説明

液体吐出ヘッド用保護ケース

【課題】液体吐出ヘッドを収容する保護ケースであって、液体吐出ヘッドを収容した状態で落下などにより強い衝撃を受けたとしても、ノズル面が封止キャップに密着している状態を維持できるものを提供する。
【解決手段】保護ケース50は、ケース本体51と蓋体52とを備えている。このケース本体51は、ノズル面32のノズルを封止するキャッピング位置とノズルを封止しない退避位置とに移動可能な封止キャップ53と、この封止キャップ53を退避位置からキャッピング位置へ向かう方向へ付勢するバネ55と、液体吐出ヘッド4の移動を規制する移動規制部を備えている。そして、ケース本体51に相対的不動に保持された液体吐出ヘッド4のノズル面32に対して、封止キャップ53が進退移動するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドを収容するための液体吐出ヘッド用保護ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙等の記録媒体に液体を吐出して記録媒体に印刷するインクジェット式プリンタ装置を一例とする液体吐出装置が知られている。例えば、インクジェット式プリンタ装置では、インク(液体)を蓄えておくタンク部と、タンク部から供給されるインクを振動又は熱を利用して記録媒体に向けてノズルから吐出するヘッド部とを有する液体吐出ヘッドと、液体を貯えたインクカートリッジとを備え、液体吐出ヘッドのノズルからインクカートリッジより供給されたインクを吐出するように構成されている。
【0003】
上記のような液体吐出ヘッドは、メンテナンス時などの便宜を図って、一般に、液体吐出装置に対して着脱可能に設けられている。そして、液体吐出装置から取り外された液体吐出ヘッドは、ノズル面の保護や液体の変質防止のために専用の保護ケースに収容された状態で保管されたり持ち運ばれたりする。
【0004】
例えば、特許文献1に開示された保護ケースは、上面開口の箱状のケース本体と、このケース本体の上面に嵌合する蓋体と、ケース本体の内底部に設けられた封止キャップと、蓋体に設けられた押圧機構とを、備えている。この押圧機構は、ケース本体に収容された液体吐出ヘッドを封止キャップに向けて押圧するためのものであり、収容された液体吐出ヘッドに近接する近接方向及びその反対方向に進退移動可能に蓋体に設けられたロッドと、このロッドを近接方向に付勢する付勢部材と、ロッドが液体吐出ヘッドから受ける衝撃を緩衝するダンパ機構とを有している。また、封止キャップは、弾性変形可能な樹脂製の略矩形板であって、液体吐出ヘッドのノズル面に開口しているノズルを包囲するような枠形状のリップ(突条)を有している。上記構成の保護ケースに収容された液体吐出ヘッドは、ケース本体と押圧機構とにより上下から加圧した状態で挟み込まれることによって、保護ケース内で相対移動不能に固定されるとともに、そのノズル面に封止キャップのリップが圧接されている。この保護ケースでは、ロッドが液体吐出ヘッドから受ける反力に合わせて進退し、部品寸法のバラツキに関係なく封止キャップはノズル面に設定圧力で密着するので、ノズル面に大きな圧力が作用することに起因するノズル面の変形を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−107711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載された構成の保護ケースでは、液体吐出ヘッドはロッドにてケース本体に対して押圧されることにより保護ケースに固定されているので、付勢部材が伸縮するとロッドが動いてしまうことがある。例えば、保護ケースを落下させる等して保護ケースに大きな衝撃が加わると、液体吐出ヘッドの慣性力が付勢部材の付勢力に打ち勝って、液体吐出ヘッドを規制しているロッドが移動してしまうことが想定される。この場合、液体吐出ヘッドがロッドから充分な圧力を受けることができず、最悪の場合には、封止キャップがノズル面から離れてしまい、封止キャップに捕集された液体が漏れ出たり、ノズルが乾燥して吐出不良を生じたりするおそれがある。
【0007】
そこで、本発明では、液体吐出ヘッドを収容する保護ケースであって、液体吐出ヘッドを収容した状態で落下などにより強い衝撃を受けたとしても、ノズル面が封止キャップに封止されている状態を維持できるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液体吐出ヘッド用保護ケースは、そのノズル面に開口する複数のノズルから液体を吐出するように構成された液体吐出ヘッドを収容するための液体吐出ヘッド用保護ケースであって、前記液体吐出ヘッドを挿入するための開口を有するケース本体と、前記ケース本体に装着されて前記ケース本体の前記開口を閉塞する蓋体とを備え、前記ケース本体は、収容された前記液体吐出ヘッドの前記ノズルを封止するキャッピング位置と前記ノズルを封止しない退避位置との間を第一方向に往復移動可能である封止キャップと、前記封止キャップを前記退避位置から前記キャッピング位置へ向かう方向へ付勢する付勢部材と、収容された前記液体吐出ヘッドに作用してその前記第一方向における前記退避位置から前記キャッピング位置に向かう方向、及び、前記キャッピング位置から前記退避位置に向かう方向の双方向の移動を規制する第一方向移動規制部とを、備えているものである。
【0009】
上記構成によれば、液体吐出ヘッドを収容した保護ケースが、例え強い衝撃を受けたとしても、液体吐出ヘッドはケース本体に対して第一方向における双方向に動かないように固定されているので、保護ケースに相対して第一方向へ移動できない。一方、液体吐出ヘッドと比較して極めて軽量の封止キャップは、その慣性力が付勢部材の付勢力に打ち勝って液体吐出ヘッドのノズル面から離れる第一方向へ移動する可能性があるが、封止キャップの重量は小さいので働く慣性力も小さいために移動量はノズル面から離れない程度に微量であり、封止キャップによりノズル面が封止されている状態は維持される。また、付勢部材が封止キャップに働く慣性力に負けないような付勢力を備えても、封止キャップがノズル面に付与する圧力は、ノズル面をクリープ変形させない程度に抑えることができる。このように、液体吐出ヘッドを収容した保護ケースが例え強い衝撃を受けたとしても、封止キャップにより液体吐出ヘッドのノズル面が封止されている状態が維持されるので、捕集された液体が封止キャップから漏れ出たり、ノズル内の液体が変質したりすることを、防止できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液体吐出ヘッドを収容した保護ケースが、強い衝撃を受けた場合に、ケース本体に対して固定された液体吐出ヘッドのノズル面から封止キャップが離れる方向へ移動する可能性はあるが、液体吐出ヘッドと比較して極めて軽量の封止キャップは働く慣性力が小さく、その移動量はノズル面から離れない程度に微量であり、ノズル面が封止キャップにより封止されている状態を維持できる。また、付勢部材が封止キャップに働く慣性力に負けないような付勢力を備えても、封止キャップがノズル面に付与する圧力は、ノズル面をクリープ変形させない程度に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る液体吐出装置たるインクジェット式プリンタの要部を示す模式的平面図である。
【図2】ヘッドユニットを分解して示す分解斜視図である。
【図3】ヘッドユニットの底面を示す図である。
【図4】レール上のヘッドユニットの状態を示す図であり、(a)は印刷時のレールとヘッドユニットとの側面図、(b)はメンテナンス時のレールとヘッドユニットとの側面図である。
【図5】保護ケースとこれに収容されたヘッドユニットとを分解して示す分解斜視図である。
【図6】保護ケースのケース本体と蓋体とを対応させて示す展開図であり、(a)は蓋体の底面図、(b)はケース本体の平面図である。
【図7】蓋体の下方からの斜視図である。
【図8】ケース本体の分解斜視図である。
【図9】ケース本体を第三方向に切断した断面の概略図である。
【図10】ケース本体を第二方向に切断した断面の概略図である。
【図11】ケース本体へのヘッドユニットの挿入手順を説明する図であり、(a)はケース本体にヘッドユニットを挿入した後の図、(b)はヘッドユニットを第二方向へスライドさせた後の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0013】
(プリンタ1)
まず、本発明に係る液体吐出ヘッド用保護ケース(以下単に、「保護ケース」という)に収容される液体吐出ヘッド4が搭載された液体吐出装置について、液体吐出装置の一例であるインクジェット式カラープリンタ装置(以下、「プリンタ」と称する)に適用した場合を例にとり、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1に示すように、プリンタ1は、走査方向(図1中、左右方向)に往復移動可能なように本体フレーム2に設けられたキャリッジ5と、キャリッジ5に搭載された液体吐出ヘッド4とを備えている。本体フレーム2内には、プラテン8が設けられており、このプラテン8上において、図示しない送りローラ等により記録媒体が前方(図1中、手前方向)へ搬送される。
【0015】
図2にも示すように、液体吐出ヘッド4は、一方(図2の紙面下方)の面に複数のノズルが開口しているノズル面32を有するヘッド部3と、ヘッド部3の他方(図2の紙面上方)に配置されたタンク部6とを、備えている。ヘッド部3は、インクの種類(例えば、シアン,マゼンタ,イエロー,ブラック)に対応するインク流路及び液体を吐出する複数のノズルが形成された流路ユニット31と、流路ユニット31のノズル面32と反対側に配置されて、フレキシブル配線基板35によりプリンタ1の制御回路と電気的に接続される圧電アクチュエータ34とを、備えている。上記構成のヘッド部3は、圧電アクチュエータ34に制御回路から駆動電圧が印加されることによって、流路ユニット31内に導かれたインクを複数のノズルから微小な液滴として選択的に吐出するように構成されている。
【0016】
また、タンク部6は、ヘッド部3内の対応するインク流路と連通するインク貯溜室(図示略)を有し、各インク貯溜室に開口した供給口61a〜61dを有している。この供給口61a〜61dに一端が接続されたチューブ91を介してインクカートリッジ9内のインクは対応するタンク部6のインク貯溜室へ供給される。なお、保護ケース50に収容される液体吐出ヘッド4には、各供給口61a〜61dを封止するための供給口封止部材14が取り付けられる(図5、参照)。この供給口封止部材14は、各供給口61a〜61dのそれぞれに嵌入して封止する複数の凸部を有している。
【0017】
上記構成のヘッド部3は、ノズル面32が下方を向くようにキャリッジ5内の所定位置に配設され、このヘッド部3の上にタンク部6が配設される。ここで、圧電アクチュエータ34に取り付けられたフレキシブル配線基板35はタンク部6より上方へ持ち出されており、ノズル面32はキャリッジ5の下面に現れている。このようにキャリッジ5と、キャリッジ5に搭載された液体吐出ヘッド4とを併せて「ヘッドユニット10」と呼ぶこととする。
【0018】
ヘッドユニット10は、本体フレーム2(本体筐体)に設けられた走査機構7によって、同じく本体フレーム2に設けられた一対のガイドレール21,22に乗って、走査方向に往復移動する。図3及び図4(a)に示すように、ヘッドユニット10がガイドレール21,22上を摺動するときのガイドレール21,22上面への接触部分(第一接触部)として、キャリッジ5の下面にはガイドレール21上を滑る単数又は複数の第一のスライダ25と、ガイドレール22上を滑る単数又は複数の第二のスライダ24,24がそれぞれ設けられている。また、図3及び図4(b)に示すように、ヘッドユニット10がガイドレール21,22に乗っているときのガイドレール21,22下面への接触部分(第二接触部)として、キャリッジ5の下面には、後述するメンテナンス時にキャリッジ5を所定位置に位置決めするための位置決め部5a,5a,5b,5bが形成されている。
【0019】
走査機構7は、走査方向一端側に設けられてモータ(図示せず)により正逆回転駆動される駆動プーリ71、走査方向他端側に設けられた従動プーリ72、及びこれらのプーリ71,72に巻回された無端状ベルト73等から構成されており、この無端状ベルト73にキャリッジ5が固定されている。係る構成により、駆動プーリ71が正逆回転駆動されて無端状ベルト73が移動すると、ヘッドユニット10は無端状ベルト73に伴って走査方向に移動する。
【0020】
上記構成により、ヘッドユニット10は、プラテン8と対向する範囲でガイドレール21,22に沿って走査方向に往復移動しながら、搬送される記録媒体に対して液体吐出ヘッド4のノズルから各色のインクをそれぞれ吐出して、記録媒体に所望の画像を印刷することができる。一方で、画像を印刷していないときやメンテナンス時には、ヘッドユニット10は、プラテン8に対して走査方向一方側(図1中、右側)のメンテナンス位置に退避する。このメンテナンス位置に退避している液体吐出ヘッド4の下方には、メンテナンス機構40が設けられている。
【0021】
メンテナンス機構40は、液体吐出ヘッド4のノズル孔から強制的にインクと共にエアなどを外部に排出するパージ動作を実行するためのパージ装置41と、ノズル面32に付着しているインクを拭き取るためのワイパー42とを備えている。図4(b)に示すように、パージ装置41は、メンテナンス位置にある液体吐出ヘッド4の下方に配置されたキャップ43と、キャップ43をノズル面32に当接しているキャッピング位置(上方位置)とノズル面32から離れている退避位置(下方位置)との間で移動させる移動機構44と、キャップ43に設けられた排出孔に接続チューブ45を介して接続された負圧吸引ポンプ46と、この負圧吸引ポンプ46に接続されて吸引された排インクを回収する排インクタンク47とを備えている。
【0022】
図4(a)に示すように、印刷時のキャリッジ5は、ガイドレール21,22上面を第一接触部であるスライダ24,25で接触しつつ摺動する。一方、図4(b)に示すように、メンテナンス位置にあるキャリッジ5は、キャッピング位置にあるキャップ43により押し上げられることによって、ガイドレール21,22からスライダ24,25が離れ、ガイドレール21,22の下面と第二接触部である位置決め部5a,5bで当接している。このように、メンテナンス位置にあるキャリッジ5が、位置決め部5a,5bによってキャップ43からの圧を受け得る位置に固定された状態で、液体吐出ヘッド4に対してパージ動作が行われる。
【0023】
(保護ケース)
続いて、保護ケース50について説明する。図5は保護ケースとこれに収容されたヘッドユニットとを分解して示す分解斜視図である。図5に示すように、保護ケース50は、液体吐出ヘッド4とキャリッジ5とから成るヘッドユニット10を収容するためのケースであり、液体吐出ヘッド4のノズルから液体(インク)が漏れたり、ノズル内の液体が乾燥したりすることを防ぐものである。保護ケース50は、上面にヘッドユニット10を挿入するための開口を有するケース本体51と、ケース本体51に装着されてこのケース本体の開口を閉塞する蓋体52とを備えている。以下では、特にことわりがなければ、ケース本体51に対し蓋体52が装着される方向を上方として、その逆を下方とし、この上下方向を「第一方向」として説明する。また、この第一方向と略直交し且つヘッドユニット10のプリンタ1での走査方向に対応する方向を「第二方向」とし、第一方向及び第二方向と略直交する方向を「第三方向」とする。
【0024】
図6は保護ケースのケース本体と蓋体とを対応させて示す展開図であり、(a)は蓋体の底面図、(b)はケース本体の平面図、図7は蓋体の下方からの斜視図である。これらの図にも示すように、蓋体52には、ケース本体51の側面に形成された係止突起519,,519と係止してケース本体51に蓋体52を固定する係止爪522,,522が側面に形成されている。さらに、蓋体52には、ケース本体51に収容されたヘッドユニット10の第二方向への移動を規制する第二方向移動規制部521,521と、ストッパ64を動作させるストッパ作動部523,523とが、いずれも内天井から垂下するように形成されている。蓋体52に設けられたこれらの部位の機能については後述する。
【0025】
図8はケース本体の分解斜視図、図9はケース本体を第三方向に切断した断面の概略図である。図5,6,8,9に示すように、ケース本体51は、ヘッドユニット10の外形形状に応じた内形形状を有するポリオキシメチレン樹脂の成形体である。このケース本体51は、内底面に、略中央の第一底面510と、この第一底面510を挟んで両側にそれよりも高段の第二底面511及び第三底面512とを有しており、第三底面512、第一底面510、第二底面511の順に第三方向に並んでいる。ヘッドユニット10は、前述の通りタンク部6の供給口61a〜61dに供給口封止部材14が取り付けられ、液体吐出ヘッド4のノズル面32を下方に向けてケース本体51に収容される。
【0026】
ケース本体51の第二底面511には、スライダ受け514a,514aが形成されており、同じく第三底面512には、スライダ受け514bが形成されている。これらのスライダ受け514a,514a,514bは、ケース本体51に収容されたヘッドユニット10のキャリッジ5の下面に設けられたスライダ24,24,25が、その上部に当接するように配置されている。また、これらのスライダ受け514a,514a,514bは、その上をスライダ24,24,25が第二方向へ摺動できるように、第二方向に伸びるレール形状を有している。
【0027】
ケース本体51の第一底面510には、位置決め部受け517,517が形成されており、同じく第三底面512には、位置決め部受け513,513が形成されている。これらの位置決め部受け517,517,513,513は、いずれも爪形状を有し、キャリッジ5に設けられた位置決め部5a,5a,5b,5bが、爪の下面に接触して引っかかるように構成されている。そして、これらの位置決め部受け517,517,513,513は、ヘッドユニット10がスライダ受け514a,514b上をスライダ24,25で接触しながら第二方向へケース本体51の内側に当接するまで移動した後の状態で、初めてヘッドユニット10に対して作用できる位置に配置されている。前述のスライダ受け514a,514b(第一作用部)と、この位置決め部受け513,517(第二作用部)とは、収容されたヘッドユニット10に作用してその第一方向の移動を規制する第一方向移動規制部として機能する。
【0028】
そして、ケース本体51の第三底面512には、第三方向移動規制部516,516が設けられている。この第三方向移動規制部516は、ケース本体51の第三底面512から起立するように形成された板バネ状体であって、キャリッジ5の第三方向の一端がケース本体51の内側に当接した状態で、その他端が当接する位置に設けられている。
【0029】
図10はケース本体を第二方向に切断した断面の概略図である。図8,10に示すように、ケース本体51の第一底面510は、ケース本体51に収容されたヘッドユニット10のノズル面32と対向する部分であり、この第一底面510のノズル面32と対向する位置には、封止キャップ53が設けられている。この封止キャップ53は、ノズル面32の保護や液体の変質防止のためにノズル面32を封止することを目的として合成ゴムで構成され、少なくともノズル面32を覆う大きさに形成されている。封止キャップ53は、略矩形板状体であって、その上面に液体吐出ヘッド4のノズル面32に開口しているノズルを包囲するような枠形状のリップ(突条)が形成されている。そして、封止キャップ53のリップの上端面がノズル面32に密着したときに、封止キャップ53内に封止された内部空間が形成されるようになっている。
【0030】
封止キャップ53は、ケース本体51内に可動に設けられたキャップホルダ54に固定されており、これらの封止キャップ53とキャップホルダ54とは一体的なキャップユニット56を構成している。封止キャップ53は、その上面が保護ケース50に収容された液体吐出ヘッド4のノズル面32に接触してノズルを封止する上段のキャッピング位置と、その上面がノズル面32から離れてノズルを封止しない下段の退避位置との間を、キャップユニット56として第一方向に移動することができる。
【0031】
キャップホルダ54は、第三方向から見て略U字状の弾性変形可能な枠部54bと、枠部54bのU字の内底部分に形成されて封止キャップ53を保持するキャップ保持部54aと、枠部54bのU字の両端外側部分に形成された係止部54c,54cとを、一体的に備えている。キャップ保持部54aは、封止キャップ53をそのリップを上方へ突出させた状態に嵌め込むことのできる箱形状を有し、このキャップ保持部54aの底面とケース本体51の第一底面510との間には、キャップユニット56を退避位置からキャッピング位置へ向かう方向へ付勢する付勢手段であるバネ55,,,55が介装されている。さらに、ケース本体51には、キャップ保持部54aの四隅において、キャップユニット56を左右に振れずに第一方向へ移動させるために、キャップ保持部54aの第一方向への移動を案内するガイド柱518,,,518が形成されている。なお、バネ55は、封止キャップ53をノズル面32へ圧接させるために、キャップユニット56を十分に付勢でき、且つ、その付勢によりノズル面32が過度に圧を受けてクリープ変形しない程度のバネ係数のものが採用される。
【0032】
また、キャップホルダ54の係止部54cは、ケース本体51の内壁に設けられた被係止部515に係止するものであり、係止部54cと被係止部515とが係止することによって、封止キャップ53が退避位置に保持される。このキャップホルダ54の係止部54cと、ケース本体51の内壁に設けられた被係止部515とは、封止キャップ53を退避位置で保持する位置保持機構を構成している。そして、このように封止キャップ53が退避位置に保持されている状態から、キャップホルダ54の枠部54bのU字の両端部を内側へ撓ませるように弾性変形させて係止部54cと被係止部515との係止を解除すると、キャップユニット56はバネ55の付勢によりキャッピング位置へ上昇する。逆に、キャップユニット56がキャッピング位置にあるときに、キャップホルダ54の枠部54bのU字の両端部を内側へ撓ませるように弾性変形させながら、キャップユニット56をバネ55の付勢力に抗して押し下げ、係止部54cがケース本体51の被係止部515よりも下がったところで弾性変形を回復させると、係止部54cと被係止部515とが係止し、キャップユニット56を退避位置に保持させることができる。
【0033】
さらに、図8,9に示すように、ケース本体51の第一底面510には、ストッパ64が設けられている。このストッパ64は、キャッピング位置にあるキャップユニット56とケース本体51の第一底面510との間に存在して、キャップユニット56の第一方向への移動を規制するものである。ヘッドユニット10を収容した保護ケース50が強い衝撃を受けた場合に、キャップユニット56の慣性力がバネ55の付勢力に打ち勝ってキャップユニット56が第一方向へ大きく移動して封止キャップ53がノズル面32から離れることが想定されるが、このようなときにストッパ64がキャップユニット56の下面に当接することによって、キャップユニット56の第一方向への過度な移動が規制されるようになっている。
【0034】
ストッパ64は、蓋体52に設けられたストッパ作動部523が当接する作動面64aと、ケース本体51の内壁に当接して第三方向への移動の規制を受けるケース当接面64bと、キャッピング位置にあるキャップユニット56とケース本体51の第一底面510との間に存在する規制部64cと、ケース本体51の第一底面510に形成された第三方向へ延びるレール520に案内されるスライダ部64dと、退避位置にあるキャップユニット56に当接して第三方向への移動の規制を受けるキャップ当接面64eとが、一体的に形成されている。ストッパ64は、そのスライダ部64dが第一底面510のレール520に案内されることによって、第三方向へ往復移動できる。キャップユニット56が退避位置にあるときは、ストッパ64はキャップ当接面64eでキャップユニット56に当接して、第三方向へ移動できない。一方、キャップユニット56がキャッピング位置にあるときは、ストッパ64はそのケース当接面64bがケース本体51の内壁に当接するまで第三方向をキャップユニット56側へ移動する。なお、このストッパ64の移動は、蓋体52に設けられたストッパ作動部523がストッパ64の作動面64aを押圧することにより行われる。上述のようにして、キャッピング位置にあるキャップユニット56とケース本体51の第一底面510との間にストッパ64の規制部64cが入り込み、キャップユニット56の第一方向への過度な移動が規制される。ここで、第一方向への過度な移動とは、ケース本体51に収容されたヘッドユニット10のノズル面32に圧接されている封止キャップ53が、ノズル面32から離れる程度の大きさの第一方向への移動のことである。
【0035】
(ヘッドユニットの保護ケースへの収容手順)
ここで、上記構成の保護ケース50にヘッドユニット10を収容する手順を説明する。図11はケース本体へのヘッドユニットの挿入手順を説明する図であり、(a)はケース本体にヘッドユニットを挿入した後の図、(b)はヘッドユニットを第二方向へスライドさせた後の図である。
【0036】
まず、封止キャップ53が、位置保持機構により退避位置に保持されていることを確認して、ヘッドユニット10をケース本体51の上面から挿入する。このとき、図11(a)に示すように、ヘッドユニット10は、キャリッジ5のスライダ24,24,25でスライダ受け514a,514a,514bと当接して支持され、第三方向の一方側でケース本体51の内壁と当接し、第三方向の他方側で第三方向移動規制部516,516と当接している。ここで、ヘッドユニット10は、第三方向移動規制部516によって、ケース本体51に対して第三方向へ相対的不動に固定されている。
【0037】
次に、図11(b)に示すように、キャリッジ5のスライダ24,24,25をスライダ受け514a,514a,514b上で滑らせて、ヘッドユニット10を第二方向の一方側へケース本体51の内壁に当接するまで移動させると、位置決め部受け513,513,517,517の爪の下方にキャリッジ5の位置決め部5a,5a,5b,5bが入り込む。このとき、ヘッドユニット10は、スライダ24,25がスライダ受け514a,514bの上面に当接することによって第一方向のうち一方(下方)への移動が規制され、位置決め部受け513,517の爪の下面に位置決め部5a,5bが当接することによって第一方向のうち他方(上方)への移動が規制されている。即ち、ヘッドユニット10は、第一方向における退避位置からキャッピング位置に向かう方向、及び、キャッピング位置から退避位置に向かう方向の双方向の移動が規制されて、ケース本体51に対して第一方向へ相対的不動に固定されている。
【0038】
続いて、キャップホルダ54を操作して係止部54cと被係止部515との係止を解除する。すると、封止キャップ53はバネ55の付勢によりそのリップがヘッドユニット10のノズル面32と接触するキャッピング位置まで上昇する。このとき、封止キャップ53のリップはノズル面32に圧接されて、ノズル面32に開口しているノズルを封止している。
【0039】
そして、ケース本体51の上面の開口を閉塞するように蓋体52をケース本体51へ向けて移動させると、その過程で蓋体52の第二方向移動規制部521,521がヘッドユニット10の第二方向一方端に当接して、ヘッドユニット10はケース本体51の内壁と第二方向移動規制部521とに挟まれる。これにより、ヘッドユニット10は、第二方向への移動が規制されて、保護ケース50に対して第二方向へ相対的不動に固定される。さらに、蓋体52がケース本体51へ向けて移動する過程で、ストッパ作動部523が、ストッパ64の作動面64aに当接して、ストッパ64を第三方向へ移動させる。これにより、ストッパ64の規制部64cがケース本体51の第一底面510とキャップホルダ54との間に入り込み、封止キャップ53の下方への過剰な移動が規制される。最後に、ケース本体51の係止突起519と蓋体52の係止爪522とが係止して、ヘッドユニット10が収容されたケース本体51に蓋体52が固定される。
【0040】
上述のように、保護ケース50に収容されたヘッドユニット10は、キャリッジ5のスライダ24,25と位置決め部5a,5bとにおいてケース本体51に当接することによって、第一方向における双方向への移動が規制されている。前述の通り、キャリッジ5のスライダ24,25と位置決め部5a,5bとは、プリンタ1においてキャリッジ5が移動するためや、メンテナンス位置へ位置決めするために利用されているものであり、キャリッジ5の中では個体ごとの位置及び形状のバラツキが特に小さい部分である。このように高精度に位置及び形状が定まった部分をケース本体51がヘッドユニット10に対して作用する被作用点として利用しているので、ケース本体51とこれに収容されたヘッドユニット10との間のガタツキを少なくすることができる。
【0041】
さらに、保護ケース50に収容されたヘッドユニット10は、ケース本体51の内壁と第二方向移動規制部521により第二方向への移動が規制され、ケース本体51の内壁と第三方向移動規制部516により第三方向への移動が規制されている。つまり、ヘッドユニット10はケース本体51に対して相対的に固定されている。従って、ヘッドユニット10が収容された保護ケース50が落下するなどして強い衝撃を受けても、ヘッドユニット10は保護ケース50に対して相対的に固定されて動かない。
【0042】
一方、保護ケース50に収容されたヘッドユニット10のノズル面32に圧接している封止キャップ53は、強い衝撃を受けるとキャップユニット56の慣性力がバネ55の付勢力に打ち勝って、ノズル面32から離れる方向へ移動する可能性は否定できない。しかし、ヘッドユニット10と比較してキャップユニット56の重量は極めて小さく、これに作用する慣性力も相対的に小さいものであるから、封止キャップ53の移動量は微量であって、封止キャップ53がノズル面32から離れる程度に大きくない。さらに、封止キャップ53がノズル面32から離れる程度に移動しようとしても、ストッパ64の規制部64cがキャップユニット56に当接することにより、その移動が規制される。なお、保護ケース50の落下程度の衝撃によってキャップユニット56に生じる慣性力に打ち勝つ程度の付勢力をバネ55に備えても、封止キャップ53がノズル面32を過度に圧迫してクリープ変形を生じさせるようなことはない。このように、保護ケース50が例え強い衝撃を受けても、収容されている液体吐出ヘッド4のノズル面32から封止キャップ53が離れない状況を実現することができる。よって、封止キャップ53が液体吐出ヘッド4のノズル面32から離れないので、捕集された液体が封止キャップ53から漏れ出たり、ノズル内の液体が変質したりすることを、防止できる。
【0043】
なお、上記保護ケース50では、スライダ受け514a,514bで退避位置からキャッピング位置に向かう方向のヘッドユニット10の移動が規制され、位置決め部受け513,517でキャッピング位置から退避位置に向かう方向のヘッドユニット10の移動が規制されることによって、第一方向移動規制部はヘッドユニット10の第一方向における双方向の移動を規制するように構成されているが、第一方向移動規制部の構成はこれに限定されるものではない。例えば、ケース本体51に挿入されたヘッドユニット10と当接可能であって第一方向と略直交する方向へ延びる案内部(第一作用部)と、ケース本体51に挿入されたヘッドユニット10が前記案内部に案内された第一方向と略直交する方向へ移動した状態で初めてヘッドユニット10をケース本体51に対して第一方向における双方向に位置固定する固定部(第二作用部)とで、第一方向移動規制部を構成することができる。この固定部は、例えば、第一方向における双方向からヘッドユニット10の一部分を挟み込むクリップ形状のものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る液体吐出ヘッド用保護ケースは、ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドを収容することができ、液体吐出ヘッドを収容した保護ケースが大きな衝撃を受けてもノズル面が封止キャップに密着している状態を維持でき、これによって収容された液体吐出ヘッドのノズルからの液漏れ及びノズル内の液体の乾燥を抑制することができる優れた効果を有し、液体吐出ヘッド等の液滴を吐出する装置を収容するものに適用すると有益である。
【符号の説明】
【0045】
1 プリンタ
2 本体フレーム
3 ヘッド部
4 液体吐出ヘッド
5 キャリッジ
5a,5b 位置決め部
6 タンク部
7 走査機構
8 プラテン
9 インクカートリッジ
10 ヘッドユニット
21,22 ガイドレール
24,25 スライダ
31 流路ユニット
32 ノズル面
34 圧電アクチュエータ
35 フレキシブル配線基板
50 保護ケース
51 ケース本体
510 第一底面
511 第二底面
512 第三底面
513,517 位置決め部受け
514a,514b スライダ受け
515 被係止部
516 第三方向移動規制部
518 ガイド柱
519 係止突起
52 蓋体
521 第二方向移動規制部
522 係止爪
523 ストッパ作動部
53 封止キャップ
54 キャップホルダ
55 バネ
56 キャップユニット
64 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
そのノズル面に開口する複数のノズルから液体を吐出するように構成された液体吐出ヘッドを収容するための液体吐出ヘッド用保護ケースであって、
前記液体吐出ヘッドを挿入するための開口を有するケース本体と、前記ケース本体に装着されて前記ケース本体の前記開口を閉塞する蓋体とを備え、
前記ケース本体は、
収容された前記液体吐出ヘッドの前記ノズルを封止するキャッピング位置と前記ノズルを封止しない退避位置との間を第一方向に往復移動可能である封止キャップと、
前記封止キャップを前記退避位置から前記キャッピング位置へ向かう方向へ付勢する付勢部材と、
収容された前記液体吐出ヘッドに作用してその前記第一方向における前記退避位置から前記キャッピング位置に向かう方向、及び、前記キャッピング位置から前記退避位置に向かう方向の双方向の移動を規制する第一方向移動規制部とを、
備えていることを特徴とする液体吐出ヘッド用保護ケース。
【請求項2】
前記第一方向移動規制部は、
前記ケース本体に挿入された前記液体吐出ヘッドと当接可能であって、前記第一方向と直交する方向へ延びる案内部と、
前記ケース本体に挿入された前記液体吐出ヘッドが前記案内部に案内されて前記第一方向と直交する方向へ移動した後の状態で初めて前記液体吐出ヘッドを前記双方向において固定する固定部とを、少なくとも有する、
請求項1に記載の液体吐出ヘッド用保護ケース。
【請求項3】
前記液体吐出ヘッドは、液体を吐出する液体吐出装置の本体筐体に設けられたレールに乗って走査方向に往復移動しつつ前記ノズルから液体を吐出するように構成されており、
前記第一方向移動規制部は、
前記液体吐出ヘッドが前記レールに乗っているときに前記レール上面への接触部分として前記液体吐出ヘッドに設けられた第一接触部と、
前記液体吐出ヘッドが前記レールに乗っているときに前記レール下面への接触部分として前記液体吐出ヘッドに設けられた第二接触部とに、作用するように構成されている、
請求項1に記載の液体吐出ヘッド用保護ケース。
【請求項4】
前記第一方向移動規制部は、
前記ケース本体に挿入された前記液体吐出ヘッドの前記第一接触部が当接可能であって、前記走査方向に対応する第二方向へ延びるレール状の第一作用部と、
前記ケース本体に挿入された前記液体吐出ヘッドが前記第一作用部上を前記第一接触部で接触しながら前記第二方向へ移動した後の状態で初めて前記第二接触部に作用できる第二作用部とを、少なくとも有する、
請求項3に記載の液体吐出ヘッド用保護ケース。
【請求項5】
前記ケース本体は、前記封止キャップを前記退避位置で保持する位置保持機構を備えている、
請求項4に記載の液体吐出ヘッド用保護ケース。
【請求項6】
前記蓋体は、前記ケース本体に収容された前記液体吐出ヘッドの前記第二方向への移動を規制する第二方向移動規制部を備えている、
請求項4又は請求項5に記載の液体吐出ヘッド用保護ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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