説明

液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】圧力室の剛性を高めることが可能な液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】液体を吐出する吐出口10に連通し、吐出口10から吐出される液体を貯留するための圧力室3を複数備え、圧力室3の内壁を構成する圧電素子の伸長及び収縮変形に応じて吐出口10から液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、圧力室3の周囲に複数の凹部4a、4bが設けられており、少なくとも一つの凹部と圧力室3の間には圧電部材34が存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッド、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置には、一般的に、インクを吐出する液体吐出ヘッドが搭載されている。液体吐出ヘッドがインクを吐出する機構として、圧電素子によって容積が収縮可能な圧力室を用いる機構が知られている。この機構では、電圧印加された圧電素子の変形により圧力室が収縮することによって、圧力室内のインクが、圧力室の一端に形成された吐出口から吐出する。このような機構を有する液体吐出ヘッドの一つとして、圧力室の1つまたは2つの内壁面が圧電素子で構成され、その圧電素子を伸長や収縮変形させるのでは無く、せん断変形させることによって、圧力室を収縮させる所謂シェアモードタイプが知られている。
【0003】
工業用途等のインクジェット装置では、高粘度の液体を使用したいという要求がある。高粘度の液体を吐出するためには、液体吐出ヘッドにより大きな吐出力が求められる。この求めに対し、断面形状が円形や矩形の筒形状の圧電部材で圧力室を形成した所謂グールドタイプと呼ばれる液体吐出ヘッドが提案されている。グールドタイプの液体吐出ヘッドでは、圧電部材が圧力室の中心に対して内外方向(径方向)に伸長及び収縮変形することにより圧力室を膨張または収縮させる。グールドタイプの液体吐出ヘッドは、圧力室の壁面が全て変形し、その変形がインクの吐出力に寄与するので、1つまたは2つの壁面を圧電素子で形成したシェアモードタイプと比較して大きな液体吐出力を得ることが出来る。
【0004】
グールドタイプの液体吐出ヘッドにおいて、より高い解像度を得るためには、複数の吐出口をより高密度に配置する必要がある。これに伴い、各々の吐出口に対応する圧力室も高密度に配置する必要がある。圧力室を高密度に配置可能なグールドタイプの液体吐出ヘッドの製造方法が、特許文献1に開示されている。
【0005】
特許文献1に開示された製造方法では、まず、複数の圧電プレートの各々に、互いに同じ方向に延びた複数の溝が形成される。その後、複数の圧電プレートは、溝の方向を揃えて積層され、溝の方向と直交する方向に切断される。切断された圧電プレートは、溝部分が圧力室の内壁面を構成する。その後、各圧力室を分離するために圧力室間に存在する圧電部材を一定の深さまで除去する。圧力室が出来上がった圧電プレートの上下には、供給路プレートとインクプールプレートおよびプリント配線基板とノズルプレートを接続して、液体吐出ヘッドは完成する。特許文献1に開示された製造方法によれば、圧力室をマトリックス状に配置できるので高密度な配置が可能となる。また、この製造方法によれば、圧電プレートに孔を開けるよりも、圧電プレートに溝を形成するほうが加工しやすいため、精度良く圧力室を形成できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−168319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された製造方法で製造された液体吐出ヘッドは、複数の圧力室を、空間で隔てて配置している。そのため、特に、高粘度の液体を吐出するために(液体の吐出力を大きくするために)圧力室の長さ(高さ)を長くした場合、液体吐出ヘッドの剛性が低くなる。剛性が低くなると、圧力室が折れて液体が吐出できなくなる場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、圧力室の剛性を高めることが可能な液体吐出ヘッド、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口に連通し、該吐出口から吐出される液体を貯留するための圧力室を複数備え、前記圧力室の内壁を構成する圧電素子の伸長及び収縮変形に応じて前記吐出口から液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、前記圧力室の周囲に複数の凹部が設けられており、少なくとも一つの前記凹部と前記圧力室の間には圧電部材が存在することを特徴とする。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、変形可能な内壁面に第1の電極を形成した圧力室を、間隔をとって複数形成するとともに、前記圧力室同士の間に、第2の電極を内壁面に形成した凹部と、前記圧力室の内壁面から前記凹部の内壁面まで連続する圧電部材と、を形成する第1の工程と、前記圧電部材を、前記圧力室の内壁面を変形可能に分極処理する第2の工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成された本発明によれば、圧力室同士の間が、部材と凹部とで構成されている。そのため、圧力室同士が空間で隔てられた構造に比べ各圧力室の剛性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態1の液体吐出ヘッドの外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示す圧電ブロック体を各面から見た図である。
【図3】溝加工工程を説明するための斜視図である。
【図4】めっき加工工程を説明するための斜視図である。
【図5】分極処理工程を説明するための斜視図である。
【図6】積層工程を説明するための斜視図である。
【図7】液体吐出ヘッドのシミュレーションモデルを示す断面図である。
【図8】シミュレーションの電圧波形およびシミュレーション結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態2の液体吐出ヘッドを説明するための図である。
【図10】本発明の実施形態3の液体吐出ヘッドの要部構成を示す正面図である。
【図11】本発明の実施形態4の液体吐出ヘッドの外観を示す斜視図である。
【図12】本発明の実施形態5の液体吐出ヘッドの外観を示す斜視図である。
【図13】本発明の実施形態6の液体吐出ヘッドの外観を示す斜視図である。
【図14】図13に示す液体吐出ヘッドをその背面側から見た図である。
【図15】本発明の実施形態7の液体吐出ヘッドの外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の液吐出ヘッド及びその製造法にかかわる実施形態の一例を図面に基づき説明する。
【0014】
尚、実施形態1〜5では電極配線の説明を簡略化するため全ての圧力室を同時駆動させる方式を示す。
【0015】
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1を示す液体吐出ヘッドの構成について説明する。図1は、本発明の実施形態1の液体吐出ヘッドの外観を示す斜視図である。
【0016】
本実施形態の液体吐出ヘッド12は、図1に示すように、インクプールプレート8と、圧電ブロック体11と、ノズルプレート9とを有する。圧電ブロック体11の前面に、ノズルプレート9が接合されている。なお、図1では、圧電ブロック体11の構造をわかりやすくするために、圧電ブロック体11とノズルプレート9を分解して示している。ノズルプレート9には円形貫通孔からなる複数の吐出口10が形成されており、これらの吐出口10は所定の間隔で二次元に配置されている。圧電ブロック体11の背面にインクプールプレート8が接合されている。
【0017】
図2は、図1に示す圧電ブロック体11を各面から見た図である。図2(a)は、正面図である。図2(b)は、側面図である。図2(c)は、背面図である。図2(d)は、図2(a)に示す切断線A−Aに沿った断面図である。
【0018】
圧電ブロック体11は、プレート1(第1のプレート)と、プレート2(第2のプレート)とを、接着層5を介して交互に複数積層した積層体である。プレート1、2とも圧電体であり、プレート1は、液体を貯留するための圧力室3と、凹部4a(第1の凹部)とを複数備えている。圧力室3と、凹部4aは、圧電部材34で隔てられている。また、プレート2には、凹部4b(第2の凹部)が複数配置され、各凹部4bは圧電部材35で隔てられている。
【0019】
圧力室3は、角形の圧力室開口31と、角形の流路13とを有する(図2(d)参照)。圧力室開口31は、プレート1の前面に、吐出口10と対向(連通)するように形成されている。圧力室開口31の口径は、吐出口10の口径よりも少し大きい。流路13は、圧力室開口31からプレート1の内部を貫通するように延びている(図2(d)参照)。
【0020】
圧力室開口31は、図2(a)に示すように、プレート1の一面に、第1の方向Xに間隔(第1の間隔)をとって複数配列された圧力室開口列を、第1の方向Xに交差する第2の方向に間隔(第2の間隔)をとって複数形成するように配置されている。凹部4aは、図2(a)に示すように、上記の第1の方向Xに圧力室開口31と交互に配列された開口部32を備え(図2(d)参照)、開口部32からプレート1の内部に圧力室3と平行に延びている。また、凹部4bは、図2(a)に示すように、上記の第2の方向に圧力室開口31と交互に配列された開口部33を備え、開口部33からプレート2の内部に圧力室3と平行に延びている。
【0021】
圧力室3の内壁の3面には、図2(a)に示すように、第1の電極6aが形成されている。第1の電極6aは、図2(c)、図2(d)に示すようにプレート1の背面に形成された電極6bに接続されている。電極6bは、図2(d)に示すように、プレート1の側面に形成された電極6cに接続されている。
【0022】
圧力室3のプレート2で形成される内壁面(内壁側)には、第1の電極6dが形成されプレート1に形成された電極6aと接続されている。プレート2にも背面に電極6b、側面に電極6cが形成され電極6dは電極6b、6cと接続されている。
【0023】
凹部4aの内壁面(内壁側)には、図2(d)に示すように、第2の電極7aが形成されている。第2の電極7aは、開口部32の下部に形成された電極7cに接続されている(図2(a)参照)。電極7cは、プレート1の下面に形成された電極7dに接続されている。電極7dは、図2(b)に示すように、プレート1の側面に形成された電極7eに接続されている。なお、圧電プレート1の側面において、電極7eは、電極6cから離れて配置されている。
【0024】
凹部4bの内壁面(内壁側)には、第2の電極7bが形成されている。第2の電極7bは、極性が第2の電極7aと同じで、第1の電極6aと異なる。第2の電極7bは、プレート2の上面に形成された電極7f(図1参照)に接続されている。電極7fは、プレート2の側面に形成された電極7gに接続されている(図1参照)。
【0025】
上記のように構成されたプレート1及びプレート2では、圧電部材34、35が、圧力室3の内壁面から、凹部4a、凹部4bの内壁面にかけて予め分極処理されている。このため、圧力室3の内壁面に形成された第1の電極6a及び6dに正の電圧を印加し、凹部4aの内壁面に形成された第2の電極7aおよび凹部4bの内壁面に形成された第2の電極7b及び7dを接地すると、圧力室3は収縮変形する。これにより、インクプールプレート8から圧力室3に導入されたインクが圧力室開口31を通じて吐出口10から吐出される。
【0026】
本実施形態の液体吐出ヘッド12によれば、圧力室3同士の間が、凹部4a、4bと、圧電部材34、35とで構成されている。そのため、圧力室同士が空間で隔てられた構造に比べ圧力室の剛性を高めることが可能となる。
【0027】
次に、図3〜図6を参照して液体吐出ヘッド12の製造工程について説明する。なお、ここでは、圧電ブロック体11の製造工程について詳細に説明する。
【0028】
図3は、溝加工工程を説明するための斜視図である。溝加工工程は、図3(a)に示すように、圧電体基板14に、各圧力室3の内壁面を構成する複数の溝16(第1の溝)と、各凹部4aの内壁面を構成する複数の溝17a(第2の溝)とを、ダイシングにより交互に形成する。各溝16は、圧電体基板14の一面からその一面に対向する面まで延び、溝16の一端が圧力室開口31を構成する。各溝17aは、圧電体基板14の一面から溝16と平行に延び、圧電体基板14の内部で終端している。また、溝加工工程は、図3(b)に示すように、圧電体基板15に、各凹部4bの内壁面を構成する複数の溝17b(第3の溝)をダイシングにより形成する。各溝17bは、圧電体基板15の一面から一方向に延び、圧電体基板15の内部で終端している。溝加工工程が完了するとめっき加工工程が実施される。
【0029】
図4は、めっき加工工程を説明するための斜視図である。図4(a)は圧電体基板14を表面側から見た斜視図であり、図4(b)は圧電体基板14を裏面側から見た斜視図である。図4(c)は、圧電体基板15を表面側から見た斜視図であり、図4(d)は圧電体基板15を裏面側から見た斜視図である。
【0030】
めっき加工工程は、図4(a)、図4(b)に示すように、圧電体基板14の表裏に選択めっき18を施す。これにより、圧電体基板14には、上述した第1の電極6a、6b、6c、第2の電極7a、および電極7c〜7eが形成される。また、めっき加工工程は、図4(c)、図4(d)に示すように、圧電体基板15の表裏にも選択めっき18を施す。これにより、圧電体基板15には、第1の電極6d、6b、6c、第2の電極7b、電極7f、および電極7gが形成される。めっき加工工程が完了すると、圧電ブロック体11を、各圧力室3を収縮させる形状に変形可能にするための分極処理工程が実施される。
【0031】
図5は、分極処理工程を説明するための斜視図である。分極処理工程は、図5に示すように、容器23に200℃のシリコンオイル19を入れ、電源20により2kV/mmの電界を圧電体基板14、15に加えることによって、圧電体基板14、15を分極する。この結果、プレート1、プレート2が完成する。分極処理工程が完了すると、積層工程が実施される。
【0032】
図6は、積層工程を説明するための斜視図である。積層工程は、図6に示すように、複数のプレート1と、複数のプレート2を、接着層5を介して交互に積層接合する。これにより、圧電ブロック体11が完成する。完成した圧電ブロック体11の前面にはノズルプレート9が接合される。また、完成した圧電ブロック体11の背面にはインクプールプレート8が接合される。これにより、液体吐出ヘッド12が完成する。
【0033】
上述した製造工程は、積層工程の前に分極処理工程を実施している。これは、積層工程の後に分極処理工程が実施される場合、接着層5に使用される接着材に耐熱性、耐電界が必要とされ、使用可能な接着剤が制限されるからである。本実施形態では、積層工程の前に分極処理工程を実施しているので、接着層5に使用可能な接着剤を広範囲に選択することが可能となる。また、積層工程の前に分極処理工程を実施すると、一つの大基板から複数の圧電プレートを多数個取りする場合に、分極処理を大基板の段階で実施できるので量産性に富む。
【0034】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッド12と比較例の液体吐出ヘッドについて吐出性能を比較するためのシミュレーションモデルと、シミュレーション結果を、図7、8を参照しながら説明する。なお、ここでは、比較例の液体吐出ヘッドは、圧力室同士の間が空間で隔てられた従来のグールドタイプの液体吐出ヘッドと、工業用液体吐出ヘッドとして定評のある壁駆動型のシェアモードタイプの液体吐出ヘッドとする。また、ANSYS社の構造計算シミュレータを用いる。
【0035】
図7(a)は、本実施形態の液体吐出ヘッド12のシミュレーションモデルの横断面である。図7(b)は、図7(a)に示す切断線B−Bに沿った断面図である。図7(c)は、比較例の一つであるグールドタイプの液体吐出ヘッドの圧力室の断面図である。
【0036】
図7(a)、(b)に示すシミュレーションモデルは、圧力室3を収縮させる駆動部の長さL1を6mmとし、駆動部の後方に長さL2を5mmとする土台部分を有する。また、このシミュレーションモデルは、駆動部の後方に、厚さt1を0.22mmとするシリコン製の絞りプレート21を有する。絞りプレート21には、幅を0.03mmとし、高さを0.2mmとし、長さを0.22mmとした絞り22が形成されている。なお、圧電プレート1、2の材料は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)とする。また、駆動部の前方には、直径を0.02mmとし、厚さt2を0.02mmとした吐出口10を有するSUS(ステンレス鋼)製のノズルプレート9が接着されている。
【0037】
図7(c)に示す圧力室30の断面積は、図7(b)に示す圧力室3の断面積と同じである。圧力室3、30の断面形状は、一辺L3を0.12mmとする正方形である。圧力室3と圧力室30には、外周が拘束されているか否かの違いがある。
【0038】
シェアモードタイプの液体吐出ヘッドのシミュレーションモデルの寸法について、圧力室の断面は、幅を0.1mmとし、高さを0.2mmとし、駆動壁の厚さを0.07mmとした。
【0039】
図8(a)は、本実施形態および比較例の各圧力室のシミュレーションモデルを収縮させるための電圧波形を示す。図8に示す波形に示すように、今回のシミュレーションでは1μsから2μsにかけて+30Vの電圧を各圧力室の内壁面に印加した。インクの粘度は40mPa・sとした。時間の経過に伴うノズル部分の液面の変化を示すメニスカス変位量を縦軸にプロットしたグラフを図8(b)に示す。図8(b)に示すグラフは、同じ時間で比較したときにメニスカス変位量が大きいほどインクの吐出力が大きいことを示す。
【0040】
図8(b)に示すシミュレーション結果では、本実施形態の液体吐出ヘッドのインクの吐出力は、比較例のグールドタイプには及ばないもののシェアモードタイプよりは高い。そのため、本実施形態の液体吐出ヘッドは、高粘度のインクを吐出するのに十分な吐出性能を備えている。
【0041】
(実施形態2)
図9は、本発明の実施形態2の液体吐出ヘッドを説明するための概略図である。図9(a)は、本実施形態の液体吐出ヘッド12aの吐出口10のレイアウト図である。図9(b)は、図9(a)に示す吐出口10から記録媒体に吐出されるインクのドット90を、インクを吐出する順番に対応付けて示した図である。また、図9(c)は、実施形態1の液体吐出ヘッド12の吐出口10のレイアウト図である。図9(d)は、図9(c)に示す吐出口10から記録媒体に吐出されるインクのドット90を、インクを吐出する順番に対応付けて示した図である。
【0042】
図9(a)、図9(c)共、同一列内の隣接ノズル間隔は8dで、これを8列設けることで形成されるドット間隔がdになるようにしている。
【0043】
図9(c)に示すように、実施形態1の液体吐出ヘッド12では、吐出口10の中心が吐出口列ごとに上述した第1の方向Xにずれている。そのため、インクを吐出する順番が連続する2つの吐出口列の間におけるずれの長さdは、一定となっている。その結果、記録媒体を搬送方向Yに搬送しながら、各吐出口列から順にインクを吐出した場合、実施形態1の液体吐出ヘッド12では、図9(d)に示すように、互いに隣接するドット90が、連続して形成される。
【0044】
一方、本実施形態の液体吐出ヘッド12aでは、図9(a)に示すように、インクを吐出する順番が連続する2つの吐出口列の間におけるずれの長さは、他の2つの吐出口列間の間における中心のずれの長さと異なっている(一様になっていない)。例えば、吐出口列1(第1の吐出口列)と吐出口列2(第2の吐出口列)に存在する吐出口31の中心のずれの長さが3dになっているのに対し、吐出口列3と吐出口列4(第4の吐出口列)とにおける吐出口10の中心のずれが長さは5dになっている。そのため、記録媒体を搬送方向Yに搬送しながら各吐出口列から順にインクを吐出した場合、本実施形態の液体吐出ヘッド12aでは、図9(b)に示すように、互いに隣接するドット90が、連続して形成されない。これにより、本実施形態の液体吐出ヘッド12aは、ビーディングが発生しにくくなる。なお、特許文献1に開示された製造方法では、溝が形成された圧電プレートの積層体を、溝の方向と直交する方向に切断しているので、本実施形態のように、吐出口列ごとに吐出口の中心のずれの長さを変えることはできない。また、ここでいうビーディングとは、先に吐出されたインク滴が記録媒体に吸収される前に、次のインク滴が吐出され、これらのインク滴が混ざり合うことにより、濃度ムラが発生する現象を言う。
【0045】
(実施形態3)
図10は、本発明の実施形態3の液体吐出ヘッドの要部構成を示す正面図である。図10は、本実施形態の液体吐出ヘッド12bの圧力室3の周辺を拡大して示している。図10に示す液体吐出ヘッド12bは、凹部4bの形状が実施形態1の液体吐出ヘッド12と異なる。具体的には、実施形態1の液体吐出ヘッド12では、図2(a)に示すように、凹部4bの幅が、凹部4a同士の間隔よりも狭くなっていた。一方、本実施形態の液体吐出ヘッド12bは、凹部4bの幅W1を0.48mmとし、圧力室3を挟んで凹部4a同士の間隔を0.36mmとしている。すなわち、凹部4bの幅W1が凹部4a同士の間隔W2よりも広くなっている。そのため、本実施形態の液体吐出ヘッド12bは、実施形態1の液体吐出ヘッド12に比べ、圧力室3を収縮させやすくなるので、インクの吐出力が向上する。なお、本実施形態の液体吐出ヘッドは、実施形態1で説明した溝加工工程で溝17bの幅を広げることで製造できるため、製造が特別困難になることはない。
【0046】
(実施形態4)
図11は、本発明の実施形態4の液体吐出ヘッドの外観を示す斜視図である。本実施形態の液体吐出ヘッド12cは、凹部4bの幅が実施形態3の液体吐出ヘッド12bよりもさらに広くなっている。具体的には、実施形態3の液体吐出ヘッド12bでは、一つの圧力室3に対して一つの凹部4bが形成されている。一方、本実施形態の液体吐出ヘッド12cは、二つの圧力室3に対応して一つの凹部4bが形成されている。そのため、本実施形態の液体吐出ヘッド12cは、実施形態3の液体吐出ヘッド12bに比べ、圧力室3を収縮させやすくなるので、インクの吐出力がより一層向上する。
【0047】
(実施形態5)
図12は、本発明の実施形態5の液体吐出ヘッドの外観を示す斜視図である。本実施形態の液体吐出ヘッド12dは、凹部4bの形状が実施形態1の液体吐出ヘッド12と異なる。具体的には、実施形態1の液体吐出ヘッド12は、図2(a)に示すように、プレート2に複数の凹部4bが形成されている。一方、本実施形態の液体吐出ヘッド12dでは、複数の凹部4bが連結して幅広の一つの凹部4bとなっている。さらに、本実施形態の液体吐出ヘッド12dには、凹部4bと凹部4aを貫通するスリット23が設けられている。スリット23は、最上層の凹部4bから注入された絶縁冷却油24を、最下層の凹部4bまで充填するために形成されている。このようにして凹部4a、4bに絶縁冷却油24を循環させることによって、液体吐出ヘッド12dの冷却を可能にしている。
【0048】
(実施形態6)
図13は、本発明の実施形態6の液体吐出ヘッドの外観を示す斜視図であり電極配線の構成以外は実施形態1と同様である。本発明の液体吐出ヘッドは、個々の圧力室を個別に駆動するドットオンディマンドタイプの液体吐出ヘッドを示している。図14は、図13に示す液体吐出ヘッドをその背面側(矢印A側)から見た図である。図13に示す電極6と第一の電極6aが対応するように電気的に接続されて個別電極を構成している。それぞれの電極6は、図14に示した面内で圧力室3の内壁から上方向に伸びており、液体吐出ヘッド11の稜線を跨いで、図13に示すように液体吐出ヘッド11の一つの側面に並べて配置されている。これらの電極のインクに接する部分には保護膜が形成されている。
【0049】
(実施形態7)
図15は、本発明の実施形態7の液体吐出ヘッドの外観を示す斜視図である。基本的な構成は実施形態6と同じであるが、プレート2の材料が圧電体から快削性セラミックスに変更されている。圧力室3の上面が圧電体でないので駆動面は4面から3面に減少している。しかし、快削性セラミックスは、機械加工が容易で量産性に富み、また、高い熱伝導性があるためヘッドの昇温防止に有利である。ここでは圧力室の3面を駆動可能にしたが、圧力室周囲の部材を圧電体以外にしてもよく、また、圧電体で作成した場合においても電極を形成しない面を設けることで2面または1面のみを駆動可能としても良い。
【符号の説明】
【0050】
3 圧力室
4a、4b 凹部
10 吐出口
34 圧電部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口に連通し、該吐出口から吐出される液体を貯留するための圧力室を複数備え、前記圧力室の内壁面を構成する圧電素子の伸長及び収縮に応じて前記吐出口から液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室の周囲に複数の凹部が設けられており、少なくとも一つの前記凹部と前記圧力室の間には圧電部材が存在することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記圧力室は、第1の方向に複数配置されるとともに、前記第1の方向と交差する第2の方向に複数配置され、
前記凹部は、前記第1の方向に前記圧力室と交互に形成された第1の凹部と、前記第2の方向に前記圧力室と交互に形成された第2の凹部と、を含む、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧力室の前記内壁面を構成する第1の溝と、前記第1の凹部を構成する第2の溝とが形成された第1のプレートと、前記第2の凹部を構成する第3の溝が形成され、前記第1のプレートに積層された第2のプレートとを有する、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1のプレートと前記第2のプレートの少なくとも一方は圧電体である、請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
液体を吐出する吐出口に連通し、該吐出口から吐出される液体を貯留するための複数の圧力室と、
前記圧力室の内壁面に設けられる第1の電極と、
前記圧力室の周囲に設けられる複数の凹部と、
前記複数の凹部のうち少なくとも1つの凹部の内壁面に設けられる第2の電極と、を備える液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室と前記第2の電極が設けられた複数の凹部の前記内壁面との間に存在する、前記第1の電極と前記第2の電極とを結ぶ方向に分極された圧電部材を備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
変形可能な内壁面に第1の電極を形成した圧力室を、間隔をとって複数形成するとともに、前記圧力室同士の間に、第2の電極を内壁面に形成した凹部と、前記圧力室の内壁面から前記凹部の内壁面まで連続する圧電部材と、を形成する第1の工程と、
前記圧電部材を、前記圧力室の内壁面を変形可能に分極処理する第2の工程と、を有する、液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記第1の工程において、前記圧力室を、第1の方向に第1の間隔をとって複数配置するとともに、前記第1の方向と交差する第2の方向に第2の間隔をとって複数配置し、第1の凹部を、前記第1の方向に前記圧力室と交互に形成し、第2の凹部を、前記第2の方向に前記圧力室と交互に形成する、請求項6に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記第1の工程は、前記圧力室の前記内壁面を構成する第1の溝、および前記第1の凹部の前記内壁面を構成する第2の溝が形成された第1のプレートと、前記第2の凹部の前記内壁面を構成する第3の溝が形成された第2のプレートを互いに積層する積層工程を有する、請求項7に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記積層工程の前に前記第2の工程を行う、請求項8に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−144038(P2012−144038A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246454(P2011−246454)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】