説明

液体吐出装置

【課題】長尺状に連続するメディアを印刷位置に搬送する際に適正なテンション調整を行なうことにより印刷画像の画質を向上させた液体吐出装置を提供する。
【解決手段】印刷位置よりメディア搬送方向下流側に設けられ印刷位置に搬送されたメディア4にテンションを付与するテンションローラ11と、テンションローラ11の回転トルクを可変にすることによりメディア4に付与するテンションを調整可能なトルクリミッター19と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット記録装置などの液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、例えば、インクジェットプロッタについて、プラテン上をインクジェットヘッドと対向する印刷位置へ搬送される長尺状に連続する布媒体に歪みや皺が生じないように搬送するため、印刷位置より媒体搬送方向上流側に送りローラ対が設けられ下流側にテンションローラが設けられている。テンションローラと送りローラは同一方向へ同期をとって回転駆動するようになっている。このときテンションローラの周速度を送りローラの周速度より1〜3%程度速くなるように駆動することで、布媒体の搬送方向にテンションを付与して搬送する装置を提案した(特許文献1)。
或いは、供給ロールから上流側テンションバーを介してメディアがプラテン上の印刷位置へテンションを付与されて搬送され、プラテンから下流側テンションバーを経てテンションを付与されたまま巻取りロールに巻き取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−203752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した、例えば普通紙やPP(ポリプロピレン),PET(ポリエチレンテレフタレート)などの樹脂シート等の媒体と比べて伸縮性が高い布などのメディアを用いた場合、テンションローラと送りローラとの周速差を設けてもメディアの伸びがこれを吸収して印刷位置において十分なテンションが付与されないおそれがある。仮にメディアに一定のテンションが作用したとしても当該メディアの搬送方向への伸びにより印刷画像の画質が低下するおそれがある。
【0005】
また、プラテンの上流側及び下流側に各々テンションバーを設けてメディアにテンションを付与しても、伸縮性の高い布などのメディアの場合には、プラテン上の印刷位置で十分なテンションが付与されないおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、上記課題を解決し、長尺状に連続するメディアを印刷位置に搬送する際に適正なテンション調整を行なうことにより印刷画像の画質を向上させた液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る液体吐出装置は、以下の構成を備える。即ち、長尺状に連続するメディアに対して液体を吐出して印刷画像を形成する液体吐出ヘッドと、前記メディアを前記液体吐出ヘッドと対向する印刷位置に連続搬送する搬送装置を備えた液体吐出装置であって、前記印刷位置よりメディア搬送方向下流側に設けられ前記印刷位置に搬送された前記メディアにテンションを付与するテンション付与手段と、前記テンション付与手段の前記メディアに付与するテンションを調整可能なテンション調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、例えば織布、不織布などの伸縮性の高いメディアを用いても、プラテン上を搬送装置によって印刷位置へ搬送されるメディアに印刷位置の搬送方向下流側に設けられたテンション付与手段によって引っ張られて搬送されるので印刷位置におけるメディアの弛みを軽減することができる。また、テンション調整手段によってメディアの種類に応じて印刷位置で最適なテンションが作用するようにテンション付与手段により付与されるテンションの細かい調整ができるので、印刷画像の画質を向上させることができる。
【0009】
また、本発明において、前記テンション調整手段は、前記テンション付与手段としてのテンションローラと、該テンションローラのローラ軸と、前記テンションローラを駆動する駆動源としての駆動モータのモータ軸を連結する連結部に設けられたトルクリミッターであり、前記駆動モータにより前記テンションローラに伝達される回転トルクを可変とすることで前記メディアに作用するテンションを調整するようにしてもよい。
これによれば、汎用のトルクリミッターを用いることで機械的な構造を簡略化してテンション調整が安価で省スペースで実現できる。
【0010】
また、本発明において、前記テンション調整手段は、摩擦クラッチであって摩擦箇所の摩擦力を調整することにより前記メディアに付与するテンションを調整するようにしてもよい。
これにより、テンション調整手段として汎用の機械式クラッチを用いることでテンション調整が安価に実現できる。尚、テンション調整手段としては、上述した摩擦クラッチ、トルクリミッターなどの接触力によるクラッチに代えて、モータ電流値を制御して所定のトルクに到達すると空転させる構成或いはモータトルクをモニターして所定のトルクに到達すると電磁クラッチにより空転させる構成や、非接触力(マグネットカップリング)などによるテンション調整でもよい。
【0011】
また、本発明において、前記テンションローラは前記メディアに当接する周面が、金属溶射により粗面に形成されていることが望ましい。
これによれば、特にメディアが布媒体である場合に、テンションローラとの食い付きが良くなるため、テンション調整がし易くなる。
【0012】
また、本発明において、前記搬送装置は、前記印刷位置より前記メディア搬送方向上流側に設けられ前記メディアを前記印刷位置へ搬送する搬送ローラと、前記プラテンよりメディア搬送方向下流側に設けられ前記印刷位置に搬送された前記メディアにテンションを付与するテンションローラが設けられていてもよい。
これにより、プラテンの上流側及び下流側でメディアに対して駆動ローラによりテンションを確実に付与できるので、印刷位置における画像品位を向上させることができる。
【0013】
また、本発明において、供給側ロールより前記印刷位置へ繰り出される前記メディアにテンションを付与する上流側テンションバーと、前記プラテンから巻取り側ロールに巻き取られる前記メディアにテンションを付与する下流側テンションバーと、を備えていてもよい。
これにより、プラテンのメディア搬送方向上流側及びメディア搬送方向下流側におけるメディアの弛みを除去してテンションローラによるプラテンに対向する印刷位置におけるメディアの弛み除去効果が相乗効果として向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長尺状に連続するメディアを印刷位置に搬送する際に適正なテンション調整を行なうことにより印刷画像の画質を向上させた液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インクジェット記録装置の模式図である。
【図2】搬送装置を示す説明図である。
【図3】布メディアを用いた印刷位置の拡大図とテンション調整手段の斜視図である。
【図4】他例に係る印刷位置の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る液体吐出装置の実施形態について詳細に説明する。以下では、液体吐出装置の一例として、インクジェット記録装置についてその搬送装置の構成とともに説明する。また、主走査方向は、媒体(メディア)の搬送方向(X軸方向)、副走査方向は主走査方向と直交するキャリッジが往復動する方向(Y軸方向)、を指し示すものとする。
【0017】
図1は、インクジェット記録装置の外観を示す斜視図である。同図に示すように、インクジェット記録装置1は、メディア(印刷媒体)として例えば大判で長尺状のロールシート(本実施例では、布、生地など)が用いられる。繰出し軸2に巻かれた供給ロール3から繰り出されたメディア4は、上流側テンションバー5を経てプラテン6に搬送される。
【0018】
プラテン6には搬送装置7が設けられており、メディア4は搬送装置7によって吐出ヘッド8と対向する印刷位置へ主走査方向に搬送される。吐出ヘッド8は、キャリッジ9に搭載されており、キャリッジ9は、副走査方向(メディア幅方向)に設けられたY軸方向支持部材(Yバー)10に沿って往復動可能に設けられている。キャリッジ9が副走査方向に移動しながらメディア4に対しインク液を吐出して印刷が行われ、印刷が行われると、搬送装置7によってメディア4は所定量主走査方向に送られてキャリッジ9が走査して次の印刷動作が開始される。
【0019】
尚、吐出ヘッド8と対向するプラテン6の一部には布メディアの場合にはインクが透過(裏抜け)してしまうため凹状のインク受け部材15(図3参照)が設けられていてもよい。
【0020】
また、メディア4を支持しながら搬送をガイドするプラテン6の裏面には、インクの定着性を高めるためのヒータ16(図4参照)、メディア4の両側の浮き上がりを抑えるメディアガイド(図示せず)が設けられていてもよい。
【0021】
印刷後のメディア4は、テンションローラ11によって下流に送られ、下流側テンションバー12を経て、巻取り軸13に巻取りロール14として巻き取られる。
【0022】
搬送装置7は、図2に示すようにメディア4の幅方向両側に設けられた駆動ローラ7aを備えている。駆動ローラ7aはメディア4の裏面側に当接して設けられる。駆動ローラ7aとしては、布メディア用として表面に金属片を切削により突起させたスパイクローラが好適に用いられる。駆動ローラ7aは駆動軸7bの長手方向に複数箇所に等間隔で設けられている。駆動軸7bの端部にはプーリ7cが設けられており、駆動モータ7dのモータ軸に設けられたモータプーリ(図示せず)とタイミングベルト7eで連結されている。
尚、図4に示すように搬送装置7は、駆動ローラ7aとメディア4を挟み込む従動ローラ7fを有していてもよい。
【0023】
また、駆動ローラ7aよりメディア搬送方向下流側には、メディアエンコーダ7gがメディア4の両側に一対設けられている。各メディアエンコーダ7gは、メディア4の搬送量を検出して、検出信号が図示しないモータ駆動制御部に各々入力される。モータ駆動制御部は、駆動モータ7dへ出力される駆動パルスとメディアエンコーダ7gの検出信号(検出パルス)を比較することで、メディア4が搬送方向と平行に搬送されているのか、或いはメディア4の幅方向のいずれかに向かって傾いているのか搬送状態を知ることができる。そして、モータ駆動制御部は、メディア4の搬送方向に対する傾きに応じてメディア4の両側に設けられた駆動ローラ7aの駆動速度をメディア4の傾きが矯正されるように加減速制御(フィードバック制御)する。
【0024】
図3(a)において、テンションローラ11は、金属ローラ(ステレス製若しくはアルミニウム製)の周面に、金属溶射により粗面に形成されている。これにより、メディア4が布媒体である場合に、テンションローラ11との食い付きが良くなるため、テンション調整がし易くなる。尚、布以外のメディア4、例えば樹脂シート等においては、必ずしも粗面にしなくてもゴム製或いは樹脂製のローラであってもよい。
【0025】
図3(b)において、テンションローラ11のローラ軸11aは、板金17に回転可能に軸支されており、カップリング18を介してカップリング軸18aと連結されている。カップリング軸18aにはトルクリミッター19(テンション調整手段)が連結されている。トルクリミッター19にはテンションローラ駆動モータ20のモータ軸20aが連結されている。トルクリミッター19は、調整ダイヤル19aを回転させるとトルクリミッター19内に設けられたコイルばねの付勢力が変化して摩擦板どうしの摩擦力を調整することでメディア4に作用するテンションを調整するようになっている。
【0026】
上記構成によれば、例えば織布、不織布などの伸縮性の高いメディア4を用いても、プラテン6の上流側及び下流側でテンションバー5,12により大まかなテンションが付与されるうえに、プラテン6上の印刷位置の搬送方向下流側でトルクリミッター19によってテンションローラ11によってメディア4の種類に応じて最適なテンションが作用するように細かい調整できるので、印刷画像の画質を向上させることができる。
【0027】
尚、テンション調整手段としては、摩擦クラッチ、トルクリミッターなどの接触力によるクラッチや、モータ電流値を制御して所定のトルクに到達すると空転させる構成或いはモータトルクをモニターして所定のトルクに到達すると電磁クラッチにより空転させる構成や、非接触力(マグネットカップリング)などによるテンション調整でもよい。
【0028】
また、図4は他例に係る印刷位置の拡大図である。本実施例では、メディア搬送方向に複数列(4列)の吐出ヘッド8が設けられ、各吐出ヘッド8に対向してプラテン6が直線的に配置されている。このプラテン6の裏面側に形成された凹溝6aは、ヒータ(電熱線)16が内蔵されており、メディア4は図示しない吸引装置によりプラテン6上に吸引されるようになっている。吐出ヘッド8から吐出されたインク滴はメディア4に着弾するとプラテン6を加熱するヒータ16によって乾燥されるようになっている。
【0029】
プラテン6のメディア搬送方向上流側には、駆動ローラ7aと従動ローラ7fによりメディア4を挟み込みながら搬送する搬送装置7が設けられている。また、プラテン6のメディア搬送方向下流側には、前述したトルクリミッター19が連結したテンションローラ11が設けられている。
このような構成により、プラテン6上の印刷位置の上流側及び下流側でメディア4に対してテンションを確実に付与できるので、画像品位を向上させることができる。
【0030】
以上説明したように、例えば織布、不織布などの伸縮性の高いメディア4を用いても、プラテン6上を搬送装置7によって印刷位置へ搬送されるメディア4に印刷位置の搬送方向下流側に設けられたテンションローラ11によって引っ張られて搬送されるので印刷位置におけるメディア4の弛みを軽減することができる。また、トルクリミッター19によってテンションローラ11の回転トルクを可変とすることによりメディア4の種類に応じて印刷位置で最適なテンションが作用するように細かい調整できるので、印刷画像の画質を向上させることができる。
【0031】
また、プラテン6のメディア搬送方向上流側及びメディア搬送方向下流側におけるメディア4の弛みをテンションバー5,12により除去してテンションローラ11によるプラテン6に対向する印刷位置におけるメディア4の弛み除去効果が相乗効果として向上する。
【0032】
また、テンション調整手段として汎用のトルクリミッター19を用いることで機械的な構造を簡略化してテンション調整が安価で省スペースで実現できる。更には、テンションローラ11はメディア4に当接する周面が、金属溶射により粗面に形成されているので、特にメディア4が布媒体である場合に、テンションローラ11との食い付きが良くなるため、テンション調整がし易くなる。
【符号の説明】
【0033】
1 インクジェット記録装置 2 繰出し軸 3 供給ロール 4 メディア 5 上流側テンションバー 6 プラテン 6a 凹溝 7 搬送装置 7a 駆動ローラ 7b 駆動軸 7c プーリ 7d 駆動モータ 7e タイミングベルト 7f 従動ローラ 7g メディアエンコーダ 8 吐出ヘッド 9 キャリッジ 10 Y軸方向支持部材 11 テンションローラ 11a ローラ軸 12 下流側テンションバー 13 巻取り軸 14 巻取りロール 15 インク受け部材 16 ヒータ 17 板金 18 カップリング 18aカップリング軸 19 トルクリミッター 19a 調整ダイヤル 20 テンションローラ駆動モータ 20a モータ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状に連続するメディアに対して液体を吐出して印刷画像を形成する液体吐出ヘッドと、前記メディアを前記液体吐出ヘッドと対向する印刷位置に連続搬送する搬送装置を備えた液体吐出装置であって、
前記印刷位置よりメディア搬送方向下流側に設けられ前記印刷位置に搬送された前記メディアにテンションを付与するテンション付与手段と、
前記テンション付与手段の前記メディアに付与するテンションを調整可能なテンション調整手段と、を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記テンション調整手段は、前記テンション付与手段としてのテンションローラと、該テンションローラのローラ軸と、前記テンションローラを駆動する駆動源としての駆動モータのモータ軸を連結する連結部に設けられたトルクリミッターであり、前記駆動モータにより前記テンションローラに伝達される回転トルクを可変とすることで前記メディアに作用するテンションを調整する請求項1記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記テンション調整手段は、摩擦クラッチであって摩擦箇所の摩擦力を調整することにより前記メディアに付与するテンションを調整する請求項1又は請求項2記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記テンションローラは前記メディアに当接する周面が、金属溶射により粗面に形成されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記搬送装置は、前記印刷位置より前記メディア搬送方向上流側に設けられ前記メディアを前記印刷位置へ搬送する搬送ローラと、前記プラテンよりメディア搬送方向下流側に設けられ前記印刷位置に搬送された前記メディアにテンションを付与するテンションローラが設けられている請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の液体吐出装置。
【請求項6】
供給側ロールより前記印刷位置へ繰り出される前記メディアにテンションを付与する上流側テンションバーと、
前記プラテンから巻取り側ロールに巻き取られる前記メディアにテンションを付与する下流側テンションバーと、を備えた請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の液体吐出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−236305(P2012−236305A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106116(P2011−106116)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】