説明

液体吐出装置およびプログラム

【課題】熱によるリニアレギュレータの劣化を防止する。
【解決手段】液体吐出装置10は、電源部70と、複数のリニアレギュレータ72と、インク吐出ヘッド15の温度を測定する温度センサ60と、元電圧V1と複数の駆動部46のそれぞれに供給すべき駆動電圧V2とを算出する電圧算出部90と、電源部70、複数のリニアレギュレータ72、および複数の駆動部46を制御する制御装置24とを備え、制御装置24は、元電圧V1と、駆動電圧V2のうち最小値のものとの電圧差が所定の許容値以上であった場合に、元電圧V1の出力、駆動電圧V2の供給、および複数の駆動部46の駆動のうち少なくともいずれか1つを停止させるように、電源部70、複数のリニアレギュレータ72、および複数の駆動部46を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源部から出力された所定の元電圧を降下させて液体吐出ヘッドの複数の駆動部に供給される駆動電圧を得るようにした、液体吐出装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スイッチング電源装置から出力された元電圧を印刷ヘッド電圧制御回路によって降下させて複数の印刷ヘッドの駆動電圧を得るようにした印刷ヘッド電圧制御装置が記載されている。この先行技術では、印刷ヘッド電圧制御回路に安価な3端子レギュレータが用いられており、安定した出力を得るために、3端子レギュレータのIN端子とOUT端子との電圧差が固定電圧(例えば1.5V)以上に設定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−203018号公報(段落[0043]参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の先行技術では、3端子レギュレータのIN端子とOUT端子との電圧差が固定電圧(例えば1.5V)以上に設定されていたが、この電圧差が大きくなり過ぎると、3端子レギュレータにおける発熱量が大きくなり過ぎるため、3端子レギュレータの回路が劣化するおそれがあった。つまり、上記先行技術では、印刷ヘッド電圧制御回路が、駆動電圧テーブルに温度環境別に記憶された駆動電圧を目標として第2の電圧制御を行っていたが(段落[0052]参照)、目標とする駆動電圧が低くなり過ぎた場合には、降圧幅(レギュレート幅)が大きくなって3端子レギュレータの発熱量が大きくなり、その回路が熱で劣化するおそれがあった。
【0005】
本発明は、熱によるリニアレギュレータの劣化を防止できる、液体吐出装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る液体吐出装置は、複数の駆動部を有する1つの液体吐出ヘッド、または、前記複数の駆動部を構成する駆動部をそれぞれ1以上有する複数の液体吐出ヘッドと、所定の元電圧を出力するスイッチングレギュレータを有する電源部と、前記複数の駆動部のそれぞれに対応して設けられ、前記元電圧を、前記複数の駆動部のそれぞれの駆動電圧まで降下させて対応する前記複数の駆動部に供給する複数のリニアレギュレータと、前記液体吐出ヘッドの温度を測定するヘッド温度測定手段と、前記ヘッド温度測定手段が測定した温度に基づいて、前記元電圧と前記複数の駆動部のそれぞれに供給すべき前記駆動電圧とを算出する電圧算出手段と、前記電源部、前記複数のリニアレギュレータ、および前記複数の駆動部を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記電圧算出手段により算出された前記元電圧と、前記電圧算出手段により算出された前記駆動電圧のうち最小値のものとの電圧差が所定の許容値以上であった場合に、前記電源部による前記元電圧の出力、前記複数のリニアレギュレータによる前記駆動電圧の供給、および前記複数の駆動部の駆動のうち少なくともいずれか1つを停止させるように、前記電源部、前記複数のリニアレギュレータ、および前記複数の駆動部を制御することを特徴とする。
【0007】
この構成では、電圧算出手段により算出された元電圧と、電圧算出手段により算出された駆動電圧のうち最小値のものとが比較される。そして、これらの電圧差が所定の許容値以上であった場合に、電源部による元電圧の出力、複数のリニアレギュレータによる駆動電圧の供給、および複数の駆動部の駆動のうち少なくともいずれか1つが停止される。つまり、液体吐出ヘッドにおける液体の吐出動作が停止される。これにより、複数のリニアレギュレータのそれぞれに電流が流れなくなり、リニアレギュレータの発熱が抑制される。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る液体吐出装置のプログラムは、上記の液体吐出装置における前記制御手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記の構成によって、熱によるリニアレギュレータの劣化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るインクジェットプリンタの構成を示す概念図である。
【図2】インクジェットプリンタに用いられるインク吐出ヘッドを示す平面図である。
【図3】インク吐出ヘッドを示す部分拡大断面図である。
【図4】インクジェットプリンタの構成を示すブロック図である。
【図5】リニアレギュレータの構成を示すブロック図である。
【図6】基準駆動電圧と発熱許容電圧との関係を示すグラフである。
【図7】コンピュータ(制御手段)の制御動作を示すフロー図である。
【図8】元電圧と駆動電圧のうち最小値のものとの電圧差が許容値未満である状態を示すブロック図である。
【図9】元電圧と駆動電圧のうち最小値のものとの電圧差が許容値以上である状態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る液体吐出装置の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本発明に係る「液体吐出装置」をインクジェットプリンタに適用したものであり、「液体」としてインクを用いており、「液体吐出ヘッド」としてインク吐出ヘッドを用いている。また、「記録媒体」として用紙を用いている。
【0012】
図1は、実施形態に係るインクジェットプリンタ10の構成を示す概念図である。図2は、インクジェットプリンタ10に用いられるインク吐出ヘッド15を示す平面図であり、図3は、インク吐出ヘッド15を示す部分拡大断面図である。図4は、インクジェットプリンタ10の構成を示すブロック図である。
【0013】
図1に示すように、インクジェットプリンタ10は、筐体12と、4色(マゼンタ、シアン、イエロー、ブラック)のインクのそれぞれに対応する4つのヘッドユニット14a〜14dと、4色のインクのそれぞれを個別に収容する4つのインクタンク16a〜16dとを備えている。また、インクジェットプリンタ10は、用紙Pを収容する用紙カセット18と、用紙Pを搬送する用紙搬送機構22と、制御装置24とを備えている。
【0014】
図1に示すように、筐体12は、その内部に各種の機器を収容する空間Sを有しており、筐体12の上面には、筐体12の外部に排出された用紙Pを受ける排紙部12aが設けられている。また、空間Sの底部には、インクタンク16a〜16dが着脱自在に配置されており、空間Sの底部におけるインクタンク16a〜16dの上方には、用紙カセット18が着脱自在に配置されている。そして、空間Sの上部には、ヘッドユニット14a〜14dおよび制御装置24が配置されており、空間Sの上下方向中央部および上部には、用紙搬送機構22が配置されている。
【0015】
図1に示すように、用紙搬送機構22は、用紙Pを水平方向に向けて搬送する搬送ユニット28と、搬送ユニット28の搬送方向上流側に設けられ、用紙カセット18に収容された用紙Pを搬送ユニット28に供給する給紙ユニット30と、搬送ユニット28の搬送方向下流側に設けられ、用紙Pを排紙部12aに排出する排紙ユニット32とを有している。搬送ユニット28による用紙Pの搬送方向が「副走査方向」であり、用紙Pの搬送方向に対して直交し、且つ、図1の水平面に沿う方向が「主走査方向」である。そして、搬送ユニット28の上方には、複数のヘッドユニット14a〜14dが副走査方向に並んで配置されており、ヘッドユニット14a〜14dのそれぞれの下方に位置する領域が、インクが吐出される吐出領域Q1〜Q4となっている。
【0016】
図1に示すように、ヘッドユニット14a〜14dのそれぞれは、主走査方向に延びる略直方体状のヘッドホルダ40と、ヘッドホルダ40の下面に主走査方向に延びて設けられたインク吐出ヘッド15とを有している。つまり、インクジェットプリンタ10はライン式のプリンタである。図2および図3に示すように、インク吐出ヘッド15は、1つの流路ユニット44と、その上面に接合された複数(本実施形態では8つ)の駆動部46とを有している。
【0017】
図3に示すように、流路ユニット44は、複数の金属製プレートからなる積層体であり、最下層を構成するノズルプレート44aの下面が、複数のノズル20が形成されたノズル面20aとなっている。また、流路ユニット44の内部には、マニホールド50(図2)と、マニホールド50に連通する副マニホールド52と、副マニホールド52からアパーチャ54および圧力室56を経てノズル20に至る複数の個別インク流路58とが形成されている。図2に示すように、流路ユニット44の上面44bには、マニホールド50に連通する複数のインク供給口50aが形成されている。そして、図1に示すように、ヘッドホルダ40の内部におけるインク吐出ヘッド15の上方には、インク供給口50a(図2)に連通するリザーブタンク(図示省略)が配置されており、このリザーブタンクがチューブおよびポンプ(図示省略)を介してインクタンク16a〜16dのいずれかに接続されている。
【0018】
図2に示すように、複数の駆動部46のそれぞれは、平面視形状が略台形となるように形成されており、隣接する駆動部46どうしは、上底および下底が互いに逆方向に位置するように、主走査方向に並べて配置されている。図3に示すように、複数の駆動部46のそれぞれは、圧力室56に対応する複数のアクチュエータ47(図3中に格子線で示す。)を有しており、複数のアクチュエータ47のそれぞれは、圧電層47aと、これを挟むように配置された一対の電極47b,47cとを有している。そして、電極47b,47c間には、ドライバIC74(図4)から出力されたパルス電圧に基づいて、駆動電圧V2(例えば28V)およびグランド電圧(0V)が選択的に供給される。電極47b,47c間に駆動電圧V2が供給されると、圧電層47aが厚み方向と直交する方向に収縮され、圧電層47aの下方に位置する部分が圧力室56の内側に凸となるように変形される。これにより、圧力室56の容積が小さくなる。この状態が基本状態である。基本状態において、電極47b,47c間にグランド電圧が供給されると、圧電層47aの収縮状態が解除され、圧力室56の容積がもとの大きさに戻される。つまり、圧力室56の容積が大きくなる。したがって、基本状態を保持しつつ、電極47b,47c間にグランド電圧を瞬間的に供給すると、グランド電圧が供給されるタイミングで圧力室56の容積が変動され、圧力室56内のインクに吐出エネルギが付与される。この吐出エネルギによってノズル20からインクが吐出される。
【0019】
図2に示すように、複数の駆動部46のそれぞれの近傍に位置する部分、または、駆動部46の一部(本実施形態では流路ユニット44の上面44b)には、インク吐出ヘッド15の温度を検出する「ヘッド温度測定手段」としての温度センサ60が設けられている。そして、図4に示すように、これらの温度センサ60が制御装置24に対して電気的に接続されている。したがって、制御装置24は、温度センサ60の出力に基づいて、インク吐出ヘッド15の温度を駆動部46ごとに把握できる。なお、駆動部46と温度センサ60とは、必ずしも1対1で対応している必要はなく、複数の駆動部46に対して共通の1つの温度センサ60が対応していてもよい。この場合でも、制御装置24は、温度センサ60からの距離等に基づいて、複数の駆動部46のそれぞれの温度を把握できる。
【0020】
図4に示すように、インクジェットプリンタ10は、さらに、電源部70と、複数の駆動部46のそれぞれに対応して設けられた複数のリニアレギュレータ72と、複数の駆動部46のそれぞれに対応して設けられた複数のドライバIC74とを有している。電源部70から出力された元電圧V1は、複数のリニアレギュレータ72で対応する複数の駆動部46の駆動電圧V2まで降下され、この駆動電圧V2がドライバIC74から対応する駆動部46にパルス電圧として供給される。
【0021】
図4に示すように、電源部70は、所定の元電圧V1を出力するスイッチングレギュレータ76を有している。スイッチングレギュレータ76は、入力電圧を高速にスイッチングしてパルスに変換し、安定した直流の元電圧V1を得るものであり、本実施形態では、DC/DCコンバータが用いられている。DC/DCコンバータの方式は、特に限定されるものではなく、降圧(ステップダウン)、昇圧(ステップアップ)および昇降圧のいずれの方式が用いられてもよい。また、スイッチングレギュレータ76の種類は、DC/DCコンバータに限定されるものではなく、スイッチトキャパシタ(降圧)や、チャージポンプ(昇圧)等が用いられてもよい。図4に示すように、電源部70には、制御装置24の第1制御部80が接続されており、元電圧V1の大きさや、動作のON/OFFは、第1制御部80によって制御される。
【0022】
図4に示すように、リニアレギュレータ72は、元電圧V1を抵抗などにより降圧させて、安定化した駆動電圧V2を出力するものであり、本実施形態では、3端子レギュレータが用いられている。リニアレギュレータ72の種類は、3端子レギュレータに限定されるものではなく、シャントレギュレータ等が用いられてもよい。図5に示すように、リニアレギュレータ72の入力端子72aに元電圧V1が供給されると、当該元電圧V1が対応する駆動部46の駆動電圧V2まで降下され、出力端子72bから出力される。図4に示すように、複数のリニアレギュレータ72のそれぞれには、制御装置24の第1制御部80が接続されており、リニアレギュレータ72のレギュレート幅の大きさや、動作のON/OFFは、第1制御部80によって制御される。なお、本実施形態では、電源部70から出力された元電圧V1が、降圧または昇圧されることなく、そのまま複数のリニアレギュレータ72に供給される。また、複数のリニアレギュレータ72から出力された駆動電圧V2が、降圧または昇圧されることなく、そのまま複数のドライバIC74に供給される。
【0023】
図5に示すように、リニアレギュレータ72において安定した駆動電圧V2を得るためには、元電圧V1と駆動電圧V2との電圧差(V1−V2)を所定の固定電圧Vs以上(V1−V2≧Vs)に設定する必要がある。本実施形態では、固定電圧Vsが1.5Vに設定されており、元電圧V1は、基準駆動電圧V2max(例えば28V)より固定電圧Vs(1.5V)だけ高い電圧(29.5V)に設定されている。基準駆動電圧V2maxは、設計により予め定められた駆動電圧V2の基準値である。一方、入力端子72aと出力端子72bとの間の電圧差(V1−V2)が大きくなり過ぎると、リニアレギュレータ72における発熱量が大きくなり過ぎるため、リニアレギュレータ72の回路が劣化するおそれがある。そのため、図6に示すように、リニアレギュレータ72の駆動電圧V2については、基準駆動電圧V2max(28V)との関係で発熱許容電圧Vt(例えば1.5V)が設定されており、基準駆動電圧V2max(28V)から発熱許容電圧Vt(1.5V)を引いた値が駆動電圧の許容最小値V2min(26.5V)となっている。つまり、駆動電圧V2は、基準駆動電圧V2max(28V)と許容最小値V2min(26.5V)との間で設定される必要がある。なお、この発熱許容電圧Vtの設定には、図6に示すように基準駆動電圧V2maxが高くなるとリニアレギュレータ72を流れる電流が大きくなり、発熱量が増えることが反映されている。
【0024】
図4に示すように、ドライバIC74は、駆動部46に接続されたフレキシブルプリント配線基板(図示省略)に搭載されており、複数のドライバIC74のそれぞれには、制御装置24の第2制御部82が接続されている。ドライバIC74では、リニアレギュレータ72から供給された駆動電圧V2と、第2制御部82から供給された印刷データとに基づいてパルス電圧が生成され、このパルス電圧が対応する駆動部46の複数のアクチュエータ47(図3)のそれぞれに供給される。ドライバIC74の動作のON/OFFは、第2制御部82によって制御される。
【0025】
図4に示すように、制御装置24は、図示しないCPUと、CPUが実行するプログラムや各種のデータを書き替え可能に記憶する不揮発メモリと、プログラムの実行時にデータを一時的に記憶するRAMとを有するコンピュータである。そして、制御装置24がプログラムに従って動作することによって、画像データ記憶部84、吐出情報記憶部86、「ヘッド温度予測手段」としての予測温度算出部88、「電圧算出手段」としての電圧算出部90、第1制御部80および第2制御部82が実現される。つまり、第1制御部80および第2制御部82等を有する制御装置24が各種の制御を行う「制御手段」として機能する。
【0026】
図4に示すように、画像データ記憶部84は、パーソナルコンピュータ等(図示省略)から送信されてきた画像データを記憶するものである。画像データは、用紙P(図1)の印刷領域に対応する各画素について、色の濃度値を有している。第2制御部82は、画像データ記憶部84に記憶された画像データに基づいて印刷データを生成するとともに、当該印刷データに基づいてドライバIC74を駆動する電圧波形を供給するものである。印刷データは、各画素について、色の濃度値に応じて設定された吐出量データを有しており、当該吐出量データを含む吐出情報が第2制御部82から吐出情報記憶部86に供給される。また、第2制御部82は、ドライバIC74の動作のON/OFFを制御する機能を有している。
【0027】
図4に示すように、吐出情報記憶部86は、第2制御部82から与えられたインクの吐出情報を記憶するものである。「ヘッド温度予測手段」としての予測温度算出部88は、インク吐出ヘッド15の将来の温度を予測するものである。予測温度算出部88は、温度センサ60で測定された温度と、インクの吐出情報から定まる温度上昇の程度とに基づいて、インク吐出ヘッド15の将来の温度を算出する。例えば、吐出情報に含まれる吐出量データに基づいてインクの吐出量が多くなると予測できる場合には、予測温度算出部88は、インク吐出ヘッド15の温度がインクの吐出量に応じて高くなると判断して、インク吐出ヘッド15の将来の温度を高く算出する。
【0028】
図4に示すように、「電圧算出手段」としての電圧算出部90は、「ヘッド温度測定手段」としての温度センサ60で測定された温度、または、「ヘッド温度予測手段」としての予測温度算出部88で算出された温度に基づいて、元電圧V1と、複数の駆動部46のそれぞれに供給すべき駆動電圧V2とを算出するものである。図5に示すように、本実施形態では、基準駆動電圧V2maxを28Vに設定したとすると、固定電圧Vsが1.5Vに設定されているので、電圧算出部90では、元電圧V1が「基準駆動電圧V2max+固定電圧Vs」の式に従って29.5Vと算出される。図3に示すように、本実施形態のアクチュエータ47は、圧電式アクチュエータであり、圧電層47aの温度が低いほど同じ変形をさせるのに高い駆動電圧V2を供給する必要がある。そして、インク吐出ヘッド15の周囲の外気温度が低ければ全てのリニアレギュレータ72における駆動電圧V2が高くなるので、先に述べたように全ての駆動電圧V2を基準駆動電圧V2maxと許容最小値V2minとの間で設定するためには、元電圧V1を高くする必要がある。温度センサ60で測定された温度、または、予測温度算出部88で算出された温度とリニアレギュレータ72における駆動電圧V2との関係は、予め制御装置24内に記憶されており、電圧算出部90は、それぞれのリニアレギュレータ72における駆動電圧V2のうち最大値に合わせて元電圧V1を算出する。具体的には、リニアレギュレータ72における駆動電圧V2のうち最大値に固定電圧Vs(1.5V)を加えたものが元電圧V1となる。なお、リニアレギュレータ72の特性のばらつきなどを考慮して、それぞれのリニアレギュレータ72について、温度と駆動電圧V2との関係を記憶しておき、リニアレギュレータ72ごとに駆動電圧V2および元電圧V1を算出してもよい。
【0029】
それぞれのリニアレギュレータ72における駆動電圧V2は、インク吐出ヘッド15の温度に応じて基準駆動電圧V2maxから補正された値として算出される。つまり、インク吐出ヘッド15の温度が上昇すると、同じ駆動電圧V2を供給したとしてもノズル20から吐出されるインクの量が多くなる。そのため、インクの吐出量を最適化するために、駆動電圧V2は、基準駆動電圧V2max(28V)よりも低くなるようにインク吐出ヘッド15の温度に応じて算出(補正)される。なお、インク吐出ヘッド15の温度がインクの吐出履歴等に従って低くなることはない。
【0030】
図4に示すように、第1制御部80は、電源部70から出力される元電圧V1の大きさや、電源部70の動作のON/OFFを制御するとともに、リニアレギュレータ72のレギュレート幅の大きさや、その動作のON/OFFを制御するものである。制御装置24は、電圧算出部90により算出された元電圧V1と、電圧算出部90により算出された駆動電圧V2のうち最小値のものとの電圧差(V1−V2)が所定の許容値以上であった場合に、電源部70による元電圧V1の出力、複数のリニアレギュレータ72による駆動電圧V2の供給および複数の駆動部46の駆動のうち少なくともいずれか1つを停止させるように、第1制御部80および第2制御部82によって電源部70、複数のリニアレギュレータ72および複数の駆動部46を制御する。図5に示すように、本実施形態では、基準駆動電圧V2maxが28Vに設定されており、固定電圧Vsが1.5Vに設定されており、元電圧V1は、基準駆動電圧V2max(28V)より固定電圧Vs(1.5V)だけ高い29.5Vに設定されている。また、図6のグラフより、発熱許容電圧Vtは1.5Vに設定されている。したがって、駆動電圧の許容最小値V2minは26.5Vであり、上記所定の許容値すなわち許容される電圧差(V1−V2min)は3Vである。
【0031】
図7は、「制御手段」として機能する制御装置24の制御動作を示すフロー図である。図8は、元電圧V1と駆動電圧V2のうち最小値のものとの電圧差が許容値未満である状態を示すブロック図であり、図9は、元電圧V1と駆動電圧V2のうち最小値のものとの電圧差が許容値以上である状態を示すブロック図である。なお、図8および図9における電源部70に記載された数値は元電圧V1の値であり、リニアレギュレータ72に記載された数値は駆動電圧V2の値である。
【0032】
図7に示すように、制御装置24の制御動作が実行されると、まず、ステップS1において、インクジェットプリンタ10が印刷待機状態にされる。印刷待機状態は、第2制御部82(図4)からドライバIC74(図4)に供給される印刷データに基づいて印刷動作の実行が可能な状態である。インクジェットプリンタ10が印刷待機状態になると、ステップS3において、温度センサ60でインク吐出ヘッド15の温度が測定され、または、予測温度算出部88でインク吐出ヘッド15の温度が予測される。そして、ステップS5において、元電圧V1と駆動電圧V2とが電圧算出部90で算出される。
【0033】
ステップS7では、元電圧V1と、駆動電圧V2のうち最小値のものとの電圧差(V1−V2)が所定の許容値(3V)以上であるか否かが判断される。そして、「NO」すなわち許容値以上でないと判断されると、ステップS9において、印刷データに基づく通常の印刷動作が実行される。図8の例では、元電圧V1(29.5V)と駆動電圧V2のうち最小値のもの(26.6V)との電圧差(V1−V2)が2.9Vであり、ステップS7において「NO」と判断される。図8に示すように、ステップS9の印刷動作では、ステップS5で算出された元電圧V1(29.5V)を出力するように電源部70が動作し、ステップS5で算出された駆動電圧V2を出力するように複数のリニアレギュレータ72のそれぞれが動作する。そして、印刷動作が終了すると、ステップS11において、インクジェットプリンタ10の動作を終了するか否かが判断され、「YES」と判断されると終了し、「NO」と判断されるとステップS1に戻る。
【0034】
一方、ステップS7において、「YES」すなわち許容値(3V)以上であると判断されると、ステップS13において、印刷動作の停止処理が実行される。つまり、図4に示すように、電源部70による元電圧V1の出力、複数のリニアレギュレータ72による駆動電圧V2の供給および複数の駆動部46の駆動のうち少なくともいずれか1つを停止させるように、制御装置24の第1制御部80および第2制御部82によって電源部70、複数のリニアレギュレータ72および複数の駆動部46が制御される。図9の例では、元電圧V1(29.5V)と駆動電圧V2のうち最小値のもの(26.3V)との電圧差(V1−V2)が3.2Vであり、ステップS7において「YES」と判断される。
【0035】
ステップS3において、予測温度算出部88でインク吐出ヘッド15の温度が予測された場合であって、ステップS7において、「YES」すなわち許容値(3V)以上であると判断された場合には、ステップS13において、その予測対象となる記録媒体P(図1)に対するインクの吐出を開始するより前に、電源部70による元電圧V1の出力、複数のリニアレギュレータ72による駆動電圧V2の供給および複数の駆動部46の駆動のうち少なくともいずれか1つを停止させるように、制御装置24の第1制御部80および第2制御部82によって電源部70、複数のリニアレギュレータ72および複数の駆動部46が制御される。つまり、この場合には、用紙Pを単位として、駆動電圧V2が監視され、電圧差(V1−V2)が許容値(3V)以上である場合には、当該用紙Pに対する印刷を開始する前に印刷動作が停止される。
【0036】
印刷動作の停止後は、ステップS15において、温度センサ60でインク吐出ヘッド15の温度が測定され、または、予測温度算出部88でインク吐出ヘッド15の温度が予測される。続いて、ステップS17において、元電圧V1と駆動電圧V2とが電圧算出部90で算出され、ステップS19において、元電圧V1と、駆動電圧V2のうち最小値のものとの電圧差(V1−V2)が所定の許容値(3V)以上であるか否かが判断される。そして、「YES」すなわち許容値(3V)以上であると判断されると、ステップS15に戻って停止状態が継続され、「NO」すなわち許容値(3V)以上でないと判断されると、ステップS21に進む。
【0037】
ステップS21では、制御装置24によって所定の待機時間が経過したか否かが判断され、「NO」と判断されるとステップS15に戻り、所定の待機時間が経過するまで待機される。一方、「YES」と判断されると、ステップS23で印刷動作の再開処理が実行された後、ステップS1に戻る。印刷動作の再開処理では、電源部70による元電圧V1の出力、複数のリニアレギュレータ72による駆動電圧V2の供給、および複数の駆動部46の駆動のうち停止しているものを再開させるように、制御装置24の第1制御部80および第2制御部82によって電源部70、複数のリニアレギュレータ72および複数の駆動部46が制御される。
【0038】
図4に示すように、本実施形態では、元電圧V1と駆動電圧V2のうち最小値のものとの電圧差(V1−V2)が所定の許容値(3V)以上であるときに、電源部70による元電圧V1の出力、複数のリニアレギュレータ72による駆動電圧V2の供給および複数の駆動部46の駆動のうち少なくともいずれか1つを停止させるようにしているので、複数のリニアレギュレータ72のそれぞれにおける熱の発生を抑制でき、リニアレギュレータ72の劣化を防止できる。
【0039】
図7に示すように、本実施形態では、制御装置24(図4)が、上記電圧差(V1−V2)が許容値(3V)以上となってから再び許容値(3V)未満となったことを検知する「検知手段」として機能する(ステップS15〜S19)ので、ステップS21〜S23における印刷動作の再開処理を、自動で開始させることができる。
【0040】
図7に示すように、本実施形態では、ステップS21において、上記電圧差(V1−V2)が許容値(3V)以上となってから再び許容値(3V)未満となったことを制御装置24(図4)が検知したとき、当該検知の時点より所定の待機時間を経過した後に、電源部70による元電圧V1の出力、複数のリニアレギュレータ72による駆動電圧V2の供給、および複数の駆動部46の駆動のうち停止しているものを再開させるようにしているので、駆動電圧V2の供給の停止および再開が短時間の間に繰り返されるのを防止でき、動作の安定性を確保することができる。
【0041】
図7に示すように、本実施形態では、ステップS3において、予測温度算出部88でインク吐出ヘッド15の温度が予測された場合であって、且つ、ステップS7において、「YES」すなわち許容値(3V)以上であると判断された場合に、その対象となる記録媒体P(図1)に対するインクの吐出を開始するより前に、電源部70による元電圧V1の出力等が停止される。したがって、当該用紙Pに対する印刷の最中にインクの吐出が停止されるのを防止でき、用紙Pおよびインクが無駄に消費されるのを防止できる。また、印刷動作が再開されるときには、途中まで印刷された用紙Pを除去する手間を省くことができ、速やかに再開することができる。
【0042】
図4に示すように、「制御手段」としての制御装置24は、電源部70および複数のリニアレギュレータ72を制御する第1制御部80と、複数の駆動部46の駆動を制御する第2制御部82とを有するので、第1制御部80と第2制御部82とを別々に配置することができ、これらの配置の自由度を高めることができる。
【0043】
なお、図2に示すように、上述の実施形態では、ヘッドユニット14a〜14dのそれぞれが、複数(例えば8個)の駆動部46を有する1つのインク吐出ヘッド15を備えているが、他の実施形態では、ヘッドユニット14a〜14dのそれぞれが、上記の複数(例えば8個)の駆動部46を構成する駆動部46をそれぞれ1以上有する複数の液体吐出ヘッド15を備えていてもよい。例えば、ヘッドユニット14a〜14dのそれぞれは、上述の8個の駆動部46を構成する駆動部46を1個ずつ有する8個のインク吐出ヘッド15、当該駆動部46を2個ずつ有する4個のインク吐出ヘッド15、および当該駆動部46を4個ずつ有する2個のインク吐出ヘッド15等を備えていてもよい。
【0044】
また、図4に示すように、上述の実施形態では、制御装置24が第1制御部80および第2制御部82を有しているが、他の実施形態では、第1制御部80および第2制御部82が1つに統合されてもよい。
【0045】
また、図7に示すように、上述の実施形態では、印刷待機時に実行されるステップS7において印刷可否の判断が行われているが、他の実施形態では、印刷動作の最中に印刷可否の判断が行われてもよい。さらに、印刷動作の最中に、印刷可否の判断と停止処理から再開処理(図7)までの制御動作とが一連に行われてもよい。
【0046】
そして、図1に示すように、上述の実施形態では、本発明を、インクを吐出するインクジェットプリンタに適用しているが、他の実施形態では、本発明を、他の液体を吐出する液体吐出装置に適用してもよい。また、液体吐出方式としては、アクチュエータ方式に代えて、発熱素子で液体の体積を膨張させたときの圧力を利用して吐出させる方式を用いてもよい。
【符号の説明】
【0047】
V1… 元電圧
V2… 駆動電圧
10… インクジェットプリンタ(液体吐出装置)
15… インク吐出ヘッド(液体吐出ヘッド)
24… 制御装置(制御手段)
46… 駆動部
60… 温度センサ(ヘッド温度測定手段)
70… 電源部
72… リニアレギュレータ
90… 電圧算出部(電圧算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の駆動部を有する1つの液体吐出ヘッド、または、前記複数の駆動部を構成する駆動部をそれぞれ1以上有する複数の液体吐出ヘッドと、
所定の元電圧を出力するスイッチングレギュレータを有する電源部と、
前記複数の駆動部のそれぞれに対応して設けられ、前記元電圧を、前記複数の駆動部のそれぞれの駆動電圧まで降下させて対応する前記複数の駆動部に供給する複数のリニアレギュレータと、
前記液体吐出ヘッドの温度を測定するヘッド温度測定手段と、
前記ヘッド温度測定手段が測定した温度に基づいて、前記元電圧と前記複数の駆動部のそれぞれに供給すべき前記駆動電圧とを算出する電圧算出手段と、
前記電源部、前記複数のリニアレギュレータ、および前記複数の駆動部を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記電圧算出手段により算出された前記元電圧と、前記電圧算出手段により算出された前記駆動電圧のうち最小値のものとの電圧差が所定の許容値以上であった場合に、前記電源部による前記元電圧の出力、前記複数のリニアレギュレータによる前記駆動電圧の供給、および前記複数の駆動部の駆動のうち少なくともいずれか1つを停止させるように、前記電源部、前記複数のリニアレギュレータ、および前記複数の駆動部を制御する、液体吐出装置。
【請求項2】
前記電圧差が前記許容値以上となってから再び前記許容値未満となったことを検知する検知手段を備え、
前記制御手段は、
前記電圧差が再び前記許容値未満となったことを前記検知手段が検知したとき、前記電源部による前記元電圧の出力、前記複数のリニアレギュレータによる前記駆動電圧の供給、および前記複数の駆動部の駆動のうち停止しているものを再開させる、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記電圧差が再び前記許容値未満となったことを前記検知手段が検知したとき、当該検知の時点より所定の待機時間を経過した後に、前記電源部による前記元電圧の出力、前記複数のリニアレギュレータによる前記駆動電圧の供給、および前記複数の駆動部の駆動のうち停止しているものを再開させる、請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
記録媒体に対して吐出される液体の吐出情報に基づいて、前記1または複数の液体吐出ヘッドの温度変動を予測するヘッド温度予測手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記ヘッド温度予測手段の出力に基づいて前記電圧差が前記許容値以上になると予測したとき、その予測対象となる記録媒体に対する液体の吐出を開始するより前に、前記電源部による前記元電圧の出力、前記複数のリニアレギュレータによる前記駆動電圧の供給、および前記複数の駆動部の駆動のうち少なくともいずれか1つを停止させるように、前記電源部、前記複数のリニアレギュレータ、および前記複数の駆動部を制御する、請求項1ないし3のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記電源部および前記複数のリニアレギュレータを制御する第1制御部と、前記複数の駆動部の駆動を制御する第2制御部とを有する、請求項1ないし4のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の液体吐出装置における前記制御手段としてコンピュータを機能させる、液体吐出装置のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−49254(P2013−49254A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189939(P2011−189939)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】