説明

液体吐出装置、及び、液体吐出方法

【課題】罫線の繋ぎ目部分の位置ズレを低減させる。
【解決手段】媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、搬送方向に並ぶ複数のノズルから構
成されるノズル列が、搬送方向と交差する移動方向に複数並んだ複数のノズル列と、複数
のノズル列を移動方向に移動させる移動機構と、移動機構によって複数のノズル列を移動
方向に往復移動させながら往路及び復路の双方向に移動中の各ノズル列から液体を吐出さ
せる液体吐出動作と、往路と復路の各液体吐出動作の合間に搬送機構によってノズル列長
さの搬送量にて媒体を搬送方向に搬送させる搬送動作とを繰り返し実行するコントローラ
ーであって、或るノズル列によって搬送方向に沿った罫線を印刷する場合、罫線を印刷す
るときの液体吐出動作の際に、或るノズル列よりも移動方向の下流側の他のノズル列によ
って印刷される印刷デューティに応じて、移動機構による複数のノズル列の移動速度を変
化させるコントローラーと、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、及び、液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置の1つであるインクジェットプリンターとして、媒体(例えば用紙)を搬
送する搬送動作と、ヘッドを移動方向に移動させつつヘッドから液体(例えばインク)を
吐出する液体吐出動作とを交互に繰り返すシリアル方式のものがある。このようなプリン
ターにより用紙にインク滴を吐出して画像等を印刷する場合、多量のインクが用紙に吸収
されることによって、用紙が膨張して波状になる現象(コックリング現象)が発生するこ
とがある。コックリング現象が発生すると、用紙とヘッドとの間隔が不均一になり、イン
ク滴の飛翔距離がばらつきインクの着弾位置にズレが生じるという不具合がある。そこで
、プラテンの突起の上面と各突起間の底面に複数の吸引孔を穿孔し、用紙を吸引ポンプ等
で各吸引孔を介して吸引して各突起と各突起間に沿って吸着・搬送することにより、コッ
クリング現象を抑制し、インクの着弾位置のズレを低減させるプリンターが提案されてい
る(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−246524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コックリングによるインクの着弾位置のズレは、後述するように、双方向印刷且つバン
ド印刷によって用紙の搬送方向に沿った罫線を印刷する場合に、罫線の繋ぎ目部分で顕著
に現れる。この場合、往路と復路での罫線の位置ズレが特に目立ちやすい。
上述したような吸引を行うことによりコックリング現象を抑制することも考えられるが
、吸引の際に音が発生するという問題や、コストが高くなるという問題がある。
そこで本発明は、吸引以外の方法によって罫線の繋ぎ目部分の位置ズレを低減させるこ
とを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、前記
搬送方向に並ぶ複数のノズルから構成されるノズル列が、前記搬送方向と交差する移動方
向に複数並んだ複数のノズル列と、前記複数のノズル列を前記移動方向に移動させる移動
機構と、前記移動機構によって前記複数のノズル列を前記移動方向に往復移動させながら
往路及び復路の双方向に移動中の各ノズル列から液体を吐出させる液体吐出動作と、往路
と復路の各液体吐出動作の合間に前記搬送機構によってノズル列長さの搬送量にて前記媒
体を前記搬送方向に搬送させる搬送動作とを繰り返し実行するコントローラーであって、
或るノズル列によって前記搬送方向に沿った罫線を印刷する場合、前記罫線を印刷すると
きの前記液体吐出動作の際に、前記或るノズル列よりも前記移動方向の下流側の他のノズ
ル列によって印刷される印刷デューティに応じて、前記移動機構による前記複数のノズル
列の移動速度を変化させるコントローラーと、を備えたことを特徴とする液体吐出装置で
ある。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】印刷システムの外観構成を示した説明図である。
【図2】プリンターの全体構成のブロック図である。
【図3】プリンターの斜視図である。
【図4】プリンターの横断面図である。
【図5】印刷時の処理のフロー図である。
【図6】ヘッドの下面におけるノズルの配列を示す説明図である。
【図7】ヘッドユニットの説明図である。
【図8】各信号のタイミングの説明図である。
【図9】PTS信号と、ラッチ信号LATと、チェンジ信号CHとのタイミングの関係を詳しく説明した図である。
【図10】図10Aは、リニア式エンコーダーの構成を概略的に示したものであり、図10Bは、検出部の構成を模式的に示したものである。
【図11】図11A及び図11Bは、キャリッジモーターの正転時及び逆転時における検出部の2つの出力信号の波形を示したタイミングチャートである。
【図12】ユニット制御回路のうちのキャリッジモーターの駆動を制御する部分の構成を示したブロック図である。
【図13】図13A及び図13Bは、バンド印刷の場合の印刷方式を示す説明図である。
【図14】キャリッジの往路と復路とにおける移動方向の説明図である。
【図15】ヘッドの往路と復路におけるインクの吐出のタイミングの説明図である。
【図16】縁なし印刷の概略説明図である。
【図17】図17Aは、縁なし印刷時のインクの吐出の説明図である。図17Bは、縁なし印刷時のインクの着弾の説明図である。
【図18】用紙Sのコックリング現象の様子を示す図である。
【図19】印刷デューティとコックリング量との関係の説明図である。
【図20】コックリングによるBi−d補正時の影響を説明するための概念図である。
【図21】コックリングのある状態の用紙Sに、双方向印刷で罫線を印刷したときの往路と復路とのズレ量を示す図である。
【図22】本実施形態のキャリッジの移動速度の説明図である。
【図23】印刷時の処理について説明するためのフロー図である。
【図24】第2実施形態における印刷時の処理について説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0008】
媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、前記搬送方向に並ぶ複数のノズルから構成され
るノズル列が、前記搬送方向と交差する移動方向に複数並んだ複数のノズル列と、前記複
数のノズル列を前記移動方向に移動させる移動機構と、前記移動機構によって前記複数の
ノズル列を前記移動方向に往復移動させながら往路及び復路の双方向に移動中の各ノズル
列から液体を吐出させる液体吐出動作と、往路と復路の各液体吐出動作の合間に前記搬送
機構によってノズル列長さの搬送量にて前記媒体を前記搬送方向に搬送させる搬送動作と
を繰り返し実行するコントローラーであって、或るノズル列によって前記搬送方向に沿っ
た罫線を印刷する場合、前記罫線を印刷するときの前記液体吐出動作の際に、前記或るノ
ズル列よりも前記移動方向の下流側の他のノズル列によって印刷される印刷デューティに
応じて、前記移動機構による前記複数のノズル列の移動速度を変化させるコントローラー
と、を備えたことを特徴とする液体吐出装置が明らかとなる。
このような液体吐出装置によれば、往路と復路での罫線の繋ぎ目部分の位置ズレを低減
させることができる。
【0009】
かかる液体吐出装置であって、前記移動方向に並んで配置され、搬送中の前記媒体を支
持する複数の支持部材を有し、前記コントローラーは、各支持部材間の領域ごとに、前記
印刷デューティに応じて、前記複数のノズル列の移動速度を変化させることが望ましい。

このような液体吐出装置によれば、各領域での位置ズレを低減させることができる。
【0010】
また、媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、前記搬送方向に並ぶ複数のノズルから構
成されるノズル列が、前記搬送方向と交差する移動方向に複数並んだ複数のノズル列と、
前記複数のノズル列を前記移動方向に移動させる移動機構と、前記移動方向に並んで配置
され、搬送中の前記媒体を支持する複数の支持部材と、前記移動機構によって前記複数の
ノズル列を前記移動方向に往復移動させながら往路及び復路の双方向に移動中の各ノズル
列から液体を吐出させる液体吐出動作と、往路と復路の各液体吐出動作の合間に前記搬送
機構によって前記ノズル列長さの搬送量にて前記媒体を前記搬送方向に搬送させる搬送動
作とを繰り返し実行するコントローラーであって、或るノズル列によって前記搬送方向に
沿った罫線を印刷する場合、前記罫線を印刷するときの前記液体吐出動作の際に、前記罫
線の位置する支持部材間の領域に前記或るノズル列よりも前記移動方向の下流側の他のノ
ズル列によって印刷される印刷デューティに応じて、前記移動機構による前記複数のノズ
ル列の移動速度を変化させるコントローラーと、を備えたことを特徴とする液体吐出装置
が明らかとなる。
このような液体吐出装置によれば、罫線を印刷する領域での媒体の状態を正確に反映さ
せることができ、往路と復路での罫線の繋ぎ目部分の位置ズレを低減させることができる

【0011】
かかる液体吐出装置であって、前記複数のノズル列が前記支持部材間の領域を通るとき
の前記移動速度は、前記支持部材の上を通るときの前記移動速度以下であることが望まし
い。
このような液体吐出装置によれば、他のノズル列から吐出された液体によって媒体が屈
曲していても或るノズル列からの液体を目標位置に着弾させることができる。
【0012】
かかる液体吐出装置であって、前記印刷デューティが大きいほど前記複数のノズル列の
移動速度の変化量が大きいことが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、媒体の状態にかかわらずに液体を目標位置に着弾さ
せることができる。
【0013】
また、媒体の搬送方向に並ぶ複数のノズルから構成されるノズル列が、前記搬送方向と
交差する移動方向に複数並んだ複数のノズル列を、前記移動方向に往復移動させながら往
路及び復路の双方向に移動中の各ノズル列から液体を吐出させる液体吐出動作と、往路と
復路の各液体吐出動作の合間にノズル列長さの搬送量にて前記媒体を前記搬送方向に搬送
させる搬送動作と、を繰り返す液体吐出方法であって、或るノズル列によって前記搬送方
向に沿った罫線を印刷する場合、前記罫線を印刷するときの前記液体吐出動作の際に、前
記或るノズル列よりも前記移動方向の下流側の他のノズル列によって印刷される印刷デュ
ーティに応じて、前記複数のノズル列の移動速度を変化させる、ことを特徴とする液体吐
出方法が明らかとなる。
【0014】
また、媒体の搬送方向に並ぶ複数のノズルから構成されるノズル列が、前記搬送方向と
交差する移動方向に複数並んだ複数のノズル列を、前記移動方向に往復移動させながら往
路及び復路の双方向に移動中の各ノズル列から液体を吐出させる液体吐出動作と、往路と
復路の各液体吐出動作の合間に、前記移動方向に並んで配置された複数の支持部材によっ
て前記媒体を支持しつつ前記ノズル列長さの搬送量にて前記媒体を前記搬送方向に搬送さ
せる搬送動作と、を繰り返す液体吐出方法であって、或るノズル列によって前記搬送方向
に沿った罫線を印刷する場合、前記罫線を印刷するときの前記液体吐出動作の際に、前記
罫線の位置する前記支持部材間の領域に前記或るノズル列よりも前記移動方向の下流側の
他のノズル列によって印刷される印刷デューティに応じて、前記複数のノズル列の移動速
度を変化させる、ことを特徴とする液体吐出方法が明らかとなる。
【0015】
以下の実施形態では、インクジェットプリンター(以下、プリンター1ともいう)を例
に挙げて説明する。
【0016】
===第1実施形態===
<印刷システムの構成について>
まず、図面を参照しながら印刷システムについて説明する。
図1は、印刷システムの外観構成を示した説明図である。この印刷システム100は、
プリンター1と、コンピューター110と、表示装置120と、入力装置130と、記録
再生装置140とを備えている。プリンター1は、紙、布、フィルム等の媒体に画像を印
刷する印刷装置である。コンピューター110は、プリンター1と電気的に接続されてお
り、プリンター1に画像を印刷させるため、印刷させる画像に応じた印刷データをプリン
ター1に出力する。表示装置120は、ディスプレイを有し、アプリケーションプログラ
ムやプリンタードライバー等のユーザーインターフェイスを表示する。入力装置130は
、例えばキーボード130Aやマウス130Bであり、表示装置120に表示されたユー
ザーインターフェイスに沿って、アプリケーションプログラムの操作やプリンタードライ
バーの設定等に用いられる。記録再生装置140は、例えばフレキシブルディスクドライ
ブ装置140AやCD−ROMドライブ装置140Bが用いられる。
【0017】
コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタ
ードライバーは、表示装置120にユーザーインターフェイスを表示させる機能を実現さ
せるほか、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換す
る機能を実現させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブ
ルディスクFDやCD−ROMなどの記録媒体(コンピューター読み取り可能な記録媒体
)に記録されている。または、このプリンタードライバーは、インターネットを介してコ
ンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各
種の機能を実現するためのコードから構成されている。
なお、「印刷装置」とは、狭義にはプリンター1を意味するが、広義にはプリンター1
とコンピューター110とのシステムを意味する。
【0018】
<インクジェットプリンターの構成について>
図2は、本実施形態のプリンター1の全体構成のブロック図である。また、図3は、本
実施形態のプリンター1の斜視図である。また、図4は、本実施形態のプリンター1の横
断面図である。以下、本実施形態のプリンターの基本的な構成について説明する。
【0019】
本実施形態のプリンター1は、搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユ
ニット40、検出器群50、コントローラー60を有する。外部装置であるコンピュータ
ー110から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー60によって各ユニ
ット(搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40)を制御し、紙
に画像を印刷する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出
器群50は、検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は、検出器
群50から出力された検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。
【0020】
搬送ユニット20(搬送機構に相当する)は、媒体(例えば、用紙Sなど)を所定の方
向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。この搬送ユニット20は、
給紙ローラー21と、搬送モーター22(PFモータとも言う)と、搬送ローラー23と
、プラテン24と、排紙ローラー25とを有する。給紙ローラー21は、紙挿入口に挿入
された用紙Sをプリンター内に給紙するためのローラーである。搬送ローラー23は、給
紙ローラー21によって給紙された用紙Sを印刷可能な領域まで搬送するローラーであり
、搬送モーター22によって駆動される。プラテン24は、印刷中の用紙Sを支持する。
なお、本実施形態でのプラテン24は、後述するように突起と溝部を備えている。排紙ロ
ーラー25は、用紙Sをプリンターの外部に排出するローラーであり、印刷可能な領域に
対して搬送方向下流側に設けられている。
【0021】
キャリッジユニット30(移動機構に相当する)は、ヘッドを所定の方向(以下、移動
方向という)に移動(「走査」とも呼ばれる)させるためのものである。キャリッジユニ
ット30は、キャリッジ31と、キャリッジモーター32(CRモーターとも言う)とを
有する。キャリッジ31は、移動方向に往復移動可能であり、キャリッジモーター32に
よって駆動される。また、キャリッジ31には、インク(液体の一種)を収容したインク
カートリッジが搭載される。キャリッジモーター32は、キャリッジ31を移動方向に移
動させるためのモーターであり、DCモーターにより構成される。なお、キャリッジ31
は、搬送方向と交差したキャリッジ軸33(ガイド軸ともいう)に支持された状態でキャ
リッジモーター32によりキャリッジ軸33に沿って往復移動する。
【0022】
ヘッドユニット40は、用紙Sにインクを吐出するためのものである。ヘッドユニット
40は、複数のノズルを有するヘッド41を有する。ヘッドユニット40はキャリッジ3
1に設けられているため、キャリッジ31が移動方向に移動すると、ヘッドユニット40
も移動方向に移動する。そして、ヘッド41が移動方向に移動中にインクを断続的に吐出
することによって、移動方向に沿ったドットライン(ラスタライン)が用紙Sに形成され
る。
なお、ヘッドユニット40の詳細については後述する。
【0023】
検出器群50には、リニア式エンコーダー51、ロータリー式エンコーダー52、検出
センサー53、光学センサー54等が含まれる。リニア式エンコーダー51は、キャリッ
ジ31の移動方向の位置を検出する。ロータリー式エンコーダー52は、搬送ローラー2
3の回転量を検出する。紙検出センサー53は、給紙中の用紙Sの先端の位置を検出する
。光学センサー54は、キャリッジ31に取付けられている発光部と受光部により、用紙
Sの有無を検出する。そして、光学センサー54は、キャリッジ31によって移動しなが
ら用紙Sの端部の位置を検出し、用紙Sの幅を検出することができる。また、光学センサ
ー54は、状況に応じて、用紙Sの先端(搬送方向下流側の端部であり、上端ともいう)
・後端(搬送方向上流側の端部であり、下端ともいう)も検出できる。
【0024】
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御ユニットである。コントロ
ーラー60は、インターフェイス部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制
御回路64を有する。インターフェイス部61は、外部装置であるコンピューター110
とプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンター全体の制御を
行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領
域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有す
る。CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回
路64を介して各ユニットを制御する。
【0025】
<印刷手順について>
図5は、印刷時の処理のフロー図である。以下に説明される各処理は、コントローラー
60が、メモリー63内に格納されたプログラムに従って、各ユニットを制御することに
より実行される。このプログラムは、各処理を実行するためのコードを有する。
【0026】
コントローラー60は、コンピューター110からインターフェイス部61を介して、
印刷命令を受信する(S001)。この印刷命令は、コンピューター110から送信され
る印刷データのヘッダに含まれている。そして、コントローラー60は、受信した印刷デ
ータに含まれる各種コマンドの内容を解析し、各ユニットを用いて、以下の給紙処理・搬
送処理・インク吐出処理等を行う。
【0027】
まず、コントローラー60は、給紙処理を行う(S002)。給紙処理とは、印刷すべ
き媒体(例えば紙)をプリンター内に供給し、印刷開始位置(頭出し位置とも言う)に紙
を位置決めする処理である。コントローラー60は、給紙ローラー21を回転させ、印刷
すべき紙を搬送ローラー23まで送る。コントローラー60は、搬送ローラー23を回転
させ、給紙ローラー21から送られてきた紙を印刷開始位置に位置決めする。紙が印刷開
始位置に位置決めされたとき、ヘッド41の少なくとも一部のノズルは、紙と対向してい
る。
【0028】
次に、コントローラー60は、ドット形成処理を行う(S003)。ドット形成処理と
は、移動方向に沿って移動するヘッドからインクを断続的に吐出させ、紙上にドットを形
成する処理である。コントローラー60は、キャリッジモーター32を駆動し、キャリッ
ジ31を移動方向に移動させる。そして、コントローラー60は、キャリッジ31が移動
している間に、印刷データに基づいてヘッドからインクを吐出させる。ヘッドから吐出さ
れたインク滴が紙上に着弾すれば、紙上にドットが形成される。
【0029】
次に、コントローラー60は、搬送処理を行う(S004)。搬送処理とは、紙をヘッ
ドに対して搬送方向に沿って相対的に移動させる処理である。コントローラー60は、搬
送モーターを駆動し、搬送ローラーを回転させて紙を搬送方向に搬送する。この搬送処理
により、ヘッド41は、先ほどのドット形成処理によって形成されたドットの位置とは異
なる位置に、ドットを形成することが可能になる。
【0030】
次に、コントローラー60は、印刷中の紙の排紙の判断を行う(S005)。印刷中の
紙に印刷するためのデータが残っていれば、排紙は行われない。そして、コントローラー
60は、印刷するためのデータがなくなるまでドット形成処理と搬送処理とを交互に繰り
返し、ドットから構成される画像を徐々に紙に印刷する。印刷中の紙に印刷するためのデ
ータがなくなれば、コントローラー60は、その紙を排紙する。コントローラー60は、
排紙ローラー25を回転させることにより、印刷した紙を外部に排出する。なお、排紙を
行うか否かの判断は、印刷データに含まれる排紙コマンドに基づいても良い。
【0031】
次に、コントローラー60は、印刷を続行するか否かの判断を行う(S006)。次の
紙に印刷を行うのであれば、印刷を続行し、次の紙の給紙処理を開始する。次の紙に印刷
を行わないのであれば、印刷動作を終了する。
【0032】
<ヘッド41について>
図6は、ヘッド41の下面におけるノズルの配列を示す説明図である。図6に示すよう
に、ヘッド41の下面には、ブラックインクノズル列Kと、シアンインクノズル列Cと、
マゼンタインクノズル列Mと、イエローインクノズル列Yが移動方向に並んで形成されて
いる。各ノズル列は、各色のインクを吐出するための吐出口であるノズルを複数個(本実
施形態では180個)備えている。
【0033】
各ノズル列の複数のノズルは、搬送方向に沿って、一定の間隔(ノズルピッチ:k・D
)でそれぞれ整列して並んでいる。ここで、Dは、搬送方向における最小のドットピッチ
(つまり、用紙Sに形成されるドットの最高解像度での間隔)である。また、kは、1以
上の整数である。例えば、ノズルピッチが180dpi(1/180インチ)であって、
搬送方向のドットピッチが720dpi(1/720)である場合、k=4である。
【0034】
各ノズル列のノズルは、下流側のノズルほど若い番号が付されている(♯1〜♯180
)。つまり、ノズル♯1は、ノズル♯180よりも搬送方向の下流側に位置している。各
ノズルには、各ノズルを駆動してインク滴を吐出させるための駆動素子としてピエゾ素子
(不図示)が設けられている。また、光学センサー54は、搬送方向の位置に関して、一
番上流側にあるノズル♯180とほぼ同じ位置にある。
【0035】
<ヘッド41の駆動について>
図7は、ヘッドユニット40の説明図である。また、図8は、各信号のタイミングの説
明図である。
【0036】
ヘッドユニット40は、ヘッド41を有するとともに、ヘッド41を駆動するヘッド駆
動回路42と、原駆動信号ODRVを発生する原駆動信号発生部43とを有する。なお、
ヘッド41は、各色(本実施形態ではブラック、シアン、マゼンダ、イエロー)のノズル
列を有するとともに、ノズル数分のピエゾ素子PZTと、各ピエゾ素子PZTに設けられ
た圧力室(不図示)とを有する。
【0037】
ヘッド駆動回路42は、180個の第1シフトレジスタ421と、180個の第2シフ
トレジスタ422と、ラッチ回路群423と、データセレクタ424と、180個のスイ
ッチSWとを有する。図中のかっこ内の数字は、部材(又は信号)が対応するノズルの番
号を示している。このヘッド駆動回路42は、シリアル伝送される印刷信号PRTに基づ
いて180個のピエゾ素子PZTをそれぞれ駆動し、各ノズルからインク滴を吐出するた
めのものである。このヘッド駆動回路42は、各色のノズル列毎に設けられている。
【0038】
原駆動信号ODRVは、180個のピエゾ素子PZTに対して共通に供給される信号で
ある。この原駆動信号ODRVは、ノズルが一画素分の距離を横切る時間内に、第1パル
スW1と第2パルスW2の2つの駆動パルスを有する。この原駆動信号ODRVは、印刷
装置本体側に設けられた原駆動信号発生部43からケーブルを介して、ヘッド駆動回路4
2のスイッチSWにそれぞれ伝送される。
【0039】
印刷信号PRT(i)は、ノズル♯iが担当する一画素に対して割り当てられている画
素データに対応した信号である。本実施形態では、印刷信号PRT(i)は、一画素につ
き2ビットの情報を有する信号になっている。この印刷信号PRT(i)は、データセレ
クタ424からスイッチSW(i)に伝送される。
【0040】
印刷信号PRTは、ノズル数分の印刷信号PRT(i)をシリアル伝送する信号である
。このシリアル伝送される印刷信号PRTは、ヘッド駆動回路42に入力され、180個
の2ビットデータである印刷信号PRT(i)にシリアル/パラレル変換される(後述)

【0041】
駆動信号DRV(i)は、ノズル♯iに対応して設けられているピエゾ素子PZT(i
)を駆動する信号である。ピエゾ素子PZT(i)に駆動信号DRV(i)が入力される
と、駆動信号DRV(i)の電圧変化に応じてピエゾ素子PZT(i)が変形する。ピエ
ゾ素子PZT(i)が変形すると、圧力室の一部を区画する弾性膜(側壁)が変形し、圧
力室内のインクがノズル♯iから吐出する。
【0042】
ラッチ信号LATは、ラッチ回路群423とデータセレクタ424に入力される。チェ
ンジ信号CHは、データセレクタ424に入力される。ラッチ信号LAT及びチェンジ信
号CHは、印刷信号PRT(i)が変化するタイミングを示すパルスを有する。
【0043】
ヘッド駆動回路42にシリアル伝送された印刷信号PRTは、以下に説明するようにし
て、180個の2ビットデータである印刷信号PRT(i)にシリアル/パラレル変換さ
れる。まず、印刷信号PRTが180個の第1シフトレジスタ421に入力され、次に、
180個の第2シフトレジスタ422に入力される。ラッチ信号LATのパルスがラッチ
回路群423に入力されると、各シフトレジスタの360個のデータがラッチ回路群42
3にラッチされる。ラッチ信号LATのパルスがラッチ回路群423に入力されるとき、
ラッチ信号LATのパルスがデータセレクタ424にも入力される。データセレクタ42
4は、ラッチ信号LATが入力されると、初期状態になる。初期状態のデータセレクタ4
24は、ラッチされる前には第1シフトレジスタ421に格納されていたデータをラッチ
回路群423から選択し、印刷信号PRT(i)としてスイッチSW(i)にそれぞれ出
力する。次に、チェンジ信号CHのパルスにより、データセレクタ424は、ラッチされ
る前には第2シフトレジスタ422に格納されていたデータをラッチ回路群423から選
択し、印刷信号PRT(i)としてスイッチSW(i)にそれぞれ出力する。このように
して、シリアル伝送される印刷信号PRTは、180個の2ビットデータに変換される。
【0044】
印刷信号PRT(i)のレベルが「1」のとき、スイッチSW(i)は、原駆動信号O
DRVの対応する駆動パルスをそのまま通過させて駆動信号DRV(i)とする。一方、
印刷信号PRT(i)のレベルが「0」のとき、スイッチSW(i)は、原駆動信号OD
RVの対応する駆動パルスを遮断する。この結果、印刷信号PRT(i)が「11」の場
合、ピエゾ素子PZT(i)に駆動パルスW1及びW2が入力し、大ドットが形成される
。また、印刷信号PRT(i)が「10」の場合、ピエゾ素子PZT(i)に駆動パルス
W1が入力し、中ドットが形成される。印刷信号PRT(i)が「01」の場合、ピエゾ
素子PZT(i)に駆動パルスW2が入力し、小ドットが形成される。つまり、印刷信号
PRT(i)に応じた大きさのドットが用紙上に形成される。なお、印刷信号PRT(i
)が「00」の場合、ピエゾ素子PZT(i)に駆動パルスが入力されないので、ドット
は形成されない。
【0045】
<PTS信号>
ラッチ回路群423またはデータセレクタ424に入力されるラッチ信号LATは、P
TS(Pulse Timing Signal)信号に基づき生成される。また、チェンジ信号CHは、こ
のようにPTS信号に基づき生成されたラッチ信号LATに基づいて生成される。このP
TS信号は、これらラッチ信号LATおよびチェンジ信号CHにおいてパルスが発生する
タイミングを規定する信号である。
【0046】
図9は、PTS信号と、ラッチ信号LATと、チェンジ信号CHとのタイミングの関係
を詳しく説明したものである。PTS信号は、所定の周期T0にてパルスが発生する。ラ
ッチ信号LATは、このPTS信号に発生したパルスに基づき、これに呼応して直ちにパ
ルスが発生する。また、チェンジ信号CHは、このようにしてラッチ信号に発生したパル
スに基づき、ラッチ信号LATのパルスが発生してから所定時間遅れたタイミングにてパ
ルスが発生する。これらラッチ信号LATおよびチェンジ信号CHの各パルスは、PTS
信号でパルスが発生する都度、発生する。
【0047】
このPTS信号は、本実施形態では、コントローラー60により生成される。コントロ
ーラー60は、リニア式エンコーダー51からの出力パルスに基づきPTS信号を生成す
る。すなわち、PTS信号は、キャリッジ31の移動量に応じて発生する。
【0048】
<キャリッジの移動について>
図10Aは、リニア式エンコーダー51の構成を概略的に示したものである。リニア式
エンコーダー51は、リニア式エンコーダー符号板564と、検出部566とを備えてい
る。リニア式エンコーダー符号板564は、インクジェットプリンター1内部のフレーム
側に取り付けられている。一方、検出部566は、キャリッジ31側に取り付けられてい
る。キャリッジ31がキャリッジ軸33に沿って移動すると、検出部566がリニア式エ
ンコーダー符号板564に沿って相対的に移動する。これによって、検出部566は、キ
ャリッジ31の移動量を検出する。
【0049】
図10Bは、検出部566の構成を模式的に示したものである。この検出部566は、
発光ダイオード552と、コリメータレンズ554と、検出処理部556とを備えている
。検出処理部556は、複数(例えば4個)のフォトダイオード558と、信号処理回路
560と、例えば2個のコンパレーター562A、562Bとを有している。
【0050】
発光ダイオード552の両端に抵抗を介して電圧Vccが印加されると、発光ダイオー
ド552から光が発せられる。この光はコリメータレンズ554により平行光に集光され
てリニア式エンコーダー用符号板564を通過する。リニア式エンコーダー用符号板56
4には、所定の間隔(例えば1/180インチ(1インチ=2.54cm))毎にスリッ
トが設けられている。
【0051】
リニア式エンコーダー用符号板564を通過した平行光は、図示しない固定スリットを
通って各フォトダイオード558に入射し、電気信号に変換される。4個のフォトダイオ
ード558から出力される電気信号は信号処理回路560において信号処理され、信号処
理回路560から出力される信号はコンパレーター562A、562Bにおいて比較され
、比較結果がパルスとして出力される。コンパレーター562A、562Bから出力され
るパルスENC−A、ENC−Bがリニア式エンコーダー51の出力となる。
【0052】
図11A及び図11Bは、キャリッジモーター32の正転時及び逆転時における検出部
566の2つの出力信号の波形を示したタイミングチャートである。図11A及び図11
Bに示すように、キャリッジモーター32の正転時及び逆転時のいずれの場合も、パルス
ENC−AとパルスENC−Bとは位相が90度だけ異なっている。キャリッジモーター
32が正転しているときは、図11Aに示すように、パルスENC−AはパルスENC−
Bよりも90度だけ位相が進み、キャリッジモーター32が逆転しているときは、図11
Bに示すように、パルスENC−AはパルスENC−Bよりも90度だけ位相が遅れる。
そして、パルスENC−A及びパルスENC−Bの1周期Tは、キャリッジ31がリニア
式エンコーダー用符号板564のスリット間隔を移動する時間に等しい。
【0053】
そして、リニア式エンコーダー51の出力パルスENC−A、ENC−Bの各々の立ち
上がりエッジが検出され、検出されたエッジの個数が計数され、この計数値に基づいてキ
ャリッジモーター32の回転位置が演算される。この計数はキャリッジモーター32が正
転しているときは1個のエッジが検出されると「+1」を加算し、逆転しているときは、
1個のエッジが検出されると「−1」を加算する。パルスENC−A及びENC−Bの各
々の周期は、リニア式エンコーダー用符号板564の、あるスリットが検出部566を通
過してから次のスリットが検出部566を通過するまでの時間に等しく、かつ、パルスE
NC−AとパルスENC−Bとは位相が90度だけ異なっている。このため、上記計数の
カウント値「1」はリニア式エンコーダー用符号板564のスリット間隔の1/4に対応
する。これにより上記計数値にスリット間隔の1/4を乗算すれば、その乗算値に基づい
て、計数値が「0」に対応する回転位置からのキャリッジモーター32の移動量を求める
ことができる。このとき、リニア式エンコーダー51の解像度はリニア式エンコーダー用
符号板564のスリットの間隔の1/4となる。
【0054】
図12は、ユニット制御回路64のうちのキャリッジモーター32の駆動を制御する部
分の構成を示したブロック図である。
【0055】
図に示すユニット制御回路64は、位置演算部71と、減算器72と、ゲイン73と、
速度演算部74と、減算器75と、比例要素76Aと、積分要素76Bと、微分要素76
Cと、加算器77と、PWM回路78と、モータードライバー79とを有する。
【0056】
なお、本実施形態では、キャリッジモーター32をPID制御する。PID制御では、
ユニット制御回路64は、目標回転位置と、リニア式エンコーダー51の出力から得られ
る実際の回転位置との位置偏差にゲインKpを乗算して目標回転速度を算出する。そして
、ユニット制御回路64は、この目標回転速度と、リニア式エンコーダー51の出力から
得られる実際の回転速度との速度偏差に基づいて、比例要素76A、積分要素76B及び
微分要素76Cを用いて比例成分、積分成分及び微分成分の演算を行い、これらの演算結
果の和に基づいて、キャリッジモーター32の制御を行う。
【0057】
位置演算部71は、リニア式エンコーダー51の出力パルスのエッジを検出し、その個
数をカウントし、このカウント値に基づきキャリッジモーター32の回転位置を演算する
。位置演算部71は、2つのパルス信号の比較処理からキャリッジモーター32の正転・
逆転を認知し、1個のエッジが検出された時に正転・逆転に応じてインクリメント・デク
リメントするように計数処理する。
【0058】
減算器72は、CPU62から送られてくる目標位置と、位置演算部71により検出さ
れた検出位置との位置偏差を演算する。ゲイン73は、減算器72から出力される位置偏
差にゲインKpを乗算し、目標速度を出力する。ゲインKpは、位置偏差に応じて決定さ
れる。なお、このゲインKpの値と位置偏差との関係を示すテーブルは、メモリー63に
格納されている。
【0059】
速度演算部74は、リニア式エンコーダー51の出力パルスに基づいて、キャリッジモ
ーター32の回転速度を演算する。すなわち、速度演算部74は、リニア式エンコーダー
51の出力パルスのパルス周期を計時し、このパルス周期に基づいてキャリッジモーター
32の回転速度を演算する。
減算器75は、ゲイン73から出力される目標速度と、速度演算部74により検出され
た検出速度との速度偏差を演算する。
【0060】
比例要素76Aは、速度偏差に定数Gpを乗算し、比例成分を出力する。積分要素76
Bは、速度偏差に定数Giを乗算したものを積算し、積分成分を出力する。微分要素76
Cは、現在の速度偏差と、1つ前の速度偏差との差に定数Gdを乗算し、微分成分を出力
する。比例要素76A、積分要素76B及び微分要素76Cの演算は、リニア式エンコー
ダー51の出力パルスの1周期毎に行われる。
比例要素76A、積分要素76B及び微分要素76Cから出力される信号値は、それぞ
れの演算結果に応じたデューティを示す信号である。
【0061】
加算器77は、比例要素76Aの出力と、積分要素76Bの出力と、微分要素76Cの
出力とを加算する。
PWM回路78は、加算器77から出力されるデューティ信号に基づいて指令信号を生
成する。
【0062】
モータードライバー79は、PWM回路78からの指令信号に基づいてキャリッジモー
ター32の駆動を制御する。モータードライバー79は、例えば複数個のトランジスタを
備えており、PWM回路78からの指令信号に基づいて、トランジスタをオン/オフさせ
ることで、キャリッジモーター(CRモーター)32に電力を供給する。こうして、キャ
リッジモーター32の駆動を制御する。なお、このキャリッジモーター32の駆動は予め
定められた速度プロファイル(後述する)に基づいて行われる。このようにして、キャリ
ッジモーター32の駆動が制御され、これによりキャリッジ31が移動方向に移動する。
【0063】
<印刷方式について>
図13A及び図13Bは、印刷方式の一例として、バンド印刷の場合の印刷方式を示す
説明図である。図13Aは、或るパスにおけるヘッド(又はノズル)の位置とドットの形
成の様子を示し、図13Bは、その次のパスにおけるヘッドの位置とドットの形成の様子
を示している。
【0064】
説明の都合上、複数あるノズル列のうちの一つのノズル列のみを示し、ノズル列のノズ
ル数も少なくしている(ここでは8個)。また、説明の便宜上、ヘッド(又はノズル列)
が紙に対して移動しているように描かれているが、同図はヘッドと紙との相対的な位置を
示すものであって、実際には紙が搬送方向に移動(搬送)されている。また、説明の都合
上、各ノズルは数ドット(図中の丸印)しか形成していないように示されているが、実際
には、移動方向に移動するノズルから間欠的にインク滴が吐出されるので、移動方向に多
数のドットが並ぶことになる。このドットの列をラスタラインともいう。黒丸で示される
ドットは、最後のパスで形成されるドットであり、白丸で示されるドットは、それ以前の
パスで形成されたドットである。なお、「パス」とは、移動するノズルからインクを吐出
して、ドットを形成する動作(液体吐出動作に相当する)をいう。各パスは、紙を搬送方
向に搬送する動作(搬送動作)と交互に行われる。
【0065】
「バンド印刷」とは、ノズルピッチがドット間隔と等しく、連続するラスタラインを1
回のパスで形成する印刷方法を意味する。つまり、バンド印刷では、1回のパスでノズル
列長さ分のバンド状の画像片が形成される。そして、各パスの間に行われる搬送動作では
、紙がノズル列長さ分(この場合、8D)だけ搬送される。そして、各パスと搬送動作と
が交互に繰り返されることにより、バンド状の画像片が搬送方向につなぎ合わされて、印
刷画像が形成される。
このようにバンド印刷では、搬送方向のドット間隔Dは、ノズルピッチと同じになり、
本実施形態では180dpiである。また、バンド印刷では、搬送動作の際にノズル列長
さの搬送量にて媒体が搬送方向に搬送される。例えばノズル数が180個の場合、搬送量
は180Dになる。また、バンド印刷では、最も搬送方向下流側のノズルによって形成さ
れたラスタラインと、最も搬送方向上流側のノズルによって形成されたラスタラインが隣
接することになる。
【0066】
<インクの着弾位置の補正について>
図14は、キャリッジの往路と復路とにおける移動方向の説明図である。
図14に示すように、キャリッジ31をキャリッジ軸33に沿って往復移動させながら
、その往路および復路の双方向においてインクを吐出して印刷を行う、いわゆる「双方向
印刷」の実行時に、往路および復路におけるインクの着弾位置のズレが発生する。このズ
レについて詳しく説明する。
【0067】
図15は、ヘッド41の往路と復路におけるインクの吐出のタイミングを説明する図で
ある。この説明図は搬送方向から見た図なので、紙面に垂直な方向が搬送方向であり、紙
面の左右方向が移動方向である。ヘッド41と用紙Sとは、ギャップPGを隔てて対向し
て配置されている。
【0068】
キャリッジ31が移動しながらヘッド41からインク滴Ipが吐出されると、吐出され
たインク滴Ipは、慣性力によりキャリッジ31の移動方向に沿って移動しながら、ギャ
ップPGの距離を移動して用紙Sに到達する。このため、インク滴の吐出位置と実際の到
達位置との間には、ズレが発生する。目標位置にインク滴Ipを到達させるためには、そ
の目標位置よりも手前でインク滴Ipを吐出する必要がある。復路においても同様で、キ
ャリッジ31の移動中にインク滴Ipが吐出されるから、目標位置にインク滴Ipを到達
させるためには、その目標位置よりも手前でインク滴Ipを吐出する必要がある。
【0069】
しかし、往路と復路とでは、キャリッジ31の移動方向が異なるため、同じ目標位置に
インク滴Ipを到達させる場合であっても、その吐出タイミングが異なる。そこで、本実
施形態に係るプリンター1では、このような往路および復路におけるインクの着弾位置の
ズレを解消するために、往路および復路におけるインク滴Ipの吐出タイミングをずらし
て補正するようになっている。この補正は、予め設定された補正値に基づき行う。本実施
形態では、この補正値はプリンター1のメモリー63に記憶されていることとするが、こ
れには限られない。例えば、印刷に際してホストから送られてきたものを使用するように
なっていてもよい。なお、このような補正のことを「Bi−d補正」ともいう。
【0070】
<プラテンの構成について>
紙の端部に余白を形成せずに印刷を行う「縁なし印刷」と呼ばれる印刷方法がある。こ
の縁なし印刷によれば、紙の前面に画像を印刷することができる。
図16は、縁なし印刷の概略説明図である。同図において、内側の実線の四角形は、用
紙Sの大きさを示している。また、外側の点線の四角形は、インクを吐出する領域を示し
ている。用紙Sよりも広い領域にインクを吐出することにより、紙に余白を形成せずに画
像を印刷することが可能になる。
【0071】
但し、インクを吐出する範囲(点線の四角形)が紙の大きさ(実線の四角形)よりも大
きいため、縁なし印刷をする際に、紙に着弾しないインク(以下、「紙外着弾インク」と
いう)が発生する。紙外着弾インクがプラテン24に着弾すると、次の紙が搬送されたと
きに、その紙の裏面をインクで汚してしまう。
そこで、縁なし印刷を行うプリンターでは、プラテン24に突起と溝が設けられており
、この溝に紙外着弾インクが着弾するようになっている。
【0072】
図17Aは、縁なし印刷時のインクの吐出の説明図である。図17Bは、縁なし印刷時
のインクの着弾の説明図である。なお、両図は紙の側端(移動方向側端)における縁なし印
刷について示しており、搬送方向から見た図になっている。また、ここでは説明の都合上
、複数あるノズル列のうちの一つのノズル列のみを示している。
【0073】
本実施形態のプリンター1のプラテン24は、突起242(凸部やリブともいう)と、
溝部244(凹部ともいう)と、吸収部材246とを備えている。
【0074】
突起242(支持部材に相当する)は、紙と接触することにより紙を支持する部材であ
り、移動方向に並んで複数配置されている。この突起242は、紙が溝部244に接しな
いように構成される。また、この突起242は、規定サイズの紙の側端に位置しないよう
に、設けられている。
【0075】
溝部244は、プラテン24に設けられた窪みである。溝部244は、突起242に対
して凹んでいるため、溝部244がインクによって汚れても、紙の裏面を汚さない。この
ため、縁なし印刷時に紙幅よりも広い領域にインクが吐出されても、紙外着弾インクが溝
部244に着弾するので、紙の裏面を汚さない。
【0076】
吸収部材246は、インクを吸収するための部材であり、例えば吸水性のスポンジ等か
ら構成される。この吸収部材246は、溝部244に設けられている。そして、縁なし印
刷時に溝部244に着弾する紙外着弾インクを吸収する。吸収部材246がインクを吸収
することにより、打ち漏らしたインクの離散を防いでいる。プリンター1は幅の異なる複
数の紙に印刷可能なので、印刷可能な規定サイズの紙幅に合わせて、その紙に対応する打
ち漏らし領域に吸収部材246が設けられている。
【0077】
図に示されるように、紙幅よりも広い範囲にインクが吐出されることにより、用紙Sの
側端に余白ができないように画像を印刷することが可能になる。また、紙外着弾インクは
溝部244の吸収部材246に着弾するので、紙外着弾インクで紙の裏面が汚れることを
防止できる。
【0078】
ところで、このように、プラテン24に突起242と溝部244が設けられ突起242
によって用紙Sを支持する場合、用紙Sにドットを形成するとコックリング現象が起こり
やすい。以下、コックリング現象について説明する。
【0079】
<コックリング現象について>
用紙Sにインクが吐出されると、用紙Sがインクを吸収して膨張し、移動方向に蛇腹状
に波打つ状態になる。この現象を、コックリング現象という。
【0080】
図18は用紙Sのコックリング現象の様子を示す図である。なお、図の用紙Sのうち、
破線は印刷デューティが小さいとき(例えば50%のとき)の状態を示しており、実線は
印刷デューティが大きいとき(例えば80%のとき)の状態を示している。なお、印刷デ
ューティとは、ドットの形成割合、すなわち、パスの際に形成可能な総ドット数に対して
、実際に形成するドット数の割合を意味する。
【0081】
用紙Sにこのようなコックリング現象(以下、単にコックリングともいう)が生じると
、移動方向の位置によってヘッド41と用紙Sとの間隔(ギャップ)が異なることになる
。このため、移動方向の位置によってインクの着弾位置にズレが生じる。
【0082】
図19はBi−d補正の適用時のコックリングによる影響を説明するための概念図であ
る。図に示す用紙Sのうち破線は、コックリングがないときの状態である。このとき用紙
Sの位置(移動方向の位置)にかかわらずギャップは一定である(PG1とする)。また
、図に示す用紙Sのうち実線は、コックリングが発生したときの状態である。このとき移
動方向の位置に応じてギャップが異なる(PG2とする)。図において左側はコックリン
グの山の部分(例えば図18のA点)に相当し、右側はコックリングの谷の部分(例えば
図18のB点)に相当する。また、図の真ん中は、山と谷の中間位置(例えば図18のA
とBとの中間)に相当する。
【0083】
また、図19の下側の図は、双方向印刷且つバンド印刷で、搬送方向に沿った罫線を印
刷した場合に印刷される罫線を示している。なお、図の一点鎖線で示す罫線はコックリン
グ無しの状態で印刷された罫線であり、図の実線で示す罫線はコックリングが発生した状
態で印刷された罫線である。
【0084】
本実施形態では、ギャップPG1に対してBi−d補正の補正値が設定されていること
とする。これにより、コックリングが無ければ往路と復路においてヘッド41からの吐出
タイミングが補正されて狙いの位置にインクが着弾する。よって図の一点鎖線で示すよう
に往路と復路で罫線の繋ぎ目に位置ズレが生じない。
【0085】
ところが、用紙Sにコックリングが発生すると、移動方向の位置によってギャップPG
2の大きさが変わる。例えば、コックリングの山の部分ではギャップPG2は小さく、谷
の部分ではギャップPG2が大きい。この場合、ギャップPG2が大きくなるにつれて、
往路と復路における罫線の繋ぎ目の位置ズレ(図のx)が大きくなる。つまり、罫線を印
刷する際に、用紙Sの屈曲率が大きいほど罫線の繋ぎ目の位置ズレが大きくなる。
【0086】
図20は、印刷デューティとコックリング量との関係の説明図である。図の横軸は用紙
Sの移動方向の位置を示し、縦軸はコックリング量を示している。また、図の破線は、印
刷デューティが小さいとき(例えば50%のとき)のコックリング量を示しており、図の
実線は、印刷デューティが大きいとき(例えば80%のとき)のコックリング量を示して
いる。また、図の横軸において左端は、突起242上(図18のA点)であり、右端は隣
接する突起242の中間(図18のB点)である。実際には、用紙Sの位置に対してコッ
クリング量は曲線的に変化するが、ここでは、便宜上直線で示している。なお、コックリ
ング量は、ギャップPG2とギャップPG1との差(PG2−PG1)に相当する。
【0087】
図に示すように、コックリング量は、突起242上(A点)で最小(ゼロ)であり、隣
接する突起242との中間(B点)で最大になる。また、B点において、印刷デューティ
が80%のときのコックリング量C2は、印刷デューティが50%のときのコックリング
量C1よりも大きい。このように、印刷デューティに応じてコックリング量(すなわち用
紙Sの屈曲率)が異なる。
【0088】
図21は、コックリングの発生した用紙Sに双方向印刷で罫線を印刷した場合の往路と
復路とのズレ量xの関係を示す図である。図において図の横軸は用紙Sの移動方向の位置
を示し、縦軸は往路と復路とのズレ量を示している。また、図の実線は印刷デューティが
大きいとき(例えば80%のとき)のズレ量を示しており、破線は印刷デューティが小さ
いとき(例えば50%のとき)のズレ量を示している。
図に示すように印刷デューティが大きいほど(すなわちコックリング量が大きいほど)
ズレ量xは大きくなる。
【0089】
このように、コックリングによって往路と復路のインクの着弾位置にズレが生じること
になる。特に、図19に示すように、双方向印刷且つバンド印刷で搬送方向に沿った罫線
を印刷する場合、罫線の繋ぎ目がずれることになるので目立ちやすい。そこで、本実施形
態では、コックリングの状態(言い換えると印刷デューティ)に応じて、キャリッジ31
の移動速度を変えることにより罫線の繋ぎ目部分の位置ズレの低減を図っている。
【0090】
<キャリッジの移動速度について>
図22は、本実施形態のキャリッジ31の速度プロファイルの説明図である。図の横軸
は移動方向の位置を示し、縦軸はキャリッジ31の移動速度を示している。また、図の実
線はコックリングがないときの速度プロファイルを示し、図の破線はコックリングがある
ときの速度プロファイルを示している。なお、コントローラー60は、キャリッジ31の
移動速度が図のようになるように、キャリッジモーター32の駆動を制御する。
【0091】
コックリングがない場合、図の実線に示すように、各パスの際にキャリッジ31を、加
速、等速、減速と順に変化するように駆動する。これは通常のキャリッジ31の速度プロ
ファイルと同様である。この速度プロファイルに従い、PID制御によりキャリッジ31
の移動速度が制御される。なお、パスの際に印刷領域ではキャリッジ31の移動は等速に
なっている。そして、等速で移動中の各ノズル列からインクが吐出される。
【0092】
一方、コックリングがある場合(罫線を印刷するよりも先に他のノズル列によって印刷
が行われる場合)には、図の破線のように用紙Sの状態(コックリングの状態)に合わせ
てキャリッジ31の移動速度を変化させる。なお、破線のうちの山の部分は、突起242
の位置(A点)に相当し、谷の部分は、隣接する突起242の中間(B点)に相当してい
る。つまり、ヘッド41と用紙Sとの間隔(ギャップ)が大きくなるほどキャリッジ31
の移動速度が遅くなるようにしている。また、キャリッジ31の移動速度の変化量(図の
H)の大きさは、パスの際に罫線を印刷するときのコックリング量の大きさ(すなわち罫
線を印刷するノズル列よりも移動方向下流側のノズル列によって印刷される印刷デューテ
ィ)に応じて定められる。
【0093】
このようにキャリッジ31の移動速度を変化させることで、ノズルからのインクの飛翔
角度を変えることができ、用紙Sにコックリングが生じていてもインクの着弾位置ズレを
低減させることができる。また、キャリッジの移動速度を変えると、図8でのPTS信号
のパルスからラッチ信号LATのパルスまでの間隔が変わる。ラッチ信号LATのパルス
から駆動信号DRVの変化までの時間は固定なので、PTS信号のパルスからラッチ信号
LATのパルスまでの間隔が変わることでインクの吐出位置がずれる。これによりインク
の着弾位置が移動方向にずれるようになる。このように、インクの飛翔角度や、インクの
吐出位置を考慮して、着弾位置のずれが最小となるように印刷デューティに対応した移動
速度の変化量Hが設定される。
【0094】
なお、プリンター1のメモリー63には、突起242の位置及び間隔を示すデータと、
印刷デューティに対するキャリッジの速度の変化量Hとの対応関係を示すテーブルが記憶
されている。そしてコントローラー60は、このテーブルに基づいて、速度プロファイル
を変更し、図の破線のようにキャリッジ31の移動速度を変化させる。
【0095】
ところで、双方向印刷の場合、往路と復路では移動方向が逆になるため、2色以上のイ
ンクでドットを形成するとき、往路のパスで吐出されるインクの順序と、復路のパスで吐
出されるインクの順序とは逆になる。例えば、図6に示すヘッド41において、図の右側
へ移動する場合を往路、図の左側へ移動する場合を復路とすると、往路のパスでは、移動
方向の下流側(図の右側)のノズル列から順に、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラック
のインクが吐出される。一方、復路のパスでは、移動方向下流側(図の左側)のノズル列
から順に、ブラック、シアン、マゼンダ、イエローのインクが吐出される。
【0096】
このため、例えばブラックインクでブラックの罫線を印刷する場合、往路と復路におい
て、ブラックインクを吐出する際の用紙Sの状態(コックリングの状態)が異なることに
なる。
【0097】
そこで、本実施形態では、或るノズル列(例えばブラックインクノズル列K)を用いて
搬送方向に沿った罫線を印刷する場合、各パスにおいて罫線を印刷するノズル列よりも移
動方向の下流側の他のノズル列によって印刷される印刷デューティに応じて、各パスでの
キャリッジ31の移動速度(言い換えると、キャリッジ31による各ノズル列の移動速度
)を変化させるようにしている。
【0098】
<印刷時の処理について>
図23は、本実施形態における印刷時の処理について説明するためのフロー図である。
なお、コックリングが発生していない状態においてテストパターンの印刷、及び、その読
み取りによりBi−d補正値が予め定められており、プリンター1のメモリー63に記憶
されている。また、速度プロファイル、及び、印刷デューティとキャリッジ31の移動速
度の変化量(図22のH)との対応関係を示すテーブルも予めメモリー63に記憶されて
いることとする。
【0099】
コントローラー60は、まず、コンピューター110から印刷命令を受信すると(S1
01)、印刷データに含まれるコマンドにより双方向印刷を行うか否かを判断する(S1
02)。双方向印刷でない場合は(S102でNO)、Bi−d補正を適用せずに、単方
向印刷を実行する(S013)。
【0100】
ステップS102において双方向印刷を行うと判断した場合(S102でYES)、B
i−d補正を適用する(S104)。そして、続いて、印刷データに含まれるコマンドに
より印刷方法がバンド印刷であるかを判断する(S105)。バンド印刷で無い場合(S
105でNO:例えばインターレース印刷やオーバーラップ印刷の場合)には、往路と復
路とにおいてインクの着弾位置にズレが発生しても、バンド印刷の場合ほど位置ズレが目
立たないので、キャリッジ31を通常の速度プロファイル(図22の実線)で駆動させて
双方向印刷を実行する(S106)。
【0101】
ステップS105で印刷方法がバンド印刷であると判断した場合(S105でYES)
、コントローラー60は、印刷データに搬送方向に沿った罫線があるか否かを判断する(
S107)。搬送方向に沿った罫線がない場合(S107でNO)は、ステップS106
を実行する。
【0102】
搬送方向に沿った罫線があると判断した場合(S107でYES)は、コントローラー
60は、往路と復路のそれぞれのパス毎に、罫線を印刷するノズル列に対して移動方向下
流側のノズル列によって印刷される印刷デューティを算出する(S108)。そして、算
出した印刷デューティに応じて、メモリー63に記憶された印刷デューティとキャリッジ
31の移動速度の変化量Hとの対応テーブルに基づいて、キャリッジ31の移動速度を変
更させて印刷を実行する(S109)。
【0103】
例えば、ブラックインクノズル列Kでブラックの罫線を印刷する場合、往路では、復路
ではブラックインクノズル列が最も移動方向の上流側になる。よって、他のノズル列によ
って印刷される印刷デューティに応じて、キャリッジ31の移動速度を例えば図22のは
線のように変化させる。こうすることで、コックリングが生じていても狙いの位置にイン
クを着弾させることが可能である。
【0104】
一方、復路ではブラックインクノズル列が最も移動方向の下流側になる。つまり算出さ
れる印刷デューティがゼロになる。この場合には、用紙Sにブラックインクが最も先に吐
出されるので、コックリングを考慮する必要がない。よって、キャリッジ31の移動速度
を変更しなくてもよい。
【0105】
このように、本実施形態では、或るノズル列で搬送方向に沿った罫線を印刷する場合、
そのノズル列よりも移動方向の下流側に位置するノズル列によって印刷される印刷デュー
ティに応じてキャリッジ31による各ノズル列の移動速度を変化させている。これにより
、罫線を印刷する際の用紙Sの状態(コックリングの状態)に応じてインクの着弾位置を
補正することができるので、往路のパスと復路のパスでのインクの着弾位置の位置ズレを
小さくすることができる。よって、罫線の繋ぎ目部分の位置ズレを低減させることができ
る。
【0106】
また、本実施形態では、突起242間の領域ごとにキャリッジ31の移動速度を変化さ
せている。これにより各領域での位置ズレを低減させることができる。
【0107】
また、突起242間の領域を通るときの移動速度は突起242の上を通るときの移動速
度以下である。これにより、コックリングが発生していてもインクを目標の位置に着弾さ
せることができる。
【0108】
また、印刷デューティが大きいほどキャリッジ31による各ノズル列の移動速度の変化
量(図22のH)を大きくするようにしている。これにより、用紙Sの状態にかかわらず
に、インクを目標の位置に着弾させることができる。
【0109】
なお、本実施形態では、プラテン24に突起242と溝部243が設けられていたが、
突起242と溝部243が無い場合、印刷することによって用紙が浮き上がることがある
。この場合、印刷デューティが大きいほどギャップが小さくなる。この場合においても、
前述の実施形態と同様にして、パスの際に罫線を印刷するよりも前に印刷される印刷デュ
ーティに応じてキャリッジ31の移動速度を変化させることにより罫線の繋ぎ目部分の位
置ズレを低減させることができる。
【0110】
===第2実施形態===
第1実施形態では、パス毎の印刷デューティに応じてキャリッジ31の移動速度を変化
させていたが、第2実施形態では、移動方向に隣接する突起242間の領域のうちの罫線
を印刷する領域に印刷される印刷デューティに応じてキャリッジ31の移動速度を変化さ
せるようにしている。なお、第2実施形態においてプリンターの構成は第1実施形態と同
様であるので説明を省略する。
【0111】
図24は、第2実施形態における印刷時の処理について説明するためのフロー図である
。なお、図24においてステップS201〜S207は、図23のステップS101〜S
107とそれぞれ対応している。よって、説明を省略する。
【0112】
コントローラー60は、1つのノズル列で搬送方向に沿った罫線を印刷するものがある
と判断すると(S207でYES)、印刷データに基づいて、その罫線の印刷される突起
242間の領域を特定する(S208)。そして、各パスにおいて、罫線を印刷するノズ
ル列よりも移動方向の下流側のノズル列によって特定した領域に印刷される印刷デューテ
ィを算出する(S209)。すなわち、パスの際に、特定した領域に形成可能な総ドット
数に対して、実際に形成するドット数の割合を算出する。そして、算出した印刷デューテ
ィに応じて、キャリッジ31の移動速度を図22の破線のように変化させて印刷を実行す
る(S210)。
【0113】
このように第2実施形態では、移動方向に隣接する突起242間の各領域のうち罫線が
印刷される領域を特定し、罫線を印刷するノズル列よりも移動方向の下流側のノズル列に
よって特定した領域に印刷される印刷デューティに応じてキャリッジ31の移動速度(言
い換えると、キャリッジ31による各ノズル列の移動速度)を変化させるようにしている
。この場合、用紙Sのうちの罫線を印刷する領域の状態(コックリングの状態)をより正
確に反映させることができ、これにより罫線の繋ぎ目部分の位置ズレを低減させることが
できる。
【0114】
なお、第2実施形態の場合、特定した領域(すなわち、罫線を印刷する突起242間の
領域)のみにおいて、キャリッジ31の移動速度を変化させるようにしてもよい。
【0115】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容
易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、
その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含ま
れることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれる
ものである。
【0116】
<液体吐出装置について>
前述の実施形態では、液体吐出装置の一例としてインクジェットプリンターが説明され
ている。但し、液体吐出装置はインクジェットプリンターに限られるものではなく、イン
ク以外の他の流体(液体や、機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルのような流
状体)を噴射したり吐出したりする液体吐出装置に具現化することもできる。例えば、カ
ラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次
元造形機、気体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ
製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の
装置に、上述の実施形態と同様の技術を適用してもよい。また、これらの方法や製造方法
も応用範囲の範疇である。
【0117】
<インクについて>
前述の実施形態は、プリンターの実施形態だったので、インクをノズルから吐出してい
るが、このインクは水性でも良いし、油性でも良い。また、ノズルから吐出する液体は、
インクに限られるものではない。例えば、金属材料、有機材料(特に高分子材料)、磁性
材料、導電性材料、配線材料、成膜材料、電子インク、加工液、遺伝子溶液などを含む液
体(水も含む)をノズルから吐出しても良い。
【0118】
<ピエゾ素子について>
前述の実施形態では、ピエゾ素子を用いてインクを吐出していた。しかし、液体を吐出
する方式は、これに限られるものではない。例えば、熱によりノズル内に泡を発生させる
方式など、他の方式を用いてもよい。
【符号の説明】
【0119】
1 プリンター、20 搬送ユニット、
21 給紙ローラー、22 搬送モーター(PFモーター)、
23 搬送ローラー、24 プラテン、25 排紙ローラー、
30 キャリッジユニット、31 キャリッジ、
32 キャリッジモーター(CRモーター)、
33 キャリッジ軸(ガイド軸)、40 ヘッドユニット、
41 ヘッド、50 検出器群、51 リニア式エンコーダー、
52 ロータリー式エンコーダー、53 紙検出センサー、
54 光学センサー、60 コントローラー、
61 インターフェイス部、62 CPU、
63 メモリー、64 ユニット制御回路、
71 位置演算部、72 減算器、73 ゲイン、
74 速度演算部、75 減算器、
76A 比例要素、76B 積分要素、76C 微分要素、
77 加算器、78 PWM回路、
110 コンピューター、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送方向に並ぶ複数のノズルから構成されるノズル列が、前記搬送方向と交差する
移動方向に複数並んだ複数のノズル列と、
前記複数のノズル列を前記移動方向に移動させる移動機構と、
前記移動機構によって前記複数のノズル列を前記移動方向に往復移動させながら往路及
び復路の双方向に移動中の各ノズル列から液体を吐出させる液体吐出動作と、往路と復路
の各液体吐出動作の合間に前記搬送機構によってノズル列長さの搬送量にて前記媒体を前
記搬送方向に搬送させる搬送動作とを繰り返し実行するコントローラーであって、
或るノズル列によって前記搬送方向に沿った罫線を印刷する場合、前記罫線を印刷する
ときの前記液体吐出動作の際に、前記或るノズル列よりも前記移動方向の下流側の他のノ
ズル列によって印刷される印刷デューティに応じて、前記移動機構による前記複数のノズ
ル列の移動速度を変化させるコントローラーと、
を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記移動方向に並んで配置され、搬送中の前記媒体を支持する複数の支持部材を有し、
前記コントローラーは、各支持部材間の領域ごとに、前記印刷デューティに応じて、前
記複数のノズル列の移動速度を変化させる
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送方向に並ぶ複数のノズルから構成されるノズル列が、前記搬送方向と交差する
移動方向に複数並んだ複数のノズル列と、
前記複数のノズル列を前記移動方向に移動させる移動機構と、
前記移動方向に並んで配置され、搬送中の前記媒体を支持する複数の支持部材と、
前記移動機構によって前記複数のノズル列を前記移動方向に往復移動させながら往路及
び復路の双方向に移動中の各ノズル列から液体を吐出させる液体吐出動作と、往路と復路
の各液体吐出動作の合間に前記搬送機構によって前記ノズル列長さの搬送量にて前記媒体
を前記搬送方向に搬送させる搬送動作とを繰り返し実行するコントローラーであって、
或るノズル列によって前記搬送方向に沿った罫線を印刷する場合、前記罫線を印刷する
ときの前記液体吐出動作の際に、前記罫線の位置する支持部材間の領域に前記或るノズル
列よりも前記移動方向の下流側の他のノズル列によって印刷される印刷デューティに応じ
て、前記移動機構による前記複数のノズル列の移動速度を変化させるコントローラーと、
を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の液体吐出装置であって、
前記複数のノズル列が前記支持部材間の領域を通るときの移動速度は、前記支持部材の
上を通るときの移動速度以下である
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の液体吐出装置であって、
前記印刷デューティが大きいほど前記複数のノズル列の移動速度の変化量が大きい
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
媒体の搬送方向に並ぶ複数のノズルから構成されるノズル列が、前記搬送方向と交差す
る移動方向に複数並んだ複数のノズル列を、前記移動方向に往復移動させながら往路及び
復路の双方向に移動中の各ノズル列から液体を吐出させる液体吐出動作と、
往路と復路の各液体吐出動作の合間にノズル列長さの搬送量にて前記媒体を前記搬送方
向に搬送させる搬送動作と、を繰り返す液体吐出方法であって、
或るノズル列によって前記搬送方向に沿った罫線を印刷する場合、前記罫線を印刷する
ときの前記液体吐出動作の際に、前記或るノズル列よりも前記移動方向の下流側の他のノ
ズル列によって印刷される印刷デューティに応じて、前記複数のノズル列の移動速度を変
化させる、
ことを特徴とする液体吐出方法。
【請求項7】
媒体の搬送方向に並ぶ複数のノズルから構成されるノズル列が、前記搬送方向と交差す
る移動方向に複数並んだ複数のノズル列を、前記移動方向に往復移動させながら往路及び
復路の双方向に移動中の各ノズル列から液体を吐出させる液体吐出動作と、
往路と復路の各液体吐出動作の合間に、前記移動方向に並んで配置された複数の支持部
材によって前記媒体を支持しつつ前記ノズル列長さの搬送量にて前記媒体を前記搬送方向
に搬送させる搬送動作と、を繰り返す液体吐出方法であって、
或るノズル列によって前記搬送方向に沿った罫線を印刷する場合、前記罫線を印刷する
ときの前記液体吐出動作の際に、前記罫線の位置する支持部材間の領域に前記或るノズル
列よりも前記移動方向の下流側の他のノズル列によって印刷される印刷デューティに応じ
て、前記複数のノズル列の移動速度を変化させる、
ことを特徴とする液体吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−136519(P2011−136519A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299048(P2009−299048)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】