説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】振動板の絶縁破壊が抑えられ、駆動回路の損傷が抑えられた液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を得ること。
【解決手段】絶縁性のノズルプレート31に蓄積した電荷が、ノズル開口310から圧力発生室320を満たしたインクを流れ、振動板33に到達する。振動板33に到達した電荷は、振動板33が導電性セラミックスからなり、振動板33が接地されているので、振動板33を通じて逃げる。したがって、振動板33に蓄積した電荷による振動板33の絶縁破壊が抑えられ、駆動回路370の損傷が抑えられたインクジェット式記録ヘッド100を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド、この液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドは、例えば、プリンター等の液体噴射装置としての画像記録装置および液晶表示装置のカラーフィルターの製造等に用いられる液体噴射装置等に適用される。
液体噴射ヘッドの一種に、駆動回路からの駆動信号に従って、振動板の表面に形成された圧電素子に電圧を印加して撓み変形させることで液滴を噴射させるようにしたものがある。この液体噴射ヘッドは、振動板、振動板が一部を構成する圧力発生室、ノズル開口、マニホールドを備えたヘッドユニットを有している。ヘッドユニットは、振動板、流路形成基板、ノズル開口が形成されたノズルプレート等を積み重ねて製造される。
例えば、セラミックスからなる板部材を一体に焼成接続した液体噴射ヘッドとしてのインクジェット記録ヘッドが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−286956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動板、流路形成基板およびノズルプレートとして絶縁体であるセラミックスを用いて一体焼成した場合、圧電素子による帯電や静電気による帯電がこれらの絶縁体であるセラミックスに生じ、振動板に絶縁破壊が生じたり、圧電素子の電極を通じて、駆動回路が損傷を受けたりする可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
圧力発生室および液体流路の隔壁が形成されたセラミックスからなる流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面に配置され、前記圧力発生室および前記液体流路の一部を構成し、導電性セラミックスからなる振動板と、前記振動板を挟んで前記圧力発生室に対向する前記振動板上に形成され、一対の電極を備えた圧電素子と、前記電極に接続された駆動回路と、前記圧力発生室と連通したノズル開口が形成され、絶縁性セラミックスからなるノズルプレートとを備えていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0007】
この適用例によれば、絶縁性のノズルプレートに蓄積した電荷が、ノズル開口から圧力発生室を満たした液体を流れ、振動板に到達する。振動板に到達した電荷は、振動板が導電性セラミックスからなり、振動板が接地されているので、振動板を通じて逃げる。したがって、蓄積した電荷の流入による駆動回路の損傷が抑えられた液体噴射ヘッドが得られる。
【0008】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドにおいて、前記振動板を前記一対の電極のうち接地する側として接地側として用いることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、振動板を接地側の電極として用いるので、新たに電極を形成する必要がなく、構造が簡便で、製造の容易な液体噴射ヘッドが得られる。
【0009】
[適用例3]
上記液体噴射ヘッドにおいて、前記流路形成基板、前記振動板および前記ノズルプレートが一体焼成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、セラミックスからなる流路形成基板、振動板およびノズルプレートが一体焼成されているので、熱収縮による流路形成基板、振動板およびノズルプレート間の位置ずれが少なく、組み立ての行い易い液体噴射ヘッドが得られる。
【0010】
[適用例4]
上記に記載の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0011】
この適用例によれば、前述の効果を有する液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態におけるプリンターを示す概略斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの概略分解斜視図。
【図3】ヘッドユニットの概略分解斜視図。
【図4】ヘッドユニットおよびカバーケースの要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。なお、図面では、説明を分かりやすくするために、一部を省略したり、各構成等を誇張したりして図示している。
【0014】
以下の説明は、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド100が液体噴射装置である画像記録装置としてのプリンター1000に搭載される場合を例に挙げて行う。
図1はプリンター1000の概略構成を示す図である。図1中、X方向は、キャリッジ104が移動する主走査方向を示し、Y方向は、記録媒体Pが移送される副走査方向を示している。Z方向は、X方向およびY方向と直交する方向である。
【0015】
図1に示すように、プリンター1000は、インクジェット式記録ヘッド100と、キャリッジ104と、キャリッジ移動機構105と、プラテンローラー106と、インクカートリッジ107とを備えている。
【0016】
インクジェット式記録ヘッド100は、キャリッジ104の記録媒体P側(図1中Z方向下面)に取付けられ、記録媒体Pの表面にインクを液滴として噴射する。キャリッジ移動機構105は、タイミングベルト108と、駆動プーリー111と、従動プーリー112と、モーター109とを備えている。タイミングベルト108は、キャリッジ104が係止されており、駆動プーリー111と従動プーリー112とに張設されている。駆動プーリー111は、モーター109の出力軸に接続されている。
そのため、モーター109が作動すると、キャリッジ104は、プリンター1000に架設されたガイドロッド110に案内されて、主走査方向であるX方向に往復移動する。
【0017】
プラテンローラー106は、モーター103から駆動力を受け、記録媒体Pを副走査方向であるY方向に移送する。インクカートリッジ107は、インクを貯留し、キャリッジ104に着脱可能に装着される。インクカートリッジ107は、インクジェット式記録ヘッド100にインクを供給する。
【0018】
このように構成されたプリンター1000は、キャリッジ104をキャリッジ移動機構105によりX方向に往復移動させるとともに、記録媒体Pをプラテンローラー106によりY方向に移送させながら、キャリッジ104に取付けられたインクジェット式記録ヘッド100からインクを液滴として噴射することによって、記録用紙等の記録媒体P上に画像等の記録を行うことができる。
【0019】
図2は、インクジェット式記録ヘッド100の概略分解斜視図である。図2にも、主走査方向のX方向、副走査方向のY方向およびX方向およびY方向と直交するZ方向を示した。
図2において、インクジェット式記録ヘッド100は、取り付け板10とケースヘッド20とヘッドユニット30とカバーケース40とを有している。ケースヘッド20の底部にはヘッドユニット30が配置され、ヘッドユニット30はカバーケース40に収められている。ヘッドユニット30およびカバーケース40は、1つしか描かれていないが、複数を組み合わせた構成であってもよい。
【0020】
取り付け板10は、図1に示したインクカートリッジ107からインクを導く針11やインクを濾すフィルター12を有している。また、ケースヘッド20は、後述するフレキシブル基板37を接続するためのケースヘッド側基板13等を有している。
【0021】
図3は、ヘッドユニット30の概略分解斜視図を示し、図4は、ヘッドユニット30およびカバーケース40を説明する要部断面図である。図3および図4にも、主走査方向のX方向、副走査方向のY方向およびX方向およびY方向と直交するZ方向を示した。
図3および図4において、ヘッドユニット30は、図1に示した記録媒体Pに対向する位置に、ノズルプレート31を有している。ノズルプレート31には、インクを噴射するためのノズル開口310が形成されている。ノズル開口310は、ドット形成密度に応じたピッチで開設されている。
ノズルプレート31の上には、ノズルプレート31にインクを供給するための流路形成基板32、振動板33、リザーバープレート34およびコンプライアンス基板35が積層されている。
【0022】
流路形成基板32には、圧力発生室320となる通孔、圧力発生室320と連通するインク供給路321および連通部322が開設されている。
圧力発生室320のインクジェット式記録ヘッド100の長手方向であるY方向と直交する幅方向であるX方向の断面形状は矩形状で、圧力発生室320は、インクジェット式記録ヘッド100の幅方向であるX方向に長く形成されている。この方向を圧力発生室320の長手方向とする。断面形状は矩形状に限らず、例えば、台形状であってもよい。
【0023】
また、流路形成基板32の圧力発生室320の長手方向外側の領域には連通部322が形成され、さらに、連通部322と各圧力発生室320とが、各圧力発生室320に設けられた液体供給路としてのインク供給路321を介して連通されている。インク供給路321は、圧力発生室320よりも狭い幅で形成されており、連通部322から圧力発生室320に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0024】
振動板33は、流路形成基板32に積層され、圧力発生室320の一部を構成している。
振動板33には、電圧が印加されるとたわみ振動をする圧電素子36が形成されている。図3において、圧電素子36は、共通電極で接地されている下電極360と圧電体361と個別電極としての上電極362とを備えている。
圧電素子36は、振動板33を挟んで、圧力発生室320とは反対側の振動板33の表面に、圧力発生室320を覆い隠すように形成され、各圧力発生室320に対応してノズル列方向に列設されている。
【0025】
下電極360としては、例えば、白金、イリジウム等の金属や、ニッケル酸ランタン(LNO)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)等の金属酸化物を用いることができる。また、上電極362としては、例えば、白金、イリジウム等の金属を用いることができる。これらの電極は、スパッタリング、蒸着等によって形成できる。
【0026】
圧電体361としては、チタン酸ジルコン酸鉛を用いることができる。
圧電体361の膜の製造方法としては、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体361の膜を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いることができる。
なお、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal−Organic Decomposition)法等を用いてもよい。さらに、これらの液相法による圧電体361の膜の製造方法に限定されず、スパッタリングなどの蒸着法を用いた圧電体361の膜の製造方法であってもよい。
【0027】
ノズルプレート31、流路形成基板32および振動板33は、アルミナやジルコニア等のセラミックス板からなり、これらは一体焼成によって接続される。ここで、振動板33には、導電性セラミックスを用い、ノズルプレート31および流路形成基板32には、絶縁性セラミックスを用いる。また、振動板33は接地されている。接地は、プリンター1000を介して行うことができる。ここで、振動板33は、導電性を有し、接地されているので圧電素子36の共通電極として用いることができる。実施形態では、下電極360として用いることができる。
導電性セラミックスは、アルミナやジルコニア等の絶縁性セラミックスに導電性の粒子を分散させたものを用いることができる。例えば、導電性の粒子としては、シリコンの粒子を用いることができる。
【0028】
一体焼成は、以下の方法で行うことができる。
例えば、グリーンシート(未焼成のシート材)に対して切削や打ち抜き等の加工を施して必要な通孔等を形成し、ノズルプレート31、流路形成基板32および振動板33の各シート状前駆体を形成する。
そして、各シート状前駆体を積層し焼成することにより、各シート状前駆体は一体化されて1枚のセラミックスシートとなる。この場合、各シート状前駆体は一体焼成されるので、特別な接着処理が不要である。また、各シート状前駆体の接合面において高いシール性を得ることもできる。
【0029】
図4において、リザーバープレート34には、圧電素子36を保護するための圧電素子保持部340および連通部322に連通するリザーバー部341となる通孔が形成され、振動板33に接着されている。連通部322とリザーバー部341とを合わせて、マニホールドと呼ぶ。振動板33に接着された面とは反対側の面にはコンプライアンス基板35が接着されている。コンプライアンス基板35のリザーバー部341に対応する領域は、可撓性を有する膜352で構成され、マニホールドに生じた圧力変動を吸収する。
【0030】
図3において、フレキシブル基板37が、リザーバープレート34およびコンプライアンス基板35を通されて、圧電素子36の下電極360および上電極362と接続されている。
フレキシブル基板37は、COF(Chip On film)基板を用いることができる。
フレキシブル基板37は、図2に示したケースヘッド20に配置されているケースヘッド側基板13と接続され、ケースヘッド側基板13から電力の供給を受ける構成となっている。フレキシブル基板37には、図2に示したケースヘッド側基板13からの駆動信号を圧電素子36に対して選択的に供給する制御を行う駆動回路370が実装されている。
【0031】
インクジェット式記録ヘッド100では、電圧が圧電振動子に印加されると圧電素子36がたわみ振動し、その振動によってノズルプレート31のノズル開口310からインクが噴射される構成となっている。
【0032】
以上に述べた実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)絶縁性のノズルプレート31に蓄積した電荷が、ノズル開口310から圧力発生室320を満たしたインクを流れ、振動板33に到達する。振動板33に到達した電荷は、振動板33が導電性セラミックスからなり、振動板33が接地されているので、振動板33を通じて逃げる。したがって、蓄積した電荷の流入による駆動回路370の損傷が抑えられたインクジェット式記録ヘッド100を得ることができる。
【0033】
(2)振動板33を接地側の下電極360として用いるので、新たに電極を形成する必要がなく、構造が簡便で、製造の容易なインクジェット式記録ヘッド100を得ることができる。
【0034】
(3)セラミックスからなる流路形成基板32、振動板33およびノズルプレート31が一体焼成されているので、熱収縮による流路形成基板32、振動板33およびノズルプレート31間の位置ずれを少なくでき、組み立ての行い易いインクジェット式記録ヘッド100を得ることができる。
【0035】
(4)前述の効果を有するプリンター1000を得ることができる。
【0036】
上述した実施形態以外にも、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、流路形成基板32が導電性セラミックスで形成されていてもよい。この場合も、下電極360および振動板33を共通電極として用いることができる。
【0037】
なお、上述した例では、液体噴射ヘッドがインクジェット式記録ヘッド100である場合について説明した。しかしながら、本発明の液体噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0038】
以上、本発明にかかる液体噴射装置の一例として、プリンター1000を説明したが、本発明にかかる液体噴射装置は、工業的にも利用することができる。この場合に吐出される液体(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。本発明の液体噴射装置は、例示したプリンター等の画像記録装置以外にも、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)、電気泳動ディスプレイ等の電極やカラーフィルターの形成に用いられる液体材料噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機材料噴射装置としても好適に用いられることができる。
【符号の説明】
【0039】
10…取り付け板、11…針、12…フィルター、13…ケースヘッド側基板、20…取り付け板、30…ヘッドユニット、31…ノズルプレート、32…流路形成基板、33…振動板、34…リザーバープレート、35…コンプライアンス基板、36…圧電素子、37…フレキシブル基板、40…カバーケース、100…インクジェット式記録ヘッド、103…モーター、104…キャリッジ、105…キャリッジ移動機構、106…プラテンローラー、107…インクカートリッジ、108…タイミングベルト、109…モーター、110…架設されたガイドロッド、111…駆動プーリー、112…従動プーリー、310…ノズル開口、320…圧力発生室、321…インク供給路、322…連通路、340…圧電素子保持部、341…リザーバー部、352…膜、360…下電極、361…圧電体、362…上電極、370…駆動回路、1000…プリンター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力発生室および液体流路の隔壁が形成されたセラミックスからなる流路形成基板と、
前記流路形成基板の一方面に配置され、前記圧力発生室および前記液体流路の一部を構成し、導電性セラミックスからなる振動板と、
前記振動板を挟んで前記圧力発生室に対向する前記振動板上に形成され、一対の電極を備えた圧電素子と、
前記電極に接続された駆動回路と、
前記圧力発生室と連通したノズル開口が形成され、絶縁性セラミックスからなるノズルプレートとを備えている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記振動板を前記一対の電極のうち接地する側として接地側として用いる
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記流路形成基板、前記振動板および前記ノズルプレートが一体焼成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−206294(P2012−206294A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71871(P2011−71871)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】