に僅かな自己放電のみに抑えられる)。本実施例では、駆動信号COM(電力増幅される以前の駆動波形信号WCOMでも同じ)の電位が変化しないときには、動作停止信号/Disableをローレベルとして、ハイサイド側スイッチング素子Q1およびローサイド側スイッチング素子Q2を共にオフ状態とし、デジタル電力増幅回路83の動作を停止する。ノズルアクチュエーター67は容量性負荷であるため、このような停止制御によって消費電力を低減しても、印刷処理に実質的な影響はない。
【0042】
平滑フィルター87は、デジタル電力増幅回路83から出力された電力増幅変調信号を平滑化して、駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を生成し、印刷ヘッド60の選択スイッチ66を介してノズルアクチュエーター67に供給する(図4参照)。本実施例では、平滑フィルター87として、コンデンサCとコイルLとの組み合わせを用いたローパスフィルター(低域通過フィルター)を用いた。平滑フィルター87は、変調回路82で生じた変調周波数成分を減衰して除去し、上述したような波形特性の駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を出力する。なお、一般に、平滑フィルター87から出力された駆動信号COMには、変調回路82の発振周波数等に対応するリップルノイズが含まれる。
【0043】
図7は、駆動回路80の具体的な機能構成の一例を示す説明図である。上述したように、本実施例の変調回路82は、パルス密度変調方式の変調回路であり、比較器(CMP)にラッチ信号LATが入力されている。なお、本実施例の駆動回路80は、一般的な誤差アンプによる負帰還方式の回路であるが、高域成分を強調する回路(ハイパスフィルタ(HP−F)および高域ブースト(G))と、高域成分を帰還する回路(「IFB」として示す)とが追加されている。
【0044】
ここで、上述したように、本実施例の駆動回路80では、変調回路82の比較器822にラッチ信号LATが入力されており(図6および図7参照)、比較器822はラッチ信号LATに応じて変調信号MSを出力する。これによって、変調回路82の発振動作が一旦クリアされ、ラッチ信号LATに応じたタイミングで発振動作が開始される。ラッチ信号LATは、駆動波形信号WCOMに同期した信号であるため、変調回路82は、駆動波形信号WCOMに同期した信号(ラッチ信号LAT)に基づき、パルス変調の発振開始タイミングを決定することとなる。
【0045】
駆動波形信号WCOMに同期した信号に基づき変調回路82の発振開始タイミングが決定されると、変調回路82の発振開始タイミングは駆動波形信号WCOMに同期したタイミングとなる。そのため、駆動回路80から出力される駆動信号COMに含まれるリップルノイズも、駆動波形信号WCOMの周期や波形に対応したノイズとなる。従って、変調回路82に入力される駆動波形信号WCOMの波形が同じであれば、駆動回路80から出力される駆動信号COM(リップルノイズを含む信号)の波形は同じとなる。このように、本実施例の駆動回路80では、変調回路82が駆動波形信号WCOMに同期した信号(ラッチ信号LAT)に基づきパルス変調の発振開始タイミングを決定するため、駆動信号COMの波形再現性を向上させることができ、ひいては、インクの吐出安定性を向上させることができる。
【0046】
また、本実施例の駆動回路80では、変調回路82が、ラッチ信号LAT、すなわち、駆動信号COMを構成する駆動パルスPCOM1ないしPCOM4の組の出力開始タイミングを規定する信号(図3参照)に基づきパルス変調の発振開始タイミングを決定するため、駆動信号COMの各周期における波形再現性を良好に向上させることができる。
【0047】
また、本実施例の駆動回路80では、変調回路82が、駆動波形信号WCOMに同期した信号(ラッチ信号LAT)に基づき、パルス変調の発振開始タイミングを決定するため、例えば上述したエンコーダーのように、プリンター100の機械的機構の精度が低い場合であっても、駆動信号COMの波形再現性への影響を抑制することができる。
【0048】
また、本実施例の駆動回路80では、上述した駆動波形信号発生回路81から出力される動作停止信号/Disableにより、スイッチング素子Q1およびQ2を共にオフ状態としてデジタル電力増幅回路83の動作を停止する停止制御が行われる。本実施例では、デジタル電力増幅回路83の動作が停止されているときにも、変調回路82は、駆動波形信号WCOMに同期した信号(ラッチ信号LAT)に基づき、パルス変調の発振開始タイミングを決定する。そのため、停止制御中か否かに関わらず、常に、変調回路82の発振開始タイミングは駆動波形信号WCOMに同期したタイミングとなっている。従って、本実施例の駆動回路80では、デジタル電力増幅回路83の動作の停止制御によって消費電力の低減を図る場合にも、駆動信号の波形再現性を向上させることができる。
【0049】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0050】
B1.変形例1:
上記実施例におけるプリンター100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施例では、ノズルアクチュエーター67としてピエゾ素子(圧電素子)を用いているが、ピエゾ素子の代わりに、磁歪素子等の他の素子や、インク通路に配置した発熱素子(ヒーター)によりインク通路内に発生する気泡を用いてインクを吐出する機構といった他のアクチュエーターを用いるとしてもよい。
【0051】
また、上記実施例では、プリンター100は、ホストコンピューター90から印刷データPDを受信して印刷処理を行うとしているが、これに代えて、プリンター100は、例えば、メモリーカードから取得した画像データや所定のインターフェイスを介してデジタルカメラから取得した画像データ、スキャナーによって取得した画像データ等に基づき印刷データPDを生成して印刷処理を行うものとしてもよい。
【0052】
また、上記実施例では、プリンター100は、印刷領域に位置する連続した用紙Pに対して印刷ヘッド60を所定の方向(主走査方向)に往復移動する動作(主走査)と、用紙Pを主走査方向と交差する搬送方向に搬送する動作(副走査)と、を繰り返しつつ印刷を行うプリンターであるとしているが、本発明は、単票紙に印刷を行ういわゆるインパクトプリンターや、印刷ヘッドの下面に紙幅長さに亘って並んで配設されたノズル列の下を、紙幅方向と交差する方向に用紙を搬送させつつ印刷を行ういわゆるラインプリンターにも適用することが可能である。
【0053】
また、本発明は、液体(機能材料の粒子が分散された液状体やジェルなどの流状体を含む)を吐出する装置であれば、インクジェットプリンター以外の装置にも適用可能である。このような液体吐出装置としては、例えば、布地に模様をつけるための捺染装置、液晶ディスプレイやEL(エレクトロルミネッサンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルター等の製造に用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解の形態で含む液状体を吐出する装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を吐出する装置、精密ピペットとして用いられて試料となる液体を吐出する装置、時計やカメラなどの精密機械にピンポイントで潤滑油を吐出する装置、光通信素子などに用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するための紫外線硬化樹脂などの透明樹脂液を基板上に吐出する装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリなどのエッチング液を吐出する装置等が挙げられる。
【0054】
また、上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0055】
また、本発明の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータープログラム)は、コンピューター読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。この発明において、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピューター内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピューターに固定されている外部記憶装置も含んでいる。
【0056】
B2.変形例2:
上記実施例では、変調回路82は、ラッチ信号LATに基づきパルス変調の発振開始タイミングを決定するものとしているが、駆動波形信号WCOMに同期した信号であれば、他の信号に基づきパルス変調の発振開始タイミングを決定するものとしてもよい。例えば、変調回路82は、駆動波形信号WCOMを構成する各駆動パルスPCOMの出力タイミングを特定する上述のチャンネル信号CHに基づきパルス変調の発振開始タイミングを決定するものとしてもよいし、印刷ヘッド60の位置に応じて生成される上述のタイミング信号PTSに基づきパルス変調の発振開始タイミングを決定するものとしてもよい。
【0057】
B3.変形例3:
上記実施例では、動作停止信号/Disableに応じて、デジタル電力増幅回路83の動作を停止する停止制御を行うとしているが、必ずしも停止制御を行う必要はない。
【0058】
また、停止制御を行う場合において、ローレベルの動作停止信号/Disableに応じてスイッチング素子Q1およびQ2が共にオフ状態となってデジタル電力増幅回路83の動作が停止されているときに、ラッチ信号LAT(または駆動波形信号WCOMに同期した他の信号)に基づき変調回路82の発振開始タイミングが決定されると、デジタル電力増幅回路83の動作が強制的に再開されるとしてもよい。このようにしても、デジタル電力増幅回路83の動作の停止制御によって消費電力の低減を図りつつ、駆動信号の波形再現性を向上させることができる。
【0059】
B4.変形例4:
上述した実施形態、実施例および変形例における構成要素のうち、独立請求項に記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略、または、組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0060】
12…コネクター
14…操作パネル
22…紙送りモーター
26…プラテン
30…キャリッジ
32…キャリッジモーター
34…摺動軸
36…駆動ベルト
38…プーリー
40…制御ユニット
41…インターフェイス
42…制御部
43…紙送りモータードライバー
45…ヘッドドライバー
46…キャリッジモータードライバー
47…インターフェイス
51…CPU
52…RAM
53…ROM
60…印刷ヘッド
61…スイッチングコントローラー
63…シフトレジスター
64…ラッチ回路
65…レベルシフター
66…選択スイッチ
67…ノズルアクチュエーター
70…インクカートリッジ
80…駆動回路
81…駆動波形信号発生回路
82…変調回路
83…デジタル電力増幅回路
84…ゲート駆動回路
85…ハーフブリッジ出力段
87…平滑フィルター
90…ホストコンピューター
100…プリンター
822…比較器
824…減算器
826…遅延器
828…加算器
WCOM…駆動波形信号
CH…チャンネル信号
LAT…ラッチ信号
COM…駆動信号
PTS…タイミング信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルに対応して設けられた複数のアクチュエーターと、を有する液体吐出ヘッドを駆動するための駆動回路であって、
前記アクチュエーターを駆動するための駆動信号の基準となる駆動波形信号をパルス密度変調方式によりパルス変調して変調信号とする変調回路と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とするデジタル電力増幅回路と、
前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑フィルターと、を備え、
前記変調回路は、前記駆動波形信号に同期した所定の信号に基づき、発振開始タイミングを決定する、駆動回路。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動回路であって、
前記所定の信号は、液体を吐出すべきノズルを選択する選択信号を前記液体吐出ヘッドの有するシフトレジスターからラッチするためのラッチ信号と、前記駆動波形信号を構成する各駆動パルスの出力タイミングを特定するチャンネル信号と、前記液体吐出ヘッドの位置に応じて生成されるタイミング信号と、の少なくとも1つである、駆動回路。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の駆動回路であって、
前記デジタル電力増幅回路は、複数のスイッチング素子を有し、
前記アクチュエーターは、容量性負荷であり、
前記駆動回路は、前記駆動波形信号に応じた所定の期間に前記複数のスイッチング素子をオフ状態として前記デジタル電力増幅回路の動作を停止する停止制御を行う停止制御手段を備え、
前記変調回路は、前記デジタル電力増幅回路の動作が停止されているか否かに関わらず、前記発振開始タイミングの決定を行う、駆動回路。
【請求項4】
請求項3に記載の駆動回路であって、
前記停止制御手段は、前記デジタル電力増幅回路の動作を停止しているときに、前記変調回路により前記発振開始タイミングが決定されると、前記デジタル電力増幅回路の動作を再開させる、駆動回路。
【請求項5】
液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルに対応して設けられた複数のアクチュエーターと、を有する液体吐出ヘッドを駆動するための方法であって、
前記アクチュエーターを駆動するための駆動信号の基準となる駆動波形信号をパルス密度変調方式によりパルス変調して変調信号とする変調工程と、
前記変調信号を電力増幅して電力増幅変調信号とする電力増幅工程と、
前記電力増幅変調信号を平滑化して前記駆動信号とする平滑化工程と、を備え、
前記変調工程は、前記駆動波形信号に同期した所定の信号に基づき、発振開始タイミングを決定する工程を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−31960(P2013−31960A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169327(P2011−169327)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】