説明

液体吐出ヘッド

【課題】ノズルの高密度化、多ノズル化に適した荷電偏向型コンティニュアス式液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】2次元状に配列された複数のノズルを有するオリフィスプレート101と、複数のノズルの各々から吐出された液滴に電荷を付与するための帯電電極を有する帯電電極板102と、帯電電極により電荷が付与された液滴の各々を偏向するための偏向電極をそれぞれ有する第1および第2の偏向電極板103,104と、を備え、帯電用部材、第1の偏向用部材および第2の偏向用部材は、液滴を通過させるための貫通孔をそれぞれ有し、帯電用部材、第1の偏向用部材および第2の偏向用部材は、この順に液滴の吐出方向に積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンティニュアス式の液体吐出装置に用いる液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
コンティニュアス式のインクジェット装置(液体吐出装置)は、インクにポンプで常時に圧力をかけてインクを押し出す。さらに、加振手段により押し出されたインクに振動を加えてレイリージェットと呼ばれる液滴形成状態をつくることで、液滴をノズルから規則的に吐出する。コンティニュアス方式では、常にインクがノズルから吐出され続けるので、印刷データにあわせて印刷に使用する液滴と使用しない液滴を選別する必要がある。そのために、液滴を選択的に帯電させ、電場によって偏向させ、非帯電液滴と異なる軌道を飛翔するようにする。バイナリー方式と呼ばれるコンティニュアス式のインクジェット装置では、非帯電の液滴を印刷に使用し、帯電した液滴をガターによって捕獲、回収する。
【0003】
コンティニュアス方式のインクジェット装置においては、高精細な画像を得るために、複数のノズルを直線状に配列したものが知られている。特許文献1は、1列に配列された複数のノズルを備えるモジュール式のマルチジェット偏向ヘッドを開示している。特許文献1における偏向電極は、配線をパターニングにより形成した部材を電極板の上面、および下面に用意し、一方の極を電極の上面、もう一方の極を下面に個別に引き出すことで、組み立て後の偏向電極は電極板内を2種類の極が交互に並ぶ構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3260416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、印刷の高速化と高精細化を実現するには、ノズル数を増やし、ノズルを2次元アレイ状に高密度に配列することが有効である。特許文献1では、高解像度を得るため、2次元アレイ化する場合は、モジュールを複数個用意し、側面で組み合わせることを開示している。
【0006】
しかしながら、モジュール同士の組み立てには高い精度が要求されるとともに、ノズルアレイ数が多くなるに従い、組み立て工数が増大し、製造コストが高くなる。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであって、高解像度を得ることができるとともに製造コストの低いコンティニュアス式の液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液体吐出ヘッドは、第1の方向と当該第1のノズルとは異なる第2の方向に沿って2次元配列された、液滴を吐出するための複数のノズルを有するノズル用部材と、前記複数のノズルの各々から吐出された液滴に電荷を付与するための帯電電極を有する帯電用部材と、前記帯電電極により電荷が付与された液滴の各々を偏向するための偏向電極をそれぞれ有する第1および第2の偏向用部材と、を備え、前記帯電用部材、前記第1の偏向用部材および第2の偏向用部材は、前記複数のノズルから吐出された液滴を通過させるための貫通孔をそれぞれ有し、前記帯電用部材、前記第1の偏向用部材および前記第2の偏向用部材は、この順に前記複数のノズルの各々から液滴が吐出される方向に積層されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高速、かつ、高精細な液体吐出ヘッドが得られるとともに、ノズル配列数を増加させても部品点数が増加しない、組み立てコストが低い液体吐出ヘッドが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が適用されるインクジェット装置の一例のシステム概要図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの斜視図および分解斜視図である。
【図3】図2のインクジェットヘッドの断面図である。
【図4】図3のインクジェットヘッドの上面図である。
【図5】第1の実施例に係るオリフィスプレートの工程図である。
【図6】第1の実施例に係る帯電電極板の工程図である。
【図7】第1の実施例に係る第1の偏向電極板の工程図である。
【図8】第1の実施例に係る第2の偏向電極板の工程図である。
【図9】第1の実施例に係る第2の偏向電極板の上面図である。
【図10】(A)は第1の実施例の偏向電極板での電界シミュレーションの結果を示す図であり、(B)は第1の実施例の偏向電極板での電界シミュレーションのモデルを示す斜視図である。
【図11】第2の実施例に係る第1の偏向電極板の工程図である。
【図12】第2の実施例に係る第2の偏向電極板の工程図である。
【図13】第2の実施例に係る第2の偏向電極板の上面図である。
【図14】第3の実施例に係る第2の偏向電極板の工程図である。
【図15】第4の実施例に係るインクジェットヘッドの断面図である。
【図16】第4の実施例に係る第1の製造方法で製造された第2の偏向電極板の上面図である。
【図17】第4の実施例に係る第2の偏向電極板の第2の製造方法による工程図である。
【図18】第4の実施例に係る第2の偏向電極板の第3の製造方法による工程図である。
【図19】(a)(b)は第4の実施例に係る第2の製造方法で製造された第2の偏向電極板の上面図であり、(c)(d)は第4の実施例に係る第3の製造方法で製造された第2の偏向電極板の上面図である。
【図20】(A)は第4の実施例に係る偏向電極板での電界シミュレーションの結果を示す図であり、(B)は第4の実施例に係る偏向電極板での電界シミュレーションのモデルを示す図である。
【図21】第5の実施例に係るインクジェットヘッド断面図である。
【図22】第5の実施例に係る第1の偏向電極の斜視図である。
【図23】(a)(b)は第5の実施例に係る第1の偏向電極の第1の製造方法による工程図であり、(c)(d)(e)は、第5の実施例に係る第1の偏向電極の第2の製造方法による工程図である。
【図24】(A)は第5の実施例に係る偏向電極板での電界シミュレーションの結果を示す図であり、(B)は第5の実施例に係る偏向電極板での電界シミュレーションのモデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施形態を説明する。本実施形態では、インクジェット装置について述べている。しかしながら、本発明は、色材を用いた印刷用インクを吐出する場合に限定されず、他の液体全般の吐出に適用可能である。
【0012】
図1は、本発明のインクジェットヘッドを搭載したインクジェット装置のシステム概要図である。本発明のインクジェット装置は、インクタンク001、加圧ポンプ002、加振機構003、ヘッド004、回収ポンプ006、および、インク調整部007を備える。図2は、ヘッドの斜視図および分解斜視図である(ただし、ガターは図示せず)。図3は、ヘッドの断面図である。図4は、ヘッドの上面図である。
【0013】
図1ないし図4を参照して、ヘッドについてより詳細に説明する。ヘッド004は、ノズル用部材としてのオリフィスプレート101、帯電用部材としての帯電電極板102、第1の偏向用部材としての第1の偏向電極板103、第2の偏向用部材としての第2の偏向電極板104を含む。さらに、ヘッド004は、ガター005と絶縁スペーサ201、202、203を含む。
【0014】
ヘッド004の構成部材は板状形状を有しており、インクの飛翔方向に積層されている。すなわち、オリフィスプレート101、帯電電極板102、第1の偏向電極板103、第2の偏向電極板104の間に、それぞれ、絶縁部材である絶縁スペーサが介在している。
【0015】
オリフィスプレート101には、インクを吐出する複数のノズルが第1の主方向(第1の方向)、および、第2の主方向(第2の方向)に沿って、2次元状に配列されている。帯電電極板102には、吐出されたインクが通過する貫通孔が設けられ、さらに貫通孔の内壁には電極が形成されている。電極は配線に接続され、個別にインク滴に電荷を付与するために帯電電圧を印加することができるようになっている。
【0016】
第1の偏向電極板103には、吐出されたインクが通過する貫通孔が設けられている。第1の偏向電極板103には電極が形成されているが、電極の位置は貫通孔の内壁面、第2の偏向電極板104と対向する面のいずれか、あるいは、その両方である。第1の偏向電極板103の電極は、帯電電極板102の電極とは異なり、個別に電圧を印加する必要がないので、各貫通孔に対応する電極は、同電位になるように、互いに配線によってつながっていてもよい。また、第1の偏向電極板103を導電性部材で作製することによって、部材全体を同電位とし、電極板内の電極や配線のパターニングを省略してもよい。
【0017】
第2の偏向電極板104には、吐出されたインクが通過する貫通孔が設けられ、その内壁には、それぞれ、電極が形成されている。電極部は帯電電極板の電極とは異なり、個別に電圧を印加する必要がないので、すべて同電位になるように、電極間は配線によって接続されている。第2の偏向電極板104を導電性部材で作製することによって、電極や配線のパターニングを省略してもよい。さらに、第2の偏向電極板を多孔質部材で作製することにより、ガターと兼用するようにしてもよい。
【0018】
次に、本発明のインクジェット装置の動作を説明する。インクタンク001に貯えられたインクは、加圧ポンプ002によって加圧され、ヘッド004に供給される。ヘッド004に供給されたインクは、加振機構003によって振動を与えられ、ノズル111から吐出される。ノズル111から吐出されたインクは、1mm程度飛翔すると、液柱から液滴に分裂する。帯電電極板102は、この液滴に分裂する位置で貫通孔を通過するように設置されている。液滴への分裂時に電極に電圧が印加されていると液滴は帯電し、電圧が印加されていないと液滴は帯電しない。従って、印刷データにあわせ、印刷に使用する液滴は帯電させず、印刷に用いない液滴は帯電するように、帯電電極への印加電圧を制御する。その後、帯電していない液滴は、直線的に飛翔し、印刷媒体へと着弾する。第1の偏向電極板(第1の偏向用部材)103と第2の偏向電極板(第2の偏向用部材)104との間には電圧がかけられ、帯電した液滴は2つの偏向電極を通過する際に、電場によって偏向される。偏向された液滴はガター005によって回収される。回収されたインクは、回収ポンプ006によって吸引され、インク調整部007でごみの除去や粘度調整を行った後、再び加圧ポンプ002によって加圧され、印刷のためにヘッド004へと循環される。
【0019】
インクは帯電させるために導電性のものを使用する。従って、循環するインクによって、ガター005とオリフィスプレート101とは導通した状態となる。第2の偏向電極板104は、回収液滴と導通してしまう場合が多いので、供給インク、帯電電極、偏向電極への電圧のかけ方は、供給インクと第2の偏向電極板104の電圧を0V(GND)とし、帯電電極、および、第1の偏向電極へ電圧を印加するのが好ましい。
【0020】
次に、本発明の第1の実施例を説明する。
【0021】
まず、本発明のインクジェットヘッドの製造方法を説明する。先ず、オリフィスプレート101の製造方法について図5を参照して説明する。基板301として、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)ウェハを使用する。ハンドル層の厚さは300μmで結晶面方位は(100)となっている。また、BOX層302の厚さは0.2μm、デバイス層の厚さは、3μmとなっている。
【0022】
図5(a)に示す第1の工程では、マスクとなる窒化シリコン膜303を基板両面に形成する。図5(a)では、SOIウェハのデバイス層を下にした状態である。窒化シリコン膜303の形成には、CVDなどの工程を用いることができる。また、窒化シリコン膜の代わりに酸化シリコン膜を熱酸化によって形成してもよい。
【0023】
図5(b)に示す第2の工程では、各ノズルに対応する個別流路304を作製する工程である。フォトリソグラフィによって、基板301のハンドル層側の窒化シリコン層をパターニングし、窒化シリコン層をマスクとし、ハンドル層のエッチングを行う。ハンドル層のエッチングには、異方性ウェットエッチングを用いる。エッチャントとしては、KOH(水酸化カリウム)を用いることができる。このエッチングでは、シリコンの結晶面よって、エッチング速度が大きく異なるため、図5(b)のように、テーパー状のエッチングが可能である。エッチング後のシリコンのテーパー部は結晶面方位が(111)の面が露出した構造となっている。また、KOHのウェットエッチングに対しては、シリコンに比べ、シリコン酸化物のエッチング速度は非常に遅いため、エッチングは、SOI基板のBOX層でストップする。マスクの形状を正方形とすると、エッチングされる形状は台形台状となる。本実施例では、ノズル間隔を500μmとし、エッチング後の流路底部の幅を20μmとする。なお、本実施例では異方性ウェットエッチングを用いたが、ICP−RIEを用いた深堀りドライエッチングによっても個別流路を形成することができる。この場合、エッチングはテーパー状にならず、シリコンを垂直にエッチングすることができる。この方式を用いると、基板の面方位を規定する必要がない、マスク形状を円形にすることで円管形状の個別流路が形成できるなどの利点がある。一方、前述の異方性ウェットエッチングを用いると、複数枚の基板を同時にエッチングできる、テーパー状流路によって流路抵抗が低く、かつ、強度の高い個別流路が形成できるといった利点がある。
【0024】
図5(c)に示す第3の工程では、ノズルオリフィス305を形成する工程である。基板301のデバイス層側(図5(c)の下面)の窒化シリコン層をパターニングし、窒化シリコン層をマスクとし、デバイス層のエッチングを行う。図5(b)の工程、および、図5(c)の工程で使用するマスクには、アライメントマークを設けておき、アライメントマークをもとに、オリフィスの中心が個別流路の中心と合致するようにマスクあわせを行う。エッチングには、RIEによるドライエッチングを用いる。シリコンに比べシリコン酸化物のエッチング速度は非常に遅いため、エッチングは、SOI基板のBOX層でストップする。本実施例では、オリフィス直径を7.4μmとする。
【0025】
図5(d)に示す第4の工程では、基板表面の窒化シリコン層と個別流路底部のBOX層をエッチングにより除去し、個別流路とノズルオリフィスとの間を貫通させる工程である。エッチングには、BHF(バッファード・フッ酸)によるウェットエッチングを用いる。なお、この工程の跡に、耐食性を向上させるため、流路表面に窒化シリコン層やシリコン酸化物層を形成してもよい。
【0026】
以上のようにして、本発明のオリフィスプレートを製造することができる。オリフィスの製造方法には、その他に金属プレートをエッチング加工、プレス加工、又は、レーザー加工する方法や、電鋳などを用いて形成する方法もある。
【0027】
次に、帯電電極板102の製造方法について図6を参照して説明する。まず、基板には厚さ500μmのシリコンウェハを使用する。
【0028】
図6(a)に示す第1の工程では、基板401にエッチング用のマスク402を形成する。基板材料にはCrなどを使用することができる。基板表面にCrを成膜し、その後、フォトリソグラフィーによってパターニングする。
【0029】
図6(b)に示す第2の工程では、第1の工程で作成したマスク402を用いて、インクが通過する貫通孔405を形成する工程である。貫通孔はエッチングにはICP−RIEを用いることで、高アスペクト比の深彫りエッチングが可能である。本実施例では、貫通孔は円形断面とし、穴径を300μmとする。エッチング後、マスクに使用したCrをエッチングにより除去する。
【0030】
図6(c)に示す第3の工程では、めっきによって基板表面および貫通孔内壁に導電層を形成する。Auの無電解めっきを用いる。
【0031】
図6(d)に示す第4の工程では、基板表面にフィルム状のレジスト407を形成する。レジストの形成にはラミネータを使用し、貫通孔405の表面も被覆されるようにする。さらにフィルムレジストをパターニングすることで、基板表面に電極のパターンを形成する(基板401の裏面も同様)。
【0032】
図6(e)に示す第5の工程では、第4の工程で作製したレジストパターンをもとに、基板表面の導電層をエッチングする。さらに、レジストを剥がすことで、配線層403が形成される。
【0033】
図6(f)に示す第6の工程では、配線403の表面を被覆保護膜404によって被覆する。被覆材料には、パリレンあるいはポリイミドなどの絶縁性、耐食性に優れた材料を用いる。パリレンはCVDによって、ポリイミドはスピンコートによって成膜することができる。これらの材料は、段差がある場合でも被覆率が高いという特徴がある。
【0034】
以上のようにして、本発明の帯電電極板を製造することができる。基板としてシリコンウェハを使用した場合について説明したが、感光性ガラスを基板としてもよい。この場合、貫通孔の形成にはウェットエッチングを用いる。シリコンに比べて、基板の絶縁性が優れている。一方、貫通孔の加工精度は、シリコンを基板とした方が高い。 また、電極406の形成にはめっきを用いたが、斜方蒸着などによって、貫通孔405の内壁に導電性材料を成膜してもよい。
【0035】
その他の帯電電極板の製造方法としては、セラミック材料を焼成し、表面に配線のパターニングを行い、めっきによって電極を形成する方法や、プリント基板材料にレーザーで貫通孔を形成し、同様に配線および電極を形成する方法がある。
【0036】
次に、第1の偏向電極板103の製造方法について図7を参照して説明する。基板501には、図7(a)に示すように、ステンレスなどの耐食性を有する導電性部材を用いる。本実施例では基板厚さを200μmとする。図7(b)に示すように、インクが通過するための貫通孔502を形成する。本実施例では、貫通孔502の形状は円形断面とし、穴径を50μmとする。貫通孔502の形成には、エッチング、プレス、レーザー加工などを用いることができる。さらに、導電性と耐食性を向上させるため、電極板表面に金めっきを施してもよい。
【0037】
次に、第2の偏向電極板104の製造方法について図8を参照して説明する。特に、ここでは、より小型化するためにガターおよびインク回収路を一体化した構成の製造方法について説明するが、別々に作製、設置しても構わない。図8(a)に示す基板にはステンレスなどの耐食性を有する導電性部材を用いる。本実施例では基板厚さを800μmとする。
【0038】
図8(b)に示す第1の工程では、インクが通過するインク飛翔路602、および、インクを回収するためのインク回収路603を形成する。インク回収路603は、図8(b)に示すように、奥行き方向にのびるスリット状に形成されている。一方、飛翔路602は、図8(b)に示すように、奥行き方向にのびるスリット状(図9(a))に形成されている。あるいは、飛翔路602は、通過する液滴列ごとに対応する基板の表面から裏面へ延びる個別貫通孔(図9(b))で構成される。インク飛翔路602、および、インク回収路603の形成には、エッチング加工、プレス加工、レーザー加工などを用いることができる。
【0039】
図8(c)に示す第2の工程では、第2の基板604にインクが通過するインク飛翔路605を形成する。第2の基板の厚さは100μmとする。インク飛翔路605の形成には、エッチング、プレス、レーザー加工などを用いることができる。
【0040】
図8(d)に示す第3の工程では、第1の基板601と第2の基板604を接着する工程である。インク飛翔路602、605が一致するように2つの基板を位置決めし、接着して回収路の上部に蓋をする。接着剤にはエポキシ系接着剤などを使用することができる。
【0041】
次に、ガターを形成する工程を説明する。図8(e)の基板にはステンレスなどを用いる。ここでは厚さを100μmとする。図8(f)に示すように、インク飛翔路607、インク回収路608を形成する。加工方法としては、エッチング(両面に異なる形状のマスクを用いた段差エッチング)、プレス加工などを用いることができる。
【0042】
最後に、図8(g)に示すように、図8(d)の工程で製造した部材と図8(f)で製造した部材をインク飛翔路605、607が一致するように2つの基板を位置決めし、接着する。
【0043】
以上のようにして、インク飛翔路(貫通孔)609、ガター611、インク回収路610を有する第2の偏向電極板(第2の偏向用部材)を形成することができる。さらに導電性と耐食性を向上させるため、電極板表面に金めっきを施してもよい。また、基板601が厚くて、精度の良い加工が難しい場合には、さらに薄い基板を複数用意、加工して、貼り合わせてもよい。
【0044】
以上に述べた方法によって製造したオリフィスプレート101、帯電電極板102、第1の偏向電極板103、第2の偏向電極板104(ガター、インク回収路を含む)を図2に示すように積層することによって、インクジェットヘッドは完成する。また、積層の際には、電気絶縁性のスペーサを各部材の間に挟むことにより、部材間の間隔を一定に保つとともに、部材間を電気的に絶縁することができる。
【0045】
このように、各部材がインクの通過するための貫通孔を有し、これらの部材をインク飛翔方向に積層するため、ノズル数が増加した際にも部品点数が増えないという利点がある。特に、第1の偏向電極板103と第2の偏向電極板104を導電性の板状部材としていることで、各電極板に配線のパターニングを行う必要がなく、非常に加工しやすい構造となっている。
【0046】
次に、本実施例のインクジェット装置の動作条件を説明する。ノズル径は7.4μmであり、加圧ポンプ002の圧力は0.8MPaである。また、加振機構003の振動数は50kHz程度である。この場合、液滴サイズは4pL、吐出速度は10m/s程度である。飛翔液滴は空気抵抗によって減速し、第1の偏向電極板103を通過する際には、8m/s程度である。帯電電極での帯電量を−6×10-13[C]、第1の偏向電極板103の電位を−100[V]、第2の偏向電極板104の電位を0[V]とし、偏向電極での電場の等電位線、および、帯電した液滴の軌道をシミュレーションすると図10(A)に示すようになる。シミュレーションには3次元非線形静電場解析ソフトウェアELFIN(エルフ社)を用いた。シミュレーションに用いた構造モデルの斜視図を図10(B)に示す。等電位線が第1の偏向電極板103の下面と第2の偏向電極板104の上面および貫通孔内壁との間に形成されており、その形状は、第2の偏向電極板104の貫通孔の中心軸線に対してほぼ鏡像対称である。(正確には、対称軸線は第2の偏向電極板104の内壁部の電極面と電極面との間の中心線である。また、第1の偏向電極板103の貫通孔の影響で厳密には鏡像対称ではない。)電気力線は図示されている等電位線に垂直なので、この中心軸線に対して、負に帯電した液滴が右側から進入すると、右に偏向され、左側から進入すると正に偏向される(帯電電極の極性や偏向電極の極性を反転させると逆向きに偏向する)。本実施例では、液滴の貫通孔への進入軌道軸線は、第2の偏向電極板104の貫通孔の中心軸線よりも第1の主方向に左に50μmずれている。従って、帯電液滴は、左に偏向するように静電気力を受け、図10に示されている軌道を描く。帯電液滴は、第2の偏向電極の下端で帯電液滴は42μm偏向している。これをガターによって回収する(本シミュレーションでは図3にあるガター005は図示していない)。一方、帯電していない液滴は偏向されず、直線的に飛翔し、下部にある印刷媒体へと着弾する。
【0047】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例を説明する。本実施例では、第1の実施例における第1の偏向電極板103、および、第2の偏向電極板104の別の製造方法について述べる。第1の実施例1では、これらの部材を導電性基板を用いて作製する方法について述べたが、本実施例では、絶縁性基板の表面に導電膜を成膜することによって作製する。
【0048】
まず、図11を元に第1の偏向電極板103の製造方法を説明する。図11(a)で示す基板は、シリコンウェハである。本実施例では厚さ200μmのものを使用する。まず、基板701にICP−RIEによって、貫通孔(インク飛翔路)702を形成する(図11(b))。エッチングのマスクには、予め熱酸化膜やアルミを成膜しておき、フォトリソグラフィによってパターニングしたものを使用する。次に、電極となる金属を成膜する(図11(c))。電極703には、Auなど耐食性がある金属薄膜が適している。また、基板との密着性を向上させるため、下地層として薄くTiなどを成膜しておくとよい。図では、電極側面にも金属層が形成されているが、上面に金属層があれば電極としての役割は果たす。ただし、インクミストが付着した際のチャージ防止のためには、貫通孔702の側壁にも金属層がある方が好ましい。例えば、金属層の成膜に真空蒸着を使用すると、内壁には成膜されにくく、スパッタを使用すると、内壁にも成膜されやすくなる。
【0049】
このようにして作製した第1の偏向電極板103を組み付ける際には、電極が形成されている面が第2の偏向電極板104に対向するように設置すると、第1の実施例に比べ、電極面を帯電電極板から遠ざけることができる。これにより、第1の偏向電極板103の電場が、液滴の帯電過程に与える影響をより小さなものとすることができるという利点がある。さらに、電極板表面の絶縁皮膜層を形成することで、絶縁スペーサとして用いることも可能である。あるいは、第1の偏向電極板103を、電極が形成されている面が帯電電極板102に対向するように設置し、基板701に-絶縁スペーサの機能をさせてもよい。これらにより、第3の絶縁スペーサ203を省略することができ、部品点数の削減、ノズルから被印刷媒体までの距離の短縮という利点がある。
【0050】
次に、図12を参照して第2の偏向電極板104の製造方法を説明する。図12(a)に示す第1の工程では、第2の偏向電極板104の上部を作製するためのマスクをパターニングする。本実施例では第1の基板801として、両面研磨、厚さ400μmのシリコン基板を使用する。まず、インク回収路804およびインク飛翔路805をエッチングするためのマスクをパターニングする。ここで、インク飛翔路805は基板を貫通させるのに対し、インク回収路は基板を貫通させないので、2種類のマスクが必要になる。そこで、図のように2段のマスク802、803を形成する。マスク材料には、アルミを成膜したり、シリコン酸化物膜を熱酸化によって成膜することができる。これらをフォトリソグラフィによってパターニングする。2段マスクは同種の材料で、2回のエッチングによって厚さが部分的に異なるものを作製したり、異種材料によるパターンを積層したりすることで作製する。
【0051】
図12(b)に示す第2の工程では、インク飛翔路804およびインク回収路805を形成する。第1の工程で作製した2段マスクでICP−RIEによってエッチングを行う。インク回収路の上部壁の厚さ(100μm)分インク飛翔路になる部分をエッチングした後、第2のマスク803を除去し、さらに第1のマスク802のみでエッチングを行う。エッチング後、第1のマスク802を除去する。
【0052】
図12(c)に示す第3の工程では、第2の偏向電極板104の下部を形成する。基板には、両面研磨、厚さ500μmのシリコン基板を使用する。フォトリソグラフィによりマスクをパターニングし、ICP−RIEによってインク回収路806およびインク飛翔路807をエッチングする。その後、マスクを除去する。
【0053】
図12(d)に示す第4の工程では、第2の工程で作製した上部と第3の工程で作製した下部を接続する。位置あわせのためのアライメントマークを、予め各部材を加工するためのマスクに作製しておく。部材の接続には、シリコン表面の直接接合を用いてもよいし、接着剤を用いてもよい。直接接合では、接合がうまくいけば、分子同士の共有結合によって接合されるため、非常に高い接合強度が得られる半面、接合面にごみなどが付着していると、接合の歩留まりが著しく低下する。接着剤を用いる場合には、エポキシ系接着剤などをディスペンサで塗布し、接着することができる。
【0054】
図12(e)に示す第5の工程では、電極809および電極間を接続する配線808を形成する。斜方蒸着を用いて、上面およびインク飛翔路内壁に金属薄膜を成膜する。金属薄膜には、Auなど耐食性がある金属薄膜が適している。また、基板との密着性を向上させるため、下地層として薄くTiなどを成膜しておくとよい。電極はすべて同じ電圧がかけられるように電気的につながっている必要があるが、個別に電圧を制御する必要はないため、配線のために細かなパターニングは必要なく、例えば基板上面がすべて成膜された状態でもよい。
【0055】
次にガター部を作製する。本実施例では、厚さ100μm、両面研磨のシリコンウェハを基板に用いる。ガター部の形成方法を図12(f)を元に説明する。第1の工程と同様に2段マスクを形成し、エッチングによって、回収路810およびインク飛翔路を形成する。エッチングにはICP−RIEを用いる。エッチング後、マスクを除去する。さらに、電極板表面の絶縁皮膜層を形成することで、絶縁スペーサとして用いることも可能である。この場合、第3の絶縁スペーサを省略することが可能である。
【0056】
以上のようにして作製したガター板814を第5の工程で作製した第2の偏向電極板104と接続する(図12(g))。位置あわせのためのアライメントマークを、予め各部材のマスクに作製しておく。部材の接続には、シリコン表面の直接接合を用いてもよいし、接着剤を用いてもよい。直接接合では、接合がうまくいけば、分子同士の共有結合によって接合されるため、非常に高い接合強度が得られる半面、接合面にごみなどが付着していると、接合の歩留まりが著しく低下する。接着剤を用いる場合には、エポキシ系接着剤などをディスペンサで塗布し、接着することができる。
【0057】
尚、第1の実施例と同様に、インク回収路812の形状は、奥行き方向(第2の主方向)にのびるスリット状とする。インク飛翔路813の形状は、奥行き方向(第2の主方向)にのびるスリット状(図13(a))、あるいは、通過する液滴列ごとに対応する個別貫通孔(図13(b))とする。
【0058】
本実施例の第2の偏向電極板104の作製工程の説明には、第2、第3の工程で別々にエッチングした電極部材を第4の工程ではり合わせる方法を取っている。これは、エッチングのアスペクト比が高くなると、テーパーができて加工精度が悪くなったり、エッチングレートが途中で低下したりするのを防ぐためである。電極の貫通孔の径や深さの条件、使用するエッチング装置の仕様にあわせて、1枚の部材で作製することもできるし、逆に、より多くの部材に分けてエッチングを行い、積層、はり合わせを行うことも可能である。
【0059】
スリット状貫通孔の形成には、ICP−RIEの代わりにKOHをエッチャントとした結晶異方性ウェットエッチングを使用することもできる。この際には、マスクには、窒化シリコン膜を使用し、基板には表面が(110)面であるものを使用する。
【0060】
本実施例の第1の偏向電極板103、および、第2の偏向電極板104の製造方法では、基板材料として、シリコンウェハを用いることができるため、高アスペクト比のエッチングを精度よく実現することが可能である。その他の材料としては、プラスティック材料、セラミック材料などを基板として使用することができる。プラスティック材料を使用した場合には、加工には射出成型などを用い、安価で軽量な電極板を実現できるというメリットがある。セラミック材料を使用した場合には、焼結などによって作製するが、インクに対する耐食性に優れ、また、熱による膨張が少ないというメリットがある。
【0061】
また、導電層を形成しなければならないため、第1の実施例1に比べて製造方法が複雑になるが、各電極板内では、電極はすべて同電位となっていてよい。このため、細かな配線や電極のパターニングなどは必要なく、正負の偏向電極を同一層内で形成する場合に比べてはるかに簡便である。その他の部材の製造方法、インクジェットヘッドの組み立て方法、インクジェット装置の構成および運転方法は、実施例1と同様である。
【0062】
[第3の実施例]
本発明の第3の実施例を説明する。本実施例では、第2の偏向電極板104の別の構成について述べる。第1の実施例においては、第2の偏向電極にガターやインク回収流路をエッチングによって作製していたが、本実施例では、インクを吸収可能な多孔質導電材料901を用いることで、偏向電極がガターおよび回収流路を兼ねる構成とする。すなわち、偏向された帯電液滴は、偏向電極内壁に衝突し、多孔部から吸引、回収される。
【0063】
本実施例の第2の偏向電極の断面図を図14(a)に示す。材料としては導電性部材の多孔質体を使用する。特に、インクに対する耐食性を有するものが好ましい。例えば、ステンレスの発泡体や多孔質カーボンを使用することができる。これらの多孔質材料は、プレスやレーザ加工によって加工することができる。また、金属材料の場合、MIM(Metal Injection Modeling:金属粉末射出成型法)と呼ばれる加工方法で、粉末状材料を型に入れて焼結することでも所望の多孔質形状を得ることができる。これらの材料、および、加工法を用いて、インク飛翔路902を形成する。
【0064】
また、図14(b)に示すように、第2の偏向電極板104の上面、および下面を封止してもよい。封止方法には、インク飛翔路のための貫通孔をあけた薄板をはり合わせる方法や高粘度かつ高表面張力の接着シール剤を上面および下面に塗布含浸させる方法がある。さらに、図14(c)に示すように、多孔部の内部に中空流路(903)を形成し、回収流路の抵抗を下げることができる。
【0065】
その他の部材の製造方法、インクジェットヘッドの組み立て方法、インクジェット装置の構成および運転方法は、第1の実施例と同様である。このように多孔質導電材料を用いた第2の偏向電極板104を用いることで、ガター部の加工を省略でき、また部品点数も削減することができる。
【0066】
[第4の実施例]
本発明の第4の実施例を説明する。本実施例では、図15に示すように、第1の主方向について、第2の偏向電極の貫通孔の内壁の導電面が、隣接するノズルからの液滴軌道を挟んで対向する形状となっている。また、反対側の隣接ノズルに対応する液滴軌道とは貫通孔内壁の導電面によって隔てられた形状となっている。具体的に実施例1での構成(図3)と比較すると、図3では、隣接する液滴軌道の間には、必ず第2の偏向電極の貫通孔内壁の導電面があったのに対し、図15では、導電面が1ノズルおきに設けられている。図15では内壁も1ノズルおきとしているが、導電面が形成されていなければ、内壁があっても構わない(後述の第3の製造方法を参照)。その他の部材の構成については、実施例1と同様である。
【0067】
本実施例の第2の偏向電極板104の第1の製造方法は、導電性基板を材料に用いた方法で、実施例1での第2の偏向電極の製造方法とほぼ同様ある。ただし、図8(b)、図8(f)でのインク飛翔路602、および、インク回収路603の大きさが変更されている。すなわちインク飛翔路が広くなり、インク回収路が1ノズルおきになっている。本実施例の第1の製造方法で作製した第2の偏向電極板104の上面図を図16に示す。実施例1の場合と同様に、インク回収路1003の形状は、第2の主方向に延びるスリット状となっている。一方、飛翔路1002の形状は、2つのノズル列にまたがるスリット状(図16(a))、あるいは、2つのノズルにまたがる貫通孔(図16(b))とする。
【0068】
次に、本実施例の第2の偏向電極板104の第2の製造方法を図17に示す。また、第2の方法で作製した場合の第2の偏向電極板104の上面図を図19に示す。第1の製造方法で作製された第2の偏向電極板104と同様に、インク回収路1108の形状は、第2の主方向に延びるスリット状となっている。一方、インク飛翔路1109の形状は、2つのノズル列にまたがるスリット状(図19(a))、あるいは、2つのノズルにまたがる貫通孔(図19(b))とする。
【0069】
第2の製造方法は、絶縁性基板を材料に用いた方法で、第2の実施例での第2の偏向電極の製造方法とほぼ同様ある。ただし、本実施例の構成にあわせてインク飛翔路、および、インク回収路の大きさが変更されている。電極1110の形成には、基板内壁に導電性材料の成膜をおこなうため、スパッタなどの等方性の高い成膜方法が適している。あるいは、角度を変えた斜方蒸着を2回おこなってもよい。
【0070】
次に、本実施例の第2の偏向電極板104の第3の製造方法を図18に示す。また、第3の方法で作製した場合の第2の偏向電極板104の上面図を図21に示す。第3の製造方法は、絶縁性基板を材料に用いた方法で、本実施例の第2の製造方法とほぼ同様ある。本製造方法によって作製される第2の偏向電極板104のインク回収路1209の形状は、第2の主方向に延びるスリット状となっている。一方、インク飛翔路1210の形状は、スリット状(図19(c))、あるいは、通過する液滴列ごとに対応する基板の表面から裏面へ延びる個別貫通孔(図19(d))とする。ここで、重要なのは、貫通孔内壁の電極1211および上面の配線1212が全面ではなく、2つの液滴軌道に挟まれた部分の側面および上面には形成されていないことである。
【0071】
第3の製造方法では電極を2つの対抗する内壁面に形成するため、角度を変えた斜方蒸着を2回行う(図18(e))。第2の製造方法と大きく異なる点は、この際に、電極以外の部分に導電層が形成されないようにするため、予めマスクを形成する必要がある。マスクの形成は図18(a)に示す方法で行うが、ここで重要なのは、斜方蒸着においても内壁に導電層が成膜されないように、インク飛翔路に張り出したマスク形状とすることである。マスクには剛性が高い厚膜レジストなどを使用する。マスク作製後、図18b)に示すように、インク飛翔路、およびインク回収路のエッチングを行う。これにより、インク飛翔路に張り出したマスクを形成することができる。また、フィルムレジストを使用すれば、インク回収路を形成した後(図18(b)の後)で、斜方蒸着用のマスクを形成することもできる。さらに斜方蒸着後、マスクを除去することにより、マスクの上に成膜された導電層も合わせて除去することができる。斜方蒸着によりマスクの側壁にも導電層が形成されて剥離が困難である場合には、マスクにパリレンのように柔軟で破れにくく、剥離性が高いフィルム状の材料を選ぶと、溶媒で溶かすのではなく、引き剥がすことによって、マスクを剥離することができる。
【0072】
第1の実施例と同じ駆動条件で、偏向電極での電場の等電位線、および、帯電した液滴の軌道をシミュレーションすると、図20(A)に示すようになる。シミュレーションには3次元非線形静電場解析ソフトウェアELFIN(エルフ社)を用いた。シミュレーションに用いた構造モデルの斜視図を図20(B)に示す。第2の偏向電極板104の上端から860μmの地点で、帯電液滴は100μm偏向している。従って、第1の実施例の構成よりも大きな偏向量が得られている。
【0073】
ここで、第1の実施例のシミュレーション結果(図10(A))での等電位線を比較する。第1の実施例の構成では、隣のノズルに対する第2の偏向電極板104の導電面が電場をさえぎるシールドの役割をして、第1の偏向電極板103からの電場が第2の偏向電極板104の液滴飛翔路(貫通孔)内部にまでほとんど達していない。
【0074】
一方、本実施例の構成では、第2の偏向電極板104の内壁の導電面を隣り合う液滴軌道を挟んで対向するように配置した。すなわち、第1の主方向において互いに対向する第2の偏向電極板104の導電面は、それらの間に隣り合う2つのノズルからの液滴の双方の進入軌道軸線を挟むように液滴飛翔路を画定している構成とした。このため、第2の偏向電極板104の内壁の導電面の間隔が広がり、第1の偏向電極板103との間に作る電場が第2の偏向電極板104の液滴飛翔路内部にまで進入している。これにより帯電した飛翔液滴は、より長い時間にわたって電場の影響を受けるので、より大きな偏向が得られる。シミュレーションによると、電場の形状は、第2の偏向電極板104の対向する2つの内壁導電面間の中心軸線に対してほぼ鏡像対称である。電気力線は図示されている等電位線に垂直なので、この中心軸線に対して、負に帯電した液滴が右側から進入すると、右に偏向され、左側から進入すると正に偏向される(帯電電極の極性や偏向電極の極性を反転させると逆向きに偏向する)。本実施例では、左のノズルからの液滴の偏向電極貫通孔への進入軌道軸線は、中心軸線から第1の主方向に左に250μmずれており、右のノズルからの液滴の偏向電極貫通孔への進入軌道軸線は、中心軸線から右に250μmずれている。従って、左のノズルからの帯電液滴は左に偏向するように静電気力を受け、右のノズルからの帯電液滴は右に偏向するように静電気力を受けるので、図10(A)に示されている軌道を描く。
【0075】
本実施例の第3の方法で作製した第2の偏向電極板104には、隣り合う液滴軌道と液滴軌道との間に絶縁部を有する。この絶縁部は、電気的なシールドの役割は果たさないため、第1の偏向電極板103と第2の偏向電極板104との間で形成される電場は図20(A)と同様となる。特に、この構成を用いると、絶縁性の壁のおかげで、隣あうノズルから吐出された液滴同士の空気力学的な干渉がなくなり、液滴の飛翔が安定するので、より正確な印刷をおこなうことができる。
【0076】
本シミュレーションでは、帯電液滴は、第2の偏向電極板104に衝突しているが、衝突後、電極板を伝わって最終的には、下方にあるガター005(図示せず)によって回収される。実施例3と同様に第2の偏向電極板104を多孔質材料で作製し、ガターを兼ねさせるようにしてもよい。あるいは、帯電液滴が第2の偏向電極板104に衝突せず、ガター部に直接当たるように、帯電電圧や偏向電圧を小さくしたり、第2の偏向電極板104の厚さを薄くしたりしてもよい。帯電電圧や偏向電圧を小さくすると消費電力を下げられるという利点があり、第2の偏向電極板104を薄くするとノズルから被印刷媒体までの距離を短くでき、印刷精度を高められるという利点がある。
【0077】
一方、帯電していない液滴は偏向されず、直線的に飛翔し、下部にある印刷媒体へと着弾する。
【0078】
[第5の実施例]
本発明の第5の実施例を説明する。本実施例のインクジェットヘッドの側面の断面図を図21に示す。また、本実施例の第1の偏向電極板103の斜視図(裏返して下面から見た状態)を図22に示す。本実施例では、第1の偏向電極板103以外の部材の構成については、実施例4と同様である。
【0079】
本実施例では、第1の偏向電極に第2の偏向電極板104の貫通孔に向かって突出する突起部105を設けている。突起部105は、第2の偏向電極板104の貫通孔内壁の第1の主方向に対向する2つの電極に対し、液滴の飛翔軌道を挟んで設置され、かつ、第2の偏向電極の貫通孔内には入り込んでいない。
【0080】
本実施例の第1の偏向電極板103の第1の製造方法を説明する。基板には、図23(a)に示すように、ステンレスなどの耐食性を有する導電性部材を用いる。本実施例では基板厚さを400μmとする。図23(b)に示すように、インクが通過するための貫通孔、および、突起部を形成する。本実施例では、図22に示すように貫通孔の形状は円筒形状とし、穴直径を50μmとする。また、突起部の形状は直線梁形状とし、幅を300μm、高さを200μmとする。貫通孔、および、突起部の形成には、エッチング、プレス加工などを用いることができる。さらに導電性と耐食性を向上させるため、電極板表面に金めっきを施してもよい。
【0081】
次に、本実施例の第1の偏向電極板103の第2の製造方法を説明する。基板にはSOI(シリコン・オン・インシュレータ)ウェハを使用する。本実施例では、ハンドル層の厚さは200μm、BOX層の厚さは1μm、デバイス層の厚さは、200μmとなっている。まず、基板を熱酸化し、表面にシリコン酸化物層を形成する(図23(c))。次に、成膜した酸化物層をフォトリソグラフィによってパターニングする。パターニングした酸化物層をマスクとして、表面、裏面、それぞれ、ICP−RIEによるエッチングを行い、貫通孔(インク飛翔路)113、および、突起部105を形成する。さらにフッ化水素によって、表面およびインク飛翔路のシリコン酸化物を除去する(図23(d))。次に、裏面から電極となる金属を成膜する(図23(e))。電極には、Auなど耐食性がある金属薄膜が適している。また、基板との密着性を向上させるため、下地層として薄くTiなどを成膜しておくとよい。成膜はスパッタなど、内壁にも成膜されやすい方法が適している。
【0082】
第1の実施例と同じ駆動条件で、偏向電極での電場の等電位線、および、帯電した液滴の軌道をシミュレーションすると、図24(A)に示すようになる。シミュレーションには3次元非線形静電場解析ソフトウェアELFIN(エルフ社)を用いた。シミュレーションに用いた構造モデルの斜視図を図24(B)に示す。第2の偏向電極の上端から470μmの地点で、帯電液滴は第1の主方向に100μm偏向している。従って、第1の実施例や第4の実施例の構成よりも大きな偏向量が得られている。これにはいくつかの理由があると考えられる。第4の実施例のシミュレーション結果(図20(A))と比較すると、まず第1に突起部内壁と第2の偏向電極との間に形成される電場は液滴の飛翔方向に対して垂直に近くなっていることがわかる。さらに突起の影響で電極間の距離が短くなり、その間にできる等電位線の密度が高くなっている。さらに、等電位線が第2の偏向電極板104の貫通孔のより深い部分にまで入りこむことができている。これらの理由により、他の実施例と比べて帯電液滴は大きく偏向されている。
【0083】
本実施例において、第4の実施例と同様の方法で第2の偏向電極板104を作製した場合、第3の製造方法による第2の偏向電極板104には、液滴軌道と液滴軌道の間に絶縁部を有する。この部材は、電気的なシールドの役割は果たさないため、第1の偏向電極板103と第2の偏向電極板104との間で作られる電場は図24(A)と同様となる。この場合、突起部105はこの絶縁部材と対抗するように設置される。特に、この構成を用いると、絶縁性の壁のおかげで、隣あうノズルから吐出された液滴同士の空気力学的な干渉がなくなり、液滴の飛翔が安定するので、より正確な印刷をおこなうことができる。
【0084】
本シミュレーションでは、帯電液滴は、第2の偏向電極板104に衝突しているが、衝突後、電極板を伝わって最終的には、下方にあるガター005(図示せず)によって回収される。第3の実施例と同様に、第2の偏向電極板104を多孔質材料で作製し、ガターを兼ねさせるようにしてもよい。あるいは、帯電液滴が第2の偏向電極板104に衝突せず、ガター部に直接当たるように、帯電電圧や偏向電圧を小さくしたり、第2の偏向電極板104の厚さを薄くしたりしてもよい。帯電電圧や偏向電圧を小さくすると消費電力を下げられるという利点があり、第2の偏向電極板104を薄くするとノズルから被印刷媒体までの距離を短くでき、印刷精度を高められるという利点がある。一方、帯電していない液滴は偏向されず、直線的に飛翔し、下部にある印刷媒体へと着弾する。
【0085】
以上のように、第1の偏向電極板103に突起部105を設けることで、より効率よく帯電液滴の偏向が行えることがわかる。また、この突起の高さは、第2の偏向電極の貫通孔内には入り込んでいないため、この突起部のために、インクジェットヘッドの組み立てに高い精度が要求されてしまうこともない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の液体吐出ヘッドは、2次元アレイ状にノズルを有するため、高速、かつ、高精細な液体吐出装置を実現するために利用できる。また、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、層状の偏向電極板を積層することでマルチノズルに対応したヘッドを製造できるため、部品点数が少なく、低コストの液体吐出ヘッドの製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
004 ヘッド
101 オリフィスプレート
102 帯電電極板
103 第1の偏向電極板
104 第2の偏向電極板
105 突起部
111 ノズル
112 帯電電極貫通孔
113 第1の偏向電極貫通孔
114 第2の偏向電極貫通孔
201 第1の絶縁スペーサ
202 第2の絶縁スペーサ
203 第3の絶縁スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向と当該第1の方向とは異なる第2の方向とに沿って2次元状に配列された、液滴を吐出するための複数のノズルを有するノズル用部材と、
前記複数のノズルの各々から吐出された液滴に電荷を付与するための帯電電極を有する帯電用部材と、
前記帯電電極により電荷が付与された液滴の各々を偏向するための偏向電極をそれぞれ有する第1および第2の偏向用部材と、を備え、
前記帯電用部材、前記第1の偏向用部材および第2の偏向用部材は、前記複数のノズルから吐出された液滴を通過させるための貫通孔をそれぞれ有し、
前記帯電用部材、前記第1の偏向用部材および前記第2の偏向用部材は、この順に前記複数のノズルの各々から液滴が吐出される方向に積層されている、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第2の偏向用部材は、前記液滴を吸収可能な多孔質体で形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第2の偏向用部材は、前記貫通孔の各々の内壁に前記複数のノズルの各々に対応する導電面を有し、
前記第1の方向において互いに対向する前記第2の偏向用部材の導電面は、それらの間に隣り合う2つのノズルからの液滴の双方の進入軌道軸線を挟むように液滴飛翔路を画定している、ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1の偏向用部材は、前記第2の偏向用部材の貫通孔に向けて突出し、かつ、前記偏向電極を構成する導電面を有する突起部を備える、ことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記突起部は、前記隣り合う2つのノズルからの液滴の2つの進入軌道軸線の間に挟まれるように配置されている、ことを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記ノズル用部材と前記帯電用部材との間、前記帯電用部材と前記第1の偏向用部材との間、前記第1の偏向用部材と前記第2の偏向用部材との電極板の間に、それぞれ、前記液滴が通過する貫通孔を有する絶縁部材が介在している、ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記帯電用部材は、その貫通孔の内壁に形成された前記帯電電極と、当該帯電電極から引き出した配線とを有し、
前記第1および第2の偏向用部材の各々は、前記貫通孔の内壁に形成された偏向電極と、各前記偏向電極を電気的に接続する配線とを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第1の偏向用部材および第2の偏向用部材の各々の偏向電極は、それぞれ、同電位になるように互いに接続されている、ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−218715(P2011−218715A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92088(P2010−92088)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】