液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置及び液体噴射ヘッドの液体充填方法
【課題】(1)液体噴射ヘッドのスペースファクタの向上(2)余剰液体の回収能力の向上(3)簡素な構成で液体噴射記録装置の初期充填を実現する
【解決手段】
複数のノズル孔31aからなるノズル列31cを有するノズル体23を備えた液体噴射ヘッド10において、ノズル列31cを覆うように形成されたノズルガード24を備え、ノズルガード24は、ノズル体23の表面から離間配置されノズル列31cと対向するスリット24cが形成された天板部24aと、天板部24aの周縁部とノズル体23との間を密閉する密閉部24bと、ノズル列23cの下方に吸引口15aが開口しノズルガード24の内側空間Sと連通する吸引流路15とを備え、吸引流路15に接続される吸引部16によってノズルガード24の内側空間Sを負圧室Rとし、ノズル孔15aから負圧室R内に溢れ出た第一液体Yを吸引することを特徴とする。
【解決手段】
複数のノズル孔31aからなるノズル列31cを有するノズル体23を備えた液体噴射ヘッド10において、ノズル列31cを覆うように形成されたノズルガード24を備え、ノズルガード24は、ノズル体23の表面から離間配置されノズル列31cと対向するスリット24cが形成された天板部24aと、天板部24aの周縁部とノズル体23との間を密閉する密閉部24bと、ノズル列23cの下方に吸引口15aが開口しノズルガード24の内側空間Sと連通する吸引流路15とを備え、吸引流路15に接続される吸引部16によってノズルガード24の内側空間Sを負圧室Rとし、ノズル孔15aから負圧室R内に溢れ出た第一液体Yを吸引することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル噴射口より液体を噴射して被記録媒体に画像や文字を記録する液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置及び液体噴射ヘッドの液体充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体噴射記録装置、例えば各種印刷を行うインクジェットプリンタは、被記録媒体を搬送する搬送装置と、インクジェットヘッドとを備えている。ここで用いられるインクジェットヘッドとしては、複数のノズル孔からなるノズル列を有するノズル体と、各ノズル孔と対となって該ノズル孔に連通する複数の圧力発生室と、該圧力発生室にインクを供給するインク供給系と、圧力発生室に隣接配置された圧電アクチュエータとを備えており、圧電アクチュエータを駆動して圧力発生室を加圧し、圧力発生室内のインクをノズル孔のノズル噴射口から噴射させるものが知られている。
【0003】
このようなインクジェットプリンタの一種として、上記インクジェットヘッドを記録紙(被記録媒体)の搬送方向と直交する方向に移動させるキャリッジを設け、記録紙に印刷を施すものが知られている。この種のインクジェットプリンタでは、インクジェットヘッドの可動範囲内にメンテナンスのためのサービスステーションを設け、このサービスステーションまでインクジェットヘッドを移動させて、ノズル孔をクリーニングしたり、インクジェットヘッドにキャップを被せて負圧吸引しノズル孔にインクを初期充填したりしている。
【0004】
また、上記インクジェットプリンタと異なる種のものとして、箱体などの比較的に大型の被記録媒体に用いられ、インクジェットヘッドを固定して搬送される被記録媒体に印刷を施すものがある。この種のインクジェットプリンタでは、インクジェットヘッドを移動させることができず、また、インクジェットヘッドと被記録媒体との間やインクジェットヘッドの下方にサービスステーションを設けるスペースが少ない。このため、インクを圧力発生室に初期充填する際には、インク供給系側からインクを加圧して充填するのが通常である。
【0005】
この加圧充填では、ノズル孔から垂れ流しとなる余剰インクによってインクジェットヘッド及びインクジェットプリンタ近傍が汚染されることを防止するため、また、インク充填後のインクの噴射が不安定になることを防止するために、余剰インクを除去する手段を講じなければならない。また、初期充填の場面だけでなく、通常使用時にノズル体上を垂れるインクを回収する場面でも同様である。
【0006】
下記特許文献1には、インクジェットヘッドの下部に、板状多孔質吸収体からなりノズル形成面より外方に突出したインク案内部材及びこのインク案内部材に接続されたブロック型インク吸収体を設け、余剰インクをインク案内部材で受け止めると共にインク吸収体まで導き、この導いた余剰インクをインク吸収体に吸収させるインクジェットヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−116338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では、インクジェットヘッドの下部にインク案内部材とインク吸収体を設けるので、インクジェットヘッドの下部を有効利用することができないという問題があった。また、一定制約下でインクジェットプリンタを設計した場合に被記録媒体の下部に印刷を行うことが出来ないという問題があった。
さらに、従来の技術では、余剰インクをインク吸収体に吸収させるだけであるので、回収することができる余剰インクの量に限界があるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、以下を目的とする。
(1)液体噴射ヘッドのスペースファクタを向上させ、液体噴射記録装置の設計の自由度を向上させる。
(2)余剰液体の回収能力を向上させて、余剰液体による汚染を防止すると共に液体充填後の液体噴射を安定させる。
(3)簡素な構成で液体噴射記録装置の初期充填を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
液体噴射ヘッドに係る解決手段として、複数のノズル孔からなるノズル列を有するノズル体と、前記各ノズル孔と対となって該ノズル孔に連通する複数の圧力発生室と、該圧力発生室に第一液体を供給する液体供給系と、前記圧力発生室に隣接配置されたアクチュエータとを備え、前記アクチュエータを駆動して該圧力発生室を加圧し、該圧力発生室内の前記第一液体を前記ノズル孔のノズル噴射口から噴射させる液体噴射ヘッドにおいて、前記ノズル列を覆うように形成されたノズルガードを備え、前記ノズルガードは、前記ノズル体の表面から離間配置され前記ノズル列と対向するスリットが形成された天板部と、前記天板部の周縁部と前記ノズル体との間を密閉する密閉部と、前記ノズル列の下方に吸引口が開口し前記ノズルガードの内側空間と連通する吸引流路とを備え、前記吸引流路に接続される吸引部によって前記ノズルガードの内側空間を負圧室とし、前記ノズル孔から前記負圧室内に溢れ出た前記第一液体を吸引する、という手段を採用する。
【0011】
この発明によれば、液体の初期充填時や通常使用時の余剰液体が、スリットでのみ外部と連通する負圧室に流出すると共に、負圧室外部の気体がスリットを介して負圧室に流入する。これにより、余剰液体がスリットから外部に漏出し難い状態で負圧室を移動し、吸引口から吸引流路内に吸引されて外部へと排出されるので、ノズル噴射口から流れ出た液体を回収するスペースを極めて小さいものとし、液体噴射ヘッドのスペースファクタを向上させることができると共に、液体噴射記録装置の設計の自由度を向上させることができる。
また、吸引流路により液体を連続して排出することができるので、余剰液体の回収能力が極めて高く、多量の余剰液体が流出した場合であっても余剰液体による汚染を防止することができると共に、液体充填後の液体噴射を安定させることができる。
また、ノズル面をワイパーによって清掃する必要が無い上に、ワイパー等の清掃装置が具備されているサービスステーションを設けることなく、ノズルガードと、吸引流路と、吸引部とで余剰液体を回収することができるので、簡素な構成で液体噴射記録装置の初期充填を実現することが可能となる。
【0012】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記吸引口は、前記スリットと対向しない位置に設けられている、という手段を採用する。
この発明によれば、スリットから流入した空気が内側空間を経由してから吸引口に達するので、内側空間を速やかに減圧することができ、負圧室の負圧状態を良好に継続させることができる。これにより、余剰液体の回収を速やかに行うことができると共に多量の余剰液体の回収を安定的に行うことができる。
【0013】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記吸引口は、前記負圧室の重力方向最下部に設けられている、という手段を採用する。
この発明によれば、最下部において余剰液体が吸引されるので、下方に流れて最下部近傍に到達した余剰液体を効率よく吸引することができる。
【0014】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記スリットは、該スリットの長手方向を重力方向に向けて形成されると共に、下端部が円形状に形成されている、という手段を採用する。
この発明によれば、余剰液体がスリットから外部に漏出しようとしても、スリット下端部において表面張力により維持された液体の表面が破壊され難く、負圧室に余剰液体が留まり易くなるので、余剰液体の漏出による汚染を防止することができると共に余剰液体の回収能力を向上させることができる。
【0015】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの内側下部に前記吸引口へ収束する傾斜部が設けられ、前記傾斜部では、前記ノズル体の表面に平行で前記ノズル列に垂直な方向の幅寸法が前記吸引口に向けて漸次小となっている、という手段を採用する。
この発明によれば、負圧室下部に達した余剰液体が幅方向において吸引口に向かって流れて吸引口近傍に達するので、吸引口に吸引され易くなる。これにより、余剰液体を効率よく吸引することが可能となり、余剰液体の回収能力が向上する。
【0016】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの内側下部に前記吸引口へ収束する傾斜部が設けられ、前記傾斜部では、前記ノズル体の表面に垂直な方向における前記ノズル体との距離が前記吸引口に向けて漸次小となっている、という手段を採用する。
この発明によれば、ノズル体の表面に垂直な方向におけるノズル体と傾斜部との距離が、吸引口に向かうほど近くなっているので、傾斜部を下方に向けて流れる余剰液体が吸引口近傍に達する。これにより、余剰液体を効率よく吸引することが可能となり、余剰液体の回収能力が向上する。
【0017】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの表面うち、少なくとも外方に露出する外表面に撥水膜が形成されている、という手段を採用する。
この発明によれば、余剰液体がスリットから外部に漏出しようとしても、撥水膜にはじかれて負圧室に留まり易くなるので、余剰液体の回収能力が向上すると共に余剰液体の漏出による汚染が防止される。
【0018】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの表面のうち、前記負圧室と接する内表面に親水膜が形成されている、という手段を採用する。
この発明によれば、余剰液体が負圧室を流れ易くなってスリットから外部に漏出し難くなると共に、撥水膜にはじかれた余剰液体を負圧室に導くので、余剰液体がスリットから流れ出ずに負圧室に留まり易くなる。
【0019】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの前記天板部に、前記負圧室側に窪む窪み部が形成され、該窪み部の底面に前記スリットが形成されている、という手段を採用する。
この発明によれば、窪み部の底面にスリットが形成されるので、ノズルガードが被記録媒体等と接触した場合であっても、スリット近傍の撥水膜と接触させる確率を低減させて撥水膜が剥離することを防止することができる。
【0020】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの前記天板部に、前記負圧室側に突出し、かつ、前記スリットを環状に囲繞する環状突出壁が形成されている、という手段を採用する。
この発明によれば、環状突出壁が内表面を伝う余剰液体がスリットに向かうことを阻止するので、スリットから余剰液体が漏出することを防止することができる。特に、液体噴射ヘッドのノズル噴射口を下方に向けて被記録媒体に液体を噴射する場合において、負圧室を復圧させた後の内側空間に余剰液体が残存していたとしても、スリットから余剰液体が漏出することを効果的に防止することができる。
【0021】
また、液体噴射記録装置に係る解決手段として、上記解決手段を採用したいずれかの液滴噴射ヘッドを備え、前記液体供給系に第一液体を供給し得るように構成された液体供給部を備えている、という手段を採用する。
この発明によれば、液体供給系に第一液体が供給されるので、例えば、第一液体をインクとして、液体噴射ヘッドにインクを供給することができる。
【0022】
また、液体噴射記録装置に係る解決手段として、上記解決手段を採用したいずれかの液滴噴射ヘッドを備え、前記液体供給系に第一液体と第二液体とを切り換え供給し得るように構成された液体供給部を備えている、という手段を採用する。
この発明によれば、液体供給系に二種類の液体が供給されるので、例えば、液体供給系にインクと洗浄液とを供給して、液体噴射ヘッドの清掃に対する労力を低減させると共に、効率よく清掃をすることができる。これにより、余剰液体の回収能力を回復させることができる。
【0023】
また、液体噴射記録装置に係る解決手段として、上記解決手段を採用したいずれかの液滴噴射記録装置であって、負圧室内に溢れ出た第一液体を吸引することで回収し、圧力発生室に該第一液体を供給する再利用液体供給系を有する、という手段を採用する。
この発明によれば、負圧室内に溢れ出た第一液体を再利用することができる。
【0024】
また、液体噴射記録装置に係る解決手段として、上記解決手段を採用したいずれかの液滴噴射記録装置であって、再利用液体供給系に、フィルタ部もしくは脱気装置を有するという手段を採用する。
この発明によれば、適切な状態の液体を再利用することができる。
【0025】
また、液体噴射ヘッドの液体充填方法に係る解決手段として、複数のノズル孔からなるノズル列を有するノズル体と、前記各ノズル孔と対となって該ノズル孔に連通する複数の圧力発生室と、該圧力発生室に第一液体を供給する液体供給系と、前記圧力発生室に隣接配置されたアクチュエータとを備え、前記アクチュエータを駆動して該圧力発生室を加圧し、該圧力発生室内の前記第一液体を前記ノズル孔のノズル噴射口から噴射させると共に、前記ノズル列を覆うように形成されたノズルガードを備え、前記ノズルガードは、前記ノズル体の表面から離間配置され前記ノズル列と対向するスリットが形成された天板部と、前記天板部の周縁部と前記ノズル体との間を密閉する密閉部と、前記ノズル列の下方に吸引口が開口し前記ノズルガードの内側空間と連通する吸引流路と、前記吸引流路に接続される吸引部によって前記ノズルガードの内側空間を負圧室とし、前記ノズル孔から前記負圧室内に溢れ出た前記第一液体を吸引する液体噴射ヘッドの液体充填方法であって、前記吸引部により前記負圧室を大気圧より負圧とした状態で、前記液体供給系を用いて前記第一液体を前記圧力発生室まで加圧充填する、という手段を採用する。
この発明によれば、内側空間が大気圧と同圧の状態で液体を圧力発生室に加圧充填した場合に比べて、スリットから空気が連続的に流入するので、余剰液体がスリットから漏出し難く、また、吸引口が連続的に余剰液体を排出するので、余剰液体が内側空間(負圧室)に溜まってスリットから溢れ出ることもない。これにより、余剰液体による汚染を防止しつつ液体の充填が可能となり、液体充填後の液体噴射を安定させることができる。
【0026】
また、液体噴射ヘッドの液体充填方法に係る解決手段として、前記吸引部により前記負圧室を大気圧より負圧とした状態で、前記加圧充填を終了する、という手段を採用する。
この発明によれば、負圧室とした状態で、加圧充填を終了し、負圧室に液体が流れ出なくなるので、内側空間を復圧させた後に圧力発生室に加圧充填を終了した場合に比べて、余剰液体がスリットから漏出し難く、また、スリットから溢れ出ることもない。これにより、余剰液体による汚染を防止しつつ液体の充填が可能となり、液体充填後の液体噴射を安定させることができる。
【0027】
また、本発明の液体噴射記録装置の使用方法は、上記本発明の液体噴射記録装置の使用方法であって、前記吸引部を第1出力により動作させることで、前記内側空間を負圧室とし、前記吸引流路を介して前記噴射孔列から漏出した前記液体を吸引する液体充填モードを有することを特徴としている。
この構成によれば、吸引部を第1出力により動作することで、噴射体ガードの内側空間が大気圧よりも十分に負圧となった負圧室となる。この場合、液体の初期充填時や通常使用時に液体供給部から供給されて噴射孔列から漏出した余剰液体は、スリットでのみ外部と連通する負圧室に流出するとともに、負圧室外部の気体がスリットを介して負圧室に流入する。これにより、余剰液体がスリットから外部に漏出し難い状態で負圧室を移動し、吸引口から吸引流路内に吸引されて外部へと排出されるので、噴射孔列から流れ出た液体を回収することができる。
そのため、スリットからの余剰液体の漏出を防いだ上で、液体の初期充填が可能となる。
【0028】
また、上記本発明の液体噴射記録装置の使用方法であって、前記吸引部を第1出力により動作させることで、前記内側空間を負圧室とし、前記吸引流路を介して前記噴射孔列から漏出した前記液体を吸引する液体充填モードと、前記吸引部を前記第1出力よりも小さい第2出力によって動作させ、前記噴射孔列から被記録媒体へ前記液体を噴射して前記被記録媒体に記録を行う通常使用モードとを切替制御することを特徴としている。
この構成によれば、通常作動モードにおいて、液体充填モードよりも小さい第2出力によって吸引部を作動させておくことで、印刷時等に噴射孔から漏れ出た余剰液体や、液体充填後に噴射体ガードの内側空間に残存した余剰液体が存在した場合であっても、それら余剰液体を吸引することでスリットから余剰液体の漏出を防ぐことができる。したがって、サービスステーションを設けることなく、噴射孔の開口方向を重力方向に向けた状態で、液体の初期充填から印刷までを行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、液体の初期充填時や通常使用時の余剰液体が、スリットでのみ外部と連通する負圧室に流出すると共に、負圧室外部の気体がスリットを介して負圧室に流入する。これにより、余剰液体がスリットから外部に漏出し難い状態で負圧室を移動し、吸引口から吸引流路内に吸引されて外部へと排出されるので、ノズル噴射口から流れ出た液体を回収するスペースを極めて小さいものとし、液体噴射ヘッドのスペースファクタを向上させることができると共に、液体噴射記録装置の設計の自由度を向上させることができる。
また、吸引流路により液体を連続して排出することができるので、余剰液体の回収能力が極めて高く、多量の余剰液体が流出した場合であっても余剰液体による汚染を防止することができると共に、液体充填後の液体噴射を安定させることができる。
また、ノズル面をワイパーによって清掃する必要が無い上に、サービスステーションを設けることなく、ノズルガードと、吸引流路と、吸引部とで余剰液体を回収することができるので、簡素な構成で液体噴射記録装置の初期充填を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態において、インクジェット記録装置1を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態において、右側面から見たインクジェット記録装置1の概略構成図であって、構成の一部を断面表示した図である。
【図3】本発明の実施形態において、インクジェットヘッド10の正面図である。
【図4】本発明の実施形態において、右側面から見たインクジェット記録装置1の概略構成図であって、構成の一部を断面表示した図である。
【図5】本発明の実施形態において、図4におけるI−I線断面図である。
【図6】本発明の実施形態において、ヘッドチップ20の分解斜視図である。
【図7】本発明の実施形態において、セラミック圧電プレート21及びインク室プレート22の詳細を示す分解斜視図である。
【図8】本発明の実施形態において、吸引ポンプ16と加圧ポンプ54との動作タイミング及び空間S(負圧室R)との関係を示した図である。
【図9】本発明の実施形態において、ヘッドチップ20の初期充填時の動作を示した要部拡大断面図である。
【図10】本発明の実施形態におけるインクジェットヘッド10の変形例を示す図であって、インクジェットヘッド60の要部拡大図である。
【図11】本発明の実施形態におけるインクジェットヘッド10の変形例を示す図であって、インクジェットヘッド70を示す要部拡大図である。
【図12】本発明の実施形態におけるインクジェットヘッド10の変形例を示す図であって、インクジェットヘッド80,90,100を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。
(液体噴射記録装置)
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置(液体噴射記録装置)1を示す斜視図であり、図2は、インクジェット記録装置1の概略構成図である。このインクジェット記録装置1は、所定のパーソナルコンピュータに接続されて、このパーソナルコンピュータから送られた印刷データに基づいて、インク(液体)Iを吐出(噴射)して箱体Dに印刷を施すものである。インクジェット記録装置1は、箱体Dを一方向に搬送するベルトコンベア2と、複数のインクジェットヘッド10を備えるインク吐出部3と、図2に示すように、インクジェットヘッド10にインク(第一液体)I及びクリーニング用洗浄液(第二液体)Wを供給するインク供給部5とを備えている。
【0032】
インク吐出部3は、箱体DにインクIを吐出するものであり、図1に示すように、直方体形状の筐体6を四つ有し、これら筐体6内にインクジェットヘッド10がそれぞれ内装されている(図2参照)。各筐体6は、ベルトコンベア2の幅方向両側にそれぞれインク吐出面6aをベルトコンベア2側に向けた状態で二つずつ配設されている。ベルトコンベア2の幅方向両側にそれぞれ配置された二つの筐体6は上下方向に並設され、それぞれ支持部材7によって支持されている。なお、筐体6のインク吐出面6aには、開口部6bが形成されている。
【0033】
(液体噴射ヘッド)
図3は、インクジェットヘッド10の正面図であり、図4は、右側面から見たインクジェットヘッド10の概略構成図であり、図5は、図4のI−I線断面図である。
インクジェットヘッド10は、図4に示すように、ケース11と、液体供給系12と、ヘッドチップ20と、駆動回路基板14と(図5参照)、吸引流路15とを備えている。
【0034】
ケース11は、正面11aに露出孔11bが形成された薄箱形状のものであり、厚さ方向を水平方向に向けて、また、露出孔11bを開口部6bに向けて筐体6内に固定されている。このケース11は、図4及び図5に示すように、背面11cにおいて内部空間に連通する貫通孔が形成されており、具体的には、高さ方向略中間の位置にインク注入孔11dが、下部にインク吸引孔11eが形成されている。このケース11は、その内部空間においてケース11に立設して固定されたベースプレート11fを備えると共にインクジェットヘッド10の各構成物品を収容している。
【0035】
液体供給系12は、インク注入孔11dを介してインク供給部5と連通したものであり、ダンパー17と、インク流路基板18とから概略構成されている。
ダンパー17は、図5に示すように、インクIの圧力変動を調整するためのものであり、インクIを貯留する貯留室17aを備えている。このダンパー17は、ベースプレート11fに固定されており、インク注入孔11dと管部材17dとを介して接続されるインク取込孔17bと、インク流路基板18と管部材17eを介して接続されるインク流出孔17cとを備えている。
インク流路基板18は、図4に示すように、縦長に形成された部材であって、図5に示すように、その内部にダンパー17と連通してインクIが流通する流通路18aが形成された部材であり、ヘッドチップ20に取り付けられている。
【0036】
駆動回路基板14は、図5に示すように、図示しない制御回路と、フレキシブル基板14aとを備えている。この駆動回路基板14は、フレキシブル基板14aの一端が後述の板状電極28に、他端が駆動回路基板14上の図示しない制御回路に接合されることで、印刷パターンに応じてセラミック圧電プレート21に電圧を印加する。この駆動回路基板14は、ベースプレート11fに固定されている。
【0037】
ヘッドチップ20は、図6に示すように、セラミック圧電プレート(アクチュエータ)21と、インク室プレート22と、ノズル体23と、ノズルガード24とを備えている。
【0038】
セラミック圧電プレート21は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)からなる略矩形板状の部材であり、図6及び図7に示すように、二つの板面21a、21bのうち一方の板面21aに複数の長溝26が並設されて、各長溝26が側壁27で隔離されている。
【0039】
長溝(圧力発生室)26は、図6に示すように、セラミック圧電プレート21の短手方向に延設されており、セラミック圧電プレート21の長手方向の全長にわたって複数並設されている。各長溝26は、図7に示すように、圧電アクチュエータの厚さ方向に沿った断面が矩形状に形成されている。また、各長溝26の底面は、セラミック圧電プレート21の前側面21cから短手方向の略中央部まで延びる前方平坦面26aと、この前方平坦面26aの後部から後側面側に向かって溝深さが漸次浅くなる傾斜面26bと、この傾斜面26bの後部から後側面側に向かって延びる後方平坦面26cとからなっている。
各長溝26は、円盤状のダイスカッターにより形成されている。
【0040】
側壁27は、セラミック圧電プレート21の長手方向に亘って複数並設されて、長溝26をそれぞれ区分けしている。これら各側壁27の両壁面における長溝26開口側(板面21a側)には、セラミック圧電プレート21の短手方向に亘って駆動電圧印加用の板状電極28が延設されている。この板状電極28は、公知の斜め方向からの蒸着により形成されている。この板状電極28は、上述したフレキシブル基板14aが接合されている。
【0041】
このようなセラミック圧電プレート21は、図5に示すように、板面21bのうち後側面側がベースプレート11fの縁部に固定されており、長溝26の延在方向を露出孔11bに向けている。
【0042】
図6及び図7に戻って、インク室プレート22は、セラミック圧電プレート21と同様に略矩形板状の部材であり、セラミック圧電プレート21の寸法と比較して、長手方向の寸法が略同一に、短手方向の寸法が短く形成されている。このインク室プレート22は、厚さ方向に貫通し、かつ、インク室プレート22の長手方向に亘って形成された開放孔22cを備えている。
なお、このインク室プレート22は、セラミックプレート、金属プレートなどで形成することができるが、セラミック圧電プレート21との接合後の変形を考えて、熱膨張率の近似したセラミックプレートを用いている。
【0043】
このようなインク室プレート22は、図6に示すように、前側面22aがセラミック圧電プレート21の前側面21cと同一平面となる突合わせ面25aを構成するように、板面21a側からセラミック圧電プレート21に接合されている。この接合状態においては、開放孔22cがセラミック圧電プレート21の複数の長溝26を全体にわたって露出させて、全ての長溝26を外方に開放し、各長溝26がそれぞれ連通した状態になっている。
インク室プレート22には、図5に示すように、開放孔22cを覆うようにしてインク流路基板18が装着され、インク流路基板18の流通路18aと各長溝26とが連通している。
【0044】
ノズル体23は、図5に示すように、ノズルプレート31がノズルキャップ32に貼着されることにより構成されている。
ノズルプレート31は、図6に示すように、ポリイミドからなる薄板状、かつ、細長状の部材であり、厚さ方向に貫通する複数のノズル孔31aが列設してノズル列31cを構成している。より具体的には、長溝26と同数のノズル孔31aが、ノズルプレート31の短手方向中間の位置において同一線上に、かつ、長溝26と同一の間隔で形成されている。
ノズルプレート31の二つの板面のうち、インクIを吐出するノズル吐出口(ノズル噴出口)31bが開口する板面には、インクの付着等を防止するための撥水性を有する撥水膜が塗布されており、他方の板面は上記突合わせ面25a及びノズルキャップ32との接合面とされている。
なお、ノズル孔31aは、エキシマレーザ装置を用いて形成されている。
【0045】
ノズルキャップ32は、枠板状の部材が有する二つの枠面のうち一方の枠面の外周縁を削り取ったような形状の部材であって、薄板状となった外枠部32aと、外枠部32aよりも厚くなった中枠部32hと、中枠部32hよりも厚くなった内枠部32bと、内枠部32bの短手方向中間部において厚さ方向に貫通すると共に長手方向に延在する長孔32cと、外枠部32aの一端部において厚さ方向に貫通する排出孔32dとを備える部材である。換言すれば、外枠部32aが有する外枠面32eから中枠部32hと内枠部32bとが厚さ方向に段状に突出しており、厚さ方向の断面輪郭が長孔32cに向かって外枠部32a、中枠部32h、内枠部32bの順に高くなる階段状となっている。
外枠面32eと同方向に延在する内枠面32fには、長孔32cを塞ぐようにノズルプレート31が貼付されており、外枠面32e及び外枠面32eの直交方向に延在する中側面32iには、ノズルガード24が当接している。
【0046】
このようなノズル体23は、ノズルキャップ32の排出孔32dが下側に位置するように(図3参照)、ケース11の内部空間に収容され、ケース11及びベースプレート11fに固定されている(図5参照)。
この状態においては、長孔32cにセラミック圧電プレート21及びインク室プレート22の一部が挿入されて、ノズルプレート31に突合わせ面25aが突き合わされている。またノズルプレート31は、内枠面32fに接着剤によって接着されているとともに、内枠面32fの面積と比較すると、ノズルプレート31の面積が大きく形成されており、ノズルプレート31が内枠面32fから多少はみ出て設置されている。
【0047】
このような構成により、ダンパー17内の貯留室17aから所定量のインクIがインク流路基板18に供給されると、この供給されたインクIが開放孔22cを介して、長溝26内に送り込まれるようになっている。なお、長溝26の後方平坦面26c側(図7参照)に生じたインク室プレート22と長溝26との間隙は、封止材によって封止されている。
【0048】
(ノズルガード)
ノズルガード24は、ステンレス鋼からなる略箱型形状の部材でありプレス成形で形成されたものある。このノズルガード24は、矩形板状に形成された天板部24aと、この天板部24aの周縁部から板面方向と略直交する方向に延出した密閉部24bとを備えている。
【0049】
天板部24aは、内枠面32fと略同大の板面を有しており、天板部24aの短手方向中間部において長手方向に延在したスリット24cを備えている。このスリット24cは、ノズル列31cの長さよりも多少長く形成されており、両端部(上端部24i、下端部24j)が円形に形成されたものである。
スリット24cの幅寸法は、ノズル孔31aのノズル径40μmに対して幅寸法が略1.5mmに設定されている。このスリット24cの幅寸法は、吸引ポンプ16で負圧とすることができる幅寸法を上限とし、インクIの初期充填の際にインクIがスリット24cから溢れ出て垂れない幅寸法を下限とした範囲で設定するのが望ましい。
また、上端部24i、下端部24jは、上述した幅寸法よりもやや大きい直径で円形に形成されている。
【0050】
このノズルガード24は、内方に面する内表面24eにチタンコーティングによる親水膜24gが形成されており、この内表面24eと背向する外表面24fと、スリット24cの内面にフッ素樹脂コーティングやテフロン(登録商標)メッキによる撥水膜24hが形成されている。
【0051】
このようなノズルガード24は、天板部24aが内枠部32bと排出孔32dとを覆うように(図3参照)、また、密閉部24bにおける内表面24eと中枠部32hの中側面32iとが当接するように、環状端部24dが外枠面32eと接着剤で接着されて、ノズルキャップ32に被着している(図5参照)。この状態においては、スリット24cがノズル列31cと対向すると共に排出孔32dと対向しないように、空間(内側空間)Sを介してノズル列31cを覆っている。換言すれば、スリット24cの開口方向において、スリット24cからノズル列31cを臨むように、かつ、排出孔32dを臨まないようにノズル吐出口31bを覆っている(図3参照)。
【0052】
このノズルガード24は、天板部24aとノズルプレート31との距離を、吸引ポンプ16で負圧とすることができる距離を上限とし、インクIの初期充填の際にインクIがスリット24cから溢れ出ない距離を下限とした範囲で設定するのが望ましい。
【0053】
吸引流路15は、図4に示すように、吸引口15aとなるチューブ管の一端が排出孔32dに嵌挿されて固定されており、他端がインク吸引孔11eに接続されて構成されている。上述したように、吸引口15aは、スリット24cと対向しない位置に開口している。
吸引ポンプ16は、インク吸引孔11eにチューブを介して接続されている。この吸引ポンプ16は、作動時に、空間S内の空気及びインクIを吸引して、空間Sを負圧室Rとする。なお、この吸引ポンプ16は、廃液タンクE(図2参照)に吸引したインクIを貯留する。
【0054】
図2に戻って、インク供給部5は、インクIが貯留されたインクタンク51と、洗浄液Wが貯留された洗浄液タンク52と、二つの流路を切替可能な切替バルブ53と、インクI又は洗浄液Wをインクジェットヘッド10に加圧供給する加圧ポンプ54と、流路を開閉可能な開閉バルブ55とを備えている。
インクタンク51は、供給管57a、切替バルブ53及び供給管57cを介して、洗浄液タンク52は、供給管57b、切替バルブ53及び供給管57cを介してそれぞれ加圧ポンプ54に連通している。すなわち、切替バルブ53は、流入管として供給管57a,57bが、流出管として供給管57cが接続されている。
【0055】
加圧ポンプ54は、供給管57cが接続されると共に供給管57dを介してインクジェットヘッド10に連通しており、供給管57cから流入したインクI又は洗浄液Wをインクジェットヘッド10に供給する。この加圧ポンプ54は、非作動時には流体が流れないように構成されたものであり、開閉弁的な機能を有するものである。
【0056】
開閉バルブ55は、供給管57cに連通し流入管となる供給管57eと、供給管57dに連通し流出管となる供給管57fとが接続されている。すなわち、この開閉バルブ55を開とすると供給管57e,57fが加圧ポンプ54のバイパス管として機能するようになっている。
【0057】
次に、上記構成からなるインクジェット記録装置1の動作について説明する。以下の説明においては、インクIをインクジェットヘッド10に初期充填した後に、箱体Dに印刷を施す場合について説明し、さらに、インクジェットヘッド10をクリーニングする場合について説明する。
【0058】
(インク初期充填)
図8は、吸引ポンプ16と加圧ポンプ54との動作タイミング及び空間S(負圧室R)との関係を示した図であり、図9は初期充填時の動作を示したヘッドチップ20の要部拡大断面図である。
まず、図4及び図8に示すように、吸引ポンプ16を作動させ(ON1)、この吸引ポンプ16が吸引流路15を介して吸引口15aから空間Sの空気を吸引する(図8における時間T0)。この際、作動する吸引ポンプ16の出力は、空間S内を十分に負圧とすることができる程度に設定することが好ましく、このときの出力を吸引ポンプ16の充填出力とする。吸引ポンプ16を充填出力(第1出力)で作動させると、外部の空気がスリット24cから空間Sに流入するが、この空気が空間Sを経由してから吸引口15aに達した後に吸引されることで空間Sを減圧する(液体充填モード)。そして、所定時間T1経過後に、空間Sが大気圧よりも十分に負圧となった負圧室Rとなる。
【0059】
空間Sが負圧室Rとなった後、インク供給部5がインクIをインクジェットヘッド10に加圧充填する(図8における時間T2)。この際、インク供給部5は、以下のように設定されている。すなわち、図2に示すように、切替バルブ53により供給管57aと供給管57cとを連通させた状態とし、開閉バルブ55を閉塞させて供給管57eと供給管57fとを遮断する。この状態において加圧ポンプ54を作動させる。加圧ポンプ54は、インクタンク51から供給管57a,57c,57dを介してインクジェットヘッド10のインク注入孔11dにインクIを注入する。
【0060】
インク注入孔11dに注入されたインクIは、図4及び図5に示すように、ダンパー17のインク取込孔17bを介して貯留室17aに流入した後に、インク流出孔17cを介してインク流路基板18の流通路18aに流出する。そして、流通路18aに流入したインクIが開放孔22cを介して各長溝26内に流入する。
【0061】
各長溝26に流入したインクIは、ノズル孔31a側に流れてノズル孔31aに達した後、図9(a)に示すように、余剰インクYとなってノズル孔31aから流出する。余剰インクYが流出し始めた時には、その量が少量であるため、余剰インクYは、ノズルプレート31上を下方に向かって流れる。負圧室Rの下部まで達したインクIは、吸引口15aから吸引流路15に吸引されて、廃液タンクEへと排出されていく(図9(b)参照)。
【0062】
余剰インクYは、その流出量が多量となると、図9(b)に示すように、ノズルプレート31上だけではなく、ノズルガード24の内表面24e上をも下方に流れるようになる。この際、スリット24cから負圧室Rに継続して空気が流入しており、余剰インクYがスリット24cから外部に流出し難い。仮に、図9(c)に示すように、スリット24c近傍の内表面24eを流れる余剰インクYの量が局部的に多くなり、この余剰インクYの一部がスリット24cから流入する空気に抗して外表面24f近傍まで達しても、外表面24fに形成された撥水膜24hに弾かれる。この弾かれたインクIは、内表面24eに形成された親水膜24gに誘導されて再び負圧室Rに戻される。
【0063】
また、スリット24cの下端部24jにおいては、円形状の下端部24jの輪郭(外表面24fと下端部24jとの境界)でインクIに表面張力が働く。下端部24jにおいては、インクIに強い表面張力が働き、また、この表面張力の均衡が保たれてインクIの表面が破壊されず、外部に漏出しない。さらに、上記と同様に、外表面24fに形成された撥水膜24h及び内表面24eに形成された親水膜24gに誘導されて負圧室Rに戻される。
このようにして、ノズル孔31aから流出する余剰インクYを連続して廃液タンクEに排出する。
【0064】
図8に示すように、所定時間T3経過後に加圧ポンプ54を停止して、インクIの加圧充填を終了する。加圧ポンプ54の停止に伴いノズル孔31aから余剰インクYが流出しなくなり、負圧室Rに残存している余剰インクYが吸引口15aを介して廃液タンクEに排出される。
【0065】
そして、所定時間T4経過後に吸引ポンプ16を停止させる。インクIの充填完了後には、図9(d)に示すように、長溝26にインクIが充填された状態となる。なお、空間Sは、復圧されて再び大気圧と同圧となる(図8参照)。
【0066】
(印刷時)
続いて、箱体Dに印刷を施す場合の動作について説明する。最初にインク供給部5の設定について説明する。すなわち、図2に示すように、切替バルブ53により供給管57aと供給管57cとを連通させた状態とし、開閉バルブ55を開放させて供給管57eと供給管57fとを連通させる。この状態において加圧ポンプ54を非作動として、加圧ポンプ54を介して供給管57cと供給管57dとを連通させないようになっている。この状態においては、インクIが供給管57a,57c,57e,57f,57dを介して、インクジェットヘッド10のインク注入孔11dに注入されるようになっている。
【0067】
インク供給部5を上記のように設定した状態でベルトコンベア2を駆動して(図1参照)、箱体Dを一方向に搬送すると共に、搬送される箱体Dが筐体6の前を通過する際、つまり、ノズルプレート31(ノズル孔31a)の前を通過する際、インク吐出部3が箱体Dに向けてインク滴を吐出する。
具体的には、外部のパーソナルコンピュータから入力された印刷データに基づいて、駆動回路基板14がこの印刷データに対応した所定の板状電極28に選択的に電圧を印加する。これにより、この板状電極28に対応した長溝26の容積が縮小し、長溝26内に充填されたインクIがノズル吐出口31bから箱体Dに向かって吐出される。
インクIを吐出すると長溝26が負圧になるため、上述した供給管57a,57c,57e,57f,57dを介して、インクIが長溝26に充填される。
【0068】
このようにして、インクジェットヘッド10のセラミック圧電プレート21を画像データに応じて駆動させ、ノズル孔31aからインク滴を吐出して箱体Dに着弾させる。このように、箱体Dを移動させつつインクジェットヘッド10からインク滴を連続して吐出させることで箱体Dの所望の位置に画像(文字)が印刷される。
【0069】
ここで、本実施形態のインクジェットヘッド10は、ノズル列31cの列設方向を重力方向に向け、また、ノズル孔31aの開口方向を水平方向に向ける構成としたが、このような構成だけではなく、ノズル孔31aの開口方向を重力方向に向ける構成として、ノズル列31cの延在方向を水平方向に向ける構成も考えられる。
このような場合、ノズル孔31aの吐出口31bの開口方向が重力方向を向いているため、インクIの充填時にノズル孔31aから漏出した余剰インクYを吸引しきれず、ノズルガード24の天板部24aと周壁部24bとの境界部分等に残存している場合がある。また、インクIの充填後、例えば印刷時になってノズル孔31aから余剰インクYが漏れ出る虞もある。
【0070】
そこで、図8に示すように、本実施形態ではインクIの充填後でも吸引ポンプ16を常時作動させている(図8中ON2)。この際、吸引ポンプ16の出力は、インクI充填時の出力(充填出力)よりも弱く、かつ印刷時において空間S内に存在する余剰インクYを十分に吸引できる程度に設定する(通常使用モード)。これにより、空間SはインクIの充填時よりも弱い負圧空間となる。なお、吸引ポンプ16の出力が強すぎると、印刷時にノズル孔31aから吐出されるインク滴の飛行経路に影響が出て、印刷精度に影響が生じる虞があるため好ましくない。そして、この際の吸引ポンプ16の出力を通常出力(第2出力)とする。
【0071】
吸引ポンプ16を通常出力で作動させながら印刷を行うと、ノズル孔31aから漏れ出た余剰インクYや、ノズルガード24の内表面24e上に残存した余剰インクYが、各吸引流路15に向かって流れる。そして、吸引流路15まで到達したインクIは、吸引流路15内に吸引されて廃液タンクEへと排出されていく。
なお、通常使用モードとして記載した図8におけるON2の動作は、必ずしも前述の液体充填モードとして記載した図8におけるON1の動作とともに実施する必要は無く、周囲の動作環境やインクIの種類によって、適宜実施すればよい。
【0072】
(クリーニング時)
続いて、インクジェットヘッド10のクリーニング時の動作について説明する。最初にインク供給部5の設定について説明する。すなわち、図2に示すように、切替バルブ53により供給管57bと供給管57cとを連通させて、開閉バルブ55を閉塞させて供給管57eと供給管57fとを閉塞させる。この状態において加圧ポンプ54を作動させる。加圧ポンプ54は、洗浄液タンク52から供給管57b,57c,57dを介してインクジェットヘッド10のインク注入孔11dに洗浄液Wを注入する。
上記初期充填時と同様に、長溝26等を介して洗浄液Wをノズル孔31aから流出させ、吸引口15aからこの流れ出た洗浄液Wを吸引する。
なお、インクジェット記録装置1を長期間使用しないと、長溝26に充填されたインクIが乾燥硬化することになる。この場合、クリーニング時と同様にインクジェットヘッド10内を洗浄液Wで満たせば、インクジェット記録装置1を長期間にわたり保存することができる。
【0073】
以上説明したように、インクジェット記録装置1によれば、インクジェットヘッド10において余剰インクYがスリット24cから外部に漏出し難い状態で負圧室Rを移動し、吸引口15aから吸引流路15に吸引されて外部へと排出されるので、ノズル吐出口31bから流れ出たインクIを回収するスペースを極めて小さいものとし、インクジェットヘッド10のスペースファクタを向上することができると共に、インクジェット記録装置1の設計の自由度を向上させることができる。
また、吸引流路により多量の余剰インクYを連続して排出することができるので、余剰インクYの回収能力が向上し、余剰インクYによる汚染を防止すると共にインクI充填後のインクIの吐出を安定させることができる。
また、サービスステーションを設けることなく、簡素な構成でインクジェット記録装置1の初期充填を実現することが可能となる。
【0074】
また、吸引口15aがスリット24cと対向せずに配置されており、スリット24cから流入した空気が空間S(負圧室R)を経由してから吸引口15aに達するので、空間Sを速やかに減圧することができ、負圧室Rの負圧状態を良好に継続させることができる。これにより、余剰インクYの回収を速やかに行うことができると共に多量の余剰インクYの回収を安定的に行うことができる。
【0075】
また、吸引口15aが負圧室Rの重力方向最下部に形成されており、最下部においてインクIを吸引するので、下部に流れる余剰インクYを効率よく吸引することができる。
【0076】
また、外表面24fに撥水膜24hが形成されているので、負圧室Rの余剰インクYがスリット24cを介して外部へと流出しようとしても、撥水膜24hにはじかれて、負圧室Rに留まり易くなる。
また、内表面24eに親水膜24gが形成されているので、インクIが負圧室Rを流れ易くなると共に、撥水膜24hにはじかれた余剰インクYを負圧室Rに導き、余剰インクYが負圧室Rに留まり易くなるので、スリット24cから余剰インクYが流れ出ることを高い確率で防止することができる。
【0077】
また、スリット24cの下端部24jが円形状であるので、下端部24jにおいて表面張力により維持されたインクIの表面が破壊され難く、負圧室Rに余剰インクYが留まり易くなる。具体的に説明すると、まず、スリット24cの下端部24jに到達したインクIは、下端部24jに接触する。このとき、円形状の下端部24jの輪郭(外表面24fと下端部24jとの境界)において、インクIに表面張力が働く。ここで、液体(インクI)は、外力の作用が強く働かない環境において略球体で存在するため、スリット24cの端部が矩形状である場合は、表面張力により維持された略球体の表面が壊れてしまい、スリット24cの外部へインクIが漏れ出てしまう恐れがある。
一方、本実施形態のように、スリット24cの端部が円形状である場合は、表面張力により維持された液体(インクI)の表面が破壊されず、下端部24jにおいて漏れ出ることなく負圧室Rに留まり易い。さらに、上記と同様に、外表面24fに撥水膜24hが形成されているので、漏れ出ようとするインクIを負圧室Rに留めることができる。
このような構成を採用すると、上述したように、余剰インクYがスリット24cから外部に漏出しようとしても、スリット24cの下端部24jにおいて、負圧室RにインクIが留まり易くなるので、余剰インクYの漏出による汚染を防止することができると共に余剰インクYの回収能力を向上することができる。
【0078】
また、インク供給部5がインクIと洗浄液Wとを切り換え供給し得るように構成されており、液体供給系12にインクIと洗浄液Wとが供給されるので、インクジェットヘッド10の清掃に対する労力を低減させると共に、効率よくインクジェットヘッド10を清掃することができる。
【0079】
また、上述したように本実施形態では、ノズル列31cを覆うように形成されたノズルガード24を用いて空間S(負圧室R)を形成し、吸引口15aから余剰インクYを排出するという構成を特徴としている。ここで、本構成の特徴を以下に記述する。
本構成では、空間Sが大気圧より十分に負圧となった負圧室Rとなり、負圧室Rに流れ出たインクIがスリット24cに向けて流れ難くなった状態でインクIの加圧充填が開始される。このため、ノズルガード24及び空間Sが形成されていない場合など、空間Sが大気圧と同圧の状態でインクIを長溝26に加圧充填した場合に比べて、スリット24cから空気が連続的に流入するので、余剰インクYがスリット24cから漏出し難い。また、吸引口15aが連続的に余剰インクYを排出するので、余剰インクYが空間S(負圧室R)に溜まってスリット24cから溢れ出ることもない。
また、負圧室Rとした状態で、加圧充填を終了し、負圧室Rに液体が流れ出なくなるので、空間Sを復圧させた後に長溝26に加圧充填を終了した場合に比べて、余剰インクYがスリット24cから漏出し難く、また、スリット24cから溢れ出ることもない。これにより、余剰インクYによる汚染を防止しつつインクIの充填が可能となり、充填後のインクIの吐出を安定させることができる。
【0080】
(変形例)
以下、図面を用いて、インクジェットヘッド10の具体的な変形例を説明する。なお、インクジェットヘッド10と同様の構成のものについては、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0081】
図10は、インクジェットヘッド10の変形例を示すインクジェットヘッド60を示した図である。このインクジェットヘッド60は、負圧室Rの底部r1に二つの傾斜部61が設けられている。
傾斜部61は、それぞれ断面が直角三角形状の三角柱部材からなり、互いに直角を形成する二つの矩形側面を密閉部24bに当接させると共に、この二つの矩形側面によって構成される直角部を密閉部24bが形成する二つの角部のうち一方に当接させて設けられ、直角部と対向する矩形側面が吸引口15aへ収束する斜面を構成するように配置されている。このような構成により、負圧室Rの下部の幅寸法(ノズルプレート31の表面に平行でノズル列31cに垂直な方向における幅寸法)が吸引口15aに向けて漸次小となっている。
このような構成によれば、負圧室Rの下部に達した余剰インクYが、幅方向において吸引口15aに向かって流れていくので、余剰インクYを吸引口15aから吸引し易いものとすることができる。
【0082】
図11は、インクジェットヘッド10の変形例を示すインクジェットヘッド70を示した図である。このインクジェットヘッド70は、負圧室Rの底部r1に一つの傾斜部62が設けられている。
傾斜部62は、この傾斜部62は、断面が直角三角形状の三角柱部材からなり、天板部24aと密閉部24bが形成する角部に直角に形成された角部を当接させて設けられ、この角部に対向する斜面が吸引口15aへ収束するように配置されている。このような構成により、ノズルプレート31の表面に垂直な方向においてノズルプレート31と天板部24aとの距離が吸引口15aに向けて漸次小となっている。
このような構成によれば、負圧室Rの下部に達した余剰インクYが、負圧室Rの吸引口開口方向において吸引口15aに向かって流れていくので、余剰インクYを吸引口15aから吸引し易いものとすることができる。
【0083】
図12(a)は、インクジェットヘッド10の変形例を示すインクジェットヘッド80を示した図である。この図12(a)に示すように、インクジェットヘッド80のノズルガード24には、天板部24aに負圧室R側に窪む窪み部24xが形成されている。窪み部24xは、プレス成形(圧延)で形成したものであり、この窪み部24xの底面にはスリット24cが形成されている。これにより、ノズルガード24が箱体Dと接触した場合であっても、スリット24c近傍の撥水膜24hが箱体Dと接触する確率を低減させて、撥水膜24hが剥離することを防止することができる。
【0084】
図12(b)は、インクジェットヘッド10の変形例を示すインクジェットヘッド90を示した図である。この図12(b)に示すように、インクジェットヘッド90のノズルガード24には、負圧室R側に突出し、かつ、スリット24cを環状に囲繞する環状突出壁24yが形成されている。これにより、インクジェットヘッド90のノズル吐出口31bを下方に向けて箱体DにインクIを吐出する場合において、負圧室Rを復圧させた後に空間Sに余剰インクYが残存していたとしても、この余剰インクYが内表面24eを伝ってスリット24cに到達するのを阻止して、スリット24cから余剰インクYが漏出することを防止することができる。
【0085】
図12(c)は、インクジェットヘッド10の変形例を示すインクジェットヘッド100を示した図である。この図12(c)に示すように、インクジェットヘッド100のノズルガード24には、窪み部24xと環状突出壁24yとがプレス成形により形成されている。これにより、撥水膜24hが剥離することを防止することができると共に、インクジェットヘッド100のノズル吐出口31bを下方に向けて箱体DにインクIを吐出する場合に、スリット24cから余剰インクYが漏出することを防止することができる。
なお、プレス成形であれば、窪み部24xと環状突出壁24yとを同時に形成することができ、生産効率が良好なものとなる。
【0086】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0087】
例えば、上述した実施の形態においては、図2に示すように吸引ポンプ16及び廃液タンクEをインクジェットヘッド10の内部に備えるような構成としたが、このような形態に限られるものではない。すなわち、吸引ポンプ16と廃液タンクEをインクジェットヘッド10の外部に設け、例えばインクジェット記録装置1に搭載させてもよい。
【0088】
例えば、上述した実施の形態においては、ノズル体23をノズルプレート31とノズルキャップ32とから構成し、ノズルキャップ32にノズルガード24の環状端部24dを被着させたが、吸引口15aが空間Sに開口されることを条件として、ノズルプレート31に被着させてもよい。
【0089】
また、上述した実施の形態においては、吸引口15aをノズルキャップ32に形成した排出孔32dに嵌挿させる構成としたが、排出孔32dをノズルプレート31やノズルガード24に形成してもよいし、排出孔32dに吸引流路15を接続して、この排出孔32dを吸引口としてもよい。
【0090】
また、上述した実施の形態においては、撥水膜24hをフッ素樹脂コーティングやテフロン(登録商標)メッキによって形成したが、撥水シートを貼付したり撥水剤を塗布したりしてもよい。
また、上述した実施の形態においては、親水膜24gをチタンコーティングによって形成したが、金メッキを施してもよいし、アルカリ性の薬品を塗布してもよい。
【0091】
また、上述した実施の形態においては、インクジェットヘッド10を固定してインクジェット記録装置1を構成したが、インクジェットヘッド10を可動してインクジェット記録装置1を構成することも可能である。すなわち、インクジェットヘッド10を採用すれば、負圧吸引するためのキャップが不要となったインクジェット記録装置を実現することができる。
【0092】
また、上述した実施の形態においては、インクジェットヘッド10のノズル列31cの列設方向を重力方向に向け、また、ノズル孔31aの開口方向を水平方向に向ける構成としたが、このような設置の方向に限られない。ノズル孔31aの開口方向を重力方向に向ける構成としてもよいし、ノズル列31cの延在方向を水平方向に向ける構成をしてもよい。
【0093】
また、上述した実施の形態においては、初期充填時及びクリーニング時に吸引ポンプを作動させたが、印刷時においてもノズル孔31aからインクIが垂れる場合があり、このようなインクIを回収してもよい。
【0094】
また、上述した実施の形態においては、ノズルガード24とは別部材の傾斜部61,62を設けたが、この傾斜部61,62を設ける代わりにノズルガード24の内表面24eを傾斜して形成し傾斜部としてもよい。
また、傾斜部61と傾斜部62を重畳的に用いてもよい。すなわち、下方に向かうほど
負圧室Rの下部の幅寸法及びノズルプレート31と天板部24aとの距離を漸次小とする部材を設けてもよいし、内表面24eをこのような形状に成形してもよい。
【0095】
また、上述した実施の形態においては、窪み部24x、環状突出壁24yをプレス成形により形成したが、他の加工法、例えば、切削により形成してもよい。
【0096】
また、上述した実施の形態においてヘッドチップ20は、図6及び7に記載したとおり、開放孔22cが各長溝26全体に開口している形態を示したが、これに限らず、例えば長溝26の一つおきに連通するスリットをインク室プレート22に形成し、インクIが導入される長溝26とインクIが導入されない長溝26を形成してもよい。このような形態を採用することによって、例えば導電性のインクIであったとしても、隣り合う側壁27の板状電極28が短絡することなく、独立したインク吐出を実現することができる。
すなわち、上述した実施の形態において記したヘッドチップは形態を限定したものではないため非導電性の油性インク、導電性の水性インク、ソルベントインクやUVインク等を用いても構わない。このように液体噴射ヘッドを構成することで、いかなる性質のインクであっても使い分けることができる。特に、導電性を有するインクであっても問題なく利用でき、液体噴射記録装置の付加価値を高めることができる。なお、その他は同様の作用効果を奏することができる。
【0097】
また、上述した実施の形態においては、インクIを吐出するアクチュエータとして、電極が設けられたセラミック圧電プレート21を備えるようにしたが、この形態に限られるものではない。例えば、電気熱変換素子を用いて、インクIが充填されている室内に気泡を生じさせ、その圧力によって、インクIを吐出する機構としても構わない。
【0098】
また、上述した実施の形態においては、液体噴射記録装置の一例として、インクジェットプリンタ1を例に挙げて説明したが、プリンタに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機などであっても構わない。
【0099】
また、上述した実施の形態においては、図2に示す構成の通り、吸引ポンプ16によって吸引した余剰インクYを廃液タンクEへ排出することとしたが、この形態に限られるものではない。例えば、吸引ポンプ16の出口側の流路に接続される構成を、廃液タンクではなく、インクタンク51とすることもできる。すなわち、吸引ポンプ16によって吸引された余剰インクYをインクタンク51へ供給し、インクタンク51からインクジェットヘッド10へインクIとして供給する形態としてもかまわない。このような形態を採用することによって、余剰インクYをインクIとして再利用することができる。
またこの構成に加えて、余剰インクYを再利用するにあたり、吸引ポンプ16からインクタンク51へ通じる流路にフィルタ部材を設けてもかまわない。このような構成を採用することによって、余剰インクYに含まれる不純物を除去し、適切な状態のインクをインクタンク51へ供給することができる。
さらに、余剰インクYを再利用するにあたり、吸引ポンプ16からインクタンク51へ通じる流路に脱気装置を設けてもかまわない。このような構成を採用することによって、余剰インクYに含まれる気泡を脱気し、適切な脱気状態のインクをインクタンク51へ供給することができる。
ただし、上述したこれらの構成は、必ず用いられなければならない構成ではなく、液滴噴射記録装置の仕様に応じて適宜使用されればよい。
【符号の説明】
【0100】
1…インクジェット記録装置(液体噴射記録装置)
10,60,70,80,90,100…インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)
12…液体供給系
15…吸引流路
15a…吸引口
16…吸引ポンプ(吸引部)
21…セラミック圧電プレート(アクチュエータ)
23…ノズル体
24…ノズルガード
24a…天板部
24b…密閉部
24c…スリット
24e…内表面
24f…外表面
24g…親水膜
24h…撥水膜
24j…下端部
24x…窪み部
24y…環状突出壁
26…長溝(圧力発生室)
31a…ノズル孔
31b…ノズル吐出口(ノズル噴出口)
31c…ノズル列
61,62…傾斜部
r1…底部
I…インク(第一液体)
R…負圧室
S…空間(内側空間)
W…洗浄液(第二液体)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル噴射口より液体を噴射して被記録媒体に画像や文字を記録する液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置及び液体噴射ヘッドの液体充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体噴射記録装置、例えば各種印刷を行うインクジェットプリンタは、被記録媒体を搬送する搬送装置と、インクジェットヘッドとを備えている。ここで用いられるインクジェットヘッドとしては、複数のノズル孔からなるノズル列を有するノズル体と、各ノズル孔と対となって該ノズル孔に連通する複数の圧力発生室と、該圧力発生室にインクを供給するインク供給系と、圧力発生室に隣接配置された圧電アクチュエータとを備えており、圧電アクチュエータを駆動して圧力発生室を加圧し、圧力発生室内のインクをノズル孔のノズル噴射口から噴射させるものが知られている。
【0003】
このようなインクジェットプリンタの一種として、上記インクジェットヘッドを記録紙(被記録媒体)の搬送方向と直交する方向に移動させるキャリッジを設け、記録紙に印刷を施すものが知られている。この種のインクジェットプリンタでは、インクジェットヘッドの可動範囲内にメンテナンスのためのサービスステーションを設け、このサービスステーションまでインクジェットヘッドを移動させて、ノズル孔をクリーニングしたり、インクジェットヘッドにキャップを被せて負圧吸引しノズル孔にインクを初期充填したりしている。
【0004】
また、上記インクジェットプリンタと異なる種のものとして、箱体などの比較的に大型の被記録媒体に用いられ、インクジェットヘッドを固定して搬送される被記録媒体に印刷を施すものがある。この種のインクジェットプリンタでは、インクジェットヘッドを移動させることができず、また、インクジェットヘッドと被記録媒体との間やインクジェットヘッドの下方にサービスステーションを設けるスペースが少ない。このため、インクを圧力発生室に初期充填する際には、インク供給系側からインクを加圧して充填するのが通常である。
【0005】
この加圧充填では、ノズル孔から垂れ流しとなる余剰インクによってインクジェットヘッド及びインクジェットプリンタ近傍が汚染されることを防止するため、また、インク充填後のインクの噴射が不安定になることを防止するために、余剰インクを除去する手段を講じなければならない。また、初期充填の場面だけでなく、通常使用時にノズル体上を垂れるインクを回収する場面でも同様である。
【0006】
下記特許文献1には、インクジェットヘッドの下部に、板状多孔質吸収体からなりノズル形成面より外方に突出したインク案内部材及びこのインク案内部材に接続されたブロック型インク吸収体を設け、余剰インクをインク案内部材で受け止めると共にインク吸収体まで導き、この導いた余剰インクをインク吸収体に吸収させるインクジェットヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−116338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では、インクジェットヘッドの下部にインク案内部材とインク吸収体を設けるので、インクジェットヘッドの下部を有効利用することができないという問題があった。また、一定制約下でインクジェットプリンタを設計した場合に被記録媒体の下部に印刷を行うことが出来ないという問題があった。
さらに、従来の技術では、余剰インクをインク吸収体に吸収させるだけであるので、回収することができる余剰インクの量に限界があるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、以下を目的とする。
(1)液体噴射ヘッドのスペースファクタを向上させ、液体噴射記録装置の設計の自由度を向上させる。
(2)余剰液体の回収能力を向上させて、余剰液体による汚染を防止すると共に液体充填後の液体噴射を安定させる。
(3)簡素な構成で液体噴射記録装置の初期充填を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
液体噴射ヘッドに係る解決手段として、複数のノズル孔からなるノズル列を有するノズル体と、前記各ノズル孔と対となって該ノズル孔に連通する複数の圧力発生室と、該圧力発生室に第一液体を供給する液体供給系と、前記圧力発生室に隣接配置されたアクチュエータとを備え、前記アクチュエータを駆動して該圧力発生室を加圧し、該圧力発生室内の前記第一液体を前記ノズル孔のノズル噴射口から噴射させる液体噴射ヘッドにおいて、前記ノズル列を覆うように形成されたノズルガードを備え、前記ノズルガードは、前記ノズル体の表面から離間配置され前記ノズル列と対向するスリットが形成された天板部と、前記天板部の周縁部と前記ノズル体との間を密閉する密閉部と、前記ノズル列の下方に吸引口が開口し前記ノズルガードの内側空間と連通する吸引流路とを備え、前記吸引流路に接続される吸引部によって前記ノズルガードの内側空間を負圧室とし、前記ノズル孔から前記負圧室内に溢れ出た前記第一液体を吸引する、という手段を採用する。
【0011】
この発明によれば、液体の初期充填時や通常使用時の余剰液体が、スリットでのみ外部と連通する負圧室に流出すると共に、負圧室外部の気体がスリットを介して負圧室に流入する。これにより、余剰液体がスリットから外部に漏出し難い状態で負圧室を移動し、吸引口から吸引流路内に吸引されて外部へと排出されるので、ノズル噴射口から流れ出た液体を回収するスペースを極めて小さいものとし、液体噴射ヘッドのスペースファクタを向上させることができると共に、液体噴射記録装置の設計の自由度を向上させることができる。
また、吸引流路により液体を連続して排出することができるので、余剰液体の回収能力が極めて高く、多量の余剰液体が流出した場合であっても余剰液体による汚染を防止することができると共に、液体充填後の液体噴射を安定させることができる。
また、ノズル面をワイパーによって清掃する必要が無い上に、ワイパー等の清掃装置が具備されているサービスステーションを設けることなく、ノズルガードと、吸引流路と、吸引部とで余剰液体を回収することができるので、簡素な構成で液体噴射記録装置の初期充填を実現することが可能となる。
【0012】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記吸引口は、前記スリットと対向しない位置に設けられている、という手段を採用する。
この発明によれば、スリットから流入した空気が内側空間を経由してから吸引口に達するので、内側空間を速やかに減圧することができ、負圧室の負圧状態を良好に継続させることができる。これにより、余剰液体の回収を速やかに行うことができると共に多量の余剰液体の回収を安定的に行うことができる。
【0013】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記吸引口は、前記負圧室の重力方向最下部に設けられている、という手段を採用する。
この発明によれば、最下部において余剰液体が吸引されるので、下方に流れて最下部近傍に到達した余剰液体を効率よく吸引することができる。
【0014】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記スリットは、該スリットの長手方向を重力方向に向けて形成されると共に、下端部が円形状に形成されている、という手段を採用する。
この発明によれば、余剰液体がスリットから外部に漏出しようとしても、スリット下端部において表面張力により維持された液体の表面が破壊され難く、負圧室に余剰液体が留まり易くなるので、余剰液体の漏出による汚染を防止することができると共に余剰液体の回収能力を向上させることができる。
【0015】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの内側下部に前記吸引口へ収束する傾斜部が設けられ、前記傾斜部では、前記ノズル体の表面に平行で前記ノズル列に垂直な方向の幅寸法が前記吸引口に向けて漸次小となっている、という手段を採用する。
この発明によれば、負圧室下部に達した余剰液体が幅方向において吸引口に向かって流れて吸引口近傍に達するので、吸引口に吸引され易くなる。これにより、余剰液体を効率よく吸引することが可能となり、余剰液体の回収能力が向上する。
【0016】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの内側下部に前記吸引口へ収束する傾斜部が設けられ、前記傾斜部では、前記ノズル体の表面に垂直な方向における前記ノズル体との距離が前記吸引口に向けて漸次小となっている、という手段を採用する。
この発明によれば、ノズル体の表面に垂直な方向におけるノズル体と傾斜部との距離が、吸引口に向かうほど近くなっているので、傾斜部を下方に向けて流れる余剰液体が吸引口近傍に達する。これにより、余剰液体を効率よく吸引することが可能となり、余剰液体の回収能力が向上する。
【0017】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの表面うち、少なくとも外方に露出する外表面に撥水膜が形成されている、という手段を採用する。
この発明によれば、余剰液体がスリットから外部に漏出しようとしても、撥水膜にはじかれて負圧室に留まり易くなるので、余剰液体の回収能力が向上すると共に余剰液体の漏出による汚染が防止される。
【0018】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの表面のうち、前記負圧室と接する内表面に親水膜が形成されている、という手段を採用する。
この発明によれば、余剰液体が負圧室を流れ易くなってスリットから外部に漏出し難くなると共に、撥水膜にはじかれた余剰液体を負圧室に導くので、余剰液体がスリットから流れ出ずに負圧室に留まり易くなる。
【0019】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの前記天板部に、前記負圧室側に窪む窪み部が形成され、該窪み部の底面に前記スリットが形成されている、という手段を採用する。
この発明によれば、窪み部の底面にスリットが形成されるので、ノズルガードが被記録媒体等と接触した場合であっても、スリット近傍の撥水膜と接触させる確率を低減させて撥水膜が剥離することを防止することができる。
【0020】
また、液体噴射ヘッドに係る解決手段として、前記ノズルガードの前記天板部に、前記負圧室側に突出し、かつ、前記スリットを環状に囲繞する環状突出壁が形成されている、という手段を採用する。
この発明によれば、環状突出壁が内表面を伝う余剰液体がスリットに向かうことを阻止するので、スリットから余剰液体が漏出することを防止することができる。特に、液体噴射ヘッドのノズル噴射口を下方に向けて被記録媒体に液体を噴射する場合において、負圧室を復圧させた後の内側空間に余剰液体が残存していたとしても、スリットから余剰液体が漏出することを効果的に防止することができる。
【0021】
また、液体噴射記録装置に係る解決手段として、上記解決手段を採用したいずれかの液滴噴射ヘッドを備え、前記液体供給系に第一液体を供給し得るように構成された液体供給部を備えている、という手段を採用する。
この発明によれば、液体供給系に第一液体が供給されるので、例えば、第一液体をインクとして、液体噴射ヘッドにインクを供給することができる。
【0022】
また、液体噴射記録装置に係る解決手段として、上記解決手段を採用したいずれかの液滴噴射ヘッドを備え、前記液体供給系に第一液体と第二液体とを切り換え供給し得るように構成された液体供給部を備えている、という手段を採用する。
この発明によれば、液体供給系に二種類の液体が供給されるので、例えば、液体供給系にインクと洗浄液とを供給して、液体噴射ヘッドの清掃に対する労力を低減させると共に、効率よく清掃をすることができる。これにより、余剰液体の回収能力を回復させることができる。
【0023】
また、液体噴射記録装置に係る解決手段として、上記解決手段を採用したいずれかの液滴噴射記録装置であって、負圧室内に溢れ出た第一液体を吸引することで回収し、圧力発生室に該第一液体を供給する再利用液体供給系を有する、という手段を採用する。
この発明によれば、負圧室内に溢れ出た第一液体を再利用することができる。
【0024】
また、液体噴射記録装置に係る解決手段として、上記解決手段を採用したいずれかの液滴噴射記録装置であって、再利用液体供給系に、フィルタ部もしくは脱気装置を有するという手段を採用する。
この発明によれば、適切な状態の液体を再利用することができる。
【0025】
また、液体噴射ヘッドの液体充填方法に係る解決手段として、複数のノズル孔からなるノズル列を有するノズル体と、前記各ノズル孔と対となって該ノズル孔に連通する複数の圧力発生室と、該圧力発生室に第一液体を供給する液体供給系と、前記圧力発生室に隣接配置されたアクチュエータとを備え、前記アクチュエータを駆動して該圧力発生室を加圧し、該圧力発生室内の前記第一液体を前記ノズル孔のノズル噴射口から噴射させると共に、前記ノズル列を覆うように形成されたノズルガードを備え、前記ノズルガードは、前記ノズル体の表面から離間配置され前記ノズル列と対向するスリットが形成された天板部と、前記天板部の周縁部と前記ノズル体との間を密閉する密閉部と、前記ノズル列の下方に吸引口が開口し前記ノズルガードの内側空間と連通する吸引流路と、前記吸引流路に接続される吸引部によって前記ノズルガードの内側空間を負圧室とし、前記ノズル孔から前記負圧室内に溢れ出た前記第一液体を吸引する液体噴射ヘッドの液体充填方法であって、前記吸引部により前記負圧室を大気圧より負圧とした状態で、前記液体供給系を用いて前記第一液体を前記圧力発生室まで加圧充填する、という手段を採用する。
この発明によれば、内側空間が大気圧と同圧の状態で液体を圧力発生室に加圧充填した場合に比べて、スリットから空気が連続的に流入するので、余剰液体がスリットから漏出し難く、また、吸引口が連続的に余剰液体を排出するので、余剰液体が内側空間(負圧室)に溜まってスリットから溢れ出ることもない。これにより、余剰液体による汚染を防止しつつ液体の充填が可能となり、液体充填後の液体噴射を安定させることができる。
【0026】
また、液体噴射ヘッドの液体充填方法に係る解決手段として、前記吸引部により前記負圧室を大気圧より負圧とした状態で、前記加圧充填を終了する、という手段を採用する。
この発明によれば、負圧室とした状態で、加圧充填を終了し、負圧室に液体が流れ出なくなるので、内側空間を復圧させた後に圧力発生室に加圧充填を終了した場合に比べて、余剰液体がスリットから漏出し難く、また、スリットから溢れ出ることもない。これにより、余剰液体による汚染を防止しつつ液体の充填が可能となり、液体充填後の液体噴射を安定させることができる。
【0027】
また、本発明の液体噴射記録装置の使用方法は、上記本発明の液体噴射記録装置の使用方法であって、前記吸引部を第1出力により動作させることで、前記内側空間を負圧室とし、前記吸引流路を介して前記噴射孔列から漏出した前記液体を吸引する液体充填モードを有することを特徴としている。
この構成によれば、吸引部を第1出力により動作することで、噴射体ガードの内側空間が大気圧よりも十分に負圧となった負圧室となる。この場合、液体の初期充填時や通常使用時に液体供給部から供給されて噴射孔列から漏出した余剰液体は、スリットでのみ外部と連通する負圧室に流出するとともに、負圧室外部の気体がスリットを介して負圧室に流入する。これにより、余剰液体がスリットから外部に漏出し難い状態で負圧室を移動し、吸引口から吸引流路内に吸引されて外部へと排出されるので、噴射孔列から流れ出た液体を回収することができる。
そのため、スリットからの余剰液体の漏出を防いだ上で、液体の初期充填が可能となる。
【0028】
また、上記本発明の液体噴射記録装置の使用方法であって、前記吸引部を第1出力により動作させることで、前記内側空間を負圧室とし、前記吸引流路を介して前記噴射孔列から漏出した前記液体を吸引する液体充填モードと、前記吸引部を前記第1出力よりも小さい第2出力によって動作させ、前記噴射孔列から被記録媒体へ前記液体を噴射して前記被記録媒体に記録を行う通常使用モードとを切替制御することを特徴としている。
この構成によれば、通常作動モードにおいて、液体充填モードよりも小さい第2出力によって吸引部を作動させておくことで、印刷時等に噴射孔から漏れ出た余剰液体や、液体充填後に噴射体ガードの内側空間に残存した余剰液体が存在した場合であっても、それら余剰液体を吸引することでスリットから余剰液体の漏出を防ぐことができる。したがって、サービスステーションを設けることなく、噴射孔の開口方向を重力方向に向けた状態で、液体の初期充填から印刷までを行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、液体の初期充填時や通常使用時の余剰液体が、スリットでのみ外部と連通する負圧室に流出すると共に、負圧室外部の気体がスリットを介して負圧室に流入する。これにより、余剰液体がスリットから外部に漏出し難い状態で負圧室を移動し、吸引口から吸引流路内に吸引されて外部へと排出されるので、ノズル噴射口から流れ出た液体を回収するスペースを極めて小さいものとし、液体噴射ヘッドのスペースファクタを向上させることができると共に、液体噴射記録装置の設計の自由度を向上させることができる。
また、吸引流路により液体を連続して排出することができるので、余剰液体の回収能力が極めて高く、多量の余剰液体が流出した場合であっても余剰液体による汚染を防止することができると共に、液体充填後の液体噴射を安定させることができる。
また、ノズル面をワイパーによって清掃する必要が無い上に、サービスステーションを設けることなく、ノズルガードと、吸引流路と、吸引部とで余剰液体を回収することができるので、簡素な構成で液体噴射記録装置の初期充填を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態において、インクジェット記録装置1を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態において、右側面から見たインクジェット記録装置1の概略構成図であって、構成の一部を断面表示した図である。
【図3】本発明の実施形態において、インクジェットヘッド10の正面図である。
【図4】本発明の実施形態において、右側面から見たインクジェット記録装置1の概略構成図であって、構成の一部を断面表示した図である。
【図5】本発明の実施形態において、図4におけるI−I線断面図である。
【図6】本発明の実施形態において、ヘッドチップ20の分解斜視図である。
【図7】本発明の実施形態において、セラミック圧電プレート21及びインク室プレート22の詳細を示す分解斜視図である。
【図8】本発明の実施形態において、吸引ポンプ16と加圧ポンプ54との動作タイミング及び空間S(負圧室R)との関係を示した図である。
【図9】本発明の実施形態において、ヘッドチップ20の初期充填時の動作を示した要部拡大断面図である。
【図10】本発明の実施形態におけるインクジェットヘッド10の変形例を示す図であって、インクジェットヘッド60の要部拡大図である。
【図11】本発明の実施形態におけるインクジェットヘッド10の変形例を示す図であって、インクジェットヘッド70を示す要部拡大図である。
【図12】本発明の実施形態におけるインクジェットヘッド10の変形例を示す図であって、インクジェットヘッド80,90,100を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。
(液体噴射記録装置)
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置(液体噴射記録装置)1を示す斜視図であり、図2は、インクジェット記録装置1の概略構成図である。このインクジェット記録装置1は、所定のパーソナルコンピュータに接続されて、このパーソナルコンピュータから送られた印刷データに基づいて、インク(液体)Iを吐出(噴射)して箱体Dに印刷を施すものである。インクジェット記録装置1は、箱体Dを一方向に搬送するベルトコンベア2と、複数のインクジェットヘッド10を備えるインク吐出部3と、図2に示すように、インクジェットヘッド10にインク(第一液体)I及びクリーニング用洗浄液(第二液体)Wを供給するインク供給部5とを備えている。
【0032】
インク吐出部3は、箱体DにインクIを吐出するものであり、図1に示すように、直方体形状の筐体6を四つ有し、これら筐体6内にインクジェットヘッド10がそれぞれ内装されている(図2参照)。各筐体6は、ベルトコンベア2の幅方向両側にそれぞれインク吐出面6aをベルトコンベア2側に向けた状態で二つずつ配設されている。ベルトコンベア2の幅方向両側にそれぞれ配置された二つの筐体6は上下方向に並設され、それぞれ支持部材7によって支持されている。なお、筐体6のインク吐出面6aには、開口部6bが形成されている。
【0033】
(液体噴射ヘッド)
図3は、インクジェットヘッド10の正面図であり、図4は、右側面から見たインクジェットヘッド10の概略構成図であり、図5は、図4のI−I線断面図である。
インクジェットヘッド10は、図4に示すように、ケース11と、液体供給系12と、ヘッドチップ20と、駆動回路基板14と(図5参照)、吸引流路15とを備えている。
【0034】
ケース11は、正面11aに露出孔11bが形成された薄箱形状のものであり、厚さ方向を水平方向に向けて、また、露出孔11bを開口部6bに向けて筐体6内に固定されている。このケース11は、図4及び図5に示すように、背面11cにおいて内部空間に連通する貫通孔が形成されており、具体的には、高さ方向略中間の位置にインク注入孔11dが、下部にインク吸引孔11eが形成されている。このケース11は、その内部空間においてケース11に立設して固定されたベースプレート11fを備えると共にインクジェットヘッド10の各構成物品を収容している。
【0035】
液体供給系12は、インク注入孔11dを介してインク供給部5と連通したものであり、ダンパー17と、インク流路基板18とから概略構成されている。
ダンパー17は、図5に示すように、インクIの圧力変動を調整するためのものであり、インクIを貯留する貯留室17aを備えている。このダンパー17は、ベースプレート11fに固定されており、インク注入孔11dと管部材17dとを介して接続されるインク取込孔17bと、インク流路基板18と管部材17eを介して接続されるインク流出孔17cとを備えている。
インク流路基板18は、図4に示すように、縦長に形成された部材であって、図5に示すように、その内部にダンパー17と連通してインクIが流通する流通路18aが形成された部材であり、ヘッドチップ20に取り付けられている。
【0036】
駆動回路基板14は、図5に示すように、図示しない制御回路と、フレキシブル基板14aとを備えている。この駆動回路基板14は、フレキシブル基板14aの一端が後述の板状電極28に、他端が駆動回路基板14上の図示しない制御回路に接合されることで、印刷パターンに応じてセラミック圧電プレート21に電圧を印加する。この駆動回路基板14は、ベースプレート11fに固定されている。
【0037】
ヘッドチップ20は、図6に示すように、セラミック圧電プレート(アクチュエータ)21と、インク室プレート22と、ノズル体23と、ノズルガード24とを備えている。
【0038】
セラミック圧電プレート21は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)からなる略矩形板状の部材であり、図6及び図7に示すように、二つの板面21a、21bのうち一方の板面21aに複数の長溝26が並設されて、各長溝26が側壁27で隔離されている。
【0039】
長溝(圧力発生室)26は、図6に示すように、セラミック圧電プレート21の短手方向に延設されており、セラミック圧電プレート21の長手方向の全長にわたって複数並設されている。各長溝26は、図7に示すように、圧電アクチュエータの厚さ方向に沿った断面が矩形状に形成されている。また、各長溝26の底面は、セラミック圧電プレート21の前側面21cから短手方向の略中央部まで延びる前方平坦面26aと、この前方平坦面26aの後部から後側面側に向かって溝深さが漸次浅くなる傾斜面26bと、この傾斜面26bの後部から後側面側に向かって延びる後方平坦面26cとからなっている。
各長溝26は、円盤状のダイスカッターにより形成されている。
【0040】
側壁27は、セラミック圧電プレート21の長手方向に亘って複数並設されて、長溝26をそれぞれ区分けしている。これら各側壁27の両壁面における長溝26開口側(板面21a側)には、セラミック圧電プレート21の短手方向に亘って駆動電圧印加用の板状電極28が延設されている。この板状電極28は、公知の斜め方向からの蒸着により形成されている。この板状電極28は、上述したフレキシブル基板14aが接合されている。
【0041】
このようなセラミック圧電プレート21は、図5に示すように、板面21bのうち後側面側がベースプレート11fの縁部に固定されており、長溝26の延在方向を露出孔11bに向けている。
【0042】
図6及び図7に戻って、インク室プレート22は、セラミック圧電プレート21と同様に略矩形板状の部材であり、セラミック圧電プレート21の寸法と比較して、長手方向の寸法が略同一に、短手方向の寸法が短く形成されている。このインク室プレート22は、厚さ方向に貫通し、かつ、インク室プレート22の長手方向に亘って形成された開放孔22cを備えている。
なお、このインク室プレート22は、セラミックプレート、金属プレートなどで形成することができるが、セラミック圧電プレート21との接合後の変形を考えて、熱膨張率の近似したセラミックプレートを用いている。
【0043】
このようなインク室プレート22は、図6に示すように、前側面22aがセラミック圧電プレート21の前側面21cと同一平面となる突合わせ面25aを構成するように、板面21a側からセラミック圧電プレート21に接合されている。この接合状態においては、開放孔22cがセラミック圧電プレート21の複数の長溝26を全体にわたって露出させて、全ての長溝26を外方に開放し、各長溝26がそれぞれ連通した状態になっている。
インク室プレート22には、図5に示すように、開放孔22cを覆うようにしてインク流路基板18が装着され、インク流路基板18の流通路18aと各長溝26とが連通している。
【0044】
ノズル体23は、図5に示すように、ノズルプレート31がノズルキャップ32に貼着されることにより構成されている。
ノズルプレート31は、図6に示すように、ポリイミドからなる薄板状、かつ、細長状の部材であり、厚さ方向に貫通する複数のノズル孔31aが列設してノズル列31cを構成している。より具体的には、長溝26と同数のノズル孔31aが、ノズルプレート31の短手方向中間の位置において同一線上に、かつ、長溝26と同一の間隔で形成されている。
ノズルプレート31の二つの板面のうち、インクIを吐出するノズル吐出口(ノズル噴出口)31bが開口する板面には、インクの付着等を防止するための撥水性を有する撥水膜が塗布されており、他方の板面は上記突合わせ面25a及びノズルキャップ32との接合面とされている。
なお、ノズル孔31aは、エキシマレーザ装置を用いて形成されている。
【0045】
ノズルキャップ32は、枠板状の部材が有する二つの枠面のうち一方の枠面の外周縁を削り取ったような形状の部材であって、薄板状となった外枠部32aと、外枠部32aよりも厚くなった中枠部32hと、中枠部32hよりも厚くなった内枠部32bと、内枠部32bの短手方向中間部において厚さ方向に貫通すると共に長手方向に延在する長孔32cと、外枠部32aの一端部において厚さ方向に貫通する排出孔32dとを備える部材である。換言すれば、外枠部32aが有する外枠面32eから中枠部32hと内枠部32bとが厚さ方向に段状に突出しており、厚さ方向の断面輪郭が長孔32cに向かって外枠部32a、中枠部32h、内枠部32bの順に高くなる階段状となっている。
外枠面32eと同方向に延在する内枠面32fには、長孔32cを塞ぐようにノズルプレート31が貼付されており、外枠面32e及び外枠面32eの直交方向に延在する中側面32iには、ノズルガード24が当接している。
【0046】
このようなノズル体23は、ノズルキャップ32の排出孔32dが下側に位置するように(図3参照)、ケース11の内部空間に収容され、ケース11及びベースプレート11fに固定されている(図5参照)。
この状態においては、長孔32cにセラミック圧電プレート21及びインク室プレート22の一部が挿入されて、ノズルプレート31に突合わせ面25aが突き合わされている。またノズルプレート31は、内枠面32fに接着剤によって接着されているとともに、内枠面32fの面積と比較すると、ノズルプレート31の面積が大きく形成されており、ノズルプレート31が内枠面32fから多少はみ出て設置されている。
【0047】
このような構成により、ダンパー17内の貯留室17aから所定量のインクIがインク流路基板18に供給されると、この供給されたインクIが開放孔22cを介して、長溝26内に送り込まれるようになっている。なお、長溝26の後方平坦面26c側(図7参照)に生じたインク室プレート22と長溝26との間隙は、封止材によって封止されている。
【0048】
(ノズルガード)
ノズルガード24は、ステンレス鋼からなる略箱型形状の部材でありプレス成形で形成されたものある。このノズルガード24は、矩形板状に形成された天板部24aと、この天板部24aの周縁部から板面方向と略直交する方向に延出した密閉部24bとを備えている。
【0049】
天板部24aは、内枠面32fと略同大の板面を有しており、天板部24aの短手方向中間部において長手方向に延在したスリット24cを備えている。このスリット24cは、ノズル列31cの長さよりも多少長く形成されており、両端部(上端部24i、下端部24j)が円形に形成されたものである。
スリット24cの幅寸法は、ノズル孔31aのノズル径40μmに対して幅寸法が略1.5mmに設定されている。このスリット24cの幅寸法は、吸引ポンプ16で負圧とすることができる幅寸法を上限とし、インクIの初期充填の際にインクIがスリット24cから溢れ出て垂れない幅寸法を下限とした範囲で設定するのが望ましい。
また、上端部24i、下端部24jは、上述した幅寸法よりもやや大きい直径で円形に形成されている。
【0050】
このノズルガード24は、内方に面する内表面24eにチタンコーティングによる親水膜24gが形成されており、この内表面24eと背向する外表面24fと、スリット24cの内面にフッ素樹脂コーティングやテフロン(登録商標)メッキによる撥水膜24hが形成されている。
【0051】
このようなノズルガード24は、天板部24aが内枠部32bと排出孔32dとを覆うように(図3参照)、また、密閉部24bにおける内表面24eと中枠部32hの中側面32iとが当接するように、環状端部24dが外枠面32eと接着剤で接着されて、ノズルキャップ32に被着している(図5参照)。この状態においては、スリット24cがノズル列31cと対向すると共に排出孔32dと対向しないように、空間(内側空間)Sを介してノズル列31cを覆っている。換言すれば、スリット24cの開口方向において、スリット24cからノズル列31cを臨むように、かつ、排出孔32dを臨まないようにノズル吐出口31bを覆っている(図3参照)。
【0052】
このノズルガード24は、天板部24aとノズルプレート31との距離を、吸引ポンプ16で負圧とすることができる距離を上限とし、インクIの初期充填の際にインクIがスリット24cから溢れ出ない距離を下限とした範囲で設定するのが望ましい。
【0053】
吸引流路15は、図4に示すように、吸引口15aとなるチューブ管の一端が排出孔32dに嵌挿されて固定されており、他端がインク吸引孔11eに接続されて構成されている。上述したように、吸引口15aは、スリット24cと対向しない位置に開口している。
吸引ポンプ16は、インク吸引孔11eにチューブを介して接続されている。この吸引ポンプ16は、作動時に、空間S内の空気及びインクIを吸引して、空間Sを負圧室Rとする。なお、この吸引ポンプ16は、廃液タンクE(図2参照)に吸引したインクIを貯留する。
【0054】
図2に戻って、インク供給部5は、インクIが貯留されたインクタンク51と、洗浄液Wが貯留された洗浄液タンク52と、二つの流路を切替可能な切替バルブ53と、インクI又は洗浄液Wをインクジェットヘッド10に加圧供給する加圧ポンプ54と、流路を開閉可能な開閉バルブ55とを備えている。
インクタンク51は、供給管57a、切替バルブ53及び供給管57cを介して、洗浄液タンク52は、供給管57b、切替バルブ53及び供給管57cを介してそれぞれ加圧ポンプ54に連通している。すなわち、切替バルブ53は、流入管として供給管57a,57bが、流出管として供給管57cが接続されている。
【0055】
加圧ポンプ54は、供給管57cが接続されると共に供給管57dを介してインクジェットヘッド10に連通しており、供給管57cから流入したインクI又は洗浄液Wをインクジェットヘッド10に供給する。この加圧ポンプ54は、非作動時には流体が流れないように構成されたものであり、開閉弁的な機能を有するものである。
【0056】
開閉バルブ55は、供給管57cに連通し流入管となる供給管57eと、供給管57dに連通し流出管となる供給管57fとが接続されている。すなわち、この開閉バルブ55を開とすると供給管57e,57fが加圧ポンプ54のバイパス管として機能するようになっている。
【0057】
次に、上記構成からなるインクジェット記録装置1の動作について説明する。以下の説明においては、インクIをインクジェットヘッド10に初期充填した後に、箱体Dに印刷を施す場合について説明し、さらに、インクジェットヘッド10をクリーニングする場合について説明する。
【0058】
(インク初期充填)
図8は、吸引ポンプ16と加圧ポンプ54との動作タイミング及び空間S(負圧室R)との関係を示した図であり、図9は初期充填時の動作を示したヘッドチップ20の要部拡大断面図である。
まず、図4及び図8に示すように、吸引ポンプ16を作動させ(ON1)、この吸引ポンプ16が吸引流路15を介して吸引口15aから空間Sの空気を吸引する(図8における時間T0)。この際、作動する吸引ポンプ16の出力は、空間S内を十分に負圧とすることができる程度に設定することが好ましく、このときの出力を吸引ポンプ16の充填出力とする。吸引ポンプ16を充填出力(第1出力)で作動させると、外部の空気がスリット24cから空間Sに流入するが、この空気が空間Sを経由してから吸引口15aに達した後に吸引されることで空間Sを減圧する(液体充填モード)。そして、所定時間T1経過後に、空間Sが大気圧よりも十分に負圧となった負圧室Rとなる。
【0059】
空間Sが負圧室Rとなった後、インク供給部5がインクIをインクジェットヘッド10に加圧充填する(図8における時間T2)。この際、インク供給部5は、以下のように設定されている。すなわち、図2に示すように、切替バルブ53により供給管57aと供給管57cとを連通させた状態とし、開閉バルブ55を閉塞させて供給管57eと供給管57fとを遮断する。この状態において加圧ポンプ54を作動させる。加圧ポンプ54は、インクタンク51から供給管57a,57c,57dを介してインクジェットヘッド10のインク注入孔11dにインクIを注入する。
【0060】
インク注入孔11dに注入されたインクIは、図4及び図5に示すように、ダンパー17のインク取込孔17bを介して貯留室17aに流入した後に、インク流出孔17cを介してインク流路基板18の流通路18aに流出する。そして、流通路18aに流入したインクIが開放孔22cを介して各長溝26内に流入する。
【0061】
各長溝26に流入したインクIは、ノズル孔31a側に流れてノズル孔31aに達した後、図9(a)に示すように、余剰インクYとなってノズル孔31aから流出する。余剰インクYが流出し始めた時には、その量が少量であるため、余剰インクYは、ノズルプレート31上を下方に向かって流れる。負圧室Rの下部まで達したインクIは、吸引口15aから吸引流路15に吸引されて、廃液タンクEへと排出されていく(図9(b)参照)。
【0062】
余剰インクYは、その流出量が多量となると、図9(b)に示すように、ノズルプレート31上だけではなく、ノズルガード24の内表面24e上をも下方に流れるようになる。この際、スリット24cから負圧室Rに継続して空気が流入しており、余剰インクYがスリット24cから外部に流出し難い。仮に、図9(c)に示すように、スリット24c近傍の内表面24eを流れる余剰インクYの量が局部的に多くなり、この余剰インクYの一部がスリット24cから流入する空気に抗して外表面24f近傍まで達しても、外表面24fに形成された撥水膜24hに弾かれる。この弾かれたインクIは、内表面24eに形成された親水膜24gに誘導されて再び負圧室Rに戻される。
【0063】
また、スリット24cの下端部24jにおいては、円形状の下端部24jの輪郭(外表面24fと下端部24jとの境界)でインクIに表面張力が働く。下端部24jにおいては、インクIに強い表面張力が働き、また、この表面張力の均衡が保たれてインクIの表面が破壊されず、外部に漏出しない。さらに、上記と同様に、外表面24fに形成された撥水膜24h及び内表面24eに形成された親水膜24gに誘導されて負圧室Rに戻される。
このようにして、ノズル孔31aから流出する余剰インクYを連続して廃液タンクEに排出する。
【0064】
図8に示すように、所定時間T3経過後に加圧ポンプ54を停止して、インクIの加圧充填を終了する。加圧ポンプ54の停止に伴いノズル孔31aから余剰インクYが流出しなくなり、負圧室Rに残存している余剰インクYが吸引口15aを介して廃液タンクEに排出される。
【0065】
そして、所定時間T4経過後に吸引ポンプ16を停止させる。インクIの充填完了後には、図9(d)に示すように、長溝26にインクIが充填された状態となる。なお、空間Sは、復圧されて再び大気圧と同圧となる(図8参照)。
【0066】
(印刷時)
続いて、箱体Dに印刷を施す場合の動作について説明する。最初にインク供給部5の設定について説明する。すなわち、図2に示すように、切替バルブ53により供給管57aと供給管57cとを連通させた状態とし、開閉バルブ55を開放させて供給管57eと供給管57fとを連通させる。この状態において加圧ポンプ54を非作動として、加圧ポンプ54を介して供給管57cと供給管57dとを連通させないようになっている。この状態においては、インクIが供給管57a,57c,57e,57f,57dを介して、インクジェットヘッド10のインク注入孔11dに注入されるようになっている。
【0067】
インク供給部5を上記のように設定した状態でベルトコンベア2を駆動して(図1参照)、箱体Dを一方向に搬送すると共に、搬送される箱体Dが筐体6の前を通過する際、つまり、ノズルプレート31(ノズル孔31a)の前を通過する際、インク吐出部3が箱体Dに向けてインク滴を吐出する。
具体的には、外部のパーソナルコンピュータから入力された印刷データに基づいて、駆動回路基板14がこの印刷データに対応した所定の板状電極28に選択的に電圧を印加する。これにより、この板状電極28に対応した長溝26の容積が縮小し、長溝26内に充填されたインクIがノズル吐出口31bから箱体Dに向かって吐出される。
インクIを吐出すると長溝26が負圧になるため、上述した供給管57a,57c,57e,57f,57dを介して、インクIが長溝26に充填される。
【0068】
このようにして、インクジェットヘッド10のセラミック圧電プレート21を画像データに応じて駆動させ、ノズル孔31aからインク滴を吐出して箱体Dに着弾させる。このように、箱体Dを移動させつつインクジェットヘッド10からインク滴を連続して吐出させることで箱体Dの所望の位置に画像(文字)が印刷される。
【0069】
ここで、本実施形態のインクジェットヘッド10は、ノズル列31cの列設方向を重力方向に向け、また、ノズル孔31aの開口方向を水平方向に向ける構成としたが、このような構成だけではなく、ノズル孔31aの開口方向を重力方向に向ける構成として、ノズル列31cの延在方向を水平方向に向ける構成も考えられる。
このような場合、ノズル孔31aの吐出口31bの開口方向が重力方向を向いているため、インクIの充填時にノズル孔31aから漏出した余剰インクYを吸引しきれず、ノズルガード24の天板部24aと周壁部24bとの境界部分等に残存している場合がある。また、インクIの充填後、例えば印刷時になってノズル孔31aから余剰インクYが漏れ出る虞もある。
【0070】
そこで、図8に示すように、本実施形態ではインクIの充填後でも吸引ポンプ16を常時作動させている(図8中ON2)。この際、吸引ポンプ16の出力は、インクI充填時の出力(充填出力)よりも弱く、かつ印刷時において空間S内に存在する余剰インクYを十分に吸引できる程度に設定する(通常使用モード)。これにより、空間SはインクIの充填時よりも弱い負圧空間となる。なお、吸引ポンプ16の出力が強すぎると、印刷時にノズル孔31aから吐出されるインク滴の飛行経路に影響が出て、印刷精度に影響が生じる虞があるため好ましくない。そして、この際の吸引ポンプ16の出力を通常出力(第2出力)とする。
【0071】
吸引ポンプ16を通常出力で作動させながら印刷を行うと、ノズル孔31aから漏れ出た余剰インクYや、ノズルガード24の内表面24e上に残存した余剰インクYが、各吸引流路15に向かって流れる。そして、吸引流路15まで到達したインクIは、吸引流路15内に吸引されて廃液タンクEへと排出されていく。
なお、通常使用モードとして記載した図8におけるON2の動作は、必ずしも前述の液体充填モードとして記載した図8におけるON1の動作とともに実施する必要は無く、周囲の動作環境やインクIの種類によって、適宜実施すればよい。
【0072】
(クリーニング時)
続いて、インクジェットヘッド10のクリーニング時の動作について説明する。最初にインク供給部5の設定について説明する。すなわち、図2に示すように、切替バルブ53により供給管57bと供給管57cとを連通させて、開閉バルブ55を閉塞させて供給管57eと供給管57fとを閉塞させる。この状態において加圧ポンプ54を作動させる。加圧ポンプ54は、洗浄液タンク52から供給管57b,57c,57dを介してインクジェットヘッド10のインク注入孔11dに洗浄液Wを注入する。
上記初期充填時と同様に、長溝26等を介して洗浄液Wをノズル孔31aから流出させ、吸引口15aからこの流れ出た洗浄液Wを吸引する。
なお、インクジェット記録装置1を長期間使用しないと、長溝26に充填されたインクIが乾燥硬化することになる。この場合、クリーニング時と同様にインクジェットヘッド10内を洗浄液Wで満たせば、インクジェット記録装置1を長期間にわたり保存することができる。
【0073】
以上説明したように、インクジェット記録装置1によれば、インクジェットヘッド10において余剰インクYがスリット24cから外部に漏出し難い状態で負圧室Rを移動し、吸引口15aから吸引流路15に吸引されて外部へと排出されるので、ノズル吐出口31bから流れ出たインクIを回収するスペースを極めて小さいものとし、インクジェットヘッド10のスペースファクタを向上することができると共に、インクジェット記録装置1の設計の自由度を向上させることができる。
また、吸引流路により多量の余剰インクYを連続して排出することができるので、余剰インクYの回収能力が向上し、余剰インクYによる汚染を防止すると共にインクI充填後のインクIの吐出を安定させることができる。
また、サービスステーションを設けることなく、簡素な構成でインクジェット記録装置1の初期充填を実現することが可能となる。
【0074】
また、吸引口15aがスリット24cと対向せずに配置されており、スリット24cから流入した空気が空間S(負圧室R)を経由してから吸引口15aに達するので、空間Sを速やかに減圧することができ、負圧室Rの負圧状態を良好に継続させることができる。これにより、余剰インクYの回収を速やかに行うことができると共に多量の余剰インクYの回収を安定的に行うことができる。
【0075】
また、吸引口15aが負圧室Rの重力方向最下部に形成されており、最下部においてインクIを吸引するので、下部に流れる余剰インクYを効率よく吸引することができる。
【0076】
また、外表面24fに撥水膜24hが形成されているので、負圧室Rの余剰インクYがスリット24cを介して外部へと流出しようとしても、撥水膜24hにはじかれて、負圧室Rに留まり易くなる。
また、内表面24eに親水膜24gが形成されているので、インクIが負圧室Rを流れ易くなると共に、撥水膜24hにはじかれた余剰インクYを負圧室Rに導き、余剰インクYが負圧室Rに留まり易くなるので、スリット24cから余剰インクYが流れ出ることを高い確率で防止することができる。
【0077】
また、スリット24cの下端部24jが円形状であるので、下端部24jにおいて表面張力により維持されたインクIの表面が破壊され難く、負圧室Rに余剰インクYが留まり易くなる。具体的に説明すると、まず、スリット24cの下端部24jに到達したインクIは、下端部24jに接触する。このとき、円形状の下端部24jの輪郭(外表面24fと下端部24jとの境界)において、インクIに表面張力が働く。ここで、液体(インクI)は、外力の作用が強く働かない環境において略球体で存在するため、スリット24cの端部が矩形状である場合は、表面張力により維持された略球体の表面が壊れてしまい、スリット24cの外部へインクIが漏れ出てしまう恐れがある。
一方、本実施形態のように、スリット24cの端部が円形状である場合は、表面張力により維持された液体(インクI)の表面が破壊されず、下端部24jにおいて漏れ出ることなく負圧室Rに留まり易い。さらに、上記と同様に、外表面24fに撥水膜24hが形成されているので、漏れ出ようとするインクIを負圧室Rに留めることができる。
このような構成を採用すると、上述したように、余剰インクYがスリット24cから外部に漏出しようとしても、スリット24cの下端部24jにおいて、負圧室RにインクIが留まり易くなるので、余剰インクYの漏出による汚染を防止することができると共に余剰インクYの回収能力を向上することができる。
【0078】
また、インク供給部5がインクIと洗浄液Wとを切り換え供給し得るように構成されており、液体供給系12にインクIと洗浄液Wとが供給されるので、インクジェットヘッド10の清掃に対する労力を低減させると共に、効率よくインクジェットヘッド10を清掃することができる。
【0079】
また、上述したように本実施形態では、ノズル列31cを覆うように形成されたノズルガード24を用いて空間S(負圧室R)を形成し、吸引口15aから余剰インクYを排出するという構成を特徴としている。ここで、本構成の特徴を以下に記述する。
本構成では、空間Sが大気圧より十分に負圧となった負圧室Rとなり、負圧室Rに流れ出たインクIがスリット24cに向けて流れ難くなった状態でインクIの加圧充填が開始される。このため、ノズルガード24及び空間Sが形成されていない場合など、空間Sが大気圧と同圧の状態でインクIを長溝26に加圧充填した場合に比べて、スリット24cから空気が連続的に流入するので、余剰インクYがスリット24cから漏出し難い。また、吸引口15aが連続的に余剰インクYを排出するので、余剰インクYが空間S(負圧室R)に溜まってスリット24cから溢れ出ることもない。
また、負圧室Rとした状態で、加圧充填を終了し、負圧室Rに液体が流れ出なくなるので、空間Sを復圧させた後に長溝26に加圧充填を終了した場合に比べて、余剰インクYがスリット24cから漏出し難く、また、スリット24cから溢れ出ることもない。これにより、余剰インクYによる汚染を防止しつつインクIの充填が可能となり、充填後のインクIの吐出を安定させることができる。
【0080】
(変形例)
以下、図面を用いて、インクジェットヘッド10の具体的な変形例を説明する。なお、インクジェットヘッド10と同様の構成のものについては、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0081】
図10は、インクジェットヘッド10の変形例を示すインクジェットヘッド60を示した図である。このインクジェットヘッド60は、負圧室Rの底部r1に二つの傾斜部61が設けられている。
傾斜部61は、それぞれ断面が直角三角形状の三角柱部材からなり、互いに直角を形成する二つの矩形側面を密閉部24bに当接させると共に、この二つの矩形側面によって構成される直角部を密閉部24bが形成する二つの角部のうち一方に当接させて設けられ、直角部と対向する矩形側面が吸引口15aへ収束する斜面を構成するように配置されている。このような構成により、負圧室Rの下部の幅寸法(ノズルプレート31の表面に平行でノズル列31cに垂直な方向における幅寸法)が吸引口15aに向けて漸次小となっている。
このような構成によれば、負圧室Rの下部に達した余剰インクYが、幅方向において吸引口15aに向かって流れていくので、余剰インクYを吸引口15aから吸引し易いものとすることができる。
【0082】
図11は、インクジェットヘッド10の変形例を示すインクジェットヘッド70を示した図である。このインクジェットヘッド70は、負圧室Rの底部r1に一つの傾斜部62が設けられている。
傾斜部62は、この傾斜部62は、断面が直角三角形状の三角柱部材からなり、天板部24aと密閉部24bが形成する角部に直角に形成された角部を当接させて設けられ、この角部に対向する斜面が吸引口15aへ収束するように配置されている。このような構成により、ノズルプレート31の表面に垂直な方向においてノズルプレート31と天板部24aとの距離が吸引口15aに向けて漸次小となっている。
このような構成によれば、負圧室Rの下部に達した余剰インクYが、負圧室Rの吸引口開口方向において吸引口15aに向かって流れていくので、余剰インクYを吸引口15aから吸引し易いものとすることができる。
【0083】
図12(a)は、インクジェットヘッド10の変形例を示すインクジェットヘッド80を示した図である。この図12(a)に示すように、インクジェットヘッド80のノズルガード24には、天板部24aに負圧室R側に窪む窪み部24xが形成されている。窪み部24xは、プレス成形(圧延)で形成したものであり、この窪み部24xの底面にはスリット24cが形成されている。これにより、ノズルガード24が箱体Dと接触した場合であっても、スリット24c近傍の撥水膜24hが箱体Dと接触する確率を低減させて、撥水膜24hが剥離することを防止することができる。
【0084】
図12(b)は、インクジェットヘッド10の変形例を示すインクジェットヘッド90を示した図である。この図12(b)に示すように、インクジェットヘッド90のノズルガード24には、負圧室R側に突出し、かつ、スリット24cを環状に囲繞する環状突出壁24yが形成されている。これにより、インクジェットヘッド90のノズル吐出口31bを下方に向けて箱体DにインクIを吐出する場合において、負圧室Rを復圧させた後に空間Sに余剰インクYが残存していたとしても、この余剰インクYが内表面24eを伝ってスリット24cに到達するのを阻止して、スリット24cから余剰インクYが漏出することを防止することができる。
【0085】
図12(c)は、インクジェットヘッド10の変形例を示すインクジェットヘッド100を示した図である。この図12(c)に示すように、インクジェットヘッド100のノズルガード24には、窪み部24xと環状突出壁24yとがプレス成形により形成されている。これにより、撥水膜24hが剥離することを防止することができると共に、インクジェットヘッド100のノズル吐出口31bを下方に向けて箱体DにインクIを吐出する場合に、スリット24cから余剰インクYが漏出することを防止することができる。
なお、プレス成形であれば、窪み部24xと環状突出壁24yとを同時に形成することができ、生産効率が良好なものとなる。
【0086】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0087】
例えば、上述した実施の形態においては、図2に示すように吸引ポンプ16及び廃液タンクEをインクジェットヘッド10の内部に備えるような構成としたが、このような形態に限られるものではない。すなわち、吸引ポンプ16と廃液タンクEをインクジェットヘッド10の外部に設け、例えばインクジェット記録装置1に搭載させてもよい。
【0088】
例えば、上述した実施の形態においては、ノズル体23をノズルプレート31とノズルキャップ32とから構成し、ノズルキャップ32にノズルガード24の環状端部24dを被着させたが、吸引口15aが空間Sに開口されることを条件として、ノズルプレート31に被着させてもよい。
【0089】
また、上述した実施の形態においては、吸引口15aをノズルキャップ32に形成した排出孔32dに嵌挿させる構成としたが、排出孔32dをノズルプレート31やノズルガード24に形成してもよいし、排出孔32dに吸引流路15を接続して、この排出孔32dを吸引口としてもよい。
【0090】
また、上述した実施の形態においては、撥水膜24hをフッ素樹脂コーティングやテフロン(登録商標)メッキによって形成したが、撥水シートを貼付したり撥水剤を塗布したりしてもよい。
また、上述した実施の形態においては、親水膜24gをチタンコーティングによって形成したが、金メッキを施してもよいし、アルカリ性の薬品を塗布してもよい。
【0091】
また、上述した実施の形態においては、インクジェットヘッド10を固定してインクジェット記録装置1を構成したが、インクジェットヘッド10を可動してインクジェット記録装置1を構成することも可能である。すなわち、インクジェットヘッド10を採用すれば、負圧吸引するためのキャップが不要となったインクジェット記録装置を実現することができる。
【0092】
また、上述した実施の形態においては、インクジェットヘッド10のノズル列31cの列設方向を重力方向に向け、また、ノズル孔31aの開口方向を水平方向に向ける構成としたが、このような設置の方向に限られない。ノズル孔31aの開口方向を重力方向に向ける構成としてもよいし、ノズル列31cの延在方向を水平方向に向ける構成をしてもよい。
【0093】
また、上述した実施の形態においては、初期充填時及びクリーニング時に吸引ポンプを作動させたが、印刷時においてもノズル孔31aからインクIが垂れる場合があり、このようなインクIを回収してもよい。
【0094】
また、上述した実施の形態においては、ノズルガード24とは別部材の傾斜部61,62を設けたが、この傾斜部61,62を設ける代わりにノズルガード24の内表面24eを傾斜して形成し傾斜部としてもよい。
また、傾斜部61と傾斜部62を重畳的に用いてもよい。すなわち、下方に向かうほど
負圧室Rの下部の幅寸法及びノズルプレート31と天板部24aとの距離を漸次小とする部材を設けてもよいし、内表面24eをこのような形状に成形してもよい。
【0095】
また、上述した実施の形態においては、窪み部24x、環状突出壁24yをプレス成形により形成したが、他の加工法、例えば、切削により形成してもよい。
【0096】
また、上述した実施の形態においてヘッドチップ20は、図6及び7に記載したとおり、開放孔22cが各長溝26全体に開口している形態を示したが、これに限らず、例えば長溝26の一つおきに連通するスリットをインク室プレート22に形成し、インクIが導入される長溝26とインクIが導入されない長溝26を形成してもよい。このような形態を採用することによって、例えば導電性のインクIであったとしても、隣り合う側壁27の板状電極28が短絡することなく、独立したインク吐出を実現することができる。
すなわち、上述した実施の形態において記したヘッドチップは形態を限定したものではないため非導電性の油性インク、導電性の水性インク、ソルベントインクやUVインク等を用いても構わない。このように液体噴射ヘッドを構成することで、いかなる性質のインクであっても使い分けることができる。特に、導電性を有するインクであっても問題なく利用でき、液体噴射記録装置の付加価値を高めることができる。なお、その他は同様の作用効果を奏することができる。
【0097】
また、上述した実施の形態においては、インクIを吐出するアクチュエータとして、電極が設けられたセラミック圧電プレート21を備えるようにしたが、この形態に限られるものではない。例えば、電気熱変換素子を用いて、インクIが充填されている室内に気泡を生じさせ、その圧力によって、インクIを吐出する機構としても構わない。
【0098】
また、上述した実施の形態においては、液体噴射記録装置の一例として、インクジェットプリンタ1を例に挙げて説明したが、プリンタに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機などであっても構わない。
【0099】
また、上述した実施の形態においては、図2に示す構成の通り、吸引ポンプ16によって吸引した余剰インクYを廃液タンクEへ排出することとしたが、この形態に限られるものではない。例えば、吸引ポンプ16の出口側の流路に接続される構成を、廃液タンクではなく、インクタンク51とすることもできる。すなわち、吸引ポンプ16によって吸引された余剰インクYをインクタンク51へ供給し、インクタンク51からインクジェットヘッド10へインクIとして供給する形態としてもかまわない。このような形態を採用することによって、余剰インクYをインクIとして再利用することができる。
またこの構成に加えて、余剰インクYを再利用するにあたり、吸引ポンプ16からインクタンク51へ通じる流路にフィルタ部材を設けてもかまわない。このような構成を採用することによって、余剰インクYに含まれる不純物を除去し、適切な状態のインクをインクタンク51へ供給することができる。
さらに、余剰インクYを再利用するにあたり、吸引ポンプ16からインクタンク51へ通じる流路に脱気装置を設けてもかまわない。このような構成を採用することによって、余剰インクYに含まれる気泡を脱気し、適切な脱気状態のインクをインクタンク51へ供給することができる。
ただし、上述したこれらの構成は、必ず用いられなければならない構成ではなく、液滴噴射記録装置の仕様に応じて適宜使用されればよい。
【符号の説明】
【0100】
1…インクジェット記録装置(液体噴射記録装置)
10,60,70,80,90,100…インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)
12…液体供給系
15…吸引流路
15a…吸引口
16…吸引ポンプ(吸引部)
21…セラミック圧電プレート(アクチュエータ)
23…ノズル体
24…ノズルガード
24a…天板部
24b…密閉部
24c…スリット
24e…内表面
24f…外表面
24g…親水膜
24h…撥水膜
24j…下端部
24x…窪み部
24y…環状突出壁
26…長溝(圧力発生室)
31a…ノズル孔
31b…ノズル吐出口(ノズル噴出口)
31c…ノズル列
61,62…傾斜部
r1…底部
I…インク(第一液体)
R…負圧室
S…空間(内側空間)
W…洗浄液(第二液体)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズル孔からなるノズル列を有するノズル体と、前記各ノズル孔と対となって該ノズル孔に連通する複数の圧力発生室と、該圧力発生室に第一液体を供給する液体供給系と、前記圧力発生室に隣接配置されたアクチュエータとを備え、
前記アクチュエータを駆動して該圧力発生室を加圧し、該圧力発生室内の前記第一液体を前記ノズル孔のノズル噴射口から噴射させる液体噴射ヘッドにおいて、
前記ノズル列を覆うように形成されたノズルガードを備え、前記ノズルガードは、前記ノズル体の表面から離間配置され前記ノズル列と対向するスリットが形成された天板部と、前記天板部の周縁部と前記ノズル体との間を密閉する密閉部と、
前記ノズル列の下方に吸引口が開口し前記ノズルガードの内側空間と連通する吸引流路とを備え、
前記吸引流路に接続される吸引部によって前記ノズルガードの内側空間を負圧室とし、前記ノズル孔から前記負圧室内に溢れ出た前記第一液体を吸引することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記吸引口は、前記スリットと対向しない位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記吸引口は、前記負圧室の重力方向最下部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記スリットは、該スリットの長手方向を重力方向に向けて形成されると共に、下端部が円形状に形成されていることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記ノズルガードの内側下部に前記吸引口へ収束する傾斜部が設けられ、
前記傾斜部では、前記ノズル体の表面に平行で前記ノズル列に垂直な方向の幅寸法が前記吸引口に向けて漸次小となっていることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記ノズルガードの内側下部に前記吸引口へ収束する傾斜部が設けられ、
前記傾斜部では、前記ノズル体の表面に垂直な方向における前記ノズル体との距離が前記吸引口に向けて漸次小となっていることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記ノズルガードの表面のうち、少なくとも外方に露出する外表面に撥水膜が形成されていることを特徴とする請求項1から6のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記ノズルガードの表面うち、前記負圧室と接する内表面に親水膜が形成されていることを特徴とする請求項1から7のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記ノズルガードの前記天板部に、前記負圧室側に窪む窪み部が形成され、
該窪み部の底面に前記スリットが形成されていることを特徴とする請求項1から8のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記ノズルガードの前記天板部に、前記負圧室側に突出し、かつ、前記スリットを環状に囲繞する環状突出壁が形成されていることを特徴とする請求項1から9のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項1から10のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備え、
前記液体供給系に前記第一液体を供給し得るように構成された液体供給部を備えていることを特徴とする液体噴射記録装置。
【請求項12】
請求項1から10のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備え、
前記液体供給系に前記第一液体と第二液体とを切り換え供給し得るように構成された液体供給部を備えていることを特徴とする液体噴射記録装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載の液体噴射記録装置であって、
前記負圧室内に溢れ出た前記第一液体を吸引することで回収し、前記圧力発生室に該第一液体を供給する再利用液体供給系を有することを特徴とする液体噴射記録装置。
【請求項14】
請求項13に記載の液体噴射記録装置であって、
前記再利用液体供給系に、フィルタ部もしくは脱気装置を有することを特徴とする液体噴射記録装置。
【請求項15】
複数のノズル孔からなるノズル列を有するノズル体と、前記各ノズル孔と対となって該ノズル孔に連通する複数の圧力発生室と、該圧力発生室に第一液体を供給する液体供給系と、前記圧力発生室に隣接配置されたアクチュエータとを備え、
前記アクチュエータを駆動して該圧力発生室を加圧し、該圧力発生室内の前記第一液体を前記ノズル孔のノズル噴射口から噴射させると共に、
前記ノズル列を覆うように形成されたノズルガードを備え、前記ノズルガードは、前記ノズル体の表面から離間配置され前記ノズル列と対向するスリットが形成された天板部と、前記天板部の周縁部と前記ノズル体との間を密閉する密閉部と、
前記ノズル列の下方に吸引口が開口し前記ノズルガードの内側空間と連通する吸引流路とを備え、
前記吸引流路に接続される吸引部によって前記ノズルガードの内側空間を負圧室とし、前記ノズル孔から前記負圧室内に溢れ出た前記第一液体を吸引することを特徴とする液体噴射ヘッドの液体充填方法であって、
前記吸引部により前記負圧室を大気圧より負圧とした状態で、前記液体供給系を用いて前記第一液体を前記圧力発生室まで加圧充填することを特徴とする液体噴射ヘッドの液体充填方法。
【請求項16】
前記吸引部により前記負圧室を大気圧より負圧とした状態で、前記加圧充填を終了することを特徴とする請求項15に記載の液体噴射ヘッドの液体充填方法。
【請求項17】
請求項15に記載の液体噴射記録装置の使用方法であって、
前記吸引部を第1出力により動作させることで、前記内側空間を負圧室とし、前記吸引流路を介して前記噴射孔列から漏出した前記液体を吸引する液体充填モードを有することを特徴とする液体噴射記録装置の使用方法。
【請求項18】
請求項15に記載の液体噴射記録装置の使用方法であって、
前記吸引部を第1出力により動作させることで、前記内側空間を負圧室とし、前記吸引流路を介して前記噴射孔列から漏出した前記液体を吸引する液体充填モードと、
前記吸引部を前記第1出力よりも小さい第2出力によって動作させ、前記噴射孔列から被記録媒体へ前記液体を噴射して前記被記録媒体に記録を行う通常使用モードとを切替制御することを特徴とする液体噴射記録装置の使用方法。
【請求項1】
複数のノズル孔からなるノズル列を有するノズル体と、前記各ノズル孔と対となって該ノズル孔に連通する複数の圧力発生室と、該圧力発生室に第一液体を供給する液体供給系と、前記圧力発生室に隣接配置されたアクチュエータとを備え、
前記アクチュエータを駆動して該圧力発生室を加圧し、該圧力発生室内の前記第一液体を前記ノズル孔のノズル噴射口から噴射させる液体噴射ヘッドにおいて、
前記ノズル列を覆うように形成されたノズルガードを備え、前記ノズルガードは、前記ノズル体の表面から離間配置され前記ノズル列と対向するスリットが形成された天板部と、前記天板部の周縁部と前記ノズル体との間を密閉する密閉部と、
前記ノズル列の下方に吸引口が開口し前記ノズルガードの内側空間と連通する吸引流路とを備え、
前記吸引流路に接続される吸引部によって前記ノズルガードの内側空間を負圧室とし、前記ノズル孔から前記負圧室内に溢れ出た前記第一液体を吸引することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記吸引口は、前記スリットと対向しない位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記吸引口は、前記負圧室の重力方向最下部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記スリットは、該スリットの長手方向を重力方向に向けて形成されると共に、下端部が円形状に形成されていることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記ノズルガードの内側下部に前記吸引口へ収束する傾斜部が設けられ、
前記傾斜部では、前記ノズル体の表面に平行で前記ノズル列に垂直な方向の幅寸法が前記吸引口に向けて漸次小となっていることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記ノズルガードの内側下部に前記吸引口へ収束する傾斜部が設けられ、
前記傾斜部では、前記ノズル体の表面に垂直な方向における前記ノズル体との距離が前記吸引口に向けて漸次小となっていることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記ノズルガードの表面のうち、少なくとも外方に露出する外表面に撥水膜が形成されていることを特徴とする請求項1から6のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記ノズルガードの表面うち、前記負圧室と接する内表面に親水膜が形成されていることを特徴とする請求項1から7のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記ノズルガードの前記天板部に、前記負圧室側に窪む窪み部が形成され、
該窪み部の底面に前記スリットが形成されていることを特徴とする請求項1から8のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記ノズルガードの前記天板部に、前記負圧室側に突出し、かつ、前記スリットを環状に囲繞する環状突出壁が形成されていることを特徴とする請求項1から9のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項1から10のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備え、
前記液体供給系に前記第一液体を供給し得るように構成された液体供給部を備えていることを特徴とする液体噴射記録装置。
【請求項12】
請求項1から10のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備え、
前記液体供給系に前記第一液体と第二液体とを切り換え供給し得るように構成された液体供給部を備えていることを特徴とする液体噴射記録装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載の液体噴射記録装置であって、
前記負圧室内に溢れ出た前記第一液体を吸引することで回収し、前記圧力発生室に該第一液体を供給する再利用液体供給系を有することを特徴とする液体噴射記録装置。
【請求項14】
請求項13に記載の液体噴射記録装置であって、
前記再利用液体供給系に、フィルタ部もしくは脱気装置を有することを特徴とする液体噴射記録装置。
【請求項15】
複数のノズル孔からなるノズル列を有するノズル体と、前記各ノズル孔と対となって該ノズル孔に連通する複数の圧力発生室と、該圧力発生室に第一液体を供給する液体供給系と、前記圧力発生室に隣接配置されたアクチュエータとを備え、
前記アクチュエータを駆動して該圧力発生室を加圧し、該圧力発生室内の前記第一液体を前記ノズル孔のノズル噴射口から噴射させると共に、
前記ノズル列を覆うように形成されたノズルガードを備え、前記ノズルガードは、前記ノズル体の表面から離間配置され前記ノズル列と対向するスリットが形成された天板部と、前記天板部の周縁部と前記ノズル体との間を密閉する密閉部と、
前記ノズル列の下方に吸引口が開口し前記ノズルガードの内側空間と連通する吸引流路とを備え、
前記吸引流路に接続される吸引部によって前記ノズルガードの内側空間を負圧室とし、前記ノズル孔から前記負圧室内に溢れ出た前記第一液体を吸引することを特徴とする液体噴射ヘッドの液体充填方法であって、
前記吸引部により前記負圧室を大気圧より負圧とした状態で、前記液体供給系を用いて前記第一液体を前記圧力発生室まで加圧充填することを特徴とする液体噴射ヘッドの液体充填方法。
【請求項16】
前記吸引部により前記負圧室を大気圧より負圧とした状態で、前記加圧充填を終了することを特徴とする請求項15に記載の液体噴射ヘッドの液体充填方法。
【請求項17】
請求項15に記載の液体噴射記録装置の使用方法であって、
前記吸引部を第1出力により動作させることで、前記内側空間を負圧室とし、前記吸引流路を介して前記噴射孔列から漏出した前記液体を吸引する液体充填モードを有することを特徴とする液体噴射記録装置の使用方法。
【請求項18】
請求項15に記載の液体噴射記録装置の使用方法であって、
前記吸引部を第1出力により動作させることで、前記内側空間を負圧室とし、前記吸引流路を介して前記噴射孔列から漏出した前記液体を吸引する液体充填モードと、
前記吸引部を前記第1出力よりも小さい第2出力によって動作させ、前記噴射孔列から被記録媒体へ前記液体を噴射して前記被記録媒体に記録を行う通常使用モードとを切替制御することを特徴とする液体噴射記録装置の使用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−12773(P2010−12773A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91256(P2009−91256)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
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