説明

液体吐出装置

【課題】高いクリーニング効果を維持しつつ、小型化及び経済性の向上を図ることができるようにする。
【解決手段】インク吐出面21に付着したインクを吸着可能なクリーニングベルト41と、クリーニングベルト41をノズル配列方向に移動させる移動手段と、クリーニングベルト41を回転可能に支持する架設ローラ42a,42bと、架設ローラ42bの回転中心軸となり、移動手段によるクリーニングベルト41の移動を動力源として正方向又は逆方向に回転する回転軸42cと、回転軸42cの正方向の回転を架設ローラ42bに伝達し、逆方向の回転を架設ローラ42bに伝達しないワンウェイクラッチ49とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出するためのノズル列が形成された液体吐出ヘッドをクリーニングするに際して、高いクリーニング効果を維持できるようにした液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の液体吐出装置は、液体吐出ヘッドに形成されたノズル列から液体を吐出し、記録用紙に画像等を形成している。そのため、液体吐出ヘッドの液体吐出面(ノズル列の形成部分)が汚れていたり、液体吐出面に液体やゴミ等が付着した状態で画像等を形成すると、印画品質が低下してしまう。特に、フルカラー対応のインクジェットプリンタの場合には、既存のインク(液体)と異なる色のインクがノズルから逆流して入り込むと、既存のインクと混色を生じ、印画の際に混色インクが吐出されて画質が低下する。
【0003】
そこで、印画品質の低下を防止するために、従来から、液体吐出ヘッドの液体吐出面をクリーニングするようにした種々の技術が提案されている。例えば、やや硬めのゴムブレードを液体吐出面に押し当てて摺動させるゴムブレード方式は、液体吐出面に付着した汚れ、インク溜まり、増粘又は固化したインク等をふき取って除去することにより、インクの吐出回復や吐出性能の安定化を図っている。
【0004】
しかし、ゴムブレード方式では、液体吐出面に付着したインク等が残留しやすく、十分なクリーニング効果が得られない場合がある。特に、ライン方式のインクジェットプリンタは、インク(液体)を吐出するヘッドチップを印画幅分だけ並べたラインヘッドを備えており、インク吐出面(液体吐出面)が広くなっている。そのため、インク吐出面の全体にゴムブレードを均一に押し当てることが困難で、ふき取りが不十分となってしまう。また、ラインヘッドの中には、インク吐出面に段差があるものもあり、このようなラインヘッドであると、段差の部分で残留インクをクリーニングできない。
【0005】
図15は、従来のゴムブレード方式によるラインヘッド120のクリーニング状態を側面から見た断面図である。
図15(a)に示すように、ゴムブレード方式は、ラインヘッド120のインク吐出面121にゴムブレード141を接触させ、矢印のようにインク吐出面121に沿ってゴムブレード141をノズル配列方向に移動させる。そして、インク吐出面121に付着したインク溜まり等をふき取るようになっている。そのため、インク吐出面121に対し、ゴムブレード141を隙間なく均一に接触させる必要がある。
【0006】
ところが、図15(b)に示すように、インク吐出面121に段差があると、インク吐出面121に圧接して曲がっているゴムブレード141と段差の隅角部との間に隙間ができる。そのため、段差の隅角部には、ゴムブレード141が接触せず、その隙間に付着している残留インク等や、ゴムブレード141の移動によって段差の隅角部に追いやられたゴミ、異物等をふき取ることができない。
【0007】
そこで、ゴムブレード141ではなく、吸水性に優れる発泡体物質で構成したクリーニングローラ(図示せず)をインク吐出面121に接触させ、モータによって回転させることにより、段差の隅角部にある残留インク等も吸着できるようにしたワイプローラ方式が知られている。この方式であれば、クリーニングローラを構成する多孔質発泡体が段差に対応して凹むので、段差の隅角部に隙間ができない。そして、多孔質発泡体の内部に形成された気孔(セル)が毛細管力を生じるので、それを利用することにより、インク吐出面121に付着したインク溜まり等を吸着しながらクリーニングできる。
【0008】
また、弾性を有するローラをノズルの配列方向と平行な軸線周りに回転可能に配設し、このローラの外周に無端状のクリーニングベルトを設けた技術も知られている。このようなクリーニングベルト方式では、ノズルの周辺をクリーニングするためのクリーニングベルトがローラの弾性作用によってインク吐出面121に圧接される。そして、モータによってローラを回転駆動し、ノズルと対向する位置にあるクリーニングベルトを回転させれば、インク吐出面121の汚れ等をこすり取ることができる。
【0009】
さらにまた、テープ状のクリーニングクロスを使用するクリーニングクロス方式も知られている。この方式は、クリーニングクロスの作用面をインク吐出面121に平面的に押し付けながら、モータによって自動的にリールに巻き取るようになっている。そのため、常に新しい部位によってインク吐出面121をふき取ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−92575号公報
【特許文献2】特開平11−78034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、これらの技術はいずれも、クリーニングローラやクリーニングベルトを回転させたり、クリーニングクロスを巻き取ったりするために、専用のモータを設けている。そのため、モータの設置によるインクジェットプリンタの大型化、コストアップが避けられない。
【0012】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、高いクリーニング効果を維持しつつ、小型化及び経済性の向上を図ることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の解決手段により、上述の課題を解決する。
本発明の請求項1に記載の発明は、液体を吐出するための複数のノズルと、各前記ノズルを一方向に配列したノズル列が形成された液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドの前記ノズル列の形成部分に付着した液体を吸着可能な液体吸着体と、前記液体吸着体を前記ノズルの配列方向に相対的に移動させる移動手段と、前記液体吸着体を回転可能に支持する支持ローラと、前記支持ローラの回転中心軸となり、前記移動手段による前記液体吸着体の相対的な移動を動力源として正方向又は逆方向に回転する回転軸と、前記回転軸の正方向の回転を前記支持ローラに伝達し、逆方向の回転を前記支持ローラに伝達しない逆転防止手段とを有する液体吐出装置である。
【0014】
(作用)
上記の請求項1に記載の発明は、液体吐出ヘッドのノズル列の形成部分に付着した液体を吸着可能な液体吸着体と、液体吸着体をノズルの配列方向に相対的に移動させる移動手段とを有している。そのため、移動手段によって液体吸着体を相対的に移動させることにより、液体吐出ヘッドのノズル列の形成部分に付着した液体を液体吸着体に吸着させることができる。
【0015】
また、請求項1に記載の発明は、液体吸着体を回転可能に支持する支持ローラと、支持ローラの回転中心軸となり、移動手段による液体吸着体の相対的な移動を動力源として正方向又は逆方向に回転する回転軸と、回転軸の正方向の回転を支持ローラに伝達し、逆方向の回転を支持ローラに伝達しない逆転防止手段とを有している。そのため、移動手段によって液体吸着体を相対的に移動させ、回転軸を正方向に回転させることにより、支持ローラを介して液体吸着体を回転させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、移動手段による液体吸着体の相対的な移動により、液体吐出ヘッドのノズル列の形成部分に付着した液体が液体吸着体に吸着される。また、液体吸着体の相対的な移動が支持ローラの回転軸を回転させる動力源となっており、回転軸が正方向に回転すると、支持ローラを介して液体吸着体が回転する。そのため、液体吸着体の吸着部位が変更され、高いクリーニング効果を維持できる。しかも、液体吸着体を回転させるための専用のモータが不要なので、小型化及び経済性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の液体吐出装置の一実施形態としての、インクジェットプリンタの全体構成を示す正面図であり、印画時の状態を示している。
【図2】本発明の液体吐出装置の一実施形態としての、インクジェットプリンタの全体構成を示す正面図であり、待機時の状態を示している。
【図3】本発明の液体吐出装置の一実施形態としての、インクジェットプリンタの全体構成を示す正面図であり、クリーニング時の状態を示している。
【図4】図1ないし図3に示すインクジェットプリンタのラインヘッドの平面図であり、インク吐出面側から見た図である。
【図5】図4に示すラインヘッドの各ヘッドモジュールの分解斜視図である。
【図6】図5に示すヘッドモジュールをインク吐出面側から見た斜視図及び各ヘッドチップの周辺の断面図である。
【図7】図4に示すラインヘッドのインク吐出面をクリーニングする状態を側面から見た断面図である。
【図8】本発明の液体吐出装置の一実施形態としての、インクジェットプリンタのクリーニング装置を示す側面図である。
【図9】図8に示すクリーニング装置におけるクリーニングベルトの周辺部の側面図である。
【図10】図8に示すクリーニング装置におけるクリーニングベルトの周辺部の斜視図である。
【図11】図8に示すインクジェットプリンタのインク液体吐出面をクリーニングする経過を示す側面図であり、クリーニング開始前の状態を示している。
【図12】図8に示すインクジェットプリンタのインク液体吐出面をクリーニングする経過を示す側面図であり、クリーニング開始時の状態を示している。
【図13】図8に示すインクジェットプリンタのインク液体吐出面をクリーニングする経過を示す側面図であり、クリーニング終了時の状態を示している。
【図14】図8に示すインクジェットプリンタのインク液体吐出面をクリーニングする経過を示す側面図であり、クリーニング終了後の状態を示している。
【図15】従来のゴムブレード方式によるラインヘッドのクリーニング状態を側面から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
ここで、本発明における液体吐出装置は、以下の実施の形態では、液体としてインクを吐出するインクジェットプリンタ10であるとする。また、インクジェットプリンタ10は、印画幅分(例えば、A4サイズ)のラインヘッド20(本発明における液体吐出ヘッドに相当するもの)を備えるライン方式のものである。さらにまた、ラインヘッド20には、インクを吐出するための複数のノズル32が一方向に所定のピッチで、印画可能な最大サイズの記録用紙(本発明における吐出対象に相当するもの)の幅方向の長さにわたって配列されたノズル列32aが形成されている。そして、ノズル列32aの形成部分がインク吐出面21となっている。さらに、このインクジェットプリンタ10は、カラー印刷に対応しており、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)等のインクの色ごとにノズル列32aが形成されている。
【0019】
[液体吐出装置の構成例]

図1は、本発明の液体吐出装置の一実施形態としての、インクジェットプリンタ10の全体構成を示す正面図であり、印画時の状態を示している。
図2は、本発明の液体吐出装置の一実施形態としての、インクジェットプリンタ10の全体構成を示す正面図であり、待機時の状態を示している。
図1は、本発明の液体吐出装置の一実施形態としての、インクジェットプリンタ10の全体構成を示す正面図であり、クリーニング時の状態を示している。
【0020】
図1ないし図3に示すように、インクジェットプリンタ10は、給紙部(図示せず)から搬送された記録用紙を略水平に支持する印画テーブル11と、印画テーブル11上の記録用紙に対し、インク吐出面21からインクを吐出して画像を形成するラインヘッド20と、ラインヘッド20のインク吐出面21を保護するためのヘッドキャップ12と、ラインヘッド20のインク吐出面21をクリーニングするためのクリーニングベルト41を有するクリーニング装置40とを備えている。
【0021】
また、インクジェットプリンタ10は、ラインヘッド20を垂直方向の矢印(図1参照)のように昇降させる昇降手段を有している。この昇降手段は、例えば、駆動回転されるギヤ、ベルト、カム、ピストン、又はこれらの組合せ等によって構成することができる。そして、ラインヘッド20は、昇降手段により、インク吐出面21が印画テーブル11の直上まで下降して記録用紙に画像を形成する印画位置(図1に示す位置)と、上昇してインク吐出面21がヘッドキャップ12に覆われる待機位置(図2に示す位置)や、インク吐出面21をクリーニングできるようにするクリーニング位置(図3に示す位置)との間を昇降する。なお、記録用紙は、給紙部(図示せず)から印画テーブル11上に給紙されて略水平に支持される。そして、ラインヘッド20によって印画された記録用紙は、ペーパトレイ(図示せず)に排紙される。
【0022】
さらにまた、インクジェットプリンタ10は、ヘッドキャップ12やクリーニング装置40を水平方向の矢印(図1参照)のように移動させる移動手段を有している。この移動手段は、例えば、駆動回転されるギヤ、ベルト、カム、ピストン、又はこれらの組合せ等によって構成することができる。そして、ヘッドキャップ12は、ラインヘッド20が上昇した待機位置(図2に示す位置)にあるときに、印画テーブル11上に形成された空間に、右側方から左に向けて進入し、インク吐出面21の直下に位置するように移動する。そして、印画が行われない待機中は、インク吐出面21がヘッドキャップ12によって覆蓋される。したがって、ヘッドキャップ12により、待機中におけるインクの乾燥、埃や紙粉の付着が防止され、ノズル32(図示せず)の目詰まりが防止される。なお、ヘッドキャップ12は、インク吐出面21との密閉性を高めるため、各インク色に対応するノズル32の配列に沿うように、インク色単位で設けられたゴムキャップが整列した構成となっている。
【0023】
さらに、クリーニング装置40は、多孔質の発泡体等で形成された無端状のクリーニングベルト41(本発明における液体吸着体に相当するもの)を有している。そして、クリーニングの実行の際は、ラインヘッド20が上昇したクリーニング位置(図3に示す位置)にあるときに、印画テーブル11上に形成された空間に左側方から右に向けて進入し、インク吐出面21とクリーニングベルト41とが対面するように移動する。その後、クリーニングベルト41をインク吐出面21に接触させ、図3の紙面に垂直な方向に移動させることにより、インク吐出面21に付着した廃インク等をふき取るようにして吸着する。なお、クリーニングベルト41には、多孔質発泡体の他、不織布、凝縮した化学繊維等を用いることもできる。
【0024】
[液体吐出ヘッドの構成例]

図4は、図1ないし図3に示すインクジェットプリンタ10のラインヘッド20の平面図であり、インク吐出面21側から見た図である。
図4に示すように、ラインヘッド20は、ヘッドフレーム22と、ヘッドフレーム22に保持された複数のヘッドモジュール30とから構成されている。具体的には、各ヘッドモジュール30は、ヘッドフレーム22の長手方向(用紙幅方向)に2個直列に接続されてヘッドフレーム22に挿入されている。そして、その2個のヘッドモジュール30で、印画可能な最大サイズの記録用紙の用紙幅(例えば、A4の横幅)の長さをカバーして1色を印画するようになっている。また、その直列に接続された2個のヘッドモジュール30が平行に5ライン(合計10個)設けられ、各ラインがそれぞれY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)等のインクを吐出することで、フルカラー画像を形成する。
【0025】
さらに、各ヘッドモジュール30は、それぞれ複数のヘッドチップ31を備えている。具体的には、各ヘッドモジュール30には、ヘッドチップ31が千鳥状に、4個×2列で合計8個配置されている。また、各ヘッドチップ31には、インクを吐出するための複数のノズル32が一方向に配列され、ノズル列32aとなっている。そのため、ノズル列32aは、各ヘッドモジュール30について2列に並列し、各ノズル32が記録用紙の幅方向の長さにわたって配列されているだけでなく、ラインヘッド20の全体として、10列に並列した配置となっている。そして、このノズル列32aの形成部分(ノズル列32aが形成されている側の面)がインク吐出面21となっている。なお、各ノズル32の相互の間隔は、千鳥状に隣接する部分を含めて、すべて等間隔である。
【0026】
図5は、図4に示すラインヘッド20の各ヘッドモジュール30の分解斜視図である。
図5に示すように、ヘッドモジュール30は、8個のヘッドチップ31と、各ヘッドチップ31が配置されるフレキシブルシート33と、インクタンク34とから構成されている。なお、図4に示すインク吐出面21は、図5に示すフレキシブルシート33の下面側である。
【0027】
ここで、フレキシブルシート33は、ヘッドチップ31と制御基板(図示せず)とを電気的に接続するための可撓性を有する配線基板であり、厚さが約50μm程度のポリイミド製のものである。また、フレキシブルシート33には、千鳥状に開口部33aが形成されている。そして、各ヘッドチップ31は、すべてのノズル32(図4参照)が開口部33a内に位置するとともに、ヘッドチップ31が開口部33aを塞ぐようにして、フレキシブルシート33に接合される。
【0028】
また、フレキシブルシート33の上には、各ヘッドチップ31を覆うようにして、インクタンク34が接合される。このインクタンク34は、各ヘッドチップ31にインクを供給する共通流路を形成するものである。そして、インクのカートリッジ(図示せず)と接続され、共通流路内にインクを供給するためのインク供給口35と、共通流路内のインクを排出するためのインク排出口36とを有している。そのため、カートリッジ内のインクは、インク供給口35を通ってインクタンク34内の共通流路を流れ、各ヘッドチップ31に供給される。なお、ヘッドモジュール30をヘッドフレーム22(図4参照)に挿入する際は、ヘッドモジュール30からはみ出た部分のフレキシブルシート33がインクタンク34の側面に沿って折り曲げられる。
【0029】
図6は、図5に示すヘッドモジュール30をインク吐出面21側から見た斜視図及び各ヘッドチップ31の周辺の断面図である。
図6(a)に示すように、ヘッドモジュール30は、フレキシブルシート33とインクタンク34との内部空間に8個のヘッドチップ31を千鳥状に配置したものである。そして、各ヘッドチップ31のすべてのノズル32は、フレキシブルシート33の開口部33a内に位置している。そのため、インク吐出面21は、開口部33aを除くフレキシブルシート33の表面と、開口部33a内のヘッドチップ31の表面とによって構成されることとなる。
【0030】
また、図6(b)に示すように、ヘッドチップ31は、各ノズル32と対向する位置に複数の発熱抵抗体37が配列されており、各ノズル32と各発熱抵抗体37との間がインクの液室となっている。そして、インク供給口35(図6(a)参照)からインクを供給すると、ヘッドチップ31の周囲だけでなく、ヘッドチップ31の液室内がインクで満たされる。
【0031】
ここで、制御基板(図示せず)からの指令により、フレキシブルシート33(図6(a)参照)を介して発熱抵抗体37に短時間(例えば、1〜3μsec)のパルス電流を流すと、発熱抵抗体37が急速に加熱される。そのため、発熱抵抗体37と接する部分にインクの気泡が発生(インクが沸騰)し、その気泡の膨張によって所定の体積のインクが押しのけられる。その結果、これが吐出圧力となり、押しのけられたインクと同等の体積のインクがノズル32から吐出されるようになる。
【0032】
このように、ヘッドチップ31は、発熱抵抗体37を加熱させてノズル32からインクを吐出し、ノズル32の直下に給紙された記録用紙に画像を形成する。そのため、インクの吐出を繰り返すうちに、インク吐出面21にインク溜まりができたり、ゴミや異物が付着することがある。そして、このような状態を放置しておくと、ノズル32からのインクの吐出が阻害され、不吐出や不完全吐出等の吐出不良を起こしてしまう。
【0033】
また、フルカラー対応のラインヘッド20(図4参照)では、インク吐出面21に異なる色のインク溜まりも付着する。そのため、ヘッドモジュール30内の既存のインクと異なる色のインク溜まりがノズル32から逆流して入り込んでしまうことがある。そして、既存のインクとの混色を生じる結果、混色インクが吐出されることとなり、濃度変化、色相ずれ、筋むら等の画質低下を引き起こす。
【0034】
そこで、インク吐出面21のインク溜まり等をふき取るため、図6(b)に示すようなクリーニング装置40が設けられている。このクリーニング装置40は、無端状のクリーニングベルト41と、クリーニングベルト41を周回可能に架設する架設ローラ42(本発明における支持ローラに相当するもの)とを有している。そして、クリーニングベルト41は、その幅方向がノズル32の配列方向に対して角度(本実施形態では、90°)を持つように設置されている。また、架設ローラ42の周上に位置するクリーニングベルト41がインク吐出面21に接触するようになっている。さらにまた、クリーニングベルト41の幅は、図4に示すラインヘッド20の短手方向に10列に並列する両端のノズル列32a間の間隔よりも少しだけ大きく形成されている。したがって、クリーニングベルト41は、図3に示すように、インク吐出面21の全幅をカバーできるだけの幅を有している。
【0035】
このようなクリーニング装置40において、クリーニングベルト41は、図6(b)に示す斜め右上方向の矢印のようにクリーニングベルト41を移動させる移動手段により、ノズル32の配列方向に移動する。そして、インク吐出面21に付着しているインク溜まり等をふき取る。なお、クリーニングベルト41は、架設ローラ42によって周回可能に架設されているが、移動の際には、周回しないようになっている。
【0036】
ここで、ラインヘッド20(図4参照)を備えるライン方式の場合には、ヘッドを移動させて印画を行うシリアル方式に比べ、インク吐出面21が非常に大きくなる。これにより、クリーニング範囲が広くなり、吸引されるインク量が多くなるので、インク吐出面21へのインクの逆移りが問題となる。具体的には、クリーニングの開始位置では、インク吐出面21のインク溜まり等を良好に吸着していても、クリーニングの終了位置に近づくにつれて吸着力が低下する。その結果、インク吐出面21は、後半にクリーニングされる側ほど常に汚れた状態となり、インクの吐出不良を起こす箇所がそこに集中する可能性が高くなる。そこで、本実施形態では、このような問題を防止するために、ローラ状の多孔質発泡体(クリーニングローラ)よりもインクの吸着容量が大きいベルト状の多孔質発泡体(クリーニングベルト41)を用いている。なお、どちらを用いるかは吸着容量の問題なので、クリーニングベルト41に限らず、クリーニングローラを使用してもよい。
【0037】
図7は、図4に示すラインヘッド20のインク吐出面21をクリーニングする状態を側面から見た断面図である。
図7(a)に示すように、クリーニングベルト41は、インク吐出面21を矢印の方向に摺動する。したがって、インク吐出面21に付着していたインク溜まり、ゴミ、異物等は、クリーニングベルト41の移動により、ワイパーのようにしてふき取られることとなる。
【0038】
ここで、インク吐出面21には、図7(b)に示すように、ヘッドチップ31とフレキシブルシート33との間に段差(本実施形態では、約50μmの段差)がある。しかし、クリーニングベルト41は、柔軟性、吸水性、及び通気性を有する連続気泡タイプの多孔質発泡体から形成されているので、架設ローラ42の周上に位置する部分が段差に追従する。そのため、段差の隅角部に隙間ができることはなく、多孔質発泡体の内部に形成された気孔(セル)の毛細管力との相乗効果により、段差の隅角部にある残留インク等も残さず吸着できる。
【0039】
また、本実施形態のクリーニング装置40は、印画可能な記録用紙の用紙幅を大きく(例えば、A4の横幅をA3の横幅に)するために、直列に接続するヘッドモジュール30の数を増やした場合であっても、クリーニングベルト41の幅を変える必要がない。言い換えれば、記録用紙の用紙幅を大きくしても、クリーニングベルト41の幅を変えずに、移動距離を伸ばすだけで対応できる。そのため、クリーニング装置40の大型化を回避できる。
【0040】
さらにまた、無端状のクリーニングベルト41は、架設ローラ42によって回転可能に支持されている。そのため、ふき取りによって汚れたクリーニングベルト41のインク吐出面21との接触部位は、架設ローラ42を回転させることによって変更できる。したがって、次回のクリーニング時には、汚れていない新鮮な部位を用いることができる。
【0041】
図8は、本発明の液体吐出装置の一実施形態としての、インクジェットプリンタ10のクリーニング装置40を示す側面図である。
図8に示すように、ラインヘッド20のインク吐出面21をクリーニングするため、クリーニングベルト41が架設ローラ42によって周回可能に架設されている。また、架設ローラ42は、ベルトフレーム43(本発明におけるスライド部及び揺動部を構成するもの)に支持されている。そして、このベルトフレーム43により、クリーニングベルト41は、その幅方向がノズル配列方向に対して角度(本実施形態では、90°)を持つように設置されている。さらにまた、ベルトフレーム43は、図8に示す水平方向の矢印のようにベルトフレーム43を移動させる移動手段により、ノズル配列方向に往復移動する。なお、図8では、右方向を往路とし、左方向を復路としているが、逆であってもよい。
【0042】
ベルトフレーム43の移動手段は、例えば、駆動回転されるギヤ、ベルト、カム、ピストン、又はこれらの組合せ等によって構成することができる。そして、本実施形態では、ベースフレーム51に設けられたガイドシャフト52、移動駆動ベルト53、移動駆動プーリ54、テンションプーリ55、ベルト移動モータ56、及び移動伝達ベルト57により、ベルトフレーム43の移動手段が構成されている。なお、インク吐出面21に対してクリーニングベルト41が相対的に移動するようにできればよいので、ラインヘッド20を移動させる移動手段を設けてもよい。
【0043】
ここで、ベルトフレーム43は、樹脂製の支持体に板金製のフレームを組み合わせて構成されており、ベースフレーム51の長手方向に平行に設けられた2本のガイドシャフト52が支持体に挿通されている。そのため、ベルトフレーム43は、ガイドシャフト52に支持されながら、ベースフレーム51の長手方向に移動可能となっている。また、ベルトフレーム43の支持体には、移動駆動ベルト53が結合されている。そして、移動駆動ベルト53は、ガイドシャフト52と平行になるように、ベースフレーム51の一端側に設けられた移動駆動プーリ54と、その他端側に設けられたテンションプーリ55との間に架設されている。
【0044】
この移動駆動プーリ54は、ベルト駆動モータ56により、移動伝達ベルト57を介して回転駆動される。そのため、ベルト駆動モータ56を正転又は逆転させれば、移動駆動プーリ54も正転又は逆転し、移動駆動ベルト53を周回させることができる。したがって、ベルト駆動モータ56の正逆回転にともない、ベルトフレーム43は、移動駆動ベルト53の周回速度に一致した速さで、ガイドシャフト52に沿って往復移動するようになる。そして、1往復することで、クリーニングが終了する。なお、ベルトフレーム43のホームポジション(基準位置)は、ベースフレーム51に設けられたポジションセンサ58によって検知される。
【0045】
また、ベースフレーム51の長手方向には、ガイド溝51a(本発明における案内部に相当するもの)が形成されている。このガイド溝51aには、下側の架設ローラ42と同じ回転中心軸に設けられたガイドローラ46が挿入されており、ガイドローラ46は、ガイド溝51aによって誘導される。そして、ベルトフレーム43のホームポジション(移動駆動プーリ54側のクリーニングの開始位置)やエンドポジション(テンションプーリ55側のクリーニングの終了位置)を越えた位置では、ガイド溝51aが下向きに傾斜している。そのため、ガイドローラ46がホームポジション又はエンドポジションを越えると、ガイドローラ46は、ガイド溝51aによってが押し下げられる。一方、中間ポジション(クリーニングの開始位置と終了位置との間)のガイドローラ46は、ガイド溝51aによって水平に案内される。
【0046】
図9は、図8に示すクリーニング装置40におけるクリーニングベルト41の周辺部の側面図である。
また、図10は、図8に示すクリーニング装置40におけるクリーニングベルト41の周辺部の斜視図である。
図9に示すように、クリーニングベルト41は、上下一対の架設ローラ42(架設ローラ42a及び架設ローラ42b)により、適度なテンションが付与された状態で架設されている。そして、架設ローラ42a及び架設ローラ42bは、ベルトフレーム43a(本発明における揺動部に相当するもの)に回転可能に支持されている。そのため、無端状のクリーニングベルト41は、架設ローラ42a及び架設ローラ42bの回転によって周回する。
【0047】
また、上側の架設ローラ42aには、回転伝達プーリ47a(図10参照)が固定されており、下側の架設ローラ42bには、回転伝達プーリ47b(図10参照)が固定されている。そして、回転伝達プーリ47aと回転伝達プーリ47bとの間には、回転伝達ベルト48(図10参照)が架設されている。そのため、下側の架設ローラ42bの回転によって回転伝達プーリ47bが回転すれば、その回転力が回転伝達ベルト48を介して回転伝達プーリ48aに伝達され、上側の架設ローラ42aも回転する。なお、下側の回転伝達プーリ47bには、ガイドローラ46(図10参照)が回転自在に取り付けられている。
【0048】
さらにまた、架設ローラ42a及び架設ローラ42bを支持するベルトフレーム43aは、上リンク44a及び下リンク44bを介してベルトフレーム43b(本発明におけるスライド部に相当するもの)に揺動可能に支持されている。そのため、ベルトフレーム43aは、4節リンク機構によってベルトフレーム43bに取り付けられることとなり、ベルトフレーム43bに対して上昇又は下降できる。したがって、架設ローラ42aと架設ローラ42bとの間に架設されたクリーニングベルト41は、周回可能なだけでなく、ベルトフレーム43aとともに、ベルトフレーム43bと平行に、垂直方向の矢印のように上下方向に移動できる。
【0049】
ここで、ベルトフレーム43aは、上側の架設ローラ42aの周上に位置するクリーニングベルト41がインク液体吐出面21に所定の圧力で接触するように、上昇バネ45によって上に向けて付勢されている。そのため、インク液体吐出面21に段差があっても、垂直方向の矢印のようにベルトフレーム43a(架設ローラ42a及び架設ローラ42b)が上下動するので、クリーニングベルト41は、インク液体吐出面21の段差に追従できる。
【0050】
また、ベルトフレーム43aが上下動する際は、上リンク44a及び下リンク44bが回動する。そして、下リンク44bには、回転軸42cが固定されている。この回転軸42cは、下側の架設ローラ42bの回転中心軸であり、4節リンク機構におけるベルトフレーム43a側の下端軸支部の構成要素となっている。そのため、下リンク44bが回動すれば、ベルトフレーム43aが上下動するだけでなく、回転軸42cも回動する。
【0051】
さらにまた、回転軸42cと架設ローラ42bとの間には、ワンウェイクラッチ49(本発明における逆転防止手段に相当するもの)が設けられている。このワンウェイクラッチ49は、ギヤ又はカムと爪とを組み合わせて構成されており、回転軸42cの正方向の回転を架設ローラ42bに伝達し、逆方向の回転を架設ローラ42bに伝達しないようになっている。なお、本実施形態では、回転軸42cの反時計回りの回転を正方向の回転とし、時計回りの回転を逆方向の回転とする。
【0052】
したがって、下リンク44bが下向きに回動すれば、回転軸42cが反時計回り(正方向)に回転するようになるので、ワンウェイクラッチ49により、架設ローラ42bも反時計回りに回転する。その結果、クリーニングベルト41は、反時計回りの矢印のように周回する。逆に、下リンク44bが上向きに回動すれば、回転軸42cが時計回り(逆方向)に回転するようになるので、ワンウェイクラッチ49により、架設ローラ42bは回転しない。そのため、クリーニングベルト41も周回しない。これにより、クリーニングベルト41は、下リンク44bの回動によって一方向にのみ周回する。なお、クリーニングベルト41の上下動のタイミングや周回量は、ガイド溝51a(図8参照)によって決定される。
【0053】
図11は、図8に示すインクジェットプリンタ10のインク液体吐出面21をクリーニングする経過を示す側面図であり、クリーニング開始前の状態を示している。
図12は、図8に示すインクジェットプリンタ10のインク液体吐出面21をクリーニングする経過を示す側面図であり、クリーニング開始時の状態を示している。
図13は、図8に示すインクジェットプリンタ10のインク液体吐出面21をクリーニングする経過を示す側面図であり、クリーニング終了時の状態を示している。
図14は、図8に示すインクジェットプリンタ10のインク液体吐出面21をクリーニングする経過を示す側面図であり、クリーニング終了後の状態を示している。
【0054】
図11に示すように、クリーニングの開始前は、ベルトフレーム43がポジションセンサ58よりも移動駆動プーリ54側に位置している。そして、この位置では、ガイドローラ46がガイド溝51aの下向きの傾斜部内にある。ここで、ガイドローラ46は、回転伝達プーリ47b(図10参照)に回転自在に取り付けられており、回転伝達プーリ47bは、架設ローラ42b(図9参照)に固定されている。また、架設ローラ42bは、上昇バネ45(図9参照)により、ベルトフレーム43a(図9参照)を介して上向きに付勢されている。したがって、図11に示すクリーニング開始前の状態では、ガイド溝51aにより、ガイドローラ46(架設ローラ42b)が上昇バネ45の付勢に反して押し下げられた状態になる。そのため、クリーニングベルト41は、インク吐出面21から離される。
【0055】
次に、クリーニングを開始するために、ベルト駆動モータ56を回転駆動してベルトフレーム43を往路方向(右向きの矢印の方向)に移動させる。これにより、上向きに付勢されているガイドローラ46は、ガイド溝51aの傾斜部にそって持ち上げられる。そのため、図12に示す往路クリーニングの開始時の状態では、クリーニングベルト41がインク液体吐出面21に所定の圧力で接触するようになる。そして、図12に示すベルトフレーム43の位置が往路クリーニングの開始基準であるホームポジションとなる。なお、ベルトフレーム43がホームポジションにあることは、ポジションセンサ58によって検知される。
【0056】
また、ガイドローラ46がガイド溝51aの傾斜部にそって持ち上げられると、図9に示す下リンク44bが上向きに回動し、回転軸42cが時計回り(逆方向)に回転する。しかし、回転軸42cの逆方向の回転は、ワンウェイクラッチ49により、架設ローラ42bに伝達されない。そのため、ベルトフレーム43が図11に示すクリーニング開始前の位置から図12に示すクリーニング開始時の位置(ホームポジション)に移動する間では、クリーニングベルト41が周回しない。
【0057】
このようなクリーニングベルト41によってインクジェットプリンタ10(ラインヘッド20)のインク液体吐出面21をクリーニングするには、ベルト駆動モータ56を回転駆動して、ベルトフレーム43をさらに往路方向に移動させる。具体的には、図12に示すクリーニング開始時の位置(ホームポジション)から図13に示すクリーニング終了時の位置(エンドポジション)までベルトフレーム43を移動させる。なお、この移動の際は、ホームポジションを基準として、ベルト駆動モータ56を回転駆動するパルス数をカウントする。
【0058】
このホームポジションとエンドポジションとの間では、ガイド溝51aがインク吐出面21に平行に形成されている。そのため、ガイドローラ46が上下しないので、クリーニングベルト41は、インク吐出面21に沿って平行に移動する。また、下リンク44b(図9参照)が回動しないので、架設ローラ42b(図9参照)が回転することはない。したがって、クリーニングベルト41が周回せず、クリーニングベルト41の移動によってインク吐出面21がワイパーのように摺擦されるので、インク吐出面21のインク汚れ、ゴミ、異物等が順次ふき取られる。
【0059】
ここで、図9に示すように、インク吐出面21には段差がある。しかし、上下動し、柔軟性、吸水性、及び通気性を有する多孔質発泡体から形成されたクリーニングベルト41は、この段差に追従する。そのため、架設ローラ42aの周上に位置するクリーニングベルト41と段差の隅角部との間に隙間ができることはなく、多孔質発泡体の内部に形成された気孔(セル)の毛細管力との相乗効果により、段差の隅角部にある残留インク等も残さずふき取られる。
【0060】
したがって、インク吐出面21は、図12に示すホームポジションから図13に示すエンドポジションまでのベルトフレーム43の移動によってクリーニングされる。これにより、往路のクリーニングが終了する。なお、ベルトフレーム43がエンドポジションまで移動したことは、ベルト駆動モータ56を回転駆動するパルス数が所定の値までカウントされることによって検出される。
【0061】
また、本実施形態のインクジェットプリンタ10は、ベルトフレーム43をホームポジションに帰還させる際にもクリーニングを実行する。しかし、クリーニングベルト41のインク吐出面21との接触部位は、ふき取りによって汚れている。そのため、クリーニングベルト41を所望の移動量で周回させることにより、ふき取り部位を変更する。
【0062】
クリーニングベルト41のふき取り部位の変更は、ベルト駆動モータ56を回転駆動して、ベルトフレーム43をさらに往路方向に移動させることによって行う。具体的には、図13に示すクリーニング終了時の位置(エンドポジション)から図14に示すクリーニング終了後の位置までベルトフレーム43を移動させる。なお、この移動の際は、ベルト駆動モータ56を回転駆動するパルス数をカウントする。
【0063】
図14に示すクリーニング終了後の位置では、ガイドローラ46がガイド溝51aの下向きの傾斜部内にある。そのため、エンドポジションよりもテンションプーリ55側にベルトフレーム43を移動させると、ガイドローラ46がガイド溝51aの傾斜部にそって押し下げられることとなる。その結果、インク吐出面21に接触していたクリーニングベルト41は、インク吐出面21から離される。なお、図14に示す位置までベルトフレーム43が移動したことは、ベルト駆動モータ56を回転駆動するパルス数が所定の値までカウントされることによって検出される。
【0064】
また、ガイドローラ46がガイド溝51aの傾斜部にそって押し下げられると、図9に示す下リンク44bが下向きに回動するので、回転軸42cが反時計回り(正方向)に回転する。そして、回転軸42cの正方向の回転は、ワンウェイクラッチ49により、架設ローラ42bに伝達される。そのため、クリーニングベルト41は、下リンク44bが下向きに回動した角度に対応する長さだけ周回する。その結果、クリーニングベルト41のふき取り部位が変更され、同じ部位でクリーニングを継続した場合のクリーニング能力の低下が防止される。なお、クリーニングベルト41の周回時は、インク吐出面21に非接触の状態となっているので、クリーニングベルト41の周回に支障はない。
【0065】
ここで、クリーニングベルト41の全周がすでに一度インク吐出面21と接触していれば、クリーニングベルト41を周回させても新鮮な部位が出現しない。そのため、吸引したインク等がインク吐出面21に逆移りし、かえって汚損する心配が生じる。しかし、過去の接触部位が1周回って再び接触部位となるまでの間は、接触部位の表裏面が外気に触れているので、通気性が向上して乾燥が促進される。その結果、吸着したインクの水分が蒸発し、吸着力が回復する。したがって、高いクリーニング性能が長期間にわたって維持されることとなり、クリーニングベルト41を1周以上周回させても問題は生じない。
【0066】
次に、クリーニングベルト41を復路方向(左向きの矢印の方向)に移動させ、往路の場合と同様のクリーニング動作(インク吐出面21のふき取り)を行う。具体的には、ベルト駆動モータ56を逆回転駆動してベルトフレーム43を復路方向に移動させる。これにより、図14に示す位置で上向きに付勢されているガイドローラ46がガイド溝51aの傾斜部にそって持ち上げられる。そのため、図14に示す状態から図13に示す状態に戻り、クリーニングベルト41が再びインク液体吐出面21に接触する。
【0067】
また、ガイドローラ46がガイド溝51aの傾斜部にそって持ち上げられると、図9に示す下リンク44bが上向きに回動し、回転軸42cが時計回り(逆方向)に回転する。しかし、回転軸42cの逆方向の回転は、ワンウェイクラッチ49により、架設ローラ42bに伝達されない。そのため、ベルトフレーム43が図14に示す位置から図13に示す位置に戻るまでの間は、クリーニングベルト41が周回しない。したがって、クリーニングベルト41は、すでに変更されたふき取り部位のままでインク液体吐出面21に接触する。
【0068】
このように、クリーニングベルト41は、往路クリーニングのときと異なる部位がインク液体吐出面21に接触する。そのため、続けてベルトフレーム43を復路方向に移動させ、図12に示すホームポジションに帰還させれば、ふき取り部位が変更されたクリーニングベルト41によってインク吐出面21がクリーニングされる。したがって、ホームポジション〜エンドポジション〜ホームポジションまでの1往復で、クリーニング性能(クリーニングベルト41の吸着力)に差がなく、インク吐出面21の全面が均一にふき取られることとなる。なお、ホームポジションの位置は、ポジションセンサ58によって検知する。
【0069】
さらにまた、次回のクリーニングのために、クリーニングベルト41のふき取り部位を再び変更する。具体的には、図12に示すホームポジションから図11に示す位置まで復路方向にベルトフレーム43を移動させる。これにより、ガイドローラ46がガイド溝51aの傾斜部にそって押し下げられ、クリーニングベルト41がインク吐出面21から離される。なお、図11に示す位置までベルトフレーム43が移動したことは、ベルト駆動モータ56を回転駆動するパルス数が所定の値までカウントされることによって検出される。
【0070】
さらに、ガイドローラ46がガイド溝51aの傾斜部にそって押し下げられると、図9に示す下リンク44bが下向きに回動し、回転軸42cが反時計回り(正方向)に回転する。そして、回転軸42cの正方向の回転は、ワンウェイクラッチ49により、架設ローラ42bに伝達される。そのため、クリーニングベルト41は、下リンク44bが下向きに回動した角度に対応する長さだけ周回する。したがって、クリーニングベルト41のふき取り部位が再度変更されることとなる。なお、クリーニングベルト41の周回量や速度は、ガイド溝51aの傾斜部の高さや傾斜角度を変更することによって調整できる。
【0071】
以上、説明したように、本実施形態のインクジェットプリンタ10は、クリーニングベルト41がインク液体吐出面21に所定の圧力で接触し、ノズル配列方向に移動する。そのため、インク吐出面21のインク溜まり等をふき取ってクリーニングできる。しかも、クリーニングに使用され、ふき取りによって汚れたクリーニングベルト41の接触部位(吸着力が低下した部分)は、クリーニングベルト41の周回によって往路と復路との間で変更される。したがって、吸着した残インク等がインク吐出面21に逆移りし、かえって汚損するという心配もなく、インク吐出面21の全面を均一にふき取ることができる。
【0072】
また、クリーニングベルト41の周回は、ベルト移動モータ56によるベルトフレーム43の移動が動力源となっている。具体的には、ベルトフレーム43が移動し、クリーニングベルト41とインク吐出面21とが接離する動作及びタイミングを利用して、クリーニングベルト41が一方向に少しずつ周回するようにしている。したがって、架設ローラ42を回転させるための専用のモータを設ける必要がなくなる。その結果、インクジェットプリンタ10の小型化及び経済性の向上を図ることができる。しかも、モータから引き出された電源ケーブルがクリーニング動作のたびに行き来することもなく、屈曲や擦れ、引っ掛け等の繰り返しに起因する断線トラブルも生じない。
【0073】
さらにまた、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、以下のような種々の変形等が可能である。
(1)本実施形態は、ラインヘッド20を備えるライン方式のインクジェットプリンタ10を液体吐出装置としている。しかし、液体吐出装置は、これに限らず、ヘッドを記録用紙の幅方向に移動させて印画を行うシリアル方式のプリンタであってもよい。また、プリンタの他、複写機、ファクシミリ等にも適用できる。
【0074】
(2)本実施形態では、液体吸着体として、発泡体からなる無端状のクリーニングベルト41を使用しているが、クリーニングローラを用いてもよい。また、液体を吸着可能であれば、発泡体でなくてもよい。さらにまた、本実施形態では、ベルトフレーム43を1往復させてクリーニングの完了としているが、片道ずつのクリーニングや、1回のクリーニングで複数回の往復を繰り返すようにしてもよい。
【0075】
(3)本実施形態では、クリーニングベルト41(ベルトフレーム43)の移動手段として、ガイドシャフト52、移動駆動ベルト53、移動駆動プーリ54、テンションプーリ55、ベルト移動モータ56、及び移動伝達ベルト57を用いている。しかし、ギヤ、ベルト、カム、ピストン、又はこれらの組合せ等によって移動手段を構成してもよい。
【0076】
(4)本実施形態では、架設ローラ42b(支持ローラ)の逆転防止手段として、架設ローラ42bと回転軸42cとの間に、ギヤ又はカムと爪とを組み合わせたワンウェイクラッチ49を設けている。しかし、逆転防止手段として、回転軸に巻バネクラッチを固定し、巻バネの絞り方向の回転を支持ローラに伝達し、緩み方向の回転を支持ローラに伝達しないようにしてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10 インクジェットプリンタ(液体吐出装置)
20 ラインヘッド(液体吐出ヘッド)
32 ノズル
32a ノズル列
41 クリーニングベルト(液体吸着体)
42,42a,42b 架設ローラ(支持ローラ)
42c 回転軸
43a ベルトフレーム(揺動部)
43b ベルトフレーム(スライド部)
49 ワンウェイクラッチ(逆転防止手段)
51a ガイド溝(案内部)
52 ガイドシャフト(移動手段)
53 移動駆動ベルト(移動手段)
54 移動駆動プーリ(移動手段)
55 テンションプーリ(移動手段)
56 ベルト移動モータ(移動手段)
57 移動伝達ベルト(移動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための複数のノズルと、
各前記ノズルを一方向に配列したノズル列が形成された液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドの前記ノズル列の形成部分に付着した液体を吸着可能な液体吸着体と、
前記液体吸着体を前記ノズルの配列方向に相対的に移動させる移動手段と、
前記液体吸着体を回転可能に支持する支持ローラと、
前記支持ローラの回転中心軸となり、前記移動手段による前記液体吸着体の相対的な移動を動力源として正方向又は逆方向に回転する回転軸と、
前記回転軸の正方向の回転を前記支持ローラに伝達し、逆方向の回転を前記支持ローラに伝達しない逆転防止手段と
を有する液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記移動手段によって前記ノズルの配列方向に移動するスライド部と、
前記スライド部に取り付けられ、前記回転軸を保持するとともに、前記スライド部に対して上昇又は下降可能な揺動部と、
前記スライド部の移動にともなって前記揺動部を上昇又は下降させるとともに、前記回転軸を正方向又は逆方向に回転させるように案内する案内部と
を有する液体吐出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出装置において、
前記揺動部は、リンク機構によって前記スライド部に取り付けられており、
前記回転軸は、リンク機構における前記揺動部側の下端軸支部の構成要素である
液体吐出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体吐出装置において、
前記リンク機構は、4節リンク機構である
液体吐出装置。
【請求項5】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記液体吐出ヘッドは、複数の前記ノズル列が並列に形成されており、
前記液体吸着体は、並列する両端の前記ノズル列間の間隔よりも大きく形成されている
液体吐出装置。
【請求項6】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記液体吐出ヘッドは、液体の吐出対象の幅方向の長さにわたって各前記ノズルを配列したラインヘッドである
液体吐出装置。
【請求項7】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記液体吸着体は、前記支持ローラによって周回可能に架設された無端状のクリーニングベルトであり、
前記クリーニングベルトは、その幅方向が前記ノズルの配列方向に対して角度を持つようにするとともに、前記支持ローラの周上の位置で前記液体吐出ヘッドの前記ノズル列の形成部分に接触可能なように配置されている
液体吐出装置。
【請求項8】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記逆転防止手段は、前記回転軸の正方向の回転を前記支持ローラに伝達し、逆方向の回転を前記支持ローラに伝達しないように前記支持ローラと前記回転軸との間に設けられたワンウェイ機構である
液体吐出装置。
【請求項9】
請求項8に記載の液体吐出装置において、
前記ワンウェイ機構は、ワンウェイクラッチである
液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−184444(P2010−184444A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30534(P2009−30534)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】