説明

液体吐出装置及び液体吐出方法

【課題】低コストの吐出検査装置を提供すること。
【解決手段】ノズルから液体を吐出するヘッドと、前記ノズルと所定間隔あけて対向する液体吸収部材と、前記液体吸収部材を所定電位にする電源と、前記ノズルからの液体の吐出によって生じた前記液体吸収部材の電位変化を検出し、前記液体吸収部材の電位変化に基づき、前記ヘッドにおいて前記液体を正常に吐出しないノズルを判定する判定部と、非印刷時に前記ノズルから前記液体が打ち捨てられる前記液体吸収部材を収容するキャップ部と、を備える吐出検査装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出検査装置及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出して画像を形成するプリンターにおいて、ノズルからインクが吐出されず、所望の画像が得られないことがある。このような不具合を検知するために、ノズルからインクが適切に吐出されているか否かを判定するためのセンサが開発されている。特許文献1には、プリント回路基板とインク滴感知要素とを一体に構成したセンサが公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−53949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクがノズルから吐出されているか否かを判定する手法として、ノズルと検出用電極に電位差を与え、ノズルからの液体の吐出による検出用電極の電位変化を検出する方法がある。このような検出手法を用いる吐出検査装置はプリンター内に搭載されるが、製品として低コスト化されることが望ましい。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、低コストの吐出検査装置を提供できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、
ノズルから液体を吐出するヘッドと、
前記ノズルと所定間隔あけて対向する液体吸収部材と、
前記液体吸収部材を所定電位にする電源と、
前記ノズルからの液体の吐出によって生じた前記液体吸収部材の電位変化を検出し、前記液体吸収部材の電位変化に基づき、前記ヘッドにおいて前記液体を正常に吐出しないノズルを判定する判定部と、
非印刷時に前記ノズルから前記液体が打ち捨てられる前記液体吸収部材を収容するキャップ部と、
を備える吐出検査装置である。
【0006】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1Aは、プリンター1とコンピューターCPとを有する印刷システムを説明するブロック図であり、図1Bは、プリンター1の斜視図である。
【図2】図2Aは、ヘッド31の断面図であり、図2Bは、ノズルプレート33bに設けられたノズル(Nz)の配列を示す図である。
【図3】図3A〜図3Cは、回復動作時のヘッド31とキャップ機構60との位置関係を示す図である。
【図4】キャップ61を上方から見た図である。
【図5】図5Aは、ドット抜け検出部50を説明する図であり、図5Bは、検出制御部57を説明するブロック図である。
【図6】図6Aは、吐出検査時に用いる駆動信号COMの一例を示す図であり、図6Bは、駆動信号COMによってノズルからインクが吐出された場合に増幅器55から出力される電圧信号SGを説明する図であり、図6Cは、複数のノズル(#1〜#10)の吐出検査結果である電圧信号SGを示す図である。
【図7】本実施形態におけるキャップ61の横断面図である。
【図8】他の実施形態におけるキャップ61の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0009】
ノズルから液体を吐出するヘッドと、
前記ノズルと所定間隔あけて対向する液体吸収部材と、
前記液体吸収部材を所定電位にする電源と、
前記ノズルからの液体の吐出によって生じた前記液体吸収部材の電位変化を検出し、前記液体吸収部材の電位変化に基づき、前記ヘッドにおいて前記液体を正常に吐出しないノズルを判定する判定部と、
非印刷時に前記ノズルから前記液体が打ち捨てられる前記液体吸収部材を収容するキャップ部と、
を備える吐出検査装置。
【0010】
このように、非印刷時に液体吸収部材には液体が打ち捨てられる。そうすると、液体吸収部材は、液体により導電性となり電極のようにふるまうことができる。これにより、液体吸収部材を検出用電極の代用とすることができるので、検出用電極を設ける必要がなく、吐出検査装置を低コスト化することができる。
【0011】
かかる吐出検査装置であって、前記キャップ部において、前記判定部は内部に前記液体が到達しないように封止されることが望ましい。このように、判定部を絶縁体で封止してキャップ内に配置されるので、検出用電極としての液体吸収部材と判定部との距離を近くすることができる。よって、液体吸収部材に印加する電圧を低くすることができるので、電源部も小型化することができ、吐出検査装置を小型化することができる。
【0012】
また、前記キャップ部において、前記判定部の上部に前記液体吸収部材が配置されることが望ましい。また、前記液体は導電性の液体であることが望ましい。このようにすることで、ヘッドから吐出されるインクが判定部の上部の液体吸収部材に吸収される。そして、導電性の液体により、液体吸収部材を検出用電極として使用することができる。
【0013】
また、前記判定部は回路と基板が一体で形成された回路基板であり、前記回路基板は、前記基板側が前記ヘッドに対向する側になるように、前記キャップ部に収容されることが望ましい。このようにすることで、基板側に液体吸収部材を配置して、吐出検査装置をコンパクトに構成することができる。
【0014】
また、前記吐出しないノズルの判定は、静電容量の変化の信号に基づいて行われることが望ましい。このようにすることによって、ヘッドから液体が吐出されたときにおいて変化する静電容量に基づいて、液体を正常に吐出しないノズルを判定することができる。
【0015】
また、前記液体を正常に吐出しないとは、前記液体の吐出量が規定量よりも少ない場合を含む。このようにすることで、本来吐出されるべき液体の量よりも少ない量しか吐出できない場合についても検出することができる。
【0016】
ノズルから液体を吐出するヘッドと、
前記ノズルと所定間隔あけて対向する液体吸収部材と、
前記液体吸収部材を所定電位にする電源と、
前記ノズルからの液体の吐出によって生じた前記液体吸収部材の電位変化を検出し、前記液体吸収部材の電位変化に基づき、前記ヘッドにおいて前記液体を正常に吐出しないノズルを判定する判定部と、
被印刷時に前記ヘッドから前記液体が打ち捨てられるキャップ部であって、前記液体吸収部材と前記判定部と、を収容するキャップ部と、
を備える印刷装置。
このようにすることで、低コスト化された吐出検査装置を搭載した印刷装置を提供することができる。
【0017】
===インクジェットプリンターについて===
印刷装置として、インクジェットプリンター(以下、プリンター1)を例に挙げて実施形態を説明する。
【0018】
図1Aは、プリンター1とコンピューターCPとを有する印刷システムを説明するブロック図であり、図1Bは、プリンター1の斜視図である。プリンター1は、用紙、布、フィルム等の媒体に向けて、液体の一種であるインクを吐出する。コンピューターCPは、プリンター1と通信可能に接続されている。プリンター1に画像を印刷させるため、コンピューターCPは、その画像に応じた印刷データをプリンター1に送信する。プリンター1は、用紙搬送機構10、キャリッジ移動機構20、ヘッドユニット30、駆動信号生成回路40、ドット抜け検出部50、キャップ機構60、検出器群70、及び、コントローラー80を有する。
【0019】
用紙搬送機構10は、用紙を搬送方向に搬送させる。キャリッジ移動機構20は、ヘッドユニット30が取り付けられたキャリッジ21を移動方向(搬送方向と交差する方向)に移動させる。
ヘッドユニット30はヘッド31とヘッド制御部HCとを有する。ヘッド31はインクを用紙に向けて吐出させる。ヘッド制御部HCは、プリンター1のコントローラー80からのヘッド制御信号に基づき、ヘッド31を制御する。
【0020】
図2Aは、ヘッド31の断面図である。ヘッド31は、ケース32と、流路ユニット33と、ピエゾ素子ユニット34とを有する。ケース32は、ピエゾ素子PZTなどを収容して固定するための部材であり、例えばエポキシ樹脂等の非導電性の樹脂材によって作製される。
【0021】
流路ユニット33は、流路形成基板33aと、ノズルプレート33bと、振動板33cとを有する。流路形成基板33aにおける一方の表面にはノズルプレート33bが接合され、他方の表面には振動板33cが接合されている。流路形成基板33aには、圧力室331、インク供給路332、及び、共通インク室333となる空部や溝が形成されている。この流路形成基板33aは、例えばシリコン基板によって作製されている。ノズルプレート33bには、複数のノズルNzからなるノズル群が設けられている。このノズルプレート33bは、導電性を有する板状の部材、例えば薄手の金属板によって作製されている。また、ノズルプレート33bは、グランド線に接続されてグランド電位になっている。振動板33cにおける各圧力室331に対応する部分にはダイヤフラム部334が設けられている。このダイヤフラム部334はピエゾ素子PZTによって変形し、圧力室331の容積を変化させる。なお、振動板33cや接着層等が介在していることで、ピエゾ素子PZTとノズルプレート33bとは電気的に絶縁された状態になっている。
【0022】
ピエゾ素子ユニット34は、ピエゾ素子群341と、固定板342とを有する。ピエゾ素子群341は櫛歯状をしている。そして、櫛歯の1つ1つがピエゾ素子PZTである。各ピエゾ素子PZTの先端面は、対応するダイヤフラム部334が有する島部335に接着される。固定板342は、ピエゾ素子群341を支持するとともに、ケース32に対する取り付け部となる。ピエゾ素子PZTは、電気機械変換素子の一種であり、駆動信号COMが印加されると長手方向に伸縮し、圧力室331内の液体に圧力変化を与える。圧力室331内のインクには、圧力室331の容積の変化に起因して圧力変化が生じる。この圧力変化を利用して、ノズルNzからインク滴を吐出させることができる。
【0023】
図2Bは、ノズルプレート33bに設けられたノズル(Nz)の配列を示す図である。ノズルプレートには用紙の搬送方向に沿って180dpiの間隔で180個のノズル(#1〜#180)が並んだノズル列が複数設けられている。各ノズル列はそれぞれ異なる色のインクを吐出し、このノズルプレート33bには4つのノズル列が設けられている。具体的には、ブラックインクノズル列K、シアンインクノズル列C、マゼンタインクノズル列M、イエローインクノズル列Yである。
【0024】
駆動信号生成回路40は、駆動信号COMを生成する。駆動信号COMがピエゾ素子PZTに印加されると、ピエゾ素子は伸縮し、各ノズルNzに対応する圧力室331の容積が変化する。そのため、駆動信号COMは、印刷時やドット抜け検査時(後述)、ドット抜けするノズルNzの回復動作であるフラッシング時などに、ヘッド31に印加される。
【0025】
ドット抜け検出部50は、各ノズルNzからインクが吐出されているか否かを検出する。キャップ機構60は、ノズルNzからのインク溶媒の蒸発を抑制したり、ノズルNzの吐出能力を回復させるため、各ノズルNzからインクを吸引する吸引動作を行ったりする。検出器群70はプリンター1の状況を監視する複数の検出器によって構成される。これらの検出器による検出結果は、コントローラー80に出力される。
【0026】
コントローラー80はプリンター1における全体的な制御を行い、インターフェース部80aと、CPU80bと、メモリー80cとを有する。インターフェース部80aは、コンピューターCPとの間でデータの受け渡しを行う。メモリー80cは、コンピュータープログラムを格納する領域や作業領域等を確保する。CPU80bは、メモリー80cに記憶されているコンピュータープログラムに従い、各制御対象部(用紙搬送機構10、キャリッジ移動機構20、ヘッドユニット30、駆動信号生成回路40、ドット抜け検出部50、キャップ機構60、検出器群70)を制御する。
【0027】
このようなプリンター1において、キャリッジの移動方向に沿って移動するヘッド31からインクを断続的に吐出し、用紙上にドットを形成するドット形成処理と、用紙を搬送方向に搬送する搬送処理と、が繰り返される。その結果、先のドット形成処理により形成されたドットの位置とは異なる位置にドットが形成され、媒体上に2次元の画像が印刷される。
【0028】
===吐出検査と回復動作について===
長時間ノズルからインク(液体)が吐出されなかったり、ノズルに紙粉などの異物が付着したりすると、ノズルが目詰まりすることがある。ノズルが目詰まりすると、ノズルからインクが吐出されるべき時にインクが吐出されず、ドットが形成されるべき所にドットが形成されない現象(ドット抜け)が発生する。「ドット抜け」が発生すると画質が劣化してしまう。
【0029】
そこで、本実施形態では、ドット抜け検出部50により「吐出検査」が行われるのであるが、吐出検査が行われた後、ドット抜けノズルが検出された場合には、「回復動作」を行う。これにより、ドット抜けノズルから正常にインクが吐出されるようにする。
【0030】
なお、ドット抜け検査は、プリンター1の電源がオンされた直後や、プリンター1がコンピューターCPから印刷データを受信して印刷を開始する時に、実施すると良い。また、長時間の印刷中に所定時間おきにドット抜け検査を行っても良い。以下、ドット抜けノズルの回復動作について説明した後に、吐出検査について説明する。
【0031】
<回復動作について>
図3Aから図3Cは、回復動作時のヘッド31とキャップ機構60との位置関係を示す図である。まず、キャップ機構60について説明する。キャップ機構60は、キャップ61と、キャップ61を支持するとともに斜め上下方向に移動可能なスライダ部材62とを有する。キャップ61は、長方形の底部(不図示)と底部の周縁から起立する側壁部611とを有し、ノズルプレート33bと対向する上面が開放された薄手の箱状をしている。底部と側壁部611に囲まれた空間には、フェルトやスポンジ等の多孔質部材で作製されたシート状の保湿部材が配置されている。尚、キャップ61の内部の構成については後述する。
【0032】
図3Aに示すように、キャリッジ21がホームポジション(ここでは移動方向の右側)から外れた状態では、キャップ61はノズルプレート33bの表面(以下、ノズル面ともいう)よりも十分に低い位置に位置付けられる。そして、図3Bに示すように、キャリッジ21がホームポジション側へ移動すると、スライダ部材62に設けられた当接部63にキャリッジ21が当接し、当接部63はキャリッジ21と共にホームポジション側へ移動する。当接部63がホームポジション側へ移動する際に案内用の長孔64に沿ってスライダ部材62が上昇し、それに伴ってキャップ61も上昇する。最終的には、図3Cに示すように、キャリッジ21がホームポジションに位置すると、キャップ61の上部とノズルプレート33bが密着する。そのため、電源オフ時や長期休止時にはキャリッジ21をホームポジションに位置させることで、ノズルからのインク溶媒の蒸発を抑制できる。
【0033】
次に回復動作について説明する。キャップ61の底面と側壁部611との空間には廃液チューブ65が接続されており、廃液チューブ65の途中には吸引ポンプ(不図示)が接続されている。他の回復動作の1つとして、図3Cに示すようにキャップ61の開口縁がノズル面に当接した状態で、「ポンプ吸引」が行われる。キャップ61の側壁部611とノズル面が密着した状態で吸引ポンプを動作させると、キャップ61の空間を負圧にできる。これにより、ヘッド31内のインクを、増粘したインクや紙粉と共に吸引することができ、ドット抜けノズルを回復することができる。尚、吸引ポンプによりキャップ61内が負圧にされても、保湿部材612には、インクが残留する。よって、吸引ポンプによってインクが吸引された場合であっても、保湿部材612は導電性を保つことができることに留意する。
【0034】
その他、キャップ機構60を図3Bに示す位置に維持しつつ、キャリッジ21を移動方向に移動させることによって、キャップ61の側壁部611よりも上方に突出したワイパー66により、ノズル面に付着したインク滴や異物を除去する。その結果、異物により目詰まりしていたノズルから正常にインクを吐出させることができる。
【0035】
<ドット抜け検出部50について>
図4は、キャップ61を上方から見た図であり、図5Aは、ドット抜け検出部50を説明する図であり、図5Bは、検出制御部57を説明するブロック図である。ドット抜け検出部50は、各ノズルから実際にインクを吐出させ、正常にインクが吐出されたか否かによって、ドット抜けするノズルを検出する。まず、ドット抜け検出部50の構成について説明する。図5Aに示すように、ドット抜け検出部50は、電源ユニット51、第1制限抵抗52、第2制限抵抗53、検出用コンデンサー54、増幅器55、平滑コンデンサー56、及び、検出制御部57を有する。
【0036】
キャップ61の内部構造については後述するが、ドット抜け検出時には図3B及び図7に示すようにノズル面とキャップ61の保湿部材612表面とが所定の間隔dを空けて対向する。保湿部材612には、前述のフラッシング動作によって導電性のインクが染み込んでいる。これにより、保湿部材612は電極としての役割を果たす。この保湿部材612は、ドット抜け検出動作時には42V程度の電位にされる。保湿部材612は、キャップ61内において、平面状に設けられており、この構造によって、広い範囲に亘って一様に帯電されるようにしている。
【0037】
電源ユニット51は、キャップ61内の保湿部材612を所定電位にする電源の一種である。本実施形態の電源ユニット51は、42V程度の直流電源によって構成され、検出制御部57からの制御信号によって動作が制御される。
【0038】
第1制限抵抗52及び第2制限抵抗53は、電源ユニット51の出力端子と保湿部材612との間に配置され、電源ユニット51と保湿部材612との間で流れる電流を制限する。本実施形態では、第1制限抵抗52と第2制限抵抗53は同じ抵抗値とし、第1制限抵抗52と第2制限抵抗53は直列に接続する。図示するように、第1制限抵抗52の一端を電源ユニット51の出力端子に接続し、他端を第2制限抵抗53の一端と接続し、第2制限抵抗53の他端を保湿部材612に接続する。
【0039】
検出用コンデンサー54は、保湿部材612の電位変化成分を抽出するための素子であり、一方の導体が保湿部材612に接続され、他方の導体が増幅器55に接続されている。この間に検出用コンデンサー54を介在させることで、保湿部材612のバイアス成分(直流成分)を除くことができ、信号の扱いを容易にすることができる。
【0040】
増幅器55は、検出用コンデンサー54の他端に現れる信号(電位変化)を増幅して出力する。これにより、電位の変化成分を2〜3V程度の変化幅を持った電圧信号として取得できる。これらの検出用コンデンサー54及び増幅器55の組は検出部の一種に相当し、インク滴の吐出によって生じた保湿部材612に生じた電気的な変化を検出する。
【0041】
平滑コンデンサー56は、電位の急激な変化を抑制する。本実施形態の平滑コンデンサー56は一端が第1制限抵抗52と第2制限抵抗53とを接続する信号線に接続され、他端がグランドに接続されている。
【0042】
検出制御部57は、ドット抜け検出部50の制御を行う部分である。図5Bに示すように、この検出制御部57は、レジスタ群57a、AD変換部57b、電圧比較部57c、及び、制御信号出力部57dを有する。レジスタ群57aは、複数のレジスタによって構成されている。各レジスタには、ノズルNz毎の判定結果や判定用の電圧閾値などが記憶される。AD変換部57bは、増幅器55から出力された増幅後の電圧信号(アナログ値)をデジタル値に変換する。電圧比較部57cは、増幅後の電圧信号に基づく振幅値の大きさを電圧閾値と比較する。制御信号出力部57dは、電源ユニット51の動作を制御するための制御信号を出力する
<吐出検査について>
このプリンター1では、ノズルプレート33bをグランドに接続してグランド電位にし、キャップ61内に設けられた保湿部材612を42V程度の電位にしている。グランド電位のノズルプレートによって、ノズルから吐出されるインク滴はグランド電位になる。ノズルプレート33bと保湿部材612とを、所定間隔d(図7を参照)を空けた状態で対向させて、検出対象のノズルからインク滴を吐出させる。そして、インク滴の吐出に起因して保湿部材612側に生じた電気的な変化を検出用コンデンサー54及び増幅器55を介して検出制御部57が電圧信号SGとして取得する。検出制御部57は、電圧信号SGにおける振幅値(電位変化)に基づいて、検出対象のノズルからインク滴が正常に吐出されたか否かを判断する。
【0043】
検出の原理は、ノズルプレート33bと保湿部材612とを所定間隔dを空けて配置したことにより、これらの部材が恰もコンデンサーの様に振る舞うことに基づく。図7に示すように、グランドに接続されたノズルプレート33bに接することで、ノズルNzから柱状に延びたインク(インク柱)もグランド電位になる。このインクの伸長が、コンデンサーにおける静電容量を変化させる。すなわち、ノズルからインクが吐出されることによって、グランド電位のインクと保湿部材612とがコンデンサーを構成し、静電容量が変化する。
【0044】
そして、静電容量が小さくなると、ノズルプレート33bと保湿部材612との間で蓄えることのできる電荷の量が減少する。このため、余剰の電荷が保湿部材612から各制限抵抗52,53を通って電源ユニット51側へ移動する。すなわち、電源ユニット51へ向けて電流が流れる。一方、静電容量が増えたり、減少した静電容量が戻ったりすると、電荷が電源ユニット51から各制限抵抗52,53を通って保湿部材612側へ移動する。すなわち、保湿部材612へ向けて電流が流れる。このような電流(便宜上、吐出検査用電流Ifともいう)が流れると、保湿部材612の電位が変化する。保湿部材612の電位の変化は、検出用コンデンサー54における他方の導体(増幅器55側の導体)の電位変化としても現れる。従って、他方の導体の電位変化を監視することで、インク滴が吐出されたか否かを判定できる。
【0045】
図6Aは、吐出検査時に用いる駆動信号COMの一例を示す図であり、図6Bは、図6Aの駆動信号COMによってノズルからインクが吐出された場合に増幅器55から出力される電圧信号SGを説明する図であり、図6Cは、複数のノズル(#1〜#10)の吐出検査結果である電圧信号SGを示す図である。駆動信号COMは、繰り返し期間Tの前半期間TAにノズルからインクを吐出するための複数の駆動波形W(例えば24個)を有し、後半期間TBでは中間電位で一定の電位が保たれる。駆動信号生成回路40は複数の駆動波形W(24個の駆動波形)を繰り返し期間T毎に繰り返し生成する。この繰り返し期間Tが1つのノズルの検査に要する時間に相当する。
【0046】
まず、検査対象の中の或るノズルに対応するピエゾ素子に、繰り返し期間Tに亘って駆動信号COMを印加する。そうすると、前半期間TAにて吐出検査対象のノズルからインク滴が連続的に吐出される(例えば24ショット打たれる)。これにより、保湿部材612の電位が変化し、増幅器55は、その電位変化を図6Bに示す電圧信号SG(サインカーブ)として検出制御部57に出力する。なお、1ショット分のインク滴による電圧信号SGの振幅が小さいため、ノズルからインク滴を連続的に吐出させることで、検査に十分な振幅である電圧信号SGが得られるようにした。
【0047】
検出制御部57は、検査対象のノズルの検査期間(T)の電圧信号SGから最大振幅Vmax(最高電圧VHと最低電圧VLの差)を算出し、最大振幅Vmaxと所定の閾値THとを比較する。駆動信号COMに応じて検査対象のノズルからインクが吐出されれば、保湿部材612の電位が変化し、電圧信号SGの最大振幅Vmaxが閾値THよりも大きくなる。一方、目詰まり等により、検査対象のノズルからインクが吐出されなかったり、吐出されるインク量が少なかったり(規定量に満たない)すると、保湿部材612の電位が変化しなかったり、電位変化が小さかったりするため、電圧信号SGの最大振幅Vmaxが閾値TH以下となる。
【0048】
或るノズルに対応するピエゾ素子に駆動信号COMを印加した後は、次の検査対象ノズルに対応するピエゾ素子に繰り返し期間Tに亘って駆動信号COMを印加するというように、検査対象の1ノズルごとに、繰り返し期間Tに亘って、そのノズルに対応するピエゾ素子に駆動信号COMを印加する。その結果、検出制御部57は、図6Cに示すように、繰り返し期間Tごとに、サインカーブの電位変化が発生する電圧信号SGを取得できる。
【0049】
例えば、図6Cの結果では、ノズル#5の検査期間に対応する電圧信号SGの最大振幅Vmaxが閾値THよりも小さいため、検出制御部57はノズル#5がドット抜けノズルであると判断する。他のノズル(#1〜#4・#6〜#10)の各検査期間に対応する電圧信号SGの最大振幅Vmaxは閾値TH以上であるため、検出制御部57は他のノズルは正常なノズルであると判断する。こうしてドット抜け検出部50によりドット抜けノズルが検出された場合には、プリンター1のコントローラー80はヘッド31に対して回復動作を実施する。その結果、ドット抜けのない高画質な画像を印刷することができる。
【0050】
<本実施形態におけるキャップ61の構成>
図7は、本実施形態におけるキャップ61の横断面図である。以下、本図を参照しつつ、キャップ61の内部構造について説明する。
キャップ61は、その内部に、保湿部材612(液体吸収部材に相当)と、絶縁部材614と、ドット抜け検出部50(判定部に相当)を備える。
【0051】
ドット抜け検出部50は、回路50aと基板50bを含む。そして、回路50aと基板50bは、絶縁部材614によって封止される。絶縁部材614は、例えばゴムなどのような部材である。このように、回路50aと基板50bが絶縁部材614によって絶縁されているのは、保湿部材612に吐出されるインクにより、回路が短絡することを防止するためである。保湿部材612と回路50aとは、基板50b及び絶縁部材614とを貫く接続線615によって接続される。また、基板50bに構成された回路50aの配線とコントローラー80とは、絶縁部材614と保湿部材612と側壁部611を貫く接続線616によって接続される。
【0052】
このように、本実施形態では、接続線615は保湿部材612に接続される。保湿部材612は、導電性のインクが打ち捨てられることにより導電性となる。特に、吐出検査が行われる前には回復動作としてフラッシング動作が行われる。このようにすることによって、保湿部材612は導電性のインクによって湿らされ導電性にされる。そして、確実に検出用電極の代用として使用することができるようになる。このため、検出用電極を設ける必要がないので、製造コストを下げることができる。
【0053】
また、従来は、ドット抜け検出部50は、キャップ61内に内蔵されることはなく、ドット抜け検出部50は、キャップ61の外部に設けられていた。この場合、検出部50と検出用電極の代用となる保湿部材612とをハーネスのような部材で接続することになるが、ハーネスの影響により信号が適切に得られないということがある。そのため、適切に電圧信号SGを得るために、保湿部材612に印加する電圧を600〜1kV程度にしなければならず、電源ユニットが大型化し、プリンター1自体も大型化せざるを得ない。
【0054】
これに対し、本実施形態のキャップ61の構成であると、保湿部材612とドット抜け検出部50とをキャップ61の内部に収容し、両者の距離を近づけることができる。よって、ハーネスのような接続部材を必要としないので、検出用電極の代用である保湿部材612に印加する電圧がより低い電圧であっても適切にドット抜けを検出することができる。
【0055】
===その他の実施の形態===
図8は、他の実施形態におけるキャップ61の横断面図である。上述の実施形態では、ドット抜け検出部50をキャップ61の内部に設けることとしていたが、保湿部材612がキャップ61内に収容され検出用電極の代用とされていれば、ドット抜け検出部50は、キャップ61の外部に設けられることとしてもよい。このとき、保湿部材612には、より高い電圧を印加することとして、電気的な変化をより検出しやすくすることとしてもよい。
【0056】
また、上述の実施形態では、印刷装置としてプリンター1が説明されていたが、これに限られるものではなくインク以外の他の流体(液体や、機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルのような流状体)を噴射したり吐出したりする液体吐出装置に具現化することもできる。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、気体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の装置に、上述の実施形態と同様の技術を適用してもよい。また、これらの方法や製造方法も応用範囲の範疇である。
【0057】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0058】
1 プリンター、10 用紙搬送機構、
20 キャリッジ移動機構、21 キャリッジ、
30 ヘッドユニット、31 ヘッド、HC ヘッド制御部、
32 ケース、33 流路ユニット、
33a 流路形成基板、33b ノズルプレート、33c 振動板、
331 圧力室、332 インク供給路、333 共通インク室、
334 ダイヤフラム部、335 島部、34 ピエゾ素子ユニット、
341 ピエゾ素子群、342 固定板、
40 駆動信号生成回路、50 ドット抜け検出部、
51 電源ユニット、52 第1制限抵抗、
53 第2制限抵抗、54 検出用コンデンサー、55 増幅器、
56 平滑コンデンサー、57 検出制御部、
57a レジスタ群、57b AD変換部、
57c 電圧比較部、57d 制御信号出力部、
60 キャップ機構、61 キャップ、611 側壁部、
612 保湿部材、614 絶縁部材、
62 スライダ部材、63 当接部、64 長孔、
65 廃液チューブ、66 ワイパー、
70 検出器群、80 コントローラー、
80a インターフェース部、80b CPU、80c メモリー、
CP コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を吐出するヘッドと、
前記ノズルと所定間隔あけて対向する液体吸収部材と、
前記液体吸収部材を所定電位にする電源と、
前記ノズルからの液体の吐出によって生じた前記液体吸収部材の電位変化を検出し、前記液体吸収部材の電位変化に基づき、前記ヘッドにおいて前記液体を正常に吐出しないノズルを判定する判定部と、
非印刷時に前記ノズルから前記液体が打ち捨てられる前記液体吸収部材を収容するキャップ部と、
を備える吐出検査装置。
【請求項2】
前記判定部は内部に前記液体が到達しないように封止され、前記キャップ部内に収容される、請求項1に記載の吐出検査装置。
【請求項3】
前記キャップ部において、前記判定部の上部に前記液体吸収部材が配置される、請求項1又は2に記載の吐出検査装置。
【請求項4】
前記液体は導電性の液体である、請求項1〜3のいずれかに記載の吐出検査装置。
【請求項5】
前記判定部は回路と基板が一体で形成された回路基板であり、
前記回路基板は、前記基板側が前記ヘッドに対向する側になるように、前記キャップ部に収容される、請求項1〜4のいずれかに記載の吐出検査装置。
【請求項6】
前記吐出しないノズルの判定は、静電容量の変化の信号に基づいて行われる、請求項1〜5のいずれかに記載の吐出検査装置。
【請求項7】
前記液体を正常に吐出しないとは、前記液体の吐出量が規定量よりも少ない場合を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の吐出検査装置。
【請求項8】
ノズルから液体を吐出するヘッドと、
前記ノズルと所定間隔あけて対向する液体吸収部材と、
前記液体吸収部材を所定電位にする電源と、
前記ノズルからの液体の吐出によって生じた前記液体吸収部材の電位変化を検出し、前記液体吸収部材の電位変化に基づき、前記ヘッドにおいて前記液体を吐出しないノズルを判定する判定部と、
被印刷時に前記ヘッドから前記液体が打ち捨てられるキャップ部であって、前記液体吸収部材と前記判定部と、を収容するキャップ部と、
を備える印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−83938(P2011−83938A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237536(P2009−237536)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】